(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/11 20060101AFI20231101BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20231101BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20231101BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
A61B17/11
A61L31/04
A61L31/06
A61L31/14
(21)【出願番号】P 2021509677
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014286
(87)【国際公開番号】W WO2020196885
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2019065048
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 直希
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 美穂
(72)【発明者】
【氏名】藤井 杏梨
(72)【発明者】
【氏名】内富 研介
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525070(JP,A)
【文献】米国特許第05534010(US,A)
【文献】特表2009-508610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0035629(US,A1)
【文献】特開2013-123643(JP,A)
【文献】特開2011-015966(JP,A)
【文献】特開2006-255411(JP,A)
【文献】特表2016-540615(JP,A)
【文献】特表2013-526342(JP,A)
【文献】特表2008-516669(JP,A)
【文献】特表2007-505708(JP,A)
【文献】特表2003-533326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0214201(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/11
A61L 31/04
A61L 31/06
A61L 31/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織の癒合を促進する
生分解性樹脂からなる繊維で構成される第1領域と、前記第1領域よりも面方向の外方側
で、かつ、前記第1領域の周囲を囲むように設けられた
前記第1領域よりも大きな剛性を備える第2領域と、を備える癒合促進シートと、
前記第2領域に接続され、牽引操作に伴って接合対象となる生体器官の外周面の少なくとも一部を覆うように前記第2領域を変形させる牽引部と、を有
し、
前記牽引部は、前記癒合促進シートの外周縁に沿って前記外周縁の半分以上の長さで配置されている、医療デバイス。
【請求項2】
前記牽引部は、前記第2領域に接続された接続部と、前記第2領域とは接続されておらず、かつ、前記癒合促進シートの外方側へ引き出された非接続部と、を有する請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記接続部の少なくとも一部は、前記非接続部よりも大きな剛性を備える、
請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記牽引部は、所定の長さを有する紐状の部材または帯状の部材で構成されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記牽引部の牽引操作を制限することにより、前記第2領域の変形量を調整可能にする調整部を有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記第2領域は、前記癒合促進シートの周方向に配置された複数の突出部を有し、
複数の前記突出部の各々は、前記牽引部が挿通可能な孔部を有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、生体器官を外科的手術により接合する手技(例えば、消化管の吻合術)が知られている。上記のような手技が行われた場合、生体器官同士が接合された接合部における癒合の遅延が生じないことが術後の予後決定因子として重要であることも知られている。
【0003】
生体器官を接合する手技では種々の方法や医療器具が用いられるが、例えば、生分解性の縫合糸により生体器官を縫合する方法や、ステープラーによる吻合を行う機械式の接合装置(特許文献1を参照)を利用する方法が提案されている。特に、機械式の接合装置を利用して吻合術を行う場合、縫合糸を用いた方法と比較して接合部における生体器官同士の接合力を高めることができるため、縫合不全のリスクを低減させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接合部における癒合の進行の程度は、患者の接合対象部位(被接合部位)における生体組織の状態等にも依存する。そのため、例えば、特許文献1に記載されているような接合装置を使用した場合においても、患者の生体組織の状態如何によっては、縫合不全のリスクを十分に低減させることができない可能性もある。
【0006】
そこで本発明は、外科手術等の術後における縫合不全のリスクを低減させることができる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る医療デバイスは、生体組織の癒合を促進する生分解性樹脂からなる繊維で構成される第1領域と、前記第1領域よりも面方向の外方側で、かつ、前記第1領域の周囲を囲むように設けられた前記第1領域よりも大きな剛性を備える第2領域と、を備える癒合促進シートと、前記第2領域に接続され、牽引操作に伴って接合対象となる生体器官の外周面の少なくとも一部を覆うように前記第2領域を変形させる牽引部と、を有し、前記牽引部は、前記癒合促進シートの外周縁に沿って前記外周縁の半分以上の長さで配置されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る医療デバイスによれば、接合対象となる生体器官の被接合部位の間に癒合促進シートを挟み込ませることにより、生体器官の生体組織の癒合を促進することができる。また、術者は、牽引部を牽引することにより、癒合促進シートの第2領域を、接合対象となる生体器官の外周面の少なくとも一部を覆うように変形させることができる。それにより、術者は、癒合促進シートを生体器官に安定的に保持することができ、手技を実施している間、癒合促進シートがヨレたりズレたりすることを抑制できる。したがって、生体器官の縫合不全のリスクを効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の医療デバイスの一形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1Aの2A-2A線に沿う断面の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】紐状の部材で構成された牽引部の形状例を示す平面図である。
【
図4A】本発明の医療デバイスの変形例1を示す斜視図である。
【
図4B】帯状の部材で構成された牽引部の形状例を示す平面図である。
【
図5A】本発明の医療デバイスの変形例2の使用例を示す斜視図である。
【
図5B】本発明の医療デバイスの変形例3の使用例を示す斜視図である。
【
図6A】本発明の医療デバイスの変形例4を示す斜視図である。
【
図6B】本発明の医療デバイスの変形例5を示す斜視図である。
【
図7】医療デバイスを用いた処置方法の各手順を示すフローチャートである。
【
図8】処置方法の実施形態(膵実質-空腸吻合術)の手順を示すフローチャートである。
【
図9】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
【
図10】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
【
図11】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
【
図12】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
【
図13】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
【
図14】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
【
図15】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
【
図16】膵実質-空腸吻合術を説明するための模式的な斜視図である。
【
図17】他の変形例に係る牽引部を示す平面図である。
【
図18】他の変形例に係る牽引部を備える医療デバイスを使用例を模式的に示す図である。
【
図19】他の変形例に係る牽引部を備える医療デバイスを使用例を模式的に示す図である。
【
図20】他の変形例に係る牽引部を備える医療デバイスを使用例を模式的に示す図である。
【
図21】他の変形例に係る牽引部を備える医療デバイスを使用例を模式的に示す図である。
【
図22】他の変形例に係る牽引部を備える医療デバイスを使用例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張され、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1Aは、医療デバイス100の一形態を示す斜視図である。
図1Bは、
図1Aの医療デバイス100の使用例を示す斜視図である。
図2は、
図1Aの2A-2A線に沿う断面の一部を拡大して示す断面図である。
図3(A)~
図3(C)は、牽引部120の形状例を示す平面図である。
【0012】
<医療デバイス100>
図1Aに示すように、医療デバイス100は、接合対象となる生体器官の間に配置される癒合促進シート110と、癒合促進シート110に設けられた牽引部120と、を有する。
【0013】
医療デバイス100は、
図9~
図16に示すように、所定の生体器官同士を接合する手技(例えば、消化管の吻合術)に適用することができる。後述するように、本明細書の説明では、医療デバイス100を使用した手技例として膵実質-空腸吻合術を説明する。
【0014】
<癒合促進シート110>
図1Aに示すように、癒合促進シート110は、複数の貫通孔112を有する生分解性シートから形成された生体組織の癒合を促進する癒合促進部(「第1領域」に相当する)110Aを有する。癒合促進部110Aは、癒合促進シート110の面方向の中心部Cを含む所定の範囲に形成されている。
【0015】
癒合促進シート110は、癒合促進部110Aよりも癒合促進シート110の面方向の外方側に設けられた枠部(「第2領域」に相当する)110Bを有する。枠部110Bは、癒合促進部110Aの周囲を囲むように、癒合促進シート110の外周縁Oを含む一定の範囲に形成されている。本実施形態では、枠部110Bには貫通孔112が形成されていない。
【0016】
<癒合促進部110A>
癒合促進部110Aに形成された貫通孔112は、
図1Aに示すように、癒合促進シート110の面方向において規則的かつ周期的に設けられている。ただし、各貫通孔112は、癒合促進シート110の面方向の各部においてランダムに設けられていてもよい。
【0017】
各貫通孔112は、
図2に示すように、癒合促進シート110の厚み方向(
図2の上下方向)に沿って表面113と裏面114との間で略垂直に延びている。なお、各貫通孔112は、癒合促進シート110の厚み方向に沿う断面において、表面113と裏面114との間でジグザグ状に屈曲していたり、湾曲していたりしてもよい。
【0018】
各貫通孔112は、略円形の平面形状(癒合促進シート110の表面113又は癒合促進シート110の裏面114を平面視した際の形状)を有する。ただし、各貫通孔112の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)であってもよい。また、貫通孔112ごとに平面形状や断面形状が異なっていてもよい。
【0019】
癒合促進シート110は、略円形の平面形状を有する。ただし、癒合促進シート110の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)であってもよい。
【0020】
癒合促進シート110の厚み(
図2に示す寸法T)は特に制限されないが、好ましくは0.05~0.3mmであり、より好ましくは0.1~0.2mmである。癒合促進シート110の厚みが0.05mm以上である場合(特に0.1mm以上である場合)、癒合促進シート110の取り扱い時に癒合促進部110Aが破損しない程度の強度を備えさせることができる。一方、癒合促進シート110の厚みが0.3mm以下である場合(特に0.2mm以下である場合)、癒合促進シート110が適用される生体組織に癒合促進部110Aが密着して生体組織に追随するのに十分な柔軟性を備えさせることができる。
【0021】
癒合促進部110Aは、貫通孔112のピッチP(
図2に示す距離Pであり、隣接する貫通孔112の間の距離)に対する貫通孔112の孔径D(
図2に示す距離D)の比の値が、0.25以上40未満であることが好ましい。なお、貫通孔112の平面形状が真円である場合、貫通孔112の孔径Dは真円の直径に等しくなる。一方、貫通孔112の平面形状が真円ではない場合には、貫通孔112の開口部(貫通孔112において表面113又は裏面114に面した部分)の面積と同じ面積を有する真円の直径(円相当径)を当該貫通孔112の孔径Dとすることができる。
【0022】
癒合促進部110Aは、複数の貫通孔112を有するため、各貫通孔112に対応する孔径Dの値が複数存在する。そこで、本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、複数の貫通孔112にそれぞれ対応する孔径Dの値の2点以上の算術平均値を孔径Dの代表値として用いるものとする。一方、複数の貫通孔112のピッチPは、2つの貫通孔112の開口部同士の最短距離で定義する。ただし、ピッチPの値についても隣接する貫通孔112の組み合わせに対応するピッチPの値が複数存在する。したがって、本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、隣接する貫通孔112の組み合わせにそれぞれ対応するピッチPの値の2点以上の算術平均値をピッチPの代表値として用いるものとする。
【0023】
なお、上記の貫通孔112のピッチP、孔径D、ピッチPに対する孔径Dの比等は、一例であり、これに限定されることはない。
【0024】
癒合促進部110Aは、生分解性の材料で構成することができる。癒合促進部110Aの構成材料について特に制限はなく、例えば、生分解性樹脂が挙げられる。生分解性樹脂としては、例えば、特表2011-528275号公報、特表2008-514719号公報、国際公報第2008-1952号、特表2004-509205号公報等に記載されるものなどの公知の生分解性(共)重合体が使用できる。具体的には、(1)脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体;(2)上記(1)を構成する一以上の単量体から構成される共重合体などが挙げられる。すなわち、生分解性シートは、脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体、ならびに前記重合体を構成する一以上の単量体から構成される共重合体からなる群より選択される少なくとも一種の生分解性樹脂を含むことが好ましい。
【0025】
癒合促進部110Aの製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した生分解性樹脂からなる繊維を作製し、当該繊維を用いてメッシュ形状のシートを製造する方法が挙げられる。生分解性樹脂からなる繊維を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法(電界紡糸法・静電紡糸法)や、メルトブロー法等が挙げられる。癒合促進部110Aは、上記の方法のうち1種のみを選択して用いてもよいし、2種以上を選択し適宜組み合わせてもよい。なお、癒合促進部110Aの製造方法のさらに別の例として、上述した生分解性樹脂からなる繊維を常法に従って紡糸し、得られた繊維をメッシュ状に編むことによって本発明に係る生分解性シートを製造してもよい。
【0026】
癒合促進部110Aは、癒合促進部110Aを構成する生分解性樹脂等の構成材料によって生体反応を惹起させる。癒合促進部110Aは、この作用により、フィブリン等の生体成分の発現を誘導する。このようにして誘導された生体成分は、癒合促進部110Aの貫通孔112を貫通するようにして集積することで、癒合を促進することができる。したがって、接合対象となる生体器官同士の間に癒合促進部110Aを配置することにより、上記のメカニズムによる癒合の促進が生じる。
【0027】
なお、癒合促進部110Aの材質は、生体器官の癒合を促進させることが可能であれば、生分解性でなくてもよい。また、癒合促進部110Aは、生体器官の癒合を促進させることが可能であれば、材質に関わらず、貫通孔112が形成されていなくてもよい。
【0028】
<枠部110B>
図1Aに示すように、枠部110Bは、癒合促進部110Aの周囲を取り囲むように癒合促進シート110に形成されている。枠部110Bは、外力付加時の変形が容易に生じないように、癒合促進部110Aよりも大きな剛性を備えるように形成されていることが好ましい。枠部110Bは、例えば、貫通孔112のような孔部が形成されていない生分解性シート、癒合促進部110Aよりも高い剛性を備える樹脂製のシートや不織布で構成することができる。
【0029】
また、癒合促進部110Aの構成材料となる生分解性シートの外周縁Oを含む一定の領域に貫通孔112を形成しないことにより、癒合促進シート110に枠部110Bを設けてもよい。また、癒合促進部110Aの構成材料となる生分解性シートの外周縁Oを含む一定の領域に貫通孔112を形成した後、当該領域のみを厚み方向に圧縮したり加熱したりして、貫通孔112を押し潰すことにより、生分解性シートの構成材料が密に集合した部分を形成して、当該部分を枠部110Bとしてもよい。
【0030】
また、枠部110Bは、その少なくとも一部に、生体器官との癒着を抑制する抑制部を備えていてもよい。抑制部を構成する材料としては、生体器官との癒着を抑制できる限りにおいて特に限定されないが、例えば、不織布を用いることができる。また、抑制部は、癒合促進部110Aと同様に、生分解性の材料で構成することができる。
【0031】
なお、癒合促進シート110における癒合促進部110Aと枠部110Bの面積比、平面視における癒合促進部110A及び枠部110Bの形状等は特に限定されない。
【0032】
<牽引部120>
図1A、
図1Bに示すように、医療デバイス100は、癒合促進シート110に接続され、牽引操作に伴って接合対象となる膵実質B1の外周面の少なくとも一部を覆うように枠部110Bを変形させる牽引部120を有する。
【0033】
牽引部120は、所定の長さを有する紐状の部材で構成している。牽引部120は、枠部110Bに接続された接続部121と、枠部110Bとは接続されておらず、かつ、癒合促進シート110の外方側へ引き出された非接続部123と、を有する。
【0034】
牽引部120の接続部121は、癒合促進シート110の内部を挿通している。癒合促進シート110の内部には、接続部121が摺動可能に挿通された空間(図示省略)が形成されている。本実施形態では、牽引部120は、
図1Bに示すように、癒合促進シート110において非接続部123を牽引した際に、癒合促進シート110の枠部110Bが内部に空間を備える袋(巾着袋)の開口部を構成するように癒合促進シート110に配置されている。術者は、牽引部120の非接続部123の牽引量を調整することにより、癒合促進シート110で構成される袋の開口部の開口面積を調整することができる。
【0035】
牽引部120を癒合促進シート110に取り付ける具体的な方法は特に限定されない。また、牽引部120は、癒合促進シート110から分離できるように構成したり、癒合促進シート110と別部材で後付け可能に構成したりしてもよい。
【0036】
牽引部120は、癒合促進シート110の周方向に沿う半分以上の長さで枠部110Bに配置されている。本実施形態では、
図1Bに示すように、接続部121は、膵実質B1の後壁B1c(膵実質B1の周方向の背側の部分)側の対応する箇所に配置している。非接続部123は、癒合促進シート110の膵実質B1の前壁B1d(膵実質B1の周方向の腹側の部分)の対応する箇所に配置している。ただし、牽引部120の接続部121を癒合促進シート110に配置する位置は特に限定されない。
【0037】
医療デバイス100は、牽引部120の牽引操作を制限することにより、枠部110Bの変形量を調整可能にする調整部150を有する。本実施形態では、調整部150は、非接続部123の一部である環状部123aと、環状部123aを挿通する挿通部123bにより構成している。非接続部123の一部に凹凸形状や切れ込み等(
図3や
図4に示す構造等)を付加して、非接続部123を環状部123aに引っ掛けて嵌合させることにより牽引部120の牽引操作を制限することができる。また、上記のように構成することにより、調整部150は、術者が手指等により牽引部120を牽引した状態を維持することなく、自動的に牽引された状態を維持するロック機構160としての機能も有する。なお、調整部150やロック機構160は、例えば、牽引部120とは別部材で構成された固定用の部材等で構成することも可能である。また、非接続部123は、その少なくとも一部が、環状部123aを通過できないような構成となっていてもよい。
【0038】
牽引部120は、例えば、塩化ビニル、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体(SEBS)、スチレンーエチレンープロピレンースチレン共重合体(SEPS)などの熱可塑性エラストマー、ナイロン、PETなどの熱可塑性樹脂、又はゴム、シリコーンエラストマー、繊維素材、SUS線、銅線、チタン線、ナイチノール線などの金属等で構成することができる。また、牽引部120は、例えば、癒合促進部110Aと同様の材料で構成することもできる。癒合促進部110Aと同様の材料で構成することにより、癒合促進部110Aと同一の製造現場で製造することが可能になるため、製造作業が容易なものとなる。
【0039】
図3には、牽引部120の形状例を示している。
図3(A)に示すように、例えば、牽引部120Aは波状の外形を有する紐状の部材で構成することができる。また、
図3(B)に示すように、例えば、牽引部120Bは、コブ状(延在方向に沿って凸部と凹部が交互に形成された形状)の外形を有する紐状の部材で構成することができる。また、
図3(C)に示すように、牽引部120Cは、延在方向と交差する一側の端辺が直線状に形成され、他側の端辺が波状に形成された外形を有する紐状の部材で構成することができる。例えば、牽引部120A及び牽引部120Bを伸縮性の材料で構成することにより、牽引操作した際には直線状に変形させることができ、牽引操作を解除した際には元の形状に戻るように構成することができる。このように構成することにより、各牽引部120A、120Bを牽引した際に、各牽引部120A,120Bと癒合促進シート110との間の摩擦を低減させることができ、癒合促進シート110が破損することを防止できる。また、
図3(C)に示す牽引部120Cは、延在方向と交差する一側の端辺が直線状に形成されているため、癒合促進シート110との間の摩擦をより一層低減させることができる。
【0040】
なお、後述するように、牽引部220は、帯状の部材(
図4A、
図4Bを参照)で構成することもできる。本明細書では、帯状の部材は、紐状の部材よりも断面積が大きく形成されたものと定義することができる。帯状の部材の一例として、断面形状に長辺と短辺が形成されたものを挙げることができるが、これに限定されることはない。
【0041】
図1Bには、癒合促進シート110を膵実質Baに配置した際の様子を示している。術者は、癒合促進シート110の癒合促進部110Aを膵実質Baの切断面B1aに重ねるように配置する。この際、術者は、牽引部120の非接続部123を膵実質B1の前壁B1d(膵実質B1の周方向の腹側の部分)側に配置する。術者は、膵実質B1の前壁B1d側で膵実質B1から離間する方向へ向けて牽引部120を牽引することにより、枠部110Bを変形させる。癒合促進シート110は、牽引部120が牽引されると、膵実質B1の外周面の一部を覆うように袋状に変形する。術者が牽引部120を所定の長さだけ牽引すると、調整部150により以降の牽引操作が制限される。これにより、膵実質B1が牽引部120により過度に締め付けられることを防止できる。癒合促進シート110が膵実質B1を覆うように変形することにより、癒合促進シート110を膵実質B1に安定的に保持させることが可能になる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る医療デバイス100は、複数の貫通孔112を有する生分解性シートから形成された生体組織の癒合を促進する癒合促進部110Aと、癒合促進部110Aよりも面方向の外方側に設けられた枠部110Bと、を備える癒合促進シート110と、癒合促進シート110に接続され、牽引操作に伴って接合対象となる生体器官の外周面の少なくとも一部を覆うように枠部110Bを変形させる牽引部120と、を有する。
【0043】
上記のように構成された医療デバイス100によれば、接合対象となる生体器官の被接合部位の間に癒合促進シート110を挟み込ませることにより、生体器官の生体組織の癒合を促進することができる。また、術者は、牽引部120を牽引することにより、癒合促進シート110の枠部110Bを、接合対象となる生体器官の外周面の少なくとも一部を覆うように変形させることができる。それにより、術者は、癒合促進シート110を生体器官に安定的に保持することができ、手技を実施している間、癒合促進シート110がヨレたりズレたりすることを抑制できる。したがって、生体器官の縫合不全のリスクを効果的に低減させることができる。
【0044】
また、牽引部120は、枠部110Bに接続された接続部121と、枠部110Bとは接続されておらず、かつ、癒合促進シート110の外方側へ引き出された非接続部123と、を有する。そのため、術者は、非接続部123を牽引する簡単な操作により、生体器官の外周面を覆うように枠部110Bを変形させることができる。
【0045】
また、接続部121は、癒合促進シート110の周方向に沿う半分以上の長さで枠部110Bと接続されている。そのため、術者は、牽引部120を牽引することにより、癒合促進シート110をより確実に所望の形状に変形させることができる。
【0046】
また、牽引部120は、所定の長さを有する紐状の部材で構成されている。そのため、術者は、牽引部120を牽引することにより、癒合促進シート110を所望の形状に容易に変形させることができる。
【0047】
また、医療デバイス100は、牽引部120の牽引操作を制限することにより、枠部110Bの変形量を調整可能にする調整部150を有する。そのため、術者は、牽引部120により生体器官が過剰に締め付けられることを防止できる。
【0048】
また、枠部110Bは、生体器官との癒着を抑制する抑制部により、接合される生体器官以外の生体器官に、枠部110Bが癒着することを防止することができる。
【0049】
次に、上述した実施形態の変形例を説明する。変形例の説明では、前述した実施形態で既に説明した構成部材等についての詳細な説明は省略する。また、変形例の説明で特に説明がない内容については、前述した実施形態と同一のものとすることができる。
【0050】
<変形例1>
図4Aは、変形例1に係る医療デバイス200の斜視図、
図4Bは、変形例1に係る医療デバイス200の牽引部120の形状例を説明するための図である。
【0051】
図4Aに示すように、変形例1に係る医療デバイス200が備える牽引部220は、帯状の部材で構成している。牽引部220は、枠部110Bに接続された接続部221と、癒合促進シート110の外方側に引き出された非接続部223と、を有する。非接続部223には、環状部223aと環状部223aに挿通された挿通部223bとで構成される調整部150が設けられている。
【0052】
図4B(A)に示すように、牽引部220は、略一定の幅で直線状に延びる帯状の部材で構成することができる。また、
図4B(B)に示すように、牽引部220Aは、延在方向の略中央部分に形成され、延在方向と交差する幅方向に突出した凸部225を有する帯状の部材で構成することができる。牽引部220Aは、牽引部220よりも癒合促進シート110を生体器官に対して保持する保持力を高めることができる。また、
図4(C)に示すように、牽引部220Bは、延在方向の略中央部分に向けて幅が徐々に大きくなる形状で形成された帯状の部材で構成することができる。牽引部220Bは、牽引部220Bが癒合促進シート110から取り外し可能に構成される場合に、癒合促進シート110に対する挿通(接続)が解除され易くなる。また、
図4B(D)、
図4B(E)に示すように、各牽引部220C、220Dの幅方向の両端部226と中央部227とで剛性を異なるように構成してもよい。各牽引部220C、220Dの一部の剛性を他の部分よりも大きく形成することにより、牽引操作の際、各牽引部220C、220Dが破損することを防止できる。また、
図4B(F)に示すように、牽引部220Eには、幅方向に延びるスリット228a、228bや、幅方向の中央部分に形成された延在方向に延びる孔部229を設けることもできる。術者は、孔部229に牽引部220Eを通して、牽引部220Eの側面部をスリット227a、228bに引っ掛けることにより、牽引部220Eの牽引操作を規制することが可能になる。なお、帯状の部材で構成された各牽引部は、
図3に示した紐状部材の形状例と同様の平面形状で構成することもできる。
【0053】
医療デバイス200は、牽引部220が帯状の部材で構成されているため、牽引部220が紐状の部材で構成されている場合と比較して、牽引部220と膵実質B1との接触面積が大きくなる。したがって、医療デバイス200は、膵実質B1に対する癒合促進シート110の保持力を高めることができる。
【0054】
<変形例2>
図5Aは、変形例2に係る医療デバイスの使用例を説明するための斜視図である。
【0055】
牽引部320の接続部321は、非接続部123よりも大きな剛性を備える第1部位321aと、第1部位321aよりも小さな剛性を備える第2部位321b、と有するように構成することができる。
図5Aに示すように、第1部位321aと第2部位321bは、癒合促進シート110の周方向に沿って交互に配置することができる。牽引部320は、第1部位321aを有することにより、膵実質B1の後壁B1c(膵実質B1の周方向の背側の部分)側で膵実質B1に対して癒合促進シート110を保持する保持力を高めることができる。
【0056】
<変形例3>
図5Bは、変形例3に係る医療デバイスの使用例を説明するための斜視図である。
【0057】
医療デバイスは、例えば、癒合促進シート110に装着可能な保持部材180を有していてもよい。保持部材180は、例えば、牽引部320よりも剛性の高い部材で構成することができる。また、保持部材180は、膵実質B1の後壁B1c(膵実質B1の周方向の背側の部分)側の外周面の一部に沿って配置可能なC字形の外形形状を有するように構成することができる。術者は、保持部材180を膵実質B1に引っ掛けるように配置することで、癒合促進シート110を膵実質B1に対してより安定的に保持することが可能になる。
【0058】
<変形例4>
図6Aは、変形例4に係る医療デバイス400の斜視図である。
【0059】
変形例4に係る医療デバイス400が備える癒合促進シート410の枠部410Bは、癒合促進シート410の周方向に配置された複数の突出部411a、411b、411cを有する。突出部411a、411b、411cの各々は、牽引部120が挿通可能な孔部412を有する。各突出部411a、411b、411cの間には所定の空間(隙間)gが形成されている。各突出部411a、411b、411cは、略三角形の平面形状を有する。
【0060】
術者は、牽引部120を牽引することにより、各突出部411a、411b、411cを膵実質B1の外周面に沿うように変形させることができる。また、各突出部411a、411b、411cは、膵実質B1の外周面の少なくとも一部を覆うように配置される。各突出部411a、411b、411cは、前述した枠部110B(
図1Aを参照)と比較して、牽引操作された際に容易に変形する。したがって、各突出部411a、411b、411cを膵実質B1の外周面に沿わせるようにより確実に変形させることができる。
【0061】
<変形例5>
図6Bは、変形例5に係る医療デバイス500の斜視図である。
【0062】
変形例5に係る医療デバイス500が備える癒合促進シート510の枠部510Bは、4つの突出部511a、511b、511c、511cを有する。突出部511a、511b、511c、511dの各々は、牽引部120が挿通可能な孔部512を有する。各突出部511a、511b、511c、511dの間には所定の空間(隙間)gが形成されている。各突出部511a、511b、511cは、略長方形の平面形状を有する。変形例5に係る医療デバイス500は、変形例4に係る医療デバイス400と同様に、牽引部120が牽引された際に、各突出部511a、511b、511c、511dが容易に変形するため、膵実質B1の外周面に沿うようにより確実に変形させることができる。なお、変形例4、5で示した突出部の形状や数等は、特に限定されない。
【0063】
<処置方法の実施形態(生体器官吻合術)>
次に、医療デバイスを用いた処置方法を説明する。
【0064】
図7は、医療デバイスを用いた処置方法の各手順を示すフローチャートである。
【0065】
処置方法は、牽引部が設けられた癒合促進シートを備える医療デバイスを準備すること(S11)、癒合促進シートを一方の被接合部位に配置すること(S12)、牽引部を牽引して癒合促進シートを変形させること(S13)、癒合促進シートを一方の被接合部位に固定すること(S14)、一方の被接合部位と他方の被接合部位との間に癒合促進シートの少なくとも一部を配置した状態で一方の被接合部位と他方の被接合部位とを接合すること(S15)、を含む。
【0066】
処置方法により接合される生体器官および生体器官における被接合部位は特に限定されず、任意に選択することができる。以下の説明では、膵実質-空腸吻合術を例に挙げて説明する。ただし、上記処置方法は、大腸吻合術や胃管吻合術に適用されてもよい。また、以下に説明する各手技において使用される医療デバイスとしては、例えば、前述した医療デバイスの中から任意のものを選択することが可能である。ただし、以下の説明では、各手技に好適に用いることができる代表的な例として、特定の医療デバイスの使用例を説明する。また、以下に説明する各手技において、公知の手技手順や公知の医療装置・医療器具等については詳細な説明を適宜省略する。
【0067】
以下、本明細書の説明において「生体器官の間に癒合促進シートを配置する」とは、生体器官に癒合促進シートが直接的にまたは間接的に接触した状態で配置されること、生体器官との間に空間的な隙間が形成された状態で癒合促進シートが配置されること、またはその両方の状態で癒合促進シートが配置されること(例えば、一方の生体器官に癒合促進シートが接触し、他方の生体器官には癒合促進シートが接触していない状態で配置されること)の少なくとも一つを意味する。また、本明細書の説明において「周辺」とは、厳密な範囲(領域)を規定するものではなく、処置の目的(生体器官同士の接合)を達成し得る限りにおいて、所定の範囲(領域)を意味する。また、各処置方法において説明する手技手順は、処置の目的を達成し得る限りにおいて、順番を適宜入れ替えることが可能である。
【0068】
<処置方法の実施形態(膵実質-空腸吻合術)>
図8は、処置方法の実施形態(膵実質-空腸吻合術)の手順を示すフローチャートであり、
図9~
図16は、膵実質-空腸吻合術の説明に供する図である。
【0069】
本実施形態に係る処置方法において、接合対象となる生体器官は、膵頭十二指腸切除後の膵実質B1と、空腸B2である。以下の説明では、切断した膵実質B1の切断面B1a周辺(一方の被接合部位)と空腸B2の腸壁の任意の部位(他方の被接合部位)を接合する手順を説明する。また、本実施形態では、
図1Aに示した医療デバイス100の使用例を説明する。
【0070】
図8に示すように、本実施形態に係る処置方法は、牽引部120が設けられた癒合促進シート110を備える医療デバイス100を準備すること(S101)、癒合促進シート110を膵実質B1の切断面B1a上に配置すること(S102)、牽引部120を牽引して癒合促進シート110を変形させること(S103)、癒合促進シートを固定部材で固定すること(S104)、膵実質B1と空腸B2の間に癒合促進シート110を挟み込むこと(S105)、膵実質B1と空腸B2の間に癒合促進シート110を挟み込んだ状態で接合すること(S106)、膵実質B1と空腸B2の間に癒合促進シート110を留置すること(S107)、を含む。
【0071】
次に、
図9~
図16を参照して、本実施形態に係る処置方法の一例を具体的に説明する。なお、
図14では、後述する複数の両端針920a~920eを省略している。
【0072】
図9に示すように、術者は、癒合促進シート110の裏面114(又は表面113)を膵実質B1の切断面B1aに対向させる。術者は、面方向において、接続部123が、切断面B1aよりも外方側になるように配置する。術者は、牽引部120を牽引することにより、枠部110Bが膵実質B1の外周面の一部を覆うよう癒合促進シート110を変形させることができる。このような作業を行うことにより、術者は、癒合促進部110Aを膵実質B1の切断面B1aに密着させた状態で保持することができる(
図1Bを参照)。
【0073】
癒合促進シート110を膵実質B1の切断面B1aに配置する際、術者は、以下の作業手順を採用することができる。まず、術者は、膵管チューブ910の端部911(または端部912)を癒合促進シート110に押し付けることによって癒合促進シート110に孔部130を形成する。また、術者は、膵管チューブ910の端部911が空腸B2の吻合予定部位の貫通孔B2aから空腸B2の内部を通り、空腸B2の貫通孔B2bから空腸B2の外部に出るように、膵管チューブ910を空腸B2に挿通させる。
【0074】
次に、術者は、膵管チューブ910が癒合促進シート110の孔部130を挿通して癒合促進シート110を保持した状態で、膵管チューブ910の端部912を膵実質B1の膵管B1bに仮挿入する。
【0075】
なお、膵管チューブ910としては、例えば、端部912に抜け防止用のコブ(凸部)が形成された樹脂製の公知のものを利用することができる。膵管B1bに仮挿入された膵管チューブ910は、手技中に膵管B1bから膵液等の体液が漏出することを抑制する。このような手順によれば、術者は、癒合促進シート110の配置及び膵管チューブ910の仮挿入を一度に行うことができる。
【0076】
また、術者は、膵管チューブ910を挿通させるための孔部130を形成する際に、膵管チューブ910ではなく他のデバイスを用いてもよい。また、膵管チューブ910を挿通させるための孔部130は、使用前の状態で予め癒合促進シート110に形成されていてもよい。また、術者は、膵実質B1の切断面B1aに癒合促進シート110を配置した後に、膵管チューブ910を膵管B1bに仮挿入してもよい。
【0077】
次に、術者は、癒合促進シート110を固定部材で膵実質B1に固定する。なお、以下の説明では、縫合糸付きの複数の両端針920a~920eを固定部材として用いて癒合促進シート110を膵実質B1に固定する手順の一例を説明する。両端針920a~920eとしては、生体吸収性を備える吸収糸(縫合糸)と、吸収糸の両端に取り付けられた生体適合性を備える針部と、を有する公知のものを用いることができる。なお、後述する両端針930、940a~940eについても、吸収糸および針部を備えるように構成している。
【0078】
まず、術者は、
図10に示すように、膵実質B1に対して癒合促進シート110を保持した状態で、膵実質B1の後壁B1c(膵実質B1の周方向の背側の部分)および癒合促進シート110において後壁B1c上に配置された部分から、膵実質B1の前壁B1dおよび癒合促進シート110において前壁B1d上に配置された部分に向かって、両端針920aを運針する。次に、術者は、空腸B2の吻合予定部位(貫通孔B2aの周辺)の空腸漿膜筋層を挿通するように両端針920aを運針する。術者は、このような操作を繰り返し、
図11に示すように、癒合促進シート110、膵実質B1、および空腸B2の空腸漿膜筋層に複数の両端針920a~920eに複数の両端針920a~920eを挿通させる。このように、術者は、膵実質B1と空腸B2を縫合する複数の両端針920a~920eを利用して、癒合促進シート110を膵実質B1に固定できる。
【0079】
術者は、癒合促進シート110を膵実質B1の切断面B1aに固定した後、牽引部120を癒合促進シート110から適宜分離させてもよい。術者は、癒合促進シート110を膵実質B1の切断面B1aに固定するまでの間、牽引部120を牽引して、癒合促進シート110の枠部110Bを膵実質B1の外周面に密着させた状態を維持することにより、癒合促進シート110が膵実質B1からズレたり、脱落したりすることを防止することができる。
【0080】
なお、膵実質B1および空腸B2の空腸漿膜筋層に挿通させる両端針の本数や両端針を挿通させる位置は特に限定されない。また、術者は、複数の両端針920a~920eではなく、生分解性のステープル等を固定部材として、癒合促進シート110を膵実質B1に固定してもよい。
【0081】
次に、術者は、
図11に示すように、膵管チューブ910の端部912を膵管B1bから抜去する。
【0082】
次に、術者は、
図11に示すように、膵管B1bの内腔側から膵実質B1の切断面B1aの前壁B1d側の部分に向かって、両端針930を通す。両端針930は、空腸B2を挿通させない状態でピンセット等の把持器具(図示省略)で手技の邪魔にならないように保持される。
【0083】
次に、術者は、
図11および
図13に示すように、膵管B1bの内腔側から膵実質B1の切断面B1aに向かって、両端針940aの一端を運針する。次に、術者は、
図12および
図13に示すように、両端針940aの他端を空腸B2の貫通孔B2aに挿入し、空腸B2の内部から空腸B2の外部に向かって両端針940aの他端を運針する。そして、術者は、
図14に示すように、膵管B1bの周方向の異なる部位および空腸B2に、複数の両端針940a~940eを挿通させる。なお、
図13は、吻合される前の膵実質B1と空腸B2の一部をも模式的に示す断面図である。
【0084】
次に、術者は、
図14に示すように、膵実質B1の後壁B1cおよび膵管B1bを空腸B2の吻合予定部位に密着させる。そして、複数の両端針940a~940eのうち、膵管B1bの周方向の背側(後壁B1c側)を挿通する両端針940c~940eを結紮する。
【0085】
次に、術者は、
図15に示すように、膵管チューブ910の端部912を膵管B1bに再挿入する。次に、術者は、両端針930において膵管B1bの内側から延びる針部931を、空腸B2に形成した貫通孔B2bに挿入し、空腸B2の内部から空腸B2の外部に向かって針部931運針する。
【0086】
次に、術者は、両端針930、940a、940bを結紮する(図示省略)。なお、膵管B1bおよび空腸B2に挿通させる両端針の本数や両端針を挿通させる位置は特に限定されない。
【0087】
次に、術者は、
図16に示すように、術者の指を以って空腸B2を膵実質B1に対して押さえつけながら両端針920a~920eを結紮する。これによって、膵実質B1と空腸B2が癒合促進シート110を挟み込んだ状態で縫合される。空腸B2は、縫合時に生じる張力により、膵実質B1の切断面B1aおよび癒合促進シート110の癒合促進部110Aを包み込むように変形する。
【0088】
術者は、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁との間に癒合促進シート110の癒合促進部110Aが挟み込まれた状態で癒合促進シート110を留置する。癒合促進シート110の癒合促進部110Aは、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁とに接触しつつ、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁との間に留置されることにより、膵実質B1の生体組織と空腸B2の腸壁の生体組織の癒合を促進する。
【0089】
以上のように、本実施形態に係る処置方法は、膵実質B1および空腸B2を接合する手技に適用される。また、上記の処置方法では、切断された膵実質B1の切断面B1a周辺と空腸B2の腸壁(空腸漿膜筋層)を接合する。この処置方法によれば、膵実質B1の切断面B1aと空腸B2の腸壁の間に挟み込んだ癒合促進シート110の癒合促進部110Aにより、膵実質B1の生体組織と空腸B2の腸壁の生体組織の癒合を促進することができ、膵実質-空腸吻合術後の縫合不全のリスクを低減させることができる。
【0090】
また、術者は、牽引部120により癒合促進シート110の枠部110Bが膵実質B1の外周面の少なくとも一部を覆うように変形させることで、癒合促進シート110にヨレやズレが発生することを好適に防止することができる。
【0091】
<他の変形例>
次に、
図17~
図22を参照して、他の変形例に係る牽引部620を説明する。本変形例の説明では、上述した実施形態で既に説明した内容と重複する内容の説明は省略する。また、変形例の説明において特に説明の無い内容は前述した実施形態と同一のものとすることができる。
【0092】
図17は、癒合促進シート110に接続する前の状態における牽引部620の平面図を示す。
図18~
図22は、牽引部620を備える医療デバイス100を使用した手技の手順例を示す。
【0093】
図17に示すように、牽引部620は、所定の幅及び長さを備える帯状の本体部621と、本体部621の長手方向の一端部621a側に形成された複数のスリット部623と、本体部621の長手方向の他端部621b側に形成された第1孔部625a及び第2孔部625bと、を有する。
【0094】
本体部621の一端部621aは、例えば、一端部621aの先端側に向けて先細るテーパー形状に形成することができる。このような形状を設けることにより、本体部621の一端部621aを各孔部625a、625bに通す作業を簡単に行うことができる(
図19、
図20を参照)。
【0095】
第1孔部625aは、第2孔部625bよりも本体部621の一端部621a側に配置している。第1孔部625aと第2孔部625bは互いに直交する方向に延びている。第1孔部625aは、本体部621の幅方向(
図17の左右方向)に略平行に延びている。第2孔部625bは、本体部621の長手方向(
図17の上下方向)に略平行に延びている。
【0096】
第1孔部625aは、例えば、
図17に示す平面視において本体部621の幅方向に沿って長辺が配置される略長方形の形状で形成することができる。第2孔部625bは、例えば、
図17に示す平面視において本体部621の長手方向に沿って長辺が配置される略長方形の形状で形成することができる。なお、各孔部625a、625bの形状、位置、大きさ等は、特に限定されない。
【0097】
スリット部623は、本体部621の長手方向と平行な方向に対して傾斜して延びている。具体的には、スリット部623は、本体部621の中心側から外方側へ向けて傾斜している。なお、スリット部623の個数や形状、本体部621に設ける具体的な位置等は特に限定されない。
【0098】
本体部621の一部は、
図18に示すように、癒合促進シート110の枠部(第2領域)110Bに接続される接続部631aを構成する。接続部631aは、前述した実施形態で説明した接続部121(
図1Bを参照)と同様に、例えば、枠部110Bに対して摺動可能に接続することができる。また、
図18に示すように、本体部621の一部は、癒合促進シート110の枠部110Bとは接続されない非接続部631bを構成する。
【0099】
図22に示すように、非接続部631bに配置されたスリット部623及び各孔部625a、625bは、癒合促進シート110の枠部110Bの変形量を調整可能にする調整部650としての機能を有する。
【0100】
次に、
図18~
図22を参照して、牽引部620を備える医療デバイス100を使用した手技の手順例を示す。なお、前述した実施形態で既に説明した手順等については適宜省略する。
【0101】
術者は、
図18に示すように、膵実質B1の切断面B1aに癒合促進シート110の癒合促進部110Aを配置する。術者は、牽引部620の非接続部631bに位置する両端部621b、621bを牽引することにより、癒合促進シート110を変形させて、癒合促進シート110の枠部110Bで膵実質B1の外周面の一部を覆わせる。
【0102】
術者は、
図19、
図20に示すように、各孔部625a、625bに本体部621の一端部621a側の一部を挿通させる。術者は、各孔部625a、625bに本体部621の一端部621a側の一部を挿通させる際、本体部621の他端部621b側の一部を折り返すように変形させる。術者は、このような作業を行う際、例えば、鉗子などの医療器具710を使用することができる。具体的には、術者は、
図19に示すように、各孔部625a、625bに通した医療器具710で本体部621の一端部621a側の一部を把持しつつ、
図20に示すように、医療器具710を持ち上げるように操作する。術者は、このような操作を行うことにより、医療器具710とともに本体部621の一端部621a側の一部を各孔部625a、625bに簡単に通すことができる。
【0103】
術者は、
図21に示すように、鉗子などの医療器具720を使用して本体部621において各孔部625a、625bが配置された部分やその周辺部を押さえつつ、本体部621において各孔部625a、625bに挿通させた部分を牽引することにより、膵実質B1に対して癒合促進シート110を保持することができる。
【0104】
術者が牽引部620の牽引を解除した状態においても、スリット部623が第1孔部625a及び第2孔部625bに引っ掛かった状態を維持する。そのため、膵実質B1に対して癒合促進シート110を保持する保持力を好適に維持することができる。
【0105】
本変形例では、第2孔部625bよりも膵実質B1に近接した位置(膵実質B1の外周面に近接した位置)に配置される第1孔部625aは、牽引部620の幅方向に沿って延びている(
図17を参照)。また、
図19、
図22に示すように、第1孔部625aは、膵実質Baの延在方向に沿って配置される。したがって、術者は、牽引部620の本体部621において第1孔部625aに挿通された部分の幅が過剰に小さくなるように変形することを防止できる。したがって、牽引部620の本体部621において第1孔部625aに挿通された部分が膵実質Baに与える負荷を小さく抑えることができる。一方で、第1孔部625aよりも膵実質B1から離間した位置(膵実質B1の外周面から離間した位置)に配置される第2孔部625bは、牽引部620の幅方向と交差する方向に沿って延びている(
図17を参照)。そのため、牽引部620の本体部621において第2孔部625bに挿通された部分は、小さな幅を備える第2孔部625bの形状に沿って幅が小さくなるように変形する。小さな幅を備える第2孔部625bに、第2孔部625bよりも大きな幅を備える本体部621が挿通されることにより、第2孔部625bの内周部と本体部621との間の引っ掛かりが強くなる。そのため、膵実質B1に対する癒合促進シート110の保持力を効果的に高めることができる。
【0106】
術者は、
図22に示すように、本体部625において第1孔部625a及び第2孔部625bに挿通させた一端部621a側を膵実質Baに巻き付けることができる。なお、本体部625の上記部分は切除してもよい。
【0107】
以上のように、本変形例に係る牽引部620を備える医療デバイス100によれば、膵実質Baに与える負荷を軽減しつつ、膵実質Baに対する癒合促進シート110の保持力を効果的に高めることができる。
【0108】
本出願は、2019年3月28日に出願された日本国特許出願第2019-65048号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0109】
100、200、400、500 医療デバイス、
110、410、510 癒合促進シート、
110A 癒合促進部(第1領域)、
110B、410B、510B 枠部(第2領域)、
112 貫通孔、
120、120A、120B、120C、220、220A、220B、220C、220D、220E、320 牽引部、
121、221、321 接続部、
123、223 非接続部、
150 調整部、
180 保持部材、
411a、411b、411c、511a、511b、511c、511d 突出部、
B1 膵実質、
B2 空腸。