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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】組成物、成形体の製造方法及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C07C 63/28 20060101AFI20231101BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20231101BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231101BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20231101BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C07C63/28
C07C51/41
C08L101/00
C08K3/20
C08K5/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019537654
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2018030989
(87)【国際公開番号】W WO2019039509
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2017159394
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017184667
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】生駒 篤
(72)【発明者】
【氏名】野村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ダサナヤケ アルツゲ ラシカ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-033214(JP,A)
【文献】特開2016-108342(JP,A)
【文献】特表2011-501739(JP,A)
【文献】特表2010-527890(JP,A)
【文献】特表2008-531939(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204301(WO,A1)
【文献】特表2011-517309(JP,A)
【文献】特表2007-518707(JP,A)
【文献】Inorganic Chemistry,2015年,54(13),p.6169-6175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 63/
C07C 51/
C08L 101/
C08K 3/
C08K 5/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属原子を含む物質(A)(ただし、金属有機構造体を除く。)と、
前記金属原子に配位して金属有機構造体の結晶体を生成可能な金属配位部を2つ以上有し、前記金属配位部が、カルボキシ基、及び金属有機構造体部位からなる群から選ばれる少なくとも1種である有機物(B)と、
刺激により反応又は相転移し、前記物質(A)の金属原子への前記有機物(B)の金属配位部の配位を促進可能となる配位促進剤(C)と、
を含む組成物であって、
前記物質(A)は、金属単体又は金属化合物であり、前記金属単体及び金属化合物それぞれにおける金属は、亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であって、前記金属化合物は、金属塩、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機物(B)は、下記式(b1)で表される構成単位を有するポリエーテル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体:
【化1】
(ただし、nは5~8の整数を示す。))、
テレフタル酸、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸、テルフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ピレン-2,7-ジカルボン酸、及びビフェニルジカルボン酸、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の非重合体、又は
主鎖部位と、前記主鎖部位に結合したペンダント部位とを有し、前記ペンダント部位に前記金属配位部を含む重合体であって、前記主鎖部位が、ポリエーテル構造、ポリオレフィン構造、ポリエステル構造、ポリチオール構造及びポリアミド構造のいずれか1つ以上の構造を含み、前記金属有機構造体部位は、亜鉛、カドミウム、水銀、ベリリウム、銅、ジルコニウム、クロム、モリブデン、バナジウム、チタン及びコバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(BTB)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(BDC)、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(DOBDC)、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸(CB BDC)、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(H2N BDC)、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸(HPDC)、テルフェニルジカルボン酸(TPDC)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-NDC)、ピレン-2,7-ジカルボン酸(PDC)、ビフェニルジカルボン酸(BPDC)、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-ニトロイミダゾール、シクロベンズイミダゾール、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒド、4-シアノイミダゾール、6-メチルベンズイミダゾール、及び6-ブロモベンズイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機架橋配位子と、を含み、
前記配位促進剤(C)は、ジシアンジアミド、室温で結晶状態の三級アミン、酸化カルシウムとピリジンとの組み合わせ、及び鉄とピリジンとの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも1種である組成物。
【請求項2】
前記刺激が、熱、光、水及び酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記配位促進剤(C)は、25℃において固体であり、pKaが1~20である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体の含有量が50質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体の含有量が10質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体の含有量が1質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記有機物(B)の分子量が100以上である請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記金属原子に配位して結晶体を生成可能な金属配位部を1つ有する構成単位を有する重合体、前記金属配位部を1つ有する単量体、及び前記金属配位部を有しない有機物からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機物(D)をさらに含む請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
液状媒体(E)をさらに含む請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
液状媒体(E)の含有量が99質量%以下である請求項に記載の組成物。
【請求項11】
液状媒体(E)を保持可能な樹脂(F)をさらに含む請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を成形し、成形体(Y)を得る工程と、
前記成形体(Y)に刺激を与え、それにより前記配位促進剤(C)を反応又は相転移させて、前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる金属有機構造体の結晶体を生成させ、前記結晶体を含む成形体(Z)を得る工程と、を含む成形体の製造方法であって、
刺激を与える前の前記成形体(Y)中の上記結晶体の含有量が10質量%以下であり、
成形体(Z)中の上記結晶体の含有量が30質量%以上であり、
前記刺激は、熱、光、水及び酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種である、成形体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を成形しつつ、前記組成物に刺激を与え、前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体を生成させ、前記結晶体を含む成形体(Z)を得る工程を含む成形体の製造方法。
【請求項14】
少なくとも1種の金属原子を含む物質(A)(ただし、金属有機構造体を除く。)の前記金属原子に、カルボキシ基、及び金属有機構造体部位からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属配位部を2つ以上有する有機物(B)の前記金属配位部が配位してなる金属有機構造体の結晶体と、
刺激により反応又は相転移し、前記物質(A)の金属原子への前記有機物(B)の金属配位部の配位を促進可能となる配位促進剤(C)と、
を含む成形体であって、
前記物質(A)は、金属単体又は金属化合物であり、前記金属単体及び金属化合物それぞれにおける金属は、亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であって、前記金属化合物は、金属塩、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機物(B)は、下記式(b1)で表される構成単位を有するポリエーテル、ポリエチレン、及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体:
【化2】
(ただし、nは5~8の整数を示す。))、
テレフタル酸、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸、テルフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ピレン-2,7-ジカルボン酸、及びビフェニルジカルボン酸、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の非重合体、又は
主鎖部位と、前記主鎖部位に結合したペンダント部位とを有し、前記ペンダント部位に前記金属配位部を含む重合体であって、前記主鎖部位が、ポリエーテル構造、ポリオレフィン構造、ポリエステル構造、ポリチオール構造及びポリアミド構造のいずれか1つ以上の構造を含み、前記金属有機構造体部位は、亜鉛、カドミウム、水銀、ベリリウム、銅、ジルコニウム、クロム、モリブデン、バナジウム、チタン及びコバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(BTB)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(BDC)、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(DOBDC)、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸(CB BDC)、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(H2N BDC)、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸(HPDC)、テルフェニルジカルボン酸(TPDC)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-NDC)、ピレン-2,7-ジカルボン酸(PDC)、ビフェニルジカルボン酸(BPDC)、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-ニトロイミダゾール、シクロベンズイミダゾール、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒド、4-シアノイミダゾール、6-メチルベンズイミダゾール、及び6-ブロモベンズイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機架橋配位子と、を含み、
前記配位促進剤(C)は、ジシアンジアミド、室温で結晶状態の三級アミン、酸化カルシウムとピリジンとの組み合わせ、及び鉄とピリジンとの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも1種である成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、成形体の製造方法及び成形体に関する。
本願は、2017年8月22日に、日本に出願された特願2017-159394号、及び2017年9月26日に、日本に出願された特願2017-184667号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
金属有機構造体(Metal Organic Framework;以下、「MOF」とも記す。)は、金属イオンと有機架橋配位子(多座配位子)との配位結合及び自己集合を経て形成される結晶性の多孔質物質であり、均一なミクロ孔と高い比表面積を有する。近年、MOFについてガス分離、ガス貯蔵、センサ、DDS(ドラッグデリバリーシステム)、電磁波シールド、選択的触媒、誘電体、さらにポーラスな単一金属の前駆体、ポーラスな金属酸化物の前駆体等の様々な用途への利用が検討されている。
有機架橋配位子としては通常、1,4-ベンゼンジカルボン酸等の剛直な分子構造の化合物が用いられている。有機架橋配位子としてポリマーを用いることも提案されている(非特許文献1、特許文献1)。
【0003】
金属イオンと有機架橋配位子との組み合わせによって配位結合の生じやすさは異なる。配位結合が生じにくい場合、MOFの合成にはソルボサーマル法(水熱法ともいう。)が汎用されている。
しかし、ソルボサーマル法では、密閉空間における高圧環境が必要になるため、MOFの生産性が低い。また、MOFをマイクロサイズ以下の微結晶粒子、又は沈殿及び凝縮による薄層フィルムとしてしか得られず、成形性に乏しい。
【0004】
Zn(NO及び1,4-ベンゼンジカルボン酸からMOFを合成する際にトリエチルアミンを加える手法が提案されている(非特許文献2)。トリエチルアミンを加えることにより、大気圧環境で反応を進行させることができ、MOFの生産性が高まる。
しかし、この手法では、反応が急激に進行するため、結晶生成速度をコントロールすることが難しく、MOFをマイクロサイズ以下の微結晶粒子としてしか得られず、成形性に乏しい。
【0005】
MOFを含む成形体を得るために、微結晶粒子状のMOFをバインダとブレンドし成形すると、ブレンド時又は成形時にMOFが破損する、MOFとバインダとが均一に混ざらない、ブレンドしたMOFが樹脂から容易に剥離してしまう、多孔質表面を樹脂が覆うことにより、多孔質の機能を利用できない等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2016/0361702号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 6152-6157
【文献】Microporous and Mesoporous Materials 58 (2003) 105-114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ソルボサーマル法のような高圧環境でなくてもMOFを生成可能であり、かつ成形可能な材料として保存が可能である組成物、これを用いた成形体の製造方法及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
〔1〕亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含む物質(A)(ただし、金属有機構造体を除く。)と、前記金属原子に配位して結晶体を生成可能な金属配位部を2以上有し、前記金属配位部が、カルボキシ基、及びMOF部位からなる群から選ばれる少なくとも1種である有機物(B)と、刺激により反応又は相転移し、前記物質(A)の金属原子への前記有機物(B)の金属配位部の配位を促進可能となる配位促進剤(C)と、を含む組成物。
〔2〕前記刺激が、熱、光、水及び酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種である〔1〕の組成物。
〔3〕前記配位促進剤(C)は、25℃において固体であり、pKaが1~20である塩基性物質である、〔1〕又は〔2〕の組成物。
〔4〕前記配位促進剤(C)は、アミン-ボラン錯体、ジシアンジアミド、ヒドラジド、イミン、オキサゾリジン、ピリジン、室温で結晶状態の三級アミン、ケトプロフェンアミン塩、酸化カルシウム、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種である〔1〕~〔3〕のいずれかの組成物。
〔5〕前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体の含有量が99質量%以下である〔1〕~〔4〕のいずれかの組成物。
〔6〕前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体の含有量が50質量%以下である〔1〕~〔4〕のいずれかの組成物。
〔7〕前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体の含有量が10質量%以下である〔1〕~〔4〕のいずれかの組成物。
〔8〕前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体の含有量が1質量%以下である〔1〕~〔4〕のいずれかの組成物。
〔9〕前記有機物(B)が、前記金属配位部を1つ以上有する芳香環を有する〔1〕~〔8〕のいずれかの組成物。
〔10〕前記有機物(B)が、前記金属配位部を2つ以上有する芳香環を有する〔1〕~〔8〕のいずれかの組成物。
〔11〕前記金属配位部がカルボキシ基である〔10〕の組成物。
〔12〕前記有機物(B)の分子量が100以上である〔1〕~〔11〕のいずれかの組成物。
〔13〕前記有機物(B)が、主鎖部位と、前記主鎖部位に結合したペンダント部位とを有し、前記ペンダント部位に前記金属配位部を含む重合体である〔1〕~〔12〕のいずれかの組成物。
〔14〕前記主鎖部位が、ポリエーテル構造、ポリオレフィン構造、ポリエステル構造、ポリチオール構造及びポリアミド構造のいずれか1つ以上の構造を含む〔13〕の組成物。
〔15〕前記物質(A)が、金属単体、及び金属の価数が1~5価である金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である〔1〕~〔14〕のいずれかの組成物。
〔16〕前記金属原子に配位して結晶体を生成可能な金属配位部を1つ有する構成単位を有する重合体、前記金属配位部を1つ有する単量体、及び前記金属配位部を有しない有機物からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機物(D)をさらに含む〔1〕~〔15〕のいずれかの組成物。
〔17〕液状媒体(E)をさらに含む〔1〕~〔16〕のいずれかの組成物。
〔18〕液状媒体(E)の含有量が99質量%以下である〔17〕の組成物。
〔19〕液状媒体(E)を保持可能な樹脂(F)をさらに含む〔17〕または〔18〕の組成物。
〔20〕〔1〕~〔19〕のいずれかの組成物を成形し、成形体(Y)を得る工程と、
前記成形体(Y)に刺激を与え、前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体を生成させ、前記結晶体を含む成形体(Z)を得る工程と、を含む成形体の製造方法。
〔21〕前記刺激が、熱、光、水及び酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種である〔20〕の成形体の製造方法。
〔22〕前記成形体(Y)中の前記結晶体の含有量が99質量%以下である〔20〕又は〔21〕の成形体の製造方法。
〔23〕前記成形体(Z)を得る工程において、前記成形体(Z)中の前記結晶体の含有量を0.1質量%以上とする〔20〕~〔22〕のいずれかの成形体の製造方法。
〔24〕〔1〕~〔19〕のいずれかの組成物を成形しつつ、前記組成物に刺激を与え、前記物質(A)の金属原子に前記有機物(B)の金属配位部が配位してなる結晶体を生成させ、前記結晶体を含む成形体(Z)を得る工程を含む成形体の製造方法。
〔25〕亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含む物質(A)(ただし、金属有機構造体を除く。)の前記金属原子に、カルボキシ基、及びMOF部位からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属配位部を2つ以上有する有機物(B)の前記金属配位部が配位してなる結晶体と、刺激により反応又は相転移し、前記物質(A)の金属原子への前記有機物(B)の金属配位部の配位を促進可能となる配位促進剤(C)と、
を含む成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ソルボサーマル法のような高圧環境でなくてもMOFを生成可能であり、かつ成形可能な材料として保存が可能である組成物、これを用いた成形体の製造方法及び成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔組成物〕
本発明の第1の態様は、物質(A)と有機物(B)と配位促進剤(C)とを含む組成物(以下、組成物Iとも記す。)である。
物質(A)は、亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含む物質(ただし、金属有機構造体を除く。)である。
有機物(B)は、物質(A)の金属原子に配位して結晶体を生成可能な金属配位部を2つ以上有する有機物である。有機物(B)の金属配位部は、カルボキシ基、及び金属有機構造体部位からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
配位促進剤(C)は、刺激により反応又は相転移し、前記物質(A)の金属原子への前記有機物(B)の金属配位部の配位を促進可能となる物質である。
【0012】
組成物Iは、必要に応じて、有機物(D)、液状媒体(E)、樹脂(F)、及びその他の成分(G)のいずれか1つ以上をさらに含むことができる。
有機物(D)は、物質(A)の金属原子に配位して結晶体を生成可能な金属配位部を1つ有する構成単位を有する重合体、前記金属配位部を1つ有する単量体、及び前記金属配位部を有しない有機物からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機物である(ただし、有機物(B)及び後述する樹脂(F)を除く。)。
樹脂(F)は、液状媒体(E)を保持可能な樹脂である。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
<物質(A)>
物質(A)は、亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子(以下、金属原子αとも記す。)を含む。物質(A)に含まれる金属原子αは1種でもよく2種以上でもよい。
金属原子αとしては、イオン化したときの価数が1~5価であるものが好ましく、1~4価であるものがより好ましい。
【0014】
物質(A)は、金属単体であってもよく、金属化合物であってもよい。金属単体及び金属化合物それぞれにおける金属は、亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。金属化合物としては、硝酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物塩、硫酸塩等の金属塩、金属酸化物、金属水酸化物等が挙げられる。金属塩は水和物であってもよい。
物質(A)の具体例としては、亜鉛、ジルコニウム、クロム、アルミニウム、Zn(NO・6HO、Al(NO・9HO等が挙げられる。
物質(A)としては、空気下の環境での安定性の点で、金属単体、及び金属の価数が1~5価である金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの金属単体及び金属化合物における金属としては、亜鉛、ジルコニウム、及びクロムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
組成物Iに含まれる物質(A)は1種でもよく2種以上でもよい。
【0015】
<有機物(B)>
有機物(B)は、カルボキシ基、及びMOF部位からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属配位部(以下、金属配位部βとも記す。)を2つ以上有する。2つ以上の金属配位部βが金属原子αに配位することで、結晶体(MOF)が生成する。有機物(B)が有する2つ以上の金属配位部βは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
【0016】
金属配位部βのうちMOF部位としては、特に限定されず、公知のMOFであってよい。MOFには、複数の金属、金属酸化物、金属クラスタ又は金属酸化物クラスタ構造単位を備えたMOFが知られているが、これらに限定されるものではない。金属は、遷移金属及びベリリウムから選択することができる。より具体的な例としては、Zn、Cd、Hg、Be、Cu、Zr、Cr、Mo、V、Ti、Co等が挙げられる。
複数の金属構造単位を有機架橋配位子で結合して、多孔質構造を形成することができる。隣接する金属構造単位同士を結合する有機架橋配位子は、金属に配位可能な金属配位部を2つ以上有する有機化合物であり、例えば1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(BTB)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(BDC)、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(DOBDC)、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸(CB BDC)、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(H2N BDC)、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸(HPDC)、テルフェニルジカルボン酸(TPDC)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-NDC)、ピレン-2,7-ジカルボン酸(PDC)、ビフェニルジカルボン酸(BPDC)、フェニール化合物を有する任意のジカルボン酸、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-ニトロイミダゾール、シクロベンズイミダゾール、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒド、4-シアノイミダゾール、6-メチルベンズイミダゾール、6-ブロモベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0017】
MOFの具体例としては、ZnO(1,3,5-ベンゼントリベンゾエート)で表される構造を含むMOF-177;IRMOF-Iとしても知られる、ZnO(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表される構造を含むMOF-5;Mg(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表される構造を含むMOF-74(Mg);Zn(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-74(Zn);Cu(3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボキシレート)で表される構造を含むMOF-505;ZnO(シクロブチル1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表される構造を含むIRMOF-6;ZnO(2-アミノ1,4ベンゼンジカルボキシレート)で表される構造を含むIRMOF-3;ZnO(テルフェニルジカルボキシレート)又はZnO(テトラヒドロピレン2,7-ジカルボキシレート)で表される構造を含むIRMOF-11;ZnO(2,6ナフタレンジカルボキシレート)で表される構造を含むIRMOF-8;Zn(ベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表される構造を含むZIF-68;Zn(シクロベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表される構造を含むZIF-69;Zn(ベンズイミダゾレート)で表される構造を含むZIF-7;Co(ベンズイミダゾレート)で表される構造を含むZIF-9;Zn(ベンズイミダゾレート)で表される構造を含むZIF-11;Zn(イミダゾレート-2-カルボキシアルデヒド)で表される構造を含むZIF-90;Zn(4-シアノイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-82;Zn(イミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-70;Zn(6-メチルベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-79;及びZn(6-ブロモベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-81等が挙げられる。
【0018】
金属原子αと金属配位部βとの好ましい組み合わせの例として、金属原子αがZnであり、金属配位部βがカルボキシ基及びMOF部位のいずれかである組み合わせ、金属原子αがAlであり、金属配位部βがカルボキシ基及びMOF部位のいずれかである組み合わせ、金属原子αがZrであり、金属配位部βがカルボキシ基及びMOF部位のいずれかである組み合わせ等が挙げられる。
【0019】
有機物(B)は、配位能及び剛直性の点で、金属配位部βを1つ以上有する芳香環を有することが好ましく、金属配位部βを2つ以上有する芳香環を有することがより好ましい。上記芳香環が有する金属配位部βが1つである場合、有機物(B)が有する上記芳香環が2つ以上である。上記芳香環が有する金属配位部βが2つ以上である場合、各有機物(B)が有する上記芳香環は1つでもよく2つ以上でもよい。なお、金属配位部βが多いほど、得られる結晶体の剛直性が向上するが、金属配位部βが多すぎると結晶体が脆くなる場合がある。そのような場合、金属配位部βを3つ以下としてもよい。即ち、結晶体の剛直性と脆性のバランスをとる観点から、金属配位部βを1~3つの範囲内で適宜調整することができる。
上記芳香環が有する金属配位部βとしては、配位能の点で、カルボキシ基が好ましい。このような芳香環としては、例えばジカルボキシベンゼン環、トリカルボキシベンゼン環等が挙げられる。
なお、芳香環に結合していないカルボキシ基は、金属配位性が弱い。また、芳香環に結合していないカルボキシ基(例えばポリアクリル酸のカルボキシ基)は金属原子αに配位したとしても結晶体を生成しないのが通常である。結晶体を生成しないカルボキシ基は、金属配位部βには該当しない。
【0020】
有機物(B)は、重合体であってもよく、単量体(非重合体)であってもよい。
重合体としては、例えば、主鎖部位と主鎖部位に結合したペンダント部位とを有し、ペンダント部位に金属配位部βを含む重合体、主鎖部位を有し、主鎖部位の末端に金属配位部βを含む重合体等が挙げられる。成形性の点で、主鎖部位と主鎖部位に結合したペンダント部位とを有し、ペンダント部位に金属配位部βを含む重合体が好ましい。
主鎖部位の構造は特に限定されず、例えばポリエーテル構造、ポリオレフィン構造、ポリエステル構造、ポリチオール構造、ポリアミド構造等が挙げられる。主鎖部位はこれらの構造のいずれか1つを有してもよく2つ以上を有してもよい。
重合体が、金属配位部βを1つ以上有する芳香環を有する場合、該芳香環は、主鎖部位に含まれていてもよく、ペンダント部位に含まれていてもよい。
【0021】
ペンダント部位に金属配位部βを含む重合体は、例えば、重合体を形成する単量体として金属配位部βを有する単量体を用いる方法等によって得ることができる。金属配位部βを含む単量体としては、例えば、後述する非重合体等が挙げられる。
ペンダント部位にMOF部位を含む重合体は、重合体のペンダント部位とMOFとの重合反応によって得ることもできる。
【0022】
重合体である有機物(B)の具体例としては、下記式(b1)で表される構成単位を有するポリエーテル、ポリエチレン、ポリアミド等が挙げられる。
重合体が有する金属配位部βの数は、例えば重合体を構成する構成単位1つ当り2つ以上であることが好ましく、2~4つであることがより好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
ただし、nは5~8の整数を示す。
【0025】
非重合体である有機物(B)の具体例としては、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸、テルフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ピレン-2,7-ジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸等が挙げられる。
非重合体が有する金属配位部βの数は、例えば2~4つであってよい。
【0026】
有機物(B)の分子量は、成形性等を考慮して適宜選定し得る。
有機物(B)の分子量は、成形性の点で、100以上が好ましい。
有機物(B)が非重合体である場合、有機物(B)の分子量は、100~10000がより好ましく、100~1000がさらに好ましい。
有機物(B)が重合体である場合、有機物(B)の分子量は、100~100000がより好ましく、100~10000がさらに好ましい。
重合体の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定される重量平均分子量である。
【0027】
組成物Iに含まれる有機物(B)は1種でもよく2種以上でもよい。
組成物Iの成形性がより優れる点で、有機物(B)は少なくとも重合体を含むことが好ましい。重合体と非重合体とを併用してもよい。
有機物(B)中の重合体の含有量は、有機物(B)の総質量に対し、10~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましい。
【0028】
<配位促進剤(C)>
配位促進剤(C)は、刺激により反応又は相転移する。また、反応又は相転移した後に金属原子αへの金属配位部βの配位を促進可能となる。
配位促進剤(C)の「反応」には、自己分子のみでの反応及び他の物質との反応が包含される。「相転移」は、典型的には、固体から液体へ変化することである。
配位促進剤(C)を反応又は相転移させる刺激としては、生産性の点で、熱、光、水及び酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。刺激については後で詳しく説明する。配位促進剤(C)を反応又は相転移させる刺激は1種でもよく2種以上でもよい。
熱による反応又は相転移の例として、自己分子での分解、溶解が挙げられる。光による反応又は相転移の例として、自己分子での分解が挙げられる。水による反応又は相転移の例として、水和、酸化が挙げられる。酸素による反応又は相転移の例として、酸化が挙げられる。
【0029】
配位促進剤(C)としては、アミン-ボラン錯体、ジシアンジアミド、ヒドラジド、イミン、オキサゾリジン、ピリジン、三級アミン、ケトプロフェンアミン塩、酸化カルシウム、鉄等が挙げられる。
上記の中でも、反応温度を比較的低くできる点で、アミン-ボラン錯体、ジシアンジアミド、ヒドラジド、イミン、オキサゾリジン、ピリジン、室温で結晶状態の三級アミン、ケトプロフェンアミン塩、酸化カルシウム、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ジシアンジアミド、ヒドラジド、イミン、及びケトプロフェンアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。アミン-ボラン錯体を構成するアミンの具体例としては、トリエチルアミン等が挙げられる。本明細書において「室温」は15±15℃以内の温度である。室温で結晶状態の三級アミンの具体例としては、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン等が挙げられる。ケトプロフェンアミン塩の具体例としては、ケトプロフェントリエチルアミン塩等が挙げられる。
【0030】
配位促進剤(C)は、組成物の保存時に金属原子αへの金属配位部βの配位を促進しにくい点で、25℃において固体であることが好ましい。
配位促進剤(C)は、触媒能の点で、pKaが1~20であることが好ましく、pKaが5~20であることがより好ましい。pKaは、25℃における値である。pKaが上記下限値以上であると、反応性がより優れる。pKaが上記上限値以下であると、反応性がより優れる。
したがって、配位促進剤(C)としては、25℃において固体であり、pKaが1~20である物質が好ましく、25℃において固体であり、pKaが5~20である物質がより好ましい。
【0031】
<有機物(D)>
組成物Iが有機物(D)を含む場合、組成物及びこれを用いた成形体をより強靭にすることができ、さらに設計性に富ませることができる。
有機物(D)は、金属原子αに配位可能な金属配位部を1つ有する構成単位を有する重合体(D1)、前記金属配位部を1つ有する単量体(D2)、前記金属配位部を有しない有機物(D3)のいずれであってもよい。
有機物(D)の金属配位部としては、有機物(B)の金属配位部βと同様のものが挙げられる。
【0032】
重合体(D1)において、金属配位部を1つ有する構成単位の具体例としては、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、等が挙げられる。なお、重合体(D1)は、金属配位部を2つ以上有する構成単位を有しない。
有機物(D3)は、有機物(B)と同様、重合体であってもよく、単量体であってもよい。重合体の主鎖部位の構造は特に限定されず、例えばポリエーテル構造、ポリオレフィン構造、ポリエステル構造、ポリチオール構造、ポリアミド構造等が挙げられる。主鎖部位はこれらの構造のいずれか1つを有してもよく2つ以上を有してもよい。
有機物(D)の具体例としては、ポリアクリル酸を主鎖にもつ重合体、アクリル酸等のモノカルボン酸、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0033】
<液状媒体(E)>
液状媒体(E)は、溶媒又は分散媒として機能し、組成物Iの成形性を高める。組成物Iが樹脂(F)を含む場合には、液状媒体(E)は、樹脂(F)に保持されてゲルを形成する。
液状媒体(E)は、典型的には、50~200℃以内の温度条件下にて揮発し、組成物からの体積減少が認められる液体である。
液状媒体(E)としては、例えばジメチルホルムアミド等の有機溶剤、水等が挙げられる。これらの液状媒体(E)はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
<樹脂(F)>
樹脂(F)は、液状媒体(E)を保持可能な樹脂である。組成物Iが樹脂(F)を含む場合、液状媒体(E)によって組成物Iをゲル状にすることができる。ゲル状の組成物Iは、押し出し、コーター等の方法によって容易に成形できる。
樹脂(F)の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリエステル、イソブチレン-イソプレン共重合体(ブチルゴム)、ポリスチレン等が挙げられる。これらの樹脂(F)はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、樹脂(F)は、金属配位部を有しない重合体である。
樹脂(F)の分子量は、成形性等を考慮して適宜選定し得る。
樹脂(F)の分子量は、成形性の点で、1万以上が好ましく、2万~300万がより好ましく、5万~30万がさらに好ましい。
樹脂(F)の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定される重量平均分子量である。
【0035】
<その他の成分(G)>
その他の成分(G)は、物質(A)、有機物(B)、配位促進剤(C)、有機物(D)、液状媒体(E)及び樹脂(F)のいずれにも該当しない成分である。
成分(G)としては、例えば可塑剤等の添加剤としての樹脂(ただし、有機物(B)、配位促進剤(C)及び樹脂(F)を除く)(例えば、ポリビニルイソブチルエーテル等)、無機フィラー及びその表面処理剤等が挙げられる。これらの成分はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
組成物Iの好ましい一態様は、物質(A)として亜鉛化合物、有機物(B)としてカルボキシ基を2つ以上有する芳香環を有する有機物(例えばテレフタル酸、前記式(b1)で表される構成単位を有するポリエーテル)、配位促進剤(C)としてジシアンジアミドを含む組成物である。かかる組成物は、熱によって結晶体を生成させ得る。
【0037】
組成物Iの好ましい他の一態様は、物質(A)として亜鉛化合物、有機物(B)としてカルボキシ基を2つ以上有する芳香環を有する有機物、配位促進剤(C)としてケトプロフェンアミン塩を含む組成物である。かかる組成物は、光によって結晶体を生成させ得る。
【0038】
組成物Iの好ましい他の一態様は、物質(A)として亜鉛化合物、有機物(B)としてカルボキシ基を2つ以上有する芳香環を有する有機物、配位促進剤(C)として酸化カルシウム及び鉄のいずれか一方又は両方とピリジンとを含む組成物である。かかる組成物は、酸素又は水分によって結晶体を生成させ得る。
【0039】
<各成分の含有量>
組成物I中、物質(A)の含有量は、組成物Iの全量に対し、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。物質(A)の含有量が上記範囲内であると、得られる結晶体の比率がより高くなる。
【0040】
組成物I中、有機物(B)の含有量は、組成物Iの全量に対し、10~50質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。有機物(B)の含有量が上記範囲内であると、得られる結晶体の比率がより高くなる。
【0041】
組成物I中、配位促進剤(C)の含有量は、組成物Iの全量に対し、0.1~50質量%が好ましく、1~33質量%がより好ましい。配位促進剤(C)の含有量が上記下限値以上であると、金属原子αへの金属配位部βの配位を促進する効果が充分に発揮され、上記上限値以下であると、全量に対する結晶比率を高めることが出来、成形体の機能がより優れる。
【0042】
組成物I中、有機物(D)の含有量は、組成物Iの全量に対し、0質量%以上50質量%未満が好ましく、0~10質量%がより好ましい。有機物(D)の含有量が上記上限値以下であると、成形性がより優れる。
【0043】
組成物I中、液状媒体(E)の含有量は、組成物Iの全量に対し、0~99質量%が好ましく、0~1質量%がより好ましい。液状媒体(E)の含有量が上記上限値以下であると、安全性により優れる。液状媒体(E)の含有量が0質量%超であると、組成物Iの成形性がより優れる。
組成物Iを塗布成形する場合は、組成物Iの粘度が低いことが好ましい。よってその場合、液状媒体(E)の含有量は、組成物Iの全量に対し、10~99質量%が好ましく、30~85質量%がより好ましい。
組成物Iを押出成形や射出成形する場合は、液状媒体(E)の含有量は、組成物Iの全量に対し、5~80質量%が好ましく、10~65質量%がより好ましい。
上記塗布成形や射出成形後に、液状溶媒(E)を乾燥させることができる。乾燥温度及び時間などは特に限定されない。乾燥後の組成物I(成形体)に残留する液状溶媒(E)は、組成物Iの全量に対し、0~10質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。組成物I(成形体)に微量の液状溶媒(E)が残留すると、切断等を行う際に切断面の欠けなどが生じ難くなる場合がある。
【0044】
組成物I中、樹脂(F)の含有量は、組成物Iの全量に対し、0~50質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましい。樹脂(F)の含有量が上記上限値以下であると、刺激を付与した後の結晶体の比率が大きくなり、成形体の機能がより優れる。樹脂(F)の含有量が0質量%超であると、組成物Iをゲル化する効果が充分に発揮される。
【0045】
組成物I中、その他の成分(G)の含有量は、組成物Iの総質量に対し、0~10質量%が好ましく、0~1質量%がより好ましい。その他の成分(G)の含有量が上記上限値以下であると、刺激を付与した後の結晶体の比率が大きくなり、成形体の機能がより優れる。
【0046】
組成物Iにおいては、物質(A)の金属原子αの一部に有機物(B)の金属配位部の一部が配位して結晶体(MOF)を形成していてもよい。
組成物I中、金属原子αに金属配位部βが配位してなる結晶体の含有量は、組成物Iの総質量に対し、99質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。上記結晶体の含有量が上記上限値以下であると、成形性に優れる。
組成物I中の上記結晶体の含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
上記結晶体の含有量は、XRD(X線回折法)により測定できる。
上記結晶体の含有量は、組成物(I)の構成材料の比率、刺激の強度によって調整できる。
【0047】
組成物Iの製造方法としては、特に限定されない。例えば物質(A)と有機物(B)と配位促進剤(C)と、必要に応じて有機物(D)、液状媒体(E)、樹脂(F)、及びその他の成分(G)のいずれか1つ以上を混合する方法が挙げられる。各成分の混合手段としては、例えばミキサーによる混練等が挙げられる。なお、液状媒体(E)を使用しない場合、粒状(粉体)の各成分を公知の方法により均一に混合してもよい。各成分の混合順序は特に限定されない。
配位促進剤(C)を混合している際の条件は、配位促進剤(C)が反応又は相転移しない条件とする。配位促進剤(C)が反応又は相転移しない条件で全成分を一括して混合してもよい。配位促進剤(C)以外の成分の一部又は全部を混合し、得られた混合物と、配位促進剤(C)と、必要に応じて残りの成分を、配位促進剤(C)が反応又は相転移しない条件で混合してもよい。また、配位促進剤(C)以外の成分の混合物を予め調整しておき、後述する成形体(Y)を製造する直前に、配位促進剤(C)のみを他の成分の混合物に加えてもよい。
【0048】
配位促進剤(C)が反応又は相転移しない条件は、配位促進剤(C)の種類に応じて適宜選定し得る。
例えば、配位促進剤(C)が熱により反応又は相転移する場合には、反応又は相転移する温度よりも低温環境下で混合すればよい。上記低温環境は、例えば配位促進剤(C)が反応又は相転移する温度-50℃以下であってよい。
配位促進剤(C)が光により反応又は相転移する場合には、遮光環境下で混合すればよい。
配位促進剤(C)が水により反応又は相転移する場合には、低湿度環境下、例えば相対湿度5%RH以下の環境下で混合すればよい。
配位促進剤(C)が酸素により反応又は相転移する場合には、低酸素又は無酸素環境下、例えば窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で混合すればよい。
【0049】
以上説明した組成物Iにあっては、物質(A)と有機物(B)と配位促進剤(C)とを含むため、ソルボサーマル法のような高圧環境でなくてもMOFを生成可能であり、かつ成形可能な材料として保存が可能である。
有機物(B)の金属配位部βは、ソルボサーマル法でのMOFの合成に用いられているような密閉空間における高圧環境でなければ物質(A)の金属原子αに配位しにくい。配位促進剤(C)は、刺激により反応又は相転移する前は、金属原子αへの金属配位部βの配位を促進しない。
配位促進剤(C)が反応又は相転移していない状態では、金属原子αへの金属配位部βの配位、それに伴う結晶体(MOF)の生成は、進まないか進んでもわずかである。そのため、配位促進剤(C)が反応又は相転移しない環境下に組成物Iを置くことで、結晶体を生成させることなく組成物Iを保存できる。
また、組成物Iを成形する際の成形条件を、配位促進剤(C)が反応又は相転移させない条件とすることで、結晶体を生成させることなく組成物Iを成形できる。
成形後、得られた成形体に刺激を加えて配位促進剤(C)を反応又は相転移させると、密閉空間における高圧環境でなくても、成形体中で金属原子αへの金属配位部βの配位が進み、結晶体が生成する。例えば、配位促進剤(C)の反応によって金属原子αへの金属配位部βの配位を促進する触媒として作用する物質が生成すると、その作用によって金属原子αへの金属配位部βの配位が進行する。配位促進剤(C)が固体から液体へと相転移すると、成形体内での各成分の動きの自由度が増し、金属原子αへの金属配位部βの配位が進行し、結晶体が生成する。
成形時に刺激を加え、結晶体を生成させることもできる。
加える刺激を調整することによって、反応又は相転移する配位促進剤(C)の量を調整し、結晶体の生成速度を調整することもできる。
このようにして、結晶体を含む成形体が得られる。成形後又は成形時に結晶体を生成させるため、成形時に結晶体に加わる負荷によって結晶体が破損することを抑制できる。したがって、成形体中の結晶体の機能が十分に発現し得る。
【0050】
〔成形体の製造方法〕
本発明の第2の態様は、上述の組成物Iを成形し、成形体(Y)を得る工程(以下、成形工程とも記す。)と、
成形体(Y)に刺激を与え、物質(A)の金属原子αに有機物(B)の金属配位部βが配位してなる結晶体を生成させ、結晶体を含む成形体(Z)を得る工程(以下、結晶生成工程とも記す。)と、
を含む成形体の製造方法である。
成形体(Y)に刺激を与えることで、配位促進剤(C)が反応又は相転移し、物質(A)の金属原子αへの有機物(B)の金属配位部βの配位が進行し、結晶体が生成する。これにより、成形体(Y)が、結晶体を含む成形体(Z)となる。
【0051】
成形体(Y)及び成形体(Z)の形状は、特に限定されない。例えばフィルム状、多孔質状、ハニカム構造等であってよい。
【0052】
組成物Iを成形する方法は特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。例えば、組成物Iが固形である場合には、プレス成形、押し出し成形、射出成形等の方法を用いることができる。組成物Iが液状又はゲル状である場合には、押し出し成形、ダイコート等の方法を用いることができる。
成形に用いる型の表面に予め凹凸構造を形成しておき、表面に凹凸構造を有する成形体が得られるようにしてもよい。
【0053】
凹凸構造としては、例えば、複数の凸部又は凹部が分散配置された形状、複数の凸条又は溝が平行に配置された形状(いわゆるラインアンドスペース)、うねり形状等が挙げられる。凸部又は凸部の形状としては、例えば円柱状、多角柱状、半球状、円錐状、多角錐状等が挙げられる。
【0054】
成形体表面に凹凸構造を有することで、以下の二つの効果が得られる。
一つは表面積の増大である。成形体中の結晶体(MOF)は、成形体の表面に位置しているものが、より機能を発揮する。結晶体の機能は主にその多孔質性に由来する。表面積を増大させることで、表面に位置する結晶体が増え、成形体中の結晶体をより活用することができる。
もう一つの効果は、成形体の表面に気体や液体等の乱流を生じさせることである。結晶体の機能としては、気体や液体の吸着、貯蔵、分離等がある。吸着、貯蔵、分離等の対象となる気体や液体が成形体の表面を通過する際、成形体の表面が平面であると、気体や液体がそのまま流れていくため、成形体表面付近での気体や液体の濃度が低下しやすい可能性がある。表面に凹凸構造があれば、そこで気体や液体の乱流を生じ、表面付近の気体や液体が撹拌される。これにより、成形体表面で、吸着、貯蔵、分離等の対象となる気体や液体の濃度が低下せず、効果的な機能発現を行うことができる。
【0055】
表面積の増大の観点からは、凹凸構造は、上面視で同じ大きさの平面に対して1.1倍以上の表面積を実現する形状であることが好ましい。
一方で、平面に対して極端に表面積が大きくなると、凹凸構造が壊れやすくなる。具体的な上限は樹脂の物性によるため一概に言えないが、例えば、表面積を平面に対して10倍超にするような、高さ方向のアスペクト比(高さ/幅)の大きいラインアンドスペースを表面に形成すると、凹凸構造は不安定かつ脆弱化しやすい。したがって、凹凸構造の表面積は、上面視で同じ大きさの平面の表面積の10倍以下が好ましい。
即ち、凹凸構造の表面積は、上面視で同じ大きさの平面の表面積の1.1倍~10倍であることが好ましく、1.2倍~3倍であることがより好ましい。
【0056】
機能発現に効果的な凹凸構造は、対象とする気体や液体の流れの方向や速さ等からシミュレーションにより規定することができるが、複数の凸部が分散配置された形状、流れの方向に沿ったラインアンドスペース等が好ましい。
凹凸構造は、気体や液体の流れを成形体表面全体に行き渡らせやすい点で、規則的周期構造を含むことが好ましい。規則的周期構造は、製造しやすいという面からも好ましい。
規則的周期構造では、同じ大きさの複数の構造(凸部、凹部、凸条、溝等)が一定のピッチで、成形体表面の面内の一定の方向に配列している。複数の構造の配列方向は1方向でもよく2方向以上でもよい。
規則的周期構造を構成する複数の構造の大きさは、対象とする気体や液体に応じて選定される。成形性の点では、配列方向における幅(凸部又は凹部の直径、凸条又は溝の幅等)は、20nm~1mmの範囲内が妥当である。高さ方向のアスペクト比は、耐久性の点から、10以下が好ましい。ピッチは、例えば20nm~5mmとすることができる。
【0057】
成形工程は、大気圧環境下で行ってもよく、加圧環境下で行ってもよい。
成形工程を行う際の圧力は、1~10000atmが好ましく、1~100atmがより好ましい。圧力が上記上限値以下であれば、ソルボサーマル法のように密閉容器を使用する必要はなく、成形体(Z)の生産性が優れる。
【0058】
成形工程は、得られる成形体(Y)中の上記結晶体の含有量が、成形体(Y)の総質量に対し、99質量%以下となる条件で行うことが好ましい。成形体(Y)中の上記結晶体の含有量は、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。成形体(Y)中の上記結晶体の含有量が上記上限値以下であると、成形性に優れる。
成形体(Y)中の上記結晶体の含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってよい。
【0059】
成形体(Y)中の上記結晶体の含有量と、成形前の組成物I中の上記結晶体の含有量との差は、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
上記の差を上記上限値以下とする観点から、成形工程は、組成物I中の配位促進剤(C)が反応又は相転移しない条件で行うことが好ましい。配位促進剤(C)が反応又は相転移しない条件については上記のとおりである。
【0060】
結晶生成工程において成形体(Y)に与える刺激は、配位促進剤(C)を反応又は相転移させる刺激であり、熱、光、水及び酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。配位促進剤(C)を反応又は相転移させる刺激は1種でもよく2種以上でもよい。
熱としては、例えば40~500℃の熱であってよい。光としては、例えば紫外線、可視光線、赤外線等が挙げられる。光の照射量は、光の種類や配位促進剤(C)の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば波長360nmの紫外線1mJ/cm以上とすることができる。2種以上の刺激を組合わせる例として、熱水を接触させる方法、蒸気に暴露する方法、酸素を含む雰囲気下で加熱又は光の照射を行う方法等が挙げられる。
【0061】
結晶生成工程は、大気圧環境下で行ってもよく、加圧環境下で行ってもよい。
結晶生成工程を行う際の圧力は、1~10000atmが好ましく、1~100atmがより好ましい。圧力が上記上限値以下であれば、ソルボサーマル法のように密閉容器を使用する必要はなく、成形体(Z)の生産性が優れる。
【0062】
結晶生成工程では、成形体(Z)中の上記結晶体の含有量を0.1質量%以上とすることが好ましい。成形体(Z)中の上記結晶体の含有量は、1質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。成形体(Z)中の上記結晶体の含有量が上記下限値以上であると、多孔質体としての機能性に優れる。
成形体(Z)中の上記結晶体の含有量の上限は特に限定されず、例えば50質量%であってよい。
即ち、成形体(Z)中の上記結晶体の含有量は、0.1質量%~50質量%とすることが好ましい。成形体(Z)中の上記結晶体の含有量は、1質量%~50質量%がより好ましく、10質量%~50質量%がさらに好ましく、30質量%~50質量%が特に好ましい。
成形体(Z)中の上記結晶体の含有量と、成形体(Y)中の上記結晶体の含有量との差は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0063】
結晶生成工程の後、必要に応じて、得られた成形体(Z)に対し、液体による成形体(Z)の洗浄、コート剤による表面加工、埋もれている結晶体を露出させるための表面物理処理、成形体表面に凹凸構造を形成する表面付形処理等の処理を行ってもよい。
【0064】
組成物Iが樹脂成分(重合体である有機物(B)、樹脂(F)等)を含む場合、結晶生成工程で得られる成形体(Z)においては、結晶体(MOF)の一部が樹脂の下に埋もれている。成形体(Z)に対し、表面物理処理を施し、表層の樹脂被膜を取り除くことで、埋もれていた結晶体が表面に露出し、結晶体の多孔質性に由来する機能(吸着機能等。以下、「MOF機能」とも記す。)が充分に発揮されるようになる。例えば、ガス吸着機能が大きく向上する。
【0065】
表面物理処理は、成形体にダメージを与えないものであれば特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
結晶体を露出させるためには、結晶体上に存在する樹脂薄膜を除去するだけでよいため、比較的温和な表面物理処理が好ましい。このような表面物理処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等が挙げられる。これらの処理は、成形体に致命的なダメージを与えず、表面の活性化のみを行うために好適に用いることができる。
ただし、表面物理処理はこれらの方法に限定されず、サンドブラストのような物理的な表面粗化法、アーク放電のような強い電気ストレスを加える方法等も、目的に応じて使用できる。
具体的な処理条件の設定は、実際に成形体の処理を行い、確認しながら実施することか好ましい。
【0066】
本態様の製造方法により得られる成形体は、表面に露出しているMOF比率(以下、「表面露出MOF比率」とも記す。)が5~98%であることが好ましい。
表面露出MOF比率は、成形体表面のうち、MOF(結晶体)が露出している部分が占める割合を示す指標であり、下記式(1)により求められる。表面露出MOF比率が上記下限値以上であれば、MOF機能がより優れる。表面露出MOF比率が上記上限値以下であれば、MOFの破損や脱落が生じにくく、MOF機能の耐久性が優れる。
表面露出MOF比率は、10~90%がより好ましく、15~80%がさらに好ましく、46~80%が特に好ましい。
【0067】
表面露出MOF比率=(A/B)×100 ・・・(1)
ただし、Aは、X線光電子分光法(以下、「XPS」とも記す。)により測定される成形体表面におけるMOF由来の金属原子の量(atm%)を示し、
Bは、MOFにおける金属原子の量(atm%)を示す。
【0068】
XPSによる金属原子の量Aは、XPSで測定される、リチウム以上の原子量を有する原子の全原子量(100atm%)に対する比率である。金属原子の量Aの測定方法の詳細は、後述する実施例に示す。
MOFにおける金属原子の量Bは、MOFを構成する、リチウム以上の原子量を有する原子の全原子量(100atm%)に対する比率である。金属原子の量Bは、MOFの組成式から算出される。
成形体が複数のMOFを含む場合、Bの値は、各MOFの質量を重みとして、各MOFの金属原子の量を加重平均した値とする。
表面露出MOF比率は、成形体における結晶体の含有量、成形体に施す表面物理処理の条件等によって調整できる。
走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のエネルギー分散型X線分析(EDX)装置により成形体表面の元素分析を行うことで、表面露出MOF比率を簡易に確認することができる。EDXによる値は、必ずしも上記式(1)による値とは一致しないが、上記式(1)による値と同様の傾向を示す。例えばEDXによる値が大きいほど、上記式(1)による値も大きい傾向がある。
【0069】
以下に、表面露出MOF比率の具体的な測定方法を例示する。
XPS装置(Kratos社製)を用い、以下の条件で、成形体(積層体又はシート)の概中央部分を10mm角、厚み5mm以内に切断し、測定サンプルとする。成形体の切断面のうち、中央付近1×2mmの範囲を測定対象面とし、測定対象面の金属原子(Zn又はZr)の量A(atm%)を測定する。この値と、成形体に用いたMOFの金属原子(Zn又はZr)の量B(atm%)から、前記式(1)により表面露出MOF比率(%)を算出する。
XPS測定条件:X線源AlKα(モノクロ)を用い、ワイドスペクトルと、想定される元素のナロースペクトルを測定、これらの結果よりatm%を算出する。
【0070】
表面付形処理によって成形体表面に形成する凹凸構造については上述のとおりである。
表面付形処理方法、つまり凹凸構造の形成方法に特に制限はなく、一般的な手法を用いることができる。例えば、表面に凹凸構造を有する型を加熱下で成形体表面に押し当てて凹凸構造を転写する方法、成形体表面をレーザー切削加工する方法等が挙げられる。
ピッチが1μm未満の微細凹凸構造を形成する場合、ナノインプリント技術を用いることが好ましい。ナノインプリント技術は、大きく分類すると、加熱して型を押しつける熱ナノインプリント技術、透明な型に光硬化性樹脂材料を注型して固める光ナノインプリント、シリコーンのような離型性良好な凸版に対象となる成形体を付着させ、必要な部分にプリントするマイクロコンタクトプリントなどがあり、いずれの方法も本発明に好適に用いることができる。
光硬化性樹脂材料としては、例えば、モノマー、オリゴマー等の重合性成分と、光重合開始剤とを含む組成物が挙げられる。重合性成分は有機物(B)であってもよい。重合性成分としての有機物(B)としては、例えば、金属配位部βと、光重合開始剤によって硬化反応を生じる官能基とを有する有機物が挙げられる。光重合開始剤によって硬化反応を生じる官能基としては、ラジカル重合性の不飽和結合が挙げられる。具体的化合物では、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系化合物が挙げられる。特に、硬化させるためには、重合性官能基を複数持つ多官能(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン系化合物等が挙げられる。
【0071】
本発明の第3の態様は、上述の組成物Iを成形しつつ、組成物Iに刺激を与え、物質(A)の金属原子αに有機物(B)の金属配位部βが配位してなる結晶体を生成させ、結晶体を含む成形体(Z)を得る工程(以下、成形・結晶生成工程とも記す。)を含む成形体の製造方法である。
組成物Iの成形時に組成物Iに刺激を与えることで、配位促進剤(C)が反応又は相転移し、物質(A)の金属原子αへの有機物(B)の金属配位部βの配位が進行し、結晶体が生成する。これにより、結晶体を含む成形体(Z)が得られる。
【0072】
組成物Iを成形する方法は、前記と同様、公知の成形方法を用いることができる。
組成物Iに与える刺激は、前記と同様、配位促進剤(C)を反応又は相転移させる刺激であり、熱、光、水及び酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0073】
成形・結晶生成工程は、大気圧環境下で行ってもよく、加圧環境下で行ってもよい。
成形・結晶生成工程を行う際の圧力は、1~10000atmが好ましく、1~10atmがより好ましい。圧力が上記上限値以下であれば、ソルボサーマル法のように密閉容器を使用する必要はなく、成形体(Z)の生産性が優れる。
【0074】
成形・結晶生成工程では、成形体(Z)中の上記結晶体の含有量を0.1質量%以上とすることが好ましい。成形体(Z)中の上記結晶体のより好ましい含有量は上記と同様である。
成形体(Z)中の上記結晶体の含有量と、成形前の組成物I中の上記結晶体の含有量との差は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0075】
成形・結晶生成工程の後、必要に応じて、得られた成形体(Z)に対し、液体による成形体(Z)の洗浄、コート剤による表面加工、埋もれている結晶体を露出させるための表面物理処理、成形体表面に凹凸構造を形成する表面付形処理等の処理を行ってもよい。
【0076】
上述の第2又は第3の態様の成形体の製造方法により得られる成形体(Z)は、物質(A)の金属原子αに上記有機物(B)の金属配位部βが配位してなる結晶体、つまりMOFを含む。
成形体(Z)は、配位促進剤(C)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。洗浄工程を経た場合には、配位促進剤(C)の量が減少した、もしくは配位促進剤(C)を含まない成形体(Z)が得られる。
【0077】
〔成形体〕
本発明の第4の態様は、上記物質(A)の金属原子αに、上記有機物(B)の金属配位部βが配位してなる結晶体と、上記配位促進剤(C)と、を含む成形体である。
本態様の成形体は、上述の第2又は第3の態様の成形体の製造方法により得ることができる。
なお、成形体の吸着性能は、BET比表面積を指標として評価することができる。BET比表面積は、窒素を吸着ガスとし、BET法により測定される比表面積である。測定は、BET比表面積計(島津製作所製)を用いて行うことができる。
得られる成型体は各種アプリケーションに展開可能であり、具体的にはガス分離、ガス貯蔵、センサ、DDS(ドラッグデリバリーシステム)、電磁波シールド、選択的触媒、誘電体、ポーラスな単一金属の前駆体とした検知システム、ポーラスな金属酸化物の前駆体として検知システム、キャパシタ、電極等が挙げられる。
【0078】
〔他の態様〕
本発明は、上記第1~第4の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0079】
本発明の他の一態様として、
亜鉛、銅、コバルト、クロム、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、ニッケル、バナジウム、チタン、及びモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子(以下、金属原子α2とも記す。)を含む物質(A2)と、
金属原子α2に配位可能な金属配位部(以下、金属配位部β2とも記す。)を保護基によって保護した刺激応答性金属配位部β3を2以上有し、前記保護基が、刺激を加えたときに脱保護可能な基である有機物(B2)と、
を含む組成物(以下、組成物IIとも記す。)が挙げられる。
【0080】
物質(A2)は、金属原子αが金属原子α2である以外は、物質(A)と同様であってよい。
有機物(B2)は、金属配位部βが金属配位部β2であり、金属配位部β2が保護で保護されている以外は、有機物(B)と同様であってよい。
【0081】
組成物IIにあっては、物質(A2)と有機物(B2)とを含むため、ソルボサーマル法のような高圧環境でなくてもMOFを生成可能であり、かつ成形可能な材料として保存が可能である。
有機物(B2)の金属配位部β2は、物質(A2)の金属原子α2に配位しやすい。そのため、金属配位部β2が保護基によって保護されていない場合には、ソルボサーマル法のような高圧環境でなくても急速にMOFの生成が進み、成形可能な材料として保存できない。
金属配位部β2を保護基によって保護した刺激応答性金属配位部β3は、ソルボサーマル法でのMOFの合成に用いられているような密閉空間における高圧環境でも金属原子α2に配位しないか、又は配位しにくい。
したがって、組成物IIに刺激が加わる前の状態では、金属原子α2への金属配位部β3の配位、それに伴う結晶体(MOF)の生成は、進まないか進んでもわずかである。そのため、刺激応答性金属配位部β3の保護基が脱保護しない環境下に組成物IIを置くことで、結晶体を生成させることなく組成物IIを保存できる。
また、組成物IIを成形する際の成形条件を、保護基が脱保護しない条件とすることで、結晶体を生成させることなく組成物IIを成形できる。
成形後、得られた成形体に刺激を加えて刺激応答性金属配位部β3の保護基を脱保護し、金属配位部β2を生成させると、密閉空間における高圧環境でなくても、成形体中で金属原子α2への金属配位部β2の配位が進み、結晶体が生成する。
成形時に刺激を加え、結晶体を生成させることもできる。
加える刺激を調整することによって、脱保護する保護基の量を調整し、結晶体の生成速度を調整することもできる。
このようにして、結晶体を含む成形体が得られる。成形後又は成形時に結晶体を生成させるため、成形時に結晶体に加わる負荷によって結晶体が破損することを抑制できる。したがって、成形体中の結晶体の機能が十分に発現し得る。
【0082】
前記保護基としては、意図した刺激により脱離することができるものであれば特に制限はない。例えば、有機物(B2)の金属配位部β2がカルボキシ基の場合、ベンジル基、アリル基、ジフェニルメチル基等の公知の保護基を採用することができる。また、保護基の導入および保護基の脱離の方法は、公知の方法により行うことができる。
例えば、カルボキシ基を光解離性保護基でエステル化することにより保護し、光照射により脱保護する方法(WO2009/113322)などを採用することができる。
【0083】
また、組成物IIは、上記した配位促進剤(C)、有機物(D)、液状媒体(E)樹脂(F)及びその他の成分(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの成分を含有していてもよい。これらの成分の含有量については、組成物Iの場合と同様であってよい。
【0084】
組成物IIを用いた成形体の製造は、組成物Iを用いた成形体の製造と同様の手順で実施できる。例えば第2又は第3の態様の製造方法において組成物Iの代わりに組成物IIを用いることで、結晶体を含む成形体(Z2)を得ることができる。
【実施例
【0085】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例で使用される化合物、溶媒等は全て市販品を用いた。「室温」は15±15℃以内の温度である。
【0086】
(結晶形成の有無の評価)
成形体中の結晶形成の有無は、目視により確認した。
【0087】
(実施例1)
ジメチルホルムアミド40gにテレフタル酸0.34gを溶解し、次に硝酸亜鉛1.21gを加え、完溶するまで撹拌し、溶液を得た。次に、この溶液にエポキシ樹脂1gを加えて、5分間激しく撹拌し、次に、ジシアンジアミドを2.0g入れて5分間撹拌し、溶液状の組成物を得た。以上の組成物の調製は、室温にて行った。エポキシ樹脂としては、三菱ケミカル社製のフェノキシ樹脂(グレード名 1256)を使用した。
得られた組成物をコーターで厚さ100μmになるように塗布し、80℃で5分間加熱乾燥させて、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜に微結晶は見られなかった。また、上記乾燥条件では、乾燥後の膜にジメチルホルムアミドは残存していなかった。
得られた膜を180℃で30分間加熱したところ、白色の微結晶が見られるフィルム状の膜(刺激後成形体)が得られた。
【0088】
(実施例2)
実施例1において、テレフタル酸のかわりに、テレフタル酸のポリエーテル(重量平均分子量1000)(前記式(b1)で表される構成単位を有するポリエーテル)を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜に微結晶は見られなかった。
この膜を180℃で30分間加熱したところ、白色の微結晶が見られるフィルム状の膜が得られた。
【0089】
(比較例1)
実施例1において、溶液にエポキシ樹脂を加え撹拌した後にジシアンジアミドを添加しなかった以外は実施例1と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜に微結晶は見られなかった。
得られた膜を180℃で30分間加熱したところ、フィルム状の膜が得られた。この膜に微結晶は見られなかった。
【0090】
(比較例2)
比較例1において、溶液にエポキシ樹脂を加え撹拌した後にトリエチルアミンを2.5g入れ、5分間撹拌して溶液状の組成物を得た。この組成物中に白色微結晶が見られた。
得られた組成物をコーターで厚さ100μmになるように塗布し、80℃で5分間加熱乾燥させて、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜には白色微結晶が見られた。また、この膜は、膜中の結晶体の分布が不均一であった。これは、溶液状態で結晶化が進んだため、組成物中で結晶が十分に分散することが出来ず、かつ乾燥工程時に結晶体同士が集まったためと考えられる。
【0091】
(比較例3)
実施例1において、テレフタル酸のかわりにジフェニル0.33gを用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜は実施例1とほぼ同様な膜であり、微結晶は見られなかった。
得られた膜を180℃で30分間加熱したところ、膜に変化はなかった。
【0092】
(比較例4)
実施例1において、硝酸亜鉛のかわりに酸化レニウム(VII)を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜は実施例1と同様な膜であり、微結晶は見られなかった。
得られた膜を180℃で30分間加熱したところ、膜に変化はなかった。
【0093】
(実施例3)
実施例1において、乾燥条件を変更し、乾燥後の膜に残存するジメチルホルムアミドの量を膜の総質量に対して10%としたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜は実施例1とほぼ同様な柔軟な膜であり、微結晶は見られなかった。
得られた膜を180℃で30分間加熱したところ、白色の微結晶が見られるフィルム状の膜が得られた。
【0094】
(実施例4)
実施例3において、溶媒乾燥前にポリアクリル酸を0.2g添加したこと以外は、実施例3と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜は実施例3とほぼ同様な柔軟な膜であり、微結晶は見られなかった。
得られた膜を180℃で30分間加熱したところ、白色の微結晶が見られるフィルム状の膜が得られた。
【0095】
(実施例5)
実施例1において、ジシアンジアミドのかわりにケトプロフェントリエチルアミン塩を添加したこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜は実施例1とほぼ同様な柔軟な膜であり、微結晶は見られなかった。
得られた膜に対し、紫外線を照射(水銀ランプ、20J/cm)したところ、白色の微結晶が見られるフィルム状の膜が得られた。
【0096】
(実施例6)
実施例1において、ジシアンジアミドのかわりに酸化カルシウム1g及びピリジン1.25gを添加したこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、フィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。膜の形成後、得られた膜を離型フィルムで挟んだ。この膜は実施例1とほぼ同様な柔軟な膜であり、微結晶は見られなかった。
得られた膜から離型フィルムを剥がし、室温で1日静置したところ、白色の微結晶が見られるフィルム状の膜が得られた。
【0097】
(実施例7)
実施例6において、酸化カルシウム及びピリジンの代わりに鉄粉1g及びピリジン1.25gを添加したこと以外は、実施例6と同様な操作を行い、溶液状の組成物を得て、離型フィルムで挟まれたフィルム状の柔軟な膜(成形体)を得た。この膜は実施例6とほぼ同様な柔軟な膜であり、微結晶は見られなかった。
得られた膜から離型フィルムを剥がし、室温で1日静置したところ、白色の微結晶が見られるフィルム状の膜が得られた。
【0098】
上記実施例1~7及び比較例1~4で得た膜(成形体)の組成及び結晶形成の有無、並びに刺激後成形体の結晶形成の有無を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
(実施例8)
実施例1で得られたフィルム状の柔軟な膜(成形体)に、ピッチ20μm、深さ10μmのラインアンドスペース構造を表面に有する金属ロールを押し当て、表面が付形された成形フィルムを得た。顕微鏡観察により、成形フィルム表面には、ピッチが約20μm、深さが約10μmのラインアンドスペースが形成されていることが確認された。