(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ハイブリッド・コヒーレント及びスペクトルビーム結合のための回折光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20231101BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20231101BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20231101BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G02B5/18
H01S3/067
H01S3/10 D
H01S3/10 Z
G02B5/28
(21)【出願番号】P 2021502698
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(86)【国際出願番号】 US2019019394
(87)【国際公開番号】W WO2019190670
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-09
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンバーグ,ジョシュア・イー
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0036218(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106959482(CN,A)
【文献】国際公開第2005/124400(WO,A1)
【文献】特表2015-502668(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0084605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学デバイスであって、
平坦な上面を有する基板と、
前記基板の前記上面上に堆積される平坦な反射コーティングと、
前記反射コーティング上に堆積される最上誘電体層と、
前記基板の厚さ方向に直交する第1の方向において前記最上誘電体層の中に形成される周期構造体、及び前記基板の前記厚さ方向および前記第1の方向に直交する第2の方向において前記最上誘電体層の中に形成されるチャネルを有する周期格子と
を備え、
前記周期構造体は、前記周期格子のチャネル間周期性に対して直交する、前記チャネルの長さに沿った周期的変調を含む、光学デバイス。
【請求項2】
前記周期構造体は、異なる角変位を有するコヒーレントビームを結合するための回折光学素子として使用されるのに有効であり、前記周期格子は、異なる波長及び角変位を有するインコヒーレントビームを結合するためのスペクトルビーム結合器として使用するのに有効である、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記光学デバイスは、ファイバ増幅器システムの一部である、請求項2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
光学デバイスの製造方法であって、
前記光学デバイスは、
平坦な上面を有する基板と、
前記基板の前記上面上に堆積される平坦な反射コーティングと、
前記反射コーティング上に堆積される最上誘電体層と、
前記基板の厚さ方向に直交する第1の方向において前記最上誘電体層の中に形成される周期構造体、及び前記基板の前記厚さ方向および前記第1の方向に直交する第2の方向において前記最上誘電体層の中に形成されるチャネルを有する周期格子と
を備え、
前記周期構造体は、前記周期格子のチャネル間周期性に対して直交する、前記チャネルの長さに沿った周期的変調を含み、
前記製造方法は、
前記周期構造体及び前記周期格子を、一度のエッチングプロセスによって同時に形成するステップを含む
光学デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記製造方法が、ホログラフィックパターニング技法を利用して、干渉ビームによって前記最上誘電体層上に堆積されたフォトレジストコーティングを露光するステップを含む、請求項4に記載の光学デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記ホログラフィックパターニング技法は走査ビーム干渉リソグラフィである、請求項5に記載の光学デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記反射コーティングは複数の誘電体層を含む、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記複数の誘電体層は、屈折率が高い誘電体層及び屈折率が低い誘電体層が交互に配置されるように堆積された複数の誘電体層である、請求項7に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記周期構造体の周期は10μmより大きく、前記周期格子の周期は2μmより小さい、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項10】
前記最上誘電体層はシリカである、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項11】
前記基板はガラス又はシリコンである、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項12】
異なる角変位を有するコヒーレントビームを結合するための回折光学素子と、異なる波長及び角変位を有するインコヒーレントビームを結合するためのスペクトルビーム結合器とを備える
光学デバイスであって、
平坦な上面を有する平坦な基板と、
前記基板上に堆積される最上誘電体層と、
前記基板の厚さ方向に直交する第1の方向において前記最上誘電体層の中に形成され、前記回折光学素子を画定する周期構造体、及び前記基板の前記厚さ方向および前記第1の方向に直交する第2の方向において前記最上誘電体層の中に形成され、前記スペクトルビーム結合器を画定する、チャネルを有する周期格子と
を備え、
前記周期構造体は、前記周期格子のチャネル間周期性に対して直交する、前記チャネルの長さに沿った周期的変調を含む、
光学デバイス。
【請求項13】
前記光学デバイスは、ファイバ増幅器システムの一部である、請求項12に記載の光学デバイス。
【請求項14】
光学デバイスの製造方法であって、
前記
光学デバイスは、
異なる角変位を有するコヒーレントビームを結合するための回折光学素子と、異なる波長及び角変位を有するインコヒーレントビームを結合するためのスペクトルビーム結合器とを備え、
前記
光学デバイスは、さらに、
平坦な上面を有する平坦な基板と、
前記基板上に堆積される最上誘電体層と、
前記基板の厚さ方向に直交する第1の方向において前記最上誘電体層の中に形成され、前記回折光学素子を画定する周期構造体、及び前記基板の前記厚さ方向および前記第1の方向に直交する第2の方向において前記最上誘電体層の中に形成され、前記スペクトルビーム結合器を画定する、チャネルを有する周期格子と
を備え、
前記周期構造体は、前記周期格子のチャネル間周期性に対して直交する、前記チャネルの長さに沿った周期的変調を含み、
前記製造方法は、
前記周期構造体及び前記周期格子を、一度のエッチングプロセスによって同時に形成するステップを含む、
光学デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記製造方法が、ホログラフィックパターニング技法を利用して、干渉ビームによって前記最上誘電体層上に堆積されたフォトレジストコーティングを露光するステップを含む、請求項14に記載の
光学デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記ホログラフィックパターニング技法は走査ビーム干渉リソグラフィである、請求項15に記載の
光学デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記周期構造体の周期は10μmより大きく、前記周期格子の周期は2μmより小さい、請求項12に記載の光学デバイス。
【請求項18】
異なる角変位を有するコヒーレントビームを結合するための回折光学素子と、異なる波長及び角変位を有するインコヒーレントビームを結合するためのスペクトルビーム結合器とを備える
光学デバイスであって、
平坦な上面を有する基板と、
前記基板の厚さ方向に直交する第1の方向において前記基板の中に形成され、前記回折光学素子を画定する周期構造体、及び前記基板の前記厚さ方向および前記第1の方向に直交する第2の方向において前記基板の中に形成され、前記スペクトルビーム結合器を画定する、チャネルを有する周期格子と
を備え、
前記周期構造体は、前記周期格子のチャネル間周期性に対して直交する、前記チャネルの長さに沿った周期的変調を含む、
光学デバイス。
【請求項19】
前記光学デバイスは、ファイバ増幅器システムの一部である、請求項18に記載の光学デバイス。
【請求項20】
光学デバイスの製造方法であって、
前記
光学デバイスは、
異なる角変位を有するコヒーレントビームを結合するための回折光学素子と、異なる波長及び角変位を有するインコヒーレントビームを結合するためのスペクトルビーム結合器とを備え、
前記
光学デバイスは、さらに、
平坦な上面を有する基板と、
前記基板の厚さ方向に直交する第1の方向において前記基板の中に形成され、前記回折光学素子を画定する周期構造体、及び前記基板の前記厚さ方向および前記第1の方向に直交する第2の方向において前記基板の中に形成され、前記スペクトルビーム結合器を画定する、チャネルを有する周期格子と
を備え、
前記周期構造体は、前記周期格子のチャネル間周期性に対して直交する、前記チャネルの長さに沿った周期的変調を含み、
前記製造方法は、
前記周期構造体及び前記周期格子を同時に形成するステップと、
ホログラフィックパターニング技法を利用して、干渉ビームによって前記基板上に堆積されたフォトレジストコーティングを露光するステップとを含む、
光学デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、一般に、集積回折光学素子(DOE:diffractive optical element)及びスペクトルビーム結合(SBC:spectral beam combination)グレーティングを含む光学デバイスに関し、より詳細には、コヒーレントビームに関するビーム結合と、インコヒーレントビームに関するスペクトルビーム結合との両方を提供する、DOE及びSBCグレーティングを有する集積光学素子に関し、DOE及びSBCグレーティングは、単一の製造ステップにおいて、素子の最上層内に製造される。
【背景技術】
【0002】
[0002]高出力レーザ増幅器は、産業用、商用、軍事用などを含む、数多くの適用例を有する。レーザ増幅器の設計者は、これらの適用例のためにレーザ増幅器の出力を上げる方法を絶えず研究している。1つの既知のタイプのレーザ増幅器は、ドープファイバ及びポンプビームを利用して、レーザビームを生成するファイバレーザ増幅器であり、ファイバは約10μm~20μm又はそれより大きいアクティブコア径を有する。
【0003】
[0003]その理論的出力及びビーム品質限界に接近するように、ファイバレーザ増幅器設計を改善してファイバの出力電力を高めてきた。ファイバ増幅器の出力電力を更に高めるために、いくつかのファイバレーザシステムは複数のファイバレーザを利用し、それらのファイバレーザが、より高い出力を生成するようにして、シードビームを増幅及び結合する。このタイプのファイバレーザ増幅器システムに関する設計課題は、ビームが、そのビームが小さい焦点に合焦できるようにビーム径にわたって均一な位相を有する単一のビーム出力を与えるように、複数のファイバからのビームをコヒーレントに結合することである。結合されたビームを長い距離(遠距離場)において小さい焦点に合焦させることにより、ビームのビーム品質が規定され、個々のシードビームがコヒーレントであるほど、結合された位相が均一になり、ビーム品質が良好になる。
【0004】
[0004]1つの既知の複数ファイバ増幅器設計では、主発振器(MO:master oscillator)がシードビームを生成し、シードビームは複数のスプリットシードビームに分割され、各スプリットシードビームは、各シードビームが増幅される共通の波長を有する。増幅されたビームは、その後、コリメートされ、回折光学素子(DOE)に送られ、回折光学素子が、増幅されたコヒーレントビームを単一の出力ビームに結合する。DOEは素子の中に形成される周期構造体を有し、それぞれがわずかに異なる角度方向を有する個々の増幅されたビームが周期構造体によって向きを変更されるときに、全てのビームがDOEから同じ方向に回折するようにする。全てのシードビームの位相がコヒーレントに保持されるように、各シードビームが、ビームの位相を制御する位相変調器に与えられる。しかしながら、帯域幅及び位相誤差に関する制約が、コヒーレントに結合することができる増幅されたビームの数を制限し、それにより、レーザの出力電力を制限する。
【0005】
[0005]これらの制約を克服し、レーザ出力を更に高めるために、異なる波長においてシードビームを生成するために複数の主発振器が設けられ、その場合に、個々の波長のシードビームはそれぞれいくつかのスプリットシードビームに分割され、シードビームの各グループは同じ波長を有し、互いにコヒーレントである。それぞれの波長におけるコヒーレントシードビームの各グループはDOEによって最初にコヒーレントに結合され、その後、コヒーレントに結合されたビームの各グループは、わずかに異なる角度においてスペクトルビーム結合(SBC)グレーティングに送られ、スペクトルビーム結合(SBC)グレーティングは、同じ方向のビームを、複数の波長からなる単一の結合ビームとして回折させる。また、SBCグレーティングは、異なる波長においてビームを結合するための周期構造体も備える。
【0006】
[0006]このタイプのハイブリッド・ファイバレーザ増幅器システムが、本出願の譲受人に譲渡され、参照により本明細書に組み込まれている、2008年10月14日にRothenbergらに対して発行された、「Method and System for Hybrid Coherent and Incoherent Diffractive Beam Combining(ハイブリッド・コヒーレント及びインコヒーレント回折ビーム結合のための方法及びシステム)」と題する米国特許第7,436,588号において見られる。’588特許は、ハイブリッド・ファイバレーザ増幅器システムに関する種々の実施形態を開示し、各実施形態は、上記で論じられたように、コヒーレントビーム結合を与えるためのDOE、及びスペクトルビーム結合を与えるためのSBCグレーティングを含む。1つの特定の実施形態において、’588特許は、DOE及びSBCグレーティングを組み合わせて単一の光学素子にし、その素子において、DOE及びSBCグレーティングのための周期構造体は互いに直交する。
【0007】
[0007]本出願の譲受人に譲渡され、参照により本明細書に組み込まれている、2016年8月16日にRothenbergに対して発行された、「Hybrid Diffractive Optical Element and Spectral Beam Combination Grating(ハイブリッド回折光学素子及びスペクトルビーム結合グレーティング)」と題する米国特許第9,417,366号が、’588特許において開示されたファイバレーザ増幅器システムにおいて利用されるのに適している集積DOE及びSBCグレーティングを備える光学デバイスを開示する。その光学デバイスは、1つの方向において光学的に平坦な基板の上面の中に、DOEのための周期構造体を画定する周期パターンを形成することによって製造される。多層誘電体高反射(HR:high-reflection)コーティングが、周期パターンと共形をなし、正確に再現されるように、基板上に堆積される。HRコーティング上に最上誘電体層が堆積され、最上誘電体層も周期パターンと共形をなし、第1の方向に直交する第2の方向においてSBCグレーティングのための周期溝を形成するようにエッチングされる。’366特許の光学デバイスは、一体化されたDOE及びSBCグレーティングとして有効であることがわかっているが、光学的な性能及び製造の複雑度の改善を実現することができる。例えば、’366光学デバイスの製造工程は、DOE及びSBCグレーティングに関して別々の製造ステップを要求する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】別々のDOE及びSBCグレーティングを含む、既知のファイバレーザ増幅器の概略的な平面図である。
【
図2】集積DOE及びSBCグレーティングを含む、既知のファイバレーザ増幅器の概略的な平面図である。
【
図3】既知の集積DOE及びSBCグレーティングの等角図である。
【
図4】
図2に示される増幅器のために適した集積DOE及びSBCグレーティングの製造ステップを示す一連の図である。
【
図5】
図2に示される増幅器のために適した集積DOE及びSBCグレーティングの製造ステップを示す一連の図である。
【
図6】
図2に示される増幅器のために適した集積DOE及びSBCグレーティングの製造ステップを示す一連の図である。
【
図7】
図6に示される集積DOE及びSBCグレーティングを製造するための走査ビーム干渉リソグラフィ(SBIL:scanning beam interference lithography)システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0013]集積DOE及びSBCグレーティングを含む光学デバイスに向けられる本開示の実施形態に関する以下の検討は、実際には例示にすぎず、本開示又はその適用例若しくは用途を制限するつもりは全くない。
【0010】
[0014]
図1は、複数のN個の主発振器(MO)12を含む既知のファイバレーザ増幅器システム10の概略図であり、各主発振器は、光ファイバ14上に、わずかに異なる波長λ
1、λ
2、...、λ
Nを有する別々のビームチャネル又は波長グループ16に適した線幅のシードビームを生成する。また、MO12は、後続の増幅において非線形性を抑圧するために、その線幅を広げる位相変調器も組み込むことができる。各ファイバ14上のシードビームはビームスプリッタ18に送られ、ビームスプリッタは、シードビームを複数のM個のスプリットシードビームに分割し、各スプリットビームは別々の位相変調器20に与えられる。各波長グループ16内のスプリッタ18及び複数の位相変調器20は別々のデバイスであるが、単一のチップ上で実現することができるので、ここでは単一のデバイスとして示される。位相変調器20は、後に論じられるように、全てのビームがコヒーレントであり、互いに同相であるように、各スプリットシードビームの位相を補正する。この非限定的な実施形態では、各波長グループ16は5つのシードビームを有するが、各波長グループ16内のシードビームの数は、特定の適用例に適した任意の数にすることができ、本明細書では、M個のシードビームとして表される。位相変調器20からのM個のスプリットシードビームはそれぞれファイバ増幅器22に送られ、増幅器22は、光ポンプビーム(図示せず)を受光するファイバ24のドープされた増幅部を表す。
【0011】
[0015]M個のファイバ24の各波長グループ16は、全てのファイバ24からの全ての増幅されたビームが結合され、増幅されたビーム30の2次元ファイバアレイ28が規定されるように、適切な光学デバイス26によってシードビームの1次元アレイに結合され、アレイ28内のビーム30の各列は、波長グループ16のうちの1つの波長グループ内のファイバ24からのビームであり、同じ波長λiを有する。ただし、列ごとに、i=1、2、3、...、Nである。ビーム30の向きを可視化できるように、アレイ28はビーム30の伝搬経路から90度だけ回転していることは理解されよう。アレイ28内のビーム30の構成は、波長が長い方のビーム30間の間隔が広くなるような向きにおいて示されることに留意されたい。詳細には、波長λ1は、例示のために、最も短いと仮定されるので、最も左の列内のビーム30の波長λ1は互いに近接しており、波長λNは最も長いと仮定されるので、アレイ28の最も右の列内のビーム30の波長λNは、更に離間している。
【0012】
[0016]アレイ28からのM×N個の増幅されたビーム30は、コリメート用光学系36によってコリメートされ、ビーム30は、アレイ28内のその位置の結果として、わずかに異なる伝搬角を有する。コリメートされた増幅されたビーム30はDOE38に向けられ、DOEは、同じ場所においてDOE38上の全てのビーム30の最適な重なりを確保するために、コリメート用光学系36の後方焦点面に位置決めされる。DOE38は周期構造体を有する光学素子であり、コヒーレントであるそれぞれの列内のビーム30をアレイ28内のN個の列ごとにそれぞれの単一のビームに誘導し、わずかに異なる方向に伝搬しているそれぞれの波長λi(ただし、i=1、2、3、...、N)において、N個のコヒーレントに結合されたビーム40がDOEから反射されるようにする。また、DOE38は、DOE非効率性の結果として、いくつかの不要の次数のビーム42を回折させる。適切な位相整合の結果として、波長λiの各グループ16からのM個のビームが効率的に結合される。
【0013】
[0017]DOE38によって回折するN個の結合ビーム40は、波長λiごとに1つの、N個の低電力サンプルビームが生成されるように、スプリッタ44によってサンプリングされる。ただし、各サンプルビームはわずかに異なる角変位を有する。レンズ46が、N個のサンプルビームを、光検出器のような、空間的に離間した位相検出器48に合焦させ、各検出器48は、DOE38によって結合されたN個の特定の波長のうちの1つにおいて、M個の成分ビームの位相を検出する。位相検出器48は、特定の波長λiにおいて結合ビームの位相を測定し、電気測定信号を同期位相プロセッサ50に与え、検出器48ごとに別々のプロセッサ50が設けられる。
【0014】
[0018]同期検出器方式が結合ビーム内のシードビームごとの成分位相信号を区別できるように、周波数変調(FM:frequency modulation)若しくは振幅変調(AM:amplitude modulation)に関して異なる周波数を使用する、符号分割多元接続(CDMA:code division multiple access)若しくは時分割多元接続(TDMA:time division multiple access)に関して異なる符号を使用するなどにより、成分ビームを位相又は振幅において一意にディザリング又は符号化することによって、位相検出器48からの単一の出力においてN個の各結合ビーム内の成分ビームの位相を区別することができる。そのような技法は、例えば、本出願の譲受人に譲渡され、参照により本明細書に組み込まれている、2008年3月18日にRothenbergらに対して発行された、「Multi-Stage Method and System for Coherent Diffractive Beam Combining(コヒーレント回折ビーム結合のためのマルチステージ方法及びシステム)」と題する米国特許第7,346,085号において開示される。各同期位相プロセッサ50は、位相検出器48からの測定信号内の異なる成分位相を復号し、ファイバ増幅器22内の個々のシードビームの位相を調整することによって、全ての成分シードビームが位相同期するように、対応する位相変調器20に送られるシードビームごとに位相誤差補正信号を生成する。増幅されたビームのアレイが十分に重なり、単一のビームに結合されるので、DOE上のビーム間に間隙は存在せず、フィルファクタが低いことに起因するサイドローブが除去され、出力ビームを概ね回折限界のスポットに合焦させて、ビームの全結合電力によって与えられる輝度の理論的限界に概ね達することができる。
【0015】
[0019]ビームサンプラ44を通り抜けるN個の角変位した結合ビーム40は中継光学系54によって中継され、SBCグレーティング56上に結像し、要求される入射角を保持しながら、様々な波長の全N個の結合ビーム40のスペクトルビーム結合を与える。角度偏差を厳密に補償するために、SBCグレーティング56の角分散に応じて、N個の各結合ビーム40の波長λiが選択される。SBCグレーティング56は、異なる角度を有するN個の結合ビーム40を共通の方向に回折させる周期的格子構造を含む。したがって、ファイバ増幅器システム10の出力において、単一の回折限界出力ビーム60が与えられ、ファイバ増幅器システムは、高い効率で、そして不要の回折次数の電力を低く抑えながら、M×N個の全てのビームを結合する。
【0016】
[0020]DOE38及びSBCグレーティング56は、その上に突き当たる光ビームを反射する反射構造体として示されるが、他のファイバレーザ増幅器システム設計は、DOE又はSBCグレーティングに突き当たる光ビームが光学素子を通って伝搬する透過素子を利用できることに留意されたい。
【0017】
[0021]
図2は、ファイバレーザ増幅器10に類似の既知のファイバレーザ増幅器システム70の概略図であり、同じ要素は同じ参照番号によって識別される。増幅器システム70は、上記で論じられた個別のDOE38及びSBCグレーティング56の代わりに、コヒーレントビーム及び異なる波長のビームの両方を結合する単一の光学素子を提供する集積DOE及びSBCグレーティング光学素子72を備える。これは、増幅器システムのための光学素子の数が少なく、サイズがコンパクトであるという利点を与える。レンズ46に向けられた低電力サンプルビームは、光学素子72内のSBCグレーティングからの0次反射である。SBCグレーティングからの1次以上の回折ビームは、出力ビーム60の一部である。光学素子72を製造するために、特定の数のM個のビームの結合、それゆえ、位相関数φ(x)に関するDOE設計が実施される。
【0018】
[0022]上記で参照された’366特許は、光学素子72として使用するのに適している集積DOE及びSBCグレーティングを開示する。
図3は、’366特許からの
図7を再現したものであり、基板80、多層HRコーティング86及び最上誘電体層92を含む光学素子74を示す。DOE周期構造体82がx方向において基板80の高さh(x)の中に形成され、コーティング86及び層92は、堆積するときにそのパターンに従う。これは滑らかな高さ関数h(x)=λ[φ(x)/4π]を定義し、それは通常、波長λほどの大きさからなり、周期dを有する、光学面の1つの軸に沿った位置の周期関数である。ファイバアレイ28内のN個の列ごとに、波長λは比λ
i/dを決定し、それは、その列内のM個のビームの要求される角度分離を与える。フォトレジスト層を堆積及びパターニングし、既知のホログラフィ技法又はリソグラフィ技法を用いてフォトレジスト層を露光することなどによって、最上層92をエッチングして、y方向においてSBCグレーティングチャネル94を形成し、それにより、素子74はDOE及びSBCグレーティングの両方を備える。
【0019】
[0023]以下に論じられるように、本開示は、同じく光学素子72として使用されるのに適しており、製造ステップ数の削減、並びに精度及び効率が高いDOEのような、素子74より優れた特定の利点を提供する、集積DOE及びSBCグレーティングを有する光学素子を提案する。
【0020】
[0024]
図4は、光学素子72のために使用することができる集積DOE及びSBCグレーティング光学素子100のための製造ステップの縦断面図である。
図5は、最終的な製造ステップ後の素子100の平面図であり、
図6は等角図である。素子100は、数ミリメートルから数センチメートル厚であり、光学的に平坦な表面を有する、ガラス又はシリコンのような基板102と、基板102上に堆積される多層誘電体高反射(HR)コーティング104とを備える。多層コーティング104は、屈折率が高い誘電体層106及び屈折率が低い誘電体層108を交互に配置したものを含み、その多くが当該技術分野において知られている。この非限定的な実施形態において、各層106及び108は、その光学的な厚さが約4分の1波長λであり、全ての層106及び108の全厚は5μmから10μm程度とすることができる。HRコーティング104上に、その厚さが数μm以下である、シリカ又は別の適切な酸化物のような最上誘電体層110が堆積される。
【0021】
[0025]層110上にフォトレジストコーティング112が堆積され、エッチングプロセスのためにパターニングされ、エッチングプロセスにより、DOE及びSBCグレーティングのための周期構造体が画定される。したがって、’366特許において行われたように、基板102内にDOEのための周期パターンを形成し、コーティング104がそのパターンと共形をなすようにする代わりに、DOE及びSBCグレーティングのための両方の周期パターンが一度のエッチングプロセスによって同時に形成される。より具体的には、層110は、x方向において周期的である関数Δy(x)によって記述される距離だけy方向においてシフトした溝位置を有するDOE周期構造体114と、y方向において周期的であり、SBCグレーティングのための周期構造体を与える、適切に成形されたチャネル又は溝116とを同時に生成するように、その上面内にエッチングされる。この非限定的な実施形態において、溝116は、特定の適用例に合わせて長方形の断面形状を有する。しかしながら、当業者には理解されるように、台形、鋸歯、三角形などの、他の適用例に合わせた他の形状も同様に適用可能である。DOEのための周期構造体114はx方向において形成されるが、’366特許のDOEのための周期構造体は基板に出入りするように形成され、その結果として最上層92の高さが変動するのに対して、本開示では、DOEのための周期構造体114は、層110を画定する平面にわたって溝位置を変更することによって形成されることに留意されたい。
【0022】
[0026]周期構造体114のための溝位置関数Δy(x)は、典型的には対象波長程度の大きさを有し、x方向に沿って周期的であり、周期dを有する、滑らかに変化する関数である。ファイバアレイ28内のN個の列ごとに、波長λiが比λi/dを決定し、それは、その列内のM個のビームの要求される角度分離を与える。x方向に関する溝縁部の最大角が通常、数十mrad程度に小さいように、周期構造体114の周期は通常、対象ビームの波長λの約100倍又はそれより大きい。DOEのための周期構造体114の通常の周期は、コヒーレントビームを結合するために約100μmであり、SBCグレーティングのための溝116の周期は、変化する波長のビームを結合するために、通常、約0.5μmから1μmであることに留意されたい。
【0023】
[0027]上記で論じられた一体化されたDOE及びSBCグレーティングのための同じ光学的機能は、透過光学素子に関して与えることができる。透過光学素子の場合、HRコーティング104が除かれ、基板102が直接、パターニング及びエッチングされるか、又は基板102上に直接、若しくは反射防止(AR:anti-reflection)多層誘電体コーティングの上に、キャップ層が被着され、エッチングされる。また、集積DOE及びSBCグレーティングデバイスが透過性デバイスである場合には、コーティング104及び誘電体層110のいずれかが含まれる必要があるか、含まれる必要がない場合があり、集積DOE及びSBCグレーティングデバイスが反射性デバイスである場合には、コーティング104及び誘電体層110がいずれも必要とされることに留意されたい。
【0024】
[0028]ホログラフィック製造工程を利用することができ、その工程では、突き当たるビーム間の干渉パターンがフォトレジストコーティング112を露光する明暗縞を生成し、DOE及びSBCグレーティングを画定するのに必要な周期パターンを生成する。両方の直交する周期構造体を達成するために、コーティング112は一直線の干渉縞によって露光されるのではなく、縞位置、それゆえ、溝116は、x方向に沿って変化する。基本格子周期がpである場合には、溝116がその正常な周期的位置からy方向に沿ってΔy(x)だけシフトする結果として、回折ビームの位相がφ(x)=2πΔy(x)/pだけシフトする。’366特許では、位相シフトがφ(x)=4πh(x)/λであるように、基板をエッチングしてx方向に沿って表面高h(x)を変更することによって、x方向に沿って変化する位相シフトが達成された。したがって、シフトした格子溝位置Δy(x)によって、必要なx方向依存性の位相変動φ(x)を与え、DOE機能を達成するために、SBCグレーティング書き込みプロセス自体が利用される。
【0025】
[0029]走査ビーム干渉リソグラフィ(SBIL)のような、縞及び溝位置の要求されるx方向依存性を達成するのに適した任意のホログラフィックパターニング技法を使用することができる。SBILによれば、照明される焦点において縞を形成する2つの成分ビーム間の相対位相を変更しながら、合焦した露光ビームがフォトレジストコーティング112にわたって走査される。ラスター走査を利用することができ、ビーム間の相対位相φ(x)を変更し、それゆえ、x方向に沿った位置の関数として縞のy方向位置Δy(x)を変更しながら、x方向が走査される。ラスター走査は光学素子100にわたって連続したy方向位置において進行し、露光縞の位置における同一のx方向変動、及び対応する周期的に配置された溝を再現し、それにより、要求される回折位相変動φ(x)を与える。位相関数φ(x)はSBILにおいて電子制御されるので、溝位置関数Δy(x)は、非常に正確であり、’366特許において必要とされる高さエッチングプロセスよりも正確にすることができ、それゆえ、現在説明されている方法は、より正確で、効率的なDOE機能をもたらすことができる。結果として、広範なDOE位相設計を縞及び格子溝位置に組み込むことができ、x方向における合焦走査ビームの限界分解能は1μm(ミクロン)から数μm(ミクロン)にすることができる。したがって、SBIL技法は、x方向における溝位置に関して、μmスケールの変化を可能にする。通常、格子周期pは、約1μmのような2μm未満であるのに対して、x方向に沿ったDOEのための変化のスケールははるかに遅く、約100μmのように、10μmより大きい。それゆえ、結果として生じる回折光学系はx方向に沿ってゆっくり変化する溝位置を有し、それは、いくつかのビームをスペクトル結合するための、y方向に沿った従来のグレーティング機能だけでなく、DOEコヒーレントビーム結合機能も提供するように適応させることができる。代替の実施形態では、y方向に沿ったラスター走査を利用して、DOEのための周期的に変化する溝位置パターンΔy(x)を与えることができ、溝をシフトするために、走査の合間にSBILビーム間の位相が調整される。
【0026】
[0030]
図7は、DOE周期構造体114と、上記で参照されたようにしてSBCグレーティングを与える溝116とを同時に生成するのに適している既知のSBILシステム120のブロック図である。システム120は、
図4に示される製造ステップにおいてその上に光学素子100が取り付けられ、その位置がステージコントローラ124によって制御されるX-Y並進ステージ122を備える。光源128からの光ビーム126がビームスプリッタ132によって分割され、一方のスプリットビームが音響光学変調器(AOM:acousto-optical modulator)136によって変調され、他方のスプリットビームがAOM138によって変調される。AOM136及び138の変調は周波数シンセサイザ134によって制御され、周波数シンセサイザは、特定の周波数の音響信号を、ビームがそこを通って伝搬するAOM136及び138内の光学素子(図示せず)に与え、それにより、素子内に音響回折格子が作り出され、当業者に十分に理解されるようにして、ビームの周波数シフトが引き起こされる。変調されたスプリットビームが素子100上の反射体140及び142によって誘導されるときに、AOM136及び138によって生成される相対位相差が、周期的な縞位置において空間変動を与え、溝位置を画定する干渉パターンを生成するように、周波数シンセサイザ134からの音響周波数信号は、スプリットビーム間に、時間的に変化する相対位相差を与えるように選択される。AOM136からのスプリットビームのサンプル部分はビームスプリッタ144によってサンプリングされ、その位相が位相検出器146によって測定され、AOM138からのスプリットビームのサンプル部分はビームスプリッタ148によってサンプリングされ、その位相が位相検出器150によって測定される。検出器146及び150からの測定された位相はプロセッサ152において比較され、プロセッサは、所望の干渉パターンを与えるように周波数シンセサイザ134を制御する。素子100上の干渉スポットが、DOE周期構造体114のための起伏を有する溝116を作り出すパターンにおいて移動するように、ステージコントローラ124は、上記で参照されたようなラスター走査プロセスにおいてステージ122を移動させる。
【0027】
[0031]上記の検討は、本開示の例示的な実施形態を開示し、説明するにすぎない。添付の特許請求の範囲において規定されるような本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、種々の変形、変更及び改変を加えることができることは、そのような検討から、そして添付の図面及び特許請求の範囲から当業者は容易に認識されよう。