(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールからなる香味付与剤
(51)【国際特許分類】
C11B 9/00 20060101AFI20231101BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20231101BHJP
C07C 47/263 20060101ALN20231101BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20231101BHJP
A23L 2/56 20060101ALN20231101BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
C11B9/00 J
A23L27/20 D
C07C47/263
A23L2/00 B
A23L2/56
A23L2/52 101
(21)【出願番号】P 2022502009
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006288
(87)【国際公開番号】W WO2021167054
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2020028028
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 輝久
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 憲佐
(72)【発明者】
【氏名】勝見 優子
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 寛子
(72)【発明者】
【氏名】桂田 拓人
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-091815(JP,A)
【文献】特開2017-046598(JP,A)
【文献】特開2018-007592(JP,A)
【文献】宮澤 利男 ほか,閾下濃度成分の香気寄与 Synergy in odor detection by subthreshold odorants,香料,(2009), Vol.243,pp.85-96
【文献】TAKAYANAGI, H. et al.,Highly stereoselective synthesis of trisubstituted γ,δ-unsaturated acid and aldehyde via ketal Claisen,Chemistry Letters,(1995), vol.7,pp.565-566,DOI:10.1246/cl.1995.565 inoue
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 47/263
C11B 9/00 - 9/02
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 -90/00
A23L 27/00 -27/60
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールからなる、香味付与剤。
【化1】
[式中、波線はE体とZ体との混合物を表し、前記混合物中のZ体の含有率xが
0.01%≦x≦50%であることを表す。]
【請求項2】
前記香味がスズランまたはシトラスの香味である、請求項1に記載の香味付与剤。
【請求項3】
下記式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールからなる、香味付与剤であって、
前記香味がスズランまたはシトラスの香味である、香味付与剤。
【化2】
[式中、波線はE体とZ体との混合物を表し、前記混合物中のZ体の含有率xが0%≦x≦50%であることを表す。]
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の香味付与剤を含有する、香料組成物。
【請求項5】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の香味付与剤、または請求項
4に記載の香料組成物を配合してなる、消費財。
【請求項6】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香味付与方法。
【請求項7】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の香味付与剤、または請求項
4に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールからなる香味付与剤に関し、さらには、当該香味付与剤を含有する香料組成物、当該香味付与剤または香料組成物を配合した消費財に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、飲食品や香粧品における消費者の要求は高度化および多様化しているが、特に、香りに注目が集まっており、香りの特性が製品の訴求力に重要な要素となっている。例えば、配合によって、香味を改善すること、例えば、香りや味に持続性、天然感、ボリューム感などを付与または増強できる香料化合物への要求が高まっており、消費者製品によりよい香味を付与して既存製品の香味との差別化を可能とする、新たな香料化合物の開発が期待され続けている。
【0003】
10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールについて、特開昭52-91815号公報によると、当該文献に記載の方法で合成した10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールはそれ自体円熟した甘いシクラメン様を想起させる化合物と表現され、当該化合物の用途としては、シクラメン、ジャスミン、イランイラン、ガーデニア(クチナシ)など、甘さや濃厚さを特徴とする花々の香気への使用という特定の用途が提案されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、各種物品に多様な香味を付与可能な新たな香味付与剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、驚くべきことに、これまで甘さを大きな特徴とする花様の香気への用途しか検討されてこなかった10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールについて、特定の異性体比とすることで多様な香味付与効果、残香性の向上などの優れた効果があることを発見した。10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールに関し、特開昭52-91815号公報に記載の前記用途以外の用途、幾何異性体やその混合物の有用性などについては、当該特開昭52-91815号公報の公開年である昭和52年以来、30余年にわたり研究報告が一切なく、見過ごされてきており、本発明者らによる発見は全く意外なものであった。
【0006】
かくして、本発明は以下の形態を提供する。
[1] 下記式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールからなる、香味付与剤。
【0007】
【0008】
[式中、波線はE体とZ体との混合物を表し、前記混合物中のZ体の含有率xが0%≦x≦50%であることを表す。]
[2] 前記香味がスズランまたはシトラスの香味である、[1]に記載の香味付与剤。
[3] [1]または[2]に記載の香味付与剤を含有する、香料組成物。
[4] [1]または[2]に記載の香味付与剤、または[3]に記載の香料組成物を配合してなる、消費財。
[5] [1]または[2]に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香味付与方法。
[6] [1]または[2]に記載の香味付与剤、または[3]に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、範囲を示す「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表すものとし、比は特に断りのない限り質量比とする。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行ったが、この条件に限られるものではない。
【0010】
(本発明の香味付与剤)
本発明の一形態に係る香味付与剤は、式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールからなる。本発明によって、各種香味を付与できる優れた新たな香味付与剤を提供することができる。また、本発明によって、天然感、拡散性および残香性に優れた香味付与剤および香料組成物を提供することができる。かような効果が得られるメカニズムは不明であるが、Z体と比較してE体の方が香気が強く、また、拡散性や残香性が高いためと推測される。ただし、上記メカニズムは推定であり、本発明の範囲をなんら限定するものではない。また、本発明の他の形態は、式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールを香味付与剤とした応用を提供する。
【0011】
なお、本明細書では、式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールを、式(1)で表される化合物または式(1)の化合物とも称することがある。
【0012】
【0013】
[式中、波線はE体とZ体との混合物を表し、前記混合物中のZ体の含有率xが0%≦x≦50%であることを表す。]
本明細書において、前記混合物中のZ体の含有率xが0%とは、式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールがE体(すなわち、(4E)-10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナール)の純物質であることを意味する。特にスズラン様香気に優れ、香りの天然感、拡散性および残香感に優れるという観点からは、式(1)で表される化合物において、Z体の含有率xは、0%≦x≦40%であると好ましく、0%≦x≦35%であるとより好ましく、0%≦x≦25%であるとさらにより好ましく、0%≦x≦22%であるとさらにより好ましく、0%≦x≦20%であるとさらにより好ましく、0%≦x≦8%であるとさらにより好ましく、0%≦x≦5%であると特に好ましい。また、最も好ましくは、式(1)で表される化合物は、実質的にE体のみ(すなわち、Z体の含有率xが0%)である。
【0014】
前記混合物中にZ体が存在する場合、Z体の含有率xの範囲は、例えば下限を0.01%、0.1%、1%、3%、5%、7%、10%、15%、20%、30%、40%のいずれかとし、上限を50%、40%、35%、30%、25%、22%、20%、15%、8%、7%、5%、3%、1%のいずれかとして、これらの下限および上限の任意の組み合わせによる範囲としてよい。具体的には、1%≦x≦40%、3%≦x≦30%、5%≦x≦25%、7%≦x≦22%、または7%≦x≦20%であってよいがこれらに限定されない。前記混合物中のZ体の含有率xが50%以下であると香りの拡散性や残香性が高く、前記Z体の含有率xが低いほど香りの拡散性や残香性がより高いものとなる。一方、Z体の含有率xが50%を超える(すなわち、x>50%であると)と、香りの拡散性や残香性が低下する。Z体の含有率の上限は、所望の香味付与効果に応じて検討してよい。上述のように、前記混合物中のZ体の含有率xを0%(すなわちZ体が実質的に含まれずE体のみ)としてもよい。
【0015】
なお、Z体の含有率xは、ガスクロマトグラフィ(GC)によって決定することができ、例えば、実施例に記載の装置、条件により測定することができる。
【0016】
本発明者らは、本発明の香気付与剤としての、特定の異性体比を有する式(1)で表される10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールについて、後述の実施例に示すように、非常に広範にわたる香味改善効果を奏するという驚くべき有用性を見出し、本発明に至った。
【0017】
本発明の香味付与剤は、例えば香料化合物として、各種物品に配合することができる。本発明の香味付与剤の配合対象の物品としては特に限定されないが、香粧品、飲食品などの消費財を例示できる。さらに、本発明の香味付与剤は、各種香料組成物に配合して、当該組成物に香気を付与することもできる。
【0018】
本明細書において、香味とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚と味覚などを含む感覚を意味する。本明細書において、用語「香味を付与」とは、前記香味を新たに加える、または増強することを含み、例えば、付与の結果香味が改善されるものであってよい。さらには、香味の付与の結果、嗅覚および味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。
【0019】
本発明の香味付与剤としての式(1)の化合物は、当業者が利用可能な任意の方法で入手してよい。例えば、以下に記載の方法によって合成することができるが、これに限定されない。
【0020】
(式(1)の化合物の製造方法および合成例)
本発明の他の形態として、下記式(2):
【0021】
【0022】
[式中、波線はE体とZ体との混合物を表し、前記混合物中のZ体の含有率x’が0%≦x’≦55%であることを表す。]で表される化合物を準備し、上記式(2)で表される化合物の反応を経て下記式(1):
【0023】
【0024】
[式中、波線はE体とZ体との混合物を表し、前記混合物中のZ体の含有率xが0%≦x≦50%であることを表す。]
で表される化合物を得ることを含む、10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナールの製造方法が提供される。
【0025】
このように、出発物質のE体とZ体との比(Z体の含有率x’)を適当な範囲とすることにより、最終生成物である式(1)で表される化合物のE体とZ体との比(Z体の含有率x)を適当な範囲に制御することができる。
【0026】
前記出発物質の混合物中のZ体の含有率x’が0%とは、式(2)で表される2,3-ジヒドロファルネソールがE体(すなわち、(6E)-3,7,11-トリメチル-6,10-ドデカジエン-1-オール)の純物質であることを意味する。スズラン様香気に優れ、香りの天然感、拡散性および残香感に優れる香味付与剤を得るという観点から、出発物質のZ体の含有率x’は、0%≦x’≦45%であると好ましく、0%≦x’≦40%であるとより好ましく、0%≦x’≦30%であるとさらにより好ましく、0%≦x’≦25%であるとさらにより好ましく、0%≦x’≦22%であるとさらにより好ましく、0%≦x’≦8%であるとさらにより好ましく、0%≦x’≦5%であると特に好ましい。
【0027】
前記出発物質の混合物中にZ体が存在する場合、Z体の含有率x’の範囲は、例えば下限を0.01%、0.1%、1%、3%、5%、7%、10%、15%、20%、30%、40%のいずれかとし、上限を55%、50%、45%、40%、35%、30%、27%、25%、22%、20%、15%、8%、7%、5%、3%、1%のいずれかとして、これらの下限および上限の任意の組み合わせによる範囲としてよい。具体的には、1%≦x’≦45%、3%≦x’≦35%、5%≦x’≦30%、7%≦x’≦27%、または7%≦x’≦25%であってよいがこれらに限定されない。出発物質のZ体の含有率x’の上限は、所望の香味付与効果に応じて検討してよい。上述のように、前記出発物質のZ体の含有率x’を0%(すなわちZ体が実質的に含まれずE体のみ)としてもよい。
【0028】
なお、出発物質のZ体の含有率x’は、ガスクロマトグラフィ(GC)によって決定することができ、例えば、実施例に記載の装置、条件により測定することができる。
【0029】
出発物質のZ体の含有率x’は、当業者に公知の方法によって制御することができるが、例えば、特開平8-245979号公報(米国特許第5753610号明細書に相当)に記載の方法を参考にして所望のZ体の含有率x’を有する出発物質を得る(準備する)ことができる。
【0030】
本発明に係る香味付与剤の製造方法は、さらに、必要に応じて以下の工程を含んでいてもよい;
(a)上記式(2)で表される化合物の水酸基を保護する保護基を導入すること;
(b)上記(a)工程にて得られた化合物をハロゲンヒドリン化すること;
(c)上記(b)工程にて得られた化合物をエポキシ化すること;
(d)任意に、上記(c)工程にて得られた化合物の水酸基を保護する保護基を必要に応じて導入すること;
(e)上記(c)工程または(d)工程にて得られた化合物のエポキシ化された炭素-炭素結合部分を酸化開裂すること;
(f)上記(e)工程にて得られた化合物の保護基を外すこと。
【0031】
上記工程の概略を以下に示す。
【0032】
【0033】
[上記式(3)、(4)、(6)および(7)中、Pgは保護基を表し、上記式(4)中、Xはハロゲン原子を表す。]
上記(a)工程および(d)工程において用いられる保護基(すなわち、上記式(3)、(4)、(6)および(7)中のPg)としては特に制限されず、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基などが挙げられる。上記(b)工程では、適当な試薬を用いてブロモヒドリン化することが好ましい。すなわち、上記式(4)において、Xは、臭素原子であると好ましい。なお、上記(d)工程は任意に設けられる工程であり、(c)工程において得られたエポキシ化された化合物が脱保護されていない状態であれば(すなわち、式(4)で表される化合物から、式(6)で表される化合物を直接得られるのであれば)、(d)工程を省略してもよい。
【0034】
上記各反応においては、当業者であれば目的物が得られるように試薬、溶媒、反応条件を適宜選択できる。
【0035】
上記製造方法の具体例としては、以下の通りである。はじめに、2,3-ジヒドロファルネソールのE体またはE体およびZ体の異性体混合物を用意(準備)し、当該化合物の水酸基(ヒドロキシ基、ヒドロキシル基、またはOH基とも称される)をアセチル化して保護した後、N-ブロモスクシンイミド(NBS)によってブロモヒドリンを生成させ、次いでアルカリ処理によりエポキシドとする。この際、アセチル保護基が外れ水酸基になると考えられるため、改めてアセチル基で保護した後、過ヨウ素酸などの酸化剤を用いてエポキシドから炭素-炭素結合を酸化開裂してアルデヒドを生成させ、アルカリ処理によってアセチル基保護を外して水酸基に戻す。以上の処理によって、式(1)で表される化合物を得ることができる。式(1)で表される化合物において、E体およびZ体の混合物中のZ体の含有率xが所望の数値範囲内になるように、適宜出発物質(2,3-ジヒドロファルネソール)のE体とZ体との比(Z体の含有率x’)を検討することができる。
【0036】
(香料組成物・香料組成物の香味付与方法)
本発明のさらに他の形態に係る香料組成物は、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤を含む。さらに、本発明のさらに他の形態は、式(1)で表される化合物を香料組成物とした応用もまた提供する。かかる香料組成物は、香味の付与を目的として、各種物品に配合することができるものである。具体例としては、香粧品用香料組成物(フレグランス組成物ともいう)、飲食品用香料組成物(フレーバー組成物ともいう)が挙げられる。配合対象となる物品の例としては、上述のように、香粧品、飲食品、その他雑貨などの各種消費財が挙げられる。本発明の香料組成物の形態は特に限定されず、水溶性香料組成物、油溶性香料組成物、乳化香料組成物、粉末香料組成物が例示できる。
【0037】
また、本発明のさらに他の形態は、上記香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香味付与方法を提供する。上記香味付与剤の配合方法は特に制限されず、当業者に公知の手法を用いて配合されうる。
【0038】
本発明の香料組成物中の式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度は、香料組成物の配合対象や配合目的に応じて任意に決定できる。
【0039】
当該濃度の例として、香粧品用香料組成物であれば、香料組成物の全体質量に対して、例えば0.001%~50%、好ましくは0.01%~20%、より好ましくは0.1%~10%、特に好ましくは0.1%~5%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001%、0.01%、0.1%、1%、5%、10%、20%、30%、40%のいずれかとし、上限値を50%、40%、30%、20%、10%、5%、1%、0.1%、0.01%のいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、香料組成物の処方や香調にも依存するが、香粧品用香料組成物中の式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度が0.001%以上であると高い配合効果が感じられ、50%以下であると式(1)で表される化合物由来の香りが強くなりすぎることがなく、配合対象の香粧品用香料組成物の香気特性に好ましくない変質を与えることを抑制することができる。しかしながら、配合対象の香粧品用香料組成物の香調などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0040】
飲食品用香料組成物であれば、香料組成物の全体質量に対して、例えば10ppb~10%、好ましくは100ppb~1%、より好ましくは1ppm~0.1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%のいずれかとし、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppbのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、香料組成物の処方や香調にも依存するが、飲食品用香料組成物中の式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度が10ppb以上であると高い配合効果が感じられ、10%以下であると式(1)で表される化合物由来の香りが強くなりすぎることがなく、配合対象の飲食品用香料組成物の香味特性に好ましくない変質を与えることを抑制することができる。しかしながら、配合対象の飲食品用香料組成物の香調などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0041】
本発明の香料組成物は、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤を含むが、「含む」とは、所望の香気を発揮可能な量で含む態様を包含する。したがって、本発明の香料組成物は、式(1)で表される化合物のみを含有してもよいが、所望の香気を損なわない限りにおいて、他の香料成分や、溶剤等の他の添加剤などを含んでいてもよい。このような他の香料成分および他の添加剤は、当該香料組成物(および、当該組成物に含まれる式(1)で表される化合物)が、被添加物中において、適切な濃度で、かつ均一に分散される目的で添加されうる。
【0042】
そのような化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0043】
合成香料化合物の具体例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0044】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノールなどの飽和アルカノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、α-テルピネオール、テルピネン-4-オール、ボルネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0045】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ヒドロキシシトロネラールなどの飽和アルデヒド、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0046】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(メチルヘプテノン)などの飽和および不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0047】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0048】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸オクチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプリル酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルピニル、酢酸ネリルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0049】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトンなどの飽和ラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの不飽和ラクトンが挙げられる。
【0050】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和・不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0051】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0052】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、3-メルカプトヘキサノール、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、酢酸3-メルカプトヘキシル、p-メンタ-8-チオール-3-オンおよびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0053】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0054】
天然香料としてはジャスミンアブソリュート、ヒヤシンスアブソリュート、ローズアブソリュート、チュベローズアブソリュート、バニラアブソリュート、ガルバナムレジノイドなどが挙げられる。
【0055】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0056】
さらに、上記以外にも、後述の(用途例)の項に記載された他の添加剤もまた、適宜用いることができる。なお、上記他の香料成分や他の添加剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0057】
本発明の香料組成物は、式(1)で表される化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
【0058】
本発明の香料組成物の形態としては、式(1)で表される化合物やその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0059】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0060】
また、乳化製剤とするためには、式(1)で表される化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。式(1)で表される化合物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸およびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、式(1)で表される化合物1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0061】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0062】
本発明の香料組成物はさらに、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0063】
(用途例)
式(1)で表される化合物からなる香味付与剤またはそれを含有する香料組成物は、各種消費財などの任意の物品に配合してよい。すなわち、本発明のさらに他の形態は、上記香味付与剤または上記香料組成物を配合してなる消費財を提供する。上記香味付与剤および上記香料組成物は、消費財としての香粧品、飲食品などに好ましく使用され、特に香粧品に好ましく使用できる。
【0064】
また、本発明のさらに他の形態は、上記香味付与剤、または上記香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法を提供する。上記香味付与剤および/または上記香料組成物の配合方法は特に制限されず、当業者に公知の手法を用いて配合されうる。
【0065】
消費財としての香粧品の例として、これらに限定されるものではないが、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディー用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤、殺菌剤、漂白剤、歯磨き粉、マウスウォッシュなどの洗浄用剤;ドライまたはウェットティッシュペーパー、トイレットペーパー、マスク、包帯、ばんそうこう、湿布などの保健衛生品または医薬部外品;室内や車内などの芳香消臭剤;などを挙げることができる。
【0066】
また、香粧品の形態(剤型)としては、特に制限されない。例えば、液状、乳液状、クリーム状、ペースト状、固形状、多層状等の種々の形態に適用可能である。これらの他にも、シート剤、スプレー剤、ムース剤としても適用できる。
【0067】
式(1)で表される化合物からなる香味付与剤またはそれを含有する香料組成物を含むこのような香粧品は、当業者に公知の手法を用いて製造されうる。
【0068】
本発明の一形態に係る香粧品は、所望の香気を損なわない限りにおいて、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤またはそれを含有する本発明の香料組成物が適切な濃度で、かつ均一に分散されるように、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0069】
他の添加剤としては、特に制限されず、公知のものが使用できるが、例えば、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシル、酢酸フェニルエチル、酪酸フェニルエチル、ギ酸フェニルエチル、フェニル酢酸フェニルエチル、イソ酪酸フェニルエチル、安息香酸ベンジル、プロピオン酸フェニルエチル、酢酸フェニルプロピル等のエステル類;フェニルアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ヘキシルシンナミックアルデヒド等のアルデヒド類;オリーブ油、牛脂、椰子油等のトリグリセライド類;ステアリン酸、オレイン酸、リチノレイン酸等の脂肪酸;リナロール、シトロネロール、バクダノール、ジハイドロミルセノール、ジハイドロリナロール、ゲラニオール、ネロール、サンダロール、サンタレックス、テルピネオール、テトラハイドロリナロール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、フェニルエチルジメチルカルビノール、ヒドロキシシトロネラール等のアルコール類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール類;インドール、5-メチル-3-ヘプタノンオキシム、リモネンチオール、1-p-メンテン-8-チオール、アントラニル酸ブチル、アントラニル酸シス-3-ヘキセニル、アントラニル酸フェニルエチル、アントラニル酸シンナミル、ジメチルスルフィド、8-メルカプトメントン等の含窒素および/または含硫化合物類;スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類;アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類;ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類;ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類;増粘・ゲル化剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;色剤;防腐剤;粉体等を挙げることができる。
【0070】
また、これら以外にも、上記(香料組成物・香料組成物の香味付与方法)の項に挙げた他の香料成分もまた、香粧品における他の添加剤として用いることができる。なお、上記他の添加剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0071】
香粧品の香調も特に限定されず、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤またはそれを含有する香料組成物によって香気を付与可能な任意の香調であってよいが、例えば、シトラス(柑橘)調、フローラル調、フゼア調、フルーティ調、グリーン調、ウッディ調、モス調、トロピカルフラワー調、スズラン(ミューゲ、lily of the valleyともいう)調、オリエンタル調、シプレ調などに好適に使用することができる。より具体的には、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ユズ、カボス、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、スズラン、ヒヤシンス、ライラック、プルメリア、パイナップル、マンゴー、ピーチなどが例示できるが、これらに限定されない。例えば、フローラル調、スズラン調、シトラス調、フゼア調、ウッディ調の香りを呈する香粧品に好ましく使用することができ、フローラル調、スズラン調、またはシトラス調の香りを呈する香粧品により好ましく使用することができ、スズラン調、またはシトラス調の香りを呈する香粧品に特に好ましく使用することができる。
【0072】
本発明において、香粧品中の式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度は、これら製品の香気や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0073】
例えば、香粧品の全体質量に対して、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度として例えば10ppb~10%、好ましくは100ppb(0.1ppm)~5%、より好ましくは3ppm~5%、特に好ましくは50ppm~0.5%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppb、100ppb、1ppm、3ppm、5ppm、10ppm、50ppm、100ppm、0.1%、1%、5%のいずれか、上限値を10%、5%、4%、2%、1%、0.5%、0.1%、100ppm、10ppm、5ppm、1ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、香粧品の全体質量に対して、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度として、例えば5ppm~4%、または5ppm~2%が挙げられ、香粧品の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、香粧品の種類や香気にも依存するが、香粧品中の式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度が10ppb以上、さらには0.1ppm以上であると、高い配合効果が感じられ、10%以下、さらには5%以下であると、配合対象の香粧品に当該香味付与剤由来の香気が過剰に付与されることを抑制できる。しかしながら、香粧品の香気などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0074】
上記のように香粧品に式(1)で表される化合物からなる香味付与剤またはそれを含有する香料組成物を配合することで、例えば、香粧品の香りの残香性、持続性および/または拡散性の向上、スズラン調および/またはフローラル調の付与、スズラン調および/またはシトラス調の付与、フレッシュなみずみずしさの付与、透明感の付与、ボリューム感の付与、香粧品材料そのものの異臭のマスキングなどの効果のうち少なくとも1つを含む賦香効果を得ることができる。
【0075】
消費財としての飲食品の例としては、これらに限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ガーリック、ワサビなどの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類風味;タマネギ、セロリ、ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;鶏肉、鴨肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの各種畜肉風味;マグロなどの赤身魚、サバ、タイ、サケ、アジなどの白身魚、アユ、マス、コイなどの淡水魚、サザエ、ハマグリ、アサリ、シジミなどの貝類、エビ、カニなどの各種甲殻類、ワカメ、昆布などの各種海藻類、などの各種魚介や海藻風味;米、大麦、小麦、麦芽などの麦類などの各種穀物風味;牛脂、鶏油、ラードなどの畜肉の油脂や各種魚類の油などの各種油脂風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。特に柑橘風味、紅茶、マスカット風味の飲食品に好適に使用できる。なお、飲食品の風味は、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられる。
【0076】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、本みりん、新みりん(煮切りみりん)、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;ビール酵母、パン酵母などの各種酵母、乳酸菌など各種微生物発酵品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、炭酸飲料(柑橘香味など各種香味のサイダーなど)、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0077】
本発明において、飲食品中の式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度は、飲食品の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0078】
当該濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度として例えば10ppt~10ppm、より好ましくは100ppt~10ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppmのいずれか、上限値を10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度として例えば100ppt~1ppmまたは1ppb~100ppbが挙げられ、飲食品の風味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や香味にも依存するが、飲食品中の式(1)で表される化合物からなる香味付与剤の濃度が10ppt以上、さらには100ppt以上であると、高い配合効果が感じられ、10ppm以下であると、式(1)で表される化合物からなる香味付与剤そのものの香気が突出して配合対象の飲食品の香味に好ましくない変質を与えることを抑制することができる。しかしながら、飲食品の香味などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0079】
上記のように飲食品に式(1)で表される化合物からなる香味付与剤またはそれを含有する香料組成物を配合することで、例えば、香味増強、果皮感などの苦み付与、果皮ワックスのような油脂感付与、ボリューム感付与、柑橘感付与などの少なくとも1つを含む賦香効果を得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]本発明の香味付与剤の製造
以下に記載の方法に従って、本発明の香味付与剤を得た。
【0082】
【0083】
以降、上記反応式を参照しつつ合成法の詳細を記載する。
【0084】
(1)化合物3の合成
出発物質としての化合物2の市販品(E:Z≒6:1、Z体含有率x’=約14%)10.00gをピリジン16.00g(202.3mmol)に溶かし、氷冷下、無水酢酸7.37g(72.2mmol)を加え、0℃で1時間撹拌後、室温(約25℃)で92時間撹拌した。反応終了後、反応液を氷水に空け、エーテルで抽出した。抽出した有機層を1mol/L塩酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで溶媒を溜去し、無色の油状物質13.27gを得た。これをシリカゲルカラム(48mm i.d.×33.5cm L,n-ヘキサン:酢酸エチル=20:1~15:1)で精製し、無色油状物質11.41g(42.83mmol)を化合物3として得た。
【0085】
なお、上記化合物2のE体およびZ体の含有比(含有率x’)は、後述のガスクロマトグラフィー(GC)による分析と同様にして求めた。
【0086】
(2)化合物4の合成
(1)で得られた化合物3を5.00g(18.8mmol)取り、1,2-ジメトキシエタン(40mL)および水(25mL)の混合溶媒に懸濁し、氷冷下、N-ブロモスクシンイミド3.57g(20.1mmol)を1,2-ジメトキシエタン(60mL)に溶解した溶液を25分かけて滴下し(滴下が終わった時点で透明な均一の溶液となる)、0℃で4時間撹拌した。反応終了後、反応液中に飽和食塩水(150mL)を加え、エーテル抽出を行った。エーテル抽出で得た有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで溶媒を溜去し、無色の油状物質7.15gを化合物4として得た。この油状物質をこれ以上精製せずに次の反応に使用した。
【0087】
(3)化合物5の合成
(2)で得られた化合物4を7.15g取り、メタノール(100mL)に溶かし、炭酸カリウム8.30g(60.1mmol)を加え、室温(約25℃)で一晩撹拌した。翌日、セライト濾過を行って固形物を除去し、エバポレーターで濾液を二分の一程度に濃縮し、飽和食塩水(120mL)を加えた後、エーテル抽出を行った。エーテル抽出で得た有機層を飽和食塩水(80mL)で2度洗浄し、炭酸カリウムで乾燥後、エバポレーターで溶媒を溜去し、無色の油状物質4.72gを化合物5として得た。この油状物質をこれ以上精製せずに次の反応に使用した。
【0088】
(4)化合物6の合成
(3)で得られた化合物5を4.72g(19.6mmol)取り、ピリジン5.97g(75.5mmol)に溶かし、氷冷下、無水酢酸3.83g(37.5mmol)を滴下し、室温(約25℃)まで昇温しながら17.5時間撹拌した。反応終了後、反応液を氷水に空け、エーテルで抽出した。エーテル抽出で得た有機層を飽和硫酸銅水溶液で3回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、飽和食塩水で1回、順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで溶媒を溜去し、無色の油状物質5.15gを得た。これをシリカゲルカラム(46mm i.d.×19cm L,n-ヘキサン:酢酸エチル=15:1)で精製し、先に無色油状物質である化合物3(0.48g、1.8mmol)を回収し、続いて無色油状物質である化合物6(3.01g、10.7mmol)を溶出した。
【0089】
(5)化合物7の合成
(4)で得られた化合物6を2.92g(10.3mmol)取り、エーテル(50mL)に溶かし、氷冷下、過ヨウ素酸二水和物(HIO4・2H2O)2.64g(11.6mmol)のテトラヒドロフラン(24mL)溶液を25分かけて滴下し(滴下に伴い無色の沈殿物が生成)、0℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液に水(50mL)を加え、有機層を分離し、水層からはエーテル抽出を行った。分離した有機層および水層から抽出した有機層を合わせて、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで溶媒を溜去し、オフホワイトの油状物質を2.72g得た。これをシリカゲルカラム(33mm i.d.×21cm L,n-ヘキサン:酢酸エチル=15:1)で精製し、無色の油状物質2.05g(8.53mmol)を化合物7として得た。
【0090】
(6)式(1)の化合物の合成
(5)で得られた化合物7を2.02g(8.40mmol)メタノール(50mL)に溶かし、炭酸カリウム3.48g(25.2mmol)を加え、室温(約25℃)で1時間撹拌した。反応終了後、無色の固形物を濾別し、エーテルでよく洗浄した。そのエーテル層を集めて飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで溶媒を溜去し、微黄色の油状物質1.73gを得た。これをシリカゲルカラム(33mm i.d.×23cm L,トルエン:アセトン=10:1~5:1)で精製し、10:1の溶出で無色のシロップ様物質である式(1)の化合物0.99g(5.0mmol)を得た。
【0091】
以上の反応によって得られた式(1)の化合物はE体とZ体との混合物であり、混合物中のZ体の含有率xが約10%であった。異性体比はガスクロマトグラフィ(GC)によって分離を行って算出した。GC条件を以下に記載する;
GC装置:GC-2025(株式会社島津製作所製)
カラム:TC-1、0.53mm I.D.×30m L,df 1.50μm(GL Sciences Inc.製)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
インジェクション温度:300℃
ディテクター温度:300℃
昇温条件:100℃→300℃(毎分20℃昇温)
線速度:60.0cm/S
GCの保持時間を測定し、それぞれのピーク面積の比を求め、異性体比とした。
【0092】
得られた式(1)の化合物、すなわち10-ヒドロキシ-4,8-ジメチル-4-デセナール(E体とZ体との混合物、Z体含有率xが約10%、本発明の香味付与剤1)は、スズラン様、グリーン、オゾン様、ウッディな香りを呈していた。なお、GC(InertCap(登録商標) WAX使用)でE体およびZ体を分離した際に各異性体の香りを確認したところ、E体はスズラン様、グリーン、フローラル、オゾン様、ウッディ、メタリック、ファッティな香りを含む香気を感じさせ、Z体は、E体より香気は弱く、E体と同様にスズラン様であったが、シトラス様、ローズ様、アンバー様の香りを含む香気を感じさせるものであった。
【0093】
以上の反応経路を、原料の化合物2(出発物質)の異性体比を変えた以外は同様にして式(1)の化合物の合成を行った。具体的には、特開平8-245979号公報に記載の方法を参考にして、異性体比についてZ体の含有率x’が0%、5%、20%、40%の化合物2をそれぞれ準備し、当該化合物2を用いて上記反応(1)~(6)を行った。その結果、式(1)の化合物として、Z体の含有率xがそれぞれ0%、約3%、約18%、約37%のものが得られた(本発明の香味付与剤2~5)。各香味付与剤2~5の香りを確認したところ、いずれも、スズラン様、グリーン、オゾン様、ウッディなどの香りを有していた。
【0094】
[実施例2]香料組成物への配合例
下記表1の通り、スズラン様基本調合香料組成物を調製した。
【0095】
【0096】
そして、実施例1で得られた本発明の香味付与剤1~5をそれぞれ、上記スズラン様基本調合香料組成物に下記表2の通りに配合して本発明の香料組成物を調製した。次いで、各香料組成物の香りについて官能評価を行った。官能評価では、本発明の香料組成物を匂い紙に含侵させて、15名の経験年数10年以上のよく訓練された調香師に香りを評価させた。下記の評価基準に基づいて点数付けさせるとともに、香気の質についてコメントさせた。調香師15名の平均点数および代表的なコメントを表2に示す。
【0097】
(スズラン感の評価基準)
4点:スズラン生花様のさわやかな香りが大きく増強された;
3点:スズラン生花様のさわやかな香りが増強された;
2点:スズラン生花様のさわやかな香りがやや増強された;
1点:スズラン様の香りがやや増強された;
0点:スズランとは異質な香りがする。
【0098】
【0099】
このように、本発明の香味付与剤1~5はいずれも、スズラン様香気に優れた特徴あるグリーンでさわやかな香りを付与でき、生花を思わせる質の高い香気を創造できることが確認された。また、E体の割合が多い香味改善剤の方が低濃度でも高い香味付与効果を奏することが確認された。
【0100】
[実施例3]香粧品への配合例1
スズラン調香気の市販のハンドソープに、実施例1で得られた本発明の香味付与剤2および5をそれぞれ、50ppb、1ppm、100ppm、1%の濃度(対ハンドソープ全量)となるように配合して本発明のハンドソープを調製して、市販の空のハンドソープボトルに詰めた。そして、経験年数10年以上のよく訓練された調香師6名に、密閉した実験室内にて、ハンドソープボトルの1プッシュ分(約1mL)を用いて、ぬるま湯(約35℃)で手洗いをさせ、実験室内に漂う香りと手洗い後の手の香りについて官能評価を行わせた。官能評価では、上記市販のハンドソープと比べたスズラン香の天然感、空間への香りの拡散性、および肌への残香性の各観点について、非常に高まった=4点、高まった=3点、やや高まった=2点、変化なし=1点、劣化した=0点という基準で点数付けさせた。なお、スズラン香の天然感とは、スズラン生花を思わせるようなややグリーンを帯びたフレッシュな香りが感じられることを意味するものとした。調香師6名の平均点数を表3に示す。
【0101】
【0102】
このように本発明の香味付与剤は、既存のスズラン様の香りを呈する消費財に配合することで、その香り自体に加えて拡散性や残香性も改善するものであることが確認された。また、E体が多い方が香りの天然感、拡散性、残香性に優れることが確認された。
【0103】
[実施例4]香粧品への配合例2
実施例1で得られた本発明の香味付与剤1~5をそれぞれ、市販のレモン調の香水、マンゴー調の香水、オゾン系男性用香水に、香水全量に対して300ppmの濃度となるように配合して、本発明の香粧品を得た。そして、本発明の香粧品について、経験年数10年以上のよく訓練された調香師8名による官能評価を行った。官能評価では、市販の各香水を対照品として、本発明の香味付与剤を配合したことによる香気の変化についてコメントさせた。得られた代表的なコメントを下記表4に示す。
【0104】
【0105】
このように、本発明の香味付与剤はいずれも、各種香気の増強、新たな香気特徴の付与、残香性、香りの拡散性などを付与できることが確認された。
【0106】
[実施例5]飲食品への配合例
実施例1で得られた本発明の香味付与剤1~5を、市販の果汁50%のレモネードに10ppt、1ppb、10ppmの濃度となるように配合して、本発明の飲料を調製した。そして、本発明の香味付与剤を添加していない上記市販のレモネードと比べた本発明の飲料の風味について、経験年数10年以上のパネラー7名にコメントさせた。その代表的なコメントを下記表5に示す。
【0107】
【0108】
このように、本発明の香味付与剤1~5はいずれも飲食品に対して特徴ある柑橘風味を付与することができ、飲食品用香料化合物としても有用であることが確認された。
【0109】
以上のように、本発明の式(1)で表される化合物は、スズラン様香気を始め、広範にわたる香味に対して優れた香味付与効果を奏するものである。
【0110】
本出願は、2020年2月21日に出願された日本特許出願番号2020-028028号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。