(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】熱暴走抑制耐火シート
(51)【国際特許分類】
H01M 10/658 20140101AFI20231101BHJP
D21H 13/40 20060101ALI20231101BHJP
D21H 13/16 20060101ALI20231101BHJP
D21H 19/44 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
H01M10/658
D21H13/40
D21H13/16
D21H19/44
(21)【出願番号】P 2019158551
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重松 俊広
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 昌利
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165065(JP,A)
【文献】特開2012-160279(JP,A)
【文献】特開2019-046776(JP,A)
【文献】特開平08-290654(JP,A)
【文献】特開2016-193576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
H01M 10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素電池を備えた電池パックにおいて、一つの素電池が発火した際に隣接する素電池の延焼を防ぐ熱暴走抑制耐火シートであり、
該熱暴走抑制耐火シートは、基材と無機粒子層とを含有し、
該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化耐熱性繊維を含有し、
該基材に含まれる全繊維成分に対して、ガラス繊維の含有率は75質量%以上95質量%以下であり、湿熱接着性バインダー繊維の含有率は3質量%以上20質量%以下であり、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は2.0質量%以上10.0質量%以下であり、
該無機粒子層が無機粒子と無機バインダーを含有することを特徴とする熱暴走抑制耐火シート。
【請求項2】
該湿熱接着性バインダー繊維がシラノール変性ポリビニルアルコール繊維である請求項1記載の熱暴走抑制耐火シート。
【請求項3】
該フィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度が40ml以上である請求項1又は2記載の熱暴走抑制耐火シート。
変法濾水度:ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度を0.1%にした以外はJIS P8121-2:2012に準拠して測定した値。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の素電池を備えた電池パックにおいて、一つの素電池が熱暴走し、発火した際に隣接する素電池の熱暴走を抑制し、延焼を防ぐ熱暴走抑制耐火シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の多様化にともない高容量、高電圧、高出力であって、かつ安全性の高い素電池や複数の素電池を備えた電池パックが求められている。特に、安全性の高い素電池や電池パックを提供するために、素電池や電池パックに、温度の上昇を防ぐためのPTC素子の装備や温度ヒューズ、さらに、素電池の内部圧力を感知して電流を遮断させる保護回路等、種々の保護手段を備える技術が知られている。また、素電池が異常状態(例えば、熱暴走状態)にならないように素電池の充放電を制御する制御回路を電池パックに備える技術も知られている。
【0003】
しかしながら、上述のような保護手段や制御回路を備えていても、素電池が異常な条件下に置かれた場合、種々の原因で素電池は熱暴走を起こすことがある。熱暴走すると、素電池の温度は急激に上昇して300℃以上、場合によっては400℃以上になることもあり、内部から高温の可燃性ガスが噴出する可能性がある。そして、最悪の場合、発火し、素電池を収納している電池パックの筐体が破損や溶融するおそれがある。
【0004】
このような熱暴走を防止する技術として、特許文献1では、ガラス繊維シートの空間にシリカキセロゲルを担持し、繊維シートの外周部を緻密な樹脂層で覆うことによりシリカキセロゲルを固定する断熱シートが開示されている。この断熱シートは、断熱性に優れるものの、シリカキセロゲルを樹脂層で固定しているため、素電池の温度が300℃を超えた場合の耐熱性や耐火性に劣る問題があった。
【0005】
また、特許文献2では、鉱物系粉体及び難燃剤のうちの少なくとも一方を含有し、100~1000℃で吸熱反応を開始し、それに従って、相変化、膨張、発泡及び硬化からなる群から選択される少なくとも一種の構造変化が起こる熱暴走防止シートが開示されている。この熱暴走防止シートは、基材として、アルミニウム箔ラミネートガラスクロスを使用しており、鉱物系粉体及び難燃剤を含有する樹脂組成物を一軸押出機に供給し、押出成型して、熱吸熱性材料シートや耐火断熱シートを得て、さらに、得られた熱吸熱性材料シートや耐火断熱シートを組み合わせてプレス加工することで熱暴走防止シートが得られるため、非常に生産性が悪く、コスト高になる問題があった。また、樹脂組成物であるため、素電池が発火した際の耐火性に劣る問題があった。
【0006】
また、特許文献3では、ガラス繊維および生体溶解性無機繊維からなる群より選ばれる1種以上の無機繊維を30~95質量%含有し、β型セピオライトを5~40質量%含有する無機繊維シートの製造方法であって、前記無機繊維を含有するスラリーを湿式抄紙して不織布を製造する工程(i)と、前記不織布に対して、β型セピオライトを含有するスラリーを付着させる工程(ii)とを有する、無機繊維シートの製造方法が開示されている。しかしながら、この無機繊維シートは、ハニカム成型体とされた後、焼成されるフィルターの基材に好適に用いられるものであり、不織布自体の湿潤強度が十分でなく、焼成せずに使用した場合の無機繊維シートの耐火性や不燃性に劣る問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/110055号パンフレット
【文献】特開2018-206605号公報
【文献】特開2017-025458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、低坪量でも、基材の湿潤強度が強く、無機粒子層の塗工性に優れ、複数のリチウムイオン素電池を備えた電池パックにおいて、一つの素電池が熱暴走し、発火した際に、隣接するリチウムイオン素電池への延焼を防ぐことが可能な熱暴走抑制耐火シートとして、耐火性及び不燃性に優れた熱暴走抑制耐火シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記発明を見出した。
【0010】
(1)複数の素電池を備えた電池パックにおいて、一つの素電池が発火した際に隣接する素電池の延焼を防ぐ熱暴走抑制耐火シートであり、
該熱暴走抑制耐火シートは、基材と無機粒子層とを含有し、
該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化耐熱性繊維を含有し、
該基材に含まれる全繊維成分に対して、ガラス繊維の含有率は75質量%以上95質量%以下であり、湿熱接着性バインダー繊維の含有率は3質量%以上20質量%以下であり、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は2.0質量%以上10.0質量%以下であり、
該無機粒子層が無機粒子と無機バインダーを含有することを特徴とする熱暴走抑制耐火シート。
【0011】
(2)該湿熱接着性バインダー繊維がシラノール変性ポリビニルアルコール繊維である上記(1)記載の熱暴走抑制耐火シート。
【0012】
(3)該フィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度が40ml以上である上記(1)又は(2)記載の熱暴走抑制耐火シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱暴走抑制耐火シートは、ガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化耐熱繊維を含有する基材を含有している。ガラス繊維とフィブリル化耐熱性繊維が絡み合い、絡み合った交点を湿熱接着性バインダー繊維で固定するため、低坪量でも基材の湿潤強度が優れており、無機粒子層形成用塗工液を基材へ塗工する際の操業安定性に優れている。また、該基材の湿熱接着性バインダー繊維として、シラノール変性ポリビニルアルコール繊維を含有した場合、ガラス繊維との接着性がさらに高まるため、基材の湿潤強度をさらに高めることができる。また、無機粒子と無機バインダーを含有する無機粒子層を含有させることにより、熱暴走によって素電池が発火した場合、耐火性及び不燃性に優れるという効果を達成できる。そして、基材がフィブリル化耐熱性繊維を含有するため、無機粒子層形成用塗工液の浸透性と液保持性に優れるため、無機粒子の含有率を高めることができ、耐火性及び不燃性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、熱暴走抑制耐火シートは、基材と無機粒子層とを含有し、該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化耐熱性繊維を含有し、該無機粒子層が無機粒子と無機バインダーを含有することを特徴とするシートである。
【0015】
本発明におけるガラス繊維としては、例えば、チョップドストランド、グラスウール、グラスフレークが挙げられる。折れ難く、基材の形成能があればいずれのガラス繊維でも良い。ガラス繊維の繊維径は、1~18μmであることが好ましく、2~13μmであることがより好ましく、3.1~10μmであることがさらに好ましい。繊維径が1μm未満の場合、細かすぎて抄造時に基材からガラス繊維が脱落し、強度、厚みが不十分となる場合がある。繊維径が18μmを超えた場合、ガラス繊維が太くなり過ぎて、基材の隙間が大きくなり、加工性に劣り、さらに皮膚への刺激性がある等、作業性に支障を来たして利用し難くなる場合がある。
【0016】
また、本発明におけるガラス繊維の繊維長は、1~30mmであることが好ましく、2~15mmであることがより好ましく、3~12mmであることがさらに好ましい。繊維長が1mm未満では、強度不足となる場合があり、繊維長が30mmを超えた場合、基材の地合が悪くなり、品質にバラツキが生じる場合がある。
【0017】
また、本発明におけるガラス繊維の含有率は、基材に含まれる全繊維成分に対して、75~95質量%であることが好ましく、80~93質量%であることがより好ましく、85~90質量%であることがさらに好ましい。含有率が75質量%未満であると、耐火性又は不燃性が悪くなる場合があり、含有量が95質量%を超えると、ガラス繊維同士の結合は弱いことから、基材強度が弱くなり、さらに無機粒子層を設けるために塗工する際に、ガラス繊維が脱落する場合がある。
【0018】
本発明に用いるバインダー繊維は湿熱接着性バインダー繊維である。湿熱接着性バインダー繊維とは、湿潤状態において、ある温度で繊維状態から流動、又は容易に変形して接着機能を発現する繊維のことを言う。具体的には、熱水(例えば、80~120℃程度)で軟化して自己接着、又は他の繊維に接着可能な熱可塑性繊維であり、例えば、ポリビニル系繊維(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、セルロース系繊維(メチルセルロースなどのC1-3アルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシC1-3アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1-3アルキルセルロース、又はその塩など)、変性ビニル系共重合体からなる繊維(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、又は、その無水物との共重合体、又はその塩など)などが挙げられる。本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維としては、ポリビニル系繊維が好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)繊維がより好ましく、基材強度がより高くなり、また、繊維間に皮膜を形成しやすく、無機粒子を繊維間に保持しやすくなる。
【0019】
本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維としては、架橋性官能基を有するモノマーで変性されたポリビニルアルコール繊維、或いは、架橋剤を用いて紡糸時、或いは、紡糸後に温和な条件下で架橋を行ったポリビニルアルコール繊維が、低延伸糸に耐熱水性を付与することが可能となり、より好ましい。
【0020】
架橋性官能基としては、シラノール基、カルボキシル基、メチロール基等が挙げられる。かかる架橋性官能基を有するモノマーで変性されたポリビニルアルコールを、pH等を調整することによって架橋させることなく水に溶解し、紡糸後、或いは、紡糸時に架橋させることによって、繊維を得ることができる。変性度は、好ましくは0.01~10mol%であり、より好ましくは、0.1~5mol%である。好適な例としては、シラノール変性ポリビニルアルコール(変性度0.1~2mol%)をアルカリ溶液(pH9~13)に溶解し、該溶液を酸性(pH5~6)にすることにより架橋させつつ紡糸し、乾燥後熱処理する方法が挙げられる。
【0021】
一方、自己架橋性のない未変性ポリビニルアルコールを紡糸後、各種有機系或いは無機系架橋剤を付与して架橋せしめる方法で繊維を得ても良い。無機系架橋剤としては、リン酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸チタニル等が挙げられ、また、有機系架橋剤として、メチロール系、エポキシ系、オソシアネート系、アルデヒド系等が挙げられる。これらの架橋剤を未変性ポリビニルアルコール紡糸原液に添加して紡糸した後、或いは、未変性ポリビニルアルコールを単独で紡糸して架橋剤含有浴を通した後、熱処理することで架橋を進行させることができる。また、これらの方法を併用することも可能である。
【0022】
本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維は上記に限定されるものではないが、シラノール変性ポリビニルアルコール繊維は、ガラス繊維との接着性に良いことから、特に好ましい。
【0023】
湿熱接着性バインダー繊維の繊度は、0.1~5.6デシテックスであることが好ましく、0.4~2.2デシテックスであることがより好ましく、0.6~1.1デシテックスであることがさらに好ましい。繊度が0.1デシテックス未満の場合、繊維自体が非常に高価になり、また、基材が緻密で薄いものになってしまうことがある。一方、5.6デシテックスを超えた場合、ガラス繊維との接点が少なくなり、湿潤状態での強度維持が困難になることがある。また、均一な地合が取れないことがある。湿熱接着性バインダー繊維の繊維長は、1~15mmであることが好ましく、2~10mmであることがより好ましく、3~5mmであることがさらに好ましい。繊維長が1mm未満の場合、抄造時に抄紙ワイヤーから抜け落ちることがあり、十分な強度が得られないことがある。一方、15mmを超えた場合、水に分散する際にもつれ等を起こすことがあり、均一な地合が得られないことがある。
【0024】
本発明で用いる湿熱接着性バインダー繊維の含有率は、基材に含まれる全繊維成分に対して、3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、4質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。湿熱接着性バインダー繊維が3質量%未満の場合、基材の強度が低下し、無機粒子を塗工する際に断紙する場合やガラス繊維が脱落する場合がある。一方、湿熱接着性バインダー繊維の含有率が20質量%を超えた場合、基材を湿式抄造法で抄紙する際、ドライヤーからの剥離性が悪化する場合があり、また、無機粒子を塗工する際に、基材への浸透性が低下する場合があり、熱暴走抑制耐火シートの耐火性が悪化する場合がある。
【0025】
本発明に用いるフィブリル化耐熱性繊維としては、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性樹脂からなるフィブリル化繊維が用いられる。これらの中でも、親水性が高く、フィブリル化しやすい全芳香族ポリアミドが好ましい。
【0026】
本発明におけるフィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度は40ml以上であり、好ましくは50ml以上700ml以下であり、より好ましくは100ml以上600ml以下であり、さらに好ましくは300ml以上450ml以下である。変法濾水度が700mlを超えた場合、フィブリル化があまり進んでいないため、ガラス繊維との絡み合いが少なくなるため、湿潤強度の向上効果が低下する場合がある。また、無機粒子層形成用塗工液の浸透性や液保持性の向上効果が低下する場合がある。一方、変法濾水度が40ml未満の場合、フィブリル化耐熱性繊維のファイン分が増えて、基材から脱落する割合が増える場合があり、また、基材の厚みが薄くなりやすく、高密度化するため、基材の空隙が減少し、無機粒子層形成用塗工液の浸透性や液保持性が低下する場合がある。
【0027】
本発明において、変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度を0.1%にした以外はJIS P8121-2:2012に準拠して測定した値のことである。
【0028】
本発明のフィブリル化耐熱性繊維において、質量加重平均繊維長は、0.02mm以上1.50mm以下であることが好ましい。また、長さ加重平均繊維長は、0.02mm以上1.00mm以下であることが好ましい。平均繊維長が好ましい範囲よりも短い場合、基材からフィブリル化耐熱性繊維が脱落する場合がある。平均繊維長が好ましい範囲よりも長い場合、繊維の離解が悪くなり、分散不良が発生しやすくなる。
【0029】
フィブリル化耐熱性繊維が、上記の質量加重平均繊維長と長さ加重平均繊維長を持つ場合、基材に含まれるフィブリル化耐熱性繊維の含有率が少ない場合でも、フィブリル化耐熱性繊維間やフィブリル化耐熱性繊維とガラス繊維との間において、繊維による緻密なネットワーク構造が形成され、湿潤強度が高く、無機粒子塗工液の浸透性や液保持性を高めることができる基材が得られやすくなる。
【0030】
フィブリル化耐熱性繊維の平均繊維幅は、0.5μm以上40.0μm以下が好ましく、3.0μm以上35.0μm以下がより好ましく、5.0μm以上30.0μm以下がさらに好ましい。平均繊維幅が40.0μmを超えた場合、フィブリル化耐熱性繊維とガラス繊維の絡み合いが減少するため、湿潤引張強度が低下する場合があり、平均繊維幅が0.5μm未満の場合、基材からフィブリル化耐熱繊維が脱落するようになり、交点が増え過ぎるために湿熱接着性バインダー繊維を増やさないと、湿潤引張強度が低下する場合がある。
【0031】
本発明において、フィブリル化耐熱性繊維の質量加重平均繊維長、長さ加重平均繊維長及び平均繊維幅は、KajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して、投影繊維長(Proj)モードにおいて測定した質量加重平均繊維長(L(w))、長さ加重平均繊維長(L(l))及び繊維幅である。
【0032】
フィブリル化耐熱性繊維は、耐熱性繊維をリファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転式ホモジナイザー、高速の回転する円筒の内刃と固定された外刃との間でせん断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより、繊維にせん断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等を用いて処理することによって得ることができる。
【0033】
本発明において、基材に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は2.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上8.0質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以上6.0質量%以下であることがさらに好ましく、3.5質量%以上5.0質量%以下であることが特に好ましい。フィブリル化耐熱性繊維の含有率が10.0質量%を超えた場合、湿熱接着性バインダー繊維の配合量を増やす必要があり、耐火性や不燃性が低下する場合がある。また、基材の厚みが薄くなりやすく、基材の空隙が減少するため、無機粒子層形成用塗工液の浸透性や液保持性が低下し、無機粒子の含有量が減少するため、耐火性や不燃性が悪化する場合がある。一方、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が2.0質量%未満である場合、フィブリル化耐熱性繊維間やフィブリル化耐熱性繊維とガラス繊維との緻密なネットワーク構造が形成されにくく、湿潤強度の向上効果が発現しにくくなる。
【0034】
本発明において、ガラス繊維、湿熱接着性バインダー繊維、フィブリル化耐熱性繊維に加えて、必要に応じて、性能を阻害しない範囲で、各種繊維を配合することができる。その結果、さらに空隙部を増やすことができ、無機粒子の保持性や熱暴走抑制耐火シートの強度を向上させることができる。このような繊維としては、レーヨン、キュプラ、リヨセル繊維等の再生繊維、アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系、ベンゾエート、ポリクラール、フェノール、メラミン、フラン、尿素、アニリン、不飽和ポリエステル、フッ素、シリコーン、これらの誘導体等の合成樹脂繊維、金属繊維、炭素繊維、アルミナ、シリカ、セラミックス、岩石繊維等の無機繊維を加えることができる。
【0035】
合成樹脂繊維は、単一の樹脂からなる繊維(単繊維)であっても良いし、2種以上の樹脂からなる複合繊維であっても良い。また、本発明の熱暴走抑制耐火シートに含まれる合成樹脂繊維は、1種でも良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。複合繊維としては、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型が挙げられる。
【0036】
本発明において、基材の厚みは、0.25mm以上であることが好ましく、0.40mm以上であることがより好ましく、0.60mm以上であることがさらに好ましい。また、2.00mm以下であることが好ましく、1.50mm以下であることがより好ましく、1.20mm以下であることがさらに好ましい。基材の厚みを上記の範囲とした場合において、本発明における基材では、抄紙工程や塗工工程で必要な引張強度を維持でき易くなるため、基材の抄造性も含め、各工程での作業性を損なうことがない。基材の厚みが2.00mmを超えると、基材の剛度が強くなり過ぎるため、抄紙工程のリーラーで巻き取り難くなる場合がある。基材の厚みが0.25mm未満であると、基材の空隙が大きくなり、塗工し難くなる他、無機粒子を多く塗工する必要が出てくる場合がある。
【0037】
本発明における基材の密度は、0.07g/cm3以上であることが好ましく、0.10g/cm3以上であることがより好ましい。また、0.30g/cm3以下であることが好ましく、0.20g/cm3以下であることがより好ましい。密度が0.07g/cm3未満である場合、基材の引張強度が弱くなり過ぎて、基材の取り扱い時や塗工時に破損するおそれがあり、0.30g/cm3を超えた場合、基材の剛度が高くなり過ぎて、抄紙のリーラーで巻き取り難くなる場合や無機粒子層の塗工量が低下する場合がある。
【0038】
本発明における基材は、湿式抄造法によって製造される湿式不織布であることが好ましい。湿式抄造法は繊維を水に分散して均一な抄紙スラリーとし、この抄紙スラリーを抄紙機で抄きあげて湿式不織布を製造する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合機が挙げられる。また、複数のヘッドボックスを有し、ワイヤー上で湿紙を重ね合わせる抄紙機にて製造することができる。抄紙スラリーには、繊維原料の他に、必要に応じて、分散剤、紙力増強剤、増粘剤、無機填料、有機填料、消泡剤などを適宜添加することができる。抄紙スラリーの固形分濃度は、0.5~0.001質量%程度であることが好ましい。この抄紙スラリーを、さらに所定濃度に希釈してから抄造する。ついで、抄造された湿紙ウェブは、プレスロールなどでニップされ、ついで、ヤンキードライヤーを使用し、湿熱接着性バインダー繊維を溶融させて、強度を発現させる。ヤンキードライヤーにて乾燥することにより、乾燥された表面は平滑となり、表面の凹凸が少ない面を形成できる。その他、補助乾燥として、熱風乾燥機、加熱ロール、赤外線ヒーターなどの加熱装置を併用しても問題ない。この時の乾燥温度としては、湿紙ウェブの水分が十分に除去でき、湿熱接着性バインダー繊維により強度を発現できる温度とすることが好ましい。
【0039】
本発明において、無機粒子層は、無機粒子と無機バインダーを含有している層である。この無機粒子層が基材の空隙に充填されていることによって、シートの耐火性と不燃性の効果が得られる。無機粒子としては、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、二水和石膏、及びアルミン酸化カルシウム、クレー、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、タルク、二酸化チタン等の水分散性の良い無機粒子が使用できる。
【0040】
無機粒子の中でも、水酸化酸化アルミニウム、クレー、カオリン、焼成カオリン、炭酸塩系の無機粒子は、火炎が当たった際に無機粒子が固化し、シートから無機粒子の脱落を防止できるので好ましい。さらに、水酸化酸化アルミニウム、クレー、カオリン、焼成カオリンは高温化で保持した場合でも、耐火性と不燃性に優れ、シート強度を維持できるため、より好ましい。
【0041】
本発明において、無機粒子の粒子径は、0.08μm以上2.00μm以下であることが好ましく、0.30μm以上1.50μm以下であることがより好ましい。粒子径が2.00μmを超えると、熱暴走抑制耐火シートの耐火性が悪化する場合や熱暴走抑制耐火シートを高温下に曝した際の断熱性が悪化する場合がある。一方、粒子径が0.08μm未満の場合、無機粒子を分散する際に増粘しやすく、分散し難くなり、基材に塗工した場合、無機粒子が基材から脱落しやすくなることや、脱落を防ぐためにバインダーを増量する必要がある。なお、本発明で言う粒子径とは、無機粒子のSEM写真から得られた無機粒子の面積から真円の直径を換算した値である。
【0042】
本発明において、無機粒子層は無機バインダーを含むことができる。無機バインダーとしては、例えば、セピオライト、コロイダルシリカ、水ガラス、アルミナゾル、ベントナイトなどが挙げられる。上記無機バインダーは、単独で使用しても良いし、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0043】
本発明において、無機粒子層に含まれる無機バインダーの含有率は、無機粒子の総量に対して、2質量%以上100質量%以下であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。無機バインダーの量が2質量%未満の場合、無機粒子が基材から脱落しやすくなる場合がある。また、無機バインダーの量が100質量%を超えた場合、無機粒子の塗工性が悪化する場合がある。
【0044】
無機粒子層形成用塗工液を調製するための媒体としては、無機バインダーや無機粒子を均一に溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。例えば、トルエン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等を必要に応じて用いることができる。また、使用する媒体は、基材を膨張させない媒体又は基材を溶解しない媒体が好ましい。
【0045】
無機粒子層の含有率は、「無機粒子層の塗工量(g/m2)/基材坪量(g/m2)×100」で算出される値で、90質量%以上が好ましく、100質量%以上がより好ましく、130質量%以上がさらに好ましい。無機粒子層の含有率が90質量%以上であれば、熱暴走抑制耐火シートに火炎を当てた場合でも、シートの溶融や損傷がほとんどない。無機粒子層の含有率が高いほど、シートの厚みが増加し、耐火性と断熱性は高くなる。
【0046】
無機粒子層を形成するために、無機粒子を基材に塗工する装置としては、各種の塗工装置を用いることができる。例えば、2ロールサイズプレス、ゲートロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、キスタッチコーター、ディップコーター等の含浸、又は塗工装置による各種コーターを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明において、無機粒子層には、前記無機粒子及び無機バインダーの他に、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、塗工液の液安定性を増すため、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種保水剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じて添加することもできる。一般に、媒体として有機溶剤を使用した非水系塗工液は表面張力が低く、媒体として水を用いた水系塗工液の表面張力は高い。本発明の基材は、塗工液の受理性が高いため、非水系塗工液も水系塗工液も、両方共に問題なく塗工することができるが、本発明において、媒体として水のみを用いた水系塗工液を使用することが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において百分率(%)及び部は、断りのない限り全て質量基準である。また、塗工量は乾燥塗工量である。
【0049】
実施例1
<基材の作製>
ガラス繊維(商品名:ECS06I-33G、日本電気硝子株式会社製、繊維径10μm×繊維長6mm)を90部、シラノール変性PVA繊維(湿熱接着性バインダー繊維、商品名:SPG056-11、株式会社クラレ製、0.6デシテックス×3mm)を5部、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて変法濾水度350mlまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維5部を、パルパーにより水中に分散し、濃度0.5%の均一な抄紙スラリーを調成し、円網抄紙機を用いて湿紙ウェブを得て、表面温度140℃のシリンダードライヤーによって乾燥し、坪量50.1g/m2、厚み0.286mmの基材を作製した。
【0050】
<無機粒子層形成用塗工液の調製>
カオリン(商品名:ASP(登録商標) NC X-1、BASF CORPORATION製)100部と、水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロン(登録商標)T-50、東亞合成株式会社製)0.4部を水中に混合し十分撹拌し、カオリン分散液を調製した。ついで、セピオライト(商品名:ミルコン(登録商標)SP-2、昭和KDE株式会社製)20部と水溶性アクリル酸系分散剤(アロンT-50)1.0部を水中に混合し十分攪拌し、セピオライト分散液を調製した。ついで、カオリン分散液全量とセピオライト分散液全量を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度40%の塗工液を調製した。
【0051】
<熱暴走抑制耐火シートの作製>
前記基材に、サイズプレスにて塗工液を含浸し、乾燥し、絶乾塗工量55.1g/m2、総坪量105.2g/m2、厚み0.306mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0052】
実施例2
実施例1で使用したガラス繊維を90部、実施例1で使用したシラノール変性PVA繊維を5部と、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて変法濾水度45mlまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維5部を、実施例1と同様な抄紙方法で、坪量49.9g/m2、厚み0.270mmの基材を作製した。
【0053】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量53.5g/m2、総坪量103.4g/m2、厚み0.304mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0054】
実施例3
実施例1で使用したガラス繊維を90部、PVA繊維(湿熱接着性バインダー繊維、商品名:VPB107-1、株式会社クラレ製、1.1デシテックス×3mm)を5部、実施例1で使用したフィブリル化耐熱性繊維5部を、実施例1と同様な抄紙方法で坪量50.2g/m2、厚み0.295mmの基材を作製した。
【0055】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量59.1g/m2、総坪量109.3g/m2、厚み0.318mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0056】
実施例4
実施例1で使用したガラス繊維を90部、実施例1で使用したシラノール変性PVA繊維を5部、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて変法濾水度650mlまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維5部を、実施例1と同様な抄紙方法で坪量50.5g/m2、厚み0.293mmの基材を作製した。
【0057】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量56.8g/m2、総坪量107.3g/m2、厚み0.313mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0058】
実施例5
実施例1で使用したガラス繊維を90部、実施例1で使用したシラノール変性PVA繊維を5部、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(平均繊維長1.7mm、平均繊維径10μm)を、高圧ホモジナイザーを用いて変法濾水度35mlまでフィブリル化させたフィブリル化耐熱性繊維5部を、実施例1と同様な抄紙方法で坪量48.5g/m2、厚み0.263mmの基材を作製した。
【0059】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量52.0g/m2、総坪量100.5g/m2、厚み0.296mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0060】
実施例6
実施例1で使用したガラス繊維を93部、実施例1で使用したシラノール変性PVA繊維を5部、実施例1で使用したフィブリル化耐熱性繊維2部を、実施例1と同様な抄紙方法で坪量50.1g/m2、厚み0.313mmの基材を作製した。
【0061】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量58.0g/m2、総坪量108.1g/m2、厚み0.317mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0062】
実施例7
実施例1で使用したガラス繊維を85部、実施例1で使用したシラノール変性PVA繊維を5部、実施例1で使用したフィブリル化耐熱性繊維10部を、実施例1と同様な抄紙方法で坪量49.8g/m2、厚み0.266mmの基材を作製した。
【0063】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量47.3g/m2、総坪量97.1g/m2、厚み0.281mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0064】
実施例8
無機粒子層形成用塗工液として、実施例1で使用したカオリン100部と水溶性アクリル酸系分散剤(アロンT-50)0.4部を、水中に混合し十分撹拌し、カオリン分散液を調製した。ついで、ベントナイト(商品名:クニピア(登録商標)G、クニミネ工業株式会社製)15部と水溶性アクリル酸系分散剤(アロンT-50)1.0部を、水中に混合し十分撹拌し、ベントナイト分散液を調製した。ついで、カオリン分散液全量とベントナイト分散液全量を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度20%の塗工液を調製した。
【0065】
この塗工液を実施例1で作製した基材の表裏両面にロッドコーターで塗工し、乾燥し、絶乾塗工量50.5g/m2、総坪量100.6g/m2、厚み0.292mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0066】
実施例9
無機粒子層形成用塗工液として、非膨潤性雲母(商品名:ミクロマイカMK-100、片倉コープアグリ株式会社製)100部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロンT-50、東亞合成株式会社製)0.4部を水中に混合し十分撹拌し、雲母分散液を調製した。ついで、実施例1で使用したセピオライト20部と水溶性アクリル酸系分散剤(アロンT-50)1.0部を、水中に混合し十分撹拌し、セピオライト分散液を調製した。ついで、雲母分散液全量とセピオライト分散液全量を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度40%の塗工液を調製した。
【0067】
この塗工液を実施例1で作製した基材にサイズプレスで含浸し、乾燥し、絶乾塗工量54.0g/m2、総坪量104.1g/m2、厚み0.299mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0068】
比較例1
実施例1で使用したガラス繊維90部、実施例3で使用した湿熱接着性PVA繊維5部、未叩解NBKPを5部とした以外、実施例1と同様な抄紙方法で坪量50.2g/m2、厚み0.295mmの基材を作製した。
【0069】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量56.5g/m2、総坪量106.7g/m2、厚み0.296mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0070】
比較例2
比較例1で作製した坪量50.2g/m2、厚み0.295mmの基材に、無機粒子層形成用塗工液として、セピオライト分散液をサイズプレスで含浸し、乾燥し、絶乾塗工量16.7g/m2、総坪量66.9g/m2、厚み0.295mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0071】
比較例3
実施例1で使用したガラス繊維95部と、実施例1で使用したシラノール変性PVA繊維5部とを、実施例1と同様な抄紙方法で坪量50.0g/m2、厚み0.294mmの基材を作製した。
【0072】
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量55.8g/m2、総坪量105.8g/m2、厚み0.307mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0073】
比較例4
無機粒子層形成用塗工液として、実施例1で使用したカオリン100部と水溶性アクリル酸系分散剤0.4部と塩化ビニル系エマルジョン(商品名:ビニブラン(登録商標)278、固形分濃度43%、日信化学工業株式会社製)20部を水中で混合し十分撹拌し、固形分濃度40%の塗工液を調製した。
【0074】
この塗工液を実施例1で作製した坪量50.1g/m2、厚み0.286mmの基材に、サイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量55.5g/m2、総坪量105.6g/m2、厚み0.318mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0075】
比較例5
比較例1と同じ配合で坪量99.0g/m2、厚み0.582mmの基材を作製した。
この基材に実施例1で用いた塗工液をサイズプレスにて含浸し、乾燥し、絶乾塗工量99.0g/m2、総坪量198.0g/m2、厚み0.582mmの熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0076】
実施例及び比較例の熱暴走抑制耐火シート用基材及び熱暴走抑制耐火シートについて、下記物性の測定と評価を行い、結果を表1に示した。
【0077】
<基材の坪量及び無機粒子層の塗工量>
JIS P8124:2011に準拠して、基材の坪量及び無機粒子層の塗工量を測定した。無機粒子層の塗工量は熱暴走抑制耐火シートの総坪量から基材の坪量を差し引いて算出した。
【0078】
<基材及び熱暴走抑制耐火シートの厚み>
JIS B7502:2016に規定された外側マイクロメーターを用いて、5N荷重時の厚みを測定した。
【0079】
<基材の引張強度>
各基材について、長辺が流れ方向になるように、流れ方向250mm×幅方向50mmのサンプル片を5枚切り出し、卓上型万能試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名STB-1225S)を用いて、JIS P8113:1998に準じて、引張速度100mm/minで引張試験を行った。引張応力の最大値を「引張強度」とし、5枚の平均値とした。
【0080】
<基材の湿潤引張強度>
各基材について、長辺が流れ方向になるように、流れ方向250mm×幅方向50mmのサンプル片を5枚切り出し、23℃のイオン交換水中に3分間浸漬し、サンプル片を取り出した後、表面のイオン交換水をキムタオル(登録商標)で軽く拭き取り、卓上型万能試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名STB-1225S)を用いて、JIS P8113:1998に準じて、引張速度100mm/minで引張試験を行った。引張応力の最大値を「湿潤引張強度」とし、5枚の平均値とした。
【0081】
<無機粒子層の塗工性>
基材に無機粒子層を形成する際の塗工しやすさを、次の評価基準で評価した。
【0082】
○:塗工液を塗工する際に、基材に断紙や亀裂や割れの発生がない場合
×:塗工液を塗工する際に、基材に断紙や亀裂や割れの発生がある場合
【0083】
<耐火性>
熱暴走抑制耐火シートの耐火性の評価としては、各シートから幅方向100mm×流れ方向100mmサイズの試験片を3枚切り出し、各試験片の中央部にバーナー(商品名:ラボバーナーAPTL、株式会社フェニックスデント製)の火炎を5分間当てた。その後、火炎を当てた側の耐火シートの表面を目視にて観察し、次の評価基準で評価した。バーナーの火炎温度は、1170℃であった。
【0084】
○:耐火シートに穴や亀裂や溶融がない。
△:火炎を当てた耐火シートの表面に溶融や凹みがわずかに見られる。
×:耐火シートに穴や亀裂がある。
【0085】
<不燃性>
熱暴走抑制耐火シートを不燃性の評価としては、各シートから幅方向100mm×流れ方向100mmサイズの試験片を2枚切り出し、各試験片を750℃±5℃に保持できる加熱電気炉の中に挿入し、次の評価基準で評価した。
【0086】
○:挿入後、発火しない。
×:挿入後、シート表面が発火する。
【0087】
【0088】
表1に示した通り、実施例1~9で作製した熱暴走抑制耐火シートは、基材と無機粒子層とを含有し、該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化耐熱性繊維を含有し、該無機粒子層が無機粒子と無機バインダーを含有している。ガラス繊維とフィブリル化耐熱性繊維が緻密に絡み合い、その絡み合った交点を湿熱接着性バインダー繊維が固定するため、湿潤引張強度が強くなり、坪量を50g/m2に下げて、無機粒子層形成用塗工液を塗工しても断紙することがなかった。また、実施例1~9で作製した熱暴走抑制耐火シートは、耐火性と不燃性に優れていた。
【0089】
実施例1と実施例3を比較すると、湿熱接着性バインダー繊維として、シラノール変性したポリビニルアルコール繊維を使用することで、湿潤引張強度はさらに良化することが判った。
【0090】
実施例1と実施例4を比較すると、フィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度を高くなると、ガラス繊維とフィブリル化耐熱性繊維の絡み合いが減少するため、湿潤引張強度が低下することが判った。
【0091】
一方、実施例2と実施例5を比較すると。フィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度が低くなり過ぎると、ファイン分が多くなるため、坪量の減少が見られ、絡み合いが増えるものの、湿熱接着性バインダー繊維を増やさないと交点が固定できないため、湿潤引張強度が低下することが判った。
【0092】
比較例1~3と比較例5の熱暴走抑制耐火シートは、フィブリル化耐熱性繊維を含まない場合であるが、坪量が50g/m2の比較例1~3は湿潤引張強度が弱く、無機粒子層形成用塗工液を塗工する際に断紙が発生した。坪量が99.0g/m2の比較例5は無機粒子層形成用塗工液を塗工する際に断紙することはなかった。
【0093】
セルロース成分を含む比較例1~2と比較例5の熱暴走抑制シートでは、750℃の電気炉に挿入した際、表面が発火し、不燃性が不十分であった。また、比較例2の熱暴走抑制耐火シートは、無機粒子層として、無機バインダーのセピオライトのみを含浸した場合であるが、耐火性も不十分であった。
【0094】
比較例4の熱暴走抑制耐火シートは、無機粒子層に有機系バインダーを使用した場合であるが、750℃の電気炉に挿入した際、表面が発火し、不燃性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の熱暴走抑制耐火シートは、複数のリチウムイオン素電池を搭載した電池パック等に好適に使用できる。