(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
H02M3/155 H
(21)【出願番号】P 2020104195
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑岸 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】竹中 慎之助
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/115800(WO,A1)
【文献】特開2017-143669(JP,A)
【文献】特開2017-169251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相交流と直流との間の変換を伴う電力システムの、直流電源バスの電圧変動を抑制する電力変換装置であって、
変動補償回路と制御回路とを備え、
前記変動補償回路が、
電源バスに接続された第一コンデンサC1、
前記第一コンデンサC1とグランドとの間でこれらと直列に接続された第二コンデンサC2、
補助コンデンサCc、
前記第二コンデンサC2と前記補助コンデンサCcとに接続された、スイッチ素子を含む降圧機能を有するコンバータ、
前記電源バスの電圧Vdを計測する第一電圧計、
前記補助コンデンサCcの電圧Vcを計測する第二電圧計
及び
前記コンバータの出力電流Iaを計測する電流計
を備え、
前記制御回路が、前記電圧Vdと電圧Vcと電流Iaとを入力として、前記電圧Vdが所定の目標電圧VDとなり、前記電圧Vcが所定の目標電圧VCとなるように、前記スイッチ素子のオンとオフとを制御するスイッチ制御信号を生成し、
前記制御回路が、前記単相交流の周波数の2倍の周波数ω0の変動に対してゲインのピークを有する比例共振制御部を備え、前記スイッチ制御信号の生成において前記比例共振制御部が使用される、電力変換装置。
【請求項2】
前記比例共振制御部が、前記周波数ω0の整数倍の変動に対してゲインのピークを有する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御回路が、
前記比例共振制御部を使用して、前記電圧Vdを前記目標電圧VDにするための前記コンバータの出力電流IAを決める、IA決定部と、
前記電圧Vcを前記目標電圧VCとし、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決める、V2p決定部と、
前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成する、スイッチ信号生成部とを備える、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御回路が、
前記電圧Vdを前記目標電圧VDとし、前記電圧Vcを前記目標電圧VCとするための前記コンバータの出力電流IAを決めるIA決定部と、
前記比例共振制御部を使用して、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるV2p決定部と、
前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成する、スイッチ信号生成部とを備える、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御回路が、前記第二コンデンサC2と前記コンバータとによって決まる発振周波数の成分を低減する、発振周波数成分の低減回路をさらに備え、
前記変動補償回路からの前記電流Iaが前記低減回路に通され、前記低減回路の出力が前記電流Iaとしてスイッチ制御信号の生成に使用される、請求項1から4のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記低減回路が、ノッチフィルターである、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記コンバータが、インバータ又は降圧チョッパである、請求項1から6のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項8】
単相交流と直流との間の変換を伴う電力システムの、直流電源バスの電圧変動を抑制する電力変換装置用の変動補償回路の制御方法であって、
前記変動補償回路が、
電源バスに接続された第一コンデンサC1、
前記第一コンデンサC1とグランドとの間でこれらと直列に接続された第二コンデンサC2、
補助コンデンサCc、
前記第二コンデンサC2と前記補助コンデンサCcとに接続された、スイッチ素子を含む降圧機能を有するコンバータ、
前記電源バスの電圧Vdを計測する第一電圧計、
前記補助コンデンサCcの電圧Vcを計測する第二電圧計
及び
前記コンバータの出力電流Iaを計測する電流計
を備えており、
前記制御方法が、
(A)前記、電圧Vdと電圧Vcと電流Iaとを入力するステップ
及び
(B)前記電圧Vdが所定の目標電圧VDとなり、前記電圧Vcが所定の目標電圧VCとなるように、前記スイッチ素子のオンとオフとを制御するスイッチ制御信号を生成するステップ
を含み、
前記(B)のステップにおいて、前記単相交流の周波数の2倍の周波数ω0の変動に対してゲインのピークを有する比例共振制御が実施される、制御方法。
【請求項9】
前記(B)のステップにおいて、前記周波数ω0の整数倍の変動に対してゲインのピークを有する比例共振制御が実施される、請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記(B)のステップが、
(B1)前記比例共振制御部を使用して、前記電圧Vdを前記目標電圧VDにするための前記コンバータの出力電流IAを決めるステップ、
(B2)前記電圧Vcを前記目標電圧VCとし、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるステップ
及び
(B3)前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成するステップ
を含む、請求項8又は9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記(B)のステップが、
(B1’)前記電圧Vdを前記目標電圧VDとし、前記電圧Vcを前記目標電圧VCとするための前記コンバータの出力電流IAを決めるステップ、
(B2’)前記比例共振制御により、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるステップ、
及び
(B3’)前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成するステップ
を含む、請求項8又は9に記載の制御方法。
【請求項12】
前記(A)のステップの
後に、
(C)前記(A)のステップで入力された前記電流Iaを、前記第二コンデンサC2と前記コンバータとによって決まる発振周波数の成分を低減する発振周波数成分の低減回路に通すステップ
をさらに備え、
前記(B)のステップでは、前記電流Iaとして、前記低減回路を通した後の電流が使用される、請求項8から11のいずれかに記載の制御方法。
【請求項13】
前記発振周波数成分の低減回路がノッチフィルターである、請求項12に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。詳細には、単相交流と直流との間の変換を伴う電力システムの、直流電源バスの電圧変動を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量蓄電池や太陽電池の普及により、単相交流と直流との間の変換を伴う電源システムへの需要が高まっている。車載蓄電池の充電システムや、蓄電池を用いた家庭用電源システムが、この例である。車載蓄電池の充電システムでは、外部電源からの単相交流が、ACDCコンバータ及び力率改善(PFC)を経て直流に変換される。これが、DCDCコンバータにより所望の電圧に変換されて、車載蓄電池に送られる。また、蓄電池を用いた家庭用電源システムでは、直流電源である蓄電池の電圧がDCDCコンバータにより所望の電圧に変換され、さらにインバータにより単相交流に変換される。
【0003】
これらの電源システムでは、直流電源バスの電圧変動を抑えるために、この電源バスに大容量の電解コンデンサを接続するのが一般的である。例えば、PFCとDCDCコンバータとを繋ぐ電源バスや、DCDCコンバータとインバータとを繋ぐ電源バスに、電解コンデンサが接続される。電解コンデンサは、他のコンデンサと比べて大容量化ができる一方で、体積が大きいためシステムが大型化する、寿命が短い等の課題を有している。
【0004】
電源システムの小型化及び長寿命化のために、電解コンデンサに代えて使用できる、アクティブパワーデカップリング(APD)方式の電力変換装置が提唱されている。この装置では、小容量のコンデンサで電圧変動が抑制できるため、小型で長寿命なフィルムコンデンサやセラミックコンデンサが使用できる。この装置の例が、「"A Voltage ControlMethod for an Active Capacitive DC-link Module with Series-Connected Circuit", 2017 IEEE 3rd International FutureEnergy Electronics Conference and ECCE Asia,IFEEC - ECCE Asia, Page 221 - 225.」(以後、文献1)で報告されている。
【0005】
文献1の装置は、変動補償回路と制御回路とからなる。変動補償回路は、電源バスと繋がる第一コンデンサ、このコンデンサと直列に繋がる第二コンデンサ、及び補助コンデンサを備える。補助コンデンサと第二コンデンサとは、インバータで接続されている。変動補償回路から、電源バス電圧及び補助コンデンサ電圧が制御回路に送られる。制御回路から、インバータのスイッチ素子をオンオフさせるPWM信号が変動補償回路に送られる。制御回路は、補助コンデンサ電圧が所定の目標電圧となり、第二コンデンサが電源バス電圧の変動を補償する電圧となるように、PWM信号のデューティー比を変更する。デューティー比変更後の変動補償回路からの電源バス電圧及び補助コンデンサ電圧が、制御回路にフィードバックされる。これを繰り返すことで、電源バスの電圧変動が抑えられる。変動補償回路と制御回路とは、フィードバック制御系を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】"A Voltage ControlMethod for an Active Capacitive DC-link Module with Series-Connected Circuit", 2017 IEEE 3rd International FutureEnergy Electronics Conference and ECCE Asia,IFEEC - ECCE Asia, Page 221 - 225.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
単相交流の電源システムでは、瞬時電力は単相交流の周波数の2倍の周波数ω0で変動するため、電源バスの電圧の目標電圧からの変動は、主に周波数ω0の正弦波の成分を有する。このため、比例積分制御(PI制御)等の従来の代表的な制御方法では、電源バスの電圧と目標電圧との差分をゼロとする制御は困難である。これは、電源バスの電圧の変動を、精度よく抑えることを困難にしている。
【0008】
本発明の目的は、精度よく電源バスの電圧の変動が抑えられうる、APD方式の電力変換装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、単相交流と直流との間の変換を伴う電力システムの、直流電源バスの電圧変動を抑制する電力変換装置に関する。この装置は、変動補償回路と制御回路とを備える。前記変動補償回路は、電源バスに接続された第一コンデンサC1、前記第一コンデンサC1とグランドとの間でこれらと直列に接続された第二コンデンサC2、補助コンデンサCc、前記第二コンデンサC2と前記補助コンデンサCcとに接続された、降圧機能を有するコンバータ、前記電源バスの電圧Vdを計測する第一電圧計、前記補助コンデンサCcの電圧Vcを計測する第二電圧計及び前記コンバータの出力電流Iaを計測する電流計を備える。前記制御回路は、前記電圧Vdと電圧Vcと電流Iaとを入力として、前記電圧Vdが所定の目標電圧VDとなり、前記電圧Vcが所定の目標電圧VCとなるように、前記スイッチ素子のオンとオフとを制御するスイッチ制御信号を生成する。前記制御回路は、前記単相交流の周波数の2倍の周波数ω0の変動に対してゲインのピークを有する比例共振制御部を備える。前記スイッチ制御信号の生成において前記比例共振制御部が使用される。
【0010】
好ましくは、前記比例共振制御部は、前記周波数ω0の整数倍の変動に対してゲインのピークを有する。
【0011】
好ましくは、前記制御回路は、前記比例共振制御部を使用して、前記電圧Vdを前記目標電圧VDにするための前記コンバータの出力電流IAを決めるIA決定部と、前記電圧Vcを前記目標電圧VCとし、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるV2p決定部と、前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成する、スイッチ信号生成部とを備える。
【0012】
他の実施形態として、前記制御回路が、前記電圧Vdを前記目標電圧VDとし、前記電圧Vcを前記目標電圧VCとするための前記コンバータの出力電流IAを決めるIA決定部と、前記比例共振制御部を使用して、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるV2p決定部と、前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成する、スイッチ信号生成部とを備えていてもよい。
【0013】
好ましくは、前記制御回路が、前記第二コンデンサC2と前記コンバータとによって決まる発振周波数の成分を低減する、発振周波数成分の低減回路をさらに備え、前記変動補償回路からの前記電流Iaが前記低減回路に通され、前記低減回路の出力が前記電流Iaとしてスイッチ制御信号の生成に使用される。
【0014】
好ましくは、前記低減回路は、ノッチフィルターである。
【0015】
好ましくは、前記コンバータは、インバータ又は降圧チョッパである。
【0016】
本発明は、単相交流と直流との間の変換を伴う電力システムの、直流電源バスの電圧変動を抑制する電力変換装置用の変動補償回路の制御方法に関する。前記変動補償回路は、電源バスに接続された第一コンデンサC1、前記第一コンデンサC1とグランドとの間でこれらと直列に接続された第二コンデンサC2、補助コンデンサCc、前記第二コンデンサC2と前記補助コンデンサCcとに接続された、スイッチ素子を含む降圧機能を有するコンバータ、前記電源バスの電圧Vdを計測する第一電圧計、前記補助コンデンサCcの電圧Vcを計測する第二電圧計及び前記コンバータの出力電流Iaを計測する電流計を備えている。前記制御方法は、
(A)前記、電圧Vdと電圧Vcと電流Iaとを入力するステップ
及び
(B)前記電圧Vdが所定の目標電圧VDとなり、前記電圧Vcが所定の目標電圧VCとなるように、前記スイッチ素子のオンとオフとを制御するスイッチ制御信号を生成するステップ
を含む。
前記(B)のステップにおいて、前記単相交流の周波数の2倍の周波数ω0の変動に対してゲインのピークを有する比例共振制御が実施される。
【0017】
好ましくは、前記(B)のステップにおいて、前記周波数ω0の整数倍の変動に対してゲインのピークを有する比例共振制御が実施される。
【0018】
好ましくは、前記(B)のステップは、
(B1)前記比例共振制御部を使用して、前記電圧Vdを前記目標電圧VDにするための前記コンバータの出力電流IAを決めるステップ、
(B2)前記電圧Vcを前記目標電圧VCとし、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるステップ
及び
(B3)前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成するステップ
を含む。
【0019】
他の実施形態として、前記(B)のステップが、
(B1’)前記電圧Vdを前記目標電圧VDとし、前記電圧Vcを前記目標電圧VCとするための前記コンバータの出力電流IAを決めるステップ、
(B2’)前記比例共振制御により、前記電流Iaを前記電流IAとするための前記第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるステップ、
及び
(B3’)前記電圧V2p及び前記電圧Vcから前記スイッチ制御信号を生成するステップ
を含んでいてもよい。
【0020】
好ましくは、この制御方法は、前記(A)のステップの後に、
(C)前記(A)のステップで入力された前記電流Iaを、前記第二コンデンサC2と前記コンバータとによって決まる発振周波数の成分を低減する発振周波数成分の低減回路に通すステップ
をさらに備え、前記(B)のステップでは、前記電流Iaとして、前記低減回路を通した後の電流が使用される。
【0021】
好ましくは、前記低減回路は、ノッチフィルターである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る電力変換装置では、制御回路は、単相交流の周波数の2倍の周波数ω0の変動に対してゲインのピークを有する比例共振制御部を備える。この比例共振制御部により、周波数ω0の正弦波の成分を有する電源バスの変動に対して、この変動を抑えた制御が可能となる。この装置では、精度よく電源バスの電圧の変動が抑えられうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明に係る電力変換装置を使用する電源システムの一例が示された、ブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る電力変換装置が示された、回路図である。
【
図3】
図3は、
図2の装置の制御回路の動作が示された、ブロック線図である。
【
図4】
図4は、
図3の制御回路の比例共振制御部の動作が示された、ブロック線図である。
【
図5】
図5は、
図4の比例共振制御部の周波数応答が示された、ボード線図である。
【
図6】
図6は、本発明の他の実施形態に係る電力変換装置の制御回路の動作が示された、ブロック線図である。
【
図7】
図7は、
図6の装置の電源バスの電圧のシミュレーション結果が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0025】
本発明に係る電力変換装置2は、単相交流を使用する電力システムで使用される。この電力変換装置2は、単相交流と直流との間の変換を伴う電源システムにおいて、直流電源バスに接続される。この電力変換装置2は、アクティブパワーデカップリング(APD)方式で、直流の電源バスの変動を抑制する。
図1には、この電力変換装置2が使用された、電力システム4の例が示されている。この図では、この電力変換装置2は、「APD」で表されている。
【0026】
図1の電力システム4は、単相交流の外部電源6から、車載用の蓄電池8を充電するシステムである。単相交流が、ACDCコンバータ及び力率改善9(PFC9)を経て直流に変換され、さらにDCDCコンバータ10により所望の電圧に変換されて、車載蓄電池8に送られる。この実施形態では、本装置2は、PFC9とDCDCコンバータ10とを繋ぐ電源バスに接続されている。図示されないが、本装置2が使用される他の電源システムの例として、蓄電池を利用した家庭用の単相交流電源システムが挙げられる。本装置2は、この電源システムにおいて、DCDCコンバータとインバータとを繋ぐ電源バスに接続される。
【0027】
[第一の実施形態]
図2は、本発明の一実施形態に係る電力変換装置2が示された回路図である。図で示されるように、この装置2は、変動補償回路12と制御回路14とを備える。
【0028】
変動補償回路12は、電源バスに接続されている。
図2に示されるように、変動補償回路12は、第一コンデンサC1、第二コンデンサC2、補助コンデンサCc、コンバータ16、第一電圧計18、第二電圧計20、第三電圧計22及び電流計24を備える。
【0029】
第一コンデンサC1の一端は電源バスに接続されており、もう一端は第二コンデンサC2に接続されている。第二コンデンサC2は、第一コンデンサC1とグランドとの間に直列に挿入されている。コンバータ16は、第二コンデンサC2と補助コンデンサCcとに接続されている。コンバータ16は、二つの入力端子と、二つの出力端子とを備える。それぞれの入力端子は補助コンデンサCcの対応する端子と接続し、それぞれの出力端子は第二コンデンサC2の対応する端子と接続している。
【0030】
コンバータ16は、スイッチ素子Tを備える。この実施形態では、コンバータ16は、4つのスイッチ素子T1、T2、T3及びT4と、二つのインダクタL1及びL2とを備えた、インバータで構成される。それぞれのスイッチ素子Tは、MOSFETで構成されている。スイッチ素子Tが、IGBT、JFET、HFET等の他のスイッチ素子で構成されていてもよい。それぞれのスイッチ素子Tのゲートには、制御回路14からのスイッチ制御信号が接続されている。この実施形態では、制御回路14からのPWM(Pulse Width Modulation)信号が接続されている。スイッチ素子Tのオン時間とオフ時間との比率が、PWM信号のデューティー比により決まる。このコンバータ16により、第二コンデンサC2の電圧V2は、補助コンデンサCcの電圧Vcより降圧されうる。電圧V2の電圧Vcに対する降圧の程度は、PWM信号のデューティー比で制御することができる。
【0031】
上記のとおり、第二コンデンサC2は、電源バスとグランドとの間に、第一コンデンサC1を介して直列に接続されている。電源バスの電圧Vdの変動を補償するように、PWM信号によって第二コンデンサC2の電圧V2を制御することにより、電源バスの電圧Vdの変動を抑制することができる。
【0032】
この変動補償回路12では、補助コンデンサCcの充放電は、電源バスの電圧Vdの変動によって、コンバータ16を通して行われる。補助コンデンサCcの電圧Vcは、PWM信号のデューティー比によって、変えることができる。
【0033】
スイッチ制御信号は、PWM信号でなくてもよい。スイッチ制御信号が、PDM(Pulse Density Modulation)信号であってもよい。スイッチ素子Tのオン時間とオフ時間との比率(スイッチ制御信号のH時間とL時間との比率)が変更でき、これにより第二コンデンサC2の電圧V2が制御できればよい。
【0034】
この実施形態では、コンバータ16は、上記のとおりインバータで実現されている。コンバータ16は、インバータで実現されていなくてもよい。電圧V2の電圧Vcに対する降圧の程度が制御できる回路であればよい。例えばコンバータ16が、降圧チョッパで実現されていてもよい。
【0035】
第一電圧計18は、電源バスの電圧Vdを計測する。第二電圧計20は、補助コンデンサCcの電圧Vcを測定する。第三電圧計22は、第二コンデンサC2の電圧V2を測定する。電流計24は、コンバータ16の出力電流Iaを計測する。計測された電圧Vd、電圧Vc、電圧V2及び電流Iaは、制御回路14に送られる。
【0036】
図2で示されるように、この実施形態では、制御回路14は、演算器26(MCU26)、メモリ28及び図示されないプログラムを備えている。プログラムは、メモリ28に格納されている。制御回路14には、変動補償回路12から上記の電圧Vd、電圧Vc及び電流Iaが入力される。制御回路14は、変動補償回路12のスイッチ素子Tのオンとオフとを制御する、スイッチ制御信号を生成する。この実施形態では、制御回路14は、スイッチ制御信号として、PWM信号を生成する。制御回路14は、変動補償回路12からの電圧Vd及び電圧Vcを入力とし、それぞれを目標電圧とするための操作量として、スイッチ制御信号を変動補償回路12に渡す。制御回路14と変動補償回路12とは、フィードバック制御系を構成している。
【0037】
図3には、制御回路14の機能がブロック線図で表されている。制御回路14には、変動補償回路12からの電圧Vd、電圧Vc及び電流Iaに加えて、電源バスの所定の目標電圧VD及び補助コンデンサCcの所定の目標電圧VCが入力される。
図3から分かるとおり、制御回路14は、ノッチフィルター30(NF30)、コンバータ出力電流IAの決定部32(IA決定部32)、第二コンデンサC2電圧決定部34(V2p決定部34)及び最終的な操作量となるPWM信号の生成部36(PWM生成部36)を備える。
【0038】
なお、第三電圧計22で計測された第二コンデンサC2の電圧V2は、制御回路14での処理には使用されない。これは、評価時に、第二コンデンサC2の電圧V2を確認するために使用される。従って
図3には、電圧V2は記載されていない。
【0039】
この実施形態では、上記の制御回路14の各部分に対応する専用の回路が存在するのではなく、これらはプログラムがMCU26を動作させることで実現されている。制御回路14の一部が、専用の回路で実現されていてもよい。例えば、NF30が専用の回路で実現され、制御回路14のその他の部分が、プログラムがMCU26を動作させることで実現されていてもよい。制御回路14の上記の部分の全てが、専用の回路で実現されていてもよい。
【0040】
NF30は、特定の周波数に対するゲインが、その他の周波数に対するゲインより小さいフィルターである。NF30は、コンデンサC2とインダクタL1及びL2とで決まる発振周波数Foに対して、小さいゲインを有するように構成されている。NF30は、周波数Foの成分を低減する、発振周波数成分の低減回路である。この実施形態では、変動補償回路12からの電流Iaが、NF30に通されている。NF30の出力電流は、入力電流Iaと比べて、周波数Foの成分が低減されている。NF30の出力電流は、入力電流Iaとは同一ではない。この明細書では、入力電流IaとNF30の出力電流とは、特に必要がない限り区別しない。NF30の出力電流は、電流Iaとして記載される。
【0041】
IA決定部32は、測定した電源バスの電圧Vdと、電源バスの目標電圧VDとの差分(変動電圧vd)をなくすように、中間操作量となるコンバータ16の出力電流IAを決定する。変動電圧vdは、電源バスの電圧Vdの、目標電圧VDからの変動成分である。
図3で示されるように、IA決定部32は、比例共振制御部38(PR制御部38)を有する。IA決定部32では、比例共振制御(PR制御)により、中間操作量となる電流IAが決められる。
【0042】
なお、本明細書において、中間操作量とは、PR制御や後述する比例積分制御(PI制御)の出力であって、変動補償回路12への最終的な操作量であるPWM信号の生成に使用される操作量を指す。
【0043】
PR制御部38の伝達関数Gi(s)は、次の式で表される。
【数1】
Gi(s)の最初の項が比例項であり、Kpはその比例定数である。2番目の項が前述の周波数ω0に対する共振項であり、Krはその比例定数である。3番目の項が、周波数ω0の整数倍の周波数h*ω0(hは2以上の整数)に対する共振項である。必要となるhの値やその種類(例えば、h=3、5、7)は、目標とする性能等により決められる。3番目の項は、なくてもよい。この実施形態では、PR制御部38の伝達関数Gi(s)は、3番面の項を備えていない。この実施形態では、PR制御部38の伝達関数Gi(s)は、比例項と、周波数ω0に対する共振項とからなる。
【0044】
この実施形態では、PR制御部38はデジタル回路であるMCU26を、プログラムが動作させることで実現されている。このために、上記伝達関数Gi(s)をz変換した以下の伝達関数が、プログラムで実装されている。
【数2】
上記の係
数a1、a2、
b0、b1及びb2は、Gi(s)を双一次変換でz空間に変換した時に得られる。この式から分かるように、PR制御部38は、IIRフィルターである。
図4に、PR制御部38のブロック線図が示されている。
【0045】
図5は、PR制御部38の周波数応答が示されたボード線図である。PR制御部38は、周波数ω0の変動に対し、ゲインのピークを有する。PR制御部38は、周波数ω0の変動に対して、高いゲインを有している。なお、
図5の横軸は、離散周波数である。これは、信号の周波数を、サンプリング周波数(信号をデジタル回路であるMCU26で処理するために行うサンプリングの周波数)で割った値である。この実施形態では、サンプリング周波数は20kHzである。このPR制御部38は、周波数ω0=100Hzの変動に対し、ゲインのピークを有している。
【0046】
V2p決定部34は、中間操作量となる第二コンデンサC2の電圧V2pを決定する。
図3で示されるように、V2p決定部34では、第一の比例積分制御部(第一PI制御部)及び第二PI制御部を備える。電流IAと電流Iaとの差分がとられ、第一PI制御部により、この差分をゼロとするための電圧
V2ipが決められる。これは、電圧Vdを目標電圧VDとするための、中間操作量となる第二コンデンサC2の電圧である。電圧Vcと目標電圧VCとの差分がとられ、第二PI制御部により、この差分をゼロとするための、第二の電圧V2vcが決められる。これは、電圧Vcを目標電圧VCとするための、中間操作量となる第二コンデンサC2の電圧である。電圧V2pは、以下のとおり、電圧
V2ipと
V2vcとの和である。
V2p=V2ip+V2vc
【0047】
電圧V2ip又は電圧V2vcの決定に、PI制御以外の制御方法を使用してもよい。例えば、第一のPI制御部に代えて、積分制御部(I制御部)を使用してもよく、第二のPI制御部に代えて、I制御部を使用してもよい。
【0048】
PWM生成部36は、中間操作量となる電圧V2pと補助コンデンサCcの電圧Vcとから、PWM信号のデューティー比を決める。デューティー比は、電圧V2pと電圧Vcとの比から決定する。このデューティー比のPWM信号が生成される。このPWM信号が、フィードバック制御の操作量として、変動補償回路12に返される。
【0049】
以下では、この装置2の制御回路14による、変動補償回路12の制御方法が説明される。
【0050】
この制御回路14による変動補償回路12の制御方法は、電圧Vdと電圧Vcと電流Iaとを入力するステップ及びスイッチ制御信号を生成するステップを含む。スイッチ制御信号は、電圧Vdが所定の目標電圧VDとなり、電圧Vcが所定の目標電圧VCとなるように、スイッチ素子のオンとオフとを制御する。この実施形態では、スイッチ制御信号は、PWM信号である。
【0051】
スイッチ制御信号を生成するステップは、
(1)電流IaをNF30に通すステップ、
(2)電源バスの変動電圧vdを得るステップ、
(3)中間操作量となるコンバータ16の出力電流IAを決めるステップ、
(4)電圧Vdを目標電圧VDとするための第二コンデンサC2の電圧V2ipを決めるステップ、
(5)電圧Vcを目標電圧VCとするための第二コンデンサC2の電圧V2vcを決めるステップ、
(6)電圧V2ipと電圧V2vcから、中間操作量となる第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるステップ、
及び
(7)PWM信号を生成するステップ
を含む。
【0052】
なお、上記の(1)から(7)のステップは、全てをこの順に実行する必要はない。あるステップの実行に必要な信号が、別のステップを通して生成されているときは、この信号を生成するステップは、この信号を使用するステップより以前に実行される必要があるが、そうでないステップ同士では、実行の順序は問われない。例えば、ステップ(2)-(3)は、この順に実行される必要がある。ステップ(1)と(2)-(3)とは、どちらが先に実行されてもよく、これらが並行して実行されてもよい。ステップ(4)とステップ(5)とは、どちらが先に実行されてもよく、これらが並行して実行されてもよい。ステップ(6)は、ステップ(1)-(5)の後に実行される必要があり、ステップ(6)-(7)はこの順に実行される必要がある。
【0053】
上記(1)のステップでは、変動補償回路12からの電流Iaが、NF30に通される。この出力電流が、電流Iaとして上記(4)のステップで使用される。
【0054】
上記(2)のステップでは、測定した電源バスの電圧Vdと、電源バスの目標電圧VDとの差分をとることで、変動電圧vdが得られる。上記(3)のステップでは、PR制御により、変動電圧vdをゼロとするための中間操作量となるコンバータ16の出力電流IAが決められる。
【0055】
上記(4)のステップでは、上記の電流IAと電流Iaとの差分がとられる。PI制御により、電流Iaを電流IAとするための第二コンデンサC2の電圧V2ipが決められる。上記(5)のステップでは、電圧Vcと目標電圧VCとの差分がとられる。PI制御により、電圧Vcを目標電圧VCとするための第二コンデンサC2の電圧V2vcが決められる。上記(6)のステップでは、電圧V2ipと電圧V2vcとの和がとられて、中間操作量となる第二コンデンサC2の電圧V2pが決められる。
【0056】
上記(7)のステップでは、電圧V2pと補助コンデンサCcの電圧Vcとから、PWM信号のデューティー比を更新する。新たなデューティー比は、電圧V2pと電圧Vcとの比から決定する。新たなデューティー比のPWM信号が、操作量として変動補償回路12に送られる。
【0057】
変動補償回路12において、新たなPWM信号での、電圧Vd、電圧Vc及び電流Iaが計測される。制御回路14に電圧Vd、電圧Vc及び電流Iaがフィードバックされ、上記(1)から(7)のステップが実行される。これらが繰り返される。
【0058】
以下では、本発明の作用効果が説明される。
【0059】
本発明に係る装置2は、APD方式の電力変換装置2である。この装置2では、小容量のコンデンサで電源バスの電圧変動が抑制できるため、小型で長寿命なフィルムコンデンサやセラミックコンデンサが使用できる。本装置2を使用した電源システムでは、従来の電解コンデンサを使用した電源システムと比べて、小型化及び長寿化が達成されうる。
【0060】
この装置2では、電圧Vdを目標電圧VDとするための、コンバータ16の出力電流IAを決める制御に、PR制御部38を使用している。PR制御部38は、周波数ω0の変動に対してゲインのピークを有する。単相交流の電源システムでは、瞬時電力は周波数ω0で変動するため、電圧Vdは、主に周波数ω0の正弦波の成分を有する。この装置2では、周波数ω0の変動に対し高いゲインを有するPR制御を使用することで、電圧Vdと目標電圧VDとの差分をゼロとする制御が可能となる。これにより、電源バスの電圧Vdの変動を精度よく抑制することができる。
【0061】
この装置2は、電源バスの電圧Vd及び目標電圧VDから、中間制御値となるコンバータ16の出力電流IAを決めている。出力電流IA、補助コンデンサCcの電圧Vc及び目標電圧VCから、電圧Vdを目標電圧VDとし、電圧Vcを目標電圧VCとするための制御値となるPWM信号を生成している。この装置2は、電源バスの電流を必要としない。この装置2では、外付けのセンサが不要である。この装置2は、電源システムの他の部分の構成に影響を及ぼすことなく、電源バスに接続することで使用できる。
【0062】
前述のとおり、この実施形態では、電流Iaは、第二コンデンサC2とインダクタL1及びL2とで決まる発振周波数Foに対して、小さいゲインを有するNF30を通される。電流Iaから、発振周波数Foの成分が実質的に除去される。これにより、制御回路14は、第二コンデンサC2とインダクタL1及びL2とによる発振の影響を受けずに動作することができる。これにより、この装置2では、電源バスの電圧Vdの変動を、精度よく抑制できる。さらに、第二コンデンサC2とインダクタL1及びL2の大きさの設定に、制御回路14への影響を考慮する必要がない。これは、第二コンデンサC2とインダクタL1及びL2の大きさの設定の自由度を大きくする。例えば、小さな第二コンデンサC2及びインダクタL1及びL2を選択することが可能となる。
【0063】
[第二の実施形態]
図6は、本発明の他の実施形態に係る電力変換装置40の制御回路42が示された。ブロック線図である。この装置40の変動補償回路は、
図2の電力変換装置2の変動補償回路12と同じである。
図6から分かるとおり、制御回路42は、ノッチフィルター44(NF44)、変動成分電圧抽出部46(vd抽出部46)、オールパスフィルター48(APF48)、瞬時有効電力及び瞬時無効電力計算部50(pq計算部50)、中間操作量となる瞬時有効電力の決定部52(Pp決定部52)、中間操作量となる瞬時無効電力の決定部54(Qp決定部54)、コンバータ出力電流の計算部56(IA計算部56)、第二コンデンサC2電圧決定部58(V2p決定部58)及びPWM信号の生成部60(PWM生成部60)を備える。これらのうち、vd抽出部46、APF48、pq計算部50、Qp決定部54及びIA計算部56が、電圧Vdを目標電圧VDとし、前記電圧Vcを目標電圧VCとするための、コンバータの出力電流IAを決める部分である。なお、NF44は、
図3のNF30と同じである。
【0064】
vd抽出部46では、測定した電源バスの電圧Vdと、電源バスの目標電圧VDとの差分がとられる。これにより、変動電圧vdが得られる。変動電圧vdは、電源バスの電圧Vdの、目標電圧VDからの変動成分である。
【0065】
APF48は、所定の周波数の信号に対して、振幅を変えずに位相をシフトするフィルターである。このAPF48は、電源システムで使用する単相交流の周波数の2倍の周波数(ω0)の信号に対して、位相を-90°シフトする(90°遅らせる)ように設定される。単相交流の電源システムでは、瞬時電力は周波数ω0で変動する。このため、変動電圧vd及び電流Iaは、主にω0の周波数成分を有する。
図6で示されるように、変動電圧vdがAPF48に通されることで、vdの位相が-90°シフトした電圧vdβが出力される。さらに電流IaがAPF48に通されることで、電流Iaの位相が-90°シフトした電流Iaβが出力される。
【0066】
pq計算部50では、電源バスの電圧変動による変動補償回路の瞬時有効電力ip及び瞬時無効電力iqが計算される。電圧vdβ及び電流Iaβが得られているので、瞬時有効電力ip及び瞬時無効電力iqは以下の式で計算できる。
瞬時有効電力ip=vd*Ia+vdβ*Iaβ
瞬時無効電力iq=vd*Iaβ+vdβ*Ia
【0067】
Pp決定部52は、計測された補助コンデンサCcの電圧Vc、補助コンデンサCcの目標電圧VC、及び瞬時有効電力ipから、補助コンデンサCcの電圧を目標電圧VCにするための、中間操作量となる瞬時有効電力Ppを決定する。
図6で示されるように、Pp決定部52では、電圧Vcと目標電圧VCとの差分から、第一の比例積分制御(PI制御)により、第一の中間操作量Pp1が決められる。このPp1とpq計算部50で計算した瞬時有効電力ipとの差分から、第二のPI制御により、中間操作量となる瞬時有効電力Ppが決められる。Pp決定部52では、瞬時有効電力ipを用いて、補助コンデンサCcの電圧が制御されている。
【0068】
瞬時有効電力の瞬時有効電力Ppの決定に、PI制御以外の制御方法を使用してもよい。例えば、第一のPI制御に代えてI制御を使用してもよく、第二のPI制御に代えてI制御を使用してもよい。
【0069】
Qp決定部54では、瞬時無効電力iqをゼロとするように、PI制御により、中間操作量となる瞬時無効電力Qpが決められる。瞬時無効電力iqをゼロとすることにより、変動電圧vdが小さくされる。これにより、電源バスの電圧Vdの変動が抑えられる。この決定に、PI制御以外の制御方法を使用してもよい。例えば、PI制御に代えて、I制御を使用してもよい。
【0070】
IA計算部56では、瞬時有効電力Pp及び瞬時無効電力Qpから、コンバータ出力電流IAが、以下の式で計算される。
IA=(Pp*vd+Qp*vdβ)/(vd
2+vdβ
2)
図6にこの計算式に対応する、IA計算部56の動作が示されている。
【0071】
V2p決定部58は、計測されたコンバータ出力電流Iaと、上記の計算で求められたコンバータ出力電流IAとから、これらの差分をゼロとするための、第二コンデンサC2の電圧V2pを決定する。
図6で示されるように、V2p決定部58は、比例共振制御部62(PR制御部62)を有する。V2p決定部58では、電流Iaと電流IAとの差分から、比例共振制御(PR制御)により、電圧V2pが決められる。
【0072】
PR制御部62の伝達関数は、
図3のPR制御部62の伝達関数と同様に、比例項と周波数ω0に対する共振項とからなる。PR制御部62は、周波数ω0の変動に対し、ゲインのピークを有する。PR制御部62は、周波数ω0の変動に対して、高いゲインを有している。
【0073】
PWM生成部60は、中間操作量となる電圧V2pと補助コンデンサCcの電圧Vcとから、PWM信号のデューティー比を決める。デューティー比は、電圧V2pと電圧Vcとの比から決定する。このデューティー比のPWM信号が生成される。このPWM信号が、フィードバック制御の操作量として、変動補償回路に返される。
【0074】
以下では、この装置40の制御回路42による、変動補償回路の制御方法が説明される。
【0075】
この制御回路42による変動補償回路の制御方法は、電圧Vdと電圧Vcと電流Iaとを入力するステップ及びスイッチ制御信号を生成するステップを含む。スイッチ制御信号は、電圧Vdが所定の目標電圧VDとなり、電圧Vcが所定の目標電圧VCとなるように、スイッチ素子のオンとオフとを制御する。この実施形態では、スイッチ制御信号は、PWM信号である。
【0076】
スイッチ制御信号を生成するステップは、
(1)電流IaをNF44に通すステップ、
(2)NF44通過後の電流IaをAPF48に通すステップ、
(3)電源バスの変動電圧vdを得るステップ、
(4)変動電圧vdをAPF48に通すステップ、
(5)瞬時有効電力ipを計算するステップ、
(6)中間操作量となる瞬時有効電力Ppを決めるステップ、
(7)瞬時無効電力iqを計算するステップ、
(8)中間操作量となる瞬時無効電力Qpを決めるステップ、
(9)前記コンバータの出力電流IAを計算するステップ、
(10)中間操作量となる第二コンデンサC2の電圧V2pを決めるステップ、
及び
(11)PWM信号を生成するステップ
を含む。これらのうち、ステップ(2)から(9)が、電圧Vdを目標電圧VDとし、電圧Vcを目標電圧VCとするための、中間制御値となるコンバータの出力電流IAを決めるステップである。
【0077】
なお、上記の(1)から(11)のステップは、全てをこの順に実行する必要はない。あるステップの実行に必要な信号が、別のステップを通して生成されているときは、この信号を生成するステップは、この信号を使用するステップより以前に実行される必要があるが、そうでないステップ同士では、実行の順序は問われない。
【0078】
上記(1)のステップでは、変動補償回路からの電流Iaが、NF44に通される。上記(2)のステップでは、NF44通過後の電流IaをAPF48に通すことで、電流Iaの位相が-90°シフトした電流Iaβが得られる。
【0079】
上記(3)のステップでは、測定した電源バスの電圧Vdと、電源バスの目標電圧VDとの差分をとることで、変動電圧vdが得られる。上記(4)のステップでは、変動電圧vdをAPF48に通すことで、変動電圧vdの位相が-90°シフトした電圧vdβが得られる。
【0080】
上記(5)のステップでは、上記で得られた電流Iaβと電圧vdβ、及び電流Iaと変動電圧vdとから、瞬時有効電力ipが以下の式で計算される。
瞬時有効電力ip=vd*Ia+vdβ*Iaβ
【0081】
上記(6)のステップでは、まず、電圧Vcと電圧VCとの差分から、第一のPI制御により、電圧Vcを目標電圧VCにするための第一の中間操作量Pp1が決められる。このPp1と上記(5)のステップで計算した瞬時有効電力ipとの差分から、第二のPI制御により、この差分をゼロとするための中間操作量となる瞬時有効電力Ppが決められる。
【0082】
上記(7)のステップでは、上記で得られた電流Iaβと電圧vdβ、及び電流Iaと変動電圧vdから、瞬時無効電力iqが以下の式で計算される。
瞬時無効電力iq=vd*Iaβ+vdβ*Ia
【0083】
上記(8)のステップでは、PI制御により、瞬時無効電力iqをゼロにするための中間操作量となる瞬時無効電力Qpが決められる。瞬時無効電力iqをゼロにすることにより、変動電圧vdが小さくされる。
【0084】
上記(9)のステップでは、中間操作量となる瞬時有効電力Pp及び瞬時無効電力Qpと、電圧vd及びvdβとから、コンバータ出力電流IAが、以下の式で計算される。
IA=(Pp*vd+Qp*vdβ)/(vd2+vdβ2)
【0085】
上記(10)のステップでは、計測されたコンバータ出力電流Iaと、計算で得られたコンバータ出力電流IAとから、PR制御により、これらの差分をゼロとするための中間操作量となる電圧V2pが決められる。
【0086】
上記(11)のステップでは、電圧V2pと補助コンデンサCcの電圧Vcとから、PWM信号のデューティー比を更新する。新たなデューティー比は、電圧V2pと電圧Vcとの比から決定する。新たなデューティー比のPWM信号が、操作量として変動補償回路に送られる。
【0087】
変動補償回路において、新たなPWM信号での、電圧Vd、電圧Vc及び電流Iaが計測される。制御回路42に電圧Vd、電圧Vc及び電流Iaがフィードバックされ、上記(1)から(11)のステップが実行される。これらが繰り返される。
【0088】
この装置40では、電圧Vdを目標電圧VDとし、前記電圧Vcを目標電圧VCとするための、コンバータの出力電流IAが決められる。電流Iaと電流IAとの差分から電圧V2pを決定する制御に、PR制御部62を使用している。PR制御部62は、周波数ω0の変動に対してゲインのピークを有する。単相交流の電源システムでは、瞬時電力は周波数ω0で変動するため、電流Iaは、主に周波数ω0の正弦波の成分を有する。この装置40では、周波数ω0の変動に対し高いゲインを有するPR制御を使用することで、この差分をゼロとする制御が可能となる。これにより、電源バス電圧Vdの変動を精度よく抑制することができる。
【0089】
APD方式の変動補償回路で精度よく電源電圧の変動を補償するには、補助コンデンサCcの電圧を、目標電圧との差が小さくなるように制御することが重要となる。しかし、補助コンデンサCcの電圧制御は、非線形モデルである。補助コンデンサCcの電圧制御に、PI制御等の従来の代表的な制御方法を使用すると、発振し易くなる。
【0090】
本装置40では、制御回路42は、変動補償回路での瞬時有効電力ipを用いて、補助コンデンサCcの電圧Vcを制御する。補助コンデンサCcの充放電に関係するのは、変動補償回路の電力のうち、有効電力である。変動補償回路の瞬時有効電力を補助コンデンサCcの電圧制御に使用することで、PI制御等の従来の制御方法を使用しても、発振を抑えて精度良く補助コンデンサCcの電圧が制御できる。この装置40では、電源バスの電圧Vdの変動が精度よく抑えられうる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0092】
図6で示された電力変換装置を製作した。評価用の電源システムとして、DC電圧源及びインバータが用意された。このDC電圧源とインバータとの間の電源バスに、本装置を接続した。併せて本装置及び電源システムの、シミュレーション環境も準備した。本装置(APD装置)及び電源システムの仕様が、表1に示されている。表1に示されるとおり、本装置で使用されるコンデンサの容量は、合計で50μF以下である。
【0093】
【0094】
[電源バスの電圧変動]
インバータ動作時の電源バスの電圧変動を、シミュレーションで確認した。この結果が
図7に示されている。
図7では、電源バスの電圧Vdの波形と第二コンデンサC2の電圧V2の波形とが、併せて示されている。図で示されるように、第二コンデンサC2の電圧は、電源バスの電圧変動を補償するために、ピークツーピークで280V変動している。これにより、電源バスの電圧Vdの変動は、ピークツーピークで9Vに抑えられた。これは、この電源バスに、本装置に代えて2mFの容量の電解コンデンサを付けた場合と同等である。
【0095】
以上説明されたとおり、本発明によれば、小さな容量のコンデンサで、精度よく電源バスの電圧の変動が抑えられる。本発明によれば、電源バスの電圧の変動が抑えられた、小型で長寿命な電力変換装置が提供できる。このことから、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明された電力変換装置は、種々の電源システムに使用されうる。
【符号の説明】
【0097】
2、40・・・電力変換装置
4・・・電源システム
6・・・単相交流電源
8・・・車載蓄電池
9・・・ACDCコンバータ及びPFC
10・・・DCDCコンバータ
12・・・変動補償回路
14、42・・・制御回路
16・・・コンバータ
18・・・第一電圧計
20・・・第二電圧計
22・・・第三電圧計
24・・・電流計
26・・・MCU
28・・・メモリ
30、44・・・ノッチフィルター
32・・・コンバータ出力電流の決定部
34・・・第二コンデンサC2電圧決定部
36、60・・・PWM信号の生成部
46・・・変動成分電圧抽出部
48・・・オールパスフィルター
50・・・瞬時有効電力及び瞬時無効電力計算部
52・・・中間操作量となる瞬時有効電力の決定部
54・・・中間操作量となる瞬時無効電力の決定部
56・・・コンバータ出力電流の計算部
58・・・第二コンデンサC2電圧決定部