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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/11 20060101AFI20231031BHJP
   A61F 2/04 20130101ALI20231031BHJP
【FI】
A61B17/11
A61F2/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021509652
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014143
(87)【国際公開番号】W WO2020196856
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2019064736
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 直希
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 美穂
(72)【発明者】
【氏名】藤井 杏梨
(72)【発明者】
【氏名】内富 研介
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-540615(JP,A)
【文献】特開2011-015966(JP,A)
【文献】特開2013-123643(JP,A)
【文献】特開2006-255411(JP,A)
【文献】特開2013-154166(JP,A)
【文献】特表2003-533326(JP,A)
【文献】特表2013-525070(JP,A)
【文献】特表2009-508610(JP,A)
【文献】特表2013-526342(JP,A)
【文献】特表2008-516669(JP,A)
【文献】特表2007-505708(JP,A)
【文献】特表平11-500642(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0256139(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0214201(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0035629(US,A1)
【文献】米国特許第05534010(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/11
A61F 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の生体器官の間に配置されることにより前記一対の生体器官の癒合を促進する癒合促進シートと、
前記一対の生体器官のうちの一方の生体器官の生体管腔の開口部を覆う板状のカバー部および前記カバー部に接続されるとともに前記癒合促進シートを挿通した状態で前記生体管腔の前記開口部から挿入されて固定される固定部を備えるキャップと、を有する医療デバイス。
【請求項2】
前記固定部は、前記生体管腔に挿入される挿入部を含む、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記固定部は、前記生体管腔内における前記挿入部の移動を抑制可能な移動抑制部をさらに有する、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記移動抑制部は、前記挿入部の先端と基端の間に配置され、前記挿入部の長手方向と交差する放射方向に拡張収縮自在な拡張部である、請求項3に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記移動抑制部は、前記生体管腔の内壁に吸着可能な吸着部である、請求項3に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記挿入部には、体液を吸収可能な吸収部材が設けられている、請求項2~5のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記挿入部の少なくとも先端部は、基端側から先端側に向かって先細るテーパ形状を有する、請求項2~6のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記カバー部には、前記一対の生体器官の縫合に用いられる縫合部材を通過させる空間が形成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
可撓性を備える長尺部材によって形成され、一端部が前記キャップに接続可能であり、他端部が前記癒合促進シートまたは前記生体器官の少なくとも一方に接続可能な迷入防止部材をさらに有し、
前記迷入防止部材は、可撓性を備える長尺部材によって形成され、前記キャップが患者の体内に迷入することを防止する、請求項1~8のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一対の生体器官を外科的手術により接合する手技(例えば、消化管の吻合術)の一つとして、膵実質と空腸を接合する手技が知られている。膵頭部付近の腫瘍に対する処置方法の一つとして膵頭部およびその周辺組織を切除する膵頭十二指腸切除が知られている。膵頭十二指腸切除後は、膵実質と空腸を接合する手技が行われる。
【0003】
膵実質と空腸を接合する手技においては、例えば、生分解性の縫合糸等の縫合部材により膵実質と空腸が縫合される。また、膵実質と空腸を接合する手技においては、膵管チューブ(例えば、下記特許文献1参照)を用いて、膵実質と空腸が接合された接合部に膵管から排出される膵液が漏出することを抑制する場合がある。膵管チューブは、膵管チューブの一端部が膵管に挿入され、かつ、膵管チューブの他端部が空腸の内部等を経て体外に導出された状態で、生体内に留置される。留置された膵管チューブは、膵管から排出される膵液を体外へ排出することで接合部に膵液が漏出することを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-167540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膵実質と空腸を接合する手技が行われた場合、膵実質と空腸が接合された接合部における癒合の遅延が生じないことが術後の予後決定因子として重要である。接合部における癒合の進行の程度は、患者の接合対象部位(被接合部位)における生体組織の状態等に依存する。そのため、単に膵実質と空腸を縫合部材等によって接合しても、患者の生体組織の状態如何によっては、縫合不全のリスクを十分に低減させることができない可能性もある。
【0006】
また、膵実質と空腸を接合する手技において、術者は、膵実質と空腸を縫合する縫合部材を膵実質と空腸に挿通させる間、膵管から膵液が漏出することを抑制するため、膵管チューブの一端部を膵管に仮挿入しておく場合がある。膵実質と空腸を縫合する縫合部材を膵実質と空腸に挿通させた後、仮挿入された膵管チューブは、膵管と空腸を縫合する縫合部材を膵管に挿通させる処置を妨げないように、抜去される。そして、術者は、膵管と空腸を縫合する縫合部材を膵管に挿通させた後、膵管チューブの一端部を再び膵管に挿入する。そして、膵管チューブは、膵管チューブの一端部が膵管に挿入され、かつ、膵管チューブの他端部が空腸の内部等を経て体外に導出された状態で、生体内に留置される。
【0007】
膵実質と空腸を縫合する縫合部材を膵実質と空腸に挿通させる間、膵管に仮挿入した膵管チューブは膵管から垂れ下がっているため、術者が縫合部材を膵実質と空腸に挿通させる処置等の妨げとなる場合がある。
【0008】
以上、膵実質と空腸とを接合する手技を一例として説明したように、術後における縫合不全のリスクを低減させるとともに、手技中に生体管腔からの体液の漏出を抑制しつつ、簡便に一対の生体器官を接合したいという要望がある。
【0009】
そこで本発明は、術後における縫合不全のリスクを低減させることができるとともに、手技中の生体器管腔からの体液の漏出を抑制しつつ、簡便に一対の生体器官を接合できる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る医療デバイスは、一対の生体器官の間に配置されることにより前記一対の生体器官の癒合を促進する癒合促進シートと、前記一対の生体器官のうちの一方の生体器官の生体管腔の開口部を覆う板状のカバー部および前記カバー部に接続されるとともに前記癒合促進シートを挿通した状態で前記生体管腔の前記開口部から挿入されて固定される固定部を備えるキャップと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る医療デバイスによれば、一対の生体器官の間に癒合促進シートを挟み込ませることにより、一対の生体器官の生体組織の癒合を促進することができる。また、癒合促進シートがキャップによって一方の生体器官に固定された状態で、癒合促進シートを、縫合糸やステープル等の固定部材によって一方の生体器官に固定できる。そのため、癒合促進シートが一方の生体器官からズレたり、ヨレて変形したりすることを抑制できる。その結果、一対の生体器官の生体組織の癒合を効果的に促進できる。また、キャップは、手技中に生体管腔の開口部を覆うことで生体管腔からの体液の漏出を抑制できる上、従来の膵管チューブのように生体管腔から垂れ下がっていないため、手技の妨げとなり難い。以上より、本発明に係る医療デバイスによれば、術後における縫合不全のリスクを低減させることができるとともに、手技中に生体管腔からの体液の漏出を抑制しつつ、簡便に一対の生体器官を接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る医療デバイスを示す斜視図である。
図2図1の2-2線に沿う断面の一部を拡大して示す断面図である。
図3図1に示す医療デバイスのキャップ(膵管キャップ)を示す軸方向断面図である。
図4A】第1実施形態に係る膵管キャップの変形例1を示す軸方向断面図である。
図4B】第1実施形態に係る膵管キャップの変形例2を示す軸方向断面図である。
図5A】第1実施形態に係る膵管キャップの変形例3を示す軸方向断面図である。
図5B】第1実施形態に係る膵管キャップの変形例3を示す軸方向断面図である。
図6】第1実施形態に係る膵管キャップの変形例4を示す軸方向断面図である。
図7】第1実施形態に係る膵管キャップの変形例5を示す斜視図である。
図8】第1実施形態に係る膵管キャップの変形例6を示す斜視図である。
図9】医療デバイスを用いた処置方法(膵実質-空腸吻合術)の各手順を示すフローチャートである。
図10】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
図11】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
図12】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
図13】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
図14】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
図15】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
図16】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
図17】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
図18】本発明の第2実施形態に係る膵管キャップを示す斜視図である。
図19図18に示す膵管キャップを示す軸方向断面図である。
図20】第2実施形態に係る膵管キャップの変形例1を示す斜視図である。
図21】第2実施形態に係る膵管キャップの変形例2を示す軸方向断面図である。
図22A】第2実施形態に係る膵管キャップの変形例3を示す軸方向断面図である。
図22B】第2実施形態に係る膵管キャップの変形例3を示す軸方向断面図である。
図22C】第2実施形態に係る膵管キャップの変形例3を示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張され、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る医療デバイス100を示す斜視図である。図2は、図1の2-2線に沿う断面の一部を拡大して示す断面図である。図3は、図1に示す医療デバイス100の膵管キャップ120を示す軸方向断面図である。
【0015】
第1実施形態に係る医療デバイス100は、図10図17に示すように、膵実質B1と空腸B2を接合する手技に適用される。
【0016】
図1および図3に示すように、医療デバイス100は、膵実質B1と空腸B2(一対の生体器官に相当)との間に配置されることにより膵実質B1と空腸B2の癒合を促進する癒合促進シート110と、膵実質B1(一方の生体器官に相当)の膵管B1b(生体管腔に相当)の開口部を覆うとともに癒合促進シート110を膵実質B1に対して固定可能な膵管キャップ120(キャップに相当)と、を有する。図1に示すように、医療デバイス100は、膵管キャップ120が膵管B1bから脱落した際に患者の体内に迷入することを防止する迷入防止部材130をさらに有してもよい。以下、医療デバイス100の各部について詳述する。
【0017】
<癒合促進シート110>
図1に示すように、癒合促進シート110は、複数の貫通孔112を有する生分解性シートから形成されるとともに生体組織の癒合を促進する本体部111を有している。
【0018】
本体部111に形成された貫通孔112は、図1に示すように、本体部111の面方向において規則的かつ周期的に設けられている。ただし、各貫通孔112は、本体部111の面方向の各部においてランダムに設けられていてもよい。
【0019】
各貫通孔112は、図2に示すように、本体部111の厚み方向(図2の上下方向)に沿って表面113と裏面114との間で略垂直に延びている。なお、各貫通孔112は、本体部111の厚み方向に沿う断面において、表面113と裏面114との間でジグザグ状に屈曲していたり、湾曲していたりしてもよい。
【0020】
各貫通孔112は、略円形の平面形状(本体部111の表面113又は本体部111の裏面114を平面視した際の形状)を有する。ただし、各貫通孔112の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)であってもよい。また、貫通孔112ごとに平面形状や断面形状が異なっていてもよい。
【0021】
本体部111は、略円形の平面形状を有する。ただし、本体部111の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)であってもよい。
【0022】
本体部111の厚み(図2に示す寸法T)は特に制限されないが、好ましくは0.05~0.3mmであり、より好ましくは0.1~0.2mmである。本体部111の厚みが0.05mm以上である場合(特に0.1mm以上である場合)、癒合促進シート110の取り扱い時に本体部111が破損しない程度の強度を備えさせることができる。一方、本体部111の厚みが0.3mm以下である場合(特に0.2mm以下である場合)、本体部111が適用される生体組織に本体部111が密着して生体組織に追随するのに十分な柔軟性を備えさせることができる。
【0023】
本体部111は、貫通孔112のピッチP(図2に示す距離Pであり、隣接する貫通孔112の間の距離)に対する貫通孔112の孔径D1(図2に示す距離D1)の比の値が、0.25以上40未満であることが好ましい。なお、貫通孔112の平面形状が真円である場合、貫通孔112の孔径D1は真円の直径に等しくなる。一方、貫通孔112の平面形状が真円ではない場合には、貫通孔112の開口部(貫通孔112において表面113又は裏面114に面した部分)の面積と同じ面積を有する真円の直径(円相当径)を当該貫通孔112の孔径D1とすることができる。
【0024】
本体部111は、複数の貫通孔112を有するため、各貫通孔112に対応する孔径D1の値が複数存在する。そこで、本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、複数の貫通孔112にそれぞれ対応する孔径D1の値の2点以上の算術平均値を孔径D1の代表値として用いるものとする。一方、複数の貫通孔112のピッチPは、2つの貫通孔112の開口部同士の最短距離で定義する。ただし、ピッチPの値についても隣接する貫通孔112の組み合わせに対応するピッチPの値が複数存在する。したがって、本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、隣接する貫通孔112の組み合わせにそれぞれ対応するピッチPの値の2点以上の算術平均値をピッチPの代表値として用いるものとする。
【0025】
なお、上記の貫通孔112のピッチP、孔径D1、ピッチPに対する孔径D1の比等は、一例であり、これに限定されることはない。
【0026】
本体部111は、生分解性の材料で構成することができる。本体部111の構成材料について特に制限はなく、例えば、生分解性樹脂が挙げられる。生分解性樹脂としては、例えば、特表2011-528275号公報、特表2008-514719号公報、国際公報第2008-1952号、特表2004-509205号公報等に記載されるものなどの公知の生分解性(共)重合体が使用できる。具体的には、(1)脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体;(2)上記(1)を構成する一以上の単量体から構成される共重合体などが挙げられる。すなわち、生分解性シートは、脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体、ならびに前記重合体を構成する一以上の単量体から構成される共重合体からなる群より選択される少なくとも一種の生分解性樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
本体部111の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した生分解性樹脂からなる繊維を作製し、当該繊維を用いてメッシュ形状のシートを製造する方法が挙げられる。生分解性樹脂からなる繊維を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法(電界紡糸法・静電紡糸法)や、メルトブロー法等が挙げられる。本体部111は、上記の方法のうち1種のみを選択して用いてもよいし、2種以上を選択し適宜組み合わせてもよい。なお、本体部111の製造方法のさらに別の例として、上述した生分解性樹脂からなる繊維を常法に従って紡糸し、得られた繊維をメッシュ状に編むことによって本発明に係る生分解性シートを製造してもよい。
【0028】
本体部111は、本体部111を構成する生分解性樹脂等の構成材料によって生体反応を惹起させる。本体部111は、この作用により、フィブリン等の生体成分の発現を誘導する。このようにして誘導された生体成分は、本体部111の貫通孔112を貫通するようにして集積することで、癒合を促進することができる。したがって、膵実質B1と空腸B2の間に癒合促進シート110の本体部111を配置することにより、上記のメカニズムによる癒合の促進が生じる。
【0029】
なお、癒合促進シート110の材質は、生体器官の癒合を促進させることが可能であれば、生分解性でなくてもよい。また、癒合促進シート110は、生体器官の癒合を促進させることが可能であれば、材質に関わらず、貫通孔112が形成されていなくてもよい。
【0030】
<膵管キャップ120>
図1および図3に示すように、膵管キャップ120は、膵管B1bの開口部を覆うカバー部121と、カバー部121に接続されるとともに癒合促進シート110を膵実質B1に対して固定可能な固定部122と、を備える。固定部122は、本実施形態では、膵管B1bに挿入される挿入部124を有する。
【0031】
以下、膵管キャップ120の各部について詳述する。なお、以下の説明では、膵管キャップ120が膵実質B1に取り付けられた状態において、膵実質B1が配置される側を「先端側」と称し、その反対側を「基端側」と称する。また、先端側から基端側に向かう方向(またはその逆方向)を軸方向Xと称し、軸方向Xと交差する方向を放射方向Rと称する。なお、軸方向Xは、本実施形態では挿入部124の延在方向(長手方向)と一致している。また、膵管キャップ120の各部において、先端(最先端)から軸方向Xに一定の範囲を先端部と称し、基端(最基端)から軸方向Xに一定の範囲を基端部と称する。
【0032】
図1に示すように、カバー部121は、本実施形態では、板状の外形を有する。カバー部121は、軸方向Xからの平面視における外形が、円形である。ただし、カバー部121の具体的な形状は、膵管B1bの開口部を覆うことができる限り特に限定されない。例えば、カバー部121は、軸方向Xからの平面視における外形が、楕円形や多角形であってもよい。
【0033】
図3に示すように、カバー部121の放射方向Rにおける最大寸法D2(本実施形態では直径D2)は、本実施形態では、挿入部124の放射方向Rにおける最大寸法D3(本実施形態では直径D3)よりも大きい。そのため、カバー部121は、膵管B1bの開口部を十分に覆いことができるとともに膵管キャップ120が膵管B1b内に迷入することを防止できる。カバー部121の放射方向Rにおける最大寸法D2は、特に限定されないが、例えば、1mm~50mmとすることができる。
【0034】
図1に示すように、カバー部121には、迷入防止部材130の一端部を保持する保持部123が設けられている。保持部123は、本実施形態では、迷入防止部材130の一端部が挿通する挿通部によって構成している。ただし、保持部123の構成は、迷入防止部材130の一端部を保持できる限り特に限定されない。例えば、保持部123は、迷入防止部材130の一端部およびカバー部121に接着した接着部によって構成してもよい。また、保持部123は、図1では、カバー部121の基端面121aに配置されているが、保持部123を設ける位置は特に限定されない。
【0035】
カバー部121の周面121b(軸方向X周りの面)には、術者がカバー部121の周面121bを手指で把持した際に、手指がカバー部121の周面121bに対して滑ることを抑制する滑り止め部(図示省略)が形成されていてもよい。滑り止め部は、特に限定されないが、例えば、カバー部121の周面121bに形成された複数の溝部、複数の凹凸部、粘着性の層、およびこれらの組合せ等によって構成できる。このような構成によれば、術者は、手指でカバー部121の周面121bを把持して、膵管キャップ120を膵管B1bから容易に抜去できる。
【0036】
挿入部124は、軸方向Xに延びる長尺な外形を有する。
【0037】
図3に示すように、挿入部124の先端部は、本実施形態では、癒合促進シート110に押し付けられることによって癒合促進シート110に孔部140を形成する。挿入部124は、癒合促進シート110の孔部140を挿通した状態で膵管B1bに挿入される。これによって、挿入部124は、癒合促進シート110を膵実質B1に対して固定する。なお、孔部140は、挿入部124の先端部を癒合促進シート110に押し付けることによって形成するのではなく、使用前の状態で予め癒合促進シート110に形成されていてもよい。
【0038】
図1および図3に示すように、挿入部124は、カバー部121の先端面121c(癒合促進シート110に対向する面)の面方向の中央部に接続されている。
【0039】
挿入部124の少なくとも先端部は、基端側から先端側に向かって先細るテーパ形状を有している。そのため、術者は、挿入部124を膵管B1bに容易に挿入できる。なお、挿入部124は、図1および図3に示す形態では、先端側から基端側に向って略一定の外径を有する外径一定部124aと、外径一定部124aの先端側に配置され、基端側から先端側に向かって先細るテーパ部124bと、を有している。ただし、挿入部124は、先端(最先端)から基端(最基端)にかけてテーパ部のみによって形成されていてもよい。また、挿入部124は、先端(最先端)から基端(最基端)にかけて外径が略一定の外径一定部のみによって形成されていてもよい。
【0040】
挿入部124の放射方向Rに沿う最大寸法D3(本実施形態では直径)は、膵管B1bに挿入できる程度である限り特に限定されないが、例えば、1mm~5mmとすることができる。挿入部124の軸方向Xに沿う寸法D4は、特に限定されないが、例えば、30mm~50mmとすることができる。
【0041】
挿入部124は、可撓性を有する材料によって構成することが好ましい。そのような材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら2種以上の混合物等からなるポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料あるいはこれらの混合物、あるいは上記2種以上の高分子材料を挙げることができる。
【0042】
膵管キャップ120は、本実施形態では、膵実質B1と空腸B2を接合する手技において、術者が膵実質B1と空腸B2を縫合する縫合部材を膵実質B1と空腸B2に挿通させる際に、膵実質B1に取り付けられる。膵管キャップ120は、従来の膵管チューブのように膵管B1bから垂れ下がっていないため、術者が縫合部材を膵実質B1と空腸B2に挿通させる処置の妨げとなり難い。そのため、膵管キャップ120によれば、膵管B1bから膵液(体液に相当)が漏出することを抑制しつつ、術者は、縫合部材を膵実質B1と空腸B2に挿通させる処置を簡便に行うことができる。
【0043】
また、癒合促進シート110には複数の貫通孔112が形成されているため、癒合促進シート110は大変柔らかい。このため、癒合促進シート110にヨレやズレが発生し易い。これに対し、膵管キャップ120によれば、癒合促進シート110が膵管キャップ120によって膵実質B1に固定された状態で、癒合促進シート110を生分解性の縫合糸(吸収糸)やステープル等の固定部材によって膵実質に固定できる。その結果、癒合促進シート110が膵実質B1からズレたり、ヨレて変形したりすることを抑制できる。これによって、膵実質B1と空腸B2の生体組織の癒合を効果的に促進できる。
【0044】
なお、本実施形態に係る膵管キャップ120は、膵実質B1と空腸B2を縫合する縫合部材を膵実質B1と空腸B2に挿通させた後は、従来の膵管チューブと同様に、膵管B1bと空腸B2を縫合する縫合部材を膵管B1bに挿通させる処置を妨げないように、膵実質B1から取り外される。このように、本実施形態に係る膵管キャップ120は、手技中に一時的に膵実質B1に取り付けられる器具として構成している。
【0045】
なお、膵管B1bと空腸B2を縫合する縫合部材を膵管B1bに挿通させた後は、膵管チューブ等の公知のデバイスを用いて、膵管B1bからの膵液が膵実質B1と空腸B2の被接合部に漏出しないように膵管B1bからの膵液を被接合部位外へ排出する排出経路を形成してもよい。
【0046】
<迷入防止部材130>
図1に示すように、迷入防止部材130は、糸や紐等の可撓性を備える長尺部材によって形成されている。
【0047】
迷入防止部材130の一端部は、膵管キャップ120に接続される。迷入防止部材130の他端部は、本実施形態では癒合促進シート110に接続される。そのため、迷入防止部材130は、膵管キャップ120が膵管B1bから脱落した際に患者の体内に迷入することを防止できる。なお、迷入防止部材130の他端部は、膵実質B1等の生体に接続されてもよい。例えば、迷入防止部材130を構成する長尺部材の他端部に針部(図示省略)を設け、針部を膵実質B1等の生体に引っ掛けることで、迷入防止部材130の他端部を膵実質B1に接続してもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る医療デバイス100は、癒合促進シート110と、膵管キャップ120と、を有する。癒合促進シート110は、膵実質B1と空腸B2との間に配置されることにより膵実質B1と空腸B2の癒合を促進する。膵管キャップ120は、膵管B1bの開口部を覆うカバー部121およびカバー部121に接続されるとともに癒合促進シート110を膵実質B1に対して固定可能な固定部122を備える。
【0049】
上記医療デバイス100によれば、膵実質B1と空腸B2の被接合部位の間に癒合促進シート110を挟み込ませることにより、膵実質B1と空腸B2の生体組織の癒合を促進することができる。また、癒合促進シート110が膵管キャップ120によって膵実質B1に固定された状態で、癒合促進シート110を固定部材によって膵実質B1に固定できる。そのため、癒合促進シート110が膵実質B1からズレたり、ヨレて変形したりすることを抑制できる。その結果、膵実質B1と空腸B2の生体組織の癒合を効果的に促進できる。また、膵管キャップ120は、手技中に膵管B1bの開口部を覆うことで膵管B1bからの膵液の漏出を抑制できる上、従来の膵管チューブのように膵管B1bから垂れ下がっていないため、手技の妨げとなり難い。以上より、医療デバイス100によれば、膵実質B1と空腸B2を接合する手技において、術後における縫合不全のリスクを低減させることができるとともに、手技中に膵管B1bからの膵液の漏出を抑制しつつ、簡便に膵実質B1と空腸B2を接合できる。
【0050】
また、固定部122は、膵管B1bに挿入される挿入部124を含む。挿入部124は、癒合促進シート110を挿通した状態で膵管B1bに挿入されることによって、癒合促進シート110を膵実質B1に固定できる。また、挿入部124は、膵管B1bに挿入されるため、膵管B1bからの膵液の漏出を効果的に抑制できる。
【0051】
また、挿入部124の少なくとも先端部は、基端側から先端側に向かって先細るテーパ形状を有する。そのため、術者は、挿入部124を膵管B1bに容易に挿入できる。
【0052】
また、医療デバイス100は、可撓性を備える長尺部材によって形成され、一端部が膵管キャップ120に接続され、他端部が癒合促進シート110または生体の少なくとも一方に接続される迷入防止部材130をさらに有する。そのため、医療デバイス100は、膵管キャップ120が患者の体内に迷入することを効果的に防止できる。
【0053】
次に、第1実施形態に係る医療デバイス100の膵管キャップ120の変形例1~6について説明する。なお、変形例1~6の説明において、上述した医療デバイス100で説明した構成や内容については、その説明を適宜省略する。
【0054】
<変形例1、変形例2>
図4Aは、第1実施形態に係る膵管キャップ120の変形例1を示す軸方向断面図、図4Bは、第1実施形態に係る膵管キャップ120の変形例2を示す軸方向断面図である。図4Aに示すように、膵管キャップ120を構成する固定部122は、膵管B1b内において挿入部124の移動を抑制可能な移動抑制部125をさらに有していてもよい。
【0055】
図4Aに示すように、移動抑制部125は、挿入部124の先端(最先端)と基端(最基端)との間に配置され、挿入部124の長手方向(軸方向X)と交差する放射方向Rに拡張収縮自在な拡張部126aであってもよい。
【0056】
拡張部126aは、挿入部124との間に流体が注入される内部空間126bを形成する。カバー部121および挿入部124には、連通路126cが形成されている。カバー部121には、連通路126cに連通し、シリンジ等の流体の注入器具(図示省略)が挿入される開口部126dと、開口部126dを覆う弁体126eと、が設けられている。
【0057】
挿入部124が膵管B1bに挿入された状態で開口部126dにシリンジ等の流体の注入器具が挿入され、注入器具によって内部空間126bに流体が注入される。これによって、拡張部126aは、放射方向Rの外方に拡張して、膵管B1bの内壁に押し付けられる。そのため、拡張部126aは、膵管B1b内における挿入部124の移動を効果的に抑制できる。注入器具が抜去された状態では、弁体126eが開口部126dを気密または液密に塞ぐ。そのため、拡張部126aは、拡張状態を維持できる。膵管キャップ120を膵管B1bから抜去する際、開口部126dに再びシリンジ等の流体の注入器具が挿入され、注入器具によって内部空間126bから流体が排出される。これによって、拡張部126aは、放射方向Rの内方に収縮する。そのため、使用者は、挿入部124を膵管B1bから容易に抜去できる。
【0058】
図4Bに示すように、移動抑制部125は、膵管B1bの内壁に吸着可能な吸着部127aであってもよい。
【0059】
吸着部127aは、例えば、挿入部124の周面において開口する複数の吸引孔127bによって構成できる。カバー部121および挿入部124には、吸引孔127bに連通する連通路127cが形成されている。カバー部121には、連通路127cに連通し、シリンジ等の吸引器具(図示省略)が挿入される開口部127dと、開口部127dを覆う弁体127eと、が設けられている。
【0060】
挿入部124が膵管B1bに挿入された状態で、開口部127dにシリンジ等の吸引器具が挿入され、吸引が行われる。これによって、吸着部127aは、膵管B1bの内壁に吸着する。吸引器具が抜去された状態では、弁体127eが開口部127dを気密または液密に塞ぐ。そのため、吸着部127aは、膵管B1b内における挿入部124の移動を効果的に抑制できる。
【0061】
なお、拡張部126aや吸着部127aの構成は、上記に限定されない。例えば、拡張部126aの内部空間126bへの流体の注入等は、シリンジ等の注入器具ではなく、開口部126dに接続され、押しつぶされることによって内部空間126bに流体を注入する袋状の注入部材等によって構成してもよい。
【0062】
以上説明したように、固定部122は、膵管B1b内における挿入部124の移動を抑制する移動抑制部125をさらに有していてもよい。そのため、移動抑制部125は、挿入部124が膵管B1bから脱落することを効果的に抑制できる。
【0063】
また、移動抑制部125は、挿入部124の先端と基端の間において挿入部124の軸方向Xと交差する放射方向Rに拡張収縮自在な拡張部126aであってもよい。拡張部126aは、放射方向Rの外方に拡張して、膵管B1bの内壁に押し付けられる。そのため、拡張部126aは、挿入部124が膵管B1bから脱落することを効果的に抑制できる。また、拡張部126aが膵管B1bの内壁に押し付けられることによって、膵管B1bから膵液が漏出することを効果的に防止できる。
【0064】
また、移動抑制部125は、膵管B1bの内壁に吸着可能な吸着部127aであってもよい。吸着部127aは、膵管B1bの内壁に吸着する。そのため、吸着部127aは、挿入部124が膵管B1bから脱落することを効果的に抑制できる。
【0065】
<変形例3>
図5Aおよび図5Bは、第1実施形態に係る膵管キャップ120の変形例3を示す軸方向断面図である。図5Aおよび図5Bに示すように、膵管キャップ120を構成する固定部122は、挿入部124を膵管B1bから抜去することを補助する抜去補助部128をさらに有していてもよい。
【0066】
抜去補助部128は、本実施形態では、挿入部124の少なくとも基端部に設けられ、挿入部124の軸方向Xと交差する放射方向Rの内方に収縮した収縮状態から、放射方向Rの外方に拡張した拡張状態に移行可能な拡張部128aによって構成している。図5Bに示すように、拡張部128aは、拡張状態で、基端側から先端側に向かって先細る外形を有する。
【0067】
拡張部128aは、カバー部121の先端面121cおよび挿入部124の基端部との間に、流体が注入される内部空間128bを形成する。カバー部121および挿入部124には、内部空間128bに連通する連通路128cが形成されている。カバー部121には、連通路128cに連通し、シリンジ等の流体の注入器具(図示省略)が挿入される開口部128dと、開口部128dを覆う弁体128eと、が設けられている。
【0068】
挿入部124が膵管B1bから抜去される際、開口部128dにシリンジ等の流体の注入器具が挿入され、注入器具によって内部空間128bに流体が注入される。これによって、拡張部128aは、図5Bに示すように、放射方向Rの外方に拡張する。拡張部128aは、挿入部124の基端部に設けられており、拡張状態では、基端側から先端側に向かって先細る外形を有する。そのため、拡張した拡張部128aは、カバー部121が膵実質B1から離間するように膵管B1bを押圧する。そのため、術者は、膵管キャップ120を膵管B1bから容易に抜去できる。
【0069】
<変形例4>
図6は、第1実施形態に係る膵管キャップ120の変形例4を示す軸方向断面図である。図6に示すように、膵管キャップ120を構成する挿入部124には、膵液等の体液を吸収する吸収部材129が設けられていてもよい。
【0070】
吸収部材129は、吸収部材129は、例えば、スポンジ等の多孔質材料によって構成されており、膵管B1bに挿入部124が挿入された状態で、膵液等の体液を吸収する。そのため、吸収部材129は、膵液等の体液が膵管B1bから漏出することを効果的に防止できる。図6では、挿入部124の先端部には、挿入部124の長手方向(軸方向X)に延在する孔部124cが形成されており、吸収部材129は孔部124cに配置されている。そのため、術者は、挿入部124を膵管B1bに容易に挿入できる。ただし、吸収部材129は、挿入部124の外表面に設けられていてもよい。
【0071】
以上説明したように、挿入部124には、体液を吸収可能な吸収部材129が設けられていてもよい。このように構成した場合、膵管B1bから膵液が漏出することを効果的に抑制できる。
【0072】
<変形例5>
図7は、第1実施形態に係る膵管キャップ120の変形例5を示す斜視図である。図7に示すように、膵管キャップ120を構成する固定部122は、挿入部124によって構成するのではなく、カバー部121の先端面121cに設けられた複数の針部224によって構成してもよい。
【0073】
複数の針部224は、カバー部121の先端面121cにおいて膵管B1bの開口部を覆う領域Aよりも放射方向Rの外方側に設けられている。複数の針部224は、癒合促進シート110を挿通し、膵実質B1に穿刺される。これによって、複数の針部224は癒合促進シートを膵実質B1に固定する。なお、図7では、複数の針部224は、軸方向X周りの周方向に略等間隔で設けられている。ただし、針部244の数や位置等は特に限定されない。なお、固定部122は、挿入部124および複数の針部224の両方を含んでもよい。
【0074】
<変形例6>
図8は、第1実施形態に係る膵管キャップ120の変形例6を示す斜視図である。図8に示すように、膵管キャップ120は、カバー部121に接続され、放射方向Rに広がっており、癒合促進シート110を取外し可能に保持するフレーム部225をさらに有していてもよい。
【0075】
フレーム部225は、複数の棒状部材226によって構成している。各棒状部材226は、カバー部121から放射方向Rの外方に向かって延在している。各棒状部材226は、各棒状部材226の放射方向Rの内方側の端部226aよりも各棒状部材226の放射方向Rの外方側の端部226bが基端側に位置するように、湾曲している。そのため、癒合促進シート110が膵実質B1上に配置される際に、癒合促進シート110は、癒合促進シート110の放射方向Rの中央部から放射方向Rの外方側の部分に向かって順に、膵実質B1に付着する。これによって、癒合促進シート110のヨレやズレを効果的に抑制できる。
【0076】
<処置方法の実施形態(膵実質-空腸吻合術)>
次に、医療デバイスを用いた処置方法を説明する。
【0077】
図9は、医療デバイスを用いた膵実質と空腸を接合する処置方法の各手順を示すフローチャートである。
【0078】
処置方法は、複数の貫通孔を有する生分解性シートから形成された生体組織の癒合を促進する癒合促進シートと、膵管の開口部を覆うカバー部およびカバー部に接続されるとともに癒合促進シートを膵実質に対して固定可能な固定部を備える膵管キャップと、を有する医療デバイスを準備すること(S101)を含む。処置方法は、さらに、カバー部が膵管の開口部を覆い、かつ固定部が癒合促進シートを膵実質に固定するように医療デバイスを配置すること(S102)、および癒合促進シートを固定部材で膵実質に固定すること(S103)を含む。処置方法はさらに、膵管内の膵液が膵実質と空腸の被接合部位に漏出しないように膵管からの膵液を被接合部位外へ排出する排出経路を形成すること(S104)を含む。処置方法はさらに、膵実質と空腸との間に癒合促進シートの少なくとも一部を挟みこむこと(S105)、膵実質と空腸との間に癒合促進シートの少なくとも一部を挟みこんだ状態で接合すること(S106)、膵実質と空腸の間に癒合促進シートを留置すること(S107)を含む。
【0079】
以下に説明する各手技において使用される医療デバイスとしては、例えば、前述した医療デバイスの中から任意のものを選択することが可能であるし、その他の医療デバイスを選択することもできる。ただし、以下の説明では、各手技に好適に用いることができる代表的な例として、特定の医療デバイスの使用例を説明する。また、以下に説明する各手技において、公知の手技手順や公知の医療装置・医療器具等については詳細な説明を適宜省略する。
【0080】
以下、本明細書の説明において「膵実質と空腸の間に癒合促進シートを配置する」とは、膵実質または空腸に癒合促進シートが直接的にまたは間接的に接触した状態で配置されること、膵実質または空腸との間に空間的な隙間が形成された状態で癒合促進シートが配置されること、またはその両方の状態で癒合促進シートが配置されること(例えば、膵実質および空腸の一方の生体器官に癒合促進シートが接触し、他方の生体器官には癒合促進シートが接触していない状態で配置されること)の少なくとも一つを意味する。また、本明細書の説明において「周辺」とは、厳密な範囲(領域)を規定するものではなく、処置の目的(膵実質と空腸の接合)を達成し得る限りにおいて、所定の範囲(領域)を意味する。また、各処置方法において説明する手技手順は、処置の目的を達成し得る限りにおいて、順番を適宜入れ替えることが可能である。また、本明細書の説明において「相対的に接近させる」とは、接近させる対象となる2つ以上のものを、互いに接近させること、一
方のみを他方のみに接近させることの両方を意味する。
【0081】
図10図17は、膵実質-空腸吻合術の説明に供する図である。なお、図15では、後述する複数の両端針920a~920eを省略している。以下、図10図17を参照して処置方法の一例を説明する。なお、以下の説明では、図1に示した医療デバイス100の使用例を説明する。
【0082】
まず、術者は、癒合促進シート110と、膵管キャップ120と、を有する医療デバイス100を準備する。
【0083】
次に、図10に示すように、術者は、カバー部121が膵管B1bの開口部を覆い、固定部122(挿入部124)が癒合促進シート110を膵実質B1に固定するように医療デバイス100を膵実質B1の切断面B1aに配置する。
【0084】
医療デバイス100を膵実質B1の切断面B1aに配置する具体的な手順は特に限定されないが、例えば、以下の手順で行うことができる。まず、術者は、癒合促進シート110を切断面B1aに付着させる。次に、術者は、膵管キャップ120の挿入部124の先端部を癒合促進シート110に押し付けることによって癒合促進シート110に孔部140を形成しつつ、挿入部124を膵管B1bに挿入する。膵管キャップ120は、後述するように、術者が膵実質B1と空腸B2を縫合する縫合部材(両端針920a~920e)を膵実質B1および空腸B2に挿通させる際、膵管B1bから膵液が漏出することを抑制する。
【0085】
なお、この際、術者は、膵管チューブ910の端部911が空腸B2の吻合予定部位の貫通孔B2aから空腸B2の内部を通り、空腸B2の貫通孔B2bから空腸B2の外部に出るように、膵管チューブ910を空腸B2に挿通させておいてもよい。なお、膵管チューブ910としては、例えば、端部912に抜け防止用のコブ(凸部)が形成された樹脂製の公知のものを利用することができる。
【0086】
また、術者は、膵管キャップ120を挿通させるための孔部140を形成する際に、膵管キャップ120ではなく膵管チューブ910等の他のデバイスを用いてもよい。また、膵管キャップ120を挿通させるための孔部140は、使用前の状態で予め癒合促進シート110に形成されていてもよい。また、術者は、癒合促進シート110の孔部140に挿入部124を挿通させた後に、挿入部124を膵管B1bに挿入してもよい。
【0087】
次に、術者は、癒合促進シート110を固定部材で膵実質B1に固定する。なお、以下の説明では、複数の両端針920a~920eを固定部材として用いて癒合促進シート110を膵実質B1に固定する手順の一例を説明する。両端針920a~920eとしては、生体吸収性を備える吸収糸(縫合糸)と、吸収糸の両端に取り付けられた生体適合性を備える針部と、を有する公知のものを用いることができる。なお、後述する両端針930、940a~940eについても、吸収糸および針部を備えるように構成している。
【0088】
まず、術者は、図11に示すように、膵実質B1の後壁B1c(膵実質B1の周方向の背側の部分)および癒合促進シート110において後壁B1c上に配置された部分から、膵実質B1の前壁B1d(膵実質B1の周方向の腹側の部分)および癒合促進シート110において前壁B1d上に配置された部分に向かって、両端針920aを運針する。次に、術者は、空腸B2の吻合予定部位(貫通孔B2aの周辺)の空腸漿膜筋層を挿通するように両端針920aを運針する。術者は、このような操作を繰り返し、図12に示すように、癒合促進シート110、膵実質B1、および空腸B2の空腸漿膜筋層に複数の両端針920a~920eを挿通させる。このように、術者は、膵実質B1と空腸B2を縫合する複数の両端針920a~920eを利用して、癒合促進シート110を膵実質B1に固定できる。
【0089】
術者は、癒合促進シート110が膵管キャップ120によって膵実質B1に固定された状態で、両端針920a~920eを用いて癒合促進シート110を膵実質B1に固定できる。そのため、術者が両端針920a~920eを用いて癒合促進シート110を膵実質B1に固定する際に、癒合促進シート110が膵実質B1からズレたり、ヨレて変形したりすることを抑制できる。
【0090】
なお、膵実質B1、および空腸B2の空腸漿膜筋層に挿通させる両端針の本数や両端針を挿通させる位置は特に限定されない。また、術者は、複数の両端針920a~920eではなく、生分解性のステープル等を固定部材として、癒合促進シート110を膵実質B1に固定してもよい。
【0091】
次に、術者は、図12に示すように、膵管キャップ120を膵実質B1から取り外す。
【0092】
次に、術者は、図12に示すように、膵管B1bの内腔側から膵実質B1の切断面B1aの前壁B1d側の部分に向かって、両端針930を通す。両端針930は、空腸B2を挿通させない状態でピンセット等の把持器具(図示省略)で手技の邪魔にならないように保持される。
【0093】
次に、術者は、図12および図14に示すように、膵管B1bの内腔側から膵実質B1の切断面B1aに向かって、両端針940aの一端を運針する。次に、術者は、図13および図14に示すように、両端針940aの他端を空腸B2の貫通孔B2aに挿入し、空腸B2の内部から空腸B2の外部に向かって両端針940aの他端を運針する。そして、術者は、図15に示すように、膵管B1bの周方向の異なる部位および空腸B2に、複数の両端針940a~940eを挿通させる。
【0094】
次に、術者は、図15に示すように、膵実質B1の後壁B1cおよび膵管B1bを空腸B2の吻合予定部位に密着させる。そして、複数の両端針940a~940eのうち、膵管B1bの周方向の背側(後壁B1c側)を挿通する両端針940c~940eを結紮する。
【0095】
次に、術者は、図16に示すように、膵管チューブ910の端部912を膵管B1bに挿入する。これによって、膵管B1bからの膵液が膵実質B1と空腸B2の被接合部位に漏出しないように膵管B1bからの膵液を被接合部位外へ排出する排出経路が形成される。次に、術者は、両端針930において膵管B1bの内側から延びる針部931を、空腸B2に形成した貫通孔B2aに挿入し、空腸B2の内部から空腸B2の外部に向かって針部931を運針する。
【0096】
次に、術者は、両端針930、940a、940bを結紮する(図示省略)。なお、膵管B1bおよび空腸B2に挿通させる両端針の本数や両端針を挿通させる位置は特に限定されない。
【0097】
次に、術者は、図17に示すように、術者の指を以って空腸B2を膵実質B1に対して押さえつけながら両端針920a~920eを結紮する。これによって、膵実質B1と空腸B2が癒合促進シート110を挟み込んだ状態で縫合される。空腸B2は、縫合時に生じる張力により、膵実質B1の切断面B1aおよび癒合促進シート110の本体部111を包み込むように変形する。
【0098】
術者は、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁との間に医療デバイス100の本体部111が挟み込まれた状態で癒合促進シート110を留置する。また、術者は、膵管チューブ910の端部911が体外に導出されるように、膵管チューブ910を留置する。すなわち、膵管チューブ910は、いわゆる外瘻チューブとして機能する。癒合促進シート110の本体部111は、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁とに接触しつつ、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁との間に留置されることにより、膵実質B1の生体組織と空腸B2の腸壁の生体組織の癒合を促進する。
【0099】
以上のように、本実施形態に係る処置方法は、膵実質B1および空腸B2を接合する手技に適用される。また、上記の処置方法では、切断された膵実質B1の切断面B1a周辺と空腸B2の腸壁(空腸漿膜筋層)を接合する。この処置方法によれば、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁の間に挟み込んだ癒合促進シート110の本体部111により、膵実質B1の生体組織と空腸B2の腸壁の生体組織の癒合を促進することができ、膵実質-空腸吻合術後の縫合不全のリスクを低減させることができる。
【0100】
また、上記処置方法では、術者は、カバー部121が膵管B1bの開口部を覆い、かつ固定部122が癒合促進シート110を膵実質B1に固定するように医療デバイス100を膵実質B1の切断面B1aに配置する。そして、術者は、癒合促進シート110を固定部材(両端針920a~920e)を用いて膵実質B1に固定する。そのため、癒合促進シート110が膵管キャップ120によって膵実質B1に固定された状態で、癒合促進シート110を固定部材によって膵実質B1に固定できる。そのため、癒合促進シート110が膵実質B1からズレたり、ヨレて変形したりすることを抑制できる。これによって、膵実質B1と空腸B2の生体組織の癒合を効果的に促進できる。
【0101】
また、上記処置方法では、膵管キャップ120は、癒合促進シート110を固定部材で膵実質B1に固定する際に、膵管B1bの開口部を覆う。膵管キャップ120は、従来の膵管チューブのように膵管B1bから垂れ下がっておらず、従来の膵管チューブと比較して手技の妨げとなり難い。そのため、上記処置方法によれば、手技中に膵液の漏出を抑制しつつ、簡便に膵実質B1と空腸B2を接合できる。
【0102】
<第2実施形態>
図18は、第2実施形態に係る膵管キャップ320を示す斜視図である。図19は、図18に示す膵管キャップ320を示す軸方向断面図である。
【0103】
第2実施形態に係る膵管キャップ320は、膵管B1bに縫合部材(両端針930、940a~940e)を挿通させる際に取り外す必要がないように構成されている点において、第1実施形態に係る膵管キャップ120と相違する。以下、第2実施形態に係る膵管キャップ320について説明する。なお、第1実施形態に係る医療デバイス100で説明した構成と同様の構成は、その説明を適宜省略する。
【0104】
図18に示すように、膵管キャップ320は、膵管B1bの開口部を覆うカバー部321と、カバー部321に接続されるとともに癒合促進シート110を膵実質B1に対して固定可能な固定部322と、を備える。固定部322は、本実施形態では、膵管B1bに挿入される挿入部324を有する。
【0105】
図19に示すように、カバー部321の先端部は、先端側に向って凸状の形状を有する。そのため、カバー部321は、膵実質B1に取り付けられた状態で、膵実質B1の切断面B1aとの間に空間Sを形成する。そのため、術者は、カバー部321が膵実質B1に固定されたまま、空間Sに膵管B1bと空腸B2との縫合に用いられる縫合部材(両端針930、940a~940e)を通過させて、当該縫合部材を膵管B1bに挿通させることができる。そのため、膵管キャップ320は、縫合部材(両端針920a~920e)を膵実質B1と空腸B2に挿通させる際だけでなく、縫合部材(両端針930、940a~940e)を膵管B1bに挿通させる際にも、膵管B1bからの膵液の漏出を抑制できる。
【0106】
カバー部321の先端部には、膵管B1bおよび/またはその近傍の生体組織を保持可能な保持部321aが設けられていてもよい。
【0107】
保持部321aは、例えば、複数の針部321bによって構成できる。複数の針部321bは、カバー部321の周方向において縫合部材(両端針930、940a~940e)が通過する位置とは異なる位置に設けられている。膵管B1bに縫合部材を挿通させる際、術者がカバー部321を基端側に向って引っ張ることによって、保持部321aが基端側に移動する。これによって、膵管B1bおよび/またはその近傍の生体組織が、切断面B1aの他の領域よりも基端側に突出する。そのため、術者は、縫合部材の端部を容易に膵管B1bの内腔に挿入できる。なお、本実施形態では、各針部321bは、直線状に延びた形状を有しているが、フック状の湾曲した形状を有していてもよい。
【0108】
カバー部321は、挿入部324から取外し可能に構成されており、挿入部324は生分解性材料によって形成されるとともに、挿入部324には、挿入部324を軸方向Xに貫通する内腔324aが形成されていてもよい。このような構成によれば、縫合部材を膵管B1bに挿通させた後、カバー部321を挿入部324から取外し、挿入部324の基端部の空腸B2の貫通孔B2aに挿入できる。そして、挿入部324は、挿入部324の先端部が膵管B1bに挿入され、かつ、挿入部324の基端部が空腸B2の貫通孔B2aに挿入された状態で、癒合促進シート110とともに生体内に留置される。留置された挿入部324は、膵管B1bからの膵液が膵実質B1と空腸B2の接合部に漏出しないように膵管B1bからの膵液を空腸B2の内部に排出する。このように、膵管キャップ320は、挿入部324がいわゆる内瘻チューブとして機能するように構成してもよい。
【0109】
挿入部324をカバー部321から取外し可能に構成する方法は、特に限定されないが、例えば、カバー部321および挿入部324に着脱自在な係合部を形成する方法、カバー部321と挿入部324の間の境界部に、カバー部321と挿入部324を分離可能な破断部を形成する方法等が挙げられる。なお、図19には、着脱自在な係合部の一例として、カバー部321に形成された雌ネジ部321cと、挿入部324に形成された雄ねじ部324bを示している。
【0110】
なお、カバー部321は挿入部324から取外し可能に構成せず、膵管B1bと空腸B2に縫合部材を挿通させた後に膵管キャップ320は膵実質B1から取り外されてもよい。この場合は、上述した処置方法と同様に、膵管チューブ等の公知のデバイスを外瘻チューブとして用いればよい。
【0111】
以上説明したように、第2実施形態に係る医療デバイス300では、カバー部321には、膵管B1bと空腸B2との縫合に用いられる縫合部材を通過させる空間Sが形成されている。膵管B1bに縫合部材を挿通させる際に、膵管キャップ320を取り外す必要がないため、膵管キャップ320は、膵実質B1と空腸B2を縫合する縫合部材を膵実質B1および空腸B2に挿通させる際だけでなく、膵管B1bと空腸B2を縫合する縫合部材を膵管B1bに挿通させる際にも、膵管B1bからの膵液の漏出を抑制できる。
【0112】
また、カバー部321は、挿入部324から取外し可能に構成され、挿入部324は生分解性材料によって形成されるとともに、挿入部324には、挿入部324を軸方向Xに貫通する内腔324aが形成されていてもよい。このような構成によれば、挿入部324を内瘻チューブとして機能させることができるため、膵管チューブ等の他のデバイスを用いる必要がない。
【0113】
次に、第2実施形態に係る医療デバイス300の膵管キャップ320の変形例1~3について説明する。なお、変形例1~3の説明において、上述した医療デバイス100および医療デバイス300で説明した構成や内容については、その説明を適宜省略する。
【0114】
<変形例1>
図20は、第2実施形態に係る膵管キャップ320の変形例1を示す斜視図である。第2実施形態に係る膵管キャップ320では、膵管B1bと空腸B2との縫合に用いられる縫合部材を通過させる空間Sは、カバー部321全周に亘って形成されていた。しかし、図20に示すように、膵管B1bと空腸B2との縫合に用いられる縫合部材の数および通過位置に応じて、放射方向Rの内方に窪んだ溝部321dをカバー部321の周方向に複数形成してもよい。各溝部321dが各縫合部材を通過させる空間Sを形成するため、膵管B1bと空腸B2との縫合に用いられる縫合部材を通過させる空間Sは、カバー部321の周方向に部分的に形成される。なお、図では8本の縫合部材を通過できるようにカバー部321には8つの溝部321dが形成されているが、溝部321dの個数および位置は、通過させる縫合部材の数および位置に応じて適宜変更可能である。
【0115】
<変形例2>
図21は、第2実施形態に係る膵管キャップ320の変形例2を示す軸方向断面図である。図21に示すように、固定部322は、膵管B1b内における挿入部324の移動を抑制する移動抑制部325をさらに有していてもよい。
【0116】
図21に示すように、移動抑制部325は、挿入部324の先端(最先端)と基端(最基端)との間に配置され、挿入部324の軸方向Xと交差する放射方向Rに拡張収縮自在な拡張部326aであってもよい。
【0117】
拡張部326aは、挿入部324との間に流体が注入される内部空間326bを形成する。カバー部321および挿入部324には、内部空間326bに連通する連通路326cが形成されている。カバー部321には、連通路326cに連通し、シリンジ等の流体の注入器具(図示省略)が挿入される開口部326dが設けられている。また、挿入部324には、連通路326cから内部空間326bへの流体の流入は許容するが、逆方向の流出を禁止する逆止弁326eが設けられている。
【0118】
挿入部324が膵管B1bに挿入された状態で開口部326dにシリンジ等の流体の注入器具が挿入され、注入器具によって内部空間326bに流体が注入される。これによって、拡張部326aは、放射方向Rの外方に拡張して、膵管B1bの内壁に押し付けられる。そのため、拡張部326aは、挿入部324が膵管B1b内で移動することを効果的に抑制できる。
【0119】
さらに、縫合部材を膵管B1bに挿通させた後、カバー部321が挿入部324から取り外され、挿入部324の基端部が空腸B2の貫通孔B2aに挿入される。そして、挿入部324は、生体内に留置される。挿入部324には逆止弁326eが設けられている。そのため、挿入部324を生体内に留置している際も、拡張部326aは、挿入部324が膵管B1b内において移動することを効果的に抑制できる。
【0120】
なお、移動抑制部325は、拡張部326によって構成するのではなく、膵管B1bの内壁に吸着可能な吸着部によって構成してもよい。
【0121】
<変形例3>
図22A図22Cは、第2実施形態に係る膵管キャップ320の変形例3を示す軸方向断面図である。図22A図22Cに示すように、膵管キャップ320は、カバー部321および挿入部324が軸方向Xに裂けるように構成されていてもよい。
【0122】
図22Aに示すように、カバー部321には、挿入部324の内腔324aに連通する内腔321eが形成されている。また、カバー部321には、カバー部321の内腔321eに連通する開口部321fと、開口部321fを覆う逆止弁321gと、が設けられている。図22Bに示すように、逆止弁321gは、カバー部321を裂かない状態でカバー部321の内腔321eに膵管チューブ910の端部912を挿入可能に構成している。
【0123】
図22Aに示すように、カバー部321および挿入部324には、X軸方向に延び、X軸と交差する方向において相反する方向に引っ張った際に、破断の起点となる破断部327が形成されている。破断部327は、例えば、他の領域よりも肉厚を薄くした薄肉部や切り込み部等によって形成できる。
【0124】
縫合部材を膵管B1bに挿通させた後、術者は、図22Bに示すように、カバー部321の逆止弁321gからカバー部321の内腔321eおよび挿入部324の内腔324aに膵管チューブ910の端部912を挿入する。次に、術者は、図22Cに示すように、膵管チューブ910が膵管B1b内に配置された状態を維持しつつ、カバー部321および挿入部324を軸方向Xに裂き、膵実質B1から膵管キャップ320を取り外す。次に、術者は、膵管チューブ910の端部912を膵管B1b内にさらに押し込む。このように変形例3に係る膵管キャップ320によれば、膵管キャップ320を取り外さなくても、膵管チューブ910を膵管B1bに挿入できる。そのため、手技中に膵管B1bから膵液が漏出することを効果的に抑制できる。
【0125】
以上、複数の実施形態および変形例を通じて本発明に係る医療器具を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。例えば、本発明に係る医療器具は、膵実質と空腸以外の他の生体器官の接合に適用されてもよい。
【0126】
本出願は、2019年3月28日に出願された日本国特許出願第2019-64736号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0127】
100 医療デバイス、
110 癒合促進シート、
112 貫通孔、
120、320 膵管キャップ(キャップ)、
121、321 カバー部
122、322 固定部、
124、324 挿入部、
125、325 移動抑制部、
126a、326a 拡張部、
127a 吸着部、
129 吸収部材、
130 迷入防止部材、
910 膵管チューブ、
B1 膵実質(生体器官)、
B1b 膵管(生体管腔)、
B2 空腸(生体器官)、
R 放射方向、
S 縫合部材を通過させる空間、
X 軸方向。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図22C