(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】斜板式アキシャルピストンポンプ・モータ
(51)【国際特許分類】
F04B 1/22 20060101AFI20231101BHJP
F03C 1/253 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
F04B1/22
F03C1/253
(21)【出願番号】P 2019172380
(22)【出願日】2019-09-23
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241267
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトフルードパワーシステム
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宣尚
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-031040(JP,A)
【文献】特開2003-343450(JP,A)
【文献】特開平08-247021(JP,A)
【文献】特開2006-029255(JP,A)
【文献】特開2003-274626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/00-7/06
F03C 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体へ回転自在に軸支した回転軸と、回転軸と回転方向に係合して本体へ回転自在に軸支したシリンダブロックと、シリンダブロックに軸方向へ往復摺動自在に配置した複数のピストンと、各ピストンとシリンダブロックとにより区画形成して作動水を吸排する複数の作動室と、本体に配置しシリンダブロックより突出した各ピストンの先端部と当接して各ピストンの往復動量を設定する斜板と、本体に固定配置しシリンダブロックと摺接して作動水が流通する一対の吸排ポートを形成した側板とを備え、シリンダブロックとピストンはともに
クロムの含有量が11~32%、ニッケルの含有量が0.75%以下のフェライト系ステンレス鋼から形成したことを特徴とする斜板式アキシャルピストンポンプ・モータ。
【請求項2】
前記シリンダブロックと前記ピストンのいずれか一方はフェライト系ステンレス鋼に替えて
クロムの含有量が16~26%、ニッケルの含有量が3.5~28%のオーステナイト系ステンレス鋼から形成したことを特徴とする請求項1に記載の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータ。
【請求項3】
前記シリンダブロックをフェライト系ステンレス鋼から形成したことを特徴とする請求項1
または2のいずれか一つに記載の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動水を使用してシリンダブロックに複数のピストンを軸方向へ往復摺動自在に配置し、ピストンの往復動量を斜板で設定する斜板式アキシャルピストンポンプ・モータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータは、本体へ回転軸を回転自在に軸支し、回転軸とシリンダブロックとを固定し、シリンダブロックには複数のピストンを軸方向へ往復動自在で周方向へ等間隔に配置し、ピストンの往復摺動量を設定する斜板を本体に固定している。作動は、ポンプ作動では、回転軸でシリンダブロックを回転駆動することでピストンが往復摺動して作動水の吸入吐出が行われる。また、モータ作動では、供給される作動水の水圧によりピストンが往復動することで回転軸がシリンダブロックとともに回転する。そして、特許文献1に示す如く、シリンダブロックを銅合金から形成すると共に、ピストンをセラミックから形成したり、特許文献2に示す如く、シリンダブロックにPEEKをベースにしたプラスチック材料のスリーブを有すると共に、ピストンにダイヤモンド様炭素の層を有したりして、ピストンとシリンダブロックとの摺動個所の摩耗低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-247021号公報
【文献】特開2004-3487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータでは、ピストンをセラミックから形成しているため、素材が高価であると共に、加工が難しく加工コストも高価になる問題点がった。
また、特許文献2の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータでは、シリンダブロックにプラスチック材料を用いているため、成型精度や加工精度を高精度にすることが難しく、ピストンとシリンダブロックとの摺動個所からの漏れ量が増加する恐れがあった。
【0005】
本発明の課題は、ピストンとシリンダブロックとの摺動個所の摩耗低減を図り、安価で精度の良い斜板式アキシャルピストンポンプ・モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は次の手段をとった。即ち、
本体へ回転自在に軸支した回転軸と、回転軸と回転方向に係合して本体へ回転自在に軸支したシリンダブロックと、シリンダブロックに軸方向へ往復摺動自在に配置した複数のピストンと、各ピストンとシリンダブロックとにより区画形成して作動水を吸排する複数の作動室と、本体に配置しシリンダブロックより突出した各ピストンの先端部と当接して各ピストンの往復動量を設定する斜板と、本体に固定配置しシリンダブロックと摺接して作動水が流通する一対の吸排ポートを形成した側板とを備え、シリンダブロックとピストンはともにクロムの含有量が11~32%、ニッケルの含有量が0.75%以下のフェライト系ステンレス鋼から形成したことを特徴とする斜板式アキシャルピストンポンプ・モータがそれである。
【0007】
この場合、前記シリンダブロックと前記ピストンのいずれか一方はフェライト系ステンレス鋼に替えてクロムの含有量が16~26%、ニッケルの含有量が3.5~28%のオーステナイト系ステンレス鋼から形成してもよい。
【0008】
また、前記シリンダブロックと前記ピストンのいずれか一方はフェライト系ステンレス鋼に替えて銅合金から形成してもよい。
ここで、銅合金とは銅の含有量が50%以上とした合金のことである。
また、前記シリンダブロックをフェライト系ステンレス鋼から形成してもよい。
【発明の効果】
【0009】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明は、シリンダブロックとピストンはともにクロムの含有量が11~32%、ニッケルの含有量が0.75%以下のフェライト系ステンレス鋼から形成した。このため、シリンダブロックとピストンはフェライト系ステンレス鋼で熱伝導率をよくできるから、ピストンとシリンダブロックとの摺動個所の放熱を向上でき、摺動個所の溶着摩耗等による摩耗低減を図ることができる。そして、従来ポンプ・モータの如き、セラミックを用いているものに比し、安価で加工が容易で精度を良くすることができる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、シリンダブロックとピストンのいずれか一方はフェライト系ステンレス鋼に替えてクロムの含有量が16~26%、ニッケルの含有量が3.5~28%のオーステナイト系ステンレス鋼から形成した。このため、ピストンとシリンダブロックとの摺動個所の放熱効果を維持しつつ、フェライト系ステンレス鋼とオーステナイト系ステンレス鋼との異種材料の摺動により凝着摩耗を低減することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、シリンダブロックをフェライト系ステンレス鋼から形成した。このため、シリンダブロックは側板との摺接個所の放熱を向上でき、側板との摺接個所の摩耗低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態を示した斜板式アキシャルピストンポンプ・モータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、斜板式アキシャルピストンポンプ・モータを斜板式アキシャルピストンポンプとした本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1において、1は本体で、円筒状の筒部材2の両端開口を前蓋部材3と後蓋部材4とで閉塞して構成し、内部に空間Fを形成する。本体1は両蓋部材3、4間に筒部材2を挟持して両蓋部材3、4を複数のボルト部材5で締結する。6は本体1の前蓋部材3へ回転自在に軸支した回転軸で、前蓋部材3を貫通して先端を外部に突出すると共に、後端を空間Fに突出する。回転軸6は先端に図示しない電動機と結合するキー7を有すると共に、後端に後述詳記するシリンダブロック8と回転方向に係合するスプライン9を形成する。
【0015】
本体1の前蓋部材3には、回転軸6を回転自在に軸支する二つの軸受10、11を軸方向の外方と内方に離間して配置する。軸方向の外方に配置する軸受10はラジアル玉軸受で、外部に露呈する。軸方向の内方に配置する軸受11は樹脂材から筒状に形成したすべり軸受で、先端に有したつば部11Aを前蓋部材3の段部3Aに係合して軸方向に位置決めする。12はメカニカルシールで、ラジアル玉軸受10とすべり軸受11との間に配置して回転軸6を挿通して挿通個所を密封する。メカニカルシール12は両軸受10、11で挟持して軸方向に位置決めする。
【0016】
前蓋部材3は、空間Fに面する内方端面を傾斜面3Bに形成する。傾斜面3Bには円板状の斜板13を固定し、斜板13の軸心を回転軸6が遊嵌する。傾斜面3Bは回転軸6の軸線Gと直行する線Lに対して一定の角度α傾斜する。後蓋部材4には支持軸14を固定して設け、支持軸14は空間Fに向けて突出する。支持軸14には樹脂材から筒状に形成した第1すべり軸受15A、第2すべり軸受15B、第3すべり軸受15Cの三つを外嵌して備える。シリンダブロック8は一端面に開口して軸心に支持孔8Aを形成し、支持孔8Aには支持軸14を嵌挿する。シリンダブロック8は、第1すべり軸受15A、第2すべり軸受15B、第3すべり軸受15Cで支持軸14へ回転自在に軸支する。
【0017】
シリンダブロック8は一端面と対向する他端面に開口して軸心にスプライン溝8Bを形成すると共に、他端面に開口して径方向の外周側で周方向へ等間隔に複数のピストン孔8Cを形成する。スプライン溝8Bには回転軸6のスプライン9を係合し、シリンダブロック8を回転軸6で回転駆動する。各ピストン孔8Cにはピストン16を軸方向へ往復摺動自在に嵌挿し、作動室17を区画形成する。シリンダブロック8とピストン16はともに、日本産業規格JIS G4303:2012「ステンレス鋼棒」に規定されたフェライト系ステンレス鋼 SUS430から形成する。なお、シリンダブロック8とピストン16は、フェライト系ステンレス鋼であればSUS430でなくともSUS403やSUS447J1等でもよい。各ピストン16は先端部に枢着したシュー18を介して斜板13に当接する。斜板13は傾斜した角度αに基づき各ピストン16の往復動量を設定する。各シュー18はばね19のばね力がリテーナ20、リテーナ板21を介して付与され、斜板13に押し付けられる。
【0018】
作動室17は、各ピストン16の
図1右方向への往動で容積が増加して作動水を吸入すると共に、各ピストン16の
図1左方向への複動で容積が減少して作動水を吐出する。各作動室17には接続孔22を接続し、各接続孔22はシリンダブロック8の一端面に周方向へ等間隔に開口する。シリンダブロック8の一端面と摺接する側板23は、樹脂材から形成して後蓋部材4の空間Fに面する内方端面に固定し、軸心を支持軸14が挿通する。側板23には一対の吸排ポート24A、24Bを貫通形成し、両吸排ポート24A、24Bは半円弧状で側板23の軸心に対して対称位置に配置する。
【0019】
一方の吸排ポート24Aはピストン16の往動で容積が増加する作動室17に連通し、作動室17に吸入する作動水を流通する吸入ポートとして機能する。他方の吸排ポート24Bはピストン16の復動で容積が減少する作動室17に連通し、作動室17から吐出する作動水を流通する吐出ポートとして機能する。25A、25Bは後蓋部材4に形成した一対の吸排流路で、一方の吸排流路25Aは吸入ポートとして機能する一方の吸排ポート24Aに接続し、他方の吸排流路25Bは吐出ポートとして機能する他方の吸排ポート24Bに接続する。
【0020】
次にかかる構成の作動を説明する。
図1の状態で、回転軸6を回転駆動すると、シリンダブロック8が回転軸6とともに回転する。シリンダブロック8の回転に伴い、各ピストン16は斜板13の傾斜角度αに応じた往復動量で往復動し、各作動室17の容積を増減する。
【0021】
シリンダブロック8の回転により容積が増加する作動室17には、吸排流路25Aより吸排ポート24Aを流通して作動水が吸入される。また、シリンダブロック8の回転により容積が減少する作動室17の作動水は、吸排ポート24Bを流通して吸排流路25Bより吐出される。このように、シリンダブロック8の回転に伴い作動水の吸入と吐出を連続して行うポンプ作動をする。そして、回転軸6の回転駆動を停止すると、ポンプ作動を停止する。
【0022】
かかる作動において、シリンダブロック8とピストン16はともにフェライト系ステンレス鋼から形成した。このため、シリンダブロック8とピストン16は熱伝導率をよくできるから、ピストン16とシリンダブロック8との摺動個所Aの放熱を向上でき、摺動個所Aの溶着摩耗等による摩耗低減を図ることができる。そして、従来ポンプ・モータの如き、セラミックを用いているものに比し、安価で加工が容易で精度を良くすることができる。
【0023】
また、シリンダブロック8をフェライト系ステンレス鋼から形成した。このため、シリンダブロック8は側板23との摺接個所Bの放熱を向上でき、側板23との摺接個所Bの摩耗低減を図ることができる。
【0024】
本発明の他の実施形態として、ピストン16を日本産業規格JIS G4303:2012「ステンレス鋼棒」に規定されたオーステナイト系ステンレス鋼 SUS304から形成する。これにより、ピストン16とシリンダブロック8との摺動個所Aの放熱効果を維持しつつ、フェライト系ステンレス鋼のシリンダブロック8にオーステナイト系ステンレス鋼のピストン16を摺動するから、異種材料の摺動により凝着摩耗を低減することができる。また、シリンダブロック8はフェライト系ステンレス鋼から形成しているため、一実施形態と同様に、側板23との摺接個所Bの摩耗低減を図ることができる。なお、ピストン16はオーステナイト系ステンレス鋼であればSUS304でなくともSUS201やSUS890L等でもよい。
【0025】
本発明のさらに他の実施形態として、ピストン16を銅合金としての青銅から形成する。このため、フェライト系ステンレス鋼のシリンダブロック8と青銅のピストン16は熱伝導率をより高くでき、ピストン16とシリンダブロック8との摺動個所Aの放熱をより向上でき、摩耗低減を図ることができる。また、シリンダブロック8はフェライト系ステンレス鋼から形成しているため、一実施形態と同様に、側板23との摺接個所Bの摩耗低減を図ることができる。なお、ピストン16は銅合金であれば青銅でなくとも黄銅や白銅等でもよい。
【0026】
なお、前述の各実施形態では、シリンダブロック8をフェライト系ステンレス鋼とし、ピストン16をフェライト系ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼や銅合金としたが、ピストン16をフェライト系ステンレス鋼とし、シリンダブロック8をフェライト系ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼や銅合金としてもよい。また、斜板式アキシャルピストンポンプ・モータを斜板式アキシャルピストンポンプとしたが、斜板式アキシャルピストンモータとしてもよい。この場合には、外部から供給された作動水によりシリンダブロック8が回転駆動され、シリンダブロック8で回転軸6を回転する。また、斜板13の傾斜角度を一定の角度αとした定容量型としたが、斜板の傾斜角度を変更可能とした可変容量型としてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0027】
1:本体
6:回転軸
8:シリンダブロック
13:斜板
16:ピストン
23:側板
24A、24B:吸排ポート
A:摺動個所
B:摺接個所