(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】癒合促進デバイスおよび癒合促進デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/115 20060101AFI20231031BHJP
A61L 15/64 20060101ALI20231031BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20231031BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A61B17/115
A61L15/64 100
A61L15/42 310
A61L31/14 500
A61L31/14 400
(21)【出願番号】P 2020549404
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019038027
(87)【国際公開番号】W WO2020067372
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018182245
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 直希
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 美穂
(72)【発明者】
【氏名】秦 まゆ
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-015966(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0214201(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0189159(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0164503(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0012317(US,A1)
【文献】特表2007-505708(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0228446(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B
A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有する生分解性シートから形成され生体組織の癒合を促進する本体部と、
前記本体部の一部に配置され前記本体部の剛性を補強
し前記本体部のヨレやズレの発生を抑える補強部と、を有し、
前記補強部は、
前記補強部以外の前記本体部よりも厚みが薄く前記生分解性シートの構成材料である生分解性樹脂からなる繊維が
前記補強部以外の前記本体部よりも密に集合した形態である癒合促進デバイス。
【請求項2】
前記補強部は、前記本体部に内接または外接する仮想円の中心から伸びている線分に対して少なくとも1ヶ所において交差している、請求項1に記載の癒合促進デバイス。
【請求項3】
前記補強部は、前記仮想円の周方向の全周に亘って前記線分に対して交差している、請求項2に記載の癒合促進デバイス。
【請求項4】
前記補強部は、前記線分が伸びている方向にオーバーラップする形状を有している、請求項3に記載の癒合促進デバイス。
【請求項5】
前記本体部は、前記貫通孔よりも孔径が大きく形成された孔部をさらに有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の癒合促進デバイス。
【請求項6】
前記補強部は、前記本体部の外縁側に位置する第1補強部と、前記孔部の内周縁側に位置する第2補強部とを含む、請求項5に記載の癒合促進デバイス。
【請求項7】
前記第2補強部は、前記本体部を形成する前記生分解性シートの剛性を補強する強さが前記第1補強部よりも大きい、請求項6に記載の癒合促進デバイス。
【請求項8】
前記本体部の外縁は、直線形状、または円弧形状を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の癒合促進デバイス。
【請求項9】
前記補強部は、直線形状、または円弧形状を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の癒合促進デバイス。
【請求項10】
複数の貫通孔を有する生分解性シートから形成され生体組織の癒合を促進する本体部と、
前記本体部の一部に配置され前記本体部の剛性を補強
し前記本体部のヨレやズレの発生を抑える補強部と、を有する癒合促進デバイスの製造方法であって、
前記補強部を構成する領域のみを前記本体部の厚み方向に
圧縮して前記補強部以外の前記本体部よりも厚みを薄くし、前記補強部を前記生分解性シートの構成材料である生分解性樹脂からなる繊維が
前記補強部以外の前記本体部よりも密に集合した形態とする、ことを特徴とする癒合促進デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒合促進デバイスおよび癒合促進デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、生体器官を外科的手術により接合する手技(例えば、消化管の吻合術)が知られている。上記のような手技が行われた場合、生体器官同士が接合された接合部における癒合の遅延が生じないことが術後の予後決定因子として重要であることも知られている。
【0003】
生体器官を接合する手技では種々の方法や医療器具が用いられるが、例えば、生分解性の縫合糸により生体器官を縫合する方法や、ステープラーによる吻合を行う機械式の吻合装置(特許文献1を参照)を利用する方法が提案されている。特に、機械式の吻合装置を利用して吻合術を行う場合、縫合糸を用いた方法と比較して接合部における生体器官同士の接合力を高めることができるため、縫合不全のリスクを低減させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接合部における癒合の進行の程度は、患者の接合対象部位(被接合部位)における生体組織の状態等にも依存する。そのため、例えば、特許文献1に記載されているような吻合装置を使用した場合においても、患者の生体組織の状態如何によっては、縫合不全のリスクを十分に低減させることができない可能性もある。
【0006】
そこで本発明は、外科手術等の術後における縫合不全のリスクを低減させることができる癒合促進デバイスおよび癒合促進デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る癒合促進デバイスは、複数の貫通孔を有する生分解性シートから形成され生体組織の癒合を促進する本体部と、前記本体部の一部に配置され前記本体部の剛性を補強し前記本体部のヨレやズレの発生を抑える補強部と、を有する。前記補強部は、前記補強部以外の前記本体部よりも厚みが薄く前記生分解性シートの構成材料である生分解性樹脂からなる繊維が前記補強部以外の前記本体部よりも密に集合した形態である。
本発明の一実施形態に係る製造方法は、複数の貫通孔を有する生分解性シートから形成され生体組織の癒合を促進する本体部と、前記本体部の一部に配置され前記本体部の剛性を補強し前記本体部のヨレやズレの発生を抑える補強部と、を有する癒合促進デバイスを製造する方法である。癒合促進デバイスの製造方法は、前記補強部を構成する領域のみを前記本体部の厚み方向に圧縮して前記補強部以外の前記本体部よりも厚みを薄くし、前記補強部を前記生分解性シートの構成材料である生分解性樹脂からなる繊維が前記補強部以外の前記本体部よりも密に集合した形態とする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、癒合促進デバイスは、補強部によって本体部の剛性を高めて、ヨレやズレが発生することを抑えることができる。これによって、操作時(体内留置時)に、癒合促進デバイスにヨレやズレが発生することを抑えることができる。また、留置後おいて何らかの力が作用した場合に、癒合促進デバイスにヨレやズレが発生することを抑えることができる。したがって、外科手術等の術後における縫合不全のリスクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(A)は、本発明の癒合促進デバイスの一形態を示す斜視図、
図1(B)は、
図1(A)に示される癒合促進デバイスの本体部を示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、
図1(A)の2-2線に沿う断面図、
図2(B)は、本体部の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3(A)(B)は、癒合促進デバイスにおける補強部の形状を特定する条件の説明に使用する説明図である。
【
図4】
図4(A)(B)(C)は、癒合促進デバイスにおける補強部の形状の種々の形態を示す図である。
【
図5】
図5(A)(B)は、
図4に引き続いて、癒合促進デバイスにおける補強部の形状の種々の形態を示す図である。
【
図6】
図6(A)(B)は、
図5に引き続いて、癒合促進デバイスにおける補強部の形状の種々の形態を示す図である。
【
図7】
図7(A)(B)は、癒合促進デバイスの本体部に形成される孔部の形態を示す図である。
【
図8】本発明の癒合促進デバイスの他の形態を示す斜視図である。
【
図9】
図9(A)は、本発明の癒合促進デバイスのさらに他の形態を示す斜視図、
図9(B)は、
図9(A)に示される癒合促進デバイスの本体部を示す斜視図である。
【
図10】
図10(A)(B)(C)は、癒合促進デバイスにおける本体部の形状の他の形態を示す図である。
【
図11】
図11(A)(B)は、癒合促進デバイスの断面構造の他の形態を示す断面図である。
【
図12】
図12(A)(B)は、癒合促進デバイスにおける補強部の製造手順の形態を示す図である。
【
図13】
図13(A)(B)(C)(D)は、癒合促進デバイスにおける補強部の具体的な形状を示す図である。
【
図14】
図14(A)(B)(C)(D)は、
図13に引き続いて、癒合促進デバイスにおける補強部の具体的な形状を示す図である。
【
図15】
図15(A)(B)(C)(D)は、
図14に引き続いて、癒合促進デバイスにおける補強部の具体的な形状を示す図である。
【
図16】癒合促進デバイスを用いた処置方法の各手順を示すフローチャートである。
【
図17】処置方法の実施形態(大腸吻合術)の手順を示すフローチャートである。
【
図18】大腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
【
図19】大腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
【
図20】大腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1(A)は、癒合促進デバイス10の一形態を示す斜視図、
図1(B)は、
図1(A)に示される癒合促進デバイス10の本体部20を示す斜視図である。
図2(A)は、
図1(A)の2-2線に沿う断面図、
図2(B)は、本体部20の一部を拡大して示す断面図である。
【0012】
図示する癒合促進デバイス10は、例えば、生体器官の接合対象となる所定の部位を接合する方法(例えば、消化管の吻合術)に使用することができる。癒合促進デバイス10は、概説すると、複数の貫通孔25を有する生分解性シートから形成され生体組織の癒合を促進する本体部20と、本体部20の一部に配置され本体部20を補強する補強部30と、を有する。以下、詳述する。
【0013】
<本体部20>
本体部20は、薄膜状の生分解性シートから形成することができる。本体部20には、複数の貫通孔25が形成されている。複数の貫通孔25は、
図1(A)(B)に示すように、本体部20の面方向において規則的かつ周期的に設けられている。複数の貫通孔25は、例えば、本体部20にランダムに設けられていてもよい。
【0014】
複数の貫通孔25は、
図2(B)に示すように、本体部20の厚み方向(
図2(B)の上下方向)に沿って垂直に設けられている。複数の貫通孔25は本体部20の表面21と裏面23との間で略垂直に設けられている。ただし、複数の貫通孔25は、本体部20の厚み方向において、表面21と裏面23との間で湾曲するように設けられていてもよい。
【0015】
本体部20の厚み(
図2(B)に示すサイズT)は特に制限されないが、好ましくは0.05~0.3mmであり、より好ましくは0.1~0.2mmである。本体部20の厚みが0.05mm以上であれば(特に0.1mm以上であれば)、癒合促進デバイス10の取り扱い時に本体部20が破損しない程度の十分な強度を確保することができる。一方、本体部20の厚みが0.3mm以下であれば(特に0.2mm以下であれば)、本体部20が適用された生体組織に本体部20が密着して、生体組織に追随するのに十分な柔軟性を確保することが可能になる。
【0016】
図1(A)(B)に示すように、本体部20は、平面視において、円形形状を有する。ただし、本体部20の外形形状は、特に限定されず、例えば、略矩形形状や楕円形等であってもよい。
【0017】
本体部20は、複数の貫通孔25のピッチP(
図2(B)に示す距離P)に対する複数の貫通孔25の孔径D(
図2(B)に示す距離D)の比の値が、0.25以上40未満であることが好ましい。なお、貫通孔25を平面視したときの形状が真円であれば、貫通孔25の孔径Dは真円の直径に等しくなる。一方、貫通孔25を平面視したときの形状が真円ではない場合には、貫通孔25の開口部(貫通孔25において表面21または裏面23に面した部分)の面積と同じ面積を有する真円の直径(円相当径)を当該貫通孔25の孔径Dとすることができる。
【0018】
また、本体部20は複数の貫通孔25を有する。そのため、本体部20は、各貫通孔25に対応する孔径Dの値が複数存在する。本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、複数の貫通孔25にそれぞれ対応する孔径Dの値の2点以上の算術平均値を孔径Dの代表値として用いるものとする。一方、複数の貫通孔25の「ピッチP」は、2つの貫通孔25の開口部同士の最短距離をいう。ピッチPの値についても隣接する貫通孔25の組み合わせに対応するピッチPの値が複数存在する。したがって、本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、隣接する貫通孔25の組み合わせにそれぞれ対応するピッチPの値の2点以上の算術平均値をピッチPの代表値として用いるものとする。
【0019】
上記の貫通孔25のピッチP、孔径D、ピッチPに対する孔径Dの比等は、一例であり、これに限定されることはない。
【0020】
本体部20は、生分解性の材料から構成することができる。本体部20の構成材料について特に制限はなく、例えば、生分解性樹脂が挙げられる。生分解性樹脂としては、例えば、特表2011-528275号公報、特表2008-514719号公報、国際公報第2008-1952号、特表2004-509205号公報等に記載されるものなどの公知の生分解性(共)重合体が使用できる。具体的には、(1)脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体;(2)上記(1)を構成する一以上の単量体から構成される共重合体などが挙げられる。すなわち、生分解性シートは、脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体、ならびに前記重合体を構成する一以上の単量体から構成される共重合体からなる群より選択される少なくとも一種の生分解性樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
本体部20の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した生分解性樹脂からなる繊維を作製し、当該繊維を用いてメッシュ形状のシートを製造する方法が挙げられる。生分解性樹脂からなる繊維を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法(電界紡糸法・静電紡糸法)や、メルトブロー法等が挙げられる。本体部20は、上記の方法のうち1種のみを選択して用いてもよいし、2種以上を選択し適宜組み合わせてもよい。
【0022】
ここで、エレクトロスピニング法とは、樹脂の溶液を充填したシリンジとコレクター電極との間に高い電圧(例えば、20kV程度)を印加させた状態で、樹脂からなる微小繊維を形成する方法である。この方法を採用すると、シリンジから押出された溶液が電荷を帯びて電界中に飛散するが、時間が経つと飛散した溶液に含まれる溶媒が蒸発することから、その結果として細線化した溶質が現れる。この細線化した溶質が樹脂からなる微小繊維となって基板等のコレクターに付着するのである。
【0023】
エレクトロスピニング法のコレクターとしてステンレス(SUS)鋼等からなるメッシュ状基材を用いることで、細線化した溶質としての生分解性樹脂からなる微小繊維がメッシュの実質部分に付着し、当該微小繊維からなるメッシュが形成される。このようにして得られた樹脂メッシュをメッシュ基材から剥離することで、生分解性シートを製造することが可能である。なお、メッシュ状基材のサイズ(孔径、ピッチ)を適宜調節することにより、製造される樹脂メッシュからなる生分解性シートの形状(貫通孔の孔径、ピッチ)を制御することが可能である。
【0024】
また、同様にエレクトロスピニング法を用いた製造方法の別の例として、メッシュ状ではない平坦な基材の表面に上記溶液を飛散させて微小繊維を付着させることにより、均一な厚みを有する樹脂シートを得た後に貫通孔を形成する方法も採用されうる。この場合には例えば、集光レンズを用いて集光したレーザー光を樹脂シートに照射することで、照射部位に貫通孔を形成することが可能である。そして、照射されるレーザー光のエネルギーや照射時間、照射部位の間隔等を調節することにより、製造される樹脂メッシュからなる生分解性シートの形状(貫通孔の孔径、ピッチ)を制御することが可能である。
【0025】
なお、本体部20の製造方法のさらに別の例として、上述した生分解性樹脂からなる繊維を常法に従って紡糸し、得られた繊維をメッシュ状に編むことによって生分解性シートを製造してもよい。
【0026】
本体部20は、本体部20を構成する生分解性樹脂等の構成材料によって生体反応を惹起させる。本体部20は、この作用により、フィブリン等の生体成分の発現を誘導する。このようにして誘導された生体成分は、本体部20の貫通孔25を貫通するようにして集積することで、癒合を促進することができる。例えば、接合対象(吻合対象)となる生体器官同士の間に癒合促進デバイス10の本体部20を配置することにより、上記のメカニズムによる癒合の促進が生じる。
【0027】
本体部20は、平面視した際の略中心位置に、貫通孔25よりも孔径d1が大きく形成された孔部40(中心孔)を有している。孔部40の孔径は、例えば、5mm~25mmに形成することができる。また、孔部40の外形形状は、例えば、真円に形成できるが、楕円形、矩形形状、その他の形状等であってもよい。
【0028】
<補強部30>
図1(A)および
図2(A)に示すように、補強部30は、本体部20の一部に配置されている。一部としたのは、本体部20の全面に補強部30を設けた場合には、本体部20の本来の機能である癒合の促進機能を発揮できないからである。補強部30は、本体部20の表裏両面のうちの一方の面(表面21)に配置されている。本体部20はメッシュシートから形成されるため、本体部20は大変柔らかい。本体部20のみの場合には、癒合促進デバイスにヨレやズレが発生し易い。このため、操作時(体内留置時)に、癒合促進デバイスにヨレやズレが発生する虞がある。また、留置後にあっても、何らかの原因によって癒合促進デバイスにヨレやズレが発生する虞がある。
【0029】
そこで、本実施形態の癒合促進デバイス10にあっては、補強部30を本体部20の一部に配置することによって、本体部20の剛性を高めて、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。これによって、操作時(体内留置時)に、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。また、留置後おいて何らかの力が作用した場合に、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。
【0030】
補強部30は、本体部20の外縁側に位置する第1補強部31と、孔部40の内周縁側に位置する第2補強部32とを含んでいる。本体部20は、第1補強部31によって外縁側の剛性が高められ、第2補強部32によって孔部40の内周縁側の剛性が高められる。孔部40に医療器具等を挿通するときなどにおいて、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。
【0031】
なお、補強部30は第1と第2の2つの補強部31、32を備える場合に限定されない。1つの補強部30を、本体部20の外縁側のみに位置させたり、孔部40の内周縁側にのみ位置させたりすることができる。また、補強部30は3つ以上の補強部30から構成することができる。
【0032】
第2補強部32は、本体部20を形成する生分解性シートを補強する強さが第1補強部31よりも大きくすることができる。孔部40の内周縁側の剛性を一層高めることによって、孔部40に医療器具等を挿通するときなどにおいて、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを一層抑えることができる。
【0033】
なお、第1補強部31および第2補強部32は本体部20を補強する強さを同じにすることができる。
【0034】
補強部30の材料は特に限定されないが、例えば、生体適合性のある接着剤や熱可塑性樹脂からなるコーティング剤を使用することができる。また、本体部20と同じ材料を使用することができる。
【0035】
補強部30の厚さは特に限定されない。補強部30は本体部20を補強することを目的として備えられるものであり、補強部30が可撓性や弾性を備えることは不要である。このため、補強部30は、厚さを必要以上に厚くする必要はなく、例えば、1mm未満の厚さによって所期の目的を達成することができる。
【0036】
補強部30の作成方法も特に限定されず、補強部30の構成材料に適合させた作成方法を採用することができる。例えば、生体適合性のある接着剤やコーティング剤を使用する場合には、本体部20の一部にノズルから塗布し、乾燥させることによって補強部30を作成することができる。また、本体部20とは別個に補強部30を備える層(補強部層)を形成しておき、この補強部層を圧着や熱融着などによって本体部20に一体化させることによって補強部30を作成することができる。
【0037】
図3(A)(B)を参照して、補強部30の形状を特定する条件について説明する。
【0038】
図3(A)(B)に示される癒合促進デバイス10は、本体部20および補強部30が四角形形状を有している。説明の便宜上、四角形の補強部30を構成する辺を33a~33dとする。まず、本体部20に内接する仮想円50(
図3(A))、または本体部20に外接する仮想円50(
図3(B))を想定する。補強部30は、想定した仮想円50の中心51から伸びている線分52に対して少なくとも1ヶ所において交差していることが好ましい。図示例では、仮想円50の中心51から伸びている線分52と、補強部30の辺33aとが点Pcにおいて交差している。このような形態の場合、本体部20は、補強部30の辺33aによって剛性が高められている。例えば、点Pcにおいて、本体部20を紙面に直交する方向に押し下げる、または引き上げる力Fが作用した場合であっても、補強部30の辺33aは折り曲げられ難い。したがって、癒合促進デバイス10は、力Fに抗して、ヨレやズレの発生が抑えられる。
【0039】
図4(A)(B)(C)、
図5(A)(B)、および
図6(A)(B)を参照して、癒合促進デバイスにおける補強部30の形状の種々の形態について説明する。
【0040】
図4(A)の癒合促進デバイス10Aにおける補強部30は、本体部20の外縁側に位置する第1補強部31と、孔部40の内周縁側に位置する第2補強部32とを含んでいる。第1補強部31および第2補強部32は、ともに閉じたリング形状を有している。
【0041】
図4(B)の癒合促進デバイス10Bにおける補強部30は、孔部40の内周縁側にのみ位置し、閉じたリング形状を有している。
【0042】
図4(C)の癒合促進デバイス10Cにおける補強部30は、本体部20の外縁側のみに位置し、閉じたリング形状を有している。
【0043】
図5(A)の癒合促進デバイス10Dにおける補強部30は、本体部20の外縁側に位置する第1補強部31と、孔部40の内周縁側に位置する第2補強部32とを含んでいる。第1補強部31は、隙間を隔てながら円形状に伸びており、開いたリング形状を有している。第2補強部32は、閉じたリング形状を有している。
【0044】
図5(B)の癒合促進デバイス10Eにおける補強部30は、本体部20の外縁側に寄って位置する2つの補強部35a、35bを含んでいる。2つの補強部35a、35bは、同心円上に位置し、ともに開いたリング形状を有している。仮想円50の中心51から見て、径方向外側の補強部35aにおける隙間は、径方向内側の補強部35bによって覆い隠されている。これとは逆に、仮想円50の中心51から見て、径方向内側の補強部35bにおける隙間は、径方向外側の補強部35aによって覆い隠されている。
【0045】
図6(A)の癒合促進デバイス10Fにおける補強部30は、閉じた矩形形状を有している。
【0046】
図6(B)の癒合促進デバイス10Gにおける補強部30は、仮想円50の中心51から径方向に伸びている放射形状を有している。
【0047】
これらの補強部30はいずれも、本体部20の一部に配置されている。したがって、本体部20は、貫通孔25のすべてが塞がれることはなく、本来の機能である癒合の促進機能十分に発揮することができる。
【0048】
図4(A)に示される補強部30は、本体部20に内接または外接する仮想円50の中心51から伸びている線分52に対して2ヶ所において交差している。
図4(B)(C)に示される補強部30は、線分52に対して1ヶ所において交差している。
図5(A)(B)に示される補強部30は、線分52の一の方位においては線分52に対して2ヶ所において交差し、他の方位においては線分52に対して1ヶ所において交差している。
図6(A)に示される補強部30は、線分52に対して1ヶ所において交差している。
図6(B)に示される補強部30は、線分52上において伸びており、補強部30の幅方向は線分52に対して交差する方向である。したがって、これらの補強部30はいずれも、仮想円50の中心51から伸びている線分52に対して少なくとも1ヶ所において交差している。なお、本体部20は円形であるため、仮想円50は本体部20の外周に一致する。
【0049】
図6(B)に示した放射形状の補強部30を除いて、
図4(A)(B)(C)、
図5(A)(B)、および
図6(A)に示した補強部30は、仮想円50の周方向の全周に亘って線分52に対して交差している。つまり、仮想円50の中心51を中心として線分52を1回転(360度)した場合に、補強部30は、いずれの方位においても線分52に対して交差している。これらの補強部30は、言い換えると、仮想円50の中心51を内包する閉じた領域を形成する形状を有している。補強部30が仮想円50の周方向の全周に亘って線分52に対して交差することによって、いずれの方位に沿う力Fが作用しても、補強部30は折り曲げられ難い。したがって、癒合促進デバイス10は、いずれの方位に沿う力Fに抗して、ヨレやズレの発生が抑えられる。
【0050】
図5(A)(B)に示される補強部30は、開いたリング形状を有する部位を含んでいるが、これらの補強部30はいずれも、線分52が伸びている方向にオーバーラップする形状を有している。このように開いたリング形状を有する部位を含んでいても、仮想円50の周方向の全周に亘って線分52に対して交差している補強部30を形成することができる。
【0051】
図7(A)(B)を参照して、癒合促進デバイス10H、10Jの本体部20に形成される孔部40の形態について説明する。
【0052】
図7(A)に示される孔部40は、本体部20が内接または外接する仮想円50の中心51と同心上に形成された中心孔である。
図7(B)に示される孔部40は、仮想円50の中心51から偏心した位置に形成されている。このように孔部40は、本体部20における所望の位置に形成することができる。
【0053】
図8、および
図9(A)(B)を参照して、癒合促進デバイスの他の形態について説明する。
【0054】
図8および
図9(A)(B)に示すように、癒合促進デバイス10K、10Lは、本体部20に孔部40が形成されていなくてもよい。
【0055】
本体部20は、平面視において、円形形状を有する場合に限定されるものではない。
図9(A)(B)に示すように、本体部20Aの外形形状は、略矩形形状を有することができる。
【0056】
図8に示される癒合促進デバイス10Kにおける補強部30は、本体部20の外縁側のみに位置し、閉じたリング形状を有している。
図9(A)に示される癒合促進デバイス10Lにおける補強部30は、本体部20Aの外縁側のみに位置し、閉じた略矩形形状を有している。
【0057】
図10(A)(B)(C)を参照して、癒合促進デバイスにおける本体部の形状の他の形態について説明する。
【0058】
本体部20、20Aの外形形状は、上述した円形形状や略矩形形状に限定されなない。本体部の外縁は、直線形状、または円弧形状を含む種々の形状を有することができる。例えば、
図10(A)に示すように、本体部20Bの外縁は、直線形状を含む多角形状(図示例は六角形形状)を有することができる。また、
図10(B)に示すように、本体部20Cの外縁は、円弧形状を含む楕円形状を有することができる。また、
図10(C)に示すように、本体部20Dの外縁は、直線形状および円弧形状の両者を含むトラックのような形状を有することができる。
【0059】
図11(A)(B)を参照して、癒合促進デバイスの断面構造の他の形態について説明する。
【0060】
癒合促進デバイスの断面構造は、補強部30を備える層(補強部層)を本体部20の片面に一体化させた構造(
図2(A)を参照)に限定されない。
【0061】
例えば、
図11(A)に示すように、癒合促進デバイス10Mは、本体部20の表裏両面21、23に補強部層35cを一体化させた断面構造を有することができる。また、
図11(B)に示すように、癒合促進デバイス10Nは、補強部層35cの両面に本体部20を一体化させた断面構造を有することができる。補強部層35cと本体部20とは、圧着や熱融着などによって一体化することができる。
【0062】
図12(A)(B)を参照して、癒合促進デバイス10P、10Qにおける補強部の製造手順の形態について説明する。
【0063】
癒合促進デバイス10における補強部30は、補強部を備える層(補強部層)と本体部20とを一体化させることによって製造する場合に限定されない。
【0064】
例えば、
図12(A)に示すように、貫通孔25を形成する前の生分解性シート素材60を準備する。そして、補強部35dを構成する領域を除いて、生分解性シート素材60に貫通孔25を形成して本体部20を形成する。本体部20は複数の貫通孔25を有する一方、補強部35dは貫通孔25が形成されていない。したがって、癒合促進デバイス10Pの補強部35dは、本体部20に比べて剛性が高く、本体部20を補強することができる。
【0065】
また、
図12(B)に示すように、複数の貫通孔25を有する生分解性シート61を準備する。そして、補強部35eを構成する領域のみを厚み方向に圧縮したり加熱したりして、貫通孔25を押し潰す。補強部35eにおける貫通孔25は完全に消滅している必要はない。貫通孔25が潰されて減少し、生分解性シートの構成材料が密に集合した形態であればよい。本体部20は複数の貫通孔25を有する一方、補強部35eは貫通孔25が潰されて減少している。したがって、癒合促進デバイス10Qの補強部35eは、密度が高められるため、本体部20に比べて剛性が高くなり、本体部20を補強することができる。
【0066】
図13~
図15を参照して、癒合促進デバイス100における補強部の具体的な形状について説明する。
【0067】
補強部は、本体部の一部に配置され本体部を補強する機能を発揮する限りにおいて、直線形状、または円弧形状を含んで任意の形状を有することができる。
図13~
図15に示される癒合促進デバイス100はいずれも、本体部102は平面視において円形形状有し、本体部102を平面視した際の略中心位置に孔部104(中心孔)が形成されている。
【0068】
図13(A)の補強部103は、本体部102の外縁側のみに位置し、閉じた形状の外方リング部103aを有している。補強部103は、円弧形状を有する部分から構成されている。
【0069】
図13(B)の補強部103は、円弧形状の外方リング部103aと、径方向に伸びているリブ部103bとを有している。リブ部103bは、外方リング部103aの内周から孔部104に向けて伸びているが、孔部104には達していない。補強部103は、円弧形状および直線形状を有する部分から構成されている。
【0070】
図13(C)の補強部103は、
図13(B)と比較して、リブ部103cが孔部104の内周縁にまで達している。
【0071】
図13(D)の補強部103は、
図13(C)と比較して、孔部104の内周縁側に位置し、閉じた形状の内方リング部103dを有している。リブ部103cは、外方リング部103aと内方リング部103dとを接続している。外方リング部103aは第1補強部31に相当し、内方リング部103dは第2補強部32に相当する。
【0072】
図14(A)の補強部103は、
図13(D)と比較して、外方リング部103aと内方リング部103dとの間に位置し、閉じた形状の中間リング部103eを有している。リブ部103cは、外方リング部103a、中間リング部103e、および内方リング部103dを接続している。
【0073】
図14(B)の補強部103は、直線形状を有する部分から構成され、クモの巣のような形状に形成されている。補強部103は、径方向に伸びているリブ部103fと、隣り合うリブ部103f同士を接続する接続リブ部103gとを有している。リブ部103fは、本体部102の外縁から孔部104の内周縁にまで伸びている。接続リブ部103gは八角形形状を形成する。
【0074】
図14(C)の補強部103は、直線形状を有する部分から構成されている。補強部103は、図において縦方向に伸びている縦リブ部103hと、横方向に伸びている横リブ部103iとを有している。縦リブ部103hと横リブ部103iとは少なくとも1箇所において直交している。縦リブ部103hおよび横リブ部103iは、幅寸法がほぼ均等に形成されている。
【0075】
図14(D)の補強部103は、
図14(C)と比較して、縦リブ部103j、103kおよび横リブ部103mは異なる幅寸法を有している。孔部104の内周縁側に位置する縦リブ部103jの幅寸法および横リブ部103mの幅寸法は、本体部102の外縁側に位置する縦リブ部103kの幅寸法よりも大きい。補強部103は、本体部102の外縁側に位置する第1補強部31と、孔部104の内周縁側に位置する第2補強部32とを含んだ構成となる。そして、幅寸法の大小によって、第2補強部32は、本体部102を形成する生分解性シートを補強する強さが第1補強部31よりも大きくなる。
【0076】
図15(A)の補強部103は、直線形状を有する部分から構成されている。補強部103は、複数の直線リブ部103nを、三角形状、四角形状および六角形状を構成するように接続して形成されている。
【0077】
図15(B)の補強部103は、複数の直線リブ部103pを、ハニカム構造を構成するように接続して形成されている。
【0078】
図15(C)の補強部103は、直線形状を有する部分から構成されている。補強部103は、径方向に伸びているリブ部103qを有している。リブ部103qは、本体部102の外縁から孔部104に向けて伸びているが、孔部104には達していない。
【0079】
図15(D)の補強部103は、
図15(C)と比較して、リブ部103rが孔部104の内周縁にまで達している。
【0080】
図13~
図15に示した癒合促進デバイス100はいずれも、補強部103によって本体部102の剛性を高めて、癒合促進デバイス100にヨレやズレが発生することを抑えることができる。
【0081】
以上説明したように、癒合促進デバイス10は、複数の貫通孔25を有する生分解性シートから形成され生体組織の癒合を促進する本体部20と、本体部20の一部に配置され本体部20を補強する補強部30と、を有する。このように構成した癒合促進デバイス10によれば、補強部30によって本体部20の剛性を高めて、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。これによって、操作時(体内留置時)に、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。また、留置後おいて何らかの力が作用した場合に、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。したがって、外科手術等の術後における縫合不全のリスクを低減させることができる。
【0082】
補強部30は、本体部20に内接または外接する仮想円50の中心51から伸びている線分52に対して少なくとも1ヶ所において交差している。このように構成することによって、線分52と補強部30とが交差する部位に補強部30を折り曲げる力Fが作用した場合であっても、補強部30は折り曲げられ難い。したがって、癒合促進デバイス10は、力Fに抗して、ヨレやズレの発生が抑えられる。
【0083】
補強部30は、仮想円50の周方向の全周に亘って線分52に対して交差している。このように構成することによって、いずれの方位に沿う力Fが作用しても、補強部30は折り曲げられ難い。したがって、癒合促進デバイス10は、いずれの方位に沿う力Fに抗して、ヨレやズレの発生が抑えられる。
【0084】
補強部30は、線分52が伸びている方向にオーバーラップする形状を有している。このように構成することによって、補強部30が開いた形状を有する場合であっても、仮想円50の周方向の全周に亘って線分52に対して交差している補強部30を形成することができる。したがって、癒合促進デバイス10は、いずれの方位に沿う力Fに抗して、ヨレやズレの発生が抑えられる。
【0085】
本体部20は、貫通孔25よりも孔径が大きく形成された孔部40をさらに有する。このように構成することによって、癒合促進デバイス10を用いた処置に適合した形状を有する癒合促進デバイス10を提供できる。
【0086】
補強部30は、本体部20の外縁側に位置する第1補強部31と、孔部40の内周縁側に位置する第2補強部32とを含んでいる。このように構成することによって、本体部20は、第1補強部31によって外縁側の剛性が高められるのみならず、第2補強部32によって孔部40の内周縁側の剛性も高められる。孔部40に医療器具等を挿通するときなどにおいて、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。
【0087】
この場合の第2補強部32は、本体部20を形成する生分解性シートを補強する強さが第1補強部31よりも大きい。このように構成することによって、孔部40の内周縁側の剛性を一層高めることができ、孔部40に医療器具等を挿通するときなどにおける癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを一層抑えることができる。
【0088】
本体部20の外縁は、直線形状、または円弧形状を含んでいる。このように構成することによって、癒合促進デバイス10を用いた処置に適合した形状を有する癒合促進デバイス10を提供できる。
【0089】
補強部30は、直線形状、または円弧形状を含んでいる。このように構成することによって、本体部20の形状に適した補強部30の形状を選択でき、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを一層抑えることができる。
【0090】
以上、癒合促進デバイス10の構成の一例を説明したが、本発明に係る癒合促進デバイス10は、生体組織の癒合を促進する機能を持つシート状の本体部20を、本体部20の一部に配置した補強部30によって補強する限り、その具体的な構成は限定されない。その他の変形例として、例えば、癒合促進デバイス10は、本体部20の側面に露出する連通孔が形成されていてもよい。また、癒合促進デバイス10は、本体部20に形成された貫通孔25が本体部20の厚み方向(
図2(B)の上下方向)と交差する方向に一部が広がる形状を有していてもよい。また、癒合促進デバイス10は、本体部20に形成された貫通孔25が本体部20の厚み方向(
図2(B)の上下方向)と交差する方向に一部が狭まる形状を有していてもよい。
【0091】
次に、癒合促進デバイスを用いた処置方法を説明する。
【0092】
図16は、癒合促進デバイスを用いた処置方法の各手順を示すフローチャートである。
【0093】
処置方法は、生体器官の接合対象となる一方の被接合部位と他方の被接合部位との間に生体組織の癒合を促進するシート状の本体部を備える癒合促進デバイスを配置すること(S11)、一方の被接合部位と他方の被接合部位との間に癒合促進デバイスの本体部の少なくとも一部を配置した状態で一方の被接合部位と他方の被接合部位とを接合すること(S12)、を含む。
【0094】
処置方法により接合される生体器官および生体器官における被接合部位は特に限定されず、任意に選択することができる。ただし、以下の説明では、大腸吻合術を例に挙げて説明する。また、以下に説明する各手技において使用される癒合促進デバイスとしては、例えば、前述した癒合促進デバイスの中から任意のものを選択することが可能であるし、その他の癒合促進デバイスを選択することもできる。ただし、以下の説明では、各手技に好適に用いることができる代表的な例として、特定の癒合促進デバイスの使用例を説明する。また、以下に説明する各手技において、公知の手技手順や公知の医療装置・医療器具等については詳細な説明を適宜省略する。
【0095】
以下、本明細書の説明において「生体器官の間に癒合促進デバイスを配置する」とは、生体器官に癒合促進デバイスが直接的にまたは間接的に接触した状態で配置されること、生体器官との間に空間的な隙間が形成された状態で癒合促進デバイスが配置されること、またはその両方の状態で癒合促進デバイスが配置されること(例えば、一方の生体器官に癒合促進デバイスが接触し、他方の生体器官には癒合促進デバイスが接触していない状態で配置されること)の少なくとも一つを意味する。また、本明細書の説明において「周辺」とは、厳密な範囲(領域)を規定するものではなく、処置の目的(生体器官同士の接合)を達成し得る限りにおいて、所定の範囲(領域)を意味する。また、各処置方法において説明する手技手順は、処置の目的を達成し得る限りにおいて、順番を適宜入れ替えることが可能である。また、本明細書の説明において「相対的に接近させる」とは、接近させる対象となる二つ以上のものを、互いに接近させること、一方のみを他方のみに接近させることの両方を意味する。
【0096】
<処置方法の実施形態(大腸吻合術)>
図17は、処置方法の実施形態(大腸吻合術)の手順を示すフローチャートであり、
図18~
図20は、大腸吻合術の説明に供する図である。
【0097】
本実施形態に係る処置方法において、接合対象となる生体器官は、癌腫瘍の切除に伴い切断された大腸である。具体的には、接合対象となる生体器官は、切断した大腸の口側A1と、切断した大腸の肛門側A2である。以下の説明では、切断した大腸の口側A1の口部周辺(一方の被接合部位)と、切断した大腸の肛門側A2の腸壁の一部(他方の被接合部位)を接合する手順を説明する。また、本実施形態では、
図1(A)に示した癒合促進デバイス10の使用例を説明する。
【0098】
図17に示すように、本実施形態に係る処置方法は、大腸の口部周辺と大腸の腸壁の間に癒合促進デバイス10を配置すること(S101)、大腸の口部周辺と大腸の腸壁を相対的に接近させること(S102)、大腸の口部周辺と大腸の腸壁との間で癒合促進デバイス10の本体部20を挟み込むこと(S103)、大腸の口部周辺と大腸の腸壁との間に癒合促進デバイス10本体部20を挟み込んだ状態で接合すること(S104)、大腸の口部周辺と大腸の腸壁との間に癒合促進デバイスの本体部を留置すること(S105)、を含む。
【0099】
次に、
図18~
図20を参照して、本実施形態に係る処置方法を具体的に説明する。
【0100】
図18に示すように、医師等の術者(以下、術者とする)は、大腸の口側A1に、吻合装置700の第1係合器具710を挿入する。術者は、大腸の肛門側A2に、吻合装置700の第2係合器具720を配置する。術者は、第2係合器具720を大腸の肛門側A2に配置するのに先立ち、大腸の肛門側A2に、吻合装置700の第2係合器具720を挿入するための貫通孔A21を形成しておく。なお、貫通孔A21を形成するタイミングは、第2係合器具720を配置する前であれば、特に限定されない。
【0101】
吻合装置700としては、例えば、大腸吻合術に使用される公知の装置を用いることができる。吻合装置700は、第1係合器具710と第2係合器具720の係合に伴い、第1係合器具710と第2係合器具720との間に配置された生体組織の切除とともに、切除した生体組織の周囲をステープルにより円周状に縫合する。第1係合器具710は、例えば、筒状の被係合部711を備える器具であり、第2係合器具720は、例えば、第1係合器具710の被係合部711に挿入および係合される係合ピン721を備える器具である。
【0102】
次に、術者は、
図18に示すように、大腸の口側A1と大腸の肛門側A2との間に癒合促進デバイス10を配置する。本実施形態では、本体部20に孔部(中心孔)40が形成された癒合促進デバイス10(
図1(A)を参照)を使用する。術者は、癒合促進1(A)を配置する際、第2係合器具720が備える係合ピン721に本体部20に形成された孔部40を通す。この際、術者は、大腸の肛門側A2において貫通孔A21が形成された付近に癒合促進デバイス10の本体部20を接触させる。なお、術者は、第1係合器具710が備える被係合部711に本体部20に形成された孔部40を通すことにより、大腸の口側A1に癒合促進デバイス10を配置してもよい。
【0103】
次に、術者は、
図19に示すように、第1係合器具710と第2係合器具720を相対的に接近させて係合させる。術者は、第1係合器具710と第2係合器具720との間で、大腸の口側A1の口部周辺、癒合促進デバイス10の本体部20、大腸の肛門側A2の腸壁に形成した貫通孔A21周辺を挟み込む。術者は、吻合装置700を操作することにより、第1係合器具710と第2係合器具720との間に挟み込まれた大腸の口側A1の一部、癒合促進デバイス10の本体部20の一部、および大腸の肛門側A2の一部を切除しつつ、切除した部位の周囲をステープル(図示省略)により接合する。
【0104】
次に、術者は、
図20に示すように、吻合装置700を、例えば、大腸の肛門側A2から肛門を介して生体外へ取り出す。また、術者は、大腸の口側A1の口部周辺と大腸の肛門側A2の腸壁との間に癒合促進デバイス10の本体部20の一部が挟み込まれた状態で癒合促進デバイス10を留置する。
【0105】
以上のように、本実施形態に係る処置方法では、大腸の口部周辺と大腸の腸壁を接合する。この処置方法によれば、大腸の口側A1の口部周辺と大腸の肛門側A2の腸壁の間に配置した癒合促進デバイス10の本体部20により、大腸の口側A1周辺の生体組織と大腸の肛門側A2の腸壁の生体組織の癒合を促進することができ、大腸吻合術後の縫合不全のリスクを低減させることができる。
【0106】
このような処置方法によれば、癒合促進デバイスが備えるシート状の本体部を一方の被接合部位と他方の被接合部位との間に挟み込ませるという簡便な方法により、接合手技(例えば、消化管の吻合術)後の縫合不全のリスクを低減させることができる。
【0107】
また、使用される癒合促進デバイス10は、補強部30によって本体部20の剛性を高めているため、術者の操作時(体内留置時)に、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。また、留置後おいて何らかの力が作用した場合に、癒合促進デバイス10にヨレやズレが発生することを抑えることができる。したがって、外科手術等の術後における縫合不全のリスクを低減させることができる。
【0108】
本出願は、2018年9月27日に出願された日本国特許出願第2018-182245号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0109】
10 癒合促進デバイス、
20 本体部、
21 表面、
23 裏面、
25 貫通孔、
30 補強部、
31 第1補強部、
32 第2補強部、
35c 補強部層、
40 孔部、
50 仮想円、
51 中心、
52 仮想円の中心から伸びている線分。