(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】インクセット及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20231101BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20231101BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231101BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B41J2/165 401
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2019097291
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2018130362
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博俊
(72)【発明者】
【氏名】崔 波
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 哲也
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-169314(JP,A)
【文献】特開2008-214525(JP,A)
【文献】特開2018-039857(JP,A)
【文献】特開2015-021084(JP,A)
【文献】特開2014-084348(JP,A)
【文献】特開平05-156164(JP,A)
【文献】特開2013-146965(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116811(WO,A1)
【文献】特開2018-090807(JP,A)
【文献】特開2004-217814(JP,A)
【文献】国際公開第2007/060971(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、バインダー、及び水を含有するインクと、少なくとも2種類の界面活性剤と、水とを含有する洗浄液と、を有するインクと洗浄液のセットであって、洗浄液中の一方の界面活性剤のHLB値が10.0~20.0であり、他方の界面活性剤のHLB値が3.0以上10.0未満であり、前記洗浄液が含有する、HLB値が10.0~20.0の界面活性剤(界面活性剤A)と、HLB値が3.0以上10.0未満の界面活性剤(界面活性剤B)の総質量中における、界面活性剤AとBの含有比が、
6/1~1/
6であるインクと洗浄液のセット。
但し、界面活性剤のHLB値は以下のようにして算出する。
[HLB値の算出方法]
界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させて溶液を得る。得られた溶液を25℃で撹拌し、この溶液に2質量%フェノール水溶液を滴下し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した2質量%フェノール水溶液の量がQ(mL)のとき、下記式(1)によってHLB値を算出する。
【化1】
【請求項2】
前記HLB値が10.0~20.0の界面活性剤が、ノニオン界面活性剤から選択される界面活性剤である、請求項1に記載のインクと洗浄液のセット。
【請求項3】
前記HLB値が3.0以上10.0未満の界面活性剤が、ノニオン界面活性剤から選択される界面活性剤である請求項1または請求項2に記載のインクと洗浄液のセット。
【請求項4】
前記の洗浄液が、グリコールエーテルを含有する請求項1乃至請求項3に記載のインクと洗浄液のセット。
【請求項5】
前記バインダーが、ポリマー及びワックスから選択される、1種類以上である請求項1に記載のインクと洗浄液のセット。
【請求項6】
前記ワックスが、ポリアルキレンワックス、酸化ポリアルキレンワックス、及びパラフィンワックスから選択される1種類以上である、請求項5に記載のインクと洗浄液のセット。
【請求項7】
前記ワックスが、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス及びパラフィンワックスから選択される1種類以上である、請求項5又は請求項6に記載のインクと洗浄液のセット。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のインクが付着した記録装置を、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の洗浄液で洗浄する、記録装置の洗浄方法。
【請求項9】
前記の記録装置が、インクジェットプリンタである請求項8に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクと洗浄液のセット、そのセットを用いる記録装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー印刷方法の中で、インクジェットプリンタによる印刷方法(インクジェット印刷方法)は、代表的方法の1つである。この方法は、インクの小滴を発生させ、これを紙等の基材に付着させ印刷を行う方法である。近年、インクジェット印刷方法は、産業用途としての応用が進んでいる。インクジェットインクが含有する着色剤は、水溶性の着色剤と、水不溶性の着色剤とに大別される。これらのうち、顔料を代表とする水不溶性の着色剤は、水溶性の着色剤と比較して、一般に各種の堅牢性に優れる。このため、産業用のインクジェットインクは、水不溶性の着色剤を含有することが多い。
【0003】
産業用途に用いられる基材は、各種の紙、繊維、及びフィルム等、多様化している。そのような基材の中には、インク非吸収性の基材、及びインク難吸収性の基材(以下、「非・難吸収性基材」という。)も多い。非・難吸収性基材の記録に用いるインクとしては、非水系の溶剤インク、及び硬化性インク等が知られている。しかし、例えば自然環境、及び生体等に対する安全性の観点から、非・難吸収性基材にも印刷可能な水性インクが強く要望されている。そのような水性インクは、水不溶性の着色剤、及び分散剤を含有し、さらに、耐擦過性や耐溶剤性等を向上させる目的で、一般にポリマーやワックス等も含有する。このため、そのような水性インクは固形分の含有量が多く、極めて乾燥しやすく、また、乾燥により大量の固形物が生じやすい。インクの乾燥は、長期の保管、高温・低湿度環境での保管等において生じやすい。インクの乾燥は、インクジェットヘッドのノズルやインク流路内で固形物を生じ、これが目詰まりの原因となる。このようにインクジェットヘッド内で目詰まりが生じると、インクの吐出が安定して行なえず、画像濃度が低下するという問題を招く。さらに、インクジェットヘッド自体が使用できなくなることもあり、大きな問題となっている。一般に、産業用インクジェットヘッドには、ノズル部にキャップ部材を装備し、インクの乾燥を防止する等の工夫がされている。しかし、それでもなお、インクの乾燥を完全に回避することは難しい。
【0004】
前記の状況から、非・難吸収性基材にも記録が可能で、且つ耐擦過性を良好にするため固形分含有量が多いインクが乾燥して固形物を生じたときでも、これを洗浄できる洗浄液が強く要望されている。
特許文献1~6には、インクジェット記録装置の洗浄に用いる洗浄液が開示されている。特許文献7には、ワックスを含有するインク組成物が開示されている。特許文献8には、ポリマーを含有するインク組成物が開示されている。
【文献】特許第5027444号
【文献】特許第4649823号
【文献】特許第4397220号
【文献】特許第5618250号
【文献】特許第5819206号
【文献】特許第5819205号
【文献】国際公開2015/147192号ガゼット
【文献】国際公開2015/152291号ガゼット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非・難吸収性基材にも記録が可能で、且つ耐擦過性が良好な水性インクと、そのインクが乾燥して固形物を生じたときでも、その固形物を洗浄できる洗浄液と、を有するインクと洗浄液のセットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも、
着色剤、バインダーと水とを含有するインクと、少なくともHLB値が10.0~20.0の界面活性剤、HLB値が3.0以上10.0未満の界面活性剤、および水を含有する洗浄液と、を有するインクセットにより、前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下の1)~9)に関する。
【0007】
1)
着色剤、バインダー、及び水を含有するインクと、少なくとも2種類の界面活性剤と、水とを含有する洗浄液と、を有するインクと洗浄液のセットであって、洗浄液中の一方の界面活性剤のHLB値が10.0~20.0であり、他方の界面活性剤のHLB値が3.0以上10.0未満であるインクと洗浄液のセット。
但し、界面活性剤のHLB値は以下のようにして算出する。
[HLB値の算出方法]
界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させて溶液を得る。得られた溶液を25℃で撹拌し、この溶液に2質量%フェノール水溶液を滴下し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した2質量%フェノール水溶液の量がQ(mL)のとき、下記式(1)によってHLB値を算出する。
【0008】
【0009】
2)
前記HLB値が10.0~20.0の界面活性剤が、ノニオン界面活性剤から選択される界面活性剤である、前記1)に記載のインクと洗浄液のセット。
3)
前記HLB値が3.0以上10.0未満の界面活性剤が、ノニオン界面活性剤から選択される界面活性剤である前記1)または2)に記載のインクと洗浄液のセット。
4)
前記の洗浄液が、グリコールエーテルを含有する前記1)乃至3)に記載のインクと洗浄液のセット。
5)
前記バインダーが、ポリマー及びワックスから選択される、1種類以上である前記1)乃至4)に記載のインクと洗浄液のセット。
6)
前記ワックスが、ポリアルキレンワックス、酸化ポリアルキレンワックス、及びパラフィンワックスから選択される1種類以上である、前記1)乃至5)に記載のインクと洗浄液のセット。
7)
前記ワックスが、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス及びパラフィンワックスから選択される1種類以上である、前記1)乃至6)に記載のインクと洗浄液のセット。
8)
前記1)~7)のいずれか一項に記載のインクが付着した記録装置を、前記1)~7)のいずれか一項に記載の洗浄液で洗浄する、記録装置の洗浄方法。
9)
前記の記録装置が、インクジェットプリンタである前記8)に記載の洗浄方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、非・難吸収性基材にも記録が可能で、且つ耐擦過性が良好な水性インク、及びそのインクが乾燥して固形物を生じたときでも、その固形物を洗浄できる洗浄液と、を有するインクと洗浄液のセットを提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書においては、特に断りの無い限り「%」及び「部」は、いずれも質量基準で記載する。また、本明細最初において「A~B」と記載するときは、特に断りのない限り「A以上B以下」を意味する。
【0012】
[着色剤]
前記インクが含有する着色剤は、特に限定されず、水溶性の着色剤、及び水不溶性の着色剤から選択される着色剤が使用できる。又、必要に応じてこれらを併用することもできる。
本明細書中、「水不溶性」とは、25℃の水に対する着色剤の溶解性が通常3g/リットル以下、好ましくは2g/リットル以下、より好ましくは1g/リットル以下であることを意味する。
水不溶性の着色剤としては、例えば、顔料、分散染料及び溶剤染料が挙げられる。代表的なこれらの着色剤としては、それぞれC.I.Pigment、C.I.Disperse及びC.I.Solventから選択される着色剤が挙げられる。
【0013】
水溶性の着色剤としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、建染染料及び可溶性建染染料等が挙げられる。代表的なこれらの染料としては、それぞれC.I.Direct、C.I.Acid、C.I.Food、C.I.Basic、C.I.Reactive、C.I.Vat、C.I.Solubilised Vatから選択される染料が挙げられる。
【0014】
前記した以外の着色剤として、前記の着色剤を透明、且つ水不溶性の樹脂に含有させた、着色剤を含有する樹脂も水不溶性の着色剤として挙げることができる。
【0015】
顔料としては、無機顔料、有機顔料及び体質顔料等が挙げられる。
無機顔料としては、例えばカーボンブラック;金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物;フェロシアン化物;及び金属塩化物等が挙げられる。
【0016】
カーボンブラックとしては、例えば、サーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、及びチャンネルブラックが挙げられる。これらの中では、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が好ましい。様々な種類のカーボンブラックが、例えばコロンビア・カーボン社、キャボット社、デグサ社、及び三菱化学株式会社等から容易に入手することができる。
【0017】
有機顔料としては、例えば溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、不溶性ジアゾ顔料、縮合アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンスラキノン顔料及びキノフタロン顔料が挙げられる。
【0018】
有機顔料の具体例としては、例えばC.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、180、185、193、199、202;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、272;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50;C.I.Pigment Orange 13、16、68、69、71、73;C.I.Pigment Green 7、36、54;C.I.Pigment Black 1等が挙げられる。
【0019】
体質顔料としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、ホワイトカーボンなどが挙げられる。これらの体質顔料は単独で使用することもできるが、通常は粉体の流動性を向上させる目的で、無機顔料又は有機顔料と併用される。
【0020】
また、顔料粒子の表面に化学的な処理を行って、自己分散性を付与した自己分散顔料を用いることもできる。
【0021】
分散染料としては、例えば、C.I.Dispers Yellow 9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92,111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1;C.I.Dispers Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等が挙げられる。
【0022】
前記インクの総質量中における着色剤の含有量は通常1~30%、好ましくは1~15%、より好ましくは2~10%である。
【0023】
前記インクが水不溶性の着色剤を含有するときは、さらに分散剤を含有するのが好ましい。分散剤としては、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体;α,β-エチレン性不飽和性カルボン酸の脂肪族アルコールエステル;アクリル酸及びその誘導体;マイレン酸及びその誘導体;イタコン酸及びその誘導体;ファール酸及びその誘導体;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びそれらの誘導体等よりなる群の単量体から選択される、少なくとも2つの単量体(好ましくは、このうち少なくとも1つが親水性の単量体)から構成される共重合体が挙げられる。
共重合体の種類としては、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、及び/又はそれらの塩等が挙げられる。
分散剤は合成することも、市販品として入手することもできる。市販品の具体例としては、例えば、いずれもジョンソンポリマー社製のジョンクリル 62、67、68、678、及び687等のスチレン-アクリル系樹脂;モビニールS-100A(ヘキスト合成社製の変性酢酸ビニル樹脂);ジュリマーAT-210(日本純薬株式会社製のポリアクリル酸エステル共重合体);等が挙げられる。
分散剤を合成するときは、国際公開第2013/115071号ガゼットに開示された分散剤が好ましく挙げられる。
分散剤は、1種類を使用することも、2種類以上を併用することもできる。
【0024】
分散剤の重量平均分子量(MW)は特に制限されないが通常3000~50000、好ましくは7000~25000である。また、酸価としては通常50~300KOHmg/g、好ましくは80~275KOHmg/g、より好ましくは80~250KOHmg/g程度である。
【0025】
前記の分散剤は、着色剤と混合した状態で使用することができる。また、着色剤の表面に分散剤を被覆させ、いわゆるマイクロカプセル化顔料として使用することもできる。また、これらの両方を併用することもできる。
【0026】
前記インクが水不溶性の着色剤を含有するときは、着色剤と分散剤を含有する分散液を調製した後、他の成分と混合してインクを調製するのが好ましい。分散液の調製方法は、公知の方法を使用することができる。
一例として、分散剤が水に溶解しないときは、転相乳化法が使用できる。すなわち、2-ブタノン等の有機溶剤に第1ポリマーを溶解し、中和剤の水溶液を加えて乳化液を調製する。得られた乳化液に着色剤を加えて分散処理を行う。このようにして得られた液から有機溶剤と一部の水を減圧留去することにより、目的とする着色剤の分散液を得ることができる。
分散処理としては、例えば、着色剤とポリマーとをサンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等に入れて、分散を行う方法が挙げられる。一例として、サンドミルを用いるときは、粒子径が0.01mm~1mm程度のビーズを使用し、ビーズの充填率を適宜設定して分散処理を行うことができる。
前記のようにして得られた分散液に対して、ろ過及び/又は遠心分離等の操作をすることができる。この操作により、分散液が含有する粒子の粒子径の大きさを揃えることができる。
分散液の調製中に泡立ちが生じるときは、公知のシリコーン系、アセチレングリコール系等の消泡剤を極微量加えることができる。
その他の方法としては、酸析法、転相乳化法、界面重合法、in-situ重合法、液中硬化被膜法、コアセルベーション(相分離)法、液中乾燥法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等が挙げられる。これらの中では転相乳化法、酸析法、及び界面重合法が好ましい。
【0027】
分散液中における水不溶性の着色剤の平均粒径(D50)は通常300nm以下、好ましくは30~280nm、より好ましくは40~270nm、さらに好ましくは50~250nmである。
また、同様にD90は通常300nm以下、好ましくは280nm以下、より好ましくは270nm以下である。下限は100nm以上が好ましい。
同様にD10は通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、上限は100nm以下である。
粒径は、レーザ光散乱を用いて測定できる。
【0028】
[バインダー]
前記バインダーとしては、ポリマー及びワックスから選択される、1種類以上が好ましい。但し、顔料の分散剤は、バインダーには含めない。
前記ポリマーとしては、例えば、ウレタン系、ポリエステル、アクリル系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、スチレン-アクリル系、アクリル-シリコーン系、スチレン-ブタジエン系の各ポリマー又はそれを含有するエマルションが挙げられる。これらの中ではウレタン系、アクリル系、及びスチレン-ブタジエン系から選択されるポリマーが好ましい。
前記ポリマーは、合成することも、市販品として購入することもできる。ポリマーを合成するときは、例えば、国際公開2015/147192号ガゼット等が開示するポリマーが好ましい。
市販品としては、例えば、スーパーフレックス 126、130、150、170、210、420、470、820、830、890(第一工業製薬株式会社製のウレタン系樹脂エマルション);ハイドラン HW-350、HW-178、HW-163、HW-171、AP-20、AP-30、WLS-201、WLS-210(DIC株式会社製のウレタン系樹脂エマルション);0569、0850Z、2108(JSR株式会社製のスチレン-ブタジエン系樹脂エマルション);AE980、AE981A、AE982、AE986B、AE104(株式会社イーテック製のアクリル系樹脂エマルション)等が挙げられる。
前記インクの総質量に対するポリマーの含有量は通常0.1%~10%、好ましくは0.2%~8%、より好ましくは0.2%~5%、さらに好ましくは0.2%~1%である。このような含有量のとき、擦過性、再分散性、及び吐出性が良好になる。
【0029】
前記ワックスとしては、ワックスエマルションが好ましく、水系ワックスエマルションがより好ましい。ワックスとしては、天然ワックス及び合成ワックスを用いることができる。
天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等;褐炭系ワックスであるモンタンワックス等;植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリアワックス等;動植物系ワックスである蜜蝋、ラノリン等のワックスを、水性媒体中に分散させたエマルジョン等が挙げられる。
【0030】
合成ワックスとしてはポリアルキレンワックス(好ましくはポリC2-C4アルキレンワックス)、酸化ポリアルキレンワックス(好ましくは酸化ポリC2-C4アルキレンワックス)、及びパラフィンワックスが挙げられる。前記のうち、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス及びパラフィンワックスから選択される1種類以上のワックスが好ましい。
また、ワックスの平均粒径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止するために50nm~5μmが好ましく、100nm~1μmがより好ましい。
【0031】
ワックスエマルジョンの市販品としては、例えば、ビックケミー社製のCERAFLOUR 925、929、950、991;AQUACER 498、515、526、531、537、539、552、1547;AQUAMAT 208、263、272;MINERPOL 221等;三井化学社製の三井ハイワックス NL100、NL200、NL500、4202E、1105A、2203A、NP550、NP055、NP505等;三洋化学社製のKUE-100、11等が挙げられる。
これらの中ではAQUACER 515、531、537、539、1547が好ましく;AQUACER 515、531、537、1547がより好ましい。
前記インクの総質量に対するワックスの含有量は通常0%~10%、好ましくは0%~8%、より好ましくは0%~5%、さらに好ましくは0%~1%である。このような含有量のとき、擦過性、再分散性、及び吐出性が良好になる。
【0032】
前記インクが含有するポリマーとワックスの総質量中における、ポリマーとワックスとの含有比は通常95/5~5/95、好ましくは90/10~10/90、より好ましくは80/20~20/80である。このような比率とすることにより、再分散性、定着性のバランスが良好な記録画像が得られる。
【0033】
[界面活性剤]
前記の洗浄液は、少なくとも2種類の界面活性剤を含有する。そのうちの一方の界面活性剤のHLB値は通常10.0~20.0、好ましくは10.5~20.0、より好ましくは10.5~19.5(以下「界面活性剤A」ということがある。)である。また、他方の界面活性剤のHLB値は通常3.0以上10.0未満、好ましくは3.5以上10.0未満、より好ましくは4.0以上10.0未満(以下「界面活性剤B」ということがある。)である。
界面活性剤A及びBの種類は特に限定されず、ノニオン、アニオン、カチオン、両性、シリコン、及びフッ素等の、各界面活性剤が挙げられる。これらの中ではノニオン、及びアニオンの各界面活性剤から選択される界面活性剤が好ましく、ノニオン界面活性剤がより好ましい。
界面活性剤のHLB値は、以下のようにして算出する。
[HLB値の算出方法]
界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させて溶液を得る。得られた溶液を25℃で攪拌し、この溶液に2質量%フェノール水溶液を滴下し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した2質量%フェノール水溶液の量がQ(mL)のとき、下記式(1)によってHLB値を算出する。算出したHLB値は小数点以下2桁目を四捨五入することにより、小数点以下1桁目までを算出値として用いる。なお、エタノール5mLに溶解しない界面活性剤、及び、2質量%フェノール水溶液を滴下しても混濁を生じない界面活性剤は、界面活性剤A及びBには含まれない。
【0034】
【0035】
[ノニオン界面活性剤]
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(例えば、花王株式会社製のエマルゲン A-60、A-90、A-500)等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;ポリグリコールエーテル系等が挙げられる。これらの市販品としては、例えば、日信化学株式会社のサーフィノール 104、104PG50、82、420、440、465、485、オルフィン STG;花王株式会社製のエマルゲン A-60、A-90、A-500、MS-110;EVONIC社製のTEGO Wet 500、505、510、株式会社日本触媒製のソフタノール30、90、EP-9050;第一工業製薬株式会社製のDKS NL-30;竹本油脂株式会社製のパイオニン D-1502、D-1305P等が挙げられる。
【0036】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0037】
カチオン界面活性剤としては2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0038】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0039】
シリコン界面活性剤としては、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。その一例としては、エアープロダクツ社製のダイノール 960、980;日信化学株式会社製のシルフェイス SAG 001、002、003、005、503A、008、009、010;及び、ビックケミー社製のBYK-345、347、348、349、3455、LP-X23288、LP-X23289、LP-X23347;Evonic Tego Chemie社製のTEGO Twin 4000、TEGO Wet KL 245、250、260、265、270、280等が挙げられる。
【0040】
フッ素界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。
【0041】
下記表1に界面活性剤のHLB値の一例を示す。
【0042】
【0043】
前記洗浄液の総質量に対する、界面活性剤の総含有量は通常0.1%~10%、好ましくは0.2%~8%、より好ましくは0.3%~8%である。このような含有量のとき、再分散性及び洗浄性が良好になる。
【0044】
前記洗浄液が含有する界面活性剤AとBの総質量中における、界面活性剤AとBの含有比は通常8/1~1/8、好ましくは7/1~1/7、より好ましくは6/1~1/6である。このような含有比とすることにより、洗浄性が良好になる。
【0045】
[グリコールエーテル]
前記の洗浄液は、グリコールエーテルを含有することができる。グリコールエーテルとしては、ジ又はトリC2-C4アルキレングリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。
C2-C4アルキレングリコール部分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びブチレングリコールが挙げられる。これらの中ではエチレングリコール、及びプロピレングリコールが好ましく、エチレングリコールがより好ましい。
モノアルキルエーテル部分のアルキルの炭素数の範囲は、通常C1-C6、好ましくはC1-C5、より好ましくはC2-C4、さらに好ましくはC3-C4、特に好ましくはC4である。
その具体例としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらの中ではブチルジグリコールが好ましい。
洗浄液の総質量中における、グリコールエーテルの総含有量は通常0~15%、好ましくは0.1~15%、より好ましくは0.2~13%、さらに好ましくは0.5~10%である。
【0046】
前記インク及び洗浄液は、前記した成分以外に、インク調製剤をさらに含有することができる。インク調製剤としては、例えば、有機溶剤、水溶性高分子化合物、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤等が挙げられる。
インクや洗浄液の総質量に対して、有機溶剤以外のインク調製剤の総含有量は通常0%~30%、好ましくは0%~20%、より好ましくは0%~10%程度である。
【0047】
前記洗浄液は、実質的に着色剤を含有しない。本明細書において「実質的に」とは、洗浄液中に、意図的に着色剤を加えることはしないことを意味する。
【0048】
[有機溶剤]
有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、及び第三ブタノール等の、ヒドロキシ基を1つ有するC1-C6アルカノール;N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-メチルピロリジン-2-オン等のラクタム;1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、及び1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素;アセトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン、及びエチレンカーボネート等の、ケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、及びジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-へキシレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、1,2-オクタンジオール、5-メチル-1,2-ヘキサンジオール、4-メチル-1,2-ヘキサンジオール、4,4-ジメチル-1,2-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、分子量が400以上のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール、チオジグリコール又はジチオジグリコール等の、C2-C8アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ジグリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール、トリメチロールプロパン等のポリオール(トリオール);γ-ブチロラクトン、及びジメチルスルホキシド等から選択される有機溶剤が挙げられる。
【0049】
[水溶性高分子化合物]
水溶性高分子化合物としては、アニオン性、及びノニオン性の高分子化合物が挙げられる。アニオン性高分子化合物としてはカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸等のアクリル酸誘導体、及びポリスチレンスルホン酸塩等のポリスチレン誘導体が挙げられる。ノニオン性高分子化合物としてはポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びゼラチン等があげられる。
【0050】
[防腐剤]
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系又は無機塩系等の化合物が挙げられる。
防腐剤の市販品の具体例としては、アーチケミカル社製のプロクセル GXL(S)、XL-2(S)等が挙げられる。
【0051】
[防黴剤]
防黴剤の具体例としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン及びその塩等が挙げられる。
【0052】
[pH調整剤]
pH調整剤としては、調製されるインク組成物に悪影響を及ぼさずに、そのpHを5~11に調整できれば、任意の物質を使用することができる。
その具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;リン酸二ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0053】
[キレート剤]
キレート試薬の具体例としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、及びウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
[防錆剤]
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0055】
[水溶性紫外線吸収剤]
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホ化されたベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物が挙げられる。
【0056】
[酸化防止剤]
酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及び複素環類等が挙げられる。
【0057】
[消泡剤]
消泡剤としては、例えば、シリコーン系、シリカ鉱物油系、オレフィン系、アセチレン系等が挙げられる。市販の消泡剤で入手可能なものとして、例えば、いずれも信越化学工業株式会社製のサーフィノールDF37、DF58、DF110D、DF220、MD-20、オルフィンSK-14が挙げられる。
消泡剤を使用するとき、その添加量は通常0.01~5%、好ましくは0.03~3%、より好ましくは0.05~1%である。0.01%以上で消泡剤としての効果が得られ、5%以下で分散安定性が良好になる。
【0058】
前記のインク及び洗浄液は、前記した全ての成分について、そのうちの1種類を選択して含有することができる。また、2種類以上を選択して含有することもできる。例えば、洗浄液は式(1)で表される化合物の中から、1種類の化合物を選択して含有することができる。また、2種類以上の化合物を選択して含有することもできる。他の成分についても同様である。
【0059】
[インク付与工程]
前記インクをインクジェット記録用のインクとして使用するときは、インク中における金属陽イオンの塩化物(例えば塩化ナトリウム)、硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム)等の無機不純物の含有量の少ないものを用いるのが好ましい。その無機不純物の含有量の目安は、おおよそ着色剤の総質量に対して1%以下程度であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0%を含む。
無機不純物は、着色剤中に混在していることも多い。このため、必要に応じて無機不純物を除去することができる。その精製方法としては、例えば、着色剤の固体をメタノール等のC1-C4アルコール及び水の混合溶媒等で懸濁精製する方法;又は、インクを調製した後に、イオン交換樹脂で無機不純物を交換吸着する方法等が挙げられる。
【0060】
前記インクのpHは通常7~11、8~10が好ましい。
インクの表面張力は通常10~50mN/m、20~40mN/mが好ましい。
インクの粘度は通常2mPa・s~30mPa・s、3mPa・s~20mPa・sが好ましい。
前記インクのpH、及び表面張力は、pH調整剤、界面活性剤、水溶性有機溶剤等で適宜調整できる。
【0061】
前記インクは、各種の記録において使用することができる。例えば、筆記具、各種の印刷、情報記録、捺染等に好適であり、インクジェット記録に用いることが特に好ましい。
【0062】
前記インクをインクジェット記録に用いるときは、前記インクの液滴を、記録信号に応じて吐出させて記録メディアに付着させることにより記録を行うことができる。インクジェットプリンタのインクノズル、及びインクジェット方式等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
インクジェット記録を行うときは、前記インクを含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填することにより、前記のように記録を行うことができる。
【0063】
インクジェット方式としては、公知の方式が使用できる。インクジェット方式の具体例としては、例えば、電荷制御方式、ドロップオンデマンド(圧力パルス)方式、音響インクジェット方式、サーマルインクジェット方式等が挙げられる。
また、インク中の着色剤の含有量が少ないインクを小さい体積で多数射出して画質を改良する方式;同じか又は類似する色相で、インク中の着色剤の濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式;及び、無色透明のインクを用いることにより、着色剤の定着性を向上させる方式等も含まれる。
【0064】
前記の記録メディアは、前記インクが付着できる物質を意味する。記録メディアの一例としては、例えば、紙、フィルム等、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。
記録メディアは、インク受容層を有するものと、有さないものとに大別することができる。
インク受容層を有する記録メディアは、通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙等と呼ばれる。その代表的な市販品の例としては、キヤノン株式会社製のプロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、光沢ゴールド及びマットフォトペーパー;セイコーエプソン株式会社製の写真用紙クリスピア(高光沢)、写真用紙(光沢)、フォトマット紙;日本ヒューレット・パッカード株式会社製のアドバンスフォト用紙(光沢);富士フィルム株式会社製の画彩写真仕上げPro等が挙げられる。
【0065】
インク受容層を有さない記録メディアとしては、グラビア印刷、オフセット印刷等の用途に用いられるコート紙、アート紙等の各種の用紙;ラベル印刷用途に用いられるキャストコート紙等が挙げられる。
インク受容層を有さない記録メディアを用いるときは、着色剤の定着性等を向上させる目的で、記録メディアに対して表面改質処理を施すことも好ましく行われる。
【0066】
前記の表面改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理及びフレーム処理から選択される、少なくとも1つの処理を施すことが好ましい。これらの処理としては、公知の方法を用いることができる。また、これらの処理の効果は経時的に減弱することが、一般に知られている。このため、情報伝達用シートに表面改質処理を施したときは、時間を置かずにインクジェット記録を連続して行うことが好ましい。
表面改質処理は、所望の効果が得られるように処理の回数、時間、及び、印可する電圧等を適宜調整して行うことができる。
【0067】
前記の洗浄方法は、前記インクが付着した記録装置を、前記の洗浄液で洗浄する方法である。洗浄方法の一例としては、例えば、洗浄液をスポンジ等に吸収させて、記録装置に付着したインクをふき取る方法が挙げられる。記録装置としては特に限定されないが、インクジェットプリンタが好ましい。
また、例えばインクがインクジェットヘッドに付着して乾燥することにより固化する等の、インクジェットヘッドの汚れが激しいときは、洗浄液をインクジェットヘッドに充填して洗浄することもできる。
洗浄液をインクジェットヘッドに充填して洗浄をするときは、洗浄液から夾雑物を除去する目的で、洗浄液を精密濾過するのが好ましい。
精密濾過をするときは、メンブランフィルター及び/又はガラス濾紙等を用いることができる。精密濾過を行うときのフィルター等の孔径は通常0.5μm~20μm、好ましくは0.5μm~10μmである。
【0068】
前記洗浄液のpHは、インクジェットプリンタの部材を腐食させない目的で通常pH5~11、好ましくはpH7~10.5である。
洗浄液の表面張力は通常10mN/m~50mN/m、好ましくは20mN/m~40mN/mである。
洗浄液の粘度は通常30mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下、下限は0.1mPa・s程度である。
【0069】
前記した全ての事項について、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ、より好ましいものとさらに好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
また、前記した全ての成分等は、そのうちの1種類を単独で使用することができるし、2種類以上を併用することもできる。
【0070】
前記洗浄液は、各種の着色剤を含有する水系インクの洗浄に使用することができる。着色剤の一例としては、例えば、酸性染料、直接染料、及び反応染料等の水溶性染料を含有する水系染料インク;分散染料、及び顔料を含有する水不溶性着色剤を含有する水系インク等が挙げられる。
前記洗浄液は洗浄力が高いため、水不溶性着色剤、特に顔料を含有する水系インクの洗浄にも用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。また、洗浄液、及び着色インクの調製は、特に断りのない限り、いずれも攪拌下に行った。
また、実施例中で使用した「水」は、イオン交換水である。
【0072】
[洗浄液1~5の調製]
下記表2に記載の各成分を混合して、それぞれ総量100部の液を得た後、得られた液を3μmのメンブランフィルターで濾過することにより、洗浄液1~5を得た。
【0073】
[比較液1~10の調製]
下記表3に記載の各成分を使用する以外は、前記の洗浄液1~5と同様にして、比較用の洗浄液である比較液1~10を得た。
【0074】
下記表2及び3中の略号等は、以下の意味を有する。また、表2及び3中の数値は「部」である。
Gly:グリセリン
2Py:2-ピロリドン。
BDG:ブチルジグリコール。
SN465:日信化学株式会社製ノニオン界面活性剤、サーフィノール 465。
SN485:日信化学株式会社製ノニオン界面活性剤、サーフィノール 485。
LA-16:第一工業製薬株式会社製アニオン界面活性剤、ハイテノール LA-16。
NL-30:第一工業製薬株式会社製ノニオン界面活性剤、DKS NL-30。
A-90:花王株式会社製ノニオン界面活性剤、エマルゲン A-90。
MS-110:花王株式会社製ノニオン界面活性剤、エマルゲン MS-110。
D-1305P:竹本油脂株式会社製ノニオン界面活性剤、パイオニン D-1305P。
TW500:EVONIC社製ノニオン界面活性剤、TEGO Wet 500。
TW505:EVONIC社製ノニオン界面活性剤、TEGO Wet 505。
TW510:EVONIC社製ノニオン界面活性剤、TEGO Wet 510。
TEA:トリエタノールアミン。
GXL(S):プロキセルGXL(S)。
【0075】
【0076】
【0077】
[ポリマーAの調製]
ジョンクリル678(MW:8500)25部、及びトリエタノールアミン14.3部をイオン交換水60.7部に溶解し、一時間撹拌して溶液を得た。得られた溶液を、ポリマーA溶液とする。なお、ポリマーAは分散剤ではなく、バインダーである。
【0078】
[着色剤の分散液の調製]
国際公開第2013/115071号の合成例3に記載のブロック共重合体を調製し、得られたブロック共重合体(5部)を、2-ブタノン20部に溶解させ、均一な溶液とした。この液に、水酸化ナトリウム(0.4部)を水(50.6部)に溶解させた液を加え、ポリマーA溶液(4部)を添加後、1時間攪拌して乳化液を得た。この乳化液にC.I.Pigment Yellow 74(20部、クラリアント社製HANSA YELLOW 5GX01-JP)を加え、1500rpmの条件下で15時間、サンドグラインダー中で分散処理を行って液を得た。得られた液に水(100部)を滴下した後、この液をろ過し濾液を得た。得られたろ液から、エバポレータで2-ブタノン、及び水の一部を減圧留去することにより、顔料含有量が12.4%の着色剤の分散液(Dp1)を得た。
得られた分散液中の顔料含有量は、株式会社エイ・アンド・デイ社製、MS-70を用いて、乾燥重量法により、液中の全固形分から、顔料含有量の換算値として求めた。
【0079】
[ポリマーBの調製]
国際公開第2015/147192号ガゼットの調製例4を追試することにより、酸価が6KOHmg/g、Tgが0℃、固形分が25%の樹脂エマルションを調製した。これを「ポリマーB」とする。ポリマーBは、バインダーである。
【0080】
[インク1及び2の調製]
下記表4に記載の各成分を混合して総量100部の液を得た後、得られた液を3μmのメンブランフィルターで濾過することにより、評価試験に用いるインク1及び2をそれぞれ得た。
【0081】
下記表4中の略号等は、以下の意味を有する。また、下記表4中の数値は「部」である。
分散液:調製例3の分散液。
TEG:トリエチレングリコール。
1,2HD:1,2-ヘキサンジオール。
SN465:日信化学株式会社製ノニオン界面活性剤、サーフィノール 465。
AQ515:ビックケミー社製ポリエチレンワックス、AQUACER 515(固形分35%)。
【0082】
【0083】
[インクジェット記録]
各インクを、セイコーエプソン株式会社製インクジェットプリンタ、PX-205のカートリッジに充填し、UPM社製のFinesse Matt 115(コート紙)にインクジェット記録を行った。
インクジェット記録は100%Dutyのベタ画像となるように行い、各インクにより記録された記録画像を得た。これを試験片として用い、擦過性試験を行った。
【0084】
[インクの擦過性試験]
各試験片の擦過性を、安田精機製作所製、No.428 学振形摩耗試験機(摩擦試験機II形)を用いて評価した。すなわち、試験片に500gの荷重を掛けた状態で、インクジェット記録した部分を20回擦り合わせ、画像の劣化具合を下記3段階の評価基準で評価した。結果を下記表5及び表6に示す。
乾燥擦過性評価基準:
A:記録画像の傷は、ほとんど確認できなかった。
B:記録画像に傷が認められた。
C:記録画像の傷が非常に大きい。
【0085】
[洗浄液の安定性試験]
前記の調整例1で得た各洗浄液を、室温で12時間静置した後、洗浄液の状態を目視で観察し、その安定性を評価した。評価基準は以下の3段階とした。評価結果を下記表5及び表6に示す。
[評価基準]
A:洗浄液の状態に変化はなかった。
B:液の分離は確認できないが、濁りのような不均一な部分が認められた。
C:洗浄液から分離した液状成分が、洗浄液の表面に浮いているのが観察された。
【0086】
[洗浄液の洗浄性試験]
前記調製例5で得た着色インクをガラスシャーレ上に20マイクロリットル滴下し、60℃の恒温槽に1時間静置して乾燥させることにより、インクが固化した固形物を得た。
得られた固形物に前記調整例1で得た各洗浄液を10ミリリットル滴下し、固形物を洗浄できるか否かを目視で評価した。評価基準は以下の4段階とした。実施例1~5、及び比較例1~10のインクセットと評価結果を下記表5に示す。
[評価基準]
A:固形物の残存が認められず、均一な液となった。
B:固形物の残存は少し認められるが、大部分は均一な液となった。
C:固形物の形状が全く変化しなかったか、又は、ほとんど変化しなかった。
【0087】
下記表5及び表6中、「バインダー量」は、各インクが含有するバインダーの総量を意味し、単位は「部」である。
下記表5及び表6中のバインダーの総量の計算方法の一例を、以下に示す。
[計算例:インクNo.1の総量中における、バインダーの総量]
インクNo.1の総質量中のバインダーの総量は、「着色剤の分散液中のポリマーAの固形分の量」と、「AQ515の固形分の量」と、「ポリマーBの固形分の量」の総和である。なお、これら個別の量の計算においては、最大で小数点以下3桁目まで算出し、小数点以下3桁目を有するときは、これを四捨五入して小数点以下2桁目までを算出値とする。これら個別の量の計算において、小数点以下2桁目までが算出されるときは、その値を算出値とする。さらに、これらの総和を算出するときは、個別の算出値をそのまま使用して総和を求め、その小数点以下2桁目を四捨五入して、小数点以下1桁目までを算出値とする。
着色剤の分散液中のポリマーAの固形分量=インクの総質量中における着色分散液の含有量×着色剤固形分の含有量×着色剤固形分に対するポリマーAの含有量×ポリマーA中の固形分含有量=32.3部×0.124×0.2×0.25=0.200部≒0.20部。
AQ515の固形分の量=インクの総質量中におけるAQ515の含有量×AQ515の固形分含有量=1.4部×0.35=0.49部。
ポリマーBの固形分の量=インクの総質量中におけるポリマーBの含有量×ポリマーBの固形分含有量=2部×0.25=0.50部。
これらの計算結果から、インクNo.1の総質量中のバインダーの総量は、0.20部+0.49部+0.50部=1.19部≒1.2部。
【0088】
【0089】
【0090】
表5及び表6の結果から明らかなように、各実施例の洗浄液は、洗浄液の安定性が優れる。また、インクの擦過性が良好か、良好でないかに係らず、インク難吸収性の記録メディアに記録ができるインクが乾燥して固形物を生じたとき、その固形物を充分に洗浄できることが確認された。一方、比較例1~7および12に使用した洗浄液は、インクの擦過性が良好なものはもとより、良好でないインクが乾燥して固形物を生じたときであっても、その固形物を充分には洗浄できなかった。前記の結果から明らかなように、実施例の洗浄液は、比較例1~7および12に使用した洗浄液と比較して、洗浄性に優れることが確認された。また、比較例8~11に使用した洗浄液は、洗浄性は「A」であったが、洗浄液から分離した成分が目視で確認できるほど、不均一な状態であった。このため、比較例8~11に使用した洗浄液が、長期的に安定した洗浄力を示せるのかが疑問視される結果だった。
【0091】
[洗浄液6]:洗浄液の調製。
下記表7に記載の各成分を使用する以外は、前記の洗浄液1~5と同様にして、洗浄液6を得た。
【0092】
[比較液11~12]:比較用の洗浄液の調製。
下記表7に記載の各成分を使用する以外は、前記の洗浄液1~5と同様にして、比較用の洗浄液である比較液11~12を得た。
【0093】
下記表7中の略号等は、前記表2及び表3に記載の略号等と同じ意味を有する。また、表7中の数値は「部」である。また、表7中の「バインダー量」は、上記の表5及び表6におけるのと同じ意味を有する。
【0094】
【0095】
下記表8に記載のようにインク1と洗浄液6、インク1と比較液11、及びインク1と比較液12のインクセットをそれぞれ調製した。得られたインクセットを用い、上記の[インクジェット記録]、[インクの擦過性試験]、[洗浄液の安定性試験]、[洗浄液の洗浄性試験]を行い、上記と同じ評価基準で評価した。試験結果を下記表8に示す。
【0096】
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のインクセットは、非・難吸収性基材にも記録が可能で、且つ耐擦過性が良好なインク、及びそのインクが乾燥して固形物を生じたときでも、その固形物を洗浄できる洗浄液を有するため、各種の記録用、特にインクジェットプリンタで使用するインクと洗浄液のセットとして極めて有用である。