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  • 特許-表面処理鋼材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】表面処理鋼材
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/05 20060101AFI20231101BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20231101BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20231101BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C23C22/05
B32B15/04 B
C22C18/04
C23C28/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023503971
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009421
(87)【国際公開番号】W WO2022186380
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021034369
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山口 伸一
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-242815(JP,A)
【文献】特開2015-117433(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072154(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/125741(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/203703(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/010571(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/189769(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/00 - 15/20
C23C 22/00 - 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板上に形成された、亜鉛を含むめっき層と、
前記めっき層上に形成された皮膜と、
を有し、
前記皮膜の厚みが100nm以上、1000nm以下であり、
前記皮膜が、
構成元素として、Si、C、O、P、Zn及びV、並びに、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種または2種以上を含有し、EDSによる分析を行った際、ZnとSiとのピーク強度比であるZn/Siが1.0以上、VとPとの質量比であるV/Pが0.050~1.000となる非晶質相Aと、
Si、O、Znを含み、EDSによる分析を行った際、ZnとSiとのピーク強度比であるZn/Siが1.0未満となる非晶質相Bと、
からなり、
前記非晶質相AのZn含有量が10質量%以下であり、
厚み方向の断面において、前記めっき層と前記皮膜との界面の長さに占める、前記めっき層と前記非晶質相Bとの界面の長さが、30%以上である、
ことを特徴とする、表面処理鋼材。
【請求項2】
前記めっき層の化学組成が、質量%で、
Al:0.1%以上、25.0%未満、
Mg:0%以上、12.5%未満、
Sn:0%以上、20%以下、
Bi:0%以上、5.0%未満、
In:0%以上、2.0%未満、
Ca:0%以上、3.0%以下、
Y :0%以上、0.5%以下、
La:0%以上、0.5%未満、
Ce:0%以上、0.5%未満、
Si:0%以上、2.5%未満、
Cr:0%以上、0.25%未満、
Ti:0%以上、0.25%未満、
Ni:0%以上、0.25%未満、
Co:0%以上、0.25%未満、
V :0%以上、0.25%未満、
Nb:0%以上、0.25%未満、
Cu:0%以上、0.25%未満、
Mn:0%以上、0.25%未満、
Fe:0%以上、5.0%以下、
Sr:0%以上、0.5%未満、
Sb:0%以上、0.5%未満、
Pb:0%以上、0.5%未満、
B :0%以上、0.5%未満、及び
残部:Zn及び不純物、からなる、
請求項1に記載の表面処理鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理鋼材に関する。
本願は、2021年03月04日に、日本に出願された特願2021-034369号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板の表面に亜鉛を主体とするめっき層が形成されためっき鋼板(亜鉛系めっき鋼板)が、自動車や建材、家電製品などの幅広い用途で使用されている。通常、めっき鋼板の表面には、塗油せずにさらなる耐食性を付与するため、クロムフリーの化成処理が施される。
この化成処理によって形成される化成処理皮膜は、均一に表面を覆い、かつめっきとの密着性に優れ、耐食性にも優れることが求められる。しかしながら、亜鉛系めっき鋼板の表面は酸化皮膜で覆われているので、化成処理皮膜を形成しようとしても酸化皮膜が障害となり化成処理皮膜の密着性が低く、化成処理皮膜の密着性低下による塗装不良・塗装むらが発生する、または、化成処理皮膜がめっき層から剥離してしまう場合があった。
【0003】
このような課題に対し、例えば特許文献1には、亜鉛を含むめっき鋼板上に、アクリル樹脂とジルコニウムとバナジウムとリンとコバルトとを含み、皮膜の断面における表面から膜厚1/5の厚みまでの領域においてアクリル樹脂の面積率が80~100面積%であり、皮膜の膜厚中心から前記表面側に膜厚1/10の厚みまでの領域と前記膜厚中心から前記めっき層側に膜厚1/10の厚みまでの領域とからなる領域においてアクリル樹脂の面積率が5~50面積%である皮膜を形成させることで、接着剤との接着性が良好で、優れた耐食性を有する皮膜が得られることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、鋼板および樹脂系化成処理皮膜を含む表面処理鋼板であって、該樹脂系化成処理皮膜はマトリックス樹脂と該マトリックス樹脂中に分散した難溶性クロム酸塩のコロイド粒子を重量比50/1~1/1の範囲で有し、該コロイドは該マトリックス樹脂中に分散した粒子の平均粒径として1μm未満である、表面処理鋼板が開示されている。
特許文献2では、この表面処理鋼板は、耐クロム溶出性、SST(240hr)、加工部耐食性、処理液安定性に優れると記載されている。
【0005】
特許文献3には、Al:0.1~22.0質量%を含むZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板と、前記Zn系めっき層の上に配置された化成処理皮膜と、を有する化成処理鋼板であって、前記化成処理皮膜は、前記Zn系めっき層表面に配置され、V、MoおよびPを含む第1化成処理層と、前記第1化成処理層の上に配置され、4A族金属酸素酸塩を含む第2化成処理層と、を有し、前記化成処理皮膜中における、全Vに対する5価のVの比率は、0.7以上である、化成処理鋼板が開示されている。
特許文献3では、この化成処理鋼板は、Zn系めっき鋼板を原板とする化成処理鋼板であって、塗布した化成処理液を低温かつ短時間で乾燥させても製造することができ、耐食性および耐黒変性に優れると開示されている。
【0006】
特許文献4には、(1)鋼材表面に、(2)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5~1.7の割合で配合して得られる、分子内に式-SiR1(式中、R、R及びRは互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000~10000である有機ケイ素化合物(W)と、(3)チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物(X)と、(4)りん酸(Y)と、(5)バナジウム化合物(Z)からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成し、且つ、その複合皮膜の各成分において、(6)有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02~0.07であり、(7)有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03~0.12であり、(8)有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05~0.17であり、且つ、(9)フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3~6.0である、表面処理鋼材が開示されている。
特許文献4によれば、この表面処理鋼材は、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足すると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許第6191806号公報
【文献】国際公開第97/00337号
【文献】日本国特許第6272207号公報
【文献】日本国特許第4776458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年の品質要求の高度化により、化成処理皮膜等の皮膜を有する表面処理鋼材には、優れた塗装密着性及び優れた耐食性が求められるようになってきた。本発明者らが検討した結果、特許文献1~4では、このような近年の高度化した要求に応えられない場合があることが分かった。
また、特許文献1、2に開示されるような、樹脂を含む化成処理では、有機樹脂成分を用いるので、加工時の耐黒カス性が不十分となる場合があるという課題もある。加工時の耐黒カス性とは、金属がプレス加工等の加工を施された際に、金属表面がプレス金型などにより強い摺動を受け、金属材表面に被覆している皮膜から黒いカス性物質が生じて固着し、堆積することによって外観を損ねることに対する耐性のことを指す。黒いカス性物質は、化成処理皮膜の有機樹脂成分が原因となって発生することがある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、優れた塗装密着性及び優れた耐食性を有する表面処理鋼材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、めっき層及び皮膜を有する表面処理鋼材において、優れた塗装密着性及び優れた耐食性を両立するための皮膜の構成について検討を行った。その結果、1)皮膜の構成元素として、所定の元素を含有することで優れた耐食性が得られること、及び、2)皮膜の、めっき層との界面の一部または全部において、その他の部分とは異なる構成の層を形成することで、皮膜の密着性が向上し、塗装密着性が向上すること、を知見した。
【0011】
本発明は上記の知見に鑑みてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る表面処理鋼材は、鋼板と、前記鋼板上に形成された、亜鉛を含むめっき層と、前記めっき層上に形成された皮膜とを有し、前記皮膜の厚みが100nm以上、1000nm以下であり、前記皮膜が、構成元素として、Si、C、O、P、Zn及びV、並びに、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種または2種以上を含有し、EDSによる分析を行った際、ZnとSiとのピーク強度比であるZn/Siが1.0以上、VとPとの質量比であるV/Pが0.050~1.000となる非晶質相Aと、Si、O、Znを含み、EDSによる分析を行った際、ZnとSiとのピーク強度比であるZn/Siが1.0未満となる非晶質相Bと、からなり、前記非晶質相AのZn含有量が10質量%以下であり、厚み方向の断面において、前記めっき層と前記皮膜との界面の長さに占める、前記めっき層と前記非晶質相Bとの界面の長さが、30%以上である。
[2]上記[1]に記載の表面処理鋼材は、前記めっき層の化学組成が、質量%で、Al:0.1%以上、25.0%未満、Mg:0%以上、12.5%未満、Sn:0%以上、20%以下、Bi:0%以上、5.0%未満、In:0%以上、2.0%未満、Ca:0%以上、3.0%以下、Y:0%以上、0.5%以下、La:0%以上、0.5%未満、Ce:0%以上、0.5%未満、Si:0%以上、2.5%未満、Cr:0%以上、0.25%未満、Ti:0%以上、0.25%未満、Ni:0%以上、0.25%未満、Co:0%以上、0.25%未満、V:0%以上、0.25%未満、Nb:0%以上、0.25%未満、Cu:0%以上、0.25%未満、Mn:0%以上、0.25%未満、Fe:0%以上、5.0%以下、Sr:0%以上、0.5%未満、Sb:0%以上、0.5%未満、Pb:0%以上、0.5%未満、B:0%以上、0.5%未満、及び残部:Zn及び不純物、からなってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、優れた塗装密着性及び優れた耐食性を有する表面処理鋼材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る表面処理鋼材の断面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る表面処理鋼材(本実施形態に係る表面処理鋼材)について説明する。
本実施形態に係る表面処理鋼材1は、図1に示すように、鋼板11と、鋼板11上に形成された亜鉛を含むめっき層12と、めっき層12上に形成された皮膜13とを有する。
また、皮膜13は、所定の構成元素を有する非晶質相A131と、非晶質相A131とは異なる非晶質相B132とを有する。
図1では、めっき層12及び皮膜13は、鋼板11の片面のみに形成されているが、両面に形成されていてもよい。また、めっき層12は、鋼板上(表面)の少なくとも一部に形成されていればよいが、全面に形成されていてもよい。また、皮膜13は、めっき層12上(表面)の少なくとも一部に形成されていればよいが、全面に形成されていてもよい。
【0015】
以下、鋼板11、めっき層12、皮膜13についてそれぞれ説明する。
【0016】
<鋼板>
本実施形態に係る表面処理鋼材1は、めっき層12及び皮膜13によって、優れた塗装密着性及び耐食性が得られる。そのため、鋼板11については、特に限定されない。鋼板11は、適用される製品や要求される強度や板厚等によって決定すればよく、例えば、JIS G3113:2018やJIS G3131:2018に記載された熱延鋼板や、JIS G3135:2018やJIS G3141:2017に記載された冷延鋼板を用いることができる。
【0017】
<めっき層>
本実施形態に係る表面処理鋼材1が備えるめっき層12は、鋼板11の表面上に形成され、亜鉛を含有する亜鉛系めっき層である。
【0018】
めっき層12は、亜鉛系めっき層であれば、化学組成については限定されない。しかしながら、化学組成が、質量%で、Al:0.1%以上、25.0%未満、Mg:0%以上、12.5%未満、Sn:0%以上、20%以下、Bi:0%以上、5.0%未満、In:0%以上、2.0%未満、Ca:0%以上、3.0%以下、Y :0%以上、0.5%以下、La:0%以上、0.5%未満、Ce:0%以上、0.5%未満、Si:0%以上、2.5%未満、Cr:0%以上、0.25%未満、Ti:0%以上、0.25%未満、Ni:0%以上、0.25%未満、Co:0%以上、0.25%未満、V :0%以上、0.25%未満、Nb:0%以上、0.25%未満、Cu:0%以上、0.25%未満、Mn:0%以上、0.25%未満、Fe:0%以上、5.0%以下、Sr:0%以上、0.5%未満、Sb:0%以上、0.5%未満、Pb:0%以上、0.5%未満、B :0%以上、0.5%未満、及び残部:Zn及び不純物、からなることによって、より顕著な耐食性向上の効果が得られるので好ましい。
【0019】
めっき層12の好ましい化学組成の理由について説明する。以下、「~」を挟んで示される数値範囲はその両端の数値を下限値、上限値として含むことを基本とする。ただし、数値に未満または超と記載されている場合、その数値を下限値または上限値として含まない。
また、断りがない限り、めっき層の化学組成に関する%は質量%である。
【0020】
[Al:0.1%以上、25.0%未満]
Alは、亜鉛系めっき層において、耐食性を向上させるために有効な元素である。上記効果を十分に得る場合、Al含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
一方、Al含有量が25.0%以上であると、めっき層の切断端面の耐食性が低下する。そのため、Al含有量は25.0%未満であることが好ましい。
【0021】
めっき層12は、Alを含み、残部がZn及び不純物からなってもよい。しかしながら、必要に応じてさらに以下の元素を含んでもよい。その場合でもZn含有量は50%以上が好ましい。
【0022】
[Mg:0%以上、12.5%未満]
Mgは、めっき層の耐食性を高める効果を有する元素である。上記効果を十分に得る場合、Mg含有量を1.0%超とすることが好ましい。
一方、Mg含有量が12.5%以上であると、耐食性向上の効果が飽和する上、めっき層の加工性が低下する場合がある。また、めっき浴のドロス発生量が増大する等、製造上の問題が生じる。そのため、Mg含有量を12.5%未満とすることが好ましい。
【0023】
[Sn:0%以上、20%以下]
[Bi:0%以上、5.0%未満]
[In:0%以上、2.0%未満]
これらの元素は、耐食性、犠牲防食性の向上に寄与する元素である。そのため、いずれか1種以上を含有させてもよい。上記効果を得る場合、それぞれ、含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
これらのうちでは、Snが、低融点金属でめっき浴の性状を損なうことなく容易に含有させることができるので、好ましい。
一方、Sn含有量が20%超、Bi含有量が5.0%以上、またはIn含有量が2.0%以上であると、耐食性が低下する。そのため、それぞれ、Sn含有量を20%以下、Bi含有量を5.0%未満、In含有量を2.0%未満とすることが好ましい。
【0024】
[Ca:0%以上、3.0%以下]
Caは、操業時に形成されやすいドロスの形成量を減少させ、めっき製造性の向上に寄与する元素である。そのため、Caを含有させてもよい。この効果を得る場合、Ca含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
一方、Ca含有量が多いとめっき層の平面部の耐食性そのものが劣化する傾向にあり、溶接部周囲の耐食性も劣化することがある。そのため、Ca含有量は3.0%以下であることが好ましい。
【0025】
[Y :0%以上、0.5%以下]
[La:0%以上、0.5%未満]
[Ce:0%以上、0.5%未満]
Y、La、Ceは、耐食性の向上に寄与する元素である。この効果を得る場合、これらのうち1種以上を、それぞれ0.05%以上含有することが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好な鋼材を製造できないことが懸念される。そのため、Y含有量を0.5%以下、La含有量を0.5%未満、Ce含有量を0.5%未満とすることが好ましい。
【0026】
[Si:0%以上、2.5%未満]
Siは、耐食性の向上に寄与する元素である。また、Siは、鋼板上にめっき層を形成するにあたり、鋼板表面とめっき層との間に形成される合金層が過剰に厚く形成されることを抑制して、鋼板とめっき層との密着性を高める効果を有する元素でもある。これらの効果を得る場合、Si含有量を0.1%以上とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.2%以上である。
一方、Si含有量が2.5%以上になると、めっき層中に過剰なSiが析出し、耐食性が低下するだけでなく、めっき層の加工性が低下する。従って、Si含有量を2.5%未満とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは1.5%以下である。
【0027】
[Cr:0%以上、0.25%未満]
[Ti:0%以上、0.25%未満]
[Ni:0%以上、0.25%未満]
[Co:0%以上、0.25%未満]
[V :0%以上、0.25%未満]
[Nb:0%以上、0.25%未満]
[Cu:0%以上、0.25%未満]
[Mn:0%以上、0.25%未満]
これらの元素は、耐食性の向上に寄与する元素である。この効果を得る場合、これらの元素の1種以上の含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好な鋼材を製造できないことが懸念される。そのため、各元素の含有量をそれぞれ0.25%未満とすることが好ましい。
【0028】
[Fe:0%以上、5.0%以下]
Feはめっき層を製造する際に、不純物としてめっき層に混入する。5.0%程度まで含有されることがあるが、この範囲であれば本実施形態に係る表面処理鋼材の効果への悪影響は小さい。そのため、Fe含有量を5.0%以下とすることが好ましい。
【0029】
[Sr:0%以上、0.5%未満]
[Sb:0%以上、0.5%未満]
[Pb:0%以上、0.5%未満]
Sr、Sb、Pbがめっき層中に含有されると、めっき層の外観が変化し、スパングルが形成されて、金属光沢の向上が確認される。この効果を得る場合、Sr、Sb、Pbの1種以上の含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好な鋼材を製造できないことが懸念される。そのため、各元素の含有量をそれぞれ0.5%未満とすることが好ましい。
【0030】
[B:0%以上、0.5%未満]
Bは、めっき層中に含有させるとZn、Al、Mg等と化合し、様々な金属間化合物をつくる元素である。この金属間化合物はLMEを改善する効果がある。この効果を得る場合、B含有量を0.05%以上とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.1%以上である。
一方、B含有量が過剰になるとめっきの融点が著しく上昇し、めっき操業性が悪化してめっき性状の良い表面処理鋼材が得られないことが懸念される。そのため、B含有量を0.5%未満とすることが好ましい。
【0031】
めっき層12の付着量は限定されないが、耐食性向上のため、少なくとも片面当たり、10g/m以上であることが好ましい。一方、付着量が、片面当たり、200g/mを超えても耐食性が飽和する上、経済的に不利になる。そのため、付着量は200g/m以下であることが好ましい。
【0032】
<皮膜>
本実施形態に係る表面処理鋼材1が備える皮膜13は、図1に示すように、非晶質相A131と、非晶質相B132とを有する。非晶質相B132は、主に、皮膜13の、めっき層12との界面側の一部に形成され、皮膜13の密着性の向上に寄与する。
【0033】
[非晶質相A]
本実施形態に係る表面処理鋼材1が備える皮膜13は、シランカップリング剤などのSi化合物、りん酸塩などのP化合物、V化合物、並びに、バルブメタルであるTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の化合物を含有する処理液を、亜鉛を含むめっき層の上に、所定の条件で塗布し、乾燥させることによって得られる。非晶質相A131は、皮膜13の主な部分を占める層であり、構成元素として、シランカップリング剤に由来するSi、C及びO、P化合物に由来するP、V化合物に由来するV、バルブメタルである、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上、並びに、めっき層から溶出したZnを含む。
Si、C及びO(主としてケイ素化合物として存在)は、皮膜13のマトリックスを構成する元素である。
V及びP(主として化合物として存在)はインヒビターであり、これらを含まない場合には、十分な耐食性が得られない。
また、本実施形態に係る表面処理鋼材1では、非晶質相A131がP及びVを含有した上で、VとPとの質量%での含有量の比であるV/Pを、0.050~1.000とする必要がある。
V/Pが0.050未満であると、PとVとの相乗効果が得られず、十分な耐食性が得られない上、塗装密着性も低下する。また、V/Pが1.000を超えると、皮膜13からの溶出量が多くなり、塗装密着性が低下する。
【0034】
また、Ti、Zr、及び/またはAl(バルブメタル)は、酸化物が安定な元素であり、皮膜中に含有されると、皮膜13の表面を不働態化させ、耐食性を向上させる。皮膜13がこれらの元素を含まない場合には、十分な耐食性が得られない。
また、後述するようにバルブメタルは、非晶質相Bの形成にも寄与する。そのため、バルブメタルが含有されないと、十分な塗装密着性が得られない。
【0035】
また、後述するように、本実施形態に係る表面処理鋼材1では、皮膜13のめっき層12との界面付近において、めっき層12から溶出したZnと皮膜13中のSiとが水素結合して得られるSi-O-Zn結合を有する層(非晶質相B)を形成し、皮膜13の密着性を高めている。
しかしながら、Znはインヒビターと反応してリン酸亜鉛を形成し、沈殿する。そのため、めっき層からのZnの溶出量が過剰であり、非晶質相Aにおいて、Znの含有量が10質量%を超えると、皮膜13中のインヒビターとして存在するPが減少し、耐食性が低下する。そのため、非晶質相A131のZn含有量は10質量%以下とする。
【0036】
[非晶質相B]
非晶質相B132は、皮膜13を形成する際、めっき層12から溶出したZnと、皮膜を形成するための処理液に含まれるシランカップリング剤のSiとの脱水縮合反応による共有結合によって形成したSi-O-Zn結合を有する層である。そのため、非晶質相B132は、Si、O及びZnを含む。一方、非晶質相B132は、Si-O-Zn結合を多く含むものの、Siと結合しなかったZnは、非晶質相A131中のPとのイオン結合が優先的に起こるため、ZnとSiとのピーク強度比であるZn/Siが、Zn/Siが1.0以上となる非晶質相Aより小さくなる(Zn/Siが1.0未満となる)。この非晶質相Bが生成する理由については不明であるが、シランカップリング剤の脱水縮合反応に対してバルブメタルが触媒となっているものと考えられる。
【0037】
非晶質相B132が、皮膜13の、皮膜13とめっき層12との界面に存在することで、皮膜13の密着性が向上する。そのため、本実施形態に係る表面処理鋼材1では、皮膜13の、めっき層12との界面側に、非晶質相B132を形成させる。非晶質相B132は断続的に形成されていてもよいし、連続的に形成されていてもよい。密着性向上効果を十分に得る場合、厚さ方向の断面でみた場合に、めっき層12と皮膜13との界面の長さに占める、めっき層12と非晶質相B132との界面の長さが、30%以上である必要がある。すなわち、めっき層12と皮膜13との界面の長さに占める、めっき層12と非晶質相A131との界面の長さは、70%以下となる。めっき層12と皮膜13との界面の長さにおける、めっき層12と非晶質相B132との界面の長さの割合は100%でもよいが、不均一反応場の観点で70%以下であってもよい。
非晶質相Bが存在することによって密着性が向上する理由は明らかではないが、非晶質相Bが有するSi-O-Zn結合が、めっき層の表面のZn(亜鉛)と皮膜を形成するための処理液に含まれるシランカップリング剤との脱水縮合反応によって生じるものであるためと考えられる。
また、めっき層12と皮膜13との界面の長さに占める、めっき層12と非晶質相B132との界面の長さの割合は、めっき表面の酸化膜の厚さにも影響を受けると考えられる。
【0038】
皮膜13における非晶質相A及び非晶質相Bの同定及び、非晶質相A及び非晶質相Bに含まれる構成元素の含有量、ピーク強度比、質量比は、EDS(Energy dispersive X-ray spectroscopy)を用いて測定することができる。
具体的には、収束イオンビーム装置(RB)FB2000A(日立製作所製)またはこれと同等の装置を用いて、FIB-μサンプリング法により、測定対象位置からTEM観察用の薄膜試料を作製する。試料の最表面は、保護のためにW蒸着を行う。メッシュはCuメッシュを使用する。
得られた試料に対し、電界放射型透過電子顕微鏡HF-2000(日立製作所製)を用いて、加速電圧を200kVとして5万倍の視野にて組織を観察するとともに、付属のEDS分析装置delta plus level 2 (Kevex製)を用いて、加速電圧を200kVとして、元素分析を行う。
Si、C、O、P、V、Zn、Ti、Zr、Alについて、半定量法によって定量評価を行う。測定位置の元素の含有量を求めるとともに、元素のピーク強度比、質量比(質量%での含有量の比)も算出する。
測定の結果、ZnとSiとのピーク強度比Zn/Siが1.0以上であり、かつTEMの電子線回折で非晶質であると判断された部分を非晶質相Aとし、ZnとSiとのピーク強度比Zn/Siが1.0未満であり、かつTEMの電子線回折で非晶質であると判断された部分を非晶質相Bと判断する。
また、非晶質相A、非晶質相Bのそれぞれにおいて、Si、C、O、P、Zn、V、Ti、Zr、Alの含有量が、それぞれ、0.5質量%以上であれば、対象の元素(0.5質量%以上である元素)を含有していると判断する。
測定に際しては、測定点サイズより厚い相を選択し、その各相の中央部に対して点分析行う。また、非晶質相A、非晶質相Bと思われる相それぞれについて、3点以上測定してその平均値を、その相における含有量として採用する。
【0039】
また、めっき層と皮膜との界面の長さに占める、めっき層と非晶質相Bとの界面の長さ(割合)は、上述した電界放射型透過電子顕微鏡を用いて、めっき層と皮膜との界面を、界面長さとして10μm以上の範囲で観察し、そのうち、めっき層と非晶質相Bとの界面の長さを測定することで求める。([めっき層と非晶質相Bとの界面の長さ]/[めっき層と皮膜との界面の長さ]×100によって算出する。)
【0040】
[皮膜厚み]
皮膜13(非晶質相A131及び非晶質相B132を含む)の厚みは、100nm以上、1000nm以下とする。
皮膜13の厚みが100nm未満であると、耐食性や塗装密着性が劣化する。一方、皮膜13の厚みが1000nmを超えると、耐食性は良好であるものの、皮膜13からのインヒビター成分の溶出量が多くなり、塗装密着性が低下する。
【0041】
皮膜厚みは、電磁膜厚計で測定する。具体的には、電磁膜厚計を用いて、任意の10点を測定し、その平均値を皮膜厚みとする。
【0042】
次に、本実施形態に係る表面処理鋼材の好ましい製造方法について説明する。
本実施形態に係る表面処理鋼材は、製造方法に関わらず上記の特徴を有していればその効果を得ることができるが、以下に示す製造方法であれば、安定して製造できるので好ましい。
【0043】
すなわち、本実施形態に係る表面処理鋼材は、以下の工程を含む製造方法によって製造できる。
(I)鋼材(鋼板)を、Znを含むめっき浴に浸漬、もしくはZnを含む水溶液や溶融塩中での電気めっきにより、表面にめっき層を形成するめっき工程と、
(II)めっき層を有する鋼材に表面処理金属剤(処理液)を塗布する塗布工程と、
(III)表面処理金属剤が塗布された鋼材を加熱して、Si、C、O、P、Zn及びV、並びに、Ti、Al及びZrからなる群から選択される1種以上を含む、皮膜を形成する加熱工程。
それぞれの工程について好ましい条件を説明する。
【0044】
[めっき工程]
めっき工程については特に限定されない。十分なめっき密着性が得られるように通常の方法で行えばよい。
また、めっき工程に供する鋼材の製造方法についても限定されない。
例えば、JIS G3302:2019に規定される亜鉛めっき鋼板の製造方法でも良いし、JIS G3323:2019やJIS G3313:2017に規定されるめっき鋼板の製造方法でも良い。
めっき浴の組成も、得たいめっき層の組成に応じて調整すればよい。
めっき冷却工程後は、塗布工程までの間、過剰な表面の酸化、油付着などを避け、薬剤をはじかないめっき表面状態に管理することが望ましい。
【0045】
[塗布工程]
塗布工程では、Znを含むめっき層を有する鋼板などの鋼材に、Si化合物、P化合物、V化合物、並びに、Ti、Zr及び/またはAlの化合物を含む表面処理金属剤を塗布する。Si化合物、P化合物、V化合物、並びに、Ti化合物、Zr化合物及び/またはAl化合物は、皮膜の構成元素とするために含有させる。また、P化合物は、めっき層のZnをエッチング反応によって溶出させる効果も有し、バルブメタルとの組み合わせによって、非晶質相Bの生成に寄与する。
塗布工程において、表面処理金属剤の塗布方法については限定されない。例えばロールコーター、バーコーター、スプレーなどを用いて塗布することができる。
ピックアップロールとアプリケーターロールの回転速度や周速比で塗布量を変えることで、皮膜厚みを変化させることができる。
【0046】
本実施形態において、表面処理金属剤に含まれるSi化合物は、非晶質相Bの形成のためには分子中にイソシアネート基、アミノ基、またはエポキシ基等を含有するシランカップリング剤とすることが好ましく、その中でもイソシアネート基がより好ましい。
表面処理金属剤におけるSi化合物の濃度は5~20質量%が望ましい。
【0047】
本実施形態において、表面処理金属剤が含むP化合物は、特に限定されないが、りん酸、りん酸アンモニウム塩、りん酸カリウム塩、りん酸ナトリウム塩などを例示することができる。この中でも、りん酸であることがより好ましい。りん酸を用いる場合、より優れた耐食性を得ることができる。表面処理金属剤におけるP化合物の濃度は1~5質量%が望ましい。
【0048】
また、表面処理金属剤が含むV化合物は、五酸化バナジウムV、メタバナジン酸HVO、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl3、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウムVO、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH)CHCOCH、三塩化バナジウムVCl、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1~3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、5価のバナジウム化合物を4価~2価に還元したものも使用可能である。表面処理金属剤におけるV化合物の濃度は0.0001~4.0質量%が望ましい。
【0049】
また、Ti化合物、Zr化合物、Al化合物としては、硝酸チタン、硝酸ジルコニウム、硝酸アルミニウムなどが例示される。
【0050】
[加熱工程]
加熱工程では、表面処理金属剤を塗布した鋼材を加熱して乾燥させ、焼き付けて皮膜を形成する。加熱温度(乾燥させる温度)については、最高到達温度が60~200℃であることが好ましく、80~150℃であることがより好ましい。最高到達温度が60℃未満であると表面処理金属剤の溶媒が完全に揮発しないので好ましくない。一方、最高到達温度が200℃超となると、加熱による溶媒乾燥効果が飽和し、経済的ではないため好ましくない。
加熱工程において、表面処理金属剤の加熱方法は限定されない。例えばIH、熱風炉などを用いて加熱して、乾燥させることができる。
また、室温における表面処理金属剤(処理液)の塗布(塗布完了時)から最高到達温度に到達するまでの時間が長いと、めっき層からのZn溶出量が多くなるので、表面処理金属剤(処理液)の塗布から最高到達温度に到達するまでの時間は、10.0秒以下とすることが好ましく、4.0秒以下とすることがより好ましい。
【0051】
最高到達温度に到達した後の表面処理鋼材は、室温付近まで冷却する。冷却条件については特に限定されないが、ガス冷却や液体を使用したミスト冷却や液没冷却が考えられる。
【実施例
【0052】
表面に皮膜を形成するためのめっき鋼板として、JIS G3302:2019に規定される亜鉛めっき鋼板であって、めっき付着量がZ08で表記される溶融亜鉛めっき鋼板を準備した。
このめっき鋼板に対し、表1に示すように、以下の種類の処理液A~Sのいずれかをロールコーターを用いて塗布した。
(処理液A)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを75mgとリン酸水素二アンモニウムを3g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液B)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを70mgとリン酸水素二アンモニウムを2g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液C)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを70mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液D)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを100mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液E)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液F)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを1.7gとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液G)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを9.0gとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液H)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液I)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mg溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液J)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解した水溶液。
(処理液K)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸ジルコニウムを1g溶解した水溶液。
(処理液L)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸アルミニウムを1g溶解した水溶液。
(処理液M)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンと硝酸ジルコニウムを各々0.5g溶解した水溶液。
(処理液N)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンと硝酸アルミニウムを各々0.5g溶解した水溶液。
(処理液O)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸ジルコニウムと硝酸アルミニウムを各々0.5g溶解した水溶液。
(処理液P)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを84mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液Q)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを1.6gとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液R)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で10%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを1.3gとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
(処理液S)
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが質量比で3%とシリカゾル(日産化学製ST-NXS)が質量比で7%となるようにエタノールと0.05%アンモニア水を1:1で混合した溶液で調整して3時間放置した溶液をベース液として、該溶液100mLにバナジルアセチルアセトナートを170mgとリン酸水素二アンモニウムを1g溶解するとともに、硝酸チタンを1g溶解した水溶液。
【0053】
鋼板に対し、室温(20℃)で上記表面処理金属剤を塗布した後、必要に応じて放置した上で、塗布完了から最高到達温度到達までの時間が表1に示す値になるように熱風乾燥炉にて最高到達温度まで加熱した。平均加熱速度は、放置時間も含めて算出した、塗布完了から最高到達温度到達までの平均加熱速度である。
その後室温まで放冷した。
これにより表面処理鋼材No.1~30を得た。
【0054】
【表1】
【0055】
得られた表面処理鋼材に対し、上述した方法(Zn/Si及び非晶質かどうか)で、非晶質相A及び非晶質相Bの同定を行うとともに、皮膜の厚み、非晶質相A及び非晶質相Bの元素分析、めっき層と皮膜との界面の長さに占める、めっき層と前記非晶質相Bとの界面の長さの割合について求めた。
結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
また、得られた表面処理鋼材に対し、以下の方法で、耐食性及び塗装密着性を評価した。
【0058】
[耐食性]
平板試験片を作製し、各試験片に対し、JIS Z 2371:2015に準拠する塩水噴霧試験を行い、120時間後の表面の白錆の発生状況(試験片の面積における白錆が発生した面積の割合)を評価した。
白錆発生面積率が5%以下であれば、耐食性に優れると判断した。
【0059】
[塗装密着性]
平板試験片を作製し、白色塗料(アミラック#1000)を乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布した。この試験片を、沸騰水に30分間浸漬させた後、エリクセン張出装置にて7mm高さまで張り出し、テープ剥離試験を実施し、塗膜残存率を確認した。
塗膜の残存面積率が80%以上であれば、塗装密着性に優れると判断した。
【0060】
表1~表2から分かるように、Si、C、O、P、Zn、V並びに、Ti、Zr、及びAlからなる群から選択される1種または2種以上を所定量含有し、非晶質相Bとの界面の長さ割合が30%以上である、No.4~6、8、9、14~18、20~23、25、28、29では、優れた耐食性及び塗装密着性が得られている。
これに対し、本発明の要件を1つ以上満足しない比較例No.1~3、7、10~13、19、24、26、27、30では、耐食性、塗装密着性のいずれかまたは両方が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、優れた塗装密着性及び優れた耐食性を有する表面処理鋼材を提供することができる。この表面処理鋼材は、産業の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0062】
1 表面処理鋼材
11 鋼板
12 めっき層
13 皮膜
131 非晶質相A
132 非晶質相B
図1