(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】がん促進因子発現抑制剤、その有効成分のスクリーニング方法、該方法に有用な発現カセット、診断薬、及び診断方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231101BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231101BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231101BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231101BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231101BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231101BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231101BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20231101BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20231101BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231101BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231101BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231101BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231101BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20231101BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20231101BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231101BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231101BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231101BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231101BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/06
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
A61P35/00
A61K45/00
A61K48/00
A61K38/20
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/7088
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/68
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2019552415
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2018041758
(87)【国際公開番号】W WO2019093502
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017216747
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231796
【氏名又は名称】日本臓器製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅原 弘嗣
(72)【発明者】
【氏名】千葉 朋希
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健太郎
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046063(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0053804(US,A1)
【文献】国際公開第2016/161361(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/106404(WO,A2)
【文献】国際公開第2008/044787(WO,A1)
【文献】特開2009-159869(JP,A)
【文献】特表2014-518610(JP,A)
【文献】特表2016-512032(JP,A)
【文献】Gene,2000年,Vol.243,p.27-36
【文献】Journal of Cell Biology,2012年,Vol.199, No.3,p.453-466
【文献】Journal of Experimental & Biomedical Sciences,2009年,Vol.15,p.301-307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12Q 1/06
C12Q 1/68
C12Q 1/686
G01N 33/50
G01N 33/15
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の存在下における下記(i)~(iii)からなる群より選択される少なくとも1種を指標とする、がん促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング方法:
(i)RBMS2遺伝子
プロモーターによって発現制御される遺伝子発現量、
(ii)RBMS2とAU-rich elementを含むRNAとの結合量、及び
(iii)RBMS2過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量、
であって、
該がん促進因子が、
CSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ITGA6、F3、PTP4A1、HSPA5、PLAU、CYR61、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種であり、該AU-rich elementが、
該がん促進因子のmRNA由来のAU-rich elementであり、該指標(i)において、下記工程(a1)~(c1):
(a1)RBMS2遺伝子
プロモーター及び該
プロモーターによって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセットを含有する発現系と、被検物質とを接触させる工程、
(b1)被検物質を接触させた発現系における前記遺伝子の発現量を被検発現量として測定し、該被検発現量と、被検物質を接触させない発現系における前記遺伝子の発現量を対照発現量として比較する工程、並びに
(c1)被検発現量が対照発現量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程、
を含む、スクリーニング方法。
【請求項2】
被検物質存在下における前記指標の値が、被検物質非存在下における前記指標の値よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択することを含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記発現系が細胞である、請求項1
又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記遺伝子がレポーター遺伝子である、請求項1~
3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記指標(ii)において、下記工程(a2)~(c2)を含む、請求項1~
4のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a2)AU-rich elementを含むRNAとRBMS2とを、被検物質の存在下で接触させる工程、(b2)被検物質の存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を被検結合量として測定し、該被検結合量と、被検物質の非存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を対照結合量として比較する工程、並びに
(c2)被検結合量が対照結合量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【請求項6】
前記指標(iii)において、下記工程(a3)~(c3)を含む、請求項1~
5のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a3)3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAを含有し、且つRBMS2が過剰発現している細胞と、被検物質とを接触させる工程、
(b3)被検物質と接触させた細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を被検量として測定し、被検物質と接触させない細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を対照量として、該被検量と該対照量を比較する工程、並びに
(c3)被検量が対照量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【請求項7】
前記mRNAがレポータータンパク質のORFを含む、請求項
6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
RBMS2遺伝子
プロモーター及び該
プロモーターによって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット、該発現カセットを含むベクター、並びに該ベクターを含む細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~
7のいずれかに記載の方法に使用するための、がん促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング用試薬。
【請求項9】
被検物質の存在下における下記(i)~(iii)からなる群より選択される少なくとも1種を指標とする、がんの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法:
(i)RBMS1遺伝子
プロモーターによって発現制御される遺伝子発現量、及びRBMS2遺伝子
プロモーターによって発現制御される遺伝子発現量からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子発現量、
(ii)RBMS2とAU-rich elementを含むRNAとの結合量、及び
(iii)RBMS2過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量、
であって、
該AU-rich elementが、
CSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ITGA6、F3、PTP4A1、HSPA5、PLAU、CYR61、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種であるがん促進因子のmRNA由来のAU-rich elementであり、該指標(i)において、下記工程(a1)~(c1):
(a1)RBMS1遺伝子
プロモーター及びRBMS2遺伝子
プロモーターからなる群より選択される少なくとも1種のRBMS遺伝子
プロモーター並びに該
プロモーターによって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセットを含有する発現系と、被検物質とを接触させる工程、
(b1)被検物質を接触させた発現系における前記遺伝子の発現量を被検発現量として測定し、該被検発現量と、被検物質を接触させない発現系における前記遺伝子の発現量を対照発現量として比較する工程、並びに
(c1)被検発現量が対照発現量よりも低い場合に、該被検物質をがんの予防又は治療剤の有効成分として選択する工程、
を含む、スクリーニング方法。
【請求項10】
被検物質存在下における前記指標の値が、被検物質非存在下における前記指標の値よりも低い場合に、該被検物質をがんの予防又は治療剤の有効成分として選択することを含む、請求項
9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記発現系が細胞である、請求項
9又は10に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記遺伝子がレポーター遺伝子である、請求項
9~
11のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
前記指標(ii)において、下記工程(a2)~(c2)を含む、請求項
9~
12のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a2)AU-rich elementを含むRNAとRBMS2とを、被検物質の存在下で接触させる工程、
(b2)被検物質の存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を被検結合量として測定し、該被検結合量と、被検物質の非存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMS2との結合量を対照結合量として比較する工程、並びに
(c2)被検結合量が対照結合量よりも低い場合に、該被検物質をがんの予防又は治療剤の有効成分として選択する工程。
【請求項14】
前記指標(iii)において、下記工程(a3)~(c3)を含む、請求項
9~
13のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a3)3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAを含有し、且つRBMS2が過剰発現している細胞と、被検物質とを接触させる工程、
(b3)被検物質と接触させた細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を被検量として測定し、被検物質と接触させない細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を対照量として、該被検量と該対照量を比較する工程、並びに
(c3)被検量が対照量よりも低い場合に、該被検物質をがんの予防又は治療剤の有効成分として選択する工程。
【請求項15】
前記mRNAがレポータータンパク質のORFを含む、請求項
14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
RBMS1遺伝子
プロモーター及びRBMS2遺伝子
プロモーターからなる群より選択される少なくとも1種のRBMS遺伝子
プロモーター並びに該
プロモーターによって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット、該発現カセットを含むベクター、並びに該ベクターを含む細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項
9~
15のいずれかに記載の方法に使用するための、がんの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング用試薬。
【請求項17】
RBMS2発現抑制剤を含有する、がん促進因子発現抑制剤であって、
該RBMS2発現抑制剤が、RBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、RBMS2特異的アンチセンス核酸、これらの発現ベクター、及びIL-10からなる群より選択される少なくとも1種のRBMS2発現抑制剤を含有し、
該がん促進因子が、
CSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ITGA6、F3、PTP4A1、HSPA5、PLAU、CYR61、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種である、がん促進因子発現抑制剤。
【請求項18】
前記がんが、以下の(X)~(Z)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
17に記載のがん促進因子発現抑制剤:
(X)すい臓がん、大腸がん、肺がん、胆管がん、及び乳がんからなる群より選択される少なくとも1種である、
(Y)前記がんがRAS遺伝子変異タイプのがんである、及び
(Z)前記がんが高悪性度のがんである。
【請求項19】
RAS遺伝子変異が、KRAS遺伝子変異である請求項
18に記載のがん促進因子発現抑制剤。
【請求項20】
RBMS発現抑制剤を含有する、がんの予防又は治療剤であって、
該RBMS発現抑制剤が、RBMS1発現抑制剤、及びRBMS2発現抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種であり、
該RBMS1発現抑制剤が、RBMS1特異的siRNA、RBMS1特異的miRNA、RBMS1特異的アンチセンス核酸、及びこれらの発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1種のRBMS1発現抑制剤を含有し、
該RBMS2発現抑制剤が、RBMS2特異的siRNA、RBMS2特異的miRNA、RBMS2特異的アンチセンス核酸、及びこれらの発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1種のRBMS2発現抑制剤を含有する、
がんの予防又は治療剤。
【請求項21】
前記がんが、以下の(X)~(Z)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
20に記載のがんの予防又は治療剤:
(X)すい臓がん、大腸がん、肺がん、胆管がん、及び乳がんからなる群より選択される少なくとも1種である、
(Y)前記がんがRAS遺伝子変異タイプのがんである、及び
(Z)前記がんが高悪性度のがんである。
【請求項22】
RAS遺伝子変異が、KRAS遺伝子変異である請求項
21に記載のがんの予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん促進因子発現抑制剤、その有効成分のスクリーニング方法、及び該方法に有用な発現カセット、並びにがんの診断薬及び診断方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの発症および進行に、がん細胞自身または微小環境に浸潤した免疫細胞が産生する炎症性サイトカインが重要な役割を果たすことが明らかになった。腫瘍浸潤マクロファージ、線維芽細胞、及びT細胞等のリンパ球が産生するTNFαやIL-6などの炎症性サイトカインは、腫瘍細胞に作用し、活性酸素種(ROS)の産生やCyclooxygenaseの発現亢進によるプロスタグランジンの産生を介してパラクラインに作用して、DNA損傷によるがんの進行や増殖に寄与することが知られている(Nat Rev Cancer, 2013, 13(11), 759-771.)。一方で、がん細胞自身が産生する炎症性サイトカイン(IL-6やTNFαなど)、ケモカイン(IL-8やCXCL1など)または増殖因子(HBEGFやPDGFなど)が、オートクラインに作用することでSTAT経路、PI3K-Akt経路、NF-κB経路を活性化し、がん細胞の生存や増殖を支持し、浸潤能の獲得に寄与することが知られている(Cancer Res, 2013, 73(11), 3470-3480.、Oncogene,2014, 33(29), 3784-3793.、及びCancer Res, 2007, 67(2), 585-592.)。IL-6は、乳がん、肺がん、及び肝がんにおいて、S100A8/9などの遊走因子、Bcl2、Mycなどのアポトーシス抵抗性遺伝子及びNotchリガンドであるJagged-1を制御することによって、がん細胞の増殖や転移に寄与することが知られている(Cancer Cell, 2008, 13(1), 7-9.、J Clin Invest, 2007, 117(12), 3988-4002.、J Clin Invest, 2007, 117(12), 3846-3856.、Cell, 2013, 155(2), 384-396.、Neoplasia, 2013, 15(7), 848-862.、Oncogene, 2006, 25(31), 4300-4309.、及びGenes Dev, 2015, 29(15), 1631-1648.)。
【0003】
RNA-binding motif, single-stranded-interacting protein 2(RBMS2)は、N末端側に2つのRNA結合ドメインを持つといわれているタンパク質であるが、実際にその機能を解析したという報告は未だに無く、その機能はこれまで明らかとなっていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、がん促進因子の発現量に影響を与える新規因子を発見すること、及びこれに基づいたがん促進因子発現抑制剤やその開発ツールを提供すること、並びにがんの診断薬及び診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
IL-6を含む多くの炎症性サイトカインをコードするmRNAは、非常に不安定であり、転写後に迅速に分解される。一方で、転写後レベルにおけるこれらmRNAの安定化は、発現量の増大と遷延化を引き起こし、炎症の慢性化、さらにはがんの発症につながると考えられる。そこでIL-6を転写後レベルで制御する新規因子の同定を試みた。
【0006】
本発明者等は鋭意研究をした結果、RBMSが、IL-6等のがん促進因子mRNAの転写後調節をしていることを見出した。さらに、RBMSが細胞増殖、細胞遊走、細胞浸潤、細胞転移に関連していることを見出した。これらの知見に基づいて、RBMSの発現又は機能の抑制により、がん促進因子を抑制することができ、ひいてはがんの予防又は治療が可能であること、並びにRBMSの発現量を指標とすることによりがんを診断できることを見出した。以上に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. RBMS遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット、該発現カセットを含むベクター、並びに該ベクターを含む細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、がん促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング用試薬。
【0009】
項2. 前記発現カセットが、RBMS1遺伝子発現制御領域を含む発現カセット、RBMS2遺伝子発現制御領域を含む発現カセット、及びRBMS3遺伝子発現制御領域を含む発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載のスクリーニング用試薬。
【0010】
項3. 被検物質の存在下における下記(i)~(iii)からなる群より選択される少なくとも1種を指標とする、がん促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング方法:
(i)RBMS遺伝子発現制御領域によって発現制御される遺伝子発現量、
(ii)RBMSとAU-rich elementを含むRNAとの結合量、及び
(iii)RBMS過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量。
【0011】
項4. 前記指標(i)における前記遺伝子発現量が、RBMS1遺伝子発現制御領域によって発現制御される遺伝子発現量、RBMS2遺伝子発現制御領域によって発現制御される遺伝子発現量、及びRBMS3遺伝子発現制御領域によって発現制御される遺伝子発現量からなる群より選択される少なくとも1種であり、且つ
前記指標(ii)及び(iii)における前記RBMSが、RBMS1、RBMS2、及びRBMS3からなる群より選択される少なくとも1種である、
項3に記載のスクリーニング方法。
【0012】
項5. 被検物質存在下における前記指標の値が、被検物質非存在下における前記指標の値よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択することを含む、項3又は4に記載のスクリーニング方法。
【0013】
項6. 前記AU-rich elementが、CSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種のmRNA由来のAU-rich elementである、項3~5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0014】
項7. 下記工程(a1)~(c1)を含む、項3~6のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a1)RBMS遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセットを含有する発現系と、被検物質とを接触させる工程、
(b1)被検物質を接触させた発現系における前記遺伝子の発現量を被検発現量として測定し、該被検発現量と、被検物質を接触させない発現系における前記遺伝子の発現量を対照発現量として比較する工程、並びに
(c1)被検発現量が対照発現量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0015】
項8. 前記発現カセットが、RBMS1遺伝子発現制御領域を含む発現カセット、RBMS2遺伝子発現制御領域を含む発現カセット、及びRBMS3遺伝子発現制御領域を含む発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種である、項7に記載のスクリーニング方法。
【0016】
項9. 前記発現系が細胞である、項7又は8に記載のスクリーニング方法。
【0017】
項10. 前記遺伝子がレポーター遺伝子である、項7~9のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0018】
項11. 下記工程(a2)~(c2)を含む、項3~6のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a2)AU-rich elementを含むRNAとRBMSとを、被検物質の存在下で接触させる工程、
(b2)被検物質の存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMSとの結合量を被検結合量として測定し、該被検結合量と、被検物質の非存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMSとの結合量を対照結合量として比較する工程、並びに
(c2)被検結合量が対照結合量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0019】
項12. 前記RBMSが、RBMS1、RBMS2、及びRBMS3からなる群より選択される少なくとも1種である、項11に記載のスクリーニング方法。
【0020】
項13. 下記工程(a3)~(c3)を含む、項3~6のいずれかに記載のスクリーニング方法:
(a3)3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAを含有し、且つRBMSが過剰発現している細胞と、被検物質とを接触させる工程、
(b3)被検物質と接触させた細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を被検量として測定し、被検物質と接触させない細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を対照量として、該被検量と該対照量を比較する工程、並びに
(c3)被検量が対照量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0021】
項14. 前記RBMSが、RBMS1、RBMS2、及びRBMS3からなる群より選択される少なくとも1種である、項13に記載のスクリーニング方法。
【0022】
項15. 前記mRNAがレポータータンパク質のORFを含む、項13又は14に記載のスクリーニング方法。
【0023】
項16. RBMS発現抑制剤及びRBMS機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、がん促進因子発現抑制剤。
【0024】
項17. 前記RBMS発現抑制剤が、RBMS1発現抑制剤、RBMS2発現抑制剤、及びRBMS3発現抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種であり、且つ
前記RBMS機能抑制剤が、RBMS1機能抑制剤、RBMS2機能抑制剤、及びRBMS3機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種である、
項16に記載のがん促進因子発現抑制剤。
【0025】
項18. 前記RBMS発現抑制剤が、RBMS特異的siRNA、RBMS特異的miRNA、RBMS特異的アンチセンス核酸、これらの発現ベクター、及びIL-10からなる群より選択される少なくとも1種のRBMS発現抑制剤を含有する、項16又は17に記載のがん促進因子発現抑制剤。
【0026】
項19. 発現抑制対象である前記がん促進因子が、CSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種である、項16~18のいずれかに記載のがん促進因子発現抑制剤。
【0027】
項20. がんの予防又は治療剤として用いられる、項16~19のいずれかに記載のがん促進因子発現抑制剤。
【0028】
項21. 予防又は治療対象である前記がんが、以下の(X)~(Z)からなる群より選択される少なくとも1種である、項20に記載のがん促進因子発現抑制剤:
(X)すい臓がん、大腸がん、肺がん、胆管がん、及び乳がんからなる群より選択される少なくとも1種である、
(Y)前記がんがRAS遺伝子変異タイプのがんである、及び
(Z)前記がんが高悪性度のがんである。
【0029】
項22. RAS遺伝子変異が、KRAS遺伝子変異である項21に記載のがん促進因子発現抑制剤。
【0030】
項23. RBMS遺伝子発現産物検出剤を含有する、がん診断薬。
【0031】
項24. 前記RBMS遺伝子発現産物検出剤が、RBMS1遺伝子発現産物検出剤、RBMS2遺伝子発現産物検出剤、及びRBMS3遺伝子発現産物検出剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項23に記載のがん診断薬。
【0032】
項25. がん促進因子がCSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種である項23又は24に記載の診断薬。
【0033】
項26. 診断対象である前記がんが、以下の(X)~(Z)からなる群より選択される少なくとも1種である、項23~25のいずれかに記載のがん診断薬:
(X)すい臓がん、大腸がん、肺がん、胆管がん、及び乳がんからなる群より選択される少なくとも1種である、
(Y)前記がんがRAS遺伝子変異タイプのがんである、及び
(Z)前記がんが高悪性度のがんである。
【0034】
項27. RAS遺伝子変異が、KRAS遺伝子変異である項26に記載の診断薬。
【0035】
項28. (a1)被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b1)上記工程(a1)で測定された被検発現量を、がんに罹患していない対照被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c1)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体ががんに罹患しているとの判断指標とする、がんの検出方法。
【0036】
項29. (a2)がんに罹患している被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b2)上記工程(a2)で測定された被検発現量を、がんに罹患している対照被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c2)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体の方が、対照被検体よりもがんの進行度が高いとの判断指標とする、がんの進行度の判定方法。
【0037】
項30. 前記RBMS遺伝子発現産物が、RBMS1遺伝子発現産物、RBMS2遺伝子発現産物、及びRBMS3遺伝子発現産物からなる群より選択される少なくとも1種である、項28又は29に記載の方法。
【0038】
項31. 前記がんがCSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種により発症又は増悪するものである、項28~30のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、がん促進因子の発現量に影響を与える新規標的因子を利用した、新たながん促進因子発現抑制剤や、がんの新たな予防又は治療剤、さらにはこれら開発ツール(例えば有効成分のスクリーニング方法、該方法に有用な発現カセット等)を提供することができる。また、本発明によれば、新規メカニズムに基づいた、がんの診断薬及び診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1A】実施例1Aのスクリーニングの概要を示す。
【
図1B】実施例1Bの結果を示す。グラフ左側において、上方の模式図は用いたコントロールレポーターベクター(IL-6の3’UTR無し)の部分構造を示し、下方の模式図は用いたレポーターベクター(IL-6の3’UTR有り)の部分構造を示す。白カラムは、空ベクター(pcDNA3.1)を導入した場合を示し、黒カラムはRBMS2発現ベクター(pcDNA3.1 FLAG-RBMS2)を導入した場合を示す。横軸は測定されたルシフェラーゼ活性の相対値を示す。
【
図2】実施例2の結果を示す。グラフ左側における模式図は、用いた変異型3’UTRレポーターベクターの部分構造を示す。横軸は、ルシフェラーゼ活性の相対値を示す。白カラムは空ベクターを導入した場合を示し、黒カラムはRBMS2発現ベクターを導入した場合を示す。*は、t-testの結果、p値が0.05以下であったことを示す。
【
図3A】実施例5Aの結果を示す。縦軸は、生存細胞量を反映するルシフェラーゼ活性を示す。横軸中、siNegaはコントロールsiRNAを導入した場合を示し、siRBMS2はRBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。
【
図3B】実施例5Bの結果を示す。縦軸は、細胞数を反映する吸光度を示し、横軸はsiRNA導入からの経過時間を示す。siNegaはコントロールsiRNAを導入した場合を示し、siRBMS2はRBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。
【
図3C】実施例5Cの結果を示す。写真上方において、siNegaはコントロールsiRNAを導入した場合を示し、siRBMS2はRBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示し、各数字はIL-1βによる刺激開始からの経過時間を示す。写真左側に、ウェスタンブロットの検出対象を示す。
【
図4】実施例6の結果を示す。siNegaはコントロールsiRNAを導入した場合を示し、siRBMS2はRBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。
【
図5】実施例7の結果を示す。siNegaはコントロールsiRNAを導入した場合を示し、siRBMS2はRBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。
【
図6】実施例8Aの結果を示す。横軸は、ルシフェラーゼ活性の相対値(RBMS2発現ベクターを導入した場合の活性/空ベクターを導入した場合の活性)を示す。縦軸に、レポーターベクター中のルシフェラーゼ遺伝子の下流に配置した3’UTRの由来遺伝子を示す。縦軸中、Emptyはレポーターベクター中のルシフェラーゼ遺伝子の下流に他の遺伝子由来の3’UTRを配置していない場合を示す。
【
図7】実施例8Bの結果を示す。縦軸は、免疫沈降前の細胞溶解液中のルシフェラーゼmRNA量を100%とした場合の、免疫沈降物中のルシフェラーゼmRNA量の相対値を示す。横軸中、AUUUAは、ルシフェラーゼ遺伝子の下流にF3遺伝子野生型3’UTRが連結されたレポーターベクター(実施例8A)を導入した場合を示し、AGGGAはルシフェラーゼ遺伝子の下流にF3遺伝子変異型3’UTR(AU-rich elemenntの変異型)が連結されたレポーターベクターを導入した場合を示す。黒カラムは抗FLAG抗体により免疫沈降した場合を示し、白カラムは非特異的IgGにより免疫沈降した場合を示す。
【
図8】実施例9の結果を示す。アミノ酸表記は一文字表記である。アミノ酸配列の上方及び右側の数字はN末端側から数えたアミノ酸番号を示す。
【
図9】実施例10の結果を示す。縦軸は、HPRT遺伝子の発現量に対する各RBMS遺伝子の発現量の相対値を示す。横軸に、細胞株の名称を示す。
【
図10】実施例11の結果を示す。縦軸は、ルシフェラーゼ活性を示す。横軸は、レポーターベクター中のルシフェラーゼ遺伝子の下流に配置した3’UTRの由来遺伝子を示す。
【
図11】実施例12の結果を示す。縦軸は、細胞数を反映する吸光度を示し、横軸はsiRNA導入からの経過時間を示す。siNegaはコントロールsiRNAを導入した場合を示し、siRBMS1はRBMS1に対するsiRNAを導入した場合を示し、siRBMS2はRBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。
【
図13】実施例14の結果を示す。縦軸は、HPRT mRNA発現量に対するRBMS2 mRNA発現量の相対値を示す。横軸は、IL-10タンパク質又はTGFβタンパク質添加後の経過時間を示す。白カラムはIL-10タンパク質を添加した場合を示し、黒カラムはTGFβタンパク質を添加した場合を示す。
【
図14】実施例15のPAR-CLIPの概要を示す。
【
図15】実施例15の結果を示す。各バーは上部に示す遺伝子(左側から5’→3’)を示し、バー中、黒boxはエクソンを示す。黒boxの中で細い部分はUTR(非コード領域)、太い部分はCDS(コード領域)を示す。バー下方の点は、AU-rich elemenntの位置を示す。バー上方のグラフは、縦軸がRBMS2結合量(=シークエンスリード数)を示すグラフである。
【
図16A】実施例16の結果(RBMS2の発現データ)を示す。縦軸は発現量を示し、横軸は細胞種を示す。
【
図16B】実施例16の結果(RBMS1の発現データ)を示す。縦軸は発現量を示し、横軸は細胞種を示す
【
図17A】実施例17の結果(定量PCR1)を示す。縦軸はHPRTの発現量で補正されたRBMS2発現量を示し、横軸は細胞種を示す。
【
図17B】実施例17の結果(ウェスタンブロッティング)を示す。写真上方に細胞種を示す。siRBMS2はRBMS2に対するsiRNAを導入した場合を示す。
【
図17C】実施例17の結果(定量PCR2)を示す。上方の写真は、MCF-7細胞(Control)と該細胞にKRAS G13D変異体を導入して得られた細胞(KRAS
G13D)の観察像である。下方のグラフは、HPRTの発現量で補正されたRBMS2又はIL-6発現量を示す。各グラフの横軸に使用した細胞種(MCF-7細胞(Control)、該細胞にKRAS G13D変異体を導入して得られた細胞(KRAS
G13D))を示す。
【
図17D】実施例17の結果(定量PCR3)を示す。各グラフ中、縦軸は、グラフの上方の遺伝子についての、HPRTの発現量で補正された発現量を示す。グラフの横軸中、siNegaはネガティブコントロールsiRNAを導入した場合を示し、siKRASはKRASに対するsiRNAを導入した場合を示す。
【
図17E】実施例17の結果から示唆される、RBMS2の発現制御及びがん促進因子の発現制御のメカニズムを示す。
【
図18】実施例18の結果を示す。各グラフ中、縦軸は生存率を示し、横軸は時間(単位は年)を示す。
【
図19】実施例19の結果を示す。各グラフ中、縦軸はHPRTの発現量で補正されたRBMS2発現量を示し、横軸は細胞種を示す。
【
図20A】実施例20の結果(RBMS2)を示す。縦軸はHPRTの発現量で補正されたRBMS2発現量を示す。横軸中、emptyは空ベクターを導入した場合を示し、KRASは、野生型KRAS(WT)又は各種変異型KRAS(G12D、G12S、G12V、G13D)の発現ベクターを導入した場合を示す。白カラムは100ng/mlドキシサイクリンを含む培地で培養した場合を示し、黒カラムは1000ng/mlドキシサイクリンを含む培地で培養した場合を示す。
【
図20B】実施例20の結果(RBMS1)を示す。縦軸はHPRTの発現量で補正されたRBMS1発現量を示す。その他は
図20Aと同様である。
【
図20C】実施例20の結果(IL-6)を示す。縦軸はHPRTの発現量で補正されたIL-6発現量を示す。その他は
図20Aと同様である。
【
図20D】実施例20の結果(IL-8)を示す。縦軸はHPRTの発現量で補正されたIL-8発現量を示す。その他は
図20Aと同様である。
【
図21A】実施例21の結果(MCF-7細胞およびMDA-MB-231細胞を使用した場合)を示す。縦軸はアクチノマイシンD未添加のサンプルにおける発現量を100%とした時の残存RNA量を示し、横軸はアクチノマイシンD添加後の経過時間を示す。
【
図21B】実施例21の結果(HepG2細胞、LoVo細胞およびHPAF-II細胞を使用した場合)を示す。その他は
図21Aと同様である。
【
図21C】実施例21の結果(KRASに対するsiRNAを導入した場合)を示す。その他は
図21Aと同様である。
【
図21D】実施例21の結果(RBMS2に対するsiRNAを導入した場合)を示す。その他は
図21Aと同様である。
【
図22】実施例22の結果を示す。グラフ横に、使用したプロモーターの模式図を示す。ボックスはRBMS2のエクソン(左から第1エクソン、第2エクソン)を示す。グラフの横軸は、ルシフェラーゼ活性の補正値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0042】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0043】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0044】
本明細書において、「RBMS」には、RBMSファミリー、具体的にはRBMS1、RBMS2、及びRBMS3からなる群より選択される少なくとも1種が包含される。これらの中でも、好ましくはRBMS1、RBMS2が挙げられ、より好ましくはRBMS2が挙げられる。RBMSは1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。好ましい組み合わせとしては、RBMS2と、RBMS1及び/又はRBMS3との組み合わせが挙げられる。
【0045】
本明細書において、単に「RBMS」、「RBMS1」、「RBMS2」、「RBMS3」と示す場合は、そのタンパク質を意味する。
【0046】
本明細書において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
【0047】
本明細書において、「がん」には、各種がんが包含される。がんとしては、例えばすい臓がん、腎臓がん、白血病、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、肺がん、胆管がん、前立腺がん、皮膚がん、乳がん、子宮頚がん等が挙げられる。
【0048】
がんは、好ましくは以下の(X)~(Z)からなる群より選択される少なくとも1種である:
(X)すい臓がん、大腸がん、肺がん、胆管がん、及び乳がんからなる群より選択される少なくとも1種である、
(Y)前記がんがRAS遺伝子変異タイプのがんである、及び
(Z)前記がんが高悪性度のがんである。
【0049】
すい臓がん、大腸がん、肺がん、胆管がん、及び乳がんの中でも、RAS遺伝子変異タイプのがん、高悪性度のがん等が好ましい。
【0050】
RASは、各種RASを包含し、変異によりがんの原因となり得るRAS及び/又はがんを進行させ得るRASであれば特に制限されない。RASとしては、例えばKRAS、NRAS、HRAS等が挙げられ、好ましくはKRASが挙げられる。
【0051】
RAS遺伝子変異としては、がんの原因となり得る変異及び/又はがんを進行させ得る変異である限り特に制限されない。該変異としては、例えばヒトのKRASの場合であれば、例えばN末端から12番目のアミノ酸(G)及びN末端から13番目のアミノ酸(G)の変異が挙げられ、より具体的には、例えばG12S、G12C、G12R、G12D、G12V、G12A、G13S、G13C、G13R、G13D、G13V、G13A等が挙げられる。ヒトKRAS以外のRASの場合についても、アミノ酸配列、ドメイン配置等を比較することにより、ヒトKRASの上記変異に対応する変異を容易に同定することができる。
【0052】
高悪性度のがん(がん幹細胞も包含する)は、、増殖能、浸潤能、転移能、未分化度等が高いがんである限り、特に制限されない。がんの悪性度は、例えば悪性度マーカー(がん幹細胞マーカーも包含する)を指標として決定することができる。例えば、上記RAS遺伝子変異を有する場合には、高悪性度のがんであると決定することができる。それ以外にも、急性骨髄性白血病の場合はCD34+CD38-が、乳がんの場合はCD44+CD24-/lowが、脳腫瘍の場合はCD133+が、前立腺がんの場合はCD133+又はSca-1+が、大腸がんの場合はCD133+が、頭頸部扁平上皮がんの場合はCD44+が、膵臓がんの場合はCD133+CXCR4+が、卵巣がんの場合はCD44+CD24+ESA(epithelial specific antigen)+である場合に高悪性度のがんであると決定することができる。また、例えば乳がんの場合であれば、エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性等を高悪性度の指標とすることができる。さらに、上記以外にも、増殖能、浸潤能、転移能等に関連する各種公知のマーカーを高悪性度の指標とすることもできる。悪性度は、1種単独のマーカーで判定してもよいし、2種以上のマーカーの組合せで判定してもよい。
【0053】
2.スクリーニング用試薬
本発明は、RBMS遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット(本明細書において、「本発明の発現カセット」ということがある)、該発現カセットを含むベクター、並びに該ベクターを含む細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、がん促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング用試薬(本明細書において、「本発明のスクリーニング用試薬」ということがある)に関する。以下、これについて説明する。
【0054】
本願において、「発現カセット」とは、細胞(例えば真核細胞、好ましくは動物細胞、より好ましくは哺乳動物細胞)内で、該発現カセットが含む遺伝子を発現させる機能を有するポリヌクレオチドを意味する。
【0055】
本願において「RBMS遺伝子発現制御領域」とは、細胞内において内在性RBMS遺伝子の発現を制御しているDNA領域、或いはそれと同等の発現制御能を有するDNA領域である限り特に制限されない。該領域としては、例えば、RBMS遺伝子の転写開始点、その上流(5’側)の配列、及び必要に応じてその下流(3’側)の配列を含むプロモーターが挙げられる。該プロモーターの具体例としては、RBMS遺伝子の転写開始点の塩基を+1、その下流(3’側)が正の値、その上流が0又は負の値とした場合、例えば-10000~+2000、好ましくは-5000~+1000、より好ましくは-2000~+500、さらに好ましくは-1000~+200、よりさらに好ましくは-500~+100、特に好ましくは-200~+50のDNA領域が挙げられる。なお、RBMS2については、第2エクソンの上流約4kbから2.5kbの間、及び第1エクソンと第2エクソンの間に、転写活性に重要な領域が含まれている。このため、これら2つの領域の少なくとも1つの領域を含むプロモーターが好ましい。該プロモーターは、細胞内において内在性RBMS遺伝子の発現を制御しているプロモーターと同等程度の発現制御能を有する限りにおいて、変異を有していてもよい。この場合、変異を有するプロモーターの塩基配列は、細胞内において内在性RBMS遺伝子の発現を制御しているプロモーターの塩基配列と、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する。変異の部位は、例えば公知の発現制御エレメント(例えば基本転写因子結合領域、各種アクチベーター結合領域等)以外の部位であることが望ましい。なお、発現制御エレメントのコンセンサス配列は既に公知であり、各種データベース上で容易に探索することができる。
【0056】
本願において「RBMS遺伝子」とは、特に制限されず、動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類由来のものが挙げられる。
【0057】
種々の動物由来のRBMS遺伝子は公知である。その発現産物であるRBMS mRNA及びRBMS タンパク質は次のように例示することができる。
【0058】
(RBMS2)
具体的には、例えばヒトRBMS2 mRNAとしては、配列番号1で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_002898.3)が挙げられ、マウスRBMS2 mRNAとしては、配列番号2で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_019711.2)が挙げられる。ヒトRBMS2 タンパク質としては、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_002889.1)が挙げられ、マウスRBMS2 タンパク質としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_062685.2)が挙げられる。また、RBMS2 タンパク質には、N末端が欠損したタイプのものも包含され、このようなタイプのものとしては、例えばマウスの場合であれば、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001034169.1)(mRNAは、配列番号6で示される塩基配列からなる(NCBI Reference Sequence:NM_001039080.1))が挙げられる。
【0059】
(RBMS1)
具体的には、例えばヒトRBMS1 mRNAとしては、配列番号7で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_016836.3)が挙げられ、マウスRBMS1 mRNAとしては、配列番号8で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_001141932.1)が挙げられる。ヒトRBMS1 タンパク質としては、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_058520.1)が挙げられ、マウスRBMS1 タンパク質としては、配列番号10で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001135404.1)が挙げられる。また、RBMS1 タンパク質には、N末端が欠損したタイプのものも包含される。
【0060】
(RBMS3)
具体的には、例えばヒトRBMS3 mRNAとしては、配列番号11で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_001003793.2)が挙げられ、マウスRBMS3 mRNAとしては、配列番号12で示される塩基配列からなるmRNA(NCBI Reference Sequence:NM_001172121.1)が挙げられる。ヒトRBMS3 タンパク質としては、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001003793.1)が挙げられ、マウスRBMS3 タンパク質としては、配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001165592.1)が挙げられる。また、RBMS3 タンパク質には、N末端が欠損したタイプのものも包含される。
【0061】
RBMS遺伝子の発現産物であるRBMSタンパク質は、がん促進因子mRNA(例えば、CSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、MMP1等)由来の3’UTRを有するmRNA又は該mRNAから翻訳されるタンパク質の発現を促進できる活性(以下「がん促進因子発現促進活性」という)を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等のアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、がん促進因子発現促進活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0062】
また、RBMS遺伝子の発現産物であるRBMS mRNAも、該mRNAから翻訳されるタンパク質ががん促進因子発現促進活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等の塩基変異を有していてもよい。変異としては、該mRNAから翻訳されるタンパク質においてアミノ酸置換が生じない変異やアミノ酸の保存的置換が生じる変異が好ましい。
【0063】
がん促進因子発現促進活性の有無は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。例えば、実施例に記載の方法に従って又は準じて判定することができる。具体例としては、実施例1Bにおいて、発現ベクターとして被検タンパク質の発現ベクターを用いた場合に、空ベクターを用いた場合よりもルシフェラーゼ活性が高ければ、該被検タンパク質はがん促進因子発現促進活性を有すると判定することができる。
【0064】
RBMS遺伝子の発現産物であるRBMS タンパク質の好ましい具体例としては、下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)配列番号3~5、9~10、及び13~14に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(b)配列番号3~5、9~10、及び13~14に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つがん促進因子発現促進活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0065】
上記(b)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0066】
上記(b)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(b’)配列番号3~5、9~10、及び13~14に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つがん促進因子発現促進活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0067】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~30個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0068】
RBMS遺伝子の発現産物であるRBMS mRNAの好ましい具体例としては、下記(c)に記載するmRNA及び下記(d)に記載するmRNA:
(c)配列番号1~2、6~8、及び11~12に示される塩基配列からなるmRNA、及び(d)配列番号1~2、6~8、及び11~12に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つがん促進因子発現促進活性を有するタンパク質をコードするmRNAからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0069】
上記(d)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0070】
上記(d)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(d’)配列番号1~2、6~8、及び11~12に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列からなり、且つがん促進因子発現促進活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0071】
上記(d’)において、複数個とは、例えば2~500個であり、好ましくは2~100個であり、より好ましくは2~50個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0072】
本願において、RBMS遺伝子発現制御領域によって発現が制御されるように配置された「遺伝子」とは、その発現産物を検出可能な遺伝子である限り特に制限されない。なお、ここでいう「遺伝子」とは、該遺伝子の発現産物であるタンパク質のコード配列を含むものであり、該遺伝子のその他の配列(例えばイントロン配列等)を含んでいてもよいが、プロモーターは含まない概念である。該遺伝子としては、例えば、レポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子、酵素遺伝子、構造遺伝子、輸送遺伝子、貯蔵遺伝子、収縮遺伝子、防御遺伝子、調節遺伝子等、これら遺伝子の改変遺伝子等が挙げられる。改変遺伝子の例としては、その発現産物であるタンパク質の一部において置換、欠失、付加、挿入等のアミノ酸変異が起こるように塩基が変異した上記遺伝子や、上記遺伝子の発現産物の複数種が融合したタンパク質を発現する遺伝子等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはレポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子等が挙げられ、より好ましくはレポーター遺伝子が挙げられる。
【0073】
本願において「レポーター遺伝子」とは、例えば特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質をコードする遺伝子である限り特に限定されない。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。
【0074】
本願において「薬剤耐性遺伝子」とは、それを発現する細胞に抗菌薬などの薬剤に対する耐性を付与できる遺伝子である限り特に限定されない。具体的には、例えば、クロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0075】
上記「遺伝子」について「発現が制御されるように配置」とは、該遺伝子にコードされるタンパク質が発現するように、該遺伝子が配置されていることを意味する。具体的には、例えば、5’側から、該遺伝子発現制御領域、該遺伝子の順に配置されている態様が挙げられる。
【0076】
本発明の発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS))を含んでいてもよい。例えば、5’側から、RBMS遺伝子発現制御領域、上記「遺伝子」の順に配置されている場合であれば、RBMS遺伝子発現制御領域の5’側に(好ましくは、隣接して)、RBMS遺伝子発現制御領域と上記「遺伝子」の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、上記「遺伝子」の3’側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2~50、好ましくは2~20、より好ましくは2~10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
【0077】
本発明の発現カセットは、1種単独であっても、2種以上、3種以上又はそれ以上の組み合わせで合ってもよい。
【0078】
本発明の発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していてもよい。このようなベクター(以下「本発明のベクター」という)も、本発明に包含される。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。また、薬剤耐性遺伝子の種類は上述のものを例示できる。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター;レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター等が挙げられる。
【0079】
本発明のベクターは、細胞内に含まれていてもよい。このような細胞(以下「本発明の細胞」という)も、本発明に包含される。本発明の細胞において、本発明のベクターは、ゲノム外に存在していてもよいし、ゲノム内に組み込まれた状態で存在していてもよい。細胞の由来生物種としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類が挙げられる。また、該細胞の種類としても、特に制限されず、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0080】
本発明の発現カセット、本発明のベクター、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種は、後述の本発明のスクリーニング方法において好適に用いることができる。この観点から、本発明は、本発明の発現カセット、本発明のベクター、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種は、がん促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング用試薬として利用することができる。
【0081】
本発明のスクリーニング用試薬は、本発明の発現カセット、本発明のベクター、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものであれば特に限定されず、他に、例えば本発明の発現カセットからの発現産物の検出に必要なものを含んでいてもよい。このような物の具体例としては、ハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液、器具等が挙げられる。本発明の試薬は、これらを含んだスクリーニング用キットの形態であってもよい。
【0082】
3.スクリーニング方法
本発明は、被検物質の存在下における下記(i)~(iii)からなる群より選択される少なくとも1種を指標とする、がん促進因子発現抑制剤の有効成分のスクリーニング方法:(i)RBMS遺伝子発現制御領域によって発現制御される遺伝子発現量、
(ii)RBMSとAU-rich elementを含むRNAとの結合量、及び
(iii)RBMS過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量(本明細書において、「本発明のスクリーニング方法」ということがある。)
に関する。以下、これについて説明する。
【0083】
本願における「被検物質」としては、天然に存在する化合物又は人工に作られた化合物を問わず広く使用することができる。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。化合物には、低分子化合物に限らず、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子化合物も包含される。
【0084】
本発明のスクリーニング方法は、より具体的には、被検物質存在下における前記指標の値が、被検物質非存在下における前記指標の値よりも低い場合に、該被検物質を、がん促進因子発現抑制剤の有効成分或いはその候補物質として選択することが可能である。
【0085】
以下、指標(i)~(iii)のそれぞれを利用する態様別に、具体的なスクリーニング方法について説明する。
【0086】
3-1.指標(i)を利用するスクリーニング方法
指標(i)を利用するスクリーニング方法は、下記工程(a1)~(c1)を含む:(a1)RBMS遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセットを含有する発現系と、被検物質とを接触させる工程、
(b1)被検物質を接触させた発現系における前記遺伝子の発現量を被検発現量として測定し、該被検発現量と、被検物質を接触させない発現系における前記遺伝子の発現量を対照発現量として比較する工程、並びに
(c1)被検発現量が対照発現量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0087】
工程(a1)において、「RBMS遺伝子発現制御領域及び該領域によって発現が制御されるように配置された遺伝子を含む発現カセット」については、上記「2.スクリーニング用試薬」と同様である。ただ、工程(a1)における該発現カセットは、細胞のゲノム内の内在性RBMS遺伝子発現制御領域及びその下流のRBMS遺伝子を含む発現カセットが包含される点で、上記「2.スクリーニング用試薬」における発現カセットとは相違する。
【0088】
工程(a1)において、「発現系」とは、上記発現カセットから遺伝子が発現するために必要な成分が含まれている系である限り特に制限されない。該発現系としては、例えば無細胞タンパク質発現系、細胞が挙げられる。無細胞タンパク質発現系は、通常、転写及び翻訳に必要な因子(RNAポリメラーゼ、リボソーム、各種リボヌクレオチド等)を含む溶液(細胞抽出液等)から構成されており、各種市販されているものを使用することができる。細胞は、上記発現カセットから遺伝子発現可能な細胞である限り特に制限されず、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。発現系は、より簡便にスクリーニングを行うことができるという観点から、細胞が好ましい。
【0089】
工程(a1)において、上記発現カセットを含む発現系は、例えば発現系が無細胞タンパク質発現系である場合は、その系の溶液内に上記発現カセットが含まれている状態であればよい。また、発現系が細胞である場合は、上記発現カセットが、細胞のゲノム内に組み込まれた態様、ゲノム外に(例えばプラスミドの状態で)存在する態様等が挙げられる。
【0090】
工程(a1)において、被検物質を接触させる態様は、特に限定されない。発現系が無細胞タンパク質発現系である場合は、例えばその系の溶液に被検物質を添加すればよい。また、発現系が細胞である場合は、例えば細胞培養培地に被検物質を添加すればよい。
【0091】
工程(a1)において、被検物質の接触時間は、特に制限されず、被検物質の種類、発現系の種類等に応じて適宜設定される。該時間は、例えば5分間~72時間である。
【0092】
工程(b1)において、被検発現量及び対照発現量の測定は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。好適には、上述の本発明の診断薬を用いて行うことができる。測定対象が核酸(RBMS mRNA又はそれに由来する核酸(cDNA等))である場合であれば、例えば、プローブやプライマーとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法等により測定することができる。測定対象がタンパク質である場合であれば、例えば、特異的抗体を用いて、ウェスタンブロット法、ELISA法等により測定することができる。測定対象がレポータータンパク質である場合は、そのレポーターシグナル(蛍光、発色、発光等)を検出可能な方法(蛍光顕微鏡観察、ルシフェラーゼアッセイ等)により測定することができる。測定対象が薬剤耐性タンパク質である場合は、薬剤の存在下で生存している細胞数を測定することにより、間接的に測定することができる。
【0093】
ノーザンブロット法を利用する場合は、具体的には、プローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした上記発現系由来のmRNAとハイブリダイズさせた後、形成された診断薬と被検者の試料由来のmRNAとの二重鎖を、プローブの標識物(RI若しくは蛍光物質などの標識物質)に由来するシグナルを放射線検出器BAS-1800II(富士フィルム社製)又は蛍光検出器などで検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従ってプローブを標識し、上記発現系由来のmRNAとハイブリダイズさせた後、プローブ標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0094】
RT-PCR法を利用する場合は、具体的には、上記発現系由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的領域が増幅できるように、一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識プローブを使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0095】
DNAチップ解析を利用する場合は、DNAプローブ(1本鎖又は2本鎖)を貼り付けたDNAチップを用意し、これに上記発現系由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。
【0096】
ウェスタンブロット法は、一次抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などの標識物質に由来するシグナルを放射線測定器BAS-1800II(富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定する方法が例示される。また、一次抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で測定することもできる。
【0097】
工程(c1)において、例えば被検発現量が対照発現量よりも低い場合、例えば、被検発現量が対照発現量の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、或いは1/100の場合に、被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分或いはその候補物質として選択することができる。
【0098】
3-2.指標(ii)を利用するスクリーニング方法
指標(ii)を利用するスクリーニング方法は、下記工程(a2)~(c2)を含む:(a2)AU-rich elementを含むRNAとRBMSとを、被検物質の存在下で接触させる工程、(b2)被検物質の存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMSとの結合量を被検結合量として測定し、該被検結合量と、被検物質の非存在下で接触させた場合の前記RNAと前記RBMSとの結合量を対照結合量として比較する工程、並びに
(c2)被検結合量が対照結合量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0099】
工程(a2)において、AU-rich elementとは、AUUUA等に代表される、一般式:(U)nW1(U)mW2(U)o[式中:Uはウラシルを示す。W1及びW2は同一又は異なって、アデニン又はウラシルを示す(但し、W1及びW2が両方ともウラシルである場合を除く)。nは0~3の整数を示す。oは0~3の整数を示す。mは3~5の整数(好ましくは3)を示す。]で表される塩基配列をコンセンサス配列とするエレメントである。該AU-rich elementは、好ましくはがん促進因子のmRNA(例えば、CSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、及びMMP1からなる群より選択される少なくとも1種のmRNA)由来のAU-rich elementである。ここで、「~由来のAU-rich element」とは、換言すれば、これらのmRNAに含まれるAU-rich elementを意味する。
【0100】
工程(a2)において、AU-rich elementを含むRNAは、このAU-rich elementを含むRNAである限り特に制限されない。該RNA中のAU-rich elementの数は、例えば1~20個、好ましくは2~15個、より好ましくは3~12個、さらに好ましくは4~10個、よりさらに好ましくは6~9個である。該RNA中のAU-rich elementの数が複数の場合、AU-rich elementは比較的狭い範囲内(例えば、20~400 bp、好ましくは40~200 bp、より好ましくは60~150 bp、さらに好ましくは80~120 bp)に存在することが望ましい。また、この範囲は、Uリッチであることが好ましい。Uリッチの程度としては、該範囲の全塩基数に対するUの数の割合が、例えば20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。この割合の上限は特に制限されないが、90%、80%、70%等を例示することができる。
【0101】
工程(a2)において、RBMSについては、上記「2.スクリーニング用試薬」におけるRBMSタンパク質と同様である。
【0102】
工程(a2)において、被検物質を接触させる態様は、AU-rich elementを含むRNA、RBMS、及び被検物質の3成分が接触することができる態様である限り特に限定されない。例えば、これら3成分を適当な溶媒中で混合する態様、これら3成分を細胞内で共存させる態様等が挙げられる。
【0103】
工程(a2)において、被検物質の接触時間は、特に制限されず、被検物質の種類、接触が試験管内で行われているのか或いは細胞内で行われているのか等に応じて適宜設定される。該時間は、例えば5分間~72時間である。
【0104】
工程(b2)において、被検結合量及び対照結合量の測定は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。例えば、免疫沈降法やゲルシフト法等により測定することができる。
【0105】
免疫沈降法は、典型的には次のように行うことができる。AU-rich elementを含むRNAとRBMSを含む(被検物質と接触した、或いは接触していない)細胞の細胞溶解液を調製し、該溶解液をRBMSに対する抗体或いは該RBMSにタグが付加されている場合はそのタグに対する抗体で免疫沈降し、沈降物に含まれる「AU-rich elementを含むRNA」の量をPCRにより測定する。該測定量がより多ければ、被検結合量又は対照結合量がより多いことを示す。
【0106】
ゲルシフト法は、典型的には次のように行うことができる。AU-rich elementを含むRNAとRBMSを含む(さらに被検物質を含む、或いは含まない)溶液を、適当なゲル(アクリルアミドゲル等)等を用いて電気泳動し、AU-rich elementを含むRNAとRBMSとが結合した複合体を示すバンドのシグナルを測定する。該測定量がより多ければ、被検結合量又は対照結合量がより多いことを示す。
【0107】
工程(c2)において、例えば被検結合量が対照結合量よりも低い場合、例えば、被検結合量が対照結合量の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、或いは1/100の場合に、被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分或いはその候補物質として選択することができる。
【0108】
3-3.指標(iii)を利用するスクリーニング方法
指標(iii)を利用するスクリーニング方法は、下記工程(a3)~(c3)を含む:(a3)3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAを含有し、且つRBMSが過剰発現している細胞と、被検物質とを接触させる工程、
(b3)被検物質と接触させた細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を被検量として測定し、被検物質と接触させない細胞における前記mRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を対照量として、該被検量と該対照量を比較する工程、並びに
(c3)被検量が対照量よりも低い場合に、該被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0109】
工程(a3)において、AU-rich elementについては、「3-2.指標(ii)を利用するスクリーニング方法」におけるAU-rich elementと同様である。
【0110】
工程(a3)において、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAは、3’-UTRにおいてこのAU-rich elementを含むmRNAである限り特に制限されない。該mRNAの3’-UTRにおけるAU-rich elementの数は、例えば1~20個、好ましくは2~15、より好ましくは3~12、さらに好ましくは4~10、よりさらに好ましくは6~9である。該mRNA中のAU-rich elementの数が複数の場合、AU-rich elementは比較的狭い範囲内 (例えば、20~400、好ましくは40~200、より好ましくは60~150、さらに好ましくは80~120)に存在することが望ましい。
【0111】
工程(a3)において、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNAは、好ましくは、がん促進因子のmRNA、より好ましくはCSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、MMP1等のmRNA等、或いはこれらのmRNAの変異型が挙げられる。該変異型としては、好ましくはAU-rich element以外の配列、又は一部のAU-rich elementにおいて、1若しくは複数個(例えば、2~50個であり、好ましくは2~20個であり、より好ましくは2~10、さらに好ましくは2~5個、よりさらに好ましくは2又は3個)の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入されたmRNAが挙げられる。
【0112】
工程(a3)において、RBMSについては、上記「2.スクリーニング用試薬」におけるRBMSタンパク質と同様である。
【0113】
工程(a3)において、細胞については、上記「3-1.指標(i)を利用するスクリーニング方法」における細胞と同様である。
【0114】
工程(a3)において、被検物質を接触させる態様は、特に限定されない。例えば細胞培養培地に被検物質を添加する態様が挙げられる。
【0115】
工程(a3)において、被検物質の接触時間は、特に制限されず、被検物質の種類等に応じて適宜設定される。該時間は、例えば5分間~72時間である。
【0116】
工程(b3)において、被検量及び対照量の測定については、上記「3-1.指標(i)を利用するスクリーニング方法」における被検発現量及び対照発現量の測定と同様である。
【0117】
工程(c3)において、例えば被検量が対照量よりも低い場合、例えば、被検量が対照量の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、或いは1/100の場合に、被検物質をがん促進因子発現抑制剤の有効成分或いはその候補物質として選択することができる。
【0118】
4.がん促進因子発現抑制剤
本発明は、RBMS発現抑制剤及びRBMS機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、がん促進因子発現抑制剤(本明細書において、「本発明の剤」ということがある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0119】
発現抑制対象及び機能抑制対象であるRBMSについては、上記「2.スクリーニング用試薬」におけるRBMSタンパク質と同様である。
【0120】
RBMS発現抑制剤としては、RBMSタンパク質の発現量を抑制し得るものである限り特に制限されず、例えばRBMS特異的small interfering RNA(siRNA)、RBMS特異的microRNA(miRNA)、RBMS特異的アンチセンス核酸、これらの発現ベクター等が挙げられる。また、これらの他にも、IL-10タンパク質がRBMS発現抑制剤として機能できる。
【0121】
RBMS特異的siRNAは、RBMSをコードする遺伝子の発現を特異的に抑制する二本鎖RNA分子である限り特に制限されない。一実施形態において、siRNAは、例えば、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、又は21塩基以上の長さであることが好ましい。また、siRNAは、例えば、25塩基以下、24塩基以下、23塩基以下、又は22塩基以下の長さであることが好ましい。ここに記載するsiRNAの長さの上限値及び下限値は任意に組み合わせることが想定される。例えば、下限が18塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ;下限が19塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ;下限が20塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ;下限が21塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さの組み合わせが想定される。
【0122】
siRNAは、shRNA(small hairpin RNA)であっても良い。shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、shRNAは、ある領域の配列を配列aとし、配列aに対する相補鎖を配列bとすると、配列a、スペーサー、配列bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で45~60塩基の長さとなるように設計することができる。配列aは、標的となるRBMSをコードする塩基配列の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されず、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列aの長さは19~25塩基、好ましくは19~21塩基である。
【0123】
RBMS特異的siRNAは、5’又は3’末端に、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、通常2~4塩基程度である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると核酸の安定性を向上させることができる場合がある。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
siRNAは、3'末端に突出部配列(オーバーハング)を有していてもよく、具体的には、dTdT(dTはデオキシチミジンを表わす)を付加したものが挙げられる。また、末端付加がない平滑末端(ブラントエンド)であってもよい。siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖が異なる塩基数であってもよく、例えば、アンチセンス鎖が3'末端及び5'末端に突出部配列(オーバーハング)を有している「asymmetrical interfering RNA(aiRNA)」を挙げることができる。典型的なaiRNAは、アンチセンス鎖が21塩基からなり、センス鎖が15塩基からなり、アンチセンス鎖の両端で各々3塩基のオーバーハング構造をとる。
【0125】
RBMS特異的siRNAの標的配列の位置は特に制限されるわけではないが、一実施形態において、5’-UTR及び開始コドンから約50塩基まで、並びに3’-UTR以外の領域から標的配列を選択することが望ましい。選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認することが好ましい。特異性が確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19-21塩基に相補的な配列及びTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるshRNAは、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
【0126】
siRNA及び/又はshRNAの配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、以下を挙げることができる。
Ambionが提供するsiRNA Target Finder(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/siRNA_finder.html)pSilencer(登録商標)Expression Vector用インサートデザインツール(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/psilencer_converter.html)RNAi Codexが提供するGeneSeer(http://codex.cshl.edu/scripts/newsearchhairpin.cgi)。
【0127】
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90~約95℃で約1分程度変性させた後、約30~約70℃で約1~約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるshRNAを合成し、これを、RNA切断タンパク質ダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。
【0128】
RBMS特異的miRNAは、RBMSをコードする遺伝子の翻訳を阻害する限り任意である。例えば、miRNAは、siRNAのように標的mRNAを切断するのではなく、標的の3’非翻訳領域(UTR)に対合してその翻訳を阻害してもよい。miRNAは、pri-miRNA(primary miRNA)、pre-miRNA(precursor miRNA)、及び成熟miRNAのいずれでもよい。miRNAの長さは特に制限されず、pri-miRNAの長さは通常数百~数千塩基であり、pre-miRNAの長さは通常50~80塩基であり、成熟miRNAの長さは通常18~30塩基である。一実施形態において、RBMS特異的miRNAは、好ましくはpre-miRNA又は成熟miRNAであり、より好ましくは成熟miRNAである。このようなRBMS特異的miRNAは、公知の手法で合成してもよく、合成RNAを提供する会社から購入してもよい。
【0129】
RBMS特異的アンチセンス核酸とは、RBMSをコードする遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸であって、該mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、RBMSタンパク質合成を抑制する機能を有する核酸である。アンチセンス核酸はDNA、RNA、DNA/RNAキメラのいずれでもよい。アンチセンス核酸がDNAの場合、標的RNAとアンチセンスDNAとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性リボヌクレアーゼH(RNase H)に認識されて標的RNAの選択的な分解を引き起こす。したがって、RNase Hによる分解を指向するアンチセンスDNAの場合、標的配列は、mRNA中の配列だけでなく、RBMS遺伝子の初期翻訳産物におけるイントロン領域の配列であってもよい。イントロン配列は、ゲノム配列と、RBMS遺伝子のcDNA塩基配列とをBLAST、FASTA等のホモロジー検索プログラムを用いて比較することにより、決定することができる。
【0130】
RBMS特異的アンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてRBMSタンパク質への翻訳が阻害されるものであればその長さは制限されない。RBMS特異的アンチセンス核酸は、RBMSをコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよい。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約10~約40塩基、特に約15~約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、これらに限定されるものではない。より具体的には、RBMS遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域又は3’端ヘアピンループなどをアンチセンス核酸の好ましい標的領域として選択しうるが、それらに限定されるものではない。
【0131】
RBMS特異的アンチセンス核酸は、RBMS遺伝子のmRNAや初期転写産物とハイブリダイズしてタンパク質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるこれらの遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAへの転写を阻害し得るもの(アンチジーン(antigene))であってもよい。
【0132】
上記したRBMS特異的siRNA、RBMS特異的miRNA、及びRBMS特異的アンチセンス核酸を構成するヌクレオチド分子は、安定性(化学的及び/又は対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含んでもよい。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンス核酸を構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(phosphorothioate; PS)、メチルホスホネート(methylphosphonate)、ホスホロジチオネート(phosphorodithioate)などの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(R=CH3(2’-O-Me)、CH2CH2OCH3(2’-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、又はCH2CH2CN等)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換等を施してもよい。また、siRNAやmiRNAを構成するヌクレオチド分子の一部は、天然型のDNAに置換されていてもよい。
【0133】
RBMS特異的siRNA、RBMS特異的miRNA、及びRBMS特異的アンチセンス核酸等は、RBMS遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、いずれも公知の手法により、化学的に合成することができる。
【0134】
RBMS特異的siRNA、RBMS特異的miRNA、又はRBMS特異的アンチセンス核酸の発現ベクターについては、RBMS特異的siRNA、RBMS特異的miRNA、又はRBMS特異的アンチセンス核酸が発現可能な状態で組み込まれている限りにおいて特に限定されない。典型的には、該発現ベクターは、プロモーター配列、及びRBMS特異的siRNA、RBMS特異的miRNA、又はRBMS特異的アンチセンス核酸のコード配列(必要に応じて、さらに転写終結シグナル配列)を含むポリヌクレオチド、必要に応じて他の配列を含む。プロモーターは、特に制限されず、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等のRNA polymerase II(polII)系プロモーター; マウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等のRNA polymerase III(polIII)系プロモーター等が挙げられ、これらの中でも、短いRNAの転写を正確に行うことができるという観点から、polIII系プロモーターが好ましい。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。また、薬剤耐性遺伝子の種類及びベクターの種類は上述のものを例示できる。
【0135】
RBMS発現抑制剤の別の例としては、RBMS特異的リボザイム等が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAを意味するが、本願では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものは、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないという利点を有する。RBMS遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0136】
RBMS機能抑制剤は、RBMSタンパク質の機能を抑制し得るものである限り特に制限されない。ここで、RBMSタンパク質の機能を抑制とは、例えば(x)RBMSとAU-rich elementを含むRNAとの結合量を減少させること、及び/又は(y)RBMS過剰発現細胞における、3’-UTRにおいてAU-rich elementを含むmRNA量又は前記mRNA由来のタンパク質量を減少させることを意味する。RBMSタンパク質の機能を抑制するか否かは、例えば、上記「3-2.指標(ii)を利用するスクリーニング方法」や「3-3.指標(iii)を利用するスクリーニング方法」に記載の方法により判定することができる。
【0137】
本発明の剤の発現抑制対象であるがん促進因子は、細胞増殖抑制能、細胞遊走抑制能、細胞浸潤抑制能、がん細胞転移抑能等の向上に寄与する因子である限り特に制限されない。該因子としては、例えばCSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、MMP1等が挙げられる。
【0138】
本発明の剤は、がんの予防又は治療剤として用いることができる。また、本発明の剤は、細胞増殖抑制剤、細胞遊走抑制剤、細胞浸潤抑制剤、がん細胞転移抑制剤等として用いることもできる。
【0139】
本発明の剤は、RBMS発現抑制剤及びRBMS機能抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種(本明細書において、単に「有効成分」ということがある。)を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0140】
本発明の剤の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の剤は、例えばin vitroで使用する(例えば、培養細胞の培地に添加する。)こともできるし、in vivoで使用する(例えば、動物に投与する。)こともできる。
【0141】
本発明の剤の適用対象は特に限定されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類動物; 動物細胞等が挙げられる。細胞の種類も特に制限されず、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0142】
本発明の剤の剤形は特に制限されず、その使用態様に応じて適切な剤形を採ることができる。例えば、動物に投与する場合であれば、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、シロップ剤、腸溶剤、徐方性カプセル剤、咀嚼錠、ドロップ、丸剤、内用液剤、菓子錠剤、徐放剤、徐放性顆粒剤等の経口剤;点鼻剤、吸入剤、肛門坐剤、挿入剤、浣腸剤、ゼリー剤等の外用剤等が挙げられる。また、本発明の剤は、固形剤、半固形剤、液剤のいずれでもよい。
【0143】
本発明の剤中の有効成分の含有量は、使用態様、適用対象、適用対象の状態等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0144】
本発明の剤を動物に投与する場合の投与量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の重量として、一般に経口投与の場合には一日あたり0.1~1000 mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5~500 mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01~100 mg/kg体重、好ましくは0.05~50 mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2~3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0145】
5.診断薬
本発明は、RBMS遺伝子発現産物検出剤を含有する、がん診断薬(本明細書において、「本発明の診断薬」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0146】
RBMS遺伝子発現産物検出剤の検出対象であるRBMS遺伝子発現産物は、診断対象の生物の生体内で発現しているRBMS遺伝子発現産物であれば特に限定されず、例えばRBMS mRNA又はそれに由来する核酸(cDNA等)、RBMSタンパク質等が挙げられる。
【0147】
診断対象の動物は、RBMS遺伝子を生体内で発現し得る動物であれば特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0148】
検出対象であるRBMS遺伝子発現産物については、上記「2.スクリーニング用試薬」におけるRBMSタンパク質、RBMS mRNAと同様である。
【0149】
RBMS遺伝子発現産物検出剤は、上記したRBMS遺伝子発現産物の検出及び定量が可能なものであれば特に限定されない。RBMS遺伝子発現産物検出剤としては、RBMS遺伝子発現産物が核酸(例えば、RBMS mRNA、それに由来する核酸(cDNA等)等)である場合は、例えばプライマー、プローブ等が挙げられ、RBMS遺伝子発現産物がタンパク質である場合は、例えば抗体等が挙げられる。
【0150】
プライマーやプローブ等は、RBMS mRNAやそれに由来する核酸等を選択的に(特異的に)認識するものであれば、特に限定されない。ここで、「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、RBMS mRNAが特異的に検出できること、またRT-PCR法においてはRBMS mRNA若しくはそれに由来する核酸(cDNA等)が特異的に増幅されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または増幅物がRBMS mRNAに由来するものであると判断できるものであればよい。
【0151】
プライマーやプローブの具体例としては、下記(e)に記載するポリヌクレオチド並びに下記(f)に記載するポリヌクレオチド:
(e)RBMS mRNAの塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/若しくは当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、並びに
(f)RBMS mRNAの塩基配列若しくはそれに相補的な塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0152】
相補的なポリヌクレオチド又は相補的な塩基配列(相補鎖、逆鎖)とは、RBMS mRNAの塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチド又は塩基配列を意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0153】
プライマーやプローブ等は、例えばRBMS mRNAの塩基配列をもとに、例えばベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記RBMS mRNAの塩基配列をベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列を、プライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0154】
プライマーやプローブ等の塩基長は、上述のように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであれば特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。塩基長としては、例えばプライマーとして用いる場合であれば、例えば15塩基~100塩基、好ましくは15塩基~50塩基、より好ましくは15塩基~35塩基が例示でき、例えばプローブとして用いる場合であれば、例えば15塩基~全配列の塩基数、好ましくは15塩基~1000塩基、より好ましくは100塩基~1000塩基が例示できる。
【0155】
プライマーやプローブ等は、その機能が著しく損なわれない限りにおいて、修飾が施されていてもよい。修飾としては、例えば、標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等の付加が挙げられる。
【0156】
本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6-FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’-オリゴラベリングシステム等)。
【0157】
プライマーは、任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明の診断薬は、プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)を固定化プローブ(例えばプローブを固定化したDNAチップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等。以下「DNAチップ等」と総称する。)の形態として提供することができる。
【0158】
固定化に使用される固相は、オリゴまたはポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相へのオリゴまたはポリヌクレオチドの固定は、予め合成したオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上に載せる方法であっても、また目的とするオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
【0159】
抗体等は、RBMSタンパク質を選択的に(特異的に)認識するものであれば、特に限定されない。ここで、「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばウェスタンブロット法やELISA法において、RBMSタンパク質が特異的に検出できることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物がRBMSタンパク質に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0160】
抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。RBMSタンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
【0161】
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology , Chapter 11.12~11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したRBMSタンパク質を用いて、あるいは常法に従って当該RBMSタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したRBMSタンパク質、あるいはRBMSタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4~11.11)。
【0162】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるRBMSタンパク質は、公知の遺伝子配列情報に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0163】
具体的には、RBMSをコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。またRBMSタンパク質の部分ペプチドは、公知の遺伝子配列情報に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0164】
また本発明の抗体は、RBMSタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、RBMSタンパク質と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つRBMSタンパク質のアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。
【0165】
かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット-ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0166】
本発明の診断薬は、上記したRBMS遺伝子発現産物検出剤を含有するものであれば特に限定されず、該検出剤のみからなるもの、該検出剤の他に、例えばRBMS遺伝子発現産物の検出に必要なものを含んでいてもよい。このような物の具体例としては、ハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液、器具等が挙げられる。本発明の診断薬は、これらを含んだ診断薬キットの形態であってもよい。
【0167】
本発明の診断薬は、後述の「6.疾患の検出方法」及び「7.疾患の進行度の判定方法」に記載のとおり、がんの有無(すなわち、被検体ががんに罹患しているか否か)の診断、及び上記診断対象疾患の進行度の診断に用いることが可能である。
【0168】
6.疾患の検出方法
本発明は、RBMS遺伝子発現産物の発現量を指標とした、がんの検出方法(本明細書において、「本発明の疾患検出方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0169】
本発明の疾患検出方法の具体的態様としては、例えば次の態様が挙げられる:
(a1)被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b1)上記工程(a1)で測定された被検発現量を、がんに罹患していない対照被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c1)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体ががんに罹患しているとの判断指標とする、がんの検出方法。
【0170】
被検体は、本発明の疾患検出方法の対象であり、その生物種は特に限定されない。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0171】
試料は、RBMS遺伝子発現産物を含む試料であれば特に制限されず、検出対象疾患の種類等に応じて適宜選択される。試料としては、例えば血液試料、尿試料、その他各種組織片等が挙げられる。試料としては、生体から採取したそのままのものを用いてもよいが、検出対象のRBMS遺伝子発現産物を常法に従って精製・濃縮したものが好ましい。また、検出対象のRBMS遺伝子発現産物が核酸である場合は、RBMS mRNAから該mRNAの配列情報を反映する核酸(例えばcDNA等)を調製し、これを試料として用いることもできる。
【0172】
RBMS遺伝子発現産物の被検発現量及び対照発現量の測定は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。好適には、上述の本発明の診断薬を用いて行うことができる。RBMS遺伝子発現産物が核酸(RBMS mRNA又はそれに由来する核酸(cDNA等))である場合であれば、例えば、本発明の診断薬をプローブやプライマーとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法等により測定することができる。RBMS遺伝子発現産物がタンパク質である場合であれば、例えば、本発明の診断薬を一次抗体として用いて、ウェスタンブロット法、ELISA法等により測定することができる。これらの具体的な方法については、上記「3-1.指標(i)を利用するスクリーニング方法」に記載のとおりである。
【0173】
被検発現量との対比対象である対照発現量は、被検体1つの対照発現量であってもよいが、複数の被検体の対照発現量の平均値や中央値等の方が好ましい。
【0174】
被検体ががんであるかどうかの判断は、対照発現量に比べて被検発現量が高いことを基準として判断される。具体的には、例えば対照発現量に比べて被検発現量が50%以上上昇、好ましくは100%以上上昇、より好ましくは200%以上上昇していることを指標として行うことができる。
【0175】
7.疾患の進行度の判定方法
本発明は、RBMS遺伝子発現産物の発現量を指標とした、がんの進行度の判定方法(本明細書において、「本発明の進行度判定方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0176】
本発明の進行度判定方法の具体的態様としては、例えば次の態様が挙げられる:
(a2)がんに罹患している被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の被検発現量を測定する工程、及び
(b2)上記工程(a2)で測定された被検発現量を、がんに罹患している対照被検体から採取された試料におけるRBMS遺伝子発現産物の対照発現量と対比する工程、
を有し、
(c2)対照発現量に比べて被検発現量が高いことを、被検体の方が、対照被検体よりもがんの進行度が高いとの判断指標とする、がんの進行度の判定方法。
【0177】
被検体、試料、被検発現量及び対照発現量の測定、被検発現量との対比対象である対照発現量等については、上記「6.疾患の検出方法」に記載のとおりである。
【0178】
疾患の進行度とは、例えばCSF2、IL-6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL-24、THBS1、MYC、TGFB2、ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、CYR61、ITGA6、EDIL3、CSF1、ITGB1、MMP1等のがん促進因子の発現と関連する症状の重篤度と定義することができる。
【0179】
被検体の方が、対照被検体よりもがんの進行度が高いかどうかの判断は、対照発現量に比べて被検発現量が高いことを基準として判断される。具体的には、例えば対照発現量に比べて被検発現量が50%以上上昇、好ましくは100%以上上昇、より好ましくは200%以上上昇していることを指標として行うことができる。
【実施例】
【0180】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0181】
実施例1:IL-6転写後調節因子としてのRBMS2の同定
実施例1A
IL-6転写後調節因子を見出すべく、スクリーニングを行った。概要を
図1Aに示す。具体的には、次のように行った。まず、SV40プロモーターの下流に、5’側からルシフェラーゼのORF、IL-6の3’UTR(配列番号15)が配置されてなるレポーターベクターを作製した。該レポーターベクター、及び種々の遺伝子の発現ベクターを、384ウェルプレート上で、トランスフェクション試薬(Fugene HD、プロメガ社製)を用いてHEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、各ウェルにおけるルシフェラーゼ活性を測定した。得られた測定値を、コントロール(発現ベクターとして空ベクターを導入したサンプル)の測定値と比較し、コントロールに対して変化のあった発現ベクターをスクリーニングした(1次スクリーニング)。選択された発現ベクターから、RNAに関連付けられた約100遺伝子の発現ベクターを抽出し、上記と同様にスクリーニングを行った(2次スクリーニング)。
【0182】
2次スクリーニングの結果、IL-6転写後調節因子としてのRBMS2(NP_002889.1、配列番号3)が同定された。
【0183】
実施例1B
実施例1Aで作製したレポーターベクター、又は該レポーターベクターからヒトIL-6の3’UTRが除かれてなるコントロールレポーターベクターを、RBMS2発現ベクター又は空ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図1Bに示す。
【0184】
図1Bに示されるように、RBMS2はIL-6の3’UTR依存的にルシフェラーゼ活性を上昇させた。
【0185】
実施例2:RBMS2によるAREを介したIL-6 mRNA安定化
プロモーターの下流に、5’側からルシフェラーゼのORF、IL-6の変異型3’UTR(97-267(塩基配列:配列番号16)、122-193(塩基配列:配列番号17)、ΔARE1(塩基配列:配列番号18)、ΔARE2(塩基配列:配列番号19)、又はARE mutant(塩基配列:配列番号20))が配置されてなる変異型3’UTRレポーターベクターを作製した。この変異型3’UTRレポーターベクターを、RBMS2発現ベクター又は空ベクターと共に、HEK293T細胞に導入した。導入から48時間経過後、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図2に示す。
【0186】
IL-6 mRNAの3’UTRには、mRNAの安定化に関わるステムループ構造と、AUに富んだAU-rich element(ARE)が存在する。ステムループ構造はRNaseであるRegnase-1(ZC3H12A)による認識及びそれに続く分解に重要なエレメントである。また、ARID5aはRegnase-1の機能と拮抗することでIL-6 mRNAの安定化に寄与することが報告されている。しかし、
図2に示されるように、RBMS2は、3’UTRにおいてこのステムループ構造が欠損したレポーター(97-267及び122-193)の活性を上昇させた。
【0187】
IL-6 mRNAには2つの隣り合ったAREが2箇所近接して存在する。この領域を介してTTPなどのARE結合タンパク質がmRNAの分解に関与することが知られている。
図2に示されるように、一方のARE領域を欠損すると、RBMS2によるレポーター活性の上昇が見られなかった(ΔARE1及びΔARE2)。また、AREの配列を変異(UをGに置換)させても、RBMS2によるレポーター活性の上昇が見られなかった(ARE mutant)。このことから、RBMS2はARE領域を介してmRNAの安定化に関与することが示唆された。
【0188】
実施例3:RBMS2によって制御される因子の網羅的解析
乳がん細胞株であるMDA-MB-231細胞に、RBMS2に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11867) またはコントロールsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、SilencerTM Select Negative Control No. 1) をLipofectamine RNAiMaxを用いて導入した。48時間後、細胞からRNAを調整し、次世代シークエンサー(イルミナ社、Next-seq)によりシークエンスを行った。RBMS2ノックダウンにより遺伝子発現が2倍以上または半分以下に変化する遺伝子として427遺伝子を同定した。これら遺伝子の3’UTR内にARE配列をもつものとして243遺伝子を抽出した。
【0189】
実施例4:Gene Ontology解析
RBMS2ノックダウンにより遺伝子発現が2倍以上または半分以下に変化しかつAREを3’UTRにもつ遺伝子群について、DAVID(https://david.ncifcrf.gov/tools.jsp)を用いてgene ontology解析した。その結果、p値が5%以下を示し且つFDR値が10%以下を示すbiological process(生物学的プロセス)として、「細胞増殖」および「細胞移動」が抽出された。このことから、「細胞増殖」および「細胞移動」がRBMS2により制御されることが示唆された。さらに、RBMS2の標的遺伝子として、細胞増殖を促進する遺伝子11種類(CSF2、IL6、ADAM10、ADM、CTGF、HBEGF、HILPDA、IL24、THBS1、MYC、及びTGFB2)、細胞移動を促進する遺伝子9種類(ADAM10、ITGA6、F3、PTP4A1、HBEGF、HSPA5、THBS1、PLAU、及びCYR61)を同定した。これらの遺伝子は、全て、RBMS2ノックダウンにより遺伝子発現が半分以下に下降した遺伝子である。
【0190】
実施例5:RBMS2の細胞増殖に与える影響の解析
実施例5A:生存細胞の解析
MDA-MB-231細胞にRBMS2に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11867) またはコントロールsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer
TM Select Negative Control No. 1) をLipofectamine RNAiMaxを用いて導入した。48時間後に、RealTime-Glo
TM MT Cell Viability Assay(プロメガ社)を用いて生存細胞量を測定した。結果を
図3Aに示す。
【0191】
図3Aに示されるように、RBMS2ノックダウンにより細胞増殖が抑制された。
【0192】
実施例5B:細胞数の解析
MDA-MB-231細胞を96ウェルプレートに播種して一晩(16時間)培養した後、RBMS2に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11867) またはコントロールsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer
TM Select Negative Control No. 1)をLipofectamine RNAiMaxを用いて細胞に導入した。siRNA導入直後を0時間とし、以後24時間毎に細胞数を計測した。細胞数の計測はCellTiter 96(R) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ社)を用いた。結果を
図3Bに示す。
【0193】
図3Bに示されるように、RBMS2ノックダウンにより細胞増殖が抑制された。
【0194】
実施例5C:Akt経路及びSTAT3経路の解析
MDA-MB-231細胞に、RBMS2に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11867) またはコントロールsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer
TM Select Negative Control No. 1)をLipofectamine RNAiMaxを用いて導入した。48時間後にIL-1β (20ng/ml) により30分または60分刺激した。PBSで洗浄後、細胞を溶解液(20mM Tris-HCl, pH7.5, 150mM NaCl, 1% NP40, 0.5% Sodium deoxycholate)に懸濁した。抽出されたタンパク質10μgをSDS-PAGEにより分離した後、PVDF膜に転写して、ウェスタンブロッティングを行った。一次抗体として、anti-Phospho-Akt (Ser473) (Cell Signaling Technology社、#4060)、anti-Akt (total) (Cell Signaling Technology社、#4691)、anti-Phospho-Stat3 (Tyr705) (Cell Signaling Technology社、#9145)、anti-STAT3 (total) (Santa Cruz社、sc-482)、anti-Tubulin (Cell Signaling Technology社、#2148)を、それぞれ1,000倍希釈で用いた。二次抗体として、Anti-Rabbit IgG, HRP-Linked F(ab’)2 Fragment Donkey (GE Healthcare社, NA9340) を10,000倍希釈で用いた。ECL試薬(Thermo Fisher Scientific社、Pierce
TM ECL Western Blotting Substrate)により発光させ、ImageQuant LAS4000mini (GE Healthcare社) により撮影した。結果を
図3Cに示す。
【0195】
図3Cに示されるように、RBMS2ノックダウンにより、細胞増殖に関するシグナル伝達経路が抑制された。
【0196】
実施例6:RBMS2の細胞遊走能に与える影響の解析
MDA-MB-231細胞に、RBMS2に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11867) またはコントロールsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer
TM Select Negative Control No. 1) をLipofectamine RNAiMaxを用いて導入した。48時間後、トリプシン処理により細胞懸濁液を調整した。血清を添加しない培地(無血清DMEM培地)で細胞を2回洗浄した。24ウェルプレートに800μlの10%血清を含むDMEMを加え、そこにTranswellインサート (Corning社、#353097)を設置した。Transwellインサートへ無血清DMEM培地に懸濁した細胞を播種した。16時間後、細胞をクリスタルバイオレットにより染色した。染色細胞が多く検出される程、細胞遊走能が高いことを示す。結果を
図4に示す。
【0197】
図4に示されるように、RBMS2ノックダウンにより、細胞遊走能が抑制された。
【0198】
実施例7:RBMS2の細胞浸潤能に与える影響の解析
MDA-MB-231細胞にRBMS2に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11867) またはコントロールsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer
TM Select Negative Control No. 1) をLipofectamine RNAiMaxを用いて導入した。48時間後、トリプシン処理により細胞懸濁液を調整した。血清を添加しない培地(無血清DMEM培地)で2回洗浄した。24ウェルプレートに800μlの10%血清を含むDMEMを加え、そこにマトリゲル インベージョン チャンバー (Corning社、#354480)を設置した。マトリゲル インベージョン チャンバーへ、無血清DMEM培地に懸濁した細胞を播種した。16時間後、細胞をクリスタルバイオレットにより染色した。染色細胞が多く検出される程、細胞浸潤能が高いことを示す。結果を
図5に示す。
【0199】
図5に示されるように、RBMS2ノックダウンにより、細胞浸潤能が抑制された。
【0200】
実施例8:RBMS2の転移関連因子の制御能の解析
実施例8A
HEK293T細胞に下記レポーターベクター、レニラルシフェラーゼ発現ベクターおよびRBMS2発現ベクターまたはコントロール空ベクターを導入し、48時間後にDual-Glo Luciferase Assay System (プロメガ社) を用いてルシフェラーゼアッセイを行なった。結果を
図6に示す。
【0201】
レポーターベクター;SV40プロモーターの制御下に発現するFirefly(ホタル)ルシフェラーゼ遺伝子の下流に、RBMS2をノックダウンしたときに発現量が落ちた遺伝子の内、Cell motionを規定するというgene ontologyを示す遺伝子(転移関連因子)の3’UTR(F3 : refseqID NM_001178096.1 939~2233(配列番号21)、PLAU : refseqID NM_001145031.2 1731~2625(配列番号22)、HBEGF : refseqID NM_001945.2 903~2358(配列番号23)、THBS1 : refseqID NM_003246.3 3693~7237(配列番号24)、CYR61 : refseqID NM_001554.4 1371~2288(配列番号25)、ITGA6 : refseqID NM_000210.3 3457~5842(配列番号26)、HSPA5 : refseqID NM_005347.4 2227~3970(配列番号27))、(EDIL3 : refseqID NM_005711.4 1937~4772(配列番号28)、(CSF1 : refseqID NM_000757.5 2079~4250(配列番号29)、(ITGB1 : refseqID NM_002211.3 2619~3880(配列番号30)、又は(MMP1 : refseqID NM_002421.3 1554~2082(配列番号31)が配置されてなるベクター。
【0202】
図6に示されるように、RBMS2過剰発現により、転移関連因子の3’UTRを有するレポーターベクターの発現量が増加した。このことから、RBMS2が、転移関連因子のmRNAを3’UTRを介して安定化していることが示唆された。
【0203】
実施例8B
HEK293T細胞に、F3遺伝子の3’UTRを有するレポーターベクター(実施例8A)又は該ベクターの3’UTR中の全て(6つの)AU-rich element(AUUUA)をAGGGAに変異させてなるレポーターベクターと、FLAGタグ付きRBMS2発現ベクターとを導入した。48時間後に細胞を回収し、1mlのRIP lysis buffer(20mM Tris-HCl, pH 7.5, 100mM KCl, 5mM MgCl2, 0.5% NP-40, 40U/μl RNase inhibitor (東洋紡社), Complete mini protease inhibitor cocktail (Roche), 1μM PMSF)に溶解した。氷上にて15分間静置した後、20,000xgにて5分間遠心し、上清を回収した。上清50μlをinputとして保存した。残った上清は450μlづつ2本に分け、そこにnormal mouse IgGまたはanti-FLAG抗体(SIGMA社、F1804)を2μg加えた。続いてProtein G Dynabeads(Thermo Fisher Scientific社)を50μl加え、4℃にて2時間反応させた。反応後、RIP lysis bufferにてビーズを3回洗浄した。Input、および免疫沈降したRNAはReliaPrepTM RNA Cell Miniprep System(プロメガ社)にて精製し、ランダムプライマーを用い、逆転写を行った。濃縮効率は定量PCRにより、inputに対する相対値により決定した。結果を
図7に示す。
【0204】
図7に示されるように、RBMS2はF3遺伝子の3’UTRに結合し、その結合量はAU-rich elementの変異により低下することが分かった。このことから、RBMS2はF3遺伝子の3’UTRに、AU-rich elementを介して結合していることが示唆された。
【0205】
実施例9:RBMSファミリーの相同性解析
ヒトRBMS1(RefseqID; NP_058520.1)、ヒトRBMS2(RefseqID; NP_002889.1)、ヒトRBMS3(RefseqID; NP_001003793.1)を、CLC sequence viewerを用いて相同性解析した。解析結果を
図8に示す。
【0206】
図8に示されるように、RBMS2において標的RNAへの結合に重要なRRM1ドメイン(N末端から1~128番目の領域)およびRRM1ドメイン内の芳香族アミノ酸(*フェニルアラニン、RBMS1; F107およびF110、RBMS2; F101およびF104、RBMS3; F106およびF109)は高度に保存されている。
【0207】
実施例10:RBMSファミリーの発現解析
HEK293T細胞(ヒト胎児性腎細胞)、MCF7細胞(乳がん)、MDA-MB-231細胞(乳がん)、A549細胞(肺がん)、HeLa細胞(子宮頸がん)、HepG2細胞(肝がん)、U87細胞(脳腫瘍)、THP1細胞(単球性白血病)、U937細部(単球性白血病)、Ramos細胞(バーキットリンパ腫、B細胞腫)、Jurkat細胞(急性T細胞性白血病)、RAW264.7細胞(マクロファージ)、HH4-13細胞(T細胞)、A20細胞(B細胞)、B16細胞(メラノーマ)、3T3細胞(線維芽細胞)、3T3L1細胞(線維芽細胞)、及び10T1/2細胞(間葉系幹細胞様)よりRNAを調整し、oligo dTをプライマーとして逆転写を行なった。ヒトまたはマウスRBMS1、2、3の発現量を、THUNDERBIRD(登録商標) SYBR qPCR Mix (東洋紡)を用いた定量PCRにて測定した。結果を
図9に示す。図中9、各遺伝子の発現量はHPRT遺伝子に対する相対的な発現量で示した。
【0208】
PCRに用いたプライマーの配列は以下のとおりである。
ヒトHPRT (5’-CCTGGCGTCGTGATTAGTGA-3’ (配列番号32)および5’-CGAGCAAGACGTTCAGTCCT-3’ (配列番号33))
ヒトRBMS1 (5’-CACCACCAGGAGTTTCTGCC -3’ (配列番号34)および5’-CAGCAAGTCTCACCTCTCCTT -3’ (配列番号35))
ヒトRBMS2 (5’-CATCTCTCCCTCAGCAGCAC-3’ (配列番号36)および5’-GCTGCTCTCCTCGACTGAAA-3’ (配列番号37))
ヒトRBMS3 (5’-TCTCCAAACCAAGCAGTCCT-3’ (配列番号38)および5’-GGAGGCCTCGAATGTACAGG -3’ (配列番号39))
マウスHPRT (5’-CTTCCTCCTCAGACCGCTTT-3’ (配列番号40)および5’-CATCATCGCTAATCACGACGC-3’ (配列番号41))
マウスRBMS1 (5’-GAGATGATCTTCCCCAGCGG-3’ (配列番号42)および5’-GGACCAGAGACTGCTGCTTG-3’ (配列番号43))
マウスRBMS2 (5’-TGGCCTAGGAGGGGTTAGAC-3’ (配列番号44)および5’-GCTGGATGCCACTTCTCAGT-3’ (配列番号45))
マウスRBMS3 (5’-TGGACCACCCCATGTCAATG-3’ (配列番号46)および5’-TGAATCGTTCCTGCTGTCCC-3’ (配列番号47))。
【0209】
実施例11:RBMSファミリーによる転写後制御
HEK293T細胞に、下記レポーターベクター、レニラルシフェラーゼ発現ベクターおよびRBMS1、RBMS2、RBMS3発現ベクターまたはコントロール空ベクターを導入し、48時間後にDual-Glo Luciferase Assay System (プロメガ社) を用いてルシフェラーゼアッセイを行なった。結果を
図10に示す。
【0210】
レポーターベクター;SV40プロモーターの制御下に発現するFirefly(ホタル)ルシフェラーゼ遺伝子の下流に、ヒトIL-6の3’UTR(RefseqID:NM_000600.4、755塩基-1023塩基) (配列番号48)またはヒトIL-8の3’UTR (RefseqID; NM_000584.3、936塩基-1293塩基(配列番号49))が配置されてなるベクター。
【0211】
図10に示されるように、RBMS過剰発現により、IL-6又はIL-8の3’UTRを有するレポーターベクターの発現量が増加した。このことから、RBMS2のみならず、RBMS1及びRBMS3も、mRNAを3’UTRを介して安定化していることが示唆された。
【0212】
実施例12:RBMSファミリーによるがんの増殖抑制
MDA-MB-231細胞を96ウェルプレートに播種し、一晩(16時間)培養した後に、RBMS1に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11864)、RBMS2に対するsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer(R) Select s11867)またはコントロールsiRNA (Thermo Fisher Scientific社、Silencer
TM Select Negative Control No. 1)をLipofectamine RNAiMaxを用いて細胞に導入した。siRNA導入直後を0時間とし、以後24時間毎に細胞数を計測した。細胞数の計測はCellTiter 96(R) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ社)を用いた。結果を
図11に示す。
【0213】
図11に示されるように、RBMSノックダウンにより、がん細胞の増殖が抑制された。
【0214】
実施例13:RBMSファミリーによるがんの転移抑制
マウスメラノーマ細胞株B16細胞にレトロウィルスを用いてコントロールまたはRBMS2に対するshort hairpin RNA (shRNA)を発現させノックダウン細胞を樹立した。対数増殖期にある細胞をトリプシン/EDTAにて剥離し、PBSで2回洗浄後、1x106/mlとなるように無血清DMEM培地に懸濁した。C57BL/6Jマウス(8週、メス)の尾静脈より2x105個(200μl)の細胞懸濁液を投与し、3週間後に肺を摘出し、転移を評価した。
【0215】
shRNA配列は以下のとおりである。
コントロールshRNA; 5’-GCTACACAAATCAGCGATTT-3’(配列番号50)RBMS2 shRNA; 5’-GGAAACCACCTTCAACCAACT-3’(配列番号51)。
【0216】
結果を
図12に示す。コントロールshRNAを発現したB16細胞を投与した場合、肺への転移巣が2箇所確認できた(一か所は、
図12中、矢印で示される黒色部分であり、もう一か所は、
図12における視野では確認できないは裏面に存在する)。一方でRBMS2ノックダウンB16細胞を投与した場合、肺への転移は見られなかった。
【0217】
実施例14:RBMSの発現を制御する因子の探索
ヒトT細胞株であるJurkat細胞の培養培地に、IL-10タンパク質又はTGFβタンパク質を添加した(終濃度:IL-10タンパク質→20 ng/mL、TGFβタンパク質→10 ng/mL)。添加前、添加から8時間及び24時間経過後の細胞からcDNAを調製し、定量PCRによりRBMS2 mRNA及びHPRT(コントロール)mRNAの発現量を測定した。結果を
図13に示す。
【0218】
図13に示されるように、IL-10タンパク質の添加により、RBMS2 mRNAの発現量が低下した。このことから、IL-10タンパク質はRBMS2発現抑制作用を有することが見出された。
【0219】
実施例15:RBMSのRNA上の結合部位の解析
RBMSのRNA上の結合部位をPAR-CLIPで解析した。PAR-CLIPの概要を
図14に示す。具体的には以下のようにして行った。
【0220】
ドキシサイクリン誘導性RBMS2発現細胞の樹立
pCLT-EFS-PurベクターへFLAGタグを付加したヒトRBMS2をクローニングし、HEK293T細胞へ、pCAG-HIVgpベクターおよびpCMV-VSV-G-RSV-Revベクターと共に遺伝子導入し、レンチウィルスを作製した。作製したレンチウィルスはMDA-MB-231細胞に24時間感染させ、1μg/mlピューロマイシン存在下で5日間培養した。
【0221】
免疫沈降
2x106の細胞を15cmディッシュ6枚へ播種し、一晩培養後、ドキシサイクリン(最終濃度10ng/ml)および4-チオウリジン(最終濃度100μM)を添加し、16時間培養した後に365nmのUVを150μJ/cm2で照射し、RNAとタンパク質を架橋した。セルスクレーパーで細胞を回収した後に、細胞溶解液で懸濁し、細胞溶解液を得た。抗FLAGタグ抗体(SIGMA社;M2、10μg)およびProtein A磁気ビーズ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を添加し、4℃にて2時間反応させ免疫沈降を行った。
【0222】
RNA抽出およびリンカー付加
免疫沈降物(RNA・RBMS2タンパク質複合体)にT4 RNA ligase(NEB)を用いてRNAの3’側にリンカー(配列5’- UGGAAUUCUCGGGUGCCAAGG-3’(配列番号52))を付加し、その後RNAの5’側を[γ-32P] ATPで放射性同位体標識した。SDS-PAGEで電気泳動、ニトロセルロース膜への転写後、RNA/RBMS2タンパク質複合体(55kDaから80kDa付近)を切り出し、そこからRNAを精製した。精製したRNAの5’側にT4 RNA ligase(NEB)を用いてリンカー(配列5’- GUUCAGAGUUCUACAGUCCGACGAUC-3’ (配列番号53))を付加し、このRNAを鋳型として逆転写を特異的プライマー(配列5’-CCTTGGCACCCGAGAATTCCA-3’ (配列番号54))を用いて行い、cDNAを合成した(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、SuperScript III)。
【0223】
PCR
cDNAを鋳型として以下のプライマーを用いてPCRを行い、インデックス付加を行った。
RNA PCR Primer 1st
5’- GTTCAGAGTTCTACAGTCCGA-3’ (配列番号55)
RNA PCR Primer, Index1 1st
5’- CCTTGGCACCCGAGAATTCCA-3’ (配列番号56)
第1段階PCR産物を鋳型として、以下のプライマーを用いてインデックス付加を行い、200bp付近のPCR産物を切り出し、精製した。
RNA PCR Primer
5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACGTTCAGAGTTCTACAGTCCGA-3’ (配列番号57)
RNA PCR Primer, Index1
5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATCGTGATGTGACTGGAGTTCCTTGGCACCCGAGAATTCCA-3’ (配列番号58)。
【0224】
次世代シーケンサー
上記PCR産物を10pMに調整した後にMiSeq(イルミナ社)によりシーケンスを行った。次世代シーケンサー解析より得られたFastqファイルの配列情報からアダプター配列をFaQCsを用いてトリミングした後に、Bowtieを用いてヒトゲノム配列(hg38)へマッピングした。マッピングした配列情報はIGVを用いて可視化した。
【0225】
結果
代表的な例としてIL-6、IL-8(CXCL8)、及びCXCL1のゲノム領域における結果を
図15に示す。各遺伝子の3’UTR(特にAU-rich element)にRBMS2が結合していることが分かった。
【0226】
実施例16:高悪性度がんにおけるRBMSの発現
GEO(Gene Expression Omnibus)データベースよりGSE6883-GPL96 またはGSE6883-GPL97 のデータを入手し(オリジナル論文はLiu et al. N Engl J Med 2007;356:217-26.)、RBMS2(プローブID; 205228_at)およびRBMS1(プローブID; 237860_at)の発現データを解析した。
【0227】
RBMS2の発現データを
図16Aに示し、RBMS1の発現データを
図16Bに示す。高悪性度のがん(H:CD44+ CD24-がん細胞)においてRBMSが高発現であることが分かった。
【0228】
実施例17:RBMS発現の制御機構の解析
RBMS発現の制御機構を解析した。具体的には以下のようにして行った。
【0229】
なお、使用した定量PCRプライマーは以下の通りである。なお、以降の実施例でも、特に断りの無い限り、ここに記載のプライマーを使用した。
KRASプライマー
hKRAS-Fw:TGGTGAGGGAGATCCGACAA(配列番号59)
hKRAS-Rv:AGGCATCATCAACACCCAGA(配列番号60)
IL-6プライマー
hIL6-Fw:CTCCAGGAGCCCAGCTATGA(配列番号61)
hIL6-Rv:GAGGTGAGTGGCTGTCTGTG(配列番号62)
HPRTプライマー
hHPRT-Fw:GCTGGCGTCGTGATTAGTGA(配列番号63)
hHPRT-Rv:CGAGCAAGACGTTCAGTCCT(配列番号64)
CXCL1プライマー
hCXCL1-Fw:TCACAGTGTGTGGTCAACAT(配列番号65)
hCXCL1-Rv:AGCCCCTTTGTTCTAAGCCA(配列番号66)
RBMS2プライマー
hRBMS2-Fw:GTGATAGGCCAGGGGAGTAG(配列番号67)
hRBMS2-Rv:ACTCTGCTCCTATGCTGGTG(配列番号68)。
【0230】
また、使用したsiRNAは以下の通りである。なお、以降の実施例でも、特に断りの無い限り、ここに記載のsiRNAを使用した。
KRASノックダウン試験用siRNA(キアゲン社)
siNega:AllStars Negative Control siRNA(SI03650318) 配列非公開
siKRAS:Hs_KRAS_2 FlexiTube siRNA (Cat. No. SI03106824) 配列非公開
RBMS2ノックダウン試験用siRNA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
Negative control(サーモフィッシャーサイエンティフィック社(アンビオン), Silencer(登録商標) Select Negative Control No. 1 siRNA, 製品番号: 4390843)配列非公開
Human RBMS2-1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社(アンビオン), Silencer(登録商標) Select, siRNA ID No. s11867)配列:UUUGCACAAAUUUUCCUUGGT(配列番号69)。
【0231】
定量PCR1
MCF-7またはMDA-MB-231細胞よりRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。RBMS2の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。結果を
図17Aに示す。
【0232】
ウェスタンブロッティング
MCF-7またはMDA-MB-231細胞をlysis buffer(20mM Tris-HCl, pH7.5, 150mM NaCl, 0.5mMEDTA, 1% Triton X-100, 0.5% デオキシコール酸ナトリウム, Complete mini protease inhibitor cocktail (Roche))に懸濁し、氷上で15分静置後に遠心し(15,000rpm, 4℃, 5分)、上清を回収した。20μgのタンパク質サンプルを10%SDS-PAGEにより電気泳動した後に、PVDF膜に転写した。室温、1時間のブロッキング(ナカライテスク社; Blocking One)した後に、2,000倍希釈したRBMS2抗体(ウサギポリクローナル、自家作製抗体)で一晩反応させた。TBST(20mM Tris-HCl, pH7.5, 150mM NaCl, 0,05% Tween-20)で10分間3回洗浄後にHRP標識した抗ウサギIgG抗体を室温、1時間反応させた。ECL試薬によりバンドを可視化した。結果を
図17Bに示す。
【0233】
定量PCR2
pCSII-CMV-MCS-VenusベクターにKRAS(G13D変異体)をクローニングした。pCSII-CMV-MCS-Venus空ベクターまたはpCSII-CMV-MCS-Venus-KRAS(G13D)ベクターをpCAG-HIVgpベクターおよびpCMV-VSV-G-RSV-Revベクターと共にHEK293T細胞にポリエチレンイミンを用いて遺伝子導入し、48時間培養し、レンチウィルスを作製した。回収した上清をMCF-7細胞に感染させ、5日間培養した後にRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。RBMS2およびIL-6の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標)qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。結果を
図17Cに示す。
【0234】
定量PCR3
MDA-MB-231細胞に10pmolのsiRNAネガティブコントロール(siNega)またはKRASに対するsiRNA(siKRAS)をLipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて導入し、48時間培養した。RNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。RBMS2、KRASおよびIL-6の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。結果を
図17Dに示す。
【0235】
結果
RBMS2はKRAS G13D変異を有する高悪性度のがん(MDA-MB-231)において発現量が高いことが分かった(
図17A及び
図17B)。また、KRAS G13D変異を有しない細胞(MCF-7)にKRAS G13D変異体を導入すると、RBMS2の発現量、及びRBMS2によって発現制御されるがん促進因子(IL-6)の発現量が増加することが分かった(
図17C)。さらに、KRAS G13D変異を有する細胞(MDA-MB-231)のKRASを抑制すると、RBMS2の発現量、及びRBMS2によって発現制御されるがん促進因子(IL-6)の発現量が減少することが分かった(
図17D)。これらの結果から、RBMS2の発現は、KRAS G13D変異体によって促進され、これによりIL-6等のがん促進因子のmRNAが安定化されその発現量が亢進するというメカニズムが示唆された(
図17E)。
【0236】
実施例18:RBMS発現と予後の関係
Human protein atlasデータベース(http://www.proteinatlas.org)よりRBMS2またはRBMS1の膵臓がん、大腸がん、肺がん又は乳がんにおける発現を解析した。
【0237】
結果を
図18に示す。RBMS1、RBMS2の高発現は、予後が悪化する傾向にあることが分かった。
【0238】
実施例19:RBMS発現とKRAS変異との関連1
MCF-7(乳がん、KRAS; WT)、MDA-MB-231(乳がん、KRAS; G13D)、LoVo(大腸がん、KRAS; G13D)又はPanc1(膵臓がん、KRAS; G12V)よりRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。RBMS2の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。
【0239】
結果を
図19に示す。各種KRAS変異細胞においてRBMS発現量が亢進していることが分かった。このことから、RBMS2の発現は変異型KRASによって誘導されることが示唆された。
【0240】
実施例20:RBMS発現とKRAS変異との関連2
ここで初めて使用した定量PCRプライマーは以下の通りである。なお、以降の実施例でも、特に断りの無い限り、ここに記載のプライマーを使用した。
IL-8プライマー
hIL8-Fw:ACCGGAAGGAACCATCTCAC(配列番号70)
hIL8-Rv:GGCAAAACTGCACCTTCACAC(配列番号71)
RBMS1プライマー
hRBMS1-Fw:CCATGGCATAGAGAAGGAGAGG(配列番号72)
hRBMS1-Rv:TAGCAGCTGTAGTTGGGTCG(配列番号73)。
【0241】
pCLT-EFS-PurベクターにKRASおよびその変異体(G12D、G12S、G12V、G13D)をクローニングした。pCLT-EFS-Pur空ベクター、pCLT-EFS-Pur -KRASまたはその変異体ベクターをpCAG-HIVgpベクターおよびpCMV-VSV-G-RSV-Revベクターと共にHEK293T細胞にポリエチレンイミンを用いて遺伝子導入し、48時間培養し、レンチウィルスを作製した。回収した上清をMCF-7細胞に感染させ、1μg/mlピューロマイシン存在下で5日間培養した。100ng/mlまたは1000ng/mlドキシサイクリンを含む培地で72時間培養した後に、RNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。RBMS2、RBMS1、IL-8およびIL-6の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。
【0242】
RBMS2の結果を
図20Aに、RBMS1の結果を
図20Bに、IL-6の結果を
図20Cに、IL-8の結果を
図20Dに示す。RBMS2及びRBMS1の発現が各種変異型KRASにより誘導されることが示された。
【0243】
実施例21:KRAS変異細胞におけるmRNAの安定性
KRAS変異細胞におけるmRNAの安定性を解析した。具体的には以下のようにして行った。
【0244】
MCF-7細胞およびMDA-MB-231細胞を20ng/mlのヒトIL-1βで3時間刺激した後に、5μg/ml アクチノマイシンDを添加し、1時間後および2時間後のRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。IL-6の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。アクチノマイシンD未添加のサンプルにおける発現量を100%とした時の残存RNA量を計算した。結果を
図21Aに示す。
【0245】
MCF-7細胞およびMDA-MB-231細胞に5μg/ml アクチノマイシンDを添加し、1時間後および2時間後のRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。IL-8およびCXCL1の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。アクチノマイシンD未添加のサンプルにおける発現量を100%とした時の残存RNA量を計算した。結果を
図21Aに示す。
【0246】
HepG2細胞(肝臓がん、KRAS; WT)、LoVo細胞(大腸がん、KRAS; G13D)またはHPAF-II細胞(膵臓がん、KRAS; G13D)に5μg/ml アクチノマイシンDを添加し、1時間後および2時間後のRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。IL-6、IL-8およびCXCL1の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。アクチノマイシンD未添加のサンプルにおける発現量を100%とした時の残存RNA量を計算した。結果を
図21Bに示す。
【0247】
MDA-MB-231細胞に10pmolのsiRNAネガティブコントロール(siNega)またはKRASに対するsiRNA(siKRAS)をLipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて導入し、48時間培養した。5μg/ml アクチノマイシンDを添加し、1時間後および2時間後のRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。IL-6、IL-8およびCXCL1の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。アクチノマイシンD未添加のサンプルにおける発現量を100%とした時の残存RNA量を計算した。結果を
図21Cに示す。
【0248】
MDA-MB-231細胞に10pmolのsiRNAネガティブコントロール(siNega)又はRBMS2に対するsiRNA(siRBMS2)をLipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて導入し、48時間培養した。5μg/ml アクチノマイシンDを添加し、1時間後および2時間後のRNAを精製し(プロメガ社; ReliaPrep Cell mini prep kit)、オリゴdTプライマーにより逆転写した(東洋紡社; ReverTra Ace)。IL-6、IL-8およびCXCL1の発現をqPCR(東洋紡社; THUNDERBIRD(登録商標) qPCR Mix)により解析した。HPRTの発現量で補正を行った。アクチノマイシンD未添加のサンプルにおける発現量を100%とした時の残存RNA量を計算した。結果を
図21Dに示す。
【0249】
KRAS変異細胞において、IL-6、IL-8およびCXCL1のmRNAの安定性が亢進していることが分かった(
図21A、
図21B)。また、変異型KRAS又はRBMS2を抑制することにより、この亢進状態が抑制されることが分かった(
図21C、
図21D)。これらの結果は、RBMS2の発現は、KRAS G13D変異体によって促進され、これによりIL-6等のがん促進因子のmRNAが安定化されその発現量が亢進するというメカニズム(実施例17、
図17E)を支持する。
【0250】
実施例22:RBMSプロモーター解析
ヒトRBMS2遺伝子の第2エクソンの上流約4kbp(配列番号74)、第1エクソンの上流約3kbp(配列番号75)、第2エクソンの上流約2.5kbp(配列番号76)、第1エクソンの上流約1kbp(配列番号77)をルシフェラーゼベクター(pGL4、プロメガ社)にクローニングした。HEK293T細胞にRBMS1遺伝子の上流領域を含むベクターおよびRenillaルシフェラーゼベクター(phRL-TK、プロメガ社)をポリエチレンイミンを用いて遺伝子導入し、48時間培養した。ルシフェラーゼ活性はDual-Glo(登録商標) Luciferase Assay System(プロメガ社)を用いて計測し、Renillaルシフェラーゼにより補正を行った。
【0251】
結果を
図22に示す。第2エクソンの上流約4kbから2.5kbの間、及び第1エクソンと第2エクソンの間に、転写活性に重要な領域が含まれていることが分かった。
【配列表】