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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】熱伝導性グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20231031BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20231031BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20231031BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20231031BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20231031BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/22
C08K3/28
C08K5/5415
C08K9/06
C09K5/14 101E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023553059
(86)(22)【出願日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2023021847
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022153788
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】片石 拓海
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140395(JP,A)
【文献】特開2014-084403(JP,A)
【文献】特開2008-222776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C09K 5/00- 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂と熱伝導性フィラーを含む熱伝導性グリース組成物であって、
前記マトリックス樹脂は、40℃における動粘度が100~10,000mm2/sの液状ジメチルポリシロキサン(A)と、40℃における動粘度が1~10,000mm2/sの液状オルガノポリシロキサン(B)を含み、
前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量を100質量部としたとき、前記マトリックス樹脂は、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)を50質量部以上97質量部以下、前記液状オルガノポリシロキサン(B)を3質量部以上50質量部以下含み、
前記液状オルガノポリシロキサン(B)が有する、両末端のケイ素原子に結合した有機基を除いた有機基全数を100%とすると、前記有機基全数のうちの30~70%がメチル基であり、30~70%が炭素数2~14の飽和炭化水素基であり、
前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量100質量部に対して、前記熱伝導性フィラーを400~2500質量部含み、
前記熱伝導性フィラーは、中心粒径が1μm以上5μm以下のアルミナを20~2000質量部含む、熱伝導性グリース組成物。
【請求項2】
前記熱伝導性フィラーは、
中心粒径が100μmを超える球状アルミナを20~1500質量部と、
中心粒径が5μm以上50μm以下の窒化アルミニウムを20~500質量部と、
中心粒径が1μm以上5μm以下の不定形粉砕アルミナを20~1000質量部と、
中心粒径が0.1μm以上1μm未満の不定形粉砕アルミナを20~500質量部含む、請求項1に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性グリース組成物は、粘度調整剤として、さらにRaSi(OR')4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換または置換有機基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物又はその部分加水分解物を、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーは、RaSi(OR')4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換または置換有機基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物又はその部分加水分解物で表面前処理されている、請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性グリース組成物の熱伝導率は、1.0W/m・K以上10.0W/m・K以下である請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性グリース組成物の、B型粘度計で測定した23℃での絶対粘度が、1,000~10,000Pa・sである、請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【請求項7】
2枚のプレート間に前記熱伝導性グリース組成物を0.4g配置し、前記熱伝導性グリース組成物からなる層の厚さが0.5mmとなるように前記2枚のプレートで前記熱伝導性グリース組成物を挟持した状態で、前記プレートの主面が地面に対して垂直となるように、これらをヒートショック試験機内に保持し、次いで、-40℃で30分間保持してから、昇温し、その後、125℃で30分保持してから、-40℃まで降温するという1サイクルを、500サイクル行うヒートショック試験において、前記試験のスタート時からの熱伝導性グリース組成物の落下が5mm以内である、請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気部品又は電子部品等の発熱体と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましく、それに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱する電気部品又は電子部品等には放熱体が取り付けられ、例えば半導体などの発熱体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性グリースが使われている。電気部品又は電子部品の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性グリースには高熱伝導性とともに、発熱体と放熱体の間からグリースが垂れ落ち難いという性質(「耐落下性」と呼ばれる。)が求められている。
【0003】
特許文献1には、熱伝導性充填剤と、分子内に硬化性官能基を一つ有するポリシロキサンを少なくとも1種含むポリオルガノシロキサン樹脂と、アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物とを含む組成物が提案されている。特許文献2には、液状シリコーンと熱伝導性充填剤と特定の疎水性球状シリカ微粒子を含み、放熱性を向上した熱伝導性シリコーン組成物が提案されている。特許文献3には、粒子径と形状の異なるアルミナを含む熱伝導性含フッ素接着剤組成物が開示されている。本発明者は特許文献4~5でエチレン・α-オレフィン共重合体を含む熱伝導性グリース組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-104714号公報
【文献】特開2016-044213号公報
【文献】特開2017-190389号公報
【文献】特許第7047199号公報
【文献】特許第7095194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1~3の熱伝導性シリコーングリースは、例えば、発熱体と放熱体との間に介在し、発熱体と放熱体によって垂直に挟持される場合、発熱体と放熱体の間から垂れ落ちてしまう問題があった。また、前記特許文献4~5の熱伝導性グリース組成物は、熱伝導性シリコーングリースに比べて粘度が高いという問題があった。
【0006】
本発明は前記従来の問題を解決するため、低粘度でありながら、垂れ落ちにくく、熱伝導率も高い熱伝導性グリース組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱伝導性グリース組成物は、
マトリックス樹脂と熱伝導性フィラーを含む熱伝導性グリース組成物であって、
前記マトリックス樹脂は、40℃における動粘度が100~10,000mm2/sの液状ジメチルポリシロキサン(A)と、40℃における動粘度が1~10,000mm2/sの液状オルガノポリシロキサン(B)を含み、
前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量を100質量部としたとき、前記マトリックス樹脂は、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)を50質量部以上97質量部以下、前記液状オルガノポリシロキサン(B)を3質量部以上50質量部以下含み、
前記液状オルガノポリシロキサン(B)が有する、両末端のケイ素原子に結合した有機基を除いた有機基全数を100%とすると、前記有機基全数のうちの30~70%がメチル基であり、30~70%が炭素数2~14の飽和炭化水素基であり、
前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量100質量部に対して、前記熱伝導性フィラーを400~2500質量部含む、熱伝導性グリース組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、マトリックス樹脂と熱伝導性フィラーを含み、前記マトリックス樹脂は、40℃における動粘度が100~10,000mm2/sの液状ジメチルポリシロキサン(A)と、40℃における動粘度が1~10,000mm2/sの液状オルガノポリシロキサン(B)を含み、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量を100質量部としたとき、前記マトリックス樹脂は、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)を50質量部以上97質量部以下、前記液状オルガノポリシロキサン(B)を3質量部以上50質量部以下含み、前記液状オルガノポリシロキサン(B)が有する、両末端のケイ素原子に結合した有機基を除いた有機基全数を100%とすると、前記有機基全数のうちの30~70%がメチル基であり、30~70%が炭素数2~14の飽和炭化水素基であり、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量100質量部に対して、前記熱伝導性フィラーを400~2500質量部含むことにより、低粘度でありながら、垂直に挟持した際に垂れ落ちにくく、熱伝導率も高い、熱伝導性グリース組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
図2図2A-Dは、本発明の一実施例で使用する落下試験を説明する模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱伝導性グリース組成物(以下「グリース組成物」と略称する場合がある。)は、マトリックス樹脂と熱伝導性フィラーを含み、前記マトリックス樹脂は、40℃における動粘度が100~10,000mm2/sの液状ジメチルポリシロキサン(A)と、40℃における動粘度が1~10,000mm2/sの液状オルガノポリシロキサン(B)を含む。前記液状ジメチルポリシロキサン(A)は耐熱性が高く、前記液状オルガノポリシロキサン(B)は、高温下で固くなりやすい。従って、両者を特定の割合で併用することにより、グリース組成物の耐熱性を確保しつつ、高温下で適度に固くなることにより垂れ落ちを抑制できる。液状ジメチルポリシロキサン(A)の40℃における好ましい動粘度は100~5000mm2/sであり、より好ましくは100~3000mm2/sであり、さらに好ましくは100~1000mm2/sであり、さらにより好ましくは100~400mm2/sであり、さらにより好ましくは100~200mm2/sである。液状オルガノポリシロキサン(B)の40℃における好ましい動粘度は10~5000mm2/sであり、より好ましくは20~3000mm2/sであり、さらに好ましくは30~1000mm2/sであり、さらにより好ましく50~1000mm2/sであり、さらにより好ましくは100~800mm2/sであり、さらにより好ましくは200~800mm2/sである。これにより、本発明のグリース組成物は、耐熱性に優れ、低粘度でありながら、垂直に挟持した際に垂れ落ちにくいグリースとなる。
【0011】
前記液状オルガノポリシロキサン(B)が有する、両末端のケイ素原子に結合した有機基を除いた有機基全数を100%とすると、グリース組成物の、低粘度化及び垂れ落ち抑制の観点から、前記全有機基全数のうちの、30~70%がメチル基、30~70%が炭素数2~14の飽和炭化水素基、好ましくは35~70%がメチル基、30~65%が炭素数2~14の飽和炭化水素基、より好ましくは40~70%がメチル基、30~60%が炭素数2~14の飽和炭化水素基、さらに好ましくは45~70%がメチル基、30~55%が炭素数2~14の飽和炭化水素基、さらにより好ましくは45~60%がメチル基、40~55%が炭素数2~14の飽和炭化水素基である。前記飽和炭化水素基の炭素数は、2~14であり、好ましくは4~12、より好ましくは6~10である。
尚、前記液状オルガノポリシロキサン(B)が有する、両末端のケイ素原子に結合した有機基を除いた有機基全数に対する、メチル基または炭素数2~14の飽和炭化水素基の割合は、例えば、NMR等にて調べることができる。
【0012】
液状オルガノポリシロキサン(B)は、好まししくは下記式(1)、(2)又は(3)で表される直鎖状で、分子鎖の両末端がトリメチルシリル基で封鎖された、直鎖状両末端トリメチルオルガポリシロキサンである。式(1)~(3)において、R1はメチル基であり、R2は、炭素数2~14の飽和炭化水素基であり、mは0以上の整数であり、nは0以上の整数(ただし、m、nのうちの一方が「0」の場合、他方は「1」以上)である。mおよびnの具体的な数は、40℃における動粘度が1~10,000mm2/sであり、両末端のケイ素原子に結合した有機基を除いた全有機基のうちの、30~70%がメチル基、30~70%が炭素数2~14の飽和炭化水素基であるかぎり、特に限定されない。液状オルガノポリシロキサン(B)の好ましい市販品としては、Gelest社製の、商品名"ALT-143"等があり、"ALT-143"は、下記式(3)で表される。
【0013】
【化1】
【0014】
前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量を100質量部としたとき、前記熱伝導性フィラーの含有量は400~2500質量部であり、好ましくは600~2400質量部であり、より好ましくは800~2400質量部であり、さらに好ましくは1000~2400質量部である。これにより、グリース組成物が、低粘度でありながら、垂れ落ちにくく、熱伝導率を高くできる。
【0015】
前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量100質量部としたとき、液状ジメチルポリシロキサン(A)の含有量は50質量部以上97質量部以下、液状オルガノポリシロキサン(B)の含有量は3質量部以上50質量部以下であり、好ましくは液状ジメチルポリシロキサン(A)の含有量は55質量部以上97質量部以下、液状オルガノポリシロキサン(B)の含有量は3質量部以上45質量部以下であり、より好ましくは液状ジメチルポリシロキサン(A)の含有量は60質量部以上97質量部以下、液状オルガノポリシロキサン(B)の含有量は3質量部以上40質量部以下であり、さらに好ましくは液状ジメチルポリシロキサン(A)の含有量は65質量部以上97質量部以下、液状オルガノポリシロキサン(B)の含有量は3質量部以上35質量部以下である。これにより、グリース組成物は耐熱性に優れ、粘度を低くでき、かつ垂直に挟持された際に垂れ落ちにくくなる。
【0016】
前記熱伝導性フィラーは、グリース組成物の、低粘度化、垂れ落ち抑制、高熱伝導率の両立の観点から、中心粒径が1μm以上5μm以下のアルミナを、20~2000質量部含んでいると好ましく、100~600質量部含んでいるとより好ましく、200~500質量部含んでいるとさらに好ましい。また、熱伝導性フィラーは、中心粒径が100μmを超える球状アルミナを20~1500質量部と、中心粒径が5μm以上50μm以下の窒化アルミニウムを20~500質量部と、中心粒径が1μm以上5μm以下の不定形粉砕アルミナを20~1000質量部と、中心粒径が0.1μm以上1μm未満の不定形粉砕アルミナを20~500質量部含んでいると好ましい。これにより、大粒子の間に小粒子が存在し、最密充填に近い状態で充填し、熱伝導性を高き、且つ、グリース組成物の更なる低粘度化および垂れ落ち抑制が可能となる。同様の理由から、熱伝導性フィラーは、中心粒径が100μmを超える球状アルミナを500~1200質量部と、中心粒径が5μm以上50μm以下の窒化アルミニウムを50~400質量部と、中心粒径が1μm以上5μm以下の不定形粉砕アルミナを100~600質量部と、中心粒径が0.1μm以上1μm未満の不定形粉砕アルミナを50~400質量部含んでいるとより好ましく、熱伝導性フィラーは、中心粒径が100μmを超える球状アルミナを700~1200質量部と、中心粒径が5μm以上50μm以下の窒化アルミニウムを100~400質量部と、中心粒径が1μm以上5μm以下の不定形粉砕アルミナを150~500質量部と、中心粒径が0.1μm以上1μm未満の不定形粉砕アルミナを100~400質量部含んでいるとさらに好ましく、熱伝導性フィラーは、中心粒径が100μmを超える球状アルミナを800~1100質量部と、中心粒径が5μm以上50μm以下の窒化アルミニウムを150~400質量部と、中心粒径が1μm以上5μm以下の不定形粉砕アルミナを200~500質量部と、中心粒径が0.1μm以上1μm未満の不定形粉砕アルミナを100~400質量部含んでいるとさらにより好ましい。
中心粒径が100μmを超える球状アルミナは、好ましくは中心粒径が100μmを超え200μm以下、より好ましくは中心粒径が100μmを超え150μm以下の球状アルミナである。
中心粒径が5μm以上50μm以下の窒化アルミニウムの形状は不定形が好ましい。中心粒径が5μm以上50μm以下の窒化アルミニウムは、好ましくは中心粒径が5μm以上30μm以下の窒化アルミニウムである。
尚、中心粒径は、レーザー回折光散乱法により測定される体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば、堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950S2がある。
【0017】
本発明のグリース組成物は、好ましくは、粘度調整剤として、さらにRaSi(OR')4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換または置換有機基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物又はその部分加水分解物を、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部含む。これにより、グリース組成物の粘度を下げることができる。
【0018】
熱伝導性フィラーは、RaSi(OR')4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換または置換有機基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物又はその部分加水分解物で表面前処理されていると好ましい。これにより、グリース組成物の粘度を下げることができる。とくに、中心粒径が0.1μm以上5μm以下の小粒径フィラーは表面前処理されているのが好ましい。
【0019】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン等があげられる。前記アルコキシシラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、アルコキシシラン化合物と片末端シラノールシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。熱伝導性フィラーが表面処理されていると、熱伝導性フィラーは、マトリックス樹脂との混合性が良好となる。
【0020】
アルコキシシラン化合物は予め熱伝導性フィラーと混合され、熱伝導性フィラーはアルコキシシラン化合物により前処理しておくのが好ましい。熱伝導性フィラー100質量部に対し、アルコキシシラン化合物は0.01~10質量部添加するのが好ましい。熱伝導性フィラーはアルコキシシラン化合物によって表面処理されることで、マトリックス樹脂に充填されやすくなる。
【0021】
熱伝導性グリース組成物の熱伝導率は、1.0W/m・K以上10.0W/m・K以下であるのが好ましく、より好ましくは1.5W/m・K以上10.0W/m・K以下であり、さらに好ましくは2.0W/m・K以上10.0W/m・K以下である。このような熱伝導性グリースはTIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【0022】
熱伝導性グリース組成物は、B型粘度計で回転速度5rpm、T-Eスピンドルを用いて測定した23℃における絶対粘度が1,000Pa・s以上10,000Pa・s以下であるのが好ましく、より好ましくは1,000Pa・s以上8,000Pa・s以下であり、さらに好ましくは1,000Pa・s以上6,000Pa・s以下である。これにより作業性に優れ、発熱体と放熱体の間への注入性又は塗布性も良好な熱伝導性グリース組成物となる。
【0023】
2枚のプレート間に熱伝導性グリース組成物を0.4g配置し、熱伝導性グリース組成物からなる層の厚さが0.5mmとなるように前記2枚のプレートで前記熱伝導性グリース組成物を挟持した状態で、前記プレートの主面が地面に対して垂直となるように、ヒートショック試験機内に保持し、次いで、-40℃で30分間保持してから、125℃になるまで昇温し、その後、125℃で30分保持してから、-40℃まで降温するという1サイクルを、500サイクル行うヒートショック試験において、前記試験のスタート時からの熱伝導性グリース組成物の落下が5mm以内であるのが好ましい。これにより、耐落下性を高く維持できる。
【0024】
本発明の熱伝導性グリース組成物には、必要に応じて、例えば、ベンガラ、酸化チタン、酸化セリウム等の耐熱向上剤、難燃剤、難燃助剤等が含まれていても良い。また、本発明の熱伝導性グリース組成物には、必要に応じて、着色、調色の目的で有機或いは無機粒子顔料が含まれていてもよい。また、本発明の熱伝導性グリース組成物には、必要に応じて、熱伝導性フィラーの表面処理等の目的で、アルコキシ基含有シリコーンが含まれていてもよい。本発明の熱伝導性グリース組成物では、硬化触媒は特に必要とせず、本発明の熱伝導性グリース組成物は、非硬化型グリースであると好ましい。
【0025】
本発明の熱伝導性グリース組成物は、ディスペーサー、ビン、缶、チューブなどに充填して製品とすることができる。
【0026】
また、本発明は、一態様において、発熱体と放熱体の間に本発明の熱伝導性グリース組成物を介在させる本発明の熱伝導性グリースの使用に関する。また、本発明は、一態様において、発熱体と放熱体の間に本発明の熱伝導性グリース組成物を介在させ、当該熱伝導性グリースを前記発熱体と前記放熱体によって垂直に挟持する、本発明の熱伝導性グリースの使用に関する。発熱体としては、例えば電気部品、または半導体素子等の電子部品が挙げられる。放熱体としては、例えば、ヒートシンク等が挙げられる。
【実施例
【0027】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
【0028】
<熱伝導率>
熱伝導性グリース組成物の熱伝導率は、ホットディスク(ISO/CD 22007-2準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は図1Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、図1Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【0029】
【数1】
【0030】
<熱伝導性グリース組成物の絶対粘度>
熱伝導性グリース組成物の絶対粘度はB型粘度計(ブルックフィールド社製HBDV2T)で測定した。スピンドルはT-Eスピンドルを使用し、回転速度5rpm(但し、比較例3と4は回転速度0.5rpm)、23℃における絶対粘度を測定した。
【0031】
<熱伝導性グリース組成物の落下試験>
熱伝導性グリース組成物の落下試験について図2A-Dを用いて説明する。
タテ40mm、ヨコ100mm、厚さ5mmのアルミプレート12に、0.4gの熱伝導性グリース組成物14を塗付し(図2A)、前記アルミプレートと、タテ40mm、ヨコ100mm、厚さ5mmのガラスプレート11との間に、スペーサー13を介在させて、熱伝導性グリース組成物の厚さが0.5mmとなるように挟持した(図2B)。図2Bにおいて、15は厚さ0.5mmとなるように2枚のプレート11,12により挟持された熱伝導性グリース組成物である。次に、アルミプレート12とガラスプレート11の主面が地面に対して垂直になるようにヒートサイクル試験機内に設置した(図2C)。16は試験前の試験片である。この状態で、-40℃で30分間保持してから、125℃に達するまで昇温し、その後、125℃で30分保持してから、-40℃まで降温するという1サイクルを、500サイクル行った。500サイクル実施後、試験片を取り出し、熱伝導性グリース15が落下していないか観察した。図2Dにおいて、17は試験後の試験片であり、18は落下距離である。尚、-40℃から125℃へ、125℃から-40℃への温度移行時間は、各々10分以内とした。
[判定基準]
A:グリースの落下が5mm以内
B:5mmを超えた場合
【0032】
<動粘度>
本願において、動粘度は、実施例のカタログ値も含めて、ウベローデ粘度計により測定した40℃における動粘度である。
【0033】
(実施例1~3、比較例1~3)
1.原料成分
(1)液状ジメチルポリシロキサン
液状ジメチルポリシロキサン(A)として、40℃における動粘度が110mm2/s(カタログ値)のジメチルシリコーンオイル(ダウ・東レ社製、商品名"SH200CV 110CS"、比重0.97g/cm3)を使用した。
(2)液状オルガノポリシロキサン
液状オルガノポリシロキサン(B)として、40℃における動粘度が800mm2/s(カタログ値)のメチルオクチルシリコーンオイル(Gelest社製、商品名"ALT-143" 、比重0.91g/cm3)を使用した。当該メチルオクチルシリコーンオイルが有する両末端のトリメチルシリル基が有するメチル基を除いた有機基全数を100%とすると、50%がメチル基であり、50%がオクチル基である。これらの有機基の割合はカタログ値である。
(3)熱伝導性フィラー
・中心粒径0.3μm(D50=0.3μm)の不定形粉砕アルミナ(未表面処理品)に、アルミナ100gに対してオクチルトリメトキシシラン2.4gを吸着させたもの(比重3.98g/cm3)を使用した。
・中心粒径2.3μm(D50=2.3μm)の不定形粉砕アルミナ(未表面処理品)にアルミナ100gに対してデシルトリメトキシシラン1.1gを吸着させたもの(比重3.98g/cm3)を使用した。
・中心粒径105μm(D50=105μm)の球状アルミナ(表面処理無し、比重3.98g/cm3)を使用した。
・中心粒径15μm(D50=15μm)の不定形窒化アルミニウム(表面処理無し、比重3.26g/cm3)を使用した。
(4)粘度調整剤
・デシルトリメトキシシラン(比重0.90g/cm3)を使用した。
【0034】
2.混合方法
上記液状ジメチルポリシロキサンと液状オルガノポリシロキサンと熱伝導性フィラーと粘度調整剤を、下記表1に示した組成となるように混合し、熱伝導性グリース組成物を得た。
以上のようにして得た熱伝導性グリース組成物を評価した。組成と評価結果を次の表1にまとめて示す。
【0035】
【表1】
【0036】
以上の結果から、実施例1~3のグリース組成物は、低粘度であり、垂直に挟持した際に垂れ落ちにくく、熱伝導性フィラーが高充填可能で、熱伝導率も高い熱伝導性グリース組成物であることがわかった。
これに対し、比較例1はマトリックス樹脂として液状オルガノポリシロキサン(B)としてメチルオクチルシリコーンオイルを加えなかったため、落下試験の結果が悪かった。比較例2は液状オルガノポリシロキサンの添加割合が少なかったため、落下試験の結果が悪かった。比較例3は液状オルガノポリシロキサンの添加割合が多すぎため、粘度が高い問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の熱伝導性グリース組成物は、電気部品又は電子部品等の発熱体と放熱体の間に介在させる熱伝導材料(Thermal Interface Material)として好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
11 ガラスプレート
12 アルミプレート
13 スペーサー
14 熱伝導性グリース
15 2枚のプレートにより挟持された熱伝導性グリース組成物
16 試験前の試験片
17 試験後の試験片
18 落下距離
【要約】
マトリックス樹脂と熱伝導性フィラーを含む熱伝導性グリース組成物に関する。前記マトリックス樹脂は、40℃における動粘度が100~10,000mm2/sの液状ジメチルポリシロキサン(A)と、40℃における動粘度が1~10,000mm2/sの液状オルガノポリシロキサン(B)を含む。前記液状ジメチルポリシロキサン(A)と前記液状オルガノポリシロキサン(B)の合計量を100質量部としたとき、前記マトリックス樹脂は、前記液状ジメチルポリシロキサン(A)を50質量部以上97質量部以下、前記液状オルガノポリシロキサン(B)を3質量部以上50質量部以下含む。前記液状オルガノポリシロキサン(B)が有する、両末端のケイ素原子に結合した有機基を除いた有機基全数を100%とすると、前記有機基全数のうちの30~70%がメチル基であり、30~70%が炭素数2~14の飽和炭化水素基である。
図1
図2