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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 29/02 20060101AFI20231101BHJP
   B43K 3/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B43K29/02 F
B43K29/02 A
B43K3/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019194681
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021066137
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】梶原 巧
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 29/02
B43K 3/00
B43K 24/00-24/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、
前記軸筒の軸方向に移動可能に配置されたロック部材と、
前記ロック部材の後方に位置し、消去具を保持する保持部材と、を備え、
前記ロック部材がロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記ロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が許容される、筆記具であって、
前記軸筒は、係合溝を内周面に有し、
前記係合溝は、軸方向に延びる第1部分と、前記第1部分の後端部に接続されて後方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第2部分と、を有し、
前記ロック部材は、前記第1部分の内部を移動可能な第1突出部を有し、
前記保持部材は、前記第1部分及び前記第2部分の内部を移動可能な第2突出部を有する、筆記具。
【請求項2】
前記ロック位置は、前記ロック部材の軸方向の可動範囲における後端である、請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記ロック部材が前記ロック位置に位置するときに、前記第2突出部が前記第2部分の内部に位置する、請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記第2突出部の前端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した押圧面を有し、
前記第2部分の前端部は、軸方向及び周方向に対して前記押圧面と同じ方向に傾斜した受圧面を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記押圧面の軸方向に対する傾斜角度は、30度以上60度以下である、請求項に記載の筆記具。
【請求項6】
前記受圧面の軸方向に対する傾斜角度は、30度以上60度以下である、請求項又は5に記載の筆記具。
【請求項7】
前記押圧面の軸方向に対する傾斜角度と、前記受圧面の軸方向に対する傾斜角度との差は、15度以下である、請求項のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項8】
前記第2突出部の後端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した被ガイド面を有し、
前記第1部分の後端部は、軸方向及び周方向に対して前記被ガイド面と同じ方向に傾斜したガイド面を有する、請求項のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項9】
軸筒と、
前記軸筒の軸方向に移動可能に配置されたロック部材と、
前記ロック部材の後方に位置し、消去具を保持する保持部材と、を備え、
前記ロック部材がロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記ロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が許容される、筆記具であって、
前記ロック部材は、後方部分に軸方向に延びる突条を有し、
前記保持部材は、軸方向に延びる凹溝を内周面に有し、
前記ロック部材が前記ロック位置に位置しているときに、前記突条の少なくとも一部が前記凹溝内に位置し、
前記ロック部材が前記非ロック位置に位置しているときに、前記突条が前記凹溝内に位置しない、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペン、シャープペンシル等の筆記具において、当該筆記具の後端部に摩擦部材や消しゴム等の消去具を有するものが利用されている。
【0003】
特許文献1には、軸筒の後端部に消しゴムを有するシャープペンシルが開示されている。このシャープペンシルは、芯ケースの後方に、緩衝材とフランジ部の間で自重により軸推移可能な重りを有している。芯を繰り出す際には、軸筒を握り軸方向の前方に振ることにより重りが前進し、重りの慣性力により芯ケース及びチャックを前進させて芯を繰り出す。その一方、消しゴムを使用するときは、ノックカバーを外し軸筒の後端を下向きにすると、重りが突部の内側に位置して弾性片及び突部の変移が阻止される。これにより、このシャープペンシルには、消しゴムに押圧が掛かっても芯が繰り出されることがないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平6-5986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように後端部に消去具を有する筆記具においては、当該筆記具の後端部を下にして消去具を使用する際に、消去具の軸筒に対する前方への移動の規制をより簡単な構成でより効果的に実現することが望まれている。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、消去具の軸筒に対する前方への移動の規制を簡単な構成で効果的に実現することが可能な筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による筆記具は、
軸筒と、
前記軸筒の軸方向に移動可能に配置されたロック部材と、
前記ロック部材の後方に位置し、消去具を保持する保持部材と、を備え、
前記ロック部材がロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記ロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が許容される。
【0008】
本発明による筆記具において、
前記ロック位置は、前記ロック部材の軸方向の可動範囲における後端であってもよい。
【0009】
本発明による筆記具において、
前記軸筒は、係合溝を内周面に有し、
前記係合溝は、軸方向に延びる第1部分と、前記第1部分の後端部に接続されて後方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第2部分と、を有し、
前記ロック部材は、前記第1部分の内部を移動可能な第1突出部を有し、
前記保持部材は、前記第1部分及び前記第2部分の内部を移動可能な第2突出部を有してもよい。
【0010】
本発明による筆記具において、
前記ロック部材が前記ロック位置に位置するときに、前記第2突出部が前記第2部分の内部に位置してもよい。
【0011】
本発明による筆記具において、
前記第2突出部の前端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した押圧面を有し、
前記第2部分の前端部は、軸方向及び周方向に対して前記押圧面と同じ方向に傾斜した受圧面を有してもよい。
【0012】
本発明による筆記具において、
前記押圧面の軸方向に対する傾斜角度は、30度以上60度以下であってもよい。
【0013】
本発明による筆記具において、
前記受圧面の軸方向に対する傾斜角度は、30度以上60度以下であってもよい。
【0014】
本発明による筆記具において、
前記押圧面の軸方向に対する傾斜角度と、前記受圧面の軸方向に対する傾斜角度との差は、15度以下であってもよい。
【0015】
本発明による筆記具において、
前記第2突出部の後端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した被ガイド面を有し、
前記第1部分の後端部は、軸方向及び周方向に対して前記被ガイド面と同じ方向に傾斜したガイド面を有してもよい。
【0016】
本発明による筆記具において、
前記ロック部材は、後方部分に軸方向に延びる突条を有し、
前記保持部材は、軸方向に延びる凹溝を内周面に有し、
前記ロック部材が前記ロック位置に位置しているときに、前記突条の少なくとも一部が前記凹溝内に位置し、
前記ロック部材が前記非ロック位置に位置しているときに、前記突条が前記凹溝内に位置しなくてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、消去具の軸筒に対する前方への移動の規制を簡単な構成で効果的に実現することが可能な筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明による第1実施形態を説明するための図であって、ロック機構が組み込まれた筆記具を非ノック状態で示す縦断面図である。
図2図2は、図1の筆記具をノック状態で示す縦断面図である。
図3A図3Aは、筆記具の一部の分解図である。
図3B図3Bは、図3Aに対応する図であって、各部品を筆記具の中心軸線を含む平面で切断して示す図である。
図4図4は、図2の筆記具を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。
図5A図5Aは、ロック部材が非ロック位置にあるときの、軸筒の係合溝とロック部材の第1突出部及び保持部材の第2突出部との位置関係を示す図である。
図5B図5Bは、図5Aに対応して、ロック部材が非ロック位置にあるときの、ロック部材の突条と保持部材の凹溝との位置関係を示す図である。
図6A図6Aは、ロック部材が非ロック位置にあるときの、係合溝と第1突出部及び第2突出部との位置関係を示す図である。
図6B図6Bは、図6Aに対応して、ロック部材が非ロック位置にあるときの、突条と凹溝との位置関係を示す図である。
図7A図7Aは、ロック部材がロック位置にあるときの、係合溝と第1突出部及び第2突出部との位置関係を示す図である。
図7B図7Bは、図7Aに対応して、ロック部材がロック位置にあるときの、突条と凹溝との位置関係を示す図である。
図8図8は、本発明による第2実施形態を説明するための図であって、ロック機構が組み込まれた筆記具を非ノック状態で示す縦断面図である。
図9図9は、図8の筆記具をノック状態で示す縦断面図である。
図10A図10Aは、ロック機構の分解図である。
図10B図10Bは、ロック機構を構成する各部品をその断面で示す図である。
図11図11は、図9の筆記具を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。
図12図12は、本発明による第3実施形態を説明するための図であって、ロック機構が組み込まれた筆記具を示す縦断面図である。
図13A図13Aは、ロック機構の分解図である。
図13B図13Bは、ロック機構を構成する各部品をその断面で示す図である。
図14図14は、図12の筆記具を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0020】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0021】
本明細書では、筆記具の中心軸線Aが延びる方向(長手方向、縦断面図における上下方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向dr、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向dcとする。また、軸方向daに沿って、筆記する際に紙面等の被筆記面に近接する側を前方とし、被筆記面から離間する側を後方とする。すなわち、ペン先側が前方であり、ペン先と反対側が後方である。
【0022】
第1実施形態
図1は、本発明による第1実施形態を説明するための図であって、ロック機構60が組み込まれた筆記具10を非ノック状態で示す縦断面図であり、図2は、図1の筆記具10をノック状態で示す縦断面図である。
【0023】
本実施形態では、筆記具10がボールペンである例について説明する。筆記具10は、軸筒20と、筆跡を形成するための筆記体16と、筆跡を消去するための消去具15と、筆記体16の出没機構をなすとともに、筆跡を消去する際に消去具15の軸方向daの移動を規制するロック機構60と、を備えている。
【0024】
軸筒20は、前軸30と、前軸30に連結された後軸40と、後軸40の後端部に取り付けられた後端キャップ47と、前軸30の外面を周方向dcに取り囲むグリップ部材25と、を含んでいる。前軸30は、前端に設けられた、筆記体16の筆記部17が突出可能な開口部32と、前方領域の内面に設けられた第1係合部34と、後方領域の外面に設けられた雄ネジ部36と、を有している。後軸40は、前方領域の内面に設けられた雌ネジ部42を有している。後軸40の内周面には、後述の回転部材70と協働して筆記体16の出没動作を実現するとともに、後述の保持部材90及びロック部材80と協働して筆跡を消去する際に消去具15の軸方向daの移動の規制を実現するためのカム歯46及び係合溝50が設けられている。カム歯46及び係合溝50の詳細については後述する。前軸30の雄ネジ部36と後軸40の雌ネジ部42とが螺合することにより、前軸30と後軸40とが互いに結合される。後端キャップ47は、後軸40の後端部に嵌着されている。後端キャップ47は、後端に径方向drの内側へ向かって突出する内方突出部49を有している。内方突出部49は、ロック部材80及び保持部材90が係合溝50から後方へ外れることを防止する抜け止めの機能を有する。内方突出部49の形状及び寸法は、保持部材90の後述の第2突出部91が係合溝50から後方へ外れることがない形状及び寸法とされる。本実施形態では、後端キャップ47は、後方領域の外面に設けられたクリップ44を有している。なお、これに限られず、クリップ44は、後軸40に設けられてもよい。グリップ部材25は、使用者が筆記具10で筆記を行う際に、指でつかむことが意図されている。前軸30、後軸40及び後端キャップ47は、例えば樹脂で形成されており、グリップ部材25は、例えばゴムで形成される。
【0025】
筆記体16は、軸筒20内に出没可能に収容されている。筆記体16は、インキと、インキを収容する収容筒と、収容筒の前方の外面に設けられた第2係合部18と、第2係合部18の前方に設けられた筆記部17と、を有する。筆記体16が組み立てられた状態において、筆記体16の第2係合部18は、前軸30の第1係合部34よりも後方に位置しており、第1係合部34と第2係合部18との間には、コイルバネ12が圧縮状態で配置されている。このコイルバネ12は、筆記体16を軸筒20の軸方向da後方に付勢するためのものである。筆記体16の後端19は、後軸40内に設けられた回転部材70に当接して軸筒20の軸方向da後方への相対移動が規制されており、これにより、コイルバネ12の圧縮状態が維持される。
【0026】
インキとしては、ボールペンに使用可能なインキが特に制限なく使用され得る。一例として、インキとして熱変色性インキを使用することができる。熱変色性インキは、可逆熱変色性インキであってもよい。可逆熱変色性インキとしては、一例として、加熱により発色状態から消色状態へ変化し、冷却により消色状態から発色状態へ変化する加熱消色型の可逆熱変色性インキが使用され得る。
【0027】
次に、図1図3Bを参照して、筆記具10のロック機構60について説明する。図3Aは、筆記具10の一部の分解図であり、図3Bは、各部品を筆記具10の中心軸線Aを含む平面で切断して示す図である。
【0028】
本実施形態のロック機構60は、筆記体16の筆記部17を前軸30の開口部32から出没させるノック式の出没機構も有している。ロック機構60は、軸筒20(後軸40)に設けられたカム歯46及び係合溝50と、カム歯46及び係合溝50と係合する回転部材70と、係合溝50及び回転部材70と係合するロック部材80と、係合溝50及びロック部材80と係合する保持部材90と、を含んでいる。
【0029】
軸筒20(後軸40)の内周面には、前方に突出する鋸歯状の複数のカム歯46と、カム歯46間に形成され、回転部材70が係合する係合溝50と、が形成されている。回転部材70は、その外面に軸方向daに延びるとともに、カム溝と係合する複数の突条72を有している。突条72の後端には、軸方向da及び周方向dcに対して傾斜したカム面74が形成されている。
【0030】
係合溝50は、ロック部材80及び保持部材90の移動をガイドする機能を有している。とりわけ、係合溝50は、ロック部材80の後述の第1突出部82及び保持部材90の後述の第2突出部91と係合して、ロック部材80及び保持部材90の移動をガイドする。図5Aに示されているように、係合溝50は、軸方向daに延びる第1部分51と、第1部分51の後端部に接続されて後方に向かって軸方向daに延びるとともに第1部分51に対して周方向dcにずれて配置された第2部分52と、を有している。第1部分51の後端部は、保持部材90の第2突出部91をガイドするガイド面55を有する。図示された例では、ガイド面55は、軸方向da及び周方向dcに対して保持部材90の被ガイド面95と同じ方向に傾斜している。ガイド面55の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。第2部分52の前端部は、軸方向da及び周方向dcに対して保持部材90の第2突出部91の押圧面93と同じ方向に傾斜した受圧面56を有する。受圧面56の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。
【0031】
ロック部材80は、軸筒20内に軸方向daに移動可能に配置されている。とりわけ、ロック部材80は、後述するロック位置と非ロック位置との間を移動可能とされている。ロック部材80は、その前端に回転部材70のカム面74と係合するカム歯86を有している。また、ロック部材80は、その前方領域の外周面に軸筒20の係合溝50内を移動可能な第1突出部82を有している。とりわけ、第1突出部82は、係合溝50の第1部分51の内部を軸方向daに沿って移動可能である。ロック部材80の後方領域の外周面には、軸方向daに延びる複数の突条84が設けられている。
【0032】
保持部材90は、ロック部材80の後方に位置しており、消去具を保持する機能を有する。保持部材90は、その前端部の外周面に軸筒20の係合溝50内を移動可能な複数の第2突出部91を有している。とりわけ、第2突出部91は、係合溝50の第1部分51及び第2部分52の内部を移動可能である。第2突出部91の前端部は、軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した押圧面93を有している。押圧面93は、保持部材90に固定された消去具15で筆跡の消去を行う際に、消去具15を前方へ向けて押す力の作用により、係合溝50の受圧面56を押圧する。押圧面93の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。また、押圧面93の軸方向daに対する傾斜角度と、係合溝50の受圧面56の軸方向daに対する傾斜角度との差は、15度以下であることが好ましい。第2突出部91の後端部は、軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した被ガイド面95を有している。筆跡を消去する際に、消去具15が下を向くように使用者が筆記具10を保持すると、保持部材90は、重力の作用により軸方向daに沿って後方へ移動する。その後、被ガイド面95が係合溝50のガイド面55に沿ってガイドされることにより、保持部材90は、軸方向daに沿って後方にさらに移動するとともに周方向dcにも回転する。被ガイド面95の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。
【0033】
保持部材90は、前端に開口部96を有している。また、保持部材90の内周面には、軸方向daに延びるとともに前方側に向かって開口する複数の凹溝97が設けられている。開口部96の内径は、ロック部材80の突条84の突部の外径よりも大きい。したがって、突条84は、保持部材90の開口部96から保持部材90の内部に進入することができる。保持部材90の凹溝97を有する領域における溝部における内径は、ロック部材80の突条84を有する領域における突部の外径よりも大きい。また、保持部材90の凹溝97を有する領域における溝部以外の内径は、ロック部材80の突条84を有する領域における突部の外径よりも小さく、且つ、ロック部材80の突条84を有する領域における突部以外の外径よりも大きい。これにより、ロック部材80と保持部材90との周方向dcの相対位置(相対角度)によって、突条84の後方側の少なくとも一部が凹溝97内に進入できる場合と進入できない場合とがある。とりわけ本実施の形態では、ロック部材80がロック位置に位置しているときには、突条84の少なくとも一部が保持部材90の凹溝97内に位置し、ロック部材80が非ロック位置に位置しているときには、突条84は凹溝97内に位置しない。また、保持部材90の後部領域の内周面には、消去具15を保持するための保持部99が形成されている。消去具15は、保持部材90の保持部99に対して回動不能且つ前後動不能に保持される。
【0034】
本実施形態の消去具15は、インキなどによる筆跡を消去するための部材である。インキが熱変色性インキである場合、消去具15は、筆跡が形成された紙等の被筆記面を摩擦して、筆跡を形成するインキを摩擦熱により加熱する機能を有する摩擦部材とすることができる。この場合、消去具(摩擦部材)15は、例えば弾性材料から形成することができ、保持部材90の保持部99に、圧入、係合、螺合、嵌合、接着、2色成形等によって固定され得る。また、インキが熱変色性を有しないインキである場合には、消去具15は、一例として、筆跡が形成された紙等の被筆記面を摩擦することにより当該筆跡を削り取る部材、例えば砂消しゴム、であってもよい。
【0035】
次に、筆記具10における筆記体16の出没動作について説明する。筆記具10は、図1に示されている非ノック状態と、図2に示されているノック状態と、を交互に切り換えることができるように構成されている。図1に示されている非ノック状態では、コイルバネ12の弾発力により、筆記体16が後方に向かって付勢され、これにより、筆記体16、回転部材70及びロック部材80は、互いに接触している。また、ロック部材80及び保持部材90は、保持部材90の自重により互いに接触している。このとき、回転部材70の突条72は、後軸40の係合溝50内に位置している。この状態で使用者が保持部材90に固定された消去具15を前方に向かって押し込むと、筆記体16、回転部材70、ロック部材80及び保持部材90の全体が前方に向かって移動し、筆記体16の筆記部17が前軸30の開口部32から前方へ突出する。このとき、回転部材70の突条72は、後軸40の係合溝50から前方に外れる。回転部材70はコイルバネ12の付勢力により後方に付勢されているので、回転部材70の突条72はロック部材80のカム歯86に押付けられる。そして、突条72のカム面74がカム歯86に沿って滑ることにより、回転部材70が周方向dcに所定角度だけ回転する。
【0036】
使用者が消去具15に対する押圧力を弱める又は解除すると、コイルバネ12の付勢力により、回転部材70が引き続き後方に移動し、突条72のカム面74が後軸40のカム歯46に当接する。回転部材70がさらに後方に移動すると、突条72のカム面74がカム歯46に沿って滑ることにより、回転部材70が周方向dcに所定角度だけさらに回転する。回転部材70は、突条72のカム面74の後端(後方の先端)がカム歯46の最奥部(最後部)に当接して停止する。これにより、筆記具10は、図2に示されているような、筆記体16の筆記部17が前軸30の開口部32から前方へ突出したノック状態になる。ノック状態において、筆記部17により紙等の被筆記面に対して筆記することが可能になる。なお、ノック状態では、後軸40のカム歯46により回転部材70の後方への移動が規制されているので、ロック部材80及び保持部材90には、コイルバネ12の付勢力は作用しない。すなわち、ノック状態では、ロック部材80及び保持部材90は、重力の作用によって軸筒20内を軸方向daに移動可能である。
【0037】
ノック状態において、使用者が保持部材90に固定された消去具15を前方に向かって押し込むと、筆記体16、回転部材70、ロック部材80及び保持部材90の全体が前方に向かって移動する。このとき、回転部材70の突条72は、後軸40のカム歯46から前方に外れる。回転部材70はコイルバネ12の付勢力により後方に付勢されているので、回転部材70の突条72はロック部材80のカム歯86に押付けられる。そして、突条72のカム面74がカム歯86に沿って滑ることにより、回転部材70が周方向dcに所定角度だけ回転し、これにより、回転部材70の突条72が後軸40の係合溝50内に進入する。コイルバネ12の付勢力により、回転部材70は、後方へ移動して突条72の後端(後方の先端)が係合溝50に設けられた段部58に当接したところで停止する。このとき、筆記体16の筆記部17は前軸30の開口部32から内部に没入する。これにより、筆記具10は、図1に示されているような非ノック状態になる。なお、非ノック状態においても、係合溝50の段部58により回転部材70の後方への移動が規制されているので、ロック部材80及び保持部材90には、コイルバネ12の付勢力は作用しない。すなわち、非ノック状態においても、ロック部材80及び保持部材90は、重力の作用によって軸筒20内を軸方向daに移動可能である。
【0038】
次に、筆記具10における消去具15及び保持部材90のロック動作の一例について説明する。図4は、図2に示されたノック状態の筆記具10を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。
【0039】
筆跡を消去する際には、図4に示されているように、筆記具10の消去具15が紙等の被筆記面に当接するように、筆記具10を反転させる。とりわけ、消去具15が下を向くように筆記具10を保持する。図4に示されているように、消去具15を下方に向けると、ロック部材80、保持部材90及び消去具15は、重力の作用により後方に移動する。消去具15は、軸筒20の後端から後方へ突出して停止し、軸方向daの前方への移動が規制される。本実施形態では、ロック部材80がロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が規制され、ロック部材80がロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が許容される。換言すると、保持部材90の軸方向daの移動が規制されているときのロック部材80の位置がロック位置であり、保持部材90の軸方向daの移動が許容されているときのロック部材80の位置が非ロック位置であるともいえる。
【0040】
このロック動作について、図5A図7Bを参照して詳述する。図5Aは、ロック部材80が非ロック位置にあるときの、軸筒20の係合溝50とロック部材80の第1突出部82及び保持部材90の第2突出部91との位置関係を示す図であり、図5Bは、ロック部材80の突条84と保持部材90の凹溝97との位置関係を示す図である。図6Aは、ロック部材80が非ロック位置にあるときの、係合溝50と第1突出部82及び第2突出部91との位置関係を示す図であり、図6Bは、突条84と凹溝97との位置関係を示す図である。図7Aは、ロック部材80がロック位置にあるときの、係合溝50と第1突出部82及び第2突出部91との位置関係を示す図であり、図7Bは、突条84と凹溝97との位置関係を示す図である。図5A図7Bは、いずれも、係合溝50、第1突出部82及び第2突出部91を、軸筒20の外側から見た図である。
【0041】
図5Aに示されているように、ロック部材80が非ロック位置にある場合には、ロック部材80の第1突出部82及び保持部材90の第2突出部91は、いずれも係合溝50の第1部分51内に位置している。また、図5Bに示されているように、ロック部材80の突条84と保持部材90の凹溝97とは、互いに周方向dcにずれて位置しており、突条84は、凹溝97内に進入していない。図5A及び図5Bに示す状態では、保持部材90の軸方向daの移動は許容されている。
【0042】
重力の作用によりロック部材80及び保持部材90が係合溝50の第1部分51に沿ってさらに後方へ移動すると、図6Aに示されているように、保持部材90の第2突出部91が係合溝50の第1部分51の後端に到達する。図6Bに示されているように、ロック部材80の突条84と保持部材90の凹溝97とは、互いに周方向dcにずれて位置しており、突条84は、凹溝97内に進入しない。図6A及び図6Bに示す状態では、保持部材90の軸方向daの移動は許容されている。したがって、図6A及び図6Bに示す状態でも、ロック部材80は非ロック位置にあるといえる。
【0043】
図6Aに示した状態において、重力の作用により、保持部材90は、さらに軸方向daの後方に移動する。ここで、保持部材90の第2突出部91は、その後端部に軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した被ガイド面95を有する。また、係合溝50の第1部分51は、その後端部に、第2突出部91をガイドするガイド面55を有する。とりわけ、図示された例では、ガイド面55は、軸方向da及び周方向dcに対して保持部材90の被ガイド面95と同じ方向に傾斜している。これにより、第2突出部91の被ガイド面95が係合溝50のガイド面55に沿ってガイドされる。保持部材90は、軸方向daに沿って後方にさらに移動するとともに周方向dc(中心軸線A周り)にも回転し、これにより第2突出部91は、係合溝50の第2部分52に位置するようになる(図7A参照)。
【0044】
保持部材90が周方向dcに回転することにより、図7Bに示されているように、ロック部材80の突条84と保持部材90の凹溝97との周方向dcの位置が整合する。すなわち、突条84と凹溝97とが一直線となるように軸方向daに沿って配列される。これにより、突条84は凹溝97内に進入可能になり、突条84の後端(後方の先端)が凹溝97の後端(後方の最奥部)に当接するまで、ロック部材80が重力の作用により後方に移動して、ロック位置に位置する。図示された例では、突条84の後端が凹溝97の後端に当接すると、ロック部材80は、それ以上後方へは移動しない。すなわち、突条84の後端が凹溝97の後端に当接した状態で、ロック部材80は、当該ロック部材80の軸方向daの可動範囲における後端に位置する。
【0045】
突条84が凹溝97内に進入することにより、保持部材90の周方向dcの回転が規制される。したがって、消去具15及び保持部材90が前方へ向かって押圧されても、保持部材90の第2突出部91が係合溝50の第2部分52から第1部分51へ移動することも規制される。この場合、消去具15及び保持部材90を前方へ向かって押圧する力により、第2突出部91の押圧面93が係合溝50の第2部分52の受圧面56を押圧する。そして、受圧面56が押圧面93を支持することにより、消去具15及び保持部材90の軸方向daに沿った前方への移動が規制される。なお、突条84の後端が凹溝97の後端に当接する位置のみならず、突条84の少なくとも一部が凹溝97内に位置し、これにより保持部材90の周方向dcの回転が規制され、消去具15及び保持部材90の軸方向daに沿った前方への移動が規制される状態にあれば、ロック部材80はロック位置に位置するといえる。
【0046】
図7A及び図7Bに示された状態では、消去具15及び保持部材90の軸方向daの移動が規制されている。したがって、消去具15を用いて筆跡を消去するために消去具15を紙等の被筆記面に押付けても、消去具15が軸筒20内に移動することが抑制されるので、筆跡の消去を容易に行うことができる。
【0047】
また、図7A及び図7Bに示された状態では、消去具15及び保持部材90の周方向dcの回転も規制されている。したがって、筆跡を消去する際に、消去具15が周方向dcに回転することも抑制されるので、筆跡の消去をより容易に行うことができる。
【0048】
図4に示された状態から、消去具15が上を向くように(筆記部17が下を向くように)筆記具10を反転させると、ロック部材80は自重により前方へ移動する。これにともなって、ロック部材80の突条84は、保持部材90の凹溝97から抜け出る。これにより、保持部材90は周方向dcに回転することが可能になる。このとき、保持部材90の自重により保持部材90の第2突出部91の押圧面93が係合溝50の第2部分52の受圧面56に沿ってガイドされ、保持部材90が周方向dcに回転して第2突出部91が係合溝50の第1部分51内へ移動する。ロック部材80、保持部材90及び消去具15は、自重によってさらに前方へ移動し、図2に示した状態に戻る。したがって、筆記部17が下を向くように筆記具10を反転させるだけで、消去具15及び保持部材90の軸方向daの移動の規制が解除される。
【0049】
本実施の形態では、消去具15が下を向くように筆記具10を保持するだけで、消去具15の軸方向daの移動が規制され、消去具15が上を向くように筆記具10を保持するだけで、消去具15の軸方向daの移動の規制が解除される。したがって、消去具15の軸方向daの移動の規制及び解除を容易に行うことができる。
【0050】
ここでは、ノック状態における保持部材90の移動規制動作の例について説明したが、本実施形態では、図1に示した非ノック状態においても、保持部材90の軸方向daの移動及び周方向dcの回転も規制される。この場合のロック部材80及び保持部材90の具体的な動作は、上述したノック状態の場合と同様であるので、説明は省略する。
【0051】
なお、筆跡の消去は、必ずしも、図4に示したように筆記具10の中心軸線Aが鉛直方向と平行になる状態で行われる必要はない。一例として、消去具15が下方に位置して、中心軸線Aが鉛直方向に対して0度以上60度以下の角度を有した方向に延びるように筆記具10が保持されているときに、ロック部材80がロック位置に移動可能になるように、筆記具10が構成されてもよい。例えば、ロック部材80、保持部材90及び消去具15の材料又は寸法若しくは表面の粗さ等を調整することにより、中心軸線Aが鉛直方向に対して所望の角度範囲内にあるときにロック部材80がロック位置に移動可能になるようにすることができる。
【0052】
第2実施形態
図8は、本発明による第2実施形態を説明するための図であって、ロック機構60が組み込まれた筆記具110を非ノック状態で示す縦断面図であり、図9は、図8の筆記具110をノック状態で示す縦断面図であり、図10Aは、ロック機構60の分解図であり、図10Bは、ロック機構60を構成する各部品をその断面で示す図であり、図11は、図9の筆記具110を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。第2実施形態及び第3実施形態について、以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した第1実施形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
【0053】
本実施形態では、筆記具110がいわゆるサイドノック式のボールペンである例について説明する。筆記具110は、軸筒20と、筆跡を形成するための筆記体16と、筆跡を消去するための消去具15と、クリップ部材144と、筆記体16の出没機構をなすとともに、筆跡を消去する際に消去具15の軸方向daの移動を規制するロック機構60と、を備えている。
【0054】
クリップ部材144は、クリップ本体145と、クリップ支持部146と、クリップ本体145とクリップ支持部146とを接続する接続部147と、を有している。本実施形態では、クリップ本体145が、ノック時に使用者によって操作される操作部としても機能する。クリップ支持部146は、軸筒20内に配置され、接続部147を介してクリップ本体145を支持する部材である。クリップ支持部146は、その前端に回転部材70のカム面74と係合するカム歯148を有している。
【0055】
軸筒20には、軸方向daに延び軸筒20の壁部を貫通するスライド孔48が設けられている。スライド孔48は、後軸40の後方領域と後端キャップ47の前端部とに跨って設けられている。図示された例では、クリップ部材144の接続部147がスライド孔48を通って軸筒20内から軸筒20外まで延びている。クリップ部材144の軸方向daの移動範囲は、スライド孔48の前端及び後端により画定され得る。
【0056】
筆記体16に収容されるインキとしては、例えば、第1実施形態と同様の熱変色性インキを用いることができる。この場合、消去具15としては、筆跡が形成された紙等の被筆記面を摩擦して、筆跡を形成するインキを摩擦熱により加熱する機能を有する摩擦部材を用いることができる。
【0057】
次に、筆記具110における筆記体16の出没動作について説明する。筆記具110は、図8に示されている非ノック状態と、図9に示されているノック状態と、を交互に切り換えることができるように構成されている。図8に示されている非ノック状態では、コイルバネ12の弾発力により、筆記体16が後方に向かって付勢され、これにより、筆記体16、回転部材70及びクリップ部材144(クリップ支持部146)は、互いに接触している。このとき、回転部材70の突条72の後端が係合溝50の段部58に当接することにより、クリップ部材144はそれ以上後方へは移動しない。なお、これに限られず、クリップ部材144の接続部147の後端がスライド孔48の後端に当接することにより、クリップ部材144がそれ以上後方へ移動しない構成としてもよい。この状態で使用者がクリップ本体145を前方へ向けて押圧してスライドさせると、筆記体16、回転部材70及びクリップ部材144が前方に向かって移動し、筆記体16の筆記部17が前軸30の開口部32から前方へ突出する。このとき、回転部材70の突条72は、後軸40の係合溝50から前方に外れる。回転部材70はコイルバネ12の付勢力により後方に付勢されているので、回転部材70の突条72はクリップ支持部146のカム歯148に押付けられる。そして、突条72のカム面74がカム歯148に沿って滑ることにより、回転部材70が周方向dcに所定角度だけ回転する。
【0058】
使用者がクリップ本体145に対する押圧力を弱める又は解除すると、コイルバネ12の付勢力により、回転部材70が引き続き後方に移動し、突条72のカム面74が後軸40のカム歯46に当接する。回転部材70がさらに後方に移動すると、突条72のカム面74がカム歯46に沿って滑ることにより、回転部材70が周方向dcに所定角度だけさらに回転する。回転部材70は、突条72のカム面74の後端(後方の先端)がカム歯46の最奥部(最後部)に当接して停止する。これにより、筆記具110は、図9に示されているようなノック状態になる。
【0059】
ノック状態において、使用者がクリップ本体145を前方に向かってスライドさせると、筆記体16、回転部材70及びクリップ部材144が前方に向かって移動する。このとき、回転部材70の突条72は、後軸40のカム歯46から前方に外れる。回転部材70はコイルバネ12の付勢力により後方に付勢されているので、回転部材70の突条72はクリップ支持部146のカム歯148に押付けられる。そして、突条72のカム面74がカム歯148に沿って滑ることにより、回転部材70が周方向dcに所定角度だけ回転し、これにより、回転部材70の突条72が後軸40の係合溝50内に進入する。コイルバネ12の付勢力により、回転部材70は、突条72の後端が係合溝50の段部58に当接したところで停止する。このとき、筆記体16の筆記部17は前軸30の開口部32から内部に没入する。これにより、筆記具110は、図8に示されているような非ノック状態になる。
【0060】
図8及び図9に示されているように、本実施形態の筆記具110では、消去具15を上方に向けた状態では、ノック状態でも非ノック状態でも、消去具15の後端は、軸筒20の後端から後方へは突出しない。換言すると、消去具15の後端は、軸方向daに沿った位置において、軸筒20の後端と一致するか、軸筒20の後端よりも前方に位置する。これにより、消去具15が汚れたり破損したりすることを抑制することが可能になる。
【0061】
筆跡を消去する際には、図11に示されているように、筆記具110の消去具15が紙等の被筆記面に当接するように、筆記具110を反転させる。とりわけ、消去具15が下を向くように筆記具110を保持する。図11に示されているように、消去具15を下方に向けると、クリップ部材144、ロック部材80、保持部材90及び消去具15は、重力の作用により後方に移動する。このうち、クリップ部材144は、クリップ支持部146がスライド孔48の後端に当接した状態で停止する。消去具15は、軸筒20の後端から後方へ突出して停止し、軸方向daの前方への移動が規制される。本実施形態においても、ロック部材80がロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が規制され、ロック部材80がロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が許容される。換言すると、保持部材90の軸方向daの移動が規制されているときのロック部材80の位置がロック位置であり、保持部材90の軸方向daの移動が許容されているときのロック部材80の位置が非ロック位置である。
【0062】
なお、筆記具110における消去具15及び保持部材90のロック動作については、上記の第1実施形態において図5A図7Bを参照して説明した例と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0063】
図11に示された状態から、消去具15が上を向くように(筆記部17が下を向くように)筆記具110を反転させると、ロック部材80及びクリップ部材144は自重により前方へ移動する。これにともなって、ロック部材80の突条84は、保持部材90の凹溝97から抜け出る。これにより、保持部材90は周方向dcに回転することが可能になる。このとき、保持部材90の自重により保持部材90の第2突出部91の押圧面93が係合溝50の第2部分52の受圧面56に沿ってガイドされ、保持部材90が周方向dcに回転して第2突出部91が係合溝50の第1部分51内へ移動する。ロック部材80、保持部材90及び消去具15は、自重によってさらに前方へ移動し、図9に示した状態に戻る。
【0064】
第3実施形態
図12は、本発明による第3実施形態を説明するための図であって、ロック機構60が組み込まれた筆記具210を示す縦断面図であり、図13Aは、ロック機構60の分解図であり、図13Bは、ロック機構60を構成する各部品をその断面で示す図であり、図14は、図12の筆記具210を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。
【0065】
本実施形態では、筆記具210がシャープペンシルである例について説明する。筆記具210は、軸筒20と、筆跡を消去するための消去具215と、筆跡を消去する際に消去具215の軸方向daの移動を規制するロック機構60と、キャップ252と、芯タンク254と、チャック256と、チャックスプリング258と、締具260と、を備えている。本実施形態の消去具215は、芯290で形成された筆跡を消去し得る消しゴムである。キャップ252は、保持部材90に保持された消去具215を覆うように保持部材90に対して取り付けられている。
【0066】
軸筒20は、軸筒本体222と、先口230と、後軸240と、を有している。先口230は、軸筒本体222の前方にネジ結合等により取り付けられている。先口230は、その先端(前端)に先端開口部232が設けられている。芯290は、先端開口部232を通って前方に突出する。後軸240は、軸筒本体222の後方に取り付けられている。後軸240は、内周面に設けられた内方突出部49と、外面に設けられたクリップ244と、を有している。軸筒20の内部には、芯290を収容する芯タンク254が配置されている。チャック256は、前端部にチャック頭部259を有しており、チャック頭部259は、周方向dcに分割されている。チャック頭部259の径方向drの外側には、チャック頭部259を取り囲むように締具260が配置されている。芯タンク254と、芯タンク254の前方に設けられた段部262との間には、チャックスプリング258が圧縮状態で配置されている。これにより、芯タンク254は、後方に向けて付勢されている。芯タンク254の後端部は、ロック部材80の前端に設けられた凹部内に進入することが可能である。
【0067】
ロック機構60は、軸筒20(軸筒本体222)に設けられた係合溝50と、係合溝50と係合するロック部材80と、係合溝50及びロック部材80と係合する保持部材90と、を含んでいる。
【0068】
芯290を先端開口部232から繰り出す場合には、チャックスプリング258の弾発力に抗してキャップ252を筆記具210の前方に向けて押圧する。これにより、キャップ252、保持部材90、ロック部材80及び芯タンク254が前方に移動する。このとき、芯タンク254に固定されたチャック256は芯290をつかんだまま前方に移動し、締具260が先口230の内面に当接して移動を停止し、締具260がチャック頭部259から外れてチャック頭部259が拡開するまで芯290が繰り出される。キャップ252の押圧を解除すると、チャックスプリング258の弾発力により芯タンク254が後方に移動し、チャック256が後方に移動し、締具260が停止してチャック頭部259に嵌り、チャック頭部259が閉じて芯290が固定される。
【0069】
筆跡を消去する際には、図14に示されているように、筆記具210の消去具215が紙等の被筆記面に当接するように、筆記具210を反転させる。とりわけ、消去具215が下を向くように筆記具210を保持する。図14に示されているように、消去具215を下方に向けると、ロック部材80、保持部材90及び消去具215は、重力の作用により後方に移動する。消去具215は、軸筒20の後端から後方へ突出して停止し、軸方向daの前方への移動が規制される。本実施形態においても、ロック部材80がロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が規制され、ロック部材80がロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が許容される。換言すると、保持部材90の軸方向daの移動が規制されているときのロック部材80の位置がロック位置であり、保持部材90の軸方向daの移動が許容されているときのロック部材80の位置が非ロック位置である。
【0070】
なお、筆記具210における消去具215及び保持部材90のロック動作については、上記の第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0071】
図14に示された状態から、消去具215が上を向くように(先口230が下を向くように)筆記具210を反転させると、ロック部材80は自重により前方へ移動する。これにともなって、ロック部材80の突条84は、保持部材90の凹溝97から抜け出る。これにより、保持部材90は周方向dcに回転することが可能になる。このとき、保持部材90の自重により保持部材90の第2突出部91の押圧面93が係合溝50の第2部分52の受圧面56に沿ってガイドされ、保持部材90が周方向dcに回転して第2突出部91が係合溝50の第1部分51内へ移動する。ロック部材80、保持部材90及び消去具215は、自重によってさらに前方へ移動し、図12に示した状態に戻る。
【0072】
なお、上述した実施形態に対して様々な変更を加えることが可能である。
【0073】
上述の各実施形態では、ロック部材80の外周面に複数の突条84が設けられ、保持部材90の内周面に複数の凹溝97が設けられた例について説明したが、突条及び凹溝の形成箇所はこれに限られない。例えば、ロック部材80の外周面に複数の凹溝が設けられ、保持部材90の内周面に複数の突条が設けられてもよい。この場合においても、第1実施形態で説明したように、ロック部材80が非ロック位置に位置している場合には、凹溝の位置と突条の位置が周方向dcにずれ、ロック部材80がロック位置に位置している場合には、凹溝の位置と突条の位置が周方向dcに一致するようにすることが好ましい。
【0074】
また、上述の各実施形態では、係合溝50が軸筒20(後軸40)の内周面に設けられ、第2突出部91が保持部材90に設けられた例について説明したが、係合溝及び第2突出部の形成箇所はこれに限られない。例えば、保持部材90の外周面に係合溝が設けられ、軸筒20の内周面に第2突出部が設けられてもよい。
【0075】
この場合の好適な構成は、
軸筒は、軸方向に延びる摺動溝を内周面に有し、
保持部材は、係合溝を外周面に有し、
前記係合溝は、軸方向に延びる第1部分と、前記第1部分の前端部に接続されて前方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第2部分と、を有し、
前記ロック部材は、前記摺動溝の内部を移動可能な第1突出部を有し、
前記軸筒は、前記第1部分及び前記第2部分の内部を移動可能な第2突出部を内周面に有する
である。
【符号の説明】
【0076】
10 筆記具
12 コイルバネ
15 消去具(摩擦部材)
16 筆記体
17 筆記部
18 第2係合部
19 後端
20 軸筒
25 グリップ部材
30 前軸
32 開口部
34 第1係合部
36 雄ネジ部
40 後軸
42 雌ネジ部
44 クリップ
46 カム歯
47 後端キャップ
48 スライド孔
49 内方突出部
50 係合溝
51 第1部分
52 第2部分
55 ガイド面
56 受圧面
58 段部
60 ロック機構
70 回転部材
72 突条
74 カム面
80 ロック部材
82 第1突出部
84 突条
86 カム歯
90 保持部材
91 第2突出部
93 押圧面
95 被ガイド面
96 開口部
97 凹溝
99 保持部
110 筆記具
144 クリップ部材
145 クリップ本体
146 クリップ支持部
147 接続部
148 カム歯
210 筆記具
215 消去具(消しゴム)
222 軸筒本体
230 先口
232 先端開口部
240 後軸
244 クリップ
252 キャップ
254 芯タンク
256 チャック
258 チャックスプリング
259 チャック頭部
260 締具
262 段部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14