(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】列車制御システム
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20231101BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231101BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B60L3/00 A
B60L15/20 A
B61L23/00 A
(21)【出願番号】P 2021021436
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今本 健二
(72)【発明者】
【氏名】小池 潤
(72)【発明者】
【氏名】近江 泰志
(72)【発明者】
【氏名】勝田 敬一
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-205694(JP,A)
【文献】特開2014-191485(JP,A)
【文献】特開2020-164013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B61L 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を走行する列車の走行を制御する列車制御システムであって、
前記列車の周辺環境の情報を取得するセンサ部と、
前記センサ部より受信したセンサ情報に基づいて、前記列車が走行する軌道周辺における支障有無の支障判定結果に対する確からしさを数値化した信頼度を、判定基準と比較した大小関係として評価する支障判定部と、
前記信頼度の評価結果に対応付けられた列車制御内容を制御指示ルールとして記憶する制御指示記憶部と、
前記制御指示ルール、前記支障判定結果、及び前記信頼度に基づいて列車速度を制御する列車制御部と、
を備え
、
前記制御指示ルールには、前記信頼度が前記判定基準以下である場合に、前記信頼度が前記判定基準より大きい場合よりも減速度が低い制御指示を割り当てること、が含まれる
列車制御システム。
【請求項2】
前記支障判定部は、前記センサ情報に基づいて前記列車から支障物までの検知距離、及び前記列車速度を推定し、
前記制御指示記憶部は、前記検知距離、及び前記列車速度に基づいて前記信頼度を判定するための判定基準を設定する、
請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項3】
前記制御指示記憶部は、前記信頼度の高さに応じてブレーキ力の強さを設定する、
請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項4】
前記支障判定部は、前記センサ部より受信したセンサ情報に加えて、天候情報もしくは時刻情報もしくは走行地点のうち少なくとも1つ以上の情報に基づき、前記列車が走行する軌道周辺における支障有無を判定し、かつ前記信頼度を評価する、
請求項1
乃至3の何れか1項に記載の列車制御システム。
【請求項5】
前記制御指示記憶部は、前記制御指示ルールとして制御内容を記録し、前記センサ部が想定する検知可能な検知距離と視野角と列車速度と処理時間とのうち少なくとも1つ以上の情報に基づいて前記制御内容を実行させるように前記列車の運転曲線を規定する、
請求項1乃至
4の何れか1項に記載の列車制御システム。
【請求項6】
軌道上を走行する列車の走行を制御する列車制御方法であって、
センサ部が、前記列車の周辺環境の情報を取得し、
支障判定部が、前記センサ部より受信したセンサ情報に基づいて前記列車が走行する軌道周辺における支障有無を一次的に判定し、
前記支障有無に関する前記一次的な支障判定結果の確からしさを数値化した信頼度をより客観的で二次的な判定基準と比較した大小関係により評価し、
制御指示記憶部が、前記判定基準と、前記信頼度の前記評価と、該評価に対応付けられた列車制御内容との組み合わせを制御指示ルールとして記憶し、
列車制御部が、前記評価に応じた前記制御指示ルールに基づいて列車速度を制御
し、
前記制御指示ルールには、前記信頼度が前記判定基準以下である場合に、前記信頼度が前記判定基準より大きい場合よりも減速度が低い制御指示を割り当てること、が含まれる
列車制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車が走行する軌道周辺に存在する異物を検知し、検知結果に基づいて列車の安全を確保するための列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
軌道上を列車等が走行する軌道輸送システムでは、軌道周辺に障害物があった場合、その障害物に衝突しようと接近する列車等を軌道から回避させるような操舵は出来ないため、列車等が走行する前方を監視し続けて支障物等の有無を検知することが、その安全性や運用性を向上させるために重要である。障害物を検知する手段として、例えば、カメラやLIDAR(Light Detection and Ranging)、ミリ波レーダ等のセンサが使用される。これらのセンサ出力を数値化したセンサ情報に基づいて、障害物の有無を閾値判定することが考えられる。
【0003】
そこで、軌道輸送システムのひとつである鉄道において、軌道周辺の物体を検知する技術として、特許文献1に記載された踏切内の障害物検知装置が提案されている。特許文献1では、あらかじめ記録された画像データベースの画像と、列車に搭載したカメラで撮影された画像との比較結果に基づき、障害物の有無を判定する技術が開示されている。特許文献1の技術は、列車先頭部に撮像装置が具備され、撮像装置による軌道画像を絶対キロ程に同期して記録した画像認識データベースを車上に設け、列車走行中、撮像装置を通じて画像認識装置が認識した画像と画像認識データベースとを比較し、異なる画像を検知した時点でブレーキを作動させることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術において、画像認識データベースと、走行中に撮影した画像との比較を行う際、完全に画像が一致する場合のみ同一画像と判定する比較判定処理とした場合、わずかな汚れや植生等により頻繁に障害物と過剰検知する可能性がある。一方、ある程度の差異を許容するような比較判定処理とした場合、障害物に対する感受性が低下するため、障害物まで接近してから比較判定するとした場合、ブレーキ操作が間に合わないおそれがあり、列車の速度を抑制する等、列車の運行を制限をせざるを得ないこともある。そこで、本発明の目的は、障害物を発見するための感受性を高めつつ、より列車の運用を損なわないようにできる列車制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、軌道上を走行する列車の走行を制御する列車制御システムであって、列車の周辺環境の情報を取得するセンサ部と、センサ部より受信したセンサ情報に基づいて、列車が走行する軌道周辺における支障有無の支障判定結果に対する確からしさを数値化した信頼度を、判定基準と比較した大小関係として評価する支障判定部と、信頼度の評価結果に対応付けられた列車制御内容を制御指示ルールとして記憶する制御指示記憶部と、制御指示ルール、支障判定結果、及び信頼度に基づいて列車速度を制御する列車制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、支障物に対する見逃しを根絶させ、逆に過剰検知の疑いがあるセンサ情報であっても、安全性と運用性との総合的観点に基づいて、制御に適宜反映させる列車制御システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る列車制御システム(以下、「本列車制御システム」又は「本システム」ともいう)の構成を例示する機能ブロック図である。
【
図2】
図1の本システムによる運転曲線にセンサの判定信頼度の曲線を重ねたグラフのほか、固定された判定基準と判定信頼度との比較結果に制御内容を対応付けた制御指示ルールの表である。
【
図3】
図2の固定された判定基準を、検知距離と列車速度に応じて変化させたグラフ及び表である。
【
図4】
図2の固定された判定基準を、段階的に変化させたグラフ及び表である。
【
図5】
図2に対し、高精度のセンサ特性区間を適用したグラフ及び表である。
【
図6】
図1~
図5に示した本システムの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、
図1を用いて、本システムの構成と各構成要素の役割について説明する。
図1は、本システムの構成を例示する機能ブロック図である。列車10は、編成された1以上の鉄道車両(以下、車両)より構成される。本システムは、基本的に列車10の車上装置のみで簡素に構成できる。
【0010】
列車10の車上装置は、センサ部101、支障判定部102、制御指示記憶部103、及び列車制御部104を備える。図示しないが、列車10は、線路に沿って走行する旅客や貨物を輸送する車両であり、列車制御部104の指示に基づき、列車10の走行速度を減速するブレーキ装置を備える。
【0011】
図1の本システムは、基本的に列車10の車上装置のみで構成されるが、各構成要素を地上設備内に分散設置しても良い。地上設備は、沿線や駅、司令室等が列挙できる。例えば、センサ部101は踏切に設置されていても良いし、制御指示記憶部103はネットワーク上でクラウドサービスの形式で機能が提供されても良い。各部が列車10外部に設置される場合、列車10は各部と通信するための通信部を別途備える構成とする。本発明では、各部が備える機能を実現する構成となっていればよく、具体的なシステム構成は問わない。したがって、通信部に関連する詳細な説明は省略する。
【0012】
センサ部101は、列車10に搭載されたセンサを用いて列車10周辺監視時のセンサ情報を取得する。使用するセンサは物体検知に適した性能を持つことが望ましく、例えば、カメラ、ミリ波レーダ、LIDAR、超音波センサ等の様々な手段が適用でき、また、複数のセンサを組み合わせて用いても良い。
【0013】
センサ部101は、前方監視時に得られたセンサ情報を支障判定部102へ送信する。センサ情報は、使用するセンサ種別によって異なり、例えば、カメラを用いた場合は物体の画像情報、ミリ波レーダやLIDARを用いた場合は物体からの反射強度や距離情報となる。
【0014】
支障判定部102は、センサ部101より受信したセンサ情報に基づき、列車10が走行する軌道周辺における支障有無を判定し、この一次的な判定結果に対する信頼度を二次的に評価する。支障物有りと判定した場合は列車10から支障物までの距離推定も行う。支障判定部102は、支障判定結果、距離推定結果、信頼度評価結果を列車制御部104へ送信する。なお、一次的な判定処理と、二次的な評価処理とは、説明の便宜上の区別であり、厳格に区別されなくても良い。本システムは、センサ情報のほか、多くの客観情報を加えて、多段階にAI処理した結果を制御に生かすことにより、列車の安全を確保する。
【0015】
支障判定部102による支障有無の判定、及び列車10から支障物までの距離推定の処理は、自動車等の他分野で使用されている物体検知のための技術が使用可能である。例えば、ステレオカメラを用いて視差画像を作成し、視差画像から前方の物体の形状や位置を認識する、といった支障認識方法がある。
【0016】
また、単眼画像からDNN(Deep Neural Network)を使用して画像上の物体を認識する支障認識方法や、LIDARの点群データから物体の有無や距離を検知する支障認識方法もある。このとき、DNNとは、機械学習に用いられる手段の1つであり、対象物の特徴を抽出して学習することで、様々な対象物を認識し、障害物検知精度の向上を可能にする。本発明では、列車前方の支障物を検知できればよく、その方法は問わない。
【0017】
支障判定部102による支障有無の一次的な判定結果に対する信頼度を二次的に評価する処理についても、自動車等の他分野で使用されている物体検知のための技術が使用可能である。例えば、カメラを用いる場合は、取得したカメラ画像と事前学習データとの類似度に基づき信頼度を算出する信頼度算出方法がある。また、LIDARやミリ波レーダを用いる場合は、支障物と判定された物体からの反射により得られた点群データの個数や反射強度に基づき信頼度を算出する信頼度算出方法がある。
【0018】
また、列車10と支障物との推定距離に基づき、例えば、遠方であるほど一次的な判定結果の信頼度を二次的に下げても良い。また、異なるタイミングで受信したセンサ情報に対する支障有無の判定結果を確認し、連続して支障物として検知される場合(すなわち、支障物が同一物体としてトラッキング可能な場合)は信頼度を高く評価しても良い。
【0019】
また、センサ部101が複数のセンサを用いている場合は、センサフュージョン技術が使用可能であり、例えば、1つのセンサ単体で支障有無を判定した場合より、複数のセンサで判定した場合の方を高い信頼度に二次的な評価しても良い。本発明では、支障有無の一次的な判定結果に対する信頼度を二次的に評価できればよく、その方法は問わない。
【0020】
ここまでは、支障判定部102による支障有無の一次的な判定処理、及び一次的な判定結果に対する信頼度の二次的な評価処理について、支障物そのものを発見して「支障有り」とする機能を例示して説明した。これに限らず、支障物が無いことを確認して「支障無し」とする機能を前提にしても、同様の評価処理が可能である。例えば、既知の沿線構造物が適切に検出された場合に、高い信頼度で「支障無し」(すなわち、既知の沿線構造物と列車10との間には物体が存在しない)と人口知能(AI:artificial intelligence)により判定しても良い。
【0021】
この場合、取得したセンサ出力(以下、「センサ情報」という)に基づく信頼度が、ある判定基準(閾値)以上のとき、「支障無し」と判定されなければ、どちらともいえないグレーゾーンを設けることなく反対解釈して「支障有り」と論理判定しても良い。同様に、信頼度がある判定基準以上のとき、「支障有り」と判定されなければ「支障無し」と論理判定しても良い。
【0022】
本システムにおいて、二次的な評価結果は、列車制御に重みづけて反映される。支障判定部102による支障有無の一次的な判定処理、及び一次的な判定結果に対する信頼度がある判定基準以下のときは、その判定結果を列車制御に反映させずに棄却するか軽視するようなグレーゾーンを設けることが合理的である。例えば、悪天候や夜間であることが原因で、既知の沿線構造物が適切に検出されなかった場合、「支障有り」との判定は不適切であるので、信頼度を下げるかゼロにすべきである。
【0023】
支障判定部102は、新しく取得したセンサ情報だけでなく、過去のセンサ情報を使用して障害物の有無や位置情報を判断しても良い。例えば、カルマンフィルタ等の手法を活用し、過去のセンサ情報も用いて障害物の動作状態を推定しても良い。例えば、過去のセンサ情報より直線的に移動してくる物体を検知していた場合、ある瞬間にセンサ情報が取得できなかった場合でも、過去センサ情報から予測される位置に物体が存在するものと推定して以降の処理を実行しても良い。
【0024】
支障判定部102による支障有無の一次的な判定結果に対する信頼度を二次的に評価する処理において、センサ情報以外の情報を用いても良い。例えば、天候情報、走行時間帯及び走行地点等の環境情報に基づいて信頼度を評価しても良い。
【0025】
すなわち、一般的に平常時より検知信頼度が低下する場合の情報として、時間とともに変化する雨天や降雪等の悪天候時の天候情報や、夜間、早朝及び夕方(逆光の影響がある時間帯)等の走行時間帯の情報がある。短時間では変化しないが適宜に更新の必要な、駅周辺の視界情報のほか、トンネル内や山間部等の走行地点情報もある。本システムは、このような検知信頼度の低下要因に基づいて、信頼度を加減しながら評価することが好ましい。
【0026】
なお、走行経路が事前に確認されている場合に限り、カーナビに利用されるような、走行地点等に依存する環境情報を予め用意して記憶整備すれば、本システムにおける検知信頼度の評価のために参照利用することも可能である。このような記憶情報に限らず、本システムでは、走行中に取得した最新リアルタイムの環境情報に基づいて、信頼度を評価しても良い。
【0027】
制御指示記憶部103は、一次的な支障判定結果に対する信頼度の判定基準と、その判定基準を上回る、もしくは下回る信頼度の二次的な評価が得られた場合における列車制御内容との組み合わせを、制御指示ルールとして記憶する。
図2を用いて、本発明の実施形態に係る列車制御方法(以下、「本方法」ともいう)の例を説明する(一例として、「支障有り」と判定された場合の動作を図示)。
【0028】
図2は、
図1の本システムによる運転曲線に、センサの判定信頼度の曲線を重ねたグラフを示す。
図2のグラフの下方には、固定された判定基準Aと判定信頼度との比較結果に、制御内容を対応付けた制御指示ルールの表も示す。例えば、ある判定基準Aを上回る信頼度の支障判定結果の場合はブレーキ作動させ、それを下回る信頼度の場合は惰行運転を行う、といった列車制御方法が考えられる。
【0029】
図2のグラフに示す判定基準Aは、数値変動する信頼度に対する閾値として機能する。本システムにおいて、判定基準(閾値)Aが高ければ、信頼度の低い判定結果は無視又は軽視される。逆に、判定基準(閾値)Aが低ければ、信頼度の低い判定結果でも重視して制御に反映される。本システムにおいて、その判定基準Aは、制御規則の鋭敏さや厳格さのように作用するので、適用した結果が、支障物に対する見逃しと過剰検知の何れに偏る傾向であるかを見極める必要がある。
【0030】
さらに、判定基準Aは、本システムに適用した結果による運行遅延時間への影響度合いのほか、運転士によるバックアップの有無等に基づいて最適値に設定することが望ましい。例えば、本システムで過剰検知しても、運転士が確認の上、運転制御への反映を適切に解除するならば、理想的な安全運行ができることもある。
【0031】
また、支障判定部102による支障判定結果に対する信頼度は、例えば、沿線構造物の多寡による誤検知発生頻度の違い等、路線環境や運用条件によって異なる反応が想定されることから、実路線での走行実績に基づき平常時における信頼度の取得状況も考慮して、判定基準Aを設定することが望ましい。
【0032】
制御指示記憶部103は、支障判定結果に対する信頼度の判定基準Aを設定する際、列車10の停止可能距離に基づいてブレーキを開始するために、列車10から支障物までの距離、及び列車速度に基づいて最適値に設定すると良い。
図3を用いて、本方法の他の例を説明する。
【0033】
図3は、
図2の固定された判定基準Aを、検知距離と列車速度に応じて変化させた判定基準Fで示したグラフ及び表である。ここでいう検知距離は、列車10に搭載されたセンサ部101から、それが検知した支障物までの距離であるので、接近中に初めて検知してから到達するまでの間、ゼロへ向かって減少するように変化する。
【0034】
すなわち、検知距離とは、センサが対象物を検知している最中の対象物までの距離である。検知すべき対象物であっても、センサが検知できない遠方であれば、最大検知距離の範囲外となる。つまり、ここでは実際に検知できている範囲内での検知距離を用いることとし、センサの能力を意味する最大検知距離とは区別する。
【0035】
このように、センサの性能仕様(スペック)は、距離分解能に基づく最大検知距離、速度分解能に基づく最大検知速度のほか、角度分解能に基づく最大検知角度で代表される。したがって、距離分解能や速度分解能が一定のセンサで得られるセンサ情報は、検知距離が長いほど、また列車速度が速いほどに、信頼度が低下する。一方、センサ情報に対する信頼度とは別次元である安全度の観点からは、検知距離が遠く、かつ列車速度が遅いほどに安全度は高い。
【0036】
数値化可能に出力されるセンサ情報に対する信頼度は、ある閾値と比べた大小関係で高いか低いか何れかの判定結果が得られる。その信頼度が高いならセンサ情報を重視するように重みづけて制御に反映させるが、そうでなければ軽視、又は無視する。このように信頼度を判定する閾値を判定基準Fと呼ぶ。この判定基準Fは、状況に応じて段階的、又は無段階に変動させても良い。
【0037】
例えば、列車10から支障物までの距離が遠い、もしくは列車速度が遅い場合は高い判定基準Fを適用する。判定基準Fが高ければ、それを上回る信頼性のある情報でない限り、制御に強くは反映させない。その地点からブレーキ作動させた場合、支障物から十分離れた地点で停車可能だから、せいぜい、その支障物が人か車両か小動物かについてAI判別がつくまでは、力行抑制、又は惰行を継続しても容認されるといった判断である。
【0038】
逆に、距離が近い、もしくは列車速度が速い場合は低い判定基準Fを適用する。判定基準Fが低いければ、それを下回るほどにセンサ情報の信頼性が低くても、明らかに誤報と断定できない限り、制御に反映させる。例えば、踏切手前の至近距離で支障物がセンサ情報として得られたとき、その支障物が人か車両か小動物かについてAI判別がつかなくても、とりあえず非常ブレーキを作動させる。
【0039】
その地点からブレーキ作動させる場合、強めにブレーキ作動させないと支障物と衝突する可能性があるので、その事態を回避するための判断である。センサ情報に対する信頼度の判定結果が高いか低いかにより、センサ情報を制御に反映させる重みづけを変えるような上述の制御形態について、安全度を考慮すると、つぎのように換言できる。
【0040】
列車10の運転状態が、明らかに高い安全度を確保されていると推定されて、信頼度の判定基準Fを高く設定されている場合、それを上回るほどに高い信頼度を伴う支障判定のセンサ情報が得られない限り、ブレーキ作動させない。その結果、本システムは、過剰制御する不具合が低減される。逆に、列車10の現在運転状態に基づく安全度が低いと推定されて、信頼度の判定基準Fが低く設定されている場合、それに応じた低レベルの信頼度で支障物のセンサ情報から得られた状態でも機敏にブレーキ作動する。その結果、本システムは安全性を確保し易い。
【0041】
図3に示すように、本システムは、支障物との距離及び列車速度に応じて信頼度の判定基準Fを連続的に変更できる。そうすることにより、高い信頼度の判定取得が困難な走行環境においても、接近して衝突の危険性がある場合、本システムは、判定基準Fを下げることにより、安全性を確保した列車制御が可能となる。
【0042】
本システムは、信頼度の判定基準Fを設定する際、実路線での走行実績に基づき平常時における信頼度の取得状況を考慮するが、これに加えて、各地点別の判定基準Fを設定することが望ましい。すなわち、本システムは、各地点別に停止可能距離を算出するためのパラメータとして、列車速度、車両性能(減速度、車両重量、走行抵抗等)及び路線の線形情報(勾配、曲線等)に基づいて、判定基準Fを設定すれば良い。
【0043】
制御指示記憶部103は、列車10から支障物までの距離、及び列車速度に基づいて列車制御内容を最適に設定する際、列車10の停止可能距離及び必要となる減速度は数式(1)~(3)で算出する。
【0044】
Ls=Li+Lb …(1)
Li=v×ti …(2)
Lb=v2/2β …(3)
【0045】
ここで、Ls[m]は停止可能距離、Li[m]は空走距離、Lb[m]は制動距離、v[m/s]は列車速度、ti[s]は空走時間、β[m/s2]は減速度である。空走時間は、列車制御部104が制御指示を出力してから、実際に列車10が減速を開始するまでの時間を指す。算出された必要減速度に基づき、ブレーキ力の強さもしくは対応するブレーキノッチを選択する。
【0046】
制御指示記憶部103は、支障判定結果に対する信頼度の判定基準Fを設定する際、制御指示記憶部103は、支障判定結果に対する信頼度の高さに応じてブレーキ力の強さを設定しても良い。
図4を用いて、本方法の他の例を説明する。
図4は、
図2の固定された判定基準Aを、段階的に変化させた判定基準A~Cで示したグラフ及び表である。
【0047】
判定信頼度の判定基準について、
図2ではAに固定し、
図3では変動するFとし、
図4ではA~Cの3ランクに区別して設定される。本システムは、
図4で制御指示ルールの表に示すように、A~Cのランク別の判定信頼度の判定結果に応じて、より具体的に対応付けた制御内容が制御指示記憶部103に記憶されている。本システムにおいて、制御指示記憶部103は、センサ部101のセンサ出力(センサ情報)に基づいた判定信頼度を判定信頼度A~Cと比較した判定結果に応じて、記憶されている制御内容を読み出して実行させるような運転曲線を作成する。
【0048】
すなわち、
図4に例示する3ランクに区別した判定基準A~Cの設定毎に、一番高い判定基準Aを上回る信頼度の支障判定結果の場合は、列車制御内容を非常ブレーキとする。同様に、2番目の判定基準Bを上回る場合は、列車制御内容を常用ブレーキとする。同様に、3番目の判定基準Cを上回る場合は、列車制御内容を惰行運転とする。同様に、3番目の判定基準Cを下回る場合は、列車制御内容を力行抑制とする。
【0049】
本方法は、自動車の手動運転で一般的に行われる「かもしれない運転」と類似した考え方である。この「かもしれない運転」とは、常に周囲の状況に気を配り危険を予知しながら運転することをいう。
図4における信頼度の支障判定結果について、センサ部101が列車10の前方に何らかの支障物を検出し、列車10が初回検知地点で、判定基準Cを下回っている段階では力行抑制する。
【0050】
列車10が支障地点に近づくにつれて、判定基準Cを上回ったならば、惰行運転に列車制御内容を変える。列車10がさらに支障地点に近づいて、判定基準Bを上回ると、常用ブレーキに列車制御内容を変える。さらに、列車10が支障地点に最接近することにより、判定基準Aを上回ると、非常ブレーキに列車制御内容を変える。
【0051】
このように、判定信頼度についての判定結果から低い信頼度しか得られない場合でも、運行への影響が抑えられる範囲で早期に速度を落とし始めることで、推定される支障地点へ低速で接近しながら多くのセンサ情報を得ることができ、より高い信頼度による確実な列車制御が可能となる。
【0052】
制御指示記憶部103は、支障判定結果に対する信頼度の判定基準を設定する際、列車10から支障物までの距離、及び列車速度に基づいて最適値Aに設定する方法と、2つ以上の判定基準A~Cを設定する方法とを組み合わせて設定しても良い。
【0053】
制御指示記憶部103は、制御指示ルールとして記録する制御内容として、支障判定結果に拠らず、ある判定基準未満の信頼度の判定結果しか得られない場合の制御内容についても設定しておくことが望ましい。例えば、「支障無し」と判定された場合においても、その判定結果の信頼度が低い場合は、力行抑制や惰行運転とすることが考えられる。また、直前の判定で「支障有り」と判定されていた場合は、信頼度が低い「支障無し」と判定された場合でも、直前の制御内容を保持するといったことが考えられる。
【0054】
制御指示記憶部103は、制御指示ルールとして記録する制御内容として、所定ブレーキ制御後に列車速度が所定値以下になるとブレーキ制御を緩解するような「多段ブレーキ制御方式」としても良い。また、そのような多段制御方式に限定せず、制御内容として目標地点及び目標速度を指定し、列車制御部104側では地点までに速度へ減速できるように、ブレーキ開始地点及びブレーキ力を最適に決定するような「一段ブレーキ制御方式」としても良い。
【0055】
本システム又は本方法では、信頼度に基づき適切な列車制御を選択できれば良く、制御指示ルールとして記録する制御内容が「多段ブレーキ制御方式」か「一段ブレーキ制御方式」か、何れであるかは問わない。つまり、本発明の第1の特徴は、信頼度に応じて各種のブレーキ制御方式を最適に選択することにある。
図5を用いて、本方法の他の例を説明する。これに関連し、本発明の第2の特徴は、センサの良さを生かすように、センサ特性が良好で信頼度の高いセンサ特性区間(
図5)を設定して好結果を得ることにある。
【0056】
図5は、
図2に対し、高精度のセンサ特性区間を適用したグラフ及び表である。センサの良さを生かすように、制御指示記憶部103は、制御指示ルールとして記録する制御内容として、列車10に搭載するセンサ特性(検知距離、視野角、列車速度、処理時間等)に基づく運転曲線を指定しても良い。
図5に示す「センサ特性区間」に運転曲線を収めるように運転すれば、物体検知及び支障判定が高信頼であるため、より安全を確保し易い。そのため、センサ特性が最適となる距離範囲を、本システムが想定する最適な環境であるセンサ特性区間にする。すなわち、列車10が適切な速度域で走行することにより、より安全を確保し易い。
【0057】
センサ特性区間は、最大検知距離、及び最大検知速度といったセンサの性能仕様(スペック)に基づいて、設定できる。例えば、本システムにセンサとしてカメラを用いた場合、そのカメラの性能仕様に基づいて、距離1km前後の地点では低い信頼度の検知のみ可能であり、距離500m以内かつ速度70km/h以下であれば高い信頼度で検知可能だとする。そのような本システムにおいて、支障物から1km前後の地点で検知をした後は、支障物からの距離500m地点を列車速度70km/h以下で接近するような運転曲線を指定することが考えられる。
【0058】
また、本システムに、上述した性能仕様のカメラと、それとは異なる複数のセンサを組み合わせた場合も、類似の要領で運転曲線を指定できる。例えば、検知距離300m以内かつ速度80km/h以下であれば高い信頼度で検知可能なLIDARを使用する場合、距離300m地点を70km/h以下で接近するような運転曲線を指定することが好ましい。
【0059】
そのような組み合わせのセンサを備える本システムは、両センサを組み合わせたことで、より高い信頼度で物体検知及び支障判定が可能となる。そのようなセンサ特性、及びそれらの組み合わせについては、センサメーカによる性能仕様、走行実績に基づく性能評価等を考慮し、設定することが望ましい。
【0060】
列車制御部104は、支障判定部102より受信した支障判定結果、距離推定結果、信頼度評価結果、制御指示記憶部103より受信した制御指示ルール、及び列車10の走行速度に基づき、列車10の列車制御指示を生成して列車10を制御する。ブレーキを制御する方法として、例えば、生成した列車制御指示をATO装置(自動列車運転装置)へ送信して自動制御しても良いし、運転士に対して警報等の運転支援情報を提示して手動によるブレーキ制御を促しても良い。
【0061】
自動制御と手動制御のどちらを適用するかは、列車走行前に決定しておいても良いし、走行開始後に運転士が手動で決定しても良い。また、列車制御部104は、信頼度情報を受信する場合、信頼度に基づき自動制御と手動制御のどちらを適用するかを決定しても良い。
【0062】
例えば、通常時は自動制御による列車制御を行うが、支障判定結果に対する信頼度が所定値より低い場合はシステムによる判断が誤っている可能性があると判断し、システムから運転士に対して手動制御への切替えを促すといった運用が考えられる。列車10の制駆動手段の具体的装置の例としては、インバータ、モータ、摩擦ブレーキが挙げられる。
【0063】
列車制御部104は、支障判定部102が列車10の前方に「支障無し」と判定した場合、列車走行速度や信頼度評価結果に基づき、ブレーキ解除指示を生成して列車10を制御しても良い。このような列車制御部104の処理によれば、抑制された運行状態から早期に平常走行へ復帰できる効果が期待できる。
【0064】
例えば、列車制御部104が前の処理周期において「支障有り」と判定してブレーキ指示を行った後、障害物が除去されるほか、一時的なセンサ誤検知であったことが確認されることにより列車走行の安全性が確認された場合、ブレーキ解除して不要な減速を避け、早期に平常走行へ復帰できる効果が期待できる。以上が、列車制御システムの構成と各構成要素の説明である。
【0065】
つぎに、
図6を用いて、列車制御システムの処理の流れを説明する。
図6は、
図1~
図5に示した本システムの処理を示すフローチャートである。
図6に示す処理は一定周期で実行される。ステップ900はセンサ部101、ステップ901からステップ904は支障判定部102、ステップ905からステップ906は列車制御部104により実行される。
【0066】
ステップ900では、センサ部101より現時点におけるセンサ情報を取得する。ステップ901では、センサ部101が取得したセンサ情報に基づき、列車10の走行を支障する物体の有無を一次的に判定する。ステップ902では、ステップ901での一次的な判定結果に基づき、「支障有り」と判定した場合はステップ903の処理に進み、「支障無し」と判定した場合はステップ904に進む。
【0067】
ステップ903(「支障有り」と判定)では、センサ情報に基づき、列車10と検出した支障物との距離を推定し、ステップ904に進む。ステップ904では、センサ情報に基づくほか、より客観的な判定基準に基づいて、支障判定結果に対する信頼度を二次的に評価する。
【0068】
ステップ905では、支障判定結果、距離推定結果、信頼度評価結果、制御指示記憶部103より受信した制御指示ルール、及び列車10の走行速度に基づき、列車10の列車制御指示を生成して列車10を制御する。なお、有人運転ならば、列車制御指示により直接列車10を制御する代わりに、運転台での画面表示や音声情報、警報等により、運転士に対して侵入判定結果やブレーキ指示内容を提示しても良い。
【0069】
ステップ906では、列車制御指示内容(ブレーキ指示もしくはブレーキ緩解)に基づき、列車10の走行速度を制御する。以上が、本列車制御システムにより実行される列車制御動作のフロー例の説明である。本システムは、このような手順で、支障判定結果に対する信頼度に応じてブレーキを制御することにより、運用環境やセンサ特性に応じた安全かつ安定した列車制御を実現する。
【0070】
本発明の実施形態に係る列車制御システム(本システム)は、つぎのように総括できる。
[1]本システムは、列車10と、センサ部101と、支障判定部102と、制御指示記憶部103と、列車制御部104と、を備える。列車10は軌道上を走行する。センサ部101は、列車10の周辺環境の情報を取得する。支障判定部102は、センサ部101より受信したセンサ情報に基づき、列車10が走行する軌道周辺における支障有無を一次的に判定し、制御指示記憶部103に記憶する。さらに、支障判定部102は、このように得られた一次的な支障判定結果の確からしさに対し、天候等の環境や列車の走行位置等も考慮し、より客観的な判定基準に基づいて信頼度を二次的に評価する。
【0071】
信頼度は、数値化されて演算処理可能である。また、制御指示記憶部103は、列車10から支障物までの検知距離、及び列車速度に基づいて列車制御内容を最適に設定する。支障判定部102は、制御指示記憶部103から読み出された一次的な支障判定結果の信頼度を、より客観的な判定基準に対して上回るか、下回るかに基づいて二次的に評価し、制御指示記憶部103に記憶する。
【0072】
また、信頼度の評価と、その評価に応じて適用される列車制御内容と、の組み合わせを制御指示ルールとする。この制御指示ルールは、制御指示記憶部103に記憶される。また、列車制御部104は、制御指示ルール、支障判定結果、及び支障判定結果に対する信頼度に基づき、列車速度を制御する。
【0073】
上述のように構成された本システムは、支障物に対する見逃しと過剰検知を実用レベルでバランス良く防止できる。例えば、本システムにおいて、画像認識データベースと、走行中に撮影した画像と、を比較判定処理して支障判定結果を得る場合、判定基準を適切に設定することにより、完全一致以外は「支障物有り」と厳格過ぎて、過剰検知する不具合を避け易くなる。逆に、本システムにおいて、相当の差異まで許容するように甘過ぎて、実際の障害物を見逃す不具合を避け易くなる。
【0074】
本システムによれば、外界センサによる支障判定結果に対する信頼度が、現状に基づいて適切に評価されることにより、走行環境やセンサ特性に応じた最適な制動力を作動可能にする。そうすることにより、本システムは、支障物に対する見逃しを根絶させ、逆に過剰検知の疑いがあるセンサ情報であっても、安全性と運用性との総合的観点に基づいて、制御に適宜反映させる。その結果、本システムによれば、安全かつ安定した列車制御を実現できる。
【0075】
[2]上記[1]の本システムにおいて、支障判定部102は、センサ部101より受信したセンサ情報に基づき、列車10と支障物との検知距離、及び列車速度を推定する。また、制御指示記憶部103は、列車10と支障物との検知距離、及び列車速度に基づき、一次的な支障判定結果に対する信頼度の判定基準を設定し、読み出し可能に記憶する。なお、本システムにおいて、このように信頼度を二次的に判定する閾値を判定基準と呼ぶ。
【0076】
多くのセンサでは、障害物までの距離や、悪天候又は、夜間等の周辺環境変動に伴い、検知性能や検知結果の信頼度が変動する。検知結果の信頼度が変動する前提のセンサ情報による閾値判定において、固定された閾値を適用すると、列車の走行に支障を及ぼさない理想的な判定結果を得ることが困難である。そのため、支障判定結果に対する信頼度の判定基準として、一律に固定された閾値(
図2のA)を適用することは必ずしも適切でない。
【0077】
そこで、本システムでは、この判定基準(閾値)を、状況に応じて段階的、又は無段階に変動させることが可能なように、制御指示記憶部103に必要な情報が記憶されており、その記憶内容は適宜に更新される。
【0078】
図3に示すように、制御指示記憶部103において、支障判定結果に対する信頼度の判定基準Fは、列車10の停止可能距離に基づきブレーキを開始するために、列車10から支障物までの距離、及び列車速度に基づいて最適値Fに設定すると良い。支障判定結果に対する信頼度が高いならセンサ情報を重視するように重みづけて列車制御に反映させるが、そうでなければ軽視、又は無視する。
【0079】
例えば、列車10から支障物までの距離が遠い、もしくは列車速度が遅い場合は、高い判定基準を適用する。判定基準が高ければ、それを上回る信頼性のある情報でない限り、制御に強くは反映させない。逆に、支障物までの距離が近い、もしくは列車速度が速い場合は、低い判定基準を適用する。判定基準が低いければ、それを下回るほどにセンサ情報の信頼性が低くても、明らかに誤報と断定できない限り、列車制御に反映させる。
【0080】
本システムは、列車10が支障地点まで近い地点において、初めてブレーキ作動させる場合、強めにブレーキを作動させないと支障物に衝突する可能性があるので、その事態を回避できるように判断して列車制御する。このように、本システムは、センサ情報及びそれに基づく支障判定結果に対する信頼度が高いか低いかにより、支障判定結果を制御に反映させる重みづけを変える。
【0081】
図3グラフの左方に示すように、本システムは、列車10の運転状態が、明らかに高い安全度を確保されていると推定されている場合、信頼度の判定基準を高く設定されている。したがって、本システムは、それを上回るほどに高い信頼度を伴う支障判定のセンサ情報が得られない限り、ブレーキ作動させない。その結果、本システムは、過剰制御する不具合をより確実に低減される。
【0082】
逆に、
図3グラフの右方に示すように、列車10の現在運転状態に基づく安全度が低いと推定されている場合、信頼度の判定基準が低く設定されている。したがって、本システムは、それに応じた低レベルの信頼度で支障物のセンサ情報から得られた場合でも、見逃すことなく機敏にブレーキ作動させる。その結果、本システムは安全性を確保し易い。
【0083】
図3に示すように、本システムは、支障物との距離及び列車速度に応じて信頼度の判定基準を連続的に変更できる。そうすることにより、高い信頼度の判定取得が困難な走行環境においても、接近して衝突の危険性がある場合、本システムは、判定基準を下げることにより、安全性を確保した列車制御が可能となる。
【0084】
[3]上記[1]又は[2]の本システムにおいて、支障判定部102は、センサ部101より受信した一次的なセンサ情報に加えて、天候情報もしくは時刻情報もしくは走行地点のうち少なくとも1つ以上の情報に基づき、列車10が走行する軌道周辺における支障有無を判定し、かつその支障判定結果に対する信頼度を二次的に評価する。このような本システムは、より現実対応能力が高まり、実用的である。例えば、既知の沿線構造物が適切に検出された場合は「支障無し」とし、その逆の場合は「支障有り」と判定する手法も有効に採用できる。つまり、天候情報もしくは時刻情報に基づいて信頼度が変動するセンサ情報を用いた支障判定の手法も、本システムにおいて有効に採用できる。
【0085】
[4]上記[1]~[3]の本システムにおいて、制御指示記憶部103は、制御指示ルールとして記録する制御内容として、センサ部101が想定する検知可能な検知距離もしくは視野角もしくは列車速度もしくは処理時間のうち少なくとも1つ以上の情報に基づき、列車10の運転曲線を指定すると良い。換言すると、制御指示記憶部103は、列車10に搭載するセンサ特性(検知距離、視野角、列車速度、処理時間等)に基づく運転曲線を指定すると良い。
【0086】
例えば、センサ特性が最適となる距離範囲を、本システムが想定する最適な検知範囲であるセンサ特性区間にする。そうすると、本システムにおいて、
図5に示すセンサ特性区間は、センサの長所を生かし易いので、列車10を高精度に制御することが可能である。本システムにおいて、
図5に示す「センサ特性区間」に運転曲線を収めるように運転すれば、物体検知及び支障判定が高信頼であるため、より安全を確保し易い。つまり、本システムによれば、そのセンサ特性区間において、列車10を適切な速度域で走行させると、精密に制御し易く、より安全を確保し易い。
【0087】
本発明の実施形態に係る列車制御方法(本方法)は、つぎのように総括できる。
[5]本方法は、軌道上を走行する列車10の走行を制御する列車制御方法であり、つぎの処理を有する。まず、センサ部101が、列車10の周辺環境の情報を取得する(ステップ900)。つぎに、支障判定部102が、センサ部101より受信したセンサ情報に基づき、列車10が走行する軌道周辺における支障有無を一次的に判定する(ステップ901)。
【0088】
つぎに、支障判定部102が、一次的な支障有無についての支障判定結果の確からしさに対する信頼度をより客観的で二次的な判定基準と大小関係を比較して評価する(ステップ904)。この判定基準と、それとの比較で得られた評価と、その評価に基づいて適用される列車制御内容と、の組み合わせを、制御指示ルールとして、制御指示記憶部103が記憶する。つぎに、列車制御部104が、支障判定結果に対する信頼度に応じた制御指示ルールを、制御指示記憶部103から読み出して、その制御指示ルールに基づいて列車速度を制御する(ステップ906)。
【0089】
鉄道路線において、夜間や悪天候下においてセンサ情報の取得が不安定になる場合がある。その場合、ステップ900~901における支障有無に関する判定結果に対し、取得したセンサ情報に基づいて、支障判定の信頼度に応じた適切な制動力を設定することで、運用環境やセンサ特性に応じた安全かつ安定した列車制御方法を実現できる。センサ情報から得られた検知距離や列車速度に基づいて、支障有無の判定結果に対する信頼度の評価を変え、その評価に応じて列車制御への反映に重みづけする。
【0090】
本方法では、安全度の高い状況ならば、支障有無の判定結果に対し、信頼度の高い内容のみを制御に反映させることにより、過剰検知による正常運行への阻害を避ける。逆に、安全度が低く緊迫した状況ならば、支障有無の判定結果に対し、信頼度が低い内容であっても制御に反映させて支障物の見落としを避ける。本方法は、このようにして、支障物に対する見逃しを根絶させ、その一方で、過剰検知の疑いがあるセンサ情報であっても、安全性と運用性との総合的観点に基づいて、制御に適宜反映させる。その結果、本方法によれば、安全かつ安定した列車制御を実現できる。
【0091】
[補足]
本列車制御システムにも適用されるセンサシステム(センサ部101と支障判定部102の組み合わせ)は、人や危険物体を検出し、一次的な支障判定結果を出力し、制御対象を安全な状態にすることで、人を保護することが目的であり、センサシステム規格IEC62998に準拠して、センサ機能や精度について二次的に客観評価される。つまり、列車10の周辺環境の情報を取得するセンサシステムは、そのセンサ部101より受信したセンサ情報に基づき、支障判定部102やその他の機能部により、一次的なセンサ機能の精度だけでなく、人や危険物体を検出した支障判定結果の信頼性について、環境や列車の状況等も考慮して二次的に客観評価する。本システムは、この評価に応じて適切に重みづけされた制御内容により列車を運行する。
【0092】
センサシステム規格IEC62998の目的を実現する上で、人や危険物体を検出するためには、「YOLO(You-Only-Look-Once)」を用いることが好ましい。「YOLO」は、比較的新しい画像認識のアルゴリズムであり、つぎの長所がある。第1に高精度で処理が早い。第2に画像全体の情報を捉えて予測するので、背景を物体と誤検出する不具合が低減できる。すなわち、「YOLO」では、背景も含めた画像全体の情報から学習や検証が可能であるため、背景と物体との関係を学習に基づいて合理的に認識できる。
【0093】
センサは、環境状況等に応じて信頼度が変化する。ここでいう、センサ特性とは、主にそのセンサにとって、検出能力を高精度に発揮し易い領域、いわば利用価値の高い領域での性能をいう。例えば、検知距離や速度に関する得意の領域がセンサ特性として規定される。本発明の特徴的技術は、センサ特性に応じてセンサから検出された情報の信頼度に基づいて、車両の走行環境やセンサ特性に応じた最適な制動力を作動可能にする技術である。なお、最適な制動力を得るために制動強度を段階的に変化する制御は、鉄道車両において、ノッチ段数を伴う運転操作になじみ易いので好適である。
【0094】
換言すると、本列車制御システムは、必ずしも全環境に対応可能でないセンサ特性を認識した上で、支障物との検知距離や列車速度に関し、センサの得意な領域を用いて列車を制御する。列車に対する制御内容は、例えは、非常ブレーキ、通常ブレーキ、惰行運転、及び力行抑制といった内容である。その際、列車10の停止可能検知距離及び必要となる減速度は、上記数式(1)~(3)で算出される。これらの数式以前に、センサは、それが一次的に出力するセンサ情報のほか、環境や列車の状況等に基づき、センサ機能、及び支障判定の精度について二次的に客観評価される。信頼度の高いセンサ情報、及び支障判定結果ならば、それに重みづけして迅速に制御に反映させるが、逆ならば、制御へ反映させる度合いを軽くするか無視される。
【0095】
本列車制御システムは、基本的に無人運転が前提であるが、必ずしもそれに限定されるものでなく、完全自動運転に加えて運転士も並存して構わない。その場合、制御内容が走行装置へ伝達される経路に介在する運転士に対して、制御内容を運転支援情報として提示する。
【0096】
本システムの構成において、「記憶部」相当の機能があるならば、1以上のメモリを含むものであると良い。その記憶部における少なくとも1つのメモリは、揮発性メモリであっても良いし、不揮発性メモリであっても良い。また、「制御指示記憶部103」は、プログラムを記憶した記憶部に、プロセッサ部(CPU)や入出力インターフェースを組み合わせて形成されたコンピュータ相当部である。このコンピュータ相当部は、1チップマイコンで実現しても良く、他のコンピュータの一部を兼用利用しても良く、あるいは、ハードウェア回路のみで同等機能を実現させても構わない。
【0097】
また、「kkk部」の表現にて機能を説明したが、それらの機能は、1以上のコンピュータプログラムがプロセッサ部によって実行されることで実現されても良いし、1以上のハードウェア回路によって実現されても良い。なお、各機能の説明は一例であり、複数の機能が1つの機能にまとめられたり、1つの機能が複数の機能に分割されたりしても良い。
【0098】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。それらの実施形態は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0099】
10…列車、101…センサ部、102…支障判定部、103…制御指示記憶部、104…列車制御部、900~906…各ステップ