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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20231031BHJP
   H01R 4/70 20060101ALI20231031BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
H01R43/048 Z
H01R4/70 K
H01B13/00 521
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021171076
(22)【出願日】2021-10-19
(65)【公開番号】P2023061218
(43)【公開日】2023-05-01
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 健三
【審査官】松原 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-211208(JP,A)
【文献】特開2014-203806(JP,A)
【文献】特開2016-204476(JP,A)
【文献】特開2019-175790(JP,A)
【文献】特開2016-184512(JP,A)
【文献】特開2008-282673(JP,A)
【文献】特開2017-228419(JP,A)
【文献】特開2001-167821(JP,A)
【文献】特開2010-140740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/048
H01R 4/18, 4/70
H01R 13/52
H01B 7/00,13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体素線が束ねられた素線束と前記素線束を覆う管状の絶縁被覆とを有する電線と、前記電線の一端に圧着される第1端子と、前記電線の他端に圧着される第2端子と、を有する端子付き電線を製造する、端子付き電線の製造方法であって、
前記電線の一端から露出する前記素線束と前記第1端子とを電気的に接続するように、前記電線の一端に前記第1端子を圧着する工程と、
前記電線の他端から露出する前記素線束に前記第2端子の素線加締部を加締め、前記電線の他端に外挿された筒状のシール部材に前記第2端子の被覆加締部を加締めるように、前記電線の他端に前記第2端子を圧着する工程と、
前記第1端子が圧着された前記電線の一端において、前記素線束を外気から隔離するように覆う防食材を設ける第1防水工程と、
前記第2端子が圧着された前記電線の他端において、前記絶縁被覆の管内における前記導体素線同士の間の隙間を埋めて前記管内を封止するように、封止材を設ける第2防水工程と、を備え、
前記第2防水工程は、
湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部と前記被覆加締部の間に露出する前記素線束に塗布して、前記絶縁被覆の前記管内の少なくとも一部を塞ぐように、前記樹脂を前記導体素線同士の間に浸み込ませる工程と、
前記絶縁被覆の前記管内の少なくとも一部を塞ぐように前記導体素線同士の間に浸み込ませた前記樹脂の硬化途中又は硬化完了まで、待機する工程と、
湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部と前記被覆加締部の間に露出する前記素線束に塗布して、前記絶縁被覆の前記管内の残部を塞ぐように、前記樹脂を前記導体素線同士の間に浸み込ませて硬化させる工程と、をこの順に含む、
端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、
前記第1防水工程では、
紫外線硬化型の樹脂を、前記素線束を覆うように塗布して硬化させることにより、前記防食材を設け、
前記第2防水工程では、
前記湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部と前記被覆加締部の間に露出する前記素線束に塗布して前記管内に浸み込ませて硬化させることにより、前記封止材を設け、
前記紫外線硬化型の樹脂は、
硬化前の室温下での粘度が20mPa・s以上であり、
前記湿気硬化型の樹脂は、
硬化前の室温下での粘度が5mPa・s以下である、
端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の両端に端子が圧着された端子付き電線を製造するための端子付き電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両等に搭載される機器間における通信や電力供給等に用いられる端子付き電線が提案されている。一般に、この種の端子付き電線は、電線の両端に端子が圧着された構造を有し、双方の端子を各々対応するコネクタハウジングの端子収容室に収容するように用いられる。そして、各々のコネクタが、対応する機器等の相手側コネクタに接続されることになる。更に、例えば、従来の端子付き電線の一つでは、電線と端子との圧着箇所の防食等のために、電線の端末から露出する素線束を防食材で覆うようになっている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-129067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両のエンジンルームのように被水の可能性がある箇所に配索される端子付き電線では、一般に、端子と共にシール部材(例えば、ゴム栓)を電線の端部に圧着し、このシール部材でコネクタハウジングの端子収容室と電線との間の隙間を封止するようになっている。このような止水構造を有するコネクタは、コネクタの外部から端子収容室の中への水の侵入を抑制できることから、防水コネクタとも呼ばれる。一方、車両の車室内のように被水の可能性が比較的低い箇所に配索される端子付き電線には、一般に、上述したシール部材は設けられない。このようなコネクタは、非防水コネクタとも呼ばれる。
【0005】
防水コネクタは、例えば、車両のエンジンルームに設置された電気接続箱の中で、相手側コネクタに嵌合される。ここで、防水等の観点から電気接続箱自体の密封性が高められていると、駆動しているエンジンが停止された場合等に電気接続箱内の空気の温度が急低下することで、電気接続箱内の気圧が車室内の気圧よりも低くなる(即ち、負圧が生じる)場合がある。この場合、車室内に配索されている非防水コネクタ側の電線の端部から、電線内の素線同士の間の僅かな隙間を通じて、湿気等の水分がエンジンルーム内に配索されている防水コネクタ側の電線の端部に向けて引き込まれる可能性がある。このような吸水現象では、電線の中を通じて防水コネクタ側の端子に水分が到達することになるため、上述したシール部材で止水を行うことが困難である。
【0006】
本発明の目的の一つは、電線の素線同士の間の隙間への水分の侵入を抑制可能な端子付き電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係る端子付き電線の製造方法は、以下を特徴としている。
【0008】
複数の導体素線が束ねられた素線束と前記素線束を覆う管状の絶縁被覆とを有する電線と、前記電線の一端に圧着される第1端子と、前記電線の他端に圧着される第2端子と、を有する端子付き電線を製造する、端子付き電線の製造方法であって、
前記電線の一端から露出する前記素線束と前記第1端子とを電気的に接続するように、前記電線の一端に前記第1端子を圧着する工程と、
前記電線の他端から露出する前記素線束に前記第2端子の素線加締部を加締め、前記電線の他端に外挿された筒状のシール部材に前記第2端子の被覆加締部を加締めるように、前記電線の他端に前記第2端子を圧着する工程と、
前記第1端子が圧着された前記電線の一端において、前記素線束を外気から隔離するように覆う防食材を設ける第1防水工程と、
前記第2端子が圧着された前記電線の他端において、前記絶縁被覆の管内における前記導体素線同士の間の隙間を埋めて前記管内を封止するように、封止材を設ける第2防水工程と、を備え、
前記第2防水工程は、
湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部と前記被覆加締部の間に露出する前記素線束に塗布して、前記絶縁被覆の前記管内の少なくとも一部を塞ぐように、前記樹脂を前記導体素線同士の間に浸み込ませる工程と、
前記絶縁被覆の前記管内の少なくとも一部を塞ぐように前記導体素線同士の間に浸み込ませた前記樹脂の硬化途中又は硬化完了まで、待機する工程と、
湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部と前記被覆加締部の間に露出する前記素線束に塗布して、前記絶縁被覆の前記管内の残部を塞ぐように、前記樹脂を前記導体素線同士の間に浸み込ませて硬化させる工程と、をこの順に含む、
端子付き電線の製造方法であること。
【発明の効果】
【0009】
本発明の端子付き電線の製造方法によれば、電線の両端に端子(即ち、第1端子及び第2端子)が圧着された後、第1防水工程にて、シール部材を有さない非防水用の第1端子が圧着された電線の一端で、絶縁被覆から露出している素線束を外気から隔離するように覆う防食材が設けられる。一方、第2防水工程にて、シール部材を有する防水用の第2端子が圧着された電線の他端で、絶縁被覆の管内で導体素線同士の間の隙間を埋めて管内を封止するように封止材が設けられる。ここで、第2防水工程で、湿気硬化型の樹脂を複数回に亘って塗布及び硬化させることで、素線束の径が大きい電線(いわゆる太物電線)であっても、適正に封止材を設けることが可能である。加えて、電線の他端(即ち、防水用の第2端子が取り付けられる電線端部)において導体素線の間の隙間が封止されていることから、エンジンルーム等の温度変動の激しい箇所に電線の他端を配索しても、上述した負圧による水分の侵入を抑制できる。また、万が一、電線の他端の封止が不完全であったとしても、電線の一端が防食材で覆われていることから、負圧発生時の吸水対象は、電線の管内に最初から存在するごく僅かな水分に留まる。したがって、本構成の製造方法は、電線の素線同士の間の隙間への水分の侵入を抑制可能な端子付き電線を製造できる。
【0010】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る端子付き電線に防食材及び封止材が設けられる前の状態を示す、端子付き電線の側面図である。
図2図2は、図1に示す端子付き電線の一端に圧着された非防水用の第1端子の上面図である。
図3図3は、図1に示す端子付き電線の他端に圧着された防水用の第2端子の上面図である。
図4図4は、図2に示す第1端子が圧着された電線の一端に防食材を設ける工程を説明するための図2のA-A断面に相当する図である。
図5図5は、図3に示す第2端子が圧着された電線の他端に封止材を設ける工程の第1段階を説明するための図3のB-B断面に相当する図である。
図6図6は、図3に示す第2端子が圧着された電線の他端に封止材を設ける工程の第2段階を説明するための図3のB-B断面に相当する図である。
図7図7は、図6のC部の拡大図である。
図8図8は、図7のD-D断面図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る端子付き電線が車両に搭載されて使用される状態の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る端子付き電線1について説明する。図1及び図9に示すように、端子付き電線1は、電線10と、電線10の一端に圧着された第1端子20と、電線10の他端に圧着された第2端子30とを備える。図9に示すように、第2端子30が圧着された電線10の他端には、電線10の他端に外挿された防水用のシール部材40が設けられる一方で、第1端子20が圧着された電線10の一端には、このようなシール部材が設けられていない。第1端子20が圧着された電線10の一端には、防食材50が設けられ、第2端子30が圧着された電線10の他端には、封止材60が設けられている。
【0013】
図9に示すように、防水用のシール部材を有さない非防水用の第1端子20は、コネクタハウジング70に取り付けられる。具体的には、コネクタハウジング70は、電線10の一端に圧着された第1端子20を挿入して収容するための収容孔(図示省略)及びその収容孔に連通する端子収容室(図示省略)を有する。第1端子20は、コネクタハウジング70の収容孔に挿入されて端子収容室に収容される。コネクタハウジング70及び第1端子20等からなるコネクタは、典型的には、被水の可能性が比較的低い車両の車室内に配置された機器(図示省略)に設けられた相手側コネクタに嵌合される。
【0014】
一方、防水用のシール部材40を有する防水用の第2端子30は、コネクタハウジング80に取り付けられる。具体的には、コネクタハウジング80は、電線10の他端に圧着された第2端子30を挿入して収容するための収容孔(図示省略)及びその収容孔に連通する端子収容室(図示省略)を有する。第2端子30は、コネクタハウジング80の収容孔に挿入されて端子収容室に収容される。第2端子30が端子収容室に収容されると、収容孔の内壁面とシール部材40とが密着することで、収容孔側(嵌合後方側)から端子収容室への水の侵入が抑制される。コネクタハウジング80及び第2端子30等からなるコネクタは、典型的には、被水の可能性がある車両のエンジンルーム90に配置された電気接続箱(図示省略)の内部に設けられた相手側コネクタに嵌合される。コネクタハウジング80と、嵌合先の相手側コネクタのハウジング(図示省略)と、の間の隙間はパッキン等で密封され、嵌合相手側(嵌合前方側)から端子収容室への水の侵入も抑制される。
【0015】
第2端子30がコネクタハウジング80の端子収容室に収容された状態では、シール部材40が当該端子収容室と電線10との間の隙間を封止することで、当該端子収容室の内部への外部からの水の侵入が抑制され得る。即ち、第2端子30、シール部材40及びコネクタハウジング80は、防止構造を有するコネクタを構成しており、防水コネクタとも呼ばれる。一方、第1端子20及びコネクタハウジング70は、防止構造を特に有していないコネクタを構成しており、非防水コネクタとも呼ばれる。端子付き電線1、コネクタハウジング70、及びコネクタハウジング80は、車両に配索されるワイヤハーネス2(図9参照)を構成している。
【0016】
以下、端子付き電線1を構成する電線10、第1端子20、第2端子30、及びシール部材40について順に説明する。まず、電線10について説明する。電線10は、図1図7及び図8等に示すように、複数の導体素線11a(図7参照)が束ねられた素線束11と、素線束11を覆う管状の絶縁被覆12とを有している。導体素線11aは、例えば、アルミニウムを含んだ金属材料で構成されている。電線10の両端末部の各々において、絶縁被覆12を除去して素線束11を露出させる端末処理が施されている。以下、説明の便宜上、電線10の延在方向において、中央から端に向かう側を「先端側」と呼び、端から中央に向かう側を「基端側」と呼ぶ。
【0017】
次いで、第1端子20について説明する。第1端子20は、銅または銅合金から構成された1枚の金属板に対してプレス加工及び曲げ加工等を施して形成される。第1端子(メス端子)20は、図1図2及び図4に示すように、接続部21と、接続部21の基端側に接続部21と間隔を空けて位置する素線加締部22と、素線加締部22の基端側に素線加締部22と間隔を空けて位置する被覆加締部23と、を一体に有する。
【0018】
接続部21は、矩形箱状の形状を有しており、相手側端子(オス端子)が挿入され接続される機能を果たす。素線加締部22は、底部の両側から上方に延びる一対の加締片22aを有しており、電線10の一端側にて露出する素線束11を加締める機能を果たす。被覆加締部23は、底部の両側から上方に延びる一対の加締片23aを有しており、電線10の絶縁被覆12の一端側の端部を加締める機能を果たす。
【0019】
次いで、第2端子30について説明する。第2端子30は、銅または銅合金から構成された1枚の金属板に対してプレス加工及び曲げ加工等を施して形成される。第2端子(メス端子)30は、図1図3及び図5に示すように、接続部31と、接続部31の基端側に接続部31と間隔を空けて位置する素線加締部32と、素線加締部32の基端側に素線加締部32と間隔を空けて位置する被覆加締部33と、を一体に有する。
【0020】
接続部31は、矩形箱状の形状を有しており、相手側端子(オス端子)が挿入され接続される機能を果たす。素線加締部32は、底部の両側から上方に延びる一対の加締片32aを有しており、電線10の他端側にて露出する素線束11を加締める機能を果たす。被覆加締部33は、底部の両側から上方に延びる一対の加締片33aを有しており、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部(より具体的には、当該端部の外周に配置されたシール部材40の後述する小径部42)を加締める機能を果たす。
【0021】
次いで、シール部材40について説明する。ゴム製のシール部材40は、外周にリップ部が設けられた円筒状の大径部41と、大径部41より径が小さい円筒状の小径部42からなる。シール部材40は、小径部42が大径部41より先端側に位置する向きで、電線10の他端に外挿され、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の外周に小径部42が位置するように、電線10の他端に装着される。以上、端子付き電線1を構成する各部材について順に説明した。
【0022】
次いで、端子付き電線1の製造方法について説明する。端子付き電線1を製造するため、まず、図1に示すように、電線10の一端に第1端子20を圧着し、且つ、電線10の他端にシール部材40を設けた状態で第2端子30を圧着する。第1端子20の圧着及び第2端子30の圧着の順序は問わない。
【0023】
第1端子20は、図2及び図4に示すように、電線10の一端側にて露出する素線束11が素線加締部22に載置され、電線10の絶縁被覆12の一端側の端部が被覆加締部23に載置された状態で、所定の治具を用いて、一対の加締片22a及び一対の加締片23aを加締めることで、電線10の一端に圧着される。第1端子20が圧着された状態にて、素線加締部22から先端側に突出する素線束11の先端部、及び、素線加締部22と被覆加締部23との間に位置する素線束11が、外部に露出している(外気と接している)(図2参照)。なお、加締後の素線加締部22は、いわゆるBクリンプ状の加締形状を有している。即ち、一対の加締片22aが素線束11に食い込んで素線束11の一部を掻き分けるように、素線加締部22が加締られている。そのため、図4に示すように、加締片22aの先端側及び基端側において、素線束11が掻き分けられた僅かな隙間11bが存在する。但し、図4はあくまで防食材50を第1端子20に設ける様子を表す概念図であり、必ずしもこのような隙間11bが存在する必要はないし、隙間11bが防食材50による防水効果に実質的な影響を及ぼすこともない。図5に示す隙間11bについても、同様である。
【0024】
第2端子30は、図3及び図5に示すように、電線10の他端側にて露出する素線束11が素線加締部32に載置され、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部に位置するシール部材40の小径部42が被覆加締部33に載置された状態で、所定の治具を用いて、一対の加締片32a及び一対の加締片33aを加締めることで、電線10の他端に圧着される。第2端子30が圧着された状態にて、素線加締部32と被覆加締部33との間に位置する素線束11が、外部に露出している(外気と接している)(図3参照)。
【0025】
次いで、図4に示すように、第1端子20が圧着された電線10の一端に、防食材50を設ける(第1防水工程)。防食材50は、流動性を有する紫外線硬化型の樹脂を、ノズル100を用いて、電線10の一端側の外部に露出する素線束11の表面に塗布し、その後、塗布された樹脂に対して紫外線を照射して当該樹脂を硬化させることで、電線10の一端に設けられる。このように防食材50が設けられることにより、外部に露出していた、素線束11の先端部の表面、及び、素線加締部22と被覆加締部23との間に位置する素線束11の表面の全体が、防食材50によって覆われて、外気から隔離される(図4参照)。
【0026】
流動性を有する紫外線硬化型の樹脂の粘度は、硬化前の室温下にて、20mPa・s以上であることが好ましく、20mPa・s以上100mPa・s以下であることが更に好ましい。このように、粘度が適度に大きい紫外線硬化型の樹脂を用いることで、液垂れや過度な浸み込み等を抑制しながら、絶縁被覆12から露出する素線束11の周りを適正に覆う防食材50を構成し易くなる。紫外線硬化型の樹脂として、アクリル系の樹脂や、エポキシ系の樹脂を用い得る。
【0027】
なお、上述した粘度の値は、例えば、JIS K 7233に定められる粘度試験方法に準じて測定することができる。室温とは、この種の粘度試験方法において定められている試験温度であり、例えば、25℃である。
【0028】
このように、第1端子20が圧着された電線10の一端に防食材50が設けられた後、次いで、図5に示すように、第2端子30が圧着された電線10の他端に、封止材60を設ける(第2防水工程)。封止材60は、まず、図5に示すように封止材60の一部である第1部分60Aを設け、次いで、図6に示すように封止材60の残部である第2部分60Bを設けることで、電線10の他端に設けられる。
【0029】
封止材60の第1部分60Aは、図5に示すように、流動性を有する湿気硬化型の樹脂を、ノズル110を用いて、電線10の他端側の素線加締部32と被覆加締部33との間に露出する素線束11に塗布して導体素線11a同士の間の隙間に浸み込ませ、その後、湿気を含む外気中にて所定期間待機して当該樹脂を硬化させることで、電線10の他端に設けられる。
【0030】
このように封止材60の第1部分60Aが設けられることにより、本例では、図5図7及び図8に示すように、絶縁被覆12の他端側の端部の管内における導体素線11a同士の間の隙間の全域に加えて、素線加締部32と被覆加締部33との間の素線束11における導体素線11a同士の間の隙間の略下側半分の領域が、第1部分60Aによって連続して埋められる。なお、素線加締部32を素線束11に加締めている箇所では、この加締めに起因して導体素線11a同士の間の隙間が極めて狭くなっている。そのため、上述したように塗布された湿気硬化型の樹脂および硬化促進剤は、素線加締部32側(即ち、第2端子30の先端側)には浸み込み難く、絶縁被覆12の管内側(即ち、第2端子30の基端側)には浸み込み易いことになる。後述するように封止材60の第2部分60Bを設ける場合も同様である。
【0031】
このように、封止材60の第1部分60Aが設けられた後、封止材60の第2部分60Bは、図6に示すように、流動性を有する湿気硬化型の樹脂を、ノズル110を用いて、電線10の他端側の素線加締部32と被覆加締部33との間に露出する素線束11に塗布して導体素線11a同士の間の隙間に浸み込ませ、その後、湿気を含む外気中にて所定期間待機して当該樹脂を硬化させることで、素線加締部32と被覆加締部33との間に位置する第1部分60Aの上に積層されるように設けられる。なお、第2部分60Bのための湿気硬化型の樹脂の塗布は、第1部分60Aの硬化の完了後に実行されることが望ましいが、第1部分60Aの硬化の途中段階にて実行されてもよい。
【0032】
このように封止材60の第2部分60Bが設けられることにより、本例では、図6及び図7に示すように、素線加締部32と被覆加締部33との間の素線束11における導体素線11a同士の間の隙間の略上側半分の領域(即ち、第1部分60Aが充填された領域以外の残りの領域)が、第2部分60Bによって埋められる。
【0033】
これにより、図7及び図8に示すように、素線加締部32と被覆加締部33との間の素線束11における導体素線11a同士の間の隙間の全域に加えて、絶縁被覆12の他端側の端部の管内における導体素線11a同士の間の隙間の全域が、封止材60(=第1部分60A+第2部分60B)によって連続して埋められる。この結果、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内が封止される。
【0034】
本例において、湿気硬化型の樹脂の塗布及び硬化を2回(複数回)繰り返しているのは、以下の理由に因る。電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内を完全に封止するためには、絶縁被覆12の他端側の端部の管内における導体素線11a同士の間の隙間の全域を封止材60で封止する必要がある。湿気硬化型の樹脂の塗布及び硬化を1回のみ実行して封止材60を設けようとすると、一度に塗布する樹脂の量が多くなり、樹脂が広がる範囲が制御し難くなる。この結果、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内を完全に封止し難くなる。素線束の径が大きい電線(いわゆる太物電線)の場合、特にこの傾向が顕著となる。この点、本例では、湿気硬化型の樹脂の塗布及び硬化を2回(複数回)繰り返している。このように塗布を複数回繰り返すことで、一度に塗布する樹脂の量が少なくなるため、一度の塗布にて広がる樹脂の範囲が制御し易くなる。本例では、1回目の塗布にて、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内の全域を狙って樹脂を塗布することで、2回目の塗布を待たずに、第1部分60Aのみによって、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内を完全に封止することができている(図7及び図8参照)。
【0035】
流動性を有する湿気硬化型の樹脂としては、例えば、シアノアクリレートを主成分とする樹脂(いわゆる瞬間接着剤に使用される樹脂)が使用される。流動性を有する湿気硬化型の樹脂の粘度は、硬化前の室温下にて、5mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上5mPa・s以下であることが更に好ましい。このように、粘度が適度に小さい湿気硬化型の樹脂を用いることで、導体素線11a同士の間の隙間に速やかに樹脂を浸み込ませて、絶縁被覆12の他端側の端部の管内における隙間を適正に埋める封止材60を構成できる。湿気硬化型の樹脂としてシアノアクリレートを主成分とする樹脂を用いることで、樹脂の硬化待ち時間を短縮でき、端子付き電線1の生産性を向上できる。
【0036】
更に、上述のように、電線10の一端に防食材50を設けた後に電線10の他端に封止材60を設けることで、比較的粘度が低い湿気硬化型の樹脂で封止材60を構成する場合であっても、電線10の一端で防食材50によって空気の出入りが制限されているため、絶縁被覆12の他端側の管内の奥にまで封止材60が侵入し難くなる。換言すると、電線10の他端近傍の導体素線11aの間に封止材60を留めることができる。よって、封止材60が絶縁被覆12の他端側の管内の過度に奥にまで侵入することによって、電線10の柔軟性が損なわれることが抑制される。以上、電線10の一端に防食材50を設けた後に電線10の他端に封止材60を設けることで、図9に示す端子付き電線1が完成する。
【0037】
完成した端子付き電線1において、図9に示すように、第1端子20がコネクタハウジング70の端子収容室に収容され、且つ、第2端子30がコネクタハウジング80の端子収容室に収容されることで、ワイヤハーネス2が構成される。コネクタハウジング70は、被水の可能性が比較的低い車両の車室内に配置された機器に設けられた相手側コネクタに嵌合され、且つ、コネクタハウジング80は、被水の可能性がある車両のエンジンルーム90に配置された電気接続箱の内部に設けられた相手側コネクタに嵌合される。これにより、ワイヤハーネス2の車両への配索が完了する。
【0038】
以下、防水の観点から、コネクタハウジング80が接続される電気接続箱自体の密封性が高い場合を想定する。この場合、駆動しているエンジンが停止された場合等に電気接続箱内の空気の温度が急低下することで、電気接続箱内の気圧が車室内の気圧よりも低くなる(即ち、負圧が生じる)場合がある。端子付き電線1では、電線10の他端(即ち、第2端子30が設けられた端部)において、封止材60によって導体素線11aの間の隙間が封止されており、更に、電線の一端(即ち、第1端子20が設けられた端部)において、防食材50によって素線束11が覆われていることから、第1端子20が設けられた非防水コネクタ側の電線10の一端から、電線10内の導体素線11a同士の間の隙間を通じて、湿気等の水分が、第2端子30が設けられた防水コネクタ側に向けて引き込まれることが抑制される。このように、上述した温度変動に伴う負圧による電線10の絶縁被覆12の管内を通じた水分の侵入を抑制できる。
【0039】
<作用・効果>
以上、本実施形態に係る端子付き電線1の製造方法によれば、電線10の両端に端子(即ち、第1端子20及び第2端子30)が圧着された後、まず、第1防水工程にて、防水用のシール部材を有さない非防水用の第1端子20が圧着された電線10の一端で、絶縁被覆12から露出している素線束11を外気から隔離するように覆う防食材50が設けられる。一方、第2防水工程にて、防水用の第2端子30が圧着された電線10の他端で、絶縁被覆12の管内で導体素線11a同士の間の隙間を埋めて管内を封止するように、封止材60が設けられる。ここで、第2防水工程で、湿気硬化型の樹脂を複数回に亘って塗布及び硬化させることで、素線束11の径が大きい電線(いわゆる太物電線)であっても、適正に封止材60を設けることが可能である。加えて、電線10の他端(即ち、防水用の第2端子30が取り付けられる電線端部)において導体素線11aの間の隙間が封止されていることから、上述した温度変動に伴う負圧による水分の侵入を抑制できる。また、万が一、電線10の他端の封止が不完全であったとしても、電線10の一端が防食材50で覆われていることから、負圧発生時の吸水対象は、電線10の管内に最初から存在するごく僅かな水分に留まる。したがって、本実施形態に係る製造方法は、電線10の導体素線11a同士の間の隙間への水分の侵入を抑制可能な端子付き電線1を製造できる。
【0040】
お、第1防水工程と第2防水工程との順序は、特に制限されない。但し、第1防水工程の後に第2防水工程を行えば、導体素線11a同士の間を埋められる(例えば、浸み込ませられる)程度に粘度が低い材料で封止材60を構成する場合であっても、電線10の一端で防食材50によって空気の出入りが制限されているため、絶縁被覆12の管内の奥にまで封止材60が侵入し難くなる。換言すると、電線10の他端近傍の導体素線11aの間に封止材60を留めることができる。よって、封止材60が絶縁被覆12の管内の過度に奥にまで侵入することによって、電線10の柔軟性が損なわれることが抑制される。
【0041】
<他の形態>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0042】
上記実施形態では、封止材60の形成にあたり、第1部分60Aのみによって、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内を完全に封止している(図7及び図8参照)。これに対し、封止材60の形成にあたり、第1部分60Aによって、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内の一部を封止し、第2部分60Bによって、電線10の絶縁被覆12の他端側の端部の菅内の残部を封止するように構成してもよい。
【0043】
更に、上記実施形態では、第2防水工程において、湿気硬化型の樹脂の塗布及び硬化を2回繰り返している。これに対し、第2防水工程において、湿気硬化型の樹脂の塗布及び硬化を3回以上繰り返してもよい。
【0044】
更に、上記実施形態では、紫外線硬化型の樹脂を用いて防食材50が構成されている。これに対し、紫外線硬化型の樹脂以外の樹脂を用いて防食材50が構成されてもよい。同様に、湿気硬化型の樹脂を用いて封止材60が構成されている。これに対し、湿気硬化型の樹脂以外の樹脂を用いて封止材60が構成されてもよい。
【0045】
更に、上記実施形態では、第1防水工程の後に、第2防水工程を行っている。これに対し、第2防水工程の後に第1防水工程を行ってもよいし、第1防水工程と第2防水工程とを同時に行ってもよい。
【0046】
ここで、上述した本発明に係る端子付き電線1の製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[2]に簡潔に纏めて列記する。
【0047】
[1]
複数の導体素線(11a)が束ねられた素線束(11)と前記素線束(11)を覆う管状の絶縁被覆(12)とを有する電線(10)と、前記電線(10)の一端に圧着される第1端子(20)と、前記電線(10)の他端に圧着される第2端子(30)と、を有する端子付き電線(1)を製造する、端子付き電線の製造方法であって、
前記電線(10)の一端から露出する前記素線束(11)と前記第1端子(20)とを電気的に接続するように、前記電線(10)の一端に前記第1端子(20)を圧着する工程と、
前記電線(10)の他端から露出する前記素線束(11)に前記第2端子(30)の素線加締部(32)を加締め、前記電線(10)の他端に外挿された筒状のシール部材(40)に前記第2端子(30)の被覆加締部(33)を加締めるように、前記電線(10)の他端に前記第2端子(30)を圧着する工程と、
前記第1端子(20)が圧着された前記電線(10)の一端において、前記素線束(11)を外気から隔離するように覆う防食材(50)を設ける第1防水工程と、
前記第2端子(30)が圧着された前記電線(10)の他端において、前記絶縁被覆(12)の管内における前記導体素線(11a)同士の間の隙間を埋めて前記管内を封止するように、封止材(60)を設ける第2防水工程と、を備え、
前記第2防水工程は、
湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部(32)と前記被覆加締部(33)の間に露出する前記素線束(11)に塗布して、前記絶縁被覆(12)の前記管内の少なくとも一部を塞ぐように、前記樹脂を前記導体素線(11a)同士の間に浸み込ませる工程と、
前記絶縁被覆(12)の前記管内の少なくとも一部を塞ぐように前記導体素線(11a)同士の間に浸み込ませた前記樹脂の硬化途中又は硬化完了まで、待機する工程と、
湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部(32)と前記被覆加締部(33)の間に露出する前記素線束(11)に塗布して、前記絶縁被覆(12)の前記管内の残部を塞ぐように、前記樹脂を前記導体素線(11a)同士の間に浸み込ませて硬化させる工程と、をこの順に含む、
端子付き電線の製造方法。
【0048】
上記[1]の構成の端子付き電線の製造方法によれば、電線の両端に端子(即ち、第1端子及び第2端子)が圧着された後、第1防水工程にて、シール部材を有さない非防水用の第1端子が圧着された電線の一端で、絶縁被覆から露出している素線束を外気から隔離するように覆う防食材が設けられる。一方、第2防水工程にて、シール部材を有する防水用の第2端子が圧着された電線の他端で、絶縁被覆の管内で導体素線同士の間の隙間を埋めて管内を封止するように封止材が設けられる。ここで、第2防水工程で、湿気硬化型の樹脂を複数回に亘って塗布及び硬化させることで、素線束の径が大きい電線(いわゆる太物電線)であっても、適正に封止材を設けることが可能である。加えて、電線の他端(即ち、防水用の第2端子が取り付けられる電線端部)において導体素線の間の隙間が封止されていることから、エンジンルーム等の温度変動の激しい箇所に電線の他端を配索しても、上述した負圧による水分の侵入を抑制できる。また、万が一、電線の他端の封止が不完全であったとしても、電線の一端が防食材で覆われていることから、負圧発生時の吸水対象は、電線の管内に最初から存在するごく僅かな水分に留まる。したがって、本構成の製造方法は、電線の素線同士の間の隙間への水分の侵入を抑制可能な端子付き電線を製造できる。
【0049】
[2]
上記[1]に記載の製造方法において、
前記第1防水工程では、
紫外線硬化型の樹脂を、前記素線束(11)を覆うように塗布して硬化させることにより、前記防食材(50)を設け、
前記第2防水工程では、
前記湿気硬化型の樹脂を、前記素線加締部(32)と前記被覆加締部(33)との間に露出する前記素線束(11)に塗布して前記管内に浸み込ませて硬化させることにより、前記封止材(60)を設け、
前記紫外線硬化型の樹脂は、
硬化前の室温下での粘度が20mPa・s以上であり、
前記湿気硬化型の樹脂は、
硬化前の室温下での粘度が5mPa・s以下である、
端子付き電線の製造方法。
【0050】
上記[2]の構成の端子付き電線の製造方法によれば、粘度が適度に大きい紫外線硬化型の樹脂を用いて第1端子(即ち、非防水用の端子)が取り付けられる電線端部に防食材を設ける。これにより、液垂れや素線束への過度な浸み込み等を抑制しながら、絶縁被覆から露出する素線束の周りを適正に覆う防食材を構成できる。一方、粘度が適度に小さい湿気硬化型の樹脂を用いて第2端子(即ち、防水用の端子)が取り付けられる電線端部に封止材を設ける。これにより、導体素線同士の間の隙間に速やかに樹脂を浸み込ませて、絶縁被覆の管内における隙間を適正に埋める封止材を構成できる。なお、上述したとおり、「粘度」は、例えば、JIS K 7233に定められる粘度試験方法に準じて測定し得る。更に、「室温」は、この種の粘度試験方法において定められている試験温度であり、例えば、25℃である。
【符号の説明】
【0051】
1 端子付き電線
10 電線
11 素線束
11a 導体素線
12 絶縁被覆
20 第1端子
30 第2端子
32 素線加締部
33 被覆加締部
40 シール部材
50 防食材
60 封止材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9