(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
F02M 59/36 20060101AFI20231101BHJP
F02M 63/00 20060101ALI20231101BHJP
F02M 55/04 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
F02M59/36 B
F02M63/00 R
F02M55/04
F02M59/36 Z
(21)【出願番号】P 2019051849
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2022-02-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】盛 宣弥
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-184701(JP,A)
【文献】特開2001-165013(JP,A)
【文献】特開2007-224785(JP,A)
【文献】特開2017-141762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャが挿通されるポンプ室と、
前記ポンプ室の吸込通路と連通し、ダンパが設けられるダンパ室と、
一端は前記ポンプ室の吐出通路と
接続され、
他端は前記ダンパ室と
接続される連通路と、
前記連通路に設けられた電磁弁と、
前記ダンパ室、または、前記連通路のうち、前記電磁弁より前記ダンパ室側の燃料である対象燃料の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサが示す温度が、前記対象燃料が気化する温度以下に設定された温度閾値以上であれば、前記電磁弁を開く制御部と、
前記対象燃料の圧力を検出する圧力センサと、
を備え
、
前記制御部は、前記電磁弁が開いているとき、前記圧力センサが示す圧力が、前記対象燃料が気化する圧力以上に設定された圧力閾値以上であれば、前記電磁弁を閉じる燃料供給装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記温度センサが示す温度に応じた前記圧力閾値を用いる請求項
1に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記圧力センサが示す圧力に応じた前記温度閾値を用いる請求項
1または
2に記載の燃料供給装置。
【請求項4】
前記吐出通路と、前記ダンパ室とを連通するリリーフ用連通路と、
前記リリーフ用連通路に設けられたリリーフバルブと、
を備える請求項1から
3のいずれか一項に記載の燃料供給装置。
【請求項5】
前記ダンパ室に、一定の吐出圧で前記燃料を供給する低圧フィードポンプを備える請求項1から
4のいずれか一項に記載の燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンには、インジェクタに燃料を供給する燃料供給装置が設けられる。例えば、特許文献1には、低圧フィードポンプから供給された燃料が、高圧ポンプのポンプ室に供給される構成が記載されている。ポンプ室にプランジャが進入することで、ポンプ室内から燃料が押し出されて、インジェクタ側に吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような燃料供給装置において、燃料の温度が上昇すると燃料が気化してベーパーが生じてしまう。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、ベーパーを抑制することが可能な燃料供給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の燃料供給装置は、プランジャが挿通されるポンプ室と、ポンプ室の吸込通路と連通し、ダンパが設けられるダンパ室と、一端はポンプ室の吐出通路と接続され、他端はダンパ室と接続される連通路と、連通路に設けられた電磁弁と、ダンパ室、または、連通路のうち、電磁弁よりダンパ室側の燃料である対象燃料の温度を検出する温度センサと、温度センサが示す温度が、対象燃料が気化する温度以下に設定された温度閾値以上であれば、電磁弁を開く制御部と、対象燃料の圧力を検出する圧力センサと、を備え、制御部は、電磁弁が開いているとき、圧力センサが示す圧力が、対象燃料が気化する圧力以上に設定された圧力閾値以上であれば、電磁弁を閉じる。
【0008】
制御部は、温度センサが示す温度に応じた圧力閾値を用いてもよい。
【0009】
制御部は、圧力センサが示す圧力に応じた温度閾値を用いてもよい。
吐出通路と、ダンパ室とを連通するリリーフ用連通路と、リリーフ用連通路に設けられたリリーフバルブと、を備えてもよい。
ダンパ室に、一定の吐出圧で燃料を供給する低圧フィードポンプを備えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベーパーを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】プランジャおよび第1電磁弁を説明するための図である。
【
図3】燃料供給装置の制御系を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、燃料供給装置10の概略図である。燃料供給装置10は、エンジンに搭載され、インジェクタに燃料を供給する。
図1に示すように、燃料供給装置10は、燃料を貯留する燃料タンク20を有する。燃料タンク20に貯留された燃料は、例えば、タービン式の低圧フィードポンプ30で吸い上げられ、ダンパ室40に供給される。
【0014】
ダンパ室40には、パルセーションダンパ41、温度センサ42、圧力センサ43が配される。パルセーションダンパ41は、例えば、ダイアフラムを有し、ダイアフラムの作用により燃料の圧力振動を減衰させる。これにより、吸込通路52からダンパ室40に流入する燃料の量について、圧力振動による変動が抑制される。温度センサ42は、ダンパ室40内の燃料の温度を検出し、温度を示す信号を後述する制御部に出力する。圧力センサ43は、ダンパ室40内の燃料の圧力を検出し、圧力を示す信号を後述する制御部に出力する。
【0015】
また、燃料供給装置10は、高圧ポンプ50が設けられる。高圧ポンプ50は、ポンプ室51、吸込通路52、吐出通路53、第1電磁弁54、プランジャ55を有する。ポンプ室51には、吸込通路52の下流端、および、吐出通路53の上流端が接続される。
【0016】
ポンプ室51と吸込通路52との接続部分は、第1電磁弁54により開閉される。吸込通路52の上流端は、ダンパ室40に接続される。吐出通路53の下流端は、不図示の燃料ギャラリを介してインジェクタに連通する。プランジャ55は、ポンプ室51に挿通される。プランジャ55には、不図示のカムが当接しており、カムの回転に連動して、
図1中、上下方向に往復移動する。
【0017】
吐出通路53とダンパ室40の間には、第1連通路60、第2連通路70(連通路)が設けられる。第1連通路60、第2連通路70それぞれにおいて、一端は吐出通路53に接続され、他端はダンパ室40に接続される。
【0018】
第1連通路60には、リリーフバルブ61が配される。吐出通路53の燃料の圧力から、ダンパ室40の燃料の圧力を引いた差分が、所定圧力以下の場合、リリーフバルブ61は閉弁している。第1連通路60は、リリーフバルブ61により閉じられる。
【0019】
吐出通路53の燃料の圧力から、ダンパ室40の燃料の圧力を引いた差分が、所定圧力を超えると、リリーフバルブ61が開弁する。そうすると、吐出通路53からダンパ室40に燃料が流れ、吐出通路53の圧力が減少する。
【0020】
第2連通路70には、第2電磁弁71(電磁弁)が配される。第2電磁弁71は、後述する制御部の制御に応じ、開閉する。第2連通路70は、第2電磁弁71により開閉される。第2電磁弁71が開弁すると、第2連通路70を介して吐出通路53とダンパ室40が連通する。
【0021】
図2は、プランジャ55および第1電磁弁54を説明するための図である。インジェクタ側に高圧の燃料を供給する場合、
図2に示すように、第1電磁弁54が開弁する。そして、プランジャ55がポンプ室51から後退する。これに伴い、吸込通路52を介して、ダンパ室40からポンプ室51に燃料が流入する。
【0022】
その後、
図1に示すように、第1電磁弁54が閉弁し、プランジャ55がポンプ室51に進入する。ポンプ室51の燃料は、吐出通路53に押し出される。こうして、インジェクタ側に高圧の燃料が供給される。
【0023】
図3は、燃料供給装置10の制御系を説明するためのブロック図である。
図3では、第2電磁弁71の制御に関する構成のみを記載する。
図3に示すように、燃料供給装置10は、上記の温度センサ42、圧力センサ43、第2電磁弁71に加えて、制御部80を有する。
【0024】
制御部80は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)で構成される。制御部80は、温度センサ42からの信号、および、圧力センサ43からの信号に応じ、第2電磁弁71を開閉制御する。
【0025】
図4は、制御部80の制御を説明するための図である。制御部80は、温度センサ42が示す温度が、ダンパ室40の燃料が気化する温度以下に設定された温度閾値以上であれば、
図4に示すように、第2電磁弁71を開く。吐出通路53の高圧の燃料は、第2連通路70を通ってダンパ室40に流入する。
【0026】
ダンパ室40の温度が上昇すると、ダンパ室40の燃料が気化してベーパーが生じるおそれがある。ベーパーが生じると、燃料が圧送され難くなる。そこで、低圧フィードポンプを、吐出圧が可変なタイプとすることが考えられる。この場合、ベーパーが生じそうな条件では、低圧フィードポンプの吐出圧を上昇させることで、ベーパーが抑制される。しかし、吐出圧が可変である低圧フィードポンプは、吐出圧が一定の低圧フィードポンプ30に比べて高価である。また、低圧フィードポンプの吐出圧の制御設計などが必要となる。いずれにしても、コストが高い。
【0027】
そこで、第2連通路70、第2電磁弁71が設けられる。上記のように、制御部80は、温度センサ42が示す温度が、温度閾値以上であれば、第2電磁弁71を開く。ダンパ室40の燃料の圧力は、吐出通路53から流入する燃料により昇圧される。こうして、吐出圧が可変である低圧フィードポンプを設けずとも、簡易な構成で、ベーパーを抑制することが可能となる。
【0028】
また、制御部80は、第2電磁弁71が開いているとき、圧力センサ43が示す圧力が、ダンパ室40の燃料が気化する圧力以上に設定された圧力閾値以上であれば、第2電磁弁71を閉じる。すなわち、ベーパーが生じない圧力まで、ダンパ室40の燃料の圧力が昇圧されると、第2電磁弁71が閉じられる。こうして、高圧の燃料を無用にダンパ室40に還流させる事態を回避することができる。
【0029】
また、ダンパ室40の圧力は、第2電磁弁71が閉じている間は、低圧フィードポンプ30の吐出圧により大凡定まる。そのため、ダンパ室40の燃料が気化する温度閾値は、予め設定された固定値が用いられる。これにより、制御部80の処理負荷が軽減する。
【0030】
ただし、温度閾値は、圧力センサ43が示す圧力に応じて特定されてもよい。燃料が気化する温度は、燃料の飽和蒸気圧曲線に基づいて定まる。そこで、制御部80には、燃料の圧力と温度閾値が対応付けられたマップや計算式が、予め登録されている。制御部80は、これらのマップや計算式に基づいて、圧力センサ43が示す圧力に応じて温度閾値を特定する。これにより、ベーパーが発生しないにも拘わらず、高圧の燃料をダンパ室40に還流させることによる損失が抑制される。
【0031】
また、圧力閾値は、温度センサ42が示す温度に応じて特定されてもよい。閾値温度と同様、燃料が気化する圧力は、燃料の飽和蒸気圧曲線に基づいて定まる。そこで、制御部80には、燃料の温度と圧力閾値が対応付けられたマップや計算式が、予め登録されている。制御部80は、これらのマップや計算式に基づいて、温度センサ42が示す温度に応じて圧力閾値を特定する。これにより、ベーパーが発生しないにも拘わらず、高圧の燃料をダンパ室40に還流させることによる損失が抑制される。
【0032】
図5は、制御部80の処理を示すフローチャートである。
図5に示す制御処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0033】
制御部80は、第2電磁弁71が閉弁されているか否かを判定する(S100)。第2電磁弁71が閉弁されていると(S100におけるYES)、制御部80は、温度センサ42が示す温度が、温度閾値以上であるか否かを判定する(S102)。
【0034】
温度センサ42が示す温度が、温度閾値以上でなければ(S102におけるNO)、当該制御処理を終了する。温度センサ42が示す温度が、温度閾値以上であれば(S102におけるYES)、制御部80は、第2電磁弁71を開弁し(S104)、当該制御処理を終了する。
【0035】
S100において、第2電磁弁71が閉弁されていないと(S100におけるNO)、制御部80は、圧力センサ43が示す圧力が、圧力閾値以上であるか否かを判定する(S106)。
【0036】
圧力センサ43が示す圧力が、圧力閾値以上でなければ(S106におけるNO)、当該制御処理を終了する。圧力センサ43が示す圧力が、圧力閾値以上であれば(S106におけるYES)、制御部80は、第2電磁弁71を閉弁し(S108)、当該制御処理を終了する。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0038】
例えば、上述した実施形態では、温度センサ42、圧力センサ43は、ダンパ室40の燃料を測定対象(対象燃料)とする場合について説明した。ただし、温度センサ42、圧力センサ43は、第2連通路70のうち、第2電磁弁71よりもダンパ室40側の燃料を測定対象としてもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、第1連通路60、リリーフバルブ61が設けられる場合について説明した。しかし、第1連通路60、リリーフバルブ61は、必須の構成ではない。
【0040】
また、上述した実施形態では、圧力センサ43を備え、制御部80は、第2電磁弁71が開いているとき、圧力センサ43が示す圧力に応じて、第2電磁弁71を閉弁する場合について説明した。この場合、圧力センサ43が示す圧力から、ベーパーの抑制が完了したことが容易に特定される。そのため、ベーパーが発生しないにも拘わらず、高圧の燃料をダンパ室40に還流させることによる損失が抑制される。ただし、第2電磁弁71の閉弁処理は、圧力センサ43が示す圧力以外の指標値に基づいて、行われてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、燃料供給装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 燃料供給装置
40 ダンパ室
41 パルセーションダンパ(ダンパ)
42 温度センサ
43 圧力センサ
51 ポンプ室
52 吸込通路
53 吐出通路
55 プランジャ
70 第2連通路(連通路)
71 第2電磁弁(電磁弁)
80 制御部