(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ヘリコプターのトランスミッション潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20231101BHJP
B64C 27/14 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 B
B64C27/14
(21)【出願番号】P 2019236612
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健太
(72)【発明者】
【氏名】早坂 陽
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】有澤 秀則
(72)【発明者】
【氏名】篠田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓典
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158116(JP,A)
【文献】米国特許第5193645(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B64C 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機から入力される回転動力を変速して出力する変速機構と、前記変速機構を収容するハウジングと、を有するトランスミッションと、
前記変速機構を潤滑する潤滑装置と、を備え、
前記潤滑装置は、前記ハウジングの内部空間で潤滑油のミストを捕集する捕集部と、前記捕集部の下側に配置され且つ捕集された前記ミストが自重で集合して形成された前記潤滑油の液滴を前記変速機構に滴下する滴下部と、を有する、ヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項2】
前記潤滑装置は、前記ハウジングに取り付けられている、請求項1に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項3】
前記変速機構は、複数のギヤを有し、
前記潤滑装置は、前記複数のギヤのうち少なくともいずれかのギヤの歯面に前記潤滑油の液滴を滴下する、請求項1又は2に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項4】
前記複数のギヤは、歯面が上方を向くように配置されたベベルギヤを含み、
前記潤滑装置は、前記ベベルギヤの前記歯面に前記潤滑油の液滴を滴下する、請求項3に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項5】
前記捕集部は、前記ベベルギヤの回転軸方向から見て、前記ベベルギヤの回転方向に正対するように配置されている、請求項4に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項6】
前記潤滑装置は、水平方向に延びる軸体と、内周面と前記軸体の外周面との間に間隙が形成された状態で、前記軸体の前記外周面を覆うように配置された筒体とを有し、前記筒体の軸方向の一端部が他端部よりも下方に位置するように配置され、
前記捕集部が、前記軸体の前記外周面及び前記一端部側の端面と、前記筒体の前記内周面とを含み、前記間隙に前記潤滑油の液滴が貯留され、
前記滴下部が、前記筒体と前記軸体との前記間隙を挟んで相対する領域の最下端を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項7】
前記軸体の軸方向の一端部が、前記筒体の前記一端部側から突出している、請求項6に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項8】
上面視において、前記筒体の前記一端部側の端面が、前記軸体の前記端面と角度をなしており、前記筒体と前記軸体との前記最下端が、前記筒体の前記端面を含む平面内に位置している、請求項7に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項9】
前記軸体は、前記筒体の前記端面が閉塞された管状に形成され、前記軸体の中空部に前記ハウジングの外部から気体が流通可能に形成されている、請求項6~8のいずれか1項に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項10】
前記軸体は、非磁性体である、請求項6~9のいずれか1項に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項11】
前記筒体は、非磁性体である、請求項6~10のいずれか1項に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【請求項12】
前記潤滑装置は、前記ミストと接触可能に配置されたメッシュ部材を有し、
前記捕集部が、前記メッシュ部材のメッシュ部を含み、
前記滴下部が、前記メッシュ部材の下端部を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリコプターのトランスミッション潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコプターのトランスミッションは、例えば、原動機から入力される回転動力を変速して出力する。トランスミッションを円滑に駆動させるため、トランスミッションには、通常、潤滑系統により潤滑油が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるように、ヘリコプターのトランスミッションには、飛行中に潤滑油が外部から潤滑系統によりトランスミッションに供給されない非常時(以下、ドライラン時とも称する。)においても、一定時間継続して運転できる継続運転能力が求められる。しかしながら、このような非常時において潤滑油がトランスミッションに供給されないと、トランスミッションは潤滑が不足して過熱が進行する。これにより、トランスミッションを円滑に駆動することが困難となり、前記非常時における飛行可能時間が短縮する。
【0005】
そこで本発明は、ヘリコプターの飛行中に潤滑油が外部から潤滑系統よりトランスミッションに供給されない非常時の飛行可能時間を、従来よりも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係るヘリコプターのトランスミッション潤滑構造は、原動機から入力される回転動力を変速して出力する変速機構と、前記変速機構を収容するハウジングと、を有するトランスミッションと、前記変速機構を潤滑する潤滑装置と、を備え、前記潤滑装置は、前記ハウジングの内部空間で潤滑油のミストを捕集する捕集部と、前記捕集部の下側に配置され且つ捕集された前記ミストが自重で集合して形成された前記潤滑油の液滴を前記変速機構に滴下する滴下部と、を有する。
【0007】
上記構成によれば、ドライラン時においても、オイルタンクやバルブ等を有する大掛かりな給油機構や、別段の動力を用いることなく、潤滑装置から潤滑油を変速機構に滴下できる。これにより、ドライラン時において、変速機構の焼付きを抑制できる。従って、トランスミッションを円滑に駆動でき、従来よりも飛行可能時間を向上できる。
【0008】
前記潤滑装置は、前記ハウジングに取り付けられていてもよい。これにより、トランスミッションの既存の構成を利用して、潤滑装置を比較的簡便にトランスミッションに設けることができる。
【0009】
前記変速機構は、複数のギヤを有し、前記潤滑装置は、前記複数のギヤのうち少なくともいずれかのギヤの歯面に前記潤滑油の液滴を滴下してもよい。これにより、ドライラン時において、ギヤの歯面の焼付きを抑制し、トランスミッションを円滑に駆動できる。
【0010】
前記複数のギヤは、歯面が上方を向くように配置されたベベルギヤを含み、前記潤滑装置は、前記ベベルギヤの前記歯面に前記潤滑油の液滴を滴下してもよい。これにより、ドライラン時において、ベベルギヤの歯面の焼付きを抑制でき、トランスミッションを円滑に駆動できる。また、歯面が上方を向くように配置されたベベルギヤの歯面に潤滑油の液滴を滴下するため、歯面の広い範囲に潤滑油の液滴を滴下でき、歯面の焼付きを良好に防止できる。
【0011】
前記捕集部は、前記ベベルギヤの回転方向に正対するように配置されていてもよい。これにより潤滑装置は、回転中のベベルギヤから飛散した潤滑油のミストや、ハウジングの内部空間に浮遊するミストを効率よく捕集できる。
【0012】
前記潤滑装置は、水平方向に延びる軸体と、内周面と前記軸体の外周面との間に間隙が形成された状態で、前記軸体の前記外周面を覆うように配置された筒体とを有し、前記筒体の軸方向の一端部が他端部よりも下方に位置するように配置され、前記捕集部が、前記軸体の前記外周面及び前記一端部側の端面と、前記筒体の前記内周面とを含み、前記間隙に前記潤滑油の液滴が貯留され、前記滴下部が、前記筒体と前記軸体との前記間隙を挟んで相対する領域の最下端を含んでいてもよい。
【0013】
上記構成によれば、軸体と筒体との間の間隙において、前記ミストから潤滑油の液滴を形成すると共に、筒体と軸体との前記間隙を挟んで相対する領域の最下端から、変速機構の適切な位置に潤滑油の液滴を滴下できる。
【0014】
前記軸体の軸方向の一端部が、前記筒体の前記一端部側から突出していてもよい。これにより、潤滑油の液滴を軸体の外周面に沿わせ、筒体の前記一端部から突出した軸体の部分より滴下し易くできる。
【0015】
上面視において、前記筒体の前記一端部側の端面が、前記軸体の前記端面と角度をなしており、前記筒体と前記軸体との前記最下端が、前記筒体の前記端面を含む平面内に位置していてもよい。この構成によれば、潤滑装置で形成された潤滑油の液滴を軸体の筒体と軸体との前記最下端に集め、当該液滴を変速機構に滴下し易くすることができる。
【0016】
前記軸体は、前記筒体の前記端面が閉塞された管状に形成され、前記軸体の中空部に前記ハウジングの外部から気体が流通可能に形成されていてもよい。これにより、軸体の外周面を気体により冷却できるので、前記間隙内で潤滑油が蒸発するのを防止できる。このため、潤滑油の成分により前記間隙の目詰まりが発生するのを防止できる。よって、潤滑装置を長時間安定して使用できる。また、潤滑装置が捕集した潤滑油のミストを軸体の外周面で冷却することで、潤滑油の液滴を形成し易くできる。
【0017】
前記軸体は、非磁性体であってもよい。また前記筒体は、非磁性体であってもよい。これにより、例えば潤滑油にギヤの摩耗粉等の磁性成分が含まれる場合であっても、潤滑装置が磁性成分を吸着することにより汚れるのを防止でき、潤滑装置を安定して使用できる。
【0018】
前記潤滑装置は、前記ミストと接触可能に配置されたメッシュ部材を有し、前記捕集部が、前記メッシュ部材のメッシュ部を含み、前記滴下部が、前記メッシュ部材の下端部を含んでいてもよい。この構成によれば、前記ミストをメッシュ部材で捕集して当該ミストから潤滑油の液滴を形成し易くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の各態様によれば、ヘリコプターの飛行中に潤滑油が外部から潤滑系統よりトランスミッションに供給されない非常時の飛行可能時間を、従来よりも向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係るヘリコプターのトランスミッションの分解図である。
【
図2】
図1の潤滑装置をハウジングの内部から見た斜視図である。
【
図4】
図1の潤滑装置の鉛直方向から見た断面図である。
【
図5】第1実施形態の第1変形例に係る潤滑装置の鉛直方向から見た断面図である。
【
図6】第1実施形態の第2変形例に係る潤滑装置の側面図である。
【
図7】第2実施形態に係る潤滑装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、各実施形態について各図を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るヘリコプターのトランスミッション2の分解図である。
図2は、
図1の潤滑装置3をハウジング5の内部から見た斜視図である。
図2では、ハウジング5の上側部材(不図示)を外した状態で、トランスミッション2の内部構造を図示している。
図3は、
図1の潤滑装置3の上面図である。
図4は、
図1の潤滑装置3の鉛直方向から見た断面図である。
【0022】
図1~3に示すように、本実施形態のヘリコプターのトランスミッション潤滑構造1は、ヘリコプターのドライラン時にトランスミッション2を潤滑する。トランスミッション潤滑構造1は、トランスミッション2と潤滑装置3とを備える。トランスミッション2は、変速機構4とハウジング5とを有する。トランスミッション2は、ヘリコプターのメインギヤボックスである。変速機構4は、ヘリコプターの原動機から入力される回転動力を変速して出力する。本実施形態の変速機構4は、原動機から入力される回転動力を変速し、ヘリコプターのメインローターとテールローターとに出力する。トランスミッション潤滑構造1は、一例として、メインローターの下方に配置されている。
【0023】
変速機構4は、複数のギヤ6と、軸支された複数の回転軸7とを有する。複数の回転軸7は、原動機からの回転動力により比較的高速で回転される入力軸を含む。回転軸7には、ギヤ6が固定されている。回転軸7は、不図示の軸受(一例としてボールベアリング)により軸支されている。複数のギヤ6、複数の回転軸7、及び軸受は、通常時には、ヘリコプターの潤滑系統により供給される潤滑油で潤滑されて円滑に駆動される。複数のギヤ6は、歯面9aが上方を向くように配置されたベベルギヤ9を含む。ベベルギヤ9の歯面9aは、上方に向けられた状態で水平方向に延びている。本実施形態の複数のギヤ6は、歯面が上方を向くように配置された2以上のギヤを含む。
【0024】
ハウジング5は、内部空間Sを有する。本実施形態の内部空間Sは、前後、左右、及び上下の各方向に延びている。ハウジング5は、内部空間Sに変速機構4を収容する。トランスミッション2の駆動時には、通常、潤滑系統から供給される潤滑油のミストがハウジング5の内部空間Sに浮遊している。ここで言うミストとは、例えば、直径がマイクロオーダー以下のサイズの液体の微粒子を指す。ハウジング5は、変速機構4を周囲から囲む内壁5aを有する。
【0025】
潤滑装置3は、変速機構4を潤滑する。潤滑装置3は、捕集部30と滴下部31とを有する。捕集部30は、ハウジング5の内部空間Sで潤滑油を捕集する。具体的には、捕集部30は、ハウジング5の内部空間Sで潤滑油のミストを捕集する。滴下部31は、捕集部30の下側に配置され且つ捕集された潤滑油を変速機構4に滴下する。より具体的には、滴下部31は、捕集されたミストが自重で集合して形成された潤滑油の液滴を変速機構4に滴下する。潤滑装置3が捕集するミストには、変速機構4から直接飛散したミストと、内部空間Sに浮遊するミストとの少なくともいずれかが含まれる。潤滑装置3から潤滑油の液滴が自重より滴下されるため、潤滑装置3を駆動するための動力は不要である。
【0026】
ハウジング5は、複数部材を組み合わせて構成されている。一例として、ハウジング5は、互いに上下方向から組み合わされた上側部材と下側部材とを有する。潤滑装置3は、ハウジング5(ここでは下側部材)に取り付けられている。
【0027】
潤滑装置3は、変速機構4の複数のギヤ6のうち少なくともいずれかのギヤの歯面に潤滑油の液滴を滴下する。本実施形態の潤滑装置3は、ベベルギヤ9の歯面9aに潤滑油の液滴を滴下する。また本実施形態の潤滑装置3は、滴下された潤滑油が複数のギヤのうち少なくともいずれかを潤滑可能な位置に配置されている。潤滑装置3により変速機構4に潤滑油の液滴が滴下されることで、ドライラン時における変速機構4の焼付きが抑制される。これにより、ドライラン時において変速機構4の焼付きに至る時間が遅延される。潤滑装置3は、ハウジング5の内壁5aに取り付けられている。一例として、潤滑装置3は、ハウジング5の左右方向の側部の内壁5aに取り付けられている。また一例として、潤滑装置3は、外気と接触可能に、ハウジング5の側部に設けられた挿通孔5bに挿通されている。
【0028】
図2~4に示すように、具体的に潤滑装置3は、軸体12と筒体14とを有する。軸体12は、軸線方向の一端部(以下、単に軸体12の一端部とも称する。)を露出した状態で、筒体14に部分的に挿入されている。軸体12は、水平方向に延びている。筒体14は、内周面14aと軸体12の外周面12aとの間に間隙Gを形成した状態で、軸体12の外周面12aを覆うように配置されている。本実施形態では、軸体12は、円柱状に形成され、筒体14は、直管状に形成されている。軸体12の軸線と筒体14の軸線とは、同一線上に位置している。これにより間隙Gは、軸体12の軸方向から見て幅寸法が一定の環状に形成されると共に、軸体12の軸方向に筒状に延びるように形成されている。
【0029】
本実施形態の潤滑装置3では、捕集部30は、軸体12の外周面12a及び一端部側の端面12cと、筒体14の内周面14aとを含む。また滴下部31は、筒体14と軸体12との間隙Gを挟んで相対する領域の最下端12d,14cを含む。
【0030】
また本実施形態の捕集部30は、は、ベベルギヤ9の内端歯先円9bの接線のうち、軸体12の軸線方向に平行な接線Lに沿って、ベベルギヤ9の回転方向に軸体12の一端部側の端面12cが正対するように配置されている。ここでは潤滑装置3は、上面視において、軸体12の軸線方向と筒体14の軸方向とが、接線Lと平行になるように配置されている。これにより捕集部30は、ベベルギヤ9から飛散した潤滑油のミストや、ベベルギヤ9の回転により内部空間Sを流れるミストを捕集可能に配置されている。
【0031】
軸体12と筒体14との材料は、同一でもよいし、異なっていてもよい。本実施形態の軸体12と筒体14とは、非磁性体であり、一例としてステンレス等の非磁性材料により構成されている。これにより潤滑装置3では、ハウジング5内に存在する潤滑油にギヤ摩耗粉等の磁性成分が含まれる場合であっても、磁性成分が軸体12と筒体14とに吸着するのが回避されている。なお、軸体12と筒体14とのいずれか一方のみが非磁性体であってもよい。また、磁性成分による汚れの問題が少ない場合等には、軸体12と筒体14の少なくとも一方が磁性体であってもよい。
【0032】
潤滑装置3は、軸体12の一端部と、軸体12の一端部側に位置する筒体14の軸方向の一端部(以下、単に筒体14の一端部とも称する。)とが、ハウジング5の内部空間Sに露出するように配置されている。潤滑装置3は、軸体12の軸線方向他端部から一端部に向けて下り勾配に傾斜するように配置されている。一例として、本実施形態の潤滑装置3は、軸体12と筒体14とが、ハウジング5の外部から内部に向けて下り勾配となるように配置されている。この下り勾配は、間隙Gに貯留された潤滑油の液滴が、適切な滴下速度で滴下されるように設定されている。これにより潤滑装置3では、間隙Gに潤滑油が貯留されると共に、筒体14の一端部側から変速機構4に潤滑油の液滴が滴下される。
【0033】
また本実施形態では、軸体12の一端部は、筒体14の一端部側から突出している。また上面視において、筒体14は、一端部側(ここでは内部空間S側)の端面14bが、軸体12の端面12cと角度をなしており、軸体12と筒体14との最下端12d,14cが、軸体12の端面12cを含む平面内に位置している。本実施形態では、最下端12dは、軸体12の一端部側の端面12cと外周面12aとの間の境界に位置している。また最下端14cは、一例として、筒体14の内周面14aの最下位置と重なっている。また一例として、上面視において、軸体12の一端部側の端面12cは、回転中のベベルギヤ9から接線Lに沿って飛散した潤滑油のミストを捕集可能な位置で、接線Lに対する垂直面となるように配置されている。これにより潤滑装置3では、潤滑油のミストを効率よく捕集すると共に、間隙G内の潤滑油の液滴が、自重により軸体12の外周面12aと筒体14の内周面14aとに案内されて、最下端12d,14cに集まり易くなっている。
【0034】
軸体12は、筒体14一端部側の端面12cが閉塞された管状に形成されている。これにより軸体12は、軸方向に延びる中空部12bを有する。軸体12は、中空部12bにハウジング5の外部から気体が流通可能に形成されている。本実施形態の軸体12は、他端部側において、中空部12bが外気に開放されており、中空部12bに外気が流通する。なお中空部12bには、気体が流通するように、例えば送風機構により気体が強制的に供給されてもよい。
【0035】
トランスミッション2では、ハウジング5の内部空間Sに存在する潤滑油のミストが潤滑装置3の軸体12に接触すると、凝集して潤滑油の液滴が形成される。潤滑油の液滴は、間隙Gに一時的に貯留された後、軸体12と筒体14との最下端12d,14cに集まり、自重より最下端12d,14cから変速機構4に滴下される。
【0036】
以上説明したように、トランスミッション潤滑構造1によれば、ドライラン時においても、オイルタンクやバルブ等を用いた大掛かりな給油機構や、別段の動力を用いることなく、潤滑装置3から潤滑油を変速機構4に滴下できる。これにより、ドライラン時において、変速機構4の焼付き(例えば、複数のギヤ6)を抑制できる。従って、トランスミッション2を円滑に駆動でき、従来よりも飛行可能時間を向上できる。
【0037】
また潤滑装置3は、ハウジング5に取り付けられているので、トランスミッション2の既存の構成を利用して、潤滑装置3を比較的簡便にトランスミッション2に設けることができる。
【0038】
また変速機構4は、複数のギヤ6を有し、潤滑装置3は、複数のギヤ6のうち少なくともいずれかのギヤの歯面に潤滑油の液滴を滴下するので、ドライラン時において、ギヤ6の歯面の焼付きを抑制し、トランスミッション2を円滑に駆動できる。
【0039】
また複数のギヤ6は、歯面9aが上方を向くように配置されたベベルギヤ9を含み、潤滑装置3は、ベベルギヤ9の歯面9aに潤滑油の液滴を滴下するので、ドライラン時において、ベベルギヤ9の歯面9aの焼付きを抑制できる。よって、当該ベベルギヤ9がドライラン時に用いられる場合であっても、トランスミッション2を円滑に駆動できる。また、歯面9aが上方を向くように配置されたベベルギヤ9の歯面9aに潤滑油の液滴を滴下するため、歯面9aの広い範囲に潤滑油の液滴を滴下でき、歯面9aの焼付きを良好に防止できる。
【0040】
また捕集部30は、本実施形態では、ベベルギヤ9の回転軸方向から見て、軸体12の端面12c、及び、軸体12と筒体14との間の間隙Gの開口側が、ベベルギヤ9の回転方向に正対するように配置されている。即ち、ベベルギヤ9の回転軸方向から見て、間隙Gの前記開口側は、ベベルギヤ9の回転方向とは逆向きに配置されている。これにより潤滑装置3は、回転中のベベルギヤ9から飛散した潤滑油のミストや、ハウジング5の内部空間Sに浮遊するミストを効率よく捕集できる。
【0041】
また潤滑装置3は、水平方向に延びる軸体12と、内周面14aと軸体12の外周面12aとの間に間隙Gが形成された状態で、軸体12の外周面12aを覆うように配置された筒体14とを有し、筒体14の軸方向の一端部が他端部よりも下方に位置するように配置されている。また捕集部30が、軸体12の外周面12a及び一端部側の端面12cと、筒体14の内周面14aとを含み、間隙Gに潤滑油の液滴が貯留され、滴下部31が、筒体14と軸体12との間隙Gを挟んで相対する領域の最下端12d,14cを含んでいる。上記構成により、軸体12と筒体14との間の間隙Gにおいて、ミストから潤滑油の液滴を形成すると共に、筒体14と軸体12との最下端12d,14cから、変速機構4の適切な位置に潤滑油の液滴を滴下できる。
【0042】
また本実施形態では、軸体12の一端部が、筒体14の一端部側から突出している。これにより、潤滑油の液滴を軸体12の外周面12aに沿わせ、筒体14の一端部から突出した軸体12の部分より滴下し易くできる。
【0043】
また上面視において、筒体14の一端部側の端面14bが、軸体12の端面12cと角度をなしており、筒体14と軸体12との最下端12d,14cが、筒体14の端面14bを含む平面内に位置している。この構成によれば、潤滑装置3で形成された潤滑油の液滴を軸体12と筒体14との最下端12d,14cに集め、当該液滴を変速機構4に滴下し易くすることができる。
【0044】
また軸体12は、筒体14の一端部側の端面12cが閉塞された管状に形成され、軸体12の中空部12bにハウジング5の外部から気体が流通可能に形成されている。このため、軸体12の外周面12aを気体により冷却できるので、間隙G内で潤滑油の蒸発を防止できる。これにより、潤滑油の成分により間隙Gの目詰まり(コーキング)が発生するのを防止できる。よって、潤滑装置3を長時間安定して使用できる。また、潤滑装置3が捕集した潤滑油のミストを軸体12の外周面12aで冷却することで、潤滑油の液滴を形成し易くできる。
【0045】
また、軸体12の一端部側の端面12cが閉塞された管状に形成されているので、中空部12bを流通する気体が内部空間Sの空気と接触することがない。これにより、内部空間Sに浮遊する潤滑油のミストがハウジング5の外部に漏れたり、中空部12bを流通する気体中の異物がハウジング5の内部空間Sに混入したりするのを回避できる。
【0046】
また、本実施形態の軸体12と筒体14とは、非磁性体である。これにより、例えば潤滑油に、ギヤの摩耗粉等の磁性成分が含まれる場合であっても、潤滑装置3が磁性成分を吸着することにより汚れるのを防止でき、潤滑装置3を安定して使用できる。また、軸体12と筒体14とを共に非磁性体とすることで、ハウジング5内の潤滑油に磁性成分が含まれる場合に、潤滑装置3が磁性成分により汚れるのを一層良好に防止できる。
【0047】
図5は、第1実施形態の第1変形例に係る潤滑装置13の鉛直方向から見た断面図である。
図5に示すように、潤滑装置13は、鉛直方向から見て、筒体114の一端部が、軸方向中央から軸体12の最下端12dに向けて尖るように形成されている。また鉛直方向から見て、軸体12の端面12cは、筒体114の最下端114cと重なる位置に設けられている。このような構成の潤滑装置13であっても、潤滑装置3と同様の効果を奏する。更に、軸体12と筒体114との最下端12d,114cに集められた潤滑油の液滴が筒体114に付着するのを抑制し、軸体12と筒体114の最下端12d,114cから滴下し易くできると考えられる。なお軸体12の端面12cは、筒体114の最下端114cよりも筒体114の軸方向の中央側に配置されていてもよい。
【0048】
図6は、第1実施形態の第2変形例に係る潤滑装置23の側面図である。
図6に示すように、潤滑装置23の滴下部131は、間隙Gで形成された潤滑油の液滴を変速機構4の目的位置に滴下するようにガイドするガイド部材24を備える。ガイド部材24は、ここでは帯状の金属材料により構成されているが、その他の材料で構成されていてもよい。潤滑装置23によれば、例えば軸体12と筒体14との配置位置が制約される場合であっても、ガイド部材24を用いることで、変速機構4の目的位置に潤滑油の液滴を滴下できる。以下、第2実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0049】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る潤滑装置33の側面図である。
図7に示すように、潤滑装置33は、内部空間Sに浮遊する潤滑油のミストと接触可能に配置されたメッシュ部材34と、メッシュ部材34を支持し且つハウジング5の内壁5aに取り付けるブラケット35とを有する。メッシュ部材34は、一例として、下端部を頂点とする円錐状の形状を有するが、メッシュ部材34の形状は、これに限定されない。メッシュ部材34は、内部空間Sに浮遊する潤滑油のミストを捕集して潤滑油の液滴を形成可能な目数及び目開きに設定されている。第2実施形態では、捕集部230が、メッシュ部材34のメッシュ部を含む。また滴下部231が、メッシュ部材34の下端部を含む。
【0050】
潤滑装置33によれば、潤滑油のミストをメッシュ部材34で捕集して、当該ミストから潤滑油の液滴を形成し易くすることができる。なお、メッシュ部材34の代わりに、スポンジ等の多孔質部材を用いてよい。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成を変更、追加、又は削除できる。また軸体12は、円柱状以外の形状(例えば角柱状)に形成されていてもよいし、筒体14は、直管状以外の形状(例えば曲管状)に形成されていてもよい。
【0052】
また潤滑装置3,13,23の軸体12の材料は、筒体14の材料よりも熱伝導性が高い材料であってもよい。これにより、中空部12bの内部を流通する気体により軸体12を良好に冷却し、間隙G内のミストから潤滑油の液滴を形成し易くできると考えられる。またハウジング5内には、複数の潤滑装置3,13,23,33を配置してもよい。この場合、変速機構4の異なるギヤ等、変速機構4の異なる位置に潤滑油の液滴を滴下するように、各潤滑装置3,13,23,33が分散して配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
G 間隙
S 内部空間
1 トランスミッション潤滑構造
2 トランスミッション
3,13,23,33 潤滑装置
4 変速機構
5 ハウジング
6 ギヤ
9 ベベルギヤ
9a ベベルギヤの歯面
12 軸体
12b 中空部
14,114 筒体
14b 筒体の端面
30,230 捕集部
31,131,231 滴下部
34 メッシュ部材