(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】M1マクロファージを有効成分として含む癌細胞標的型薬物送達体及び光熱治療効果増進用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20231031BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20231031BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20231031BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/704
A61K35/15
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2022502456
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 KR2020009173
(87)【国際公開番号】W WO2021010698
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0084665
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ペク スン クク
(72)【発明者】
【氏名】イム ヌ リ
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/232334(WO,A1)
【文献】DRUG DELIVERY,2018年,Vol. 25, No. 1,pp. 1922-1931
【文献】Annals of Biomedical Engineering,2012年,Vol. 40, No. 2,pp. 507-515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)
単離された未分化マクロファージにPMA(Phorbol-12 Myristate 13-Acetate)を処理してM0マクロファージ状態に誘導する工程と、
(2)前記M0マクロファージに
100~400μg/mlの濃度でIFN-γ(Interferon gamma)を
24~48時間処理してM1マクロファージに分化誘導する工程と、
(3)光感応物質の最終濃度1ug/mlの混合物に抗癌剤を最終濃度2.5ug/mlとなるように混合した混合物を準備する工程と、
(4)前記M1マクロファージの培養液に前記混合物を入れた後、オービタルシェーカーを用いて常温で2時間の間、M1マクロファージに光感応物質及び抗癌剤の含浸を誘導する工程と、
(5)前記混合物とM1マクロファージとが混合された培養液を遠心分離して上澄み液を除去し、光感応物質及び抗癌剤が含浸されたM1マクロファージを取得する工程と、
を含む、癌細胞標的型抗癌用のM1マクロファージの製造方法であって、
前記光感応物質はPLGA-core gold nanoshellであり、前記抗癌剤はドキソルビシン(doxorubicin)である、癌細胞標的型抗癌剤の製造方法。
【請求項2】
(1)
の工程後にM0マクロファージを3~9日間休止させる工程をさらに含むことを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法で製造されたM1マクロファージを有効成分として含む癌細胞標的型抗癌剤組成物であって、癌組織周辺への局所投与用であることを特徴とする、癌細胞標的型抗癌剤組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の方法で製造されたM1マクロファージを有効成分として含む光熱治療効果増進用組成物であって、癌組織周辺に局所投与できることを特徴とする、光熱治療効果増進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
M1マクロファージを有効成分として含む癌細胞標的型薬物送達体及び/又は光熱治療効果増進用組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
癌の光熱治療法は、最近脚光を浴びる効果的な新しい癌治療技術である。従来の癌治療法には大きく3つあり、1つ目は、手術によって癌を除去することである。この方法は、目に見えて触ることができる癌は除去できたが、大きさの小さい癌は除去することが難しく、癌の転移を防ぐことができないという限界がある。2つ目は、化学的に抗癌剤を用いた薬物治療法である。3つ目は、放射線治療であり、癌のある部位に放射線を集中照射して癌を除去することで、手術で除去できない癌に対して大きな効果があり、様々な分野で研究が進められている。現在、これらの3つの方法を単独又は併行して癌を治療しており、分野ごとに継続的な発展を重ね、世界的に関連論文が継続的に発表されている。しかし、まだ癌は依然として恐怖の存在であり、完治率が50%程である。手術はほとんどの場合、全身麻酔を伴うという困難があり、手術の傷が体に残り、さらに癌が転移した場合、手術は役に立たない。
【0003】
患者を対象に使用されている抗癌剤は約40種余りあり、これらは癌細胞に作用して増殖を抑制するが、同時に正常細胞にも作用するという短所を有する。ほとんどの抗癌剤治療を行うと、爪や足の爪の成長が遅くなり、髪の毛が抜け、粘膜の損傷が起きて口がただれるだけでなく、胃腸管粘膜もただれて下痢腹痛があり、造血細胞が損傷して白血球、赤血球、及び血小板が減少する。
【0004】
また、放射線治療は直進する放射線の特性上、癌に到達してその目的を達成した放射線が正常細胞にも損傷を与え、抗癌剤と同様に人体に有害な影響を及ぼす。
【0005】
しかし、光熱治療法は、癌細胞が正常細胞に比べて熱に弱いことを利用して、癌細胞の位置する局部的な位置に光感応物質を位置させた後、外部から刺激を与えて熱を発生させて癌細胞だけを任意に死滅させる方法である。これは、純粋な発熱効果を利用することにより、従来の副作用を最小限に抑えることができると予想される。
【0006】
このような光熱治療法のための光感応物質としては、金ナノ粒子、ナノ多孔性シリカ、カーボンナノチューブあるいは磁性を帯びる酸化鉄などが使用されており、このようなナノ物質を用いた光熱治療法は、従来の癌治療法に比べて副作用が少なく効果的であるが、ナノ物質自体が毒性を有し、ナノ物質が癌細胞ではなく正常細胞の近くにあるときに光熱が加わると正常細胞も死滅させ得るという副作用がある。
【0007】
そこで、生体内の癌を効果的に光熱治療するために、生体内での排出が容易で潜在的毒性が少なく、薬物送達システムを活用することで標的癌組織への蓄積効率及び癌細胞標的性が高く、高い発熱効率を示す光熱治療用光反応性化合物の開発が望まれている。
【0008】
一方、TAM(tumor associated macrophage)は、腫瘍(癌)微細環境において、癌細胞の成長、増殖、及び転移に関与するマクロファージとして知られている。マクロファージは、腫瘍周辺に密集し、その内部に浸透し、腫瘍(癌)微細環境によりM1マクロファージとM2マクロファージに分化される。M1マクロファージは、CLSマクロファージ(Crown like structure Macrophage)とも呼ばれ、癌細胞の死滅を引き起こして腫瘍の増殖を低減する機能を果たし、レジデントマクロファージ(resident macrophage)と呼ばれるM2マクロファージは、M1マクロファージとは異なって癌の微細環境で血管新生を誘導して癌細胞の転移を引き起こすことが知られている。
マクロファージの腫瘍細胞に対する走化性を利用した薬物送達システムに対する研究が進められているが、まだ実施可能な技術まで開発されたものはなく、またマクロファージのM1とM2マクロファージに分化を誘導する技術もまだ不足していることが実状である。
【発明の概要】
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題は、M1マクロファージを薬物送達体
【0010】
(Drug Delivery System)として提供することにある。本発明の薬物送達体は、ロードされる物質に応じて光熱治療効果増進又は癌細胞標的型抗癌剤として機能することができる。
【0011】
ここで、本発明の目的は、光感応物質(photo-responsive material)がロードされたM1マクロファージを有効成分として含む光熱治療効果増進用組成物を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、M1マクロファージを有効成分として含む癌細胞標的型薬物送達体を提供することにある。
【0013】
しかしながら、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に限定されることはなく、言及されていない他の課題は、以下の記載から当該技術分野の通常の技術者に明確に理解され得る。
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、光感応物質がロードされたM1マクロファージを有効成分として含む、光熱治療効果増進用組成物を提供する。
【0015】
本発明の一実施形態として、光感応物質は、金属ナノ粒子(metallic nanoparticle)、ナノ多孔性シリカ(nano porous silica)、カーボンナノチューブ(carbon nanotube)、及び磁性を有する酸化鉄(iron oxide:Fe3O4)からなる群から選択される1つ以上の物質を含み得る。
【0016】
本発明の他の実現例では、金属ナノ粒子は、金ナノ粒子(gold nanoparticle)と銀ナノ粒子を含み、金ナノ粒子は、金ナノロッド(gold nonorod)、金ナノシェル(gold nanoshell)、及び金ナノケージ(gold nanocage)からなる群から選択される1つ以上の粒子を含み得る。
【0017】
本発明のまた他の実現例では、金ナノ粒子は、PLGA(poly(lactic-co-glycolic)acid)-core gold nanoshellであり得る。
【0018】
また、本発明は、光感応物質がロードされたM1マクロファージを個体に投与する工程を含む光熱治療効果増進方法を提供する。個体は、癌の治療が必要な哺乳動物であれば制限されることはなく、好ましくは、癌患者(ヒト)であり得る。また、投与は、静脈投与又は局所投与であり得るが、これらに限定されることはない。
【0019】
また、本発明は、M1マクロファージを有効成分として含む癌標的型薬物送達体を提供する。
【0020】
本発明の一実施形態として、M1マクロファージは、抗癌剤がロードされたものであり得る。本発明において、抗癌剤がロードされたM1マクロファージは、癌の予防又は治療用の医薬組成物として提供され得る。
【0021】
本発明の他の実現例では、抗癌剤は、ドキソルビシン(doxorubici
n)、ペメトレキセド(pemetrexed)、ゲムシタビン(gemcitabine)、パクリタキセル(paclitaxel)、ビンクリスチン(vincristine)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ビンブラスチン(vinblastine)、アクチノマイシンD(actinomycin-D)、ドセタキセル(docetaxel)、エトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、ビサントレン(bisantrene)、ホモハリントニン(homoharringtonine)、グリベック(Gleevec;STI-571)、シスプラチン(cisplatin)、5-フルオロウラシル(fluorouracil)、メトトレキサート(methotrexate)、ブスルファン(busulfan)、クロラムブシル(chlorambucil)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、メルファラン(melphalan)、ナイトロジェンマスタード(nitrogen mustard)、ニトロソウレア(nitrosourea)、セツキシマブ(cetuximab)、及びソラフェニブ(sorafenib)からなる群から選択された1つ以上であり得る。
【0022】
本発明のまた他の実現例では、M1マクロファージは、抗癌剤と共に上述した光感応物質がさらにロードされたものであり得る。
【0023】
本発明のまた他の実現例では、抗癌剤と光感応物質は、0.5~12.5ug/mlの濃度、好ましくは1~5ug/ml、より好ましくは2.5ug/mlの濃度でロードされたものであり得る。
【0024】
本発明のまた他の実現例では、金属ナノ粒子はPLGA-core gold nanoshellであり、抗癌剤は、ドキソルビシンであり得、PLGA-core gold nanoshell及び抗癌剤は、0.5~12.5ug/mlの濃度、好ましくは1~5ug/ml、より好ましくは2.5ug/mlの濃度でロードされたものであり得る。
【0025】
また、本発明は、抗癌剤がロードされたM1マクロファージを個体に投与する工程を含む、癌治療方法及び癌治療効果増進方法を提供する。個体は、癌の治療が必要な哺乳動物であれば制限されることはなく、好ましくは癌患者(ヒト)であり得る。また、投与は、静脈投与又は局所投与であり得るが、これらに限定されることはない。
【0026】
本発明の一実施形態として、M1マクロファージは、1日1~3回、好ましくは1回投与されるものであり得る。
【0027】
また、本発明は、癌治療剤物を製造するための抗癌剤がロードされたM1マクロファージの用途を提供する。
【0028】
また、本発明は、以下の工程を含む未分化マクロファージのM1マクロファージへの分化誘導方法を提供する。
(1)未分化マクロファージにPMA(Phorbol-12 Myristate 13-Acetate)を処理してM0マクロファージ状態に誘導する工程、及び
(2)M0マクロファージにIFN-γ(Interferon gamma)を処理してM1マクロファージに分化誘導する工程。
本発明の一実施形態では、(2)工程において、IFN-γの処理が100~400μg/mlの濃度で24~48時間実行されてもよく、好ましくは200μg/mlの濃度で24時間実行されてもよい。
本発明の他の実現例では、上記の方法は、(1)工程以後にM0マクロファージを3~9日間休止(resting)させる工程をさらに含んでもよい。
【0029】
本発明は、M1マクロファージの腫瘍細胞への移動性、及び腫瘍内部への浸透力に基づいてM1マクロファージにロードする物質を腫瘍及び癌組織にのみ特異的に送達することができ、特にM1マクロファージに抗癌剤をロードする場合、その薬効を高めて副作用を低減できる効果がある。また、M1マクロファージに光感応物質をロードする場合、癌細胞への移動時間の減少と癌細胞内部への浸透力が高まり光熱治療効果を増進させることができるが、これは、従来の治療方法である手術及び放射線、抗癌剤治療で解決されない残存癌を治療できる新しい治療方法になることができ、M1マクロファージを薬物送達システム(Drug Delivery System)として提供するための癌の治療効果を増進させるために有用に利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】インビトロ(in vitro)で分化を誘導したマクロファージがM1又はM2マクロファージに分化されたことを確認した図である。
【
図2】継時的なマクロファージの移動を確認したインビボイメージング(in vivo imaging)図である。
【
図3】インビトロでマクロファージの類型による光熱治療効果を比較確認した図である。
【
図4】インビボ(in vivo)でマクロファージの類型による光熱治療効果を比較確認した図である。
【
図5】0~62.5ug/mlの濃度のPLGA-DOXを含浸したマクロファージの細胞生存率を示す図である。
【
図6】2.5ug/mlの濃度のPLGA-DOXを含浸したM1マクロファージの癌細胞死滅誘導効果を確認した図である。
【
図7】PLGA-DOXを含浸したM1マクロファージの薬物放出パターンを確認するための試験模式図である。
【
図8】方法1(Method1)の試験結果である。
【
図9】方法2(Method2)の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは、近赤外線波長を吸収する生分解性ナノ粒子(PLGA-core gold nanoshell)を含浸したマクロファージが近赤外線波長を吸収することを確認した先行研究結果に基づいて後続研究を行った結果、マクロファージの腫瘍に対する走化性を確認し、組織所見を通じてマクロファージが腫瘍内部に侵入することを確認した。また、マクロファージの種類に応じた腫瘍及び/又は癌組織への走化性及び浸透力を試験した結果、M1マクロファージが腫瘍への移動速度が最も速く、腫瘍内部への浸透力が最も優れていることを確認し、本発明を完成した。
【0032】
マクロファージは、骨髄性細胞が最終的に分化した表現型の1つであり、主に骨髄内に存在する骨髄性細胞が血液に乗って腫瘍微細環境に移動して分化するものと理解されている。最近では、これらをマクロファージが生体内の様々な生理的病的条件で力動的にM1-マクロファージとM2-マクロファージに分極化(polarization)されることが知られた。M1-マクロファージは、マクロファージが古典的に活性化(classically activated)された状態で外部病原菌とインターフェロンガンマなどの刺激によって活性化し、IL-12を分泌して炎症反応を起こし、腫瘍微細環境では腫瘍抑制作用がある。これに対して、M2-マクロファージは、代替活性化(alternatively activated)されたマクロファージでIL-4、IL-10、IL-13、及び副腎皮質ホルモンによって活性化して抗炎症作用をすることが知られており、IL-4、IL-10、IL-13を分泌して腫瘍の成長を促進させる。
【0033】
本発明において、M1マクロファージは、形態学的に死んだ脂肪細胞の周辺に群集(cluster)を形成してCLSマクロファージ(Crown like structure Macrophage)とも呼ばれ、癌組織に移動したマクロファージがM1マクロファージに分化して癌細胞の死滅を引き起こし、iNOSの発現によって識別される。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、分化していないマクロファージにPMAを処理してM0状態にし、次にM0マクロファージにIFN-γを処理してM1マクロファージに分化したマクロファージを作製した(実施例1参照)。
【0035】
本発明の他の実施形態によれば、分化していないマクロファージとM1マクロファージにルシフェラーゼ(luciferase)遺伝子を形質注入し、腫瘍細胞を注入した免疫不全マウスにそれぞれのマクロファージを投与した後、発光を追跡してマクロファージの移動経路を確認した結果、分化していないマクロファージよりもM1マクロファージに分化されたマクロファージが腫瘍への移動速度が顕著に速く、腫瘍内部への浸透力が格段に優れていることを確認し、M1マクロファージが癌及び/又は腫瘍への薬物送達に優れていることが分かった(実施例3参照)。
【0036】
一方、本発明の一実施形態では、光感応物質を含浸したM0、M1、及びM2マクロファージをそれぞれ癌細胞と共に培養し、レーザを照射して光熱治療効果を確認した結果、癌細胞に処理したマクロファージの濃度と無関係にM1マクロファージに光感応物質をロードして光熱治療を行う場合、より多くの癌細胞が死滅して光熱治療効果を顕著に上昇させることができることを確認した(実施例4-1参照)。
【0037】
また、本発明の一実施形態では、M1マクロファージにPLGA-core gold nanoshellを含浸させて腫瘍を注入した免疫不全マウスに投与して光熱治療を行った結果、分化していないマクロファージを用いる場合よりも腫瘍除去に格別な効果があることを確認した(実施例4-2参照)。
【0038】
ここで、本発明は、M1マクロファージの腫瘍(癌)への移動能力と腫瘍(癌)組織の内部浸透力を利用して光感応物質がロードされたM1マクロファージを有効成分として含む光熱治療効果増進用組成物を提供する。
【0039】
光熱治療法(Photo thermal treatment、PTT)は、癌細胞が正常細胞に比べて熱に弱いことを利用して、癌細胞が位置する局部的な位置に光感応物質を位置させた後、外部から刺激を与えて熱を発生させて癌細胞だけを任意に死滅させる方法である。これは、純粋な発熱効果を利用するため、既存の副作用を最小化することができる。
【0040】
光熱治療に用いられる光感応物質は、光に感応して活性を示す物質であり、坑癌治療では一般に光に感応して癌細胞を攻撃できる活性酸素種を作り出す物質を意味する。
【0041】
本発明における光感応物質の非限定的な例としては、金属ナノ粒子、ナノ多孔性シリカ、カーボンナノチューブ、及び磁性を帯びる酸化鉄(Fe3O4)などがある。
【0042】
金属ナノ粒子は、金ナノ粒子及び銀ナノ粒子などを含み、その中でも金ナノ粒子は優れた吸光能と光熱効果、生体適合性、光漂白現像に対する安定性を有し、光敏感剤の重要な要件である効果的な熱エネルギーの放出は、生体内の非毒性と安定性を満たしている。光熱治療に研究されている金ナノ粒子は、近赤外線領域の光を吸収できるように設計された棒形態、キューブ形態、核/殻構造などの異方性粒子である。本発明の具体的実施形態では、金ナノシェルを用い、より具体的にはPLGA-core gold nanoshellを用いて光感応物質を含浸したマクロファージを作製した。
【0043】
一方、抗癌剤は、一般に分裂/増殖する細胞をターゲットとして細胞死滅を誘導する薬物であり、正常細胞でも細胞毒性を示す。ここで、本発明の一実施形態では、抗癌剤送達システムとしてM1マクロファージの有利な効果とマクロファージに抗癌剤を含浸させたとき、マクロファージが癌細胞に移動する前に死滅せずに癌細胞死滅を誘導できることを確認するために未分化マクロファージとM1マクロファージに様々な濃度のPLGA及びドキソルビシン(doxorubicin:DOX)を含浸させた後、時間の経過に伴う細胞生存率と癌細胞死滅の程度を確認した。その結果、マクロファージの癌細胞への移動時間を考慮した12時間以後から72時間の間に癌細胞死滅が起きる濃度のうち、最低濃度である2.5ug/mlで50%以上のマクロファージ生存率を観察したが、2.5ug/mlの濃度でPLGAと抗癌剤を含浸したM1マクロファージの癌細胞ターゲティング薬物送達の有用性を確認することができた(実施形態5-2参照)。
【0044】
ここで、本発明者らは、M1マクロファージを有効成分として含む癌細胞標的型薬物送達体を提供する。
【0045】
本発明の癌細胞標的型薬物送達体は、抗癌剤又は抗癌剤とパーティクルが混合した混合物を含浸したM1マクロファージであってもよく、抗癌剤は、癌細胞の成長、増殖、及び/又は転移を抑制するものであれば限定されず、癌細胞の成長、増殖、及び/又は転移の抑制は、細胞の直接作用の他にも血管新生(angiogenesis)を遮断するなどの作用により、癌細胞の成長、増殖、及び/又は転移を妨げる腫瘍微細環境を造成する方法によることができる。M1マクロファージにロードされる抗癌剤の非限定的な例として、シスプラチン、ドキソルビシン、ペメトレキセド、ゲムシタビン、パクリタキセル、ビンクリスチン、ダウノルビシン、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、ドセタキセル、エトポシド、テニポシド、ビサントレン、ホモハリントニン、グリベック(STI-571)、シスプラチン、5-フルオロウラシル、メトトレキサート、ブスルファン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、セツキシマブ、及びソラフェニブなどがある。本発明の目的を達成するために用いられている抗癌剤の場合、蒸留水とPBSのような溶媒に溶け得る性質であることが好ましく、分子構造的にPLGA金ナノ粒子(PLGA gold nano particle)の粒子表面と反応できる官能基を有する抗癌剤であることが好ましい。また、本発明の薬物送達体として、M1マクロファージは、0.5~12.5ug/mlの光感応物質及び抗癌剤がロードされ得る。上記の範囲以下の濃度では、癌細胞死滅の効果が低く、それ以上の濃度では、ロードされた抗癌剤の毒性によってマクロファージが癌組織に到達する前に死滅する問題がある。上記の濃度範囲は、含浸された抗癌剤の細胞毒性に応じて可変であり得る。一方、坑癌治療は、癌細胞の速い増殖を使用して患者が耐えることができる最大用量(maximum tolerance dose)の抗癌剤を3~4週の間隔で投与することが一般的である。しかし、抗癌剤は、癌細胞の他にも速い増殖速度を有する骨髄細胞などに作用して副作用を示す欠点がある。本発明は、坑癌治療に用いられる物質(光感応物質及び/又は抗癌剤)がロードされたM1マクロファージに関するものであり、M1マクロファージの腫瘍(癌)への速い移動と強い浸透力を利用して、M1マクロファージにロードされた物質が正常組織及び細胞に及ぼす影響を最小化し、腫瘍(癌)細胞とその周辺の微細環境にのみ作用するようにすることができる。
【0046】
一方、メトロノーム化学療法(metronomic chemotherapy)は、坑癌治療の変形された治療形態であり、一般的な投与量より少ない用量の抗癌剤を絶えず投与して、副作用が少ない又は無いという長所がある。メトロノーム化学療法は、癌細胞を直接的に殺すことはないが、腫瘍微細環境に作用して血管新生を妨げるなど、癌細胞の成長、増殖、及び/又は転移を抑制することができる。本発明のM1マクロファージは、薬物送達体として提供され、ロードされる抗癌剤が癌(腫瘍)にのみ作用し得るように標的とすることができる。従って、本発明の薬物送達体がメトロノーム化学療法に用いられる場合、より少ない用量の抗癌剤を用いて効率的に腫瘍微細環境の組成を調節することができる。
【0047】
本発明の一実施形態では、本発明者らは、M1マクロファージにロードされた抗癌剤の放出パターンを確認するためにPLGA-DOXを含浸したM1マクロファージを癌細胞と共に培養し、0~72時間の間観察した。その結果、M1マクロファージは、24時間の間徐放して薬物を放出し、癌細胞増殖の防止及び細胞死滅を誘導することが分かった(実施形態5-3参照)。
【0048】
本発明の薬物送達体は、最終的にM1マクロファージにロードされた抗癌剤を癌(腫瘍)組織に送達する機能を果たすため、薬物送達体は、癌(腫瘍)の予防又は治療のための医薬組成物及び抗癌剤の効果増進用の医薬組成物として提供することができる。
本発明において「治療」とは、本発明の組成物及び/又は薬物送達体の投与により腫瘍(癌)の症状が好転又は有利に変更される全ての行為を意味し、「予防」とは、本発明の組成物及び/又は薬物送達体の投与により腫瘍(癌)の発生、転移、又は再発を抑制又は遅延させる全ての行為を意味し、「効果増進」とは、M1マクロファージにロードされる薬物又は光感応物質が単独で用いられる場合よりもM1マクロファージにロードされて利用される場合が、その薬物又は光感応物質が目的とする効果に優れることを意味する。
【0049】
本発明において「医薬組成物」とは、疾病の予防又は治療を目的に製造されたものを意味し、それぞれ通常の方法により様々な形態で製剤化して使用することができる。例えば、酸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップなどの経口剤形に製剤化することができ、外用剤、坐剤、及び滅菌注射溶液の形態で製剤化して使用することができる。
【0050】
また、それぞれの製剤に応じて、薬学的に許容可能な担体、例えば、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤、基剤、賦形剤、潤滑剤など、当技術分野に周知の担体をさらに含んで製造してもよい。
【0051】
一方、本発明の医薬組成物は、薬学的に有効な量で投与することができる。本発明の用語「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な受益/リスクの比で疾患を治療するのに充分であり、副作用を引き起こさない程度の量を意味し、有効用量レベルは、患者の健康状態、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与方法、投与時間、投与経路及び排出率、治療期間、配合又は同時に使用される薬物を含む要素及び他の医学分野で公知の要素によって決定することができる。
【0052】
従って、本発明の医薬組成物を個体に投与して癌(腫瘍)の予防又は治療することができ、坑癌治療の効果を増進させることができる。
【0053】
本発明における「個体」は、ネズミ、家畜、マウス、ヒトなどの哺乳動物であってもよく、好ましくはヒトであり得る。
【0054】
本発明の医薬組成物は、個体への投与のための様々な形態で製剤化することができ、非経口投与用の製剤の代表的なものは注射用製剤であり、等張性水溶液又は懸濁液が好ましい。注射用製剤は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて当技術分野で周知の技術によって製造することができる。例えば、各成分を食塩水又は緩衝剤に溶解させて注射用で製剤化することができる。また、経口投与用の製剤としては、例えば、摂取型錠剤、頬側錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ、及びウェハなどがあるが、これらの製剤は有効成分以外に希釈剤(例、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、及び/又はグリシン)と滑沢剤(例、シリカ、タルク、ステアリン酸、及びそのマグネシウム又はカルシウム塩及び/又はポリエチレングリコール)を含んでもよい。錠剤は、マグネシウムケイ酸アルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカンス、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリジンなどの結合剤を含んでもよく、場合によっては、デンプン、寒天、アルギン酸、又はそのナトリウム塩などの崩壊剤、吸収剤、着色剤、香味剤及び/又は甘味剤をさらに含んでもよい。製剤は通常の混合、顆粒化、又はコーティング方法によって製造されてもよい。
【0055】
また、本発明の医薬組成物は、防腐剤、水和剤、乳化促進剤、浸透圧調節のための塩又は緩衝剤などの補助剤とその他の治療的に有用な物質をさらに含むことができ、通常の方法に従って製剤化することができる。
【0056】
本発明による医薬組成物は、経口、経皮、皮下、静脈、又は筋肉を含むいくつかの経路を介して投与することができ、有効成分の投与量は、投与経路、患者の年齢、性別、体重、及び患者の重症度などの様々な因子に応じて適切に選択され得る。また、本発明の組成物は、目的とする効果を高めることができる周知の化合物とも併行して投与することができる。
【0057】
本発明による医薬組成物の投与経路としては、経口的に、又は静脈内、皮下、鼻腔内又は腹腔内などのように非経口的に個体に投与されてもよい。経口投与は舌下適用も含む。非経口的投与は、皮下注射、筋肉内注射、及び静脈注射などの注射法及び点滴法を含む。
【0058】
本発明の医薬組成物では、本発明に係る抗癌剤又は光感応物質がロードされたM1マクロファージの総有効量は、単一用量(single dose)で患者に投与することができ、多回投与量(multiple dose)が長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)によって投与することができる。
【0059】
本発明の医薬組成物は、疾患の程度により有効成分の含量を変えることができる。通常は、成人を基準として、1回の投与時に100μg~3,000mgの有効用量で1日に数回繰り返し投与することができるが、投与サイクルは24時間を越えないことが好ましい。しかし、抗癌剤及び/又は光感応物質がロードされたM1マクロファージの濃度は、薬の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌、及び排泄率などのさまざまな要因を考慮して、患者に対する有効投与量を決定することができる。従って、このような点を考慮すると、当技術分野の当業者であれば、抗癌剤又は光感応物質がロードされたM1マクロファージの癌(腫瘍)の治療又は予防剤としての特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定することができる。一方、本発明のM1マクロファージが癌の予防又は治療のために投与される場合、癌組織周辺に局所投与することができ、静脈注射時に発生する正常細胞への影響を最小化することができ、安定性を考慮した従来の抗癌剤の投与量より高用量の投与が可能である。
【0060】
また、本発明の医薬組成物は、有効成分として物質がロードされたM1マクロファージ以外に周知の抗癌剤(血管新生阻害剤を含む)又は光感応物質をさらに含んでもよく、これらの疾患の治療のために周知の他の治療と併用することができる。
【0061】
本発明は、様々な変換を加えることができ、様々な実施形態を有することができるが、以下で特定の実施形態を図で例示し、詳細な説明で詳しく説明する。しかしながら、これらは本発明を特定の実施形態に対して限定することを意図するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物、乃至代替物を含むものと理解されるべきである。本発明の説明において、関連する公知技術の具体的な説明が本発明の要旨をぼかし得ると判断される場合、その詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0062】
実施例1.M1マクロファージの作製
効果的な光熱治療方法研究のために、分化方法によるマクロファージの類型を異にして効果を確認することにした。M1マクロファージは、抗炎症に関連するマクロファージで、マクロファージをM1マクロファージに分化させるために、まずPMA(Phorbol-12 Myristate 13-Acetate)を処理してM0状態にし、M0状態で6日間休止させた。次に、IFN-γ(Interferon gamma)を200μg/mlの濃度で24時間の間処理した。M1マクロファージで分化を確認するために、iNOS(Inducible nitric oxide synthase)mRNA発現量を確認した。
また、腫瘍の成長及び転移と関連するM2マクロファージへの分化のために、まずPMAを処理してM0状態に作り、M0状態で6日間休止させた。次に、IL-4を200μg/mlの濃度で24時間の間処理した。M2マクロファージへの分化を確認するために、アルギナーゼ1(Arginase1)及びCD80のmRNA発現量を確認した。
その結果、
図1に示すように、上記の方法によりM1マクロファージとM2マクロファージに分化されたマクロファージを作製することができた。
【0063】
実施例2.ナノ粒子がロードされたマクロファージの作製
PLGA-core gold nanoshellを作製してマクロファージ培養液に入れた後、オービタルシェーカー(orbital shaker)を使用して常温で2時間の間含浸を誘導した。そして、37℃インキュベータ(incubator)内で2時間の間培養した後、浮遊細胞は除去し、付着細胞だけを分離して用いた。
【0064】
実施例3.マクロファージ類型による腫瘍細胞への移動性の確認
免疫不全のヌードマウスに腫瘍細胞を注入して担癌マウスモデル(tumor bearing mouse model)を作製し、腫瘍周辺部の4ヶ所にそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子(luciferase gene)を形質注入(transfection)したマクロファージを注入した。インビボ条件でマクロファージの分裂による移動性を示すように見える結果を除去するために、マクロファージ投与郡、マクロファージ及びマイトマイシンC(mitomycin C)投与郡、M1マクロファージ投与郡、及びM1マクロファージ及びマイトマイシンC投与郡、に区分し、マイトマイシンCは細胞分裂を抑制する試薬として、マクロファージの移動観察にあって細胞分裂による移動を排除するために利用された。マウスに注入した各マクロファージは、インビボイメージング方式を使用して発光イメージ追跡によってその移動性を測定した。イメージング(imaging)は、マクロファージ投与の前後12時間ごとに実施した。
その結果、
図2に示すように、分化していないマクロファージを注入する場合、腫瘍(
図2に各イメージに表示された赤色の円)の内部への移動に約48時間かかる一方で、M1マクロファージ及びマイトマイシンCの注入時に12時間だけで腫瘍中央部への移動を確認することができた。上記の結果から、M1の類型に分化したマクロファージが腫瘍への移動性に優れていることが分かり、M1マクロファージの利用を介して腫瘍へのより速い薬物(ナノ粒子など)へのアクセスが可能で、腫瘍の中央部まで薬物の送達が可能であることを確認した。
【0065】
実施例4.M1マクロファージを用いた光熱治療の効果確認
4-1.インビトロで光熱治療効果の確認
マクロファージの類型による光熱治療効果を確認するために、ナノ粒子(PLGA)をロードしたM0、M1、又はM2マクロファージを、各々濃度を異にして癌細胞と同時培養した。次に、レーザを照射して細胞の密度に係る光熱治療効果を確認した(low density:70% confluency、high density:90% confluency)。
その結果、
図3に示すように、マクロファージの密度と無関係に、M1マクロファージと癌細胞を同時培養したときに癌細胞の多くが死に、上記の結果から、M1マクロファージにナノ粒子をロードして光熱治療を行う場合、その効果がより優れていることがわかる。
【0066】
4-2.インビボで光熱治療効果の確認
次に、インビボでもM1マクロファージの光熱治療効果増進の機能を確認するために、担癌マウス(tumor bearing mouse)にマイトマイシンCと共に分化していないマクロファージ又はM1マクロファージを注入し、光熱治療を行った後、1日及び4日経過時の腫瘍の大きさを比較した。
その結果、
図4に示すように、M1マクロファージを注入した場合、光熱治療後の1日経過時から分化していないマクロファージを注入した場合より腫瘍の大きさが急激に減少し、光熱治療後の4日経過時に腫瘍は取り除かれ、皮膚組織だけが残ることを確認できた。
【0067】
実施例5.M1マクロファージを用いた光感応物質及び抗癌剤の送達効果の確認
5-1.M1マクロファージへの光感応物質及び抗癌剤のロード
抗癌剤と光感応物質(PLGA-core gold nanoshell)が混合した混合物を最終濃度1mg/mlで作製した後、抗癌剤試験条件である0.02~62.5ug/mlの濃度に合わせて混合物をマクロファージ培養液に入れた後、オービタルシェーカーを用いて常温で2時間の間含浸を誘導した。そして、遠心分離によって上澄み液を除去した後に取得した細胞だけを用いた。
【0068】
5-2.M1マクロファージの癌細胞への抗癌剤送達の可能性の確認
M1マクロファージが抗癌剤を含浸した後も死滅せずに腫瘍内部に送達できるかを確認するために、互いに異なる濃度の抗癌剤(doxorubicin:DOX)がロードされたM1マクロファージの生存率をMTT試験(MTT assay)によって確認しようとした。M1マクロファージが癌細胞に移動するのにかかる時間を通常12時間とみて、M1マクロファージにPLGA+Doxorubicinを様々な濃度(0、0.02、0.1、0.5、2.5、12.5、又は62.5ug/ml)で含浸させた後、6、12、及び24時間の経過後に細胞生存率を観察した。
【0069】
同一濃度で含浸された抗癌剤による同一時間の間の細胞毒性に対する抵抗性を未分化マクロファージ(RAW cell)と分化したM1マクロファージで比較した結果、M1マクロファージの細胞死滅率が低いことからM1マクロファージが未分化マクロファージよりも含浸した抗癌剤に対する毒性の影響を少なく受けることが分かった。
【0070】
M1マクロファージ投与後に12時間が経過してのみ癌細胞の死滅が徐々に観察されるため、M1マクロファージに含浸された抗癌剤は、12時間の間50%以上の生存率を示すとともに、癌細胞の死滅が起こる濃度のうち最低の濃度であることが好ましい。2.5ug/mlの濃度で含浸されたM1マクロファージは、含浸12時間後に50%の生存率を示し(
図5)、投与72時間後にほとんどの癌細胞を死滅させることを確認した(
図6)。上記の結果から、M1マクロファージに含浸した抗癌剤の最適な濃度は2.5ug/mlであり、M1マクロファージは2.5ug/ml内外の抗癌剤と光感応物質を含浸して癌組織に送達し、癌細胞の効果的な死滅誘導が可能であることがわかる。
【0071】
5-3.M1マクロファージの薬物放出形態の確認
次に、未分化マクロファージとM1マクロファージにPLGAとDOXをロードし、薬物送達システムとしてM1マクロファージの効用性を再検証して、M1マクロファージの薬物放出形態を確認するために2種類のインビトロモデル化(in-vitro modeling)試験を行った。
【0072】
具体的には、macrophage、macrophage+PLGA-DOX、MI macrophage、及びM1 macrophage+PLGA-DOXの4つの群を準備して、各群のマクロファージを癌細胞と同時に培養した後、0~72時間までの観察を通じて癌細胞の死滅の有無及び死滅程度を確認した(
図7、方法1)。また、プレート(plate)に癌細胞とマクロファージを分離するために円柱状のペニシリンダー(penicylinder)を中央に配置し、内側にはマクロファージを、外側には癌細胞を培養してマクロファージの癌細胞への移動性及び放出される抗癌剤効果維持の程度を確認した(
図7、方法2)。
【0073】
方法1の試験の結果、マクロファージは、癌細胞と同時培養だけでも一定時間の間の癌細胞死滅効果を示すことが確認できた。但し、未分化マクロファージよりはM1マクロファージで癌細胞死滅効果がより優れており、特にPLGAとDOXが含浸されたM1マクロファージで癌細胞死滅効果が最も優れていることが確認できた(
図8)。上記の結果から、含浸された抗癌剤は、マクロファージから放出されることがわかる。
【0074】
方法2の試験結果を
図9に示し、
図9において、赤線を基準に左側はマクロファージ、右側は癌細胞である。未分化マクロファージ群(macrophage及びmacrophage+PLGA-DOX)は、全ての時間帯でマクロファージの移動と癌細胞死滅を確認することができなかった。一方、M1マクロファージを培養したプレートにおいて、癌細胞は12時間まで増殖せずに維持された。しかし、12時間後には癌細胞の分裂による増殖が確認されたが、これはM1マクロファージが分泌するサイトカイン(cytokine)の効果が減少することに起因すると判断される。一方、PLGAとDOXがロードされたM1マクロファージ群は、0~24時間の間、マクロファージの癌細胞内部への浸透と癌細胞死滅効果を確認することができた。しかし、24時間後にはM1 Macrophage+PLGA-DOX群でも癌細胞の増殖が観察されたが、PLGA-DOX 2.5ug/mlを含浸したM1マクロファージは、24時間の間抗癌剤を放出して死滅した後、癌細胞死滅の効果を示さないことを意味する。
【0075】
以上にて本発明内容の特定の部分を詳細に記述したが、当技術分野の通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は、単に好ましい実施様態であるに過ぎず、これによって本発明の範囲が限定されるものではないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、光熱治療の効果を増進させるため、又は抗癌剤の副作用を軽減し、その薬効を増進させるために有用に用いられることが期待される。