(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】炭素複合材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/52 20060101AFI20231101BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20231101BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C04B35/52
C01B32/20
B32B18/00 C
(21)【出願番号】P 2019170599
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】峪田 宜明
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-030787(JP,A)
【文献】特開2012-036018(JP,A)
【文献】特開平06-168905(JP,A)
【文献】特開平05-235143(JP,A)
【文献】特開昭53-082875(JP,A)
【文献】特開平04-238865(JP,A)
【文献】特開平03-053006(JP,A)
【文献】特開昭57-034085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/52
C01B 32/20
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛からなり、開気孔を有する管状の基材と、前記基材の周囲を巻回する炭素繊維と、前記基材の内部、前記基材と前記炭素繊維との間及び炭素繊維の間に含浸された樹脂とからなる炭素複合材であって、
前記基材の熱膨張係数は、前記炭素繊維の線膨張係数より大きく、
前記基材の熱膨張係数は、互いに直交するX、Y、Z方向に関して最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)が1.3以下であ
り、
前記基材の開気孔の最大気孔径は、1~30μmであることを特徴とする炭素複合材。
【請求項2】
前記基材の熱膨張係数の前記最小値は、3.0~4.5×10
-6/℃であることを特徴とする請求項1に記載の炭素複合材。
【請求項3】
前記炭素繊維の線膨張係数は、-1.0~2.0×10
-6/℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素複合材。
【請求項4】
前記炭素繊維は、張力をかけて前記基材の周囲に巻回されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の炭素複合材。
【請求項5】
前記炭素複合材は、少なくとも一端に接続部を有することを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の炭素複合材。
【請求項6】
前記炭素複合材は、曲管であることを特徴とする請求項
5に記載の炭素複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛は、各種の薬品に対し耐食性を有しており、これらの薬品と長期間接する部材に用いた場合にも、安定して使用できるという特徴を有している。しかしながら、黒鉛を製造する際、炭素化(黒鉛化)の過程で多数の微細な気孔が発生するため、得られた黒鉛材は、多孔体となり、液体が黒鉛材を通過してしまうという問題点を有している。そこで、この気孔にフェノール樹脂など樹脂を含浸して気孔を埋め、液体が浸透しない樹脂含浸黒鉛材とし、熱交換器など各種の化学装置の部材として使用されている。
【0003】
このように、黒鉛材に樹脂を含浸することにより、機械的特性は改善されるが、このままでは、内圧を受ける装置や囲繞体として使用するには、機械的特性は充分とは言えない。
【0004】
そこで、このような問題点を改善するため、特許文献1には、樹脂を含浸した繊維の補強材をその表面の少なくとも一部に有し、上記樹脂は樹脂含浸黒鉛材と上記補強材とを親密に一体化する役目をする樹脂含浸黒鉛構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の樹脂含浸黒鉛構造物では、上記のように、樹脂含浸黒鉛材を、樹脂を含浸した繊維で補強しているが、樹脂含浸黒鉛材の繊維による補強が充分に行われていないため、様々な環境下で使用されると、長期間の使用で劣化してしまうという問題がある。本発明では、上記課題を鑑み、様々な環境下で長期間の使用に耐える炭素複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の炭素複合材は、黒鉛からなり、開気孔を有する管状の基材と、上記基材の周囲を巻回する炭素繊維と、上記基材の内部、上記基材と上記炭素繊維との間及び炭素繊維の間に含浸された樹脂とからなる炭素複合材であって、
上記基材の熱膨張係数は、上記炭素繊維の線熱膨張係数より大きいことを特徴とする。
【0008】
樹脂含浸黒鉛材を用いた従来の管状の部材の軸方向の圧縮力や、曲げ応力が作用した場合、もともと基材は脆いセラミック材料であるため、表面に部分的に加わる張力でクラックの進展の原因となりやすい。しかしながら、本発明の炭素複合材では、管状の基材の周囲に炭素繊維が巻回されており、これにより機械的特性が大きく改善されている。さらに、上記基材の熱膨張係数は、上記炭素繊維の線膨張係数より大きいので、本発明の炭素複合材は、加熱された際、炭素繊維にかかる張力が増加し、基材に圧縮力や曲げ応力が作用することとなる。このため、上記基材の機械的特性がさらに改善され、軸方向に圧縮力が作用しても座屈が生じにくくなる。その結果、本発明の炭素複合材は、長期間に渡って加熱されるような環境下においても、座屈等の破損が発生しにくく、長期間安定して使用することができる。
【0009】
本発明の炭素複合材では、上記基材の熱膨張係数は、互いに直交するX、Y、Z方向に関して最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)が1.3以下であることが望ましい。
【0010】
一般的に使用されている樹脂含浸黒鉛材は、黒鉛の原料を混練・涅合した後、押出成形により所定の形状の成形体を作製し、黒鉛化する。このため、異方性が高く、ある一定の方向の熱膨張率が他の方向に比べて大きくなってしまう。一方、本発明の炭素複合材においては、上記基材の熱膨張係数は、互いに直交するX、Y、Z方向に関して最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)が1.3以下と、異方性が低い等方性黒鉛材からなる基材を使用することができる。
【0011】
このような異方性の低い等方性黒鉛材を基材として使用すると、得られる炭素複合材は、方向による機械的特性等の偏りが少なく、同じ材料からなる複数の部材間でも機械的強度が方向により大きく異なることがないので、組み合わせて使用し、他の部材からの力が長期間作用した場合であっても、破損や座屈等が発生しにくく、長期間に渡って安定して使用することができる。
【0012】
本発明の炭素複合材において、互いに直交するX、Y、Z方向に関し、基材の熱膨張率の最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)が1.3を超えると、基材の異方性が高くなるため、同じ材料からなる部材であっても部材によっては、機械的強度の必要な方向に対して充分な機械的強度を有さず、他の部材からの大きな力が作用した状態で、長期間使用した場合、破損や座屈等が発生するおそれがある。
【0013】
本発明の炭素複合材では、上記基材の熱膨張係数の上記最小値は、3.0~4.5×10-6/℃であることが望ましい。
【0014】
本発明の炭素複合材において、上記基材の熱膨張係数の上記最小値が4.5×10-6/℃以下であると、接合して使用する他材質からなる相手材との熱膨張差が大きくなりすぎず、熱膨張差による破損を防止することができる。また、3.0×10-6/℃以上であると、炭素繊維の線膨張係数よりも熱膨張係数が大きく、温度等が変化しても、炭素繊維から管状の基材に充分に大きな圧縮応力をかけることができ、機械的特性を改善することができる。
【0015】
本発明の炭素複合材では、上記炭素繊維の線膨張係数は、-1.0~2.0×10-6/℃であることが望ましい。
【0016】
本発明の炭素複合材において、上記炭素繊維の線膨張係数が-1.0~2.0×10-6/℃であると、基材の温度が上昇して熱膨張した場合であっても、上記炭素繊維がそれを上回って膨張することはなく、炭素繊維の張力により基材を締め付けることができ、機械的特性を改善することができる。
【0017】
上記炭素繊維の線膨張係数が-1.0×10-6/℃未満と熱膨張係数の極めて小さな炭素繊維とすることは極めて難しい。一方、上記炭素繊維の線膨張係数が2.0×10-6/℃を超えると、基材との熱膨張係数差が小さくなり、本発明の効果を充分に発揮しにくくなる。
【0018】
本発明の炭素複合材では、上記基材の開気孔の最大気孔径は、1~30μmであることが望ましい。
【0019】
セラミック材料では気孔は応力集中による強度低下の元になる。本発明の炭素複合材において、上記基材の開気孔の最大気孔径が30μm以下であり、強度低下の影響が小さいので基材自体の機械的強度が高く、機械的特性に優れた炭素複合材となる。また、上記基材の開気孔の最大気孔径が1μm以上であると、基材の奥の方の開気孔に樹脂が浸透しやすくなり、気体や液体の漏れにくい炭素複合材が得られる。
なお、本発明において開気孔の最大気孔径とは、基材の断面を顕微鏡で撮影し、視野内で最も大きい気孔の長径を標準スケールと比較し算出する。最大の気孔は、縦横とも最大気孔径の10倍以上の領域が確認できるよう倍率を調整して、その範囲内で探すことにより、本発明における最も大きい気孔とする。
【0020】
本発明の炭素複合材では、上記炭素繊維は、張力をかけて上記基材の周囲に巻回されていることが望ましい。すなわち、この炭素複合材では、炭素繊維の張力が基材に作用しており、この炭素繊維の所定の張力に起因する所定の応力が基材に発生している。すなわち、上記基材が炭素繊維により締め付けられている。
【0021】
本発明の炭素複合材において、上記炭素繊維が張力をかけて上記基材の周囲に巻回されていると、常温においても、基材が炭素繊維により締め付けられ、機械的特性の改善が図られ、またさらに低い温度で使用しても基材に圧縮応力が加えられるので、管状体の内部を低温の気体や液体が流通している場合であっても、上記炭素複合材を長期間安定して使用することができる。
【0022】
本発明の炭素複合材では、上記炭素複合材は、少なくとも一端に接続部を有することが望ましい。
【0023】
本発明の炭素複合材において、上記炭素複合材が少なくとも一端に、フランジやネジ部等の接続部を有していると、上記接続部を介して他の部材と接続が可能であり、容易に化学装置等の装置を構成する配管として、同じ材料又は他の材料からなる他の配管と組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明の炭素複合材では、上記炭素複合材は、曲管であることが望ましい。
本発明の炭素複合材において、上記炭素複合材がエルボ管、チーズ管等の曲管であると、曲がった配管を有する化学装置の一部材として、使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の炭素複合材によれば、黒鉛からなり、開気孔を有する管状の基材と、上記基材の周囲を巻回する炭素繊維と、上記基材の内部、上記基材と上記炭素繊維との間及び炭素繊維の間に含浸された樹脂とからなる炭素複合材であるので、基材の機械的特性が大きく改善されている。さらに、上記基材の熱膨張係数は、上記炭素繊維の線膨張係数より大きいので、加熱された際、炭素繊維にかかる張力が増加し、基材に圧縮応力が作用することとなる。このため、本発明の炭素複合材によれば、上記基材の機械的特性がさらに改善され、軸方向の圧縮力や曲げ応力が作用しても座屈が生じにくくなり、長期間に渡って加熱されるような環境下においても、座屈等の破損が発生しにくく、長期間安定して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1(a)は、本発明の炭素複合材の一実施形態を模式的に示す側面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示した炭素複合材のA-A線断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の炭素複合材の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)及び(b)は、本発明の炭素複合材のさらに他の実施形態を模式的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の炭素複合材のさらに他の実施形態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の炭素複合材について、各実施形態に分けて詳細に説明するが、本発明は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0028】
本発明の炭素複合材は、黒鉛からなり、開気孔を有する管状の基材と、上記基材の周囲を巻回する炭素繊維と、上記基材の内部、上記基材と上記炭素繊維との間及び炭素繊維の間に含浸された樹脂とからなる炭素複合材であって、
上記基材の熱膨張係数は、上記炭素繊維の線膨張係数より大きいことを特徴とする。
本発明において、炭素繊維の線膨張係数とは、炭素繊維の繊維方向の熱膨張係数を示す。
【0029】
本発明の炭素複合材では、管状の基材の周囲に炭素繊維が巻回されており、これにより機械的特性が大きく改善されている。さらに、上記基材の熱膨張係数は、上記炭素繊維の線膨張係数より大きいので、本発明の炭素複合材は、加熱された際、炭素繊維にかかる張力が増加し、基材に圧縮応力が作用することとなる。このため、上記基材の機械的特性がさらに改善され、軸方向の圧縮力や曲げ応力が作用しても座屈が生じにくくなる。その結果、本発明の炭素複合材は、長期間に渡って加熱されるような環境下においても、座屈等の破損が発生しにくく、長期間安定して使用することができる。
【0030】
図1(a)は、本発明の炭素複合材の一実施形態を模式的に示す側面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示した炭素複合材のA-A線断面図である。
図1(a)及び(b)に示すように、炭素複合材10は、管状の基材11と、基材11の周囲を巻回する炭素繊維13と、基材11の炭素繊維等の間に含浸された樹脂12とからなる。
図1(a)及び(b)には明示されていないが、樹脂12は、基材11に形成された開気孔にも含浸され、開気孔を充填するとともに、基材11と炭素繊維13との間の隙間及び炭素繊維13の間の隙間にも含浸され、これらの間に形成された隙間を充填している。
【0031】
(基材)
本発明の炭素複合材を構成する基材は、黒鉛からなり、開気孔を有する管状の基材である。
上記炭素複合材では、上記基材の熱膨張係数は、互いに直交するX、Y、Z方向に関して最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)が1.3以下であることが望ましい。
このような異方性の低い材料としては、上記の等方性黒鉛材が挙げられる。このように異方性の低い等方性黒鉛材を基材として使用すると、得られる炭素複合材は、方向による機械的特性等の偏りが少なく、同じ材料からなる複数の部材間でも機械的強度が方向により大きく異なることがないので、組み合わせて使用し、他の部材からの力が長期間作用した場合であっても、座屈や破損等が発生しにくく、長期間安定して使用することができる。
【0032】
等方性黒鉛材とは、等方的な構造、特性を有する黒鉛材であり、例えば、CIP(静水圧成形法)により製造することができる。具体的には、例えば、圧力容器内で等方性黒鉛材の原料粉をゴムバッグに詰め、水などで加圧することにより成形したのち、焼成、黒鉛化することにより製造することができる。なお、等方性黒鉛材においては、原料粉の平均粒子径は、例えば10~50μmであり、等方性黒鉛材が細かな組織を有していることが特徴である。
【0033】
黒鉛からなり、開気孔を有する上記の基材は、気孔率が5~20%であり、かさ密度が1.70~1.90g/cm3である材料が望ましい。
上記基材の気孔率が5%以上であると、開気孔を含有しているため、開気孔の内部に樹脂が含浸され易く、しっかりと樹脂が基材内部に含浸、充填され、また、アンカー効果により、樹脂が基材としっかり密着する。一方、上記基材の気孔率が20%以下であると、気孔の含有割合が高すぎないため、基材自体の機械的強度が大きく、炭素繊維が巻回されることにより、さらに機械的特性が改善される。
【0034】
また、上記基材のかさ密度が1.70g/cm3以上であると、気孔を有していても、基材の機械的特性に優れる。また、上記基材のかさ密度が1.90g/cm3以下であると、開気孔を適切な範囲で含んでおり、樹脂を開気孔内部に充分に充填し易く、最終的に開気孔の無い機械的特性に優れた炭素複合材となり、使用する液体や気体の漏れを防止することができる。
【0035】
本発明の炭素複合材では、上記基材の開気孔の最大気孔径は、1~30μmであることが望ましい。
【0036】
本発明の炭素複合材において、上記基材の開気孔の最大気孔径が30μm以下であると、強度低下の影響が小さいので基材自体の機械的強度が高く、機械的特性に優れた炭素複合材となる。また、上記基材の開気孔の最大気孔径が1μm以上であると、基材の奥の方の開気孔に樹脂が浸透しやすくなり、気体や液体の漏れにくい炭素複合材が得られる。なお、外部からつながっているので基材の開気孔には樹脂が含浸されている。
【0037】
本発明の炭素複合材では、上記基材の熱膨張係数の上記最小値は、3.0~4.5×10-6/℃であることが望ましい。
【0038】
本発明の炭素複合材において、上記基材の熱膨張係数の上記最小値が4.5×10-6/℃以下であると、接合して使用する他材質の相手材との熱膨張差が大きくなりすぎず、熱膨張差による破損を防止することができる。また、3.0×10-6/℃以上であると、炭素繊維の線膨張係数よりも熱膨張係数が大きくなるため、温度等が変化しても、炭素繊維から管状の基材に充分に大きな圧縮応力をかけることができ、機械的特性を改善することができる。
【0039】
基材は、管状であるが、その大きさや形状は特に限定されず、
図1(a)及び(b)に示したような単なるパイプ状であってもよく、エルボ管、チーズ管等の形状であってもよく、基材の端部の外周や内周にネジが形成されていてもよく、基材の端部がフランジの形状となっていてもよい。
【0040】
(炭素繊維)
管状の基材の周囲には、フィラメント又はステープルヤーン等からなる炭素繊維が巻回されている。基材の周囲を巻回する炭素繊維の種類としては、特に限定されず、PAN系炭素繊維であっても、ピッチ系炭素繊維であってもよいが、線膨張係数が-1.0~2.0×10-6/℃であることが望ましい。
【0041】
本発明の炭素複合材において、上記炭素繊維の線膨張係数が-1.0~2.0×10-6/℃であると、基材の温度が上昇して熱膨張した場合であっても、上記炭素繊維がそれを上回って膨張することはなく、炭素繊維の張力により基材を締め付けることができ、機械的特性を改善することができる。
【0042】
炭素繊維の直径は、5~50μmが望ましい。炭素繊維の直径が5μm以上であると、炭素繊維が充分な強度を有するので、大きな張力をかけて基材の周囲に巻回することができ、炭素複合材の機械的特性を改善することができる。一方、炭素繊維の直径が50μm以下であると、炭素繊維の直径が大きすぎないので、曲げても折れにくく、充分な回数、基材の周囲に巻回させることができる。
【0043】
(樹脂)
基材及び炭素繊維の周囲に含浸する樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0044】
これらの樹脂は、上記基材内部の開気孔に含浸され、開気孔を充填するとともに、上記基材と上記炭素繊維との間の隙間及び炭素繊維の間の隙間に含浸され、これらの隙間を充填しており、得られた炭素複合材の内部にほぼ気孔を含まない炭素複合材料となっている。
【0045】
(炭素複合材)
このように、本発明の炭素複合材では、基材の開気孔の内部に上記樹脂が充填されており、液体は、開気孔に樹脂が充填された基材を通過することができず、基材に黒鉛を使用しているため、耐薬品性にも優れている。従って、本発明の炭素複合材料は、塩酸、フッ酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、亜硫酸(亜硫酸ガス)、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アンモニア水、塩素、塩素水、アセトン、エチルアルコール、四塩化炭素、四塩化エタン、クロロホルム、ベンゼン、メチルアルコール等、種々の化学薬品を移送するための管状部材として好適に使用することができる。
【0046】
本発明の炭素複合材では、上記炭素複合材は、少なくとも一端に接続部を有することが望ましい。
【0047】
本発明の炭素複合材において、上記炭素複合材が少なくとも一端に、フランジやネジ部等の接続部を有していると、上記接続部を介して他の部材と接続が可能であり、容易に化学設備等の設備を構成する配管として使用することができる。
【0048】
図2は、本発明の炭素複合材の他の実施形態を模式的に示す断面図である。なお、
図2~4においては、基材、樹脂、炭素繊維の区別は示していない。
図2に示す炭素複合材20では、管状の炭素複合材20の両端部の内側に、接続部として機能するネジ21が切られている。管状部材の外周にネジが切られた他の部材を、この炭素複合材20に差し込み、このネジ21と螺合させることにより、炭素複合材20を他の部材と接続することができる。
【0049】
図3(a)及び(b)は、本発明の炭素複合材のさらに他の実施形態を模式的に示す側面図である。本実施形態では、フランジを有する2種類のエルボ管形状の炭素複合材を示している。
図3(a)及び(b)に示すエルボ管形状の炭素複合材30は、いずれも側面から見て、略L字形状を示しているが、
図3(a)に示す炭素複合材30では、曲部31が湾曲形状を示しており、両端部には、フランジ32を備えている。また、
図3(b)に示すエルボ管形状の炭素複合材40では、側面から見て、曲部41が直線的に屈曲しており、両端部にフランジ42を備えている。
【0050】
曲がった配管が必要な化学設備等であっても、このようなエルボ管形状の炭素複合材30、40を使用し、フランジ32、42を介して他の配管と接続することにより、比較的容易に曲部を有する配管を設置することができる。
【0051】
図4は、本発明の炭素複合材のさらに他の実施形態を模式的に示す側面図である。本実施形態では、フランジを有するチーズ管形状の炭素複合材を示している。
図4に示すチーズ管形状の炭素複合材50は、側面から見て、略T形状を示しており、直線的な配管の中央部51に他の配管が接続された形状となっており、3つの端部にフランジ52を備えている。
このチーズ管形状の炭素複合材50を使用することにより、特定種類の薬液を流通させている配管の途中に他の種類の薬液を加え、混合する必要がある化学設備や、特定種類の薬液を途中で2箇所に分配する必要がある化学設備等であっても、フランジ52を介して他の配管と接続することにより、配管が途中で接続された配管を比較的容易に設置することができる。
【0052】
(本発明の炭素複合材の製造方法)
(1)黒鉛からなり、開気孔を有する管状の基材の製造
黒鉛となる粒子(粉末)及びコールタールピッチ等のバインダを含む原料組成物を成形して所定の形状とした後、1000℃程度の温度で焼成し、さらに高温で加熱処理することにより黒鉛化する。等方性黒鉛材の製造の場合には、上述したようにCIPにより成形し、焼成、黒鉛化することにより製造することができる。得られた等方性黒鉛材を旋盤、マシニングセンタ、5軸加工機などを用いて目的の管状の成形体を作製することができる。なお、製造された基材は、黒鉛化の過程で形成された開気孔を有する。
【0053】
(2)炭素繊維の巻き付け
管状の黒鉛からなる基材の外周部分に、張力を加えながら炭素繊維を巻き付ける。巻き付け方法(巻回の仕方)は、特に限定されず、基材の長さ方向に対し、ほぼ垂直になるように炭素繊維をフープ巻で巻き付ける方法、基材の長さ方向とのなす角度が所定の値となるようにヘリカル巻で巻き付ける方法等が挙げられる。ヘリカル巻では、層ごとに巻き方向が逆になる。特に炭素複合材を座屈させる力が働く場合、炭素複合材の長さ方向に炭素繊維の方向成分があるヘリカル巻きで巻きつけられていることが好ましい。長さ方向への伸びに対し、炭素繊維が対抗し、有効に強度を高めることができる。ヘリカル巻では、軸方向に対して例えば30~60°の一定の角度を保って炭素繊維を巻きつける。
【0054】
張力をかけて基材の周囲に炭素繊維を巻回する際、炭素繊維を100~10000本束ねたストランドを用い、その張力は、100N~100kNが望ましい。また、炭素繊維のストランドの巻き数は、1cmの長さ当たり、2~50回が望ましく、同じ密度、厚さとなるように長さ方向に均一に巻回することが望ましい。炭素繊維からなる層の厚さは、0.5~10mm程度が望ましい。
【0055】
(3)樹脂の含浸
液状の樹脂原料を炭素繊維が巻回された基材に塗布、含浸させ、基材の開気孔中、基材と炭素繊維との間の隙間、炭素繊維の間の隙間に樹脂原料を含浸させ、加熱等により硬化させ、炭素複合材を作製する。
【0056】
例えば、フェノール樹脂を含浸させる場合には、液状のレゾールを炭素繊維が巻回された基材の周囲に塗布、含浸させ、必要により圧力を印加する等の方法により、基材の開気孔中にレゾールを含浸、充填するとともに、基材と炭素繊維との間の隙間や炭素繊維の間の隙間にレゾールを含浸させ、この後、加熱することにより硬化させ、炭素複合材とする。減圧雰囲気中で樹脂原料を塗布することにより、基材の開気孔、基材と炭素繊維との間の隙間、炭素繊維の間の隙間に良好に樹脂を含浸させることができる。
【符号の説明】
【0057】
10、20、30、40、50 炭素複合材
11 基材
12 樹脂
13 炭素繊維
21 ネジ
31、41 曲部
32、42、52 フランジ
51 中央部