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特許7376959ガス供給量測定方法およびガス供給量制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ガス供給量測定方法およびガス供給量制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/34 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
G01F1/34 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022511891
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011117
(87)【国際公開番号】W WO2021200227
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2020060171
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】中谷 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】日高 敦志
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021948(WO,A1)
【文献】特開2019-016096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/34- 1/54
G01F 25/10-25/17
G05D 7/00- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化部と、前記気化部の下流側に設けられたコントロール弁と、前記気化部と前記コントロール弁との間の供給圧力を測定する供給圧力センサとを備えるガス供給系において行われるガス供給量測定方法であって、
前記コントロール弁を閉じた状態で前記供給圧力センサを用いて初期供給圧力を測定するステップと、
前記コントロール弁を所定時間だけ開くステップと、
前記コントロール弁を所定時間だけ開いているときに、前記初期供給圧力からの圧力降下が開始された時刻から前記所定時間が経過したあとの時刻までの間において、前記供給圧力を複数回測定するステップと、
複数の前記供給圧力の測定値に基づいて、前記コントロール弁を所定時間だけ開いたときのガス供給量を演算により求めるステップと
を含み、
前記ガス供給量を演算により求めるステップは、初期供給圧力P0iと、前記複数の供給圧力の測定値とに基づいて下記式によってガス供給量ΣQ(tn)・dtを求めるステップを含み、下記式において、Q(tn)は時刻tnにおける流量、dtはサンプリング周期、Qiは初期供給圧力P0iおよび前記コントロール弁のCv値に基づいて求められる初期流量、P0(tn)は、時刻tnにおける供給圧力である、
ΣQ(tn)・dt=ΣQi×(P0(tn)/P0i)・dt
ガス供給量測定方法。
【請求項2】
前記ガス供給量を演算により求めるステップは、前記供給圧力の測定値に基づいて算出された流量を積算することによって前記ガス供給量を算出するステップを含む、請求項1に記載のガス供給量測定方法。
【請求項3】
前記コントロール弁を所定時間だけ開くステップにおいて、前記コントロール弁は、最大設定流量に対応する最大開度に開かれる、請求項1または2に記載のガス供給量測定方法。
【請求項4】
前記コントロール弁は、ピエゾバルブである、請求項1から3のいずれかに記載のガス供給量測定方法。
【請求項5】
前記気化部において気化されるガスは、Si2Cl6である、請求項1から4のいずれかに記載のガス供給量測定方法。
【請求項6】
パルス流量制御信号に基づいて、コントロール弁を所定時間だけ1パルス分開くステップと、
請求項1から5のいずれかに記載の方法によって、1パルス分のガス供給量を測定するステップと、
測定されたガス供給量と予め設定された所望ガス供給量との比較結果に基づいてパルス流量制御信号を補正するステップと、
補正されたパルス流量制御信号に基づいて、コントロール弁を所定時間だけ1パルス分開くステップと
を含む、ガス供給量制御方法。
【請求項7】
1パルス分のガス供給量を測定するステップは、複数回のパルスガス供給を行うプロセスにおける最初のパルスガス供給について行われ、その後パルスガス供給を行うときには、補正されたパルス流量制御信号が用いられる、請求項6に記載のガス供給量制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給量測定方法およびガス供給量制御方法に関し、特に、気化部において生成されてパルス的に供給されるガスの供給量測定方法およびこれを用いたガス供給量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造設備又は化学プラント等において、原料ガスやエッチングガスなどの種々のプロセスガスがプロセスチャンバへと供給される。供給されるガスの流量を制御する装置としては、マスフローコントローラ(熱式質量流量制御器)や圧力式流量制御装置が知られている。
【0003】
圧力式流量制御装置は、コントロール弁とその下流側の絞り部(例えばオリフィスプレートや臨界ノズル)とを組み合せた比較的簡単な構成によって、各種流体の質量流量を高精度に制御することができる。圧力式流量制御装置は、一次側の供給圧力が大きく変動しても安定した流量制御が行えるという、優れた流量制御特性を有している(例えば、特許文献1)。
【0004】
圧力式流量制御装置に用いられる流量制御用のコントロール弁としては、ピエゾ素子駆動式バルブ(以下、ピエゾバルブと称することがある)が用いられている。ピエゾバルブは、ピエゾアクチュエータによってダイヤフラム弁体を開閉させるように構成されており、高い応答性を有している。圧力式流量制御装置において、コントロール弁の開度は、例えば、上流圧力P1を測定する圧力センサの出力に基づいてフィードバック制御され、絞り部の下流側に流れるガスの流量を適切に制御することができる。
【0005】
近年、半導体製造プロセスにおいて、シリコン窒化膜(SiNx膜)やシリコン酸化膜(SiO2膜)などの絶縁膜の形成のために、HCDS(Si2Cl6:Hexachlorodisilane)ガスを、ALD(Atomic Layer Deposition)プロセスによって供給することが行われている。HCDSは、低温で分解・反応させることができる材料であり、例えば450~600℃での低温半導体製造プロセスを実現させる。
【0006】
ただし、HCDSは、室温では液体(沸点:約144℃)であるので、液体のHCDSを、気化供給装置を用いて気化してから、ガスとしてプロセスチャンバンに供給することがある。本出願人は、特許文献2において、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等の有機金属ガスやHCDSの気化供給を適切に行うための気化供給装置を開示している。この気化供給装置によれば、液体原料は、気化供給装置の気化室に圧送され、ヒータによって加熱され、気化した原料ガスは、気化室の下流側に設けられた圧力式流量制御装置によって流量が制御されてプロセスチャンバへと供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3546153号公報
【文献】国際公開第2019/021948号
【文献】国際公開第2013/179550号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ALDプロセスによるシリコン窒化膜の成膜においては、例えば、HCDSガス、パージガス、アンモニアガス、パージガスが短時間(例えば1秒から10秒)ずつ順々にプロセスチャンバに供給する工程が繰り返される。このように、ALDプロセスでは、短時間でのパルス的なガス供給が必要になるが、絞り部や圧力センサを用いる上記の圧力式流量制御装置では、ALDプロセスには対応しづらいときもあった。また、パルス流量制御では、1パルスで供給されるガスの供給量(体積や物質量)が適切に制御されることが望まれていた。
【0009】
また、気化供給装置の気化部または気化装置において生成されたガスを、比較的大流量でパルス的に供給する場合がある。この場合に、圧力式流量制御装置では絞り部によって流量が制限されるため、比較的大流量でガスを流しにくいことがあった。また、上記のような有機金属ガスやHCDSガスの供給を行うためには、再液化防止のために供給路の全体を高温(例えば200℃)に保つ必要があるため、高温ガスであっても流量を測定できることが求められていた。
【0010】
したがって、気化装置から高温のガスを供給する場合に、特に大流量でのパルスガス供給を適切に制御するという課題があった。このためには、従来の圧力式流量制御装置のように、コントロール弁と絞り部との間に設けた上流圧力センサを用いて流量測定および流量制御を行うのではなく、できるだけ簡便な他の方式によって流量やガス供給量の測定を行うことができることが有利であった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、気化装置から供給されるガスの供給量を測定する方法およびこれを用いたガス供給量制御方法を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施態様に係るガス供給量測定方法は、気化部と、前記気化部の下流側に設けられたコントロール弁と、前記気化部と前記コントロール弁との間の供給圧力を測定する供給圧力センサとを備えるガス供給系において行われ、前記コントロール弁を閉じた状態で前記供給圧力センサを用いて初期供給圧力を測定するステップと、前記コントロール弁を所定時間だけ開くステップと、前記コントロール弁を所定時間だけ開いているときに、前記初期供給圧力からの圧力降下が開始された時刻から前記所定時間が経過したあとの時刻までの間において、前記供給圧力を複数回測定するステップと、複数の前記供給圧力の測定値に基づいて、前記コントロール弁を所定時間だけ開いたときのガス供給量を演算により求めるステップとを含む。
【0013】
ある実施形態において、前記ガス供給量を演算により求めるステップは、前記供給圧力の測定値に基づいて算出された流量を積算することによって前記ガス供給量を算出するステップを含む。
【0014】
ある実施形態において、前記ガス供給量を演算により求めるステップは、初期供給圧力P0iと、前記複数の供給圧力の測定値P(tn)とに基づいて下記式によってガス供給量ΣQ(tn)・dtを求めるステップを含み、下記式において、Q(tn)は時刻tnにおける流量、dtはサンプリング周期、Qiは初期供給圧力P0iおよび前記コントロール弁のCv値に基づいて求められる初期流量、P0(tn)は、時刻tnにおける供給圧力である。
ΣQ(tn)・dt=ΣQi×(P0(tn)/P0i)・dt
【0015】
ある実施形態において、前記コントロール弁を所定時間だけ開くとき、前記コントロール弁は、最大設定流量に対応する最大開度に開かれる。
【0016】
ある実施形態において、前記コントロール弁は、ピエゾバルブである。
【0017】
ある実施形態において、前記気化部において気化されるガスは、Si2Cl6である。
【0018】
本発明の実施形態に係るガス供給量制御方法は、パルス流量制御信号に基づいて、コントロール弁を所定時間だけ1パルス分開くステップと、上記いずれかの測定方法によって、1パルス分のガス供給量を測定するステップと、測定されたガス供給量と予め設定された所望ガス供給量との比較結果に基づいてパルス流量制御信号を補正するステップと、前記補正されたパルス流量制御信号に基づいて、コントロール弁を所定時間だけ1パルス分開くステップとを含む。
【0019】
ある実施形態において、1パルス分のガス供給量を測定するステップは、複数回のパルスガス供給を行うプロセスにおける最初のパルスガス供給について行われ、その後のパルスガス供給を行うときには、前記補正されたパルス流量制御信号が用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態に係るガス供給量測定およびガス供給量制御方法によれば、気化装置で生成された比較的高温のガスをパルス的に供給する場合においても、比較的簡便な方法でガス供給量を測定および制御することができ、比較的大流量でのガス供給にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るガス供給量測定方法が行われるガス供給系を例示的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るガス供給量測定方法が行われるより具体的なガス供給系を例示的に示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るガス供給量測定方法を実施するときの、流量設定信号(コントロール弁の開閉信号)Svおよび気化室内の供給圧力P0の時間変化を示すグラフである。
図4】(a)は、図3に示したグラフにおける供給圧力P0の降下期間を拡大して示すグラフであり、(b)は時間積分したP0の大きさ(面積)を示す。
図5図3に示したグラフにおける供給圧力P0の回復期間を拡大して示すグラフである。
図6】本発明の実施形態に係るガス供給量測定方法の例示的なフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本実施形態のガス供給量測定方法およびガス供給量制御方法が実施されるガス供給系100の一例を示す。ガス供給系100は、液体原料ソース2から気化供給装置4に圧送された液体原料Lを、気化供給装置4において気化し、プロセスチャンバ6にガスGとして供給するように構成されている。プロセスチャンバ6には、真空ポンプ8が接続されており、プロセスチャンバ6内およびプロセスチャンバ6に接続されるガス流路を真空引きすることができる。図1において、液体流路を白抜き線で示し、ガス流路を太線で示している。
【0024】
液体原料ソース2としては、例えば、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)などの有機金属や、HCDS(Si2Cl6)などが挙げられる。以下の実施形態では、HCDSを気化させて供給する例について説明する。HCDSの沸点は約144℃であり、190℃における蒸気圧は約250kPaである。
【0025】
本実施形態の気化供給装置4は、気化部(または気化装置)10と、気化部10の下流側に設けられたコントロール弁12とを備えている。気化部10には、図示しないヒータが設けられており、気化部10において、液体原料Lを気化させることができる。ヒータとしては、ジャケットヒータや、伝熱部材としてのアルミニウム板にカートリッジヒータを埋設したヒータ(例えば特許文献2に記載のヒータ)を用いることができる。
【0026】
気化した原料は、コントロール弁12の開度に応じて、任意流量でプロセスチャンバ6に供給される。コントロール弁12としては、例えば、ピエゾアクチュエータによってダイヤフラム弁体を開閉させるように構成されたピエゾバルブを用いることができる。ピエゾバルブは、ピエゾ素子に印加する駆動電圧を制御することにより、任意開度に開くことができるように構成されている。
【0027】
また、本実施形態の気化供給装置4は、気化部10の上流側の液体補充バルブ16、コントロール弁12の下流側のストップバルブ18、および、気化部10内のガス圧力(供給圧力P0)を測定する供給圧力センサ14を備えている。液体補充バルブ16およびストップバルブ18としては、AOV(空気駆動弁)などが好適に用いられる。供給圧力センサ14としては、高温耐性を有する圧力センサが好適に用いられる。
【0028】
気化供給装置4において、コントロール弁12またはストップバルブ18をパルス的に開閉することによって、パルス的にガス供給を行うことができる。
【0029】
気化部10への液体原料の供給量は、液体補充バルブ16の開閉間隔や開時間などを調整することによって制御することができる。プロセスチャンバ6へのガス供給の停止は、ストップバルブ18を用いて確実に行うことができる。ストップバルブ18とコントロール弁12との間には三方弁が設けられていてもよく、三方弁を用いれば、所望のタイミングで、原料ガスとパージガスとを切り替えて流すこともできる。
【0030】
図2は、気化供給装置4のより具体的な構成を示す。図2に示す気化供給装置4は、気化部10および液体補充バルブ16の上流側において、予加熱部20を有している。予加熱部20は、気化部10における気化を補助するために設けられ、予め液体原料を加熱しておくことによって、気化部10における必要熱量を低下させ、また、気化潜熱による気化時の温度低下を抑制することができる。
【0031】
予加熱部20と気化部10とには、図示しないそれぞれのヒータが設けられている。また、コントロール弁12によって構成される流量制御部にも、別のヒータ(図示せず)が設けられている。予加熱部20、気化部10および流量制御部(コントロール弁12を含む流路)を、それぞれ異なる温度に制御することが可能であり、典型的には、予加熱部20より気化部10が高温に維持され、また、再液化防止のために流量制御部は気化部10より高温に維持される。HCDSの気化を行う場合、気化部10のヒータは、例えば180~200℃の温度に設定される。
【0032】
図2に示す気化供給装置4では、コントロール弁12の下流側は、ガスケット13を介してストップバルブ18に接続されている。これによって、絞り部を同位置に有する圧力式流量制御装置に比べて、より大流量でガスを流しやすい。また、図2に示す気化供給装置4では、コントロール弁12の下流側の圧力P1を測定する下流圧力センサ15が設けられているが、後述する本実施形態の測定方法に従ってガス供給量の測定を行う場合、下流圧力センサ15は必ずしも必要ではない。ただし、本実施形態のガス供給量測定方法は、絞り部や下流圧力センサ15を有する圧力式流量制御装置によって流量やガス供給量を制御するガス供給系においても実施し得る。
【0033】
気化供給装置4としては、本出願人による国際出願番号PCT/JP2020/033395号に開示される縦型構成を採用することもできる。縦型構成において、予加熱部、気化部、および流量制御部は、縦3段に重ねて配置される。また、図2には、予加熱部20、気化部10およびコントロール弁12(流量制御部)等が共通のベース台上に一体的に設けられた構成が示されているが、これらの構成要素は互いに隔離して配置されていてもよい。
【0034】
上記のように大流量でガスを流すために絞り部を排除した場合、コントロール弁12の開度は、入力された流量設定信号に基づいて、オープンループ制御されてもよい。また、後述するように、パルス流量制御を行うときには、最初にガスを流したときの1パルス分のガス供給量の測定結果に基づいて、コントロール弁12の開度や開閉時間を調節するようにしてもよい。測定された流量に基づいてコントロール弁12の制御信号を補正することによって、所望のパルス流量(ガス供給量)でのガス供給を行うことが可能である。
【0035】
以上のように構成されたガス供給系100において、コントロール弁12の下流側におけるガス供給量の測定を行うが、本実施形態では、コントロール弁12を閉から開にした後の供給圧力センサ14の出力(すなわち供給圧力P0の測定結果)に基づいて、ガス供給量を測定する。以下、具体的に説明する。
【0036】
図3は、ガス供給量の測定を行うときの、コントロール弁12の開閉信号(流量設定信号)Svおよび対応する供給圧力P0の時間変化を示す。図4(a)、(b)は、図3における供給圧力P0の降下時期を時間軸方向に拡大して示し、図5は、図3における供給圧力P0の回復時期を時間軸方向に拡大して示す。
【0037】
図3図4(a)、(b)に示すように、ガス供給量測定前の状態において、コントロール弁12は閉じられており、供給圧力P0は、初期供給圧力P0iに維持されている。初期供給圧力P0iは、気化させる材料とヒータの設定温度とによって変化し、例えばHCDSが190℃で飽和状態に維持されているときは、当該温度での蒸気圧である約250kPa absに維持される。
【0038】
また、ガス供給量測定中、液体補充バルブ16は閉じた状態に維持されており、液体原料の追加は行われない。一方、ストップバルブ18は開放状態に維持されており、コントロール弁12の下流側は典型的には真空圧(例えば100Torr以下)に維持されている。
【0039】
次に、図3および図4(a)、(b)に示すように、コントロール弁12が所定時間(ここでは1秒間)開かれることによって、コントロール弁12の上流側にたまっていたガスが、コントロール弁12を介して下流側に流出する。このとき、本実施形態では、コントロール弁12は、流量設定信号Svに従って、最大開度(100%流量設定(IN100%)に対応する開度)まで開かれる。
【0040】
コントロール弁12が開かれている期間、供給圧力センサ14によって測定される供給圧力P0は、ガスの流出とともに低下する。本実施形態では、この降下する供給圧力P0を所定のサンプリング周期(例えば10m秒)ごとに測定し、その結果を、メモリに格納する。そして、測定された供給圧力P0に基づいて、コントロール弁の開放時間である所定時間Δtに対応する積算によるガス供給量を求める。この1パルス分に対応するガス供給量(ガス供給体積やガス供給質量)は、図4(b)に示すように、供給圧力P0の積分値PSに対応するものである。
【0041】
ただし、積算ガス供給量を求める期間は、実際の供給圧力P0の低下が確認された時刻t1から、所定時間Δtが経過した時刻t2までの期間とする。これは、コントロール弁12の実際の開閉は、バルブ制御信号から多少遅れて生じることもあるため、実際の圧力降下を確認してから所定期間の積算ガス供給量を求めた方が、より適切なデータが得られるからである。
【0042】
以下、供給圧力P0に測定に基づいて、1パルス分のガス供給量を測定する方法の具体例を説明する。
【0043】
まず、コントロール弁12を最大開度に開いたときのCv値(Coefficient of flow)が予め求められる。Cv値は、バルブにおける流体の流れやすさを示す一般的な指標であり、バルブの一次側圧力および二次側圧力が一定であるときの、バルブを流れるガスの流量に対応するものである。バルブ二次側圧力≦バルブ一次側圧力/2の条件下(臨界膨張条件下)において、ガスの流量Q(sccm)は、Cv値を用いて例えば以下の式(1)によって与えられる。なお、本実施形態において、バルブ一次側圧力は供給圧力P0であり、バルブ二次側圧力はバルブ下流側の圧力P1である。
Q=34500・Cv・P0/(Gg・T)1/2 ・・・(1)
【0044】
上記式(1)において、Qは流量(sccm)、Ggは気体の比重、P0は供給圧力すなわちバルブの一次側圧力(kPa abs)、Tは温度(K)である。HCDSの比重Ggは、約9.336である。上記のように、供給圧力P0が、下流側の圧力P1の2倍以上大きい条件下において、ガス温度Tが一定であれば、流量Qは、供給圧力P0に比例するものと考えられる。
【0045】
また、Cv値は、バルブの流路断面積Aと縮流係数(縮流比)αとを用いて表すことができ、ここで、ピエゾバルブを最大開度に開いたときの流路断面積Aを、シート径D(例えば、約6mm)、弁体リフト量L(例えば、約50μm)を用いてA=πDLと仮定すると、下記の式(2)で与えられる。
Cv=A・α/17=πDL・α/17 ・・・(2)
【0046】
したがって、バルブのCv値がわかっていれば、上記の式(1)に基づいて、供給圧力P0に基づく流量Qを求めることができる。なお、Cv値は、上記式(2)によるものに限られず、他の方法によって求められても良い。例えば、バルブ下流側に設けた流量計によって測定した実測流量Qでガスが流れているときの供給圧力P0の測定結果に基づいて、Cv値を求めておくこともできる。
【0047】
このため、供給圧力P0の測定結果から、各時刻における流量Q(t)が求められ、各微小時間dt(ここではサンプリング周期)におけるガス供給量は、Q(t)・dtとなる。例えば、初期供給圧力P0iの測定結果に基づいて、上記式(1)からバルブのCv値を用いて初期流量Qiを算出するとともに、時刻tにおける初期供給圧力P0iに対する測定圧力P0(t)の比を、初期流量Qiに乗じる、すなわち、Q(t)=Qi×(P0(t)/P0i)に従って、各時刻の流量Q(t)と、微小時間dt間に流れたガス供給量(体積や物質量など)Q(t)・dtが求められる。
【0048】
そして、コントロール弁12を所定時間Δtだけ開いたときの1パルスにおけるガス供給量は、サンプリングごとの時刻tn(nは自然数)における流量をQ(tn)とすると、ΣQ(tn)・dt=Q(t1)・dt+Q(t2)・dt+・・・+Q(tn)・dtと表すことができる。また、時刻tnにおける供給圧力P0(tn)を用いると、下記の式(3)で表すことができる。
ΣQ(tn)・dt
=ΣQi×(P0(tn)/P0i)・dt
=(Qi・dt/P0i)×(P0(t1)+P0(t2)+・・・+P0(tn)) ・・・(3)
【0049】
ここで、サンプリング周期dt、サンプル数nを用いると、上記の所定時間Δtは、Δt=n×dtと表すことができる。したがって、ΣQ(tn)・dt=(1/n)・(Q(t1)+Q(t2)+・・・+Q(tn))・Δtと記載できる。このようにして、所定時間Δtにわたっての供給圧力P0の多数回(n回)の測定によって、所定時間Δtに対応する積算ガス供給量を求めることができる。なお、上記式(1)および(3)からわかるように、Q(t1)+Q(t2)+・・・+Q(tn)は、測定した供給圧力P0の積分値PSに関連する大きさとなる。
【0050】
上記の所定時間Δtが1秒間のとき、サンプリング周期dtは、例えば10m秒に設定され、このときのサンプル数nは100となる。ただし、これに限られず、サンプリング周期dtおよびサンプル数nは任意に設定されてよい。ただし、サンプリング周期dtが短いほど、より正確に積算ガス供給量を求めることができるので、サンプリング周期dtは50m秒以下(サンプル数20以上)であることが好ましく、20m秒以下(サンプル数50以上)であることがより好ましい。ただし、サンプル数が大きすぎると演算処理の負荷が増大するので、サンプリング周期dtは5m秒以上(サンプル数200以下)であることが好ましい。もちろん、所定時間Δtの大きさに応じて、サンプリング周期dtやサンプル数nの値を適宜設定してよい。
【0051】
以上のようにして、本実施形態のガス供給量測定方法によれば、所定時間Δtにわたる供給圧力P0の測定結果から、気化部10からコントロール弁12を介して供給される1パルス分に対応するガス供給量(積算ガス供給量)を求めることができる。
【0052】
なお、上記には、コントロール弁12を所定期間だけ最大設定開度にまで開く態様を説明したがこれに限られない。コントロール弁12は、最大ではない任意開度に開くように操作されてもよい。ただし、上記のようにして積算ガス供給量を求める場合、任意開度に対応するCv値が求められることが好適であり、例えば、上記式(2)における弁体リフト量Lを開度に応じた値に変更することによって、当該開度でのCv値を求め得る。
【0053】
なお、本出願人による特許文献3には、圧力式流量制御装置の上流側に設けた開閉弁を用いて、コントロール弁の上流側の圧力(供給圧力P0)の測定により、ビルドダウン方式で流量を監視する方法が開示されている。ただし、特許文献3は、供給圧力P0の初期の低下のみを検出して、圧力式流量制御装置の下流側には一定の流量でガスを流しながら流量測定を行う方法が開示するのみであり、パルス流量制御における1パルスに対応するガス供給量を測定する方法を開示していないことに留意されたい。
【0054】
上記のようにして1パルス分のガス供給が終了した後、流量設定信号Svが0%に変化するのに従ってコントロール弁12が閉じられた状態となる。このとき、図3および図5に示すように、供給圧力P0は回復し、典型的には、初期供給圧力P0iに戻ることになる。
【0055】
なお、供給圧力P0の回復が、流量設定信号Svの立下りから少し遅れて開始されているが、これは、コントロール弁12に実際に与えられる制御信号は遅延を含んでおり、流量設定信号Svの立下りからしばらくの間はコントロール弁12が完全な遮断状態になっていなかったためと考えられる。通常、実際にコントロール弁12が閉じられた後は、供給圧力P0は即座に回復し始める。
【0056】
以下、ガス供給量測定処理フローの具体例を説明する。図6は、ガス供給量測定のフローチャートを示す。まず、ステップS1に示すように、コントロール弁12(CV)が閉じられた状態で、液体補充バルブ16(LV)が所定時間だけ開かれる。これによって、所定量の液体原料が気化部に供給される。供給された原料は、ヒータによって加熱され気化される。
【0057】
次に、ステップS2に示すように、ヒータ温度が一定に維持された状態で、初期供給圧力P0iが測定される。気化部に十分な液体原料が供給されている場合、原料の種類およびヒータ温度に応じた圧力(蒸気圧)が検出される。ただし、気化部に供給された液体原料の量によっては、蒸気圧以下の圧力が検出されることもあり得る。
【0058】
次に、ステップS3に示すように、液体補充バルブLVの閉鎖状態を維持したまま、コントロール弁CVを開放する。コントロール弁CVは、ここでは最大開度にまで開かれる。コントロール弁CVが開かれることによって、上記のようにバルブのCv値と初期供給圧力P0iとに基づく流量で、ガスがコントロール弁を介して下流側に流れ出す。
【0059】
ここで、ステップS4において、供給圧力P0を測定・監視し、供給圧力P0が実際に低下し始める時刻t1、すなわち、測定した供給圧力P0と初期供給圧力P0iとの差が閾値を超える時刻t1を特定する。そして、この時刻t1をP0圧力降下開始時刻に設定する。また、この時刻t1から所定時間Δtが経過した時刻t2を、測定終了時を示す所定時刻t2に設定する。
【0060】
その後、ステップS5およびステップS6に示すように、開始時刻t1から所定時刻t2(=t1+Δt)に達するまでの間、供給圧力P0の値をサンプリング周期ごとにメモリに格納する。この供給圧力P0の測定および記録は、所定時刻t2に到達するまで、繰り返して実行される。
【0061】
そして、所定時刻t2に達したときは、ステップS7に示すように、供給圧力P0の測定結果から、積算ガス供給量が演算により求められる。これによって、1パルス分に対応するガス供給量が得られる。なお、図6に示すフローチャートには、コントロール弁CVが閉じられるステップが記載されていないが、このステップは、コントロール弁CVが開いた時刻から所定時間Δtが経過したときに、積算ガス供給量を求めるフローと並列して適宜実行される。
【0062】
以上、本実施形態によるガス供給量測定方法を説明したが、本方法によって測定されたガス供給量に基づいて、コントロール弁12(CV)の制御信号を補正するようにしてもよい。以下、具体的に説明する。
【0063】
まず、プロセス開始時の最初の1パルスガス供給の際に、所定のパルス流量制御信号(バルブ開閉指令)に基づいてコントロール弁12の開閉を行うとともに、上記のガス供給量測定方法によって1パルス分のガス供給量が測定される。そして、測定されたガス供給量が、所望の設定ガス供給量に対して有意な差を有する場合、次の1パルスガス供給からは、パルス流量制御信号を補正して、コントロール弁12の開閉動作を制御する。
【0064】
例えば、測定されたガス供給量が、予め設定された所望量に対して大きい場合、その大きさに応じて、コントロール弁12の開時間およびコントロール弁12の開度のうちの少なくともいずれか一方をより小さい値に設定する。これにより、次の1パルスガス供給におけるガス供給量を減少させることができ、所望量でのガス供給を行うことができる。
【0065】
一方、測定されたガス供給量が所望量に対して小さい場合、コントロール弁12の開時間およびコントロール弁12の開度のうちの少なくともいずれか一方をより大きい値に設定する。これにより、次の1パルスガス供給におけるガス供給量を増加させることができ、所望量でのガス供給を行うことができる。
【0066】
上記のバルブ開閉指令の補正は、最初の1パルスガス供給の際に実行するだけでなく、2回目以降も行うようにしてもよい。これにより、補正を繰り返して、所望量での1パルスガス供給をより確実に行うことが可能となる。
【0067】
以上、本発明の実施形態によるガス供給量測定方法およびガス供給量制御方法を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の実施形態によるガス供給量測定方法およびガス供給量制御方法は、例えば、ガス供給システムにおいてパルス流量制御を行うときに好適に利用される。
【符号の説明】
【0069】
2 液体原料ソース
4 気化供給装置
6 プロセスチャンバ
8 真空ポンプ
10 気化部
12 コントロール弁
14 供給圧力センサ
16 液体補充バルブ
18 ストップバルブ
20 予加熱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6