(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】樹脂発泡板
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20231031BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20231031BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
B29C44/00
B29C44/00 E
B29C44/36
B29K69:00
(21)【出願番号】P 2021556041
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041228
(87)【国際公開番号】W WO2021095607
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019203839
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】水谷 圭
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-188781(JP,A)
【文献】特表2013-540623(JP,A)
【文献】特開昭59-101360(JP,A)
【文献】特開2017-052115(JP,A)
【文献】特開2020-152051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42、
B29C44/00-44/60、67/20-67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡成形による気泡を有する板本体を備え、
前記板本体は、2つ以上の孔と、ポリカーボネート樹脂を50重量%以上含む発泡樹脂部とを有し、
前記2つ以上の孔の第1孔の幾何学的重心(以下、重心と称す。)と該第1孔の重心に最も近い重心を有する第2孔の重心とを結んだ線上において、前記第1孔の重心と前記第2孔の重心までの平均距離W1と、前記第1孔の重心から該第1孔と前記発泡樹脂部との境界までの平均距離W2と、前記第2孔の重心から該第2孔と前記発泡樹脂部との境界までの平均距離W3とは、
0.3<(W2+W3)/(W1-(W2+W3))<2.3
を満たし、
かつ、前記板本体の厚み方向に沿う断面において、前記に含まれる第1気泡の気泡径に基づくメジアン径D1と、前記板本体の表面側から厚みの0~5%の範囲に含まれる第2気泡の気泡径に基づくメジアン径D2とは、
0.2≦D2/D1≦2.0
を満た
し、
前記第1気泡の気泡径に基づくメジアン径D1は、5~200μmであり、
前記第2気泡の気泡径に基づくメジアン径D2は、1~100μmである、樹脂発泡板。
【請求項2】
請求項
1に記載の樹脂発泡板であって、
前記発泡樹脂部は、ポリフェニレンサルファイド、シンジオタクチックポリスチレン及びLCP樹脂のいずれか1つを含む、樹脂発泡板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発泡成形した樹脂発泡板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽量化等を目的として、発泡成形による気泡を有する樹脂発泡板が種々提供されている。
【0003】
特開2012-140782号公報(特許文献1)は、繊維強化プラスチック製のスキン部材と、スキン部材の長さ方向に沿って延びる発泡樹脂製のコア部材とを備えた足場構造体を開示している。発泡樹脂製のコア部材は、足場構造体の軽量化に貢献している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-140782号公報
【文献】特開2017-52115号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、一般的に、発泡樹脂製のコア部材のような板状の発泡樹脂体は、厚みの外表面近傍では、温度が低下しやすく、かつ、発泡のためのガスが樹脂から空気中に抜けやすい。一方、厚みの中央近傍では、樹脂温度が高いので粘度が低く、かつ、ガスが空気中に抜けにくいので一つの気泡が大きく成長して合一しやすい。そのため、厚みの外表面近傍に位置する気泡の気泡径は、厚みの中央近傍に位置する気泡の気泡径に比べて小さく形成される。このように厚みの外表面近傍の気泡径と厚みの中央近傍の気泡径との大きさにバラツキが生じると、板状の発泡樹脂体の強度は低下する。このような強度の低下は、大きな気泡に応力が集中し、そこが起点となって破壊や座屈といった現象が起きることに起因するものと推察される。したがって、板状の発泡樹脂体は、発泡成形による気泡を形成することにより軽量化を図ることができても、強度を保持することができないという問題があった。
【0006】
そこで、本開示は、軽量化を図りながら優れた強度を保持することができる樹脂発泡板を提供することを課題とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本開示は次のような解決手段を講じた。すなわち、本開示に係る樹脂発泡板は、発泡成形による気泡を有する板本体を備えてよい。板本体は、2つ以上の孔と発泡樹脂部とを有してよい。2つ以上の孔の第1孔の幾何学的重心(以下、重心と称す。)と第1孔の重心に最も近い重心を有する第2孔の重心とを結んだ線上において、前記第1孔の重心と前記第2孔の重心までの平均距離W1と、第1孔の重心から第1孔と発泡樹脂部との境界までの平均距離W2と、第2孔の重心から第2孔と発泡樹脂部との境界までの平均距離W3とは、{0.3<(W2+W3)/(W1-(W2+W3))<2.3}を満たしてよい。
【0008】
本開示に係る樹脂発泡板によれば、軽量化を図りながら優れた強度を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る樹脂発泡板の構造を示す外観斜視図である。
【
図4】
図4は、樹脂発泡板の試験片を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態に係る樹脂発泡板は、発泡成形による気泡を有する板本体を備えてよい。板本体は、2つ以上の孔と発泡樹脂部とを有してよい。2つ以上の孔の第1孔の幾何学的重心(以下、重心と称す。)と第1孔の重心に最も近い重心を有する第2孔の重心とを結んだ線上において、前記第1孔の重心と前記第2孔の重心までの平均距離W1と、第1孔の重心から第1孔と発泡樹脂部との境界までの平均距離W2と、第2孔の重心から第2孔と発泡樹脂部との境界までの平均距離W3とは、{0.3<(W2+W3)/(W1-(W2+W3))<2.3}を満たしてよい。
【0011】
平均距離W1~W3のバランスを考慮することにより、樹脂発泡板は、気泡の気泡径を略均一にすることができる。これにより、樹脂発泡板は、発泡による軽量化を図りながら略均一な気泡によって樹脂発泡板の強度を向上させることができる。
【0012】
板本体の厚み方向に沿う断面において、板本体の厚みの45~55%の範囲に含まれる第1気泡の気泡径に基づくメジアン径D1と、板本体の表面側から厚みの0~5%の範囲に含まれる第2気泡の気泡径に基づくメジアン径D2とは、{0.2≦D2/D1≦2.0}を満たしてよい。
【0013】
これにより、第1気泡のメジアン径と第2気泡のメジアン径とを同程度、すなわち、略均一にすることができる。これにより、発泡による軽量化を図りながら樹脂発泡板の強度を向上させることができる。
【0014】
以下、本開示の樹脂発泡板1の実施形態について、
図1~4を用いて具体的に説明する。まず、
図1に示すように、樹脂発泡板1は、板本体2を備える。板本体2は、2つ以上の孔21と、発泡樹脂部22とを有している。なお、板本体2は、板状に限られず、円柱状、多角柱状、円錐状及び多角錐状等であってもよい。
【0015】
2つ以上の孔21は、板本体2の主面に沿って略平行に延びるよう形成されている。2つ以上の孔21は、
図2に示すように、2つ以上の孔21の長さ方向と直交する断面において、厚み方向に上下2段となるように配列されている。各々の孔21は、板本体2の一方の側面から、一方の側面に対向する他方の側面まで貫通するように開口形成されている。なお、孔21は、板本体2の主面に対して鉛直方向に延びるように形成してもよく、斜め方向に延びるように形成してもよい。また、孔21は、押出成形が容易な貫通孔である必要はなく、板本体2の表面に開口形成される非貫通孔であってもよく、或いは、板本体2の内部に形成される中空孔であってもよい。また、各々の孔21は、略四角形状の断面を有する。孔21の断面形状は略四角形に限られず、円形、楕円形又は多角形であってもよい。さらに、2つ以上の孔21の配列は、上述の上下2段に限られず、1段であってもよく、千鳥状等であってもよい。このように、孔21は、形状、サイズ又は設けられる位置などを種々変更することができる。
【0016】
図2に示すように、2つ以上の孔21は、孔21aと孔21bとを含む。孔21bは、孔21aの重心G1に最も近い重心G2を有する。このように、各々の孔21(21a)は、その重心G1に最も近い重心G2を有する孔21(21b)と組み合わせることができる。重心G1と重心G2とを結んだ線上において、重心G1と重心G2までの平均距離W1と、重心G1から孔21aと発泡樹脂部22との境界L1までの平均距離W2と、重心G2から孔21bと発泡樹脂部22との境界L2までの平均距離W3とは{0.3<(W2+W3)/(W1-(W2-W3))<2.3}を満たしている。
【0017】
平均距離W1~W3は、以下の方法によって算出される。
図2に示すように、2つ以上の孔21の長手方向に直交する方向、すなわち、板本体2の厚みに沿う方向に樹脂発泡板1を切断する。切断面には、2つ以上の孔21の断面形状が表れる。各々の孔21の断面形状において、各々の孔21の重心を求める。次に、1つの孔21aの重心G1と最も近い重心G2を有する他の孔21bを選定し、孔21aと孔21bとを組み合わせる。この重心G1と重心G2とを結んだ線上において、重心G1と重心G2までの距離w1と、重心G1から孔21aと発泡樹脂部22との境界L1までの距離w2と、重心G2から孔21bと発泡樹脂部22との境界L2までの距離w3を測定する。このようにして、各々の孔21(21a)と、各々の孔21(21a)の重心G1と最も近い重心G2を有する他の孔21(21b)とを組み合わせ、距離w1~w3を測定する。この際、孔21bは、孔21aと組合せになるとは限らない。孔21bの重心を重心G1とした場合、最も近い重心G2を有する他の孔21が存在し得るためである。一方で、孔21bの重心を重心G1とした場合であっても、孔21bが孔21aと組合せになることもある。このように同じ組合せができた場合、これらの組合せは1つとして数える。そして、全ての組合せにおいて、距離w1~w3を測定する。測定された全ての距離w1~w3を組合わせの数で割る。このようにして、平均距離W1~W3は算出される。
【0018】
比率R1である{(W2+W3)/(W1-(W2-W3))}が過小である、すなわち、平均距離W2及び平均距離W3に対して、孔21aと孔21bとの間に位置する発泡樹脂部22の平均距離幅が過大になると、温度が下がりにくいので粘度が下がるとともに、発泡時に発生したガス又は樹脂材料から分離したガスが空気中に放出されにくいため、気泡の気泡径が比較的大きくなる。そのため、板本体の厚みの外表面近傍に位置する気泡の気泡径と孔21aと孔21bとの間に位置する発泡樹脂部22の気泡の気泡径との間にバラツキが生じ、樹脂発泡板1の強度が低下する。一方、比率R1が過大になる、すなわち、平均距離W2及び平均距離W3に対して、孔21aと孔21bとの間に位置する発泡樹脂部22の平均距離幅が過小になると、孔21aと孔21bとの間の樹脂発泡部22が薄くなり、板本体2の厚み方向にかかる応力に対する強度が低下する。また、孔21aと孔21bとの間の樹脂発泡部22の平均距離幅が薄くなりすぎると成形性が悪化する。したがって、発泡樹脂部22に形成される気泡の気泡径を板本体の厚みの外表面近傍に位置する気泡の気泡径と同程度に小さく形成して略均一にし、樹脂発泡板1の強度を保持するためには、比率R1は、0.3以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.1以上とするのがよく、2.3以下、好ましくは1.9以下、より好ましくは1.5以下とするのがよい。
【0019】
このように、平均距離W1~W3のバランスを考慮することにより、樹脂発泡板1は、気泡の気泡径を略均一にすることができる。これにより、略均一な気泡によって板本体2の強度を向上させることができる。
【0020】
発泡樹脂部22は、ポリカーボネート樹脂を含んでいる。ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂及び不活性粒子の少なくともいずれか一方とのコンパウンド樹脂、或いは、共重合ポリカーボネート樹脂でもよい。他の樹脂は、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(PET樹脂、PBT樹脂、PEN樹脂、PCT樹脂)、PPS樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂及びシクロオレフィン樹脂である。他の樹脂は、単独でもよく2種類以上の併用でもよい。ポリカーボネート樹脂は、樹脂発泡板1の強度を向上させる観点から、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上とするのがよい。不活性粒子は、タルク、クレイ、シリカ、ガラスファイバー、炭素繊維、セルロース、炭酸カルシウム及び酸化チタン等である。不活性粒子は、単独でもよく2種類以上の併用でもよい。不活性粒子は、軽量化の観点から40重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下とするのがよい。
【0021】
また、発泡樹脂部22は、ポリカーボネート樹脂とともに、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂(PET樹脂、PBT樹脂、PEN樹脂、PCT樹脂等)、フッ素樹脂、ABS樹脂及びAS樹脂等を加えてブレンドしてもよい。その際、ポリカーボネート樹脂は、樹脂発泡板の強度を向上させる観点から、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上とするのがよい。
【0022】
一方、ポリカーボネート樹脂は、発泡倍率が乏しいため発泡しにくい。また、ポリカーボネート樹脂は、比較的高価である。そのため、ポリカーボネート樹脂は、100重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下とするのがよい。
【0023】
発泡樹脂部22は、発泡成形によって形成されている。そのため、発泡樹脂部22は、上述の通り、気泡を有している。気泡は、発泡成形によって発泡樹脂部22の内部において分散して形成されている。気泡は、
図3に示すように、厚みの45%~50%の範囲(中間層M)に位置する気泡22aと、厚みの外表面から0~5%の範囲(表面層S)に位置する気泡22bとを有する。気泡22aの気泡径に基づくメジアン径D1と気泡22bの気泡径に基づくメジアン径D2とは、{0.2≦D2/D1≦2.0}を満たしている。
【0024】
気泡22aのメジアン径D1及び気泡22bのメジアン径D2は、以下の方法により測定される。まず、板本体2の重心を通るように、板本体2を厚み方向に沿う方向に切断する。なお、板本体2が柔軟である等のために切断面の気泡が潰れる場合は、板本体2を液体窒素で冷却してから切断する。
図3を参照し、厚みの45~50%の範囲において、板本体2の幅方向の中心線Cから両端部に向かって10mmずつ計20mmの幅を持つ長方形の範囲を決定する。なお、板本体2の幅寸法が20mm未満である場合は、板本体2の幅を長方形の範囲の幅とする。測定は、光学顕微鏡を用いて行う。この長方形の範囲に含まれる気泡のうち、気泡径が大きいものから30個の気泡を選定する。このように選定された気泡の気泡径rは、各々の気泡の重心から円を広げていき、気泡の壁面に接したときの円の直径r1と、気泡の壁面に接しなくなるまで大きくなった円の直径r2との平均{r=(r1+r2)/2}によって求める。このように求められた各々の気泡の気泡径rからメジアン径D1が測定される。一方、メジアン径D2は、厚みの表面側から0~5%の範囲において、上述のメジアン径D1と同様に測定される。なお、厚みの表面側とは、主面の両側のうち、いずれか一方であってもよく両方であってもよい。
【0025】
比率R2である(D2/D1)が過小となる場合、及び、比率R2である(D2/D1)が過大となる場合、気泡22aのメジアン径D1と気泡22bのメジアン径D2との差が大きくなり、気泡22aの気泡径と気泡22bの気泡径との間にバラツキが生じ、樹脂発泡板1の強度が低下する。そのため、比率R2は、0.2以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上とするのがよく、2.0以下、好ましくは1.6以下、より好ましくは1.2以下とするのがよい。
【0026】
なお、本実施形態において、気泡22aのメジアン径D1は、5~200μmである。気泡22bのメジアン径D2は、1~100μmである。気泡22aのメジアン径D1と気泡22bのメジアン径D1は、これに限られるものではなく、樹脂発泡板1のサイズや形状に応じた発泡倍率によって種々変更され得る。
【0027】
発泡樹脂部22は、化学発泡剤又は物理発泡剤の少なくとも一方により発泡成形されている。化学発泡剤は、アゾジカルボンアミド、N,N’-ジニトロペンタメチレンテトラミン、4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等の有機系化学発泡剤、及び、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸亜鉛等の無機系化学発泡剤である。物理発泡剤は、窒素、二酸化炭素、空気、n-ブタン、アルゴン、ヘリウム等である。発泡剤は、これらに限られず、発泡条件等に応じて適宜変更することができる。また、発泡樹脂部2は、化学発泡剤又は物理発泡剤のいずれか一方を用いて発泡成形されてもよく、両方を用いて発泡成形されてもよい。
【0028】
このように、気泡22aのメジアン径D1と気泡22bのメジアン径D2とを同程度とする、すなわち、気泡の気泡径を略均一にすることにより、樹脂発泡板1の強度を向上させることできる。これにより、発泡による軽量化を図りながら樹脂発泡板1全体としての強度を向上させることができる。なお、2以上の孔21を設けたことによっても軽量化し得る。
【0029】
(樹脂発泡板1の製造方法)
次に、樹脂発泡板1の製造方法について、具体的に説明する。
【0030】
樹脂発泡板1は、異形押出成形法によって成形される。具体的には、まず、スクリュー等の押出機において、ポリカーボネート樹脂のペレットと他の樹脂、例えば、ポリプロピレン樹脂などのペレットとを加熱して溶融し、ポリカーボネート樹脂が50重量%以上となるように混合して溶融樹脂材料を生成する。さらに、押出機において、生成した溶融樹脂材料に化学発泡剤及び物理発泡剤の少なくとも一方の発泡剤を注入し、溶融樹脂材料と発泡剤とを混合する。
【0031】
次に、発泡剤を混合した溶融樹脂材料をダイスに流し込み、ダイスを通過させることにより徐々に温度を低下させながら樹脂発泡板1を成形する。ダイスは、溶融樹脂材料を押し出す方向に開口している。ダイスの開口面には、2つ以上の孔21を形成するための隔壁が配列されている。これにより、樹脂発泡板1には、押出方向に沿って平行に延びる2つ以上の孔21が形成される。同時に、発泡剤を混合した溶融樹脂材料には、ダイスを通過した際の圧力低下によって気泡が生成される。これにより、樹脂発泡板1は、発泡成形される。
【0032】
次に、成形された樹脂発泡板1を冷却槽で冷却させながら形状を整える。この状態で、樹脂発泡板1は、連続した板状に形成されている。そのため、連続した板状の樹脂発泡板1を所定の寸法に切断する。このようにして、樹脂発泡板1は作製される。
【0033】
樹脂発泡板1を成形する方法は、異形押出成形法に限られず、射出成形などその他の成形方法であってもよい。また、樹脂発泡板1を発泡成形する方法は、樹脂発泡板1の成形方法に応じて適宜変更すればよい。
【0034】
上記の実施形態では、板本体2の発泡樹脂部22は、ポリカーボネート樹脂を含んでいる。発泡樹脂部22を形成する樹脂は、ポリカーボネート樹脂に限られず、他の樹脂であってもよい。発泡樹脂部22は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を含んでもよい。これにより、樹脂発泡板1は、耐溶剤性の向上及び低誘電率特性を求められる場合に耐アルカリ性の向上を図ることができる。発泡樹脂部22は、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含んでよい。これにより、樹脂発泡板1は、耐アルカリ性の向上を図ることができる。樹脂発泡部22は、LCP樹脂を含んでもよい。これにより、発泡樹脂板1は、耐溶剤性の向上を図ることができる。
【0035】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0036】
(実施例)
実施例1~3の試験片と比較例1~3の試験片とを作製し、見かけの比重と曲げ強度とを測定した。実施例1~3の試験片及び比較例1~3の試験片は各々、同じ樹脂材料と同じ発泡剤とを用いて、上述の通り、押出発泡成形により作製した。各々の試験片は、板状であり、200mmの長さと、20mmの幅を有している。各々の試験片は、
図4に示すような四角形状の断面を有する2つ以上の孔21(貫通孔)を有している。2つ以上の孔21は、各々の試験片の長さ方向に主面に沿って略平行に延び、各々の試験片の幅方向に亘って並設されている。また、下記表2に示すように、各々の試験片は、孔21の幅t1、孔の高さt2、孔21よりも上方に位置する発泡樹脂部22の厚みt3、孔21よりも下方に位置する発泡樹脂部22の厚みt4、平均距離W1~W3を有している。なお、表1に示す数値の単位は「mm」である。なお、実施例1~3及び比較例1~3に用いられた樹脂材料は、ポリカーボネート樹脂(帝人製パンライトL1250Y)である。
【0037】
【0038】
(比重の測定)
見かけの比重(g/mm3)は、水中置換式密度比較測定により、アルファミラージュ製の「MDS-300」を用いて測定した。
【0039】
(曲げ強度試験)
曲げ強度は、各々の試験片の寸法を上述の通りとし、株式会社島津製作所製の「AGS-H 500N」を用いた3点曲げ試験により、測定した(JIS K6911参考)。曲げ強度試験において、支点間距離は100mmであり、クロスヘッドの移動速度は3mm/minであり、測定環境温度は25℃(±2℃)であり、測定環境湿度は50%RH(±5%RH)である。具体的に、曲げ強度試験は、互いに略平行に延びる2つ以上の孔21に対して試験片の主面側から視て直交する方向に、加圧くさいで試験片を加圧することにより行った。加圧くさびは、「JIS K6911」に準拠し、先端に5±1mmの丸みを持った金属製のものを使用した。試験結果を表2に示す。
【0040】
【0041】
表2に示すように、実施例1の試験片の比率R1は、上述の表1に示す寸法から算出され、1.0となる。実施例1の試験片の比率R2は、上述のメジアン径の測定方法によって測定した結果、1.0となった。このように、実施例1の試験片は、比率R1を1.0とすることにより、気泡のメジアン径D1と気泡のメジアン径D2とを均一化することができた。一方、比較例1の試験片の比率R1は、比較的小さい0.2となる。また、比較例2の試験片の比率R1は、比較的大きい3.2となる。比較例1の試験片の比率R2及び比較例2の試験片の比率R2は各々、0.1及び0.3となった。すなわち、比較例1の試験片及び比較例2の試験片は、気泡のメジアン径D1と気泡のメジアン径D2との間に大きなバラツキが生じた。
【0042】
実施例1の試験片と比較例1の試験片とを比較すると、実施例1の試験片は、{W1-(W2+W3)}の式を算出することによって得られる発泡樹脂部22の平均距離幅が比較例1の試験片よりも小さい。そのため、実施例1の試験片の比重は、比較例1の試験片よりもやや軽くなる。一方、実施例1の試験片の曲げ強度は、上述の平均距離幅が比較例1の試験片よりも小さいにもかかわらず、比較例1の試験片よりも強くなっている。このように、実施例1の試験片の曲げ強度が強くなるのは、発泡によって形成される気泡が均一化されたことにより、気泡のバラツキによって生じる強度の低下を抑制できたためと考えられる。
【0043】
実施例1の試験片と比較例2の試験片とを比較すると、実施例1の試験片は、上述の発泡樹脂部22の平均距離幅が比較例1の試験片よりも大きい。そのため、実施例1の試験片の比重は、比較例2の試験片よりも重くなった。しかしながら、実施例1の試験片は、比較例2の試験片に比べて2倍以上の曲げ強度を有し、著しく強くなった。このように、実施例1の試験片の曲げ強度が著しく強くなったのは、比率R1を1.0とし、且つ、気泡を均一化できたためであると考えられる。
【0044】
実施例2の試験片及び3の試験片は各々、比較例1の試験片に比べて約20~30%程度の軽量化を図れており、比較例1の試験片と同程度の強度を有している。また、実施例2の試験片及び実施例3の試験片は各々、比較例2の試験片と比べると、実施例1の試験片と同様に、比重は重くなるものの曲げ強度が著しく強くなった。このように、比率R1を0.4とした実施例2の試験片であっても、比率R1を2.2とした実施例3の試験片であっても、比較例1の試験片及び比較例2の試験片に比べて気泡の均一化を図ることができたため、実施例1に近い効果を得ることができた。
【0045】
このように、実施例1~3の試験片は、比率R1を上記の値とする、すなわち、平均距離W1~W3のバランスを考慮して作製したことにより、気泡の均一化を図ることができ、軽量化と強度の向上とをバランスよく両立させることができた。なお、2以上の孔21を設けたことによっても軽量化を図れるものと考えられる。
【0046】
次に、実施例2の試験片と比較例3の試験片とを比較する。比較例3の試験片は、表1に示すように実施例2の試験片よりも各寸法を大きくして作製した。実施例2の試験片と比較例3の試験片は、相似形である。そのため、比較例3の試験片の比率R1は、実施例2の試験片と同じである。しかしながら、比較例3の試験片は、比率R2が0.1となり、気泡の大きさにバラツキが生じた。これは、比較例3の試験片では、上述の平均距離幅が実施例2の試験片よりも大きくなるためと考えられる。すなわち、上述の平均距離幅が大きくなると、発泡樹脂部22の肉厚が大きくなるため、発泡時に温度が下がりにくく粘度が下がるとともに、発泡時に発生したガス又は樹脂材料から分離したガスが空気中に放出されにくくなり、気泡のメジアン径D1が大きくなるためと考えれる。そのため、比較例3の試験片の強度は、実施例2の試験片よりも25%も低下した。このように、比率R1だけでなく比率R2をも考慮することにより、軽量化を図りながら強度を向上させることができるものと考えられる。
【0047】
発泡樹脂板は、低誘電率特性や耐溶剤性が求められる場合がある。そのために、ポリカーボネート樹脂(PC)以外の従来では発泡成形が困難であった樹脂を用いてもよい。そのような観点から、上記実施例1の試験片と新たに追加した実施例4~6とを用いて、樹脂発泡板の耐溶剤性及び耐アルカリ性について試験を行なった。実施例1の試験片は、上記の通り樹脂材料としてポリカーボネート樹脂を用いている。実施例4の試験片は、樹脂材料としてポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いている点でのみ実施例1と異なる。実施例5の試験片は、樹脂材料としてシンジオタクチックポリスチレン(SPS)を用いている点でのみ実施例1の試験片と異なる。実施例6の試験片は、樹脂材料としてLCP樹脂を用いている点でのみ実施例1の試験片と異なる。なお、本試験では、ポリフェニレンサルファイド(PPS)としてガラス繊維を30%含む樹脂コンパウンドであるDIC株式会社製Z-230を、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)としてガラス繊維を30%含む樹脂コンパウンドである出光興産株式会社製XAREC S135)を、LCP樹脂として30%のガラス繊維と25%のタルクを含む住友化学株式会社製のスミカスーパーE5006Lを用いた。なお、実施例4~6の試験片は、ガラス繊維を30%含まれているが、他の繊維を含んでも、或いは、ガラス繊維を含まなくとも、下記試験の結果に影響はない。
【0048】
耐溶剤性試験は、トルエンによって樹脂発泡板が溶解したり表面が腐食したりするかどうかを確認することにより行った。具体的に、耐溶剤性試験は、JISK7114-2001を参考にした。実施例1及び実施例4~6に関して200mm×60mmの試験片を準備し、トルエンに還流条件下で100時間浸漬し、その後試験片を取り出して上記の3点曲げ試験と同様にサンプルを切り出して試験を行い、浸漬前の試験片と浸漬後の試験片とにおいて曲げ強度がどの程度低下したかを確認することにより行った。なお、実施例4~6の試験片の厚み及び厚み方向に沿う断面形状は、
図4に示す実施例1の試験片と同じである。本試験では、曲げ強度の低下率が10%以下となる場合を耐溶剤性に優れているとして「〇」とし、曲げ強度の低下率が10%よりも大きくなる場合を「×」とした。
【0049】
また、耐アルカリ性試験は、JISK7114-2001に基づき、実施例1及び実施例4~6の試験片を10%水酸化ナトリウム水溶液に55℃±2℃の条件下で30日間浸漬し、その後試験片を取り出して上記の3点曲げ試験を行い、浸漬前の試験片と浸漬後の試験片とにおいて曲げ強度がどの程度低下したかを確認することにより行った。本試験では、曲げ強度の低下率が10%以下となる場合を耐アルカリ性に優れているとして「〇」とし、曲げ強度の低下率が10%よりも大きくなる場合を「×」とした。
【0050】
【0051】
表3に示すように、実施例4の試験片では、耐溶剤性が「〇」、耐アルカリ性が「〇」となった。すなわち、発泡樹脂部がポリフェニレンサルファイド(PPS)を含むことにより、耐溶剤性及び耐アルカリ性が向上することが分かった。実施例5の試験片では、耐アルカリ性が「〇」となった。すなわち、発泡樹脂部がシンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含むことにより、耐アルカリ性が向上することが分かった。実施例5の試験片では、耐溶剤性が「〇」となった。すなわち、発泡樹脂部がLCP樹脂を含むことにより、耐溶剤性が向上することが分かった。
【0052】
1 樹脂発泡板、2 板本体、21・22a・22b 孔、22 発泡樹脂部、22a・22b 気泡、G1・G2 重心、W1~W3 平均距離、L1・L2 境界、S 範囲、M 範囲