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特許7376995ターボ過給機付きガスエンジン及びその燃焼方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ターボ過給機付きガスエンジン及びその燃焼方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20231101BHJP
   F02B 29/04 20060101ALI20231101BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20231101BHJP
   F02D 41/10 20060101ALI20231101BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02B29/04 R
F02D23/02 C
F02D23/02 H
F02D41/10
F02M21/02 301P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019038163
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143577
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】野中 洋輔
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-161110(JP,A)
【文献】特開2001-207894(JP,A)
【文献】特開2001-234778(JP,A)
【文献】特開2002-106376(JP,A)
【文献】特開2003-161185(JP,A)
【文献】特開2006-104989(JP,A)
【文献】特表2012-532273(JP,A)
【文献】特開2014-098339(JP,A)
【文献】特開2018-044462(JP,A)
【文献】特開2018-105209(JP,A)
【文献】特許第5922830(JP,B1)
【文献】実開昭48-082307(JP,U)
【文献】実開昭51-017628(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0122226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 29/04
F02D 19/00
F02D 23/02
F02D 41/00-45/00
F02M 21/00
F02M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス燃料及び空気からなる希薄混合気を燃焼室へ吸い込む吸気行程、前記希薄混合気を圧縮する圧縮行程、前記希薄混合気の燃焼により生じた燃焼ガスが膨張する膨張行程、及び、前記燃焼ガスを前記燃焼室から排気する排気行程からなる燃焼サイクルを繰り返す、パイロット着火方式のターボ過給機付きガスエンジンの燃焼方法であって、
エンジン負荷の上昇時に、前記圧縮行程における第1タイミングで、液体燃料を前記燃焼室内へ噴射する第1噴射を行い、前記第1噴射によって生じた火炎の伝播により前記燃焼室内の前記希薄混合気が燃焼している燃焼期間の後半であって前記膨張行程における第2タイミングで、前記液体燃料を前記燃焼室内へ噴射する第2噴射を開始し、前記第1噴射の噴射量に対し前記第2噴射の噴射量が多く、前記第1噴射の噴射量に対する前記第2噴射の噴射量の比は1より大きく15以下であり、
前記エンジン負荷の上昇に応答してエンジン出力を第1出力値から第2出力値を経て第3出力値まで連続的に上昇させる際に、前記第1出力値から前記第2出力値までの前記エンジン出力の増加率が前記第2出力値から前記第3出力値までの前記エンジン出力の増加率と比較して大きくなるように、前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を所定の第1噴射量から所定の第2噴射量へ漸次増加させることによって前記エンジン出力を前記第1出力値から前記第2出力値まで増加させ、前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を前記第2噴射量に維持することによって前記エンジン出力を前記第2出力値から前記第3出力値まで増加させる、
ガスエンジンの燃焼方法。
【請求項2】
前記エンジン負荷の上昇に応答して前記エンジン出力を前記第1出力値から前記第3出力値までノッキングを発生させずに上昇できる一定の出力変化率のうち最大のものを固定変化率としたときに、前記第1出力値から前記第2出力値までの前記エンジン出力の増加率は前記固定変化率より大きく、前記第2出力値から前記第3出力値までの前記エンジン出力の増加率は前記固定変化率と同じ又は前記固定変化率より小さい、
請求項1に記載のガスエンジンの燃焼方法。
【請求項3】
前記エンジン出力が前記第1出力値から前記第2出力値を経て前記第3出力値まで上昇すると、前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を前記第2噴射量から前記第1噴射量へ減少させる
請求項1又は2に記載のガスエンジンの燃焼方法。
【請求項4】
燃焼室を形成するシリンダ及びピストンと、前記燃焼室へ空気及びガス燃料からなる希薄混合気を供給する給気管と、前記ガス燃料の供給量を調整するガス燃料供給弁と、前記燃焼室内に液体燃料を噴射するインジェクタとを備え、前記シリンダ内で前記ピストンが往復動することにより、前記希薄混合気を前記燃焼室へ吸い込む吸気行程、前記希薄混合気を圧縮する圧縮行程、前記希薄混合気の燃焼により生じた燃焼ガスが膨張する膨張行程、及び、前記燃焼ガスを前記燃焼室から排気する排気行程からなる燃焼サイクルが繰り返される、パイロット着火方式のターボ過給機付きガスエンジンであって、
エンジン負荷の上昇時に、前記インジェクタは、前記圧縮行程における第1タイミングで第1噴射を行い、前記第1噴射によって生じた火炎の伝播により前記燃焼室内の前記希薄混合気が燃焼している燃焼期間の後半であって前記膨張行程における第2タイミングで第2噴射を開始し、前記第1噴射の噴射量に対し前記第2噴射の噴射量が多く、前記第1噴射の噴射量に対する前記第2噴射の噴射量の比は1より大きく15以下であり、
前記エンジン負荷の上昇に応答してエンジン出力を第1出力値から第2出力値を経て第3出力値まで連続的に上昇させる際に、前記第1出力値から前記第2出力値までの前記エンジン出力の増加率が前記第2出力値から前記第3出力値までの前記エンジン出力の増加率と比較して大きくなるように、前記ガス燃料供給弁が前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記インジェクタが前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を所定の第1噴射量から所定の第2噴射量へ漸次増加させることによって前記エンジン出力を前記第1出力値から前記第2出力値まで増加させ、前記ガス燃料供給弁が前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記インジェクタが前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を前記第2噴射量に維持させることによって前記エンジン出力を前記第2出力値から前記第3出力値まで増加させる、
ターボ過給機付きガスエンジン。
【請求項5】
前記エンジン負荷の上昇に応答して前記エンジン出力を前記第1出力値から前記第3出力値までノッキングを発生させずに上昇できる一定の出力変化率のうち最大のものを固定変化率としたときに、前記第1出力値から前記第2出力値までの前記エンジン出力の増加率は前記固定変化率より大きく、前記第2出力値から前記第3出力値までの前記エンジン出力の増加率は前記固定変化率と同じ又は前記固定変化率より小さい、請求項4に記載のターボ過給機付きガスエンジン。
【請求項6】
前記エンジン出力が前記第1出力値から前記第2出力値を経て前記第3出力値まで上昇すると、前記インジェクタは、前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を前記第2噴射量から前記第1噴射量へ減少させる、
請求項4又は5に記載のターボ過給機付きガスエンジン。
【請求項7】
前記燃焼室へ吸い込まれる前記空気を冷却するエアクーラを更に備え、
前記エアクーラは、冷媒が流れる冷媒流路と、前記冷媒流路と接続され、前記冷媒を前記空気と熱交換させることなく当該冷媒流路の下流側へ流すバイパス路と、前記冷媒流路を流れる前記冷媒のうち前記バイパス路へ流入する前記冷媒の流量を調整する流量調整装置とを有し、
前記流量調整装置は、前記エンジン負荷の上昇時に前記冷媒流路から前記バイパス路への前記冷媒の流れを遮断する、
請求項4~6のいずれか一項に記載のターボ過給機付きガスエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ過給機付きガスエンジン及びその燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボ過給機付きガスエンジンが知られている。ターボ過給機は、ガスエンジンからの排気の流れを利用して圧縮機を駆動し、ガスエンジンが吸入する空気の密度を高める。この種のターボ過給機付きガスエンジンが、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたターボ過給機付きガスエンジンは、ピストンを内挿したシリンダと、シリンダ内にパイロット燃料を噴射するパイロット燃料噴射弁とを備える。シリンダの吸気口は、吸気管を介して過給機の圧縮機と接続されており、シリンダの排気口は、排気管を介して過給機の排気タービンと接続されている。吸気管には、ガス燃料が供給され、吸気管内でガス燃料と空気の混合気が形成される。パイロット燃料噴射弁は、高圧化されたパイロット燃料を蓄えた高圧燃料管と接続されている。このガスエンジンでは、ピストンの降下の際にシリンダ内に混合気が導入され、吸気口及び排気口が閉止された状態でピストンが上昇して混合気が圧縮される。混合気の圧縮時にパイロット燃料噴射弁からパイロット燃料が噴射され、混合気が着火して燃焼が生じ、シリンダ内圧の上昇に伴ってピストンが降下し、慣性によるピストンの上昇によりシリンダ内から燃焼ガスが排気される。
【0004】
特許文献1のガスエンジンでは、シリンダ内に微量のパイロット燃料(例えば軽油)を直接噴射する直噴マイクロパイロット着火方式が採用されている。そして、混合気の着火タイミングを適切に制御して異常燃焼を回避するために、パイロット燃料の噴射が、混合気の火炎伝播燃焼をアシストするプレ噴射と、混合気の着火タイミングを制御し得るメイン噴射とに分けられている。
【0005】
海洋や河川を航行する船舶において、主機関として上記のようなターボ過給機付きガスエンジンが用いられたものがある。船舶の主機関では、推進用プロペラと連結された推進軸又はそれと直結されたエンジンの回転数が与えられた目標回転数となるように、主機関への燃料供給量が制御される。
【0006】
図7は、一般的なガスエンジンの燃焼特性を示すグラフで、横軸が空燃比(空気過剰率)、縦軸が正味平均有効圧(BMEP)を示す。正味平均有効圧は、ガスエンジンのエンジン出力の指標となり得る。一般的なガスエンジンの燃焼特性では、シリンダの燃焼室内の希薄混合気の空燃比が低く且つエンジン出力の高い領域にノッキング領域が存在し、空燃比の高く且つエンジン出力の高い領域には失火領域が存在する。リーンバーンにおいて高出力を得るには、燃焼室内の希薄混合気の空燃比がノッキング領域と失火領域との間の範囲X(operating window)内で燃焼特性が最適、即ち、熱効率が高く、NOx排出量が最小となるように制御される。つまり、定常運転時のガスエンジンでは、希薄混合気の空燃比がノッキング領域と失火領域の間に収まるように、目標回転数を維持するために調整されたガス燃料供給量に対し給気圧が制御される。
【0007】
船舶の推進用プロペラの回転数は、潮流、波、及び、船舶の舵角などによって短期に変化しやすい。このような急激な負荷の変化に対して、ターボ過給機付きガスエンジンでは、ガス燃料供給量を増やしてもターボラグのために給気圧は直ぐには増加しないので、ガス燃料供給量を迅速に増やすことができない。そこで、特許文献2の推進用内燃機関(ガスエンジン)の燃料供給装置は、船舶の将来の予測船速に基づいて算出された予測トルクに基づいて予測燃料供給量を求め、予測燃料供給量に基づいてエンジンへ供給される混合気の圧力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許5922830号公報
【文献】特開2016-205270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2の技術は、ガスエンジンの負荷の急上昇を予測して、それに備えて給気圧を予め上昇させておくものであり、給気圧を迅速に上昇させる技術ではない。また、給気圧を迅速に高めるために、過給機をジェットアシストすることが知られているが、この場合、過給機はジェットアシスト装置を備える必要がある。
【0010】
以上に鑑み、本発明は、ターボ過給機付きガスエンジンにおいて、エンジン負荷の急上昇に対応してガス燃料供給量を迅速に増加できるように、給気圧を迅速に上昇させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係るガスエンジンの燃焼方法は、ガス燃料及び空気からなる希薄混合気を燃焼室へ吸い込む吸気行程、前記希薄混合気を圧縮する圧縮行程、前記希薄混合気の燃焼により生じた燃焼ガスが膨張する膨張行程、及び、前記燃焼ガスを前記燃焼室から排気する排気行程からなる燃焼サイクルを繰り返す、パイロット着火方式のターボ過給機付きガスエンジンの燃焼方法であって、
エンジン負荷の上昇時に、前記圧縮行程における第1タイミングで、液体燃料を前記燃焼室内へ噴射する第1噴射を行い、前記第1噴射によって生じた火炎の伝播により前記燃焼室内の前記希薄混合気が燃焼している燃焼期間の後半であって前記膨張行程における第2タイミングで、前記液体燃料を前記燃焼室内へ噴射する第2噴射を開始し、前記第1噴射の噴射量に対し前記第2噴射の噴射量が多く、前記第1噴射の噴射量に対する前記第2噴射の噴射量の比は1より大きく15以下であり、
前記エンジン負荷の上昇に応答してエンジン出力を第1出力値から第2出力値を経て第3出力値まで連続的に上昇させる際に、前記第1出力値から前記第2出力値までの前記エンジン出力の増加率が前記第2出力値から前記第3出力値までの前記エンジン出力の増加率と比較して大きくなるように、前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を所定の第1噴射量から所定の第2噴射量へ漸次増加させることによって前記エンジン出力を前記第1出力値から前記第2出力値まで増加させ、前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を前記第2噴射量に維持することによって前記エンジン出力を前記第2出力値から前記第3出力値まで増加させる。
【0012】
また、本発明の一態様に係るターボ過給機付きガスエンジンは、
燃焼室を形成するシリンダ及びピストンと、前記燃焼室へ空気及びガス燃料からなる希薄混合気を供給する給気管と、前記ガス燃料の供給量を調整するガス燃料供給弁と、前記燃焼室内に液体燃料を噴射するインジェクタとを備え、前記シリンダ内で前記ピストンが往復動することにより、前記希薄混合気を前記燃焼室へ吸い込む吸気行程、前記希薄混合気を圧縮する圧縮行程、前記希薄混合気の燃焼により生じた燃焼ガスが膨張する膨張行程、及び、前記燃焼ガスを前記燃焼室から排気する排気行程からなる燃焼サイクルが繰り返される、パイロット着火方式のターボ過給機付きガスエンジンであって、
エンジン負荷の上昇時に、前記インジェクタは、前記圧縮行程における第1タイミングで第1噴射を行い、前記第1噴射によって生じた火炎の伝播により前記燃焼室内の前記希薄混合気が燃焼している燃焼期間の後半であって前記膨張行程における第2タイミングで第2噴射を開始し、前記第1噴射の噴射量に対し前記第2噴射の噴射量が多く、前記第1噴射の噴射量に対する前記第2噴射の噴射量の比は1より大きく15以下であり、
前記エンジン負荷の上昇に応答してエンジン出力を第1出力値から第2出力値を経て第3出力値まで連続的に上昇させる際に、前記第1出力値から前記第2出力値までの前記エンジン出力の増加率が前記第2出力値から前記第3出力値までの前記エンジン出力の増加率と比較して大きくなるように、前記ガス燃料供給弁が前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記インジェクタが前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を所定の第1噴射量から所定の第2噴射量へ漸次増加させることによって前記エンジン出力を前記第1出力値から前記第2出力値まで増加させ、前記ガス燃料供給弁が前記ガス燃料の供給量を増加させるとともに前記インジェクタが前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を前記第2噴射量に維持させることによって前記エンジン出力を前記第2出力値から前記第3出力値まで増加させる。
【0013】
上記ターボ過給機付きガスエンジン及びその燃焼方法によれば、第2噴射で噴射された液体燃料は、ピストンを押し下げる仕事には実質的に利用されずに、燃焼によって排気温度を上昇させる。これにより、過給機のタービンへ送られる燃焼ガスの温度が、第2噴射が行われない場合と比較して高くなり、タービンに対してより大きなエネルギーを与えることができる。その結果、第2噴射が行われない運転から第2噴射が行われる運転に切り替えたときに、給気圧を迅速に高めることができ、ガス燃料の供給量を迅速に増加させることが可能となる。このような燃焼方法は、ターボ過給機付きガスエンジンの負荷急上昇時の燃焼方法として好適であり、ガスエンジンの負荷応答性(即ち、要求出力に対する実出力の追従性)を向上させることができる。
【0014】
上記ターボ過給機付きガスエンジン及びその燃焼方法において、前記ガスエンジンは4ストロークエンジンであり、前記第2タイミングが60°~180°ATDCの範囲内にあってよい。
【0015】
これにより、燃焼室内の希薄混合気の正常な燃焼を阻害することなく、第2噴射による追加のパイロット燃料によって燃焼室から排出される燃焼ガスの温度を高めることができる。
【0016】
上記ターボ過給機付きガスエンジン及びその燃焼方法において、エンジン出力を第1出力値から第2出力値を経て第3出力値まで上昇させる際に、前記第1出力値から前記第2出力値までの出力増加率が、前記第2出力値から前記第3出力値までの出力増加率と比較して大きくなるように、前記第1噴射における前記液体燃料の噴射量を変化させてよい。
【0017】
このように、比較的低負荷において空燃比を低下させて燃料リッチとすることで、異常燃焼を回避しつつ、速やかに回転数を増加させることができる。そして、この回転数増加の勢いを保持したまま、比較的高負荷において希薄混合気の空燃比を低下させることによって、異常燃焼を回避しつつ、速やかにエンジン出力を高めることができる。よって、ターボ過給機付きガスエンジンの負荷応答性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ターボ過給機付きガスエンジンにおいて、エンジン負荷の急上昇に対応してガス燃料供給量を迅速に増加できるように、給気圧を迅速に上昇させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジンの概略構成図である。
図2図2は、エンジンが備える複数のシリンダのうちの1つの構造を示す断面図である。
図3図3は、エアクーラの概略構成図である。
図4図4は、ターボ過給機付きガスエンジンの制御系統の構成を示す図である。
図5図5は、負荷急上昇運転におけるパイロット燃料噴射のタイミングチャートである。
図6図6は、エンジン負荷の急上昇に応答してエンジン出力を上昇させる際の、目標エンジン出力とパイロット燃料噴射量の時系列変化を表す図表である。
図7図7は、一般的なガスエンジンの燃焼特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジン1は、船舶に主機関として搭載されたものである。但し、本発明に係るターボ過給機付きガスエンジン1は、船舶に搭載されるものに限定されない。
【0021】
〔ターボ過給機付きガスエンジン1の構成〕
図1は、本発明の一実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジン1の概略構成図である。図1に示すターボ過給機付きガスエンジン1は、エンジン(エンジン本体)2、過給機3、エアクーラ43、及び、制御装置7(図2参照)を備える。本実施形態では、ターボ過給機付きガスエンジン1によって、推進翼83が取り付けられた推進軸93が駆動される。
【0022】
本実施形態に係るエンジン2は、4ストロークの多気筒ガス専焼エンジンである。但し、エンジン2は、ガス専焼エンジンに限られず、状況に応じてガス燃料と液体燃料の一方又は双方を燃焼させる二元燃料エンジンであってもよい。
【0023】
図2は、エンジン2が備える複数のシリンダ21のうちの1つの構造を示す断面図である。シリンダ21内にはピストン22が往復動自在に配設されており、シリンダ21及びピストン22によって燃焼室20が形成されている。
【0024】
シリンダ21の吸気ポートは、給気管41と接続されている。吸気ポートには、吸気ポートを開閉する吸気弁23が設けられている。シリンダ21の排気ポートは、排気管42と接続されている。排気ポートには、当該排気ポートを開閉する排気弁24が設けられている。燃焼室20には、当該燃焼室20内の圧力である筒内圧を検出する筒内圧力センサ62が設けられている。
【0025】
ピストン22は、図略の連接棒により図略のクランク軸と連結されている。シリンダ21内でピストン22が2往復することにより、吸気、圧縮、膨張、及び、排気からなる1燃焼サイクルが行われる。各シリンダ21における1燃焼サイクルの間のエンジン2の位相角は、位相角検出器63により検出される。位相角としては、クランク軸の回転角(クランク角)やピストン22の位置などが用いられてよく、位相角検出器63は、例えば、電磁ピックアップ、近接スイッチ、又はロータリーエンコーダであってよい。また、位相角検出器63では、エンジン2の実回転数を検出する実回転数検出器としても機能する。
【0026】
図1に戻って、過給機3は、圧縮機31とタービン32とを含み、これらが軸で接続されてなる。シリンダ21内の燃焼室20は、給気管41を介して圧縮機31と接続されているとともに、排気管42を介してタービン32と接続されている。給気管41は、圧縮機31で圧縮された空気を各シリンダ21の燃焼室20へ導く。給気管41には、給気管41から気体を逃がして給気管41の圧力を開放する給気ブローオフ弁48が設けられている。排気管42は、各シリンダ21の燃焼室20からの排気(燃焼ガス)をタービン32に導く。排気管42には、排気管42から気体の一部を分流させることによりタービン32への流入量を調節する排気ウエストゲート弁49が設けられている。なお、給気管41の下流側部分及び排気管42の上流側部分はシリンダ21と同数の分岐路にマニホールドから分岐しているが、図1では図面の簡略化のために給気管41及び排気管42が1本の流路で描かれている。
【0027】
給気管41には、圧縮機31で圧縮されて高温となった空気(給気)を冷却するためのエアクーラ43が設けられている。図3に示すように、エアクーラ43は、冷媒流路44を流れる水などの冷媒と給気管41を流れる空気とを熱交換させる熱交換器である。冷媒流路44には、エアクーラ43を通らずに(即ち、エアクーラ43で熱交換に利用されずに)冷媒をエアクーラ43より下流側へ流す、バイパス路46が接続されている。また、冷媒流路44には、バイパス路46を流れる冷媒の流量、換言すれば、エアクーラ43での熱交換に使われる冷媒の流量を調整する流量調整装置45が設けられている。流量調整装置45は、エアクーラ43から出る冷却された空気が所定温度となるように、エアクーラ43で熱交換に利用される冷媒の流量を調整する。
【0028】
給気管41のエアクーラ43より下流側には、給気圧力センサ61及び給気温度センサ65が設けられている。給気圧力センサ61は、圧縮機31の吐出圧である給気圧を検出する。給気圧力センサ61は、給気管41の下流側の上述した各分岐路に設けられていてもよいし、上述したマニホールドに1つだけ設けられていてもよい。給気温度センサ65は、給気管41を通じて燃焼室20に導入される空気の温度である給気温度を検出する。同様に、給気温度センサ65は、給気管41の下流側の上述した各分岐路に設けられていてもよいし、上述したマニホールドに1つだけ設けられていてもよい。
【0029】
更に、給気管41には、シリンダ21ごとのガス燃料供給弁51が設けられている。ガス燃料供給弁51は、圧縮機31から吐出される空気中にガス燃料を供給する。ガス燃料供給弁51の開度(又は、開放時間)は、ガス燃料供給弁ドライバ50によって操作される。ガス燃料供給弁51の開度(又は、開放時間)により、図示されないガス燃料室からガス燃料供給弁51を通じて給気管41へ供給されるガス燃料の供給量が変化する。ガス燃料供給弁ドライバ50及びガス燃料供給弁51により、ガス燃料供給量調整装置が構成される。
【0030】
本実施形態に係るエンジン2は、直噴パイロット燃料着火方式を採用し、燃焼室20へパイロット燃料を噴出するパイロット燃料インジェクタ52を備える。パイロット燃料は、例えば、軽油などの液体燃料である。パイロット燃料インジェクタ52は、燃料管を介してコモンレール53に接続されている。コモンレール53には高圧のパイロット燃料が溜められており、各シリンダ21のパイロット燃料インジェクタ52からはこのパイロット燃料を任意のタイミング且つ任意の噴射圧力で噴射することができる。パイロット燃料インジェクタ52からの噴射は、インジェクタドライバ54によって操作される。インジェクタドライバ54及びパイロット燃料インジェクタ52により、パイロット燃料噴射量調整装置が構成される。
【0031】
〔ターボ過給機付きガスエンジン1の制御系統の構成〕
以下、ターボ過給機付きガスエンジン1の制御系統の構成について説明する。図4は、ターボ過給機付きガスエンジン1の制御系統の構成を示す図である。制御装置7は、いわゆるコンピュータであって、CPU等の演算処理部7a、ROM、RAM等の記憶部7bを有する。記憶部7bには、演算処理部7aが実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。演算処理部7aは、外部装置とのデータ送受信を行う。また、演算処理部7aは、各種センサからの検出信号の入力や各制御対象への制御信号の出力を行う。制御装置7は、記憶部7bに記憶されたプログラム等のソフトウェアを演算処理部7aが読み出して実行することにより、各機能部としての処理を行う。なお、制御装置7は単一のコンピュータによる集中制御により各処理を実行してもよいし、複数のコンピュータの協働による分散制御により各処理を実行してもよい。また、制御装置7は、マイクロコントローラ、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)等から構成されていてもよい。
【0032】
制御装置7は、舵角操作具73、操船操作具74、旋回角センサ66、及び、船速計67と電気的に接続されている。
【0033】
船体に設けられた図示しない操縦室には、舵角を操作入力するための舵角操作具73と、エンジン2の回転数や前進/後進を操作入力する操船操作具74とが設けられている。舵角操作具73を介して、操縦者が入力した舵角操作情報が制御装置7へ入力される。操船操作具74を介して、操縦者が入力した操船操作情報が制御装置7へ入力される。これらの操作具73,74は、例えば、ハンドルやレバーであってよい。また、船体には、船体の旋回角を検出する旋回角センサ66、及び、船速を検出する船速計67が設けられている。
【0034】
制御装置7は、エンジン負荷の急上昇の判定、又は、エンジン負荷の急上昇の予測をする。エンジン負荷の急上昇とは、ターボラグが生じるような(即ち、過給機3で十分な過給が行われず、要求される過給圧に到達するまでに遅延時間が生じるような)、負荷の上昇をいう。負荷急上昇の原因は、例えば、船速アップ、舵角の変更、船体が受ける強い風波、プロペラピッチの変更、船舶がアジマススラスタを搭載している場合には旋回角変更などがある。
【0035】
制御装置7は、以下の方法によりエンジン2の負荷が急激に上昇したと判定することができる。例えば、ガス燃料供給量の上昇速度を算出し、ガス燃料供給量の上昇速度が閾値を上回れば負荷が急激に上昇したと判定し、ガス燃料供給量の上昇速度が閾値を下回れば負荷が急激に上昇していないと判定する。例えば、実回転数と目標回転数との偏差を算出し、実回転数と目標回転数との偏差が閾値を上回れば負荷が急激に上昇したと判定し、実回転数と目標回転数との偏差が閾値を下回れば負荷が急激に上昇していないと判定する。また、例えば、エンジン2の出力トルクを図示されないトルク計で検出するとともに出力トルクの上昇速度を算出し、出力トルクの上昇速度が閾値を上回れば負荷が急激に上昇したと判定し、出力トルクの上昇速度が閾値を下回れば負荷が急激に上昇していないと判定する。
【0036】
また、制御装置7は、舵角操作情報、操船操作情報、船体の旋回角、ガスエンジン1の回転数、及び船速と、記憶部7bに予め記憶された船体性能モデルなどとに基づいて、エンジン負荷の急上昇を事前に予測することができる。例えば、舵角操作具73によって船体の舵角が操作されたときには、近い将来にエンジン負荷の急上昇が見込まれる。例えば、操船操作具74が前進から後進に切り替えられたときには、近い将来にエンジン負荷の急上昇が見込まれる。
【0037】
制御装置7は、ガス燃料供給弁ドライバ50、インジェクタドライバ54、給気圧力センサ61、筒内圧力センサ62、位相角検出器63、給気温度センサ65、給気ブローオフ弁48、及び、排気ウエストゲート弁49と電気的に接続されている。制御装置7は、位相角検出器63で検出される位相角に基づいて、各シリンダ21についてガス燃料供給弁ドライバ50及びインジェクタドライバ54を動作させて、実回転数が目標回転数となるように、ガス燃料及びパイロット燃料の供給量及び供給タイミングを制御する。また、制御装置7は、給気圧力センサ61で検出される給気圧に基づいて、給気ブローオフ弁48及び排気ウエストゲート弁49を動作させて、ガス燃料の供給量に対して燃焼室20内の希薄混合気の空燃比が図7に示す範囲X内において燃焼特性が最適、即ち、熱効率が高く、NOx排出量が最小となるように給気圧を制御する。
【0038】
制御装置7は、エンジン負荷が殆ど変化しない間は定常運転を行い、定常運転中にエンジン負荷の急上昇が予測される又はエンジン負荷の急上昇が検出されると、負荷急上昇運転に移行する。以下、負荷急上昇運転時のガスエンジン1の燃焼方法を説明する。
【0039】
燃焼サイクルの吸気行程では、排気弁24が閉止され吸気弁23が開放された状態でピストン22が下がり、ガス燃料供給弁51から噴射したガス燃料と過給機3からの給気とを含む希薄混合気が、吸気ポートを通じて燃焼室20に吸い込まれる。圧縮行程では、吸気弁23及び排気弁24が閉止された状態でピストン22が上死点まで上がり、燃焼室20内の希薄混合気が圧縮される。ピストン22が上死点に到る前のタイミングで、燃焼室20の圧縮された希薄混合気にパイロット燃料が直接に噴射され、パイロット燃料が自己発火する。この火炎は燃焼室20内の希薄混合気に伝播し、混合気が燃焼する。膨張行程(燃焼行程)では、着火した希薄混合気が燃焼し、燃焼ガスが膨張してピストン22が下死点まで押し下げられる。排気行程では、吸気弁23が閉止され排気弁24が開放された状態で慣性によりピストン22が上がり、燃焼ガスが排気ポートを通じて排気管42へ押し出される。燃焼ガスは、排気管42を通じてタービン32に導入されて、圧縮機31を駆動する動力として使用される。
【0040】
制御装置7は、負荷急上昇運転を開始すると、図3を参照して、冷媒流路44を流れる冷媒の全てがエアクーラ43を通過するように、流量調整装置45を動作させる。つまり、流量調整装置45は、バイパス路46の冷媒の流れを遮断する。これにより、エアクーラ43の全冷却能力で給気温度を急速に下げることができる。
【0041】
予混合燃焼方式のエンジン2の正常な燃焼では、着火した火炎が順次未燃混合気中を伝播して燃焼を完了する。しかし、負荷上昇などで燃焼室20内の熱負荷と燃焼圧力が上昇すると未燃部分の混合気が火炎伝播を待たずに自己着火を起こす。この自己着火が連鎖的に発生すると、強烈な圧力上昇や温度上昇が発生する。これが「ノッキング」現象である。上記のように、給気温度を下げることにより、燃焼室20内の熱負荷が抑えられ、ノッキング(異常燃焼)の発生を抑制することができる。
【0042】
図5は、負荷急上昇運転におけるパイロット燃料噴射のタイミングチャートである。このタイミングチャートにおいて、縦軸はパイロット燃料噴射量と筒内圧力とを表し、横軸はピストン22の位相角[ATDC:After Top Dead Center]を表す。このタイミングチャートに示されるように、制御装置7に制御されたパイロット燃料インジェクタ52は、1燃焼サイクルにおいて、少なくとも1回の第1噴射(メイン噴射)と、少なくとも1回の第2噴射(ポスト噴射)とを行う。制御装置7は、位相角検出器63で検出された位相角に基づいて噴射のタイミングを計る。
【0043】
第1噴射は、圧縮行程における上死点(TDC)前の所定の第1タイミングTaで行われる。より詳細には、第1タイミングTaにインジェクタドライバ54によってパイロット燃料インジェクタ52が開かれて、微量(定格負荷時の投入総熱量の1%前後)のパイロット燃料が燃焼室20内の希薄混合気中に噴出する。第1タイミングTaは、-30°~0°ATDCの範囲内にあってよい。
【0044】
第1噴射で燃焼室20内に噴出した高圧のパイロット燃料により、燃焼室20内の希薄混合気が着火する。つまり、第1噴射は、燃焼期間の開始タイミングを決定する。燃焼室20における希薄混合気の燃焼圧力により、エンジン2の出力が得られる。
【0045】
ピストン22が上死点(TDC)を超えると、圧縮行程から膨張行程に移行する。第2噴射は、膨張行程における燃焼期間の後半の所定の第2タイミングTbで行われる。より詳細には、第2タイミングTbにインジェクタドライバ54によってパイロット燃料インジェクタ52が開かれて、パイロット燃料が燃焼室20内に噴出する。なお、燃焼期間の後半とは、燃焼室20内の希薄混合気が燃焼している間であって、筒内圧力が最大筒内圧力に到達する時点Tcよりも後を意味する。
【0046】
第2噴射で噴射されたパイロット燃料の燃焼によって、筒内の燃焼ガスの温度が上昇する。また、第2噴射で噴射されたパイロット燃料によって、膨張行程及びそれに続く排気行程において、燃焼室20内や排気管42内の燃焼ガス中の燃え残りのガス燃料が燃焼する。これにより、過給機3のタービン32へ送られる燃焼ガスの温度が、第2噴射が行われない場合と比較して高くなり、タービン32に対してより大きなエネルギーを与えることができる。よって、タービン32の回転数を、第2噴射が行われない場合と比較して増加させることができ、過給機3による過給圧を迅速に上昇させることができる。その結果、エンジン負荷の急上昇時のターボラグを解消又は短縮することができる。
【0047】
第1タイミングTa、即ち、燃焼期間の開始タイミングが、-30°~0°ATDCの範囲内であるとき、筒内圧力が最大筒内圧力に到達する時点Tcよりも前に第2噴射を開始すると、最大筒内圧力が上昇して異常燃焼が生じるおそれがある。一方で、180°ATDCよりも後に第2噴射を開始すると、第2噴射で供給された燃料が燃焼できないおそれがある。このような観点から、第2タイミングTb、即ち、第2噴射の開始タイミングは、60°~180°ATDCの範囲内であってよい。第2噴射の終了タイミングは、パイロット燃料インジェクタ52の噴射能力により定められてよい。
【0048】
また、第2噴射の噴射量は、第1噴射の噴射量よりも多い。第1噴射の噴射量に対する第2噴射の噴射量の比は、1より大きく15以下、望ましくは、8以上12以下である。比が1以下では、排気温度の上昇が不十分となり、タービン32の回転数を迅速に高めるという効果が得られない。一方、比が15以上では、排気温度の上昇が過剰となり、排気温度が部材の許容温度を超えるおそれがある。
【0049】
エンジン負荷が比較的低負荷の範囲ではノッキングなどの異常燃焼が生じにくく、エンジン負荷が比較的高負荷の範囲で異常燃焼が生じやすいことが分かっている。そこで、エンジン負荷を比較的低負荷から急上昇させる際には、エンジン出力の変化率を二段階とすることが望ましい。
【0050】
図6は、エンジン負荷の急上昇に応答して、エンジン出力を比較的低出力の第1出力値Daから、第2出力値Dbを経て、比較的高出力の第3出力値Dcまで上昇させる際の、目標エンジン出力とパイロット燃料噴射量の時系列変化を表す図表である。第2出力値Dbは、異常燃焼が生じにくい比較的低負荷の範囲と、異常燃焼が生じやすい比較的高負荷との境界値に対応するエンジン出力値である。同図において、エンジン負荷の上昇に対応してエンジン出力を一定の変化率で上昇させる場合の、エンジン出力の変化を固定変化率出力ラインL0で示す。ここで、固定変化率出力ラインL0の出力変化率は、高負荷においてもノッキングが発生しない最大の出力変化率とする。
【0051】
本願発明の目標出力ラインLでは、エンジン出力を第1出力値Daから第2出力値Dbまで増加させる際の出力変化率は、固定変化率出力ラインL0の出力変化率よりも大きい(即ち、接線の傾きが大きい)。また、目標出力ラインLでは、エンジン出力を第2出力値Dbから第3出力値Dcまで増加させる際の出力変化率は、固定変化率出力ラインL0の出力変化率よりも小さい(即ち、接線の傾きが小さい)、又は、同じである。その結果、目標出力ラインLでは、固定変化率出力ラインL0と比較して、出力を第3出力値Dcまで早く上昇させることができる。
【0052】
目標出力ラインLは、予め制御装置7に記憶されている。制御装置7は、エンジン出力を第1出力値Daから第3出力値Dcまで急上昇させる際に、目標出力ラインLに沿って、ガス燃料供給弁51から供給されるガス燃料の供給量と、パイロット燃料インジェクタ52から第1噴射において噴出するパイロット燃料の噴射量とを変化させる。
【0053】
制御装置7は、エンジン出力を第1出力値Daから第2出力値Dbまで増加させる際には、目標出力ラインLに沿ってエンジン出力を増加させるように、ガス燃料の供給量を増加させるとともに、パイロット燃料の噴射量を噴射量Faから噴射量Fbまで漸次増加させる。なお、従来の燃焼方法でエンジン出力を上昇させる際は、ガス燃料の供給量を増加させるがパイロット燃料の噴射量は噴射量Faで一定である。噴射量Faと噴射量Fbはガスエンジン1に応じて設定され、予め制御装置7に記憶されている。
【0054】
制御装置7は、エンジン出力を第2出力値Dbから第3出力値Dcまで増加させる際には、目標出力ラインLに沿ってエンジン出力を増加させるように、ガス燃料の供給量を増加させるとともに、パイロット燃料の噴射量を噴射量Fbに維持する。つまり、パイロット燃料の噴射量は、増加した状態で維持される。制御装置7は、エンジン出力が第3出力値Dcに到達すると、パイロット燃料の噴射量を噴射量Fbから噴射量Faまで徐々に減少させる。
【0055】
上記の様にエンジン負荷を比較的低負荷から急上昇する際に、目標出力ラインLに沿って第1噴射におけるパイロット燃料の噴射量を増加させることによって、エンジン出力の変化に対して、燃焼室20内の空燃比は図7中の曲線Y上を変化する。具体的には、エンジン出力が低い範囲(即ち、エンジン負荷が小さい範囲)ではノッキングが生じない範囲まで空燃比が低減し、燃料リッチな状態となる。エンジン出力が高い範囲(即ち、エンジン負荷が大きい範囲)では失火しない範囲まで空燃比が増加する。
【0056】
以上に説明したように、本実施形態のターボ過給機付きガスエンジン1は、パイロット着火方式のターボ過給機付きガスエンジンであって、燃焼室20を形成するシリンダ21及びピストン22と、燃焼室20内に液体燃料(パイロット燃料)を噴射するインジェクタ52とを備え、シリンダ21内でピストン22が往復動することにより、空気及びガス燃料からなる希薄混合気を燃焼室20へ吸い込む吸気行程、希薄混合気を圧縮する圧縮行程、希薄混合気の燃焼により生じた燃焼ガスが膨張する膨張行程、及び、燃焼ガスを燃焼室から排気する排気行程からなる燃焼サイクルが繰り返される。そして、インジェクタ52が、圧縮行程における第1タイミングTaで第1噴射を行い、第1噴射によって生じた火炎の伝播により燃焼室20内の希薄混合気が燃焼している燃焼期間の後半であって膨張行程における第2タイミングTbで第2噴射を開始することを特徴としている。
【0057】
同様に、本実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジン1の燃焼方法は、圧縮行程における第1タイミングTaで、液体燃料を燃焼室20内へ噴射する第1噴射を行い、第1噴射によって生じた火炎の伝播により燃焼室20内の希薄混合気が燃焼している燃焼期間の後半であって膨張行程における第2タイミングTbで、液体燃料を燃焼室20内へ噴射する第2噴射を開始することを特徴としている。
【0058】
上記ターボ過給機付きガスエンジン1及びその燃焼方法によれば、第2噴射で噴射されたパイロット燃料(液体燃料)は、ピストン22を押し下げる仕事には実質的に利用されずに、燃焼によって排気温度を上昇させる。これにより、過給機3のタービン32へ送られる燃焼ガスの温度が、第2噴射が行われない場合と比較して高くなり、タービン32に対してより大きなエネルギーを与えることができる。その結果、第2噴射が行われない運転から第2噴射が行われる運転に切り替えたときに、給気圧力センサ61を迅速に高めることができ、ガス燃料の供給量を迅速に増加させることができる。このような燃焼方法は、ターボ過給機付きガスエンジン1の負荷急上昇時の燃焼方法として好適であり、ガスエンジン1の負荷応答性(即ち、要求出力に対する実出力の追従性)を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジン1及びその燃焼方法において、ガスエンジン1は4ストロークエンジンであり、第2タイミングTbが60°~180°ATDCの範囲内にある。
【0060】
これにより、燃焼室20内の希薄混合気の正常な燃焼を阻害することなく、第2噴射による追加のパイロット燃料によって燃焼室20から排出される燃焼ガスの温度を高めることができる。
【0061】
また、本実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジン1及びその燃焼方法において、第1噴射の噴射量に対し第2噴射の噴射量が多い。
【0062】
これにより、燃焼室20内の希薄混合気の正常な燃焼を阻害することなく、第2噴射による追加のパイロット燃料によって燃焼室20から排出される燃焼ガスの温度を高めることができる。
【0063】
また、本実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジン1及びその燃焼方法においては、エンジン出力を第1出力値Daから第2出力値Dbを経て第3出力値Dcまで上昇させる際に、第1出力値Daから第2出力値Dbまでの出力増加率が、第2出力値Dbから第3出力値Dcまでの出力増加率と比較して大きくなるように、第1噴射における液体燃料の噴射量を変化させる。
【0064】
即ち、パイロット着火方式のターボ過給機付きガスエンジン1は、燃焼室20を形成するシリンダ21及びピストン22と、燃焼室20内にパイロット燃料(液体燃料)を噴射するインジェクタ52とを備え、インジェクタ52は、エンジン出力を第1出力値Daから第2出力値Dbを経て第3出力値Dcまで上昇させる際に、燃焼室20へ吸い込んだ希薄混合気を圧縮する圧縮行程においてメイン噴射を行い、第1出力値Daから第2出力値Dbまでの出力増加率が、第2出力値Dbから第3出力値Dcまでの出力増加率と比較して大きくなるように、メイン噴射におけるパイロット燃料の噴射量を変化させる。
【0065】
このように、比較的低負荷において空燃比を低下させて燃料リッチとすることで、異常燃焼を回避しつつ、速やかに回転数を増加させることができる。そして、この回転数増加の勢いを保持したまま、比較的高負荷において希薄混合気の空燃比を低下させることによって、異常燃焼を回避しつつ、速やかにエンジン出力を高めることができる。よって、ターボ過給機付きガスエンジン1の負荷応答性を向上させることができる。
【0066】
また、本実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジン1は、燃焼室20へ吸い込まれる空気を冷却するエアクーラ43を更に備える。エアクーラ43は、冷媒が流れる冷媒流路44と、冷媒流路44と接続され、冷媒を空気と熱交換させることなく当該冷媒流路44の下流側へ流すバイパス路46と、冷媒流路44を流れる冷媒のうちバイパス路46へ流入する冷媒の流量を調整する流量調整装置45とを有し、流量調整装置45は、エンジン負荷の上昇時に冷媒流路44からバイパス路への冷媒の流れを遮断する。
【0067】
即ち、ターボ過給機付きガスエンジン1は、ガス燃料及び空気からなる希薄混合気を燃焼させて動力を得るエンジン2と、給気管41によりエンジン2と接続された圧縮機31、及び、排気管42によりエンジン2と接続されたタービン32を有する過給機3と、ガス燃料を給気管41へ供給するガス燃料供給装置(ガス燃料供給弁51及びガス燃料供給弁ドライバ50)と、給気管41を通る空気を冷却するエアクーラ43と、を備える。エアクーラ43は、冷媒が流れる冷媒流路44、冷媒流路44と接続され、冷媒を空気と熱交換させることなく当該冷媒流路44の下流側へ流すバイパス路46、及び、冷媒流路44を流れる冷媒のうちバイパス路46へ流入する冷媒の流量を調整する流量調整装置45を有し、流量調整装置45は、エンジン負荷の上昇時に冷媒流路44からバイパス路46への冷媒の流れを遮断する。
【0068】
このように、エンジン負荷の上昇時に、エアクーラ43の全冷却能力でエンジン2への給気を冷却することにより、燃焼室20内の熱負荷が抑えられ、ノッキング(異常燃焼)の発生を抑制することができる。
【0069】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。
【0070】
例えば、上記実施形態に係るターボ過給機付きガスエンジンのエンジン2は、4ストロークエンジンであるが、2ストロークエンジンであってもよい。2ストロークエンジンでは、ピストン22の上昇行程で排気、吸気、及び圧縮が行われ、ピストン22の降下行程で燃焼及び排気が行われる。
【符号の説明】
【0071】
1 :ターボ過給機付きガスエンジン
2 :エンジン(エンジン本体)
3 :過給機
7 :制御装置
7a :演算処理部
7b :記憶部
20 :燃焼室
21 :シリンダ
22 :ピストン
23 :吸気弁
24 :排気弁
31 :圧縮機
32 :タービン
41 :給気管
42 :排気管
43 :エアクーラ
44 :冷媒流路
45 :流量調整装置
46 :バイパス路
48 :給気ブローオフ弁
49 :排気ウエストゲート弁
50 :ガス燃料供給弁ドライバ
51 :ガス燃料供給弁
52 :パイロット燃料インジェクタ
53 :コモンレール
54 :インジェクタドライバ
61 :給気圧力センサ
62 :筒内圧力センサ
63 :位相角検出器
65 :給気温度センサ
66 :旋回角センサ
67 :船速計
73 :舵角操作具
74 :操船操作具
83 :推進翼
93 :推進軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7