(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】合成皮革およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
D06N3/14 102
(21)【出願番号】P 2019175908
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018191863
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】宮村 恭平
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/093566(WO,A2)
【文献】特開平09-168401(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136921(WO,A1)
【文献】特開昭60-235859(JP,A)
【文献】特開2017-133114(JP,A)
【文献】特開2014-156668(JP,A)
【文献】特開2015-189886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
D06M10/00-16/00
19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材と、前記繊維質基材上に設けられた表層と、を備える合成皮革であって、
前記表層が、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとを含
み、
前記表層を構成するポリウレタン樹脂がカーボネート結合を含有する、合成皮革。
【請求項2】
繊維質基材と、前記繊維質基材上に設けられた表層と、を備える合成皮革であって、
前記表層が、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとを含
み、
前記表層を構成するポリウレタン樹脂がエーテル結合とカーボネート結合とを含有する、合成皮革。
【請求項3】
前記表層を構成するポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとの質量比が95:5~25:75である、請求項1
又は2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記表層を構成するポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとの質量比が80:20~50:50である、請求項1
又は2に記載の合成皮革。
【請求項5】
前記シリコーンゴムが、乾燥することによりゴム弾性皮膜を形成可能なシリコーンエマルジョンにより形成されたものである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の合成皮革。
【請求項6】
合成皮革の表裏のうち使用時に目に見える方の面であるオモテ面の外観がヌバック調である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の合成皮革。
【請求項7】
合成皮革の表裏のうち使用時に目に見える方の面であるオモテ面の外観が銀付調である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の合成皮革。
【請求項8】
前記繊維質基材と前記表層との間に、ポリウレタン樹脂からなるアンカーコート層が設けられた、請求項1~
7のいずれか1項に記載の合成皮革。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の合成皮革の製造方法であって、
表層用樹脂液を離型性基材上に塗布して、表層を形成する工程、
前記表層と繊維質基材とを貼り合わせる工程、及び、
前記離型性基材を剥離する工程、
を、この順で含む、合成皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成皮革およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維質基材上に樹脂層を積層してなる合成皮革は、様々な分野に用いられている。合成皮革に本革様の触感を付与するため、本出願人はこれまでに、特許文献1で、繊維質基材にポリウレタン樹脂からなる表層を積層してなるヌバック調シート状物のオモテ面に特定の凹凸高低差、特定の隣り合う凸部頂点の間隔を有する凹凸、および特定のオモテ面の表面動摩擦係数を有することにより、ヌバック調の触感と耐摩耗性とを兼ね備えるヌバック調シート状物を提案している。しかしながら、耐摩耗性および触感に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、本革様の触感と耐摩耗性とを有する合成皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材と、前記繊維質基材上に設けられた表層とを備える。前記表層は、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとを含む。
【0006】
本発明の実施形態に係る製造方法は、上記合成皮革の製造方法であって、
(1)表層用樹脂液を離型性基材上に塗布して、表層を形成する工程、
(2)前記表層と繊維質基材とを貼り合わせる工程、及び、
(3)前記離型性基材を剥離する工程、
を、この順で含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、本革様の触感と耐摩耗性とを有する合成皮革を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る合成皮革の断面摸式図である。
【
図2】他の実施形態に係る合成皮革の断面摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材に表層を積層してなるものであり、前記表層が、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとを含む合成皮革である。表層にポリウレタン樹脂とともにシリコーンゴムを配合することにより、オモテ面がヌバック調であっても銀付調であっても、本革様の触感(ヌメリ感)を付与することができる。また、このように表層を構成する樹脂組成物により本革様の触感を付与することができるため、オモテ面を研削する必要がなく、よって耐摩耗性を向上することができる。ここで、合成皮革のオモテ面とは、合成皮革の表裏のうち、使用時に目に見える方の面(意匠面)をいう。
【0010】
図1は、一実施形態に係る合成皮革1の断面構造を摸式的に示したものである。この合成皮革1では、繊維質基材2の一方の面に表層3が積層されている。表層3の表面が合成皮革1のオモテ面4であり、該オモテ面4に凸部8と凹部9からなる凹凸が設けられている。また、この例では、表層3は接着層5を介して繊維質基材2に積層されている。したがって、繊維質基材2の一方の面に、接着層5および表層3がこの順に積層されている。
【0011】
図2は、他の実施形態に係る合成皮革10の断面構造を摸式的に示したものである。この合成皮革10では、繊維質基材2と表層3との間にアンカーコート層6が設けられている。詳細には、表層3の下にアンカーコート層6が設けられるとともに、表層3の上に意匠層7が設けられている。したがって、
図2の例では、繊維質基材2の一方の面に、接着層5、アンカーコート層6、表層3および意匠層7がこの順に積層されている。
【0012】
図2の例では、意匠層7は、表層3上に部分的に形成されており、そのため、合成皮革10のオモテ面4は、意匠層7の表面と、表層3の表面(意匠層7により覆われていない部分)とで構成されている。
【0013】
本実施形態において、繊維質基材としては、特に限定されるものでなく、編物、織物、不織布などの布帛を例示することができる。布帛には、従来公知の溶剤系、無溶剤系(水系を含む)の高分子化合物(好ましくは、ポリウレタン樹脂やその共重合体、あるいはポリウレタン樹脂を主成分とする混合物)を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固させたものを用いてもよい。なお、繊維質基材は、染料または顔料により着色されたものであってもよい。
【0014】
繊維質基材を構成する繊維の素材も特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。なかでも、耐熱性や耐光性などの点から、合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維がより好ましく、ポリエチレンテレフタレート繊維が特に好ましい。
【0015】
繊維質基材の厚さは、特に限定されるものではなく、耐摩耗性と触感の観点から、0.3~1.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.5~1.0mmである。
【0016】
本実施形態に係る合成皮革は、上述の繊維質基材に、樹脂層として、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとを含有する表層が積層されてなるものである。
【0017】
表層の形成に用いられるポリウレタン樹脂は、特に限定されるものでなく、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐摩耗性の観点からはポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることが好ましく、触感や風合いの観点からはポリエーテル系ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。ポリウレタン樹脂は市販のものを用いることができ、環境負荷の観点から一液型のエマルジョンタイプ(ポリウレタンエマルジョン)が好ましい。
【0018】
表層を構成するポリウレタン樹脂は、耐摩耗性の観点からカーボネート結合(-O-(C=O)-O-)を含有することが好ましく、触感の観点からエーテル結合(-O-)を含有することが好ましく、また、触感と耐摩耗性の両立という観点からエーテル結合とカーボネート結合の双方を含有してもよい。
【0019】
エーテル結合とカーボネート結合との比率は、モル比で、エーテル結合:カーボネート結合=90:10~10:90であることが好ましく、より好ましくは80:20~20:80であり、更に好ましくは50:50~20:80である。カーボネート結合の比率が10%以上であることにより、耐摩耗性、耐熱性、耐湿熱性、耐光性が低下することを防ぐことができる。また、エーテル結合の比率が10%以上であることにより、触感の改良効果を高めることができる。
【0020】
表層において、ポリウレタン樹脂の含有量は、特に限定されないが、20~88質量%であることが好ましく、より好ましくは45~74質量%であり、さらに好ましくは50~69質量%である。表層中に占めるポリウレタン樹脂の含有率が20質量%以上であることにより、製膜性が良好であり、耐摩耗性を向上することができる。また、該含有率が88質量%以下であることにより、塗膜感が強くなることを抑制し、風合いが粗硬になりにくくすることができ、触感を向上することができる。
【0021】
表層を構成する樹脂は、ポリウレタン樹脂を主体としてなるが、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の樹脂成分を含んでいてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂(レジン)などを挙げることができる。
【0022】
本実施形態において、表層に用いられるシリコーンゴムは、常温(22℃)でゴム弾性を持つシリコーンであり、シリコーンオイルやシリコーン樹脂とは区別される。シリコーンゴムは、主鎖にシロキサン結合を持つゴムであり、より詳細には、シロキサン結合の繰り返し数が5000~10000の直鎖構造分子を有し、ゴム弾性皮膜を形成可能なシリコーンが挙げられる。
【0023】
シリコーンゴムのゴム弾性は、当該シリコーンゴムからなる皮膜(シリコーンゴム単独のゴム弾性皮膜)の弾性率により評価することができる。ゴム弾性皮膜の弾性率としては、例えば0.001~0.5MPaであることが好ましく、より好ましくは0.001~0.2MPaであり、0.003~0.1MPaでもよく、0.005~0.05MPaでもよい。
【0024】
ここで、ゴム弾性皮膜の弾性率は、以下のように算出される。すなわち、シリコーンエマルジョンなどのシリコーンゴム溶液をフラット離型紙(EV130TPD、リンテック株式会社製)上に、アプリケーターを用いて、乾燥後の厚みが30~100μmとなるように塗布した後、80℃で10分間、次いで130℃で5分間熱処理してゴム弾性皮膜を作製する。該ゴム弾性皮膜から、長さ150mm、幅30mmの大きさの試験片を採取し、室温22±2℃、相対湿度65±5%RHの状況下で、引張試験機(オートグラフAG-IS型、株式会社島津製作所製)のつかみ具に、つかみ幅30mm、つかみ間隔50mmで取り付け、引張速度200mm/分で引っ張る。試験片の伸長量(mm)をつかみ間隔(mm)で除した値(伸長率(%)=(伸長量(mm)/50mm)×100)をX軸とし、得られた応力(N)を試験片の断面積(mm2)で除した値(応力(N)/断面積(mm2))をY軸として、グラフ化する。得られたグラフから、X軸:伸長率=0.05~10%における回帰直線の傾きを算出し、ゴム弾性皮膜の弾性率とする。
【0025】
シリコーンゴムの具体例としては、ジメチルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンの変性物からなるゴム(例えば、ビニルメチルシリコーンゴム、フェニルビニルメチルシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴムなど)、シリコーンゴム・アクリルの共重合体、シリコーンゴム・ウレタンの共重合体などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、汎用性の観点からジメチルシリコーンゴム、ビニルメチルシリコーンゴム、フェニルビニルメチルシリコーンゴム、及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、より好ましくはジチメルシリコーンゴムである。一実施形態において、表層を構成するシリコーンゴムとしては、乾燥することによりゴム弾性皮膜を形成可能なシリコーンエマルジョンにより形成されることが好ましく、自己架橋型のシリコーンエマルジョンにより形成されてもよい。シリコーンゴムは市販のものを用いることができ、ポリウレタン樹脂との混合のしやすさから水系のエマルジョンタイプを用いることが好ましい。
【0026】
表層において、シリコーンゴムの含有量は、特に限定されないが、4~68質量%であることが好ましく、より好ましくは18~46質量%であり、さらに好ましくは22~41質量%である。表層中に占めるシリコーンゴムの含有率が4質量%以上であることにより、塗膜感が強くなることを抑制し、風合いが粗硬になりにくくすることができ、触感を良好なものとすることができる。また、該含有率が68質量%以下であることにより、耐摩耗性を良好なものとすることができる。
【0027】
表層を構成するポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとの質量比は、特に限定されないが、95:5~25:75が好ましく、より好ましくは80:20~50:50であり、さらに好ましくは75:25~55:45である。シリコーンゴムの質量比が下限値以上(即ち5%以上)であることにより、得られる合成皮革の触感を良好なものとすることができる。また、シリコーンゴムの質量比が上限値以下(即ち75%以下)であることにより、得られる合成皮革の耐摩耗性を良好なものとすることができる。
【0028】
表層には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、着色剤(顔料、染料)、艶消し剤、平滑剤、界面活性剤、充填剤、レベリング剤、増粘剤などの各種添加剤が含まれてもよい。これらは1種単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0029】
表層の厚さは、特に限定されないが、例えば10~200μmであることが好ましく、より好ましくは10~100μmである。厚さが10μm以上であることにより、得られる合成皮革の耐摩耗性を向上することができる。厚さが200μm以下であることにより、得られる合成皮革の風合いを良好なものとすることができる。
【0030】
ここで、表層の厚さは、以下のように算出される。すなわち、合成皮革の垂直断面をマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、デジタルマイクロスコープ VHX-200)で観察し、任意の10カ所について凸部頂点と表層最下部の高低差(
図1のAを参照)を測定した値と、任意の10カ所について凹部の底と表層の最下部の高低差(
図1のBを参照)を測定した値との平均値を表層の厚さとする。
【0031】
本実施形態において、必要に応じて、意匠層および/またはアンカーコート層を設けてもよい。意匠層は表層の上に積層されるものであり、部分的に柄を付与することにより意匠性を高めるために設けられる層である。アンカーコート層は表層の下に積層されるものであり、表層と繊維質基材又は接着層との接着性を高めるために設けられる層である。なお、意匠層および/またはアンカーコート層は、接着性の向上という観点から、ポリウレタン樹脂を含んでいることが好ましい。
【0032】
意匠層やアンカーコート層に含まれるポリウレタン樹脂としては、表層と同様のポリウレタン樹脂を用いることができる。意匠層については、耐摩耗性の観点から、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることが好ましく、さらには、触感の観点から触感向上剤を、耐摩耗性の観点から平滑剤を添加することが好ましい。触感向上剤としては、例えばワックスが挙げられる。平滑剤としては、例えばシリコーンオイルが挙げられる。
【0033】
本実施形態において、表層と繊維質基材との間に接着層を設けてもよい。表層を繊維質基材に直接積層してもよいが、接着層を介することにより、直接積層した場合に起こり得る、表層を構成するポリウレタン樹脂等の繊維質基材への過度の浸みこみが抑制されて、本革様の触感や風合いが得られやすくなる。接着層として用いられる接着剤としては、特に限定されないが、ポリウレタン樹脂が好ましく用いられ、表層に用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0034】
意匠層の厚さは、特に限定されず、例えば10~400μmでもよい。アンカーコート層の厚さは、特に限定されず、例えば10~60μmでもよい。接着層の厚さは、特に限定されず、例えば50~400μmでもよい。
【0035】
合成皮革のオモテ面には、凹凸模様を設けることが好ましい。凹凸模様とは、例えば、天然銀付皮革のシボ模様、天然ヌバックの微凹凸模様、幾何学模様等が挙げられる。この凹凸模様は、研削せずに形成されるものであり、例えば、後述する離型性基材の凹凸模様により付与されるものである。凹凸模様の凹凸の高さ(凸部と凹部の高低差、
図1のC参照)と幅(隣り合う凸部頂点の間隔、
図1のD参照)は適宜設定すればよい。
【0036】
例えば、凹凸模様の凹凸の高さが20~150μmで、凹凸の幅が200~2000μmであると、天然皮革の銀付調の外観をオモテ面に有する合成皮革を提供することができる。凹凸模様の凹凸の高さが20~150μmで、凹凸の幅が20~150μmであると、天然皮革のヌバック調の外観をオモテ面に有する合成皮革を提供することができる。即ち、このような凹凸模様を設けることにより、天然皮革の銀付調やヌバック調の外観をオモテ面に有する合成皮革を提供することができる。また、触感や風合いを本革に近付けることができる。
【0037】
上記オモテ面における凹凸の高さは、任意の凸部と該凸部に最も近い凹部との高低差であり、以下のように垂直断面における観察から求められる。すなわち、合成皮革の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルマイクロスコープ VHX-200)で観察し、任意の10箇所における凸部と該凸部に最も近い凹部について、凸部の頂点と凹部の底との高低差(
図1中のCを参照)を測定し、その平均値を凹凸の高さとする。
【0038】
また、上記オモテ面における凹凸の幅は、任意の凸部と該凸部に最も近い凸部との頂点間距離であり、以下のように垂直断面における観察から求められる。すなわち、合成皮革の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルマイクロスコープ VHX-200)で観察し、任意の10箇所における凸部と該凸部に最も近い凸部について頂点間の水平距離(合成皮革の厚み方向に垂直な方向での頂点間の距離、
図1中のDを参照)を測定し、その平均値を凹凸の幅とする。
【0039】
次に、上記合成皮革の製造方法について説明する。該製造方法は、
(1)表層用樹脂液を離型性基材上に塗布して、表層を形成する工程と、
(2)表層と繊維質基材とを貼り合わせる工程と、
(3)離型性基材を剥離する工程と、
を、この順で含むものである。
【0040】
表層用樹脂液は、表層を形成するために用いられる樹脂組成物であり、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとを含む。ポリウレタン樹脂およびシリコーンゴムについては上述したとおりであり、好ましい実施形態として上記ポリウレタンエマルジョンおよびシリコーンエマルジョンを用いてもよい。
【0041】
なお、表層用樹脂液において、ポリウレタン樹脂の配合量は、特に限定されないが、固形分換算で、20~88質量%であることが好ましく、より好ましくは45~74質量%であり、さらに好ましくは50~69質量%である。また、表層用樹脂液において、シリコーンゴムの配合量は、特に限定されないが、固形分換算で、4~68質量%であることが好ましく、より好ましくは18~46質量%であり、さらに好ましくは22~41質量%である。また、表層用樹脂液において、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムとの配合比(固形分質量比)は、特に限定されないが、95:5~25:75であることが好ましく、より好ましくは80:20~50:50であり、さらに好ましくは75:25~55:45である。
【0042】
表層用樹脂液には、本発明の効果を損なわない範囲内で、着色剤(顔料、染料)、艶消し剤、平滑剤、界面活性剤、充填剤、レベリング剤、増粘剤などの各種添加剤が含まれてもよい。また、これらの添加剤以外に、必要に応じて、高極性溶媒などの溶媒を含有させることができる。溶媒としては、環境負荷の観点から、好ましくは水が用いられる。
【0043】
表層用樹脂液を離型性基材上に塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。なかでも均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、リバースロールコーター、ナイフコーター、または、コンマコーターによる塗布が好ましい。
【0044】
離型性基材は特に限定されるものでなく、ポリウレタン樹脂およびシリコーンゴムに対して離型性を有する基材、あるいは離型処理を施した基材であればよい。例えば、離型紙、離型処理布、撥水処理布、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂などからなるオレフィンシートまたはフィルム、フッ素樹脂シートまたはフィルム、離型紙付きプラスチックフィルムなどを挙げることができる。
【0045】
離型性基材は凹凸模様を有していることが好ましい。凹凸模様は、天然銀付皮革のシボ模様や天然ヌバックの微凹凸模様を模した形状であることが好ましい。凹凸模様の凹凸の高さ(凸部と凹部の高低差)と幅(隣り合う凹部の底の間隔)は適宜設定すればよい。
【0046】
例えば、凹凸の高さ(凸部と凹部との高低差)が20~150μmで、かつ幅(隣り合う凹部の底の間隔)が200~2000μmである凹凸模様を有する離型性基材を用いることにより、天然銀付皮革の銀付調の凹凸模様を合成皮革のオモテ面に付与することができる。
【0047】
凹凸の高さ(凸部と凹部との高低差)が20~150μmで、かつ幅(隣り合う凹部の底の間隔)が20~150μmである凹凸模様を有する離型性基材を用いることにより、天然ヌバックのヌバック調の凹凸模様を合成皮革のオモテ面に付与することができる。
【0048】
合成皮革のオモテ面の凹凸は、離型性基材の凹凸模様により付与され、即ち、合成皮革のオモテ面には、離型性基材の凹凸模様を反転させた凹凸模様が形成される。そのため、上記のような凹凸模様を有する離型性基材を用いることにより、天然皮革の銀付調やヌバック調の外観を合成皮革のオモテ面に付与することができる。
【0049】
上記離型性基材の凹凸模様の凹凸の高さは、任意の凸部と該凸部に最も近い凹部との高低差であり、以下のように垂直断面における観察から求められる。すなわち、離型性基材の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルマイクロスコープ VHX-200)で観察し、任意の10箇所における凸部と該凸部に最も近い凹部について、凸部の頂点と凹部の底との高低差を測定し、その平均値を凹凸の高さとする。
【0050】
また、上記離型性基材の凹凸模様の凹凸の幅は、任意の凹部と該凹部に最も近い凹部との底間距離であり、以下のように垂直断面における観察から求められる。すなわち、離型性基材の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルマイクロスコープ VHX-200)で観察し、任意の10箇所における凹部と該凹部に最も近い凹部について底間の水平距離(離型性基材の厚み方向に垂直な方向での底間の距離)を測定し、その平均値を凹凸の幅とする。
【0051】
表層用樹脂液の塗布厚は、前記表層の厚さに応じて適宜設定すればよく、20~400μmであることが好ましく、より好ましくは20~200μmである。塗布厚をこの範囲に設定することにより、好ましくは10~200μm、より好ましくは10~100μmの厚さを有する表層となる。
【0052】
表層用樹脂液を離型性基材に塗布した後、必要に応じて熱処理を行う。熱処理は、表層用樹脂液中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるために行われる。また、熱処理によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合や、二液硬化型の樹脂を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。
【0053】
熱処理温度は50~150℃でもよく、60~130℃でもよい。熱処理温度が50℃以上であると、熱処理に時間がかかり過ぎることがないため、工程負荷が大きくなりすぎることがない。また樹脂の架橋が不十分なることを防ぐことができるため、耐摩耗性が不良となることを防ぐことができる。熱処理温度が150℃以下であると、合成皮革の風合いが粗硬になることを防ぐことができる。また、熱処理時間は2~20分間でもよく、2~10分間でもよい。熱処理時間が2分間以上であると、樹脂の架橋が不十分になることを防ぐことができるため、耐摩耗性が不良となることを防ぐことができる。熱処理時間が20分間以内であると、工程負荷が大きくなりすぎることもない。
【0054】
次いで、表層と繊維質基材とを貼り合せる。貼り合せに際しては、上記のように、接着層を介してもよいし、直接積層してもよい。好ましくは接着層を介して貼り合せることである。接着層を設ける場合、表層上に接着剤を塗布してから繊維質基材に貼り合わせればよい。
【0055】
接着剤を塗布する方法は、公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。
【0056】
次いで、表層から離型性基材を剥離する。かくして、本実施形態に係る合成皮革が得られる。ただし、本実施形態に係る合成皮革を製造するための方法は、上記方法に限定されるものではない。
【0057】
なお、アンカーコート層を形成する場合は、離型性基材上に表層を形成した後、接着剤を塗布する前に、表層上にアンカーコート層用樹脂液を塗布して形成すればよい。その後、接着剤を塗布してから繊維質基材に貼り合わせてもよく、あるいはまた、接着剤を塗布せずにアンカーコート層に繊維質基材を直接貼り合わせてもよい。
【0058】
また、意匠層を形成する場合は、表層から離型性基材を剥離した後、該表層のオモテ面に、意匠層用樹脂液を塗布して形成すればよい。
【0059】
アンカーコート層用樹脂液及び意匠層用樹脂液を塗布する方法、および、塗布後の熱処理については、表層の形成と同様の方法を用いることができる。また、意匠層を部分的に積層する場合は、塗布する方法として、スクリーンプリントやインクジェットプリントなどを用いることもできる。
【0060】
本実施形態に係る合成皮革であると、表層にポリウレタン樹脂とともにシリコーンゴムを含有させたことにより、本革様の触感(ヌメリ感)を付与することができる。そのため、オモテ面に銀付調又はヌバック調の外観を付与する凹凸模様を設けることにより、表層表面を研削しなくても、銀付調またはヌバック調の触感を得ることができる。このように本実施形態に係る合成皮革では、オモテ面は研削されておらず、それにもかかわらず銀付調だけでなくヌバック調であっても所望の触感を付与することができる。そのため、本革様の合成皮革として満足し得る触感を持つものでありながら、高度な耐久性が求められる分野においても満足し得る耐摩耗性を付与することができる。
【0061】
本実施形態に係る合成皮革の用途は、特に限定されないが、例えば自動車用シート、天井材、ダッシュボード、ドア内張材またはハンドルなどの自動車内装材をはじめとする各種車両のための内装材用途の他、ソファーや椅子のための表皮などのインテリア用途、鞄、靴などのファッション用途に用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
各評価項目は、以下の方法に従った。
【0064】
[耐摩耗性]
JIS L1096 8.19.3の摩耗強さC法(テーバ形法)に準じて測定した。測定は、条件1と条件2のそれぞれについて行った。条件1は、摩耗輪CS-10、荷重4.9N、速度70rpm、摩耗回数2000回とした。条件2は、摩耗輪CS-10、荷重9.8N、速度70rpm、摩耗回数2000回とした。摩耗試験後の試験片を観察し、下記の基準に従って判定した。条件1では、評価がC以上で、一般的な車両用途での耐摩耗性を満たすレベルに相当する。条件2では、評価がC以上で、車両用途のなかでも特に耐久性が求められる部位(例えばカーシート等の摩擦が多い部位)での耐摩耗性を満たすレベルに相当する。
A:表層に削れや破れ、テカリ等は認められない。
B:表層に削れや破れ等は認められないが、わずかにテカリが出る。
C:表層に削れや破れ等は認められないが、テカリが出る。
D:表層に削れや破れが認められる。
【0065】
[触感]
合成皮革の触感を以下の基準に従って、官能試験により評価した。
A:本革様のヌメリ感が認められ、塗膜感がない。
B:本革様のヌメリ感が認められるが、わずかに塗膜感がある。
C:本革様のヌメリ感が認められるが、やや塗膜感がある。
D:ヌメリ感が認められない。
【0066】
[実施例6]
[処方1]
ポリウレタン樹脂 50質量部
(Impranil DLU、住化コベストロウレタン株式会社製、固形分60質量%、エーテル結合:カーボネート結合(モル比)=20:80)
シリコーンゴム 50質量部
(POLON MF-56、信越化学工業株式会社製、固形分40質量%、乾燥することによりゴム弾性皮膜を形成可能な自己架橋型シリコーンエマルジョン、ゴム弾性皮膜の弾性率0.033MPa)
カーボンブラック顔料 15質量部
(PP-39-611、スタール・ジャパン株式会社製、固形分20質量%)
レベリング剤 1質量部
(OFX-5211、東レ・ダウコーニング株式会社製、固形分100質量%)
消泡剤 0.6質量部
(Formex810、エボニックジャパン株式会社製、固形分100質量%)
増粘剤 1.5質量部
(アデカノールUH-450VF、株式会社ADEKA製、固形分30質量%)
調製方法
処方1に従い、各原料をミキサーにて混合した。このとき、粘度は3000mPa・s(BH型粘度計、ロータNo.3、10rpm、東機産業株式会社製)であった。
【0067】
上述の処方1に従い調製した表層用樹脂液を、離型紙(R-231、凹凸の高さ44μm、凹凸の幅145.5μm、リンテック株式会社製)にコンマコーターにて塗布厚さが60μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で3分間熱処理して、厚さ30μmの表層を形成した。
【0068】
次いで、前記表層上に、接着剤としてウレタンポリイソシアネートプレポリマー(NH230、固形分100質量%、DIC株式会社製)を、コンマコーターにて塗布厚さが170μmになるようにシート状に塗布した。該ウレタンポリイソシアネートプレポリマーが粘稠性を有する状態のうちに丸編布(150dtex/48fポリエステルマルチフィラメント糸を用いモックロディ組織にて編成、厚み0.7mm、目付260g/m2、70コース/25.4mm、33ウェル/25.4mm)を貼り合せ、マングルにて49N/m2の荷重で圧締した。温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で3日間エージング処理し、その後、離型紙を剥離して、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0069】
[実施例1~5,7~11]
ポリウレタン樹脂およびシリコーンゴムの配合量を表1,2のように変更した以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0070】
[実施例12]
ポリウレタン樹脂として、Impranil DLE(住化コベストロウレタン株式会社製、固形分50質量%、エーテル結合:カーボネート結合(モル比)=100:0)を用いて配合を表2のように変更した以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0071】
[実施例13]
ポリウレタン樹脂として、Impranil DLC-F(住化コベストロウレタン株式会社製、固形分40質量%、エーテル結合:カーボネート結合(モル比)=0:100)を用いて配合を表2のように変更した以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0072】
[実施例14]
シリコーンゴムとして、KM2002T(信越化学工業株式会社製、固形分40質量%、乾燥することによりゴム弾性皮膜を形成可能な自己架橋型シリコーンエマルジョン、ゴム弾性皮膜の弾性率0.010MPa)を用いた以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0073】
[実施例15]
離型紙として、R-83M(リンテック株式会社製、凹凸の高さ54.1μm、凹凸の幅1018.5μm)を用いた以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、銀面調の外観を有するものであった。
【0074】
[比較例1、2]
ポリウレタン樹脂およびシリコーンゴムの配合量を表2のように変更した以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0075】
[比較例3]
シリコーンゴムの代わりに、シリコーンオイル(HM-186、スタール・ジャパン株式会社製、固形分30質量%)を用いて配合を表2のように変更した以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0076】
[比較例4]
ポリウレタン樹脂、シリコーンゴムの代わりに、シリコーン変性ポリウレタン樹脂(WLS-290SG、DIC株式会社製、固形分30質量%、エーテル結合:カーボネート結合(モル比)=0:100)を用いて配合を表2のように変更した以外は、実施例6と同様にして、合成皮革を得た。得られた合成皮革は、ヌバック調の外観を有するものであった。
【0077】
表層用樹脂液の処方の詳細、実施例1~15および比較例1~4の合成皮革の構成と評価結果を下記表1,2に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
表1,2に示すように、表層にポリウレタン樹脂とシリコーンゴムを含有させた実施例1~15であると、ポリウレタン樹脂とシリコーンゴムのいずれか一方を含まない比較例1~4に対して、本革様の触感と耐摩耗性との両立効果に優れていた。なお、実施例11では、条件2での耐摩耗性は劣っていたが、条件1、即ち一般的な車両用途での耐摩耗性は満たすものであり、当該用途での耐摩耗性と本革様の触感に優れていた。
【符号の説明】
【0081】
1…合成皮革、2…繊維質基材、3…表層、4…オモテ面、5…接着層
6…アンカーコート層、7…意匠層、8…凸部、9…凹部、10…合成皮革