(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ウイルス不活性化剤及び衛生資材
(51)【国際特許分類】
A01N 31/02 20060101AFI20231101BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20231101BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20231101BHJP
C11D 7/16 20060101ALI20231101BHJP
C11D 7/12 20060101ALI20231101BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20231101BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20231101BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20231101BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20231101BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20231101BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20231101BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20231101BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231101BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231101BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20231101BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20231101BHJP
A61K 31/133 20060101ALI20231101BHJP
A61K 33/10 20060101ALI20231101BHJP
A61K 33/42 20060101ALI20231101BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
A01N31/02
C11D7/50
C11D7/32
C11D7/16
C11D7/12
A01P1/00
A61Q19/10
A61Q15/00
A61K8/34
A61K8/41
A61K8/24
A61K8/19
A61P43/00 121
A61P31/12
A61P31/14
A61K31/045
A61K31/133
A61K33/10
A61K33/42
A61K33/00
(21)【出願番号】P 2019099336
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000190736
【氏名又は名称】株式会社ニイタカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 恵太
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105723(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103300060(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0289004(US,A1)
【文献】特開2018-008934(JP,A)
【文献】特公昭47-048660(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 31/02
C11D 7/50
C11D 7/32
C11D 7/16
C11D 7/12
A01P 1/00
A61Q 19/10
A61Q 15/00
A61K 8/34
A61K 8/41
A61K 8/24
A61K 8/19
A61P 43/00
A61P 31/12
A61P 31/14
A61K 31/045
A61K 31/133
A61K 33/10
A61K 33/42
A61K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-プロパノールと、アルカリ剤(ただし、水酸化ナトリウムを除く)とを含む
ウイルス不活性化剤であって、
該ウイルス不活性化剤中の1-プロパノールの割合は、20質量%以上であり、
該ウイルス不活性化剤のpHは、8以上であることを特徴とするウイルス不活性化剤。
【請求項2】
前記アルカリ剤は、アルカノールアミン、リン酸塩、及び、炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のウイルス不活性化剤。
【請求項3】
前記アルカノールアミンは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、及び、ジイソプロパノールアミンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項2に記載のウイルス不活性化剤。
【請求項4】
前記リン酸塩は、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三カルシウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、及び、ポリリン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種である請求項2又は3に記載のウイルス不活性化剤。
【請求項5】
前記炭酸塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、及び、炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種である請求項2~4のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項6】
前記ウイルス不活性化剤中の1-プロパノールの割合は、20~80質量%である請求項1~5のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項7】
前記ウイルス不活性化剤中の1-プロパノールとアルカリ剤との質量比は、1/2~1000/1である請求項1~6のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項8】
前記ウイルス不活性化剤のpHは、8以上、11.5未満である請求項1~7のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項9】
ノロウイルス不活性化剤である請求項1~8のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする衛生資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活性化剤及び衛生資材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルス(ヒトノロウイルス)による感染性胃腸炎あるいは食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11~3月が発生のピークとなっている。ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベロープを持たないRNAウイルス(以下、「ノロウイルス等」と記載する)であり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、熱、酸性(胃酸等)、又は、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。潜伏期間は1~2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ノロウイルス等の感染経路の一つとして経口感染が知られており、ノロウイルス等に汚染された食物や水等を経口摂取することにより感染が成立する。そのため、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場においては、食物や水等がノロウイルス等に汚染されないようにすることが求められている。
【0004】
ノロウイルス等による汚染を防ぐ手段として、食物、食器、調理台、調理器具等のノロウイルスを不活性化する方法がある。ノロウイルス等を完全に不活性化させる方法としては、加熱処理が知られている。しかし、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において、常に、食器、調理台、調理器具等を加熱処理することは現実的でなく、食物の種類によっては加熱処理により風味が損なわれてしまう場合がある。つまり、加熱処理は、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において、ノロウイルス等を不活性化する方法として適していなかった。
【0005】
また、ノロウイルス等を不活性化させる方法として、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム等)を用いる方法も知られている。しかし、塩素系漂白剤は、金属に対する腐食作用、皮膚等に対する刺激作用、衣類に対する漂白作用等がある。そのため、その使用が制限されるという欠点があり、特に、人体に対する安全性への配慮から作業者の手指、食器、調理台、調理器具等にこれらの薬剤類を用いることは適当とはいえず、まして食物に直接触れさせることも適当とはいえなかった。そのため、人体に対し安全であり、ノロウイルス等を不活性化できる方法が望まれていた。
【0006】
ノロウイルス等のウイルスを不活性化する方法として、これまでに種々の方法が検討されている。
例えば、非特許文献1には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、水酸化ナトリウム、及びn-プロパノールを含む組成物が、ネコカリシウイルス(FCV)やマウスノロウイルス(MNV)のカリシウイルス、A型肝炎ウイルス、ポリオウイルス等のウイルスに対し、高いウイルス不活性化効果を発揮し得ることが開示されている。ヒトノロウイルスの不活性化に対する各種消毒剤等の消毒効果の検証には、代替ウイルスとしてネコカリシウイルス(FCV)やマウスノロウイルス(MNV)が広く用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Michel Beekes他,“Fast, broad-range disinfection of bacteria,fungi,viruses and prions”,Journal of General Virology,2010,91,580-589
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の組成物は、ウイルス不活性化作用は優れるものの、SDSや水酸化ナトリウムを含むため、皮膚刺激性が高く、人体に対する危険性が懸念される。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みて、ウイルス不活性化作用に優れ、かつ安全性にも優れたウイルス不活性化剤、及び、衛生資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ウイルス不活性化剤について種々検討したところ、特定のアルコールとアルカリ剤とを組み合わせることにより、高いウイルス不活性化作用を発揮しつつ、安全性にも優れたものとなり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明のウイルス不活性化剤は、1-プロパノールと、アルカリ剤(ただし、水酸化ナトリウムを除く)とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明のウイルス不活性化剤は、1-プロパノールを含む。
1-プロパノールを含むことにより、高いウイルス不活性化作用を発揮することができる。そのため、本発明のウイルス不活性化剤は、好適にウイルスを不活性化することができる。また、後述するアルカリ剤と組み合わせることにより、ウイルス不活性化剤のpHが11.5未満で、高いウイルス不活性化作用を発揮することができる。そのため、優れたウイルス不活性化作用と高い安全性を両立することができる。
【0013】
本発明のウイルス不活性化剤は、上記アルカリ剤を含む。
上記1-プロパノールと、上記アルカリ剤を含むことにより、1-プロパノールによるウイルス不活性化作用と、上記アルカリ剤によるウイルス不活性化作用とが相乗作用し、ウイルス不活性化作用が向上する。また、上述した1-プロパノールと組み合わせることにより、ウイルス不活性化剤のpHを11.5未満とすることができ、皮膚刺激性を低減させるとともに、高いウイルス不活性化作用を発揮することができる。そのため、優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる。
【0014】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記アルカリ剤は、アルカノールアミン、リン酸塩、及び、炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
上記アルカリ剤として、アルカノールアミン、リン酸塩、及び、炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を用いると、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる。
【0015】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記アルカノールアミンは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、及び、ジイソプロパノールアミンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。このような特定のアルカノールアミンを1-プロパノールと組み合わせて使用することにより、ウイルス不活性化作用と安全性をより一層高めることができる。
【0016】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記リン酸塩は、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三カルシウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、及び、ポリリン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。このような特定のリン酸塩を1-プロパノールと組み合わせて使用することにより、ウイルス不活性化作用と安全性をより一層高めることができる。
【0017】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記炭酸塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、及び、炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。このような特定の炭酸塩を1-プロパノールと組み合わせて使用することにより、ウイルス不活性化作用と安全性をより一層高めることができる。
【0018】
本発明のウイルス不活性化剤では、1-プロパノールの含有量は20~80質量%であることが好ましい。1-プロパノールの含有量が上記範囲外であると、充分なウイルス不活性化作用が発揮されない場合がある。また、安全性が低くなる場合がある。
【0019】
本発明のウイルス不活性化剤では、ウイルス不活性化剤中の1-プロパノールとアルカリ剤との質量比は、1/2~1000/1であることが好ましく、5/1~800/1であることがより好ましく、7/1~400/1であることが更に好ましい。1-プロパノールの含有量が上記範囲外であると、充分なウイルス不活性化作用が発揮されない場合がある。また、安全性が低くなる場合がある。
【0020】
本発明のウイルス不活性化剤のpHは、8以上、11.5未満であることが好ましい。pHが上記範囲であると、皮膚刺激性が軽減され、安全性がより優れる。
【0021】
本発明のウイルス不活性化剤は、ノロウイルス不活性化剤であることが好ましい。本発明のウイルス不活性化剤は、特にノロウイルス不活性化作用に優れる。
【0022】
本発明の衛生資材は、上述のウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする。本発明の衛生資材は、上述のウイルス不活性化剤を含むので、ウイルス不活性化作用に優れ、かつ、安全性にも優れる。本発明の衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のウイルス不活性化剤及び衛生資材は、ウイルス不活性化効果に優れ、かつ、安全性にも優れる。本発明のウイルス不活性化剤及び衛生資材は、ノロウイルス等のウイルス感染を防ぐ、ウイルス不活性化剤及び衛生資材として、好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について具体的な実施形態を示しながら説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0025】
(ウイルス不活性化剤)
本発明のウイルス不活性化剤は、1-プロパノールと、アルカリ剤(ただし、水酸化ナトリウムを除く)とを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明のウイルス不活性化剤は、1-プロパノールを含む。上述したように、本発明のウイルス不活性化剤は、1-プロパノールを含むため、高いウイルス不活性化作用を発揮することができる。また1-プロパノールは、エタノールやイソプロパノールと比較して、低濃度でも高い不活性化効果を得られるため、不活性化作用の割に引火等の危険性が低くなる。
【0027】
本発明のウイルス不活性化剤は、更に、アルカリ剤(ただし、水酸化ナトリウムを除く)を含む。上述したように、本発明のウイルス不活性化剤は、1-プロパノールと、上記アルカリ剤を含むことにより、優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる。
【0028】
上記アルカリ剤としては、アルカリ性を示す化合物であれば特に限定されないが、なかでも、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる点で、アルカノールアミン、リン酸塩、及び、炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0029】
上記アルカノールアミンとしては、アルキル骨格に水酸基とアミノ基を有する化合物であれば特に限定されないが、なかでも、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる点で、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、及び、ジイソプロパノールアミンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンがより好ましく、トリエタノールアミンが更に好ましい。
【0030】
上記リン酸塩としては、例えば、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アンモニウムリン酸塩、アルカリ金属縮合リン酸塩、アルカリ土類金属縮合リン酸塩、アンモニウム縮合リン酸塩等が挙げられる。これらの1種のみ使用してもよいし、2種以上使用してもよい。なかでも、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる点で、上記リン酸塩としては、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三カルシウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、及び、ポリリン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0031】
上記炭酸塩としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アンモニウム炭酸塩等が挙げられる。これらの1種のみ使用してもよいし、2種以上使用してもよい。なかでも、上記炭酸塩としては、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる点で、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、及び、炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウムがより好ましい。
【0032】
上記ウイルス不活性化剤中の1-プロパノールの割合は、20~80質量%であることが好ましい。1-プロパノールの割合が上述の範囲であると、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる。1-プロパノールの割合が20質量%未満であると、ウイルス不活性化作用が充分発揮されないおそれがある。また、80質量%を超えると引火等の安全性の問題が生じるおそれがある。上記ウイルス不活性化剤中の1-プロパノールの割合は、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
【0033】
上記ウイルス不活性化剤中の上記アルカリ剤の割合は、0.01~30質量%であることが好ましい。上記アルカリ剤の割合が上述の範囲であると、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる。上記ウイルス不活性化剤中の上記アルカリ剤の割合は、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、上記ウイルス不活性化剤中の上記アルカリ剤の割合は、10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
上記ウイルス不活性化剤中の1-プロパノールと上記アルカリ剤との質量比(1-プロパノール/アルカリ剤)は、1/2~1000/1であることが好ましい。1-プロパノールと上記アルカリ剤との質量比が上述の範囲であると、より一層優れたウイルス不活性化作用と安全性を両立することができる。上記1-プロパノールと上記アルカリ剤との質量比は、5/1以上であることがより好ましく、7/1以上であることが更に好ましく、また、800/1以下であることがより好ましく、400/1以下であることが更に好ましい。
【0035】
上記ウイルス不活性化剤は、更に、水を含むことが好ましい。
水は、上述した成分以外の残部として配合され、その含有量は特に限定されるものではない。水としては、特に限定されず、水道水、蒸留水、純水及びイオン交換水等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用してもよい。
【0036】
上記ウイルス不活性化剤は、上述した成分以外に、必要に応じて、更に他の成分を含んでいてもよい。
上記他の成分としては、例えば、凝集剤、保湿剤、エモリエント剤、香料、天然抽出物、界面活性剤、増粘剤、消炎剤等が挙げられる。これらは、1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記ウイルス不活性化剤中の上記他の成分の割合は、その目的、用途に応じて適宜設定することができる。
【0037】
上記ウイルス不活性化剤のpHは、8以上、11.5未満であることが好ましい。上記ウイルス不活性化剤のpHが上述の範囲であると、ウイルス不活性化作用を発揮するとともに皮膚刺激性が低減され、安全性がより一層高くなる。上記ウイルス不活性化剤のpHは、8.5以上であることがより好ましく、9以上であることが更に好ましい。また、上記pHは、11以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
【0038】
本発明のウイルス不活性化剤が不活性化するウイルスの種類は、特に限定されないが、本発明のウイルス不活性化剤は、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスを不活性化することができる。
また、本発明のウイルス不活性化剤は、カリシウイルス科ウイルスに対して高いウイルス不活性化作用を示し、ベシウイルス属ウイルス及び/又はノロウイルス属ウイルスに対してより高いウイルス不活性化作用を示し、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びヒトノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して、特に高いウイルス不活性化作用を示す。
【0039】
本発明のウイルス不活性化剤は、ネコカリシウイルスを試験ウイルスとした下記ウイルス感染力価測定において、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値が、作用時間0秒におけるウイルス感染力価の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を充分に防止することができる。
【0040】
(ネコカリシウイルス感染力価測定)
(1)ネコカリシウイルスを、ネコ腎由来株化細胞であるCRFK細胞(ATCC CCL-94)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、ネコカリシウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)次に、得られた培養細胞破砕液を遠心分離し、上清をウイルス溶液とする。
(4)ウイルス不活性化剤と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で30秒経過後、OPTI-MEM培地で100倍希釈することにより、ウイルス不活性化剤のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液をウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液とする。
(5)OPTI-MEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、OPTI-MEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液とする。
(6)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液、ウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を、それぞれ、OPTI-MEM培地により10倍段階希釈した。CRFK細胞を培養した96wellマイクロプレートの培地を捨て、段階希釈液を100μLずつ加えた。
(7)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたCRFK細胞を37℃、5%CO2の条件で、4日間培養する。
(8)培養したCRFK細胞のCPEを指標にTCID50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)~(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0秒におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値とする。
【0041】
本発明のウイルス不活性化剤は、マウスノロウイルスを試験ウイルスとした下記ウイルス感染力価測定において、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値が、作用時間0秒におけるウイルス感染力価の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を防止することができる。
【0042】
(マウスノロウイルス感染力価測定)
(1)マウスノロウイルスを、マウスのマクロファージ由来細胞株であるRAW 264.7細胞(ATCC TIB-71)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、マウスノロウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)次に、得られた培養細胞破砕液を遠心分離し、上清をウイルス溶液とする。
(4)ウイルス不活性化剤と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で30秒経過後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、ウイルス不活性化剤のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液をウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液とする。
(5)10%牛胎児血清含有DMEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液とする。
(6)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を、それぞれ、10%牛胎児血清含有DMEM培地により、10倍段階希釈する。1ウェルにRAW 264.7細胞を50μLずつ分注した96wellマイクロプレートに、各段階希釈液を50μLずつ加える。
(7)ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたRAW 264.7細胞を37℃、5%CO2の条件で、4日間培養する。
(8)培養したRAW 264.7細胞のCPEを指標にTCID50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)~(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活性化剤0秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0秒におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活性化剤30秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値とする。
【0043】
このように、本発明のウイルス不活性化剤は、カリシウイルス科ウイルスに対して高いウイルス不活性化作用を示すので、本発明のウイルス不活性化剤は、ノロウイルス不活性化剤として好適に使用することができる。そのようなノロウイルス不活性化剤もまた本発明の好ましい形態の一つである。
【0044】
本発明のウイルス不活性化剤を製造する方法としては、特に限定されず、上述した各成分を混合し、ミキサーを用いて攪拌する等の、公知の混合方法により製造することができる。
【0045】
次に、本発明のウイルス不活性化剤を用いた本発明の用途を説明する。
本発明のウイルス不活性化剤は、消毒剤、手洗い液、中性洗剤、アルカリ洗浄剤、消臭剤等に加えてもよい。
本発明のウイルス不活性化剤を含む消毒剤、手洗い液、中性洗剤、アルカリ洗浄剤、消臭剤等は、ポンプボトルやスプレーボトルに詰められていてもよい。
【0046】
(衛生資材)
本発明の消毒剤組成物はまた、衛生資材に用いてもよい。このような衛生資材もまた、本発明の一つである。
【0047】
本発明の衛生資材は、上述したウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする。
本発明の衛生資材は、上述したウイルス不活性化剤を含むため、ウイルス不活性化作用に優れ、皮膚への刺激が少なく、安全性にも優れる。
本発明の衛生資材における上記ウイルス不活性化剤の含有量は、特に限定されず、衛生資材の目的、用途に応じて適宜設定することができる。
上記衛生資材としては、特に限定されないが、例えば、マスク、使い捨て手袋、使い捨て布巾、ティッシュペーパー、ウエットティッシュ等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
表1に示す組成となるように、1-プロパノール、モノエタノールアミン、及び水を混合し、実施例1に係るウイルス不活性化剤を作製した。なお、表1中「%」は「質量%」を意味する。
【0050】
(実施例2~12、比較例1~6)
ウイルス不活性化剤の材料の種類及び割合を表1及び表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に、実施例2~12及び比較例1~6に係るウイルス不活性化剤を作製した。
【0051】
上記実施例及び比較例で得られたウイルス不活性化剤について、下記の方法で評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
(ネコカリシウイルス〔FCV〕の感染力価測定)
上記で得られたウイルス不活性化剤を用いて、上述した(ネコカリシウイルス感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0秒におけるウイルス感染力価の値と、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1及び表2に示す。
A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0052】
(マウスノロウイルス〔MNV〕の感染力価測定)
上記で得られたウイルス不活性化剤を用いて、上述した(マウスノロウイルスの感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0秒におけるウイルス感染力価の値と、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1及び表2に示す。
A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0053】
(皮膚刺激性)
上記で得られたウイルス不活性化剤の25℃でのpHをpHメーター(株式会社堀場製作所製)で測定し、値が11.5未満である場合は、「皮膚刺激性がない」として「〇」とし、値が11.5以上である場合は、「皮膚刺激性がある」として「×」と評価した。結果を表1及び表2に示す。
なお、「11.5」の値は、化学物質の危険性を評価する基準のGHS分類で、皮膚刺激性が、pHが11.5以上である場合に「区分1」と最も重い区分に分類されることに基づいて、基準値とした。
【0054】
【0055】
【0056】
表1及び表2に示す結果より、各実施例に係るウイルス不活性化剤は、ウイルス不活性化作用が高く、かつ、皮膚刺激性が低く、安全性にも優れるものであることが確認された。