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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】災害対応型救命衣
(51)【国際特許分類】
   B63C 9/093 20060101AFI20231101BHJP
   B63C 9/20 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B63C9/093
B63C9/20 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019199700
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070453
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592032706
【氏名又は名称】株式会社日本港湾コンサルタント
(73)【特許権者】
【識別番号】519391860
【氏名又は名称】株式会社ホライゾン
(73)【特許権者】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高二朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩二
(72)【発明者】
【氏名】中山 桃
(72)【発明者】
【氏名】三吉 正英
(72)【発明者】
【氏名】石田 正利
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩二
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第557220(GB,A)
【文献】登録実用新案第3179272(JP,U)
【文献】実開昭61-11712(JP,U)
【文献】実開昭57-79106(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2002/0139821(US,A1)
【文献】国際公開第2013/125115(WO,A1)
【文献】特表2007-502920(JP,A)
【文献】実開昭60-25600(JP,U)
【文献】実公昭7-11929(JP,Y1)
【文献】実開昭50-32110(JP,U)
【文献】特開2019-127231(JP,A)
【文献】特開2017-100695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 9/08
A41D 13/012
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1浮力体を有するとともに、前開きに構成され、かつ、人の胴体を覆う形状を有する胴部と、
複数の第2浮力体を有するとともに、前記胴部とは別体に構成されたパンツ型であって、かつ、前記胴部に結合された下肢カバーと、
前記胴部と前記下肢カバーとを結合する結合手段と、
を備え、
前記結合手段は、前記胴部に設けられた第1面ファスナ片と、前記下肢カバーに設けられ、前記第1面ファスナ片に固定可能な第2面ファスナ片と、を有する面ファスナによって構成され、
前記第2面ファスナ片は、前記第1面ファスナ片に固定されることにより、前記胴部の胴回りに固定され、
前記面ファスナは、前記胴部の前面部を閉じた状態に維持することができるように構成され
前記複数の第2浮力体は、前記下肢カバーにおける膝部分よりも前記胴部側に配された上部浮力体と、前記膝部分よりも前記胴部側とは反対側に配されるとともに、前記上部浮力体と離間して配された下部浮力体と、を含む、
災害対応型救命衣
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波などの災害時に着用する災害対応型救命衣に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用者を水に浮かせ、頭部を水面上に位置させるための救命衣が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の救命衣は、胴部と、前記胴部と一体に形成された下肢カバーと、を備え、全体として袋状に形成されている。この救命衣では、胴部および下肢カバーと着用者の身体との間にある空隙に多量の空気を介在させてその浮力により着用者が沈まないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭50-23999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の救命衣では、救命衣中に多量の空気を介在させて浮力を得ている。しかしながら、この救命衣では、救命衣の中で空気が移動自在であるため、着用者の体型などによって救命衣中の空気の溜まり方が異なることもあり、下肢において十分な浮力を得られない恐れがある。したがって、特許文献1の救命衣を津波などの災害時に着用した場合、水中にある障害物に着用者の下肢が当たってしまう危険がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に基づいてなされたものであり、その目的は、着用者の下肢が水中にある障害物に当たる危険を回避しやすい災害対応型救命衣を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る災害対応型救命衣は、第1浮力体を有するとともに前開きに構成され、かつ、人の胴体を覆う形状を有する胴部と、複数の第2浮力体を有するとともに前記胴部とは別体に構成されたパンツ型であって、かつ、前記胴部に結合された下肢カバーと、前記胴部と前記下肢カバーとを結合する結合手段と、を備え、前記結合手段は、前記胴部に設けられた第1面ファスナ片と、前記下肢カバーに設けられ、前記第1面ファスナ片に固定可能な第2面ファスナ片と、を有する面ファスナによって構成され、前記第2面ファスナ片は、前記第1面ファスナ片に固定されることにより、前記胴部の胴回りに固定され、前記面ファスナは、前記胴部の前面部を閉じた状態に維持することができるように構成され、前記複数の第2浮力体は、前記下肢カバーにおける膝部分よりも前記胴部側に配された上部浮力体と、前記膝部分よりも前記胴部側とは反対側に配されるとともに、前記上部浮力体と離間して配された下部浮力体と、を含む。
【0007】
本発明によれば、上半身が胴部によって覆われるとともに、下半身が下肢カバーによって覆われる。このため、着用者の胴回り及び下肢の裂傷や体温が急速に失われることが抑制される。しかも、胴部は、肩から胴にかけて胴体を覆っているので脱げにくく、この胴部に下肢カバーが結合され又は胴部と下肢カバーが一体に形成されているため、津波などの水流によっても下肢カバーが脱げてしまうことを防止することができる。さらに、下肢カバーが第2浮力体を有するので、第2浮力体が下肢カバーから抜け出さない。このため、着用者の下肢が第2浮力体の浮力によって浮いた状態になる。したがって、津波などの災害時において水中にある障害物に着用者の下肢が当たりにくくなるので、着用者の下肢が水中にある障害物に当たる危険を回避しやすくなる。
【0009】
また、本発明によれば、下肢カバーは、胴部と別体に構成されたパンツ型であるので、着用者は、ズボンのように下肢カバーを容易に履くことができる。このため、津波が到達するまでの数分の間に誰にとっても素早く装着することが可能になる。さらに、下肢カバーが結合手段により胴部に結合されるので、パンツ型に構成された下肢カバーが、津波などの水流によって脱げてしまうことを防止することができる。
【0011】
また、本発明によれば、第2面ファスナ片を第1面ファスナ片に張り付けるだけで下肢カバーを胴部に結合することができるので、津波などの緊急時であっても下肢カバーを胴部に簡易に結合することができる。このため、津波が到達するまでの数分の間に誰にとっても素早く装着することが可能になる。さらに、面ファスナを胴部にベルトのように巻き付けることができるので、津波などの水流によって下肢カバーが脱げてしまうことをより確実に防止することができる。
【0013】
また、本発明によれば、胴部の前面部を開くことができるので、胴部を着用しやすくなる。さらに、着用者は、胴部と下肢カバーとを結合するための面ファスナを用いて胴部の前面部を閉じることができるので、胴部の前面部を閉じるための部材が増えるのを抑制することができるとともに、津波などの緊急時であっても胴部を簡易に着衣することができる。このため、津波が到達するまでの数分の間に誰にとっても素早く装着することが可能になる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、着用者の下肢が水中にある障害物に当たる危険を回避しやすい災害対応型救命衣を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態に係る災害対応型救命衣の胴部および下肢カバーの正面図である。
図2】第1実施形態に係る災害対応型救命衣の使用状態を示す図である。
図3図1のIII-III線に沿って切断した断面図である。
図4】第1実施形態に係る災害対応型救命衣の着衣方法を示す図である。
図5】第2実施形態に係る災害対応型救命衣の着衣方法を示す図である。
図6】第3実施形態に係る災害対応型救命衣の使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態に係る災害対応型救命衣を説明するために必要となる主要な構成要素を簡略化して示したものである。したがって、本発明の各実施形態に係る災害対応型救命衣は、本明細書が参照する各図に示されていない任意の構成要素を備え得る。
【0035】
(第1実施形態)
災害対応型救命衣1は、津波などの災害時において、着用者を水に浮かせ、頭部を水面WL上に位置させるためのものである。災害対応型救命衣1は、図1、2に示すように、人の胴体を覆う形状を有する胴部2と、胴部2とは別体に構成された下肢カバー3と、下肢カバー3を胴部2に結合する結合手段4と、を有する。
【0036】
胴部2は、ジャケット型に構成されている。胴部2は、着用者の胴回りを覆う形状および寸法であり、胴部2には、両腕を覆う形状および寸法を有する袖部2bと、頭を覆う形状および寸法を有するフード部2cと、が繋がっている。尚、袖部2bとフード部2cは、胴部2に着脱可能に構成されてもよい。
【0037】
胴部2は、前面部2aaと前面部2aaに対向する後面部2abとを有する。前面部2aaは、左右別体に構成された右前部31と左前部32とを有する。右前部31の右端は、後面部2abの右端に繋がり、左前部32の左端は、後面部2abの左端に繋がっている。これにより、胴部2は、前開きに構成されている。尚、胴部2は、前開きに構成されていなくてもよい。この場合、右前部31と左前部32とが一体に構成される。
【0038】
袖部2bは、胴部2の肩の位置に接続されており、着用者の肩の位置から手首の位置まで覆うことができるように形成されている。フード部2cは、胴部2の上部に接続され、前面側が開放されている。尚、袖部2bとフード部2cは、省略されてもよい。
【0039】
胴部2は、第1浮力体2dを有する。第1浮力体2dは、胴部2を着た着用者の体を水中で浮かすことができる程度の浮力を生じるように構成されている。例えば、第1浮力体2dは、発泡スチロールによって構成することができる。
【0040】
第1浮力体2dは、胴部2の前面部2aaに内蔵された前面浮力体5と、胴部2の後面部2abに内蔵された後面浮力体6と、を有する。前面浮力体5は、2枚の浮力体によって構成されている。具体的に、前面浮力体5は、左前部32に内蔵された左側浮力体5aと、右前部31に内蔵された右側浮力体5bと、を有する。尚、胴部2が前開きに構成されない場合には、前面浮力体5は、1枚の浮力体によって構成されてもよい。後面浮力体6は、胴部2の後面部2abに内蔵されている。尚、前面浮力体5のみで胴部2を着た着用者の体を水中で浮かすことができれば、後面浮力体6は、省略されてもよい。
【0041】
前面浮力体5は、後面浮力体6の浮力よりも大きな浮力を有するように構成されている。すなわち、前面浮力体5は、左側浮力体5aの浮力と右側浮力体5bの浮力との合計の浮力が後面浮力体6の浮力よりも大きくなるように構成されている。これにより、胴部2が水に浮かぶと、胴部2は、前面部2aaが後面部2abに対して上方に位置するように浮かぶ。したがって、着用者は、着用者の体の前面側が上を向いた状態で浮かぶことができる(図2参照)。尚、前面浮力体5の浮力は、後面浮力体6の浮力と同一であってもよい。
【0042】
胴部2の前面部2aaには、GPS端末25が内蔵されている(図1、2参照)。GPS端末25の位置は、胴部2の前面部2aaであれば、特に限定されることはない。例えば、GPS端末25は、胴部2の前面部2aaにおいて前面浮力体5の前面側に配置されてもよく、前面浮力体5に埋め込まれてもよい。尚、GPS端末25は、省略されてもよい。
【0043】
下肢カバー3は、両脚をそれぞれ入れることができる形状および寸法を有するパンツ型に形成されている。尚、下肢カバー3は、胴部2と一体に構成されてもよい。すなわち、胴部2の下端に下肢カバー3の上端が繋がった構成とされてもよい。この場合、下肢カバー3を胴部2に結合する結合手段4は省略される。
【0044】
下肢カバー3は、第2浮力体7と、伸縮自在なゴム製の肩掛けベルト8と、を有する。尚、肩掛けベルト8は、例えば、織物製のものであってもよく、また省略されてもよい。
【0045】
第2浮力体7は、下肢カバー3を着た着用者の下肢を水中で浮かすことができる程度の浮力を生じるように構成されている。例えば、第2浮力体7は、発泡スチロールによって構成することができる。
【0046】
第2浮力体7は、下肢カバー3の前面3aに設けられている。これにより、下肢カバー3を水に浮かべると、下肢カバー3は、前面3aが上を向くように浮く。したがって、下肢カバー3の浮力と胴部2の浮力とにより、着用者の体の前側が上を向いた状態で、着用者は、上半身と下半身とが前側にくの字状に屈曲した状態で浮かぶ(図2参照)。尚、第2浮力体7の下肢カバー3への取付位置は、下肢カバー3の前面3aに限定されることはなく、例えば、下肢カバー3の側面に設けられてもよい。
【0047】
第2浮力体7は、下肢カバー3の前面3aにおける外側の部位に着脱可能に設けられている。このため、第2浮力体7は、下肢カバー3から取り外すことができる。第2浮力体7の下肢カバー3への着脱手段は、水中において着用者が第2浮力体7を容易に取り外せることができれば、いずれの手段を用いてもよい。例えば、第2浮力体7は、面ファスナやホック等によって下肢カバー3に着脱可能に構成されてもよく、下肢カバー3のポケット(図示省略)に入れられた構成でもよい。この場合、下肢カバー3から取り外された第2浮力体は、面ファスナやホック等によって胴部2に取り付けることができるように構成されてもよい。尚、第2浮力体7は、下肢カバー3に着脱可能に構成されなくてもよい。
【0048】
また、第2浮力体7は、図1の例では、下肢カバー3の上部と下部に計4つ設けられているが、水中において着用者の下肢が第2浮力体7の浮力によって浮いた状態にできれば、第2浮力体7の数は、特に限定されることはない。例えば、第2浮力体7は、下肢カバー3の上部と下部との間に計2つ設けられてもよい。
【0049】
肩掛けベルト8は、図3に示すように、一端が下肢カバー3の内面の前面3aに固定され、他端が下肢カバー3の内面の後面3bに固定されることにより、ループ状となっている。これにより、肩掛けベルト8は、着用者の肩に掛けることができる。肩掛けベルト8の両端は、下肢カバー3の上端9から下方にずれた位置に取り付けられている。これにより、着用者が肩掛けベルト8を肩に掛けた状態で、胴部2の裾を下肢カバー3の内側に入れることができる。つまり、後述のように、下肢カバー3の上端9には、帯状の第2面ファスナ片4abが取り付けられているものの、胴部2の裾を下肢カバー3の内側に入れることにより、第2面ファスナ片4abを胴部2に巻き付けることができるようにしている。
【0050】
結合手段4は、胴部2に設けられた第1面ファスナ片4aaと、下肢カバー3に設けられた第2面ファスナ片4abと、を有する面ファスナ4aによって構成されている。
【0051】
第1面ファスナ片4aaは、胴部2における右前部31と左前部32と後面部2abのそれぞれに形成されている。尚、第1面ファスナ片4aaは、右前部31と左前部32と後面部2abにおいて周囲方向の全周に亘って連続するように形成されてもよく、周囲方向に断続的に形成されてもよい。第1面ファスナ片4aaは、その外面が結合面となっている。尚、第1面ファスナ片4aaは、胴部2において上下に間隔を空けて2つ設けられているが、第1面ファスナ片4aaの数は、津波などの水流によって下肢カバー3が胴部2から容易に外れないようにされていれば、特に限定されることはない。
【0052】
第2面ファスナ片4abは、下肢カバー3の上端9に沿って配置されている。第2面ファスナ片4abは、胴回り方向に延びる帯状に形成され、胴部2の周囲方向の長さ程度の長さを有する。このため、第2面ファスナ片4abは、胴部2の全周に巻き付けることができる。第2面ファスナ片4abは、下肢カバー3の後面3b側における上端9に固定される一方で、後面3b側における上端9から左右両側に延出している。第2面ファスナ片4abは、前後両面が結合面となっている。
【0053】
胴部2と下肢カバー3には、図1、2に示すように、胴部2と下肢カバー3とを結合する結合部材10が取り付けられている。結合部材10は、一端が胴部2の外側に取り付けられた第1結合片10aと、一端が下肢カバー3の外側における上部に取り付けられた第2結合片10bと、第1結合片10aと第2結合片10bとを連結するバックルなどの連結部材10cと、を有する。第1結合片10aは、胴部2における裾の位置よりも上部に取り付けられている。これにより、胴部2の裾を下肢カバー3の内側に入れた状態で、下肢カバー3の外側に位置する第1結合片10aと第2結合片10bとを連結部材10cによって連結することができる。
【0054】
尚、第1結合片10aの胴部2への取付位置は、図1の例では、上下の第1面ファスナ片4aaの間に位置しているが、胴部2の裾を下肢カバー3の内側に入れた状態で、第1結合片10aと第2結合片10bとを連結部材10cによって連結することができれば、上下の第1面ファスナ片4aaの間に限定されるものではない。また、結合部材10は、面ファスナ4aに対して、下肢カバー3の胴部2への結合に補助的に使用されるものであるため、省略されてもよい。
【0055】
次に、上記のように構成された災害対応型救命衣1の着衣方法について図4(a)~(d)を参照しながら説明する。尚、図4(a)~(d)では、便宜上、第1及び第2浮力体2d、7と結合部材10とを省略している。
【0056】
まず、下肢カバー3に両脚を通した後、肩掛けベルト8を肩に掛けて下肢カバー3を着衣する。このとき、肩掛けベルト8が伸縮するので、長さ調節しなくても肩掛けベルト8を容易に肩に掛けることができる。
【0057】
次に、胴部2を着衣する。このとき、胴部2は、肩掛けベルト8の上に被せる。具体的には、まず、胴部2の前面部2aaを開いて両腕を袖部2bに通した後、前面部2aaにおける右前部31が左前部32の前側に位置するように右前部31と左前部32とを重ね合わせる(図4(a)、(b)参照)。この状態で、胴部2の裾を下肢カバー3と肩掛けベルト8との間に入れ、第1結合片10aと第2結合片10bとを連結部材10cによって連結する(図2図3図4(c)参照)。尚、連結部材10が省略される場合には、第1結合片10aと第2結合片10bとを連結する作業は省略される。
【0058】
次いで、面ファスナ4aの第2面ファスナ片4abを胴部2にベルトのように巻き付ける(図2図4(c)、(d)参照)。具体的には、左側の第2面ファスナ片4abを左前部32から右前部31に渡るように巻き付け、左側の第2面ファスナ片4abを第1面ファスナ片4aaに固定する。続いて、右側の第2面ファスナ片4abを右前部31から左前部32に渡るように巻き付け、右側の第2面ファスナ片4abを左側の第2面ファスナ片4abに外から固定する。尚、左前部32が右前部31の前側に位置するように重ね合わされた場合には、右側の第2面ファスナ片4abが第1面ファスナ片4aaに固定され、左側の第2面ファスナ片4abが右側の第2面ファスナ片4abに外から固定される。これにより、下肢カバー3が胴部2に結合されるとともに、胴部2の前面部2aaが閉じた状態に維持される。そして、最後にフード部2cを被る。
【0059】
上記災害対応型救命衣1では、上半身が胴部2によって覆われるとともに、下半身が下肢カバー3によって覆われる。このため、着用者の胴回り、両腕、頭および下肢の裂傷が抑制されるとともに、体温が急速に失われることが抑制される。しかも、胴部2は、肩から胴にかけて胴体を覆っているので脱げにくく、この胴部2に下肢カバー3が結合されているため、津波などの水流によっても下肢カバー3が脱げてしまうことを防止することができる。さらに、下肢カバー3が第2浮力体7を有するので、第2浮力体7が下肢カバー3から抜け出さない。このため、着用者の下肢が第2浮力体7の浮力によって浮いた状態になる(図2参照)。したがって、津波などの災害時において水中にある障害物に着用者の下肢が当たりにくくなるので、着用者の下肢が水中にある障害物に当たる危険を回避しやすくなる。
【0060】
上記災害対応型救命衣1では、下肢カバー3は、胴部2と別体に構成されたパンツ型であるので、着用者は、ズボンのように下肢カバー3を容易に履くことができる。このため、津波が到達するまでの数分の間に誰にとっても素早く装着することが可能になる。さらに、下肢カバー3が結合手段4により胴部2に結合されるので、下肢カバー3が津波などの水流によって脱げてしまうことを防止することができる。
【0061】
上記災害対応型救命衣1では、第2面ファスナ片4abを第1面ファスナ片4aaに張り付けるだけで下肢カバー3を胴部2の胴回りに結合することができるので、津波などの緊急時であっても下肢カバー3を胴部2に簡易に結合することができる。このため、津波が到達するまでの数分の間に誰にとっても素早く装着することができる。さらに、面ファスナ4aを胴部2にベルトのように巻き付けることができるので、津波などの水流によって下肢カバー3が脱げてしまうことをより確実に防止することができる。
【0062】
上記災害対応型救命衣1では、胴部2の前面部2aaを開くことができるので、胴部2を着用しやすい。さらに、着用者は、胴部2と下肢カバー3とを結合する面ファスナ4aによって胴部2の前面部2aaを閉じることができるので、胴部2の前面部2aaを閉じるための部材を別個に用意する必要がない。このため、津波などの緊急時であっても胴部2を簡易に着衣することができるので、津波が到達するまでの数分の間に誰にとっても素早く装着することができる。
【0063】
上記災害対応型救命衣1では、前開きに構成された前面部2aaを帯状の面ファスナ4aにより閉じるので、胴部2を着用者の体型に合わせた状態で閉じることができる。さらに、胴部2と下肢カバー3の結合に面ファスナ4aを用いることにより、津波に巻き込まれた際にかかる引っ張り力に耐える接合力と簡便な装着性を実現することができる。
【0064】
上記災害対応型救命衣1では、肩掛けベルト8を着用者の肩に掛けることができるので、下肢カバー3が着用者の下肢から脱げにくい。さらに、ゴム製の肩掛けベルト8は伸縮するので、着用者の体型に合わせてバックル等を用いて肩掛けベルト8の長さを調節する必要がない。このため、津波などの緊急時であっても肩掛けベルト8を着用者の体型に応じた長さに容易に調整することができる。したがって、津波が到達するまでの数分の間に誰にとっても素早く装着することができる。
【0065】
上記災害対応型救命衣1では、肩掛けベルト8の上に胴部2が重なっているので、胴部2を着用した状態で肩掛けベルト8が外れることはない。このため、下肢カバー3が脱げにくい。
【0066】
上記災害対応型救命衣1では、胴部2の前面に配置された前面浮力体5は、胴部2の後面部2abに配置された後面浮力体6よりも大きな浮力を有するので、胴部2は、水中において前面浮力体5が後面浮力体6に対して上方に位置するように浮力を生じる。このため、着用者の体の前面側が上を向いた状態になりやすいので、常時顔を水面WL上に出しやすく、窒息死を免れやすくすることができる。
【0067】
上記災害対応型救命衣1では、下肢カバー3は、水中において前面3aが上を向くように浮力を生じるので、着用者の体の前面側が上を向いた状態で、着用者は、上半身と下半身とが前側にくの字状に屈曲しやすくなる(図2参照)。このため、津波などの災害時において水中にある障害物に着用者の下肢が当たりにくい。
【0068】
上記災害対応型救命衣1では、着用者は、第2浮力体7を下肢カバー3から取り外すことができるので、第2浮力体7を下肢カバー3から取り外して水中を歩いたり泳いだりすることができる。
【0069】
上記災害対応型救命衣1では、胴部2の後面部2abに配置された後面浮力体6よりも大きな浮力を有する前面浮力体5が配置された前面部2aaにGPS端末25が配置されているので、このGPS端末25は、水没することなく常時水面WL上に位置しやすくなる(図2参照)。このため、着用者が津波に流されたとしても、着用者の位置を把握しやすい。
【0070】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の災害対応型救命衣について説明する。以下、第2実施形態において第1実施形態と対応する要素については、第1実施形態と同様の符号を付して、その説明を省略する。
【0071】
第2実施形態の災害対応型救命衣11は、図5に示すように、胴部12と、胴部12と一体に構成された下肢カバー13と、開閉用面ファスナ14と、を有し、全体で寝袋のような形状を有している。このため、第2実施形態の災害対応型救命衣11は、寝たきり高齢者や病人などの動けない人にも好適である。
【0072】
胴部12は、右前部31と左前部32とを有する前面部2aaと後面部2abとフード部2cと第1浮力体2dとを有する。胴部12は、着用者の胴体および両腕を入れられる大きさの略筒状に形成されている。胴部12は、前開きに構成されている。図5の例では、胴部2の前面部2aaは、上端の位置から下肢カバー13の上端の位置まで開口部15が形成されることにより、大きく左右に開くように構成されている。尚、胴部2の前面部2aaにおける開口部15は、下肢カバー13の位置まで至っていなくてもよい。また、胴部2の前面部2aaには、GPS端末25が内蔵されてもよい(図5参照)。
【0073】
開閉用面ファスナ14は、胴部2の前面部2aaにおける開口部15を閉じるためのものである。開閉用面ファスナ14は、胴部2の前面部2aaに設けられた第1開閉用面ファスナ片14aと、第1開閉用面ファスナ片14aに張り付けられる第2開閉用面ファスナ片14bと、を有する。
【0074】
第1開閉用面ファスナ片14aは、胴部2の前面部2aaの右前部31と左前部32のそれぞれにおいて形成されている。尚、第1開閉用面ファスナ片14aは、前面部2aaの左前部32と右前部31のそれぞれにおいて周囲方向に連続するように形成されてもよく、周囲方向に断続的に形成されてもよい。また、第1開閉用面ファスナ片14aは、胴部2の前面部2aaにおける左前部32と右前部31のそれぞれにおいて上下に間隔を空けて2つ設けられているが、第1開閉用面ファスナ片14aの数は、津波などの水流によって容易に開口部15が開かないようにされていれば、特に限定されることはない。
【0075】
第2開閉用面ファスナ片14bは、胴部2の後面部2abに固着された固着部14baと、固着部14baにおける周囲方向の両端から左右に延びる一対の張り付け部14bbと、を有する。第2開閉用面ファスナ片14bの一対の張り付け部14bbは、第1開閉用面ファスナ片14aに張り付けることができるように帯状に形成されている。一対の張り付け部14bbは、前後両面が結合面となっている。
【0076】
尚、張り付け部14bbは、第1開閉用面ファスナ片14aに張り付けられた状態で、胴部2の前面部2aaの開口部15を閉じた状態に維持することができれば、左右一対に構成されていなくてもよい。例えば、第2開閉用面ファスナ片14bは、固着部14baにおける周囲方向の一方側にのみ設けられてもよい。
【0077】
また、開閉用面ファスナ14は、図5の例では、胴部2における上下方向の中間部と下端部にそれぞれ1つずつ計2つ設けられているが、開閉用面ファスナ14の数は、胴部2の前面部2aaの開口部15を閉じた状態に維持することができれば、特に限定されることはない。
【0078】
下肢カバー13は、両脚をまとめて包むように袋状に構成されている。下肢カバー13は、第2浮力体7を有する。第2浮力体7は、下肢カバー13の前面13aに設けられている。尚、第2浮力体7の下肢カバー3への取付位置は、下肢カバー13の前面13aに限定されることはなく、例えば、下肢カバー13の側面に設けられてもよい。
【0079】
上記のように構成された第2実施形態の災害対応型救命衣11は、次のようにして着衣される。
【0080】
まず、着用者は、胴部2の前面部2aaの開口部15を左右に開き、開口部15を通して胴部12と下肢カバー13の中に入る。この状態で、胴部2の前面部2aaの右前部31が左前部32の前側に位置するように重ね合わせる。そして、2つの面ファスナ14により前面部2aaの開口部15を閉じた状態に維持する。具体的には、左側の張り付け部14bbを左前部32から右前部31に渡るように巻き付け、左側の張り付け部14bbを第1開閉用面ファスナ片14aに固定する。そして、この左側の張り付け部14bbに右側の張り付け部14bbを外から固定する。これにより、胴部2の前面部2aaの開口部15が閉じた状態に維持される。尚、左前部32が右前部31の前側に位置するように重ね合わされた場合には、右側の張り付け部14bbが第1開閉用面ファスナ片14aに固定され、左側の張り付け部14bbが右側の張り付け部14bbに外から固定される。
【0081】
第2実施形態の災害対応型救命衣11では、第1実施形態と同様に、上半身が胴部12によって覆われるとともに、下半身が下肢カバー13によって覆われる。このため、着用者の胴回り及び下肢の裂傷や体温が急速に失われることが抑制される。しかも、胴部12は、肩から胴にかけて胴体を覆っているので脱げにくく、この胴部12に下肢カバー13が一体に形成されているため、津波などの水流によっても下肢カバー13が脱げてしまうことを防止することができる。さらに、下肢カバー13が第2浮力体7を有するので、第2浮力体7が下肢カバー13から抜け出さない。このため、着用者の下肢が第2浮力体7の浮力によって浮いた状態になる。したがって、津波などの災害時において水中にある障害物に着用者の下肢が当たりにくくなるので、着用者の下肢が水中にある障害物に当たる危険を回避しやすくなる。
【0082】
第2実施形態の災害対応型救命衣11では、胴部2の前面部2aaは、前開きに構成されているので、胴部12と下肢カバー13とが一体に構成されていても、着用者は、胴部2の開口部15を通して着衣することができる。
【0083】
第2実施形態の災害対応型救命衣11では、下肢カバー13は、両脚をまとめて包むように袋状に構成されているので、着用者を包み込みやすい形状である。このため、第2実施形態の災害対応型救命衣11では、下肢カバー13がパンツ型に構成される場合に比べて、寝たきり高齢者や病人などの動けない人の着衣が容易である。
【0084】
第2実施形態の災害対応型救命衣11では、胴部2および下肢カバー13の前面13aにおける開口部15を開閉用面ファスナ14により閉じた状態に維持することができるので、胴部2の前面部2aaが前開きに構成されても、着用者の胴回り及び下肢の裂傷を抑制することができるとともに、津波などの水流によって災害対応型救命衣11が脱げてしまうことを防止することができる。
【0085】
第2実施形態の災害対応型救命衣11では、前開きに構成された前面部2aaを帯状の開閉用面ファスナ14により閉じるので、胴部12を着用者の体型に合わせた状態で閉じることができる。
【0086】
第2実施形態の災害対応型救命衣11では、前面浮力体5が配置された胴部2の前面部2aaにGPS端末25が配置されるので、GPS端末25は、水没することなく常時水面WL上に位置しやすくなる。このため、着用者が津波に流されたとしても、着用者の位置を把握しやすくなる。
【0087】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の災害対応型救命衣について説明する。以下、第3実施形態において第1実施形態と対応する要素については、第1実施形態と同様の符号を付して、その説明を省略する。
【0088】
第3実施形態の災害対応型救命衣21は、図6に示すように、下肢カバー3に設けられる第2浮力体7を省略する代わりに紐部材22を備えている点において第1実施形態と相違している。
【0089】
紐部材22は、ロープのような細長い部材によって形成されている。紐部材22は、胴部2の前面部2aaに一端が固定された第1紐片22aと、下肢カバー3の前面3aに一端が固定された第2紐片22bと、第1紐片22aと第2紐片22bとを連結する連結部材23と、を有する。紐部材22の長さは、第1紐片22aと第2紐片22bとを連結した状態で、胴部2と下肢カバー3とを着た着用者の上半身と下半身とを前面側にくの字状に屈曲させる長さに設定されている。尚、紐部材22は、胴部2と下肢カバー3とを着た着用者の上半身と下半身とを前面側にくの字状に屈曲させる長さに形成された1本の紐部材によって構成されてもよい。この場合は、連結部材23は省略されてもよい。
【0090】
連結部材23は、第1紐片22aと第2紐片22bとを連結できればいずれのものでもよく、例えば、バックルを挙げることができる。
【0091】
第3実施形態の災害対応型救命衣21は、胴部2と下肢カバー3とを着た着用者の上半身と下半身とを前面側にくの字状に屈曲させるように胴部2と下肢カバー3とを連結する紐部材22を備えるので、下肢カバー3を着た着用者の下肢は、水中において紐部材22に持ち上げられた状態になる。このため、津波などの災害時において着用者の下肢が水中にある障害物に当たる危険を回避しやすい。
【0092】
第3実施形態の災害対応型救命衣21では、前面浮力体5が配置された胴部2の前面部2aaにGPS端末25が配置されるので、GPS端末25は、水没することなく常時水面WL上に位置しやすくなる(図6参照)。このため、着用者が津波に流されたとしても、着用者の位置を把握しやすくなる。
【0093】
尚、第3実施形態の災害対応型救命衣21は、図6に示すように、胴部2と、胴部2と別体に構成されたパンツ型の下肢カバー3と、を備えるが、第2実施形態と同様に、全体で寝袋のような形状、すなわち、筒状に構成された胴部12と袋状に構成された下肢カバー13とが一体に形成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 災害対応型救命衣
2 胴部
2aa 前面部
2ab 後面部
2d 第1浮力体
3 下肢カバー
3a 前面
4 結合手段
4a 面ファスナ
4aa 第1面ファスナ片
4ab 第2面ファスナ片
5 前面浮力体
6 後面浮力体
7 第2浮力体
8 肩掛けベルト
12 胴部
13 下肢カバー
14 開閉用面ファスナ
22 紐部材
25 GPS端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6