(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 29/02 20060101AFI20231101BHJP
B43K 3/00 20060101ALI20231101BHJP
B43K 24/03 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B43K29/02 D
B43K3/00 Z
B43K29/02 A
B43K29/02 F
B43K24/03
(21)【出願番号】P 2019194690
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】梶原 巧
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-068386(JP,U)
【文献】特開2016-107615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 29/02
B43K 3/00
B43K 24/00-24/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、
前記軸筒内に配置された筆記体と、
前記筆記体の後方に前記軸筒の軸方向に移動可能に配置されたロック部材と、
前記筆記体と前記ロック部材との間に配置されたスライド部材と、を備え、
前記ロック部材が第1ロック位置に位置するときに、前記スライド部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記第1ロック位置よりも後側の非ロック位置に位置するときに、前記スライド部材の軸方向の移動が許容される、
筆記具であって、
前記軸筒は、係合溝を内周面に有し、
前記係合溝は、軸方向に延びる第1部分と、前記第1部分の前端部に接続されて前方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第2部分と、を有し、
前記ロック部材は、前記第1部分の内部を移動可能な第1突出部を有し、
前記スライド部材は、前記第1部分及び前記第2部分の内部を移動可能な第2突出部を有する、筆記具。
【請求項2】
前記ロック部材が前記第1ロック位置に位置するときに、前記第2突出部が前記第2部分の内部に位置する、請求項
1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記第2突出部の後端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第1押圧面を有し、
前記第2部分の後端部は、軸方向及び周方向に対して前記第1押圧面と同じ方向に傾斜した第1受圧面を有する、請求項
1又は
2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記第2突出部の前端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第1被ガイド面を有し、
前記第1部分の前端部は、軸方向及び周方向に対して前記第1被ガイド面と同じ方向に傾斜した第1ガイド面を有する、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項5】
軸筒と、
前記軸筒内に配置された筆記体と、
前記筆記体の後方に前記軸筒の軸方向に移動可能に配置されたロック部材と、
前記筆記体と前記ロック部材との間に配置されたスライド部材と、を備え、
前記ロック部材が第1ロック位置に位置するときに、前記スライド部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記第1ロック位置よりも後側の非ロック位置に位置するときに、前記スライド部材の軸方向の移動が許容される、筆記具であって、
前記ロック部材は、前方部分に軸方向に延びる第1突条を有し、
前記スライド部材は、軸方向に延びる第1凹溝を内周面に有し、
前記ロック部材が前記第1ロック位置に位置しているときに、前記第1突条の少なくとも一部が前記第1凹溝内に位置し、
前記ロック部材が前記非ロック位置に位置しているときに、前記第1突条が前記第1凹溝内に位置しない
、筆記具。
【請求項6】
前記第1ロック位置は、前記ロック部材の軸方向の可動範囲における前端である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項7】
前記ロック部材の後方に位置し、摩擦部材を保持する保持部材をさらに備え、
前記ロック部材が第2ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記第2ロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が許容される、請求項
5又は6に記載の筆記具。
【請求項8】
前記ロック部材の後方に位置し、摩擦部材を保持する保持部材をさらに備え、
前記ロック部材が第2ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記第2ロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が許容される、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項9】
前記係合溝は、前記第1部分の後端部に接続されて後方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第3部分と、を有し、
前記保持部材は、前記第1部分及び前記第3部分の内部を移動可能な第3突出部を有する、請求項
8に記載の筆記具。
【請求項10】
前記ロック部材が前記第2ロック位置に位置するときに、前記第3突出部が前記第3部分の内部に位置する、請求項
9に記載の筆記具。
【請求項11】
前記第3突出部の前端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第2押圧面を有し、
前記第3部分の前端部は、軸方向及び周方向に対して前記第2押圧面と同じ方向に傾斜した第2受圧面を有する、請求項9
又は10に記載の筆記具。
【請求項12】
前記第3突出部の後端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第2被ガイド面を有し、
前記第1部分の後端部は、軸方向及び周方向に対して前記第2被ガイド面と同じ方向に傾斜した第2ガイド面を有する、請求項9~
11のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項13】
前記ロック部材は、後方部分に軸方向に延びる第2突条を有し、
前記保持部材は、軸方向に延びる第2凹溝を内周面に有し、
前記ロック部材が前記第2ロック位置に位置しているときに、前記第2突条の少なくとも一部が前記第2凹溝内に位置し、
前記ロック部材が前記非ロック位置に位置しているときに、前記第2突条が前記第2凹溝内に位置しない、請求項
8~
12のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項14】
前記第2ロック位置は、前記ロック部材の軸方向の可動範囲における後端である、請求項
7~
12のいずれか一項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペン等の筆記具において、出没式の筆記体を有するものが利用されている。
【0003】
特許文献1には、先端に書記部の出入のための軸孔を開け後端に盲孔を有する螺子栓を螺着した軸筒にインク管を収納し、且つインク管に摺動自在に錘管を遊嵌し、錘管の摺動で書記部が軸孔より出入する筆記具が開示されている。インク管の後端外周にはリングが嵌合又は螺着されている。この筆記具では、ペン先側を下にすると、錘管の重みによりインク管がペン先側に移動し、書記部が軸孔から突出する。このとき、リングが盲孔から外れることで、書記部が後端側に押されても、リングが螺子栓における盲孔の周囲の部分に当接することにより、書記部の軸筒内への没入が妨げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重力を用いて筆記体を出没させる筆記具においては、筆記体を突出させる際には筆記体の前方への移動がスムーズに行われるとともに、筆記体を没入させる際には筆記体の後方への移動がスムーズに行われることが望まれている。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、重力を用いて筆記体を出没させる筆記具において、筆記体のスムーズな出没動作を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による筆記具は、
軸筒と、
前記軸筒内に配置された筆記体と、
前記筆記体の後方に前記軸筒の軸方向に移動可能に配置されたロック部材と、
前記筆記体と前記ロック部材との間に配置されたスライド部材と、を備え、
前記ロック部材が第1ロック位置に位置するときに、前記スライド部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記第1ロック位置よりも後側の非ロック位置に位置するときに、前記スライド部材の軸方向の移動が許容される。
【0008】
本発明による筆記具において、
前記軸筒は、係合溝を内周面に有し、
前記係合溝は、軸方向に延びる第1部分と、前記第1部分の前端部に接続されて前方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第2部分と、を有し、
前記ロック部材は、前記第1部分の内部を移動可能な第1突出部を有し、
前記スライド部材は、前記第1部分及び前記第2部分の内部を移動可能な第2突出部を有してもよい。
【0009】
本発明による筆記具において、
前記ロック部材が前記第1ロック位置に位置するときに、前記第2突出部が前記第2部分の内部に位置してもよい。
【0010】
本発明による筆記具において、
前記第2突出部の後端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第1押圧面を有し、
前記第2部分の後端部は、軸方向及び周方向に対して前記第1押圧面と同じ方向に傾斜した第1受圧面を有してもよい。
【0011】
本発明による筆記具において、
前記第2突出部の前端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第1被ガイド面を有し、
前記第1部分の前端部は、軸方向及び周方向に対して前記第1被ガイド面と同じ方向に傾斜した第1ガイド面を有してもよい。
【0012】
本発明による筆記具において、
前記ロック部材は、前方部分に軸方向に延びる第1突条を有し、
前記スライド部材は、軸方向に延びる第1凹溝を内周面に有し、
前記ロック部材が前記第1ロック位置に位置しているときに、前記第1突条の少なくとも一部が前記第1凹溝内に位置し、
前記ロック部材が前記非ロック位置に位置しているときに、前記第1突条が前記第1凹溝内に位置しなくてもよい。
【0013】
本発明による筆記具において、
前記第1ロック位置は、前記ロック部材の軸方向の可動範囲における前端であってもよい。
【0014】
本発明による筆記具において、
前記ロック部材の後方に位置し、摩擦部材を保持する保持部材をさらに備え、
前記ロック部材が第2ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が規制され、前記ロック部材が前記第2ロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、前記保持部材の軸方向の移動が許容されてもよい。
【0015】
本発明による筆記具において、
前記係合溝は、前記第1部分の後端部に接続されて後方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第3部分と、を有し、
前記保持部材は、前記第1部分及び前記第3部分の内部を移動可能な第3突出部を有してもよい。
【0016】
本発明による筆記具において、
前記ロック部材が前記第2ロック位置に位置するときに、前記第3突出部が前記第3部分の内部に位置してもよい。
【0017】
本発明による筆記具において、
前記第3突出部の前端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第2押圧面を有し、
前記第3部分の前端部は、軸方向及び周方向に対して前記第2押圧面と同じ方向に傾斜した第2受圧面を有してもよい。
【0018】
本発明による筆記具において、
前記第3突出部の後端部は、軸方向及び周方向に対して傾斜した第2被ガイド面を有し、
前記第1部分の後端部は、軸方向及び周方向に対して前記第2被ガイド面と同じ方向に傾斜した第2ガイド面を有してもよい。
【0019】
本発明による筆記具において、
前記ロック部材は、後方部分に軸方向に延びる第2突条を有し、
前記保持部材は、軸方向に延びる第2凹溝を内周面に有し、
前記ロック部材が前記第2ロック位置に位置しているときに、前記第2突条の少なくとも一部が前記第2凹溝内に位置し、
前記ロック部材が前記非ロック位置に位置しているときに、前記第2突条が前記第2凹溝内に位置しなくてもよい。
【0020】
本発明による筆記具において、
前記第2ロック位置は、前記ロック部材の軸方向の可動範囲における後端であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、重力を用いて筆記体を出没させる筆記具において、筆記体のスムーズな出没動作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明による実施形態を説明するための図であって、ロック機構が組み込まれた筆記具を没入状態で示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の筆記具を突出状態で示す縦断面図である。
【
図4B】
図4Bは、
図4Aに対応する図であって、各部品を筆記具の中心軸線を含む平面で切断して示す図である。
【
図5A】
図5Aは、ロック部材が非ロック位置にあるときの、軸筒の係合溝とロック部材の第1突出部、スライド部材の第2突出部及び保持部材との第2突出部の位置関係を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、
図5Aに対応して、ロック部材が非ロック位置にあるときの、ロック部材の第1突条とスライド部材の第1凹溝と保持部材の第2凹溝との位置関係を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、ロック部材が非ロック位置にあるときの、係合溝と第1突出部、第2突出部及び第3突出部との位置関係を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、
図6Aに対応して、ロック部材が非ロック位置にあるときの、第1突条と第1凹溝と第2凹溝との位置関係を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、ロック部材が第1ロック位置にあるときの、係合溝と第1突出部、第2突出部及び第3突出部との位置関係を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、
図7Aに対応して、ロック部材が第1ロック位置にあるときの、第1突条と第1凹溝と第2凹溝との位置関係を示す図である。
【
図8】
図8は、筆記具を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。
【
図9A】
図9Aは、ロック部材が非ロック位置にあるときの、軸筒の係合溝とロック部材の第1突出部及び保持部材の第2突出部との位置関係を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、
図5Aに対応して、ロック部材が非ロック位置にあるときの、ロック部材の突条と保持部材の凹溝との位置関係を示す図である。
【
図10A】
図10Aは、ロック部材が非ロック位置にあるときの、係合溝と第1突出部及び第2突出部との位置関係を示す図である。
【
図10B】
図10Bは、
図10Aに対応して、ロック部材が非ロック位置にあるときの、突条と凹溝との位置関係を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、ロック部材がロック位置にあるときの、係合溝と第1突出部及び第2突出部との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0024】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0025】
本明細書では、筆記具の中心軸線Aが延びる方向(長手方向、縦断面図における上下方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向dr、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向dcとする。また、軸方向daに沿って、筆記する際に紙面等の被筆記面に近接する側を前方とし、被筆記面から離間する側を後方とする。すなわち、ペン先側が前方であり、ペン先と反対側が後方である。
【0026】
図1は、本発明による実施形態を説明するための図であって、ロック機構60が組み込まれた筆記具10を没入状態で示す縦断面図であり、
図2は、
図1の筆記具10を突出状態で示す縦断面図である。
【0027】
本実施形態では、筆記具10がボールペンである例について説明する。筆記具10は、軸筒20と、筆跡を形成するための筆記体16と、筆跡を摩擦するための摩擦部材15と、筆記体16の突出状態において筆記体16の軸方向daの移動を規制するロック機構60と、を備えている。なお、本実施形態では、ロック機構60は、筆跡を摩擦する際に摩擦部材15の軸方向daの移動を規制する機能も有する。
【0028】
軸筒20は、前軸30と、前軸30に連結された後軸40と、後軸40の後方領域の内側に配置された前方中筒46と、後軸40の後方領域の内側且つ前方中筒46の後方に配置された後方中筒48と、後軸40の後方に配置された後端キャップ47と、筆記体16に当接して筆記体16の軸方向daの移動を規制可能な駒部材22と、を含んでいる。前軸30は、前端に設けられた、筆記体16の筆記部17が突出可能な開口部32と、前方領域の外面に設けられたクリップ34と、後方領域の外面に設けられた雄ネジ部36と、駒部材22の後述の弾性片24を受容可能な孔部38と、を有している。後軸40は、前方領域の内面に設けられた雌ネジ部42を有している。中筒46,48の内周面には、後述のスライド部材70及びロック部材80と協働して筆記体16の突出状態において筆記体16の軸方向daの移動を規制するとともに、後述の保持部材90及びロック部材80と協働して筆跡を摩擦する際に摩擦部材15の軸方向daの移動の規制を実現するための係合溝50が設けられている。係合溝50の詳細については後述する。前軸30の雄ネジ部36と後軸40の雌ネジ部42とが螺合することにより、前軸30と後軸40とが互いに結合される。後端キャップ47は、後端に径方向drの内側へ向かって突出する内方突出部49を有しており、内方突出部49の径方向drの内側に摩擦部材15が突出可能な開口部44が形成されている。内方突出部49は、中筒46,48が係合溝50から後方へ外れることを防止するとともに、ロック部材80及び保持部材90が係合溝50から後方へ外れることを防止する抜け止めの機能を有する。内方突出部49の形状及び寸法(開口部44の形状及び寸法)は、保持部材90の後述の第2突出部91が係合溝50から後方へ外れることがない形状及び寸法とされる。
【0029】
筆記体16は、軸筒20内に出没可能に収容されている。筆記体16は、インキと、インキを収容する収容筒と、前端部に設けられた筆記部17と、を有する。インキとしては、ボールペンに使用可能なインキが特に制限なく使用され得る。一例として、インキとして熱変色性インキを使用することができる。熱変色性インキは、可逆熱変色性インキであってもよい。可逆熱変色性インキとしては、加熱により発色状態から消色状態へ変化し、冷却により消色状態から発色状態へ変化する加熱消色型、加熱により消色状態から発色状態へ変化し、冷却により発色状態から消色状態へ変化する加熱発色型、又は、特定温度域において特定の色彩を呈し、温度により色彩が変化する色彩記憶保持型、等の種々の可逆熱変色性インキが、単独で又は併用して使用されてもよい。
【0030】
図3Aは、
図1のIIIA-IIIA線に対応する横断面図であり、
図3Bは、
図2のIIIB-IIIB線に対応する横断面図である。駒部材22は、軸筒20内に配置された筆記体16に当接する当接部26を有する弾性片24を備えている。駒部材22は、軸筒20に対して、周方向dcに沿って所定の角度だけ回転することができるようになっている。とりわけ、駒部材22は、周方向dcの一方側に回転させると、
図3Aに示すように、筆記体16の軸方向daの移動を規制する規制状態になり、周方向dcの他方側に回転させると、
図3Bに示すように、筆記体16の軸方向daの移動を許容する非規制状態になる。
図3A及び
図3Bに示された例では、駒部材22は、周方向dcに180度の角度を有して配置された2つの弾性片24を有している。なお、これに限られず、駒部材22は、1つの弾性片24又は3つ以上の弾性片24を有してもよい。駒部材22が複数の弾性片24を有する場合、各駒部材22は周方向dcに互いに等角度を有して配置されることが好ましい。筆記具10に組み付ける前の状態において、向かい合う2つの当接部26間の間隔は、筆記体16の収容筒の外径よりも小さいことが好ましい。また、駒部材22が3つ以上の弾性片24を有する場合には、筆記具10に組み付ける前の状態において、複数の当接部26に内接する円の直径が筆記体16の収容筒の外径よりも小さいことが好ましい。これにより、
図3Aに示される規制状態において当接部26が筆記体16に押付けられ、当接部26と筆記体16との間に筆記体16の軸方向daの移動を規制するための適切な摩擦力を生じさせることができる。
【0031】
筆記具10がこのような駒部材22を有していることにより、没入状態で筆記体16の移動を規制することで、筆記具10を持ち運ぶ場合等に意図せず筆記部17が突出してしまうことを防止することができる。また、突出状態で筆記体16の移動を規制することで、例えば鉛直方向に延びる被筆記面(壁面等)に対して筆記する場合に、筆記部17を上方に向けても筆記体が没入しないようにすることができる。
【0032】
次に、
図4A及び
図4Bを参照して、筆記具10のロック機構60について説明する。
図4Aは、筆記具10の一部の分解図であり、
図4Bは、各部品を筆記具10の中心軸線Aを含む平面で切断して示す図である。
【0033】
ロック機構60は、中筒46,48に設けられた係合溝50と、スライド部材70と、ロック部材80と、保持部材90と、を含んでいる。
【0034】
係合溝50は、スライド部材70、ロック部材80及び保持部材90の移動をガイドする機能を有している。とりわけ、係合溝50は、ロック部材80の後述の第1突出部82、スライド部材70の後述の第2突出部71及び保持部材90の後述の第3突出部91と協働して、スライド部材70、ロック部材80及び保持部材90の移動をガイドする。
図5Aに示されているように、係合溝50は、軸方向daに延びる第1部分51と、第1部分51の前端部に接続されて前方に向かって軸方向daに延びるとともに第1部分51に対して周方向dcにずれて配置された第2部分52と、第1部分51の後端部に接続されて後方に向かって軸方向daに延びるとともに第1部分51に対して周方向dcにずれて配置された第3部分53と、を有している。とりわけ図示された例では、第3部分53は、第1部分51に対して周方向dcに第2部分52と反対側にずれて配置されている。
【0035】
第1部分51の前端部は、スライド部材70の第2突出部71をガイドする第1ガイド面54を有し、第1部分51の後端部は、保持部材90の第3突出部91をガイドする第2ガイド面55を有する。第1ガイド面54は、軸方向da及び周方向dcに対して後述のスライド部材70の第1被ガイド面75と同じ方向に傾斜している。第1ガイド面54の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。第2ガイド面55は、軸方向da及び周方向dcに対して後述の保持部材90の第2被ガイド面95と同じ方向に傾斜している。第2ガイド面55の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。
【0036】
第2部分52の後端部は、軸方向da及び周方向dcに対してスライド部材70の第2突出部71の第1押圧面73と同じ方向に傾斜した第1受圧面56を有する。第1受圧面56の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。第3部分53の前端部は、軸方向da及び周方向dcに対して保持部材90の第3突出部91の第2押圧面93と同じ方向に傾斜した第2受圧面57を有する。第2受圧面57の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。
【0037】
前方中筒46における第1部分51の中心軸線Aからの径方向深さは、後方中筒48における第1部分51の中心軸線Aからの径方向深さよりも大きくなっている。したがって、前方中筒46における第1部分51と後方中筒48における第1部分51との間には段部58が形成される。
【0038】
ロック部材80は、軸筒20内に軸方向daに移動可能に配置されている。とりわけ、ロック部材80は、後述する第1ロック位置と非ロック位置との間を移動可能、且つ、後述する第2ロック位置と非ロック位置との間を移動可能とされている。ロック部材80は、その前方領域の外周面に係合溝50内を移動可能な第1突出部82を有している。とりわけ、第1突出部82は、係合溝50の第1部分51の内部を軸方向daに沿って移動可能である。ロック部材80の前方領域の外周面には、軸方向daに延びる複数の第1突条84が設けられている。また、ロック部材80の後方領域の外周面には、軸方向daに延びる複数の第2突条86が設けられている。
【0039】
スライド部材70は、ロック部材80の前方に位置している。スライド部材70は、その後端部の外周面に係合溝50内を移動可能な複数の第2突出部71を有している。とりわけ、第2突出部71は、係合溝50の第1部分51及び第2部分52の内部を移動可能である。第2突出部71の後端部は、軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した第1押圧面73を有している。第1押圧面73は、筆記体16の突出状態において筆記する際、筆記体16を後方へ向けて押す力の作用により、係合溝50の第1受圧面56を押圧する。第1押圧面73の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。また、第1押圧面73の軸方向daに対する傾斜角度と、係合溝50の第1受圧面56の軸方向daに対する傾斜角度との差は、15度以下であることが好ましい。第2突出部71の前端部は、軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した第1被ガイド面75を有している。筆記する際に、筆記部17が下を向くように使用者が筆記具10を保持すると、スライド部材70は、重力の作用により軸方向daに沿って前方へ移動する。その後、第1被ガイド面75が係合溝50の第1ガイド面54に沿ってガイドされることにより、スライド部材70は、軸方向daに沿って前方にさらに移動するとともに周方向dcにも回転する。第1被ガイド面75の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。
【0040】
第2突出部71の中心軸線Aからの径方向高さは、後方中筒48における第1部分51の中心軸線Aからの径方向深さよりも大きく、且つ、前方中筒46における第1部分51の中心軸線Aからの径方向深さよりも小さくなっている。これにより、第2突出部71は、前方中筒46における第1部分51内を軸方向daに移動可能であるが、後方中筒48における第1部分51には進入できない。
【0041】
スライド部材70は、前端に開口部76を有している。また、スライド部材70の内周面には、軸方向daに延びるとともに後方側に向かって開口する複数の第1凹溝77が設けられている。開口部76の内径は、ロック部材80の第1突条84の突部の外径よりも大きい。したがって、第1突条84は、スライド部材70の開口部76からスライド部材70の内部に進入することができる。スライド部材70の第1凹溝77を有する領域における溝部における内径は、ロック部材80の第1突条84を有する領域における突部の外径よりも大きい。また、スライド部材70の第1凹溝77を有する領域における溝部以外の内径は、ロック部材80の第1突条84を有する領域における突部の外径よりも小さく、且つ、ロック部材80の第1突条84を有する領域における突部以外の外径よりも大きい。これにより、ロック部材80とスライド部材70との周方向dcの相対位置(相対角度)によって、第1突条84の前方側の少なくとも一部が第1凹溝77内に進入できる場合と進入できない場合とがある。とりわけ本実施の形態では、ロック部材80が第1ロック位置に位置しているときには、第1突条84の少なくとも一部がスライド部材70の第1凹溝77内に位置し、ロック部材80が非ロック位置に位置しているときには、第1突条84は第1凹溝77内に位置しない。
【0042】
保持部材90は、ロック部材80の後方に位置しており、摩擦部材を保持する機能を有する。保持部材90は、その前端部の外周面に軸筒20の係合溝50内を移動可能な複数の第3突出部91を有している。とりわけ、第3突出部91は、係合溝50の第1部分51及び第3部分53の内部を移動可能である。第3突出部91の前端部は、軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した第2押圧面93を有している。第2押圧面93は、保持部材90に固定された摩擦部材15で筆跡の摩擦を行う際に、摩擦部材15を前方へ向けて押す力の作用により、係合溝50の第2受圧面57を押圧する。第2押圧面93の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。また、第2押圧面93の軸方向daに対する傾斜角度と、係合溝50の第2受圧面57の軸方向daに対する傾斜角度との差は、15度以下であることが好ましい。第3突出部91の後端部は、軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した第2被ガイド面95を有している。筆跡を摩擦する際に、摩擦部材15が下を向くように使用者が筆記具10を保持すると、保持部材90は、重力の作用により軸方向daに沿って後方へ移動する。その後、第2被ガイド面95が係合溝50の第2ガイド面55に沿ってガイドされることにより、保持部材90は、軸方向daに沿って後方にさらに移動するとともに周方向dcにも回転する。第2被ガイド面95の軸方向daに対する傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。
【0043】
保持部材90は、前端に開口部96を有している。また、保持部材90の内周面には、軸方向daに延びるとともに前方側に向かって開口する複数の第2凹溝97が設けられている。開口部96の内径は、ロック部材80の第2突条86の突部の外径よりも大きい。したがって、第2突条86は、保持部材90の開口部96から保持部材90の内部に進入することができる。保持部材90の第2凹溝97を有する領域における溝部における内径は、ロック部材80の第2突条86を有する領域における突部の外径よりも大きい。また、保持部材90の第2凹溝97を有する領域における溝部以外の内径は、ロック部材80の第2突条86を有する領域における突部の外径よりも小さく、且つ、ロック部材80の第2突条86を有する領域における突部以外の外径よりも大きい。これにより、ロック部材80と保持部材90との周方向dcの相対位置(相対角度)によって、第2突条86の後方側の少なくとも一部が第2凹溝97内に進入できる場合と進入できない場合とがある。とりわけ本実施の形態では、ロック部材80が第2ロック位置に位置しているときには、第2突条86の少なくとも一部が保持部材90の第2凹溝97内に位置し、ロック部材80が非ロック位置に位置しているときには、第2突条86は第2凹溝97内に位置しない。また、保持部材90の後部領域の内周面には、摩擦部材15を保持するための保持部99が形成されている。摩擦部材15は、保持部材90の保持部99に対して回動不能且つ前後動不能に保持される。
【0044】
摩擦部材15は、インキによる筆跡を摩擦するための部材である。インキが熱変色性インキである場合、摩擦部材15は、筆跡が形成された紙等の被筆記面を摩擦して、筆跡を形成するインキを摩擦熱により加熱する機能を有する。この場合、摩擦部材15は、例えば弾性材料から形成することができ、保持部材90の保持部99に、圧入、係合、螺合、嵌合、接着、2色成形等によって固定され得る。また、インキが熱変色性を有しないインキである場合には、摩擦部材15は、一例として、筆跡が形成された紙等の被筆記面を摩擦することにより当該筆跡を削り取る部材、例えば砂消しゴム、であってもよい。
【0045】
図1及び
図2に示されているように、本実施形態の筆記具10では、摩擦部材15を上方に向けた状態では、突出状態でも没入状態でも、摩擦部材15の後端は、軸筒20(後端キャップ47)の後端から後方へは突出しない。換言すると、摩擦部材15の後端は、軸方向daに沿った位置において、軸筒20の後端と一致するか、軸筒20の後端よりも前方に位置する。これにより、摩擦部材15が汚れたり破損したりすることを抑制することが可能になる。
【0046】
次に、筆記具10における筆記体16の出没動作について説明する。筆記具10は、
図1に示されている没入状態と、
図2に示されている突出状態と、を交互に切り換えることができるように構成されている。
図1に示された例では、没入状態において駒部材22により筆記体16の軸方向daの移動が規制されている。具体的には、
図3Aに示されているように、駒部材22の弾性片24の当接部26が軸筒20(前軸30)の孔部38を介して筆記体16に当接し、当接部26と筆記体16との間に作用する摩擦力により、筆記体16の軸方向daの移動が規制される。
【0047】
使用者が駒部材22を周方向dcに所定角度回転させると、とりわけ
図3Aにおいて時計回りに所定角度回転させると、
図3Bに示されているように、弾性片24が軸筒20に乗り上げることにより、当接部26が径方向drの外側に向かって移動するように、弾性片24が変形する。したがって、当接部26が筆記体16から離間し、当接部26と筆記体16との間に作用する摩擦力が解除される。これにより、筆記具10の前方が下方を向いている場合に、重力の作用により筆記体16が前方へ向かって移動する。
【0048】
次に、筆記具10におけるスライド部材70のロック動作の一例について説明する。本実施形態では、ロック部材80が第1ロック位置に位置するときに、スライド部材70の軸方向daの移動が規制され、ロック部材80が第1ロック位置よりも後側の非ロック位置に位置するときに、スライド部材70の軸方向daの移動が許容される。換言すると、スライド部材70の軸方向daの移動が規制されているときのロック部材80の位置が非ロック位置であり、スライド部材70の軸方向daの移動が許容されているときのロック部材80の位置が非ロック位置であるともいえる。
【0049】
このロック動作について、
図5A~
図7Bを参照して詳述する。
図5Aは、ロック部材80が非ロック位置にあるときの、係合溝50とロック部材80の第1突出部82、スライド部材70の第2突出部71及び保持部材90の第3突出部91との位置関係を示す図であり、
図5Bは、ロック部材80の第1突条84とスライド部材70の第1凹溝77と保持部材90の第2凹溝97との位置関係を示す図である。
図6Aは、ロック部材80が非ロック位置にあるときの、係合溝50と第1突出部82、第2突出部71及び第3突出部91との位置関係を示す図であり、
図6Bは、第1突条84と第1凹溝77と第2凹溝97との位置関係を示す図である。
図7Aは、ロック部材80が第1ロック位置にあるときの、係合溝50と第1突出部82、第2突出部71及び第3突出部91との位置関係を示す図であり、
図7Bは、第1突条84と第1凹溝77と第2凹溝97との位置関係を示す図である。
図5A~
図7Bは、いずれも、係合溝50、第1突出部82、第2突出部71及び第3突出部91を、軸筒20の外側から見た図である。
【0050】
図5Aに示されているように、ロック部材80が非ロック位置にある場合には、ロック部材80の第1突出部82及びスライド部材70の第2突出部71は、いずれも係合溝50の第1部分51内に位置している。また、
図5Bに示されているように、ロック部材80の第1突条84とスライド部材70の第1凹溝77とは、互いに周方向dcにずれて位置しており、第1突条84は、第1凹溝77内に進入していない。
図5A及び
図5Bに示す状態では、スライド部材70の軸方向daの移動は許容されている。
【0051】
重力の作用によりロック部材80及びスライド部材70が係合溝50の第1部分51に沿ってさらに前方へ移動すると、
図6Aに示されているように、スライド部材70の第2突出部71が係合溝50の第1部分51の前端に到達する。
図6Bに示されているように、ロック部材80の第1突条84とスライド部材70の第1凹溝77とは、互いに周方向dcにずれて位置しており、第1突条84は、第1凹溝77内に進入しない。
図6A及び
図6Bに示す状態では、スライド部材70の軸方向daの移動は許容されている。したがって、
図6A及び
図6Bに示す状態でも、ロック部材80は非ロック位置にあるといえる。
【0052】
図6Aに示した状態において、重力の作用により、スライド部材70は、さらに軸方向daの前方に移動する。ここで、スライド部材70の第2突出部71は、その前端部に軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した第1被ガイド面75を有する。また、係合溝50の第1部分51は、その前端部に、第2突出部71をガイドする第1ガイド面54を有する。とりわけ、図示された例では、第1ガイド面54は、軸方向da及び周方向dcに対してスライド部材70の第1被ガイド面75と同じ方向に傾斜している。これにより、第2突出部71の第1被ガイド面75が係合溝50の第1ガイド面54に沿ってガイドされる。スライド部材70は、軸方向daに沿って前方にさらに移動するとともに周方向dc(中心軸線A周り)にも回転し、これにより第2突出部71は、係合溝50の第2部分52に位置するようになる(
図7A参照)。
【0053】
スライド部材70が周方向dcに回転することにより、
図7Bに示されているように、ロック部材80の第1突条84とスライド部材70の第1凹溝77との周方向dcの位置が整合する。すなわち、第1突条84と第1凹溝77とが一直線となるように軸方向daに沿って配列される。これにより、第1突条84は第1凹溝77内に進入可能になり、第1突条84の前端(前方の先端)が第1凹溝77の前端(前方の最奥部)に当接するまで、ロック部材80が重力の作用により前方に移動して、第1ロック位置に位置する。図示された例では、第1突条84の前端が第1凹溝77の前端に当接すると、ロック部材80は、それ以上前方へは移動しない。すなわち、第1突条84の前端が第1凹溝77の前端に当接した状態で、ロック部材80は、当該ロック部材80の軸方向daの可動範囲における前端に位置する。
【0054】
第1突条84が第1凹溝77内に進入することにより、スライド部材70の周方向dcの回転が規制される。したがって、筆記体16が後方へ向かって押圧されても、スライド部材70の第2突出部71が係合溝50の第2部分52から第1部分51へ移動することも規制される。この場合、筆記体16を後方へ向かって押圧する力により、第2突出部71の第2押圧面93が係合溝50の第2部分52の第1受圧面56を押圧する。そして、第1受圧面56が第2押圧面93を支持することにより、筆記体16の軸方向daに沿った後方への移動が規制される。なお、第1突条84の前端が第1凹溝77の前端に当接する位置のみならず、第1突条84の少なくとも一部が第1凹溝77内に位置し、これによりスライド部材70の周方向dcの回転が規制され、筆記体16の軸方向daに沿った前方への移動が規制される状態にあれば、ロック部材80は第1ロック位置に位置するといえる。
【0055】
図7A及び
図7Bに示された状態では、筆記体16の軸方向daの移動が規制されている。したがって、筆記を行う際に筆記体16の筆記部17を紙等の被筆記面に押付けても、筆記体16が軸筒20内に移動することが抑制されるので、筆記を容易に行うことができる。
【0056】
また、
図7A及び
図7Bに示された状態では、筆記体16の周方向dcの回転も規制されている。したがって、筆記を行う際に筆記体16が周方向に回転することも抑制されるので、筆記をより容易に行うことができる。
【0057】
なお、筆記は、必ずしも、
図2に示したように筆記具10の中心軸線Aが鉛直方向と平行になる状態で行われる必要はない。一例として、筆記部17が下方に位置して、中心軸線Aが鉛直方向に対して0度以上60度以下の角度を有した方向に延びるように筆記具10が保持されているときに、ロック部材80が第1ロック位置に移動可能になるように、筆記具10が構成されてもよい。例えば、ロック部材80、スライド部材70及び中筒46,48の材料又は寸法若しくは表面の粗さ等を調整することにより、中心軸線Aが鉛直方向に対して所望の角度範囲内にあるときにロック部材80が第1ロック位置に移動可能になるようにすることができる。
【0058】
次に、筆記具10における摩擦部材15及び保持部材90のロック動作の一例について説明する。
図8は、筆記具10を後端部を下にした状態で示す縦断面図である。
【0059】
筆跡を摩擦する際には、
図8に示されているように、筆記具10の摩擦部材15が紙等の被筆記面に当接するように、筆記具10を反転させる。とりわけ、摩擦部材15が下を向くように筆記具10を保持する。駒部材22が非規制状態にある場合には、ロック部材80は、重力の作用により後方に移動する。これにともなって、ロック部材80の第1突条84は、スライド部材70の第1凹溝77から抜け出る。これにより、スライド部材70は周方向dcに回転することが可能になる。このとき、スライド部材70の自重により第2突出部71の第1押圧面73が係合溝50の第2部分52の第1受圧面56に沿ってガイドされ、スライド部材70が周方向dcに回転して第2突出部71が係合溝50の第1部分51内へ移動する。筆記体16、スライド部材70及びロック部材80は、自重によってさらに後方へ移動する。したがって、筆記部17が上を向くように筆記具10を反転させるだけで、筆記体16及びスライド部材70の軸方向daの移動の規制が解除される。なお、駒部材22が規制状態にある場合には、スライド部材70の軸方向daの移動の規制は解除されるが、筆記体16は駒部材22により軸方向daの移動が規制されるので、後方へ移動しない。また、
図8に示されているように、摩擦部材15を下方に向けると、ロック部材80、保持部材90及び摩擦部材15は、重力の作用により後方に移動する。本実施形態では、ロック部材80が第2ロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が規制され、ロック部材80が第2ロック位置よりも前側の非ロック位置に位置するときに、保持部材90の軸方向daの移動が許容される。換言すると、保持部材90の軸方向daの移動が規制されているときのロック部材80の位置が第2ロック位置であり、保持部材90の軸方向daの移動が許容されているときのロック部材80の位置が非ロック位置であるともいえる。
【0060】
このロック動作について、
図9A~
図11Bを参照して詳述する。
図9Aは、ロック部材80が非ロック位置にあるときの、軸筒20の係合溝50とロック部材80の第1突出部82、スライド部材70の第2突出部71及び保持部材90の第3突出部91との位置関係を示す図であり、
図9Bは、ロック部材80の第2突条86とスライド部材70の第1凹溝77と保持部材90の第2凹溝97との位置関係を示す図である。
図10Aは、ロック部材80が非ロック位置にあるときの、係合溝50と第1突出部82及び第3突出部91との位置関係を示す図であり、
図10Bは、第2突条86と第1凹溝77と第2凹溝97との位置関係を示す図である。
図11Aは、ロック部材80が第2ロック位置にあるときの、係合溝50と第1突出部82及び第3突出部91との位置関係を示す図であり、
図11Bは、第2突条86と第1凹溝77と第2凹溝97との位置関係を示す図である。
図9A~
図11Bは、いずれも、係合溝50、第1突出部82及び第3突出部91を、軸筒20の外側から見た図である。
【0061】
図9Aに示されているように、ロック部材80が非ロック位置にある場合には、ロック部材80の第1突出部82及び保持部材90の第3突出部91は、いずれも係合溝50の第1部分51内に位置している。また、
図9Bに示されているように、ロック部材80の第2突条86と保持部材90の第2凹溝97とは、互いに周方向dcにずれて位置しており、第2突条86は、第2凹溝97内に進入していない。
図9A及び
図9Bに示す状態では、保持部材90の軸方向daの移動は許容されている。
【0062】
重力の作用によりロック部材80及び保持部材90が係合溝50の第1部分51に沿ってさらに後方へ移動すると、
図10Aに示されているように、保持部材90の第3突出部91が係合溝50の第1部分51の後端に到達する。
図10Bに示されているように、ロック部材80の第2突条86と保持部材90の第2凹溝97とは、互いに周方向dcにずれて位置しており、第2突条86は、第2凹溝97内に進入しない。
図10A及び
図10Bに示す状態では、保持部材90の軸方向daの移動は許容されている。したがって、
図10A及び
図10Bに示す状態でも、ロック部材80は非ロック位置にあるといえる。
【0063】
なお、本実施形態では、前方中筒46における第1部分51と後方中筒48における第1部分51との間には段部58が形成されている。また、スライド部材70の第2突出部71の中心軸線Aからの径方向高さは、後方中筒48における第1部分51の中心軸線Aからの径方向深さよりも大きく、且つ、前方中筒46における第1部分51の中心軸線Aからの径方向深さよりも小さくなっている。したがって、第2突出部71は、前方中筒46における第1部分51内を軸方向daに移動可能であるが、後方中筒48における第1部分51には進入できない。これにより、スライド部材70は、第2突出部71が段部58に当接した状態で停止する。
【0064】
図10Aに示した状態において、重力の作用により、保持部材90は、さらに軸方向daの後方に移動する。ここで、保持部材90の第3突出部91は、その後端部に軸方向da及び周方向dcに対して傾斜した第2被ガイド面95を有する。また、係合溝50の第1部分51は、その後端部に、第3突出部91をガイドする第2ガイド面55を有する。とりわけ、図示された例では、第2ガイド面55は、軸方向da及び周方向dcに対して保持部材90の第2被ガイド面95と同じ方向に傾斜している。これにより、第3突出部91の第2被ガイド面95が係合溝50の第2ガイド面55に沿ってガイドされる。保持部材90は、軸方向daに沿って後方にさらに移動するとともに周方向dc(中心軸線A周り)にも回転し、これにより第3突出部91は、係合溝50の第3部分53に位置するようになる(
図11A参照)。
【0065】
保持部材90が周方向dcに回転することにより、
図11Bに示されているように、ロック部材80の第2突条86と保持部材90の第2凹溝97との周方向dcの位置が整合する。すなわち、第2突条86と第2凹溝97とが一直線となるように軸方向daに沿って配列される。これにより、第2突条86は第2凹溝97内に進入可能になり、第2突条86の後端(後方の先端)が第2凹溝97の後端(後方の最奥部)に当接するまで、ロック部材80が重力の作用により後方に移動して、第2ロック位置に位置する。図示された例では、第2突条86の後端が第2凹溝97の後端に当接すると、ロック部材80は、それ以上後方へは移動しない。すなわち、第2突条86の後端が第2凹溝97の後端に当接した状態で、ロック部材80は、当該ロック部材80の軸方向daの可動範囲における後端に位置する。
【0066】
第2突条86が第2凹溝97内に進入することにより、保持部材90の周方向dcの回転が規制される。したがって、摩擦部材15及び保持部材90が前方へ向かって押圧されても、保持部材90の第3突出部91が係合溝50の第3部分53から第1部分51へ移動することも規制される。この場合、摩擦部材15及び保持部材90を前方へ向かって押圧する力により、第3突出部91の第2押圧面93が係合溝50の第3部分53の第2受圧面57を押圧する。そして、第2受圧面57が第2押圧面93を支持することにより、摩擦部材15及び保持部材90の軸方向daに沿った前方への移動が規制される。なお、第2突条86の後端が第2凹溝97の後端に当接する位置のみならず、第2突条86の少なくとも一部が第2凹溝97内に位置し、これにより保持部材90の周方向dcの回転が規制され、摩擦部材15及び保持部材90の軸方向daに沿った前方への移動が規制される状態にあれば、ロック部材80は第2ロック位置に位置するといえる。
【0067】
図11A及び
図11Bに示された状態では、摩擦部材15及び保持部材90の軸方向daの移動が規制されている。したがって、摩擦部材15を用いて筆跡を摩擦するために摩擦部材15を紙等の被筆記面に押付けても、摩擦部材15が軸筒20内に移動することが抑制されるので、筆跡の摩擦を容易に行うことができる。
【0068】
また、
図11A及び
図11Bに示された状態では、摩擦部材15及び保持部材90の周方向dcの回転も規制されている。したがって、筆跡を摩擦する際に、摩擦部材15が周方向に回転することも抑制されるので、筆跡の摩擦をより容易に行うことができる。
【0069】
図8に示された状態から、摩擦部材15が上を向くように(筆記部17が下を向くように)筆記具10を反転させると、駒部材22が非規制状態にある場合には、ロック部材80は、重力の作用により前方に移動する。これにともなって、ロック部材80の第2突条86は、保持部材90の第2凹溝97から抜け出る。これにより、保持部材90は周方向dcに回転することが可能になる。このとき、保持部材90の自重により第3突出部91の第2押圧面93が係合溝50の第3部分53の第2受圧面57に沿ってガイドされ、保持部材90が周方向dcに回転して第3突出部91が係合溝50の第1部分51内へ移動する。摩擦部材15、保持部材90及びロック部材80は、自重によってさらに前方へ移動する。したがって、摩擦部材15が上を向くように筆記具10を反転させるだけで、摩擦部材15及び保持部材90の軸方向daの移動の規制が解除される。
【0070】
なお、筆跡の摩擦は、必ずしも、
図8に示したように筆記具10の中心軸線Aが鉛直方向と平行になる状態で行われる必要はない。一例として、摩擦部材15が下方に位置して、中心軸線Aが鉛直方向に対して0度以上60度以下の角度を有した方向に延びるように筆記具10が保持されているときに、ロック部材80が第2ロック位置に移動可能になるように、筆記具10が構成されてもよい。例えば、ロック部材80、保持部材90及び摩擦部材15の材料又は寸法若しくは表面の粗さ等を調整することにより、中心軸線Aが鉛直方向に対して所望の角度範囲内にあるときにロック部材80が第2ロック位置に移動可能になるようにすることができる。
【0071】
なお、上述した実施形態に対して様々な変更を加えることが可能である。
【0072】
上述の実施形態では、ロック部材80の外周面に複数の第1突条84が設けられ、スライド部材70の内周面に複数の第1凹溝77が設けられた例について説明したが、第1突条及び第1凹溝の形成箇所はこれに限られない。例えば、ロック部材80の外周面に複数の第1凹溝が設けられ、スライド部材70の内周面に複数の第1突条が設けられてもよい。この場合においても、上述の実施形態で説明したように、ロック部材80が非ロック位置に位置している場合には、第1凹溝の位置と第1突条の位置が周方向dcにずれ、ロック部材80がロック位置に位置している場合には、第1凹溝の位置と第1突条の位置が周方向dcに一致するようにすることが好ましい。
【0073】
同様に、上述の実施形態では、ロック部材80の外周面に複数の第2突条86が設けられ、保持部材90の内周面に複数の第2凹溝97が設けられた例について説明したが、第2突条及び第2凹溝の形成箇所はこれに限られない。例えば、ロック部材80の外周面に複数の第2凹溝が設けられ、保持部材90の内周面に複数の第2突条が設けられてもよい。この場合においても、第1実施形態で説明したように、ロック部材80が非ロック位置に位置している場合には、第2凹溝の位置と第2突条の位置が周方向dcにずれ、ロック部材80がロック位置に位置している場合には、第2凹溝の位置と第2突条の位置が周方向dcに一致するようにすることが好ましい。
【0074】
また、上述の実施形態では、係合溝50が軸筒20(中筒46,48)の内周面に設けられ、第2突出部71がスライド部材70に設けられた例について説明したが、係合溝及び第2突出部の形成箇所はこれに限られない。例えば、スライド部材70の外周面に係合溝が設けられ、軸筒20の内周面に第2突出部が設けられてもよい。
【0075】
この場合の好適な構成は、
軸筒は、軸方向に延びる摺動溝を内周面に有し、
スライド部材は、係合溝を外周面に有し、
前記係合溝は、軸方向に延びる第1部分と、前記第1部分の前端部に接続されて前方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第2部分と、を有し、
前記ロック部材は、前記摺動溝の内部を移動可能な第1突出部を有し、
前記軸筒は、前記第1部分及び前記第2部分の内部を移動可能な第2突出部を内周面に有する
である。
【0076】
同様に、上述の実施形態では、係合溝50が軸筒20(中筒46,48)の内周面に設けられ、第3突出部91が保持部材90に設けられた例について説明したが、係合溝及び第3突出部の形成箇所はこれに限られない。例えば、保持部材90の外周面に係合溝が設けられ、軸筒20の内周面に第3突出部が設けられてもよい。
【0077】
この場合の好適な構成は、
軸筒は、軸方向に延びる摺動溝を内周面に有し、
保持部材は、係合溝を外周面に有し、
前記係合溝は、軸方向に延びる第1部分と、前記第1部分の前端部に接続されて前方に向かって軸方向に延びるとともに前記第1部分に対して周方向にずれて配置された第3部分と、を有し、
前記ロック部材は、前記摺動溝の内部を移動可能な第1突出部を有し、
前記軸筒は、前記第1部分及び前記第2部分の内部を移動可能な第3突出部を内周面に有する
である。
【符号の説明】
【0078】
10 筆記具
15 摩擦部材
16 筆記体
17 筆記部
19 後端
20 軸筒
22 駒部材
24 弾性片
26 当接部
30 前軸
32 開口部
34 クリップ
36 雄ネジ部
38 孔部
40 後軸
42 雌ネジ部
44 開口部
46 前方中筒
47 後端キャップ
48 後方中筒
49 内方突出部49
50 係合溝
51 第1部分
52 第2部分
53 第3部分
54 第1ガイド面
55 第2ガイド面
56 第1受圧面
57 第2受圧面
58 段部
60 ロック機構
70 スライド部材
71 第2突出部
73 第1押圧面
75 第1被ガイド面
76 開口部
77 第1凹溝
80 ロック部材
82 第1突出部
84 第1突条
86 第2突条
90 保持部材
91 第3突出部
93 第2押圧面
95 第2被ガイド面
96 開口部
97 第2凹溝
99 保持部