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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ディーゼル機関システム
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/20 20060101AFI20231101BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20231101BHJP
   F02M 59/36 20060101ALI20231101BHJP
   F02M 59/02 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
F02M59/20 Z
F02M51/00 A
F02M59/36 A
F02M59/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019024343
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020133430
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小川 久雄
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-278620(JP,A)
【文献】特開2014-202075(JP,A)
【文献】特開2007-292123(JP,A)
【文献】特開2018-145895(JP,A)
【文献】特開昭62-248865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル機関と、前記ディーゼル機関のコモンレールに液体燃料を圧送するように構成された燃料圧送ポンプと、を含むディーゼル機関システムであって、
回転軸芯を中心として回転可能に構成された前記ディーゼル機関の回転シャフトと、
前記回転シャフトの回転に連動して回転軸芯を中心として回転可能に構成された前記燃料圧送ポンプのポンプカムシャフトと、
前記回転シャフトの回転位相である第1回転位相に対する前記ポンプカムシャフトの相対回転位相を機械的に固定するように構成された相対回転位相固定装置と、
前記第1回転位相を取得するように構成された第1回転位相取得装置と、
前記第1回転位相取得装置が取得した前記第1回転位相に応じて前記燃料圧送ポンプから前記コモンレールに圧送される前記液体燃料の圧送量を制御するように構成された制御装置と、を備え、
前記回転シャフトは、
前記ディーゼル機関のピストンの往復動に連動して回転可能に構成されたクランクシャフトと、
前記クランクシャフトの回転に連動して回転可能に構成された中間シャフトと、を含み、
前記ポンプカムシャフトは、歯と歯溝とが周方向に交互に配置された噛合部を含み、
前記中間シャフトは、歯と歯溝とが周方向に交互に配置されるとともに、前記ポンプカムシャフトの前記噛合部に噛み合わされるように構成された噛合部を含み、
前記相対回転位相固定装置は、
前記ポンプカムシャフトおよび前記中間シャフトのうちの一方のシャフトに設けられるとともに、前記一方のシャフトの前記歯とは異なる歯厚を有する嵌合凸部と、
前記ポンプカムシャフトおよび前記中間シャフトのうちの他方のシャフトに設けられるとともに、前記他方のシャフトの前記歯溝とは異なる溝幅を有し、且つ、前記嵌合凸部に嵌合するように構成された嵌合凹部と、を含み、
前記嵌合凸部は、
前記一方のシャフトにおける互いに周方向に隣接する一対の前記歯と、
前記一方のシャフトの前記一対の歯の間に形成される歯溝を埋めるように該歯溝に嵌合されるとともに、前記一方のシャフトに固定されるように構成された固定部材と、を含み、
前記嵌合凹部は、
前記他方のシャフトにおける互いに周方向に隣接する複数の歯のうちの一つの歯を欠歯にしたような、前記他方のシャフトの二つの前記歯溝の和よりも溝幅が大きな幅広溝部を含み、
前記幅広溝部は、前記一方のシャフトの二つの前記歯の前記歯厚の和よりも歯厚が大きい前記嵌合凸部に嵌合するように構成された、
ディーゼル機関システム。
【請求項2】
前記回転シャフトは、
前記クランクシャフトの一端部の外周から突出する回転シャフト側突出部及び前記中間シャフトの外周から突出する中間シャフト側突出部の夫々と噛合するように構成されたギヤをさらに含み、
前記中間シャフト及び前記ポンプカムシャフトは、同一軸線上に延在するように構成された、
請求項1に記載のディーゼル機関システム。
【請求項3】
前記一方のシャフトの前記噛合部および前記嵌合凸部は、前記一方のシャフトの内周縁に形成され、
前記他方のシャフトの前記噛合部および前記嵌合凹部は、前記他方のシャフトの外周縁に形成された
請求項1又は2に記載のディーゼル機関システム。
【請求項4】
前記一方のシャフトの前記歯および前記歯溝は、前記一方のシャフトの軸線が延在する方向に沿って前記一方のシャフト又は前記他方のシャフトの少なくとも一方の半径よりも長く延在し、
前記他方のシャフトの前記歯および前記歯溝は、前記他方のシャフトの軸線が延在する方向に沿って前記一方のシャフト又は前記他方のシャフトの少なくとも一方の半径よりも長く延在する
請求項1乃至3の何れか1項に記載のディーゼル機関システム。
【請求項5】
前記燃料圧送ポンプは、
前記液体燃料を貯留するように構成された貯留室と、
前記ポンプカムシャフトの外周に設けられるとともに、前記ポンプカムシャフトの回転に連動して回転するように構成されたポンプカムと、
前記ポンプカムの回転に連動して往復動して前記貯留室に貯留された前記液体燃料を加圧するように構成されたプランジャと、
前記貯留室から前記コモンレールに圧送される前記液体燃料の流量を調整するように構成された弁であって、前記制御装置により開閉可能に構成された弁と、を含む
請求項1乃至4の何れか1項に記載のディーゼル機関システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ディーゼル機関と、ディーゼル機関のコモンレールに燃料を圧送するように構成された燃料圧送ポンプと、を含むディーゼル機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コモンレール式のディーゼル機関では、燃料噴射ノズルの噴射圧力に相当する高圧の燃料を貯留するコモンレールが設けられて、上記コモンレールに接続されたインジェクター(燃料噴射弁)からコモンレールに貯留された燃料を噴射するようになっている(特許文献1参照)。インジェクターによる燃料の噴射タイミングや噴射量は、ECU(エンジンコントロールユニット)からインジェクターに送られる信号により電気的に制御されている。
【0003】
インジェクターの燃料噴射率は、コモンレール内の燃料圧力に応じて変化する。ディーゼル機関の運転状態に適した燃料噴射率にするためには、コモンレール内の燃料圧力を制御することが必要となる。コモンレール内の燃料圧力を制御するための手段として、吐出量制御方式の燃料圧送ポンプが用いられることがある。
【0004】
吐出量制御方式の燃料圧送ポンプは、燃料を送るための流路に設けられた吐出量制御弁の開閉タイミングを、ECUから吐出量制御弁に送られる信号により電気的に制御することで、コモンレールに燃料を圧送する燃料圧送ポンプの吐出量(圧送量)を制御するようになっている。
【0005】
特許文献1に示されるように、燃料圧送ポンプには、燃料を貯留するための貯留室と、ディーゼル機関から駆動力(回転力)が伝達されて回転するポンプカムシャフトと、ポンプカムシャフトの外周に設けられて、ポンプカムシャフトの回転に連動して回転するポンプカムと、ポンプカムの回転に連動して往復動して貯留室に貯留された燃料を加圧するプランジャと、を備えるプランジャ式の燃料圧送ポンプがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-161115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プランジャ式の燃料圧送ポンプでは、プランジャのリフト状態に応じて、貯留室内の燃料圧力や燃料圧送ポンプの吐出量が変化する。このため、燃料圧送ポンプの吐出量を精度よく制御するためには、プランジャのリフト状態、又はプランジャに連動するポンプカムやポンプカムシャフトの回転位相を正確に把握することが必要となる。仮にプランジャのリフト状態などを考慮せずに燃料圧送ポンプの吐出量の制御を行うと、燃料圧送ポンプの吐出量が過剰になったり、不足したりする虞がある。
【0008】
一般的に、燃料圧送ポンプは、ディーゼル機関とは別々に開発、製造が行われる。このため、プランジャのリフト状態などを正確に把握するためのセンサは、上記プランジャを備える燃料圧送ポンプに設けられる。上記センサとしては、ポンプカムシャフトの回転位相を検知するための回転センサが挙げられる。また、ディーゼル機関には、ディーゼル機関の運転状態を把握するために、ディーゼル機関の駆動シャフト(クランクシャフトやカムシャフトなど)の回転位相を検知するための回転センサが設けられる。
【0009】
燃料圧送ポンプとディーゼル機関とを含むディーゼル機関システムは、燃料圧送ポンプが備える回転センサ、およびディーゼル機関が備える回転センサからの信号をECUに取り込み、ECUに取り込んだ複数の回転センサからの信号に応じて、ディーゼル機関や燃料圧送ポンプの制御を行う必要があるため、ディーゼル機関システムの構造や制御の複雑化を招いていた。
【0010】
上述した事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、構造や制御の複雑化を防止することができるディーゼル機関システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の少なくとも一実施形態にかかるディーゼル機関システムは、
ディーゼル機関と、上記ディーゼル機関のコモンレールに液体燃料を圧送するように構成された燃料圧送ポンプと、を含むディーゼル機関システムであって、
回転軸芯を中心として回転可能に構成された上記ディーゼル機関の回転シャフトと、
上記回転シャフトの回転に連動して回転軸芯を中心として回転可能に構成された上記燃料圧送ポンプのポンプカムシャフトと、
上記回転シャフトの回転位相である第1回転位相に対する上記ポンプカムシャフトの相対回転位相を機械的に固定するように構成された相対回転位相固定装置と、
上記第1回転位相を取得するように構成された第1回転位相取得装置と、
上記第1回転位相取得装置が取得した上記第1回転位相に応じて上記燃料圧送ポンプから上記コモンレールに圧送される上記液体燃料の圧送量を制御するように構成された制御装置と、を備える。
【0012】
上記(1)の構成によれば、ポンプカムシャフトは、回転シャフトに対する相対回転位相が相対回転位相固定装置により機械的に固定されている。このため、回転シャフトの回転位相からポンプカムシャフトの回転位相が一意に決定されるようになっている。つまり、第1回転位相取得装置が取得した第1回転位相から、ポンプカムシャフトやポンプカムの回転位相や、プランジャのリフト状態を把握することができ、制御装置は、第1回転位相に応じて、すなわち、第1回転位相から把握されるプランジャのリフト状態などに応じて、燃料圧送ポンプの圧送量を制御することができる。
【0013】
上記の構成によれば、燃料圧送ポンプにポンプカムシャフトの回転位相を検出するための回転センサを用いることなく、燃料圧送ポンプの圧送量を制御することが可能となる。つまり、ディーゼル機関システムは、ポンプカムシャフトの回転位相を検出するための回転センサが不要となるので、ディーゼル機関システムの構造の複雑化を防止することができる。また、ディーゼル機関システムは、ポンプカムシャフトの回転位相を検出するための回転センサの検出結果に応じた制御が不要となるので、ディーゼル機関システムの制御の複雑化を防止することができる。
【0014】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のディーゼル機関システムであって、上記ポンプカムシャフトは、歯と歯溝とが周方向に交互に配置された噛合部を含み、上記回転シャフトは、歯と歯溝とが周方向に交互に配置されるとともに、上記ポンプカムシャフトの上記噛合部に噛み合わされるように構成された噛合部を含み、上記相対回転位相固定装置は、上記ポンプカムシャフトおよび上記回転シャフトのうちの一方のシャフトに設けられるとともに、上記一方のシャフトの上記歯とは異なる歯厚を有する嵌合凸部と、上記ポンプカムシャフトおよび上記回転シャフトのうちの他方のシャフトに設けられるとともに、上記他方のシャフトの上記歯溝とは異なる溝幅を有し、且つ、上記嵌合凸部に嵌合するように構成された嵌合凹部と、を含む。
【0015】
上記(2)の構成によれば、一方のシャフトに設けられる嵌合凸部が、他方のシャフトに設けられる嵌合凹部に嵌合することで、一方のシャフトに設けられる歯および歯溝の夫々は、他方のシャフトに設けられる歯および歯溝のうちの、特定の歯溝や歯に噛合する。つまり、一方のシャフトおよび他方のシャフトは、互いの相対回転位相が機械的に固定される。上記の構成によれば、回転シャフトの回転位相からポンプカムシャフトの回転位相が一意に決定されるようになっている。
【0016】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のディーゼル機関システムであって、上記一方のシャフトの上記噛合部および上記嵌合凸部は、上記一方のシャフトの内周縁に形成され、上記他方のシャフトの上記噛合部および上記嵌合凹部は、上記他方のシャフトの外周縁に形成された。
【0017】
上記(3)の構成によれば、一方のシャフトは、内周縁に形成された嵌合凸部が他方のシャフトの外周縁に形成された嵌合凹部に嵌合し、且つ、内周縁に形成された噛合部が他方のシャフトの外周縁に形成された噛合部に噛合した状態で、他方のシャフトに連動して回転する。つまり、一方のシャフトは、周方向の全周に亘り他方のシャフトに嵌合や噛合しているので、一方のシャフトおよび他方のシャフトの外周縁に形成された噛合部の一部同士が噛合した状態よりも、一方のシャフトと他方のシャフトとの間の結合力を向上させることができ、一方のシャフトと他方のシャフトとの間で伝達できるトルクを大きくすることができる。
【0018】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載のディーゼル機関システムであって、上記嵌合凸部は、上記一方のシャフトにおける互いに周方向に隣接する一対の歯と、上記一対の歯の間に配置されるとともに、上記一方のシャフトに固定されるように構成された固定部材と、を含む。
【0019】
上記(4)の構成によれば、一方のシャフトにおける互いに周方向に隣接する一対の歯の間に固定部材を配置し、上記固定部材を一方のシャフトに固定することで、嵌合凸部を形成することができる。このため、周方向に複数の歯および歯溝を有する歯車や外スプラインなどのような、既存の噛合部材に対して嵌合凸部を設ける改造を容易に行うことができる。
【0020】
(5)幾つかの実施形態では、上記(2)~(4)の何れかに記載のディーゼル機関システムであって、上記嵌合凸部は、上記一方のシャフトの上記歯よりも歯厚が厚くなるように構成され、上記嵌合凹部は、上記他方のシャフトの上記歯溝よりも溝幅が長くなるように構成された。
【0021】
上記(5)の構成によれば、嵌合凸部は、一方のシャフトの歯よりも歯厚が厚くなるように構成されたので、誤って他方のシャフトの歯溝に嵌合することを防止することができる。また、上記の構成によれば、嵌合凸部の歯厚を一方のシャフトの歯よりも薄くした場合に比べて、嵌合凸部や嵌合凹部の視認性が高く、嵌合凸部を嵌合凹部に嵌合させるための一方のシャフトと他方のシャフトとの位置合わせ作業を容易に行うことができる。
【0022】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)~(5)の何れかに記載のディーゼル機関システムであって、上記一方のシャフトの上記歯および上記歯溝は、上記一方のシャフトの軸線が延在する方向に沿って上記一方のシャフト又は上記他方のシャフトの少なくとも一方の半径よりも長く延在し、上記他方のシャフトの上記歯および上記歯溝は、上記他方のシャフトの軸線が延在する方向に沿って上記一方のシャフト又は上記他方のシャフトの少なくとも一方の半径よりも長く延在する。
【0023】
上記(6)の構成によれば、一方のシャフトおよび他方のシャフトの夫々に形成された歯および歯溝は、各々のシャフトの軸線が延在する方向に沿って、一方のシャフト又は他方のシャフトの少なくとも一方の半径よりも長く延在するので、一方のシャフトと他方のシャフトとの間の結合力を向上させることができ、一方のシャフトと他方のシャフトとの間で伝達できるトルクを大きくすることができる。
【0024】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)~(6)の何れかに記載のディーゼル機関システムであって、上記回転シャフトは、クランクシャフト、又は、上記クランクシャフトに連動して回転するように構成された中間シャフトの何れか一方を含む。
【0025】
上記(7)の構成によれば、回転シャフトは、クランクシャフト、又は、クランクシャフトに連動して回転するように構成された中間シャフトの何れかであればよいので、ディーゼル機関における回転シャフトのレイアウトの自由度を向上させることができる。また、回転シャフトのレイアウト性を向上させることで、回転シャフトに連動するポンプカムシャフトを有する燃料圧送ポンプのレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0026】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)~(7)の何れかに記載のディーゼル機関システムであって、上記燃料圧送ポンプは、上記液体燃料を貯留するように構成された貯留室と、上記ポンプカムシャフトの外周に設けられるとともに、上記ポンプカムシャフトの回転に連動して回転するように構成されたポンプカムと、上記ポンプカムの回転に連動して往復動して上記貯留室に貯留された上記液体燃料を加圧するように構成されたプランジャと、上記貯留室から上記コモンレールに圧送される上記液体燃料の流量を調整するように構成された弁であって、上記制御装置により開閉可能に構成された弁と、を含む。
【0027】
上記(8)の構成によれば、燃料圧送ポンプは、貯留室、ポンプカム、プランジャおよび上記弁を含むプランジャ式のポンプである。上記の構成によれば、プランジャ式のポンプに対して、ポンプカムシャフトの回転位相を検出するための回転センサを用いることなく、制御装置により吐出量の制御することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、構造や制御の複雑化を防止することができるディーゼル機関システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態にかかるディーゼル機関システムの概略構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態における燃料圧送ポンプを説明するための説明図である。
図3】ポンプカム角とポンプカムのリフト状態と弁の開閉タイミングとの関係を説明するためのグラフである。
図4図3に示す期間P1における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。
図5図3に示す期間P2における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。
図6図3に示す期間P3における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。
図7図3に示す期間P4における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。
図8図1におけるポンプカムシャフトと中間シャフトとの連結部を拡大して示す概略断面図である。
図9図8におけるA-A線矢視の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態にかかるディーゼル機関システムの概略構成を示す断面図である。
本発明の幾つかの実施形態にかかるディーゼル機関システム1は、図1に示されるように、ディーゼル機関2と、ディーゼル機関2のコモンレール3に液体燃料を圧送するように構成された燃料圧送ポンプ4と、を含む。
【0032】
ディーゼル機関2(ディーゼルエンジン)は、図1に示されるように、上述したコモンレール3と、少なくとも一つの燃焼室21と、少なくとも一つのインジェクター22と、クランクシャフト51と、回転センサ6と、制御装置7と、を備える。
図示される実施形態では、ディーゼル機関2は、図1に示されるように、少なくとも一つのシリンダ23と、少なくとも一つのピストン24と、エンジンケーシング25と、少なくとも一つの軸受26と、少なくとも一つのコンロッド27と、ギヤボックスケーシング28と、少なくとも一つの軸受29と、中間シャフト52と、ギヤ53と、をさらに備える。
【0033】
コモンレール3は、インジェクター22の噴射圧力に相当する高圧の液体燃料を貯留するように構成されている。コモンレール3内に貯留された高圧の液体燃料は、インジェクター22に送られる。
インジェクター22は、図1に示されるように、エンジンの各気筒に対応して設けられており、制御装置7の制御に従い、コモンレール3から送られ高圧の液体燃料を燃焼室21内に噴射するように構成されている。図示される実施形態では、ディーゼル機関2は、直列6気筒エンジンである。
【0034】
燃焼室21は、図1に示されるように、シリンダ23と、シリンダ23内で往復動するように構成されたピストン24と、により画定される。
【0035】
ディーゼル機関2は、燃焼室21内でピストン24により圧縮されて発火点を越えた圧縮空気に、インジェクター22により高圧の液体燃料を噴射することで、液体燃料を自然発火させる。ピストン24は、液体燃料を自然発火させることで生じた燃焼ガスが膨張することで、押し出されてシリンダ23内で往復動して駆動力を発生させる。
【0036】
クランクシャフト51は、図1に示されるように、ピストン24の往復動に連動して、回転軸芯C1を中心として回転可能に構成されている。中間シャフト52は、図1に示されるように、クランクシャフト51の回転軸芯C1を中心とする回転に連動して、回転軸芯C2を中心として回転可能に構成されている。
【0037】
図示される実施形態では、クランクシャフト51は、図1に示されるように、エンジンケーシング25内に収納され、エンジンケーシング25に固定された一対の軸受26に回転自在に支持されている。クランクシャフト51は、軸線L1の延在する方向(図中左右方向)における一対の軸受26との間に、コンロッド27の一端に連結される連結部511が設けられている。コンロッド27の他端はピストン24に連結されている。このため、クランクシャフト51は、連結部511に連結されたコンロッド27を介して、ピストン24の往復動に連動して回転軸芯C1を中心として回転するようになっている。
【0038】
図示される実施形態では、中間シャフト52は、図1に示されるように、ギヤボックスケーシング28内に収納され、ギヤボックスケーシング28に固定された一対の軸受29に回転自在に支持されている。また、中間シャフト52は、少なくとも一つのギヤ53を介して、クランクシャフト51から回転力が伝達されるように構成されている。なお、他の実施形態では、中間シャフト52は、ギヤ53を介さずに、クランクシャフト51から直接回転力が伝達されるように構成されていてもよい。
【0039】
図1に示される実施形態では、クランクシャフト51は、軸線L1の延在する方向における一端512(図中右側)が、エンジンケーシング25よりも外側に突出している。クランクシャフト51は、一端512の外周から外側に突出する突出部513を含む。突出部513は、外周縁に噛合部514を有する円板状に形成されている。
ギヤ53は、外周縁に噛合部531を有する円板状に形成されており、クランクシャフト51の噛合部514および中間シャフト52の噛合部521に噛合部531が噛合するように構成されている。
【0040】
また、図1に示される実施形態では、中間シャフト52は、軸線L2の延在する方向(図中左右方向)に沿って長手方向を有する胴体部522と、胴体部522の長手方向における一端(図中右側)の外周から外側に突出する突出部523と、を含む。突出部523は、外周縁に上述した噛合部521を有する円板状に形成されている。
クランクシャフト51の噛合部514、中間シャフト52の噛合部521およびギヤ53の噛合部531の夫々は、歯と歯溝とが周方向に交互に配置されている。
【0041】
図1に示される実施形態では、ギヤボックスケーシング28は、クランクシャフト51の上述した一端512、ギヤ53および中間シャフト52を収納している。
【0042】
図示される実施形態では、燃料圧送ポンプ4のポンプカムシャフト8は、図1に示されるように、中間シャフト52の回転軸芯C2を中心とする回転に連動して、回転軸芯C3を中心として回転可能に構成されている。ポンプカムシャフト8は、図1に示されるように、長手方向における一端81(図中左側)が、ポンプケーシング41内に収納され、ポンプケーシング41に固定された一対の軸受42に回転自在に支持されている。
上述したように、中間シャフト52は、クランクシャフト51の回転に連動して回転する。よって、ポンプカムシャフト8は、クランクシャフト51の回転軸芯C1を中心とする回転に連動して、回転軸芯C3を中心として回転可能に構成されていることになる。
【0043】
図示される実施形態におけるクランクシャフト51や中間シャフト52のような、各々の回転軸芯を中心とする回転に連動させて、ポンプカムシャフト8を回転させるように構成された部材を回転シャフト5とする。つまり、回転シャフト5には、クランクシャフト51、中間シャフト52、又はクランクシャフト51に連動して回転可能に構成された不図示のカムシャフトなどが含まれる。
【0044】
ディーゼル機関システム1は、図1に示されるように、回転シャフト5の回転位相に対するポンプカムシャフト8の相対回転位相を機械的に固定するように構成された相対回転位相固定装置9を備える。相対回転位相固定装置9により、ポンプカムシャフト8の回転位相は、回転シャフト5の回転位相に対して変化しないようになっており、回転シャフト5の回転位相からポンプカムシャフト8の回転位相が一意に決定されるようになっている。
【0045】
回転センサ6(第1回転位相取得装置)は、図1に示されるように、回転シャフト5の回転位相を取得するように構成されている。図示される実施形態では、回転センサ6は、図1に示されるように、クランクシャフト51の外周近傍に配置され、クランクシャフト51の回転位相を検出可能に構成されている。なお、他の実施形態では、回転センサ6は、クランクシャフト51に連動して回転する中間シャフト52の外周近傍に配置され、中間シャフト52の回転位相を検出可能に構成されていてもよい。
【0046】
制御装置7は、図1に示されるように、回転センサ6(第1回転位相取得装置)が取得した回転シャフト5の回転位相に応じて燃料圧送ポンプ4からコモンレール3に圧送される液体燃料の圧送量を制御するように構成されている。図示される実施形態では、制御装置7は、燃料圧送ポンプ4からコモンレール3に圧送される液体燃料の圧送量を制御するための電子制御ユニットである。制御装置7は、中央処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、およびI/Oインターフェイスなどからなるマイクロコンピュータとして構成されていてもよい。
【0047】
また、図示される実施形態では、制御装置7は、回転センサ6などのセンサ類で測定された信号に基づく制御を、燃料圧送ポンプ4の弁45図2参照)に対して実行可能に構成されている。弁45の開閉タイミングは、制御装置7から弁45に送られる信号により電気的に制御されている。制御装置7は、弁45の開閉タイミングを制御することで、コモンレール3に燃料を圧送する燃料圧送ポンプ4の吐出量(圧送量)を制御するようになっている。
【0048】
また、図示される実施形態では、制御装置7は、ディーゼル機関2や燃料圧送ポンプ4のセンサ類で測定された信号に基づく制御を、インジェクター22に対して実行可能に構成されている。インジェクター22による燃料の噴射タイミングや噴射量は、制御装置7からインジェクター22に送られる信号により電気的に制御されている。
【0049】
図2は、本発明の一実施形態における燃料圧送ポンプを説明するための説明図である。
燃料圧送ポンプ4は、図2に示されるように、ディーゼル機関システム1が備える燃料タンク11(燃料貯留装置)から送られた液体燃料を、ディーゼル機関2のコモンレール3に圧送するように構成されている。燃料タンク11は、ディーゼル機関2で使用される液体燃料を貯留するように構成されている。
【0050】
燃料圧送ポンプ4は、図2に示されるように、燃料タンク11から送られた液体燃料を貯留するように構成された少なくとも一つの貯留室48と、上述したポンプカムシャフト8と、ポンプカムシャフト8の外周に設けられるとともに、ポンプカムシャフト8の回転に連動して回転するように構成された少なくとも一つのポンプカム43と、ポンプカム43の回転に連動して往復動して貯留室48に貯留された液体燃料を加圧するように構成された少なくとも一つのプランジャ44と、貯留室48からコモンレール3に圧送される液体燃料の流量を調整するように構成された少なくとも一つの弁45であって、上述した制御装置7により開閉タイミングが制御されるように構成された少なくとも一つの弁45(2方電磁弁)と、を含む。
【0051】
図示される実施形態では、燃料圧送ポンプ4は、図2に示されるように、燃料供給口411、余剰燃料排出口412および高圧燃料吐出口413を有する上述したポンプケーシング41と、上述した一対の軸受42と、燃料供給口411から少なくとも一つの貯留室48に燃料を送るための導入流路491と、導入流路491の途中から分岐して、余剰燃料排出口412に余剰燃料を送るための返送流路492と、返送流路492に設けられるリリーフ弁47と、少なくとも一つの貯留室48から高圧燃料吐出口413に燃料を送るための吐出流路493と、吐出流路493に設けられるとともに、ばねに付勢されて所定圧以下の燃料を吐出流路493の下流側に流さないように構成された少なくとも一つのチェック弁46と、をさらに含む。上述した弁45は、導入流路491と貯留室48との間に設けられている。
【0052】
図示される実施形態では、ディーゼル機関システム1は、図2に示されるように、燃料タンク11と燃料圧送ポンプ4の燃料供給口411とを繋ぐように構成された燃料導入管路12と、燃料圧送ポンプ4の余剰燃料排出口412と燃料タンク11とを繋ぐように構成された燃料返送管路13と、燃料圧送ポンプ4の高圧燃料吐出口413とコモンレール3の燃料供給口31とを繋ぐように構成された燃料吐出管路14と、を備える。
【0053】
図2に示される実施形態では、燃料圧送ポンプ4は、図2に示されるように、一対のポンプカム43(43A、43B)と、一対のプランジャ44(44A、44B)と、一対の弁45(45A、45B)と、一対のチェック弁46(46A、46B)と、を含む。
【0054】
図3は、ポンプカム角とポンプカムのリフト状態と弁の開閉タイミングとの関係を説明するためのグラフである。
【0055】
図3に示されるように、プランジャ44A、44Bの夫々は、ポンプカム43(43A、43B)のリフト状態に連動してリフト(上昇又は下降)するように構成されている。図3に示される実施形態では、プランジャ44A、44Bの夫々は、ポンプカムシャフト8が一回転する際に、上昇および下降を2回繰り返すようになっている。また、ポンプカム43Bは、ポンプカム43Aとの間に90度の回転位相差を有するようにポンプカムシャフト8に取り付けられているので、プランジャ44Bは、プランジャ44Aに対して上昇および下降のタイミングが90度遅れるようになっている。
【0056】
上述した弁45は、図3に示されるように、電気が通電していなければ開いており、電気が通電すると閉じるように構成されたノーマルオープン式の弁である。図3に示されるように、弁45は、制御装置7により制御されて、プランジャ44のリフト状態が下降状態、又は上昇の初期状態にあるときは、開いた状態となり、プランジャ44のリフト状態が上昇の後期状態になると、閉じた状態となるようになっている。
【0057】
図4は、図3に示す期間P1における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。
図4に示されるように、プランジャ44のリフト状態が下降状態のときは、弁45が開いており、プランジャ44の下降により貯留室48内が導入流路491よりも負圧状態になるため、液体燃料が燃料導入管路12(図2参照)および導入流路491を通り、貯留室48の内部に引き込まれるようになっている。
【0058】
図5は、図3に示す期間P2における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。
図5に示されるように、プランジャ44のリフト状態が上昇の初期状態、すなわち、ポンプカム角が所定角度以下のときは、弁45は開いたままであり、上昇するプランジャ44の先端面441に押されて液体燃料が圧縮される。液体燃料が所定圧以上になると、リリーフ弁47が開いて液体燃料の一部が返送流路492および燃料返送管路13(図2参照)を通り、燃料タンク11に戻される。
【0059】
図示される実施形態では、図3に示されるように、上昇開始時におけるポンプ角を0度とした際に、上述した所定角度は、40度以上70度以下の範囲内にある。上述した所定角度は、好ましくは50度以上60度以下の範囲内にある。
【0060】
図6は、図3に示す期間P3における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。図7は、図3に示す期間P4における燃料圧送ポンプの状態を示す概略断面図である。ここで、図3における期間P4は、制御装置7からの通電が止まり弁45が開く動作を開始するまでの期間である。
図6、7に示されるように、プランジャ44のリフト状態が上昇の後期状態、すなわち、ポンプカム角が上記所定角度を越えた時は、弁45が閉じて、貯留室48内から導入流路491に液体燃料が戻らないようになる。貯留室48内に閉じ込められた液体燃料は、上昇するプランジャ44の先端面441に押されて圧縮されて高圧となる。図6、7に示されるように、貯留室48内に閉じ込められた液体燃料が所定圧以上になると、チェック弁46が開いて、貯留室48内の液体燃料が吐出流路493および燃料吐出管路14(図2参照)を通り、コモンレール3に圧送される。
【0061】
幾つかの実施形態にかかるディーゼル機関システム1は、図1に示されるように、上述したディーゼル機関2の回転シャフト5と、上述した燃料圧送ポンプ4のポンプカムシャフト8と、上述した相対回転位相固定装置9と、上述した回転センサ6(第1回転位相取得装置)と、上述した制御装置7と、を備える。
【0062】
上記の構成によれば、ポンプカムシャフト8は、回転シャフト5に対する相対回転位相が相対回転位相固定装置9により機械的に固定されている。このため、回転シャフト5の回転位相からポンプカムシャフト8の回転位相が一意に決定されるようになっている。つまり、回転センサ6(第1回転位相取得装置)が取得した第1回転位相(回転シャフト5の回転位相)から、ポンプカムシャフト8やポンプカム43の回転位相や、プランジャ44のリフト状態を把握することができ、制御装置7は、第1回転位相に応じて、すなわち、第1回転位相から把握されるプランジャ44のリフト状態などに応じて、燃料圧送ポンプ4の圧送量を制御することができる。
【0063】
上記の構成によれば、燃料圧送ポンプ4にポンプカムシャフト8の回転位相を検出するための回転センサを設けることなく、燃料圧送ポンプ4の圧送量を制御することが可能となる。つまり、ディーゼル機関システム1は、ポンプカムシャフト8の回転位相を検出するための回転センサが不要となるので、ディーゼル機関システム1の構造の複雑化を防止することができる。また、ディーゼル機関システム1は、ポンプカムシャフト8の回転位相を検出するための回転センサの検出結果に応じた制御が不要となるので、ディーゼル機関システム1の制御の複雑化を防止することができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、制御装置7は、第1回転位相に応じて、すなわち、第1回転位相から把握されるプランジャ44のリフト状態などに応じて、インジェクター22による燃料の噴射タイミングを制御するようになっている。上記の構成によれば、インジェクター22の燃料噴射率をディーゼル機関2の運転状態に適した燃料噴射率にすることができるとともに、ディーゼル機関システム1の制御の複雑化を防止することができる。
【0065】
図8は、図1におけるポンプカムシャフトと中間シャフトとの連結部を拡大して示す概略断面図である。図9は、図8におけるA-A線矢視の概略断面図である。
【0066】
幾つかの実施形態では、上述したポンプカムシャフト8は、図9に示されるように、歯85と歯溝86とが周方向に交互に配置された噛合部83を含み、上述した中間シャフト52(回転シャフト5)は、歯55と歯溝56とが周方向に交互に配置されるとともに、ポンプカムシャフト8の噛合部83に噛み合わされるように構成された噛合部54を含む。上述した相対回転位相固定装置9は、図9に示されるように、中間シャフト52(一方のシャフト50)に設けられる中間シャフト52の歯55とは異なる歯厚を有する嵌合凸部91と、ポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)に設けられるポンプカムシャフト8の歯溝86とは異なる溝幅を有する嵌合凹部92と、を含む。嵌合凹部92は、嵌合凸部91に嵌合するように構成されている。
【0067】
図9に示されるように、ピッチ円直径D上における中間シャフト52の歯55の歯厚をT1とし、ピッチ円直径D上における嵌合凸部91の歯厚をT2とする。また、ピッチ円直径D上におけるポンプカムシャフト8の歯溝86の溝幅をW1とし、ピッチ円直径D上における嵌合凹部92の溝幅をW2とする。
図示される実施形態では、図9に示されるように、嵌合凸部91の歯厚T2は、歯55の歯厚T1よりも厚くなるように構成され、嵌合凹部92の溝幅W2は、歯溝86の溝幅W1よりも長くなるように構成されている。
【0068】
上記の構成によれば、中間シャフト52(一方のシャフト50)に設けられる嵌合凸部91が、ポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)に設けられる嵌合凹部92に嵌合することで、中間シャフト52に設けられる歯55および歯溝56の夫々は、ポンプカムシャフト8に設けられる歯85および歯溝86のうちの、特定の歯溝86や歯85に噛合する。つまり、中間シャフト52およびポンプカムシャフト8は、互いの相対回転位相が機械的に固定される。上記の構成によれば、中間シャフト52(回転シャフト5)の回転位相からポンプカムシャフト8の回転位相が一意に決定されるようになっている。
【0069】
なお、他の幾つかの実施形態では、中間シャフト52(回転シャフト5)が上述した嵌合凹部92を含み、ポンプカムシャフト8が上述した嵌合凸部91を含むようにしてもよい。換言すると、ポンプカムシャフト8を一方のシャフト50とし、中間シャフト52(回転シャフト5)を他方のシャフト80としてもよい。この点は、以下の幾つかの実施形態についても同様である。
【0070】
幾つかの実施形態では、図9に示されるように、上述した中間シャフト52(一方のシャフト50)の噛合部54および嵌合凸部91は、中間シャフト52の内周縁526に形成され、上述したポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)の噛合部83および嵌合凹部92は、ポンプカムシャフト8の外周縁841に形成されている。
【0071】
図示される実施形態では、図8に示されるように、上述したポンプカムシャフト8は、先端部82の外周縁821よりも外側に突出する突出部84の外周縁841に上述した噛合部83および嵌合凹部92が形成されている。
また、図示される実施形態では、図8に示されるように、上述した中間シャフト52は、胴体部522の長手方向における他端側(図中左側)の端面から上記長手方向に沿って形成される凹部525であって、ポンプカムシャフト8の突出部84が挿入可能に構成された凹部525を含む。図8、9に示されるように、凹部525の内周縁526に上述した噛合部54および嵌合凸部91が形成されている。
【0072】
上記の構成によれば、中間シャフト52は、内周縁526に形成された嵌合凸部91がポンプカムシャフト8の外周縁841に形成された嵌合凹部92に嵌合し、且つ、内周縁526に形成された噛合部54がポンプカムシャフト8の外周縁841に形成された噛合部83に噛合した状態で、ポンプカムシャフト8に連動して回転する。つまり、中間シャフト52(一方のシャフト50)は、周方向の全周に亘りポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)に嵌合や噛合しているので、中間シャフト52およびポンプカムシャフト8の外周縁524、841に形成された噛合部の一部同士が噛合した状態よりも、中間シャフト52とポンプカムシャフト8との間の結合力を向上させることができ、中間シャフト52とポンプカムシャフト8との間で伝達できるトルクを大きくすることができる。
【0073】
なお、他の幾つかの実施形態では、上述した中間シャフト52(回転シャフト5)の外周縁524に上述した嵌合凹部92が形成され、上述したポンプカムシャフト8の先端部82が筒状に形成され、先端部82の内周縁に上述した嵌合凸部91が形成されていてもよい。この場合であっても、中間シャフト52(一方のシャフト50)は、周方向の全周に亘りポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)に嵌合や噛合しているので、上述したように、中間シャフト52とポンプカムシャフト8との間の結合力を向上させることができ、中間シャフト52とポンプカムシャフト8との間で伝達できるトルクを大きくすることができる。
【0074】
また、他の幾つかの実施形態では、上述した中間シャフト52(一方のシャフト50)の噛合部54および嵌合凸部91は、中間シャフト52の外周縁524に形成され、上述したポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)の噛合部83および嵌合凹部92は、ポンプカムシャフト8の外周縁841に形成されていてもよい。
【0075】
幾つかの実施形態では、上述した嵌合凸部91は、図9に示されるように、中間シャフト52(一方のシャフト50)における互いに周方向に隣接する一対の歯55A、55Bの間に配置されるとともに、中間シャフト52に固定されるように構成された固定部材93と、を含む。
図示される実施形態では、一対の歯55A、55Bの夫々は、中間シャフト52の歯55と同じ形状に形成されており、歯55の歯厚T1と同じ歯厚を有する。また、歯55Aと歯55Bとの間に位置する歯溝56Aは、中間シャフト52の歯溝56と同じ形状に形成されており、歯溝56の溝幅と同じ溝幅を有する。このため、嵌合凸部91の歯厚は、二つの歯55の歯厚T1と、一つの歯溝56の溝幅と、を合算した厚さになっている。また、嵌合凹部92は、ポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)の歯85の一つを欠歯にしたような形状に形成されている。
【0076】
図示される実施形態では、固定部材93は、図9に示されるように、歯溝56A内に嵌合するような形状に形成されている。図9に示される実施形態では、固定部材93は、歯溝56Aの底面に当接する外周側に位置する外面931、歯溝56Aの側面に当接する側面932、一対の歯55A、55Bの内周面に連続するように曲率を有する内周側に位置する内面933を含む。
【0077】
また、図示される実施形態では、固定部材93は、図9に示されるように、締結部材94により中間シャフト52に固定されるように構成されている。締結部材94は、長手方向における少なくとも一部の外周に雄ネジ部が形成された軸部942と、軸部942よりも大径に形成された頭部941と、を有するボルトを含む。固定部材93は、内面933から凹んで形成される凹部934と、凹部934の底面から外面931まで貫通する貫通孔935と、を含む。固定部材93は、頭部941が凹部934よりも外側に突出しないように収納されるとともに、凹部934の底面に着座し、軸部942が貫通孔935を挿通するようになっている。固定部材93の軸部942の貫通孔935を挿通した先端は、中間シャフト52に形成された雌ネジ孔57に螺合するように構成されている。
【0078】
上記の構成によれば、中間シャフト52(一方のシャフト50)における互いに周方向に隣接する一対の歯55A、55Bの間に固定部材93を配置し、固定部材93を中間シャフト52に固定することで、嵌合凸部91を形成することができる。このため、周方向に複数の歯および歯溝を有する歯車や外スプラインなどのような、既存の噛合部材に対して嵌合凸部91を設ける改造を容易に行うことができる。
【0079】
なお、他の幾つかの実施形態では、固定部材93は、接着剤などによる接着により、歯溝56Aに固定されていてもよい。
【0080】
上述したように、幾つかの実施形態では、図9に示されるように、上述した嵌合凸部91は、中間シャフト52(一方のシャフト50)の歯55よりも歯厚T2が厚くなるように構成され、上述した嵌合凹部92は、ポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)の歯溝86よりも溝幅が長くなるように構成された。上記の構成によれば、嵌合凸部91は、中間シャフト52の歯55よりも歯厚T2が厚くなるように構成されたので、誤ってポンプカムシャフト8の歯溝86に嵌合することを防止することができる。また、上記の構成によれば、嵌合凸部91の歯厚T2を中間シャフト52の歯55よりも薄くした場合に比べて、嵌合凸部91や嵌合凹部92の視認性が高く、嵌合凸部91を嵌合凹部92に嵌合させるための中間シャフト52とポンプカムシャフト8との位置合わせ作業を容易に行うことができる。
【0081】
幾つかの実施形態では、図8に示されるように、上述した中間シャフト52(一方のシャフト50)の歯55および歯溝56は、中間シャフト52の軸線L2が延在する方向に沿って、中間シャフト52又はポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)の少なくとも一方の半径Rよりも長く延在している。また、図8に示されるように、上述したポンプカムシャフト8の歯85および歯溝86は、ポンプカムシャフト8の軸線L3が延在する方向に沿って、中間シャフト52又はポンプカムシャフト8(他方のシャフト80)の少なくとも一方の半径Rよりも長く延在している。
【0082】
図示される実施形態では、中間シャフト52の歯55および歯溝56、並びにポンプカムシャフト8の歯85および歯溝86は、図8に示されるように、中間シャフト52の半径Rよりも長い長さLを有している。また、上述した固定部材93は、中間シャフト52の軸線L2が延在する方向に沿って、歯55および歯溝56と同じ長さだけ延在している。
【0083】
上記の構成によれば、中間シャフト52およびポンプカムシャフト8の夫々に形成された歯55、85および歯溝56、86は、各々のシャフトの軸線L2、L3が延在する方向に沿って、中間シャフト52又はポンプカムシャフト8の少なくとも一方の半径Rよりも長く延在するので、中間シャフト52とポンプカムシャフト8との間の結合力を向上させることができ、中間シャフト52とポンプカムシャフト8との間で伝達できるトルクを大きくすることができる。
【0084】
上述したように、幾つかの実施形態では、図1に示されるように、上述した回転シャフト5は、上述したクランクシャフト51又は上述した中間シャフト52の何れか一方を含む。この場合には、回転シャフト5は、クランクシャフト51、又は、クランクシャフト51に連動して回転するように構成された中間シャフト52の何れかであればよいので、ディーゼル機関2における回転シャフト5のレイアウトの自由度を向上させることができる。また、回転シャフト5のレイアウト性を向上させることで、回転シャフト5に連動するポンプカムシャフト8を有する燃料圧送ポンプ4のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0085】
上述したように、幾つかの実施形態では、図2に示されるように、上述した燃料圧送ポンプ4は、上述した貯留室48と、上述したポンプカムシャフト8と、上述したポンプカム43と、上述したプランジャ44と、上述した弁45と、を含む。上記の構成によれば、燃料圧送ポンプ4は、貯留室48、ポンプカム43、プランジャ44および弁45を含むプランジャ式のポンプである。上記の構成によれば、プランジャ式のポンプに対して、ポンプカムシャフト8の回転位相を検出するための回転センサを用いることなく、制御装置7により吐出量の制御することができる。
【0086】
なお、他の幾つかの実施形態では、上述した燃料圧送ポンプ4は、ポンプカムシャフト8およびポンプカム43の回転駆動により、液体燃料を加圧するとともに、コモンレール3に液体燃料を圧送するように構成されていればよく、上述したプランジャ式のポンプに限定されない。
【0087】
幾つかの実施形態では、回転シャフト5(クランクシャフト51、中間シャフト52)と、ポンプカムシャフト8との回転比は、整数比で表される。この場合には、回転シャフト5の回転位相からポンプカムシャフト8の回転位相を容易に把握することができる。
【0088】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0089】
1 ディーゼル機関システム
11 燃料タンク
12 燃料導入管路
13 燃料返送管路
14 燃料吐出管路
2 ディーゼル機関
21 燃焼室
22 インジェクター
23 シリンダ
24 ピストン
25 エンジンケーシング
26,29 軸受
27 コンロッド
28 ギヤボックスケーシング
3 コモンレール
31 燃料供給口
4 燃料圧送ポンプ
41 ポンプケーシング
411 燃料供給口
412 余剰燃料排出口
413 高圧燃料吐出口
42 軸受
43 ポンプカム
44 プランジャ
45 弁
46 チェック弁
47 リリーフ弁
48 貯留室
5 回転シャフト
51 クランクシャフト
52 中間シャフト
53 ギヤ
54 噛合部
55 歯
56 歯溝
57 雌ネジ
6 回転センサ
7 制御装置
8 ポンプカムシャフト
81 一端
82 先端部
83 噛合部
84 突出部
85 歯
86 歯溝
9 相対回転位相固定装置
91 嵌合凸部
92 嵌合凹部
93 固定部材
94 締結部材
C1,C2,C3 回転軸芯
D ピッチ円直径
L 長さ
L1,L2,L3 軸線
R 半径
T1,T2 歯厚
W1,W2 溝幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9