(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】下水汚泥処理方法、および下水汚泥処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20231102BHJP
C02F 11/12 20190101ALI20231102BHJP
C12P 7/6436 20220101ALI20231102BHJP
C12P 7/649 20220101ALI20231102BHJP
C12P 7/6458 20220101ALI20231102BHJP
C11B 13/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C02F11/00 C
C02F11/12
C02F11/00 Z
C12P7/6436
C12P7/649
C12P7/6458
C11B13/00
(21)【出願番号】P 2021086971
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】521223944
【氏名又は名称】松本 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】松本 光史
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-508922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0259614(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102925294(CN,A)
【文献】特開2004-091783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F11/00-11/20
C12P7/00-7/66
C11B13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物廃棄物
として混合工程に供給するために、下水処理場の活性汚泥を原料とし、前記活性汚泥を乾燥し、
含水率10~20質量%の微生物廃棄物とする乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた
含水率10~20質量%の微生物廃棄物と、アルコールと、触媒とを直接混合する混合工程と、
前記混合により、前記微生物廃棄物の脂肪酸グリセリンエステルと、前記アルコールとを反応させて脂肪酸エステルを生成する反応工程と、
前記脂肪酸エステルを抽出する抽出工程と、を有
し、
前記混合工程において、前記微生物廃棄物と、前記アルコールの質量比(微生物廃棄物:アルコール)が、0.1:10~1:1であり、
前記アルコールが、メタノールであり、前記脂肪酸エステルがC8~C18の脂肪酸メチルエステルである、前記活性汚泥量を低減する、下水汚泥処理方法。
【請求項2】
反応槽と、
前記反応槽
に、下水処理場の活性汚泥を原料として乾燥し、含水率10~20質量%とした微生物廃棄物を供給する微生物廃棄物供給手段と、
前記反応槽にアルコールを供給するアルコール供給手段と、
前記反応槽を、加熱する加熱手段と、
前記反応槽で前記微生物廃棄物と前記アルコールが反応することで生成された脂肪酸エステルを抽出する抽出手段と、を有
し、
前記アルコールが、メタノールであり、前記脂肪酸エステルがC8~C18の脂肪酸メチルエステルである、前記活性汚泥量を低減する、下水汚泥処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥などの微生物廃棄物の処理方法に関する。また、本発明は微生物廃棄物の処理装置に関する。また、下水汚泥処理方法および下水汚泥処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理などにおいては、水処理技術として、活性汚泥法などの微生物を用いた処理が行われている。これらの処理は、水処理に伴い、微生物が増加することを利用するため、増加した微生物を含む余剰汚泥の処理が必要となる。余剰汚泥は、バイオガスや汚泥燃料のようなエネルギー利用、農業利用など新たなバイオマス資源として注目され、再利用が進められている。また、醸造を伴う食品などの製造にあたっては、ビールかすや、酒かす、焼酎かす、しょう油かす、こうじかすなど微生物を含む発酵・醸造かすが生じる。
【0003】
下水処理に伴う汚泥処理技術としては、その処理対象や処理量などに合わせて多様な技術が開示されている。例えば、非特許文献1の第2章基礎技術編には、脱水処理として、汚泥の凝集や、脱水装置が記載されている。また、汚泥の処理について、乾燥や、焼却、コンポスト化、減容化技術などが記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、下水道事業では多くのエネルギーを使用するとともに多量の温室効果ガスを排出しており、下水道管理者は下水汚泥をエネルギー資源として捉え、さらに自らのインフラを最大限に生かす意味からも下水処理場を核とした地域におけるエネルギー対策と地球温暖化対策に積極的に取り組んでいく必要があることが記載されている。また、下水汚泥の有効利用は順調に進展し、2010年は80%近くが有効利用されていること、しかし、下水汚泥がバイオマス資源と位置付けられ、そのエネルギー活用が期待されているにも拘わらず、下水汚泥の有効利用はセメント化等の建設資材利用が大半を占める状況にあることが記載されている。また、この具体的なエネルギー化技術としては、固形燃料化技術、バイオガス利用技術、熱分解ガス化技術、焼却廃熱発電技術、水素製造・供給技術などが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】平成14年度 環境省請負事業 技術協力効率化推進事業 産業廃水処理技術移転マニュアル (総論編、基礎技術編、食品工場廃水編)(参照URL:http://www.env.go.jp/earth/coop/coop/document/15-pdf/)
【文献】下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン-平成29年度版-、平成30年1月、国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下水処理に伴い発生する余剰汚泥は、新たなバイオマス資源として一部利用されているが、いまだに十分に利用されていないバイオマスとなっている。また、余剰汚泥以外にも微生物を含む廃棄物は多量に発生し、これらのより有用な処理方法も求められている。
係る状況下、本発明は、余剰汚泥や発酵・醸造かすなどの微生物廃棄物の新たな利用のための処理方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0008】
<1> 微生物廃棄物と、アルコールと、触媒とを混合する混合工程と、
前記混合により、前記微生物廃棄物の脂肪酸グリセリンエステルと、前記アルコールとを反応させて脂肪酸エステルを生成する反応工程と、
前記脂肪酸エステルを抽出する抽出工程と、を有する、微生物廃棄物の処理方法。
<2> 前記混合工程の前に、前記微生物廃棄物を乾燥し、含水率を50質量%以下の微生物廃棄物とする乾燥工程を有する、前記<1>記載の処理方法。
<3> 前記微生物廃棄物が、微生物を含む有機性汚泥、微生物を含む動植物性残渣のいずれかの廃棄物である、前記<1>または<2>のいずれかに記載の処理方法。
<4> 前記アルコールが、メタノールであり、前記脂肪酸エステルがC8~C18の脂肪酸メチルエステルである、前記<1>~<3>のいずれかに記載の処理方法。
<5> 前記<1>~<4>のいずれかに記載の処理方法において、前記微生物廃棄物として混合工程に供給するために、下水処理場の活性汚泥を原料とし、前記活性汚泥を乾燥する前処理工程を、有することで活性汚泥量を低減する、下水汚泥処理方法。
<6> 反応槽と、前記反応槽に微生物廃棄物を供給する微生物廃棄物供給手段と、前記反応槽にアルコールを供給するアルコール供給手段と、前記反応槽を、加熱する加熱手段と、前記反応槽で前記微生物廃棄物と前記アルコールが反応することで生成された脂肪酸エステルを抽出する抽出手段と、を有する、微生物廃棄物の処理装置。
<7> 前記<6>記載の処理装置を有し、前記微生物廃棄物供給手段で供給する微生物廃棄物を調製するために、下水処理場の活性汚泥を原料とし、前記活性汚泥を乾燥したものを前記微生物廃棄物とする前処理手段を、有することで活性汚泥量を低減する、下水汚泥処理システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微生物廃棄物を処理して減容化でき、さらに、脂肪酸エステルを得ることができる。この脂肪酸エステルは、液体燃料や、化成品原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】本発明の処理装置の一例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0012】
[本発明の処理方法]
本発明の処理方法は、微生物廃棄物と、アルコールと、触媒とを混合する混合工程と、前記混合により、前記微生物廃棄物の脂肪酸グリセリンエステルと、前記アルコールとを反応させて脂肪酸エステルを生成する反応工程と、前記脂肪酸エステルを抽出する抽出工程とを、を有する、微生物廃棄物の処理方法である。
【0013】
[本発明の処理装置]
本発明の処理装置は、反応槽と、前記反応槽に微生物廃棄物を供給する微生物廃棄物供給手段と、前記反応槽にアルコールを供給するアルコール供給手段と、前記反応槽を、加熱する加熱手段と、前記反応槽で前記微生物廃棄物と前記アルコールが反応することで生成された脂肪酸エステルを抽出する抽出手段と、を有する、微生物廃棄物の処理装置である。
【0014】
本発明の処理方法や本発明の処理装置によれば、微生物廃棄物を処理して減容化でき、さらに、脂肪酸エステルを得ることができる。本発明の下水汚泥処理方法は、本発明の処理方法を利用するものであり、また、本発明の下水汚泥処理システムは、本発明の処理装置を利用するものであり、下水処理に係る余剰汚泥を処理するものである。
【0015】
なお、本願において本発明の処理装置により本発明の処理方法を行うこともできる。また本発明の下水汚泥処理システムや下水汚泥処理方法はこれらの本発明の処理装置や本発明の処理方法を利用することもできる。本願において、これらのそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0016】
本発明者らは、余剰汚泥等の処理にあたって、微生物を主成分として含んでいることに着目した。微生物は、細胞膜の成分として脂肪酸グリセリンエステルを多量に含んでいる。この脂肪酸グリセリンエステルが、余剰汚泥等にも含まれていると考えられる。この脂肪酸グリセリンエステルは、そのままでは回収が困難だが、アルコールと反応して、脂肪酸エステルと、グリセリンとを生成することができる可能性があることに着目し、実験から実際に脂肪酸エステルを得ることができることを確認した。この脂肪酸エステルは、液体燃料や、化成品の原料としても有用である。本発明はこのような知見等に基づくものである。
【0017】
[本発明の処理方法のフロー]
図1は、本発明の処理方法の一例のフロー図である。この処理方法は、微生物廃棄物と、アルコールと、触媒とを混合するステップS11と、脂肪酸エステルを生成するステップS21と、脂肪酸エステルを抽出するステップS31とを有する。これにより、微生物廃棄物を処理して、脂肪酸エステルを得ることができる。
【0018】
[混合工程]
本発明の処理方法は、混合工程を有する。混合工程は、微生物廃棄物と、アルコールと、触媒とを混合する工程である。この工程は、混合するための容器に、それぞれを順次混合してもよいし、同時に供給しながら混合してもよい。また、混合しながら攪拌翼などで攪拌してもよい。
【0019】
[微生物廃棄物]
混合工程は、微生物廃棄物を用いる。微生物廃棄物は、微生物を含む廃棄物である。微生物廃棄物としては、例えば、有機性汚泥や、動植物性残渣などを対象とすることができる。これらは産業廃棄物として発生するものを対象とすることができる。微生物は、それぞれの分野や目的に応じて、下水等の処理や、食品等の製造などで増殖させて利用する微生物であり、使用後に過剰に発生して廃棄などが必要となるものである。例えば、活性汚泥に含まれる微生物や、酵母、麹菌などを対象とすることができる。
【0020】
[有機性汚泥]
有機性汚泥は、有機性の汚泥である。例えば、活性汚泥とも呼ばれる有機性余剰汚泥や、浄水汚泥、下水汚泥、ピルピット汚泥などの、処理工程で微生物を利用しているものを対象とすることができる。
【0021】
[動植物性残渣]
動植物性残渣は、動植物性の残渣である。例えば、醤油かす、こうじかす、酒かす、ビールかす、焼酎かすなどの発酵・醸造かすなどは、発酵・醸造工程で微生物を利用しており、製造後に過剰に発生した微生物を含む廃棄物として発生する。これらを、処理対象とすることができる。
【0022】
[乾燥工程]
本発明の処理方法は、乾燥工程を有することが好ましい。乾燥工程は、微生物廃棄物を乾燥し、含水率を50質量%以下の微生物廃棄物とする工程である。乾燥工程は、含水率を低減することができる手段を適宜採用することができる。例えば、熱風乾燥や、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥などがあげられる。乾燥のための熱源としては、下水処理場の余剰熱源などを利用することもできる。
【0023】
[含水率]
微生物廃棄物は、含水率が、50質量%以下であることが好ましい。一般的な余剰汚泥の脱水ケーキなどは、処理設備の仕様や、処理対象物、最終処理手段などによっても異なるが、65~90質量%程度である。一方、脂肪酸エステルの製造にあたっては、反応の場に水が存在すると反応を阻害する要素となる恐れがある。このため、一般的な脱水ケーキよりもさらに水分を低減することが好ましい。
【0024】
本発明の混合工程に供給する微生物廃棄物は、含水率を、50質量%以下や、30質量%以下、20質量%以下とすることが好ましい。含水率の下限は特に設けなくてもよいが、実質0%となるまで乾燥すると乾燥工程の効率が悪くなる恐れがあるため、0.1質量%以上や、1質量%以上、2質量%以上、5質量%以上、10質量%以上程度の下限を設けてもよい。これらから、微生物廃棄物の特に好適な含水率は、10質量%~20質量%である。
【0025】
含水率の測定は、含水率計を用いて測定する。この測定は、試料の水分を蒸発させた重量と最初の重量の差から算出致する。含水率計は市販されている機器で測定することができる。
【0026】
図2は、本発明の処理方法の一例のフロー図である。この処理方法は、余剰汚泥を乾燥する前処理を行って微生物廃棄物に相当する汚泥とするステップS12と、乾燥した汚泥と、アルコールと、触媒とを混合するステップS22と、脂肪酸エステルを生成するステップS32と、脂肪酸エステルを抽出するステップS42とを有する。これにより、微生物廃棄物を処理して、脂肪酸エステルを得ることができる。
【0027】
[下水処理(前処理工程)]
微生物廃棄物として混合工程に供給するために、下水処理場の活性汚泥を原料とし、活性汚泥を乾燥する前処理工程を、有することで活性汚泥量を低減する。これにより、本発明は、下水汚泥処理システムや下水汚泥処理方法とすることもできる。この前処理工程の乾燥は、前述の乾燥工程を採用してもよい。このように、本発明は下水処理場に併設するなどして追加して採用することで下水汚泥処理をすることができる技術である。
【0028】
[アルコール]
本発明の混合工程は、アルコールを混合する。アルコールは、微生物廃棄物の細胞膜等に由来する脂肪酸グリセリンエステルとエステル交換反応するアルコールが用いられる。好ましくは、ROHの一般式で表され、前記Rが低級アルキルである低級アルコールが用いられる。この低級アルキルは、より具体的には、CnH2n+1で表され、nは、1~5が好ましい。アルコールは、例えば、メタノールや、エタノール、ブタノール、プロパノール、ヘプタノールからなる群から選択されるいずれか1以上を用いることが好ましい。特に、メタノールが好ましい。低級のアルコールである方が、極性が高いため、生成した脂肪酸メチルエステルと2相に分かれ易くなる。これにより、反応残渣との静置でも分離できるように、分離が容易になる。よって、脂肪酸エステルを効率よく製造できる。特にメタノールを用いると、反応性が高く、分離も容易となり製造効率が向上する。
【0029】
[触媒]
エステル交換反応は、単に微生物有機物とアルコールを接触させるだけでは反応が遅くなるおそれがあるため、触媒を用いて進行させる。触媒は、酸触媒や塩基触媒を用いることができる。
【0030】
酸触媒としては、塩酸や硫酸などを用いることができる。特に、塩酸が好ましい。酸触媒濃度は、アルコール量に対して、1~3質量%、好ましくは5質量%以上、10質量%以下が好ましい。また、酸触媒量は、使用するアルコールによって変化させる。これらの塩酸濃度や、硫酸濃度等は、アルコールとの混合後の各酸触媒の濃度として設定して管理することができる。
【0031】
塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがある。水酸化ナトリウムはアルコールに溶解しないため、水溶液として添加する必要がある。その際、条件によっては、水溶液の水分により石鹸を生じさせる可能性がある。水酸化カリウムはアルコールに可溶で、水分を含まないので、石鹸が生じない。このため、水酸化カリウムがより好ましい。塩基触媒はアルコール量に対して、1~3質量%、好ましくは7質量%以上、10質量%以下が良い。また、塩基触媒量は、使用するアルコールによって変化させる。
【0032】
[混合比率]
微生物廃棄物と、アルコールとの混合比率は、微生物廃棄物の微生物含有量や、アルコールの種類などに応じて適宜設定できる。例えば、微生物廃棄物:アルコールの質量比として、0.1:10~1:1程度とすることができる。すなわち、微生物廃棄物の質量/アルコールの質量が、0.01~1とすることができる。
【0033】
また、触媒の添加量は、触媒の種類等にもよるが、アルコールを混合や反応における媒質として利用することができ、このアルコールに対して(触媒/アルコール)、0.1~10質量%濃度とすることができる。
【0034】
[反応工程]
本発明の処理方法は、反応工程を有する。反応工程は、混合により、前記微生物廃棄物の脂肪酸グリセリンエステルと、前記アルコールとを反応させて脂肪酸エステルを生成する工程である。微生物廃棄物と、アルコールとを混合することでこの反応工程は開始するが、反応速度を向上させるために、昇温した状態で反応させることが好ましい。
【0035】
[反応温度]
反応温度は、0℃以上や、10℃以上、20℃以上とすることができる。一方、低温では反応時間がかかるため、50℃以上や、60℃以上、80℃以上のように昇温して反応させることが好ましい。温度が高すぎると、アルコール成分が過剰に揮発しやすくなったり、各種成分が炭化や劣化したりするおそれがあり、処理装置の負荷なども大きくなるため、150℃以下や、120℃以下の上限を設けてもよい。反応工程は、アルコールの揮発などを抑制しながら、反応温度を確保するために加圧下で行ってもよい。
【0036】
[反応時間]
反応温度や、反応量などに応じて、十分に脂肪酸エステル化が進むまで処理するため、反応時間の定めは特にない。例えば、30分以上や、1時間以上とすることができる。また、その上限は、6時間以下や、3時間以下とすることができる。
【0037】
[抽出工程]
反応工程後、脂肪酸エステルを回収するために、脂肪酸エステルを抽出する抽出工程を行う。抽出工程は、脂肪酸エステルを、アルコールや他の微生物由来成分、反応残渣と、分離することができるものであればよい。脂肪酸エステルは、脂溶性であり、他の成分は水溶性のものが多い。このような性質を利用して、油相と水相に分離する二相分離などを行うことが好ましい。
【0038】
脂肪酸エステルを、油相に抽出するために、ヘキサンなどの媒質を用いて混合する。また、他の成分を除去するために水を混合して分取・水洗する。この後、静置して、二相分離して、ヘキサン層を回収することで、脂肪酸エステルを選択的に抽出して回収できる。この脂肪酸エステルは、ヘキサンよりも揮発しにくいため、風乾等することで、脂肪酸エステルを得ることができる。
【0039】
[脂肪酸エステル]
本発明によれば、脂肪酸グリセリンエステルとアルコールとを反応させて、脂肪酸エステル(脂肪酸アルキルエステル)と、グリセリンとを得る。脂肪酸エステルは、アルコールとして利用するものによって得られるものが変わる。例えば、メタノールを用いることで、脂肪酸メチルエステルを得ることができる。また、エタノールを用いることで、脂肪酸エチルエステルを得ることができる。
【0040】
脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素鎖長は微生物廃棄物の種類によって適宜調整される。例えば、脂肪酸エステルは、C4~C22の脂肪酸エステルとすることができる。より好ましくは、C8~C18の脂肪酸エステルとすることができる。また、アルコールとしてメタノールを用いることで、脂肪酸メチルエステルを得ることができる。C8~C18とは、脂肪酸エステルのアルキル基の炭素鎖長(C)が、8~18のものである。すなわち、例えばC8の脂肪酸エステルとは、炭素鎖数8の脂肪酸エステルである。例えば、汚泥には様々な微生物が含まれているため、C8~C18の脂肪酸エステルが分布したものが得られる。より具体的には、C8、C10、C12、C14、C16、C18の脂肪酸エステルが得られる。
【0041】
脂肪酸エステルは、多様な用途に用いることができる。例えば、バイオディーゼル燃料やバイオジェット燃料などの液体燃料として用いることができる。また、樹脂・プラスチックや潤滑油、繊維などの化成品原料としても利用することができる。なお、副生するグリセリンも回収して資源化することもできる。また、副生するグリセリンと未反応アルコールは、消化槽に導入し、ガス発生の原料として利用できる。
【0042】
[装置例]
図3は、本発明の処理装置に係る装置の概要図である。この装置は、汚泥槽1と、エタノール槽2と、反応槽3と、抽出槽4と、回収槽5と、回収槽6とを有する。汚泥槽1から微生物廃棄物を反応槽3に供給し、エタノール槽2からエタノールを反応槽3に供給する。また、エタノール槽2のエタノールには触媒も混合しておく。この反応槽3で、微生物廃棄物と、エタノールと、触媒とを混合して反応させる。この反応のために、適宜、加熱して、攪拌しながら反応させる。反応後、脂肪酸エステルを含む反応液から、抽出槽4で、脂肪酸エステルを分離して抽出するための処理を行う。その後、脂肪酸エステルを含む相と、その他の相とを、分離し、それぞれ回収槽5と、回収槽6とに別々に回収する。この装置は、一般的な下水処理場に追加で採用することができる技術である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
(1)まず、下水汚泥を凍結乾燥して凍結乾燥汚泥を得た。
(2)次に、この凍結乾燥汚泥約0.3gに、HCl濃度5質量%のメタノール(5%HCl-MeOH)を5mL混合した。
(3)この混合した状態で、100℃で60分反応させて、メチルエステル化させた反応液を製造した。
(4)反応液に、ヘキサン5mLを混合して、ヘキサン相に脂肪酸メチルエステルを抽出した。
(5)さらに、水5mLを混合して分取水洗を行った。
(6)その後、静置して二相分離して、ヘキサン相を分取した。
(7)分取したヘキサン相に、窒素を供給しながら風乾して、残留物を得た。残留物をヘキサンに溶かし、分析用サンプルを得た。
(8)この残留物をGC/MS装置(島津製作所 Shmadzu HiCap-CBP5)、脂肪酸分析カラム(FAMEWAX column)を用いて分析した。脂肪酸メチルエステル同定は、ピーク保持時間と分子量から標準品と比較して行った。(参考文献:T. Tanaka et al., Production of eicosapentaenoic acid by high cell density cultivation of the marine oleaginous diatom Fistulifera solaris, Bioresource Technology 245 (2017) 567-572)
(9)その結果、炭素鎖長としてC8~C18の脂肪酸メチルエステルが主に生成していることを確認した(下表参照)。また、この残留物を容量した結果、原料とした凍結乾燥下水汚泥量に対して、約10質量%の反応物が得られた。
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、下水処理場などの廃棄物の処理に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 汚泥槽
2 エタノール槽
3 反応槽
4 抽出槽
5、6 回収槽