IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アージル・バイオテック・ホールディング・カンパニー・リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】アレルギー疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20231101BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231101BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
A61K31/365
A61K36/53
A61P1/04
A61P1/16
A61P1/18
A61P9/00
A61P11/02
A61P17/06
A61P25/00
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P37/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021518913
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 US2019040780
(87)【国際公開番号】W WO2020010346
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-04-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】62/694,779
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521007665
【氏名又は名称】アージル・バイオテック・ホールディング・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Arjil Biotech Holding Company Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イェー・ビー・ウー
(72)【発明者】
【氏名】ロ・ジャー-メン
(72)【発明者】
【氏名】リアン・ホイ・ジュー
(72)【発明者】
【氏名】リン・ペイ-シン
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】中西 聡
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-512198号公報(JP,A)
【文献】特開2004-189669号公報(JP,A)
【文献】European Journal of Pharmacology,2017年,Vol.812,p.9~17
【文献】Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,2009年,Vol.19,p.2944~2946
【文献】Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,2003年,Vol.13,p.3197~3202
【文献】PLOS ONE,2013年,Vol.8,No.2,e56447
【文献】medicina,2012年,Vol.49,No.11,増刊号,p.139~141
【文献】medicina,2002年,Vol.39,No.11,増刊号,p.184~185
【文献】耳鼻咽喉科・頭頸部外科,2014年,Vol.86,No.3,p.200~206
【文献】MSDマニュアル 家庭版 [online],2018年1月,「自己免疫疾患」,<URL:https://www.msdmanuals.com/ja-ja/ホーム/15-免疫の病気/アレルギー反応およびその他の過敏性疾患/自己免疫疾患>
【文献】エッセンシャル免疫学 第2版,第4刷,2015年9月,p.397~398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44,36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オバトジオリドの治療有効量、および薬学的に許容される担体を含む、アレルギー疾患の治療用の医薬組成物であって、アレルギー疾患が乾癬である、医薬組成物。
【請求項2】
オバトジオリドの治療有効量、および薬学的に許容される担体を含む、アレルギー疾患の治療用の医薬組成物であって、アレルギー疾患が自己免疫疾患である、医薬組成物。
【請求項3】
自己免疫疾患が自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、反射性交感神経性ジストロフィー、心筋梗塞後症候群、リウマチ性鼻炎、多発性硬化症、および心筋症、からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
自己免疫疾患が自己免疫性肝炎である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
オバトジオリドが、アニソメレス・インディカの抽出物として含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー疾患の治療方法に関する。特に、本発明は、アレルギー疾患治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーは、環境中のアレルゲンに過剰に反応する身体の免疫系障害に起因する。体内に侵入するアレルゲンとIgE抗体が組み合わさると、肥満細胞が刺激され、ヒスタミンなどの物質が放出され、これにより、身体組織で炎症反応が起こり、その結果、皮膚、粘膜組織、または血管の慢性的な炎症が生じる。近年、それは徐々に健康への大きな脅威となっている。アレルギーは、B細胞およびT細胞の中における第2のタイプのヘルパーT細胞(Th2)に関連している。Th2細胞の特徴的な反応は、インターロイキン-4、IL-4、およびIL-5の産生である。IL-4は、B細胞が免疫グロブリンEの感作抗体を産生するのを助ける。IL-5は、好酸球白血球を引き付け、いくつかの炎症性メディエーターを放出し、非常に重度のアレルギー症状を引き起こす。第1のタイプのTヘルパー細胞は、細胞の免疫に関与し、インターフェロン:IFN-γ、IgG2a、IL-2、IL-3などの分泌などのサイトカインの分泌によって、Th2応答を阻害し得る。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、予想外に、いくつかの化合物が抗アレルギー効果を有することを発見した。
【0004】
したがって、一態様において、本発明は、オバトジオリド、1’-アセトキシチャビコールアセテート、ゼルンボンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、アレルギー疾患の治療方法、を提供する。
【0005】
他の態様において、本発明は、アレルギー疾患の治療のための医薬の製造における、オバトジオリド、1’-アセトキシチャビコールアセテート、ゼルンボンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の使用、を提供する。
【0006】
さらなる態様において、本発明はまた、オバトジオリド、1’-アセトキシチャビコールアセテート、ゼルンボンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の治療有効量を含む、アレルギー疾患の治療用の医薬組成物、を提供する。
【0007】
他の態様において、本発明は、アレルギー疾患によって引き起こされる痛みを軽減するための、オバトジオリド、1’-アセトキシチャビコールアセテート、ゼルンボンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の治療量を含む、ヘルスケア組成物、を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態において、該化合物は、植物またはハーブから提供され得る。例えば、オバトジオリド(ovatodiolide)および/またはゼルンボン(zerumbone)はアニソメレス・インディカ(Anisomeles indica)、1’-アセトキシチャビコールアセテート(1'-Acetoxychavicol acetate)はアルピニア・ガランガル(Alpinia galangal)、ゼルンボン(zerumbone)はジンジベル・ゼルンベット(Zingiber zerumbet)、の植物から、提供され得る。
【0009】
さらなる他の態様において、本発明は、アニソメレス・インディカ、アルピニア・ガランガル、ジンジベル・ゼルンベットおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるハーブの抽出物を含む、ハーブ組成物または医薬組成物、を提供する。
【0010】
本発明の実施形態によれば、アレルギー疾患は、環境中の通常は無害な物質に対する免疫系の過敏症によって引き起こされる病気であり、それは、花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、乾癬、アナフィラキシー乾癬、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎または湿疹、自己免疫疾患、骨関節炎、アレルギー性鼻炎、脂漏性皮膚炎、乾癬性関節炎、およびウルシかぶれ、からなる群から選択されるものであり得る。
【0011】
特に、自己免疫疾患は、自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、反射性交感神経性ジストロフィー、心筋梗塞後症候群、リウマチ性鼻炎、多発性硬化症、および心筋症からなる群から選択される。本発明の一実施形態において、自己免疫疾患は自己免疫性肝炎である。
【0012】
上記の一般的な説明および以下の詳細な説明はいずれも、例示的で説明的なものにすぎず、本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0013】
上記の概要、および以下の本発明の詳細な説明は、添付された図面と併せて参照すれば、より十分に理解されるであろう。本発明を説明する目的で、現在の好ましい実施形態が図面に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、動物に接触性皮膚炎を誘発するための計画図である。
図2図2は、動物に乾癬を誘発するための計画図である。
図3図3は、接触性皮膚炎の動物実験における耳介浮腫の観察結果である(**:p<0.01)。
図4図4は、接触性皮膚炎の動物実験における肥満細胞浸潤の耳の生検の結果である(**:p<0.01)。
図5図5は、接触性皮膚炎の動物実験における肥満細胞浸潤の皮膚生検の結果である(*:p<0.05;**:p<0.01)。
図6図6は、接触性皮膚炎の動物実験の結果である(*:p<0.05;**:p<0.01)。
図7図7は、本発明の一実施形態において、接触性皮膚炎を誘発するための動物実験における血清細胞依存の分析チャートである(*:p<0.05;**:p<0.01)。
図8A図8Aは、乾癬の動物実験における落屑のレベルを示すチャートである。
図8B図8Bは、乾癬の動物実験の発赤のレベルを示すチャートである。
図9図9は、乾癬の動物実験におけるリアルタイムPCRの結果である(ns:p>0.05;*:p<0.05;**:p<0.01)。
図10図10は、乾癬の動物実験における脾臓重量の結果である。
図11図11は、乾癬の動物実験におけるリンパ細胞での細胞因子の発現を示すチャートである(ns:p>0.05;*:p<0.05;*:p<0.01)。
図12図12は、GOP、GPTおよび体重に対するAR001DS1の効果を示している。データは、平均±SEMとして表される(n=9)。*:p<0.05(スチューデントt検定によりVehに対して)。Veh、ビヒクル;Dex、デキサメタゾン。
図13図13は、肝損傷に対するAR001DS1の効果を示している。壊死の組織病理学的スコアは、平均±SEMとして表される(n=9)。***:p<0.001(スチューデントt検定によりVehに対して)。Veh、ビヒクル;Dex、デキサメタゾン。
図14A図14Aは、AR001DS1またはAR001DS2の前処理が、THP-1細胞におけるPMA誘導IL-1β発現を阻害することを示している。AR001DS1またはAR001DS2により0.5時間前処理し、続いてPMA誘導を48時間行ったTHP-1細胞における、IL-1β mRNAおよびタンパク質発現のQ-PCR分析(左)およびイムノブロッティング(右)である。
図14B図14Bは、AR001DS1処理が、THP-1細胞におけるPMA誘導IL-1β発現を阻害することを示している。PMAで24時間刺激し、続いてAR001DS1またはAR001DS2の有無で24時間の処理をしたTHP-1細胞における、IL-1β mRNA発現のQ-PCR分析である。
図15図15は、PMA誘導サイトカインに対するAR100DS1処理(A-PMA)の効果をモニターするために、ヒト27-plexサイトカインアッセイを用いたbio-plex分析の結果を示している。THP-1細胞をAR001DS1(10μg/ml)で0.5時間処理した後、PMA(10ng/ml)で24時間処理した。AR001DS1で処理した細胞(A-PMA)を、PMAのみ、および未処理のTHP-1(Ctrl)とともに、Bio-plex分析にかけた。
図16図16は、AR001DS1が、用量依存的に肥満細胞の脱顆粒を抑制し得ることの結果である。DNP、ジニトロフェニル;DNP-BSA、ジニトロフェニル-ウシ血清アルブミン。
図17図17は、AR001DS1が、用量依存的に樹状細胞(DC)によるTNF-α分泌を抑制し得ることの結果である。DMSO、DC+0.1%DMSO;LPS:DC+LPS+0.1%DMSO;Que:DC+LPS+ケルセチン;非処置:DC+培地;AR001DS1:DC+LPS+AR001DS1。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に断りのない限り、本明細書におけるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0016】
本明細書において、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「サンプル」との記載は、そのようなサンプルの複数、および当業者に知られているその均等物、を含む。
【0017】
本発明は、オバトジオリド、1’-アセトキシチャビコールアセテート、ゼルンボンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、アレルギー疾患の治療方法、を提供する。
【0018】
本発明において、オバトジオリド(本明細書において「AR001DS1」とも称する)は、アニソメレス・インディカから単離および精製することができ、以下の構造式で示される。
【化1】
【0019】
本発明において、1’-アセトキシチャビコールアセテート(本明細書において「AR001DS2」とも称する)は、アルピニア・ガランガから単離および精製することができ、以下の構造式で示される。
【化2】
【0020】
本発明において、ゼルンボン(本明細書において「AR001DS3」とも称する)は、ジンジベル・ゼルンベットから単離および精製され、以下の構造で示される。
【化3】
【0021】
本発明は、アレルギー疾患の治療のための医薬の製造における、オバトジオリド、1’-アセトキシチャビコールアセテート、ゼルンボンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の使用、を提供する。
【0022】
本発明はまた、オバトジオリド、1’-アセトキシチャビコールアセテート、ゼルンボンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の治療有効量を含む、アレルギー疾患の治療用の、ヘルスケアまたは医薬組成物、を提供する。
【0023】
化合物は、植物またはハーブから提供され得る。例えば、オバトジオリドおよび/またはゼルンボンは、植物アニソメレス・インディカから、1’-アセトキシチャビコールアセテートは、アルピニア・ガランガルから、そして、ゼルンボンは、ジンジベル・ゼルンベットから、提供され得る。したがって、本発明は、アニソメレス・インディカ、アルピニア・ガランガル、ジンジベル・ゼルンベットおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるハーブの抽出物を含む、ハーブ組成物または医薬組成物、を提供する。
【0024】
本明細書において、「アレルギー疾患」との用語は、環境中の通常は無害な物質に対する免疫系の過敏症によって引き起こされる病気を意味し、特に、自己免疫疾患が挙げられる。本発明の実施形態において、アレルギー疾患は、花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、乾癬、アナフィラキシー乾癬、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎または湿疹、脂漏性皮膚炎、乾癬性関節炎、ウルシかぶれ、関節リウマチ、多発性硬化症、変形性関節症、アレルギー性鼻炎、および心筋症からなる群から選択される。症状としては、赤目、かゆみを伴う発疹、くしゃみ、鼻水、息切れ、腫れなどを挙げることができる。本発明の例において、アレルギー疾患は、アレルギー性皮膚炎、特に、アトピー性湿疹または乾癬である。
【0025】
本明細書において、「自己免疫疾患」との用語は、正常な身体部分に対する異常な免疫応答から生じる病気を意味する。少なくとも80種類の自己免疫疾患がある。自己免疫疾患としては、これに限定されるものではないが、例えば、自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎、セリアック病、1型糖尿病、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、反射性交感神経性ジストロフィー、心筋梗塞後症候群、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、心筋症、および全身性エリテマトーデス、が挙げられる。
【0026】
本発明によれば、アニソメレス・インディカの抽出物は、以下の方法によって製造することができる。アニソメレス・インディカをエタノールで抽出して粗抽出物を得て、粗抽出物をシリカ充填クロマトグラフィーカラムに入れ、溶離液:n-ヘキサン/酢酸エチル、ヘキサン/酢酸エチル/メタノール、およびメタノール、のグラジエント溶出を行って、画分を得て、シリカ充填クロマトグラフィーカラムを用いて画分を分離し、その際、溶離液:ジクロロメタン、ジクロロメタン/メタノール、およびメタノール、のグラジエント溶出を行い、濃縮物を得て、濃縮物をn-ヘキサン/酢酸エチルで再結晶して結晶を得る。オバトジオリドおよび/またはゼルンボンは、アニソメレス・インディカの植物から得ることができる。
【0027】
本発明によれば、アルピニア・ガランガルの抽出物は、以下の方法によって製造することができる。アルピニア・ガランガルをシクロヘキサンで抽出して粗抽出物を得て、粗抽出物をシリカ充填クロマトグラフィーカラムに入れ、溶離液:n-ヘキサン/酢酸エチル、n-ヘキサン/酢酸エチル/メタノール、およびメタノール、のグラジエント溶出を行い、分離物を得て、分離物をn-ヘキサン/酢酸エチルで再結晶して結晶を得る。1’-アセトキシチャビコールアセテートは、アルピニア・ガランガルから抽出することができる。
【0028】
本明細書において、「対象」との用語は、ヒト、または、ペット動物(例えば、イヌ、ネコなど)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、または実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモットなど)といったヒト以外の動物、が含まれる。
【0029】
本明細書において、「治療」との用語は、アレルギー疾患や、アレルギー疾患の症状を有する、またはアレルギー疾患にかかっている、それを必要とする対象に、1つまたは複数の活性薬剤を投与することを意味する。その目的は、病気、病気の症状、または病気にかかることを、治癒し、治療し、緩和し、低減し、変更し、矯正し、改善し、または影響を与えることである。
【0030】
本明細書において、「治療有効量」との用語は、そのような量を受けていない対応する対象と比較して、治療、治癒、予防、または、病気、障害または副作用の改善、または病気または障害の進行速度の低下、に効果をもたらす化合物または薬剤の量を意味する。この用語には、その範囲内に、正常な生理学的機能を増強するのに有効な量も含まれる。
【0031】
治療に用いるために、治療有効量の組成物が、投与用の医薬組成物として製剤化される。したがって、本発明は、治療有効量の活性成分、および1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0032】
本明細書において、「薬学的に許容される担体」との用語は、製剤の他の成分と適合性があり、医薬組成物で投与される対象に有害ではないという意味において許容される、担体、希釈剤または賦形剤を意味する。医薬製剤の要件に応じて、当該分野で一般に知られている、または使用されている任意の担体、希釈剤または賦形剤が、本発明で使用することができる。
【0033】
本発明によれば、医薬組成物の形態は、錠剤、ピル、粉末、飴、分包、トローチ、エリクサー、懸濁液、軟膏、ローション、溶液、シロップ、ソフトおよびハードゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射液、およびパッケージ粉末、であり得る。本発明の特定の一例では、医薬組成物は軟膏の形態で製剤化される。そのような製剤は、薬学分野で知られている方法によって製造することができる。
【0034】
本発明によれば、医薬組成物は、これに限定されるものではないが、経口、直腸、経鼻、局所、膣、または非経口経路などの、適切な経路による投与のために適応させることができる。本発明の特定の一例では、医薬組成物は、局所投与用に製剤化される。そのような製剤は、薬学分野で知られている方法によって製造することができる。
【0035】
本発明によれば、本明細書に記載の方法、使用または組成物は、少なくとも1つの追加のアレルギー薬と組み合わせて対象に投与することができる。対応するアレルギー薬としては、これに限定されるものではないが、例えば、ケトロラクトロメタミン、ペミロラストカリウム、ケトチフェン、ロラタジン、ネドクロミルナトリウム、フェキソフェナジン、ロテプレドノールエタボネート、アゼラスチン、臭化イプラトロピウム、エピネフリン、ベクロメタゾン、ジフェンヒドラミン、デスロラタジン、ロラタジン、デキサメタゾン、エピナスチン、フルチカゾン、が挙げられる。
【0036】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これは、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明の残余部分を決して限定するものではない。さらなる説明なしに、当業者は、本明細書の記載に基づいて本発明を最大限に使用することができると考えられる。
【実施例
【0037】
調製例
1.接触性皮膚炎の動物実験
【0038】
接触性皮膚炎動物モデル
BALB/cマウスの誕生から7~8週間後、背部のシェービングを行い、アレルギー薬である1-クロロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNCB)を刺激剤として使用して、アトピー性湿疹などのような接触性皮膚炎の症状を誘発した。図1に示すように、1~3日目に、背部に100μlの0.5%DNCBを塗布し、14日目に、皮膚に100μlの1%DNCBを適用し、耳に20μlの1%DNCBを適用した。17、21、24、28、31、35日目にも塗布を実施した。一方、14日目から、試験軟膏を週に5回、3週間塗布した。36日目に、マウスを屠殺した。
【0039】
マウスのグルーピング
マウスを5つの群に分け、各群は4匹のマウスとした。表1に、名称、薬剤、および軟膏を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
マウスを、オバトジオリド(AR001DS1)および1’-アセトキシチャビコールアセテート(AR001DS2)を軟膏に添加した組成物、および、オバトジオリド(AR001DS1)およびゼルンボン(AR001DS3)を軟膏に添加した組成物で処置し、それぞれ、A100群およびV2群と称し、ここで、各化合物の量は2.5%である。
【0042】
耳介浮腫の測定
実験後、マウスの耳の厚さを測定し、記録した。
【0043】
ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色
皮膚および耳をマウスから採取し、ホルマリンで固定し、ワックス片にした。スライス後、HEで染色し、好酸球の浸潤と皮膚浮腫の結果を観察した。
【0044】
皮膚トルイジンブルー染色
マウスの皮膚および耳を固定およびスライスした後、それらをトルイジンブルーで染色し、肥満細胞の浸潤を観察した。
【0045】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による皮膚の遺伝子発現の分析
皮膚片を採取してそのmRNAを抽出し、IL-4およびIL-5の遺伝子発現をリアルタイムPCRによって分析した。
【0046】
2.乾癬の動物実験
乾癬動物モデル
動物は、国立実験動物センターからの5~8週齢のBALB/cマウスであった。実験環境を25℃に保った。明期と暗期は、12時間ごとのサイクルとした。マウスには、自由に十分な餌と水が与えられた。
【0047】
乾癬は、イミキモド(IMQ)によってマウスに誘発した。図2に示すように、実験の前日に、マウスをシェービングナイフと除毛クリームで除毛した後、マウスを2群に分けた。
【0048】
オバトジオリド(AR001DS1)および1’-アセトキシチャビコールアセテート(AR001DS2)の組成物で処置した群を、AR100と称し、オバトジオリド(AR001DS1)で処置した群を、AR111と称し、オバトジオリド(AR001DS1)およびゼルンボン(AR001DS3)の組成物で処置した群を、AR112と称する。マウスは6群に分け、各群は8匹のマウスとした。表2に、名称、薬剤、および軟膏を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
感作群(S,IMQ/基剤)のマウスについて、マウス背部に62.5mgのIMQを塗布した。4時間後、マウスを、50mgのAR100(IMQ/AR100)、50mgのAR111(IMQ/AR111)、または50mgのAR112(IMQ/AR112)で処置した。薬剤は、1日1回、6日間塗布した。マウスの体重を記録し、マウスを毎日写真に撮った。皮膚の発赤および鱗屑の状態を観察し、スコアに付けた。実験の最終日、マウスを屠殺し、皮膚を採取して、免疫学的組織染色およびサイトカイン発現の分析を行った。
【0051】
3.自己免疫性肝炎の動物実験
試薬
コンカナバリンA(ConA)およびデキサメタゾン(Dex)は、Sigma-Aldrich(USA)から購入した。ProcartaPlex(商標)イムノアッセイキットは、Corning Inc.(USA)から購入した。GOPおよびGPT Fuji ドライケムスライドは、Winning Medical Inc.(台湾)から購入した。
【0052】
動物
雄のBALB/cマウス(7~9週齢)は、BioLASCO Taiwan Co., Ltd、または国立実験動物センター(NLAC、台湾)から購入した。動物はケージごとに5匹飼育し、実験中は餌と水を自由に与えた。室温は23±2℃に維持し、12時間の明暗サイクルを交互に繰り返した。実験前にストレスの影響を最小限に抑えるために、動物を1週間順応させた。動物とその飼育を含むすべての実験プロトコルは、ITRIのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認され(ITRI-IACUC-2018-041、および、ITRI-IACUC-2018-050;AAALACにより認可)、台湾の農業評議会の規律にしたがって、実施した。
【0053】
実験計画および肝炎誘発
ConAを、3mg/mlの濃度でパイロジェンフリーの生理食塩水に溶解し、15mg/kg体重または20mg/kg体重の用量で静脈注射して、肝炎を誘発した。AR100DS1およびDexを、ConA処置の30分前、4時間後、8時間後に、経口投与した。ConA処置の24時間後に、血液および肝臓の組織を採取した。血清は分析まで-80℃で保存した。
【0054】
肝酵素の分析
ConA処置後の肝細胞傷害のレベルを評価するために、血清GPTおよびGOTレベルを、フジドライケムスライド(フジ、日本)によって測定した。
【0055】
血清サイトカインの分析
同じ群の血清をサイトカインアッセイのためにプールした。サイトカインレベルは、ProcartaPlex(商標)イムノアッセイキットによって製造者の指示に従って測定した。
【0056】
組織病理学
肝臓組織を10%リン酸緩衝ホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋し、組織病変を確認するためにヘマトキシリン・エオジン(H&E)で染色した。組織病変は、BioLASCO Taiwan Co.,Ltdの獣医病理学者によって顕微鏡で検査した。すべての顕微鏡病変の重症度評価系の基準は、次のように0~4で評価した:0=なし;1=個別の細胞の壊死;2=≦30%の小葉壊死;3=≦60%の小葉壊死;4=>60%の小葉壊死。
【0057】
統計分析
データは平均±SEMとして表す。この研究では、スチューデントt検定を使用して、薬物処置群とビヒクル処置群との差を分析した。p値が0.05未満の場合、差は統計的に有意であると見なされる。
【0058】
4.肥満細胞および樹状細胞の免疫応答
β-ヘキソサミニダーゼ分泌アッセイ
RBL-2H3細胞を24ウェルプレートに播種し、次いで、抗ジニトロフェニル(DNP)-IgEで、37℃、5%CO雰囲気において、一晩感作させた。洗浄後、細胞をAR001DS1(12.5、25、50、および100μg/ml)で、37℃で、30分間処理し、DNP-ウシ血清アルブミン(BSA)で37℃で30分間刺激して、脱顆粒を誘導した。上清を96ウェルマイクロプレートに移し、等量の5mMの4-ニトロフェニルN-アセチル-b-グルコサミニドを含む0.1Mクエン酸バッファ(pH4.5)とともに、2時間インキュベートした。200mlの停止バッファ(0.05M炭酸ナトリウム、pH10)を加えることにより反応を停止し、ELISAプレートリーダーを使用して、405nmでのODを測定した。
【0059】
TNF-α分泌のためのELISAアッセイ
DCをC57BL/6マウスから単離し、37℃で7日間インキュベートした。次に、DCを24ウェルプレートに播種し、5%CO雰囲気下、37℃で、一晩培養した。DCをAR001DS1(12.5、25、50、および100μg/ml)で1時間処理し、その後、リポポリサッカライド(LPS)で4時間刺激した。上清を収集し、培養上清中のTNF-α分泌をELISAアッセイを用いて定量化した。
【0060】
実施例1 アトピー性皮膚炎誘発の動物実験
1.外観観察および分析
実験の終わりにマウスを屠殺した後、マウスの皮膚の外観を写真に撮った。正常群(N)のマウスは、無傷の皮膚を有していた。感作群(S)のマウスの皮膚は、荒れて炎症を起こし、耳は腫れていた。皮膚のリモデリング現象は、DNCBの刺激から約3~4週間後に見られた。SV群では、皮膚の症状は改善されなかった。しかしながら、A100群とV2群のそれぞれにおいて、アトピー性湿疹の改善の効果が見られ、皮膚の発赤と腫れが著しく改善された。また、マウスの首を折る過程で、A100群とV2群は、皮膚のひび割れの現象が見られず、アトピー性湿疹による皮膚の脆さが改善された。したがって、アトピー性湿疹による症状は、オバトジオリドと1’-アセトキシチャビコールアセテートの組成物(A100)、および、オバトジオリドとゼルンボンの組成物(V2)の処置によって改善され得ると結論付けられた。
【0061】
2.耳の厚さの測定および分析
SV群の耳の厚さは、0.69±0.08mmと測定され、これは、正常群の耳の厚さ(N、0.23±0.04mm)よりも有意に厚かった。図3に示すように、A100群およびV2群の耳の厚さは、それぞれ、0.27±0.07mm(p<0.01)および0.31±0.10mm(p<0.001)と測定された。A100群およびV2群の耳の腫れが有意に改善したことが分かった。皮膚の外観と耳の腫れは、A100群およびV2群の両方で改善した。
【0062】
3.耳および皮膚の切片の観察および分析
屠殺したマウスの耳および皮膚を切片にし、HE染色に供した。感作群の皮膚と耳には、真皮層の肥厚現象が見られ、多くの好酸球が皮膚組織に浸潤していた。一方、A100群およびV2群では、皮膚と耳の腫れが減少し、好酸球の浸潤が減少した。
【0063】
具体的には、好酸球は、喘息の肺およびアトピー性皮膚炎の皮膚部分などのアレルギー部分に蓄積する傾向があった。アレルギー部分に集まったこの好酸球のグループは、より多くの炎症性物質を放出し、より深刻な炎症を浸潤部分に引き起こす。したがって、好酸球の浸潤を抑えることができれば、アトピー性皮膚炎の症状は著しく改善される。A100群およびV2群では、皮膚および耳への好酸球の浸潤を著しく改善した、と結論付けることができる。
【0064】
マウスの皮膚および耳の切片をトルイジンブルーでも染色し、肥満細胞を観察した。図4および図5に結果を示す。肥満細胞は、アレルギー反応を誘発するための重要な免疫細胞である。IgE、アレルゲンおよび肥満細胞が交差結合すると、肥満細胞が活性化されて誘導され、ヒスタミンやロイコトリエンなどが放出され、組織にアレルギー反応を引き起こす。皮膚炎の患部に多数の活性化肥満細胞が浸潤すると、重度のアレルギーやかゆみが引き起こされる。実験において、感作群の皮膚や耳に肥満細胞の浸潤が多く(図4および図5参照)、S群に比べて肥満細胞数が減少傾向にあると、皮膚アレルギーの症状が大きく改善することが分かった。A100群の耳の切片は、V2群の耳および皮膚の切片と有意な差はないものの、肥満細胞の浸潤は減少した。
【0065】
4.血液中の抗体の測定
図6、7および8に示すように、A100群およびV2群においてIgEの産生が阻害されたが、A100群でのIgE産生に対する阻害は、V2群のものよりも大きかった(図8参照)。オバトジオリドと1’-アセトキシチャビコールアセテートの組成物(A100)、および、オバトジオリドとゼルンボンの組成物(V2)は、IgE産生を阻害し、皮膚アレルギーの大幅な改善を示すと結論付けられる。
【0066】
アトピー性皮膚炎とTh2細胞の過剰な活性化は、互いに密接に関連していることも分かった。図7に示すように、A100群のIL-4、IL-5、およびTNF-αのレベルは、IL-4の減少において、対照群のレベルと有意に差があった(p<0.05)。図7に示すように、AR001DS1とAR001DS2を含む組成物は、IL-5およびTNF-αのレベルに影響を及ぼしたが、低下傾向が示された(図7参照)。V2群では、AR001DS1とAR001DS3の組成物は、IL-4、IL-5、およびTNF-αのレベルを低下させる効果を示したが、有意ではなかった。
【0067】
図6に示すように、AR001DS1とAR001DS2を含む組成物(AR100群)は、IgG1を阻害し、IgG2aを促進する傾向があった。AR100群と比較して、V2群における血中のIgG1およびIgG2aのレベルは有意に調節されなかった。
【0068】
上記を考慮すると、AR001DS1とAR001DS2の組成物は、IL-4およびIgEのレベルに影響を及ぼし、これは、A100がTh2細胞の活性を低下させ得ることを間接的に示した。A100群とV2群の両方で、TNF-α(炎症マーカー)の発現が低下していることが分かった。
【0069】
要約すると、AR001DS1とAR001DS2の組成物、および、AR001DS1とAR001DS3の組成物はどちらも、マウスのアトピー性皮膚炎の症状の改善に対して効果を有する。Th2免疫細胞を減少させる役割には特に良くはないものの、AR001DS1とAR002DS2の組成物で処置したAR100群では、血中のIgEおよびIL-4のレベルが低下していることが分かった。AR100群および/またはV2群では、皮膚での好酸球および肥満細胞の浸潤が減少し、皮膚の腫れおよび炎症の改善を示すことが分かった。
【0070】
実施例2 乾癬動物実験
1.外観の観察および分析
マウスの皮膚の外観を観察し、AR100群およびAR112群において、乾癬を伴う患部の鱗屑および発赤が効果的に減少し、AR0001DS1とAR0002DS3の組成物が、乾癬の症状の減少に対する有意な効果を与えることが分かった。
【0071】
2.発赤のスコア
発赤の程度は、マウスの毎日の観察および記録に従ってスコア化された。図8Aに皮膚の鱗屑の程度を示し、図8Bに発赤を示す。図8Aおよび8Bのデータは、乾癬面積と重症度指数(PASI)に基づいており、乾癬の鱗屑比、発赤、および鱗屑の程度は、0ポイント(なし)、1ポイント(軽度)、2ポイント(中度)、3ポイント(重度)、および4ポイント(非常に重度)で、スコア化し、実験の過程で毎日記録した。結果、AR100群、AR111群、およびAR112群は、乾癬の鱗屑および発赤の症状を効果的に低減でき、AR112群が最も効果的であることが示された。
【0072】
血中の抗体の測定
細胞因子Th1細胞(IFN-γ)、Th2細胞(IL-4)、Th17細胞(IL-17A、IL-17F、IL-22)、Th17細胞(IL-17A、IL-17F、IL-22)、および炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)を、リアルタイムPCRで分析し、乾癬の低減について、IMQ/基剤、IMQ/AR100、IMQ/AR111、およびIMQ/AR112を比較した。図9に示すように、IMQ/AR100、IMQ/AR111、およびIMQ/AR112の各群では、TNF-α、IL-6、IL-17、およびIL-22のmRNA発現が低下した。IMQ/AR112群において、AR001DS1およびAR001DS3を含む組成物によって乾癬が改善され得ると、結論付けられた。
【0073】
4.脾腫の測定
IMQ誘発乾癬動物において、脾腫、リンパ器官の腫脹、またはリンパ組織の腫脹が誘発された。脾臓のサイズと重量は、実験において炎症の指標とみなされる。図10に示すように、IMQ誘発乾癬動物において炎症を低減する効果は、炎症指標としてのマウスの脾臓サイズおよび脾臓重量に関して見られた。IMQ/AR100、IMQ/AR111、およびIMQ/AR112の各群では、IMQ誘発での脾腫の程度が著しく減少した。
【0074】
5.リンパ球におけるサイトカイン発現の測定
IMQ/AR100群、IMQ/AR111群、およびIMQ/AR112群のリンパ球における、Th1細胞(IFN-γ)、Th2細胞(IL-1)のサイトカイン発現を、フローサイトメトリーによって分析した。図11に示すように、IMQ/AR100、IMQ/AR111、およびIMQ/AR112の各群では、Th17細胞の発現が低下し、AR001DS1およびAR001DS2を含む組成物、および、AR001DS1およびAR001DS3を含む組成物の効果は、統計的に有意な効果を与えることが分かった。
【0075】
実施例3 自己免疫性肝炎動物実験
自己免疫性肝炎(AIH)は、肝細胞の炎症、壊死、および肝硬変傾向を特徴とする複雑な疾患である。BALB/cマウスにおける植物レクチンコンカナバリンA(ConA)誘発急性肝炎は、AIHの一般的な動物モデルであり、AR001DS1の抗肝炎効果を評価するためにこのモデルを実施した。AIHのステロイド系の標準治療剤の1つであるデキサメタゾン(Dex)をポジティブコントロールとして使用した。
【0076】
マウスにおいてConA誘発急性肝炎を誘導するために、15mg/kgおよび20mg/kgのConAでマウスを処置した。血清GOTおよびGPTレベルは、15mg/kgのConA処置群において、偽対照と比較したときに、有意に増加した(GOT:1450±433 vs 140±23U/L;GPT:1437±398 vs 76±7U/L)。20mg/kgのConA治療群に関しては、血清GOTレベルは、有意に増加し(2249±549 vs 140±23U/L)、血清GPTレベルは、有意差なしに増加した(2030±833 vs 76±7U/L)。偽剤のマウスと処置なしのマウスの間に差は観察されなかった(GOT:140±23 vs 135±20U/L;GPT:76±7 vs 83±2U/L)。この研究では、Dexをポジティブコントロールとして使用した。結果、Dexは、ConAによって誘発されたGOTの上昇を減少させたことが示された(15mg/kgのConA:809±339 vs 1450±433U/L;20mg/kgのConA:1261±282 vs 2249±549U/L)。しかしながら、Dexは、15mg/kgのConAによって誘発されるGPTのレベルを低減(898±515 vs 1437±398U/L)したのみで、20mg/kgのConA群では低減しなかった(1940±403 vs 1437±398U/L)。さらに、ConAで処置したすべてのマウスで体重が減少した。
【0077】
次に、肝臓組織の組織病理学的分析を行った。偽対照と比較して、15mg/kgおよび20mg/kgのConAはどちらも、顕著な肝壊死を誘発した(スコア:15mg/kgのConA、2.2±0.2 vs 0±0;20mg/kgのConA、2.2±0.7 vs 0±0、p<0.05)。Dexは、15mg/kgのConA誘発後に組織病変のわずかな緩和を示したが(スコア1.6±0.6 vs 2.2±0.2)、20mg/kgのConA処置群では、より重度の病変を引き起こした(スコア2.6±0.2 vs 2.2±0.2)。これらの結果に基づいて、さらなる研究のために15mg/kgのConAを選択した。
【0078】
最終的に、50mg/kgのAR100DS1は、ConAによって増加したGPTレベルを有意に減少させ(109±25 vs 368±107U/L、p<0.05)、GOTの上昇をわずかに改善した(261±45 vs 410± 56U/L)(図12)。また、組織病理学的分析により、AR100DS1は肝壊死を改善したことが示された(スコア0.2±0.2 vs 1.4±0.2、p<0.05)(図13)。
【0079】
実施例4 炎症性シグナル伝達に対するAR-100の拮抗作用
AR001DS1は、マクロファージ放出IL-1βが重要な炎症的役割を担う痛風関節炎の動物モデルに対して治療効果を示したので、ホルボール-12-ミリスタート-13-アセテート(PMA)活性化THP-1細胞におけるIL-1β誘導に対するAR001DS1の効果を試験した。AR100は、AR001DS1およびAR001DS2で構成されていたため、THP-1細胞を2つの成分で個別に前処理した後、PMA活性化を行った。Q-PCRおよびイムノブロッティングにより、THP-1細胞をAR001DS1またはAR001DS2で前処理するとIL-1βの発現が阻害されることが示された(図14A)。興味深いことに、THP-1細胞のPMAによる活性化の後、THP-1細胞をAR100DS1で処理すると、IL-1βの発現が抑制されたが、AR001DS2は、PMA誘導IL-1βを抑制しなかった(図14B)。これらのデータにより、AR001DS1およびAR001DS2はどちらも、マクロファージにおける炎症性シグナル伝達の開始を抑制できることが示され、さらに、AR001DS1は、活性化したマクロファージの炎症性シグナル伝達を阻害できることが示された。
【0080】
実施例5 炎症性サイトカインの効果
IL-1βに加えて、いくつかのサイトカインを炎症反応に加えた。AR001DS1によって影響を受けるサイトカインネットワークを確認するために、Bio-plex分析を行って、PMA処理THP-1細胞におけるヒトの27サイトカインの発現に対するAR001DS1処理の効果をモニタリングした。PMAは、IL-1βを誘導したが、AR001DS1処理はその発現を低減させたことが観察された。さらに、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-αおよび-βなどのサイトカインは、PMA誘導マクロファージの分化中に多く発現し、一方、AR001DS1処理は、それらの発現を阻害した。図15に示すように、IL-8、TNF-αおよびRANTESなどの炎症性サイトカインの誘導もAR001DS1処理によって阻害された。これらのデータは、AR001DS1が、マクロファージにおける炎症性サイトカインの発現を阻害できることを支持している。
【0081】
実施例6
かなりの証拠が、アレルギー性疾患の病因における樹状細胞(DC)の役割を支持している。肥満細胞は、DCとともに、アレルゲンおよびその他の環境由来物質と相互作用する最初の免疫細胞の1つである。したがって、この研究では、マウスのRBL-2H3(RBL)細胞(肥満細胞株)およびDCを用いて、AR001DS1が、肥満細胞および樹状細胞の免疫応答を抑制するか否かという問題を調べた。
【0082】
図16に示すように、抗原[DNP-ウシ血清アルブミン(BSA)]の刺激は、抗ジニトロフェニル(DNP)IgE感作RBL細胞からのβ-ヘキソサミニダーゼの有意な放出を引き起こした。対照的に、AR001DS1で処理した細胞では、β-ヘキソサミニダーゼの分泌は、用量依存的に有意に阻害された。
【0083】
AR001DS1がβ-ヘキソサミニダーゼの分泌を阻害できることを観察したため、AR001DS1が、DCにおいて、TNF-αなどの他の分泌顆粒物のエキソサイトーシス調節を抑制するか否かを確かめることとした。図17に示すように、リポポリサッカライド(LPS)刺激は、TNF-αの有意な分泌を誘導したが、抗酸化、抗増殖および抗炎症の特性を有する最も有名な植物性化学物質の1つであるケルセチンは、LPSで刺激したDCにおけるTNF-αの分泌を効果的に減少させた。驚くべきことに、AR001DS1は、ケルセチンよりもLPS刺激DCにおけるTNF-αの分泌に対して優れた阻害効果を示した。
【0084】
本発明は、好ましい実施形態によって開示されているが、これは本発明を限定することを意図するものではない。当業者は、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、改変および修正を行うことが可能である。したがって、本発明の保護範囲は、続いて添付された特許請求の範囲によって定義されるものにより定められる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17