(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】調光シート、および、調光シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1343 20060101AFI20231102BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20231102BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G02F1/1343
G02F1/13 505
G02F1/1334
(21)【出願番号】P 2020525739
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024042
(87)【国際公開番号】W WO2019244871
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2018115228
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉野 昌明
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507471(JP,A)
【文献】特開2008-276057(JP,A)
【文献】特開2007-005345(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098312(WO,A1)
【文献】特開2000-089688(JP,A)
【文献】特開平11-202362(JP,A)
【文献】特開平07-320637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1343,1/13,1/1333
B23K 26/57
E06B 9/24
G02F 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶組成物を含む調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層である第1透明電極層および第2透明電極層と、
前記調光層および前記一対の透明電極層を挟む一対の透明支持層と、を備え
る調光シートであって、
前記第1透明電極層
は、レーザ加工痕である絶縁部
と、前記絶縁部によって分割された複数の第1電極部とを有し、
前記第2透明電極層は、レーザ加工痕を含む帯状部であって、絶縁性を有する部分が前記帯状部の延在方向に断続的に並ぶ前記帯状部と、複数の第2電極部とを有し、互いに隣り合う前記第2電極部の間に前記帯状部が位置し、
前記調光シートの表面と対向する位置から見て、前記絶縁部と前記帯状部とは、同一の方向に沿って延びるように重なり、
前記複数の第1電極部は、別々の電圧信号が入力されるように構成され、前記複数の第2電極部は、共通の電圧信号が入力されるように構成されている
調光シート。
【請求項2】
前記第1透明電極層は、導電膜から構成されている部分を含み、
前記絶縁部では、導電膜が破壊されている
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記第1透明電極層と接触する機能層を備え、前記機能層は、前記調光層、または、前記調光層と前記第1透明電極層との間に配置される層であり、
前記一対の透明支持層は、第1透明支持層および第2透明支持層からなり、
前記第1透明支持層が前記第1透明電極層を支持し、
前記第1透明電極層は、導電膜から構成されている部分を含み、
前記絶縁部では、前記第1透明支持層から導電膜が剥がれており、
前記機能層のなかの前記絶縁部の近傍には、前記第1透明支持層から剥がれた前記導電膜の膜片が位置する
請求項1に記載の調光シート。
【請求項4】
前記第1透明電極層と接触する機能層を備え、前記機能層は、前記調光層、または、前記調光層と前記第1透明電極層との間に配置される層であり、
前記機能層のなかの前記絶縁部に接触する部分では、前記機能層のなかの前記
第1電極部に接触する部分よりも、前記
第1電極部を構成する複数の元素のうちの少なくとも一部の元素の含有量が高い
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項5】
前記絶縁部の表面は、前記第1透明電極層のなかの前記絶縁部が隣接する部分の表面よりも粗である
請求項1~4のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
前記調光シートの表面と対向する位置から見て前記絶縁部が位置する領域の可視光線透過率は、前記表面と対向する位置から見て前記第1透明電極層のなかの前記絶縁部以外の部分が位置する領域の可視光線透過率よりも低い
請求項1~
5のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
前記調光シートの表面と対向する位置から見て、前記絶縁部が位置する領域は、1つの方向に沿って複数の円が連なった外形を有する帯状領域から構成されている
請求項1~
6のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項8】
第1透明支持層に支持された第1透明導電層と、第2透明支持層に支持された第2透明導電層との間に、液晶組成物を含む調光層が挟まれた多層体を形成することと、
レーザが前記第1および第2透明支持層のうち前記第1透明導電層よりも手前に位置する透明支持層を透過するように前記多層体にレーザを照射して、前記第1透明導電層に絶縁部を形成すること
であって、前記調光層に対して前記第1透明導電層の位置する側から前記多層体にレーザを照射し、前記第1透明導電層に前記絶縁部として絶縁性を有する部分が連続的に並ぶ部分を形成するとともに、前記第2透明導電層に、前記多層体の表面と対向する位置から見て、絶縁性を有する部分が前記絶縁部と重なりかつ前記絶縁部の延びる方向に沿って断続的に並ぶ部分を形成することと、
を含む調光シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート、および、調光シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層と、調光層および一対の透明電極層を挟む一対の透明支持層とを備えている。一対の透明電極層間の電位差に応じて液晶分子の配向状態が変わることにより、調光シートの光透過率が変わる。
【0003】
近年、複数の調光部を有する調光シートを備えて調光部ごとに光透過率の変更が可能な調光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。複数の調光部を有する調光シートにおいては、少なくとも一方の透明電極層が、複数の電極部を含む。複数の電極部の配置は、複数の調光部の配置に対応する。透明電極層内において、各電極部は他の電極部から絶縁されている。調光装置は、複数の電極部に別々に電圧信号を入力することにより、透明電極層間の電位差を調光部ごとに制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の調光部を備えた調光シートは、一方の透明支持層に支持される透明電極層と、他方の透明支持層に支持される透明電極層との間に調光層を充填して形成される。複数の電極部は、調光層を充填する前に、透明支持層に支持される単一の透明導電膜を、エッチングを利用してパターニングすることにより形成される。ここで、透明導電膜のパターニングに要する、レジストマスクの形成、露光、現像、エッチング、レジストマスクの除去、および、洗浄といった一連の工程は、調光シートの製造工程数を大幅に増大させている。
なお、上記課題は、複数の調光部を有する調光シートに限らず、パターニングされた透明電極層を備える調光シートの製造において共通する。
【0006】
本発明は、製造に要する工程数の低減を可能とした調光シート、および、調光シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層である第1透明電極層および第2透明電極層と、前記調光層および前記一対の透明電極層を挟む一対の透明支持層と、を備える。そして、前記第1透明電極層のなかにレーザ加工痕である絶縁部が位置する。
【0008】
上記構成によれば、レーザが照射されることによって絶縁部が形成可能であり、絶縁部によって第1透明電極層を区切ることが可能となる。そのため、エッチングによりパターニングされた第1透明電極層を備える調光シートと比較して、調光シートの製造に要する工程数の低減が可能である。
【0009】
上記構成において、前記第1透明電極層は、導電膜から構成されている部分を含み、前記絶縁部では、導電膜が破壊されていてもよい。
上記絶縁部は、レーザ照射によって好適に形成可能である。
【0010】
上記構成において、前記第1透明電極層と接触する機能層を備え、前記機能層は、前記調光層、または、前記調光層と前記第1透明電極層との間に配置される層であり、前記一対の透明支持層は、第1透明支持層および第2透明支持層からなり、前記第1透明支持層が前記第1透明電極層を支持し、前記第1透明電極層は、導電膜から構成されている部分を含み、前記絶縁部では、前記第1透明支持層から導電膜が剥がれており、前記機能層のなかの前記絶縁部の近傍には、前記第1透明支持層から剥がれた前記導電膜の膜片が位置してもよい。
上記絶縁部は、透明支持層および透明導電層からなる2つのシートに調光層が挟まれた状態での透明導電層に対するレーザ照射によって、好適に形成可能である。
【0011】
上記構成において、前記第1透明電極層と接触する機能層を備え、前記機能層は、前記調光層、または、前記調光層と前記第1透明電極層との間に配置される層であり、前記第1透明電極層のなかの前記絶縁部以外の部分が導電部であり、前記機能層のなかの前記絶縁部に接触する部分では、前記機能層のなかの前記導電部に接触する部分よりも、前記導電部を構成する複数の元素のうちの少なくとも一部の元素の含有量が高くてもよい。
上記絶縁部は、透明支持層および透明導電層からなる2つのシートに調光層が挟まれた状態での透明導電層に対するレーザ照射によって、好適に形成可能である。
【0012】
上記構成において、前記絶縁部の表面は、前記第1透明電極層のなかの前記絶縁部が隣接する部分の表面よりも粗であってもよい。
上記絶縁部は、単一の透明導電層に対するレーザ照射によって好適に形成可能である。
【0013】
上記構成において、前記第2透明電極層は、レーザ加工痕を含む帯状部であって、絶縁性を有する部分が前記帯状部の延在方向に断続的に並ぶ前記帯状部を有し、前記調光シートの表面と対向する位置から見て、前記絶縁部と前記帯状部とは重なってもよい。
【0014】
上記構成によれば、第1透明電極層の絶縁部と第2透明電極層の帯状部とをレーザ照射によって一括して形成可能であるため、第1透明電極層の絶縁部を形成する際に、第2透明電極層の一部で導電性が失われることが許容される。そのため、レーザ照射によって絶縁部を好適に形成可能である。
【0015】
上記構成において、前記調光シートの表面と対向する位置から見て前記絶縁部が位置する領域の可視光線透過率は、前記表面と対向する位置から見て前記第1透明電極層のなかの前記絶縁部以外の部分が位置する領域の可視光線透過率よりも低くてもよい。
上記絶縁部は、レーザ照射によって好適に形成することができる。
【0016】
上記構成において、前記調光シートの表面と対向する位置から見て、前記絶縁部が位置する領域は、1つの方向に沿って複数の円が連なった外形を有する帯状領域から構成されてもよい。
【0017】
上記絶縁部は、パルス発振のレーザ照射によって好適に形成可能である。パルス発振のレーザを用いることによって、レーザ照射によって生じた熱を放散させつつ絶縁部を形成することができるため、調光層における気泡の発生が抑えられる。
【0018】
上記構成において、前記第1透明電極層は、前記絶縁部によって分割された複数の電極部を有し、前記複数の電極部は、別々の電圧信号が入力されるように構成されている。
上記構成によれば、複数の電極部の形成がレーザ照射によって可能であるため、複数の調光部を備える調光シートにおいて、製造に要する工程数の低減が可能である。
【0019】
上記課題を解決する調光シートの製造方法は、第1透明支持層に支持された第1透明導電層と、第2透明支持層に支持された第2透明導電層との間に、液晶組成物を含む調光層が挟まれた多層体を形成することと、レーザが前記第1および第2透明支持層のうち前記第1透明導電層よりも手前に位置する透明支持層を透過するように前記多層体にレーザを照射して、前記第1透明導電層に絶縁部を形成することと、を含む。
【0020】
上記製法によれば、多層体に対してレーザを照射する1つの工程によって絶縁部を形成することが可能であるため、調光シートの製造に要する工程数の低減が可能である。
【0021】
上記製法において、前記多層体にレーザを照射することは、前記調光層に対して前記第1透明導電層の位置する側から、前記多層体にレーザを照射することを含んでもよい。
上記製法によれば、絶縁部の好適な形成が可能である。また、2つの透明導電層のうち、レーザの光源に対して近い方の透明導電層に絶縁部が形成されるため、焦点やレーザのパワー等の照射条件の設定が容易である。
【0022】
上記製法において、前記多層体にレーザを照射することは、前記調光層に対して前記第2透明導電層の位置する側から、前記多層体にレーザを照射することを含んでもよい。
上記製法によれば、絶縁部の好適な形成が可能である。
【0023】
上記製法において、前記多層体にレーザを照射することは、前記第1透明導電層に前記絶縁部として絶縁性を有する部分が連続的に並ぶ部分を形成するとともに、前記第2透明導電層に絶縁性を有する部分が連続的または断続的に並ぶ部分を形成することを含んでもよい。
【0024】
上記製造方法によれば、第1透明導電層に絶縁部を形成する際に、第2透明導電層の一部で導電性が失われることが許容される。したがって、第1透明導電層に絶縁部を好適に形成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、調光シートの製造に要する工程数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】調光シートの一実施形態について、ノーマルタイプの調光シートの断面構造を示す図。
【
図2】調光シートの一実施形態について、リバースタイプの調光シートの断面構造を示す図。
【
図3】一実施形態の調光シートの平面構造を示す図。
【
図4】一実施形態の調光シートにおいて、第1形態の透明電極層の平面構造を示す図。
【
図5】一実施形態の調光シートにおいて、第2形態の透明電極層の平面構造を示す図。
【
図6】一実施形態の調光シートの製造工程を示す図であって、形成された多層体を示す図。
【
図7】一実施形態の調光シートの製造工程を示す図であって、第1照射形態によるレーザ照射工程を示す図。
【
図8】一実施形態の調光シートの製造工程を示す図であって、第2照射形態によるレーザ照射工程を示す図。
【
図9】一実施形態の調光シートの製造工程を示す図であって、第3照射形態によるレーザ照射工程を示す図。
【
図10】一実施形態の調光シートの製造工程を示す図であって、第4照射形態によるレーザ照射工程を示す図。
【
図11】一実施形態の調光シートにおける絶縁部の構成の第1例を示す図。
【
図12】一実施形態の調光シートにおける絶縁部の構成の第1例を示す図。
【
図13】一実施形態の調光シートにおける絶縁部の構成の第2例を示す図。
【
図14】一実施形態の調光シートにおける絶縁部の構成の第2例を示す図。
【
図15】一実施形態の調光シートにおける境界部の外観の一例を示す図。
【
図16】一実施形態の調光シートにおける境界部の外観の他の例を示す図。
【
図17】(a)は、実施例の調光シートを分割した積層体における調光層表面のSEM画像を示す図、(b),(c),(d)は、(a)に含まれる領域に対するEDXマッピング結果を示す図。
【
図18】(a),(b),(c)は、実施例の調光シートを分割した積層体に対するEDXスペクトルを示す図。
【
図19】実施例の調光シートを分割した積層体における絶縁部付近のSEM画像を示す図。
【
図20】実施例の調光シートを分割した積層体における帯状部付近のSEM画像を示す図。
【
図21】実施例の調光シートにおける境界部の実体顕微鏡画像を示す図。
【
図23】変形例の調光シートにおいて、透明電極層の平面構造を示す図。
【
図25】変形例の調光シートにおいて、透明電極層の平面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1~
図25を参照して、調光シート、および、調光シートの製造方法の一実施形態を説明する。
【0028】
[調光装置]
本実施形態の調光シートを備える調光装置の全体構成を説明する。
図1が示すように、調光装置は、調光シート10と、調光シート10への駆動電圧の印加を制御する制御部50とを備えている。調光シート10は、ノーマルタイプおよびリバースタイプのいずれかの構造を有する。
図1は、ノーマルタイプの調光シート10Nの断面構造を示す。
【0029】
ノーマルタイプの調光シート10Nは、調光層11と、一対の透明電極層である第1透明電極層12Aおよび第2透明電極層12Bと、一対の透明支持層である第1透明支持層13Aおよび第2透明支持層13Bとを備えている。第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとは、調光層11を挟み、第1透明支持層13Aと第2透明支持層13Bとは、調光層11および透明電極層12A,12Bを挟んでいる。第1透明支持層13Aは、第1透明電極層12Aを支持し、第2透明支持層13Bは、第2透明電極層12Bを支持している。
【0030】
第1透明電極層12Aは、第1透明電極層12Aの表面に配置された第1端子部15Aから延びる配線を通じて制御部50に接続されている。第2透明電極層12Bは、第2透明電極層12Bの表面に配置された第2端子部15Bから延びる配線を通じて制御部50に接続されている。第1端子部15Aは、調光シート10Nの端部にて、第1透明電極層12Aが、調光層11、第2透明電極層12B、および、第2透明支持層13Bから露出している領域に配置されている。第2端子部15Bは、調光シート10Nの端部にて、第2透明電極層12Bが、調光層11、第1透明電極層12A、および、第1透明支持層13Aから露出している領域に配置されている。端子部15A,15Bは、調光シート10Nの一部を構成する。
【0031】
図2は、リバースタイプの調光シート10Rの断面構造を示す。リバースタイプの調光シート10Rは、調光層11、透明電極層12A,12B、透明支持層13A,13Bに加えて、調光層11を挟む一対の配向層である第1配向層14Aおよび第2配向層14Bを備えている。第1配向層14Aは、調光層11と第1透明電極層12Aとの間に位置し、第2配向層14Bは、調光層11と第2透明電極層12Bとの間に位置する。
【0032】
配向層14A,14Bは、例えば、垂直配向膜である。配向層14A,14Bは、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが等電位であるときに、調光層11が含む液晶分子の長軸方向を、配向層14A,14Bが広がる平面の法線方向に沿わせるように、液晶分子を配向する。一方、配向層14A,14Bは、透明電極層12A,12B間に電位差が生じているときに、調光層11が含む液晶分子の長軸方向を上記法線方向以外の方向に変更可能にする。
【0033】
ノーマルタイプとリバースタイプとで、調光シート10の平面構造は同一である。
図3が示すように、調光シート10の表面と対向する位置から見て、調光シート10は、複数の調光部30と、互いに隣り合う調光部30の間に位置する境界部31とを有している。調光部30は、光透過率が可変の領域である。各調光部30は、共通の方向に沿って帯状に延び、複数の調光部30は、調光部30の延びる方向と直交する方向に沿って並んでいる。図面では、例として、調光シート10が2つの調光部30を有する形態を示している。境界部31は、調光部30の延びる方向に沿って直線状に延びている。互いに隣り合う調光部30は、境界部31によって区切られている。
【0034】
なお、図面では、境界部31の幅を誇張して示している。また、図面では、調光シート10の一辺に沿って第1端子部15Aが位置し、この一辺と対向する辺に沿って第2端子部15Bが位置する形態を例示しているが、端子部15A,15Bの配置は任意である。
【0035】
透明電極層12A,12Bにおける電極部の分割の形態として、第1形態と第2形態とを説明する。
図4および
図5は、第1透明電極層12Aと第1透明支持層13Aと第1端子部15Aとを備える積層体を、第1透明電極層12Aと対向する位置から見た平面視にて示すとともに、第2透明電極層12Bと第2透明支持層13Bと第2端子部15Bとを備える積層体を、第2透明電極層12Bと対向する位置から見た平面視にて示した図である。
図4は、第1形態を示し、
図5は第2形態を示す。
【0036】
図4が示すように、第1形態において、第1透明電極層12Aは、複数の電極部40と、互いに隣り合う電極部40の間に位置する絶縁部41とを有している。電極部40は導電部の一例である。各電極部40は、共通の方向に沿って帯状に延び、複数の電極部40は、電極部40の延びる方向と直交する方向に沿って並んでいる。絶縁部41は、電極部40の延びる方向に沿って直線状に延びている。絶縁部41は、絶縁部41の延びる方向に沿って、絶縁性を有する部分が連続的に並ぶ構成を有する。互いに隣り合う電極部40は、絶縁部41によって絶縁されている。
【0037】
調光シート10の表面と対向する位置から見たとき、調光層11の位置する領域内において、電極部40の位置する領域は、調光部30の位置する領域と一致し、絶縁部41の位置する領域は、境界部31の位置する領域と一致する。
【0038】
第1端子部15Aは、電極部40ごとに配置されている。複数の電極部40は、各別に制御部50に接続されており、複数の電極部40に対しては、制御部50から別々の電圧信号が入力される。
【0039】
第1形態において、第2透明電極層12Bは、電極部を区画する絶縁部を含んでおらず、第2透明電極層12Bの全体が1つの電極部として機能する。第2透明電極層12Bに対して、1つの第2端子部15Bが配置されている。
【0040】
図5が示すように、第2形態において、第1透明電極層12Aは、第1形態と同様の構成を有する。一方、第2形態において、第2透明電極層12Bは、複数の電極部45と、互いに隣り合う電極部45の間に位置する帯状部46とを有している。各電極部45は、共通の方向に沿って帯状に延び、複数の電極部45は、電極部45の延びる方向と直交する方向に沿って並んでいる。帯状部46は、電極部45の延びる方向に沿って直線状に延びている。調光シート10の表面と対向する位置から見たとき、調光層11の位置する領域内において、電極部45の位置する領域は、調光部30の位置する領域と一致し、帯状部46の位置する領域は、境界部31の位置する領域と一致する。
【0041】
帯状部46は、帯状部46の延びる方向の少なくとも一部において絶縁性を有する。帯状部46は、帯状部46の延びる方向に沿って、絶縁性を有する部分が断続的に並ぶ構成、あるいは、絶縁性を有する部分が連続的に並ぶ構成を有する。
【0042】
複数の電極部45に対しては、単一の第2端子部15Bが配置されている。複数の電極部45には、制御部50から共通の電圧信号が入力される。なお、複数の電極部45に共通の電圧信号が入力される構成であれば、電極部45ごとに第2端子部15Bが配置されていてもよい。
【0043】
第1形態および第2形態のいずれにおいても、制御部50は、第2透明電極層12Bに1つの電圧信号を入力し、第1透明電極層12Aに電極部40ごとの電圧信号を入力する。これにより、調光部30ごとに、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間の電位差が制御される。
【0044】
ノーマルタイプにおいては、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間に電位差が生じているとき、調光層11が含む液晶分子が配向され、液晶分子の長軸方向が透明電極層12A,12B間の電界方向に沿った向きとなる。その結果、調光層11を光が透過しやすくなるため、調光部30は、透明になる。一方、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが等電位であるとき、液晶分子の長軸方向の向きは不規則になる。そのため、調光層11に入射した光は散乱する。その結果、調光部30は白濁して不透明になる。
【0045】
リバースタイプにおいては、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間に電位差が生じているとき、調光層11が含む液晶分子の長軸方向が、配向層14A,14Bの法線方向とは異なる向きになるため、調光部30は不透明になる。一方、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが等電位であるとき、配向層14A,14Bによって液晶分子が配向され、液晶分子の長軸方向が配向層14A,14Bの法線方向に沿った向きとなる。その結果、調光部30は、透明になる。
【0046】
透明電極層12A,12Bに加えられる電圧信号の制御によって、調光部30の光透過率は、透明と不透明との2段階に制御されてもよいし、3段階以上に制御されてもよい。制御部50は、例えば、各調光部30に対応して設けられた外部スイッチからの信号に基づき、外部スイッチに対する調光装置の使用者の操作に応じて、各調光部30の光透過率を調光部30ごとに変更する。
【0047】
[調光シートの製造方法]
上述した調光シート10の製造方法を、ノーマルタイプの調光シート10Nを例に説明する。
【0048】
図6が示すように、まず、調光層11、透明導電層21A,21B、および、透明支持層13A,13Bを備える多層体20が形成される。第1透明導電層21Aは、第1透明支持層13Aに支持され、第2透明導電層21Bは、第2透明支持層13Bに支持されている。そして、第1透明導電層21Aと第2透明導電層21Bとは、調光層11を挟んでいる。透明導電層21A,21Bは、電極部40,45が形成される前の透明電極層12A,12Bであって、絶縁性を有する部分を含まない透明で一様な導電膜である。
【0049】
多層体20は、例えば、調光層11、透明導電層21A,21B、および、透明支持層13A,13Bが積層された大判のシートからの切り出しによって、調光シート10の貼付対象に応じた所望の形状に形成される。
【0050】
調光層11は、液晶組成物を含む。調光層11は、例えば、高分子ネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、カプセル型ネマティック液晶(NCAP:Nematic Curvilinear Aligned Phase)等から構成される。例えば、高分子ネットワーク型液晶は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備え、高分子ネットワークが有する空隙に液晶分子を保持する。調光層11が含む液晶分子は、例えば、誘電率異方性が正であって、液晶分子の長軸方向の誘電率が液晶分子の短軸方向の誘電率よりも大きい。液晶分子は、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系の液晶分子である。
【0051】
なお、調光層11は、所定の色を有する色素であって、調光層11に印加された電圧の大きさに応じた液晶分子の運動を妨げない色素を含んでもよい。こうした構成によれば、所定の色を有する調光部30が実現される。
【0052】
透明導電層21A,21Bを構成する材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を含むポリマー、Ag合金薄膜を含む多層膜等が挙げられる。
【0053】
第1透明支持層13Aおよび第2透明支持層13Bの各々は、透明な基材である。透明支持層13A,13Bとしては、例えば、ガラス基板やシリコン基板、あるいは、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリサルホン、シクロオレフィンポリマー、トリアセチルセルロース等からなる高分子フィルムが用いられる。
【0054】
続いて、多層体20に対するレーザ照射によって、透明電極層12A,12Bが形成される。レーザ照射の形態として、第1照射形態、第2照射形態、第3照射形態、第4照射形態の4つの形態を説明する。第1照射形態および第2照射形態は、上述した第1形態の透明電極層12A,12Bを形成するための照射形態であり、第3照射形態および第4照射形態は、上述した第2形態の透明電極層12A,12Bを形成するための照射形態である。
【0055】
図7が示すように、第1照射形態においては、調光層11に対して第1透明導電層21Aが位置する側から、多層体20における境界部31となる予定の領域にレーザLaが照射される。レーザLaの照射によって、2つの透明導電層21A,21Bのうち、レーザ装置60が備える光源から近い方の透明導電層である第1透明導電層21Aに絶縁性を有する部分が形成される。これにより、第1透明導電層21Aに、絶縁部41と、絶縁部41によって分割された複数の電極部40とが形成され、その結果、第1透明電極層12Aが形成される。
【0056】
詳細には、第1透明導電層21Aもしくはその近傍にレーザLaの焦点が合わせられ、第1透明支持層13Aと対向する位置から、第1透明支持層13Aを透過するようにレーザLaが多層体20に照射される。第1透明支持層13Aの少なくとも外表面はレーザLaによって改質されず、第1透明導電層21Aに絶縁性を有する部分が形成されることによって絶縁部41が形成される。一方、第2透明導電層21Bには、絶縁性を有する部分は形成されず、帯状部46を有さない第2透明電極層12Bが形成される。
【0057】
なお、レーザ装置60の光源から見て第1透明導電層21Aを越えた位置にレーザLaの焦点が合わせられ、レーザLaの波長が第1透明導電層21Aに吸収される波長とされることにより、第1透明導電層21Aに絶縁部41が形成されてもよい。
【0058】
図8が示すように、第2照射形態においては、調光層11に対して第2透明導電層21Bが位置する側から、多層体20における境界部31となる予定の領域にレーザLaが照射される。レーザLaの照射によって、2つの透明導電層21A,21Bのうち、レーザ装置60の光源から遠い方の透明導電層である第1透明導電層21Aに絶縁性を有する部分が形成される。これにより、第1透明導電層21Aに、絶縁部41と、絶縁部41によって分割された複数の電極部40とが形成され、その結果、第1透明電極層12Aが形成される。
【0059】
詳細には、第1透明導電層21Aもしくはその近傍にレーザLaの焦点が合わせられ、第2透明支持層13Bと対向する位置から、第2透明支持層13Bを透過するようにレーザLaが多層体20に照射される。第2透明支持層13Bおよび第2透明導電層21BはレーザLaによって改質されず、帯状部46を有さない第2透明電極層12Bが形成される。一方、第1透明導電層21Aには、絶縁性を有する部分が形成されることによって絶縁部41が形成される。
【0060】
図9が示すように、第3照射形態においては、調光層11に対して第1透明導電層21Aが位置する側から、多層体20における境界部31となる予定の領域にレーザLaが照射される。レーザLaの照射によって、2つの透明導電層21A,21Bのうち、レーザ装置60の光源から近い第1透明導電層21Aと、上記光源から遠い第2透明導電層21Bとの双方に、絶縁性を有する部分が形成される。これにより、第1透明導電層21Aに、絶縁部41と、絶縁部41によって分割された複数の電極部40とが形成され、その結果、第1透明電極層12Aが形成される。また、第2透明導電層21Bに、帯状部46と、帯状部46によって分割された複数の電極部45とが形成され、その結果、第2透明電極層12Bが形成される。
【0061】
詳細には、第1透明導電層21Aもしくはその近傍にレーザLaの焦点が合わせられ、第1透明支持層13Aと対向する位置から、第1透明支持層13Aを透過するようにレーザLaが多層体20に照射される。第1透明支持層13Aの少なくとも外表面はレーザLaによって改質されず、第1透明導電層21Aに絶縁性を有する部分が形成されることによって絶縁部41が形成される。さらに、第1透明導電層21Aおよび調光層11を透過したレーザLaによって、第2透明導電層21Bに絶縁性を有する部分が形成され、これによって帯状部46が形成される。
【0062】
なお、レーザLaの焦点は、第2透明導電層21Bもしくはその近傍に合わせられてもよい。また、レーザ装置60の光源から見て第2透明導電層21Bを越えた位置にレーザLaの焦点が合わせられ、レーザLaの波長が第1透明導電層21Aおよび第2透明導電層21Bに吸収される波長とされることにより、絶縁部41および帯状部46が形成されてもよい。
【0063】
図10が示すように、第4照射形態においては、調光層11に対して第2透明導電層21Bが位置する側から、多層体20における境界部31となる予定の領域にレーザLaが照射される。レーザLaの照射によって、2つの透明導電層21A,21Bのうち、レーザ装置60の光源から遠い第1透明導電層21Aと、上記光源から近い第2透明導電層21Bとの双方に、絶縁性を有する部分が形成される。これにより、第1透明導電層21Aに、絶縁部41と、絶縁部41によって分割された複数の電極部40とが形成され、その結果、第1透明電極層12Aが形成される。また、第2透明導電層21Bに、帯状部46と、帯状部46によって分割された複数の電極部45とが形成され、その結果、第2透明電極層12Bが形成される。
【0064】
詳細には、第1透明導電層21Aもしくはその近傍にレーザLaの焦点が合わせられ、第2透明支持層13Bと対向する位置から、第2透明支持層13Bを透過するようにレーザLaが多層体20に照射される。第2透明支持層13Bの少なくとも外表面はレーザLaによって改質されず、第2透明導電層21Bに絶縁性を有する部分が形成されることによって帯状部46が形成される。さらに、第2透明導電層21Bおよび調光層11を透過したレーザLaによって、第1透明導電層21Aに絶縁性を有する部分が形成され、これによって絶縁部41が形成される。
【0065】
なお、レーザLaの焦点は、第2透明導電層21Bもしくはその近傍に合わせられてもよい。また、レーザ装置60の光源から見て第1透明導電層21Aを越えた位置にレーザLaの焦点が合わせられ、レーザLaの波長が第1透明導電層21Aおよび第2透明導電層21Bに吸収される波長とされることにより、絶縁部41および帯状部46が形成されてもよい。
【0066】
第1照射形態と第3照射形態との違い、および、第2照射形態と第4照射形態との違い、すなわち、第1透明導電層21Aに加えて第2透明導電層21Bまで加工されるか否かは、レーザLaのパワーや焦点位置の調整によって制御が可能である。また、第3照射形態および第4照射形態によって形成される帯状部46において、絶縁性を有する部分が占める割合も、レーザLaのパワーや焦点位置の調整によって変更できる。
【0067】
レーザ照射に用いられるレーザの媒質および波長は特に限定されない。レーザとしては、例えば、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ、CO2レーザ、半導体レーザ等が利用可能である。レーザの波長としては、例えば、赤外領域の波長が利用される。レーザの発振方式は連続発振であってもよいし、パルス発振であってもよい。
【0068】
レーザ照射の後に、端子部15A,15Bが配置される領域の形成、および、端子部15A,15Bの配置が行われることにより、調光シート10が形成される。端子部15A,15Bは、例えば、導電性テープ、導電性ペースト、および、導電性フィルム等の導電性材料から形成される。なお、端子部15A,15Bが配置される領域の形成や端子部15A,15Bの配置は、レーザ照射の前に行われてもよい。
【0069】
なお、リバースタイプの調光シート10Rの製造に際しては、多層体20として、調光層11、透明導電層21A,21B、および、透明支持層13A,13Bに加え、配向層14A,14Bを備える多層体が用いられる。第1配向層14Aは、調光層11と第1透明導電層21Aとの間に位置し、第2配向層14Bは、調光層11と第2透明導電層21Bとの間に位置する。
【0070】
配向層14A,14Bを構成する材料としては、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリシロキサン、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレートが挙げられる。配向層14A,14Bを形成するための配向処理は、例えば、ラビング処理、偏光照射処理、微細加工処理である。
【0071】
配向層14A,14Bを備える多層体20に対して、上述の4つの照射形態のいずれかの形態でレーザ照射が行われることにより、ノーマルタイプの場合と同様に、第1透明電極層12Aおよび第2透明電極層12Bが形成される。
【0072】
本実施形態の製造方法によれば、レーザ照射によって絶縁部41を形成することにより第1透明電極層12Aがパターニングされるため、フォトリソグラフィおよびエッチングによりパターニングを行う製造方法と比較して、調光シート10の製造に要する工程数の低減が可能であり、製造時間の短縮もできる。また、フォトリソグラフィおよびエッチングによりパターニングを行う製造方法と比較して、製造コストの削減も可能である。また、レーザ照射を用いることによって、フォトリソグラフィおよびエッチングによって形成された絶縁部よりも、視認されにくい絶縁部41の形成が可能である。したがって、互いに隣り合う調光部30の間の境界部31が目立つことを抑えることができる。さらに、多層体20の形成後に第1透明電極層12Aのパターニングが行われるため、調光シート10の形状や電極部40の形状等の設計の変更にも容易に対応が可能である。
【0073】
なお、調光シート10は、調光層11、透明電極層12A,12B、透明支持層13A,13B、配向層14A,14Bに加えて、他の層を備えていてもよい。上記他の層は、例えば、紫外線バリア機能を有する層等のように、調光層11や透明電極層12A,12Bを保護するための層や、調光部30における光の透過性の制御に寄与する層や、調光シート10の強度や耐熱性等の特性を高める層等が挙げられる。調光シート10が上記他の層を備える場合も、調光シート10の層構成に対応する層構成を有する多層体20に対してレーザ照射が行われることにより、第1透明電極層12Aおよび第2透明電極層12Bが形成される。
【0074】
[調光シートの構成]
上述の製造方法によって製造された調光シート10の詳細構成について、境界部31の構成を中心に説明する。上述のように、第1透明電極層12Aの絶縁部41は、レーザ照射によって形成されたレーザ加工痕である。まず、このレーザ加工痕の詳細について説明する。
【0075】
図11および
図12は、絶縁部41付近の断面構造の第1例を拡大して示す図である。第1例において、絶縁部41は、第1透明導電層21Aを構成する導電膜が小片状に破壊されている部分である。
図11が示すように、絶縁部41では、レーザ照射によって導電膜が粉々となり、第1透明導電層21Aの一部が第1透明支持層13Aから剥がれる。すなわち、絶縁部41は、第1透明支持層13Aから導電膜が剥がれている部分である。
【0076】
調光層11や第1配向層14A等の第1透明電極層12Aと接触する機能層における絶縁部41の近傍の部分には、第1透明支持層13Aから剥がれた導電膜の膜片Fgが位置する。したがって、上記機能層のなかで絶縁部41と接触する部分では、上記機能層のなかで電極部40と接触する部分よりも、電極部40を構成する元素の含有量が高い。
【0077】
なお、レーザ照射による導電膜の破壊の程度によっては、
図12が示すように、絶縁部41は、導電膜が第1透明支持層13Aに接した状態で物理的に破壊されている部分であることもあり得る。絶縁部41の表面は、電極部40の表面よりも粗い。この場合、機能層の内部への膜片Fgの分散は生じない。
【0078】
図13および
図14は、絶縁部41付近の断面構造の第2例を拡大して示す図である。第2例において、絶縁部41はレーザ照射によって化学的に改質された領域である。
例えば、
図13が示すように、絶縁部41は、電極部40と比較して、導電性に寄与する原子、あるいは、導電性に寄与する分子の一部である元素Pcが第1透明電極層12Aの下層に流出することにより組成が変化している領域である。こうした組成の変化に起因して、絶縁部41は、絶縁性を有している。
【0079】
調光層11や第1配向層14A等の第1透明電極層12Aと接触する機能層のなかで絶縁部41と接触する部分では、上記機能層のなかで電極部40と接触する部分よりも、元素Pcの含有量が高い。
【0080】
絶縁部41と、絶縁部41に隣接する電極部40とは、相互に連続した1つの層を構成しており、第1透明電極層12Aは平膜状を有する。ただし、元素Pcが抜け出していることに起因して、絶縁部41は電極部40よりも脆くなっている。例えば、絶縁部41の表面は、電極部40の表面よりも粗い。
【0081】
また例えば、
図14が示すように、絶縁部41は、電極部40と比較して、化合物内での原子位置の移動や、分子内での結合の切断等による化学構造の変化が生じている領域である。こうした化学構造の変化に起因して、絶縁部41は、絶縁性を有している。絶縁部41では組成の変化は生じていない。絶縁部41と、絶縁部41に隣接する電極部40とは、相互に連続した1つの層を構成しており、第1透明電極層12Aは平膜状を有する。
【0082】
絶縁部41が、第1例および第2例のいずれの構造を有するかは、第1透明電極層12Aを構成する材料、すなわち、第1透明導電層21Aを構成する材料や、レーザのパワー等によって決まる。また、絶縁部41は、第1例と第2例とを組み合わせた構造を有し得る。例えば、第1透明電極層12Aは、絶縁部41にて、元素Pcが第1透明電極層12Aの下層に流出しているとともに、導電膜が物理的に破壊された構造を有していてもよい。元素Pcは、電極部40を構成する複数の元素に含まれる元素である。
【0083】
また、第2透明電極層12Bが帯状部46を有する形態において、帯状部46のなかで絶縁性を有する部分も、第1例、第2例、およびその組み合わせのいずれかの絶縁部41と同様の構造を有する。
【0084】
なお、
図12~
図14においては、絶縁部41の断面形状を、第1透明支持層13Aに向かって絶縁部41の幅方向の長さが拡大し、絶縁部41の外縁が、絶縁部41の外側に向かって膨らむように湾曲した曲線から構成される形状に図示した。この形状は、第1照射形態もしくは第3照射形態にて、第1透明導電層21Aの中央部から第1透明支持層13Aに接する表面の付近にレーザの焦点が合わせられてレーザ照射が行われた場合に形成される絶縁部41の形状を想定している。レーザの焦点の位置やレーザのパワー等によっては、絶縁部41の断面形状は、
図12~
図14に示した形状とは異なる形状になり得る。
【0085】
次に、絶縁部41の外観について説明する。
図15は、調光シート10における境界部31の付近の平面構造の一例を拡大して示す図である。調光シート10の表面と対向する位置、すなわち、第1透明支持層13Aと対向する位置から見て、絶縁部41が位置する領域である境界部31は、幅が一定の帯状の領域である直線形帯状領域Ssから構成される。直線形帯状領域Ssから構成される境界部31は、連続発振により出力されるレーザの照射によって形成される。
【0086】
直線形帯状領域Ssにおける少なくとも一部は、変色してくすんで見える。それゆえ、境界部31の可視光線透過率は、透明な状態での調光部30の可視光線透過率よりも低い。
図15では、直線形帯状領域Ssにおける幅方向の端部付近が変色している形態を例示している。
【0087】
直線形帯状領域Ss内において変色の程度に差が生じる理由は、多層体20がレーザから受けるエネルギーが、レーザの中心が当たっている位置から離れるほど、減少するためであると考えられる。レーザのパワーに応じて、直線形帯状領域Ssのなかで変色が生じる部分は変わり得る。例えば、直線形帯状領域Ssにおける幅方向の中央部が変色する場合や、幅方向の端部付近と中央部とが変色する場合もあり得る。
【0088】
変色の要因の1つは、例えば第1透明支持層13Aがポリエチレンテレフタレートフィルムである場合等に、レーザ照射によって、第1透明支持層13Aのなかで絶縁部41に接する部分がアモルファスとなることである。こうした第1透明支持層13Aのアモルファスへの変化は、特に、直線形帯状領域Ssにおける幅方向の中央部で生じやすい。
【0089】
第1透明支持層13Aのアモルファスへの変化の有無は、レーザのパワーや焦点の位置等によって制御可能である。境界部31の視認性を高めたいか否かに応じて、第1透明支持層13Aのアモルファスへの変化が生じるように、あるいは、生じないように、レーザの照射条件が調整されてもよい。
【0090】
なお、境界部31は、複数の直線形帯状領域Ssが、直線形帯状領域Ssの幅方向に沿って並ぶ構成を有していてもよい。複数の直線形帯状領域Ssからなる境界部31は、境界部31となる領域に対して、当該領域の幅方向にレーザの照射位置を徐々にずらしつつ、複数回のレーザの走査を行うことによって形成される。境界部31が複数の直線形帯状領域Ssから構成される形態であれば、絶縁部41による電極部40間の絶縁の信頼性が高められる。
【0091】
図16は、調光シート10における境界部31の付近の平面構造の他の例を拡大して示す図である。調光シート10の表面と対向する位置から見て、境界部31は、1つの方向に沿って円が連なる外形を有する円形帯状領域Csから構成される。詳細には、円形帯状領域Csは、複数の円が、円内の領域が連通するように順に結合した外形を有する。円形帯状領域Csから構成される境界部31は、パルス発振により出力されるレーザの照射によって形成される。
【0092】
円形帯状領域Csにおける少なくとも一部は、変色してくすんで見える。それゆえ、境界部31の可視光線透過率は、透明な状態での調光部30の可視光線透過率よりも低い。
図16では、円形帯状領域Csにおける幅方向の端部付近、換言すれば、結合している円の円周付近が変色している形態を例示している。
【0093】
円形帯状領域Cs内において変色の程度に差が生じる理由は、多層体20がレーザから受けるエネルギーが、レーザの中心が当たっている位置から離れるほど、減少するためであると考えられる。レーザのパワーに応じて、円形帯状領域Csのなかで変色が生じる部分は変わり得る。例えば、円形帯状領域Csにおける円の中央部が変色する場合や、円の円周付近と中央部とが変色する場合もあり得る。
【0094】
変色の要因の1つは、直線形帯状領域Ssと同様、レーザ照射によって、第1透明支持層13Aのなかで絶縁部41に接する部分がアモルファスとなることである。こうした第1透明支持層13Aのアモルファスへの変化は、特に、円形帯状領域Csにおける円の中央部で生じやすい。直線形帯状領域Ssと同様、第1透明支持層13Aのアモルファスへの変化の有無は、レーザのパワーや焦点の位置等によって制御可能である。
【0095】
連続発振のレーザを用いて絶縁部41を形成する場合、多層体20にレーザが当たり続けるため、レーザの照射によって生じた熱が放散しにくい。その結果、調光層11が含む液晶が気体となって、気泡が生じる場合がある。これに対し、パルス発振のレーザを用いれば、多層体20にレーザが間欠的に当たるため、連続発振のレーザを用いる場合と比較して、レーザの照射によって生じた熱が放散しやすい。したがって、調光層11に気泡が生じることが抑えられる。
【0096】
なお、境界部31は、複数の円形帯状領域Csが、円形帯状領域Csの幅方向に沿って並ぶ構成を有していてもよい。複数の円形帯状領域Csからなる境界部31は、境界部31となる領域に対して、当該領域の幅方向にレーザの照射位置を徐々にずらしつつ、複数回のレーザの走査を行うことによって形成される。境界部31が複数の円形帯状領域Csから構成される形態であれば、絶縁部41による電極部40間の絶縁の信頼性が高められる。特に、パルス発振のレーザを用いる場合、連続発振のレーザを用いる場合と比較して、帯状領域の幅、すなわち、絶縁性を有する部分の幅が不均一になりやすいため、複数の円形帯状領域Csが並ぶことにより絶縁の信頼性が高められることの有益性が高い。
【0097】
また、第2透明電極層12Bが帯状部46を有する場合、調光シート10の表面と対向する位置から境界部31を見ると、絶縁部41と帯状部46とが重なって見える。この場合も、境界部31は、直線形帯状領域Ssもしくは円形帯状領域Csから構成され、境界部31の可視光線透過率は、透明な状態での調光部30の可視光線透過率よりも低い。第2透明電極層12Bが帯状部46を有する場合と有さない場合とで、調光シート10の表面と対向する位置から見て、帯状領域Ss,Csの変色の程度は変わり得るが、外形は大きくは変わらない。
【0098】
[ITO層におけるレーザ照射領域の解析]
ITOから構成された透明導電層21A,21Bを備えるリバースタイプの多層体20に対してレーザ照射を行うことにより形成された絶縁部41の解析を行った。透明支持層13A,13Bとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、調光層11には、高分子ネットワーク型液晶を用いた。また、配向層14A,14Bの材料としては、ポリイミドを用いた。
【0099】
<レーザ照射条件>
種類:IR半導体レーザ
スポット径:30μm
発振方式:パルス発振
繰り返し周波数:1.2kHz
パルス幅:417μs
出力:0.008W
多層体20が載置される載置台の移動速度:30mm/s
【0100】
<解析手順>
上記レーザ照射条件に従って、レーザの波長をITOに吸収される波長として、多層体20に第3照射形態でレーザ照射を行い、リバースタイプの調光シート10Rを形成した。調光層11を厚さ方向に分割することによって、調光シート10Rを、第1透明支持層13A、第1透明電極層12A、第1配向層14A、および、調光層11の一部を有する第1積層体と、第2透明支持層13B、第2透明電極層12B、第2配向層14B、および、調光層11の一部を有する第2積層体とに分離した。
第1積層体と第2積層体とを、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray spectrometry)による解析を行った。走査型電子顕微鏡は、日本電子社製JSM-7001Fを用いた。なお、EDXによる解析は、解析対象の層厚の確保のために、上記積層体の表面を水平面に対して30°傾けた状態で水平面と直交する方向から測定する方法により行った。
【0101】
<解析結果>
上記手順に従って第1積層体および第2積層体における外観と組成との解析を行うことにより、上記レーザ照射条件に従って形成された絶縁部41は、上述の第1例の構造を有することが確認された。以下、解析結果について詳述する。
【0102】
図17(a)は、第1積層体における調光層11が位置する側の表面のSEM画像を示す。
図17(b)~(d)は、
図17(a)の画像に含まれる領域のEDXマッピング結果を示す図であって、
図17(b)はインジウム(In)の分布を示し、
図17(c)は炭素(C)の分布を示し、
図17(d)は酸素(O)の分布を示す。各図において、2つの破線で挟まれている領域がレーザの照射された領域であり、2つの破線の外側の領域がレーザの照射されていない領域である。
【0103】
図17(a)が示すように、レーザ照射領域では、レーザ非照射領域と比較して、第1積層体の表面が荒れている。
図17(b)が示すように、レーザ照射領域では、レーザ非照射領域と比較して、調光層11および第1配向層14AにおけるInの濃度が高くなっていることが確認できる。なお、レーザ非照射領域にてInが検出されている理由は、調光層11の下方の第1透明電極層12Aに含まれるInが検出されているためと考えられる。
【0104】
図17(c)および
図17(d)が示すように、レーザ照射領域とレーザ非照射領域とで、CおよびOの分布には差が見られない。
以上により、レーザ照射領域では、第1透明電極層12Aが含む元素であるInが、調光層11にまで流出していることが示唆される。後述する第1透明電極層12Aの外観の観察結果から、レーザ照射領域でのInの増加は、レーザ照射によって第1透明支持層13Aから第1透明導電層21Aを構成するITO膜が剥がれ、その膜片が調光層11の内部まで分散しているために生じていると考えられる。
【0105】
図18(a)~(c)は、メチルエチルケトンを用いて調光層11と第1配向層14Aとを拭き取った後の第1積層体を対象として、レーザ照射領域に含まれる点、および、レーザ照射領域を挟む2つのレーザ非照射領域の各々に含まれる点について測定を行ったEDXスペクトルを示す。
図18(a)は、レーザ照射領域のEDXスペクトルであり、
図18(b),(c)は、レーザ非照射領域のEDXスペクトルである。
【0106】
図18(a)が示すように、レーザ照射領域ではInが検出されていない。一方、
図18(b),(c)が示すように、レーザ非照射領域ではInが検出されている。このことから、第1透明電極層12Aにおいて、レーザ非照射領域にはITO膜が存在している一方で、レーザ照射領域ではITO膜が欠損していることが示唆される。すなわち、レーザ照射領域では、レーザ照射によってITO膜が破壊され、その膜片が第1透明電極層12Aの外に飛び散っていることが示唆される。なお、検出されているPtは、試料に前処理として行ったコーティングに由来する。
【0107】
図19は、メチルエチルケトンを用いて調光層11と第1配向層14Aとを拭き取った後の第1積層体の表面のSEM画像を示す。
図20は、メチルエチルケトンを用いて調光層11と第2配向層14Bとを拭き取った後の第2積層体の表面のSEM画像を示す。
図19および
図20において、領域Raはレーザの照射された領域を示し、領域Rbはレーザの照射されていない領域を示す。
【0108】
図19および
図20から、レーザ照射領域では、ITO膜が欠損していることが確認できる。
図19と
図20とを比較すると、レーザの光源に近い第1透明電極層12Aの方が、光源から遠い第2透明電極層12Bよりも、レーザ照射によって破壊されている領域が大きいことが確認される。このことから、光源に近い層の方が、レーザ照射によって大きなエネルギーを与えられたことがわかる。なお、
図19において、第1透明電極層12AのなかでITO膜が欠損している領域の幅は約30μmである。
図20において、第2透明電極層12BのなかでITO膜が欠損している領域の最大幅は約25μmである。
【0109】
また、
図20に領域Xとして示すように、光源から遠い第2透明電極層12Bにおいては、レーザ非照射領域から延びるITO膜がレーザ照射領域にて繋がっている箇所が存在することが確認される。すなわち、
図20に示す第2透明電極層12Bにおいては、レーザ照射によって破壊された部分が断続的に並んでいる。こうした第2透明電極層12Bに形成されている帯状部46は、帯状部46の延在方向に沿って絶縁性を有する部分が断続的に並ぶ構成を有する。
【0110】
以上の解析により、透明導電層21A,21BがITOから構成されている場合、換言すれば、透明電極層12A,12Bの電極部40,45がITOから構成されている場合、上記レーザ照射条件に従って形成された絶縁部41は、上述の第1例の構造を有することが示唆される。すなわち、絶縁部41では、第1透明導電層21Aの物理構造が破壊されており、第1透明支持層13Aから導電膜が剥がれ、その膜片が調光層11の内部まで分散していると考えられる。
【0111】
図21は、上記レーザ照射条件に従って第3照射形態でレーザ照射を行うことによって形成したリバースタイプの調光シート10Rを、第1透明支持層13Aと対向する位置から実体顕微鏡を用いて撮影した画像を示す。
【0112】
図21から、境界部31が、円が連なる外形を有する円形帯状領域Csから構成されることが確認される。また、調光部30と比較して境界部31がくすんで見えることにより、境界部31の可視光線透過率が調光部30の可視光線透過率よりも低いことが示唆される。なお、第1透明支持層13Aのみを観察したところ、レーザ照射領域における第1透明電極層12Aに接する表面に、アモルファスへの変化による白濁が確認された。
【0113】
[調光装置の他の形態]
上記調光シート10における電極部の分割の形態としては、第1透明電極層12Aのみが分割される形態、および、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが同一のパターンに分割される形態を例示した。これに限らず、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが互いに異なるパターンに分割されていてもよい。例として、調光シートが、マトリクス状に配置された調光部30を有する形態について説明する。
【0114】
図22が示すように、調光シート16は、調光シート16の表面と対向する位置から見て、直交する2つの方向である第1方向と第2方向との各々に沿って並ぶ複数の調光部30を有している。すなわち、複数の調光部30はマトリクス状に並んでいる。互いに隣接する調光部30の間には、直線状に延びる境界部31が位置している。
【0115】
図23が示すように、第1透明電極層12Aは、第1方向に沿って延びるとともに第2方向に沿って並ぶ複数の電極部40と、互いに隣り合う電極部40の間に位置する絶縁部41とを有している。互いに隣り合う電極部40は、絶縁部41によって絶縁されている。
第1端子部15Aは、電極部40ごとに配置されている。複数の電極部40に対しては、制御部50から別々の電圧信号が入力される。
【0116】
一方、第2透明電極層12Bは、第2方向に沿って延びるとともに第1方向に沿って並ぶ複数の電極部45と、互いに隣り合う電極部45の間に位置する絶縁部47とを有している。絶縁部47は、絶縁部47の延びる方向に沿って、絶縁性を有する部分が連続的に並ぶ構成を有する。互いに隣り合う電極部45は、絶縁部47によって絶縁されている。
第2端子部15Bは、電極部45ごとに配置されている。複数の電極部45に対しては、制御部50から別々の電圧信号が入力される。
【0117】
調光シート16の表面と対向する位置から見て、第1透明電極層12Aの電極部40と第2透明電極層12Bの電極部45とが重なる領域が、調光部30である。また、調光シート16の表面と対向する位置から見て、第1透明電極層12Aの絶縁部41と第2透明電極層12Bの絶縁部47との少なくとも一方が位置する領域が、境界部31である。
【0118】
制御部50は、第1透明電極層12Aに電極部40ごとの電圧信号を入力し、第2透明電極層12Bに電極部45ごとの電圧信号を入力する。これにより、各調光部30における第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間の電位差が制御され、その結果、各調光部30の光透過率が制御される。
【0119】
上記調光シート16の製造工程において、第1透明電極層12Aの絶縁部41と、第2透明電極層12Bの絶縁部47とは別々に形成される。例えば、多層体20に対して、調光層11に対して第1透明導電層21Aが位置する側からレーザ照射が行われることにより第1透明導電層21Aに絶縁部41が形成され、調光層11に対して第2透明導電層21Bが位置する側からレーザ照射が行われることにより第2透明導電層21Bに絶縁部47が形成される。
【0120】
また、調光部30は、帯状に限らず、任意の形状を有していればよく、境界部31は、直線状に限らず、曲線状を有していてもよい。例えば、
図24が示す調光シート17のように、境界部31が曲線状であって、調光部30の幅は一定でなくてもよい。また、調光部30ごとに、調光部30の形状や面積が異なってもよい。
【0121】
図25が示すように、調光シート17は、上述した調光シート10と同様に、第1透明電極層12Aのみが調光部30に対応した電極部40に分割される形態を有していてもよいし、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが調光部30に対応した電極部40,45に分割される形態を有していてもよい。
【0122】
上記調光シート17の製造工程においては、調光シート10と同様に、多層体20に対して、上述の4つの照射形態のいずれかの形態でレーザ照射が行われる。本実施形態の製造方法によれば、レーザ照射によって加工するライン形状の変更によって、調光部30の形状の変更が可能であるため、複雑な外形を有する調光部30を容易に形成することができる。
【0123】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)第1透明電極層12Aのなかにレーザ加工痕である絶縁部41が位置する。すなわち、レーザ照射によって絶縁部41を形成することにより第1透明電極層12Aがパターニングされるため、フォトリソグラフィおよびエッチングによりパターニングを行う製造方法と比較して、調光シート10の製造に要する工程数の低減が可能である。また、多層体20の形成後に第1透明電極層12Aのパターニングが行われるため、調光シート10の形状や電極部40の形状等の設計の変更にも容易に対応が可能である。
【0124】
(2)第1照射形態および第3照射形態では、調光層11に対して第1透明導電層21Aの位置する側から、多層体20にレーザを照射することにより、第1透明導電層21Aに絶縁部41が形成される。こうした製造方法によれば、2つの透明導電層のうち、レーザの光源に対して近い方の透明導電層に絶縁部41が形成されるため、焦点やレーザのパワー等の照射条件の設定が容易である。
【0125】
(3)第3照射形態および第4照射形態によれば、第1透明導電層21Aに絶縁部41を形成する際に、第2透明導電層21Bの一部で導電性が失われることが許容される。したがって、第1透明導電層21Aのみに絶縁性を有する部分を形成する場合と比較して、第1透明導電層21Aがレーザから十分なエネルギーを受けやすいため、第1透明導電層21Aに絶縁部41を好適に形成することができる。すなわち、第2透明電極層12Bが絶縁部41と重なる帯状部46を有する構成であれば、第1透明電極層12Aの絶縁部41と第2透明電極層12Bの帯状部46とをレーザ照射によって一括して形成することができるため、絶縁部41を好適に形成することができる。
【0126】
(4)境界部31が円形帯状領域Csから構成されている形態における絶縁部41は、パルス発振のレーザ照射によって好適に形成することができる。パルス発振のレーザを用いることによって、レーザ照射によって生じた熱を放散させつつ絶縁部41を形成することができるため、調光層11における気泡の発生が抑えられる。
【0127】
(変形例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・第1透明電極層12Aが有する絶縁部41は、複数の調光部30に対応した複数の電極部40を形成するための絶縁部41でなくてもよく、絶縁部41によって第1透明電極層12Aが区画されていればよい。すなわち、第1透明電極層12Aが複数の領域に分割されており、こうした複数の領域のうちの互いに隣り合う領域の境界部分にレーザ加工痕が位置し、当該レーザ加工痕における幅方向の少なくとも中央部が絶縁性を有することにより、上記互いに隣り合う領域が絶縁されていればよい。絶縁部41を設ける目的に関わらず、第1透明電極層12Aのパターニングがレーザ照射によって行われる形態であれば、上記(1)と同様の効果が得られる。
【0128】
・調光シートは、透明な部材に貼り付けられて使用される。調光シートが貼り付けられる面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。例えば、調光シートは、窓ガラスやパーテーションやガラス壁等の建材、あるいは、自動車の窓ガラス等の車両用部材に取り付けられる。上記実施形態の製造方法であれば、エッチングにより絶縁部を形成する場合と異なり、多層体20を、多層体20の表面が曲面となる形状に加工した後に、絶縁部41を形成することも容易に可能である。したがって、上記実施形態の製造方法は、表面が曲面である調光シートの製造にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0129】
Cs…円形帯状領域、Ss…直線形帯状領域、Fg…膜片、Pc…元素、10,10N,10R,16,17…調光シート、11…調光層、12A,12B…透明電極層、13A,13B…透明支持層、14A,14B…配向層、15A,15B…端子部、20…多層体、21A,21B…透明導電層、30…調光部、31…境界部、40,45…電極部、41,47…絶縁部、46…帯状部、50…制御部、60…レーザ装置。