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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】人形又は動物形象玩具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63H 3/44 20060101AFI20231101BHJP
   A63H 9/00 20060101ALI20231101BHJP
   D01F 8/12 20060101ALI20231101BHJP
   D01F 8/06 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
A63H3/44
A63H9/00 Q
D01F8/12 Z
D01F8/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022027820
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2017138711の分割
【原出願日】2017-07-18
(65)【公開番号】P2022079460
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】石村 直哉
【審査官】西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-150640(JP,A)
【文献】特開2012-245084(JP,A)
【文献】特開2009-254791(JP,A)
【文献】特開2008-2040(JP,A)
【文献】特開2006-233381(JP,A)
【文献】特開2002-129432(JP,A)
【文献】特開平6-287801(JP,A)
【文献】特公昭49-6128(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00-37/00
D01F 8/00- 8/18
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人形又は動物形象玩具に複合繊維からなる毛髪を設けてなり、前記複合繊維は、第一の樹脂としてポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレートと、第二の樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンエチレンランダムコポリマーから選ばれるポリオレフィン樹脂とからなり、前記第二の樹脂が芯部を形成し、前記芯部の周囲を前記第一の樹脂が鞘状に取り巻き接合され、前記第二の樹脂の中心位置は複合繊維の中心位置からずれた捲縮性を有する芯鞘型の複合繊維である人形又は動物形象玩具。
【請求項2】
前記第一の樹脂又は第二の樹脂が、可逆熱変色性材料又は光変色性材料を含有してなる請求項1記載の人形又は動物形象玩具。
【請求項3】
人形又は動物形象玩具に、第一の樹脂としてポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレートと、第二の樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンエチレンランダムコポリマーから選ばれるポリオレフィン樹脂とからなり、前記第二の樹脂が芯部を形成し、前記芯部の周囲を前記第一の樹脂が鞘状に取り巻き接合され、前記第二の樹脂の中心位置は複合繊維の中心位置からずれた捲縮性を有する芯鞘型の複合繊維を巻き付けたパッケージから導出した複合繊維を植毛する人形又は動物形象玩具の製造方法。
【請求項4】
複合繊維を植毛した後、加温して捲縮性を向上させる請求項3記載の人形又は動物形象玩具の製造方法。
【請求項5】
複合繊維の紡糸時における延伸後のヒートセット温度よりも高い温度で加温する請求項4記載の人形又は動物形象玩具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人形又は動物形象玩具及びその製造方法に関する。詳細には、カールした毛髪を備えた人形又は動物形象玩具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カールした毛髪を有する人形玩具は、人形用毛髪をヒーターで加熱して調整された2つの噛み合うギヤに毛髪を通し、ギヤピッチの長短によって捲縮させた毛髪、予め熱せられた毛髪を一室に折り重ねて詰め込み、湿熱にて捲縮させた毛髪、毛髪をスリットに通し、圧搾エアーの旋回によって捲縮させた毛髪を用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、前記捲縮を有する毛髪は、捲縮性を維持に難く、人形の頭部に植毛した人形玩具はカールした状態を永続して維持できるものではなく、商品性を損なうものであった。
【文献】特開平6-287801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前述した捲縮を有する毛髪を備えた玩具の不具合を解消するものであって、カールした毛髪の状態を永続して維持できる人形又は動物形象玩具及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、人形又は動物形象玩具に複合繊維からなる毛髪を設けてなり、前記複合繊維は、第一の樹脂としてポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレートと、第二の樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンエチレンランダムコポリマーから選ばれるポリオレフィン樹脂とからなり、前記第二の樹脂が芯部を形成し、前記芯部の周囲を前記第一の樹脂が鞘状に取り巻き接合され、前記第二の樹脂の中心位置は複合繊維の中心位置からずれた捲縮性を有する芯鞘型の複合繊維である人形又は動物形象玩具を要件とする。
更には、人形又は動物形象玩具に、第一の樹脂としてポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレートと、第二の樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンエチレンランダムコポリマーから選ばれるポリオレフィン樹脂とからなり、前記第二の樹脂が芯部を形成し、前記芯部の周囲を前記第一の樹脂が鞘状に取り巻き接合され、前記第二の樹脂の中心位置は複合繊維の中心位置からずれた捲縮性を有する芯鞘型の複合繊維を巻き付けたパッケージから導出した複合繊維を植毛する人形又は動物形象玩具の製造方法を要件とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、カールした毛髪の状態を永続して維持でき、商品性を満足させる人形又は動物形象玩具、及び、カールした毛髪の状態を永続して維持でき、商品性を満足させる人形又は動物形象玩具の効率的な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の人形又は動物形象玩具に植毛される毛髪は、第一の樹脂とは化学組成が異なる第二の樹脂とからなり、前記第二の樹脂の中心位置を複合繊維の中心位置からずらすことにより捲縮性を付与した複合繊維である。
前記複合繊維の断面形状としては、円形、楕円形、正多角形等が挙げられる。
なお、前記複合繊維と第二の樹脂の中心位置が特定できない形状の場合は、第二の樹脂の重心位置を複合繊維の重心位置からずらすことにより捲縮性を付与した複合繊維を得ることができる。
【0007】
前記複合繊維を構成する第一の樹脂と第二の樹脂は化学組成が異なるものであれば特に限定されるものではなく、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、ポロイソブチレン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ポリアミド、共重合ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニルエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、フッ素樹脂、アイオノマー樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン-プロピレン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン-メタクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、塩化ビニル-プロピレン共重合樹脂、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂-塩化ビニルグラフト共重合樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系可塑性エラストマー、ウレタン系可塑性エラストマー、ポリステル系可塑性エラストマー、1,2-ポリブタジエン系可塑性エラストマー、塩化ビニル系可塑性エラストマー、石油系炭化水素樹脂、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリブテン、クマロン-インデン共重合物、フェノキシプラスチック等を例示できる。
前記樹脂のうち、第一の樹脂としては繊維形成性に優れたポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレートが好適であり、第二の樹脂としてはポリオレフィン樹脂が好適に用いられる。
なお、前記ポリアミド樹脂としては、6ナイロン、6,6ナイロン、6,9ナイロン、610ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6-11共重合ナイロン、6-12共重合ナイロン、6,9-12共重合ナイロン、ポリアミドエラストマーが好適に用いられ、前記ポリオレフィン樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンエチレンランダムコポリマーが好適に用いられる。
【0008】
前記複合繊維は、第二の樹脂が芯部を形成し、その周囲を第一の樹脂が鞘状に取り巻き接合された芯鞘型、或いは第一の樹脂と第二の樹脂が並列に接合された接合型等の複合繊維形態であってもよいが、第二の樹脂の中心位置を複合繊維の中心位置からずらすことにより、繊維は捲縮性を有してなり、加温により更に捲縮性は向上する。
なお、前記複合繊維を筒体に巻き付けることによりパッケージが得られ、前記パッケージから導出した複合繊維を植毛して人形又は動物形象玩具が得られる。
前記人形又は動物形象玩具は、植毛した後に加温して捲縮性を向上させることができ、複合繊維の紡糸時における延伸後のヒートセット温度よりも高い温度で加温することにより捲縮性を効果的に発現できる。
【0009】
前記複合繊維の外径は、30~200μm、より好ましくは、40~120μmの範囲であり、30μm未満の径のものは、細すぎて毛髪として適しておらず、一方、200μmを越えると太くなり過ぎて、毛髪の性状を示し難くなる。
【0010】
前記第一の樹脂、第二の樹脂には、一般顔料、蛍光顔料、可逆熱変色性材料、光変色性材料(フォトクロミック材料)等を添加して種々の色を示す繊維を得ることもできる。
前記可逆熱変色性材料は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と呈色反応を可逆的に生起させる有機化合物媒体の三成分を含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が有効である。
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、樹脂中に0.5~40質量%、好ましくは1~30質量%含有させる。
0.5質量%未満の配合量では鮮明な熱変色効果を視覚させ難いし、40質量%を越えると、過剰であり、消色状態にあって残色が生じることもある。
前記光変色性材料は、スピロオキサジン系化合物、スピロピラン系化合物、ジアリールエテン系化合物等のフォトクロミック化合物が有効である。
【0011】
更に、汎用の各種可塑剤、例えば、フタル酸系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、エポキシ系、フェノール系、トリメリット酸系等を配合して柔軟性を付与したり、加工性、物性等を改善するために、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、タルク等を添加することもできる。
【実施例
【0012】
本発明の人形又は動物形象玩具及びその製造方法を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の配合は質量部を示す。
実施例1
人形又は動物形象玩具用毛髪の作製
第一の樹脂としてMFR(メルトフローレート)が80g/10minの6-12共重合ナイロン(融点145℃)を鞘部の樹脂とし、第二の樹脂としてMFRが30g/10minのランダム共重合ポリプロピレン(荷重たわみ温度80℃)99部に茶色の着色剤1部を添加したものを芯部の樹脂として用い、汎用の複合繊維溶融紡糸装置を用いて重量比が50/50の芯鞘型複合繊維になるように、18孔の吐出孔を有するダイスから200℃で紡出し、延伸処理することにより、外径約80μmのフィラメントが18本からなる茶色のマルチフィラメントを得た。
この際、芯部の中心位置を繊維全体の中心位置から半径の20%ずれるよう紡糸装置のノズルをセットした。
前記マルチフィラメントの紡糸工程においては、芯部が繊維の中心位置にある通常の芯鞘型複合繊維と同様に製造することができ、筒体に巻いた糸管(パッケージ)として人形又は動物形象玩具用毛髪が得られた。
【0013】
人形玩具の製造
前記パッケージから導出したマルチフィラメントをプラスチック材からなる人形の頭部に植毛し、胴体部と組み合わせて人形玩具を得た。
前記人形玩具に設けられた毛髪は、捲縮性によりカールした状態となり、カールした状態を永続して維持できる商品性を満足させる人形玩具を得ることができた。
【0014】
実施例2
人形又は動物形象玩具用毛髪の作製
第一の樹脂としてMFRが20g/10minの12ナイロン(融点178℃)を鞘部の樹脂とし、第二の樹脂としてMFRが20g/10minのランダム共重合ポリプロピレン(荷重たわみ温度100℃)99部に茶色の着色剤1部を添加したものを芯部の樹脂として用い、汎用の複合繊維溶融紡糸装置を用いて重量比が60/40の芯鞘型の複合繊維になるように、24孔の吐出孔を有するダイスから210℃で紡出し、延伸処理することにより、外径約60μmのフィラメントが24本からなる茶色のマルチフィラメントを得た。
この際、芯部の中心位置を繊維全体の中心位置から半径の15%ずれるよう紡糸装置のノズルをセットした。
前記マルチフィラメントの紡糸工程においては、芯部が繊維の中心位置にある通常の芯鞘型複合繊維と同様に製造することができ、筒体に巻いた糸管(パッケージ)として人形又は動物形象玩具用毛髪が得られた。
【0015】
人形玩具の製造
前記パッケージから導出したマルチフィラメントをプラスチック材からなる人形の頭部に植毛し、胴体部と組み合わせて人形玩具を得た。
前記人形玩具に設けられた毛髪は、捲縮性によりカールした状態となり、カールした状態を永続して維持できる商品性を満足させる人形玩具を得ることができた。
更に人形玩具を加温することによって捲縮性が向上し、きついカールを付与することができた。
【0016】
実施例3
可逆性熱変色性マイクロカプセル顔料の調製
1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン2部、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-n-オクタン6部、カプリン酸ステアリル50部からなる可逆性熱変色性組成物をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して平均粒子径10μmの可逆性熱変色性マイクロカプセル顔料を得た。
前記マイクロカプセル顔料は34℃以上で無色、約28℃以下で桃色に可逆的に色変化する。
【0017】
前記マイクロカプセル顔料3部と、MFRが30g/10minの線状低密度ポリエチレン(融点120℃)97部を混合し、180℃でエクストルーダーにて溶融混合し、可逆熱変色性熱可塑性樹脂を得た。
【0018】
人形又は動物形象玩具用毛髪の製造
第一の樹脂としてMFRが80g/10minの6-12共重合ナイロン(融点145℃)を鞘部の樹脂とし、第二の樹脂として前記可逆熱変色性熱可塑性樹脂を芯部の樹脂として用い、汎用の複合繊維溶融紡糸装置を用いて重量比が50/50の芯鞘型の複合繊維になるように、18孔の吐出孔を有するダイスから200℃で紡出し、延伸処理することにより、外径約80μmのフィラメントが18本からなる桃色のマルチフィラメントを得た。
この際、芯部の中心位置を繊維全体の中心位置から半径の20%ずれるよう紡糸装置のノズルをセットした。
前記マルチフィラメントの紡糸工程においては、芯部が繊維の中心位置にある通常の芯鞘型複合繊維と同様に製造することができ、筒体に巻いた糸管(パッケージ)として人形又は動物形象玩具用毛髪が得られた。
【0019】
動物形象玩具の作製
前記パッケージから導出したマルチフィラメントをプラスチック材からなる犬の玩具に植毛し、体毛のある動物形象玩具を得た。
前記動物形象玩具は、体毛が捲縮性によりカールした状態となり、カールした状態を永続して維持できる商品性を満足させる動物形象玩具を得ることができた。
また、前記動物形象玩具は、体毛を34℃以上で無色、28℃以下で桃色に可逆的に色変化させることができた。