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特許7376679HBV感染の処置のためのEYP001とIFNの相乗効果
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  • 特許-HBV感染の処置のためのEYP001とIFNの相乗効果 図1
  • 特許-HBV感染の処置のためのEYP001とIFNの相乗効果 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】HBV感染の処置のためのEYP001とIFNの相乗効果
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/21 20060101AFI20231031BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20231031BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231031BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20231031BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20231031BHJP
   A61K 31/662 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A61K38/21
A61K47/60
A61K31/496
A61P43/00 121
A61P31/20
A61K31/513
A61K31/522
A61K31/662
A61P43/00 111
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022502973
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2020070241
(87)【国際公開番号】W WO2021009333
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】19186941.1
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520299784
【氏名又は名称】ウエヌイグレックオ・ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャッキー・フォンダーシャー
(72)【発明者】
【氏名】エリーズ・ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ダルテイユ
(72)【発明者】
【氏名】ピエトロ・スカルファロ
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531144(JP,A)
【文献】特表2010-500328(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107441098(CN,A)
【文献】Journal of Hepatology,2018年04月,Vol.68, Suppl.1, Abstract FRI-286,Pages S488-S489
【文献】Journal of Hepatology,2017年04月,Vol.66, Issue 1, Suppl, Abstract SAT-158,Page S690
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルス感染の処置のための医薬であって、
【化1】
又はその薬学的に許容される塩(EYP001)を含み、ペグ化インターフェロンアルファ(IFN-α)と組み合わせて使用され、医薬及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用される、医薬。
【請求項2】
50~800mg/日の範囲のEYP001の用量で投与される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
100~600mg/日の範囲のEYP001の用量で投与される、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
200~400mg/日の範囲のEYP001の用量で投与される、請求項1に記載の医薬。
【請求項5】
1日1回投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項6】
1日2回投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項7】
ペグ化IFN-αがペグ化IFN-α2a及びペグ化IFN-α2bである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項8】
ペグ化IFN-αが週1回皮下経路によって投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項9】
慢性B型肝炎感染の処置のための、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
医薬及びペグ化IFN-αが、5、6、7又は8週間から52週間の期間の間投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項11】
医薬及びペグ化IFN-αが、少なくとも1つの追加の活性成分と組み合わせて使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項12】
少なくとも1つの追加の活性成分が、L-ヌクレオシド、デオキシグアノシン類似体及びヌクレオシドホスホネートからなる群から選択されるポリメラーゼ阻害剤である、請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
少なくとも1つの追加の活性成分が、ラミブジン、テルビブジン、エムトリシタビン、エンテカビル、アデホビル及びテノホビルからなる群から選択される、請求項11に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎感染を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎は、広範なワクチン接種プログラムにもかかわらず、3億5,000万人を超える慢性感染者を抱え、依然として世界的な公衆衛生上の重大な問題である。慢性B型肝炎は、肝硬変やがんを含む生命を脅かす合併症に進行する。現在の治療レジメンは、長期処置(例えば、ポリメラーゼ阻害剤、生涯にわたる;最大1年のペグ化インターフェロン)であり、それらはウイルス保有宿主を標的としないため、HBVを治癒できない。HBVの機能的治癒は、深刻な満たされていない医療ニーズのままである。
【0003】
慢性B型肝炎(CHB)の処置の第一の目標は、HBV複製を永続的に抑制し、肝疾患を予防又は改善することである。現在、CHB感染の処置のために、従来のインターフェロン(IFN)、ペグ化インターフェロン、及び直接の抗ウイルス剤の7つの薬剤が利用可能である。直接の抗ウイルス剤(ヌクレオシド/ヌクレオチド類似体)は、L-ヌクレオシド(ラミブジン、テルビブジン及びエムトリシタビン);デオキシグアノシン類似体(エンテカビル)及びヌクレオシドホスホネート(アデホビル及びテノホビル)の3つのクラスに属し、主に連鎖停止剤としてHBV DNA複製を直接妨げる。インターフェロン処置の主要な限界は、主な副作用、HBV DNA抑制率の低さ、ALT正常化率の低さである。直接の抗ウイルス剤による処置の主要な限界は、耐性の発現;長期の生涯にわたる治療を必要とする治療を中止した後のHBV複製の跳ね返り、生涯にわたる治療、HBsAgクリアランス率の非常な低さ、長期の生涯にわたる治療による有害事象のリスクの増加である。重要なことに、現在の直接の抗ウイルス剤は、プレゲノムウイルスRNAのゲノムDNAへの逆転写を抑制する。したがって、それらは、ウイルスが肝細胞に侵入した後に形成される共有結合で閉じた環状DNA(cccDNA)の形成に下流で作用する。cccDNAは、追加のミニ染色体として細胞核に存在し、ウイルスのmRNAに転写され、肝細胞が分裂した場合に娘細胞に遺伝される。現在の直接の抗ウイルス剤は、HBV cccDNA保有宿主及びウイルス遺伝子の発現には影響を及ぼさないか、又はほとんど影響を及ぼさない。したがって、現在利用可能な処置は最適以下であり、重度の副作用と関連し得る。
【0004】
国際公開第2015/036442号は、HBV複製を減少させるためのFXRアゴニストの影響力を開示している。EYP001は、良好な忍容性プロファイルを有する合成の非ステロイド性非胆汁酸FXRアゴニストである。EYP001は、慢性B型肝炎を有する患者のフェーズIbにおいて現在評価されている経口用の生物学的に利用可能な低分子化合物である。本質的にウイルス複製を標的とした生涯にわたる治癒基準とは対照的に、EYP001は、cccDNA(「ウイルス保有宿主」)を標的とし、したがって、HBVの真の治癒を目指している。Erkenら(2018年、Journal of Hepatology、68巻、補遺1、S488~S489)は、EYP001が慢性B型肝炎患者においてHBVウイルス量を低減させることを開示している。Jolyら(2017年、Journal of Hepatology、66巻、補遺1、SAT-158)は、EYP001及びヌクレオシド類似体が健康な個人に安全に使用することができ、細胞培養におけるHBV低減/排除に相加的な効果を有することを開示している。
【0005】
IFN及びヌクレオシド/ヌクレオチド類似体を用いたいくつかの併用療法が研究されている:すなわち、IFN-α、並びにラミブジン、アデホビル、テルブビリン、エンテカビル及びテノホビルから選択される薬剤(Wooら、2017年、Ann Transl Med、5巻、159頁)。ほとんどすべての組み合わせでは、何らかの利益は示されなかった。実際、HBsAg (B型肝炎表面抗原)消失率が10%未満のパーセンテージと高いのは、テノホビルとの組み合わせのみである。しかしながら、このようにHBsAgの消失率が低いため、治癒は困難のままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/036442号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Erkenら(2018年、Journal of Hepatology、68巻、補遺1、S488~S489)
【文献】Jolyら(2017年、Journal of Hepatology、66巻、補遺1、SAT-158)
【文献】Wooら、2017年、Ann Transl Med、5巻、159頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、HBV感染、具体的にはCHB感染の処置目標を達成するためには、より良好な治療法が常に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、本発明者らは、EYP001が、B型肝炎の処置に関して、特にウイルス複製のマーカーであるプレゲノムウイルスRNA、及び慢性B型肝炎の血清マーカーであるコア関連抗原であるHBcrAgに対して、インターフェロンと相乗効果を有することを特定した。したがって、EYP001及びIFNは、cccDNA転写の低減において相乗効果を有する。これらの効果は、非常に短期間のわずか4週間の処置後に観察されたが、一方、EYP001及びIFNのいずれも単独で使用した場合は、同用量で、同期間以降に有意な効果は示さなかった。更に、驚くべきことに、相乗効果は、EYP001を1日1回投与した場合、1日1回と同用量で1日2回投与した場合と比較して、少なくとも2倍強である。
【0010】
したがって、本発明は、B型肝炎感染、特に慢性B型肝炎の処置における使用のためのEYP001とIFNとの相乗的な組み合わせに関する。
【0011】
本発明は、B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置のためのインターフェロンアルファ(IFN-α)又はそのペグ化形態と組み合わせた使用のためのEYP001又はそれを含む医薬組成物であって、EYP001及びIFN-αがHBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用される、EYP001又はそれを含む医薬組成物に関する。
【0012】
また、インターフェロンアルファ(IFN-α)又はそのペグ化形態と組み合わせた、B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置のための薬剤を製造するためのEYP001又はそれを含む医薬組成物の使用であって、EYP001及びIFN-αがHBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用される、使用に関する。更に、必要とする対象において、B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎を処置する方法であって、治療有効量又は治療量以下の量のEYP001を投与する工程、及び治療有効量又は治療量以下の量のインターフェロンアルファ(IFN-α)又はそのペグ化形態を投与する工程を含み、EYP001及びIFN-αがHBV複製を減少させる相乗効果を得るように投与される、方法に関する。
【0013】
一態様では、EYP001は、50~800mg/日の範囲の用量で投与される。より詳細には、EYP001は、100~600mg/日、好ましくは200~400mg/日の範囲の用量で投与される。場合により、EYP001は、治療量以下の量で投与される。
【0014】
一態様では、EYP001は、1日1回投与される。別の態様では、EYP001は、1日2回投与される。
【0015】
一態様では、IFN-αは、IFN-α2a、IFN-α2b、又はそのペグ化形態である。好ましくは、IFN-α又はそのペグ化形態は、週1回、皮下経路によって投与される。場合により、IFN-α又はそのペグ化形態は、治療量以下の量で投与することができる。
【0016】
1つの特定の態様では、EYP001とIFN-α又はそのペグ化形態の両方は、治療量以下の量で投与される。
【0017】
一態様では、EYP001及びIFN-α又はそのペグ化形態は、5、6、7又は8週間から52週間の期間中に投与される。
【0018】
一態様では、EYP001及びIFN-α又はそのペグ化形態は、少なくとも1つの追加の活性成分と組み合わせて使用される。より具体的には、少なくとも1つの追加の活性成分は、L-ヌクレオシド、デオキシグアノシン類似体及びヌクレオシドホスホネートからなる群から選択されるポリメラーゼ阻害剤である。非常に特異的な態様では、少なくとも1つの追加の活性成分は、ラミブジン、テルビブジン、エムトリシタビン、エンテカビル、アデホビル及びテノホビルからなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】慢性的に感染した処置歴のないHBV患者における、インターフェロンと組み合わせた、FXRアゴニストであるEYP001a又はプラセボの4週間の抗HBV処置経過後、HBV pgRNA(log10コピー/mL)はベースラインから変化することを示すグラフである。PBO:プラセボ。ペグ-IFN(peg-IFN):ペグ化インターフェロンアルファ2a。150 BID:150mg、1日2回。300 QD:300mg、1日1回。pgRNA:プレゲノムリボ核酸。黒色カラムは、29日目の処置終了時の変化である。灰色カラムは、35日目の処置終了から1週間後の変化である。*p=0.04
図2】慢性的に感染した処置歴のないHBV患者における、インターフェロンと組み合わせた、FXRアゴニストであるEYP001a又はプラセボの4週間の抗HBV処置経過後、HBcrAg(log10 IU/mL)はベースラインから変化することを示すグラフである。PBO:プラセボ。ペグ-IFN(peg-IFN):ペグ化インターフェロンアルファ2a。HBcrAg:B型肝炎コア関連抗原。黒色カラムは、29日目の処置終了時の変化である。灰色カラムは、35日目の処置終了から1週間後の変化である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
EYP001は、CAS番号1192171-69-9で開示され、次式:
【0021】
【化1】
【0022】
を有するFXRアゴニストである。
【0023】
EYP001は、この化合物及びその任意の薬学的に許容される塩を指すことを意図している。
【0024】
本発明者らは、EYP001とIFN-αの併用処置が、驚くべきことに、非常に短期間のわずか4週間の処置後に慢性B型肝炎において相乗効果をもたらすが、一方、EYP001又はIFN-αのいずれも単独ではいかなる有意な効果も示さないことを観察した。効果は、プレゲノムRNA(HBV pgRNA)及びB型肝炎コア関連抗原(HBcrAg)において観察された。したがって、EYP001とIFN-αの相乗的な組み合わせを用いることによって、患者に対し治療効果を得ることができる。
【0025】
定義
本明細書で使用される場合、用語「処置」、「処置する」又は「処置すること」は、疾患の治療、予防(prevention)、予防(prophylaxis)及び遅延などの患者の健康状態を改善することを意図した任意の行為を指す。ある種の実施形態では、このような用語は、疾患又はそれに関連する症状の改善又は根絶を指す。他の実施形態では、この用語は、このような疾患を有する対象への1つ又は複数の治療剤の投与に起因する、疾患の拡散又は悪化を最小限にすることを指す。より詳細には、用語「処置すること」又は「処置」は、組成物を投与することによって、HBV感染を軽減し、疾患の発症を阻止し、及び/又はHBVを排除することを意味する。
【0026】
HBV複製を減少させることとは、好ましくは、HBV複製が、処置を行わない場合のHBV複製と比較して、10分の1又は100分の1以下に減少することを意味する。
【0027】
より詳細には、B型肝炎感染、特に慢性B型肝炎の処置は、HBV複製の減少によって示される。HBV複製は、対象におけるHBeAgレベル、HBsAgレベル、HBcrAgレベル、プレゲノムRNA(HBV pgRNA)レベル、プレコアRNAレベル、弛緩環状DNA(relaxed circular DNA)(HBV rcDNA)レベル、HBV cccDNAレベル又はHBV DNAレベルのうちの少なくとも1つを決定することによって評価することができる。HBsAg消失及びセロコンバージョンは、一般的に臨床的治癒の目標である。減少することとは、HBeAgレベル、HBsAgレベル、HBcrAgレベル、プレゲノムRNA(HBV pgRNA)レベル、プレコアRNAレベル、弛緩環状DNA(HBV rcDNA)レベル、HBV cccDNAレベル及びHBV DNAレベルのうちの少なくとも1つにおけるレベルが、処置を行わない場合と比較して減少することを意味する。
【0028】
HBV複製を減少させることとは、好ましくは、HBV複製が、処置を行わない場合のHBV複製と比較して、10分の1又は100分の1以下に減少することを意味する。例えば、HBV複製は、HBV DNAレベルを決定することによって評価することができ、このレベルは、EYP001が存在しない場合のHBV複製と比較して、10分の1又は100分の1以下に減少する。或いは、HBV cccDNAレベルは、処置を行わない場合と比較して、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45又は50%減少する。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「対象」、「個体」又は「患者」は互換性があり、大人、小児、新生児及び出生前段階のヒトを含むヒトを指す。特定の態様では、対象又は患者は、B型肝炎感染、具体的には慢性B型肝炎を患う。
【0030】
用語「分量」、「量」、及び「用量」は、本明細書において互換的に使用され、分子の絶対的定量を指すことができる。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「治療効果」とは、疾患又は障害の出現若しくは発症を予防若しくは遅延させ、或いは疾患又は障害の影響を治癒又は減弱させることができる、活性成分、又は本発明による医薬組成物によって誘導される効果を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「治療有効量」とは、疾患、特に感染症の有害作用を予防し、除去し又は低減する活性成分又は医薬組成物の分量を指す。投与されるべき分量は、処置されるべき対象に従って当業者によって、疾患の性質等に適合させることができることは明らかである。特に、投与の用量及びレジメンは、処置されるべき疾患の性質、病期及び重症度、並びに処置されるべき対象の体重、年齢及び全体的な健康、並びに医師の判断により変化し得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「治療量以下の量」又は「治療量以下の用量」とは、他の薬剤の非存在下で投与された場合に、対象に治療結果をもたらす投薬量よりも少ない投薬量を指す。例えば、「治療量以下の量」又は「治療量以下の用量」とは、単独で使用した場合の治療有効量、特に、同じ適応症及び同じ投与経路についての従来の治療投薬量と比較して、25、50、70、80又は90%だけ減少する投薬量を指すことができる。従来の治療投薬量は、医薬品承認機関(例えば、FDA又はEMEA)によって承認された投薬量である。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「賦形剤又は薬学的に許容される担体」とは、医薬組成物中に存在する活性成分を除く任意の成分を指す。その追加は、最終生成物に特定の一貫性又は他の物理的若しくは味覚的特性を付与することを目的とすることができる。賦形剤又は薬学的に許容される担体は、活性成分とのいかなる相互作用、具体的には化学的相互作用も欠いていなければならない。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「ペグ化形態」とは、ペグ化インターフェロンを指す。
【0036】
「相乗効果」とは、HBV複製を減少させる効果であって、各分子単独の効果の和よりも大きいものを指すことが意図される。HBV複製は、表面HBV抗原(HBsAg)、HBeAg、HBVコア関連抗原(HBcrAg)、HBV DNA、HBVプレゲノムRNA、HBVプレコアRNA及び/又はHBV cccDNAを決定することによって評価することができる。より詳細には、この効果は、プレゲノムRNA(HBV pgRNA)及び/又はB型肝炎コア関連抗原(HBcrAg)について観察される。
【0037】
併用処置
本発明は、B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置のためのEYP001とIFNの組み合わせの使用に関する。実際に、この組み合わせは、HBVに対して相乗効果をもたらす。
【0038】
したがって、本発明は以下に関する。
- 具体的にはB型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置における使用のための、EYP001及びIFN-α又はそのペグ化形態、並びに場合により薬学的に許容される担体及び/又は追加の活性成分を含む医薬組成物であって、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用される医薬組成物;
- 具体的にはB型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置における、同時の、別々の又は連続した使用のための併用製剤として、EYP001又はそれを含む医薬組成物とIFN-α又はそのペグ化形態を含有する製造物又はキットであって、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができる、製造物又はキット;
- 具体的にはB型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置における、同時の、別々の又は連続した使用のための、EYP001又はそれを含む医薬組成物とIFN-α又はそのペグ化形態を含む併用製剤であって、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができる、併用製剤;
- B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置における使用のためのEYP001を含む医薬組成物であって、IFN-α又はそのペグ化形態を用いた処置と組み合わせられ、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができる、医薬組成物;
- B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置における使用のためのIFN-α又はそのペグ化形態を含む医薬組成物であって、EYP001を用いた処置と組み合わせられ、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができる、医薬組成物;
- B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置のための医薬を製造するためのEYP001を含む医薬組成物の使用であって、IFN-α又はそのペグ化形態を用いた処置と組み合わせられ、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、医薬組成物が少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができる、使用;
- B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置のための医薬を製造するためのIFN-α又はそのペグ化形態を含む医薬組成物の使用であって、EYP001を用いた処置と組み合わせられ、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、医薬組成物が少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができる、使用;
- B型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置のための医薬を製造するための、EYP001及びIFN-α又はそのペグ化形態、並びに場合により、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の使用であって、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、医薬組成物が少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができる、使用;
- a)EYP001、b)IFN-α又はそのペグ化された形態、及び薬学的に許容される担体を含む有効量の医薬組成物を投与する工程を含む、それを必要とする対象におけるB型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎の処置のための方法であって、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、医薬組成物が少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができ、又は方法が少なくとも1つの追加の活性成分の投与を更に含むことができる、方法;
- EYP001を含む有効量の医薬組成物、及びIFN-α又はそのペグ化形態を含む有効量の医薬組成物を投与する工程を含む、それを必要とする対象におけるB型肝炎ウイルス感染、特に慢性B型肝炎を処置する方法であって、EYP001及びIFN-αが、HBV複製を減少させる相乗効果を得るように使用され、場合により、医薬組成物の1つが少なくとも1つの追加の活性成分を含むことができ、又は方法が少なくとも1つの追加の活性成分の投与を更に含むことができる、方法。
【0039】
IFN-αは、例えば、IFN-α1又はIFN-α2、例えば、IFN-α1a、IFN-α1b、IFN-α2a、IFN-α2b、IFN-α2c又はコンセンサスIFN-αであり得る。非常に特定の態様では、IFNは、IFN-α2a、IFN-α2b又はそのペグ化形態である。
【0040】
場合により、IFN-αは、コンセンサスIFN-α(例えば、INFERGEN(登録商標)、Locteron(登録商標))、IFN-α1b(例えば、HAPGEN(登録商標)、IFN-α2a(Roferon-A(登録商標)、MOR-22、Inter 2A、Inmutag、Inferon)、ペグ化IFN-α2a(例えば、PEGASYS(登録商標)、YPEG-IFNα-2a、PEG-INTRON(登録商標)、Pegaferon)、IFN-α2b(例えば、INTRON A(登録商標)、Alfarona、Bioferon、Inter 2B、citpheron、Zavinex、Ganapar等)、ペグ化IFN-α2b(例えば、Pegintron(登録商標)、Albuferon、AOP2014/P1101、Algeron、Pai Ge Bin)、及びIFN-α2c(例えば、Berofor Alpha)からなる包括的でないリストから選択される。特定の態様では、IFNは、ペグ化IFN-α2a(例えば、PEGASYS(登録商標))又はペグ化IFN-α2b(Pegintron(登録商標))である。
【0041】
一態様では、IFNα又はそのペグ化形態は、週1回皮下経路によって投与され、例えば、1μg~500μgまでの様々な投薬量、好ましくは10μg~500μg、更に好ましくは100μg~250μg、例えば100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200μgで投与される。
【0042】
場合により、IFNα又はそのペグ化形態は、治療量以下の量で投与することができる。
【0043】
EYP001は、1日1回又は2回有効な治療量で、より具体的には、成人1人1日あたり50~800mg、好ましくは成人1人1日あたり100~600mg、更に好ましくは成人1人1日あたり150~400mg、又は1日あたり200~400mg、例えば、成人1人1日あたり約300mgで、好ましくは経口投与することができる。
【0044】
好ましくは、EYP001及びIFN-αを含む併用療法は、HBVの複製を減少させるのに有効である。
【0045】
EYP001及びIFN-α(すなわち、IFN-α2a、IFN-α2b又はそのペグ化形態)の併用処置との関連で、本発明者らは、驚くべきことに、EYP001を1日1回投与した場合、1日1回と同用量で1日2回投与した場合と比較して、相乗効果が少なくとも2倍強になることを観察した。更に、本発明者らは、驚くべきことに、EYP001を1日2回ではなく、1日1回投与した場合に、掻痒症がより少ないことを観察した。したがって、特定の態様では、EYP001は1日1回投与される。
【0046】
特定の態様では、EYP001は、夕方(evening)(例えば、午後6時及び10時)に投与される。代替の態様では、EYP001は、午前中(例えば、午前6時~10時)に投与される。
【0047】
場合により、EYP001は食物とともに又は食物なしで投与される。次に、第1の態様では、EYP001は、食事中、例えば、食事の直前、同時又は直後に投与される。第2の態様では、EYP001は、食事の少なくとも1時間又は2時間前後に投与される。
【0048】
好ましくは、組成物、投薬単位又は投薬形態は、処置されるべき患者への投薬量の対症的調節のために5、10、15、25、50、75、100、200、300、400及び500mgのEYP001を含有する。医薬は、典型的には、約5mg~約500mgのEYP001、好ましくは50mg~約500mgのEYP001、50mg~約450mgのEYP001、100mg~約400mgのEYP001、又は150mg~約300mgのEYP001を含有する。
【0049】
一態様では、投薬形態は、スコア化された投薬形態であり得る。或いは、1日の投薬量は、いくつかの投薬形態を投与することによって提供することができる。
【0050】
EYP001は、薬学的に許容される賦形剤、及び場合により、生分解性ポリマーなどの持続放出マトリックスと組み合わせて、医薬組成物を形成することができる。
【0051】
「薬学的に」又は「薬学的に許容される」とは、哺乳動物、特にヒトに適宜投与した場合に、有害、アレルギー性又は他の好ましくない反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容される担体又は賦形剤とは、任意のタイプの非毒性固体、半固体若しくは液体充填剤、希釈剤、封入剤又は製剤補助剤を指す。
【0052】
EYP001を含む医薬組成物は、経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与、好ましくは経口投与に適しているといえる。
【0053】
EYP001は、単独で、又は別の活性成分(principle)と組み合わせて、従来の医薬支持体との混合物として、単位投与形態で投与することができる。適切な単位投与形態は、経口経路形態、例えば、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口懸濁剤又は液剤、舌下及び口腔内投与形態、エアゾール剤、埋め込み注射剤(implant)、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下(subdermal)、経皮、髄腔内及び鼻腔内投与形態、並びに直腸投与形態を含む。
【0054】
好ましい実施形態では、経口投薬形態はカプセル剤又は錠剤である。場合により、経口投薬形態はスコア化された投薬形態である。場合により、投薬形態は、4つの小片、3つの小片又は2つの小片にスコア化することができる。
【0055】
場合により、処置は、2~4カ月から最長24カ月まで、例えば2~24カ月間、又は2~12カ月間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は24カ月間継続する。非常に特異的な態様では、処置は、12~52週間、好ましくは45~52週間、例えば48週間継続する。
【0056】
EYP001及びIFN-α又はそのペグ化形態は、少なくとも1つの追加の活性成分と組み合わせて使用することができる。好ましくは、追加の活性成分は、抗ウイルス剤であり、より詳細には、HBVに対して活性を有する抗ウイルス剤である。好ましい態様では、少なくとも1つの追加の活性成分は、L-ヌクレオシド、デオキシグアノシン類似体及びヌクレオシドホスホネートからなる群から選択されるポリメラーゼ阻害剤である。非常に特異的な態様では、少なくとも1つの追加の活性成分は、ラミブジン、テルビブジン、エムトリシタビン、エンテカビル、アデホビル及びテノホビルからなる群から選択される。
【0057】
本発明の更なる態様及び利点は、以下の実施例において説明され、例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【実施例
【0058】
HBVに慢性的に感染した患者(男性(n=39)及び女性(n=34))は、研究のパートA(n=48)における毎日の経口でのFXRアゴニストEYP001a単独療法若しくはプラセボ若しくはエンテカビル(ETV)、又はパートBにおけるインターフェロンとの組み合わせ(n=23、ペグ化IFNα2a、PEG-IFNの週1回皮下注射)、のいずれかとして4週間の処置経過を受けた。患者の特徴は、平均年齢39.7歳(範囲:19~63歳)、73人中6人がHBeAg陽性;70%の未処置;平均ベースラインHBV DNA 4.2(±1.5 SD)log10 IU/mL、HBsAg 3.5(±0.8 SD)log10 IU/mL、遺伝子型A(25)、B(8)、C(10)、D(7)及びE(4)であった。詳細なウイルス学的特徴をTable 2(表2)及びTable 3(表3)に要約した。全EYP001用量と関わるFXRは、C4の減少及びFGF19の増加をもたらした(データは示さない)。
【0059】
29日目の処置終了時に、400mg QDのEYP001は、平均HBsAgを-0.1 log10 IU/mL減少させた(p<0.05)。驚くべきことに、HBV複製pgRNA及びHBcrAgの初期マーカーは、EYP001をペグ-IFNと組み合わせた場合に相乗的な減少を示したが、ペグ-IFN又はEYP001単独療法では相乗的な減少を示さなかった(Table 1(表1))。平均HBV pgRNA減少は-1.7 log10コピー/mL(p<0.05)であり、平均HBcrAg減少は-0.9 log10 IU/mL(p=0.15)であったが、一方、プラセボ+Peg-IFN群は有意な減少を有しなかった(-0.2 log10コピー/mL pgRNA、-0.4 log10 IU/mL HBcrAg)。この効果は35日目、すなわち処置終了後7日目に持続した(EoT、図1及び図2)。BIDと比較して、より強い相乗効果がQDで観察される。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
図1
図2