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  • 特許-光学物品および光学物品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】光学物品および光学物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/23 20060101AFI20231101BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20231101BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20231101BHJP
   C08F 2/44 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
G02B5/23
G02C7/10
C08G18/67
C08F2/44 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021567379
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047321
(87)【国際公開番号】W WO2021132050
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019239792
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 強
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/016313(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189855(WO,A1)
【文献】特開2016-047911(JP,A)
【文献】特開2020-164839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0308400(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/23
G02C 7/10
C08G 18/67
C08F 2/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
プライマー層形成用重合性組成物を硬化させたプライマー層と、
フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
をこの順に有し、
前記プライマー層形成用重合性組成物は、
成分A:ポリイソシアネートと、
成分B:ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと、
を含み、かつ
前記プライマー層形成用重合性組成物の成分Bの含有率は、成分Aと成分Bとの合計に対して40.0質量%以上90.0質量%以下である光学物品。
【請求項2】
前記プライマー層形成用重合性組成物の成分Bの含有率は、成分Aと成分Bとの合計に対して40.0質量%以上80.0質量%以下である、請求項1に記載の光学物品。
【請求項3】
成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、2以上である、請求項1または2に記載の光学物品。
【請求項4】
成分Bは、2官能以上の(メタ)アクリレートである、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項5】
眼鏡レンズである、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項6】
ゴーグル用レンズである、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項7】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項8】
ヘルメットのシールド部材である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項9】
請求項5に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【請求項10】
基材上にプライマー層形成用重合性組成物を塗布すること、
塗布されたプライマー層形成用重合性組成物を光照射による硬化処理に付してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を塗布すること、
塗布されたフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を光照射による硬化処理に付してフォトクロミック層を形成すること、
を含み、
前記プライマー層形成用重合性組成物は、
成分A:ポリイソシアネートと、
成分B:ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと、
を含み、かつ
前記プライマー層形成用重合性組成物の成分Bの含有率は、成分Aと成分Bとの合計に対して40.0質量%以上90.0質量%以下である光学物品の製造方法。
【請求項11】
前記プライマー層形成用重合性組成物の成分Bの含有率は、成分Aと成分Bとの合計に対して40.0質量%以上80.0質量%以下である、請求項10に記載の光学物品の製造方法。
【請求項12】
成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、2以上である、請求項10または11に記載の光学物品の製造方法。
【請求項13】
成分Bは、2官能以上の(メタ)アクリレートである、請求項10~12のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項14】
前記光学物品は眼鏡レンズである、請求項10~13のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項15】
前記光学物品はゴーグル用レンズである、請求項10~13のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項16】
前記光学物品はサンバイザーのバイザー部分である、請求項10~13のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【請求項17】
前記光学物品はヘルメットのシールド部材である、請求項10~13のいずれか1項に記載の光学物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品および光学物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で発色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。以下では、フォトクロミック化合物を含む物品を、フォトクロミック物品と呼ぶ。例えば特許文献1には、フォトクロミック化合物を含む層(フォトクロミック層)を基材上に設けた光学物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2003/011967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、フォトクロミック層を有する光学物品の性能向上を目指し、フォトクロミック層と基材との密着性を高めるために検討を重ねた。
【0005】
即ち、本発明の一態様は、フォトクロミック層と基材との密着性に優れる光学物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
基材と、
プライマー層形成用重合性組成物を硬化させたプライマー層と、
フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
をこの順に有し、
上記プライマー層形成用重合性組成物は、
成分A:ポリイソシアネートと、
成分B:ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと、
を含む、光学物品、
に関する。
【0007】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、成分Aと成分Bとを含むことにより、フォトクロミック層と基材との間の密着性向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、基材上にフォトクロミック層を有する光学物品であって、基材とフォトクロミック層との密着性に優れる光学物品を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、光学物品の製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】密着性の評価(高圧水剥離評価)の方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[光学物品]
以下に、本発明の一態様にかかる光学物品について、更に詳細に説明する。
【0011】
上記光学物品は、基材と、プライマー層と、フォトクロミック層と、をこの順に有する。
【0012】
<基材>
上記光学物品は、光学物品の種類に応じて選択した基材上にプライマー層を介してフォトクロミック層を有することができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0013】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0014】
<プライマー層>
上記プライマー層は、成分Aと成分Bとを含むプライマー層形成用重合性組成物を硬化した硬化層である。本発明および本明細書において、重合性組成物とは、重合性化合物を含む組成物をいうものとする。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物である。
【0015】
(成分A)
成分Aは、ポリイソシアネートである。ポリイソシアネートとは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートの1分子中に含まれるイソシアネート基の数は、2以上であり、3以上であることが好ましい。また、ポリイソシアネートの1分子中に含まれるイソシアネート基の数は、例えば6以下、5以下または4以下であることができる。ポリイソシアネートの分子量は、例えば100~500の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。ポリイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ジイソシアネート等が挙げられる。また、上記で例示したポリイソシアネートのアロファネート体、アダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等を挙げることもできる。ポリイソシアネートの市販品としては、コロネートHX、コロネートHXR、コロネートHXLV、コロネートHK、コロネート2715、コロネートHL、コロネートL、コロネート2037、HDI、TDI、MDI(東ソー社製)、タケネート500、タケネート600、デュラネート24A-100、TPA-100、TKA-100、P301-75E、タケネートD-110N、D-120N、D-127N、D-140N、D-160N、D15N、D-170N、D-170HN、D-172N、D-177N、D-178N、D-101E(三井化学社製)等が挙げられる。
【0016】
(成分B)
成分Bは、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートである。本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。以下に記載の「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0017】
成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、1以上であり、2以上であることが好ましい。また、成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。成分Bの官能数は、1以上であり(即ち単官能以上)、2以上であることが好ましい。また、上記官能数は、3以下であることが好ましい。成分Bは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、成分Bは、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基のみを含むことが好ましい。成分Bの分子量は、例えば300~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。成分Bの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、2-ヒドロキシ-1-アクリロキシ-3-メタドリロキシプロパン、2-ヒドロキシ 1-3ジメタクリロキシプロパン、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、モノアクリロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(アクリロキシオキシ)エチル 2-ヒドロキシエチルフタレート等を挙げることができる。また、一形態では、成分Bは、アミド基を有することができる。アミド基を有する成分Bの具体例としては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド等を挙げることができる。また、成分Bは、一形態では、エポキシエステル構造を有することができる。エポキシエステル構造とは、エポキシ基とカルボキシ基との反応により生成される構造であり、「-CH(OH)-CH-O-C(=O)-」で表すことができる。エポキシエステル構造を有する成分Bの市販品としては、例えば、エポキシエステル40EM(共栄社化学製)、エポキシエステル70PA(共栄社化学製)、エポキシエステル80MFA(共栄社化学製)、エポキシエステル200PA(共栄社化学製)、エポキシエステル3002M(N)(共栄社化学製)、エポキシエステル3002A(N)(共栄社化学製)、エポキシエステル3000MK(共栄社化学製)、エポキシエステル3000A(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0018】
上記プライマー層形成用重合性組成物において、成分Bの含有率は、成分Aと成分Bとの合計を100質量%として、30.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましく、50.0質量%以上であることが更に好ましく、60.0質量%以上であることが一層好ましい。成分Bの含有率は、成分Aと成分Bとの合計を100質量%として、例えば、90.0質量%以下、80.0質量%以下または70.0質量%以下であることができる。上記プライマー層形成用重合性組成物は、成分Bを、一形態では1種のみ含むことができ、他の一形態では2種以上含むことができる。2種以上の成分Bが含まれる場合、上記の成分Bの含有率は、2種以上の合計含有率である。この点は、他の成分に関する含有率についても同様である。
【0019】
上記プライマー層形成用重合性組成物において、成分Aの含有率は、成分Aと成分Bとの合計を100質量%として、70.0質量%以下であることが好ましく、60.0質量%以下であることがより好ましく、50.0質量%以下であることが更に好ましく、40.0質量%以下であることが一層好ましい。成分Aの含有率は、成分Aと成分Bとの合計を100質量%として、例えば、10.0質量%以上、20.0質量%以上または30.0質量%以上であることができる。
【0020】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、更に重合開始剤を含むことができる。上記プライマー層形成用重合性組成物は、成分Aと成分Bとの合計を100質量%として、重合開始剤を、例えば0.01~3.0質量%の範囲の含有率で含むことができる。
【0021】
例えば、重合開始剤としては、(メタ)アクリレートに対して重合開始剤として機能することができる公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[(4-フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9’-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。また、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体において、2つのトリアリールイミダゾール部位のアリール基の置換基は、同一で対称な化合物を与えてもよく、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン化合物と3級アミンとを組み合わせてもよい。これらの中で、硬化性、透明性および耐熱性の観点から、α-ヒドロキシケトンおよびホスフィンオキシドが好ましい。
【0022】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0023】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、更に、プライマー層形成のための組成物に通常添加され得る公知の添加剤を任意の量で含むことができる。添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。上記プライマー層形成用重合性組成物は、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、成分Aと成分Bとを合計で80.0質量%以上、85.0質量%以上、90.0質量%以上または95.0質量%以上含むことができる。また、上記プライマー層形成用重合性組成物において、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、成分Aと成分Bとの合計含有率は、例えば、100質量%、100質量%以下、100質量%未満、99.0質量%以下または98.0質量%以下であることができる。本発明および本明細書において、含有率に関して、「組成物の全量」とは、溶剤を含む組成物については、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。
【0024】
上記プライマー層形成用組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0025】
上記プライマー層形成用重合性組成物を基材に塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって、上記プライマー層形成用重合性組成物が硬化した硬化層であるプライマー層を基材上に形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。塗布前の基材表面には、基材表面の清浄化等のために、アルカリ処理、UVオゾン処理等の公知の前処理の1つ以上を任意に施すことができる。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記プライマー層形成用重合性組成物に含まれる各種成分の種類や上記プライマー層形成用重合性組成物の組成に応じて決定すればよい。硬化処理が施されることにより基材上で成分Aと成分Bとの反応によってウレタン結合が形成されると考えられることが、密着性向上に寄与すると本発明者は推察している。
【0026】
プライマー層の厚さは、例えば3μm以上であることができ、5μm以上であることが好ましい。また、プライマー層の厚さは、例えば15μm以下であることができ、10μm以下であることが好ましい。
【0027】
<フォトクロミック層>
(重合性化合物)
上記光学物品は、上記プライマー層上にフォトクロミック層を有する。フォトクロミック層は、(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化させた硬化層である。本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート系重合性組成物」とは、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物をいうものとする。上記プライマー層形成用重合性組成物も、成分Bを含むため、(メタ)アクリレート系重合性組成物ということができる。プライマー層とフォトクロミック層とが共に(メタ)アクリレート系重合性組成物が硬化した硬化層であることも、密着性向上に寄与すると本発明者は推察している。
【0028】
以下に、フォトクロミック層形成用重合性組成物の一形態である(メタ)アクリレート系重合性組成物について説明する。ただし、以下の形態は例示であって、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0029】
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、一形態では上記成分Bを含むことができる。
【0030】
また、一形態では、フォトクロミック層形成用重合性組成物は、下記成分Eを含むことができる。
【0031】
成分Eは、分子量500以上の非環状のメタクリレートである。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。非環状のメタクリレートとは、環状構造を含まない単官能以上のメタクリレートをいうものとする。
【0032】
成分Eは、単官能または2官能以上のメタクリレートであることができ、2官能または3官能メタクリレートであることが好ましく、2官能メタクリレートであることがより好ましい。成分Eとしては、ポリアルキレングリコールジメタクリレートを挙げることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートは、下記式1:
【化1】
により示すことができ、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。Rで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。nは、2以上であり、例えば30以下、25以下または20以下であることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0033】
成分Eの分子量は、500以上である。本発明および本明細書において、重合体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用している。成分Eの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましく、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。成分Eの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。
【0034】
また、一形態では、フォトクロミック層形成用重合性組成物は、下記成分Cを含むことができる。
【0035】
成分Cは、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートである。成分Cは、3~5官能の(メタ)アクリレートであることが好ましく、3官能または4官能の(メタ)アクリレートであることがより好ましく、3官能(メタ)アクリレートであることが更に好ましい。成分Cの具体例としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。成分Cの分子量は、例えば200~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。成分Cは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むこと、即ちメタクリレートであることが好ましい。
【0036】
また、一形態では、フォトクロミック層形成用重合性組成物は、下記成分Dを含むことができる。
【0037】
成分Dは、分子量400以下であって、下記式2:
【化2】
で表される(メタ)アクリレートである。
【0038】
式2中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。mは、1以上であって、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下または6以下であることができる。
【0039】
成分Dの分子量は、400以下であり、フォトクロミック層が光照射下で発色した際の発色濃度をより高める観点からは、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることが更に好ましい。また、成分Dの分子量は、例えば、100以上、150以上または200以上であることができる。
【0040】
成分Dは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、成分Dは、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基のみを含むことが好ましい。成分Eの具体例としては、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート
等を挙げることができる。
【0041】
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、一形態では、重合性化合物として、上記成分以外の他の重合性化合物の1種以上を含むこともできる。
【0042】
フォトクロミック層形成用重合性組成物において、成分Eの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、50.0質量%以上であることが好ましく、55.0質量%以上であることがより好ましい。成分Eは、一形態では、組成物に含まれる複数の重合性化合物の中で、最も多くを占める成分であることができる。また、成分Eの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、90.0質量%以下、85.0質量%以下、80.0質量%以下、75.0質量%以下または70質量%以下であることができる。
【0043】
成分Bについては、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、成分Bの含有率は、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることが好ましい。また、フォトクロミック層におけるフォトクロミック化合物の光応答性の向上の観点からは、成分Bの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、40.0質量%以下であることが好ましく、35.0質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
成分Cについては、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Cの含有率は、0質量%であってもよく、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、3.0質量%以上、5質量%以上または7質量%以上であることもできる。成分Cの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、例えば20.0質量%以下または15.0質量%以下であることができる。
【0045】
成分Dについては、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Dの含有率は、0質量%であってもよく、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、3.0質量%以上または5.0質量%以上であることもできる。成分Dの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、例えば25.0質量%以下、20.0質量%以下または15.0質量%以下であることができる。
【0046】
フォトクロミック層形成用重合性組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば80.0質量%以上、85.0質量%以上または90.0質量%以上であることができる。また、上記組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば、99.0質量%以下、95.0質量%以下、90.0質量%以下または85.0質量%以下であることができる。フォトクロミック層形成用重合性組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0047】
(フォトクロミック化合物)
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、重合性化合物の1種以上とともにフォトクロミック化合物を含む。フォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。フォトクロミック層形成用重合性組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~15.0質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0048】
(他の成分)
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、重合性化合物およびフォトクロミック化合物に加えて、重合性組成物に通常含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。フォトクロミック層形成用重合性組成物に含まれ得る添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤については、先の記載を参照できる。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0049】
フォトクロミック層形成用重合性組成物には、更に、フォトクロミック化合物を含む組成物に通常添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0050】
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0051】
フォトクロミック層は、プライマー層上にフォトクロミック層形成用重合性組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。塗布方法については、先の記載を参照できる。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記組成物に含まれる各種成分(先に記載した重合性化合物、重合開始剤等)の種類や上記組成物の組成に応じて決定すればよい。こうして形成されるフォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。基材とプライマー層が隣接しているこが好ましく、プライマー層とフォトクロミック層が隣接していることが好ましい。ここで「隣接」とは、他の層を介さずに直接接していることをいうものとする。
【0052】
上記のフォトクロミック層を有する光学物品は、上記した各種の層に加えて一層以上の機能性層を更に有してもよく、有さなくてもよい。機能性層としては、光学物品の耐久性向上のための保護層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の光学物品の機能性層として公知の層を挙げることができる。
【0053】
上記光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。また、上記光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることがでる。
【0054】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記光学物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて発色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【0055】
[光学物品の製造方法]
本発明の一態様は、
基材上に先に記載したプライマー層形成用重合性組成物を塗布すること、
塗布されたプライマー層形成用重合性組成物を光照射による硬化処理に付してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を塗布すること、
塗布されたフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を光照射による硬化処理に付してフォトクロミック層を形成すること、
を含む、光学物品の製造方法、
に関する。
【0056】
上記製造方法によれば、基材とフォトクロミック層との密着性に優れる光学物品を製造することができる。上記製造方法の詳細については、先の記載を参照できる。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0058】
[眼鏡レンズA]
<眼鏡レンズの作製>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS;中心肉厚2.5mm、半径75mm、S-4.00)を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。詳しくは、成分Bである下記構造:
【化3】
を有するヒドロキシ基含有2官能アクリレート(60質量部)を成分Aであるポリイソシアネートとして東ソー社製コロネート2715(40質量部)と混合した。こうして得られた混合物に、混合物の全量100質量%に対して0.2質量%の量で光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。
こうして得られたプライマー層形成用重合性組成物を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、プラスチックレンズ基材上に塗布されたプライマー層形成用組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてプライマー層を形成した。形成されたプライマー層の厚さは8μmであった。
上記プライマー層の上に、以下のように調製したフォトクロミック層形成用コーティング組成物をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載の方法により行った。その後、プラスチックレンズ基材上に塗布された上記組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは25μmであった。
こうして、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズAを作製した。
【0059】
<フォトクロミック層形成用重合性組成物の調製>
プラスチック製容器内で、成分Eであるポリエチレングリコールジメタクリレート(上式2中、n=14、Rはエチレン基、分子量736)68質量部、成分Bとして下記構造:
【化4】
を有するヒドロキシ基含有2官能メタクリレート15質量部、成分Cであるトリメチロールプロパントリメタクリレート(分子量296)12質量部および成分Dである1,9-ノナンジオールジアクリレート5質量部を混合した。
こうして得られた重合性化合物の混合物に、フォトクロミック化合物(米国特許第5645767号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)、光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))、酸化防止剤(ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)])、光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、フォトクロミック層形成用重合性組成物を調製した。組成物の全量を100質量%とした上記成分の含有率は、上記重合性化合物の混合物は94.90質量%、フォトクロミック化合物は3.00質量%、光ラジカル重合開始剤は0.30質量%、酸化防止剤は0.90質量%、光安定化剤は0.90質量%である。ここで調製されたフォトクロミック層形成用重合性組成物において、重合性化合物の全量を100質量%として、成分Eの含有率は68.0質量%、成分Bの含有率は15.0質量%、成分Cの含有率は12.0質量%、成分Dの含有率は5.0質量%である。
【0060】
[眼鏡レンズB]
プライマー層を、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン;固形分濃度38質量%)を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、15分間自然乾燥させることによって形成した点以外、眼鏡レンズAの作製と同様として、眼鏡レンズBを得た。
【0061】
[密着性の評価(高圧水剥離評価)]
眼鏡レンズAおよび眼鏡レンズBについて、それぞれ以下の方法によって密着性の評価を行った。
図1(a),(b)は、眼鏡レンズ10とレンズ表面に与えるせん弾力SFを説明する図である。
図1(a)に示すように、眼鏡レンズ10は、レンズ基材12の凸面上にプライマー層14およびフォトクロミック層16を有する。
図1(b)に示すように、高圧水(所定の吐出圧力の水)Wを噴出させ、高圧水Wを眼鏡レンズ10の外周部の端部に近いレンズ表面に略平行な方向に吹き付けることで、フォトクロミック層16およびプライマー層14にせん弾力SFを与えることができる。このように、せん断力SFをフォトクロミック層16およびプライマー層14が形成されている眼鏡レンズ10に与えて剥離の有無を目視で確認することにより、フォトクロミック層と基材との密着性を評価することができる。本評価では、温度50~70℃で吐出圧力0.6MPa~1.0MPaの高圧水Wを、眼鏡レンズ10の外周部の端部から外側に10~15mm離間した位置から、端部の側に向けて5~15秒吹き付けることによってせん弾力SFを与えた。
上記の方法による密着性評価において、眼鏡レンズAは「剥離なし」、眼鏡レンズBは「剥離あり」と評価された。
【0062】
眼鏡レンズAについて、100℃温水に30分間浸漬した後に、以下に記載の方法と同様にクロスカット法によって密着性評価を行ったところ、「残存マス目数/総マス目数」=「100/100」であった。
【0063】
[密着性の評価(クロスカット法)]
プライマー層形成用重合性組成物の成分Aの含有率および成分Bの含有率を表1に示すように変更した点以外、眼鏡レンズAの作製方法に準じて、各種眼鏡レンズを作製した。
作製した眼鏡レンズについて、JIS K5600-5-6:1999にしたがい、クロスカット法によって密着性を評価した。評価結果を表1に示す。表1に示すように、いずれの場合にも残存マス目数は90マス目以上であって密着性は良好であり、成分Aと成分Bとの合計に対する成分Bの含有率が60質量%以上の場合に密着性はより一層良好であった。
【0064】
【表1】
【0065】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0066】
一態様によれば、基材と、プライマー層形成用重合性組成物を硬化させたプライマー層と、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層と、をこの順に有し、上記プライマー層形成用重合性組成物は上記成分Aと成分Bとを含む光学物品が提供される。
【0067】
上記光学物品は、基材とフォトクロミック層との密着性に優れる光学物品であることができる。
【0068】
一態様によれば、基材上にプライマー層形成用重合性組成物を塗布すること、塗布されたプライマー層形成用重合性組成物を光照射による硬化処理に付してプライマー層を形成すること、形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を塗布すること、塗布されたフォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を光照射による硬化処理に付してフォトクロミック層を形成すること、を含み、上記プライマー層形成用重合性組成物は、上記成分Aと上記成分Bとを含む光学物品の製造方法が提供される。
【0069】
上記製造方法によれば、基材とフォトクロミック層との密着性に優れる光学物品を製造することができる。
【0070】
一形態では、上記プライマー層形成用重合性組成物の成分Bの含有率は、成分Aと成分Bとの合計に対して30.0質量%以上80.0質量%以下であることができる。
【0071】
一形態では、成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、2以上であることができる。
【0072】
一形態では、成分Bは、2官能以上の(メタ)アクリレートであることができる。
【0073】
一形態では、上記光学物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0074】
一形態では、上記光学物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0075】
一形態では、上記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0076】
一形態では、上記光学物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0077】
本発明の一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0078】
本明細書に記載の各種態様および形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、眼鏡、ゴーグル、サンバイザー、ヘルメット等の技術分野において有用である。
図1