(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ポリブタジエン組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 295/00 20060101AFI20231031BHJP
C08F 136/06 20060101ALI20231031BHJP
C08F 4/54 20060101ALI20231031BHJP
C08F 4/602 20060101ALI20231031BHJP
C08F 4/70 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C08F295/00
C08F136/06
C08F4/54
C08F4/602
C08F4/70
(21)【出願番号】P 2020559277
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048443
(87)【国際公開番号】W WO2020122108
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018233795
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】中川 恵太
(72)【発明者】
【氏名】浦山 和志
(72)【発明者】
【氏名】佐野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】福本 天斗
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-302730(JP,A)
【文献】特表2016-540080(JP,A)
【文献】特開昭59-122531(JP,A)
【文献】特開2000-256507(JP,A)
【文献】特開昭61-073707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F295
C08L9
C08L15
C08F36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2-ポリブタジエンとランタノイド系触媒との存在下で1,3-ブタジエンを重合する工程Yを含む、ポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項2】
コバルト系触媒の存在下で1,3-ブタジエンを重合して前記1,2-ポリブタジエンを得る工程Xを更に含む、請求項1に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程Xにおいて、有機アルミニウム化合物を添加して重合を停止させる、請求項2に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程Yは、前記工程Xにより得られた反応混合物中に前記ランタノイド系触媒を添加して1,3-ブタジエンを重合する工程である、請求項2又は3に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項5】
前記コバルト系触媒は、コバルト化合物と、ホスフィン化合物と、有機アルミニウム化合物とを含有する、請求項2~4のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項6】
前記1,2-ポリブタジエンは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ランタノイド系触媒は、ランタノイド化合物と、有機アルミニウム化合物と、ハロゲン化合物とを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項8】
前記工程Yは、活性末端を有する1,4-ポリブタジエンを得る工程であり、
前記1,4-ポリブタジエンが有する活性末端と、アルコキシシラン化合物とを反応させる工程Zを更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項9】
前記工程Yにより得られたポリブタジエン組成物中に前記1,2-ポリブタジエンを5~30質量%含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年12月13日に出願された日本特許出願番号2018-233795号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ポリブタジエン組成物の製造方法に関する。より詳細には、1,4-ポリブタジエンと1,2-ポリブタジエンとを含有するポリブタジエン組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
1,4-ポリブタジエンを含有するポリブタジエン組成物は、炭化水素等の不活性溶媒中、触媒の存在下において1,3-ブタジエンをシス-1,4重合する方法を用いて製造される(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1,2には、1,2-ポリブタジエン、及びコバルト系触媒又はニッケル系触媒の存在下で1,3-ブタジエンをシス1,4-重合し、続いて1,3-ブタジエンを1,2-重合することによりビニル・シス-ポリブタジエンゴムを得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-163144号公報
【文献】特開2017-132954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今における環境事情や、省資源・省エネルギーに対する意識の向上等により、耐亀裂成長性により優れたゴム材料が要求されている。ポリブタジエンゴムにおいても、従来にも増して耐亀裂成長性に優れた材料が望まれている。
【0006】
本開示は上記課題に鑑みなされたものであり、耐亀裂成長性に優れたゴム材料を得ることができるポリブタジエン組成物の製造方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本開示によれば、以下のポリブタジエン組成物及びその製造方法、並びに架橋体が提供される。
【0008】
[1] 1,2-ポリブタジエンとランタノイド系触媒との存在下で1,3-ブタジエンを重合する工程Yを含む、ポリブタジエン組成物の製造方法。
[2] 1,2-ポリブタジエンと1,4-ポリブタジエンとを含有するポリブタジエン組成物であって、前記1,2-ポリブタジエンとランタノイド系触媒との存在下で1,3-ブタジエンを重合して得られる、ポリブタジエン組成物。
[3] 上記[1]の製造方法により得られたポリブタジエン組成物又は上記[2]のポリブタジエン組成物を含有するゴム組成物が架橋されてなる架橋体。
【発明の効果】
【0009】
本開示のポリブタジエン組成物及びその製造方法によれば、耐亀裂成長性に優れたポリブタジエンゴムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0011】
本開示のポリブタジエン組成物は、1,2-ポリブタジエンとランタノイド系触媒との存在下で1,3-ブタジエンを重合する工程(以下「工程Y」という。)を含む方法により製造される。当該方法によれば、1,4-ポリブタジエンと1,2-ポリブタジエンとを含有するポリブタジエン組成物を得ることができる。このポリブタジエン組成物は、好適には、工程Yと共に、1,2-ポリブタジエンを得る工程Xを更に含む方法により製造される。また本製造方法は、必要に応じて、1,4-ポリブタジエンを変性する工程Zを更に含んでいてもよい。以下、各工程について工程X、工程Y、工程Zの順に詳細に説明する。
【0012】
<工程X(1,2重合工程)>
工程Xは、コバルト系触媒の存在下で1,3-ブタジエンを重合することにより1,2-ポリブタジエンを製造する工程である。この工程Xは、1,3-ブタジエンと有機溶媒との混合物を調製する工程と、コバルト系触媒の存在下で1,3-ブタジエンを重合(より詳細には1,2重合)する工程と、重合反応を停止させる工程とを含む。なお、以下では、工程Xにおける重合反応により得られた1,2-ポリブタジエンを「1,2-ポリブタジエン(A)」ともいう。なお、本明細書において、「1,2重合」とは、1,3-ブタジエンの重合により生成されるポリブタジエンにおいて、1,3-ブタジエンの結合様式が1,2結合であるモノマー単位の割合が50質量%超である重合をいう。「1,2-ポリブタジエン」とは、1,3-ブタジエンの結合様式が1,2結合であるモノマー単位の割合が50質量%超であるポリブタジエンをいう。
【0013】
(調製工程)
本工程で使用される有機溶媒は、炭化水素又はハロゲン化炭化水素を主成分とする溶媒である。炭化水素の具体例としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の炭素数4~10の飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭素数6~20の飽和脂環式炭化水素;1-ブテン、2-ブテン等のモノオレフィン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素の具体例としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、クロロトルエン等が挙げられる。これらのうち、有機溶媒としては炭化水素を好ましく用いることができる。なお、「炭化水素又はハロゲン化炭化水素を主成分とする」とは、本工程で使用される有機溶媒の全量に対し、炭化水素又はハロゲン化炭化水素が50質量%超であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0014】
1,3-ブタジエンと有機溶媒との混合物において、1,3-ブタジエン及び有機溶媒の合計量に対する1,3-ブタジエンの量は、3質量%以上とすることが好ましく、5質量%以上とすることがより好ましい。また、1,3-ブタジエン及び有機溶媒の合計量に対する1,3-ブタジエンの量は、80質量%以下とすることが好ましく、50質量%以下とすることがより好ましく、15質量%以下とすることが更に好ましい。1,3-ブタジエンと有機溶媒との混合物を調製する際の温度は、好ましくは10~50℃、より好ましくは30~40℃である。
【0015】
(重合工程)
本工程では、上記調製工程により得られた1,3-ブタジエンと有機溶媒との混合物を用い、コバルト系触媒の存在下、炭化水素又はハロゲン化炭化水素を主成分とする有機溶媒中で1,3-ブタジエンを1,2重合する。これにより、1,2-シンジオタクチックポリブタジエンを製造することができる。
【0016】
使用されるコバルト系触媒は、コバルト化合物を含有する。コバルト化合物は、好ましくはコバルト塩であり、具体的には、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト等のハロゲン化コバルト塩;オクチル酸コバルト、バーサチック酸コバルト、ナフテン酸コバルト等の有機酸コバルト塩、などが挙げられる。これらのうち、ハロゲン原子を含有しない点において、コバルト化合物として有機酸コバルト塩を用いることが好ましい。
【0017】
コバルト化合物の使用割合は、コバルト化合物が有するコバルト原子に対する1,3-ブタジエンのモル比(1,3-ブタジエン/Co)が、l5,000以上となる量とすることが好ましい。1,3-ブタジエン/Co(モル比)を5,000以上とすることにより、1,2-ポリブタジエン(A)の分子量が低くなりすぎるのを抑制できる点で好適である。また、コバルト化合物の使用割合は、1,3-ブタジエン/Co(モル比)が、150,000以下となる量とすることが好ましい。1,3-ブタジエン/Co(モル比)を150,000以下とすることにより、重合活性の低下の抑制を図ることができる点で好ましい。1,3-ブタジエン/Co(モル比)は、10,000以上がより好ましい。また、1,3-ブタジエン/Co(モル比)は、100,000以下がより好ましい。
【0018】
工程Xで使用されるコバルト系触媒は、コバルト化合物と共に、ホスフィン化合物と有機アルミニウム化合物とを更に含有することが好ましい。ホスフィン化合物は、炭素数3以上の分岐状の脂肪族炭化水素基又は炭素数5以上の脂環式炭化水素基を1個と、2個の芳香族炭化水素基とを有するホスフィン化合物であることが好ましい。炭素数3以上の分岐状の脂肪族炭化水素基は、好ましくは炭素数3~10の分岐状アルキル基である。炭素数5以上の脂環式炭化水素基は、好ましくは炭素数5~10の置換又は無置換のシクロアルキル基である。芳香族炭化水素基は、好ましくはフェニル基である。
【0019】
ホスフィン化合物の好ましい具体例としては、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン、ジフェニルイソブチルホスフィン、ジフェニルt-ブチルホスフィン、ジフェニルシクロペンチルホスフィン、ジフェニル(4-メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジフェニルシクロヘプチルホスフィン、ジフェニルシクロオクチルホスフィン等が挙げられる。なお、ホスフィン化合物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ホスフィン化合物の配合割合は、コバルト化合物1モルに対し、1~5モルとすることが好ましく、1.5~4モルとすることがより好ましい。
【0020】
有機アルミニウム化合物としては、アルミノキサン(メチルアミノキサン等)、及びトリアルキルアルミニウムと水とを接触させてなる化合物(以下「水素化アルミニウム化合物」と記す。)が挙げられる。アルミノキサンは、あらかじめ合成したものを使用してもよく、あるいは、重合系中で合成したものでもよい。水素化アルミニウム化合物につき、トリアルキルアルミニウムと水との接触方法は、トリアルキルアルミニウムの不活性有機溶媒溶液に対して、水を蒸気、液体及び固体(氷)のうちいずれの状態で接触させてもよい。また、不活性有機溶媒への溶解状態、分散状態、又は乳化状態として、もしくは、不活性ガス中に存在するガス状態、ミスト状態として接触させてもよい。
【0021】
コバルト系触媒において、有機アルミニウム化合物の使用割合は、有機アルミニウム化合物が有するアルミニウム原子に対する1,3-ブタジエンのモル比(1,3-ブタジエン/Al)が、500以上となる量とすることが好ましい。1,3-ブタジエン/Al(モル比)が500以上であると反応が十分に進行しやすい。また、有機アルミニウム化合物の使用割合は、1,3-ブタジエン/Alが、4,000以下となる量とすることが好ましい。1,3-ブタジエン/Al(モル比)が4,000以下であると重合活性を高くできる傾向にある点で好ましい。1,3-ブタジエン/Alは、800以下がより好ましい。また、1,3-ブタジエン/Alは、2,000以下がより好ましい。
【0022】
1,2重合における反応温度は、通常-20℃~80℃であり、好ましくは10℃~60℃である。反応時間は、好ましくは5分~6時間であり、より好ましくは10~3時間である。重合反応は、回分式でも連続式でもよい。反応溶液中の1,3-ブタジエン濃度は、通常、5~80質量%、好ましくは8~25質量%である。また、触媒及び重合体を失活させないようにするために、重合系内に酸素、水、あるいは炭酸ガス等の失活作用のある化合物の混入を抑制する措置を講じてもよい。
【0023】
(停止工程)
工程Xにおいては、シンジオタクチック-1,2重合反応が所望の反応転化率に達した後に、有機アルミニウム化合物を重合系に添加することにより1,2重合反応を停止させることが好ましい。
【0024】
1,2重合反応の停止に際し使用される有機アルミニウム化合物としては、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-t-ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム化合物;
水素化ジエチルアルミニウム、水素化ジ-n-プロピルアルミニウム、水素化ジ-n-ブチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジヘキシルアルミニウム、水素化ジイソヘキシルアルミニウム、水素化ジオクチルアルミニウム、水素化ジイソオクチルアルミニウム等の水素化アルミニウム化合物、などが挙げられる。これらのうち、1,2重合反応を停止させる際に使用される有機アルミニウム化合物は、水素化ジイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、及び水素化ジエチルアルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。なお、有機アルミニウム化合物としては、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
1,2重合反応の停止に際し、有機アルミニウム化合物の使用割合は、1,2重合反応で用いるコバルト化合物1モルあたり、1モル以上とすることが好ましく、5モル以上とすることがより好ましい。また、有機アルミニウム化合物の使用割合は、1,2重合反応で用いるコバルト化合物1モルあたり、20モル以下とすることが好ましく、15モル以下とすることがより好ましい。有機アルミニウム化合物の使用割合を上記範囲内とすることにより、1,2-ポリブタジエン(A)の分子量が高くなりすぎず、又はマトリックス成分である1,4-ポリブタジエンの分子量が低くなりすぎず好適である。重合停止反応を行う際の温度は、通常-20℃~80℃であり、好ましくは10℃~60℃である。1,2重合反応において、反応転化率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上であり、更に好ましくは60%以上である。
【0026】
工程Xによれば、1,2-ポリブタジエン(A)として1,2-シンジオタクチックポリブタジエンを製造することができる。得られる1,2-ポリブタジエン(A)の融点は、60℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが更に好ましい。また、1,2-ポリブタジエン(A)の融点は、150℃以下であることが好ましく、145℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることが更に好ましい。1,2-ポリブタジエン(A)の融点を60℃以上とすることにより、低燃費性及び耐ウェットスキッド性を十分に確保できる点で好ましい。また、1,2-ポリブタジエン(A)の融点を150℃以下とすることにより、ゴム組成物の加工性を十分に確保できる点で好ましい。
【0027】
1,2-ポリブタジエン(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、50,000以上であることが好ましく、70,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることが特に好ましい。また、1,2-ポリブタジエン(A)の重量平均分子量(Mw)は、500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることが特に好ましい。1,2-ポリブタジエン(A)の重量平均分子量が50,000未満であると、架橋体の耐摩耗性が低下しやすい傾向にあり、400,000を超えると、ゴム組成物の加工性が低下しやすい傾向にある。
【0028】
1,2-ポリブタジエン(A)における1,2-ビニル結合の含有率(1,2-ビニル結合含量)は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。特に、1,2-ビニル結合の含有率が90%以上であると、ポリブタジエン組成物を用いて得られる架橋体の低燃費性能をより良好にできる点で好ましい。なお、1,2-ビニル結合含量は、赤外分光光度計を用いて測定された値である。
【0029】
<工程Y(シス-1,4重合工程)>
工程Yでは、1,2-ポリブタジエンとランタノイド系触媒との存在下で1,3-ブタジエンの重合(シス-1,4重合)を行うことにより、ポリブタジエン組成物のマトリックス成分である1,4-ポリブタジエンを製造する。本工程においては、1,2-ポリブタジエンとして、工程Xにより製造された1,2-ポリブタジエン(A)を用いることが好ましい。その際、上記工程Xにより得られた反応混合物中にランタノイド系触媒を添加して1,3-ブタジエンを重合することが、製造工程の簡略化を図る上で好ましい。また、工程Yでは、シス-1,4重合を行うときにイソプレンを加えることで、1,3-ブタジエンに加えて、イソプレンの重合を行うこともできる。なお、本明細書において、「シス-1,4重合」とは、1,3-ブタジエンの重合により生成されるポリブタジエンにおいて、1,3-ブタジエンの結合様式がシス-1,4結合であるモノマー単位の割合が50質量%超である重合をいう。「1,4-ポリブタジエン」とは、1,3-ブタジエンの結合様式が1,4結合(シス-1,4結合及びトランス-1,4結合を含む)であるモノマー単位の割合が50質量%超であるポリブタジエンをいう。
【0030】
工程Yにおいて使用されるランタノイド系触媒は、ランタノイド化合物を含有する。ランタノイド化合物は、ランタノイドに属する少なくともいずれか1個の元素を有する化合物である。なお、ランタノイド化合物は、ランタノイドを有する化合物とルイス塩基との反応生成物であってもよい。ランタノイド化合物が有するランタノイドは、ネオジム、プラセオジウム、セリウム、ランタン、ガドリニウム及びサマリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ネオジムであることが特に好ましい。ランタノイド化合物の具体例としては、ランタノイドのカルボン酸塩、アルコキサイド、β-ジケトン錯体、リン酸塩又は亜リン酸塩等を挙げることができる。
【0031】
ランタノイドのカルボン酸塩の具体例としては、式(1);「(R1-CO2)3M」で表される化合物(ただし、Mはランタノイドであり、R1は炭素数1~20の1価の炭化水素基である。)が挙げられる。上記式(1)において、R1は、飽和又は不飽和の1価の鎖状炭化水素基であることが好ましく、直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はシクロアルキル基であることが好ましい。上記式(1)中のカルボニル基は、R1が有する一級、二級又は三級の炭素原子に結合している。Mは、ネオジム、プラセオジウム、セリウム、ランタン、ガドリニウム又はサマリウムが好ましく、ネオジムがより好ましい。
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、安息香酸、ナフテン酸、商品名「バーサチック酸」(シェル化学社製、カルボキシル基が三級炭素原子に結合しているカルボン酸)等の塩を挙げることができる。これらのうち、上記式(1)で表される化合物は、バーサチック酸、2-エチルヘキサン酸又はナフテン酸の塩であることが好ましい。
【0032】
ランタノイドのアルコキサイドの具体例としては、式(2);(R2O)3Mで表される化合物(ただし、Mはランタノイドであり、R2は炭素数1~20の1価の炭化水素基である。)が挙げられる。上記式(2)において、R2としては、1価の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。R2は、好ましくは1価の芳香族炭化水素基である。上記式(2)中の基「R2O-」の具体例としては、例えば2-エチル-ヘキシルアルコキシ基、オレイルアルコキシ基、ステアリルアルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルアルコキシ基等を挙げることができる。これらのうち、基「R2O-」は、2-エチル-ヘキシルアルコキシ基、またはベンジルアルコキシ基が好ましい。Mの説明及び好ましい例示については上記式(1)の説明が適用される。
【0033】
ランタノイドのβ-ジケトン錯体の具体例としては、アセチルアセトン錯体、ベンゾイルアセトン錯体、プロピオニトリルアセトン錯体、バレリルアセトン錯体、エチルアセチルアセトン錯体等を挙げることができる。これらのうち、アセチルアセトン錯体又はエチルアセチルアセトン錯体が好ましい。
【0034】
ランタノイドのリン酸塩又は亜リン酸塩の具体例としては、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)リン酸ビス(1-メチルヘプチル)、リン酸ビス(p-ノニルフェニル)、リン酸ビス(ポリエチレングリコール-p-ノニルフェニル)、リン酸(1-メチルヘプチル)(2-エチルヘキシル)、リン酸(2-エチルヘキシル)(p-ノニルフェニル)、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-p-ノニルフェニル、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフィン酸、ビス(1-メチルヘプチル)ホスフィン酸、ビス(p-ノニルフェニル)ホスフィン酸、(1-メチルヘプチル)(2-エチルヘキシル)ホスフィン酸、(2-エチルヘキシル)(p-ノニルフェニル)ホスフィン酸等の塩を挙げることができる。これらのうち、リン酸塩又は亜リン酸塩としては、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)、リン酸ビス(1-メチルヘプチル)、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル又はビス(2-エチルヘキシル)ホスフィン酸の塩が好ましい。
【0035】
工程Yで使用するランタノイド化合物としては、これらのうち、カルボン酸塩又はリン酸塩であることが好ましく、カルボン酸塩であることがより好ましい。これらの中でも、ネオジムのリン酸塩又はネオジムのカルボン酸塩が更に好ましく、ネオジムのバーサチック酸塩又はネオジムの2-エチルヘキサン酸塩等のカルボン酸塩が特に好ましい。
【0036】
ランタノイド化合物を溶剤に可溶化させるため、又は長期間安定に貯蔵するために、ランタノイド化合物とルイス塩基とを混合したり、又はランタノイド化合物とルイス塩基とを反応させて反応生成物としたりすることも好ましい。ルイス塩基の使用量は、ランタノイド化合物が有するランタノイド1モルに対して、0~30モルとすることが好ましく、1~10モルとすることがより好ましい。ルイス塩基の具体例としては、アセチルアセトン、テトラヒドロフラン、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、チオフェン、ジフェニルエーテル、トリエチルアミン、有機リン化合物、一価又は二価のアルコール等を挙げることができる。なお、工程Yにおいて、ランタノイド化合物としては、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
工程Yにおけるランタノイド化合物の使用割合は、工程Yで使用する1,3-ブタジエン100gに対して、0.00001~1.0ミリモルとすることが好ましく、0.0001~0.5ミリモルとすることがより好ましい。ランタノイド化合物の使用割合を0.00001ミリモル以上とすることにより重合活性を十分に高くできる点で好ましい。また、ランタノイド化合物の使用割合を1.0ミリモル以下とすることにより触媒濃度が高くなり過ぎることを抑制でき、脱灰工程を設けなくてよい点で好ましい。
【0038】
工程Yで使用されるランタノイド系触媒は、ランタノイド化合物と共に、有機アルミニウム化合物とハロゲン化合物とを更に含有することが好ましい。
【0039】
有機アルミニウム化合物としては、アルミノキサン、アルキルアルミニウム化合物及び水素化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。これらのうち、アルキルアルミニウム化合物及び水素化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(以下「アルミニウム化合物(L)」という。)と、アルミノキサンとを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0040】
本工程において使用されるアルミノキサンの好ましい具体例としては、下記式(3)で表される化合物及び下記式(4)で表される化合物が挙げられる。なお、ファインケミカル,23,(9)5(1994),J.Am.Chem.Soc.,115,4971(1993)、及び J.Am.Che.Soc.,117,6465(1995)に記載されているアルミノキサンの会合体を用いてもよい。
【化1】
(式(3)及び式(4)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に炭素数1~20の1価の炭化水素基であり、k及びmは、それぞれ独立に2以上の整数である。式(3)中の複数のR
3は互いに同じでも異なっていてもよい。mが2以上の場合、式(4)中の複数のR
4は互いに同じでも異なっていてもよい。)
【0041】
上記式(3)中のR3及び上記式(4)中のR4としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基等を挙げることができる。これらのうち、メチル基、エチル基、イソブチル基又はt-ブチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。k及びmは、4~100の整数であることが好ましい。
【0042】
アルミノキサンの具体例としては、メチルアルミノキサン(以下「MAO」ともいう。)、エチルアルミノキサン、n-プロピルアルミノキサン、n-ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、t-ブチルアルミノキサン、ヘキシルアルミノキサン、イソヘキシルアルミノキサン等を挙げることができる。これらの中でも、MAOが好ましい。なお、アルミノキサンとしては、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
ランタノイド系触媒においてアルミノキサンの使用割合は、1,4重合反応において使用されるランタノイド化合物1モルに対し、アルミノキサンが有するアルミニウム(Al)の量が、1~500モルとなる量とすることが好ましく、3~250モルとなる量とすることがより好ましく、5~200モルとなる量とすることが更に好ましい。アルミノオキサンの使用割合を上記範囲とすることにより、触媒活性の低下を抑制し、また触媒残渣を除去する工程を設けなくて済む点で好適である。
【0044】
アルミニウム化合物(L)の具体例としては、上記停止工程の説明において例示したアルキルアルミニウム化合物及び水素化アルミニウム化合物が挙げられる。なお、アルミニウム化合物(L)としては、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、アルミニウム化合物(L)は、好ましくは、水素化ジイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、及び水素化ジエチルアルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。ランタノイド系触媒の調製に際し、アルミニウム化合物(L)の使用割合は、1,4重合反応において使用されるランタノイド化合物1モルに対し、アルミニウム化合物(L)の合計の使用量を、1~700モルとすることが好ましく、3~500モルとすることがより好ましい。
【0045】
ランタノイド系触媒の一成分として使用されるハロゲン化合物としては、塩素含有化合物であることが好ましく、塩化ケイ素化合物及び塩化炭化水素化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。使用される塩化ケイ素化合物としては、トリメチルシリルクロライド、トリエチルシリルクロライド、ジメチルシリルジクロリド等を挙げることができる。これらのうち、塩化ケイ素化合物としては、トリメチルシリルクロライドを好ましく用いることができる。また、塩化炭化水素化合物の具体例としては、メチルクロライド、ブチルクロライド、ヘキシルクロライド、オクチルクロライド、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンジリデンクロライド等を挙げることができる。これらのうち、メチルクロライド、クロロホルム又はジクロロメタンを用いることが好ましい。
【0046】
ランタノイド系触媒の調製に際しハロゲン化合物の使用割合は、ランタノイド化合物1モルに対し、ハロゲン化合物が有するハロゲン原子のモル比(ハロゲン原子/ランタノイド化合物)が、0.5~3であることが好ましく、1.0~2.5であることがより好ましく、1.2~1.8であることが更に好ましい。ハロゲン原子/ランタノイド化合物のモル比が0.5以上であることにより重合触媒活性を十分に高くでき好ましい。また、当該モル比が3以下であることにより、ハロゲン化合物が触媒毒となることを回避できる点で好ましい。
【0047】
工程Yにおいて1,4重合の際の反応温度は、-30℃~200℃とすることが好ましく、0℃~150℃とすることがより好ましい。重合反応の形式は特に制限はなく、バッチ式反応器を用いて行ってもよく、多段連続式反応器等を用いて連続式で行ってもよい。1,3-ブタジエンの1,4重合反応を重合溶媒を用いて行う場合には、溶媒中のモノマー濃度を5~50質量%とすることが好ましく、7~35質量%とすることがより好ましい。なお、1,4-ポリブタジエンを製造する観点、及び活性末端を有する1,4-ポリブタジエンを失活させないようにする観点から、重合系内に、酸素、水又は炭酸ガス等といった失活作用のある化合物が混入しない措置を施すことが好ましい。
【0048】
上記1,4重合反応により、活性末端を有する1,4-ポリブタジエン(以下「1,4-ポリブタジエン(B)」ともいう。)を得ることができる。得られる1,4-ポリブタジエン(B)のGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、50,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましく、150,000以上であることが特に好ましい。また、1,4-ポリブタジエン(B)の重量平均分子量(Mw)は、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることが特に好ましい。1,4-ポリブタジエン(B)の重量平均分子量が50,000未満であると、架橋体の耐摩耗性が低下しやすい傾向にあり、2,000,000を超えると、ゴム組成物の加工性が低下しやすい傾向にある。
【0049】
1,4-ポリブタジエン(B)につき、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、製造しやすさの観点から、1.1以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.1以上がさらに好ましい。また、1,4-ポリブタジエン(B)のMw/Mnは、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。1,4-ポリブタジエン(B)のMw/Mnが4.0以下であると、得られる架橋体の破壊特性及び低発熱性をより良好にできる点で好適である。
【0050】
1,4-ポリブタジエン(B)におけるシス-1,4構造の含有率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、89%以上であることがさらに好ましく、93%以上であることが特に好ましい。特に、シス-1,4構造の含有率が89%以上であると、ポリブタジエン組成物を用いて得られる架橋体の耐亀裂成長性及び耐摩耗性をより良好にでき好適である。工程Yによれば、ポリブタジエン組成物として、マトリックス成分である1,4-ポリブタジエン(B)と、1,2-シンジオタクチックポリブタジエンとの混合物が得られる。
【0051】
工程Yにより得られるポリブタジエン組成物において、1,2-ポリブタジエン(A)の含有割合は、ポリブタジエン組成物の全量に対して、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、1,2-ポリブタジエン(A)の含有割合は、ポリブタジエン組成物の全量に対して、30質量%以下であることが好ましく、23質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。ポリブタジエン組成物において、1,2-ポリブタジエン(A)の含有割合が5質量%以上であることにより、ゴム組成物の加工性を十分に高くすることができ点で好ましい。また、1,2-ポリブタジエン(A)の含有割合が30質量%以下であることにより、ゴム組成物を用いて得られる架橋体の耐摩耗性を十分に高くすることができる点で好適である。
【0052】
<工程Z(変性工程)>
上記工程Yにおいて、シス-1,4重合反応が所望の反応転化率に達した後、常法に従って直ちに老化防止剤(例えば、2,4-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール等)を重合系に添加してもよいが、老化防止剤を添加する前に、アルコキシシラン化合物を用いて1,4-ポリブタジエン(B)の重合末端を変性させてもよい。こうした変性反応により、1,4-ポリブタジエン(B)の活性末端とアルコキシシラン化合物とが反応し、重合末端にケイ素含有基が導入された1,4-ポリブタジエンを得ることができる。すなわち、本工程によれば、末端変性された1,4-ポリブタジエンを含有するポリブタジエン組成物を製造することができる。
【0053】
変性工程において使用されるアルコキシシラン化合物(以下「アルコキシシラン化合物(S)」ともいう。)は、少なくとも1個のアルコキシシリル基を有し、かつ1,4-ポリブタジエン(B)が有する活性末端と反応し得る化合物であることが好ましい。これらのうち、アルコキシシラン化合物(S)は、活性末端との反応性が高い点で、エポキシ基、イソシアネート基、カルボニル基及びシアノ基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するアルコキシシラン化合物であることが好ましい。なお、アルコキシシラン化合物(S)は、部分縮合物であってもよく、アルコキシシラン化合物と部分縮合物との混合物であってもよい。
【0054】
アルコキシシラン化合物(S)の具体例としては、エポキシ基を含有するアルコキシシラン化合物として、例えば2-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、(2-グリシドキシエチル)メチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン等を;
イソシアネート基を含有するアルコキシシラン化合物として、例えば3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリイソプロポキシシラン等を;
カルボニル基を含有するアルコキシシラン化合物として、例えば3-(メタ)アクリロイロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイロキシプロピルトリイソプロポキシシラン等を;
シアノ基を含有するアルコキシシラン化合物として、例えば3-シアノプロピルトリエトキシシラン、3-シアノプロピルトリメトキシシラン、3-シアノプロピルメチルジエトキシシラン、3-シアノプロピルトリイソプロポキシシラン等を、それぞれ挙げることができる。なお、アルコキシシラン化合物(S)としては、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。「(メタ)アクリロ」は、「アクリロ」及び「メタクリロ」を包含する意味である。
【0055】
上記変性反応に際し、アルコキシシラン化合物(S)の使用割合は、上記工程Yにおいて使用されるランタノイド化合物1モルに対して、0.01モル以上とすることが好ましく、0.1モル以上とすることがより好ましい。0.01モル未満とすると、変性反応の進行が十分でなく、充填剤の分散性が充分に改良されないおそれがある。また、アルコキシシラン化合物(S)の使用割合は、上記工程Yにおいて使用されるランタノイド化合物1モルに対して、200モル以下とすることが好ましく、150モル以下とすることがより好ましい。200モルを超えて使用しても、変性反応は飽和しており、使用した分のコストが余計にかかってしまう。アルコキシシラン化合物(S)の添加方法は特に制限されず、一括して添加する方法、分割して添加する方法、又は連続的に添加する方法等が挙げられる。
【0056】
上記変性反応は、溶液中で行うことが好ましい。溶液としては、上記工程Yにより得られた未反応モノマーを含む溶液をそのまま使用することができる。この場合、製造工程の簡略化を図ることができる点で好適である。また、変性反応の形式は特に制限はなく、バッチ式反応器を用いて行ってもよく、多段連続式反応器やインラインミキサなどの装置を用いて連続式で行ってもよい。上記変性反応は、重合反応終了後に任意に行われる、脱溶媒処理、水処理、熱処理、重合体単離に必要な諸操作等の前に行うことが好ましい。
【0057】
上記変性反応の温度は、1,4-ポリブタジエンの重合温度と同じとすることが好ましい。具体的には、20~100℃とすることが好ましく、40~90℃とすることがより好ましい。温度が低すぎると重合体の粘度が上昇する傾向があり、温度が高すぎると重合活性末端が失活し易くなるため好ましくない。変性反応における反応時間は、5分~5時間とすることが好ましく、15分~1時間とすることがより好ましい。本開示の製造方法において、変性反応を行わない場合には、工程Yによる1,4重合終了後に、また、変性反応を行う場合には変性反応後に、所望により、公知の老化防止剤や反応停止剤を脱溶工程において添加することができる。
【0058】
工程Zにより1,4-ポリブタジエン(B)の末端変性を行った場合、変性反応後の脱溶工程において、活性末端に導入されたアルコキシシラン化合物(S)の残基と縮合反応し、かつ消費される化合物(以下「縮合触媒」ともいう。)を更に添加してもよい。縮合触媒の具体例としては、周期律表の4A族、2B族、3B族、4B族及び5B族に含まれる元素のうち少なくとも一つの元素を含有する縮合触媒を添加することが好ましい。縮合触媒を添加することにより、アルコキシシラン化合物(S)の残基の縮合反応をより効果的に促進させることができ、加工性、低温特性及び耐摩耗性に優れた1,4-ポリブタジエンを得ることが可能となる。
【0059】
縮合触媒としては、チタン、スズ、ジルコニウム、ビスマス及びアルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含むものであることが好ましい。これらの具体例としては、チタン含有の縮合触媒として、例えばテトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトラi-プロポキシチタニウム、テトラtert-ブトキシチタニウム、チタニウムトリブトキシステアレート、チタニウムトリプロポキシエチルアセトアセテート等を;スズ含有の縮合触媒として、例えばビス(n-オクタノエート)スズ、ビス(2-エチルヘキサノエート)スズ、ビス(ラウレート)スズ等を;ジルコニウム含有の縮合触媒として、例えばテトラエトキシジルコニウム、テトラn-プロポキシジルコニウム、テトラtert-ブトキシジルコニウム等を;ビスマス含有の縮合触媒として、例えばトリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマス、トリス(ラウレート)ビスマス等を;アルミニウム含有の縮合触媒として、例えば、トリエトキシアルミニウム、トリn-プロポキシアルミニウム、トリi-プロポキシアルミニウム、アルミニウムジブトキシエチルアセトアセテート等を、それぞれ挙げることができる。
【0060】
上記で得られた溶液から溶媒を除去し、ポリブタジエンを単離することによって、本開示のポリブタジエン組成物を得ることができる。ポリブタジエンを単離するには、例えばスチームストリッピング等の公知の脱溶媒方法及び熱処理等の乾燥の操作によって行うことができる。
【0061】
上記製造方法により得られたポリブタジエン組成物は、マトリックス成分としての1,4-ポリブタジエンに、融点が60~150℃の1,2-シンジオタクチックポリブタジエンが、1,4-ポリブタジエンと1,2-ポリブタジエンとの合計量に対して5~30質量%含有された組成物であることが好ましい。この場合、耐亀裂成長性により優れた加硫ゴムを得るための材料として好適に用いることができる。また、ポリブタジエン組成物中に含まれる1,4-ポリブタジエンが上記工程Zにより末端変性されている場合、末端にアルコキシシラン化合物(S)の残基が導入された1,4-ポリブタジエンと、1,2-シンジオタクチックポリブタジエンとを含有するポリブタジエン組成物を得ることができる。この場合、当該ポリブタジエン組成物は、耐亀裂成長性に優れるとともに、更に低燃費性能に優れた加硫ゴムを得るための材料として好適である。
【0062】
ポリブタジエン組成物において、シス-1,4結合の含有率は、55%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、75%以上であることが更に好ましい。シス-1,4結合の含有率が55%以上であると、得られる架橋体の耐亀裂成長性及び耐摩耗性をより良好にでき好適である。また、ポリブタジエン組成物におけるシス-1,4結合の含有率は、95%以下であることが好ましく、92%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
ポリブタジエン組成物において、1,2結合の含有率は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましい。また、ポリブタジエン組成物における1,2結合の含有率は、5%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。
【0064】
ポリブタジエン組成物のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。また、ポリブタジエン組成物のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、150以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましい。ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10以上であることにより、破壊特性を始めとするゴム物性を十分に確保することができる。また、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が150以下であることにより作業性を良好にできるとともに、各種配合剤とともに均一な混練りを行うことができる点で好適である。なお、本明細書においてムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、JIS K6300-1:2013に従って測定した値である。
【0065】
得られるポリブタジエン組成物における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、製造しやすさの観点から、1.1以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.1以上がさらに好ましい。また、ポリブタジエン組成物のMw/Mnは、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。ポリブタジエン組成物のMw/Mnが4.0以下であることにより、得られる架橋体の破壊特性をより良好にできる点で好適である。
【0066】
<ゴム組成物>
上記ゴム組成物は、上記製造方法により得られたポリブタジエン組成物を含有するとともに、必要に応じて他の成分を含有する。以下に、他の成分について説明する。
【0067】
本発明のゴム組成物には、無機フィラーが配合されていてもよい。無機フィラーとしては、シリカ、カーボンブラック等が挙げられる。シリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。好ましくは湿式シリカである。
【0068】
カーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。また、ゴム組成物には、無機フィラーとして、シリカやカーボンブラックの他に、クレー、炭酸カルシウムなどの各種の補強性充填剤が配合されていてもよい。ゴム組成物中における無機フィラーの含有割合は、ゴム組成物に含まれるゴム成分の全体量100質量部に対して、好ましくは25~130質量部、より好ましくは30~110質量部である。
【0069】
ゴム組成物には、通常、架橋剤が含有される。架橋剤としては、硫黄、ハロゲン化硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂等が挙げられ、通常、硫黄が使用される。硫黄の配合量は、ゴム組成物に含まれるゴム成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0070】
ゴム組成物には、ポリブタジエンとは異なる他のゴム成分が配合されていてもよい。かかる他のゴム成分の種類は特に限定されないが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、ブタジエンイソプレン共重合体ゴム等が挙げられる。その他のゴム成分の配合量は、その他のゴム成分の配合による低燃費性能等の改善効果を十分に得る観点から、ゴム組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上である。また、その他のゴム成分の配合量は、ポリブタジエン組成物の配合により耐亀裂成長性が十分に改善された架橋体を得る観点から、ゴム組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは60質量部以下であり、より好ましくは50質量部以下である。
【0071】
ゴム組成物には、上記した成分の他に、例えば老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、加硫促進剤、シランカップリング剤、相溶化剤、加硫助剤、プロセスオイル、加工助剤、スコーチ防止剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合させることができる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各種成分に応じて適宜選択することができる。
【0072】
<架橋体>
本開示のゴム組成物は、重合体成分及び無機フィラーの他、必要に応じて配合される成分を、開放式混練機(例えば、ロール)、密閉式混練機(例えば、バンバリーミキサー)等の混練機を用いて混練され、成形加工後に架橋(加硫)されることによって、架橋体として各種ゴム製品に適用可能である。具体的には、例えばタイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ用途;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O-リング等のシール材;自動車、船舶、航空機、鉄道等の各種車両用の内外装表皮材;建築材料;産業機械用や設備用などの防振ゴム類;ダイヤフラム、ロール、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース及びホースカバー類;動力伝達用ベルトなどのベルト類;ライニング;ダストブーツ;医療用機器材料;防舷材;電線用絶縁材料;その他の工業品等の用途に適用できる。
【0073】
上記ポリブタジエン組成物によれば、耐亀裂成長性に優れ、かつ低燃費性能及び剛性に優れた架橋体を製造することができる。したがって、上記ポリブタジエン組成物は、特にタイヤのトレッド及びサイドウォール用の材料として好適に使用できる。タイヤの製造は常法に従い行うことができる。例えば、ゴム成分及び必要に応じて配合される成分を含有するゴム組成物を混練機で混合し、シート状にしたものを、常法に従い所定位置に配置して加硫成形することによりトレッドゴム又はサイドウォールゴムとして形成され、空気入りタイヤが得られる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。重合体の各種物性値の測定方法を以下に示す。
【0075】
[ムーニー粘度]:JISK6300-1:2013に従い、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃の条件で測定した。
[分子量分布]:ゲルパーミエーションクロマトグラフ(商品名;VISCOTEK GPCmax、Malvern社製)を使用し、検知器として示差屈折計を用いて以下の条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した。
カラム;商品名「GMHHR-H」(東ソー社製)2本、カラム温度;38℃
移動相;テトラヒドロフラン、流速;1.0ml/分
サンプル濃度;10mg/20ml
【0076】
[シス-1,4結合含量及び1,2-ビニル結合含量]:赤外分光光度計(商品名;FT/IR-4100シリーズ、Jasco社製)を使用し、ZnSeプリズムを用いて、波数1000~600cm-1を測定した。
[1,2-ポリブタジエン含有率]:以下の計算式(1)~(4)に従い、1,2-シンジオタクチックポリブタジエンの含有率αを計算した。なお、計算式(1)~(4)中の略称は以下の意味である。
Q1:1,3-ブタジエン(シンジオタクチック-1,2重合用)投入量
Q2:1,2-ポリブタジエン生成量
Q3:1,2重合における未反応1,3-ブタジエン量
Q4:1,3-ブタジエン(シス-1,4重合用)投入量
Q5:1,4-ポリブタジエン生成量
Q2=Q1×(シンジオタクチック-1,2重合の反応転化率) …(1)
Q3=Q1-Q2 …(2)
Q5=(Q3+Q4)×(シス-1,4重合の反応転化率) …(3)
含有率α=(Q2÷(Q2+Q5))×100 …(4)
【0077】
1.ポリブタジエンゴムの製造及び評価
[実施例1]
シクロヘキサン1.5kg、1,3-ブタジエン50gを窒素置換された3Lオートクレーブに投入した。これとは別に、塩化コバルトを0.02ミリモル含有するジクロライド溶液、ジフェニルシクロヘキシルホスフィンを0.04ミリモル含有するジクロライド溶液、及び0.6ミリモルのメチルアルミノキサン(MAO)を含有するトルエン溶液を混合し、30℃で60分間反応させることにより触媒組成物Aを調製した。この触媒組成物Aを上記オートクレーブに投入し、30℃で1時間反応(シンジオタクチック-1,2重合)させて重合体溶液を得た。なお、投入した1,3-ブタジエンの反応転化率は約75%であった。その後、重合反応を停止させるために、水素化ジイソブチルアルミニウムを0.2ミリモル含有するトルエン溶液を上記オートクレーブに投入し、15分間攪拌した。
【0078】
続いて、得られた重合体溶液に1,3-ブタジエン250gを投入した。また別途、0.037ミリモルのバーサチック酸ネオジム(Nd(ver)3)を含有するシクロヘキサン溶液、1.2ミリモルのMAOを含有するトルエン溶液、2.86ミリモルの水素化ジイソブチルアルミニウムを含有するトルエン溶液、及び0.045ミリモルのトリメチルシリルクロライド(Me3SiCl)を含有するトルエン溶液と、1,3-ブタジエン4.5ミリモルを30℃で60分間反応させることにより触媒組成物Bを調製した。この触媒組成物Bを上記オートクレーブに投入し、70℃で1時間反応(シス-1,4重合)させて重合体溶液を得た。なお、投入した1,3-ブタジエンの反応転化率はほぼ100%であった。
【0079】
次いで、上記反応により得られたポリブタジエンゴムの各種物性値を測定するため、上記重合体溶液から200gの重合体溶液を抜き取り、抜き取った重合体溶液に2,4-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.5gを含むトルエン溶液を添加し、重合反応を停止させた。その後、スチームストリッピングにより脱溶媒し、110℃のロールで乾燥した。得られた乾燥物をポリブタジエンゴムPとした。ポリブタジエンゴムPの各種物性値を測定したところ、1,2-ポリブタジエン含有率が11%、1,2-ポリブタジエン融点が137℃、1,2-ポリブタジエン重量平均分子量(Mw)が140,000、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が57、分子量分布(Mw/Mn)が3.14、シス-1,4結合の含有率が87.6%、1,2-ビニル結合の含有率が11.1%であった。
【0080】
[実施例2及び比較例1]
実施例1において1,2重合の重合処方を下記表1のとおりとし、シス-1,4重合の重合処方を下記表2に記載のとおりとした点以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリブタジエンゴムQ、Rをそれぞれ得た。また、得られたポリブタジエンゴムQ、Rの各物性値の測定結果を下記表3に示す。なお、表3中、比較例2には、市販品のポリブタジエンゴム(商品名「BR01」、JSR社製)の測定結果を示している。
【0081】
【0082】
【0083】
表1及び表2中の略称は以下の意味である。
CoCL2:塩化コバルト
PCH:ジフェニルシクロヘキシルホスフィン
AlBuH:水素化ジイソブチルアルミニウム
NdVer:バーサチック酸ネオジム
MeSiCl:トリメチルシリルクロライド
【0084】
【0085】
[実施例3]
1,4-ポリブタジエンの変性体を含有するポリブタジエンゴム(以下「変性ポリブタジエンゴム」と記す。)を得るために、実施例1の残りの重合体溶液に次の処理を行った。温度70℃に保持した重合体溶液に、1.62ミリモルの3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン(以下「GOPDMS」と記す。)を含有するトルエン溶液を添加し、30分間反応させて反応溶液を得た。その後、この反応溶液に、2,4-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.5gを含むトルエン溶液を添加し、変性重合体溶液を得た(収量:1.6kg)。続いて、この変性重合体溶液に、水酸化ナトリウムによりpH10に調整した水溶液5Lを添加し、110℃で1時間、脱溶媒とともに縮合反応を行った。その後、110℃のロールで乾燥し、得られた乾燥物を変性ポリブタジエンゴムSとした。変性ポリブタジエンゴムSのムーニー粘度の測定結果を下記表4に示す。
【0086】
[実施例4及び比較例3]
実施例3において、実施例1の重合体溶液を用いる代わりに実施例2、比較例1の重合体溶液をそれぞれ使用した点、及びGOPDMSの使用量を下記表4のとおりに変更した点以外は実施例3と同様の操作を行い、変性ポリブタジエンゴムT、Uをそれぞれ得た。得られた変性ポリブタジエンゴムT、Uのムーニー粘度の測定結果を下記表4に示す。なお、表4中、比較例4では、市販品のポリブタジエンゴム(商品名「BR01」、JSR社製)を用いた。
【0087】
【0088】
2.カーボンブラック配合ゴム組成物の調製及び評価
[実施例5]
実施例3の変性ポリブタジエンゴムSを60%、天然ゴムを40%含むゴム成分100部に対して、カーボンブラック(商品名「ダイアブラックN339」、三菱ケミカル社製)60部、T-DAEプロセスオイル10部、ステアリン酸2部、老化防止剤としてN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(商品名「ノクラック6C」、大内新興化学工業社製)1部、酸化亜鉛3部、加硫促進剤としてCZ(商品名「ノクセラーCZ-G」、大内新興化学工業社製)1部、及び硫黄1.2部を配合し、プラストミルを使用して混練することによりカーボンブラック配合ゴム組成物を得た。その後、このカーボンブラック配合ゴム組成物を160℃、12分の条件で加硫することによりカーボンブラック配合加硫ゴムを得た。得られたカーボンブラック配合加硫ゴムの諸特性の評価を以下に示す評価方法(1)~(3)により行った。配合処方及び評価結果を下記表5に示す。
【0089】
(1)耐亀裂成長性
得られたゴム組成物をカレンダー加工によってシート状に成型した後、加硫プレス機を用いて160℃で所定時間加硫処理することにより、厚みが2mmの架橋ゴムよりなるシートを作製した。得られたシートに対して打ち抜き加工を施すことにより、ASTM D638に記載のIV型のダンベルよりなる試験片を作製した。この際、ダンベルの長手方向がシートの列理方向となるよう、シートに対して打ち抜き加工を施すと共に、ダンベルにおける長手方向の中央位置に反列理方向に伸びる亀裂を形成した。
得られた試験片について、伸長率が100%、測定温度が23℃、回転数が300cpmの条件で定伸長疲労試験を行い、試験片が破断するまでのサイクル数を測定した。比較例6を100とした指数で示し、数値が大きいほど耐亀裂成長性が良好であることを示す。
(2)剛性(M300)
加硫ゴムを測定用試料とし、JIS K6251:2010に準拠して引張試験を行った。試験サンプルとしてダンベル状3号形を用いて、300%伸長時の引張応力(M300)を室温で測定した。比較例2を100とした指数で示し、数値が大きいほど剛性が良好であることを示す。
(3)低燃費性(50℃tanδ)
加硫ゴムを測定用試料として、ARES-RDA(TA Instruments社製)を使用し、剪断歪1.0%、角速度100ラジアン毎秒、50℃の条件で測定した。比較例2を100とした指数で示し、数値が大きいほどエネルギーロスが小さく、低ヒステリシスロス特性が良好であることを示す。
【0090】
[実施例6、比較例5~8]
配合処方を下記表5に示す処方に変更した点以外は実施例5と同様にして混練を行うことによりカーボンブラック配合ゴム組成物を得た。また、得られたカーボンブラック配合ゴム組成物を用いて実施例5と同様にしてカーボンブラック配合加硫ゴムを製造し、物性評価を行った。それらの結果を下記表5に示した。なお、下記表5中、ポリブタジエンの略称は以下の意味である。
S:実施例3の変性ポリブタジエンゴムS
T:実施例4の変性ポリブタジエンゴムT
U:比較例3の変性ポリブタジエンゴムU
BR01:商品名「BR01」、JSR社製ブタジエンゴム
RB840:商品名「RB840」、JSR社製1,2-ポリブタジエン
VCR412:商品名「VCR412」、宇部興産社製ビニル・シス-ポリブタジエン(1,2-ポリブタジエン含量12.0質量%)
【0091】
【0092】
表5に示すように、実施例5、6のカーボンブラック配合加硫ゴムは、剛性、低燃費性及び耐亀裂成長性において、比較例5、6の加硫ゴムに比べて良好な評価結果が得られた。また、比較例7と比較すると、実施例5、6のカーボンブラック配合加硫ゴムは耐亀裂成長性に優れ、比較例8と比較すると、低燃費性及び耐亀裂成長性に優れていた。特に耐亀裂成長性については、実施例5では比較例5の約5.3倍、比較例6の3.3倍、比較例7の約4.3倍、比較例8の約4.6倍であり、実施例6では比較例5の約4.4倍、比較例6の約2.7倍、比較例7の約3.6倍、比較例8の約3.9倍であり、大きく改善された。
【0093】
以上により、本開示のポリブタジエンゴム組成物の製造方法によれば、耐亀裂成長性に優れるとともに、低燃費性及び耐亀裂成長性に優れた加硫ゴムを得ることができることが明らかとなった。