(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ガス分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20231031BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20231031BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20231031BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20231031BHJP
C01B 39/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/12
B01D71/02 500
B01D69/10
C01B39/00
(21)【出願番号】P 2022508134
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2021004990
(87)【国際公開番号】W WO2021186959
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2020047803
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】清水 克哉
(72)【発明者】
【氏名】市川 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】谷島 健二
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-157275(JP,A)
【文献】特開2019-181456(JP,A)
【文献】特開2016-155098(JP,A)
【文献】特開2004-105942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C01B33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合ガスを分離するガス分離方法であって、
a)多孔質の支持体と前記支持体上に形成されたゼオライト膜とを備えるゼオライト膜複合体を準備する工程と、
b)高透過性ガスと、前記高透過性ガスよりも低濃度の微量ガスとを含む混合ガスを、前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記高透過性ガスを前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他のガスから分離する工程と、
を備え、
前記混合ガス中における前記微量ガスのモル濃度は10mol%未満であり、
前記微量ガスは、前記混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%以上の有機物を含み、
前記有機物の前記ゼオライト膜に対する吸着平衡定数は前記高透過性ガスの150倍未満である。
【請求項2】
請求項1に記載のガス分離方法であって、
前記高透過性ガスは、水素、窒素、酸素または二酸化炭素である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガス分離方法であって、
前記ゼオライト膜に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8である。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記b)工程よりも前に、前記混合ガスから、前記ゼオライト膜に対する吸着平衡定数が前記高透過性ガスの150倍以上である有機物を除去する工程をさらに備える。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記混合ガスは、前記ゼオライト膜に対する透過性が前記高透過性ガスよりも低い低透過性ガスをさらに含み、
前記混合ガスにおいて、前記微量ガスの濃度は前記低透過性ガスの濃度よりも低い。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のガス分離方法であって、
前記混合ガスは、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガスを分離するガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、化学プラントから発生する燃焼排ガス等から特定の成分を分離することが求められている。例えば、特開2012-236123号公報(文献1)では、排ガス中の二酸化炭素を、ゼオライト膜を透過させることにより分離回収するシステムが提案されている。また、国際公開第2016/052058号(文献2)では、ゼオライト膜を利用して処理対象流体からオレフィン化合物を分離する技術が提案されている。
【0003】
文献1のような排ガス中の二酸化炭素の分離では、排ガスに含まれる微量成分がゼオライト膜の細孔に吸着することにより、ゼオライト膜の透過性能が経時的に低下するおそれがある(Ines Tiscornia他、「Separation of propylene/propane mixtures by titanosilicate ETS-10 membranes prepared in one-step seeded hydrothera synthesis」、Journal of Membrane Science 311 (2008)、p. 326-335(文献3)参照)。オレフィン製造プラント、合成アルコール製造プラントまたはエステル製造プラントの排ガスから二酸化炭素等を分離する場合、当該微量成分は、最終生成物や未反応原料、中間生成物であるオレフィン、アルコール、エステルまたはカルボン酸等である。
【0004】
文献1では、ゼオライト膜に排ガスが供給されるよりも前に、排ガスを前処理設備へと導き、前処理設備にて排ガス中の水分を除去して水分濃度を低減させることが提案されている。また、文献2では、前処理部においてアセチレン系化合物の低減処理、硫黄化合物の低減処理または微粒子成分の低減処理が行われる。
【0005】
ところで、排ガス等に含まれる微量物質は多種多様であるため、ゼオライト膜の透過性能の経時的変化を抑制するために、これらの微量物質を前処理設備において全て除去しようとすると、前処理設備が大型化および複雑化する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、混合ガスを分離するガス分離方法に向けられており、ゼオライト膜の透過性能の経時的低下を容易に抑制することを目的としている。
【0007】
本発明の好ましい一の形態に係るガス分離方法は、a)多孔質の支持体と前記支持体上に形成されたゼオライト膜とを備えるゼオライト膜複合体を準備する工程と、b)高透過性ガスと、前記高透過性ガスよりも低濃度の微量ガスとを含む混合ガスを、前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記高透過性ガスを前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他のガスから分離する工程と、を備える。前記混合ガス中における前記微量ガスのモル濃度は10mol%未満である。前記微量ガスは、前記混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%以上の有機物を含む。前記有機物の前記ゼオライト膜に対する吸着平衡定数は前記高透過性ガスの150倍未満である。
【0008】
これにより、ゼオライト膜の透過性能の経時的低下を容易に抑制することができる。
【0009】
好ましくは、前記高透過性ガスは、水素、窒素、酸素または二酸化炭素である。
【0010】
好ましくは、前記ゼオライト膜に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8である。
【0011】
好ましくは、前記ガス分離方法は、前記b)工程よりも前に、前記混合ガスから、前記ゼオライト膜に対する吸着平衡定数が前記高透過性ガスの150倍以上である有機物を除去する工程をさらに備える。
【0012】
好ましくは、前記混合ガスは、前記ゼオライト膜に対する透過性が前記高透過性ガスよりも低い低透過性ガスをさらに含む。前記混合ガスにおいて、前記微量ガスの濃度は前記低透過性ガスの濃度よりも低い。
【0013】
好ましくは、前記混合ガスは、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0018】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】ゼオライト膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る分離装置2の概略構造を示す図である。分離装置2は、複数種類のガスを含む混合ガスをゼオライト膜複合体1に供給し、混合ガス中の透過性が高いガスを、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合ガスから分離させる装置である。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高いガスを混合ガスから抽出する目的で行われてもよく、透過性が低いガスを濃縮する目的で行われてもよい。
【0021】
混合ガスは、例えば、水素(H2)、ヘリウム(He)、窒素(N2)、酸素(O2)、水(H2O)、水蒸気(H2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物、アンモニア(NH3)、硫黄酸化物、硫化水素(H2S)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH3)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0022】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等のNOX(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0023】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)等のSOX(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0024】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF2)、二フッ化硫黄(SF2)、四フッ化硫黄(SF4)、六フッ化硫黄(SF6)または十フッ化二硫黄(S2F10)等である。
【0025】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C3~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ノルマルブタン(CH3(CH2)2CH3)、イソブタン(CH(CH3)3)、1-ブテン(CH2=CHCH2CH3)、2-ブテン(CH3CH=CHCH3)またはイソブテン(CH2=C(CH3)2)である。
【0026】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH2O2)、酢酸(C2H4O2)、シュウ酸(C2H2O4)、アクリル酸(C3H4O2)または安息香酸(C6H5COOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(C2H6O3S)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0027】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CH3CH(OH)CH3)、エチレングリコール(CH2(OH)CH2(OH))またはブタノール(C4H9OH)等である。
【0028】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(C2H5SH)または1-プロパンチオール(C3H7SH)等である。
【0029】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0030】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CH3)2O)、メチルエチルエーテル(C2H5OCH3)またはジエチルエーテル((C2H5)2O)等である。
【0031】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CH3)2CO)、メチルエチルケトン(C2H5COCH3)またはジエチルケトン((C2H5)2CO)等である。
【0032】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CH3CHO)、プロピオンアルデヒド(C2H5CHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(C3H7CHO)等である。
【0033】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、2つのシール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22の内部空間に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。
図1では、一部の構成の断面における平行斜線を省略している。
【0034】
外筒22は、略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、
図1中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0035】
供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプである。当該ブロワーまたはポンプは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、外筒22から導出されたガスを貯留する貯留容器、または、当該ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0036】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、
図1中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111(後述)と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガス等の流入および流出は可能である。
【0037】
2つのシール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。
図1に示す例では、シール部材23は、封止部21の外側面に密着し、封止部21を介してゼオライト膜複合体1の外側面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。
【0038】
図2は、ゼオライト膜複合体1の断面図である。
図3は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜12とは、少なくとも、支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライト粒子を分散させただけのものは含まない。また、ゼオライト膜12は、構造や組成が異なる2種類以上のゼオライトを含んでいてもよい。
図2では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。
図3では、ゼオライト膜12に平行斜線を付す。また、
図3では、ゼオライト膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0039】
支持体11はガスを透過可能な多孔質部材である。
図1に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、
図2中の左右方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。
図1に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。
図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
【0040】
支持体11の長さ(すなわち、
図1中の
左右方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0041】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0042】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0043】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。平均細孔径は、例えば、水銀ポロシメータ、パームポロシメータまたはナノパームポロシメータにより測定することができる。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布について、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば20%~60%である。
【0044】
支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。ゼオライト膜12が形成される表面を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0045】
ゼオライト膜12は、細孔を有する多孔膜である。ゼオライト膜12は、複数種類のガスが混合した混合ガスから、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。ゼオライト膜12では、当該特定のガスに比べて他のガスが透過しにくい。換言すれば、ゼオライト膜12の当該他のガスの透過量は、上記特定のガスの透過量に比べて小さい。
【0046】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くすると透過量が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0047】
ゼオライト膜12の平均細孔径は、好ましくは0.2nm以上かつ0.8nm以下であり、より好ましくは、0.3nm以上かつ0.5nm以下であり、さらに好ましくは、0.3nm以上かつ0.4nm以下である。ゼオライト膜12の平均細孔径は、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0048】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの最大員環数がnである場合、n員環細孔の短径と長径の算術平均を平均細孔径とする。ゼオライトが、nが等しい複数のn員環細孔を有する場合には、全てのn員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。なお、n員環とは、細孔を形成する骨格を構成する酸素原子の数がn個であって、各酸素原子が後述のT原子と結合して環状構造をなす部分のことである。また、n員環とは、貫通孔(チャンネル)を形成しているものをいい、貫通孔を形成していないものは含まない。n員環細孔とは、n員環により形成される細孔である。
【0049】
ゼオライト膜の平均細孔径は当該ゼオライトの骨格構造によって一義的に決定され、国際ゼオライト学会の“Database of Zeolite Structures”[online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0050】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、例えば、AEI型、AEN型、AFN型、AFV型、AFX型、BEA型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、FAU型(X型、Y型)、GIS型、LEV型、LTA型、MEL型、MFI型、MOR型、PAU型、RHO型、SAT型、SOD型等のゼオライトであってよい。より好ましくは、例えば、AEI型、AFN型、AFV型、AFX型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、GIS型、LEV型、LTA型、PAU型、RHO型、SAT型等のゼオライトである。さらに好ましくは、例えば、AEI型、AFN型、AFV型、AFX型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、GIS型、LEV型、PAU型、RHO型、SAT型等のゼオライトである。
【0051】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトは、T原子として、例えばAlを含む。ゼオライト膜12を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO4)の中心に位置する原子(T原子)がケイ素(Si)とアルミニウム(Al)とからなるゼオライト、T原子がAlとリン(P)とからなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等を用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0052】
ゼオライト膜12は、例えば、Siを含む。ゼオライト膜12は、例えば、Si、AlおよびPのうちいずれか2つ以上を含んでいてもよい。ゼオライト膜12は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。ゼオライト膜12がSi原子を含む場合、ゼオライト膜12におけるSi/Al比は、例えば1以上かつ10万以下である。当該Si/Al比は、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上であり、高ければ高いほど好ましい。後述する原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、ゼオライト膜12におけるSi/Al比を調整することができる。
【0053】
CO2の透過量増大および分離性能向上の観点から、当該ゼオライトの最大員環数は、8であることが好ましい。ゼオライト膜12は、例えば、DDR型のゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「DDR」であるゼオライトにより構成されたゼオライト膜である。この場合、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの固有細孔径は、0.36nm×0.44nmであり、平均細孔径は、0.40nmである。
【0054】
20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCO2の透過量(パーミエンス)は、例えば100nmol/m2・s・Pa以上である。また、20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCO2の透過量/CH4漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば100以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、ゼオライト膜12の供給側と透過側とのCO2の分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0055】
次に、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例について説明する。ゼオライト膜複合体1が製造される際には、まず、ゼオライト膜12の製造に利用される種結晶が準備される。種結晶は、例えば、水熱合成にてDDR型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。
【0056】
続いて、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる。あるいは、種結晶を分散させた溶液を、支持体11上のゼオライト膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0057】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、Si源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を、溶媒に溶解させることにより作製する。原料溶液の組成は、例えば、1.0SiO2:0.015SDA:0.12(CH2)2(NH2)2である。原料溶液の溶媒には、水やエタノール等のアルコールを用いてもよい。原料溶液に含まれるSDAは、例えば有機物である。SDAとして、例えば、1-アダマンタンアミンを用いることができる。
【0058】
そして、水熱合成により当該種結晶を核としてDDR型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にDDR型のゼオライト膜12が形成される。水熱合成時の温度は、好ましくは120~200℃であり、例えば160℃である。水熱合成時間は、好ましくは10~100時間であり、例えば30時間である。
【0059】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12を純水で洗浄する。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば80℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12を乾燥した後に、ゼオライト膜12を加熱処理することによって、ゼオライト膜12中のSDAをおよそ完全に燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させる。これにより、上述のゼオライト膜複合体1が得られる。
【0060】
次に、
図4を参照しつつ、分離装置2による混合ガスの分離の流れについて説明する。混合ガスの分離が行われる際には、まず、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される(ステップS11)。
【0061】
続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される。当該混合ガスは、高透過性ガスと、微量ガスとを含む。混合ガスは、低透過性ガスをさらに含んでいてもよい。以下では、混合ガスが高透過性ガス、低透過性ガスおよび微量ガスを含む場合について説明する。微量ガスは、混合ガスにおけるモル濃度(mol%)が10mol%未満の成分である。微量ガスは、1種類のガスであってもよく、2種類以上のガスであってもよい。2種類以上の微量ガスが混合ガスに含まれる場合、混合ガスにおける各種類の微量ガスのモル濃度が10mol%未満であり、混合ガスにおける当該2種類以上の微量ガスの合計モル濃度は、10mol%よりも大きくてもよい。当該合計モル濃度は、例えば1mol%~30mol%であり、好ましくは1mol%~10mol%である。
【0062】
混合ガスの主成分(すなわち、混合ガスから微量ガスを除いた成分)は、高透過性ガスおよび低透過性ガスである。高透過性ガスは、混合ガスの主成分のうち、ゼオライト膜12に対する透過性が最も高い1種類のガスである。低透過性ガスは、混合ガスの主成分から高透過性ガスを除いた成分であり、ゼオライト膜12に対する透過性は高透過性ガスよりも低い。低透過性ガスは、1種類のガスであってもよく、2種類以上のガスであってもよい。換言すれば、混合ガスは、3種類以上のガスを主成分として含んでいてもよい。混合ガスにおける高透過性ガスのモル濃度、および、低透過性ガス(2種類以上のガスである場合は、各種類の低透過性ガス)のモル濃度は、10mol%以上である。混合ガスにおける微量ガスのモル濃度は、混合ガスにおける高透過性ガスのモル濃度、および、低透過性ガス(2種類以上のガスである場合は、各種類の低透過性ガス)のモル濃度よりも低い。混合ガス中の高透過性ガスおよび低透過性ガスの合計含有率(すなわち、主成分の含有率)は、例えば70mol%~99mol%であり、好ましくは90mol%~99mol%である。高透過性ガスは、例えば、H2、N2、O2またはCO2である。低透過性ガスは、例えば、N2、空気およびCH4のうち1種類以上を含む。本実施の形態では、高透過性ガスおよび低透過性ガスはそれぞれ、CO2およびCH4である。
【0063】
微量ガスは、有機物を含む。当該有機物のうち、ゼオライト膜12に対する吸着平衡定数が、高透過性ガスのゼオライト膜12に対する吸着平衡定数の150倍以上である有機物を「高吸着性ガス」と呼ぶ。また、当該有機物のうち、ゼオライト膜12に対する吸着平衡定数が、高透過性ガスのゼオライト膜12に対する吸着平衡定数の150倍未満である有機物を「低吸着性ガス」と呼ぶ。吸着平衡定数が高いと、ゼオライト膜12の細孔に対して比較的吸着しやすく、吸着平衡定数が低いと、ゼオライト膜12の細孔に対して比較的吸着しにくい。高吸着性ガスの混合ガス中におけるモル濃度は、1.0mol%未満であり、好ましくは0.05mol%未満であり、より好ましくは0.025mol%未満である。低吸着性ガスの混合ガス中におけるモル濃度は、1.0mol%以上であり、好ましくは1.2mol%以上である。
【0064】
ゼオライト膜12に対する高透過性ガスの吸着平衡定数は、ゼオライト膜12に対する高透過性ガスの吸着試験を実施し、得られた測定データである吸着等温線からラングミュア(Langmuir)プロットを作成することにより算出可能である。具体的には、まず、ゼオライト膜12と同じ種類のゼオライト粉末(例えば、DDR型ゼオライトの粉末)が準備される。当該ゼオライト粉末のSi/Al比は、ゼオライト膜12のSi/Al比と実質的に同じである。また、吸着試験用のガラス容器が準備され、空の状態のガラス容器の重量が測定される。続いて、所定重量のゼオライト粉末が、当該ガラス容器内に収容される。そして、当該ゼオライト粉末が加熱されるとともに、ガラス容器内が排気されて真空雰囲気とされる(すなわち、真空引きされる)。これにより、当該ゼオライト粉末から吸着物が脱離する。その後、ゼオライト粉末が収容されたガラス容器の重量が測定され、測定された重量から、上述の空の状態のガラス容器の重量が減算されることにより、ゼオライト粉末の重量が求められる。
【0065】
以下の処理は、ガラス容器のゼオライト粉末が収容されている部分の温度が所定温度に維持された状態で行われる。当該所定温度は、分離装置2において混合ガスの分離が行われる際の温度と同じ温度であり、例えば、室温(25℃)である。真空雰囲気とされたガラス容器内には、所定量の高透過性ガスが導入される。ガラス容器内では、高透過性ガスの一部がゼオライト粉末に吸着される。これにより、ガラス容器内の圧力が低下する。ガラス容器内の圧力が一定になり、ゼオライト粉末に対する高透過性ガスの吸着が安定したことが確認されると、ガラス容器内の圧力Pが測定され、吸着による圧力の低下分から高透過性ガスの吸着量qが算出される。その後、上記と同様に、ガラス容器への高透過性ガスの導入、並びに、圧力Pおよび吸着量qの取得が繰り返される。
【0066】
続いて、圧力Pおよび吸着量qの測定値が、横軸をPとし、縦軸をP/qとしてプロットされる。次に、プロットした点が最小二乗法等により直線近似され、近似直線の傾きaおよび切片bが求められる。そして、当該傾きaを切片bにより除算することにより、高透過性ガスの吸着平衡定数が算出される。高吸着性ガスおよび低吸着性ガスのそれぞれの吸着平衡定数の算出も、上記と同様の方法にて行われる。
【0067】
高吸着性ガスは、1種類の有機物であってもよく、複数種類の有機物を含んでいてもよい。高吸着性ガスが複数種類の有機物を含む場合、混合ガス中における高吸着性ガスのモル濃度は、当該複数種類の有機物の合計モル濃度である。高吸着性ガスは、例えば、炭素(C)と水素(H)からなる有機物、または、炭素(C)と水素(H)と酸素(O)からなる有機物であり、25℃での蒸気圧が250kPa未満のガスである。高吸着性ガスとしては、例えば、酢酸ビニルまたはエタノールが用いられる。低吸着性ガスは、1種類の有機物であってもよく、複数種類の有機物を含んでいてもよい。低吸着性ガスが複数種類の有機物を含む場合、混合ガス中における低吸着性ガスのモル濃度は、当該複数種類の有機物の合計モル濃度である。低吸着性ガスは、例えば、炭素(C)と水素(H)からなる有機物、または、炭素(C)と水素(H)と酸素(O)からなる有機物であり、25℃での蒸気圧が250kPa以上のガスである。低吸着性ガスとしては、例えば、エチレンまたはプロピレンが用いられる。微量ガスは、無機物のガスを含んでいてもよい。微量ガスには、高吸着性ガスは実質的に含まれていなくてもよい。この場合、混合ガス中の高吸着性ガスの濃度は、実質的に0mol%である。
【0068】
図4に例示する分離方法では、混合ガスが分離装置2に供給されるよりも前に、混合ガスから高吸着性ガスが除去される(ステップS12)。これにより、混合ガス中における高吸着性ガスのモル濃度が低減される。ステップS12における高吸着性ガスの除去は、例えば、高吸着性ガスの吸収性が高い液体に混合ガスを通過させて当該液体に高吸着性ガスを吸収させることにより行われる。あるいは、高吸着性ガスの除去は、高吸着性ガスの吸着性が高い吸着材に混合ガスを通過させて吸着材に高吸着性ガスを吸着させることにより行われてもよい。なお、ステップS12における高吸着性ガスの除去処理では、混合ガス中の高吸着性ガスのモル濃度を低減することができればよく、必ずしも混合ガス中の高吸着性ガスの全量が除去される必要はない。
【0069】
なお、ステップS12では、好ましくは、低吸着性ガスの混合ガスからの除去は意図的には行われない。換言すれば、混合ガスからの低吸着性ガスの除去を意図した処理は、ステップS12では行われない。このように、ステップS12では、混合ガスに含まれる微量ガスのうち、高吸着性ガスを選択的に除去することにより、後述するステップS13における高透過性ガスの分離の前処理を簡素化することができる。なお、ステップS12では、低吸着性ガスも除去されてもよい。
【0070】
ステップS12が終了すると、高吸着性ガスの除去が行われた後の混合ガスが、供給部26から外筒22内へと供給される。供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~20.0MPaである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~200℃である。供給部26から外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の高透過性ガス(例えば、CO2)は、各貫通孔111の内側面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性ガスが、混合ガス中の低透過性ガス(例えば、CH4)等の他のガスから分離される(ステップS13)。支持体11の外側面から導出されたガス(以下、「透過ガス」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPa)である。
【0071】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「非透過ガス」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。非透過ガスには、上述の低透過性ガスおよび微量ガス以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性ガスが含まれていてもよい。
【0072】
上述のように、
図4に例示する分離方法では、微量ガスの有機物のうち高吸着性ガスの混合ガス中におけるモル濃度が低い。このため、微量ガスの有機物がゼオライト膜12の細孔に吸着することが抑制される。これにより、ゼオライト膜12に吸着した高吸着性ガスにより、高透過性ガスのゼオライト膜12の透過が阻害されることを抑制することができる。その結果、ゼオライト膜12による高透過性ガスの透過性能の経時的低下を抑制することができる。
【0073】
次に、表1~表2を参照しつつ、混合ガス中の高吸着性ガスのモル濃度と、ゼオライト膜12による高透過性ガスの透過性能の経時的低下との関係について説明する。表中の透過量比(P40/P10)は、上述の分離装置2において、高透過性ガス(例えば、CO2)を含む混合ガスをゼオライト膜複合体1に供給し、ゼオライト膜複合体1を透過するガスの透過量に基づいて求めた。具体的には、透過量比(P40/P10)は、混合ガスの供給開始から40分経過後における上記透過量を、混合ガスの供給開始から10分経過後における上記透過量により除算することにより求めた。供給部26から供給される混合ガスの圧力は0.4MPaとし、第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち透過圧)は約1気圧(0.101MPa)とした。なお、ゼオライト膜複合体1のゼオライト膜12は、DDR型である。
【0074】
【0075】
【0076】
実施例1~6および比較例1~4では、混合ガスに含まれる高透過性ガスおよび低透過性ガスはそれぞれ、CO2およびCH4であり、微量ガス中の有機物の種類を変更した。また、実施例1~6、および、比較例1~4では、混合ガス中における高透過性ガスのモル濃度は50mol%であり、上記有機物のモル濃度を1.0mol%~1.5mol%の範囲で変更した。なお、混合ガス中における低透過性ガスのモル濃度は、100mol%から高透過性ガスおよび上記有機物のモル濃度を減算したものである。
【0077】
実施例1~3では、微量ガス中の有機物はそれぞれ、エチレン、プロピレン、1-ブテンである。エチレンのゼオライト膜12に対する吸着平衡定数(以下、単に「吸着平衡定数」ともいう。)は、高透過性ガスの吸着平衡定数の9倍である。プロピレンおよび1-ブテンの吸着平衡定数はそれぞれ、高透過性ガスの吸着平衡定数の52倍および134倍である。したがって、微量ガス中のこれらの有機物は低吸着性ガスである。混合ガス中における当該有機物のモル濃度は1.5mol%である。透過量比(P40/P10)は、0.98~1.00であった。
【0078】
比較例1~2では、微量ガス中の有機物はそれぞれ、エタノール、酢酸ビニルである。エタノールの吸着平衡定数は、高透過性ガスの吸着平衡定数の474倍である。酢酸ビニルの吸着平衡定数は、高透過性ガスの吸着平衡定数の406倍である。したがって、微量ガス中のこれらの有機物は高吸着性ガスである。混合ガス中における当該有機物のモル濃度は、実施例1~3と同様に、1.5mol%である。透過量比(P40/P10)は、0.09~0.32と低かった。
【0079】
実施例4~6および比較例3~4は、混合ガス中における有機物のモル濃度を1.0mol%に変更した点を除き、実施例1~3および比較例1~2と同様である。実施例4~6では、透過量比(P40/P10)は、0.99~1.00と高く、比較例3~4では、透過量比(P40/P10)は、0.12~0.41と低かった。
【0080】
以上に説明したように、混合ガスを分離するガス分離方法は、ゼオライト膜複合体1を準備する工程(ステップS11)と、混合ガスをゼオライト膜複合体1に供給し、高透過性ガスをゼオライト膜複合体1を透過させることにより他のガスから分離する工程(ステップS13)と、を備える。ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12と、を備える。混合ガスは、高透過性ガスと、高透過性ガスよりも低濃度の微量ガスと、を含む。微量ガスは、混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%以上の有機物を含む。当該有機物のゼオライト膜12に対する吸着平衡定数は、高透過性ガスの150倍未満である。
【0081】
このように、混合ガスに含まれる微量ガスのうち、ゼオライト膜12に対する吸着平衡定数が高透過性ガスの150倍未満と比較的低い有機物(すなわち、低吸着性ガス)の濃度を、1.0mol%以上と高くすることにより、微量ガス中の有機物がゼオライト膜12の細孔に吸着することを抑制することができる。例えば、当該微量ガス中にゼオライト膜12に対する吸着性が比較的高い有機物が含まれている場合であっても、上述の低吸着性ガスの存在により、当該有機物のゼオライト膜12への吸着が阻害される。これにより、ゼオライト膜12に吸着した有機物により、高透過性ガスのゼオライト膜12の透過が阻害されることを抑制することができる。その結果、ゼオライト膜12による透過性能の経時的低下を抑制することができる。また、低吸着性ガスの濃度を1.0mol%未満まで減少させる必要がないため、当該透過性能の経時的低下の抑制を容易に実現することができる。
【0082】
なお、微量ガスに含まれる有機物は1種類には限定されず、複数種類の有機物が微量ガスに含まれていてもよい。微量ガスに複数種類の有機物が含まれる場合、混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%以上の有機物成分については、ゼオライト膜12に対する吸着平衡定数は、高透過性ガスの150倍未満である。一方、混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%未満の有機物成分については、ゼオライト膜12に対する吸着平衡定数は特に限定されない。例えば、微量ガスに3種類の有機物が含まれており、第1有機物(すなわち、第1の有機物成分)の混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%以上、第2有機物の混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%以上、および、第3有機物の混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%未満である場合、第1有機物および第2有機物のそれぞれの上記吸着平衡定数は高透過性ガスの150倍未満であり、第3有機物の上記吸着平衡定数は特に限定されない。
【0083】
上述のように、微量ガス中の有機物のうち、ゼオライト膜12に対する吸着平衡定数が高透過性ガスの150倍以上である有機物(すなわち、高吸着性ガス)の濃度は、0.05mol%未満であることが好ましい。このように、高吸着性ガスの濃度を低くすることにより、微量ガス中の有機物がゼオライト膜12の細孔に吸着することをさらに抑制し、高透過性ガスのゼオライト膜12の透過が吸着有機物により阻害されることをさらに抑制することができる。その結果、ゼオライト膜12による透過性能の経時的低下を、より一層抑制することができる。
【0084】
上述のように、高透過性ガスは、H2、N2、O2またはCO2であることが好ましい。これにより、H2、N2、O2またはCO2を、透過性能の経時的低下を抑制しつつ効率良く分離することができる。
【0085】
上述のように、ゼオライト膜12に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜複合体1において、分子径が比較的小さいガスの選択的透過を好適に実現することができる。
【0086】
上述のように、ガス分離方法は、ステップS13よりも前に、混合ガスから、ゼオライト膜12に対する吸着平衡定数が高透過性ガスの150倍以上である有機物(すなわち、高吸着性ガス)を除去する工程(ステップS12)をさらに備えることが好ましい。これにより、混合ガス中における高吸着性ガスのモル濃度を、容易に低くする(好ましくは、0.05mol%未満とする)ことができる。その結果、ゼオライト膜12の透過性能の経時的低下を容易に抑制することができる。また、ステップS12において、低吸着性ガスを意図的に除去することなく、高吸着性ガスを選択的に除去することにより、ステップS12の除去工程を簡素化することができる。その結果、ゼオライト膜12の透過性能の経時的低下をさらに容易に抑制することができる。
【0087】
上述のように、混合ガスは、ゼオライト膜12に対する透過性が高透過性ガスよりも低い低透過性ガスをさらに含み、当該混合ガスにおいて、微量ガスの濃度は低透過性ガスの濃度よりも低いことが好ましい。これにより、高透過性ガスの低透過性ガスからの分離において、高いパーミアンス比を実現することができる。
【0088】
上述のガス分離方法は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む混合ガスの分離に特に適している。
【0089】
上述のように、多孔質の支持体11上に形成されたゼオライト膜12に上記混合ガスが供給された際に、有機物の混合ガス中におけるモル濃度が1.0mol%以上かつ6.0mol%以下である状態で、ゼオライト膜12の透過量比(P40/P10)は、0.85以上かつ1.00以下である。これにより、上記と同様に、ゼオライト膜12の透過性能の経時的低下を容易に抑制することができる。なお、当該混合ガスは、上述のように、高透過性ガスと、高透過性ガスよりも低濃度の微量ガスと、を含む。また、微量ガスは、吸着平衡定数が高透過性ガスの150倍未満である有機物を含む。
【0090】
上述のように、ゼオライト膜12は、高透過性ガスがH2、N2、O2またはCO2である場合の混合ガスの分離に特に適している。
【0091】
上述のように、ゼオライト膜12は、混合ガスが微量ガスよりも高濃度の低透過性ガスをさらに含む場合における高透過性ガスの低透過性ガスからの分離に適している。
【0092】
上述のガス分離方法では、様々な変更が可能である。
【0093】
例えば、上記ガス分離方法では、混合ガスから高吸着性ガスを除去する工程(ステップS12)は省略されてもよい。
【0094】
上述のように、混合ガスは、高透過性ガスおよび微量ガスを含んでいれば、必ずしも低透過性ガスを含む必要はない。また、高透過性ガスは、必ずしもH2、N2、O2またはCO2である必要はなく、これらのガス以外のガスであってもよい。
【0095】
ゼオライト膜12の最大員環数は、8よりも小さくてもよく、8よりも大きくてもよい。
【0096】
ゼオライト膜複合体1は、支持体11およびゼオライト膜12に加えて、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜には、CO2を吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0097】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0098】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のガス分離方法は、ガスの分離が行われる様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
S11~S13 ステップ