(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】セパレータ保護膜用樹脂
(51)【国際特許分類】
H01M 50/414 20210101AFI20231101BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20231101BHJP
【FI】
H01M50/414
H01M50/449
(21)【出願番号】P 2019207119
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018216621
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】浅羽 祐太郎
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-104819(JP,A)
【文献】特開2016-013623(JP,A)
【文献】特開2015-085526(JP,A)
【文献】特開2012-195289(JP,A)
【文献】特開2015-141883(JP,A)
【文献】特開2014-198646(JP,A)
【文献】特開2014-072103(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0027437(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを保護するために用いられるセパレータ保護膜用樹脂であって、
前記セパレータ保護膜用樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂を含有し、
前記ポリビニルアセタール樹脂は、アルキレンオキサイド基を有する構成単位を含み、前記アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量が0.01~14モル%であり、水酸基量が66~96モル%、重合度が250~5000である
ことを特徴とするセパレータ保護膜用樹脂。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度が1~30モル%であることを特徴とする請求項1記載のセパレータ保護膜用樹脂。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が0.1~20モル%であることを特徴とする請求項1又は2記載のセパレータ保護膜用樹脂。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のセパレータ保護膜用樹脂及び溶媒を含有することを特徴とするセパレータ保護膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載のセパレータ保護膜用樹脂を含有することを特徴とするセパレータ保護膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ保護膜用樹脂及び該セパレータ保護膜用樹脂を用いたセパレータ保護膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型ビデオカメラや携帯型パソコン等の携帯型電子機器の普及に伴い、移動用電源としての二次電池の需要が急増している。また、このような二次電池に対する小型化、軽量化、高エネルギー密度化の要求は非常に高い。
このように、繰り返し充放電が可能な二次電池としては、従来、鉛電池、ニッケル-カドミウム電池等の水溶系電池が主流であるが、これらの水溶系電池は、充放電特性は優れているが、電池重量やエネルギー密度の点では、携帯型電子機器の移動用電源として充分満足できる特性を有しているとはいえない。
【0003】
そこで、二次電池として、例えば、リチウム又はリチウム合金を負極電極に用いたリチウム二次電池の研究開発が盛んに行われている。このリチウム二次電池は、高エネルギー密度を有し、自己放電も少なく、軽量であるという優れた特徴を有している。
このような高電圧・高エネルギー密度を有する二次電池では、さらに小型化も要求されている。二次電池の小型化を達成するためには、正極や負極等の発電要素の薄膜化だけではなく、正極と負極を隔離するセパレータ等の薄膜化も必須となる。
しかしながら、二次電池の小型化によって正極と負極の間隔が狭まると短絡が発生しやすくなるという問題が生じていた。
【0004】
特許文献1、2では、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドを含有する樹脂バインダーを含む多孔質層を多孔質セパレータ基材上に形成することで、電池特性を改良する技術が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/041395号
【文献】特開2009-87562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献のような材料では、形成されたセパレータ保護膜の強度や柔軟性が不充分であるため、電池性能の低下を招くという問題がある。また、電解液に対する耐性が低く、内部短絡が生じてしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、セパレータ保護膜の材料に使用した場合にイオン輸率を高めることができ、成膜時の塗工性、柔軟性、電解液への耐久性、セパレータとの密着性に優れる保護膜を形成することが可能なセパレータ保護膜用樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セパレータを保護するために用いられるセパレータ保護膜用樹脂であって、前記セパレータ保護膜用樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂を含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、アルキレンオキサイド基を有する構成単位を含み、前記アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量が0.01~14モル%であり、水酸基量が66~96モル%、重合度が250~5000であるセパレータ保護膜用樹脂である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、セパレータを保護するために用いられるセパレータ保護膜用樹脂として、所定の構造を有するポリビニルアセタール樹脂を用いることで、イオン輸率の高いセパレータ保護膜が得られることを見出した。
また、成膜時の塗工性に優れるとともに、柔軟性、電解液への耐久性、セパレータとの密着性の高い保護膜を形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のセパレータ保護膜用樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂を含有する。本発明では、セパレータ保護膜用の材料としてポリビニルアセタール樹脂を用いることで、PVDF等の樹脂を用いる場合と比較して、セパレータとの接着性を向上させることができる。
また、成膜時の塗工性、保護膜の柔軟性や電解液耐久性を改善することができる。
【0011】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アルキレンオキサイド基を有する構成単位を含む。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、このような構成単位を有することで、優れた電解液への耐性、イオン伝導性を高めることができる。
また、セパレータ保護膜の材料に使用した場合、イオン輸率を高めることが可能となるという利点を有する。
【0012】
上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位としては、下記式(1)で表される構成単位であることが好ましい。
下記式(1)で表される構成単位を有することで、アルキレンオキサイド基に存在する酸素原子が、リチウムイオンと配位し固体中でも伝導パスを有するのに対して、対イオンは輸送しないため、イオン輸率を高めることができるという利点がある。
【0013】
【化1】
式(1)中、R
1は、炭素数が2~6であるアルキレンオキサイド基を有する基を表す。
【0014】
上記炭素数が2~6であるアルキレンオキサイド基としては、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、ブチレンオキサイド基、ペンチレンオキサイド基、ヘキシレンオキサイド基、ならびにこれらの2以上を組み合わせた基が好ましい。なかでも、エチレンオキサイド基およびプロピレンオキサイド基ならびにこれらの2以上を組み合わせた基がより好ましく、エチレンオキサイド基がさらに好ましい。
上記式(1)で表される構成単位としては、例えば、ポリエチレングリコール等の複数のエチレンオキサイド基を構成単位内に有するもの、またエチレングリコール単位を単独で構成単位内に有するもの、また非連続的に複数個のエチレングリコール単位やポリエチレングリコール単位に有するもの等が挙げられる。また、上記R1の末端基としては、水素原子、メチル基、エチル基等が挙げられるが、水素原子が好ましい。
上記式(1)で表される構成単位は、下記式(2)で表されるアルキレンオキサイド基(エチレンオキサイド基)を有する構成単位であることが好ましい。
【0015】
【化2】
式(2)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、C及びOからなる群より選択される少なくとも1種を有する連結基又は単結合を表し、nは整数を表す。
【0016】
上記R2は、C及びOからなる群より選択される少なくとも1種を有する連結基又は単結合である。上記連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、エステル基、カルボニル基及びエーテル基等が挙げられる。上記R2は炭素数が1~10のアルキレン基、カルボニル基又はエーテル基が好ましい。上記R2の炭素数が上記範囲内であることで、アルキレンオキサイド構成単位が主鎖から大きく離れることがなく、水酸基とアルキレンオキサイド単位の酸素原子が相互作用を及ぼすため、効果的にアルキレンオキサイドが拡がることが出来る。
上記R2としては、例えば、メチレン基、エチレン基、カルボニル基、及びエーテル基等が挙げられる。また、上記R2は単結合であってもよい。なかでも、上記R2としては、側鎖の運動性を確保する観点から、メチレン基、エーテル基又は単結合が好ましい。
上記R3は、C及びOからなる群より選択される少なくとも1種を有する連結基又は単結合である。上記連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、エステル基、カルボニル基及びエーテル基等が挙げられる。上記R3は炭素数が1~10のアルキレン基、カルボニル基又はエーテル基が好ましい。上記R3としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、カルボニル基、エーテル基等が挙げられる。また、上記R3は単結合であってもよい。なかでも、上記R3としては、メチレン基、エーテル基又は単結合が好ましい。
更に、アルキレンオキサイドの繰り返し数である整数nは特に限定されないが、2~50が好ましく、5~20がより好ましい。アルキレンオキサイドの繰り返し数が上記範囲内であることで、イオンのみを効率的に輸送することが可能となる。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量の下限は0.01モル%、上限は14モル%である。上記含有量を0.01モル%以上とすることで、イオン輸率を高めることができ、上記含有量を14モル%以下とすることで、電解液耐性や耐電圧性を維持することができる。上記含有量の好ましい下限は0.05モル%、好ましい上限は13モル%である。より好ましい上限は12モル%である。
【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール基を有する構成単位を有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記アセタール基を有する構成単位の含有量(アセタール化度)は1~30モル%であることが好ましい。上記アセタール化度を1モル%以上とすることで、溶媒への溶解性が向上し、好適に使用することができる。上記アセタール化度を30モル%以下とすることで、電解液に対する耐性が充分なものとなり、電極を電解液中に浸漬した際、樹脂成分が電解液中に溶出することを防止できる。より好ましくは3~25モル%である。更に好ましくは5~20モル%である。
なお、本明細書において、アセタール化度とは、ポリビニルアルコールの水酸基数のうち、ブチルアルデヒドでアセタール化された水酸基数の割合のことである。また、アセタール化度の計算方法は、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を算出する。
なお、本明細書において、アセタール化度は、ポリビニルアセタール樹脂全体に対するアセタール基を有する構成単位の含有量を意味する。
【0019】
上記アセタール基を有する構成単位は、アルデヒドを用いてアセタール化することで得られる。
上記アルデヒドの炭素数(アルデヒド基を除く炭素数)の好ましい下限は1、好ましい上限は11である。炭素数を上記範囲内とすることで、樹脂の疎水性が低くなるため、精製効率が向上しNaイオンの含有量を減らすことができる。
上記アルデヒドとしては、具体的には例えば、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド(例えば、n-ブチルアルデヒド)等のアルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン等のビニル基を有するアルデヒド(ビニルアルデヒド)等が挙げられる。なかでも、アルキルアルデヒドが好ましい。
また、上記アセタール基は、ブチラール基、ベンズアセタール基、アセトアセタール基、プロピオンアセタール基及びビニルアセタール基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセトアルデヒドでアセタール化された部分とブチルアルデヒドでアセタール化された部分との割合が0/100~50/50(モル比)であることが好ましい。これにより、ポリビニルアセタール樹脂が柔軟になり、集電体への接着力が良好になる。より好ましくは、アセトアルデヒドでアセタール化された部分とブチルアルデヒドでアセタール化された部分の割合が0/100~20/80(モル比)である。
【0021】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基を有する構成単位を有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記水酸基を有する構成単位の含有量(水酸基量)の下限は66モル%、上限は96モル%である。上記水酸基量を66モル%以上とすることで、電解液への耐性が向上し、電解液中に樹脂が溶出することを防止でき、96モル%以下とすることで、樹脂の柔軟性が向上し、セパレータへの接着力が充分なものとなる。
上記水酸基量の好ましい下限は67モル%であり、好ましい上限は95モル%である。
より好ましい下限は68モル%、より好ましい上限は94モル%である。なお、本明細書において、水酸基量は、ポリビニルアセタール樹脂全体に対する水酸基を有する構成単位の含有量を意味する。
【0022】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基を有する構成単位を有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセチル基を有する構成単位の含有量(アセチル基量)の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は20モル%である。上記アセチル基量を0.1モル%以上とすることで、樹脂の柔軟性が向上し、集電体への接着力を充分なものすることができ、上記アセチル基量を20モル%以下とすることで、電解液への耐性が向上し、電解液へ溶出して短絡することを防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%、より好ましい上限は15モル%、更に好ましい下限は2モル%、更に好ましい上限は10モル%である。
なお、本明細書において、アセチル基量は、ポリビニルアセタール樹脂全体に対するアセチル基を有する構成単位の含有量を意味する。
【0023】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、水酸基を有する構成単位の含有量に対する、アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量の比率(アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量/水酸基を有する構成単位の含有量)は、0.0001~0.15(モル比)であることが好ましい。上記範囲内とすることで、塗工性や柔軟性などの特性を維持しつつ、イオン輸率を高めることができる。より好ましくは0.001~0.1である。
また、上記ポリビニルアセタール樹脂において、水酸基を有する構成単位の含有量と、アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量との合計量(水酸基を有する構成単位の含有量+アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量)は、75~95モル%であることが好ましい。上記範囲内とすることで、接着性や吸湿性などの特性を維持しつつ、イオン輸率を高めることができる。より好ましくは80~90モル%である。
【0024】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アルキレンオキサイド基以外のイオン性官能基を有していてもよい。上記イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、及び、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が好ましい。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、それらの塩がより好ましく、スルホン酸基、その塩であることが特に好ましい。なお、上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂の重合度の好ましい下限は250、上限は5000である。上記重合度を250以上とすることで、工業的な入手が容易となる。上記重合度を5000以下とすることで、溶液粘度を低下させて、柔軟性を充分なものとすることが可能となる。上記重合度の好ましい下限は300、好ましい上限は4000、より好ましい下限は350、より好ましい上限は3000、さらに好ましい下限は400、さらに好ましい上限は2500、さらにより好ましい上限は2000である。
【0026】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アルキレンオキサイド基を有する構成単位の正味含有比の好ましい下限は0.025、好ましい上限は500である。上記正味含有比を0.025以上とすることで、イオン輸率を高めることができ、上記正味含有比を500以下とすることで、電解液耐性や耐電圧性を維持することができる。上記正味含有比のより好ましい下限は0.1、より好ましい上限は400である。なお、上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位の正味含有比は、ポリビニルアセタール樹脂の重合度に、アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量を掛けることで算出することができる。
【0027】
本発明のセパレータ保護膜用樹脂は、上記ポリビニルアセタール樹脂単独からなるものであってもよく、上記ポリビニルアセタール樹脂以外の他の樹脂を含有していてもよい。
特に、本発明のセパレータ保護膜用樹脂は、上記ポリビニルアセタール樹脂に加えて、更に、ポリフッ化ビニリデン樹脂を含有していてもよい。上記ポリフッ化ビニリデン樹脂を併用することで、電解液への耐性が更に向上し、放電容量を向上させることが出来る。
【0028】
本発明のセパレータ保護膜用樹脂が、他の樹脂を含有するものである場合、セパレータ保護膜用樹脂中の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量は、好ましい下限は50重量%、好ましい上限は99重量%である。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量を50重量%以上とすることで、セパレータへの接着力を向上させることができ、99重量%以下とすることで、二次電池の放電容量を向上させることができる。より好ましくは、75~99重量%である。
【0029】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化してなるものである。
特に、上記ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては、上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位を予め有するポリビニルアルコールを用意し、その後アセタール化する方法等が挙げられる。また、上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位を有しないポリビニルアルコールをアセタール化した後、上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位となる部分を付加する方法等が挙げられる。
上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位を有するポリビニルアルコールは、ケン化度が80.0~99.9モル%であることが好ましい。上記範囲内とすることで、得られる電極の柔軟性と、電解液への耐性を両立することが可能となる。上記ケン化度のより好ましい下限は85.0モル%、更に好ましい下限が88.0モル%、より好ましい上限は99.8モル%、更に好ましい上限は98.0モル%、特に好ましい上限は95.0モル%である。
【0030】
上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位を有するポリビニルアルコールを作製する方法としては、例えば、アルキレンオキサイド基含有単量体と、酢酸ビニル等のビニルエステルとを共重合した後、得られた共重合体のアルコール溶液に酸またはアルカリを添加してケン化する方法等が挙げられる。
【0031】
上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位を有するポリビニルアルコールを作製する方法としては、例えば、オキシアルキレン基を含有するヒドロキシアルキルビニルエーテルと酢酸ビニルとを共重合した後、得られた共重合体のアルコール溶液に酸またはアルカリを添加してケン化する方法等が挙げられる。また、上記ヒドロキシアルキルビニルエーテルのほか、ジアルキレングリコールビニルエーテル、トリアルキレングリコールモノビニルエーテル等のポリ(アルキレングリコール)ビニルエーテルを使用してもよい。
また、上記式(1)で表される構成単位のR1に相当する部分を付加する方法としては、例えば、上記アルキルビニルエーテルの種類を変更する方法等が挙げられる。
【0032】
上記アルキレンオキサイド基を有する構成単位を有しないポリビニルアルコールは、例えば、ビニルエステルとアルキレンの共重合体をケン化することにより得ることができる。上記ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から酢酸ビニルが好適である。
【0033】
上記ポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲で、アルキレン性不飽和単量体を共重合したものであってもよい。上記アルキレン性不飽和単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸、アクリロニトリルメタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びそのナトリウム塩が挙げられる。上記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等が挙げられる。
また、上記アルキレン性不飽和単量体としては、例えば、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロアルキレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とアルキレンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
【0034】
上記ポリビニルアルコールは、上記ビニルエステルとα-オレフィンとを共重合した共重合体をケン化したものであってもよい。また、更に上記エチレン性不飽和単量体を共重合させ、アルキレン性不飽和単量体に由来する成分を含有するポリビニルアルコールとしてもよい。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とα-オレフィンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端ポリビニルアルコールも用いることができる。上記α-オレフィンとしては特に限定されず、例えば、メチレン、アルキレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルアルキレン、シクロヘキシルプロピレン等が挙げられる。
【0035】
本発明のセパレータ保護膜用樹脂及び溶媒を含有するセパレータ保護膜形成用組成物もまた本発明の1つである。
本発明のセパレータ保護膜形成用組成物は、溶媒を含有する。
上記溶媒としては、上記ポリビニルアセタール樹脂を溶解させることができるものであれば特に限定されず、例えば、水系溶媒、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。なかでも、水系溶媒が好ましい。
上記水系溶媒としては、水のほか、メタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-プロパノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセトニトリルなどの水溶性溶媒等が挙げられる。
上記溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明のセパレータ保護膜形成用組成物中の溶媒の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は20重量%、好ましい上限は50重量%である。上記有機溶媒の含有量を20重量%以上とすることで、粘度を低下させて、ペーストの塗工を容易にすることができ、50重量%以下とすることで、溶剤乾燥時にムラが生じることを防止できる。より好ましい下限は25重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0037】
本発明のセパレータ保護膜形成用組成物には、上述したポリビニルアセタール樹脂、溶媒以外にも、必要に応じて、難燃助剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤のような添加剤を添加してもよい。
【0038】
本発明のセパレータ保護膜形成用組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂、溶媒及び必要に応じて添加する各種添加剤をプラネタリーミキサー、ディスパー、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0039】
本発明のセパレータ保護膜形成用組成物は、セパレータ上に塗布し、乾燥する工程を経ることで、保護膜が形成される。
本発明のセパレータ保護膜形成用組成物をセパレータ上に塗布する際の塗布方法としては、例えば、押出しコーター、リバースローラー、ドクターブレード、アプリケーターなどをはじめ、各種の塗布方法を採用することができる。
【0040】
本発明のセパレータ保護膜用樹脂に、無機粉末及び溶媒を添加することで、本発明のセパレータ保護膜用樹脂、無機粉末及び溶媒を含有するセパレータ保護膜形成用組成物を得ることができる。
上記無機粉末としては、例えば、酸化物系あるいは複合酸化物系セラミックス微粉体、非酸化物系セラミックス微粉体、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、金属酸化物、金属水酸化物等が挙げられる。
上記酸化物系あるいは複合酸化物系セラミックス微粉体としては、アルミナ、ジルコニア、マグネシウム、ベリリア、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト-マンガン等が挙げられる。
上記非酸化物系セラミックス微粉体としては、炭化珪素、窒化珪素、サイアロン等が挙げられる。上記ケイ酸塩としては、カオリン、ケイ酸アルミニウム、クレー、タルク、マイカ、アスベスト粉、ケイ酸カルシウム、セリサイト、ベントナイト等が挙げられる。
上記炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ドロマイト等が挙げられる。上記硫酸塩としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
上記金属酸化物としては、マグネシア、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ホワイトカーボン、ケイソウ土、酸化鉄等が挙げられる。上記金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄等が挙げられる。
【0041】
本発明によれば、セパレータ保護膜の材料に使用した場合にイオン輸率を高めることができ、成膜時の塗工性に優れるとともに、柔軟性、電解液への耐久性を高めるほかに、セパレータとの密着性に優れる保護膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、セパレータ保護膜の材料に使用した場合にイオン輸率を高めることができ、成膜時の塗工性に優れるとともに、柔軟性、電解液への耐久性、セパレータとの密着性に優れる保護膜を形成することが可能なセパレータ保護膜用樹脂を提供できる。また、該セパレータ保護膜用樹脂を用いたセパレータ保護膜形成用組成物、セパレータ保護膜形成用ペーストを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
(ポリビニルアセタール樹脂A1の合成)
下記式(2)で表されるアルキレンオキサイド基(エチレンオキサイド基)を有する構成単位を有するアルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールA350重量部を純水3000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。なお、アルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールAは、重合度250、ケン化度99.8モル%、下記式(2)で表されるアルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量[アルキレンオキサイド基含有量]0.01モル%、式(2)中のn=10、R2=単結合、R3=単結合である。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド7.8重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂A1の白色粉末を得た。
【0045】
【0046】
得られたポリビニルアセタール樹脂A1をDMSO-d6(ジメチルスルホキサシド)に溶解し、13C-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセタール化度、アセチル基量、アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量[アルキレンオキサイド基含有量]を測定した。結果は、水酸基量は95モル%、アセタール化度(ブチラール化度)は4.79モル%、アセチル基量は0.2モル%、アルキレンオキサイド基含有量は0.01モル%であった。
【0047】
(ポリビニルアセタール樹脂A2~A43の合成)
表1に示すポリビニルアルコール(種類)、アルデヒド(種類、添加量)とした以外は、ポリビニルアセタール樹脂A1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂A2~A43を合成した。
【0048】
(ポリビニルアセタール樹脂B1の合成)
下記式(3)で表されるアルキレンオキサイド基(プロピレンオキサイド基)を有する構成単位を有するアルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールB350重量部を純水3000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。
なお、アルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールBは、重合度250、ケン化度99.5モル%、アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量[アルキレンオキサイド基含有量]0.01モル%、式(3)中のn=10、R4=単結合、R5=単結合であった。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド7.5重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂B1の白色粉末を得た。
【0049】
【0050】
得られたポリビニルアセタール樹脂B1をDMSO-d6(ジメチルスルホキサシド)に溶解し、13C-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセタール化度、アセチル基量、アルキレンオキサイド基含有量を測定した。結果は、水酸基量は95モル%、アセタール化度(ブチラール化度)は4.49モル%、アセチル基量は0.5モル%、アルキレンオキサイド基含有量は0.01モル%であった。
【0051】
(ポリビニルアセタール樹脂B2の合成)
表1に示すポリビニルアルコール(種類)、アルデヒド(添加量)とした以外は、ポリビニルアセタール樹脂B1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂B2を合成した。
【0052】
(ポリビニルアセタール樹脂C1の合成)
未変性ポリビニルアルコールC(重合度1000、ケン化度91.0モル%)350重量部を純水3000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド26.0重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂C1の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂C1の水酸基量、アセタール化度、アセチル基量を表1に示す。
【0053】
(ポリビニルアセタール樹脂D1の合成)
下記式(4)で表されるアルキレンオキサイド基(ペンチレンオキサイド基)を有する構成単位を有するアルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールD350重量部を純水3000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。
なお、アルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールDは、重合度3000、ケン化度97.2モル%、アルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量[アルキレンオキサイド基含有量]1モル%、式(4)中のn=10、R6=単結合、R7=単結合であった。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド26.2重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂D1の白色粉末を得た。
【0054】
【0055】
(ポリビニルアセタール樹脂E1の合成)
下記式(5)で表されるスルホン酸基を有する構成単位を有するスルホン酸基含有ポリビニルアルコールE350重量部を純水3000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。
なお、スルホン酸基含有ポリビニルアルコールEは、重合度1500、ケン化度98.3モル%、スルホン酸基を有する構成単位の含有量[スルホン酸基含有量]1モル%であった。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド32.3重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂E1の白色粉末を得た。
【0056】
【0057】
(ポリビニルアセタール樹脂F1の合成)
上記式(2)で表されるアルキレンオキサイド基(エチレンオキサイド基)を有する構成単位を有するアルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールF350重量部を純水3000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。なお、アルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールFは、重合度1000、ケン化度96.7モル%、上記式(2)で表されるアルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量[アルキレンオキサイド基含有量]1モル%、式(2)中のn=10、R2=単結合、R3=プロピレン基(C3H6)である。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド15.7重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂F1の白色粉末を得た。
【0058】
(ポリビニルアセタール樹脂G1の合成)
上記式(2)で表されるアルキレンオキサイド基(エチレンオキサイド基)を有する構成単位を有するアルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールG350重量部を純水3000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。なお、アルキレンオキサイド基含有ポリビニルアルコールFは、重合度1500、ケン化度89.6モル%、上記式(2)で表されるアルキレンオキサイド基を有する構成単位の含有量[アルキレンオキサイド基含有量]1モル%、式(2)中のn=10、R2=カルボニル基(C=O)、R3=単結合である。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド23.6重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂G1の白色粉末を得た。
【0059】
【0060】
(実施例1)
(セパレータ保護膜形成用組成物の調製)
得られたポリビニルアセタール樹脂A1 5重量部に、水を95重量部加えた。その後、シンキー社製泡取練太郎にて混合し、セパレータ保護膜形成用組成物を得た。
【0061】
(実施例2~26、28~34、36、40~41、比較例1~14)
表2に示すポリビニルアセタール樹脂(樹脂種、添加量)とした以外は、実施例1と同様にして、セパレータ保護膜形成用組成物を得た。
【0062】
(実施例27、35、37~39)
表2に示すポリビニルアセタール樹脂(樹脂種、添加量)、溶媒(添加量)、無機粉末[アルミナ、平均粒子径:0.1μm](添加量)とした以外は、実施例1と同様にして、セパレータ保護膜形成用組成物を得た。
【0063】
<評価>
実施例及び比較例で得られたセパレータ保護膜形成用組成物について以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0064】
(1)電解液耐性(溶媒溶解性)
(樹脂シートの作製)
離型処理されたポリアルキレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるように実施例及び比較例で得られたセパレータ保護膜形成用組成物を塗工、乾燥して樹脂シートを作製した。
その樹脂シートを2cm角に切り出し、樹脂シート試験片を作製した。
【0065】
(溶出評価)
得られた試験片の重量を正確に計量し、シートに含まれる成分重量比から試験片に含まれる樹脂の重量を算出した。その後、試験片を袋状のメッシュに入れ、メッシュ袋と試験片の合計重量を正確に計測した。
次いで、試験片の入っているメッシュ袋を電解液溶剤であるジエチルカーボネート:アルキレンカーボネート=1:1混合溶剤に浸し、60℃にて5Hr放置した。放置後メッシュ袋を取り出し、150℃、8時間の条件で乾燥させ、完全に溶剤を乾燥させた。
乾燥機から取り出した後、室温にて1時間放置し、重量を計測した。試験前後の重量変化から樹脂の溶出量を算出し、その溶出量とあらかじめ算出しておいた樹脂の重量の比から樹脂の溶出率を算出し、以下の基準で評価した。
○:溶出率が1%以下
△:溶出率が1%超2%以下
×:溶出率が2%を超える
【0066】
(2)塗工性(表面粗さ)
上記「(1)電解液耐性」で得られた試験片について、JIS B 0601(1994)に基づいて表面粗さRaを測定し、電極の表面粗さを以下の基準で評価した。なお、一般的には、活物質の分散性が高いほど、表面粗さは小さくなるとされている。
○:Raが2μm未満
△:Raが2μm以上、5μm以下
×:Raが5μmを超える
【0067】
(3)イオン伝導性(イオン輸率)
上記「(1)電解液耐性」で得られた試験片を厚さ100μmの金属リチウム箔を圧着した一対のニッケル板(ノンブロッキング電極)で挟み、直流分極法によりリチウムイオン輸率を測定し、以下の基準で評価した。なお、測定温度はいずれも60℃とした。
○:リチウムイオン輸率が70%を超える
△:リチウムイオン輸率が50%以上70%以下
×:リチウムイオン輸率が50%未満
【0068】
(4)柔軟性
上記「(1)電解液耐性」で得られた樹脂シートを20φのローラーで巻き取り、開放した。解放時にシート表面に発生したひび割れを目視にて評価した。一般的に柔軟性の高いシート程、ひび割れが起きない。
○:ひび割れなし
×:ひび割れあり
【0069】
(5)セパレータとの密着性
得られたセパレータ保護膜形成用組成物をセパレータ(旭化成株式会社製、「ハイポア」「セルガード」)上に塗工・乾燥することで厚み50μmの塗工膜を有するサンプルを得た。
得られたサンプルを縦1cm、横2cmに切り出し、AUTOGRAPH(島津製作所社製、「AGS-J」)を用い、試験片を固定しながらセパレータと塗工膜が剥離するまでに要する剥離力(N)を計測したのち、以下の基準で判定した。
〇: 剥離力が5.0N以上
△: 剥離力が5.0N未満、3.0N以上
×: 剥離力が3.0N未満
【0070】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、セパレータ保護膜の材料に使用した場合にイオン輸率を高めることができ、成膜時の塗工性に優れるとともに、柔軟性、電解液への耐久性、セパレータとの密着性に優れる保護膜を形成することが可能なセパレータ保護膜用樹脂及び該セパレータ保護膜用樹脂を用いたセパレータ保護膜形成用組成物を提供できる。