(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】油圧ポンプ・モータ
(51)【国際特許分類】
F04B 1/22 20060101AFI20231101BHJP
F04B 1/2042 20200101ALI20231101BHJP
F03C 1/253 20060101ALI20231101BHJP
F04B 1/2021 20200101ALI20231101BHJP
【FI】
F04B1/22
F04B1/2042
F03C1/253
F04B1/2021
(21)【出願番号】P 2019229635
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 俊介
(72)【発明者】
【氏名】谷川 優一郎
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 秀明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-253605(JP,A)
【文献】特開2014-111914(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067472(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/22
F04B 1/2042
F03C 1/253
F04B 1/2021
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックのシリンダボアに配置されるピストンと、
前記シリンダボアのシリンダポートに対向するバルブプレートと、を備え、
前記バルブプレートは、
前記シリンダポートから吐出された作動油が流通する高圧ポートと、
前記シリンダポートに吸引される作動油が流通する低圧ポートと、
前記回転軸の周方向において前記高圧ポートと前記低圧ポートとの間に配置され、上死点に移動した前記ピストンが配置される前記シリンダボアの前記シリンダポートが対向する上死点位置を含む第1領域と、
前記第1領域において前記上死点位置と前記低圧ポートとの間に設けられた残圧捨てポートと、を有し、
前記残圧捨てポートは、第1残圧捨てポートと、前記回転軸の径方向において前記第1残圧捨てポートとは異なる位置に配置された第2残圧捨てポートと、を含
み、
前記周方向において、前記上死点位置と前記第1残圧捨てポートとの距離は、前記上死点位置と前記第2残圧捨てポートとの距離よりも短く、
前記第1残圧捨てポートの大きさは、前記第2残圧捨てポートの大きさよりも小さい、
油圧ポンプ・モータ。
【請求項2】
前記径方向において、前記回転軸と前記低圧ポートの中心との距離をRb、前記回転軸と前記第1残圧捨てポートの中心との距離をR1、前記回転軸と前記第2残圧捨てポートとの距離をR2としたとき、|Rb-R1|<|Rb-R2|、の条件を満足する、
請求項1に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項3】
Rb=R1、の条件を満足する、
請求項2に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項4】
前記第2残圧捨てポートは、前記第1残圧捨てポートよりも径方向内側及び径方向外側のそれぞれに配置される、
請求項2又は請求項3に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項5】
前記径方向において、前記回転軸と前記径方向内側の前記第2残圧捨てポートの中心との距離をR2i、前記回転軸と前記径方向外側の前記第2残圧捨てポートの中心との距離をR2o、としたとき、|R1-R2i|=|R1-R2o|、の条件を満足する、
請求項4に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項6】
前記第1領域は、
前記上死点位置と前記第2残圧捨てポートとの間に配置され、前記シリンダボアの作動油に基づいて前記シリンダブロックの回転アシスト力が発生するアシスト領域と、
前記アシスト領域と前記低圧ポートとの間に配置され、前記第2残圧捨てポートと前記シリンダボアとの接続により前記シリンダボアの作動油の圧力が低下する残圧捨て領域と、を含み、
前記第1残圧捨てポートは、前記アシスト領域に設けられ、
前記第2残圧捨てポートは、前記残圧捨て領域に設けられる、
請求項
1に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項7】
前記シリンダブロックは、前記シリンダボアが前記第1残圧捨てポートに接続された後に前記第2残圧捨てポートに接続され、前記第2残圧捨てポートに接続された後に前記低圧ポートに接続されるように回転する、
請求項
1から請求項
6のいずれか一項に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項8】
前記第2残圧捨てポートは、前記径方向に複数設けられ、
前記シリンダポートは、複数の前記第2残圧捨てポートと同時に接続される、
請求項
7に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項9】
前記第2残圧捨てポートは、前記径方向に複数設けられ、
前記シリンダポートは、複数の前記第2残圧捨てポートに順次接続される、
請求項
7に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項10】
前記低圧ポートの回転方向後方側の縁部は、第1部分と、前記第1部分よりも前記回転方向後方側に突出する第2部分と、を含み、
前記径方向において、前記回転軸と前記第1部分の少なくとも一部との距離と、前記回転軸と前記第1残圧捨てポートとの距離とが一致し、前記回転軸と前記第2部分の少なくとも一部との距離と、前記回転軸と前記第2残圧捨てポートとの距離とが一致する、
請求項
1から請求項
9のいずれか一項に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項11】
前記シリンダポートの回転方向前方側の縁部の形状は、前記低圧ポートの回転方向後方側の縁部の形状と一致する、
請求項1から請求項
10のいずれか一項に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項12】
前記シリンダポートの回転方向前方側の縁部は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状であり、
前記低圧ポートの回転方向後方側の縁部は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である、
請求項
11に記載の油圧ポンプ・モータ。
【請求項13】
前記バルブプレートは、
前記回転軸の周方向において前記低圧ポートと前記高圧ポートとの間に配置され、下死点に移動した前記ピストンが配置される前記シリンダボアの前記シリンダポートが対向する下死点位置を含む第2領域を有する、
請求項1から請求項
12のいずれか一項に記載の油圧ポンプ・モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧ポンプ・モータに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ポンプ・モータに係る技術分野において、特許文献1に開示されているような油圧ポンプ・モータが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧ポンプ・モータが吐出工程から吸込工程に移行するときに作動油の圧力が変化する。作動油の圧力が急激に変化すると、作動油に気泡が生成されるキャビテーション現象が発生する可能性がある。キャビテーション現象が発生すると、油圧ポンプ・モータの性能が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は、吐出工程から吸込工程に移行するときに作動油の圧力の急激な変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従えば、回転軸を中心に回転するシリンダブロックと、前記シリンダブロックのシリンダボアに配置されるピストンと、前記シリンダボアのシリンダポートに対向するバルブプレートと、を備え、前記バルブプレートは、前記シリンダポートから吐出された作動油が流通する高圧ポートと、前記シリンダポートに吸引される作動油が流通する低圧ポートと、前記回転軸の周方向において前記高圧ポートと前記低圧ポートとの間に配置され、上死点に移動した前記ピストンが配置される前記シリンダボアの前記シリンダポートが対向する上死点位置を含む第1領域と、前記第1領域において前記上死点位置と前記低圧ポートとの間に設けられた残圧捨てポートと、を有し、前記残圧捨てポートは、第1残圧捨てポートと、前記回転軸の径方向において前記第1残圧捨てポートとは異なる位置に配置された第2残圧捨てポートと、を含む、油圧ポンプ・モータが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、吐出工程から吸込工程に移行するときに作動油の圧力の急激な変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る油圧ポンプを示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る油圧ポンプを示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るシリンダブロックを示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るバルブプレートを示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るバルブプレートの一部を示す拡大図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るシリンダブロック及びバルブプレートの動作を説明するための図である。
【
図7】
図7は、油圧ポンプの性能試験結果を示す図である。
【
図8】
図8は、油圧ポンプの性能試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本開示はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
実施形態においては、XYZ直交座標系を設定し、XYZ直交座標系を参照しながら各部の位置関係について説明する。所定面のX軸と平行な方向をX軸方向、X軸と直交する所定面のY軸と平行な方向をY軸方向、X軸及びY軸と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。また、X軸を中心とする回転又は傾斜方向をθX方向、Y軸を中心とする回転又は傾斜方向をθY方向、Z軸を中心とする回転又は傾斜方向をθZ方向とする。また、実施形態においては、X軸及びY軸を含む所定面を適宜、XY平面、と称し、Y軸及びZ軸を含む面を適宜、YZ平面、と称し、Z軸及びX軸を含む面を適宜、ZX面、と称する。
【0011】
油圧ポンプ1は、作業機械に設けられる。作業機械は、油圧ポンプ1から吐出された作動油により駆動する油圧シリンダと、油圧シリンダが発生する動力により作動する作業機とを備える。作業機械として、油圧ショベル、ブルドーザ、及びホイールローダが例示される。作業機械は、エンジンを有する。油圧ポンプ1は、エンジンの動力により回転するシャフト4及びシリンダブロック5を備える。シャフト4及びシリンダブロック5のそれぞれは、回転軸AXを中心に回転する。
【0012】
実施形態において、シャフト4及びシリンダブロック5の回転軸AXと平行な方向を適宜、軸方向、と称し、回転軸AXの周囲を周回する方向を適宜、回転方向又は周方向、と称し、回転軸AXの放射方向を適宜、径方向、と称する。
【0013】
実施形態において、回転軸AXは、X軸方向に延伸する。軸方向とX軸方向とは平行である。
【0014】
後述する斜板8とバルブプレート9とは、X軸方向に配置される。+X方向(+X側)は、斜板8からバルブプレート9に向かう方向(バルブプレート9側)である。-X方向(-X側)は、バルブプレート9から斜板8に向かう方向(斜板8側)である。
【0015】
また、後述するように、ピストン6は、上死点と下死点とに移動する。回転軸AXと直交するYZ平面において、上死点に移動したピストン6と下死点に移動したピストン6とは、Y軸方向に配置される。YZ平面において、+Y方向(+Y側)は、上死点から下死点に向かう方向(下死点側)である。YZ平面において、-Y方向(-Y側)は、下死点から上死点に向かう方向(上死点側)である。
【0016】
また、後述するように、バルブプレート9は、Z軸方向に配置される高圧ポート30と低圧ポート40とを有する。+Z方向(+Z側)は、低圧ポート40から高圧ポート301に向かう方向(高圧ポート30側)である。-Z方向(-Z側)は、高圧ポート30から低圧ポート40に向かう方向(低圧ポート40側)である。
【0017】
また、径方向において、回転軸AXに近い位置又は接近する方向を適宜、径方向内側、と称し、回転軸AXから遠い位置又は離隔する方向を適宜、径方向外側、と称する。
【0018】
また、周方向において、シリンダブロック5が回転する方向を適宜、回転方向前方側、と称し、回転方向前方側の反対側を適宜、回転方向後方側、と称する。
【0019】
[油圧ポンプ]
図1及び
図2のそれぞれは、実施形態に係る油圧ポンプ1を示す断面図である。
図1は、XZ平面と平行な油圧ポンプ1の断面図である。
図2は、XY平面と平行な油圧ポンプ1の断面図である。
【0020】
油圧ポンプ1は、ケース2と、エンドキャップ3と、シャフト4と、シリンダブロック5と、ピストン6と、シュー7と、斜板8と、バルブプレート9とを備える。
【0021】
ケース2は、筒部2Aと、筒部2Aの-X側の端部に接続されるベース部2Bとを有する。ケース2は、シャフト4、シリンダブロック5、ピストン6、シュー7、及び斜板8のそれぞれを収容する。
【0022】
エンドキャップ3は、筒部2Aの+X側の端部に接続される。エンドキャップ3は、作動油を吐出する吐出ポート101と、作動油を吸込む吸込ポート102とを有する。シャフト4、シリンダブロック5、ピストン6、シュー7、及び斜板8のそれぞれは、ケース2とエンドキャップ3とにより規定される油圧ポンプ1の内部空間に配置される。
【0023】
シャフト4は、作業機械のエンジン(不図示)に連結される。シャフト4は、作業機械のエンジンが発生する動力により回転する。シャフト4は、回転軸AXを中心に回転する。実施形態において、シャフト4の回転軸AXは、X軸方向に延伸する。シャフト4の-X側の端部は、ベアリング10Aに回転可能に支持される。シャフト4の+X側の端部は、ベアリング10Bに回転可能に支持される。ベアリング10Aは、ケース2に保持される。ベアリング10Bは、エンドキャップ3に保持される。
【0024】
シリンダブロック5は、シャフト4に連結される。シャフト4とシリンダブロック5とは、スプライン機構11を介して連結される。シリンダブロック5は、シャフト4と一緒に、回転軸AXを中心に回転する。
【0025】
シリンダブロック5は、回転軸AXの周囲に配置される複数のシリンダボア12を有する。シリンダボア12は、ピストン6が配置されるシリンダブロック5の内部空間である。シリンダボア12は、軸方向に延伸する。シリンダボア12は、回転軸AXの周方向に間隔をあけて複数設けられる。実施形態において、複数のシリンダボア12は、回転軸AXの周方向に等間隔で設けられる。複数のシリンダボア12は、平行に配置される。
【0026】
シリンダボア12は、シリンダポート20を有する。シリンダポート20は、シリンダボア12の+X側の端部に設けられる。シリンダボア12は、シリンダポート20を介して、シリンダボア12の外部空間と結ばれる。シリンダポート20は、バルブプレート9に対向する。
【0027】
ピストン6は、シリンダブロック5のシリンダボア12に配置される。ピストン6は、複数のシリンダボア12のそれぞれに配置される。ピストン6は、シリンダボア12の内側においてに配置された状態で、軸方向に往復動する。
【0028】
ピストン6の-X側の端部は、シリンダボア12から-X側に突出する。ピストン6の-X側の端部に凹部6Aが形成される。凹部6Aの内面は、球面状である。
【0029】
シュー7は、ピストン6と斜板8との間に配置される。シュー7は、ピストン6の凹部6Aに配置される凸部7Aと、斜板8に接触する摺動部7Bとを有する。凸部7Aの外面は、球面状である。シュー7の凸部7Aは、ピストン6の凹部6Aに嵌る。シュー7の少なくとも一部は、ピストン6の球面軸受として機能する。
【0030】
斜板8は、X軸方向においてケース2のベース部2Bとシュー7との間に配置される。斜板8を支持する支持部材13がケース2のベース部2Bに設けられる。斜板8は、支持部材13に支持される。支持部材13は、例えば2つ設けられる。2つの支持部材13は、Z軸方向に配置される。回転軸AXは、一方の支持部材13と他方の支持部材13との間に規定される。支持部材13の表面は、球面状である。斜板8は、支持部材13が配置される凹部8Aを有する。凹部8Aの内面は、球面状である。支持部材13の少なくとも一部は、斜板8の球面軸受として機能する。
【0031】
斜板8は、シュー7の摺動部7Bと摺動する摺動面8Bを有する。摺動面8Bは、平坦面である。摺動面8Bは、シュー7の摺動部7Bと対向する。シュー7は、摺動面8Bに押圧される。
【0032】
シリンダブロック5の内周面にリング14が固定される。リング14は、シリンダブロック5の内周面の+X側の端部に配置される。シャフト4の周囲にばね15が配置される。ばね15の+X側の端部は、リング14に支持される。また、シャフト4の周囲に、可動リング16、ニードル17、及び押圧部材18が配置される。可動リング16は、ばね15により-X側に押される。押圧部材18は、リング状であり、ニードル17に接触する。押圧部材18によって、シュー7が摺動面8Bに押圧される。シリンダブロック5が回転し、ピストン6が回転軸AXの周囲を旋回すると、シュー7は、摺動面8Bに押圧されながら回転する。
【0033】
斜板8は、θZ方向に傾斜可能である。斜板8よりも-X側にピストン19が配置される。ピストン19は、ケース2に支持される。ピストン19の少なくとも一部は、斜板8の-Y側の端部に接触する。ピストン19が作動することにより、斜板8がθZ方向に傾斜する。ピストン19の作動量により、斜板8の傾斜角度θが決定される。斜板8が傾斜すると、摺動面8Bも傾斜する。
【0034】
斜板8の傾斜角度θに基づいて、ピストン6の移動量が制御される。
図2に示すように、斜板8が傾斜角度θで傾斜した状態で、シリンダブロック5が回転軸AXを中心に回転すると、シュー7が摺動面8Bに接触しながら回転軸AXの周囲を旋回する。シュー7は、摺動面8Bに接触しながら回転軸AXの周囲を旋回することにより、軸方向にも移動する。シュー7が軸方向に移動することにより、ピストン6は、シリンダボア12の内側において軸方向に往復動する。
【0035】
バルブプレート9は、シリンダボア12のシリンダポート20に対向するように配置される。バルブプレート9は、シリンダブロック5の+X側に配置される。バルブプレート9は、エンドキャップ3に支持される。バルブプレート9は、回転しない。
【0036】
シリンダブロック5は、バルブプレート9に接触しながら回転する。シリンダブロック5は、バルブプレート9と対向する摺動面5Aを有する。バルブプレート9は、シリンダブロック5と対向する摺動面9Aを有する。シリンダブロック5は、摺動面5Aと摺動面9Aとを接触させた状態で回転する。バルブプレート9の摺動面9Aは、回転するシリンダブロック5の摺動面5Aと接触する。
【0037】
バルブプレート9は、シリンダポート20から吐出された作動油が流通する高圧ポート30と、シリンダポート20に吸引される作動油が流通する低圧ポート40とを有する。ピストン6が+X側(バルブプレート9側)に移動すると、シリンダボア12の作動油は、シリンダポート20から吐出され、高圧ポート30を流通する。ピストン6が-X側(斜板8側)に移動すると、低圧ポート40及びシリンダポート20を介して、シリンダボア12に作動油が吸引される。
【0038】
吐出ポート101は、作業機械の油圧シリンダに接続される。吸込ポート102は、作業機械に設けられている作動油タンクに接続される。高圧ポート30は、吐出ポート101に接続される。低圧ポート40は、吸込ポート102に接続される。
【0039】
[油圧ポンプの動作]
ピストン6は、シリンダボア12の内側において軸方向に往復動する。ピストン6の可動範囲は、軸方向に規定される。以下の説明において、ピストン6の可動範囲において最も+X側(バルブプレート9側)の位置を適宜、上死点、と称し、ピストン6の可動範囲において最も-X側(斜板8側)の位置を適宜、下死点、とする。
【0040】
ピストン6が下死点から上死点に移動すると、シリンダボア12の作動油は、シリンダポート20から吐出される。すなわち、ピストン6が+X側に移動すると、シリンダボア12の作動油は、シリンダポート20から吐出される。シリンダポート20から吐出された作動油は、バルブプレート9の高圧ポート30を介して吐出ポート101に供給される。吐出ポート101に供給された作動油は、吐出ポート101から吐出され、油圧シリンダに供給される。斜板8の傾斜角度θが調整されることにより、吐出ポート101から吐出される作動油の容量が制御される。
【0041】
ピストン6が上死点から下死点に移動すると、作動油タンクからの作動油が、シリンダポート20に吸引される。すなわち、ピストン6が-X側に移動すると、作動油タンクの作動油が吸引され、吸込ポート102に供給される。吸込ポート102に供給された作動油は、バルブプレート9の低圧ポート40を介してシリンダポート20に供給される。シリンダポート20に供給された作動油は、シリンダポート20を介してシリンダボア12に吸引される。
【0042】
このように、油圧ポンプ1は、シャフト4の回転力を油圧に変換し、吸込ポート102から吸い込まれた作動油を吐出ポート101から吐出する。油圧ポンプ1は、斜板8の傾斜角度θを変化させることによって吐出ポート101から吐出される作動油の容量を調整可能な可変容量型の油圧ポンプである。
【0043】
[シリンダブロック]
図3は、実施形態に係るシリンダブロック5を示す図である。
図3に示すように、シリンダブロック5は、矢印ARで示す方向に回転する。矢印ARで示す方向が、回転方向前方側であり、回転方向前方側の反対側が、回転方向後方側である。回転方向前方側は、周方向一方側を意味し、回転方向後方側は、周方向他方側を意味する。
【0044】
図3に示すように、シリンダブロック5は、回転軸AXの周方向に配置された複数のシリンダボア12を有する。シリンダポート20は、シリンダボア12の+X側の端部に配置される。シリンダポート20は、シリンダブロック5の摺動面5Aに形成された開口である。作動油は、シリンダポート20を通過する。複数のシリンダポート20は、回転軸AXの周方向に等間隔で設けられる。複数のシリンダポート20の形状及び寸法は、同一である。実施形態において、シリンダポート20は、9つ設けられる。
【0045】
YZ平面内において、複数のシリンダポート20は、回転軸AXを中心とする仮想円VCに沿って配置される。径方向において、回転軸AXと複数のシリンダポート20の中心のそれぞれとの距離は、同一である。仮想円VCは、径方向におけるシリンダポート20の中心を通る。
【0046】
シリンダブロック5が回転することにより、シリンダポート20は、回転軸AXの周囲を旋回する。
【0047】
実施形態において、シリンダポート20は、回転軸AXの周方向に延伸する長孔状である。シリンダポート20の縁部は、回転方向前方側に配置される前側部21と、回転方向後方側に配置される後側部22と、前側部21の径方向内側の端部と後側部22の径方向内側の端部とを結ぶ内側部23と、前側部21の径方向外側の端部と後側部22の径方向外側の端部とを結ぶ外側部24とを有する。シリンダポート20は、前側部21と後側部22と内側部23と外側部24とで囲まれた領域の内側に設けられる。
【0048】
前側部21は、シリンダポート20の回転方向前方側の縁部である。前側部21は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である。径方向における前側部21の中心を示す前側頂部25は、仮想円VC上に配置される。前側頂部25は、シリンダポート20において最も回転方向前方側に配置される部位である。
【0049】
後側部22は、シリンダポート20の回転方向後方側の縁部である。後側部22は、回転方向後方側に向かって突出する円弧状である。径方向における後側部22の中心を示す後側頂部26は、仮想円VC上に配置される。後側頂部26は、シリンダポート20において最も回転方向後方側に配置される部位である。
【0050】
内側部23は、シリンダポート20の径方向内側の縁部である。内側部23は、仮想円VCよりも径方向内側に配置される。内側部23は、前側頂部25と後側頂部26との間の仮想円VCの接線と平行な直線状である。
【0051】
外側部24は、シリンダポート20の径方向外側の縁部である。外側部24は、仮想円VCよりも径方向外側に配置される。外側部24は、前側頂部25と後側頂部26との間の仮想円VCの接線と平行な直線状である。
【0052】
内側部23と外側部24とは平行である。径方向において、内側部23と仮想円VCとの距離は、外側部24と仮想円VCとの距離と等しい。
【0053】
シリンダブロック5が矢印ARで示す方向に回転することにより、複数のピストン6のそれぞれが上死点と下死点との間を移動する。
図3において、回転軸AXよりも+Z側に存在するシリンダボア12の内側に配置されているピストン6は、下死点から上死点に移動する。すなわち、回転軸AXよりも+Z側に存在するシリンダポート20から作動油が吐出される。回転軸AXよりも-Z側に存在するシリンダボア12の内側に配置されているピストン6は、上死点から下死点に移動する。すなわち、回転軸AXよりも+Z側に存在するシリンダポート20に作動油が吸引される。
【0054】
[バルブプレート]
図4は、実施形態に係るバルブプレート9を示す図である。
図4に示すように、バルブプレート9は、シリンダポート20から吐出された作動油が流通する高圧ポート30と、シリンダポート20に吸引される作動油が流通する低圧ポート40とを有する。実施形態において、高圧ポート30は、1つ設けられる。低圧ポート40は、1つ設けられる。高圧ポート30は、吐出ポート101を介して油圧シリンダに接続される。低圧ポート40は、吸込ポート102を介して作動油タンクに接続される。
【0055】
上述のように、バルブプレート9は、回転しない。シリンダブロック5は、
図4の矢印ARで示す方向に回転する。
【0056】
YZ平面内において、高圧ポート30は、回転軸AXを中心とする仮想円VCに沿って配置される。高圧ポート30は、回転軸AXの周囲を旋回するシリンダポート20が対向するように、回転AX軸の周囲の一部において帯状に形成される、仮想円VCは、径方向における高圧ポート30の中心を通る。周方向において、高圧ポート30の寸法は、シリンダポート20の寸法よりも大きい。高圧ポート30は、複数のシリンダポート20に同時に対向することができる。径方向において、高圧ポート30の寸法は、シリンダポート20の寸法と等しい。
【0057】
高圧ポート30は、円弧状に形成される。高圧ポート30は、回転軸AXの周方向に延伸する長孔状である。高圧ポート30の縁部は、回転方向前方側に配置される前側部31と、回転方向後方側に配置される後側部32と、前側部31の径方向内側の端部と後側部32の径方向内側の端部とを結ぶ内側部33と、前側部31の径方向外側の端部と後側部32の径方向外側の端部とを結ぶ外側部34とを有する。高圧ポート30は、前側部31と後側部32と内側部33と外側部34とで囲まれた領域の内側に設けられる。
【0058】
前側部31は、高圧ポート30の回転方向前方側の縁部である。前側部31は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である。径方向における前側部31の中心を示す前側頂部35は、仮想円VC上に配置される。前側頂部35は、高圧ポート30において最も回転方向前方側に配置される部位である。
【0059】
後側部32は、高圧ポート30の回転方向後方側の縁部である。後側部32は、回転方向後方側に向かって突出する円弧状である。径方向における後側部32の中心を示す後側頂部36は、仮想円VC上に配置される。後側頂部36は、高圧ポート30において最も回転方向後方側に配置される部位である。
【0060】
内側部33は、高圧ポート30の径方向内側の縁部である。内側部33は、仮想円VCよりも径方向内側に配置される。内側部33は、前側頂部35と後側頂部36との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0061】
外側部34は、高圧ポート30の径方向外側の縁部である。外側部34は、仮想円VCよりも径方向外側に配置される。外側部34は、前側頂部35と後側頂部36との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0062】
内側部33と外側部34とは平行である。径方向において、内側部33と仮想円VCとの距離は、外側部34と仮想円VCとの距離と等しい。
【0063】
実施形態において、バルブプレート9は、高圧ポート30に接続されるノッチ37を有する。ノッチ37は、高圧ポート30の後側部32から回転方向後方側に延伸するように設けられる。
【0064】
YZ平面内において、低圧ポート40は、回転軸AXを中心とする仮想円VCに沿って配置される。低圧ポート40は、回転軸AXの周囲を旋回するシリンダポート20が対向するように、回転AX軸の周囲の一部において帯状に形成される、仮想円VCは、径方向における低圧ポート40の中心を通る。周方向において、低圧ポート40の寸法は、シリンダポート20の寸法よりも大きい。低圧ポート40は、複数のシリンダポート20に同時に対向することができる。径方向において、低圧ポート40の寸法は、シリンダポート20の寸法と等しい。
【0065】
低圧ポート40は、円弧状に形成される。低圧ポート40は、回転軸AXの周方向に延伸する長孔状である。低圧ポート40の縁部は、回転方向前方側に配置される前側部41と、回転方向後方側に配置される後側部42と、前側部41の径方向内側の端部と後側部42の径方向内側の端部とを結ぶ内側部43と、前側部41の径方向外側の端部と後側部42の径方向外側の端部とを結ぶ外側部44とを有する。低圧ポート40は、前側部41と後側部42と内側部43と外側部44とで囲まれた領域の内側に設けられる。
【0066】
前側部41は、低圧ポート40の回転方向前方側の縁部である。前側部41は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である。径方向における前側部41の中心を示す前側頂部45は、仮想円VC上に配置される。前側頂部45は、低圧ポート40において最も回転方向前方側に配置される部位である。
【0067】
後側部42は、低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である。後側部42は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である。径方向における後側部42の中心を示す後側底部46は、仮想円VC上に配置される。径方向における後側部42の端部を示す後側頂部47は、仮想円VCの径方向内側及び径方向外側のそれぞれに配置される。後側頂部47は、低圧ポート40において最も回転方向後方側に配置される部位である。
【0068】
内側部43は、低圧ポート40の径方向内側の縁部である。内側部43は、仮想円VCよりも径方向内側に配置される。内側部43は、前側頂部45と後側底部46との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0069】
外側部44は、低圧ポート40の径方向外側の縁部である。外側部44は、仮想円VCよりも径方向外側に配置される。外側部44は、前側頂部45と後側底部46との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0070】
内側部43と外側部44とは平行である。径方向において、内側部43と仮想円VCとの距離は、外側部44と仮想円VCとの距離と等しい。
【0071】
高圧ポート30は、下死点から上死点に移動するピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20に対向するように配置される。高圧ポート30は、下死点に移動したピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20に対向しないように配置される。高圧ポート30は、上死点に移動したピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20に対向しないように配置される。
【0072】
低圧ポート40は、上死点から下死点に移動するピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20に対向するように配置される。低圧ポート40は、上死点に移動したピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20に対向しないように配置される。低圧ポート40は、下死点に移動したピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20に対向しないように配置される。
【0073】
バルブプレート9は、回転軸AXの周方向において高圧ポート30と低圧ポート40との間に配置され、上死点に移動したピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20が対向する上死点位置51を含む第1領域50と、回転軸AXの周方向において低圧ポート40と高圧ポート30との間に配置され、下死点に移動したピストン6が配置されるシリンダボア12のシリンダポート20が対向する下死点位置61を含む第2領域60とを有する。
【0074】
第1領域50は、バルブプレート9の摺動面9Aのうち、回転軸AXの周方向において高圧ポート30の前側部31と低圧ポート40の後側部42との間の領域である。第1領域50は、回転軸AXの周囲を旋回するシリンダポート20が対向するように、回転軸AXの周囲の一部において帯状に形成される。
【0075】
第1領域50は、高圧ポート30の内側部33の回転方向前方側の端部と低圧ポート40の内側部43の回転方向後方側の端部とを結ぶ内側部53と、高圧ポート30の外側部34の回転方向前方側の端部と低圧ポート40の外側部44の回転方向後方側の端部とを結ぶ外側部54とを有する。第1領域50は、高圧ポート30の前側部31と低圧ポート40の後側部42と内側部53と外側部54とで囲まれた領域である。
【0076】
内側部53は、仮想円VCよりも径方向内側に配置される。内側部53は、前側頂部35と後側底部46との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0077】
外側部54は、仮想円VCよりも径方向外側に配置される。外側部54は、前側頂部35と後側底部46との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0078】
内側部53と外側部54とは平行である。径方向において、内側部53と仮想円VCとの距離は、外側部54と仮想円VCとの距離と等しい。
【0079】
上死点位置51は、上死点に配置されたピストン6を収容するシリンダボア12のシリンダポート20の中心が対向する位置である。上死点位置51は、第1領域50に規定される。
【0080】
第2領域60は、バルブプレート9の摺動面9Aのうち、回転軸AXの周方向において低圧ポート40の前側部41と高圧ポート30の後側部32との間の領域である。第2領域60は、回転軸AXの周囲を旋回するシリンダポート20が対向するように、回転軸AXの周囲の一部において帯状に形成される。
【0081】
第2領域60は、低圧ポート40の内側部43の回転方向前方側の端部と高圧ポート30の内側部33の回転方向後方側の端部とを結ぶ内側部63と、低圧ポート40の外側部44の回転方向前方側の端部と高圧ポート30の外側部34の回転方向後方側の端部とを結ぶ外側部64とを有する。第2領域60は、低圧ポート40の前側部41と高圧ポート30の後側部32と内側部63と外側部64とで囲まれた領域である。
【0082】
内側部63は、仮想円VCよりも径方向内側に配置される。内側部63は、前側頂部45と後側頂部36との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0083】
外側部64は、仮想円VCよりも径方向外側に配置される。外側部64は、前側頂部45と後側頂部36との間の仮想円VCと平行な円弧状である。
【0084】
内側部63と外側部64とは平行である。径方向において、内側部63と仮想円VCとの距離は、外側部64と仮想円VCとの距離と等しい。
【0085】
下死点位置61は、下死点に配置されたピストン6を収容するシリンダボア12のシリンダポート20の中心が対向する位置である。下死点位置61は、第2領域60に規定される。
【0086】
高圧ポート30は、上死点位置51及び下死点位置61を含まないように形成される。高圧ポート30は、上死点に配置されたピストン6を収容するシリンダボア12のシリンダポート20とは接続されない。高圧ポート30は、下死点に配置されたピストン6を収容するシリンダボア12のシリンダポート20とは接続されない。
【0087】
低圧ポート40は、上死点位置51及び下死点位置61を含まないように形成される。低圧ポート40は、上死点に配置されたピストン6を収容するシリンダボア12のシリンダポート20とは接続されない。低圧ポート40は、下死点に配置されたピストン6を収容するシリンダボア12のシリンダポート20とは接続されない。
【0088】
上述のように、回転軸AXよりも+Z側に存在するシリンダポート20から作動油が吐出される。高圧ポート30は、作動油が吐出されるシリンダポート20に対向するように、回転軸AXよりも+Z側に配置される。
【0089】
上述のように、回転軸AXよりも-Z側に存在するシリンダポート20に作動油が吸引される。低圧ポート40は、作動油を吸引するシリンダポート20に対向するように、回転軸AXよりも-Z側に配置される。
【0090】
ピストン6は、シリンダポート20が第1領域50に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回するときに、作動油を吐出する状態から吸引する状態に切り換わる。すなわち、シリンダボア12の作動油は、シリンダポート20が第1領域50に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回するときに、高圧状態から低圧状態に切り換わる。油圧ポンプ1は、シリンダポート20が第1領域50に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回するときに、吐出工程から吸込工程に移行する。
【0091】
ピストン6は、シリンダポート20が第2領域60に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回するときに、作動油を吸引する状態から吐出する状態に切り換わる。すなわち、シリンダボア12の作動油は、シリンダポート20が第2領域60に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回するときに、低圧状態から高圧状態に切り換わる。油圧ポンプ1は、シリンダポート20が第2領域60に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回するときに、吸込工程から吐出工程に移行する。
【0092】
[残圧捨てポート]
図5は、実施形態に係るバルブプレート9の一部を示す拡大図である。
図5は、
図4の第1領域50の近傍を示す拡大図である。
【0093】
図4及び
図5に示すように、バルブプレート9は、第1領域50において上死点位置51と低圧ポート40との間に設けられた残圧捨てポート70を有する。残圧捨てポート70は、回転軸AXの周方向において、上死点位置51と低圧ポート40の後側部42との間に設けられる。残圧捨てポート70は、作動油タンクに接続される。残圧捨てポート70は、バルブプレート9を貫通する。シリンダブロック5のシリンダボア12とバルブプレート9の第1領域50との間に存在する作動油の少なくとも一部は、残圧捨てポート70から排出される。
【0094】
実施形態において、残圧捨てポート70は、第1残圧捨てポート71と、回転軸AXの径方向において第1残圧捨てポート71とは異なる位置に配置された第2残圧捨てポート72とを含む。
【0095】
上述のように、油圧ポンプ1は、シリンダポート20が第1領域50に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回するときに、吐出工程から吸込工程に移行する。油圧ポンプ1が吐出工程から吸込工程に移行するときに作動油の圧力が変化する。作動油の圧力が急激に変化すると、作動油に気泡が生成されるキャビテーション現象が発生する可能性がある。キャビテーション現象が発生すると、異音が発生したり、効率が低下したり、油圧ポンプ1の劣化が促進されたりする可能性がある。すなわち、キャビテーション現象が発生すると、油圧ポンプ1の性能が低下する可能性がある。
【0096】
残圧捨てポート70は、油圧ポンプ1が吐出工程から吸込工程に移行するときに、作動油の圧力の急激な変化を抑制する。第1領域50に残圧捨てポート70が設けられていない場合、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態から低圧ポート40に対向する状態に移行すると、シリンダボア12の作動油の圧力は急激に低下する。作動油の圧力は急激に低下すると、キャビテーション現象が発生する。
【0097】
残圧捨てポート70は、上死点位置51よりも回転方向後方側に設けられる。吸引工程から吐出工程に移行した直後において、シリンダブロック5のシリンダボア12とバルブプレート9の第1領域50との間に存在する作動油の少なくとも一部が残圧捨てポート70から排出される。すなわち、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は、所定量だけ低下する。シリンダボア12の作動油の圧力が所定量だけ低下した後、シリンダポート20は低圧ポート40に対向する状態に移行する。シリンダボア12の作動油の圧力が所定量だけ低下した後、シリンダポート20は低圧ポート40に対向する状態に移行するので、油圧ポンプ1が吐出工程から吸込工程に移行するときに作動油の圧力の急激な変化が抑制される。そのため、キャビテーション現象の発生が抑制される。
【0098】
第1残圧捨てポート71は、例えば円形状である。第2残圧捨てポート72は、例えば円形状である。第1残圧捨てポート71の大きさは、例えば第2残圧捨てポート72の大きさよりも小さい。
【0099】
径方向において、第1残圧捨てポート71の位置と第2残圧捨てポート72の位置とは異なる。径方向において、第1残圧捨てポート71は、第2残圧捨てポート72よりも、第1領域50の中心に近い位置に設けられる。径方向における第1領域50の中心とは、径方向における内側部53と外側部54との間の中心という。実施形態において、仮想円VCは、径方向における第1領域50の中心を通る。
【0100】
すなわち、径方向において、回転軸AXと低圧ポート40の中心との距離をRb、回転軸AXと第1残圧捨てポート71の中心との距離をR1、回転軸AXと第2残圧捨てポート72との距離をR2としたとき、以下の(1)式の条件を満足するように、第1残圧捨てポート71及び第2残圧捨てポート72のそれぞれが設けられる。
【0101】
|Rb-R1|<|Rb-R2| …(1)
【0102】
実施形態において、回転軸AXと径方向における低圧ポート40の中心との距離Rbは、回転軸AXと径方向における第1領域50の中心との距離と等しい。径方向における低圧ポート40の中心とは、径方向における内側部43と外側部44との間の中心という。実施形態において、仮想円VCは、径方向における低圧ポート40の中心を通る。
【0103】
実施形態において、第1残圧捨てポート71は、径方向における第1領域50の中心に配置される。すなわち、実施形態において、以下の(2)式の条件を満足するように、第1残圧捨てポート71が設けられる。
【0104】
Rb=R1 …(2)、
【0105】
なお、第1残圧捨てポート71は、径方向における第1領域50の中心からずれた位置に配置されてもよい。
【0106】
第2残圧捨てポート72は、第1残圧捨てポート71よりも径方向内側及び径方向外側のそれぞれに配置される。実施形態において、第2残圧捨てポート72は、第1残圧捨てポート71よりも径方向内側及び径方向外側のそれぞれに1つずつ配置される。
【0107】
以下の説明において、第1残圧捨てポート71よりも径方向内側に配置される第2残圧捨てポート72を適宜、第2残圧捨てポート72i、と称し、第1残圧捨てポート71よりも径方向外側に配置される第2残圧捨てポート72を適宜、第2残圧捨てポート72o、と称する。
【0108】
径方向において、第1残圧捨てポート71と第2残圧捨てポート72iとの距離は、第1残圧捨てポート71と第2残圧捨てポート72oとの距離と等しい。
【0109】
すなわち、径方向において、回転軸AXと径方向内側の第2残圧捨てポート72iの中心との距離をR2i、回転軸AXと径方向外側の第2残圧捨てポート72oの中心との距離をR2o、としたとき、以下の(3)式の条件を満足するように、第1残圧捨てポート71、第2残圧捨てポート72i、及び第2残圧捨てポート72oのそれぞれが設けられる。
【0110】
|R1-R2i|=|R1-R2o| …(3)
【0111】
実施形態において、低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である。後側部42は、第1部分421と、第1部分421よりも回転方向後方側に突出する第2部分422とを含む。第1部分421は、後側底部46を含む。第2部分422は、後側頂部47を含む。第2部分422は、第1部分421よりも径方向内側及び径方向外側のそれぞれに配置される。
【0112】
径方向において、回転軸AXと第2部分422の少なくとも一部との距離と、回転軸AXと第2残圧捨てポート72との距離とが一致するように、第2残圧捨てポート72が設けられる。第2残圧捨てポート72は、第2部分422の近傍に配置される。
【0113】
径方向において、回転軸AXと第2残圧捨てポート72iとの距離は、回転軸AXと第1部分421よりも径方向内側に配置された第2部分422の少なくとも一部との距離と一致する。径方向において、回転軸AXと第2残圧捨てポート72oとの距離は、回転軸AXと後側底部46よりも径方向外側に配置された後側頂部47の少なくとも一部との距離と一致する。
【0114】
また、径方向において、回転軸AXと第1部分421の少なくとも一部との距離と、回転軸AXと第1残圧捨てポート71との距離とが一致するように、第1残圧捨てポート71が設けられる。実施形態においては、径方向において、回転軸AXと後側底部46との距離と、回転軸AXと第1残圧捨てポート71の中心との距離とが一致する。
【0115】
周方向において、上死点位置51と第1残圧捨てポート71との距離は、上死点位置51と第2残圧捨てポート72との距離よりも短い。すなわち、第1残圧捨てポート71は、第2残圧捨てポート72よりも回転方向後方側に配置される。
【0116】
[シリンダブロック及びバルブプレートの動作]
図6は、実施形態に係るシリンダブロック5及びバルブプレート9の動作を説明するための図である。
図6に示すように、油圧ポンプ1が吐出工程から吸引工程に移行するとき、シリンダポート20が第1領域50に対向した状態で回転軸AXの周囲を旋回する。
【0117】
図6に示すように、径方向において、高圧ポート30の寸法と、第1領域50の寸法と、低圧ポート40の寸法と、シリンダポート20の寸法とは、同一である。
【0118】
径方向における高圧ポート30の寸法とは、径方向における内側部33と外側部34との距離をいう。径方向における第1領域50の寸法とは、径方向における内側部53と外側部54との距離をいう。径方向における低圧ポート40の寸法とは、径方向における内側部43と外側部44との距離をいう。径方向におけるシリンダポート20の寸法とは、径方向における内側部23と外側部24との距離をいう。
【0119】
径方向において、内側部33の少なくとも一部の位置と内側部23の位置とは、一致する。径方向において、外側部34の少なくとも一部の位置と外側部24の位置とは、一致する。
【0120】
径方向において、内側部53の少なくとも一部の位置と内側部23の位置とは、一致する。径方向において、外側部54の少なくとも一部の位置と外側部24の位置とは、一致する。
【0121】
径方向において、内側部43の少なくとも一部の位置と内側部23の位置とは、一致する。径方向において、外側部44の少なくとも一部の位置と外側部24の位置とは、一致する。
【0122】
図6に示すように、実施形態においては、シリンダポート20が第1領域50に対向した状態で、シリンダブロック5が回転すると、シリンダポート20は、第1残圧捨てポート71に対向した後、第2残圧捨てポート72に対向し、第2残圧捨てポート72に対向した後、低圧ポート40に対向する。すなわち、シリンダブロック5は、シリンダポート20を介して、シリンダボア12が第1残圧捨てポート71に接続された後に第2残圧捨てポート72に接続され、第2残圧捨てポート72に接続された後に低圧ポート40に接続されるように回転する。
【0123】
第1領域50は、シリンダボア12の作動油に基づいてシリンダブロック5の回転アシスト力が発生するアシスト領域501と、第2残圧捨てポート72とシリンダボア12との接続によりシリンダボア12の作動油の圧力が低下する残圧捨て領域502とを含む。
【0124】
図6に示すように、アシスト領域501は、周方向において上死点位置51と第2残圧捨てポート72との間の領域である。第1残圧捨てポート71は、アシスト領域501に設けられる。第2残圧捨てポート72は、アシスト領域501に設けられない。
【0125】
アシスト領域501は、第2残圧捨てポート72を有しない平面領域である。シリンダボア12のシリンダポート20がアシスト領域501に対向している状態においては、ピストン6が上死点から下死点に移動を開始するものの、シリンダボア12の作動油の圧力は十分に高い。シリンダボア12とアシスト領域501との間の高い圧力の作動油により、シリンダブロック5の回転がアシストされる。シリンダボア12の作動油の高い圧力がシリンダブロック5の回転アシスト力に変換されることにより、油圧ポンプ1の効率が向上する。
【0126】
実施形態においては、アシスト領域501に第1残圧捨てポート71が配置される。シリンダポート20がアシスト領域501に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の少なくとも一部が第1残圧捨てポート71から排出される。シリンダボア12の作動油の少なくとも一部が第1残圧捨てポート71から排出されることにより、作動油の圧力は第1所定量だけ低下する。
【0127】
第1残圧捨てポート71の大きさは、第2残圧捨てポート72の大きさよりも小さい。シリンダポート20がアシスト領域501に対向する状態においては、第1残圧捨てポート71から排出される作動油の量は、微量な第1量であり、シリンダボア12の作動油の圧力の低下量である第1所定量は小さい。すなわち、シリンダボア12の作動油の圧力は僅かに低下するものの、シリンダボア12の作動油の高い圧力は維持される。そのため、シリンダブロック5の回転アシスト力が得られる。
【0128】
図6に示すように、残圧捨て領域502は、周方向においてアシスト領域501と低圧ポート40との間の領域である。第2残圧捨てポート72は、残圧捨て領域502に設けられる。
【0129】
残圧捨て領域502は、第2残圧捨てポート72を有する領域である。シリンダボア12のシリンダポート20が残圧捨て領域502に対向している状態において、シリンダボア12の作動油の少なくとも一部が第2残圧捨てポート72から排出される。シリンダボア12の作動油の少なくとも一部が第1残圧捨てポート71から排出されることにより、作動油の圧力は第2所定量だけ低下する。
【0130】
第2残圧捨てポート72の大きさは、第1残圧捨てポート71の大きさよりも大きい。シリンダポート20が残圧捨て領域502に対向する状態においては、第2残圧捨てポート72から作動油の量は、第1量よりも多い第2量であり、シリンダボア12の作動油の圧力の低下量である第2所定量は第1所定量よりも大きい。
【0131】
第2残圧捨てポート72は、径方向に複数設けられる。実施形態においては、残圧捨て領域502に第2残圧捨てポート72iと第2残圧捨てポート72oとが設けられる。
図6に示すように、シリンダブロック5が回転すると、シリンダポート20は、複数の第2残圧捨てポート72と同時に接続される。実施形態においては、
図6に示すように、シリンダブロック5が回転すると、シリンダポート20の前側部21が、第2残圧捨てポート72iと第2残圧捨てポート72oとに同時に接続する。シリンダボア12の作動油は、複数の第2残圧捨てポート72oから十分に排出される。
【0132】
シリンダポート20がアシスト領域501に対向する状態から残圧捨て領域502に対向する状態に移行した後、低圧ポート40に対向する状態に移行する。上述のように、シリンダポート20がアシスト領域501に対向する状態においては、第1残圧捨てポート71から作動油が排出されることにより、シリンダボア12の作動油の圧力は、第1所定量だけ低下する。シリンダポート20が残圧捨て領域502に対向する状態においては、第2残圧捨てポート72から作動油が排出されることにより、シリンダボア12の作動油の圧力は、第1所定量よりも大きい第2所定量だけ低下する。すなわち、実施形態においては、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は、2段階で低下する。シリンダボア12の作動油の圧力は、2段階で低下した後、シリンダポート20が低圧ポート40に対向する。これにより、油圧ポンプ1が吐出工程から吸込工程に移行するときに作動油の圧力の急激な変化が抑制される。そのため、キャビテーション現象の発生が抑制される。
【0133】
上述のように、シリンダポート20の回転方向前方側の縁部である前側部21は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である。低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状である。実施形態において、シリンダポート20の前側部21の形状は、低圧ポート40の後側部42の形状と一致する。そのため、シリンダポート20が残圧捨て領域502に対向する状態から低圧ポート40に対向する状態に移行するとき、前側部21と後側部42とは重複する。
【0134】
なお、
図4に示したように、高圧ポート30の後側部32にノッチ37が設けられる。ノッチ37は、シリンダボア12が高圧ポート30に接続される前の自己圧絞りとして機能する。ノッチ37が設けられることにより、シリンダボア12と高圧ポート30とが接続される直前に、シリンダボア12の作動油の圧力は、高圧ポート30の作動油の圧力に徐々に近付く。そのため、シリンダボア12と高圧ポート30とが接続されるとき、異音の発生が抑制される。なお、ノッチ37は省略されてもよい。
【0135】
[性能試験結果]
比較例に係る油圧ポンプ及び実施例に係る油圧ポンプ1のそれぞれについて性能試験を実施した。性能試験として、キャビテーションリスクの計測及び回転アシスト力の計測を実施した。キャビテーションリスクの計測として、シリンダポートがバルブプレートの第1領域に対向したときのシリンダボアの作動油における負圧領域を計測した。
【0136】
比較例に係る油圧ポンプは、国際公開第2016/067472号に開示されているような残圧捨てポートが1つ設けられている油圧ポンプである。実施例に係る油圧ポンプ1は、上述の実施形態で説明したような第1残圧捨てポート71及び2つの第2残圧捨てポート72を有する油圧ポンプ1である。
【0137】
図7及び
図8のそれぞれは、油圧ポンプの性能試験結果を示す図である。
【0138】
図7は、比較例に係る油圧ポンプ及び実施例に係る油圧ポンプ1のキャビテーションリスクを示す図である。キャビテーションリスクが低い方がキャビテーション現象の発生が抑制され、油圧ポンプの性能が優れているといえる。
図7に示すように、実施例に係る油圧ポンプ1のキャビテーションリスクは、比較例に係る油圧ポンプのキャビテーションリスクよりも12[%]低減することが確認できた。
【0139】
図8は、比較例に係る油圧ポンプ及び実施例に係る油圧ポンプ1の回転アシスト力を示す図である。回転アシスト力が高い方が油圧ポンプの効率が良く、油圧ポンプの性能が優れているといえる。
図8に示すように、実施例に係る油圧ポンプ1の回転アシスト力は、比較例に係る油圧ポンプの回転アシスト力よりも9[%]向上することが確認できた。
【0140】
[効果]
以上説明したように、実施形態によれば、周方向においてバルブプレート9の高圧ポート30と低圧ポート40との間に第1領域50が配置される。第1領域50は、上死点位置51を有する。残圧捨てポート70は、第1領域50の周方向において上死点位置51と低圧ポート40との間に設けられる。残圧捨てポート70は、径方向において異なる位置に配置された第1残圧捨てポート71と第2残圧捨てポート72とを含む。残圧捨てポート70が径方向に少なくとも2つ配置されることにより、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は所定量だけ低減される。シリンダボア12の作動油の圧力が所定量だけ低減された後に、シリンダボア12のシリンダポート20が低圧ポート40に対向するので、油圧ポンプ1が吐出工程から吸込工程に移行するときに作動油の圧力の急激な変化が抑制される。したがって、キャビテーション現象の発生が抑制される。
【0141】
第1残圧捨てポート71と第2残圧捨てポート72とは、(1)式の条件を満足するように配置される。すなわち、第1残圧捨てポート71は、径方向において第1領域50の中央部に配置され、第2残圧捨てポート72は、径方向において第1領域50の端部に配置される。これにより、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は適正に低減される。
【0142】
第1残圧捨てポート71は、(2)式の条件を満足するように配置される。すなわち、第1残圧捨てポート71は、径方向において第1領域50の中心に配置される。これにより、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は適正に低減される。
【0143】
第2残圧捨てポート72は、第1残圧捨てポート71よりも径方向内側に配置される第2残圧捨てポート72iと、第1残圧捨てポート71よりも径方向外側に配置される第2残圧捨てポート72oとを含む。第1残圧捨てポート71、第2残圧捨てポート72i、及び第2残圧捨てポート72oのそれぞれから作動油が排出されることにより、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は適正に低減される。
【0144】
第1残圧捨てポート71と第2残圧捨てポート72iと第2残圧捨てポート72oとは、(3)式の条件を満足する。これにより、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は適正に低減される。
【0145】
周方向において、上死点位置51と第1残圧捨てポート71との距離は、上死点位置51と第2残圧捨てポート72との距離よりも短い。すなわち、第1残圧捨てポート71は、第2残圧捨てポート72よりも回転方向後方側に配置される。そのため、シリンダポート20が第1領域50に対向する状態において、シリンダボア12の作動油の圧力は、段階的に低減される。これにより、キャビテーション現象の発生は効果的に抑制される。
【0146】
第1残圧捨てポート71の大きさは、第2残圧捨てポート72の大きさよりも小さい。そのため、シリンダボア12の作動油の圧力は、第1所定量だけ低下した後、第1所定量よりも大きい第2所定量だけ低下する。シリンダボア12の作動油の圧力が第1所定量及び第2所定量だけ低下した後に、シリンダポート20が低圧ポート40に対向するので、シリンダボア12の作動油の圧力は適正に低減される。したがって、キャビテーション現象の発生は効果的に抑制される。
【0147】
第1領域50は、上死点位置51と第2残圧捨てポート72との間に配置され、シリンダボア12の作動油に基づいてシリンダブロック5の回転アシスト力が発生するアシスト領域501と、アシスト領域501と低圧ポート40との間に配置され、第2残圧捨てポート72とシリンダボア12との接続によりシリンダボア12の作動油の圧力が低下する残圧捨て領域502とを含む。第1残圧捨てポート71は、アシスト領域501に設けられる。第2残圧捨てポート72は、残圧捨て領域502に設けられる。アシスト領域501が設けられることにより、シリンダブロック5に回転アシスト力が付与されるので、油圧ポンプ1の効率が向上する。また、アシスト領域501に、第2残圧捨てポート72よりも小さい第1残圧捨てポート71が設けられる。そのため、回転アシスト力を発生しつつ、作動油の圧力を低減することができる。残圧捨て領域502が設けられることにより、作動油の圧力が十分に低減される。したがって、シリンダポート20が低圧ポート40に対向したときに作動油の圧力が急激に低下することが抑制される。したがって、キャビテーション現象の発生は効果的に抑制される。
【0148】
シリンダブロック5は、シリンダボア12が第1残圧捨てポート71に接続された後に第2残圧捨てポート72に接続され、第2残圧捨てポート72に接続された後に低圧ポート40に接続されるように回転する。これにより、シリンダボア12の作動油の圧力が2段階で低減された後、シリンダボア12が低圧ポート40に接続される。したがって、シリンダポート20が低圧ポート40に対向したときに作動油の圧力が急激に低下することが抑制される。したがって、キャビテーション現象の発生は効果的に抑制される。
【0149】
第2残圧捨てポート72は、径方向に複数設けられる。シリンダブロック5の回転により、シリンダポート20は、複数の第2残圧捨てポート72と同時に接続される。シリンダポート20が複数の第2残圧捨てポート72と同時に接続されることにより、シリンダボア12の作動油の圧力は十分に低減される。シリンダボア12の作動油の圧力が十分に低減された後、シリンダボア12が低圧ポート40に接続される。したがって、シリンダポート20が低圧ポート40に対向したときに作動油の圧力が急激に低下することが抑制される。したがって、キャビテーション現象の発生は効果的に抑制される。
【0150】
低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42は、第1部分421と、第1部分421よりも回転方向後方側に突出する第2部分422とを含む。径方向において、第1部分421の少なくとも一部の位置と第1残圧捨てポート71の位置とが一致し、第2部分422の少なくとも一部の位置と第2残圧捨てポート72の位置とが一致する。すなわち、径方向において、回転軸AXと第1部分421の少なくとも一部との距離と、回転軸AXと第1残圧捨てポート71との距離とが一致する。回転軸AXと第2部分422の少なくとも一部との距離と、回転軸AXと第2残圧捨てポート72との距離とが一致する。これにより、シリンダポート20が低圧ポート40に接続される直前に第2残圧捨てポート72から作動油が排出される。そのため、アシスト領域501を十分に確保しつつ、シリンダボア12の作動油の圧力を適正に低減することができる。
【0151】
シリンダポート20の回転方向前方側の縁部である前側部21の形状は、低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42の形状と一致する。これにより、シリンダブロック5の回転によりシリンダポート20と低圧ポート40とが接続されるとき、前側部21と後側部42とが重複する。これにより、吸込工程において吸込能力が低下することが抑制される。すなわち、アシスト領域501が大きくても、油圧ポンプ1の吸込能力の低下が抑制される。
【0152】
[その他の実施形態]
上述の実施形態においては、シリンダポート20の回転方向前方側の縁部である前側部21は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状であり、低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42は、回転方向前方側に向かって突出する円弧状であることとした。低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42は、回転方向後方側に向かって突出する円弧状でもよい。
【0153】
上述の実施形態においては、シリンダポート20の回転方向前方側の縁部である前側部21の形状は、低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42の形状と一致することとした。前側部21の形状と後側部42の形状とは、一致しなくてもよい。
【0154】
上述の実施形態においては、低圧ポート40の回転方向後方側の縁部である後側部42は、第1部分421と、第1部分421よりも回転方向後方側に突出する第2部分422とを含むこととした。また、第2部分422は、第1部分421の径方向内側及び径方向外側のそれぞれに配置されることとした。第2部分422は、第1部分421の径方向内側のみに配置されてもよいし、第1部分421の径方向外側のみに配置されてもよい。
【0155】
上述の実施形態においては、径方向において、第1部分421の少なくとも一部の位置と第1残圧捨てポート71の位置とが一致し、第2部分422の少なくとも一部の位置と第2残圧捨てポート72の位置とが一致することとした。径方向において、第1部分421の位置と第1残圧捨てポート71の位置とは一致しなくてもよい。径方向において、第2部分422の少なくとも一部の位置と第2残圧捨てポート72の位置とは一致しなくてもよい。
【0156】
上述の実施形態においては、シリンダポート20は、シリンダブロック5の回転により、第2残圧捨てポート72iと第2残圧捨てポート72oとに同時に接続されることとした。シリンダポート20は、シリンダブロック5の回転により、第2残圧捨てポート72iに接続された後、第2残圧捨てポート72oに接続されてもよい。シリンダポート20は、シリンダブロック5の回転により、第2残圧捨てポート72oに接続された後、第2残圧捨てポート72iに接続されてもよい。すなわち、シリンダポート20は、複数の第2残圧捨てポート72に順次接続されてもよい。
【0157】
上述の実施形態においては、シリンダポート20は、シリンダブロック5の回転により、第1残圧捨てポート71に接続された後に第2残圧捨てポート72に接続され、第2残圧捨てポート72に接続された後に低圧ポート40に接続されることとした。シリンダポート20は、シリンダブロック5の回転により、第1残圧捨てポート71と第2残圧捨てポート72とに同時に接続されてもよい。
【0158】
上述の実施形態においては、第1残圧捨てポート71の大きさは、第2残圧捨てポート72の大きさよりも小さいこととした。第1残圧捨てポート71の大きさは、第2残圧捨てポート72の大きさと等しくてもよいし、第2残圧捨てポート72の大きさよりも大きくてもよい。
【0159】
上述の実施形態においては、周方向において、上死点位置51と第1残圧捨てポート71との距離は、上死点位置51と第2残圧捨てポート72との距離よりも短いこととした。すなわち、第1残圧捨てポート71は、第2残圧捨てポート72よりも回転方向後方側に配置されることとした。第1残圧捨てポート71は、第2残圧捨てポート72よりも回転方向前方側に配置されてもよい。
【0160】
上述の実施形態においては、第1残圧捨てポート71、第2残圧捨てポート72i、及び第2残圧捨てポート72oのそれぞれは、(3)式の条件を満足するように配置されることとした。
|R1-R2i|>|R1-R2o| …(3A)
|R1-R2i|<|R1-R2o| …(3B)
の条件を満足してもよい。
【0161】
上述の実施形態においては、第2残圧捨てポート72は、第1残圧捨てポート71よりも径方向内側に配置される第2残圧捨てポート72i及び第1残圧捨てポート71よりも径方向外側に配置される第2残圧捨てポート72oを含むこととした。第2残圧捨てポート72iが配置され、第2残圧捨てポート72oは省略されてもよい。第2残圧捨てポート72oが配置され、第2残圧捨てポート72iは省略されてもよい。
【0162】
上述の実施形態においては、第1残圧捨てポート71は、径方向における第1領域50の中心に配置されることとした。すなわち、第1残圧捨てポート71は、(2)式の条件を満足するように配置されることとした。第1残圧捨てポート71は、(2)式の条件を満足しなくてもよい。すなわち、第1残圧捨てポート71は、径方向における第1領域50の中心からずれた位置に配置されてもよい。
【0163】
上述の実施形態においては、周方向において、上死点位置51と第1残圧捨てポート71との距離は、上死点位置51と第2残圧捨てポート72との距離よりも短いこととした。周方向において、上死点位置51と第1残圧捨てポート71との距離と、上死点位置51と第2残圧捨てポート72との距離とは、等しくてもよい。すなわち、複数の残圧捨てポート70が径方向に配置されてもよい。径方向に配置される残圧捨てポート70は、2つでもよいし、3つ以上の任意の複数でもよい。例えば、1つの第1残圧捨てポート71と、1つの第2残圧捨てポート72とが、径方向に配置されてもよい。複数の残圧捨てポート70が径方向に配置される場合において、複数の残圧捨てポート70の大きさは、同じでもよいし、異なってもよい。
【0164】
上述の実施形態においては、本開示に係る構成要素が油圧ポンプ1に適用される例について説明した。本開示に係る構成要素が油圧モータに適用されてもよい。油圧モータの場合、吐出ポート101から作動油が吸引され、吸込ポート102から作動油が吐出される。
【符号の説明】
【0165】
1…油圧ポンプ、2…ケース、2A…筒部、2B…ベース部、3…エンドキャップ、4…シャフト、5…シリンダブロック、5A…摺動面、6…ピストン、6A…凹部、7…シュー、7A…凸部、7B…摺動部、8…斜板、8A…凹部、8B…摺動面、9…バルブプレート、9A…摺動面、10A…ベアリング、10B…ベアリング、11…スプライン機構、12…シリンダボア、13…支持部材、14…リング、15…ばね、16…可動リング、17…ニードル、18…押圧部材、19…ピストン、20…シリンダポート、21…前側部、22…後側部、23…内側部、24…外側部、25…前側頂部、26…後側頂部、30…高圧ポート、31…前側部、32…後側部、33…内側部、34…外側部、35…前側頂部、36…後側頂部、37…ノッチ、40…低圧ポート、41…前側部、42…後側部、43…内側部、44…外側部、45…前側頂部、46…後側底部、47…後側頂部、421…第1部分、422…第2部分、50…第1領域、51…上死点位置、53…内側部、54…外側部、60…第2領域、61…下死点位置、63…内側部、64…外側部、70…残圧捨てポート、71…第1残圧捨てポート、72…第2残圧捨てポート、72i…第2残圧捨てポート、72o…第2残圧捨てポート、101…吐出ポート、102…吸込ポート、501…アシスト領域、502…残圧捨て領域、AX…回転軸、AR…矢印、VC…仮想円。