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特許7376657環状金属シール、環状金属シールの取付構造及び環状金属シールの取付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】環状金属シール、環状金属シールの取付構造及び環状金属シールの取付方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
F16J15/08 K
F16J15/08 G
F16J15/08 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022151396
(22)【出願日】2022-09-22
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏原 一之
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 聡
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/161029(WO,A1)
【文献】特開2013-148201(JP,A)
【文献】特開2001-82609(JP,A)
【文献】特開2013-221525(JP,A)
【文献】特開平11-22826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられて変形する環状金属シールであって、
環状のシール本体と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の外周側隅角部に対応する上下一対の先細の第1突条と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の内周側隅角部に対応する上下一対の先細の第2突条と、
前記シール本体の外径側及び内径側の少なくとも一方の側面より膨出する位置決め用突起とを備え、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さと上下一対の第1突条の上下中心からの高さとが異なる
ことを特徴とする環状金属シール。
【請求項2】
前記位置決め用突起は、前記シール本体の外径側の側面より膨出し、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さは、上下一対の第1突条の上下中心からの高さよりも低い
ことを特徴とする請求項1に記載の環状金属シール。
【請求項3】
環状金属シールが、第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられて変形することにより、環状金属シールの内側と外側とがシールされる環状金属シールの取付構造であって、
前記環状金属シールは、
環状のシール本体と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の外周側隅角部に対応する上下一対の先細の第1突条と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の内周側隅角部に対応する上下一対の先細の第2突条と、
前記シール本体の外径側及び内径側の少なくとも一方の側面より膨出する位置決め用突起とを備え、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さと上下一対の第1突条の上下中心からの高さとが異なり、
前記第1部材と前記第2部材とを締め付けて前記環状金属シールを変形させることにより、前記環状金属シールの内側と外側とがシールされている
ことを特徴とする環状金属シールの取付構造。
【請求項4】
前記位置決め用突起は、前記シール本体の外径側の側面より膨出し、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さは、上下一対の第1突条の上下中心からの高さよりも低い
ことを特徴とする請求項3に記載の環状金属シールの取付構造。
【請求項5】
環状金属シールが、第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられて変形することにより、環状金属シールの内側と外側とをシールする環状金属シールの取付方法であって、
環状のシール本体と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の外周側隅角部に対応する上下一対の先細の第1突条と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の内周側隅角部に対応する上下一対の先細の第2突条と、
前記シール本体の外径側及び内径側の少なくとも一方の側面より膨出する位置決め用突起とを備え、
前記位置決め用突起が、前記シール本体の外径側の側面より膨出し、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さが、上下一対の第1突条の上下中心からの高さよりも低い環状金属シールを準備し、
前記位置決め用突起を前記シール溝の外側側面に当接させ、前記シール溝の外周側隅角部から前記シール本体の下面の第1突条を離した状態で、前記シール溝に前記環状金属シールを嵌め込み、
前記第1部材と前記第2部材とを締め付けて前記環状金属シールを変形させて環状金属シールの内側と外側とをシールする
ことを特徴とする環状金属シールの取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状金属シール、環状金属シールの取付構造及び環状金属シールの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、図4(a)に示すように、相互に平行な一対の平坦面201,202の間に介装される全体が環状の金属シール210において、中間基部210aと、上側の平坦面202に当接する第1接触凸部214と、下側の平坦面201に当接する第2接触凸部211とを備え、第1接触凸部214を中間基部210aの内径寄りに突設し、第2接触凸部211を中間基部210aの外径寄りに突設して、装着圧縮状態にて一対の平坦面201,202から受ける押圧力によって、中間基部210aを中心に回転する捩れ弾性変形を生ずるように構成された環状金属シール210は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4091373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば図4(b)に示すように、この環状金属シール210は、上下面に非対称に配置されたR状突条(第1接触凸部214及び第2接触凸部211)と、角部212,213とが上下のフランジ(平坦面201,202)に接触して以降、金属材料を塑性変形させながら、上下のフランジに対する反力を起こさせることから、非常に高い圧縮荷重が必要となるため、上下のフランジに対するダメージが大きく、また、締め付けに使用する締付ボルトへの負荷が大きくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第1部材及び第2部材へのダメージ及び締付ボルトへの負荷を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、環状金属シールの上下面の突条形状に工夫を加えた。
【0007】
具体的には、
第1の発明では
1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられて変形する環状金属シールを対象とし、
前記環状金属シールは、
環状のシール本体と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の外周側隅角部に対応する上下一対の先細の第1突条と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の内周側隅角部に対応する上下一対の先細の第2突条と、
前記シール本体の外径側及び内径側の少なくとも一方の側面より膨出する位置決め用突起とを備え、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さと上下一対の第1突条の上下中心からの高さとが異なる。
【0008】
ここで、「先細の」という意味は、突条の根元に比べて先端が細くなっていることを意味する。上記の構成によると、環状のシール本体の上下面から突出する先細の第1突条及び第2突条は、環状金属シールが第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられたときに、先端から潰れるように変形するので、先細でない突条に比べて変形に要する荷重が少なくて済み、第1部材及び第2部材へのダメージ及び締付ボルトへの負荷が低減される。上下面の第1突条及び第2突条の両方が変形してシール性能を発揮するので、第1部材と第2部材との間の漏れが確実に防止される。さらに、位置決め用突起が、シール溝内面と第1突条又は第2突条との間の距離を保つので、シール溝の隅角部のR部との干渉が防止され、シール性能が安定する。また、上下一対の第2突条の上下中心からの高さと上下一対の第1突条の上下中心からの高さとが異なるようにしているので、落下時やハンドリング時に外部と接触したときに高さの低い方の突条に傷が付きにくく、高さの高い方の突条に傷が付いた場合でも、高さの低い方の上下の突条でシール性能が確保される。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、
前記位置決め用突起は、前記シール本体の外径側の側面より膨出し、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さは、上下一対の第1突条の上下中心からの高さよりも低い。
【0010】
上記の構成によると、位置決め用突起によってシール溝内面と第1突条との間の距離が保たれ、シール溝の隅角部のR部との干渉が防止され、シール性能が安定する。また、内径側の第2突条の方が、外径側の第1突条よりも高さが低いので、落下時やハンドリング時に外部と接触したときに第2突条に傷が付きにくく、第1突条に傷が付いた場合でも、上下の第2突条でシール性能が確保される。
【0011】
第3の発明の環状金属シールの取付構造では、
環状金属シールが、第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられて変形することにより、環状金属シールの内側と外側とがシールされる環状金属シールの取付構造であって、
前記環状金属シールは、
環状のシール本体と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の外周側隅角部に対応する上下一対の先細の第1突条と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の内周側隅角部に対応する上下一対の先細の第2突条と、
前記シール本体の外径側及び内径側の少なくとも一方の側面より膨出する位置決め用突起とを備え、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さと上下一対の第1突条の上下中心からの高さとが異なり、
前記第1部材と前記第2部材とを締め付けて前記環状金属シールを変形させることにより、前記環状金属シールの内側と外側とがシールされている。
【0012】
上記の構成によると、環状のシール本体の上下面から突出する先細の第1突条及び第2突条は、環状金属シールが第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられたときに、先端から潰れるように変形するので、先細でない突条に比べて変形に要する荷重が少なくて済み、第1部材及び第2部材へのダメージ及び締付ボルトへの負荷が低減される。上下面の第1突条及び第2突条の両方が変形してシール性能を発揮するので、第1部材と第2部材との間の漏れが確実に防止される。さらに、位置決め用突起が、シール溝内面と第1突条又は第2突条との間の距離を保つので、シール溝の隅角部のR部との干渉が防止され、シール性能が安定する。また、上下一対の第2突条の上下中心からの高さと上下一対の第1突条の上下中心からの高さとが異なるようにしているので、落下時やハンドリング時に外部と接触したときに高さの低い方の突条に傷が付きにくく、高さの高い方の突条に傷が付いた場合でも、高さの低い方の上下の突条でシール性能が確保される。
【0013】
第4の発明では、第3の発明において、
前記位置決め用突起は、前記シール本体の外径側の側面より膨出し、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さは、上下一対の第1突条の上下中心からの高さよりも低い。
【0014】
上記の構成によると、位置決め用突起によってシール溝内面と第1突条との間の距離が保たれ、シール溝の隅角部のR部との干渉が防止され、シール性能が安定する。また、内径側の第2突条の方が、外径側の第1突条よりも高さが低いので、落下時やハンドリング時に外部と接触したときに第2突条に傷が付きにくく、第1突条に傷が付いた場合でも、上下の第2突条でシール性能が確保される。
【0015】
第5の発明の環状金属シールの取付方法は、
環状金属シールが、第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられて変形することにより、環状金属シールの内側と外側とをシールする環状金属シールの取付方法であって、
環状のシール本体と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の外周側隅角部に対応する上下一対の先細の第1突条と、
前記シール本体の上面及び下面からそれぞれ突出し、前記シール溝の内周側隅角部に対応する上下一対の先細の第2突条と、
前記シール本体の外径側及び内径側の少なくとも一方の側面より膨出する位置決め用突起とを備え、
前記位置決め用突起が、前記シール本体の外径側の側面より膨出し、
上下一対の第2突条の上下中心からの高さが、上下一対の第1突条の上下中心からの高さよりも低い環状金属シールを準備し、
前記位置決め用突起を前記シール溝の外側側面に当接させ、前記シール溝の外周側隅角部から前記シール本体の下面の第1突条を離した状態で、前記シール溝に前記環状金属シールを嵌め込み、
前記第1部材と前記第2部材とを締め付けて前記環状金属シールを変形させて環状金属シールの内側と外側とをシールする構成とする。
【0016】
上記の構成によると、環状のシール本体の上下面から突出する先細の第1突条及び第2突条は、環状金属シールが第1部材の環状のシール溝に嵌め込まれた状態で、第2部材で押さえ付けられたときに、先端から潰れるように変形するので、先細でない突条に比べて変形に要する荷重が少なくて済み、第1部材及び第2部材へのダメージ及び締付ボルトへの負荷が低減される。上下面の第1突条及び第2突条の両方が変形してシール性能を発揮するので、第1部材と第2部材との間の漏れが確実に防止される。また、位置決め用突起によってシール溝内面と第1突条との間の距離が保たれ、シール溝の隅角部のR部との干渉が防止され、シール性能が安定する。さらに、内径側の第2突条の方が、外径側の第1突条よりも高さが低いので、落下時やハンドリング時に外部と接触したときに第2突条に傷が付きにくく、第1突条に傷が付いた場合でも、上下の第2突条でシール性能が確保される。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、第1部材及び第2部材へのダメージ及び締付ボルトへの負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る環状金属シールを含む環状金属シールの取付構造を示す断面図である。
図2】環状金属シールを示す拡大断面図である。
図3】実施例及び比較例に係る荷重特性を示すグラフである。
図4】比較例に係る環状金属シールに係る圧縮挙動を解析した結果を示す図であり、(a)が圧縮前を示し、(b)が圧縮中を示す。
図5】実施例に係る環状金属シールに係る圧縮挙動を解析した結果を示す図であり、(a)が圧縮前を示し、(b)が圧縮中を示す。
図6】その他の実施形態に係る環状金属シールの図2相当図である。
図7】従来技術に係る環状金属シールを含む環状金属シールの取付構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る環状金属シール10を含む、環状金属シールの取付構造3を示す。
【0021】
この環状金属シールの取付構造3において、環状金属シール10が、第1部材1の環状のシール溝4に嵌め込まれた状態で、第2部材2で押さえ付けられて変形することにより、環状金属シール10の内側Aと外側Bとがシールされている。本実施形態では、第1部材1及び第2部材2の構成は具体的には説明しないが、例えば、一対の配管の接続部分における環状のフランジ部分であり、第1部材1の第1ボルト通孔1a及び第2部材2の第2ボルト挿通孔2aに図示しない締付ボルトを相通してナットに締め付けるように構成されている。
【0022】
図2に拡大して示すように、本実施形態の環状金属シール10は、例えば、上下面に、先端に向かって先細となる第1突条11,12及び第2突条13,14が突出したシール本体10aを有する。環状金属シール10は、例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金、銅等よりなる。
【0023】
具体的には、環状金属シール10は、環状のシール本体10aと、このシール本体10aの上面及び下面からそれぞれ突出し、シール溝4の外周側隅角部R1に対応する上下一対の先細の第1突条11,12と、シール本体10aの上面及び下面からそれぞれ突出し、シール溝4の内周側隅角部R2に対応する上下一対の先細の第2突条13,14とを備えている。ここで、「先細の」という意味は、突条の根元に比べて先端が細くなっていることを意味する。
【0024】
そして、上下一対の第2突条13,14の上下中心Cからの高さと上下一対の第1突条11,12の上下中心Cからの高さとが異なっている。本実施形態では、特に、上下一対の第2突条13,14の上下中心Cからの高さは、上下一対の第1突条11,12の上下中心Cからの高さよりhだけ低い。本実施形態では、例えば、上下一対の第1突条11,12の上下中心Cからの高さが0.400mm、上下一対の第2突条13,14の上下中心Cからの高さが0.375mmで、h=0.025mmである。
【0025】
そして、本実施形態の環状金属シールの取付構造3では、図1に示すように、環状金属シール10の外径側側面10bに位置決め用突起20が膨出している。
【0026】
このように、シール本体10aは、概ね断面X状であり、位置決め用突起20が、シール本体10aの外径側側面10bの高さ方向中間に設けられている。位置決め用突起20の上下中心Cからの高さは、例えば、0.3mmであり、第1突条11の先端から位置決め用突起20の外径側側面10bまでの幅Wは例えば、0.20mmで、外径側隅角R1の半径r0が0.1mmであることから、W>r0となっている。
【0027】
本実施形態の環状金属シールの取付構造3では、位置決め用突起20がシール溝4の内側側面4aに当接し、シール溝4の外径側隅角R1からシール本体10aの先細の第1突条11を離した状態で、シール溝4に環状金属シール10が嵌め込まれ、第1部材1と第2部材2とを締め付けて環状金属シール10を変形させることにより、環状金属シール10の内側Aと外側Bとがシールされている。
【0028】
そして、シール溝4の内側側面4aと、尖った突条11の先端との間にシール溝4の外径側隅角R1との接触を防止する隙間Sが設けられている。本実施形態では、隙間Sは、0.2mm以上保たれている(S>r0)。
【0029】
-環状金属シールの取付方法-
まず、上述した環状金属シール10を準備する。
【0030】
次いで、図1に示すように、位置決め用突起20をシール溝4の内側側面4aに当接させ、シール溝4の外径側隅角R1からシール本体10aの第1突条11を離した状態で、シール溝4に環状金属シール10を嵌め込む。このとき、位置決め用突起20がシール溝4の内側側面4aに当接し、位置決め用突起20の半径方向の突出量Wが、シール溝4の外径側隅角R1の半径r0の大きさ以上であることから(W≧r0)、環状金属シール10の第1突条11が確実に外径側隅角R1から距離を離される。
【0031】
次に、第1部材1と第2部材2とを締付ボルト等により締め付けて環状金属シール10を変形させて環状金属シール10の内側Aと外側Bとをシールする。
【0032】
このとき、上下面の第1突条11,12及び第2突条13,14の両方が変形してシール性能を発揮するので、第1部材1と第2部材2との間の漏れが確実に防止される。
【0033】
-実施例-
第1部材1と第2部材2とを締め付けるときに加わる荷重についてFEM(有限要素法)解析を行った。解析モデルは、2次元軸対称解析とし、材料は、ステンレス鋼及びその他類似の機械特性を有する金属材料とした。解析方法は、比較例として、図4に示す形状の環状金属シール210に対応するモデルを設定し、実施例として、上記実施形態に係る環状金属シール10のモデルを設定した。そして、それらのモデルの上下面にそれぞれ第1部材1及び第2部材2に対応する上下一対の圧縮板を配置した。
【0034】
そして、上下一対の圧縮板の間隔(セット高さ)を狭め、比較例に係る環状金属シール210及び実施例に係る環状金属シール10に対応するモデルの環状金属シールをそれぞれ変形させた。具体的には、比較例及び実施例について、初期高さからセット高さ0.70mmまで圧縮させた。
【0035】
そのときに上下一対の圧縮板に生じる反力とセット高さの相関をプロットしたのが、図3に示す荷重特性である。
【0036】
図4(b)に示すように、比較例の環状金属シール210は、上下面に非対称に配置されたR状突条(第1接触凸部214及び第2接触凸部211)と、角部212,213とが上下のフランジ(平坦面201,202)に接触して以降、金属材料を塑性変形させながら、上下のフランジに対する反力を起こさせることから、比較例の環状金属シール210は、傾くようにしながら先端が大きく変形し、図3に示すように、非常に高い圧縮荷重が必要となった。このため、上下のフランジに対するダメージが大きく、また、締付に使用する締付ボルトへの負荷が大きくなる。
【0037】
一方で、図5(b)に示すように、実施例に係るモデルでは、比較例のように大きく傾くことなく、第1突条11,12及び第2突条13,14の先細となった先端側のみが潰れた。このため、図3に実線で示すように、比較例の傾きに比べて小さい傾きの荷重特性が得られた。すなわち、同じセット高さにおける圧縮荷重が大いに低減された。
【0038】
一方、図7に示す、位置決め用突起20のない従来例では、第1部材101の第1平面101aと第2部材102の第2平面102aとの間に挟持され、第1平面101aと第2平面102aを相互に近づけることによって押圧される環状金属シール110を有する環状金属シールの取付構造103となる。
【0039】
例えば、図7に示すように、従来の位置決め用突起20のない環状金属シール110は、第1部材101に掘られたシール溝104に嵌め込んで使用され、環状金属シール110の尖った突条111~114のうちの1つの突条111がシール溝104の外径側隅角部R1に当接する。シール溝104の外径側隅角部R1は、機械加工でシール溝104を加工する場合、通常は、避けられない形状である。このため、以下のような問題が生じ得る。
【0040】
(1)締付時に環状金属シール110の位置が安定せず、正常に反力又は接触面圧が立たない。
【0041】
(2)外径側隅角R1で半径方向に滑り、密封すべき領域をつなぐパス方向に傷が付き、漏れの原因となる。
【0042】
しかしながら、本実施形態に係る環状金属シール10では、図1に示すように、位置決め用突起20によってシール溝4の内側側面4aと第1突条11との間に隙間Sが保たれ、シール溝4の外径側隅角R1との干渉が防止される。このため、締付時に環状金属シール10の位置が安定し、正常に反力又は接触面圧が立つ。また、外径側隅角R1で半径方向に滑ることがなく、密封すべき領域をつなぐパス方向の傷が付かず、漏れが発生せず、シール性能が安定する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態では、環状のシール本体10aの上下面から突出する先細の第1突条11,12及び第2突条13,14は、環状金属シール10が第1部材1の環状のシール溝4に嵌め込まれた状態で、第2部材2で押さえ付けられたときに、先端から潰れるように変形するので、図4で示したような先細でない比較例のR状突条に比べて変形に要する荷重が少なくて済み、第1部材1及び第2部材2へのダメージ及び締付ボルトへの負荷が低減される。
【0044】
さらに、内径側の第2突条13,14の方が、外径側の第1突条11,12よりも高さが低いので、落下時やハンドリング時に外部と接触したときに内径側のより高さの低い第2突条13,14に傷が付きにくく、仮に第1突条11,12に傷が付いた場合でも、上下の第2突条13,14でシール性能が確保される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1部材1及び第2部材2へのダメージ及び締付ボルトへの負荷を低減することができる。
【0046】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0047】
すなわち、上記実施形態では、位置決め用突起20は、シール本体10aの外径側側面10bに膨出させたが、図6に示す環状金属シール10’のように、位置決め用突起20’をシール本体10a’の内径側の内側側面に膨出させてもよい。この場合も、落下時等の傷を防止する目的で、内径側の第2突条13’,14’の方が、外径側の第1突条11’,12’よりも上下中心Cからの高さが低いのが望ましい。なお、位置決め用突起は、外径側及び内径側の両側面に膨出させてもよいのはもちろんである。
【0048】
上記実施形態では、内径側の上下一対の第2突条13,14の上下中心Cからの高さを、外径側の上下一対の第1突条11,12の上下中心Cからの高さよりも低くしたが、内径側の上下一対の第2突条13,14の上下中心Cからの高さが、外径側の上下一対の第1突条11,12の上下中心Cからの高さよりも高くてもよい。この場合でも、落下時やハンドリング時に外部と接触したときに高さの低い方の突条に傷が付きにくく、高さの高い方の突条に傷が付いた場合でも、高さの低い方の上下の突条でシール性能が確保される。しかし、外部との接触をより回避しやすい内径側の上下一対の第2突条13,14の上下中心Cからの高さを低くする方が、確実に損傷を防止でき、少なくとも上下一対の第2突条13,14によるシール性能を確保できるので、有利である。
【0049】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0050】
1 第1部材
1a 第1ボルト通孔
2a 第2ボルト挿通孔
2 第2部材
3 取付構造
4 シール溝
4a 内側側面
10 環状金属シール
10a シール本体
10b 外径側側面
11,12 第1突条
13,14 第2突条
20 位置決め用突起
101 第1部材
101a 第1平面
102 第2部材
102a 第2平面
103 取付構造
104 シール溝
110 環状金属シール
111~114 突条
201,202 平坦面
210 環状金属シール
211 第2接触凸部
212,213 角部
214 第1接触凸部
【要約】
【課題】第1部材及び第2部材へのダメージ及び締付ボルトへの負荷を低減する。
【解決手段】第1部材1の環状のシール溝4に嵌め込まれた状態で、第2部材2で押さえ付けられて変形する環状金属シール10は、環状のシール本体10aと、シール本体10aの上面及び下面からそれぞれ突出し、シール溝4の外周側隅角部R1に対応する上下一対の先細の第1突条11,12と、シール本体10aの上面及び下面からそれぞれ突出し、シール溝4の内周側隅角部R2に対応する上下一対の先細の第2突条13,14と、シール本体10aの外径側及び内径側の少なくとも一方の側面より膨出する位置決め用突起20とを備え、上下一対の第2突条13,14の上下中心Cからの高さと上下一対の第1突条11,12の上下中心Cからの高さとが異なる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7