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特許7376998摺動部材用合金、摺動部材、内燃機関、及び自動車
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  • 特許-摺動部材用合金、摺動部材、内燃機関、及び自動車 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】摺動部材用合金、摺動部材、内燃機関、及び自動車
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/02 20060101AFI20231101BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20231101BHJP
   B22F 7/00 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
C22C9/02
C22C9/06
B22F7/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019054362
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020152980
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147810
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 浩
(72)【発明者】
【氏名】児玉 勇人
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-098467(JP,A)
【文献】特開2001-220630(JP,A)
【文献】特開2010-031347(JP,A)
【文献】特開2005-200703(JP,A)
【文献】国際公開第2010/030031(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/140100(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 33/02
F16C 33/12
F16C 33/16-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5.5~10質量%のSnと、
2~7質量%のNiと、
1~5質量%のBiと、
0.01~0.3質量%のAgと
を含み、
Fe P、Fe P、FeB、Fe B、AlN、NiB、Mo C、及びAl からなる群から選択される硬質物を含まず、
残部がCu及び不可避不純物からなり、
断面におけるNi-Sn金属間化合物の面積率が、0.4%以上であり、
前記断面において、面積が30μm2以上であるBi粒及び面積が5μm2以下であるBi粒が併存する
摺動部材用合金。
【請求項2】
前記断面において観察される全てのBi粒に対する前記面積が5μm2以下であるBi粒の数の割合が、50%以上である
請求項1に記載の摺動部材用合金。
【請求項3】
前記断面のうち、前記面積が30μm2以上であるBi粒の中心から半径25μmの領域内において、当該領域内に存在する全てのBi粒に対する前記面積が5μm2以下であるBi粒の数の割合が、50%以上である
請求項1に記載の摺動部材用合金。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の摺動部材用合金で形成されたライニング層と、
前記ライニング層の上に形成された樹脂コーティング層又は金属めっき層と
を有する摺動部材。
【請求項5】
請求項4に記載の摺動部材を有する内燃機関。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関を有する自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受合金、摺動部材、内燃機関、及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、耐焼付き性を改善するため、Bi相中に初晶Ag相を分散するCu系軸受合金が記載されている。特許文献2には、Pb含有量を減少させつつ、耐焼付き性及び耐疲労性を向上させるため、Pb相及び/又はBi相の周りに金属間化合物がそのPb相及び/又はBi相に接する組織を有するCu系軸受合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-196524号公報
【文献】特許3507388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の軸受合金においては耐疲労性及び耐焼付き性に改善の余地があった。また、特許文献2に記載の軸受合金はPbを含有しており環境への悪影響が懸念されるという問題があった。
【0005】
これに対し本発明は、Pbフリーの材料を使用し、耐焼付き性を向上させた摺動部材及びそのための摺動部材用合金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、5.5~10質量%のSnと、2~7質量%のNiと、1~5質量%のBiと、0~0.3質量%のAgとを含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物からなる摺動部材用合金を提供する。
【0007】
断面におけるNi-Sn金属間化合物の面積率が、0.4%以上であってもよい。
【0008】
断面において、面積が30μm以上であるBi粒及び面積が5μm以下であるBi粒が併存してもよい。
【0009】
前記断面において観察される全てのBi粒に対する前記面積が5μm以下であるBi粒の数の割合が、50%以上であってもよい。
【0010】
前記断面のうち、前記面積が30μm以上であるBi粒の中心から半径25μmの領域内において、当該領域内に存在する全てのBi粒に対する前記面積が5μm以下であるBi粒の数の割合が、50%以上であってもよい。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかに記載の摺動部材用合金で形成されたライニング層と、前記ライニング層の上に形成された樹脂コーティング層又は金属めっき層とを有する摺動部材を提供する。
【0012】
さらに、本発明は上記の摺動部材を有する内燃機関を提供する。
【0013】
さらに、本発明は上記の内燃機関を有する自動車を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Pbフリーの材料を使用し、耐疲労性の低下を抑制しつつ耐焼付き性を向上させた摺動部材及びそのための摺動部材用合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る摺動部材を例示する図。
図2】一実施形態に係る摺動部材用合金の断面写真の一例。
図3】摺動部材用合金の断面組織を示す模式図。
図4】Sn及びNiが特性に与える影響を示す図。
図5】一実施形態に係る摺動部材の製造方法を例示するフローチャート。
図6】Ni-Sn相の面積率と摩耗深さとの関係を示す図。
図7】Ni-Sn相の面積率と摩擦係数との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.組成
図1は、一実施形態に係る摺動部材を例示する図である。ここでは、摺動部材として半割軸受を図示している。この摺動部材は、一実施形態に係る摺動部材用合金で形成された層を含む。この摺動部材用合金は、Cu系合金(銅合金)である。このCu系合金は、いわゆるCu-Sn-Ni-Bi-Ag系の合金であり、(A)Sn、(B)Ni、(C)Bi、及び(D)Agを含む。なお、残部はCu及び不可逆不純物からなる。不可避不純物は、例えば、Al、Fe、Sn、Mg、Ni、Ti、B、Pb、及びCrの少なくとも1種を含む。不可逆不純物は、例えば、精錬又はスクラップにおいて混入する。不可避不純物の含有量は、一例として、総量で1.0質量%以下である。
【0017】
図2は、一実施形態に係る摺動部材用合金の断面写真の一例である。なお、これらの像は、SEM-EDX(日本電子社製JSM-6610A)によって得られた500倍の像を示す。図中の左端が二次電子像(SEI)であり、以下、左から順に、Cu、Sn、Ni、Bi、及びAg元素の分布を示している。これらの図から、Sn及びNiはCu中へ固溶しているものとNi-Snの金属間化合物に相当するものに分かれていることがわかる。なお、この写真の試料の組成は以下のとおりである。これ以外の成分は含まれていないか、不可避不純物である。
【表1】
【0018】
各成分の含有量は以下のとおりであることが好ましい。
(A)Sn:5~10質量%。5~8.5質量%であることがより好ましい。
(B)Ni:2~7質量%。3~6質量%であることがより好ましい。
(C)Bi:1~5質量%。2~4.5質量%であることがより好ましい。
(D)Ag:0~0.3質量%。0.01~0,2質量%であることがより好ましい。
なおここで、5~10質量%とは5質量%以上、10質量%以下の意味である。
【0019】
図3は、摺動部材用合金の断面組織を示す模式図である。摺動部材用合金の断面組織においては、比較的大きい(詳細には面積が30μm以上の)Bi粒と、比較的小さい(詳細には面積が5μm以下の)Bi粒とが併存(又は混在)している。具体的には、観察面(縦150μm×横250μm)において観察される全Bi粒に対する、小さいBi粒の数の割合は50%以上であり、60%以上であることが好ましい。
【0020】
表2は、試料1~3について、小さいBi粒の数の割合を測定した結果を示す。測定には、後述する実験例における画像解析と同じ装置を用いた。なお試料4は比較例であり、その組成はCu-4Sn-6.5Biである。
【表2】
この結果からわかるように、試料1~3はいずれも、比較例である試料4よりも小さいBi粒の割合が高く、40%以上であり、詳細には60%以上であった。また、大きいBi粒の割合は30%以下であり、詳細には20%以下、さらには16%以下であった。なお、この測定におけるBi粒の面積は、後述の画像解析ソフトにより算出される。
【0021】
また、別の観点から、小さいBi粒は大きいBi粒の周辺に多く分布している。具体的には、大きいBi粒の中心から半径25μmのエリア内において、小さいBi粒が占める割合は平均して50%以上であり、60%以上であることが好ましい。
【0022】
表3は、試料1~4について、大きいBi粒の中心から半径25μmのエリアにおけるBi粒の数の割合を測定した結果を示す。測定には、後述する実験例における画像解析と同じ装置を用いた。観察領域には大きいBi粒が複数、存在するが、その各々について半径25μmのエリアを設定し、エリア内のBi粒を測定した上で、全ての大きいBi粒について結果を平均した。
【表3】
この結果からわかるように、試料1~3はいずれも、比較例である試料4よりも小さいBi粒の割合が高く、40%以上であり、詳細には60%以上であった。また、大きいBi粒の割合は30%以下であり、詳細には20%以下、さらには18%以下であった。さらに、表2の結果との対比でいうと、エリア内における中程度のBi粒の数の割合は、観察領域全体における中程度のBi粒の数の割合よりも少ない。逆に、エリア内における大きいBi粒の数の割合は、観察領域全体における大きいBi粒の数の割合よりも多い。
【0023】
Biは軟質かつ自己潤滑作用のある材料である。径の大きいBi粒だけでなく径の小さいBi粒が分布することにより、相手軸においてBi粒と接触する範囲が広がり、単に径の大きいBi粒のみが存在する例と比較してより低摩擦となる。低摩擦となることで、耐焼付き性の向上、及び耐摩耗性の向上という効果が得られる。なお、Biは軟質であるため材料全体の強度を低下させるおそれがある。しかし、大きい粒状のBiのみが分布する例と比較すると、大きい粒状のBi及び小さい粒状のBiが混在する方が、材料全体の強度の低下は小さい。この材料を摺動部材(例えば軸受)に用いると、耐疲労性の低減を抑制するという効果が得られる。
【0024】
図4は、Sn及びNiが特性に与える影響を示す図である。ここでは、Snの含有量を0質量%又は4.5質量%、Niの含有量を0質量%又は7質量%とした。なお、SnとNi以外の組成は、Biが3質量%、Agが0.07質量%、残部がCuである。摩擦係数、摩耗量、腐食量、及びロックウェル硬さに関しては、Sn及びNiを含まない例と比較して、Sn及びNiの少なくともいずれか一方を含む例の方が、特性が改善する。特に、Sn及びNiの双方を含む例は、Sn及びNiのいずれか一方のみを含む例と比較してさらなる特性の改善が見られた。摩擦係数、摩耗量、腐食量、及び硬さについては、Niのみを含む例よりもSnのみを含む例の方が、改善効果が高かった。
【0025】
2.製造方法
図5は、一実施形態に係る摺動部材用合金を用いた摺動部材の製造方法を例示するフローチャートである。ステップS1において、銅合金の原料粉末が準備される。この例においては、Cu-Sn-N-B-Ag合金粉が用いられる。なお、これに加えて、又は代えて、単体金属粉を混合したもの(混合粉)が用いられてもよい。ステップS2において、原料粉末が裏金上に散布される。ステップS3において、一次焼結が行われる。一次焼結の条件は、水素還元雰囲気中で、温度850℃、保持時間10分である。一次焼結後、圧延(ステップS4)された後、二次焼結が行われる(ステップS5)。二次焼結の条件は、一次焼結と同一である。二次焼結後のワークは、帯の形状を有しており、例えばロールに巻き取られて次の工程に供される。ステップS6において、合金材が所望の形状に加工され、摺動部材が得られる。
【0026】
こうして得られる摺動部材は、例えば半割軸受である。この半割軸受は、例えば、自動車の内燃機関におけるいわゆる主軸受として用いられる。また、関連技術において、Inを含むCu系合金が摺動部材用合金として用いられる例があるが、Inは相対的にコストが高く、コストの低減が課題となる場合があった。しかし、本実施形態に係る摺動部材用合金は、成分にInを含んでいない(Inフリー)ので、Inを含む例と比較してコストを低く抑えることができる。
【0027】
3.実施例
本願の発明者らは、種々の条件で摺動部材の試験片(サンプル)を作製し、これらの試験片について耐摩耗性及び摩擦係数を評価した。まず、作製した試験片に用いた合金の組成及び断面組織におけるNi-Sn相(Ni-Sn金属間化合物相)の面積率は表4のとおりである。なお、断面組織におけるNi-Sn相の面積率は以下の方法により計測した。まず、断面をSEM-EDX(日本電子社製JSM-6610A)によって300倍の光学倍率で撮影し、観察画像の画像データを得た。そして、この画像データを画像解析装置(ニレコ社製LUZEX_AP)に入力し、観察画像に存在する相の面積を計測した。図2の例に示すように、摺動部材用合金の断面組織において、マトリックスに対して相対的に色の薄い層がNi-Sn相である。

【表4】
【0028】
図6は、Ni-Sn相の面積率と摩耗深さとの関係を示す図である。摩耗試験の条件は以下のとおりである。
試験形態:ブロックオンリング
荷重: 90N
回転数: 0.5m/s
時間: 30分
油種: パラフィン油
油温: 室温
【0029】
この実験結果によれば、Ni-Sn相の面積率が低いうちは摩耗量が多いが、Ni-Sn相の面積率が増えるにつれ摩耗量は減少していき、面積率が0.8%を超えたあたりから低いレベルで安定する。この結果から、断面におけるNi-Sn金属間化合物の面積率は0.4%以上であることが好ましく、0.8%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
図7は、Ni-Sn相の面積率と摩擦係数との関係を示す図である。この実験結果によれば、Ni-Sn相の面積率が低いうちは摩擦係数が大きいが、Ni-Sn相の面積率が増えるにつれて摩擦係数が低減していき、面積率が1.5%あたりから低いレベルで安定する。この結果から、断面におけるNi-Sn金属間化合物の面積率は0.4%以上であることが好ましく、1.5%以上であることがさらに好ましい。このように摩擦係数が低下することにより、この材料を摺動部材(例えば軸受)に用いると高負荷時の温度上昇が抑えられ耐焼付き性が向上するという効果が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7