(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】薄層カーボンナノマテリアルを作製するためのシステム、方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 32/166 20170101AFI20231101BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231101BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20231101BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20231101BHJP
C25B 15/029 20210101ALI20231101BHJP
C25B 11/02 20210101ALI20231101BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20231101BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20231101BHJP
C25B 1/135 20210101ALI20231101BHJP
【FI】
C01B32/166
C25B9/00 Z
C25B15/02
C25B15/021
C25B15/029
C25B11/02 301
C25B11/046
C25B15/00 303
C25B1/135
(21)【出願番号】P 2022563448
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 US2021029732
(87)【国際公開番号】W WO2021222463
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-12-14
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521134086
【氏名又は名称】シー2シーエヌティー,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リヒト,スチュアート
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-535906(JP,A)
【文献】国際公開第2018/156642(WO,A1)
【文献】REN, Jiawen et al.,Transformation of the greenhouse gas CO2 by molten electrolysis into a wide controlled selection of carbon nanotubes,Journal of CO2 Utilization ,2017年,18 ,335-344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C25B 1/00-9/77;13/00-15/08
C25B 11/02
C25B 11/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄層カーボンナノマテリアル生成物(CNM)を作製するためのシステムであって、
a.アノード;
b.カソード;
c.前記アノードと前記カソードとの間に画定される電極間空間;
d.前記電極間空間内に位置することが可能な炭酸塩電解質媒体、
e.前記電極にわたり少なくとも0.01A/cm
2である電流密度を印加するための電流源;
f.前記電解質媒体を、溶融電解質媒体を作り出すために、ある温度に加熱するように構成される熱源;
g.前記
炭酸塩電解質媒体
又は前記溶融電解質媒体と混合可能な直径限定成分であって
、メタホウ酸カルシウム、酸化カルシウムと組み合わせたホウ酸、又はそれらの組み合わせを含む直径限定成分;並びに
h.前記電極間空間中に炭素材料を導入するための炭素源
を含むシステム。
【請求項2】
前記直径限定成分は、メタホウ酸カルシウムである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記直径限定成分は、ホウ酸と酸化カルシウムとの組み合わせである、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記直径限定成分は、前記炭酸塩電解質媒体又は前記溶
融電解質媒体に対し
て0.01
~5モーラルの量で存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記アノード及びカソードは、前記システム内で、互いに実質的に平行に位置
している、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記アノードは
、0.01~1インチ厚のニクロム板であり、前記カソードは
、0.01~1インチ厚の真鍮板である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記アノードは、2つの直列接続アノードであり、前記カソードは、その間に各アノードについ
て0.1
~4インチ離れて位置する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記直径限定成分
は、前記溶
融電解質媒体と混合
される、請求項7に記載の
システム。
【請求項9】
前記直径限定成分は、メタホウ酸カルシウムである、請求項7に記載の
システム。
【請求項10】
前記直径限定成分は、ホウ酸と酸化カルシウムとの組み合わせを含む、請求項7に記載
の
システム。
【請求項11】
前記炭素源は、二酸化炭素である、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
薄層カーボンナノマテリアル(CNM)を生成する方法であって、
a.炭酸塩電解質媒体を加熱してセル内で含有される溶融炭酸塩電解質を得ること;
b.前記溶融炭酸塩電解質をアノードとカソードとの間
の電極間空間に配置すること;
c.前記セル中の前記カソード及び前記アノードに電流を印加すること
;
d.前記電極間空間に炭素材料を導入すること;並びに
e.
0.01~5モーラルの直径限定成分を前記
炭酸塩電解質媒体又は前記溶融炭酸塩電解質と混合することにより前記薄層CNMの直径を限定することであって、前記直径限定成分は、メタホウ酸カルシウム、ホウ酸の酸化カルシウムとの組み合わせ、又はそれらの組み合わせを
含む方法。
【請求項13】
ナノマテリアル形態を選択する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記CNMの前記直径を限定する工程は、前記直径限定成分を前記炭酸塩電解質媒体と混合することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記直径限定成分を、前記炭酸塩電解質媒体又は前記溶融炭酸塩電解
質に対し
て0.01
~5モーラルの量で添加する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
生成される前記CNMの前記直径を限定する工程は、前記電流を
0.001A/cm
2
~0.5A/cm
2
の低い電解電流密度に調節することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
生成される前記CNMの前記直径を限定する工程は、前記電流
を5分間
~90分間停止する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記カソードから前記薄層カーボンナノマテリアル生成物を収集する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前
記電流は、交流電流である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記
溶融炭酸塩電解質に酸化亜鉛を添加する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
薄層カーボンナノマテリアル生成物を作製するための電解質媒体であって、
a.炭酸塩;及び
b.直径限定成分であって
、メタホウ酸カルシウム、酸化カルシウムと組み合わせたホウ酸、又はそれらの組み合わせを含む直径限定成分
を含む電解質媒体。
【請求項22】
前記炭酸塩は、アルカリ炭酸塩、アルカリ土類炭酸塩又はそれらの組み合わせである、請求項21に記載の電解質媒体。
【請求項23】
酸化物、ホウ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、塩素酸塩、リン酸塩又はそれらの組み合わせをさらに含む、請求項22に記載の電解質媒体。
【請求項24】
前記直径限定成分は、メタホウ酸カルシウム、酸化カルシウムと組み合わせたホウ酸、又はそれらの組み合わせである、請求項21に記載の電解質媒体。
【請求項25】
前記直径限定成分は、前記炭酸塩に対し
て0.01
~5モーラルの量で存在する、請求項21に記載の電解質媒体。
【請求項26】
溶融状態である、請求項21に記載の電解質媒体。
【請求項27】
前記直径限定成分は、メタホウ酸カルシウムである、請求項21に記載の電解質媒体。
【請求項28】
前記直径限定成分は、ホウ酸と酸化カルシウムとの組み合わせを含む、請求項21に記載の電解質媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[1] 本出願は、参照により全体として本明細書に組み込まれる2020年4月29日に出願された米国仮特許出願第63/017,489号の優先権及び利益を主張する。
【0002】
技術分野
[2] 本開示は、カーボンナノ構造の作製に関する。特に、本開示は、溶融炭酸塩プロセスを使用して薄層カーボンナノ構造を作製するためのシステム、方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
[3] 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は、1850年頃までの約40万年間、235±約50ppmにおいて推移していた。現在の大気中のCO2濃度は約420ppmであり、急速な年率で上昇している。大気中のCO2の濃度増加は、地球規模の気候崩壊、生息地の損失及び種々の他の脅威を私たちの惑星に引き起こしている。CO2は安定的分子とみなされ、その結果、目下の非温室効果ガスへのその転換は重要な課題である。
【0004】
[4] CO2の大気濃度レベルの増加は、空気からのCO2の除去により、及び/又は大気中へのCO2の排出速度の低下により軽減することができることが公知である。探索されてきた、空気からCO2を除去しようとする技術はコストを要し、且つ/又は水及びエネルギーを大量に消費し、除去されたCO2の長期貯蔵についての動機がほとんどないことを実証している。例えば、空気回収膜技術により産生される濃縮CO2は、現在、セルツァー水を作製するために使用されており、それは消費時にCO2を再放出する。別の例として、沈殿/焼成法により産生される濃縮CO2は、現在、化石燃料を放出させるために投入され、それは限定された貯蔵能を有し、再び空気にまとわりつき、その化石燃料が消費された時に空気にCO2を放出する。
【0005】
[5] CO2の大気濃度レベルの増加を軽減するための第3の選択肢としては、CO2の炭素への変換及び溶融炭酸塩電解質による酸化が挙げられる。このプロセスにより生成される有用な生成物としては、カーボンナノマテリアルが挙げられる。
【0006】
[6] カーボンナノマテリアルは、材料資源としての大きい潜在性を有し、用途は、その特徴的な優れた強度、電気及び熱伝導性、可撓性及び耐久性に起因して強化複合材料、コンデンサ、リチウムイオン電池、ナノエレクトロニクス、及び触媒から軽量の高強度建築材料の主成分まで及ぶ。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
[7] 本開示は、溶融炭酸塩電解質によるCO2の電解による分解により調製される薄層カーボンナノマテリアル、特に薄層カーボンナノチューブ(CNT)を提供する。薄層CNTは、単位質量当たりのより大きい表面積を順次もたらす小さい直径を包含する、厚層CNTと比較していくつかの利点を有し得る。この単位質量当たりのより大きい表面積は、種々の用途において有利である。例えば、より大きい表面積のCNTをカソードとして使用することができ、改善されたLiイオン挿入をもたらし得るリチウムイオン(Liイオン)電池の使用において、挿入速度向上に起因するより高い蓄電容量及びより急速な充電をもたらし得る。Liイオン電池カソードにおいて、単位質量当たりのより大きい表面積を有する薄層CNTを添加剤として使用して集電体及びカソードの両方への電気伝導接触を改善することができる。同様に、薄層CNTの単位質量当たりのより高い表面積は、コンデンサ中の高い蓄電を提供する。薄層CNTは、医薬品、薬物又は薬理作用のある剤のより有効な送達も提供し得る。薄層CNTの単位質量当たりのより高い表面積は、種々の触媒、例として、限定されるものではないが、触媒活性増加のための燃料電池用の白金を保持するための足場として作用し得る。薄層CNTは、難燃剤として作用するための熱の拡散において有利であり得、放射線遮断のための改善された(improned)電磁シールドとしても作用し得る。単位質量当たりのより大きな表面積に加え、より薄い層は、生成の間のCNT層における欠陥のより低い確率を提供し得る。このような欠陥は、例えば、炭素原子損失又は炭素原子間のsp2結合のかわりのsp3として明らかである。欠陥がより少なければ、エレクトロニクス用途、例えば、トランジスタ、太陽電池及びフラットパネルディスプレイにおける使用でのCNTの有用性が増加し得る。
【0008】
[8] 本開示の一部の実施形態は、薄層カーボンナノマテリアル(CNM)を作製するためのシステムに関する。システムは、アノード;カソード;アノードとカソードとの間に規定される電極間空間;電極間空間内に位置可能な炭酸塩電解質媒体、電極にわたり少なくとも0.01A/cm2である電流密度(1cmは約0.39インチに等しい)を印加するための電流源;電解質媒体を、溶融電解質媒体を作り出すために、ある温度に加熱するように構成される熱源;電解質媒体と混合可能な直径限定成分;及び電極間空間中に炭素材料を導入するための炭素源を含む。
【0009】
[9] 本開示の一部の実施形態は、薄層CNMを生成する方法に関する。方法は、炭酸塩電解質を加熱して溶融炭酸塩電解質を得る工程;溶融炭酸塩電解質をセル中のアノードとカソードとの間に配置する工程;セル中のカソード及びアノードに電流を印加する工程;並びにセル中のCNMの直径を限定する工程を含む。本開示の一部の実施形態において、セル中のCNMの直径を限定する工程は、電流を所定の期間印加し、炭酸塩電解質若しくは溶融炭酸塩電解質のいずれか又はそれらの組み合わせの中に直径限定成分を添加する工程であり得る。
【0010】
[10] 本開示の一部の実施形態は、薄層CNM生成物を作製するための電解合成プロセスにおいて使用される組成物に関する。組成物は、炭酸塩電解質及び直径限定成分を含む。直径限定成分は加熱前に炭酸塩電解質と予備混合することができ、又は直径限定成分は炭酸塩電解質に、それを溶融状態まで加熱した後に添加することができる。
【0011】
[11] 任意に、本開示の実施形態は、ナノマテリアル形態を選択して薄層及びある所望のCNM形態の他の形態よりも大きい比率を有するCNM電解合成生成物を作出する工程をさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の簡単な説明
【
図1】[12]本開示の実施形態に従う、Ni粉末を含むコイル巻き銅線を使用した5cm
2における770℃のLi
2CO
3中での0.2Acm
2電解により合成されたカーボンナノチューブ(CNT)のカーボンナノチューブ層の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示し;
図1Aは、15分後に生成されたCNTを示し;
図1Bは、30分後に生成されたCNTを示し;
図1Cは、90分後に生成されたCNTを示し;
図1Dは、
図1Cに示されるCNTのさらなる図を示す。
【
図2】[13]本開示の実施形態に従って生成された、溶融炭酸塩電解質中でCO
2からカーボンナノマテリアルを作製するための電解合成プロセスの模式図であり、そのような合成生成物は薄層カーボンナノチューブである。
【
図3】[14]本開示の実施形態に従う、電解による合成(本明細書において電解合成と称される)CNT生成物の画像を示し、
図3A及び3Bは、第1の走査型電子顕微鏡(SEM)倍率におけるSEM画像であり;
図3C及び3Dは、第1のSEM倍率よりも高い第2のSEM倍率におけるSEM画像であり;
図3Eは、第1のTEM倍率において撮影されたTEM画像であり;
図3Fは、第1のTEM倍率よりも高い第2のTEM倍率において撮影されたTEM画像であり;
図3Gは、第2のTEM倍率よりも高い第3のTEM倍率において撮影されたTEM画像である。
【
図4】[15]本開示の実施形態に従う、電解合成CNT生成物のさらなる画像を示し、
図4A及び4Bは、電解合成において使用されたカソードの写真であり;
図4Cは、第4のTEM倍率において撮影されたCNT生成物のTEM画像を示し;
図4Dは、第4のTEM倍率よりも高い第5のTEM倍率において撮影されたCNT生成物のTEM画像を示し;
図4Eは、第5のTEM倍率よりも高い第6のTEM倍率において撮影されたCNT生成物のTEM画像を示し;
図4Fは、第6のTEM倍率よりも高い第7のTEM倍率において撮影されたCNT生成物のTEM画像を示す。
【
図5】[16]上段パネル及び下段パネルを示し、本開示の実施形態に従って、上段パネルは、直径限定成分としてLi
2Oを含有する炭酸リチウム電解質媒体から形成されたCNT生成物間で比較したカウントごとのCNT直径サイズの分布を示し、下段パネルは、直径限定成分としてメタホウ酸カルシウムを含有する炭酸リチウム電解質媒体から形成されたCNT生成物間で比較したカウントごとのCNT直径サイズの分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
[17] 溶融炭酸塩電解質による二酸化炭素(CO2)の炭素及び酸素への分解は、溶融炭酸塩電解質媒体及び種々の電解構成を使用することにより達成することができる。本明細書において電解合成プロセスとも称される電解による合成プロセスの炭素生成物は、実質的に純粋な、又は純粋なカーボンナノマテリアル(CNM)、例として、カーボンナノチューブ(CNT)であり得る。電解合成プロセスは、気相からの固体CNMへの炭素の物質移動を引き起こすことによりCO2をCNMに転換し得る。例えば、気相中の炭素は、大気から又は濃縮された人為的なCO2源、例えば、工業排ガス流若しくは隔離されたCO2の容器から直接回収されたCO2であってもよいCO2の形態を取ってもよい。
【0014】
[18] 大気及び煙道ガスレベルの両方のCO2を吸収するための溶融炭酸塩に対する親和性は、13C同位体CO2を使用して以前に実証されている。CO2正味反応は、以下の反応に従う。
溶解:CO2(ガス)+Li2O(可溶)→Li2CO3(溶融)
(式1)
電解:Li2CO3(溶融)→C(CNT)+Li2O(可溶)+O2(ガス)
(式2)
正味:CO2(ガス)→C(CNT)+O2(ガス)
(式3)
【0015】
[19] 遷移金属核形成成長、例えば、ニッケル粉末の添加は、
図1に示されるとおり明らかに観察可能なCNT層をもたらし得る。しかしながら、これらの核剤を合成の間に意図的に除外する場合、カーボンナノ-オニオン(
図2に示される)及びグラフェンの高い収率合成が達成される。電解合成プロセスのパラメータにおけるこれらの差は、どのように電解合成生成物を選択することができるかの数例にすぎない。
【0016】
[20] 多くの異なる炭素同素体は、CO2の溶融分解により生成することができる。観察される広範囲のCNM形態は、多くの異なる有用な生成物における使用のために生成物を調整する可能性を示す。
【0017】
[21] 溶融炭酸塩電極におけるCO2の電解による分解は、広範囲のカソード材料、例として、鉄、鋼、ニッケル、ニッケル合金、モネル(Monel)、銅及び真鍮を用いて実施することができる。銅又は真鍮カソード上で成長させたCNTの直径は類似してもよい。
【0018】
[22]
図1に示されるとおり、多層のグラフェン層の区別される1原子厚さの離隔に典型的である約0.335nm離隔される同心層を有するCNTが観察された。
図1は、電解質が純粋な炭酸リチウムLi
2CO
3中で実施された場合、定電流電解時間を15分間から90分間に増加させた場合に22nmから116nmへのCNT直径の増加が生じることを実証する。CNTは、0.335nmの間隙を空けた同心円筒グラフェン層から構成される。
【0019】
[23] 直径の増加に伴い、CNTの内側の各々の上の同心CNT層の数が増加し、グラフェン層が約18層から約142層に増加する。純粋な炭酸リチウムにおいて、1.5時間ではなく4時間の定電流電解合成プロセスの間、CNTは成長し続け、平均して、より厚い層のCNT直径は約100~約160nmに及ぶ。
【0020】
[24] 本開示の実施形態は、薄層CNTを合成するためのシステム、組成物及び方法を提供する。転換(transformation)は、直径限定成分を含んでも含まなくてもよい溶融炭酸塩電解質媒体中のCO2の4電子還元の高収率及び高クーロン効率において生じてもよい。CO2を含む任意のガス源を、本明細書に開示されるシステム及び方法において、又は組成物と共に使用してもよい。例えば、環境空気、種々の工業プラント若しくは化学反応器、発電プラント、蒸気発生施設、又は熱分解反応器からの排出ガスは、CO2ガス源を提供してもよい。
【0021】
[25] 本開示の実施形態は、CO2ガスの固体薄層CNM、例として、薄層カーボンナノチューブ(CNT)への変換をもたらす電気化学的条件に関する。本考察の目的では、薄層CNTは、約100nm未満の直径を有するCNTであり、CNT層内に1nm当たりおよそ3層の円筒グラフェン層が存在する。本開示の一部の実施形態において、薄層CNTは、約99nm、約75nm、約60nm、約45nm、約30nm、約18nm、約10nm、約6nm、約3nm未満又は約1nm未満の直径を有するCNTである。
【0022】
[26] 本開示の一部の実施形態は、薄層CNM生成物を生成するために発生する電解合成プロセスを提供するシステムに関する。システムは、電解質媒体を受容し、含有し得る電解空間と称することもできる電極間空間を規定する一対の電極、カソード及びアノードを含む。システムは、電流源、炭素材料源、熱源並びに電極及び電解質媒体を含有するための筐体も含む。本開示の一部の実施形態において、システムは、CNM生成物の成長を限定するように電解合成プロセスに関与する直径限定成分をさらに含む。
【0023】
[27] 本開示の一部の実施形態において、カソードは、平面構造、ワイヤ構造、スクリーン、多孔性構造、導電板、平坦若しくは折り畳みシム(folded shim)、板、コイル巻き構造として形成されており、又はカソードは、筐体の内側の少なくとも一部を形成し得る。カソードは、核形成点及びカソード上で形成するCNM生成物のバリエーションに対する必要性を反映する種々の導電性材料から形成されていてよい。このようなカソード形成材料としては、限定されるものではないが、任意の導電性材料、亜鉛めっき(亜鉛コーティング)された鋼、チタン、グラファイト、鉄、銅及び亜鉛を含む合金、モネル(Ni 400、Ni/Cu合金)、インコネル(Inconel(登録商標))、ステンレス鋼、鉄、ニクロム(Nichrome)、純Cuが挙げられ、真鍮合金も好適であり得る。
【0024】
[28] 本開示の一部の実施形態において、アノードは、平面構造、ワイヤ構造、スクリーン、多孔性構造、導電板、平坦若しくは折り畳みシム、コイル巻き構造として形成されており、又はアノードは、筐体の内側層の少なくとも一部を形成し得る。アノードは種々の導電性材料から形成されていてよく、その結果、アノードは酸素発生してもしなくてもよい。このようなアノード形成材料としては、限定されるものではないが、本開示の実施形態に従って実施される電解反応の間の酸素生成を促進する高度に安定的な酸化物外層を確立する任意の導電性材料、Ni、Ni合金、亜鉛めっき(亜鉛コーティング)された鋼、チタン、グラファイト、鉄、及び酸素生成を促進する高度に安定的な酸化物外層を形成する多種の金属が挙げられる。アノードを形成するための好適な材料の例としては、ニッケル合金36(クロムを有さないが鉄を有するニッケル)、ニクロム(ニッケルクロムベースの合金)、例として、ステンレス鋼、例えば、SS 304又はSS 316、並びにインコネル合金、例えば、Inconel 600、625、及び718、合金C-264、又はニクロム、例えば、Chromel A、Bが挙げられ、又はそれというのも、合金成分の同時核形成が、高品質のCNTを生成することが公知であるためである。二元及び三元遷移金属核形成剤、例として、限定されるものではないが、Ni、Cr、Sn、In、Fe、及びMoもCNM生成物成長を生じさせ得る。
【0025】
[29] 本開示の一部の実施形態において、遷移金属をアノード上に添加することができ、それはアノードから溶解して電解質媒体を介してカソード上に移動し得る。添加された遷移金属は核形成剤として機能し得、それは、ニッケル、鉄、コバルト、銅、チタン、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、銀、カドミウム、スズ、ルテニウム、亜鉛、アンチモン、バナジウム、タングステン、インジウム、ガリウム、若しくは非遷移金属、例えば、ゲルマニウム若しくはケイ素、又はそれらの混合物から選択することができる。遷移金属は、溶解遷移金属塩として電解質に直接導入してカソード上に移動させることもできる。遷移金属核形成剤をカソード上に直接添加することも可能である。
【0026】
[30] カソード及びアノードは、筐体、例えば、ステンレス鋼筐体又は実質的に純粋な若しくは純粋なアルミナ製の筐体内で互いに実質的に平行に並べることができる。筐体は、溶解電解質媒体を含有するために、かつ、システムにより達成される温度を持続するために、好適な任意の材料から作製されていてよい。電極は、任意の方向で、例として、限定されるものではないが、実質的に水平に又は実質的に垂直に、方向付けることができるが、互いから間隙を空けてそれらの間に電極間空間を画定する。本開示の一部の実施形態において、電極間空間は、約0.1cm~約10cmである。本開示の一部の実施形態において、電極間空間は、約1cmである。当業者により認識されるとおり、電極間空間の寸法は、システムのスケール、例えば、各電極のサイズ、筐体内で規定されるプレナム(plenum)、印加される電流の量及びそれらの組み合わせにより定められる。
【0027】
[31] 電流源は、少なくとも約0.001A/cm2の電流密度を提供する、定電流又は非定電流のいずれかの任意の交流電流又は直流電流源であり得る。本開示の一部の実施形態において、電極間で提供される電流密度は、少なくとも0.003A/cm2、0.01A/cm2、0.03A/cm2、0.1A/cm2、0.3A/cm2、1.0A/cm2、3.0A/cm2、10.A/cm2以上である。電流源のための電力は、任意の電源又は電源の組み合わせ、例として、電力源、太陽光発電源などであり得る。
【0028】
[32] 熱源は、筐体内の空間内の温度を、電解質媒体の溶融相への転移を引き起こす温度に増加させる任意の熱源であり得る。例えば、熱源は、約500℃~約850℃以上の筐体内の温度を達成し得る。本開示の一部の実施形態において、加熱は、約700℃~約800℃、約720℃~約790℃、又は約750℃~約780℃の温度を達成する。本開示の一部の実施形態において、加熱は、749~750℃、751~752℃、753~754℃、755~756℃、757~758℃、759~760℃、761~762℃、763~764℃、765~766℃、767~768℃、769~770℃、771~772℃、773~774℃、775~776℃、777~778℃、又は779~780℃の温度を達成する。本開示の一部の実施形態において、筐体内の温度は、約800℃以上に増加させることができる。本開示の一部の実施形態において、熱源は、CO2吸収の発熱反応及び炭酸塩への変換(気相から固相生成物への質量移動)、又は印加される電解電流の過電圧により提供され、又はそれにより補給される。
【0029】
[33] 炭素材料源は、CO2を含む任意の炭素源であり得る。例えば、環境空気は、CO2源を提供し得る。種々の工業プラント又は化学反応器からの排出ガスは、CO2源を提供し得る。例えば、発電プラント、蒸気発生施設、又は熱分解反応器は、CO2を排出し得る。これらのタイプのシステムから、又は高カーボンフットプリント物質の生成において排出されるCO2も、CO2源として使用することができる。さらに、加熱、輸送のための化石燃料、並びに炭素生成物、例えば、ポリマー及びプラスチックの燃焼又は転換のCO2生成物も、CO2源であり得る。筐体は、電極間空間内に炭素材料、例えば、CO2を受容するように構成される。
【0030】
[34] 本開示の一部の実施形態において、電解質媒体は、熱源により溶融相への転移まで加熱することができる炭酸塩を含み得る。簡便には、電解により溶融炭酸塩から生成されるCNMは、他の慣用技術、例えば、化学蒸着(CVD)合成、火炎合成、又はプラズマ合成により生成されるカーボンナノマテリアルと比較して相対的に低いカーボンフットプリント及びさらには負のカーボンフットプリント(CO2が反応物質として消費されるため)、並びに相対的に低コストで生成することができる。例えば、炭酸塩は、炭酸リチウム又はリチウム炭酸塩であり得る。溶融炭酸塩、例えば、723℃の融点を有する炭酸リチウムLi2CO3、又はより低い融点の炭酸塩、例えば、620℃の融点を有する炭酸塩LiBaCaCO3は、電解の結果である酸化物、例えば、限定されるものではないが、式2により例示されるものを含有する場合、又は高度に可溶性の酸化物、例えば、Li2O及びBaOと混合する場合、大気からのCO2又は排気CO2の急速な吸収を持続する。好適な炭酸塩としては、アルカリ炭酸塩及びアルカリ土類炭酸塩を挙げることができる。アルカリ炭酸塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、若しくはフランシウム炭酸塩、又はそれらの混合物を挙げることができる。アルカリ土類炭酸塩としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、若しくはラジウム炭酸塩、又はそれらの混合物を挙げることができる。本開示の一部の実施形態において、電解質は、混合組成物、例えば、アルカリ炭酸塩及びアルカリ土類炭酸塩と、酸化物、ホウ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、塩素酸塩又はリン酸塩の1つ以上との混合物であり得る。
【0031】
[35] 本開示の一部の実施形態は、薄層CNM生成物を生成する方法を提供する。方法は、電解質媒体を加熱して溶融電解質を得る工程;溶融電解質をセル中のアノードとカソードとの間に配置する工程;セル中のカソード及びアノードに電流を印加する工程;並びにセル内で成長するCNM生成物の直径を限定する工程を含む。方法は、セルのカソードから薄層CNMを収集することをさらに含み得る。
【0032】
[36] 本開示の一部の実施形態において、方法は、本明細書に記載の上記のシステムを使用して実施することができる。
【0033】
[37] セル中のCNTの直径を限定する工程は、任意の好適な手段により達成することができる。一部の実施形態において、直径を限定する工程は、その中で生成されるCNTの成長を制限し、制御し、又は限定するように作用する成分を含む電解質媒体を利用することにより達成され、そのような成分は本明細書において直径限定成分と称される。例えば、電解質媒体は、電解質を直径限定成分と予備混合すること、直径限定成分を溶融炭酸塩電解質に添加すること又はそれらの組み合わせにより作製することができる。
【0034】
[38] 本明細書において使用されるとき、「直径限定成分」という用語は、電解質媒体の構成要素であり得、本明細書に開示される電解合成法から得られるCMN生成物の直径の制御に寄与する化学成分を指す。本開示の一部の実施形態において、直径限定成分は、メタホウ酸塩、アルカリ酸化物、又はそれらの組み合わせを含む。任意の好適なメタホウ酸塩又はアルカリ酸化物を使用することができる。本開示の一実施形態において、メタホウ酸塩は、メタホウ酸カルシウムである。別の実施形態において、メタホウ酸塩は、例えば、ホウ酸と酸化カルシウムとの間の反応を介してその場で形成される。別の実施形態において、直径限定成分は、酸化リチウムを含む。別の実施形態において、直径限定成分は、メタホウ酸カルシウム、ホウ酸の酸化カルシウムとの組み合わせ、酸化リチウム、又はそれらの組み合わせを含む。
【0035】
[39] 直径限定成分は、好適な量で電解質媒体に添加することができる。例えば、本開示の一部の実施形態において、直径限定成分は、約0.01モーラル~約5.0モーラル以上の量で電解質媒体に添加される。本開示の一部の実施形態において、直径限定成分は、約0.03モーラル~約3モーラルの量で、約0.1モーラル~約2モーラル、又は0.5モーラル~約1.0モーラルの量で電解質媒体に添加される。本明細書において使用されるとき、「モーラル」という用語は、電解質媒体1キログラム当たり1モルの直径限定成分を指す。本開示の他の実施形態において、直径限定成分は、約0.01モーラル、0.03モーラル、0.1モーラル、0.2モーラル、0.4モーラル、0.5モーラル、0.51~0.52モーラル、0.52~0.53モーラル、0.53~0.54モーラル、0.54~0.55モーラル、0.55~0.56モーラル、0.56~0.57モーラル、0.57~0.58モーラル、0.58~0.59モーラル、0.59~0.60モーラル、0.60~0.61モーラル、0.61~0.62モーラル、0.62~0.63モーラル、0.63~0.64モーラル、0.64~0.65モーラル、0.65~0.66モーラル、0.66~0.67モーラル、0.67~0.68モーラル、0.68~0.69モーラル、0.69~0.70モーラル、0.70~0.71モーラル、0.71~0.72モーラル、0.72~0.73モーラル、0.73~0.74モーラル、0.74~0.75モーラル、0.75~0.76モーラル、0.76~0.77モーラル、0.77~0.78モーラル、0.78~0.79モーラル、0.79~0.80モーラル、0.80~0.81モーラル、0.81~0.82モーラル、0.82~0.83モーラル、0.83~0.84モーラル、0.84~0.85モーラル、0.85~0.86モーラル、0.86~0.87モーラル、0.87~0.88モーラル、0.88~0.89モーラル、0.89~0.90モーラル、0.90~0.91モーラル、0.91~0.92モーラル、0.92~0.93モーラル、0.93~0.94モーラル、0.94~0.95モーラル、0.95~0.96モーラル、0.96~0.97モーラル、0.97~0.98モーラル、0.98~0.99モーラル、又は0.99~1.0モーラルの量で添加される。本開示の1つの好ましい実施形態において、直径限定成分は、約0.67モーラルの量で添加される。
【0036】
[40] 本開示の一部の実施形態は、ホウ素ドープCNTを生成するのと同じ電解条件下で、炭酸リチウム電解質媒体への7.7wt%のメタホウ酸カルシウムの添加が、約25層の同心円筒グラフェン層からなる非常に薄い層(22~42nm直径)の均一なCNTを、>90%のCNTの高い収率において生成することを提供する。
【0037】
[41] メタホウ酸塩、及びその溶融相相当物のうち、メタホウ酸ナトリウムがおそらくガラスのある配合物におけるその使用のために最も研究されている。程度はより少ないが、ホウ酸カルシウム、CaB2O4又はCaO・B2O3も研究されている。メタホウ酸カルシウム中のホウ素は、1:2:4のCaとBとOとの比を有する一方、ホウ酸カルシウム、一般名Gerselyホウ酸塩、Ca3(BO3)2中の比は1:2/3:2である。
【0038】
[42] 別の実施形態において、CNTの直径を限定する工程は、電解時間を限定すること、電解電流密度を限定すること又はそれらの組み合わせにより電解電荷を限定することを含む。
【0039】
[43] 一部の実施形態において、セル中のCNTの直径を限定する工程は、短い電解継続時間を用いることを含む。本明細書において使用されるとき、「短い電解継続時間」という用語は、電流がセル中のカソード及びアノードに印加される時間量を指す。一部の実施形態において、短い電解継続時間は、約5分間~約120分間である。例えば、短い電解継続時間は、約15分間~約90分間であり得る。本開示の一部の実施形態において、短い電解継続時間は、15分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、55分間、60分間、65分間、70分間、75分間、80分間、85分間、又は90分間である。好ましい実施形態において、短い電解継続時間は、約15分間である。
【0040】
[44] 本開示の一部の実施形態において、電流は、低い電解電流密度において印加される。本開示の一部の実施形態において、低い電解電流密度は、0.001A/cm2~0.5A/cm2である。本開示の他の実施形態において、低い電解電流密度は、0.003A/cm2~0.4A/cm2であり、低い電解電流密度は、0.01A/cm2~0.3A/cm2であり、低い電解電流密度は、0.02A/cm2~0.2A/cm2であり、低い電解電流密度は、0.05A/cm2~0.15A/cm2、又は約0.1A/cm2である。
【0041】
[45] 本開示の一部の実施形態において、電流は、高い電解電流密度において印加される。これらの実施形態において、高い電解電流密度は、約0.5A/cm2~約0.9A/cm2である。好ましい実施形態において、高い電解電流密度は、約0.6A/cm2である。
【0042】
[46] 一実施形態において、本開示は、薄層カーボンナノマテリアルを生成する方法であって、炭酸塩電解質を加熱して溶融炭酸塩電解質を得ること;溶融炭酸塩電解質をセル中のアノードとカソードとの間に配置すること;セル中のカソード及びアノードに電流を印加すること;ナノマテリアル形態を選択すること;並びにセル中のカーボンナノマテリアルの直径を限定することを含む方法を提供する。
【0043】
[47] 本明細書において使用されるとき、「ナノマテリアル形態を選択すること」という用語は、電解合成CNM生成物の形態の制御に寄与する任意の工程を指す。本開示の一部の実施形態において、CNMの選択される形態としては、以下のCNM形態:カーボンナノ-オニオン(carbon nano-onion)、カーボンナノ-スキャフォールド(carbon scaffold)、カーボンナノ-スフェア(carbon nano-sphere)、カーボン-ナノ-ヘリックス(carbon nano-helix)、カーボンナノ-プレートレット(carbon nano-platelet)、グラフェン又はそれらの組み合わせを挙げることができる。本開示の一部の実施形態において、ナノマテリアル形態を選択する工程は、部分的に、大部分が、実質的に全て、又は全てが単一のCNM形態である電解合成CNM生成物をもたらし得る。例えば、ナノマテリアル形態を選択する工程は、部分的に、大部分が、実質的に全て又は全てがカーボンナノ-オニオン、カーボンナノ-スキャフォールド、カーボンナノ-スフェア、カーボン-ナノ-ヘリックス、カーボンナノ-プレートレット又はグラフェンの1つである電解合成CNM生成物を生成し得る。
【0044】
[48] 本開示の一部の実施形態において、ナノマテリアル形態を選択する工程は、カソード及びアノードに電流を交流電流(AC)として印加することを含む。例えば、AC電解電流は、ナノ-オニオン形態を有するCNM生成物を選択し得る。
【0045】
[49] 別の実施形態において、ナノマテリアル形態を選択する工程は、ZnOを溶融炭酸塩電解質に添加すること、及びグラフェンプレートレット形態を有するCNM生成物のために選択し得るAC電解電流を印加することを含む。
【0046】
[50] 別の実施形態において、ナノマテリアル形態を選択する工程は、MgOを溶融炭酸塩電解質に添加すること、及び中空カーボンナノ-スフェア生成物のための電流を選択することを含む。
【0047】
[51] 本開示の一部の実施形態は、電解質媒体組成物がCNT直径及び/又は層厚に影響し得ることを提供する。例えば、本開示の一部の実施形態において、電解質への2wt%のLi
2Oの添加は、約75層の同心円筒グラフェン層からなるより薄い高度に均一な(50~80nm直径)薄層CNTを生成し得る。生成物は、高い収率(カソード生成物は>98%のCNTからなる)において生成することができる。
図3は、本開示の方法に従って電解質への低濃度の酸化リチウムの添加により成長させた薄層CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。CNTは、ニッケル合金アノード及び真鍮カソードを使用して2wt%の酸化リチウム(Li
2O)電解質を有する770℃のLi
2CO
3(Li
2CO
3 1kg当たり0.67モルのLi
2O)中で電解合成した。0.1A/cm
2の比較的低い電流密度を印加し(例えば、酸化アルミニウムの電解によるアルミニウム製錬は、典型的には、0.5~0.6A/cm
2において行う)、大気(直接空気回収)からのCO
2は、式(3)に従って電解質を再生するため及び電解質レベルを維持するために十分であった。この低い電流密度において、予備濃縮なしのCO
2が、大気(直接空気回収)により直接吸収され、炭酸塩電解質を再生し、持続することが分かった。濃縮CO
2は要求されず添加もされなかった。
【実施例】
【0048】
実施例
[52] 本開示の薄層ナノチューブの調製を以下の実施例においてさらに説明し、それらは本発明を説明するために提供するものであり、決して本開示の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【0049】
[53] 実施例1
[54] 炭酸リチウム(Li
2CO
3、99.5%)、酸化リチウム(Li
2O、99.5%)、酸化カルシウム(CaO、99.5%)及びホウ酸(H
3BO
3、99.9%)を用いて電解質媒体を予備混合し、それらを用いて本明細書の以下にさらに記載される特定の比の電解質媒体組成物を作製し、溶融するまで加熱する。金属板電極を溶融電解質媒体中に垂直に浸漬し、これは、円盤型にコイル巻きされたワイヤを含む、水平に並べられたアノード及びカソードを用いた従来の研究とは対照的であり、例えば、電解合成生成物を
図1に示す。
【0050】
[55] 0.25インチ厚ミュンツ(Muntz)真鍮板をカソードとして使用し、0.04インチ厚ニクロム(chromel A)板をアノードとして使用した。0.01~1インチ厚ミュンツ真鍮板、0.01~1インチ厚ニクロムも有効である。カソードを2つの直列接続されたアノード間に並べ(挟み)、アノードの各々から1cmの間隙を空けた。0.25cm~10cmの間隙も有効である。電解質及び電極を矩形ステンレス鋼304筐体中に収容した。
【0051】
[56] 0.1A/cm
2の定電流を、770℃の電解温度で4時間の一定時間、垂直に浸漬させた平面電極に印加した。これは、異なる短い時間間隔(15、30又は90分間)の0.2A/cm
2の定電流における
図1に記載の実験と異なる。より低い又はより高い電流密度及びより短い又はより長い電解時間も、薄層CNTの作製に有効であり得る。
【0052】
[57] 実験後に真鍮カソードから粗生成物を収集し、冷却し、次いで水性洗浄手順を行った。洗浄した炭素生成物を真空濾過により分離し、60℃のオーブン中で一晩乾燥させ、黒色粉末生成物を得た。
【0053】
[58] 電解のクーロン効率は、
100%×C実測値/C理論値 (4)
(式中、C実測値は、カソードから取り出された洗浄炭素生成物の質量により測定され、C理論値=(Q/nF)×(12.01g C mol-1)であり、Qは、電解の間に通過した時間積分電荷であり、Fは、ファラデー定数(96485As mol-1e-)であり、四価炭素の還元でn=4e-mol-1である)
として決定される、炭素に変換された印加定電流電荷のパーセントである。
【0054】
[59] サンプルをPHENOM Pro Pro-X SEM、FEI Teneo LV SEMにより、及びFEI Teneo Talos F200X TEMにより分析する。
【0055】
[60] 実施例2
[61] CNTを、ニッケル合金アノード及び真鍮カソードを使用して2wt%の酸化リチウム(Li2O、99.5%)電解質を有する770℃の炭酸リチウム(Li2CO3、99.5%)(Li2CO3 1kg当たり0.67モルのLi2O)中で電解合成した。0.1A/cm2の比較的低い電流密度を印加し、大気(直接空気回収)からのCO2は、式(3)に従って電解質を再生するため及び電解質レベルを維持するために十分であった。濃縮CO2は必要とされず添加もされなかった。より低い又はより高い電流密度及びより短い又はより長い電解時間も、薄層CNTの作製に有効であり得る。
[62] CO2(ガス)→C(CNT)+O2(ガス) (3)。
【0056】
[63] 合成後、抜き取られたカソードが冷却され、カソードから固体生成物が容易に剥離し、顕微鏡観察前に洗浄されて過剰の電解質を除去した。
【0057】
[64]
図3は、薄層CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示し、それは電解質媒体組成物がCNT直径に影響し得ることを実証する。
図3A~3EのSEM画像中のスケールバーは、それぞれ200μm、200μm、10μm、及び10μmである。
図3E~3GのTEM画像中のスケールバーは、それぞれ200μm、3μm、及び1μmである。
【0058】
[65]
図3のパネルBは、カソードの後側(すなわち、アノードに面していない側)から取り出された電解合成生成物のSEM画像である。特に、カソード上で最初に形成する多層グラフェン板の一部であり、そこから先端成長機序と一致する態様でCNT成長が明らかである。生成物は、複数のSEM画像及び透過型電子顕微鏡(TEM)画像の目視検査により決定されたとおり、およそ98%の均一なCNTを有することが分かった。
【0059】
[66] Li2CO3電解質媒体中で2wt%のLi2Oを使用する繰り返し実験にわたり、クーロン効率は一貫して97%~100%であることが分かった。より低濃度の酸化リチウムはより厚い直径及びCNTをもたらし、2wt%超添加された酸化リチウムは観察された厚さをさらに減少させなかった。
【0060】
[67] CNTの代表的サンプルの直径は、Phenom SEMのナノ測径器機能を用いて測定され、約50~80nmで変動し、又は純粋Li2CO3中で電解合成されたCNTの直径のほぼ半分であった。
【0061】
[68] 実施例3
[69] この実施例において、電解質へのメタホウ酸カルシウムの添加を試験した。CO2電解において使用される炭酸リチウム電解質媒体への5~10wt%のメタホウ酸リチウムの添加でホウ素がCNTをドープし、その電気伝導率を10倍増加させることがこれまでに実証されている。リチウム電解質へのアルカリ土類金属炭酸塩の添加が、カーボンナノマテリアル電解生成物に対してかなりの効果を有することも示されている。例えば、炭酸マグネシウムの添加はCNTの形成を妨害し、炭酸カルシウムの添加は、CNTの形成を阻害し、縮小させたが、その形成を許容し、CNTとしての生成物について、約15%のみの収率をもたらした。興味深いことに、Ca/Li混合炭酸塩電解質中で形成したCNTが純粋な炭酸リチウム中で合成されたものよりもかなり薄い層を有することが観察された。
【0062】
[70] この実施例において使用されたメタホウ酸カルシウムは、酸化カルシウム及びホウ酸の添加により合成された。
[71] CaO+2H3BO3→CaO・B2O3+3H2O (5)
【0063】
[72] 具体的には、0.2モルの酸化カルシウム及び0.4モルのホウ酸を300gのLi2CO3に添加し、770℃において一晩加熱して全ての水を蒸気として放出させた。溶融混合物は、Li2CO3中の0.67モーラル(7.7wt%)のメタホウ酸カルシウムであり、ニクロムアノード間に挟まれた6cm×7cmの真鍮カソードによるCO2の電解における電解質として用いられた。
【0064】
[73] 電解は、式4に従って測定されたとおり100%のクーロン効率に接近し、電解合成生成物は2~6μmの長さのCNTからなるものであった。CNT生成物は、実施例2の0.67モーラルの酸化リチウム合成よりもわずかに純粋でない(90%のCNTの収率)ことが分かった。
【0065】
[74] 4時間の電解後に抜き取られ、冷却されたカソードを
図4の左側に示す。
図4A中の白色円筒体(両側矢印により示される)は、アノードとの短絡を防止するためにカソード上に配置されたアルミナである。
図4のTEM画像中のスケールバーは、それぞれ2μm(
図4C)、500nm(
図4D)、200nm(
図4E)、及び10nm(
図4F)である。
【0066】
[75] 炭酸リチウム電解合成CNTにおけるホウ酸カルシウムの代表的サンプルの直径は、同様の純粋な炭酸リチウム又は酸化リチウム電解質を有する炭酸リチウムにおけるものよりもかなり小さいことが分かり、約22~42nmで変動した。
【0067】
[76] カウントごとのCNT直径サイズの分布を、
図5において、0.67mのLi
2O(上段パネル)、又は0.67mのCaO・B
2O
3(下段パネル)のいずれかを含有する炭酸リチウム電解質から形成されたCNT生成物間で比較する。
【0068】
[77] 4時間の電解後の平均CNT直径は、添加剤なしのLi2CO3で130nm、0.67mのLi2Oを用いて65nm、0.67mのCaO.B2O3を用いて32nmであった。
【0069】
[78] 実施例4
[79] この実施例において、追加のカーボンナノチューブ直径限定成分をラマン分光法により測定されたとおり実証した。具体的には、高い定電流電解電流密度Jと、(i)溶融炭酸塩電解質への酸化リチウムの添加、(ii)電解質への酸化カルシウムの添加、(iii)電解質へのホウ酸塩の添加のいずれか、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせ、との組み合わせである。
【0070】
[80] カーボンナノチューブのラマンスペクトルは約1350cm-1及び約1580cm-1に2つの鋭いピークを含み、それらは、それぞれ乱れ誘起モード(Dバンド)及び高周波数E2g一次モード(Gバンド)に対応する。
【0071】
[81] DピークとGピークとの強度比(RD/G)は、有用な尺度を与える。より高いRは、より厚く、及び/又はより無秩序なCNTを示し;きれいな単層カーボンナノチューブ(SWCNT)はR<0.1を有する傾向があり;きれいな多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は0.2<R<0.4を有する傾向がある。
【0072】
[82] MWCNTは、純粋な炭酸リチウム中でJ=0.1A/cm2における電解により合成し、130nmの測定直径及びR=0.4を有することが分かった。MWCNTは、2wt%の添加された酸化リチウムを有する炭酸リチウム中でJ=0.1A/cm2における電解によっても合成し、65nmの測定直径及びR=0.3を有することが分かった。高いJ=0.6A/cm2において、2wt%の添加された酸化リチウムを有する炭酸リチウム中で電解により合成されたMWCNTは、50nmのより小さい測定直径及びR=0.2を有した。
【0073】
[83] 全ての添加剤がRの減少をもたらすわけではなく、1.3wt%のFe2O3を用いて合成されたMWCNTは、0.8の測定Rを示した。しかしながら、この高いJ値において、電解質への酸化リチウムとホウ酸、又は酸化カルシウムとホウ酸のさらなる添加は、よりいっそう小さいR(R<0.2)をもたらす。
【0074】
[84] 実施例5
[85] この実施例において、追加のCNT直径限定成分を実証する。具体的には、(定電流)電解の継続時間の限定と、(i)電解質への酸化リチウムの添加、(ii)電解質へのホウ酸塩の添加、若しくは(iii)電解質への酸化カルシウムの添加のいずれか、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせとの組み合わせである。CNT直径は定電流電解時間に比例すると測定され、この比例は、他の直径限定因子、例えば、添加された酸化リチウム、ホウ酸塩、又は酸化カルシウムにより保持されることが分かった。例えば、定電流電解において15分間成長させた薄層CNTは、定電流電解において約90分間成長させたCNTの直径のおよそ1/6であることが分かった。いっそうより薄い層のCNTは5分間の電解後にのみ成長し、より厚い層のCNTは90分間超の電解後に成長する。