(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】親水性塗料組成物、アルミニウム部材、アルミニウム板材、アルミニウムチューブ、および熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28F 19/02 20060101AFI20231031BHJP
F28F 1/12 20060101ALI20231031BHJP
F28F 1/32 20060101ALI20231031BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20231031BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231031BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20231031BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231031BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231031BHJP
【FI】
F28F19/02 501Z
F28F1/12 G
F28F1/32 H
F28F13/18 B
C09D201/00
C09D1/00
C09D5/02
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2022517094
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2021016325
(87)【国際公開番号】W WO2021215504
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020076162
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】植杉 隆二
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】古村 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】兵庫 靖憲
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203140(JP,A)
【文献】特開2007-246775(JP,A)
【文献】特開2007-254612(JP,A)
【文献】特開2019-190720(JP,A)
【文献】特開2019-113250(JP,A)
【文献】特開昭60-139763(JP,A)
【文献】特開2017-006969(JP,A)
【文献】特開2013-023683(JP,A)
【文献】特開2012-101174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/02
F28F 1/12
F28F 1/32
F28F 13/18
C09D 201/00
C09D 1/00
C09D 5/02
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成分として、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス
、バナジウム系ガラス、ビスマス系ガラスの内、
いずれかを0.1~21質量%含み、
無機もしくは有機バインダ成分として、
四ホウ酸ナトリウム・十水和物、ホウ酸、四ホウ酸アンモニウム・四水和物、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールの内、いずれかを1.0~5.5質量%含み、
レオロジー調整剤として、合成ヘクトライトとアルミナ超微粒子のいずれかを0.02~3.0質量%含み、
界面活性剤として、スルホン酸塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルベタインの内、いずれかを0.01~1.0質量%含み、
溶媒としての水を含むことを特徴とする親水性塗料組成物。
【請求項2】
前記ガラス成分と前記無機もしくは有機バインダ成分と前記レオロジー調整剤と前記界面活性剤と前記溶媒に加え、
フラックス剤として、K
1-3
AlF
4-6
とKZnF
3
とK
2
SiF
6
の内、いずれかを0.1~0.7質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の親水性塗料組成物。
【請求項3】
溶媒としての水を68.5~97.9質量%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の親水性塗料組成物。
【請求項4】
前記ガラス成分の熱物性として、軟化点が620℃以下であることを特徴とする、請求項1
~3のいずれか一項に記載の親水性塗料組成物。
【請求項5】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、この基材の表面の一部もしくは全面に請求項1~請求項
4の何れか一項に記載の親水性塗料組成物の溶媒が揮発した乾燥後の塗膜量0.1~
3.1g/m
2で被覆された塗膜を備えていることを特徴とするアルミニウム部材。
【請求項6】
前記塗膜の上に塗膜量
0.04~
1.0g/m
2の水溶性潤滑剤層が被覆されたことを特徴とする請求項
5に記載のアルミニウム部材。
【請求項7】
請求項
5または請求項
6の何れかに記載のアルミニウム部材が、板状の形状を有しており、その片面もしくは両面の何れかに前記塗膜が備えられていることを特徴するアルミニウム板材。
【請求項8】
請求項
5または請求項
6の何れかに記載のアルミニウム部材が、単数もしくは複数の穴を有するチューブ形状を有しており、その外表面の一部もしくは全面に前記塗膜が備えられていることを特徴とするアルミニウムチューブ。
【請求項9】
単数もしくは複数の穴を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管、あるいは、単数もしくは複数の穴を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管及びアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィンで構成される熱交換器において、請求項1~請求項
4の何れか一項に記載の親水性塗料組成物の溶媒が揮発した乾燥後の塗膜量0.1~
3.1g/m
2で被覆された塗膜または前記塗膜がろう付けされた後の皮膜を一部または全面に備えていることを特徴とする熱交換器。
【請求項10】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるコルゲート形状を有するフィンと、単数もしくは複数の穴を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管を備え、前記アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管が複数並列配置され、更に、並列配置されている前記アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管の間に前記コルゲート形状を有するフィンがろう付けされている熱交換器において、請求項1~請求項
4の何れか一項に記載の親水性塗料組成物の溶媒が揮発した乾燥後の塗膜量0.1~
3.1g/m
2で被覆された塗膜または前記塗膜がろう付けされた後の皮膜を一部または全面に備えていることを特徴とする熱交換器。
【請求項11】
請求項
9又は請求項
10に記載の熱交換器であって、
請求項
5又は6に記載のアルミニウム部材、請求項
7に記載のアルミニウム板材から成形されたフィン、並びに請求項
8に記載のアルミニウムチューブ
が用いられていることを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性塗料組成物、アルミニウム部材、アルミニウム板材、アルミニウムチューブ、および熱交換器に関する。
本願は、2020年4月22日に、日本に出願された特願2020-076162号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
業務用、家庭用のエアーコンディショナーや車載用のエアーコンディショナー等に用いられる熱交換器のフィンには、エアーコンディショナーの作動時に凝集水が水滴として付着する。熱交換器においては、この凝集水が通風抵抗となることを防止するため、親水性樹脂からなる皮膜を形成する技術が古くから適用されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、Siを1~5質量%含有するアルミニウム合金板の表面に塗膜を有し、塗膜中のSi量が1~300mg/m2であるプレコートフィンが開示されている。この塗膜には、珪酸リチウム等のケイ酸塩と非晶質シリカの少なくとも一方が含有され、さらに、フッ化物フラックスが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、銅とアルミニウムからなる熱交換器ではアルミニウム合金フィン材表面の親水性向上のため、一般には有機系塗料を予めフィンに塗装したプレコートフィンが用いられている。
一方、アルミニウムのみからなる熱交換器では部材接合のため、約600℃に加熱するろう付熱処理を行う必要がある。ところが、有機系塗料からなる親水性皮膜を用いると、ろう付熱処理において親水性皮膜が変質もしくは分解してしまい、ろう付後に充分な親水性が維持できないという問題があった。
【0006】
また、有機系塗料の代わりに水ガラスを含む無機系塗料を予めアルミニウムフィンの表面に塗布し、皮膜を形成することにより、ろう付熱処理後においてもフィン表面の親水性を維持することが可能となる。しかし、上記皮膜では、においの元となる物質等が吸着するために、エアコンを使用中に臭い物質が脱離することによる臭気が発生するという問題があった。
【0007】
本願発明は、ろう付けされる構成の熱交換器に対し適用可能な親水性皮膜を形成できる親水性塗料組成物と該親水性塗料組成物の塗膜を備えたアルミニウム部材、アルミニウム板材、アルミニウムチューブ、および熱交換器の提供を目的とし、熱交換器に付着する結露水などの排水性を向上させることができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の親水性塗料組成物は、ガラス成分として、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、バナジウム系ガラス、ビスマス系ガラスの内、いずれかを0.1~21質量%含み、無機もしくは有機バインダ成分として、四ホウ酸ナトリウム・十水和物、ホウ酸、四ホウ酸アンモニウム・四水和物、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールの内、いずれかを1.0~5.5質量%含み、レオロジー調整剤として、合成ヘクトライトとアルミナ超微粒子のいずれかを0.02~3.0質量%含み、界面活性剤として、スルホン酸塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルベタインの内、いずれかを0.01~1.0質量%含み、溶媒としての水を含むことを特徴とする。
(2)(1)に記載の親水性塗料組成物において、前記ガラス成分と前記無機もしくは有機バインダ成分と前記レオロジー調整剤と前記界面活性剤と前記溶媒に加え、フラックス剤として、K
1-3
AlF
4-6
とKZnF
3
とK
2
SiF
6
の内、いずれかを0.1~0.7質量%含むことを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載の親水性塗料組成物において、溶媒としての水を68.5~97.9質量%含むことを特徴とする。
(4)(1)~(3)の何れか一項に記載の親水性塗料組成物において、前記ガラス成分の熱物性として、軟化点が620℃以下であることが好ましい。
【0009】
(5)本発明に係るアルミニウム部材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、この基材の表面の一部もしくは全面に請求項1~請求項4の何れか一項に記載の親水性塗料組成物の溶媒が揮発した乾燥後の塗膜量0.1~3.1g/m
2
で被覆された塗膜を備えていることを特徴とする。
【0010】
(6)本発明に係るアルミニウム部材は、前記塗膜の上に塗膜量0.04~1.0g/m
2
の水溶性潤滑剤層が被覆されたことが好ましい。
(7)本発明に係るアルミニウム板材は、(5)または(6)の何れかに記載のアルミニウム部材が、板状の形状を有しており、その片面もしくは両面の何れかに前記塗膜が備えられていることを特徴する。
【0011】
(8)本発明に係るアルミニウムチューブは、(5)または(6)の何れかに記載のアルミニウム部材が、単数もしくは複数の穴を有するチューブ形状を有しており、その外表面の一部もしくは全面に前記塗膜が備えられていることを特徴とする。
(9)本発明に係る熱交換器は、単数もしくは複数の穴を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管、あるいは、単数もしくは複数の穴を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管及びアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィンで構成される熱交換器において、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の親水性塗料組成物の溶媒が揮発した乾燥後の塗膜量0.1~3.1g/m
2
で被覆された塗膜または前記塗膜がろう付けされた後の皮膜を一部または全面に備えていることを特徴とする。
(10)本発明に係る熱交換器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるコルゲート形状を有するフィンと、単数もしくは複数の穴を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管を備え、前記アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管が複数並列配置され、更に、並列配置されている前記アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管の間に前記コルゲート形状を有するフィンがろう付けされている熱交換器において、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の親水性塗料組成物の溶媒が揮発した乾燥後の塗膜量0.1~3.1g/m
2
で被覆された塗膜または前記塗膜がろう付けされた後の皮膜を一部または全面に備えていることを特徴とする。
(11)本発明に係る熱交換器は、(9)又は(10)に記載の熱交換器であって、(5)又は(6)に記載のアルミニウム部材、(7)に記載のアルミニウム板材から成形されたフィン、並びに(8)に記載のアルミニウムチューブが用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る親水性塗料組成物は、上述のいずれかのガラス成分を含んでいるので、ろう付け後の皮膜に親水性を付与することができ、耐臭気性を付与できる。更に、無機もしくは有機バインダ成分を含んでいるので、親水性塗料組成物の塗膜を乾燥後、塗膜を基材に固着させることができ、基材からの塗膜の剥離を防止できる。
また、本発明に係る親水性塗料組成物は、レオロジー調整剤を含むので、種々の塗膜法を用いた場合であってもアルミニウム部材に対し塗布安定性を確保でき、所望の塗膜膜厚を得ることができる親水性塗料組成物を提供できる。
また、本発明に係る親水性塗料組成物は、溶媒が水であるので、乾燥工程において溶媒が揮発しても大気汚染の問題を生じない。
【0013】
以上により、ろう付け熱処理を経ても優れた親水性を発現でき、ろう付け熱処理前に予め塗布しておくことでもろう付け加熱後も排水性を確保でき、優れた表面排水性を備え、茶褐色に着色されることのない親水性の塗膜を備えたアルミニウム部材、アルミニウム板材、アルミニウムチューブ、および熱交換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】発明に係る熱交換器の一例を部分断面とした正面図である。
【
図2】発明に係る熱交換器において、ヘッダーパイプ、チューブおよびフィンがろう付けされた状態を示す部分拡大断面図である。
【
図3】発明に係る熱交換器において、ろう付け前にヘッダーパイプ、チューブおよびフィンが組み立てられ、チューブ表面にろう付け用塗膜が塗布された状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0016】
「第1実施形態」
図1は、本実施形態に係る親水性塗料組成物を塗布した塗膜を備えた板材から成形されたフィンを用いて構成された熱交換器の一例を示す斜視図である。
この例の熱交換器30は、ルームエアコンディショナーの室内・室外機用の熱交換器、あるいは、HVAC(Heating Ventilating Air Conditioning)用の室外機、自動車用の熱交換器などの用途に使用されるアルミニウム熱交換器である。
図1に示す熱交換器30は、離間して左右に平行に立設配置されたヘッダーパイプ31、32と、これらのヘッダーパイプ31、32の間に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダーパイプ31、32に対して直角に接合された複数のチューブ33と、各チューブ33に付設された波形のフィン34を主体として構成されている。ヘッダーパイプ31、32、チューブ33及びフィン34は、いずれもアルミニウム合金から構成されている。
【0017】
より詳細には、ヘッダーパイプ31、32の相対向する側面に複数のスリット36が各パイプの長さ方向に定間隔で形成され、これらヘッダーパイプ31、32の相対向するスリット36にチューブ33の端部を挿通してヘッダーパイプ31、32間にチューブ33が複数架設されている。また、ヘッダーパイプ31、32間に所定間隔で架設された複数のチューブ33、33の間に波形のフィン34が配置され、これらのフィン34が例えば
図2に示すようにチューブ33の上面33A側あるいは下面33B側にろう付けされている。
【0018】
図2に示す如く、ヘッダーパイプ31のスリット36に対しチューブ33の端部を挿通した部分において、挿通部分の隙間を埋めるようにろう材により第1のフィレット38が形成され、ヘッダーパイプ31、32に対しチューブ33がろう付されている。また、波形のフィン34において、波の頂点の部分に隣接するチューブ33の上面33Aまたは下面33Bに対向させてそれらの間の部分に生成されたろう材により第2のフィレット39が形成され、チューブ33の上面33A側と下面33B側にそれぞれ波形のフィン34がろう付されている。
チューブ33はアルミニウム合金からなる扁平多穴管であり、その内部には複数の冷媒通路33Cが形成されている。
【0019】
本実施形態の熱交換器30は、
図3に示すようにヘッダーパイプ31、32とそれらの間に架設された複数のチューブ33と複数のフィン34とを組み付けて熱交換器組立体41を形成し、これを加熱してろう付けすることにより製造されたものである。なお、ろう付時の加熱によってチューブ33の上面33A側と下面33B側には
図2に示すZn溶融拡散層42が形成されている。
【0020】
ヘッダーパイプ31、32を構成するアルミニウム合金は、一般的な熱交換器用ヘッダーパイプに適用されるアルミニウム合金からなるが、例えば、Al-Mn系をベースとしたアルミニウム合金が適用される。
例えば、質量%でMn:0.05~1.50%を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05~0.8%、およびZr:0.05~0.15%を含有することができる。なお、以下の説明において、成分や塗膜量などの範囲について「~」を用いて表示する場合、特に指定しない限り、上限と下限を含む範囲を意味する。よって、例えば、0.05~1.50%は0.05%以上1.50%以下を意味し、1~5g/m
2は、1g/m
2以上5g/m
2以下を意味する。なお、本実施形態においてヘッダーパイプ31、32は上述のアルミニウム合金からなるパイプ状の心材の外面にろう材層が形成されたものが適用されている。
図2、
図3では心材を符号31Aで示し、ろう材層を符号43で示している。
【0021】
チューブ33は、その厚さに対し幅の比率が大きい扁平形状のチューブであり、チューブ33の幅方向には複数(数個~数10個)の冷媒通路33Cが隔壁に仕切られた状態で隣接形成されている。
チューブ33を構成するアルミニウム合金は、熱交換器用の扁平多穴管、チューブに適用されるアルミニウム合金であれば特に制限はない。一例として、質量%で、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~1.5%、およびCu:0.1%未満を含有し、残部不可避不純物およびアルミニウムからなるアルミニウム合金などからなる。チューブ33は、アルミニウム合金を押出し加工することによって作製されたものである。なお、チューブ33に形成される冷媒通路33Cの数は1つ以上であれば任意の数で良いが、冷媒通路33Cの数が複数形成されている構造が熱交換効率向上の面で好ましい。
【0022】
フィン34を構成するアルミニウム合金は、熱交換器用フィンに用いられるアルミニウム合金の一般的なものを広く適用できるが、一例を挙げるならば、質量%で、Zn:0.3~5.0%、Mn:0.5~2.0%、Fe:1.0%以下、およびSi:1.5%以下を含有し、残部不可避不純物およびアルミニウムからなるアルミニウム合金などからなる。
フィン34は、上記組成を有するアルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程などを経て、目的のフィン形状、例えばコルゲート形状に加工される。なお、フィン34の製造方法は、特に限定されるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
【0023】
本実施形態において、
図3に示すようにろう付け前のチューブ33の上面と下面には、一例として、Si粉末:1~5g/m
2、Zn含有フラックス(KZnF
3粉末等):3.0~20g/m
2、および樹脂:0.2~8.3g/m
2、を含み、これらに溶剤を添加したろう付け用塗膜37が形成されている。
【0024】
フィン34(アルミニウム板材)は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板状の基材34aと、基材34aの表裏面(表面と裏面)に付着された親水性皮膜35aを有している。即ち、基材34aの表裏両面に加熱処理後の親水性皮膜35aが設けられている。
【0025】
<親水性塗膜>
図3に示すろう付け熱処理前の熱交換器組立体41において、フィン34の表裏面(表裏両面)に本実施形態に係る親水性塗膜35が形成されている(なお、親水性塗膜は省略して塗膜と言うことがある)。
熱交換器組立体41はろう付する前の熱交換器に相当し、
図1に示す概形になるように左右のヘッダーパイプ31、32とチューブ33とフィン34を組み付けたものである。この熱交換器組立体41を後述するようにろう付け熱処理温度に加熱することで
図1に示す熱交換器30を得ることができる。なお、親水性塗膜35はフィン34の表面と裏面の一方のみに形成されていても良い。
【0026】
熱交換器組立体41のフィン34に形成されている親水性塗膜35は、以下に説明する親水性塗料組成物を塗布し、200~260℃、例えば250℃で0.2~5分間乾燥することで溶媒が揮発し、塗膜量が0.1~3g/m2となるようにして得られた塗膜である。
親水性塗料組成物の乾燥後の塗膜量が0.1g/m2未満の場合、ろう付後の皮膜において十分な親水性を得ることができない。また、乾燥後の塗膜量が3g/m2を越えた場合、ろう付性が悪くなり、ろう付時に接合不良を生じるおそれがある。
本実施形態の親水性塗料組成物は、ガラス成分と、無機もしくは有機バインダ成分と、レオロジー調整剤を含み、これらを溶媒としての水に混合した親水性塗料組成物であることを特徴とする。
【0027】
「ガラス成分」
親水性塗料組成物は、(1)ガラス成分として、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、バナジウム系ガラス、ビスマス系ガラスの内、1種類もしくは2種類以上を含む。
ガラス成分は、固形分として親水性塗料組成物中に、0.1~20質量%含まれていることが好ましく、0.5~15質量%含まれていることがより好ましい。
リン酸系ガラスの軟化点は300~550℃、ホウ酸系ガラスの軟化点は400~550℃、バナジウム系ガラスの軟化点は350~550℃、ビスマス系ガラスの軟化点は400~550℃であり、いずれも軟化点が620℃以下であり、550℃以下であることが好ましい。
これら軟化点が620℃以下、好ましくは550℃以下のガラスを含む親水性塗膜について、ろう付け加熱中に親水性塗膜の粘度が充分に低くなる。このため、ろう付け後の親水性皮膜は、アルミニウムフィンの表面をガラス成分が覆う結果、塗膜に親水性を与え、臭気を防止できる効果を奏する。前記ガラスの軟化点は、300~550℃であることが好ましく、300~520℃の範囲であることがより好ましい。
親水性塗料組成物において、ガラス成分の含有量が0.1質量%未満では親水性や耐臭気性が不足し、含有量が20質量%を超えるとろう付け性が低下するという問題がある。
【0028】
「無機バインダ成分もしくは有機バインダ成分」
本実施形態の親水性塗料組成物は、(2)無機バインダ成分あるいは有機バインダ成分として、アルミナゾル、塩基性塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、四ホウ酸塩、水溶性ジルコニウム化合物、水溶性チタニウム化合物、PVA(ポリビニルアルコール)、PEG(ポリエチレングリコール)、CMC(カルボキシメチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、MC(メチルセルロース)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸塩、および水溶性アクリル樹脂の内、1種類もしくは2種類以上を含む。
前記ホウ酸塩は、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、およびホウ酸アンモニウム、の内、1種類または2種類以上であることが好ましい。前記メタホウ酸塩は、メタホウ酸リチウム、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウム、メタホウ酸カルシウム、メタホウ酸バリウム、およびメタホウ酸アンモニウムの内、1種類または2種類以上であることが好ましい。前記四ホウ酸塩は、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸カルシウム、四ホウ酸バリウム、および四ホウ酸アンモニウムの内、1種類または2種類以上であることが好ましい。
【0029】
親水性塗料組成物において、無機バインダ成分あるいは有機バインダ成分は、固形分として親水性塗料組成物中に、0.5~5質量%含まれていることが好ましく、0.5~4.5質量%含まれていることがより好ましい。
無機バインダ成分あるいは有機バインダ成分の含有量が0.5質量%未満では板状のアルミニウム基材表面に対する親水性塗料組成物の塗膜の密着性が低下する。無機バインダ成分あるいは有機バインダ成分の含有量が5質量%を超えると、ろう付性が低下するという問題がある。
【0030】
「レオロジー調整剤」
親水性塗料組成物において、レオロジー調整剤は、親水性塗料組成物中に0.02~3質量%含有され、より好ましくは0.1~2質量%含まれている。
レオロジー調整剤として具体的には、合成または天然の膨潤性層状鉱物粒子(ヘクトライト、バーミキュライト、ハロサイト、膨潤性マイカ等)、超微粒子酸化物粒子(アルミナ、チタニア、ジルコニア等)、PVA、PVP、ポリアクリル酸またはポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸またはポリメタクリル酸塩、水溶性セルロース誘導体、およびセルロースナノファイバーのうち、1種類または2種類以上を選択して用いることができる。
レオロジー調整剤の含有量が0.02質量%を下回るとガラス成分、着色成分の沈降防止効果が得られず、親水性塗料組成物を保管中に沈降するようになり、塗装ムラの発生、塗料の保管安定性の低下といった問題があり、3質量%を上回ると親水性塗膜そのものの性質が変わり、十分な親水性が得られなくなるとともに、塗料粘度が上昇し、塗装が困難となるといった問題がある。
【0031】
「界面活性剤」
親水性塗料組成物において、界面活性剤は、親水性塗料組成物中に0.01~1質量%含有され、より好ましくは、0.1~1質量%含まれている。
界面活性剤として具体的には、アニオン系界面活性剤として、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、およびリン酸エステル塩から選択される1種以上を適用することができる。アルキルベンゼンスルホン酸塩として知られるLAS、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩として知られるMES、α-オレフィンスルホン酸塩として知られるAOSなどを用いても良い。硫酸エステル塩としては、アルキル硫酸エステル塩のAS、またはポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩として知られるAESなどを用いても良い。
【0032】
その他、カチオン系界面活性剤として、ベンザルコニウム塩や第四級アンモニウム塩、またはイミダゾリン化合物を使用することができる。
その他、非イオン系界面活性剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどを用いても良い。また、両性界面活性剤として、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、またはアルキルアミンオキサイドなどを用いても良い。
上記、界面活性剤のうち、1種類または2種類以上を選択して用いることができる。界面活性剤の含有量が0.01質量%を下回ると、基材の表面状態によっては充分な濡れ性が得られず、塗装性が低下し、塗布時に塗料はじき等の塗布不良が発生するという問題があり、1質量%を上回ると塗膜密着性の低下を引き起こすという問題がある。
【0033】
「フラックス剤」
親水性塗料組成物において、フラックス剤は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素、アルミニウム、シリコン、亜鉛、チタン、ジルコニウム、およびセシウムのいずれか1種または2種以上を含むフッ素化合物のいずれか1種または2種以上を含む。
前記フッ素化合物は、K1-3AlF4-6、Cs1-3AlF4-6、Cs0.02K1-2AlF4-5、AlF3、KF、KZnF3、K2SiF6、Li3AlF6、NaF、NaSiF6、KSiF6、MgF2、CaF2、CsF、NaBF4、KBF4、K2TiF6、K2ZrF6のうち、いずれか1種または2種以上であることが好ましい。
フラックス剤の含有量が0.1質量%を下回ると、ろう付け性が低下する場合があり、1質量%を上回ると塗膜密着性、耐食性や耐臭気などの特性が低下する場合がある。従って、フラックス剤の含有量は0.1~1質量%であることが好ましい。
【0034】
<水溶性潤滑剤層>
親水性塗料組成物の塗膜上に形成する水溶性潤滑剤層を形成できる材料として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-12-ヒドロキシステアリン酸エステル、ポリオキシエチレントリメチロールプロパンアルキル脂肪酸モノ又はジエステル、ポリオキシエチレンペンタエリスリトールアルキル脂肪酸モノ又はジエステル、およびポリオキシエチレンポリオキシアルキルエーテルの群の中から選ばれる化合物にエチレンオキサイドを付加したノニオン型高分子などが挙げられる。
【0035】
親水性塗膜35の表面には、水溶性潤滑剤層が形成されていることが望ましい。この水溶性潤滑剤層の塗膜量は、0.05~1g/m2であることが望ましい。
水溶性潤滑剤層の塗膜量が0.05g/m2未満の場合、板材を波形のフィンに加工する場合、金型との摩擦により、フィンに部分的に割れが生じ易くなる。また、1g/m2を越える塗膜量とした場合、フィン加工時に、切断および送り不良が生じやすくなることや、ろう付性が低下するといった不具合が生じる。
【0036】
図3に示す熱交換器組立体41において、チューブ33の上面33Aと下面33Bにろう付け用塗膜37が形成されており、熱交換器組立体41を580~620℃程度の温度に数分~数10分程度加熱することでろう付け用塗膜37を溶融させることができる。
加熱処理後、冷却すると
図2に示すようにフィレット38、39によりチューブ33とフィン34をろう付けし、フィレット38によりチューブ33をヘッダーパイプ31、32にろう付けした熱交換器30を得ることができる。
ろう付け前のフィン34に形成されていた親水性塗膜35はろう付け熱処理後に親水性皮膜35aとなり、フィン34の表面と裏面に残留する。
【0037】
ろう付け用塗膜37にZn含有フラックスを含有している場合、ろう付け熱処理時にチューブ33の上面33Aと下面33BにZnが拡散してZn拡散層42を生成し、このZn拡散層42が防食効果を発揮する。
ろう付け塗膜37はその他一般的に知られているろう付け用塗料、あるいは、ブレージングシートなどのクラッド材に適用される一般的なろう材層から構成されていても良い。
また、フィン34側へろう材層が形成され、チューブ33にろう付け塗料37が形成されていない構成でも使用する事ができる。この時チューブ33の表裏面にはZn溶射層やフラックス層が形成されていてもよい。
【0038】
本実施形態の親水性塗膜35はろう付前に上述の組成を有するので、ろう付け熱処理後は、有機バインダ成分、界面活性剤、有機物からなるレオロジー調整剤が除去された後、残りの成分が凝集して親水性皮膜35aを構成することで、親水性を発現する。
【0039】
特に、ガラス成分として上述の範囲含まれている、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、バナジウム系ガラス、ビスマス系ガラスの内、1種類もしくは2種類以上は、上述のろう付け熱処理温度に加熱された後も優れた親水性を発現する。
また、上述の物質を含むことにより、アルミニウム合金の表面への付着性を確保し、親水性皮膜の付着性を向上させ、剥離を防止する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<サンプルの作製>
Si:0.4~1.0質量%、Mn:1.0~2.0質量%、Zn:0.5~3.5質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物の組成を有する板状のアルミニウム基材を複数用意し、これらの基材に対し、脱脂処理を行った。
脱脂処理の後、各基材表面に対しバーコーター塗装により、以下に記載する親水性塗料組成物を塗装した。
【0041】
<親水性塗料組成物の調製>
ガラス成分として、以下の表1に示すホウ酸系ガラス、リン酸系ガラス、バナジウム系ガラス、ビスマス系ガラスを含有する親水性塗料組成物を調製した。
表1に親水性塗膜に用いたガラス成分と無機あるいは有機バインダ成分とレオロジー調整剤と界面活性剤とフラックス剤の種類を記載し、後記する表2~表17に各成分の配合量を記載する。また、親水性塗膜の表面に形成する水溶性潤滑剤層の材料の種類を表1に記載する。
【0042】
【0043】
「ガラス成分」
A1:ホウ酸系ガラス(軟化点:515℃)
A2:リン酸系ガラス(軟化点:485℃)
A3:バナジウム系ガラス(軟化点:500℃)
A4:ビスマス系ガラス(軟化点:500℃)
A5:非晶質シリカ(軟化点:1500℃)
【0044】
「無機バインダあるいは有機バインダ」
B1:四ホウ酸ナトリウム・十水和物
B2:ホウ酸
B3:四ホウ酸アンモニウム・四水和物
B4:ポリメタクリル酸ナトリウム
B5:PVA(ポリビニルアルコール)
B6:珪酸ナトリウム
【0045】
「レオロジー調製剤」
C1:合成ヘクトライト
C2:アルミナ超微粒子
【0046】
「界面活性剤」
D1:アニオン系界面活性剤(スルホン酸塩)
D2:カチオン系界面活性剤(アンモニウム塩)
D3:非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)
D4:両性界面活性剤(アルキルベタイン)
【0047】
「フラックス剤」
E1:K1-3AlF4-6
E2:KZnF3
E3:K2SiF6
【0048】
これら親水性塗料組成物をアルミニウム合金の板状の基材の表面にバーコーター塗装により塗布した後、この親水性塗膜を250℃で0.5分間加熱することにより溶媒が揮発・乾燥し、以下の表18~表33に示すように乾燥後の塗膜量を調節された親水性塗膜を有するアルミニウム板材を得た。更に、以下の表18~表33に示す塗膜量に調節された水溶性潤滑層をバーコーター塗装により形成した。
【0049】
次に、Si:0.3~0.5質量%、Mn:0.2~0.4質量%を含み、残部Alと不可避不純物からなるチューブ用アルミニウム合金を溶製し、この合金から押出成形により扁平横断面形状(肉厚0.26mm×幅17.0mm×高さ1.5mm)の熱交換器用アルミニウム合金チューブを形成した。
さらに、これらチューブの平坦な上面と下面にろう材層の塗膜を形成した。ろう材層の塗膜は、Si粉末(D(99)粒度10μm)3gと、Zn含有フラックス(KZnF3粉末:D(50)粒度2.0μm)6g、及び、アクリル系樹脂バインダ1g、溶剤としての3-メトキシ-3-メチル-1ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物16gからなる溶液をバーコーターにより塗布し、乾燥させる(150℃雰囲気中で5分間加熱)ことで形成した。
【0050】
前記アルミニウム板材をコルゲート加工により波形に成形して全長100mmのアルミニウムフィンを得た。このアルミニウムフィン10枚に対し、前記チューブを11本を組み合わせて
図1に示す熱交換器形状に類似した10段構成のミニコア試験体を組み立てた。
これらのミニコア試験体を窒素雰囲気の炉内に600℃×3分保持する条件でろう付け熱処理を行った。このろう付け熱処理により、ろう付け用塗膜が形成されていたチューブの上面および下面に、犠牲陽極層が形成されるとともに、親水性皮膜を備えたフィンとチューブがろう付け接合された熱交換器試験体を得た。
【0051】
塗装性評価と、乾燥後密着性と、水洗後の接触角と、ろう付け性評価と、耐食性評価と、臭気評価と、プレス加工性について以下の条件に基づき測定または評価した。
【0052】
<評価試験>
[塗装性評価]
前述の親水性塗料組成物を板状の基材表面へ塗布、250℃で乾燥した後の板材表面の塗装状態において、目視外観にて塗装性の評価を行った。塗料のはじきが著しく、塗装が不可能なものをDとし、塗料はじきまたは筋状のムラが若干見られるものの、目視外観上で問題ないものをBとし、塗料はじきが全くなく、筋状のムラがないものをAとした。
【0053】
[塗膜密着性試験]
前述の親水性塗料組成物を板状の基材表面へ塗布し、250℃で乾燥した後の塗膜について、フェルト製の接触端子を500gの荷重で押し当てたまま、10回摩擦を行うラビング試験を実施した。試験後の板材表面において、著しく摩擦痕が観察され、かつ、塗膜が剥がれた状態のものをD、摩擦痕等が観察され、一部塗膜が剥がれている箇所があるが使用上の特性に問題が無いものをC、摩擦痕が観察されるが塗膜が剥がれていない状態のものまたは外観上の変化が見られず、かつ、塗膜が剥がれていない状態のものをBとした。
【0054】
[親水性評価:水洗後の水接触角測定]
前述の親水性塗料組成物を板状の基材表面へ塗布し、250℃で乾燥したろう付け熱処理前の板材試料と、ろう付加熱処理後の板材試料について、流水に24時間浸漬後、水接触角をそれぞれ測定した。これらの測定結果において、水接触角が30°より大きいものを親水性がD、接触角が30°以下~25°よりも大きいものを親水性がC、水接触角が25°以下~20°よりも大きいものを親水性がB、水接触角が20°以下のものを親水性がAとした。
【0055】
[ろう付け性評価]
600℃×3分間のろう付加熱後、得られた各熱交換器試験体のろう付け接合された各フィンについて、チューブからフィンをはぎ取り、チューブ表面に残存するフィン接合跡を観察し、未接合箇所(ろう付けを行ったが接合部跡が残らなかった箇所)の数を計測した。1つのサンプルに対し、100箇所の接合部について計測し、正常な箇所(ろう付後、接合部跡が残った箇所)が69箇所以下のものをD、70~79箇所のものをC、80~89箇所のものをB、90箇所以上であるものをAとした。
[耐食性評価]
600℃×3分間のろう付加熱後、得られた各熱交換器試験体について、ASTM G85-A3で企画されているSWAAT試験を実施し、チューブに貫通孔が生成されるまでの日数を評価した。200日以上であれば、合格と判断した。
【0056】
[臭気]
600℃×3分間のろう付加熱後、得られた各熱交換器試験体からの臭気について5名のテスターによる官能試験を行い、以下の基準に従って評価した。なお、平均点が1.5点以下の場合を許容範囲(合格)とした。
1点:臭わない、2点:かすかに臭う、3点:臭う、4点:よく臭う
【0057】
[プレス加工性]
前述の親水性塗料組成物を板状の基材表面へ塗布し、250℃で乾燥した後、更に水溶性潤滑剤層が形成された塗膜に対し、バウデン式動摩擦係数試験により表面の動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が0.3を超える試料はプレス加工時の金型へのダメージが大きい試料と判断してDとし、動摩擦係数が0.3以下~0.2を超える試料をC、動摩擦係数が0.2以下の試料をBとした。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表2~表15に示すように、実施例1~実施例344は、ガラス成分と無機バインダあるいは有機バインダを含む上に、必要に応じて、レオロジー調整剤、界面活性剤、フラックス剤を含んでいるので、表18~表31に示すように、何れの評価項目においても合格またはA、BあるいはCとなった。
【0091】
表2~表4に示すように、実施例10~14、28~32、46~50、64~68は、ガラス成分、無機・有機バインダのいずれかが最も望ましい範囲から外れているので、表18~表20に示すように、乾燥後密着性、ろう付け評価のいずれかが、BあるいはCとなった。
【0092】
表18~表31に示すように、実施例18~21、33~36、51~54、69~72、77~80、85~88、93~96、101~104、117~120、133~136、141~144、149~152、157~160、165~168、173~176、181~184、189~192、197~200、205~208、213~216、229~232、237~240、253~256、261~264、269~272、277~280、285~288、293~296、301~304、309~312、316~319、325~328、333~336、341~344は、親水性塗料の塗膜量あるいは水溶性潤滑層の塗膜量がより望ましい範囲から外れているので、水洗後の水接触角、ろう付け性評価、プレス加工性のいずれかがCとなった。
【0093】
表16~表17に示すように比較例1~48は、ガラス成分もしくは無機・有機バインダ成分として、非晶質ガラスもしくは珪酸ナトリウムをいずれか一方または両方含んでいることから、表32~表33に示すように臭気評価において不合格となった。
【符号の説明】
【0094】
30…熱交換器、31、32…ヘッダーパイプ、33…チューブ、33A…上面、33B…下面、33C…冷媒通路、34…フィン、35…ろう付け熱処理前の親水性塗膜、35a…ろう付け熱処理後の親水性皮膜、37…犠牲陽極層、38…第1のフィレット、39…第2のフィレット、41…熱交換器組立体。