(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの製造方法および活性化ポリエチレングリコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/332 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
C08G65/332
(21)【出願番号】P 2020053731
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019066253
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 侑一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】竹花 剛
(72)【発明者】
【氏名】萩原 敏彦
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-502250(JP,A)
【文献】特開2018-172649(JP,A)
【文献】特表2007-538111(JP,A)
【文献】特開2013-075975(JP,A)
【文献】特表2005-538226(JP,A)
【文献】特開2017-095565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00-65/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1および工程2を有することを特徴とする、
重量平均分子量が2000以上、80000以下の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの製造方法。
工程1:
水酸基を
1、2、3、4または8つ有するポリエチレングリコール、前記ポリエチレングリコールに対して
1~3質量倍の無機塩基、非プロトン性溶剤および水分を含有する溶液であって、前記水分の質量が前記無機塩基に対して5~20meqであり、かつ前記溶液における前記水分の質量が2000ppm以下である溶液中で、下記式(1)の化合物を前記ポリエチレングリコールと反応させてポリエチレングリコールエステルを得る工程
【化1】
(式(1)において、
Xは脱離基を表し、
aは4~9の整数を表し、
R
1は炭素数1~4の炭化水素基を表す。)
工程2:
前記ポリエチレングリコールエステルを加水分解し、末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを得る工程
【請求項2】
下記の工程1、工程2および工程3を有することを特徴とする、活性化ポリエチレングリコールの製造方法。
工程1:
水酸基を
1、2、3、4または8つ有するポリエチレングリコール、前記ポリエチレングリコールに対して
1~3質量倍の無機塩基、非プロトン性溶剤および水分を含有する溶液であって、前記水分の質量が前記無機塩基に対して5~20meqであり、かつ前記溶液における前記水分の質量が2000ppm以下である溶液中で、下記式(1)の化合物を前記ポリエチレングリコールと反応させてポリエチレングリコールエステルを得る工程
【化1】
(式(1)において、
Xは脱離基を表し、
aは4~9の整数を表し、
R
1は炭素数1~4の炭化水素基を表す。)
工程2:
前記ポリエチレングリコールエステルを加水分解し、
重量平均分子量が2000以上、80000以下の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを得る工程
工程3:
前記末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの末端カルボキシル基を活性化基に変換することによって、前記活性化基を有する活性化ポリエチレングリコールを得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの製造方法および活性化ポリエチレングリコールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質や抗体などのバイオ医薬品の開発が盛んに進められている。これらバイオ医薬品はその特異性や有効性の観点から薬剤として高い効能を持つ一方で、腎臓からの排泄、細網内皮系への取り込み、血中での分解等に挙げられる体内動態の悪さから、生体内半減期が短いことが問題となっている。この問題は薬剤の臨床応用を困難とするだけでなく、上市後においては患者への投与量および回数の増加によって、患者のQOLを著しく低下させる原因となる。
【0003】
上記問題を解決するために、ポリエチレングリコール(以下、PEG)などの水溶性高分子を薬剤に修飾することが検討されている。PEGのような高分子を修飾し薬剤にステルス性を持たせることで、腎臓からの排泄、血中での分解を抑制でき、薬剤の血中滞留性が向上することから生体内半減期を伸ばすことが可能であり、これらの特性を応用したPEG化バイオ医薬品が開発・上市されるようになった。
【0004】
バイオ医薬品をPEG修飾するためには、PEG末端を、バイオ医薬品に存在するアミノ基、チオール基等と選択的に反応する反応性官能基へ変換する必要がある。このような官能基変換の1つに、PEG末端の水酸基をカルボキシル基とし、さらにスクシンイミジルエステルへと変換する方法がある。スクシンイミジルエステルは生理的条件において第一級アミンと反応し、安定なアミドを形成することから、タンパク質修飾において最も広く用いられている活性化基の1つである。
【0005】
しかし、上記のようなPEG末端水酸基の反応性官能基への変換、例としてカルボキシル基への変換を挙げると、末端官能基の水酸基からカルボキシル基への変換において末端水酸基の化合物が残存した場合、次工程のカルボン酸末端にスクシンイミジルエステルを導入する反応において、末端水酸基は反応を受けずに水酸基のまま残存する。その結果、残存した水酸基とスクシンイミジルエステル基とが反応し、多量体PEG不純物の副生原因となる。
【0006】
また、PEGのような高分子化合物においては、末端官能基が分子全体の物性に与える影響が小さいことにより、末端カルボン酸化合物の中から末端水酸基化合物を除去することは、カラム精製等の生産性の低い精製工程を経なければ一般的に困難である。このため、水酸基からカルボキシル基への変換率は高いことが好ましい。
【0007】
末端に水酸基を有する化合物(以下、化合物X)にカルボキシル基を導入する方法として、Williamsonエーテル化反応が知られおり、分子内にエステル基および脱離基を有する化合物(以下化合物Y)を反応させ、続いてエステル基の加水分解を行う方法が応用されている。
【0008】
以下の特許文献1および特許文献2では、Williamsonエーテル化反応の合成例が示されている。
特許文献1では、化合物Xがステアリルアルコール、化合物Yがアリルハライドであり、溶剤として非プロトン性溶剤であるトルエン、無機塩基としてNaOH、KOHを用いてエーテル化を行っている。
【0009】
また、特許文献2では、化合物Xがフェニルフェノール誘導体、化合物Yが末端トシル基の低分子メトキシPEGであり、層間移動触媒の存在下、トルエンと水酸化ナトリウム水溶液からなる2層系で反応を行うことで化合物Xへの化合物Yの導入を行い、シリカゲルカラムを用いた精製を行うことで、目的物を48%の収率で得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭62-39537
【文献】特開2011-84632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1記載のようなWilliamsonエーテル化反応では、反応混合物に水が存在すると水と化合物Yとの反応などの望まない副反応が生じるため、反応系中から共沸脱水によって水分の除去を行っており、かつ共沸後の系中水分を0.05wt%未満とするのが好ましく、実質的に全ての水が留去されなければ反応が進行しない、と記載されている。
【0012】
Williamsonエーテル化反応の条件では、特許文献1の内容にあるように、不要な副反応を抑えるためにトルエンに代表される非プロトン性溶剤中で、水分量を極めて低く管理した条件において、水酸化カリウムや炭酸カリウムなどの無機塩基を触媒として用いる反応が知られている。
【0013】
不要な副反応とは、特許文献1を例にすると、アリルハライドが系内の水によって加水分解してアリルアルコールとなる反応、さらに副生したアリルアルコールがアリルハライドとエーテル化する反応などである。
【0014】
しかしながら、一般的に行われるこの反応方法では、無機塩基が非プロトン性溶剤に溶解せず不均一系での反応となるため、反応の律速であるアルコラート化が進行しにくいことが課題として挙げられる。
【0015】
無機塩基を溶解させるために、特許文献2の内容にあるように、水などのプロトン性溶媒を大量に用いる例も実施されるが、上述のように系内の水に起因する望まない副反応が多く生成し、シリカゲルカラム精製後の収率が48%であることから、反応で得られる目的のエーテル化物純度は相応に低いと考えられる。
【0016】
このように、末端カルボキシル基含有PEGは、バイオ医薬品用途において重要な素材であるにも関わらず、従来の末端カルボキシル化製法では、工業的に高純度なものを収率よく得るための課題を多く有している。
【0017】
本発明の課題は、末端水酸基のPEGから、収率良く、高いカルボキシル基純度のPEGを製造することにある。
【0018】
さらなる本発明の課題は、高いカルボキシル基純度のPEGを使用することで、高純度でバイオ医薬品用途の活性化PEGを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、末端水酸基PEGを非プロトン性溶剤に溶解させた後、従来は水分を低く(実質的には無水条件)管理して行うWilliamsonエーテル化反応について、意外にも無機塩基に対して特定の範囲の量の水分存在下でエーテル化反応を行うことで、有意に高いエーテル化率、すなわちカルボン酸純度のPEGが得られることを見出した。
【0020】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1) 下記の工程1および工程2を有することを特徴とする、
重量平均分子量が2000以上、80000以下の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの製造方法。
工程1:
水酸基を
1、2、3、4または8つ有するポリエチレングリコール、前記ポリエチレングリコールに対して
1~3質量倍の無機塩基、非プロトン性溶剤および水分を含有する溶液であって、前記水分の質量が前記無機塩基に対して5~20meqであり、かつ前記溶液における前記水分の質量が2000ppm以下である溶液中で、下記式(1)の化合物を前記ポリエチレングリコールと反応させてポリエチレングリコールエステルを得る工程
【化1】
(式(1)において、
Xは脱離基を表し、
aは4~9の整数を表し、
R
1は炭素数1~4の炭化水素基を表す。)
工程2:
前記ポリエチレングリコールエステルを加水分解し、末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを得る工程
【0021】
(2) 下記の工程1、工程2および工程3を有することを特徴とする、活性化ポリエチレングリコールの製造方法。
工程1:
水酸基を
1、2、3、4または8つ有するポリエチレングリコール、前記ポリエチレングリコールに対して
1~3質量倍の無機塩基、非プロトン性溶剤および水分を含有する溶液であって、前記水分の質量が前記無機塩基に対して5~20meqであり、かつ前記溶液における前記水分の質量が2000ppm以下である溶液中で、下記式(1)の化合物を前記ポリエチレングリコールと反応させてポリエチレングリコールエステルを得る工程
【化1】
(式(1)において、
Xは脱離基を表し、
aは4~9の整数を表し、
R
1は炭素数1~4の炭化水素基を表す。)
工程2:
前記ポリエチレングリコールエステルを加水分解し、
重量平均分子量が2000以上、80000以下の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを得る工程
工程3:
前記末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの末端カルボキシル基を活性化基に変換することによって、前記活性化基を有する活性化ポリエチレングリコールを得る工程
【発明の効果】
【0022】
本発明は、バイオ医薬品用途等を目的とした末端カルボキシル基含有PEGを収率よく、高純度に得るための製造法である。この製造法では、従来の製造法において要求された無水条件を必要とせず、またシリカゲルカラム精製のような工業的製造には不適な精製を行わずに、高純度な末端カルボキシル基含有PEGおよび、高純度な活性化PEGを収率よく得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】無機塩基に対する、水分を含有する非プロトン性溶剤の溶液中の水分質量と、カルボン酸純度の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明で得られる末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの原料となる、水酸基を有するポリエチレングリコールは、下記式(2)または式(3)で表されるものであることが好ましい。
【0025】
【0026】
式(2)において、R2はメトキシ基または水酸基を表し、nは45~1819である。
【0027】
【0028】
式(3)において、Zは3~8の活性水素を持つ化合物の残基であり、
L1、L2は-O-、-O-CONH-(CH2)3-O-のいずれかを表し、
b、cは0~8の整数であり、かつb+c = 3~8であり、
lは0または46~606、mは12~909の整数を表す。
【0029】
式(2)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態において、式(2)中のR2はメトキシ基である。
また、式(2)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態において、式(2)中のR2は水酸基である。
【0030】
式(3)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態のひとつである以下の式(4)において、式(3)中のZはグリセリン残基であり、bが3であり、cが0であり、L
1が-O-であり、lが15~606である。
【化4】
【0031】
式(3)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態のひとつである以下の式(5)において、式(3)中のZはグリセリン残基であり、bが1であり、cが2であり、L1、L2が-O-であり、lが0であり、mが23~909である。あるいは、bが1であり、cが2であり、L1が-O-CONH-(CH2)3-O-であり、L2が-O-であり、lが45~272であり、mが23~773である。
【0032】
【0033】
また、式(3)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態において、式(3)のZはペンタエリスリトール残基であり、bが4であり、cが0であり、L1が-O-であり、lが12~454である。
【0034】
また、式(3)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態のひとつである以下の式(6)において、式(3)中のZはキシリトール残基であり、bが1であり、cが4であり、L1、L2が-O-であり、lが0であり、mが12~454である。
【0035】
【0036】
また、式(3)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態において、式(3)中のZはヘキサグリセロール残基であり、bが8であり、cが0であり、L1が-O-であり、lが46~227である。
【0037】
また、式(3)の水酸基を有するポリエチレングリコールの好適な様態において、式(3)中のZは式(7)で表される化合物の残基であり、bが8であり、cが0であり、L
1が-O-であり、lが46~227である。
【化7】
【0038】
式(3)中のZである3~8の活性水素を持つ化合物の残基は、グリセリン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ポリグリセリン、式(7)で表される化合物中の、ポリオキシエチレン鎖との結合反応に寄与した水酸基が除かれた残基のことである。
【0039】
(式(1)の化合物)
本発明の、水酸基を有するポリエチレングリコールと反応させて、末端カルボン酸を有するポリエチレングリコールエステルを得るための化合物は、式(1)で表せられる。
【0040】
【0041】
式(1)の化合物の構造内に含まれるXは脱離基を、―(CH2)a-は炭化水素基を、R1はエステル基末端の炭化水素基を表す。
式(1)の化合物の構造内に含まれる脱離基:Xは、エステル化反応時に脱離する性質を有する官能基であるが、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、メタンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基であることが好ましい。脱離基としてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子が特に好ましい。
【0042】
式(1)の化合物の構造内に含まれる炭化水素基:―(CH2)a-のaはメチレン鎖数を表し、aは4から9であり、好ましくは4から6である。
【0043】
式(1)の化合物の構造内に含まれるR1は、エステル基末端の炭化水素基である。R1を構成する炭化水素基の炭素数は1~4が好ましく、1~2が更に好ましい。R1の具体例としては、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基であり、さらに好ましくはエチル基である。
【0044】
本発明で得られる、末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールは好ましくは下記の式(8)または式(9)で表される。
【0045】
【0046】
式(8)において、R3はメトキシ基または-O-(CH2)a-COOHであり、a、nは前記と同義である。
式(8)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のR3がメトキシ基、aが5である。
また、式(8)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のR3が-O-(CH2)a-COOHであり、aが5である。
【0047】
【0048】
式(9)において、a、b、c、l、m、L1、L2、Zは前記と同義である。
式(9)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のZはグリセリン残基であり、aが5であり、bが3であり、cが0であり、L1が-O-であり、lが15~606である。
また、式(9)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のZはグリセリン残基であり、aが5であり、bが1であり、cが2であり、lが0であり、L1、L2が-O-であり、mが23~909である。
【0049】
また、式(9)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のZはグリセリン残基であり、aが5であり、bが1であり、cが2であり、L1が-O-CONH-(CH2)3-O-であり、L2が-O-であり、lが45~272であり、mが23~773である。
また、式(9)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のZはペンタエリスリトール残基であり、aが5であり、bが4であり、cが0であり、L1が-O-であり、lが12~454である。
また、式(9)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のZはキシリトール残基であり、aが5であり、bが1であり、cが4であり、L1、L2が-O-であり、lが0であり、mが12~454である。
【0050】
また、式(9)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のZはヘキサグリセロール残基であり、aが5であり、bが8であり、cが0であり、L1が-O-であり、lが6~227である。
また、式(9)の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの好適な様態においては、式中のZは式(7)で表される化合物の残基であり、aが5であり、bが8であり、cが0であり、L1が-O-であり、lが6~227である。
【0051】
本発明で得られる末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの分子内のエチレンオキシドユニットの合計平均付加モル数は、45以上が好ましく、更に好ましくは113以上であり、より好ましくは450以上である。また、本発明の末端にカルボキシル基を有するポリエチレングリコールの分子内のエチレンオキシドユニットの合計平均付加モル数は1819以下が好ましく、より好ましくは1023以下である。
【0052】
本発明で得られる末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの重量平均分子量は2000以上が好ましく、更に好ましくは5000以上であり、より好ましくは20000以上である。また、本発明の末端にカルボキシル基を有するポリエチレングリコールの重量平均分子量は80000以下が好ましく、より好ましくは45000以下である。
【0053】
本発明で得られる末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールは、直鎖型もしくは分岐型の構造を有している。分岐型は、グリセリン骨格、リジン骨格、ペンタエリスリトール骨格、キシリトール骨格、ポリグリセリン骨格、式(4)で表される化合物の骨格であり、より好ましくはグリセリン骨格、ペンタエリスリトール骨格である。
【0054】
本発明で得られる直鎖型末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールが構造中に有するカルボキシル基の数は、直鎖型は1つ、または2つであり、分岐型は1つ、2つ、3つ、4つ、または8つである。
【0055】
(工程1)
水酸基を有するポリエチレングリコール、前記ポリエチレングリコールに対して0.5~4質量倍の無機塩基、非プロトン性溶剤および水分を含有する溶液であって、前記水分の質量が前記無機塩基に対して5~20meqであり、かつ前記溶液における前記水分の質量が2000ppm以下である溶液中で、下記式(1)の化合物を前記ポリエチレングリコールと反応させてポリエチレングリコールエステルを得る工程である。
【0056】
(工程1)で使用される無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、t-ブトキシカリウムなどが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。また、無機塩基は組み合わせて用いても良い。
【0057】
(工程1)で使用する無機塩基の質量は、水酸基を有するポリエチレングリコールの質量に対して1~3質量倍である。これが1質量倍より少ない場合は、水酸基を有するポリエチレングリコールのアルコラート化が十分に進行せず、カルボン酸純度が低くなるおそれがあるので、1質量倍以上が好ましい。また、これが3質量倍より多いと、エーテル化工程において塩基性が強くなりすぎ、式(1)で表される化合物中の脱離基が反応前に分解するおそれがあること、さらにエーテル化、加水分解後に行う中和操作において使用する酸の量が多くなり、釜効率を下げるおそれがあるので、3質量倍以下が好ましい。
【0058】
(工程1)で使用する溶剤は、非プロトン性溶剤であれば特に限定されないが、本発明における反応温度の範囲内においてポリエチレングリコールが溶解し、かつ反応に影響を与えないものという観点から、トルエン、キシレン、メチル-tert-ブチルエーテルなどの炭化水素系溶剤の使用が好ましい。また、これら複数の非プロトン性溶剤を組み合わせて用いても良い。
【0059】
(工程1)で使用する非プロトン性溶剤とは、プロトン供与性官能基を有しない溶剤である。非プロトン性溶剤の量は、特に限定されないが、本反応において非プロトン性溶剤に溶解するのは主原料である水酸基を有するポリエチレングリコールと式(1)で表される化合物のみで、無機塩基は溶解しないことから、不均一系での反応となる。そのため、エーテル化率を進行させるためには、無機塩基が十分に流動する条件が必要となる。非プロトン性溶剤量が少ない場合は十分な流動性が得られず、反応の律速段階であるポリエチレングリコールのアルコラート化が進行せず、エーテル化率が低くなることでカルボン酸純度も低下するおそれがある。
【0060】
一方、溶剤量が多いと水酸基を有するポリエチレングリコールおよび式(1)で表される化合物の濃度が下がることでエーテル化反応速度が遅くなるだけでなく、反応の長時間化に伴って式(1)で表される化合物の脱離基:Xが分解して反応に寄与しなくなり、エーテル化率の低下が生じるおそれがある。
【0061】
以上の観点から、使用する非プロトン性溶剤の量は、原料の水酸基を有するポリエチレングリコールの質量に対して、5質量倍以上、30質量倍以下が好ましく、10質量倍以上、20質量倍以下が更に好ましい。
【0062】
(工程1)で使用する式(1)で表される化合物使用量は、原料となる水酸基を有するポリエチレングリコールの1水酸基に対して5から80モル当量が好ましく、更に好ましくは10から30モル当量である。
【0063】
(工程1)中の溶液の水分質量は、非プロトン性溶剤と分離せずに相溶する量に管理する必要がある。非プロトン性溶剤中に水を相溶させることで、無機塩基が非プロトン性溶剤中の水への溶解を介して系中に供給され、非プロトン性溶剤に溶解しているPEG末端のアルコラート化、およびエーテル化反応を促進させることが可能となる。
【0064】
溶液の水分質量が無機塩基に対して5meqより少ない場合は、無機塩基の非プロトン性溶剤への供給を介する水が少なくなることから、アルコラート化反応が進行しにくくなり、カルボン酸純度を低下させるおそれがある。このため、非プロトン性溶剤の溶液の水分質量を5meq以上とするが、6meq以上とすることが更に好ましい。
【0065】
溶液の水分質量が無機塩基に対して20meqより多い場合は、非プロトン性溶剤と水が分離し、非プロトン性溶剤への無機塩基の供給量が少なくなることでアルコラート化およびエーテル化が妨げられる。このため、溶液の水分質量を20meq以下とするが、18meq以下とすることが更に好ましい。
【0066】
さらに、前記溶液における前記水分の質量が2000ppmより多くなるにつれて、無機塩基表面の潮解が進むことで反応容器に固着し、反応系の流動性がなくなり、アルコラート化およびエーテル化が進行しにくくなるおそれがある。この観点からは、溶液における前記水分の質量を2000ppm以下とするが、1500ppm以下とすることが更に好ましい。また、溶液における前記水分の質量の下限は限定されないが、100ppm以上であることが好ましく、200ppm以上であることが更に好ましい。
【0067】
本発明の製造方法では、従来禁水反応であるエーテル化反応において、系内に水を存在させることにより、カルボキシル基純度の高い、カルボキシル基含有PEGを収率良く得ることができる。
【0068】
(工程1)の反応温度は、原料となる水酸基を有するポリエチレングリコールが非プロトン性溶剤に溶解する温度であれば特に限定されないが、反応温度が低い場合は、目的であるポリエチレングリコールと式(1)で表される化合物とのエーテル化反応(以下、反応A)速度が遅くなり、本反応と協奏的に生じる副反応である、系中の水と式(1)で表される化合物とのエーテル化反応(以下、反応B)が進行し、目的とする反応Aが妨げられるおそれがある。一方、反応温度が高い場合は、上述の目的とする反応Aよりも、副反応である反応Bが早くなることで、同様に反応Aの進行が妨げられるおそれがある。以上の観点から、好ましい反応温度は30℃から80℃であり、より好ましくは30℃から50℃である。
【0069】
(工程2)
工程1で得られた前記ポリエチレングリコールエステルを加水分解し、末端カルボキシル含有ポリエチレングリコールを得る工程である。
(工程2)のポリエチレングリコールエステルの加水分解は、(工程1)のエステル化後の反応溶液に水を加えて加熱することで行う。(工程2)で使用する水の量は特に限定されないが、少ない場合は系の濃度が高くなり、十分な撹拌性が得られないことで加水分解反応が不十分となり、エステル化物が残存することで、カルボン酸化率を低下させるおそれがある。水が多い場合には、系中の塩基性が弱くなることで塩基性加水分解反応が進行しにくくなり、エステル化物が残存することでカルボン酸化率が低下するおそれがある。以上から、(工程2)で使用する水の量は、好ましくは水酸基を有するポリエチレングリコールに対して1~20質量倍である。
【0070】
(工程2)の加水分解の温度は、加水分解が十分に進行する条件であれば特に限定されないが、好ましくは40から100℃である。
【0071】
(工程2)の加水分解によって末端カルボキシル基含有PEGを得た後は、有機層への抽出、濃縮、吸着処理、結晶化、乾燥などのいずれかを含む工程によって末端カルボキシル基含有PEGを回収する。
【0072】
(工程3)
(工程1)および(工程2)で得られた末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの末端カルボキシル基を活性化基に変換することによって、活性化ポリエチレングリコールを製造することを特徴とする、活性化ポリエチレングリコールの製造方法である。
【0073】
活性化ポリエチレングリコールの定義を記載しておく。
本発明における活性化ポリエチレングリコールとは、ポリエチレングリコールの末端カルボキシル基を化学的に変換し、ターゲットとなるバイオ医薬品中に存在する水酸基、チオール基、アミノ基などの活性基と反応可能にしたものである。
【0074】
(工程3)での末端カルボキシル基から変換する活性化基としては、スクシンイミジルエステル基、酸ハロゲン化物基、ジアゾアセチル基、アクリルイミダゾール基などが挙げられ、好ましくはスクシンイミジルエステル基である。
【0075】
(工程3)での末端カルボキシル基の活性化基への変換方法は特に限定されないが、末端カルボキシル基含有PEG 2分子を酸性条件で脱水縮合して酸無水物化して活性化基を導入する方法、または縮合剤を用いて活性エステルへ変換した後、活性化基を導入する方法などが挙げられ、好ましくは縮合剤を用いる方法である。
【0076】
(工程3)での活性化基への変換に用いられる縮合剤は、カルボジイミド系縮合剤、イミダゾール系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム系縮合剤、ウロニウム系縮合剤、ハロウロニウム系縮合剤などが挙げられ、これらは特に限定されずに使用することができる。
【0077】
(工程3)での末端カルボキシル基への変換反応後は、有機層への抽出、濃縮、吸着処理、結晶化、乾燥などのいずれかを含む工程によって活性化ポリエチレングリコールを回収する。
【0078】
本発明の末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールとは、ポリエチレングリコールの末端に炭素数4~9のアルキレン基を介してカルボキシル基が結合した化合物であり、低分子薬剤やタンパク質等の修飾のために用いられる。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの純度測定には以下の装置、試薬を用いて行った。
LC装置:
alliance (Waters)
カラム: 陰イオン交換カラム ES-502N(Asahipak)、φ7.5mm×100mm
流速: 1.0mL/min
カラム温度:30℃
検出器: RI
移動相: ギ酸アンモニウム緩衝液
【0080】
(実施例1)
分子量5千、片末端が水酸基、片末端がメトキシ基の直鎖型PEG(日油品、MEH-50H)101gとトルエン1800gを、5Lの4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下で昇温し、45℃にて溶解させた。系中の水分を調製したところ、318ppmであることを確認した(KOHに対する水の量:9.42meq)。溶液にKOH(東亜工業品、フレーク)200gを仕込んだ後、溶液温度40℃で6-ブロモヘキサン酸エチル(東京化成工業品)89.2gを滴下した。滴下終了後、40℃にて1.5h熟成した。熟成終了後、水 700gを仕込み、70℃に昇温して1時間撹拌し加水分解を行った。加水分解後、塩酸酸性条件にて分層後、水層から有機溶剤を用いて末端カルボン酸PEGを回収して、溶剤を留去後、結晶化による精製で低分子不純物を除去して結晶を得た。
得られた末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの純度は95.8%、収量は85.8g(歩留まり:85.8%)であった。
【0081】
(実施例2)
分子量2万、片末端が水酸基、片末端がメトキシ基の直鎖型ポリエチレングリコール(日油品、MEH-20T)41gとトルエン323gを、1Lの4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下で110±5℃で1h還流させた後に、系中の水分を298ppmに調製した(KOHに対する水の量:5.11meq)。水分調製後の溶液にKOH 82gを仕込み、40℃にて6-ブロモヘキサン酸エチル9.15gを滴下ロートを用いて滴下した。滴下終了後、40℃にて4h熟成した。熟成終了後、水287gを仕込み、70℃に昇温して1hr加水分解を行った。以降、実施例1と同様の操作で末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを得た。
得られた末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの純度は97.3%、収量は36.1g(歩留まり:88.0%)であった。
【0082】
(実施例3)
分子量2万、片末端が水酸基、片末端がメトキシ基の直鎖型ポリエチレングリコール(日油品、MEH-20T)41gとトルエン323gを、1Lの4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下で110±5℃で1h還流させた後に、系中の水分を513ppmに調製した(KOHに対する水の量:8.57meq)。水分調製後の溶液にKOH 82gを仕込み、40℃にて6-ブロモヘキサン酸エチル9.15gを滴下ロートを用いて滴下した。滴下終了後、40℃にて4h熟成した。熟成終了後、水 287gを仕込み、70℃に昇温して1hr加水分解を行った。以降、実施例1と同様の操作で末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを得た。
得られた末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの純度は95.3%、収量は35.3g(歩留まり:86.2%)であった。
【0083】
(比較例1)
分子量2万、片末端が水酸基、片末端がメトキシ基の直鎖型ポリエチレングリコール(日油品、MEH-20T)41gとトルエン323gを、1Lの4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下で110±5℃で1h還流させた後に系中の水分を測定したところ102ppm(KOHに対する水の量:1.75meq)であった。溶液にKOH 82gを仕込み、40℃にて6-ブロモヘキサン酸エチル9.15gを滴下ロートを用いて滴下した。滴下終了後、40℃にて4h熟成した。熟成終了後、水 287gを仕込み、70℃に昇温して1hr加水分解を行った。以降、実施例1と同様の操作で末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを得た。
得られた末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールの純度は61.7%、収量は34.7g(歩留まり:84.8%)であった。
【0084】
以下、同様に、水酸基を有するポリエチレングリコールを表1のように表記し、表1記載の条件にて実施例4~6および比較例2、3を行った。また、その結果を表2に記載した。
【0085】
【0086】
【0087】
※1 水酸基を有するポリエチレングリコールの仕込量に対する値
※2 比較例3では、系中の水分質量が多いためにKOHがフラスコ壁面に固着し流動性が全く得られない状態となったため、操作を中止した。
【0088】
(実施例7)
実施例1で得た末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコール 40gを用い、40℃にてトルエン120gに溶解させた。N-ヒドロキシコハク酸イミド 2.03g、ジシクロヘキシルカルボジイミド 3.30gを用い、40℃で3時間反応を行うことで、活性化基への変換を行った。結晶化による精製で低分子不純物を除去し、活性化ポリエチレングリコールを35g得た。
得られた活性化ポリエチレングリコールの純度を1H-NMR(600MHz、CDCl3)にて測定したところ、95.8%であった。
【0089】
(実施例8)
実施例5で得た末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコール 25gを用い、45℃にてトルエン75gに溶解させた。N-ヒドロキシコハク酸イミド 0.3g、ジシクロヘキシルカルボジイミド 0.5gを用い、40℃で3時間反応を行うことで、活性化基への変換を行った。結晶化による精製で低分子不純物を除去し、活性化ポリエチレングリコールを35g得た。
得られた活性化ポリエチレングリコールの純度を1H-NMR(600MHz、CDCl3)にて測定したところ94.3%であった。
【0090】
(実施例9)
実施例6で得た末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコール 30gを用い、40℃にてトルエン90gに溶解させた。N-ヒドロキシコハク酸イミド 1.38g、ジシクロヘキシルカルボジイミド 2.48gを用い、40℃で2時間反応を行うことで、活性化基への変換を行った。結晶化による精製で低分子不純物を除去し、活性化ポリエチレングリコールを25.6g得た。
得られた活性化ポリエチレングリコールの純度を1H-NMR(600MHz、CDCl3)にて測定したところ96.3%であった。
【0091】
実施例1、5、6で製造した末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールを用いて活性化ポリエチレングリコールを製造した結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
実施例1~3および表2に示すように、本発明の方法で得られる末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコールのカルボン酸純度は、比較例1の一般的な水分値を低く管理して反応を行った場合、および比較例2の水分を好適な範囲よりも多く管理して反応を行った場合のいずれと比較しても、有意に高い結果となった。
【0094】
表3に示すように、本発明の方法で得られる末端カルボキシル基含有PEGを用いることで、高純度な活性化PEGを得ることができる。
【0095】
以上より、本発明は、末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコール高純度で、収率良く、工業的に製造することができる。また、本発明は、本発明で得られる高純度な末端カルボキシル基含有PEGを用いることで、高純度な末端活性化PEGを得ることができる有用な方法である。