IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-全固体型二次電池および固体電解質材料 図1
  • 特許-全固体型二次電池および固体電解質材料 図2
  • 特許-全固体型二次電池および固体電解質材料 図3
  • 特許-全固体型二次電池および固体電解質材料 図4
  • 特許-全固体型二次電池および固体電解質材料 図5
  • 特許-全固体型二次電池および固体電解質材料 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】全固体型二次電池および固体電解質材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231101BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231101BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231101BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018215189
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020087525
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄一
(72)【発明者】
【氏名】辻村 知之
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014037(JP,A)
【文献】特開2014-038755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01B 1/06
H01B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置される固体電解質層とを有し、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層のうちいずれか1以上の層は、加熱によりイオン電導度が低下するように相転移する固体電解質材料を含み、
前記固体電解質材料が硫化物固体電解質材料であり、
前記相転移が結晶化によるものであり、
前記固体電解質材料は、200℃以上300℃以下の温度範囲においてイオン電導度が低下するように相転移する全固体型二次電池。
【請求項2】
前記固体電解質材料は、前記正極活物質の分解温度以下の温度においてイオン電導度が低下するように相転移する、請求項1に記載の全固体型二次電池。
【請求項3】
前記固体電解質材料は、LiSおよびPを含む、請求項1又は2のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質材料は、下記式(1)
で表される1種以上の硫化物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
bLiX-(1-b)(cLiS-(1-c)P) (1)
式中、
0.01≦b≦0.7、
0.6≦c≦0.9、および
XはCl、BrおよびIからなる群から選択される少なくとも1種である。
【請求項5】
前記固体電解質材料は、下記式(2)または式(3)で表される1種以上の硫化物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-(1-d)LiPS (2)
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-2(1-d)(0.75LiS-0.25P) (3)
式中、
0.1≦d≦0.7および
0≦e≦1である。
【請求項6】
前記正極活物質は、LiとNi、Co、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上とを含む層状酸化物、硫黄単体および/または硫黄化合物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項7】
下記式(4)または式(5)で表される1種以上の硫化物を含む、固体電解質材料。
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-(1-d)LiPS (4)
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-2(1-d)(0.75LiS-0.25P) (5)
式中、
0.1≦d≦0.7および
0≦e≦1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体型二次電池および固体電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を用いた非水電解質リチウムイオン電池(lithium-ion rechargeable battery)においては、短絡による短絡電流によるジュール熱によって非水電解質リチウムイオン電池が発熱し、有機物である非水電解液が発火したり、電極活物質が酸化燃焼したりする場合がある。このような発熱による非水電解質リチウムイオン電池の熱暴走を防止するために、一般には、一定温度以上となるような発熱時において、セパレーターが溶融してセパレーター中の孔が塞がるように構成されている。これにより、電池内における充放電反応が遮断(シャットダウン(shut down))され、熱暴走が防止される。特に非水電解質リチウムイオン電池はエネルギーが他の二次電池と比較しても大きいため、このような安全機構は特に重要となっている。
【0003】
ところで、近年、電解質として固体電解質を使用した全固体型二次電池が注目されている。全固体型二次電池は、電解液を用いないため、非水電解質リチウムイオン二次電池と比較して安全性が高い。また、全固体型二次電池は、エネルギー(energy)密度が大きく、軽量化、小型化が可能であるとともに、その構成によっては電池寿命を長くすることも可能である。
【0004】
しかしながら従来の非水電解質リチウムイオン電池と同様に電極活物質として酸化物を用いる場合、電極活物質の酸化燃焼から高温に至る可能性は全固体型二次電池においても存在する。したがって、全固体型二次電池においても、過熱時に充放電反応を遮断するためのシャットダウン機構が存在することが望ましい。しかしながら、全固体型二次電池においては固体電解質層そのものが従来のセパレーターの役割を果たしている。固体電解質層自体が溶融することはないため、固体電解質層にシャットダウン機能を付与することは困難である。
【0005】
全固体型二次電池にシャットダウン機能を付与するために、いくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1には、集電体層としてアルミニウム層を配置し、タブ部の表面に酸化カルシウム層を配置した固体電池が開示されている。特許文献2には、固体電解質層の表面におけるリチウム結晶の成長ルートを遮断する位置に、リチウム結晶の成長を物理的に塞ぎ止める遮断層を有するリチウム電池が開示されている。特許文献3には、固体電解質層と正極活物質層との間、または固体電解質層と負極活物質層との間に感熱変形性金属部材が配置された、全固体電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-45594号公報
【文献】特開2009-16213号公報
【文献】特開2016-81883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に開示される技術は、いずれも電池に対し、別途の外部の機構を設けている。このような場合、電池の構造が複雑となったり、小型化が困難となったりする。
【0008】
そこで、本発明は、別途の機構を設けることなく、シャットダウン機能を付与することが可能な全固体型二次電池および当該全固体型二次電池に適用可能な固体電解質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、正極活物質を含む正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置される固体電解質層とを有し、
上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層のうちいずれか1以上の層は、加熱によりイオン電導度が低下するように相転移する固体電解質材料を含む、全固体型二次電池が提供される。
【0010】
本観点によれば、別途の機構を設けることなく、シャットダウン機能を付与することが可能な全固体型二次電池を提供することができる。
【0011】
上記固体電解質材料は、上記正極活物質の分解温度以下の温度においてイオン電導度が低下するように相転移してもよい。
【0012】
この観点によれば、正極活物質の分解反応による発熱を防止することができる。
【0013】
上記固体電解質材料は、200℃以上300℃以下の温度範囲においてイオン電導度が低下するように相転移してもよい。
【0014】
この観点によれば、正極活物質をはじめ全固体型二次電池中の各成分の分解反応を抑制して発熱を抑制することができる。また、比較的早期に発熱が抑制されることにより、全固体型二次電池の周囲に存在し得る他の機器の損傷を防止することができる。
【0015】
上記固体電解質材料は、LiSおよびPを含んでもよい。
【0016】
これにより、別途の機構を設けることなく、シャットダウン機能を付与することが可能となる。
【0017】
上記固体電解質材料は、下記式(1)
で表される1種以上の硫化物を含んでもよい。
bLiX-(1-b)(cLiS-(1-c)P) (1)
式中、
0.01≦b≦0.7、
0.6≦c≦0.9、および
XはCl、BrおよびIからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0018】
これにより、別途の機構を設けることなく、シャットダウン機能を付与することが可能となる。
【0019】
上記固体電解質材料は、下記式(2)または式(3)
で表される1種以上の硫化物を含んでもよい。
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-(1-d)LiPS (2)
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-2(1-d)(0.75LiS-0.25P) (3)
式中、
0.1≦d≦0.7および
0≦e≦1である。
【0020】
これにより、別途の機構を設けることなく、シャットダウン機能を付与することが可能となる。
【0021】
上記正極活物質は、LiとNi、Co、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上とを含む層状酸化物、硫黄単体および/または硫黄化合物を含んでもよい。
【0022】
正極活物質が、これらを含む場合、比較的高い充放電電圧を得ることが可能となる。また、全固体型二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、下記式(4)または式(5)
で表される1種以上の硫化物を含む、固体電解質材料が提供される。
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-(1-d)LiPS (4)
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-2(1-d)(0.75LiS-0.25P) (5)
式中、
0.1≦d≦0.7および
0≦e≦1である。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、別途の機構を設けることなく、シャットダウン機能を付与することが可能な全固体型二次電池および当該全固体型二次電池に適用可能な固体電解質材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の第4の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
図5】実施例2に係る固体電解質材料および加熱後の材料のX線回折チャートである。
図6】実施例5に係る固体電解質材料のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
<1.本発明の着想>
まず、本発明について詳細に説明するに先立ち、本発明に至る経緯について説明する。本発明者らは、全固体型二次電池に対し、別途の構造を追加せずにシャットダウン機能を付与するために、全固体型二次電池を構成する各層の成分について鋭意検討した。このうち、本発明者らは、全固体型二次電池中におけるイオン伝導に大きな影響を与える固体電解質材料に着目した。
【0028】
近年硫化物固体電解質材料のイオン伝導度の向上は著しく、室温において10-2S/cmという電解液の性能と同等もしくは上回るような電解質も報告されている。これらの固体電解質材料は一般的に前駆体を合成した後に300℃以上の高温で熱処理することで得られる。また、固体電解質材料は電解液のように高温で劣化することがないため、基本的に温度が上昇すればするほどイオン伝導度が向上し、電池としての特性が上がる。そのため、一般には、短絡によって電池内部の温度が電極材料の熱暴走に至るような温度(250℃超)に至っても、固体電解質材料はそれを抑制するような役割は果たさない。
【0029】
しかしながら、本発明者らは、各種固体電解質材料を検討する中で、通常の電池使用温度領域(室温~200℃)では高いイオン伝導特性を示しながら、熱暴走の危険性がある温度領域に至ると相転移によってイオン伝導度が低下する固体電解質材料を見出した。全固体型二次電池がこのような固体電解質材料を含むことになり、過熱時において相転移が生じて、全固体型二次電池内のイオン伝導性が低下し、充放電反応が抑制され得る。この結果、全固体型二次電池の熱暴走を抑制可能であることを、本発明者らは見出し、本発明に至った。
【0030】
すなわち、本発明に係る全固体型二次電池は、正極活物質を含む正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置される固体電解質層とを有し、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層のうちいずれか1以上の層は、第1の相を含み、かつ加熱により上記第1の相よりもイオン電導度の低い第2の相を形成可能である固体電解質材料を含む。
【0031】
<2.全固体型二次電池の構成>
[2.1. 第1の実施形態]
次に、図1に基づいて、第1の実施形態に係る全固体型二次電池1の構成について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。全固体型二次電池1は、電解質として固体電解質材料を用いた二次電池である。また、全固体型二次電池1は、リチウムイオンが正極層10、負極層30間を移動する所謂全固体型リチウムイオン二次電池である。
【0032】
図1に示すように、全固体型二次電池1は、正極層10と、固体電解質層20と、負極層30とを備える。なお、本実施形態において、正極層10、固体電解質層20および負極層30のうちいずれか1以上の層は、加熱によりイオン電導度が低下するように相転移する固体電解質材料を含む。。
【0033】
(正極層)
正極層10は、正極集電体11及び正極活物質層12を含む。正極集電体11としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体等が挙げられる。正極集電体11は省略されても良い。
【0034】
正極活物質層12は、正極集電体11と固体電解質層20との間に、これらに接するように配置されている。正極活物質層12は、少なくとも正極活物質を含む。また、正極活物質層12は、電子伝導性を補うために導電剤、イオン伝導性を補うために固体電解質材料をさらに含んでもよい。
【0035】
正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な正極活物質を用いることができる。
【0036】
例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄(単体硫黄)、硫黄化合物、酸化鉄、または酸化バナジウム等を用いて形成することができる。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0037】
また、正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩、特に、Ni、Co、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上と、Liとを含み、かつ層状岩塩型構造を有するリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで、「層状」とは、薄いシート状の形状を表す。また、「岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0038】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNiCoAl(NCA)、またはLiNiCoMn(NCM)(ただし、式中、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0039】
正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、比較的高い充放電電圧を得ることが可能となる。また、全固体型二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0040】
正極活物質は、被覆層によって覆われていても良い。ここで、本実施形態の被覆層は、全固体型二次電池の正極活物質の被覆層として公知のものであればどのようなものであってもよい。被覆層の例としては、例えば、LiO-ZrO等が挙げられる。
【0041】
また、正極活物質が、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質としてニッケル(Ni)を含む場合、全固体型二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質からの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体型二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【0042】
また、正極活物質は、単体硫黄および/または硫黄化合物を含んでいてもよい。これらの化合物は、酸化物系の正極活物質と比較して比容量を大きくできる(例えば単体硫黄の場合1600mAh/gの比容量を有する)という利点がある。硫黄化合物としては、例えばLiS、遷移金属硫化物、硫黄含有高分子材料等が挙げられる。
【0043】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体型二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であれば良い。なお、正極活物質層12における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体型二次電池の正極層に適用可能な範囲であれば良い。
【0044】
なお、正極活物質層12に含まれる固体電解質材料は、固体電解質層20に含まれる固体電解質材料と同種のものであっても、同種でなくてもよい。固体電解質材料の詳細は固体電解質層20の項にて詳細に説明する。
【0045】
また、正極活物質層12には、上述した正極活物質および固体電解質材料に加えて、例えば、導電助剤、結着材、フィラー(filler)、分散剤、イオン導電助剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0046】
正極活物質層12に配合可能な導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノファイバ、金属粉等を挙げることができる。また、正極活物質層12に配合可能な結着剤としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber:SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極活物質層12に配合可能なフィラー、分散剤、イオン導電助剤等としては、一般に全固体型二次電池の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0047】
(固体電解質層)
固体電解質層20は、正極層10および負極層30の間に形成され、固体電解質材料を含む。なお、全固体型二次電池1は、正極層10、負極層30および固体電解質層20の少なくともいずれか1層は、加熱によりイオン電導度が低下するように相転移する固体電解質材料を含む。以下、代表的に固体電解質材料Aについて説明する。
【0048】
固体電解質材料Aは、通常の駆動状態において存在する第1の相(低温相)と、高温領域において形成される第2の相(高温相)との2つの相を形成可能な固体電解質材料である。そして、第2の相のイオン電導度は、第1の相のイオン伝導度よりも小さい。全固体型二次電池1は、このような固体電解質材料Aを含むことにより、通常の駆動時においてはイオン伝導度の大きな第1の相により、好適にリチウムイオンが各層間および各層中において伝達される。この結果、全固体型二次電池1は、電池としての諸性能を十分に発揮できる。一方で、全固体型二次電池1がなんらかの原因により発熱し、一定の温度となった場合には、固体電解質材料Aは第2の相に相転移する。この結果、イオン伝導度の低い第2の相により、全固体型二次電池1中のリチウムイオンの伝達が妨げられ、充放電反応やその他の発熱反応が抑制される。このため、全固体型二次電池1の更なる発熱が抑制され、熱暴走が防止される。
【0049】
固体電解質材料Aは、上述した機能を有すればよいが、正極活物質層12の正極活物質の分解温度以下の温度において第2の相を形成可能であることが好ましい。これにより、正極活物質の分解反応による発熱を防止することができる。
【0050】
また、第2の相が形成される温度は、特に限定されないが、固体電解質材料Aにおいて、好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは200℃以上250℃以下の温度範囲において第2の相が形成される。これにより、正極活物質をはじめ全固体型二次電池1中の各成分の分解反応を抑制して発熱を抑制することができる。また、比較的早期に発熱が抑制されることにより、全固体型二次電池1の周囲に存在し得る他の機器の損傷を防止することができる。
【0051】
具体的な固体電解質材料Aとしては、本発明者らは、LiSおよびPを含む硫化物系固体電解質材料のいくつかにおいて、上述した機能が発現することを見出している。
【0052】
例えば、固体電解質材料Aは、下記式(6)
で表される1種以上の硫化物を含んでもよい。
aLiS-(1-a)P (6)
(式中、0.7<a<0.9である。)
【0053】
このような式(6)で表される硫化物は、非晶質相(第1の相)において比較的高いイオン伝導度を有し、一方で、200℃以上に加熱することにより結晶化して第2の相を形成し、イオン伝導度が低下する。
【0054】
式中、aは、好ましくは0.72以上0.8以下である。
【0055】
また、例えば、固体電解質材料Aは、下記式(1)
で表される1種以上の硫化物を含んでもよい。
bLiX-(1-b)(cLiS-(1-c)P) (1)
(式中、
0.01≦b≦0.7、
0.6≦c≦0.9、および
XはCl、BrおよびIからなる群から選択される少なくとも1種である。)
【0056】
このような式(1)で表される硫化物は、非晶質または250℃以下の加熱処理によって得られる一部結晶質もしくは結晶質を、第1の相として用いることができる。この式(1)で表される硫化物は、第1の相において、比較的高いイオン伝導度を有する。一方で、200℃以上に加熱することにより結晶化して第2の相を形成し、イオン伝導度が低下する。
【0057】
式中、bは、好ましくは0.2以上0.67以下である。また、cは、好ましくは0.7以上0.8以下である。
【0058】
式(1)で表される硫化物の中でも、固体電解質材料Aは、下記式(2)または式(3)で表される1種以上の硫化物を含むことが好ましい。
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-(1-d)LiPS (2)
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-2(1-d)(0.75LiS-0.25P) (3)
式中、
0.1≦d≦0.7および
0≦e≦1である。
【0059】
このような式(2)および式(3)で表される硫化物は、第1の相におけるイオン伝導性に特に優れている。また、当該硫化物は、構成元素としてヨウ化物を含んでいない。ヨウ化物イオンは、3.1V付近に酸化還元電位を有し、全固体型二次電池1の充放電時において還元されることにより、固体電解質材料が劣化する。式(2)または式(3)で表される硫化物は、ヨウ化物を含まないことにより、全固体型二次電池1の充放電時におけるヨウ化物の副反応を防止し、結果として全固体型二次電池1の容量を大きくすることができる。さらに、式(2)または式(3)で表される硫化物は、全固体型二次電池1の充放電時におけるヨウ化物の副反応が防止されることから、長期にわたって全固体型二次電池1の充放電特性が維持され、全固体型二次電池1のサイクル特性がより一層向上する。
【0060】
式中、dは、好ましくは0.1以上0.5以下、より好ましくは0.3以上0.4以下である。また、eは、好ましくは0.5以上1以下、より好ましくは0.6以上0.9以下、さらに好ましくは0.76以上0.85以下である。
【0061】
なお、固体電解質材料Aは、いずれも、合成後、非晶質の状態で用いられるか、あるいは第2の相が発現しないように第2の相が形成しない温度領域において加熱処理されて用いられる。すなわち、固体電解質材料Aは、第2の相が形成する温度領域における加熱処理を経ずに製造され、用いられる。
【0062】
固体電解質層20は、上述した固体電解質材料A以外の固体電解質材料を含んでいてもよい。このような固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Cl)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、Li2-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、これらの固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。これらの固体電解質材料は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0063】
また、上記の固体電解質材料のうち、硫黄と、ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される1種以上の元素とを含有する材料を用いることが好ましい。これにより、固体電解質層20のリチウム伝導性が向上し、全固体二次電池1の電池特性が向上する。特に、固体電解質材料として少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)およびリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましく、特にLiS-Pを含むものを用いることがより好ましい。
【0064】
ここで、固体電解質材料を形成する硫化物系固体電解質材料としてLiS-Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10の範囲で選択されてもよい。
【0065】
また、固体電解質層20が固体電解質材料Aと他の固体電解質材料とを同時に含む場合、固体電解質材料Aによるシャットダウン機能を有効に得るために、固体電解質層20中の固体電解質材料Aの含有量は、例えば20質量%以上、好ましくは50質量%以上である。
なお、他の層が固体電解質材料Aを含む場合、固体電解質層20は、固体電解質材料Aを含まなくてもよい。
【0066】
また、固体電解質層20には、結着剤を更に含んでいても良い。固体電解質層20に含まれる結着剤は、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)等を挙げることができる。固体電解質層20内の結着剤は、正極活物質層12内の結着剤と同種であってもよいし、異なっていても良い。
【0067】
(負極層)
図1に示すように、本実施形態において、負極層30は、負極集電体31と、負極集電体31および固体電解質層20の間に配置される負極活物質層32とを備える。負極集電体31を構成する材料としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)が挙げられる。負極集電体31は、これらの金属のいずれか1種で構成されていても良いし、2種以上の金属の合金で構成されていても良い。負極集電体31は、例えば板状または箔状とされる。
【0068】
また、負極活物質層32中の負極活物質としては、リチウムと合金又は化合物を形成する化合物を用い、かつ、負極活物質の容量が正極活物質層12中の正極活物質の容量よりも小さい場合、負極集電体31は、リチウムと反応しない、すなわち合金および化合物のいずれも形成しない材料で構成されることが好ましい。このような材料としては、例えば銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、およびゲルマニウム(Ge)が挙げられる。
【0069】
負極活物質層32は、負極集電体31と固体電解質層20との間に、これらに接するように配置されている。負極活物質層32は、リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を含む。そして、本実施形態において、負極活物質層32は、このような負極活物質を含むことにより、以下のように負極活物質層32上に金属リチウムを析出させることができるように構成されている。
【0070】
まず、充電時の初期においては、負極活物質層32内のリチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質がリチウムイオンと合金又は化合物を形成することにより、負極活物質層32内にリチウムが吸蔵される。その後、負極活物質層32の容量を超えた後は、負極活物質層32の一方または両方の表面上に金属リチウムが析出する。この金属リチウムによって金属層が形成される。金属リチウムは、合金又は化合物を形成可能な負極活物質を介して拡散しつつ形成されたものであるため、樹状(デンドライト状)ではなく、負極活物質層32の面に沿って均一に形成されたものとなる。放電時には、負極活物質層32および金属層中の金属リチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。したがって、結果的にリチウムを負極活物質として使用することができるので、エネルギー密度が向上する。
【0071】
さらに、金属層が負極活物質層32と負極集電体31との間に形成する場合、負極活物質層32は、金属層を被覆する。これにより、負極活物質層32は、金属層の保護層として機能する。これにより、全固体型二次電池の短絡および容量低下が抑制され、ひいては、全固体型二次電池の特性が向上する。
【0072】
負極活物質層32において金属リチウムの析出を可能とする方法としては、例えば正極活物質層12の充電容量を負極活物質層32の充電容量より大きくする方法が挙げられる。具体的には、正極活物質層12(正極層10)の充電容量a(mAh)と負極活物質層32の充電容量b(mAh)との比(容量比)は、以下の式(I):
0.002<b/a<0.5 (I)
の関係を満足することが好ましい。
【0073】
式(I)で表される容量比が0.002以下の場合、負極活物質層32の構成によっては、全固体二次電池1の特性が低下する場合がある。この理由としては、負極活物質層32がリチウムイオンからの金属リチウムの析出を十分に媒介できず、金属層の形成が適切に行われなくなることが考えられる。この場合、充放電の繰り返しによって負極活物質層32が崩壊し、デンドライトが析出、成長する可能性がある。この結果、全固体二次電池1の特性が低下する。また、金属層が負極活物質層32と負極集電体31との間に生じる場合、負極活物質層32が保護層として十分機能しなくなることが挙げられる。上記容量比は、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上である。
【0074】
また上記容量比が0.5以上であると、充電時において負極活物質層32がリチウムの大部分を貯蔵してしまい、負極活物質層32の構成によっては金属層が十分に形成されない場合がある。上記容量比は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.04以下である。
【0075】
上述する機能を実現するための負極活物質としては、例えば、無定形炭素、金、白金、パラジウム(Pd)、ケイ素(Si)、銀、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫、アンチモン、および亜鉛等が挙げられる。ここで、無定形炭素としては、例えば、カーボンブラック(Carbon black)(アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック((acetylene black, furnace black, ketjen black)等)、グラフェン(graphene)等が挙げられる。
【0076】
負極活物質の形状は特に限定されず、粒状であってもよいし、例えば負極活物質が均一な層、例えばめっき層を構成してもよい。前者の場合、リチウムイオンは、粒状の負極活物質同士の隙間を通り、負極活物質層32と負極集電体31との間にリチウムの金属層を形成可能である。一方で、後者の場合、負極活物質層32と固体電解質層20との間に金属層が析出する。
【0077】
上述した中でも、負極活物質層32は、無定形炭素として、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が100m/g以下である低比表面積無定形炭素と、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が300m/g以上である高比表面積無定形炭素との混合物を含むことが好ましい。
【0078】
負極活物質層32は、これらの負極活物質をいずれか1種だけ含んでいても良いし、2種以上の負極活物質を含んでいても良い。例えば、負極活物質層32は、負極活物質として無定形炭素だけを含んでいても良いし、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン、および亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上を含んでいても良い。また、負極活物質層22は、無定形炭素と、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン、および亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上との混合物を含んでいても良い。無定形炭素と金等の金属との混合物の混合比(質量比)は、1:1~1:3程度であることが好ましい。負極活物質をこれらの物質で構成することで、全固体型二次電池1の特性が更に向上する。
【0079】
ここで、負極活物質として無定形炭素とともに金、白金、パラジウム、アンチモン、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、および亜鉛のいずれか1種以上を使用する場合、これらの負極活物質の粒径は4μm以下であることが好ましい。この場合、全固体型二次電池1の特性が更に向上する。ここで、負極活物質の粒径は、例えば電子顕微鏡画像(例えば走査型電子顕微鏡画像)において各負極活物質について円相当径を算出し、これを算術平均することにより得ることができる。または、負極活物質の粒径は、レーザー回折粒度分布計により得られる、体積基準によるメジアン径(いわゆるD50)であってもよい。このようなメジアン径は、上記の電子顕微鏡画像から算出される算術平均粒径とほぼ一致する。粒径の下限値は特に制限されないが、例えば、0.01μm以上である。
【0080】
また、負極活物質として、リチウムと合金を形成可能な物質、例えば、金、白金、パラジウム、アンチモン、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、および亜鉛のいずれか1種以上を使用する場合、負極活物質層32は、これらの金属層であってもよい。例えば、金属層は、めっき層であることができる。
【0081】
ここで、正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に正極活物質層12中の正極活物質の質量を乗じることで得られる。正極活物質が複数種類使用される場合、正極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を正極活物質層12の充電容量とすれば良い。負極活物質層32の充電容量も同様の方法で算出される。すなわち、負極活物質層32の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に負極活物質層32中の負極活物質の質量を乗じることで得られる。負極活物質が複数種類使用される場合、負極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を負極活物質層32の容量とすれば良い。ここで、正極および負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を対極に用いた全固体ハーフセルを用いて見積もられた容量である。実際には、全固体ハーフセルを用いた測定により正極活物質層12および負極活物質層32の充電容量が直接測定される。この充電容量をそれぞれの活物質の質量で除算することで、充電容量密度が算出される。
【0082】
さらに、負極活物質層32は、必要に応じてバインダを含んでもよい。このようなバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等が挙げられる。バインダは、これらの1種で構成されていても、2種以上で構成されていても良い。このようにバインダを負極活物質層32に含めることにより、特に負極活物質が粒状の場合に負極活物質の離脱を防止することができる。負極活物質層22にバインダを含める場合、バインダの含有率は、負極活物質層22の総質量に対して例えば0.3~20質量%、好ましくは1.0~15質量%、より好ましくは3.0~15質量%である。
【0083】
また、負極活物質層32には、従来の全固体型二次電池で使用される添加剤、例えばフィラー、分散剤、イオン導電剤等が適宜配合されていてもよい。
【0084】
負極活物質層32の厚さは、負極活物質が粒状の場合には、特に制限されないが、例えば1.0~20μm、好ましくは1.0~10μmである。これにより、負極活物質層32の上述した効果を十分に得つつ負極活物質層32の抵抗値を十分に低減でき、全固体型二次電池1の特性を十分に改善できる。
一方で、負極活物質層32の厚さは、負極活物質が均一な層を形成する場合には、例えば、1.0~100nmである。この場合の負極活物質層32の厚さの上限値は、好ましくは95nm、より好ましくは90nm、さらに好ましくは50nmである。
【0085】
また、本実施形態においては、負極活物質層32は、リチウムを含有しない材料により構成されることが好ましい。より具体的には、負極層30中の負極活物質層32は、リチウムを含まなくてもよい。または、負極層30中の負極活物質層32において、リチウム元素の単位面積当たりの含有量が、質量換算で、正極活物質層中の正極活物質のリチウム元素の単位面積当たりの含有量に対し、好ましくは0%超5%以下、より好ましくは0%超2%以下である。
【0086】
なお、負極活物質層32は、上述した態様に限定されない。例えば、負極活物質層32は、全固体型二次電池の負極活物質層として利用可能な任意の構成を採用することが可能である。
【0087】
例えば、負極活物質層32は、負極活物質と、固体電解質材料と、負極層導電助剤とを含む層であることができる。
この場合、例えば、負極活物質として金属活物質またはカーボン(carbon)活物質等を用いることができる。金属活物質としては、例えば、リチウム(Li)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、およびケイ素(Si)等の金属、ならびにこれらの合金等を用いることができる。また、カーボン活物質としては、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alcohol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、および難黒鉛化性炭素等を用いることができる。なお、これらの負極活物質は、単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0088】
以上、第1の実施形態に係る全固体型二次電池1について説明した。本実施形態によれば、全固体型二次電池1の正極層10、固体電解質層20、負極層30のいずれか少なくとも一層において、固体電解質材料Aを含む。これにより、全固体型二次電池1は、駆動時においてはイオン伝導度の大きい第1の相の固体電解質材料Aにより、その電池性能が十分に発揮される。一方で、何らかの原因で全固体型二次電池1が異常発熱した場合には、固体電解質材料Aが第2の相に相転移し、全固体型二次電池1の内部抵抗が上昇し、全固体型二次電池1内の電気化学的反応が抑制される。この結果、全固体型二次電池1の更なる発熱および熱暴走が防止される。したがって、全固体型二次電池1には、別途の機構を設けることなく、シャットダウン機能が備わっている。
【0089】
なお、上述した第1の実施形態においては、固体電解質材料Aが固体電解質層20中に含まれる場合を中心に説明したが、固体電解質材料Aが、正極層10(正極活物質層12)および/または負極層30(負極活物質層32)に含まれてよいことは言うまでもない。この場合においては、固体電解質層20において固体電解質材料Aが含まれていなくてもよい。また、この場合において、正極活物質層12および負極活物質層32の各層の固体電解質材料中に占める固体電解質材料Aの比率は、シャットダウン機能を確実に作用させる観点から、例えば、20質量%以上、好ましくは50質量%以上である。
【0090】
[2.2. 第2の実施形態]
次に、図2に基づいて、第2の実施形態に係る全固体型二次電池1Aの構成について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。以下、上述した第1の実施形態と、本実施形態との差異を中心に説明し、同様の事項については説明を省略する。
【0091】
図2に示す全固体型二次電池1Aにおいては、固体電解質層20Aが第1の固体電解質層21Aと、第2の固体電解質層22Aとを有する点で、上述した第1の実施形態と相違する。
【0092】
第1の固体電解質層21Aは、固体電解質層20Aの正極層10側に配置される層であり、少なくとも固体電解質材料Aを含む。第1の固体電解質層21Aは、好ましくは固体電解質材料Aを50質量%以上含み、より好ましくは本質的に固体電解質材料Aからなり、さらに好ましくは固体電解質材料Aからなる。
【0093】
このように第1の固体電解質層21Aが、均一な層を形成していることにより、異常発熱時において固体電解質材料Aを含む第1の固体電解質層21Aのイオン伝導度が層内に渡り比較的均一に低下する。したがって、局所的な電流集中等による異常発熱をより確実に防止できる。
【0094】
また、第2の固体電解質層22Aは、任意の固体電解質材料により構成され得る。このようにシャットダウン機能を備える第1の固体電解質層21Aを別途設けることにより、第2の固体電解質層22Aは、全固体型二次電池1の性能に応じた固体電解質材料を選択することが可能となる。
【0095】
[2.3. 第3の実施形態]
次に、図3に基づいて、第3の実施形態に係る全固体型二次電池1Bの構成について説明する。図3は、本発明の第3の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
【0096】
図3に示す全固体型二次電池1Bにおいては、固体電解質層20Bが第1の固体電解質層21Bと、第2の固体電解質層22Bとを有する点で、上述した第1の実施形態と相違する。
【0097】
第1の固体電解質層21Bは、固体電解質層20Bの負極層30側に配置される層であり、少なくとも固体電解質材料Aを含む。第2の固体電解質層22Bは、好ましくは固体電解質材料Aを50質量%以上含み、より好ましくは本質的に固体電解質材料Aからなり、さらに好ましくは固体電解質材料Aからなる。また、第2の固体電解質層22Bは、任意の固体電解質材料により構成され得る。
以上のような全固体型二次電池1Bも、前述した全固体型二次電池1Aと同様の作用を奏することができる。
【0098】
[2.4. 第4の実施形態]
次に、図4に基づいて、第4の実施形態に係る全固体型二次電池1Cの構成について説明する。図4は、本発明の第4の実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
【0099】
図4に示す全固体型二次電池1Cにおいては、負極層30Cが、リチウム金属層である点で、上述した第1の実施形態と相違する。
【0100】
リチウム金属層である負極層30Cは、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能であり、かつ、高い導電性を有している。したがって、負極層30Cは、負極活物質層および負極集電体の可能を同時に備えており、これらを別個に配置する必要がない。負極層30Cは、例えば、板状または箔状のリチウム金属を配置することにより形成される。
以上のような全固体型二次電池1Cも、前述した全固体型二次電池1と同様の作用を奏することができる。
【0101】
以上、本発明に係る全固体型二次電池のいくつかの実施形態について例を挙げて説明した。しかしながら、本発明に係る全固体型二次電池は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した各実施形態は、組み合わせで本発明に係る全固体型二次電池に適用されてもよい。
【0102】
例えば、上述した第2、第3の実施形態に係る全固体型二次電池1A、1Bにおいて、第4の実施形態のように、負極層30がリチウム金属層として構成されていてもよい。また、例えば、第4の実施形態に係る全固体型二次電池1Cにおいて、リチウム金属層である負極層30Cに加えて、追加の負極集電体や負極活物質層が配置されていてもよい。
【0103】
また、上述した実施形態においては、固体電解質層20、正極層10において固体電解質材料Aが用いられる態様を説明したが、本発明はこれに限定されず、固体電解質層20、正極層10および負極層30のうちいずれか1層以上において固体電解質材料Aが用いられていればよい。また、固体電解質材料A以外の固体電解質材料を用いても固体電解質層20、正極層10または負極層30を形成してもよい。
【0104】
<3.全固体型二次電池の製造方法>
続いて、上述した全固体型二次電池の製造方法について、第1の実施形態に係る全固体型二次電池1の製造方法を一例に説明する。本実施形態に係る全固体型二次電池1は、例えば、正極層10、負極層30、および固体電解質層20またはそれらの構成材料をそれぞれ製造した後、上記の各層を積層することにより製造することができる。
【0105】
[固体電解質層の作製]
固体電解質層20は、例えば、硫化物系固体電解質材料にて形成された固体電解質材料Aにより作製することができる。
【0106】
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
【0107】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、LiS、P等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、LiSおよびPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間~12時間であり、より好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0108】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、LiS、P等)を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0109】
溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料は、通常非晶質であり、これを粉砕することにより粒子状の固体電解質材料Aを作製することができる。または、混合原料を所定温度で熱処理して、結晶化または部分的に結晶化を行い、これを粉砕することにより粒子状の固体電解質材料Aを作製することができる。
すなわち、混合原料については、第2の相が形成される温度領域での加熱処理を行わないことが好ましい。
【0110】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質材料Aを、例えば、エアロゾルデポジション(aerosol deposition)法、コールドスプレー(cold spray)法、スパッタ法等の公知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層20を作製することができる。なお、固体電解質層20は、固体電解質粒子単体を加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層20は、固体電解質材料と、溶媒、バインダを混合し、塗布乾燥し加圧することにより固体電解質層20を作製してもよい。
【0111】
[正極層の作製]
正極層10は、例えば次の方法で作製することができる。まず、正極活物質を準備する。正極活物質は、公知の方法により製造することができる。
【0112】
次いで、正極活物質、上記で作製した固体電解質材料Aと、各種添加材とを混合し、水または有機溶媒などの溶媒に添加することでスラリー(slurry)またはペースト(paste)を形成する。続いて、得られたスラリーまたはペーストを集電体に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、正極層10を得ることができる。または、正極層10は、固体電解質材料A、正極活物質および各種添加材の混合体を加圧し、圧延することで作製されてもよい。
【0113】
[負極層の作製]
負極層30は、正極層10と同様の方法で作製することができる。具体的には、まず、負極活物質等の負極活物質層32を構成する材料を混合し、水または有機溶媒などの溶媒に添加することでスラリーまたはペーストを形成する。さらに、得られたスラリーまたはペーストを負極集電体31に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、負極層30を得ることができる。
あるいは、負極層30を、負極集電体31上にスッパッタリング等により負極活物質を付与し、負極活物質層32を形成することにより得てもよい。さらには、負極集電体31上に負極活物質層32を構成するための金属箔を配置することにより負極層30を得てもよい。
【0114】
[全固体型二次電池の製造]
さらに、上記の方法で作製した固体電解質層20、正極層10、および負極層30を積層することで、本実施形態に係る全固体型二次電池1を製造することができる。具体的には、固体電解質層20を挟持するように正極層10と負極層30とで積層し、加圧することにより、本実施形態に係る全固体型二次電池1を製造することができる。
【0115】
<4.固体電解質材料>
次に、本発明に係る固体電解質材料について説明する。本発明者らは、上述したシャットダウン機能を有する全固体型二次電池を検討する中で、以下の固体電解質材料が、第1の相を含み、かつ加熱により上記第1の相よりもイオン電導度の低い第2の相を形成可能であるとともに、全固体型二次電池の電池特性を向上させることを見出した。
【0116】
したがって、本発明は、一観点において、下記式(4)または式(5)
で表される1種以上の硫化物を含む、固体電解質材料にも関する。
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-(1-d)LiPS (4)
d(eLiBr-(1-e)LiCl)-2(1-d)(0.75LiS-0.25P) (5)
式中、
0.1≦d≦0.7および
0≦e≦1である。
【0117】
上述した式(4)および式(5)で表される硫化物は、非晶質または250℃以下の加熱処理によって得られる一部結晶質もしくは結晶質を、第1の相として用いることができる。式(4)および式(5)で表される硫化物は、第1の相において、高いイオン伝導度を有する。一方で、200℃以上に加熱することにより結晶化して第2の相を形成し、イオン伝導度が低下する。
【0118】
また、当該硫化物は、構成元素としてヨウ化物を含んでいない。式(4)または式(5)で表される硫化物は、ヨウ化物を含まないことにより、全固体型二次電池の充放電時におけるヨウ化物の副反応を防止し、結果として全固体型二次電池の容量を大きくすることができる。さらに、式(4)または式(5)で表される硫化物は、全固体型二次電池1の充放電時におけるヨウ化物の副反応が防止されることから、長期にわたって全固体型二次電池の充放電特性が維持され、全固体型二次電池のサイクル特性がより一層向上する。
【0119】
なお、dおよびeの値の好ましい範囲およびその理由は、上述した式(2)および式(3)におけるものと同様であるため、説明を省略する。
【実施例
【0120】
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本発明について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本発明に係る全固体型二次電池が下記の例に限定されるものではない。
【0121】
1.固体電解質材料の製造
(実施例1)
0.1LiBr-0.1LiI-0.4LiPSの組成比となるよう、LiS、P、LiI、LiBrを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0122】
得られた粉末を、真空条件で150℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例1に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は9.3×10-4S/cmであった。
【0123】
(実施例2)
0.75LiS-0.25Pの組成比となるよう、LiS、Pを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0124】
得られた粉末を、真空条件で150℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例2に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は4.0×10-4S/cmであった。
【0125】
(実施例3)
LiBr-2LiPSの組成比となるよう、LiS、P、LiBrを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0126】
得られた粉末を、真空条件で200℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例3に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は1.3×10-3S/cmであった。
【0127】
(実施例4)
0.80LiBr-0.20LiCl-2LiPSの組成比となるよう、LiS、P、LiBr、LiClを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0128】
得られた粉末を、真空条件で220℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例4に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は1.7×10-3S/cmであった。
【0129】
(実施例5)
0.75LiBr-0.25LiCl-2LiPSの組成比となるよう、LiS、P、LiBr、LiClを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0130】
得られた粉末を、真空条件で200℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例5に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は1.8×10-3S/cmであった。
【0131】
(実施例6)
0.7LiBr-0.3LiCl-2LiPSの組成比となるよう、LiS、P、LiBr、LiClを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0132】
得られた粉末を、真空条件で200℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例6に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は1.8×10-3S/cmであった。
【0133】
(実施例7)
0.5LiBr-0.5LiCl-2LiPSの組成比となるよう、LiS、P、LiBr、LiClを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0134】
得られた粉末を、真空条件で200℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例7に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は6.3×10-4S/cmであった。
【0135】
(実施例8)
1LiCl-2LiPSの組成比となるよう、LiS、P、LiClを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続した。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。合成された粉末についてラマン分光測定を行い、PS 3-アニオンの存在を示す420cm-1のピークを確認した。
【0136】
得られた粉末を、真空条件で200℃において加熱処理を実施し、イオン伝導度の高い結晶相を析出させ、実施例8に係る固体電解質材料を得た。得られた固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度は0.24×10-3S/cmであった。
【0137】
(比較例1)
Li11の組成比となるよう、LiS、Pを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続し、比較例1に係る固体電解質材料を得た。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。得られた材料の25℃におけるイオン伝導度は8.0×10-5S/cmであった。
【0138】
(比較例2)
Li10GeP12の組成比となるよう、LiS、P、GeSを合計2g秤量し、乳鉢で混合した。混合物2gを45ml容量のZrO製ポットに投入し、直径5mm、3mmのZrOボールとともに遊星ボールミルで混合、合成した。合成条件は380rpmで10min回転5min休憩を繰り返し、X線回折分析において各成分のピークが完全に消失し非晶質となるまで反応を継続し、比較例2に係る固体電解質材料を得た。上記の操作は全てアルゴン雰囲気の環境下(HO、O<0.1ppm)で行われた。得られた材料の25℃におけるイオン伝導度は2.2×10-4S/cmであった。
【0139】
2.加熱評価
各実施例および比較例において、得られた加熱処理前の粉末について、表1に示す温度で加熱処理を行ない、高温相の結晶を形成させた。なお、材料によって結晶の形成温度は異なるため、適宜材料ごとに加熱温度、時間を設定した。得られた高温相の結晶を含む材料について、25℃におけるイオン伝導度を測定した。表1に、各実施例および比較例のイオン伝導度とともに、結果を示す。
【0140】
【表1】
【0141】
表1から明らかなように、実施例1~5、7、8および比較例1、2に係る固体電解質材料は、加熱によりイオン伝導度が変化することが示された。実施例1~5、7、8に係る固体電解質材料は、加熱後にイオン伝導度が低下している。したがって、実施例1~5、7、8に係る固体電解質材料を用いた場合、全固体型二次電池が過熱状態にある際に、固体電解質材料が高温相を形成し、シャットダウン機能を発現することが示唆された。
【0142】
また、実施例6に係る固体電解質材料は、実施例5、7のものと、LiBr、LiClの比率が異なり、さらに、実施例5の比率と実施例7の比率との間の比率を有している。したがって、実施例5、7と同様に、実施例6に係る固体電解質材料を用いた場合、全固体型二次電池が過熱状態にある際に、固体電解質材料が高温相を形成し、シャットダウン機能を発現することが示唆された。
【0143】
これに対し、比較例1、2に係る固体電解質材料は、加熱によりイオン伝導度が上昇した。したがって、比較例1、2に係る固体電解質材料を用いた場合、全固体型二次電池が過熱状態にある際に、固体電解質材料の抵抗が小さくなることにより、熱暴走を抑制できないことが示された。
【0144】
また、図5に、実施例2に係る固体電解質材料および加熱後の材料のX線回折チャートを示す。図5に示すように、固体電解質材料は顕著なピークが検出されず、非晶質として存在していたが、加熱後の材料は、いくつかのピークが検出され、結晶化して高温相を形成していることが確認できた。
【0145】
また、図6に、実施例5に係る固体電解質材料のX線回折チャートを加熱処理の温度毎に示す。図6から明らかなように、250℃の熱処理により、結晶形が明らかに変化していることが確認できた。
【0146】
3.全固体型二次電池(試験用セル)の製造
(実施例9)
(i)正極層の作製
正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)を準備した。また、固体電解質として、実施例4に係る固体電解質材料を準備した。また、導電助剤としてカーボンナノファイバー(CNF)を準備した。ついで、これらの材料を、正極活物質:固体電解質:導電助剤=60:35:5の質量比で混合し、正極層を作製した。
【0147】
(ii)負極層の作製
負極集電体として厚さ30μmのLi箔を準備し、負極層とした。
【0148】
(iii)固体電解質層の作製
上記実施例4に係る固体電解質材料150mgをプレスして固めることにより、固体電解質層を作製した。
【0149】
(iv)全固体型二次電池の作製
正極層、固体電解質層、および負極層をこの順で重ねて、4ton/cmの圧力で加圧成型することにより、実施例9に係る全固体型二次電池(試験用セル)を作製した。
【0150】
(参考例)
正極層および固体電解質層に用いる固体電解質材料として実施例4に係る固体電解質材料に代えてLiI-LiPSを用いた以外は、実施例9と同様にして、参考例に係る全固体型二次電池(試験用セル)を作製した。なお、LiI-LiPSは、LiIおよびLiS-Pを実施例1と同様の条件で遊星ボールミルにより混合、反応させることにより製造したものである。参考例に係るLiI-LiPSの室温におけるイオン伝導度は1.5×10-3S/cmであった。
【0151】
4.電池特性評価
実施例9に係る全固体型二次電池および参考例に係る全固体型二次電池について、以下のように電池特性の評価を行った。
(初回放電容量およびレート維持率)
実施例9に係る全固体型二次電池および参考例に係る全固体型二次電池の初回放電容量およびレート特性について評価を行った。この際にカットオフ電位は、4.25V-2.5V(vs.Li/Li)とし、0.1Cの電流を定電圧定電流(CCCV)にて印加した。放電時の電流は、定電流(CC)にて0.2C、0.33C、1Cの条件でそれぞれ行った。得られた初回放電容量およびレート維持率(0.33C放電時における初回放電容量に対する1C放電時における初回放電容量の比)を表2に示す。
【0152】
(サイクル特性)
実施例9に係る全固体型二次電池および参考例に係る全固体型二次電池の初回放電容量および容量のサイクル維持率について評価を行った。この際にカットオフ電位は、4.25V-2.5V(vs.Li/Li)とし、0.1Cの電流を定電圧定電流(CCCV)にて印加した。放電時の電流は、定電流(CC)にて0.5Cで行った。また、サイクル維持率は、初回放電容量に対する、50サイクル目の放電容量の割合を評価した。サイクル維持率を表2に示す。
【0153】
【表2】
【0154】
表2に示すように、実施例9に係る全固体型二次電池は、参考例に係る全固体型二次電池と比較していずれのレートにおいても初回放電容量が大きく、レート維持率に優れていた。また、実施例9に係る全固体型二次電池は、参考例に係る全固体型二次電池と比較してサイクル維持率にも優れていた。
【0155】
このように、式(4)、(5)で表される固体電解質材料を用いた場合、シャットダウン機能が全固体型二次電池に付与されるのみならず、ヨウ化物を含む固体電解質材料を用いた場合と比較して電池特性が優れていることが示された。
【0156】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0157】
1、1A、1B、1C 全固体型二次電池
10 正極層
11 正極集電体
12 正極活物質層
20、20A、20B 固体電解質層
21A、21B 第1の固体電解質層
22A、22B 第2の固体電解質層
30、30C 負極層
31 負極集電体
32 負極活物質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6