(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法および空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20231101BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEQ
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2019234677
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123193(JP,A)
【文献】特開2013-018890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉式混練機が備える混練室内で、少なくともゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する混練工程を有するゴム組成物の製造方法であって、
前記密閉式混練機は、前記混練室の上方に位置し、内部に筒状の空間を有するネック部と、前記ネック部の筒状の空間内を上下に移動可能であり、前記ゴム組成物の混練時に、前記混練室内の前記ゴム組成物を上方から押付可能なラムと、を備えるものであり、
前記混練工程が、一定時間の間、前記ラムを非押付状態に保持しつつ、
150~170℃に温度制御した状態で混練する工程であ
り、
前記混練室が、制御部によって回転速度の自動制御が可能な混練ロータを備え、内部の温度を検出して出力することが可能な混練室であり、
前記混練工程の前に、前記制御部に対して制御時間および目標温度に関する設定を行う準備工程を有し、
前記混練工程が、前記制御時間が経過するまでの間、前記混練室内の実測温度に関する情報および前記目標温度に基づき、前記制御部によって前記実測温度を前記目標温度とすためのPID制御によって前記回転速度を自動制御しながら前記混練室内を混練するステップであることを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
密閉式混練機が備える混練室内で、少なくともゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する混練工程を有するゴム組成物の製造方法であって、
前記密閉式混練機は、前記混練室の上方に位置し、内部に筒状の空間を有するネック部と、前記ネック部の筒状の空間内を上下に移動可能であり、前記ゴム組成物の混練時に、前記混練室内の前記ゴム組成物を上方から押付可能なラムと、を備えるものであり、
前記混練工程が、一定時間の間、前記ラムを非押付状態に保持しつつ、
150~170℃に温度制御した状態で混練する工程であ
り、
前記混練工程が、シリカとシランカップリング剤とのカップリング反応が進行する下限温度未満に温度制御した状態で、少なくともゴム成分、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する第1ステップと、
前記カップリング反応が進行する下限温度以上に温度制御した状態で、前記カップリング反応を進行させつつ、前記ゴム組成物を混練する第2ステップと、を含み、
前記第2ステップが、一定時間の間、前記ラムを非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練するステップであり、
前記混練室が、制御部によって回転速度の自動制御が可能な混練ロータを備え、内部の温度を検出して出力することが可能な混練室であり、
前記混練工程の前に、前記制御部に対して制御時間および目標温度に関する設定を行う準備工程を有し、
前記混練工程が含む第1ステップおよび第2ステップのいずれもが、前記制御時間が経過するまでの間、前記混練室内の実測温度に関する情報および前記目標温度に基づき、前記制御部によって前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御しながら前記混練室内を混練するステップであることを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のゴム組成物の製造方法によりゴム組成物を製造する材料工程と、前記材料工程で製造された前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを製造する工程とを含む空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する工程を有するゴム組成物の製造方法、および該ゴム組成物を原料として得られる空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム補強用充填剤として、カーボンブラックに代えてシリカが使用されるようになってきている。しかし、シリカはカーボンブラックに比べるとゴムに対する補強性が弱いため、この補強性を高めるべく、シリカをゴム成分に配合する際にシランカップリング剤を添加するのが一般的である。シランカップリング剤を配合剤として添加することで、カップリング反応によってシランカップリング剤がシリカに固定化され、更にゴム成分がシランカップリング剤と反応するため、シリカのゴムへの分散性が向上して補強性が高まる。
【0003】
ところで、シリカとシランカップリング剤との反応を効率良く行わせるためには、ゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を特定の温度で長時間混練することが望ましい。低温環境下ではシリカとシランカップリング剤とのカップリング反応は起こりづらく、かといってあまりに高温になると、ゴムの架橋反応が起こり、粘度が急激に上昇してゲル化してしまう。
【0004】
ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を存在させた状態で密閉式混練機が備える混練室にて混練を行うと、ゴムの粘性流動による発熱、およびカップリング反応に伴う発熱に起因して、混練室内の温度が上昇する。このため、短時間のうちにゲル化される温度まで上昇してしまい、カップリング反応の時間を十分に取れないという問題がある。
【0005】
下記特許文献1には、密閉式混練機を用いてゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を混練する混練工程と、混練工程に引き続き、混練により得られたゴム塊を、密閉混練機下方の高温雰囲気下において所定時間保持して、ゴム塊に、シリカとシランカップリング剤との反応に必要な熱量を供給する保持工程とを有するゴム組成物の製造方法が記載されている。
【0006】
下記特許文献2には、ゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を投入して混練し、第一混練物を得る第一工程と、第一混練物を更に混練し、第二混練物を得る第二工程と、第二混練物および加硫薬品を投入して混練し、未加硫ゴム組成物を得る第三工程とを含み、第一工程において、150~170℃の範囲内で設定された反応温度を維持しながら、ゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を混練する反応処理を、特定の条件を満たすまで実施するタイヤ用ゴム組成物の製造方法が記載されている。
【0007】
下記特許文献3には、ゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を投入して混練し、第一混練物を得る第一工程と、第一混練物を更に混練し、第二混練物を得る第二工程と、第二混練物および加硫薬品を投入して混練し、未加硫ゴム組成物を得る第三工程とを含み、第一工程において、110~130℃の範囲内で設定された反応温度を維持しながら、ゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を混練する反応処理を、反応温度が110℃以上120℃未満の場合は90秒以上、反応温度が120~130℃の場合は30秒以上実施するタイヤ用ゴム組成物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-184289号公報
【文献】特開2018-70753号公報
【文献】特開2018-104586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献に記載の技術ではいずれも、ゴム組成物中でのシリカの分散性向上ために、さらにはゴム組成物の粘度低減のために、混練工程を複数回実施する必要がある。このため、ゴム組成物の製造工程全体で消費する電力消費が多くなる一方で、シリカの分散性に関し、さらなる向上の余地があることが判明した。
【0010】
本発明は上記課題解決を図るものであり、シリカの分散性に優れ、かつ製造工程全体で消費する電力消費の低減が可能なゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の構成により達成し得る。本発明は、密閉式混練機が備える混練室内で、少なくともゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する混練工程を有するゴム組成物の製造方法であって、前記密閉式混練機は、前記混練室の上方に位置し、内部に筒状の空間を有するネック部と、前記ネック部の筒状の空間内を上下に移動可能であり、前記ゴム組成物の混練時に、前記混練室内の前記ゴム組成物を上方から押付可能なラムと、を備えるものであり、前記混練工程が、一定時間の間、前記ラムを非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練する工程であることを特徴とするゴム組成物の製造方法に関する。
【0012】
上記ゴム組成物の製造方法において、前記混練室が、制御部によって回転速度の自動制御が可能な混練ロータを備え、内部の温度を検出して出力することが可能な混練室であり、前記混練工程の前に、前記制御部に対して制御時間および目標温度に関する設定を行う準備工程を有し、前記混練工程が、前記制御時間が経過するまでの間、前記混練室内の実測温度に関する情報および前記目標温度に基づき、前記制御部によって前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御しながら前記混練室内を混練するステップであることが好ましい。
【0013】
上記ゴム組成物の製造方法において、前記混練工程が、シリカとシランカップリング剤とのカップリング反応が進行する下限温度未満に温度制御した状態で、少なくともゴム成分、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する第1ステップと、前記カップリング反応が進行する下限温度以上に温度制御した状態で、前記カップリング反応を進行させつつ、前記ゴム組成物を混練する第2ステップと、を含み、前記第2ステップが、一定時間の間、前記ラムを非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練するステップであることが好ましい。
【0014】
上記ゴム組成物の製造方法において、前記混練室が、制御部によって回転速度の自動制御が可能な混練ロータを備え、内部の温度を検出して出力することが可能な混練室であり、前記混練工程の前に、前記制御部に対して制御時間および目標温度に関する設定を行う準備工程を有し、前記混練工程が含む第1ステップおよび第2ステップのいずれもが、前記制御時間が経過するまでの間、前記混練室内の実測温度に関する情報および前記目標温度に基づき、前記制御部によって前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御しながら前記混練室内を混練するステップであることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記いずれかに記載のゴム組成物の製造方法によりゴム組成物を製造する材料工程と、前記材料工程で製造された前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを製造する工程とを含む空気入りタイヤの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るゴム組成物の製造方法では、一定時間の間、ラムをゴム組成物から非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練する混練工程を有する。かかる混練工程においては、ラムをゴム組成物から非押付状態、つまり混練室内の少なくとも一部が開放系となった状態でゴム組成物が混練されるため、水分などの揮発物を除去しつつ、新鮮な酸素を混入させた状態でゴム組成物を混練することができる。このため、ゴム組成物の粘度低減効果、さらにはシリカの分散効果に優れる。特に混練工程が、制御する温度域が異なる第1ステップおよび第2ステップとを含む場合であって、制御部によって混練室が備える混練ロータの回転速度がPID制御による自動制御がなされる場合、各ステップにおいてそれぞれ、一定の時間にわたって、混練室内の温度を一定の範囲内に留めることができる。これにより、温度を維持しながら一定時間にわたって混練室内で混練することができるので、ある温度以上に達した段階でゴム配合物を排出していた従来の構成と比較して、シリカの分散性に優れたゴム配合物を製造することができる。さらに、混練工程の工数低減が可能となるため、製造工程全体で消費する電力消費の低減が可能となる。特に、最終的にゴム組成物に含有するシリカを、混練工程において一括投入する場合、混練工程の工数が大幅に低減可能となるため、製造工程全体で消費する電力消費の大幅な低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る製造方法において使用可能な密閉式混練機の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るゴム組成物の製造方法は、密閉式混練機が備える混練室内で、少なくともゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する混練工程を有し、該混練工程が、一定時間の間、ラムを非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練する工程である点が特徴である。かかる温度制御は、制御する温度域が1段階である1ステップであってもよいが、本発明では特に混練工程が、制御する温度域が2段階であること、具体的には、以下の第1ステップおよび第2ステップを含む2ステップの混練工程を含むことが好ましい。
【0019】
[第1ステップ]
第1ステップにおいて、シリカとシランカップリング剤とのカップリング反応が進行する下限温度未満の状態で、少なくともゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を混練する。
【0020】
ゴム成分としては、ジエン系ゴムを好適に使用可能である。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含有するブタジエンゴム(SPB)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上のブレンドとして用いることができる。これら例示したジエン系ゴムとしては、必要に応じて、末端を変性したもの(例えば、末端変性BRや、末端変性SBRなど)、あるいは所望の特性を付与すべく改質したもの(例えば、改質NR)も使用可能である。この末端変性ジエン系ゴムとしては、各種変性剤でポリマー末端が変性されたジエン系ゴムを用いることができ、変性方法も公知の種々の方法を用いることができる。具体的に、変性剤としては、スズ化合物、アミノベンゾフェノン化合物、イソシアネート化合物、ジグリシジルアミン化合物、環状イミン化合物、ハロゲン化アルコキシシラン化合物、グリシドキシプロピルメトキシシラン化合物、ネオジウム化合物、アルコキシシラン化合物、アミン化合物とアルコキシシラン化合物の併用などが挙げられる。合成ゴムの場合、その重合法や分子量などは特に制限されることはなく、ゴム組成物が使用される部位や用途により、ゴム種類とブレンド比率の組合せを適宜選択することができる。なお、ポリブタジエンゴム(BR)については、コバルト(Co)触媒、ネオジム(Nd)触媒、ニッケル(Ni)触媒、チタン(Ti)触媒、リチウム(Li)触媒を用いて合成したものに加えて、WO2007-129670に記載のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物を用いて合成したものも使用可能である。これらのジエン系ゴムの中でも、BRおよび/またはSBRの使用が好ましく、SBRの使用がより好ましく、アミンおよびアルコキシシランで変性された変性SBRの使用が特に好ましい。
【0021】
シリカとしては、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル-ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。
【0022】
シランカップリング剤としては、分子中に硫黄を含むものであれば特に限定されず、ゴム組成物においてシリカとともに配合される各種のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(例えば、デグサ社製「Si69」)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(例えば、デグサ社製「Si75」)、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランが挙げられる。
【0023】
本発明に係るゴム組成物の製造方法では、混練工程が有する第1ステップ時点において、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、シリカの配合量が30~150質量部であることが好ましい。従来は、ゴム組成物中のシリカの配合量をかかる範囲内に設定する場合、シリカの分散性向上のために、シリカを複数回に分けて混練する、あるいは一度混練したゴム組成物を再度混練する必要があったところ、本発明では第1ステップの段階で、シリカを高充填した状態、より好適には最終的にゴム組成物が含有するシリカを、混練工程において一括投入した状態で混練工程を実施することができる。しかも、後述する第2ステップを第1ステップに引き続き(ゴム組成物を排出することなく)実施することにより、ゴム組成物中のシリカを一括投入しつつ、シリカの分散性を向上し、かつ複数回の混練が不要となるため、混練工程における電力消費量の低減が可能となる。
【0024】
本発明に係るゴム組成物の製造方法では、混練工程におけるゴム組成物中のシリカの配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、30~150質量部であり、80~130質量部であることが好ましい。また、シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2~15質量部であることが好ましく、より好ましくは6~13質量部である。
【0025】
第1ステップにおいて、シリカとシランカップリング剤とのカップリング反応が進行する下限温度はシリカとシランカップリング剤との組み合わせにより適宜決まるものであるが、例えばカップリング反応によりスルフィド結合が形成される場合、カップリング反応が進行する下限温度は135~145℃の範囲内であり、より具体的にはおよそ140℃である。したがって、第1ステップにおいて、90~130℃の範囲内で温度制御しつつゴム組成物を混練することが好ましく、100~120℃の範囲内で温度制御しつつゴム組成物を混練することがより好ましい。かかる温度範囲内で温度制御する方法としては、例えばPID制御方法が挙げられ、この点については後述する。
【0026】
混練工程が有する第1ステップにおいて、密閉式混練機が備える混練室の容量に対するゴム組成物の体積を示すフィルファクターが70~80%であることが好ましい。フィルファクターが70%未満の状態で混練を実施しても、ゴム組成物の粘度が低く、温度上昇が進行し易くなる結果、温度制御が困難になる場合がある。一方、フィルファクターが80%を超えると、ゴム組成物の混合が不十分となり、シリカの分散性が向上し難い場合がある。
【0027】
本発明において、フィルファクターは具体的に下記計算式により算出可能である。
[フィルファクター]=([ゴム組成物の体積]/[密閉式混練機が備える混練室の容量])×100
【0028】
本発明に係るゴム組成物の製造方法は、フィルファクターが70~80%程度の高フィルファクター混合であっても、ゴム組成物中のシリカを一括投入しつつ、シリカの分散性を向上し、かつ複数回の混練が不要となるため、混練工程における電力消費量の低減が可能となる。
【0029】
[第2ステップ]
第2ステップでは、カップリング反応が進行する下限温度以上に温度制御した状態で、カップリング反応を進行させつつ、ゴム組成物を混練する。前記のとおり、例えばカップリング反応によりスルフィド結合が形成される場合、カップリング反応が進行する下限温度は135~145℃の範囲内であり、より具体的にはおよそ140℃であることから、第2ステップにおいて、140~170℃の範囲内で温度制御しつつゴム組成物を混練することが好ましく、145~165℃の範囲内で温度制御しつつゴム組成物を混練することがより好ましい。かかる温度範囲内で温度制御する方法としても、第1ステップと同様、例えばPID制御方法が挙げられる。
【0030】
本発明では、第1ステップに引き続き(ゴム組成物を排出することなく)第1ステップを実施するため、第2ステップにおける、ゴム成分に対するシリカの配合割合およびフィルファクターは第1ステップと同じである。
【0031】
本発明においては、混練工程が、一定時間の間、ラムを非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練する工程である点が特徴である。混練工程が第1ステップおよび第2ステップを含む2ステップを含む場合、第2ステップが、一定時間の間、ラムを非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練するステップであることが好ましい。この点については後述する。
【0032】
本発明においては、第1ステップおよび第2ステップの両方において、好適にはPID制御方法を利用することができる。具体的には、以下の製造方法;
混練室が、制御部によって回転速度の自動制御が可能な混練ロータを備え、内部の温度を検出して出力することが可能な混練室であり、混練工程の前に、制御部に対して制御時間および目標温度に関する設定を行う準備工程を有し、混練工程が含む第1ステップおよび第2ステップのいずれもが、制御時間が経過するまでの間、混練室内の実測温度に関する情報および目標温度に基づき、制御部によって実測温度を目標温度とするためのPID制御によって回転速度を自動制御しながら混練室内を混練するステップであるゴム組成物の製造方法、を好適に実施することができる。
【0033】
本発明に係るゴム組成物の製造方法は、例えば密閉式混練機を使用することができる。かかる密閉式混練機としては、噛合式インターミックスタイプミキサー、接線式バンバリータイプミキサー、加圧式ニーダーなどが使用可能であるが、特に噛合式インターミックスタイプミキサーが好適である。
【0034】
図1に示す密閉式混練機1は、密閉式のミキサであり、ラム4の昇降に用いられるシリンダ2、少なくともゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を投入するための投入口3、ゴム組成物を混練するための混練室5、混練されたゴム組成物を排出するためのドロップドア7を備える。ラム4は、昇降によって混練室5内の圧力を調整するために配置されている。
【0035】
ラム4が下降しつつ混練室内のゴム組成物にラム4が押付けられた状態では(押付状態)、混練室内は密閉状態に保たれつつ、ゴム組成物が混練される。本発明においては混練工程が、一定時間の間、ラムが非押付状態に保持されつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練される。つまり、混練工程の一定時間の間、ラム4を上昇させることで、混練室内5を開放された状態(非押付状態)に保持する。このため、ゴム組成物から水分などの揮発物が除去されつつ、新鮮な酸素が混入した状態でゴム組成物の混練が実施される。
【0036】
混練室5には、材料を混練するための一対の混練ロータ6が備えられ、この混練ロータ6はモータ(不図示)によって回転軸12を中心に回転駆動される。また、混練室5には、同室内の温度を検出するための温度センサ13が備えられている。この温度センサ13は、例えばドロップドア7の内側に設置されるものとしても構わない。
【0037】
混練ロータ6を回転させるモータは、制御部11からの制御信号に基づいて回転速度が調整される。制御部11は、温度センサ13から送られる混練室5内の温度情報に基づき、モータの回転速度の制御を行う。モータは制御部11によって回転速度を自在に変化できる構成であれば良く、例えばインバータモータで構成される。
【0038】
より具体的には、モータの回転速度は、制御部11の内部に設けられるPID演算処理部によって、温度センサ13が検出する混練室5内の実測温度Tpと目標温度Tsとの偏差から、比例(P)、積分(I)、及び微分(D)の演算の実行に基づくPID制御を実行する。即ち、前記PID演算処理部は、温度センサ13が検出する混練室5内の実測温度Tpと目標温度Tsとの差(偏差e)に比例して制御量を算出する比例(P)動作、偏差eを時間軸方向に積分した積分値により制御量を算出する積分(I)動作、及び偏差eの変化の傾きすなわち微分値より制御量を算出する微分(D)動作によって得られる各制御量の合算値により、モータの回転速度を決定する。
【0039】
以下に、第1ステップおよび第2ステップを含む混練工程にPID制御方法を利用したゴム組成物の製造方法の流れを示す。密閉式混練機1内に、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤が投入されると、第1ステップにおいて、予め準備工程で入力された目標温度Ts1および制御設定時間tm1の値に基づき、制御部11によってモータへのPID制御が開始される。即ち、制御部11からの制御信号に基づきモータの回転速度が決定され、これによって混練ロータ6の回転速度が決定される。前記のとおり、第1ステップにおける目標温度Ts1は90~130℃であり、制御設定時間tm1は10~150秒であることが好ましく、40~90秒であることがより好ましい。
【0040】
ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤の投入方法については、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤の各々を独立して密閉式混練機1内に投入する態様としても構わないし、ゴム成分およびシリカを投入した後、一定の混練処理を施した後にシランカップリング剤を投入する態様としても構わない。
【0041】
制御部11は、制御開始時刻からの経過時間tが制御設定時間tm1以上になるまでの間、モータの回転速度に対するPID制御を行う。具体的な制御内容については、上述したように、温度センサ13から送られる混練室5内の実測温度Tpと目標温度Tsの偏差、偏差の積分値、偏差の微分値に基づき、回転速度を小刻みに変化させる。
【0042】
そして、制御時間tが制御設定時間tm1以上になった時点で、制御部11はモータへのPID制御を終了し、次いで第2ステップにおける目標温度Ts1になるまでゴム組成物の温度を上昇させる。以降は第1ステップと同様であり、第2ステップにおいて、予め入力された目標温度Ts2および制御設定時間tm2の値に基づき、制御部11によってモータへのPID制御が開始される。制御設定時間tm2としては、シリカとシランカップリング剤とのカップリング反応に必要な最低時間を超える時間とする。前記のとおり、第2ステップにおける目標温度Ts2は140~170℃であり、制御設定時間tm2は30~300秒であることが好ましい。
【0043】
第1ステップおよび第2ステップを含む混練工程にPID制御方法を利用したゴム組成物の製造方法の場合、好適には第2ステップにおいて、一定時間の間、ラムを非押付状態に保持しつつ、所定の温度範囲内に温度制御した状態で混練することが好ましい。第2ステップにおいて、ラムを非押付状態に保持する時間は、5秒以上であることが好ましく、30秒以上であることが好ましく、60秒以上であることが好ましい。ただし、第2ステップの制御温度に到達した直後にラムを上昇させて非押付状態とすると、ゴム組成物の温度制御が不安定になる傾向があるため、第2ステップ開始直後ではなく、第2ステップの中間あるいは終盤に非押付状態とすることが好ましい。
【0044】
前記第1ステップおよび第2ステップを含む混練工程終了後、ドロップドア7よりゴム組成物を排出する。その後、冷却されたゴム組成物に硫黄および加硫促進剤などの加硫系配合剤を添加し、混練する工程を経てゴム組成物が製造される。
【0045】
本発明に係るゴム組成物の製造方法では、フィルファクターが70~80%程度の高フィルファクター混合であっても、ゴム組成物中のシリカを一括投入しつつ、混練工程における電力消費量を低減し、かつシリカの分散性に優れたゴム組成物を製造することができる。本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、前記ゴム組成物の製造方法によりゴム組成物を製造する材料工程と、材料工程で製造されたゴム組成物を用いて未加硫タイヤを製造する工程とを含む。本発明において製造された空気入りタイヤは、シリカの分散性に優れるため、WETグリップ性能および転がり抵抗に優れる。以下に具体的な実施例を説明する。
【実施例】
【0046】
各実施例および比較例においては、以下の材料を使用した。
(材料)
・SBR;商品名「SBR1502」、JSR社製
・変性S-SBR;商品名「HPR350」、JSR社製
・シリカ;商品名「ニプシールAQ」、東ソー社製
・シランカップリング剤;商品名「Si75」、デグサ社製
・ステアリン酸;「ルナックS-20」、花王社製
・カーボンブラック(N339);商品名「シーストKH」、東海カーボン社製
・オイル;商品名「プロセスNC-140」、JX日鉱日石エネルギー社製
・酸化亜鉛;商品名「酸化亜鉛2種」、三井金属鉱業社製
・ワックス;商品名「OZOACE355」、日本精鑞社製
・硫黄;商品名「5%油処理粉末硫黄」、鶴見化学工業社製
・加硫促進剤1;商品名「サンセラーDM-G」、三新化学工業社製
・加硫促進剤2;商品名「ソクシールCZ」、住友化学社製
【0047】
比較例1
表1の「1st」に記載の配合を密閉式混練機であるバンバリーミキサーに投入し、PID制御することなく混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出した。混練工程の間、ラムの下降状態を維持しつつ(押付状態)、混練を実施した。その後、シリカの分散性向上および粘度低減を目的として、「1st」で得られたゴム組成物をPID制御することなくそのまま混練し、160℃になった段階でゴム組成物を排出する再練り工程を2回実施した。最後に、「Final」に記載の加硫系配合剤(硫黄および加硫促進剤)を追加し、PID制御することなく混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出することにより、ゴム組成物を製造した。
【0048】
得られたゴム組成物の消費エネルギー(電力量)、ムーニー粘度、さらに得られたゴム組成物を原料として製造した空気入りタイヤの湿潤路面性および低燃費性を表1に示す。
【0049】
[ゴム組成物の消費エネルギー(電力量)]
1st~Final工程までに消費した電力量を、比較例1を100として指数評価で表した。数値が低いほど、消費エネルギー(電力量)が小さいことを意味する。
【0050】
[ムーニー粘度]
JIS K6300に準じて、100℃でのムーニー粘度ML(1+4)を測定し、比較例1を100とした指数で表示した。指数が小さいほど粘度が低く、加工性に優れることを示す。
【0051】
[WETグリップ性能]
205/65R15の試験用ラジアルタイヤを4本装着し、2~3mmの水深で水をまいた路面上を走行、時速100kmにて摩擦係数を測定し、ウェットグリップ性能を評価した。比較例1を100として指数表示し、指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0052】
[転がり抵抗]
上記ウェットグリップ性能試験と同じ205/65R15試験用ラジアルタイヤを用い、JISD4234:2009に準拠し、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例1を100とした時の指数で表示した。指数は小さいほうが良好である。
【0053】
比較例2
表1の「1st」に記載の配合を密閉式混練機であるバンバリーミキサーに投入し、制御温度域を1段階(1ステップ)とするPID制御を行いつつ混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出した。混練工程の間、ラムの下降状態を維持しつつ(押付状態)、混練を実施した。その後、シリカの分散性向上および粘度低減を目的として、「1st」で得られたゴム組成物をPID制御することなくそのまま混練し、160℃になった段階でゴム組成物を排出する再練り工程を1回実施した。最後に、「Final」に記載の加硫系配合剤(硫黄および加硫促進剤)を追加し、PID制御することなく混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出することにより、ゴム組成物を製造した。
【0054】
実施例1
表1の「1st」に記載の配合を密閉式混練機であるバンバリーミキサーに投入し、制御温度域を1段階(1ステップ)とするPID制御を行いつつ混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出した。PID制御の120秒のうち、終盤の60秒間はラムを上昇させつつ(非押付状態)混練を実施した。その後、シリカの分散性向上および粘度低減を目的として、「1st」で得られたゴム組成物をPID制御することなくそのまま混練し、160℃になった段階でゴム組成物を排出する再練り工程を1回実施した。最後に、「Final」に記載の加硫系配合剤(硫黄および加硫促進剤)を追加し、PID制御することなく混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出することにより、ゴム組成物を製造した。
【0055】
実施例2
表1の「1st」に記載の配合を密閉式混練機であるバンバリーミキサーに投入し、制御温度域を2段階(2ステップ)とするPID制御を行いつつ混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出した。混練工程の第2ステップにおける第2制御時間120秒のうち、終盤の60秒間はラムを上昇させつつ(非押付状態)混練を実施した。その後、シリカの分散性向上および粘度低減を目的として、「1st」で得られたゴム組成物をPID制御することなくそのまま混練し、160℃になった段階でゴム組成物を排出する再練り工程を1回実施した。最後に、「Final」に記載の加硫系配合剤(硫黄および加硫促進剤)を追加し、PID制御することなく混練工程を実施し、160℃になった段階でゴム組成物を排出することにより、ゴム組成物を製造した。
【0056】
実施例3
混練工程の第2ステップにおける第2制御時間120秒のうち、終盤の5秒間、ラムを上昇させつつ(非押付状態)混練を実施したこと以外は、実施例2と同様の方法によりゴム組成物を製造した。
【0057】
実施例4
混練工程の第2ステップにおける第2制御時間120秒のうち、終盤の100秒間、ラムを上昇させつつ(非押付状態)混練を実施したこと以外は、実施例2と同様の方法によりゴム組成物を製造した。
【0058】
実施例5
混練工程の第2ステップにおける第2制御時間120秒のうち、中間の60秒間、ラムを上昇させつつ(非押付状態)混練を実施したこと(押付状態30秒→非押付状態60秒→押付状態30秒)以外は、実施例2と同様の方法によりゴム組成物を製造した。
【0059】
実施例6
混練工程の第2ステップにおける第2制御時間120秒のうち、ラムの下降(押付状態)と上昇(非押付状態)とを繰り返し、非押付状態を合計60秒間としつつ混練を実施したこと以外は、実施例2と同様の方法によりゴム組成物を製造した。
【0060】
比較例1~2、および実施例1~6で得られたゴム組成物をタイヤトレッドに適用し、試験用タイヤを作製し、WETグリップ性能と転がり抵抗とを測定した。
【0061】
【0062】
表1の結果から、実施例1~6で得られたゴム組成物はシリカの分散性に優れるため、該ゴム組成物を原料として得られたタイヤトレッドを備える空気入りタイヤはWETグリップ性能および転がり抵抗に優れることがわかる。