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特許7377278自動変速機のロックアップ制御装置及びロックアップ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】自動変速機のロックアップ制御装置及びロックアップ制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
F16H61/14 601B
F16H61/14 601R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021551619
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037631
(87)【国際公開番号】W WO2021070760
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019185709
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 武顕
(72)【発明者】
【氏名】岩本 育弘
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-145165(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051632(WO,A1)
【文献】特開2018-105447(JP,A)
【文献】特開2002-295664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源と変速機構の間に配置されたトルクコンバータに有するロックアップクラッチが解放状態で、車速がロックアップ開始車速になるとロックアップ締結指示の出力を開始するロックアップコントローラを備える自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップコントローラは、
車速が前記ロックアップ開始車速になったことで前記ロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間が経過した後の車速が、所定の判定車速に達しているかを判定する判定部と、
前記判定部により車速が前記判定車速に達していると判定された場合、前記ロックアップ締結指示の出力を継続するロックアップ締結継続部と、
前記判定部により車速が前記判定車速に達していないと判定された場合、前記ロックアップ締結指示の出力を停止し、出力停止の間に車速が前記ロックアップ開始車速より高い車速に設定されたロックアップ再開車速に達すると、前記ロックアップ締結指示の出力を再開するロックアップ締結開始遅延部と、を有する
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記判定部は、前記所定時間を、前記ロックアップクラッチによりロックアップ容量が発生する直前のタイミングとなる時間に設定する
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記判定部は、前記判定車速をアクセル開度が低開度域のときに低車速値に設定し、アクセル開度が前記低開度域よりも高い高開度域のときに前記低車速値よりも高い高車速値に設定する
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップ締結開始遅延部は、前記ロックアップ再開車速を、前記判定車速に一致させる
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップコントローラは、車速とアクセル開度の二次元座標面によるロックアップマップを設定するロックアップマップ設定部を有し、
前記ロックアップマップ設定部に、前記ロックアップ締結指示の出力を開始する第1ロックアップ開始車速線と判定車速線を有する第1ロックアップマップと、前記ロックアップ締結指示の出力を再開する第2ロックアップ再開車速線を有する第2ロックアップマップとを設定し、
前記ロックアップ締結継続部から継続指令を入力すると、前記第1ロックアップマップの選択を維持し、前記ロックアップ締結開始遅延部から締結開始遅延指令を入力すると、マップ切替えにより前記第2ロックアップマップを選択するマップ選択部を有する
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記第2ロックアップマップは、前記判定車速線と同じ設定による第2ロックアップ解除車速線を有し、
前記第2ロックアップ再開車速線を、前記第2ロックアップ解除車速線より車速ヒステリシス分だけ高車速側の設定とする
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記第2ロックアップマップは、コースト開度域で前記第2ロックアップ再開車速線よりも高車速側まで延ばしたマップ切替え線を有し、
前記マップ選択部は、前記第2ロックアップマップの選択中、アクセル足離し操作により車速とアクセル開度による運転点が前記マップ切替え線を横切るとマップ切替えにより前記第1ロックアップマップを選択する
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項8】
走行用駆動源と変速機構の間に配置されたトルクコンバータのロックアップクラッチを備える自動変速機のロックアップ制御方法において、
前記ロックアップクラッチが解放状態で、車速がロックアップ開始車速になると前記ロックアップクラッチの締結指示の出力を開始し、
車速が前記ロックアップ開始車速になったことで前記締結指示の出力を開始してから所定時間が経過した後の車速が、所定車速に達している場合、前記締結指示の出力を継続し、
車速が前記所定車速に達していない場合、前記締結指示の出力を停止し、出力停止の間に車速が前記ロックアップ開始車速より高い車速に設定されたロックアップ再開車速に達すると、前記締結指示の出力を再開する、
自動変速機のロックアップ制御方法。
【請求項9】
走行用駆動源と変速機構の間に配置されたトルクコンバータのロックアップクラッチが解放状態で、車速がロックアップ開始車速になると前記ロックアップクラッチの締結指示の出力を開始する自動変速機のロックアップ制御装置であって、
車速が前記ロックアップ開始車速になったことで前記締結指示の出力を開始してから所定時間が経過した後の車速が、所定車速に達している場合、前記締結指示の出力を継続し、
車速が前記所定車速に達していない場合、前記締結指示の出力を停止し、出力停止の間に車速が前記ロックアップ開始車速より高い車速に設定されたロックアップ再開車速に達すると、前記締結指示の出力を再開する、
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記所定時間を、前記ロックアップクラッチによりロックアップ容量が発生する直前のタイミングとなる時間に設定する
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記所定車速をアクセル開度が低開度域のときに低車速値に設定し、アクセル開度が前記低開度域よりも高い高開度域のときに前記低車速値よりも高い高車速値に設定する
自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項12】
請求項9から11までの何れか一項に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップ再開車速を、前記所定車速に一致させる
自動変速機のロックアップ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機のロックアップ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2003-254423Aは、所定値以上の減速度で車両が停止した後の再発進時には通常ロックアップ制御とは異なるロックアップ制御を実行する無段変速機の制御装置を開示している。この制御装置は、再発進時のロックアップ制御において、再発進時の運転状態が所定の加速要求条件を満たすときに、所定期間にわたりロックアップ禁止領域を通常ロックアップ制御によるロックアップ禁止領域よりも拡大し、所定期間経過後にロックアップ禁止領域を通常ロックアップ制御によるロックアップ禁止領域に戻す。所定期間は、車速が所定車速以上となったことが検出されるまでの期間である。
【発明の概要】
【0003】
この制御装置は、加速要求条件を満たすと、車速が所定車速以上となったことが検出されるまでの期間、ロックアップ禁止領域を通常ロックアップ制御によるロックアップ禁止領域よりも拡大しているだけである。このため、平坦路発進等のように走行抵抗が小さいときに加速要求条件を満たすと、ロックアップ禁止領域が拡大されることになり、早期締結による燃費向上要求に応えることができない。一方、登坂路発進等のように走行抵抗が大きいときに加速要求条件を満たさないと、通常のロックアップ禁止領域によるロックアップ制御になる。よって、ロックアップ締結時に平坦路より低車速域でロックアップ容量が発生し、エンジンの急な回転低下を伴うロックアップ締結により運転者に対して違和感を与える場合がある、という課題があった。
【0004】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、ロックアップ締結による消費エネルギー削減性能を維持しながら、走行抵抗が大きい発進シーンなどで車速の上昇が得られない場合であってもロックアップ締結時に運転者へ与える違和感を抑制することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のある実施形態によれば、自動変速機のロックアップ制御装置は、走行用駆動源と変速機構の間に配置されたトルクコンバータに有するロックアップクラッチが解放状態で、車速がロックアップ開始車速になるとロックアップ締結指示の出力を開始するロックアップコントローラを備える。
ロックアップコントローラは、判定部と、ロックアップ締結継続部と、ロックアップ締結開始遅延部と、を有する。
判定部は、車速がロックアップ開始車速になったことでロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間が経過した後の車速が、所定の判定車速に達しているかを判定する。ロックアップ締結継続部は、判定部により車速が判定車速に達していると判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を継続する。
ロックアップ締結開始遅延部は、判定部により車速が判定車速に達していないと判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を停止し、出力停止の間に車速がロックアップ開始車速より高い車速に設定されたロックアップ再開車速に達すると、ロックアップ締結指示の出力を再開する。
【0006】
上記態様によれば、上記解決手段を採用したため、ロックアップ締結による消費エネルギー削減性能を維持しながら、走行抵抗が大きい発進シーンなどで車速の上昇が得られない場合であってもロックアップ締結時に運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例1のロックアップ制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
図2図2は、自動変速機のロックアップ制御系を示す詳細構成図である。
図3図3は、走行抵抗判定部での所定時間の設定を示すロックアップ指示圧特性図である。
図4図4は、ロックアップマップ設定部に設定されている第1ロックアップマップを示す図である。
図5図5は、ロックアップマップ設定部に設定されている第2ロックアップマップを示す図である。
図6図6は、ロックアップコントローラにて実行されるロックアップ制御処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、登坂路と平坦路でのロックアップ締結開始後におけるロックアップ容量の発生ポイントの比較図である。
図8図8は、比較例でのオフロード条件の勾配路でのロックアップ締結時の課題を示すタイムチャートである。
図9図9は、走行抵抗小との判定時におけるロックアップ制御作用を示すタイムチャートである。
図10図10は、走行抵抗大との判定時におけるロックアップ制御作用を示すタイムチャートである。
図11図11は、ロックアップマップの切替え制御作用を示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機のロックアップ制御装置を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
実施例1のロックアップ制御装置は、前進9速・後退1速のギヤ段を有するシフト・バイ・ワイヤ及びパーク・バイ・ワイヤによる自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を「全体システム構成」、「ロックアップ制御系の詳細構成」、「ロックアップ制御処理構成」に分けて説明する。
【0010】
[全体システム構成(図1)]
エンジン車の駆動系には、図1に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備えている。自動変速機3のトランスミッションケースには、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路やソレノイドバルブ等により構成されるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
【0011】
トルクコンバータ2は、エンジン1からの入力トルクを増幅する機能や伝達トルク変動を滑りにより吸収する機能を有する流体継手である。このトルクコンバータ2には、クラッチ締結によってエンジン1のクランク軸とギヤトレーン3aの入力軸を直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。
【0012】
自動変速機3は、ギヤトレーン3aとパークギヤ3bとを内蔵する。ギヤトレーン3aは、複数のプラネタリギヤ列と摩擦要素を有し、複数の摩擦要素のうち締結要素の組み合わせにより前進9速・後退1速のギヤ段を達成する。パークギヤ3bは、ギヤトレーン3aの出力軸(=変速機出力軸)をギヤ噛み合いにより固定する。
【0013】
コントロールバルブユニット6は、ソレノイドバルブとして、摩擦要素毎に設けられるクラッチソレノイド20と、油圧源からの油路に設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23(アクチュエータ)を有する。これらのソレノイドバルブは何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて調圧作動する。
【0014】
エンジン車の電子制御系には、図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールモジュール11(略称:「ECM」という。)と、CAN通信線70と、を備える。ここで、変速機コントロールユニット10は、センサモジュールユニット71(略称:「USM」という。)からのイグニッション信号によって起動/停止をする。
【0015】
変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられ、ユニット基板にメイン基板温度センサ31と、サブ基板温度センサ32と、を互いに独立性を担保しながら冗長系により備える。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、センサ値情報を変速機コントロールユニット10に送信するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送信する。この変速機コントロールユニット10は、他にタービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、第3クラッチ油圧センサ15からの信号を入力する。さらに、シフタコントロールユニット18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
【0016】
タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転速度(=変速機入力軸回転速度)を検出し、タービン回転速度Ntを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転速度を検出し、出力軸回転速度No(=車速VSP)を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。第3クラッチ油圧センサ15は、第3クラッチK3のクラッチ油圧を検出し、第3クラッチ油圧PK3を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0017】
シフタコントロールユニット18は、運転者によるシフタ181へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を判定し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送信する。なお、シフタ181は、モーメンタリ構造であり、操作部181aの上部にPレンジボタン181bを有し、操作部181aの側部にロック解除ボタン181c(N→R時のみ)を有する。そして、レンジ位置として、Hレンジ(ホームレンジ)とRレンジ(リバースレンジ)とDレンジ(ドライブレンジ)とN(d),N(r)(ニュートラルレンジ)を有する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転速度を検出し、中間軸回転速度Nintを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0018】
変速機コントロールユニット10では、ロックアップクラッチ2aの解放/スリップ締結/締結によるロックアップ制御を行う。さらに、図外の変速マップ上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
【0019】
エンジンコントロールモジュール11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
【0020】
アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。
【0021】
エンジンコントロールモジュール11では、エンジン単体の様々な制御に加え、変速機コントロールユニット10との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行う。変速機コントロールユニット10とは、双方向に情報交換可能なCAN通信線70を介して接続されているため、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、アクセル開度APOやエンジン回転速度Neの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。さらに、推定算出によるエンジントルクTeやタービントルクTtの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。また、変速機コントロールユニット10から上限トルクによるエンジントルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするエンジントルク制限制御が実行される。
【0022】
[ロックアップ制御系の詳細構成(図2図5)]
自動変速機3のロックアップ制御系には、図2に示すように、ロックアップクラッチ2aと、ロックアップコントローラ100と、ロックアップソレノイド23(アクチュエータ)と、を備えている。
【0023】
ロックアップクラッチ2aは、エンジン1(走行用駆動源)とギヤトレーン3a(変速機構)の間に配置されたトルクコンバータ2に有し、ロックアップ油圧の供給によりストロークするロックアップピストン2bにより締結される。なお、ロックアップ油圧は、ロックアップコントローラ100からのロックアップ制御指示(締結指示/解放指示)にしたがってロックアップソレノイド23によって調圧される。
【0024】
ロックアップコントローラ100は、後述するロックアップマップ上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視し、ロックアップソレノイド23に対してロックアップ制御指示を出力する。ロックアップコントローラ100へは、タービン回転センサ13からのタービン回転速度Nt、出力軸回転センサ14からの車速VSP、エンジンコントロールモジュール11からのアクセル開度APOやエンジントルクTeやエンジン回転速度Ne等の情報が入力される。
【0025】
ロックアップコントローラ100でのロックアップ基本制御は、Dレンジでの1速発進時、ロックアップ解放状態で車速VSPが低車速域に設定したロックアップ開始車速Aになるとロックアップソレノイド23へのロックアップ締結指示の出力を開始する。そして、クラッチ差回転(エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntの回転速度差)が大きいほど低下勾配が大きな目標スリップ回転変化率によって実スリップ量をゼロに向かって収束させるロックアップ収束制御を行う。ロックアップ収束制御により実スリップ量がゼロに収束した後は、伝達トルク変動に対してスリップを許容しない完全締結状態にするのではなく、ロックアップクラッチ2aのスリップ量をゼロ(締結状態)に保つゼロスリップ制御を継続する。ここで、「ゼロスリップ制御」とは、ロックアップクラッチ2aの締結トルク容量を、入力トルクであるエンジントルクTeに一致させることで、エンジントルクTeを上限とするトルクをクラッチ締結状態で伝達する制御である。
【0026】
即ち、Dレンジでの1速発進時に車速VSPが低車速域のロックアップ開始車速Aになるとクラッチ締結を開始し、クラッチ締結状態になるとギヤトレーン3aでのアップシフトやダウンシフトにかかわらずゼロスリップ制御を継続する。このように、ロックアップ基本制御は、エンジン1の燃費性能を優先する制御である。そして、ロックアップクラッチ2aへの入力トルクが変動するギヤトレーン3aでの変速に対しては、ロックアップ解放により対応するのではなく、ゼロスリップ制御でのスリップ(クラッチ滑り)による対応で変速ショックを抑えるようにしている。
【0027】
ロックアップコントローラ100は、図2に示すように、走行抵抗判定部101(判定部)と、ロックアップ締結継続部102と、ロックアップ締結開始遅延部103と、ロックアップマップ設定部104と、マップ選択部105と、を有する。
【0028】
走行抵抗判定部101は、車速VSPがロックアップ開始車速Aになったことでロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間Tが経過した後の車速VSP(t)が、所定の判定車速Bに達しているか否かを判定し、それにより走行抵抗の大きさを判定する。
【0029】
ここで、「所定時間T」は、ロックアップクラッチ2aによりロックアップ容量が発生する直前のタイミングとなる時間に設定される。例えば、図3に示すように、ロックアップクラッチ2aのプレート間隔を縮めるピストンストロークが早いときでもロックアップ容量が発生しない時間に設定される。なお、ロックアップクラッチ2aによりロックアップ容量が発生を開始する時間情報は、学習制御による学習結果として取得される。このため、長期使用によるクラッチプレートの摩耗等を原因とし、ロックアップ容量が発生する学習時間が変更される場合は、それに合わせて「所定時間T」も変更される。
【0030】
また、「判定車速B」は、図4の第1ロックアップマップM1の判定車速線BLに示すように、平坦路での走行抵抗を基準とする加速特性に基づいて、アクセル開度APOが低開度域のときに低車速値であって高開度域のときに高車速値に設定される。
【0031】
ロックアップ締結継続部102は、走行抵抗判定部101により車速VSPが判定車速Bに達していると判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を継続する。つまり、車速VSPが判定車速Bに達した直後にクラッチ差回転がゼロに収束し、ロックアップクラッチ2aが締結状態へ移行する。
【0032】
ロックアップ締結開始遅延部103は、走行抵抗判定部101により車速VSPが判定車速Bに達していないと判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を停止し、ロックアップクラッチ2aが締結状態へ移行しないで解放状態へ戻す。そして、出力停止の間に車速VSPがロックアップ再開車速Cに達すると、ロックアップ締結指示の出力を再開する。ここで、「ロックアップ再開車速C」は、判定車速Bの車速領域値に設定される。
【0033】
ロックアップマップ設定部104は、車速VSPとアクセル開度APOの二次元座標面による第1ロックアップマップM1(図4)と第2ロックアップマップM2(図5)を設定している。なお、ロックアップマップとしては、図4及び図5に示すような二次元座標での特性線マップに限らず、数値表マップや演算式マップにより与えても勿論良い。
【0034】
第1ロックアップマップM1は、図4に示すように、ロックアップ締結指示の出力を開始する第1ロックアップ開始車速線ALと、判定車速線BLと、第1ロックアップ解除車速線DLと、を有する。なお、「第1ロックアップ解除車速線DL」は、第1ロックアップ開始車速線ALより車速ヒステリシス分だけ低速側の車速線としている。
【0035】
第2ロックアップマップM2は、図5に示すように、ロックアップ締結指示の出力を再開する第2ロックアップ再開車速線CLと、判定車速線BLと同じ設定による第2ロックアップ解除車速線EL(=BL)と、マップ切替え線FLと、を有する。
【0036】
ここで、「第2ロックアップ再開車速線CL」は、第2ロックアップ解除車速線ELより車速ヒステリシス分αだけ高車速側の設定(CL=BL+α)としている。また、「マップ切替え線FL」は、アクセル開度APOがコースト開度域以外の開度域で第1ロックアップ開始車速線ALと同じ車速線に設定している。そして、コースト開度域で第2ロックアップ再開車速線CLよりも高車速側まで延ばした設定としている。即ち、判定車速線BLと第2ロックアップ解除車速線ELと第2ロックアップ再開車速線CLとマップ切替え線FLは、アクセル開度軸毎に車速の軸を持つ。
【0037】
マップ選択部105は、ロックアップクラッチ2aを解放している初期状態で第1ロックアップマップM1を選択している。そして、ロックアップ締結継続部102から継続指令を入力すると、第1ロックアップマップM1の選択を維持する。一方、ロックアップ締結開始遅延部103から締結開始遅延指令を入力すると、マップ切替えにより第2ロックアップマップM2を選択する。さらに、第2ロックアップマップM2の選択中、車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)がマップ切替え線FLを横切るとマップ切替えにより第1ロックアップマップM1を選択する。つまり、第2ロックアップマップM2の選択中、車速VSPがロックアップ解除域まで低下する場合だけでなく、アクセル足離し操作が行われると、第2ロックアップマップM2から第1ロックアップマップM1へ切替えられる。
【0038】
[ロックアップ制御処理構成(図6)]
図6に示すロックアップ制御処理は、Dレンジにおいて第1ロックアップマップM1が選択され、ロックアップクラッチ2aが解放状態の停車時にスタートする。
【0039】
ステップS1では、処理スタートに続き、車速VSPが第1ロックアップ開始車速Aになったか否かを判断する。YES(VSP≧第1ロックアップ開始車速A)の場合はステップS2へ進み、NO(VSP<第1ロックアップ開始車速A)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
【0040】
ステップS2では、S1でのVSP≧第1ロックアップ開始車速Aであるとの判断、或いは、S3での所定時間Tを経過していないとの判断に続き、ロックアップ締結指示を出力し、ステップS3へ進む。
【0041】
ステップS3では、S2でのロックアップ締結指示の出力に続き、ロックアップ締結指示の出力開始からの経過時間が所定時間Tを経過したか否かを判断する。YES(所定時間Tを経過した)の場合はステップS4へ進み、NO(所定時間Tを経過していない)の場合はステップS2へ戻る。
【0042】
ステップS4では、S3での所定時間Tを経過したとの判断に続き、所定時間Tを経過した時点で読み込まれた車速VSP(t)が判定車速B以上であるか否かを判断する。YES(VSP(t)≧判定車速B)の場合はステップS5へ進み、NO(VSP(t)<判定車速B)の場合はステップS7へ進む。
【0043】
ステップS5では、S4でのVSP(t)≧判定車速Bであるとの判断、或いは、S6での走行中との判断、或いは、S11でのM2→M1へのマップ切替えに続き、第1ロックアップマップM1の選択を維持し、第1ロックアップマップM1を用いたロックアップ制御を実行し、ステップS6へ進む。
【0044】
ここで、第1ロックアップマップM1を用いたロックアップ制御では、車速VSPの上昇により運転点(VSP,APO)が第1ロックアップ開始車速線ALを横切ると、ロックアップ開始指示が出力される。ロックアップ開始指示の出力後、ロックアップ収束制御によりクラッチ差回転がゼロに収束すると、その後、ゼロスリップ制御が維持される。そして、車速VSPの低下により運転点(VSP,APO)が第1ロックアップ解除車速線DLを横切ると、ロックアップ解除指示が出力される。なお、S4からS5へ進んできた場合は、S2にて既にロックアップ開始指示が出力されている。
【0045】
ステップS6では、S5でのM1を用いたロックアップ制御の実行に続き、停車か否かを判断する。YES(停車)の場合はエンドへ進み、NO(走行中)の場合はステップS5へ戻る。
【0046】
ステップS7では、S4でのVSP(t)<判定車速Bであるとの判断に続き、ロックアップ締結指示の出力を停止し、ステップS8へ進む。
【0047】
ステップS8では、S7でのロックアップ締結指示の出力停止に続き、それまで選択されている第1ロックアップマップM1を第2ロックアップマップM2へ切替え、ステップS9へ進む。
【0048】
ステップS9では、S8でのM1→M2へのマップ切替え、或いは、S10でのマップ切替え条件不成立であるとの判断に続き、切替え後の第2ロックアップマップM2を用いたロックアップ制御を実行し、ステップS10へ進む。
【0049】
ここで、第2ロックアップマップM2を用いたロックアップ制御では、車速VSPの上昇により運転点(VSP,APO)が第2ロックアップ再開車速線CLを横切ると、ロックアップ再開指示が出力される。ロックアップ再開指示の出力後、スリップ締結制御によりクラッチ差回転がゼロに収束すると、その後、ゼロスリップ制御が維持される。そして、車速VSPの低下により運転点(VSP,APO)が第2ロックアップ解除車速線ELを横切ると、ロックアップ解除指示が出力される。
【0050】
ステップS10では、S9でのM2を用いたロックアップ制御の実行に続き、マップ切替え条件成立か否かを判断する。YES(マップ切替え条件成立)の場合はステップS11へ進み、NO(マップ切替え条件不成立)の場合はステップS9へ戻る。
【0051】
ここで、マップ切替え条件は、第2ロックアップマップM2において、アクセル足離し操作、又は、車速VSPの低下により運転点(VSP,APO)がマップ切替え線FLを横切ると成立と判断する。
【0052】
ステップS11では、S10でのマップ切替え条件成立との判断に続き、選択されている第2ロックアップマップM2を第1ロックアップマップM1へ切替え、ステップS5へ進む。
【0053】
次に、本実施形態が解決する技術的課題を比較例を用いて説明する。そして、実施例1の作用を、「走行抵抗に応じたロックアップ制御作用」、「ロックアップマップの切替え制御作用」に分けて説明する。
【0054】
図7は、ロックアップ開始車速線が設定されたロックアップマップを用い、車速がロックアップ開始車速線を横切るとロックアップ締結指示を出力する比較例である。
【0055】
この比較例において、走行抵抗が大きな登坂路発進時、ロックアップクラッチを締結した場合、ロックアップ締結時、図8の矢印Gの枠内特性に示すように、ロックアップ容量が発生し始めると、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntに向かって急に低下する。そして、このエンジン回転速度Neの急低下によるロックアップ締結により、運転者にとって違和感となる“ロックアップショック”や“ヘジテーション”が発生するという課題が指摘された。なお、「ロックアップショック」とは、ロックアップクラッチの急締結により車両挙動変化を招く現象をいう。「ヘジテーション」とは、エンジンのもたつきのことであり、ロックアップクラッチが締結されるとトルクコンバータでのトルク増幅作用がなくなり、アクセル踏み増し操作をしても加速しない現象をいう。
【0056】
そこで、本発明者等は、ロックアップ締結時に運転者に違和感を与える原因を解明するため、登坂路発進時にロックアップ容量が発生する運転点Hと平坦路発進時にロックアップ容量が発生する運転点Iとがどこに存在するかを実験した。この実験結果では、図7に示すように、ロックアップ開始車速を同じにしても、平坦路発進時にロックアップ容量が発生する運転点Iに比べ、登坂路発進時にロックアップ容量が発生する運転点Hよりも低い車速域でロックアップ容量が発生していることを知見した。
【0057】
そして、ロックアップ容量が発生し始めるとエンジン回転速度Neが急に低下するメカニズムを分析したところ、下記の(a),(b),(c)のメカニズムによることを突き止めた。
(a) 登坂路では同じアクセル開度でも加速度が低下し、低タービン回転領域でトルクコンバータ状態からスリップ締結状態への移行が実施される。
(b) スリップ締結状態への移行時の目標スリップ回転変化率は、クラッチ発熱抑制のために、クラッチ差回転が大きくなる低タービン回転域のときに負勾配で大になる。
(c) クラッチ差回転が大きな状態でスリップ締結指示をすると、ロックアップ容量が発生し始めてからのロックアップ指示圧が急上昇し、スリップ量(=クラッチ差回転)を一気に収束させる。
【0058】
上記検証結果に基づいて、本発明者等はロックアップ制御での目標(要求)を下記のように定めた。
・平坦路では背景技術と同じタイミングでロックアップ収束ができること。
・登坂路等のように走行抵抗大の時には、ロックアップさせたくない低車速領域でロックアップ容量を発生しないこと。
・走行抵抗大の時であっても、ロックアップさせたい車速に到達するまでにロックアップ収束ができること。
【0059】
本発明者等は、上記目標(要求)に対して、
(A) ロックアップ開始車速になったことでロックアップ締結指示を開始してもピストンストロークによりクラッチ隙間を詰めているロックアップ準備区間はロックアップ容量が発生しない。よって、ロックアップ準備区間を利用することで、走行抵抗の大小を判定することが可能である。
(B) 走行抵抗小の判定時は、ロックアップ締結指示の出力を継続すると、背景技術と同じタイミングでロックアップ収束ができる。
(C) 走行抵抗大の判定時は、ロックアップ締結指示の出力を停止すると、ロックアップさせたくない低車速領域でロックアップ容量を発生させることがない。
(D) 走行抵抗大の判定時は、ロックアップ再開車速を設定すると、ロックアップさせたい車速域でのロックアップ収束が可能である。
という点に着目した。
【0060】
上記着目点に基づいて、本開示は、エンジン1とギヤトレーン3aの間に配置されたトルクコンバータ2に有するロックアップクラッチ2aが解放状態で、車速VSPがロックアップ開始車速Aになるとロックアップ締結指示の出力を開始するロックアップコントローラ100と、を備える。ロックアップコントローラ100は、走行抵抗判定部101と、ロックアップ締結継続部102と、ロックアップ締結開始遅延部103と、を有する。走行抵抗判定部101は、車速VSPがロックアップ開始車速Aになったことでロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間Tが経過した後の車速VSP(t)が、所定の判定車速Bに達しているかを判定する。ロックアップ締結継続部102は、走行抵抗判定部101により車速VSP(t)が判定車速Bに達していると判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を継続する。ロックアップ締結開始遅延部103は、走行抵抗判定部101により車速VSP(t)が判定車速Bに達していないと判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を停止し、出力停止の間に車速VSPがロックアップ開始車速Aより高い車速に設定されたロックアップ再開車速Cに達すると、ロックアップ締結指示の出力を再開する、という手段を採用した。
【0061】
即ち、ロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間Tが経過した後の車速VSP(t)が判定車速Bに到達しているか否かにより走行抵抗の大小を判定している。よって、ロックアップ締結制御の一部に組み込んだ手法としながらも、精度良く走行抵抗の大小を判定することができ、上記(A)の目標(要求)に応える。
【0062】
そして、車速VSP(t)が判定車速Bに達している場合、走行抵抗が小さいとの判定に基づいて、ロックアップ締結指示の出力を継続しているため、上記(B)の目標(要求)に応える。車速VSP(t)が判定車速Bに達していない場合、走行抵抗が大きいとの判定に基づいて、ロックアップ締結指示の出力を停止しているため、上記(C)の目標(要求)に応える。ロックアップ締結指示の出力を停止している間に車速VSPがロックアップ再開車速Cに達するとロックアップ締結指示の出力を再開しているため、上記(D)の目標(要求)に応える。
【0063】
走行抵抗大と判定され、ロックアップ締結指示の出力を停止した後、ロックアップ解放状態をそのまま維持するのではなく、ロックアップクラッチ2aの締結を再開する制御が行われる。よって、ロックアップ締結による省燃費性能が維持される。
【0064】
走行抵抗大と判定された場合、ロックアップ締結指示の出力が停止されるため、走行抵抗大での発進時に収束させたい車速よりも低車速でのロックアップ急締結が回避される。そして、出力停止の間に車速VSPがロックアップ再開車速Cに達するまでロックアップ締結指示の再開を遅延するため、車速上昇に伴うタービン回転速度Ntの上昇により、クラッチ差回転が小さくなってからのロックアップ締結指示の再開になる。よって、走行抵抗が大きい発進シーンなどで車速の上昇が得られない場合であってもロックアップ締結時にロックアップショックの発生やヘジテーションの発生が防止される。
【0065】
この結果、ロックアップ締結による省燃費性能を維持しながら、走行抵抗が大きい発進シーンなどで車速の上昇が得られない場合であってもロックアップ締結時にロックアップショックの発生やヘジテーションの発生を防止することで運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0066】
次に、走行抵抗の判定について説明する。例えば、走行抵抗の大きさの判定手法としては、エンジン回転速度の上昇勾配からロックアップ容量発生時の車速を推定し、加速不足かどうかを判定する先読み判定手法が知られている。しかし、先読み判定手法は、エンジン回転速度の上昇勾配を得るタイミングが、アクセル踏み込み操作による発進直後のエンジン回転速度上昇し始めであるため、アクセル操作中にエンジントルクも上昇し、走行抵抗の予測精度が低くなってしまう。
【0067】
これに対し、ロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間Tが経過した後の車速VSP(t)をズバリみる実車速判定手法により走行抵抗の大小を判定している。よって、実車速判定手法は、車速推定による先読み判定手法に比べて精度良く走行抵抗の大小を判定することができることになる。
【0068】
実車速判定手法において、「所定時間T」を、ロックアップクラッチ2aによりロックアップ容量が発生する直前のタイミングとなる時間に設定している。よって、ロックアップ容量が発生し始めときの車速VSP(t)をズバリみるため、車速VSP(t)がロックアップ容量の発生開始車速として、狙いの車速域に収まっているかどうかを明確に把握することができる。このため、車速VSP(t)が判定車速Bに達していないと判定された場合、ロックアップ容量の発生前にロックアップ締結指示の出力が停止されることで、エンジン回転の引きが発生したり、ロックアップピストン2bの戻り動作に影響が出たりするのを防止することができる。
【0069】
また、実車速判定手法において、「判定車速B」を、平坦路での走行抵抗を基準とする加速特性に基づいて、アクセル開度APOが低開度域のときに低車速値であって高開度域のときに高車速値に設定している。よって、アクセル開度APOによる加速特性の違いに対応しながら、車速VSP(t)が判定車速Bに達しているか否かにより平坦路発進時か登坂路発進時かを切り分けて判定することができることになる。
【0070】
[走行抵抗に応じたロックアップ制御作用(図6図9図10)]
ロックアップクラッチ2aの解放状態での発進時、車速VSPが第1ロックアップ開始車速A以上になると、図6のフローチャートにおいて、S1→S2→S3へと進む。S2では、ロックアップ締結指示が出力され、S3では、ロックアップ締結指示の出力開始からの経過時間が所定時間Tを経過したか否かが判断される。ロックアップ締結指示の出力開始からの経過時間が所定時間Tを経過すると、S3からS4へ進み、S4では、所定時間Tを経過した時点で読み込まれた車速VSP(t)が判定車速B以上であるか否かが判断される。
【0071】
S4でVSP(t)≧判定車速Bであると判断されると、S4からS5→S6へ進む。S5では、第1ロックアップマップM1の選択が維持され、第1ロックアップマップM1を用いたロックアップ制御が実行される。S6では、停車か否かが判断され、走行中と判断されている間は、S5→S6へと進む流れが繰り返され、第1ロックアップマップM1を用いたロックアップ制御の実行が継続される。そして、S6にて停車と判断されると、S6からエンドへ進む。
【0072】
よって、図9に示すように、発進後、車速VSPの上昇により運転点(VSP,APO)が第1ロックアップ開始車速A以上になる時刻t1にてロックアップ開始指示が出力される。これによって、ロックアップ状態が非ロックアップ状態からロックアップオン状態へと移行する。ロックアップ開始指示の出力する時刻t1から所定時間Tが経過した時刻t2にて車速VSP(t)が判定車速B以上であると、走行抵抗が小さいと判断し、そのままロックアップ制御が継続される。つまり、時刻t2の直後にロックアップ収束制御によりクラッチ差回転がゼロに収束すると、その後、ゼロスリップ制御が維持される。
【0073】
一方、S4でVSP(t)<判定車速Bであると判断されると、S4からS7→S8→S9→S10へと進む。S7では、ロックアップ締結指示の出力が停止され、S8では、それまで選択されている第1ロックアップマップM1が第2ロックアップマップM2へ切替えられる。S9では、切替え後の第2ロックアップマップM2を用いたロックアップ制御が実行される。S10では、マップ切替え条件成立か否かが判断され、マップ切替え条件不成立と判断されている間は、S9→S10へと進む流れが繰り返され、第2ロックアップマップM2を用いたロックアップ制御の実行が継続される。
【0074】
S10にてマップ切替え条件成立と判断されると、S10からS11→S5へ進み、S11では、選択されている第2ロックアップマップM2が第1ロックアップマップM1へ切替えられる。そして、S5では、第1ロックアップマップM1を用いたロックアップ制御が実行される。
【0075】
よって、図10に示すように、ロックアップ開始指示の出力する時刻t1から所定時間Tが経過した時刻t2にて車速VSP(t)が判定車速B未満であると、走行抵抗が大きいと判断し、ロックアップ締結指示の出力停止により、ロックアップ状態がロックアップオン状態から非ロックアップ状態へと移行する。そして、時刻t2からの車速VSPの上昇により時刻t3にて車速VSP(t)が第2ロックアップ再開車速C(=B+α)以上になると、ロックアップ開始指示が再出力される。これによって、ロックアップ状態が、非ロックアップ状態からロックアップオン状態へと移行する。
【0076】
ここで、第2ロックアップ再開車速Cを、判定車速Bの車速領域値に設定している。このため、登坂路発進等で走行抵抗大のときに、車速VSPがロックアップさせたい車速域であり、かつ、平坦路発進等で走行抵抗小のときと同等の車速タイミングでロックアップ収束させることができる。なお、実施例1では、後述する車速ハンチングの防止を考慮し、第2ロックアップ再開車速Cを、判定車速Bより車速ヒステリシス分αだけ高車速側の設定としている。しかし、第2ロックアップ解除車速Eを、判定車速Bより低車速側に設定すると、第2ロックアップ再開車速Cを判定車速Bに一致する車速値や判定車速Bより低車速側に設定しても良い。
【0077】
[ロックアップマップの切替え制御作用(図11)]
上記のように、ロックアップ開始指示の出力する時刻t1から所定時間Tが経過した時刻t2にて車速VSP(t)が判定車速B以上であると、走行抵抗が小さいと判断し、第1ロックアップマップM1の選択を維持している。
【0078】
よって、平坦路等での発進時における第1ロックアップマップM1の運転点(VSP,APO)は、図11に示すように、アクセル踏み込み操作を開始した運転点P1から第1ロックアップ開始車速線ALによる運転点P2に到達する。その後、運転点P2からの加速により所定時間Tの経過した後に判定車速線BLを超えている運転点P3に到達していると、第1ロックアップマップM1を用いたロックアップ制御がそのまま維持される。また、ロックアップ締結状態による運転点P4から減速停止するときは、図11に示すように、第1ロックアップ解除車速線DLによる運転点P5に到達すると、ロックアップ解除指令が出力され、運転点P1に戻る。
【0079】
一方、ロックアップ開始指示の出力する時刻t1から所定時間Tが経過した時刻t2にて車速VSP(t)が判定車速B未満であると、走行抵抗が大きいと判断し、マップ切替えにより第2ロックアップマップM2を選択している。
【0080】
よって、登坂路等での発進時における第1ロックアップマップM1の運転点(VSP,APO)は、図11に示すように、アクセル踏み込み操作を開始した運転点P1から第1ロックアップ開始車速線ALによる運転点P6に到達する。その後、運転点P6からの加速不足により所定時間Tの経過した後に判定車速線BLに届かない運転点P7に到達していると、マップ切替え条件の成立により第2ロックアップマップM2が選択される。
【0081】
第2ロックアップマップM2での運転点P7の位置は、ロックアップ解放領域にあり、第2ロックアップマップM2の切替えと同時に、ロックアップ締結指令を停止し、ロックアップ解除指令が出力される。その後、運転点P7からの車速上昇により第2ロックアップ再開車速線CLによる運転点P8に到達すると、ロックアップ締結指令の出力が再開される。
【0082】
ロックアップ締結状態による運転点P9から減速するときは、図11に示すように、第2ロックアップ解除車速線ELによる運転点P10に到達すると、ロックアップ解除指令が出力される。そして、車速低下によりマップ切替え線FLによる運転点P11に到達すると、マップ切替え条件の成立により第1ロックアップマップM1が選択される。
【0083】
さらに、加速不足により所定時間Tの経過した後に判定車速線BLに届かない運転点P12にあるとき、再加速を意図してアクセル足離しから踏み込みへ移行する操作を行うものとする。この場合は、アクセル足離し操作によるアクセル開度低下によりマップ切替え線FLによる運転点P13に到達し、マップ切替え条件の成立により第1ロックアップマップM1が選択される。そして、運転点P13が第1ロックアップマップM1に移行すると、ロックアップ締結領域に運転点P13が存在することになり、直ちにロックアップ締結指令が出力される。
【0084】
このように、マップ選択部105は、ロックアップ締結継続部102から継続指令を入力すると、第1ロックアップマップM1の選択を維持している。そして、ロックアップ締結開始遅延部103から締結開始遅延指令を入力すると、マップ切替えにより第2ロックアップマップM2を選択している。よって、ロックアップマップM1,M2の選択処理によって、走行抵抗が小さい発進シーンで低車速域の第1ロックアップ開始車速Aによるロックアップ制御を維持しながら、走行抵抗が大きい発進シーンで運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0085】
第2ロックアップマップM2は、判定車速線BLと同じ設定による第2ロックアップ解除車速線ELを有し、第2ロックアップ再開車速線CLを、第2ロックアップ解除車速線ELより車速ヒステリシス分αだけ高車速側の設定としている。よって、運転者による小さなアクセル踏み戻し操作により車速VSPが変化した場合であっても、ロックアップ締結とロックアップ解除が繰り返されるような制御ハンチングを防止することができる。
【0086】
第2ロックアップマップM2は、コースト開度域で第2ロックアップ再開車速線CLよりも高車速側まで延ばしたマップ切替え線FLを有する。そして、マップ選択部105は、第2ロックアップマップM2の選択中、アクセル足離し操作により車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)がマップ切替え線FLを横切るとマップ切替えにより第1ロックアップマップM1を選択するようにしている。よって、登坂路等での発進時、再加速を意図してアクセル足離しから踏み込みへの移行操作を行うとき、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。即ち、第1ロックアップ開始車速線ALより第2ロックアップ再開車速線CLは高速側の設定であり、運転者に加速意図があるとき、第2ロックアップマップM2の選択を維持した場合、ロックアップ開始が遅れ、運転者に違和感を与える。
【0087】
以上述べたように、実施例1の自動変速機3のロックアップ制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0088】
(1) 走行用駆動源(エンジン1)と変速機構(ギヤトレーン3a)の間に配置されたトルクコンバータ2に有するロックアップクラッチ2aが解放状態で、車速がロックアップ開始車速になるとロックアップ締結指示の出力を開始するロックアップコントローラ100を備える自動変速機3のロックアップ制御装置において、
ロックアップコントローラ100は、
車速VSPがロックアップ開始車速Aになったことでロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間Tが経過した後の車速VSP(t)が、所定の判定車速Bに達しているかを判定する判定部(走行抵抗判定部101)と、
判定部(走行抵抗判定部101)により車速VSP(t)が判定車速Bに達していると判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を継続するロックアップ締結継続部102と、
判定部(走行抵抗判定部101)により車速VSP(t)が判定車速Bに達していないと判定された場合、ロックアップ締結指示の出力を停止し、出力停止の間に車速VSPがロックアップ開始車速Aより高い車速に設定されたロックアップ再開車速Cに達すると、ロックアップ締結指示の出力を再開するロックアップ締結開始遅延部103と、を有する。
このため、ロックアップ締結により消費エネルギー削減性能(省燃費性能)を維持しながら、走行抵抗が大きい発進シーンなどで車速の上昇が得られない場合であってもロックアップ締結時に運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0089】
(2) 判定部(走行抵抗判定部101)は、所定時間Tを、ロックアップクラッチ2aによりロックアップ容量が発生する直前のタイミングとなる時間に設定する。
このため、車速VSP(t)が判定車速Bに達していないと判定された場合、ロックアップ容量の発生前にロックアップ締結指示の出力が停止されることで、ロックアップ容量の発生による影響を防止することができる。
【0090】
(3) 判定部(走行抵抗判定部101)は、判定車速Bを、平坦路での走行抵抗を基準とし、アクセル開度が低開度域のときに低車速値であって高開度域のときに高車速値に設定する。
このため、アクセル開度APOによる加速特性の違いに対応しながら、車速VSP(t)が判定車速Bに達しているか否かにより平坦路発進時か登坂路発進時かを切り分けて判定することができる。
【0091】
(4) ロックアップ締結開始遅延部103は、ロックアップ再開車速Cを、判定車速Bの車速領域値に設定する。
このため、登坂路発進等で走行抵抗大のときに、車速VSPがロックアップさせたい車速域であり、かつ、平坦路発進等で走行抵抗小のときと同等の車速タイミングでロックアップ収束させることができる。
【0092】
(5) ロックアップコントローラ100は、車速VSPとアクセル開度APOの二次元座標面によるロックアップマップを設定するロックアップマップ設定部104を有し、
ロックアップマップ設定部104に、ロックアップ締結指示の出力を開始する第1ロックアップ開始車速線ALと判定車速線BLを有する第1ロックアップマップM1と、ロックアップ締結指示の出力を再開する第2ロックアップ再開車速線CLを有する第2ロックアップマップM2とを設定し、
ロックアップ締結継続部102から継続指令を入力すると、第1ロックアップマップM1の選択を維持し、ロックアップ締結開始遅延部103から締結開始遅延指令を入力すると、マップ切替えにより第2ロックアップマップM2を選択するマップ選択部105を有する。
このため、ロックアップマップM1,M2の選択処理によって、走行抵抗が小さい発進シーンで低車速域の第1ロックアップ開始車速Aによるロックアップ制御を維持しながら、走行抵抗が大きい発進シーンで運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0093】
(6) 第2ロックアップマップM2は、判定車速線BLと同じ設定による第2ロックアップ解除車速線ELを有し、
第2ロックアップ再開車速線CLを、第2ロックアップ解除車速線ELより車速ヒステリシス分αだけ高車速側の設定とする。
このため、運転者による小さなアクセル踏み戻し操作により車速VSPが変化した場合であっても、ロックアップ締結とロックアップ解除が繰り返されるような制御ハンチングを防止することができる。
【0094】
(7) 第2ロックアップマップM2は、コースト開度域で第2ロックアップ再開車速線CLよりも高車速側まで延ばしたマップ切替え線FLを有し、
マップ選択部105は、第2ロックアップマップM2の選択中、アクセル足離し操作により車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)がマップ切替え線FLを横切るとマップ切替えにより第1ロックアップマップM1を選択する。
このため、登坂路等での発進時、再加速を意図してアクセル足離しから踏み込みへの移行操作を行うとき、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0095】
以上、本発明の実施形態に係る自動変速機のロックアップ制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0096】
実施例1では、自動変速機として、前進9速後退1速の自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段変速段を持つ自動変速機の例としても良いし、ベルト式無段変速機と多段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良いし、ベルト式無段変速機としても良い。
【0097】
実施例1では、走行用駆動源がエンジン1であるエンジン車に搭載される自動変速機3のロックアップ制御装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等の自動変速機のロックアップ制御装置としても適用することが可能である。
【0098】
実施例1では、判定部として、走行抵抗を判定する走行抵抗判定部101の例を示した。しかし、判定部としては、走行抵抗の判定に限らず、ロックアップ締結指示の出力を開始してから所定時間が経過した後の車速が、所定の判定車速に達しているかを判定するように、車速を判定しても良い。
【0099】
本願は、2019年10月9日付けで日本国特許庁に出願した特願2019-185709号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
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