(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】cBN焼結体および切削工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20231102BHJP
C04B 35/5835 20060101ALI20231102BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231102BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C04B35/5831
C04B35/5835
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2020516487
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020007904
(87)【国際公開番号】W WO2020175598
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019034794
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】門馬 征史
(72)【発明者】
【氏名】小口 史朗
(72)【発明者】
【氏名】武井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】油本 憲志
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083664(JP,A)
【文献】特開2018-145020(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105710(WO,A1)
【文献】特開平03-131573(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087481(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2559504(EP,A1)
【文献】国際公開第2011/129422(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583 - 35/5835
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
cBN粒子と結合相を含有するcBN基超高圧焼結体であって、
前記結合相は、Alの窒化物若しくは酸化物、または、Tiの窒化物若しくは炭化物若しくは炭窒化物の少なくとも1つを含み、かつ、平均粒径が20~300nmである金属硼化物が0.1~5.0体積%分散し、
前記金属硼化物は、金属成分がNb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を含みかつTiを含まない金属硼化物(B)と、金属成分がTiのみを含む金属硼化物(A)とを含み、
前記金属硼化物のうち、前記Tiのみを金属成分として含む金属硼化物(A)の割合(体積%)をV
aとし、前記Nb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を金属成分として含みかつTiを含まない金属硼化物(B)の割合(体積%)をV
bとした場合、比V
b/V
aが0.1~1.0である、cBN基超高圧焼結体。
【請求項2】
前記Nb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を金属成分として含みTiを含まない金属硼化物のうち、六方晶構造のものの{001}面のX線回折ピークの最大強度をI
hexとし、前記cBN粒子の{111}面のX線回折ピーク強度をI
cBNとした場合、0.04≦I
hex/I
cBN≦0.20である、請求項1に記載のcBN基超高圧焼結体。
【請求項3】
前記cBN基超高圧焼結体中の前記cBN粒子の含有割合は40~80体積%であって、すべての前記cBN粒子の含有割合を100体積%とするとき、平均粒径が2μm未満であるcBN粒子の含有割合が5~40体積%、平均粒径が2μm以上8μm未満のcBN粒子の含有割合が60~95体積%である、請求項1または2に記載のcBN基超高圧焼結体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のcBN基超高圧焼結体を備える切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素(cBN)基超高圧焼結体(以下、「cBN焼結体」ということがある)、および、cBN焼結体を工具基体とする切削工具(以下、「CBN工具」と表記することがある)に関する。
本願は、2019年2月27日に、日本に出願された特願2019-034794号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、cBN焼結体は、靭性に優れることが知られており、鋼、鋳鉄等の鉄系被削材の切削工具材料として広く用いられ、結合相の構造を改良することにより靭性が向上されてきた。
【0003】
特許文献1には、結合相中に、平均粒径が50~500nmの微細なTi硼化物相と、平均粒径が50~500nmの微細なW硼化物相とを分散分布させ、結合相の分散強化作用により靭性を向上させたcBN焼結体が記載されている。
【0004】
特許文献2には、結合相に、V、Nb、およびTaの少なくとも1種とTiとを金属成分とする複合窒化物および複合炭窒化物の少なくとも1種の複合化合物と、V、Nb、およびTaの少なくとも1種の斜方晶ホウ化物と、AlNを含有させることにより、熱的安定性を増大させ靭性を向上させたcBN焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6032409号公報
【文献】特許第4830571号公報
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記各技術によりcBN焼結体の靭性は向上する。しかし、近年のより高速化の進む切削加工により、cBN焼結体にはさらなる靭性の向上が求められている。
本発明は、より靱性の高いcBN焼結体およびこれを工具基体とするCBN工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、cBN粒子と結合相との結合状態について鋭意検討したところ、結合相中に金属硼化物粒子を分散させると、焼結体中のcBN粒子と結合相との反応が促進されて結合が強固となり、cBN焼結体の靭性が向上するという新規な知見を得た。
【0009】
本発明は、前記知見に基づくものであって、下記の態様を含む。
(1)本発明の一態様のcBN基超高圧焼結体は、cBN粒子と結合相を含有し、前記結合相は、Alの窒化物若しくは酸化物、または、Tiの窒化物若しくは炭化物若しくは炭窒化物の少なくとも1つを含み、かつ、前記結合相には、平均粒径が20~300nmである金属硼化物が0.1~5.0体積%、より好ましくは0.1~4.0体積%、さらに好ましくは0.1~3.0体積%分散している。前記金属硼化物は、金属成分がNb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を含みかつTiを含まない金属硼化物(B)と、Tiのみを含む金属硼化物(A)とを含む。前記金属硼化物のうちで、前記Tiのみを金属成分として含む金属硼化物(A)の割合(体積%)をVaとし、前記Nb、Ta、Cr、Mo、Wの少なくとも1種を金属成分として含みTiを含まない金属硼化物(B)の割合(体積%)をVbとした場合、比Vb/Vaが0.1~1.0を満足する。比Vb/Vaは、より好ましくは0.2~0.8、さらに好ましくは0.3~0.7である。
【0010】
(2)他の態様は、前記(1)に記載のcBN基超高圧焼結体であって、前記Nb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を金属成分として含みかつTiを含まない金属硼化物(B)のうち、六方晶構造のものの{001}面のX線回折ピークの最大強度をIhex、前記cBN粒子の{111}面のX線回折ピーク強度をIcBNとするとき、0.04≦Ihex/IcBN≦0.20である。Ihex/IcBNは、より好ましくは0.06~0.17、さらに好ましくは0.08~0.15である。
【0011】
(3)他の態様は、前記(1)または(2)に記載のcBN基超高圧焼結体であって、前記cBN粒子の含有割合は40~80体積%である。また、すべての前記cBN粒子の含有割合を100体積%とするとき、平均粒径が2μm未満であるcBN粒子が5~40体積%、平均粒径が2μm以上8μm未満のcBN粒子が60~95体積%である。
【0012】
(4)他の態様は、前記(1)~(3)のいずれかに記載のcBN基超高圧焼結体を備える切削工具である。前記切削工具は、前記cBN基超高圧焼結体からなる工具本体と、この工具本体に形成された切刃とを有していてもよい。前記切削工具は、前記cBN基超高圧焼結体からなるインサート本体と、このインサート本体に形成された切刃とを有する切削インサートであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のcBN基超高圧焼結体は、靱性がより一層向上しており、このcBN基超高圧焼結体を備えた切削工具は、優れた耐欠損性、耐チッピング性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のcBN基超高圧焼結体の焼結組織を示す模式図である。各組織の形状や寸法は、実際の焼結組織を模写したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のcBN焼結体、および、これを工具基体とする切削工具(CBN工具)について、より詳細に説明する。本明細書および請求の範囲において、数値範囲を「~」を用いて表現する場合、その範囲は上限および下限の数値を含む。
【0016】
1.結合相
結合相は、Alの窒化物若しくは酸化物、または、Tiの窒化物若しくは炭化物若しくは炭窒化物の少なくとも1つを含むものが好ましい。これらAlの窒化物若しくは酸化物、または、Tiの窒化物若しくは炭化物若しくは炭窒化物は従来公知のものを使用できる。
【0017】
2.結合相に分散する金属硼化物粒子
結合相中には、所定の大きさの金属硼化物(複合硼化物であってもよい)粒子が所定割合で分散している。金属硼化物は、従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。
【0018】
(1)金属硼化物粒子の平均粒径
結合相中に分散させる金属硼化物粒子の大きさは、平均粒径が20~300nmであるものがcBN焼結体全体に対して、0.1~5.0体積%、より好ましくは0.1~4.0体積%、さらに好ましくは0.1~3.0体積%で分散していることが好ましい。金属硼化物粒子の平均粒径が、20nm未満ではcBN粒子と結合相との反応促進効果が十分得られず、300nm超えでは金属硼化物が粗大となり切削中の欠損の要因となる。また、金属硼化物粒子の含有割合が0.1体積%未満では金属硼化物量が不十分であり、cBN粒子と結合相との反応促進効果が十分得られず、5.0体積%超えでは、cBN焼結体としての硬さと靭性が低下し、切削中の欠損の要因となる。金属硼化物粒子の含有割合が3.0~5.0体積%である場合にも、金属硼化物が微粒で結合相中に分散し、かつcBN焼結体の焼結が十分進んでいれば、硬質粒子の分散による靭性向上が発現し、硬さと靭性の低下は比較的に小さく抑えられ、切削中の欠損の要因になることは少ない。
【0019】
金属硼化物の平均粒径を求めるには、cBN焼結体の断面組織をオージェ電子分光(Auger Electron Spectrography:以下、AESという)装置を用いて、金属元素、および硼素元素のマッピング像を得て、金属元素および硼素元素が重なる部位を画像処理によって抜き出し、当該部位を金属硼化物粒子と特定する。次に、特定した各粒子に対して画像解析を行って平均粒径を求める。具体的には、結合相中の金属硼化物粒子を明確に判断するため、AESを用いて得た同一視野における金属元素および硼素元素の各マッピング像は、対象元素が存在しない部位を白、存在する部位を黒とし、黒を0、白を255の256階調のモノクロにて取得し、各々のモノクロ像において各元素が存在する位置が黒色となるように2値化処理する。2値化処理して得られた同一視野内における金属元素および硼素元素のマッピング像において、金属元素および硼素元素が存在する、すなわち金属元素および硼素元素の各マッピング像を比較し、いずれも黒色となる部位を金属硼化物粒子と特定する。
【0020】
金属硼化物粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、画像処理法の1つであるウォーターシェッドを用いて、互いに接触していると思われる金属硼化物粒同士を分離する処理を行ってもよい。例えば、金属元素および硼素元素の各マッピング像を比較し、いずれも黒色である部分を抜き出した後の像へ、前記分離処理を行ってもよい。
【0021】
まず、2値化処理後に得られた画像内の金属硼化物粒にあたる部分(黒の部分)を粒子解析し、求めた最大長を各粒子の直径とする。最大長を求める粒子解析としては、例えば、1つの金属硼化物粒子に対してフェレ径を算出することより得られる2つの長さから、大きい長さの値を最大長とし、その値を各粒子の直径とする。この直径を有する理想球体と仮定して計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[μm]としてグラフを描画する。次に、体積百分率が50%のときの直径を金属硼化物粒子の平均粒径とし、これを3観察領域に対して行い、その平均値を金属硼化物の平均粒径[μm]とする。粒子解析を行う際には、あらかじめSEM(走査型電子顕微鏡)により分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域としては、一例として、8.0μm×8.0μmの視野領域が望ましい。
【0022】
(2)金属硼化物粒子の金属成分
金属硼化物粒子は、金属成分がNb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を含みかつTiを含まない金属硼化物(B)(複合硼化物であってもよい)とTiのみを含む金属硼化物(A)とがあることが好ましい。この場合、cBN粒子と結合相との反応が促進されて結合が強固となり、cBN焼結体の靭性が向上する。
【0023】
(3)Tiを含まない金属硼化物粒子
金属硼化物のうちTiのみを金属成分として含む金属硼化物(A)の割合(体積%)をVaとし、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を金属成分として含みTiを含まない金属硼化物(B)の割合(体積%)をVbとした場合、これらの比Vb/Vaが、0.1~1.0を満足することが好ましい。比Vb/Vaが0.1未満では、Tiを含まない金属硼化物(B)の量が不足して、cBN粒子と結合相との反応促進効果が十分得られない。一方、比Vb/Vaが1.0を超えると、Tiを含まない金属硼化物(B)が反応促進効果を得るのに必要な量よりも過剰に存在し、cBN焼結体としての硬さと靭性が得られない。
【0024】
金属硼化物の含有割合は以下のように求めることができる。まず、AESを用いて、金属元素および硼素元素のマッピング像を得て、金属元素および硼素元素が重なる部位を画像処理によって抜き出し、当該部位を金属硼化物粒子と特定する。次に、画像解析により金属硼化物粒子が占める面積を算出して、金属硼化物粒子の面積割合を求める。これを少なくとも3画像に対して行い、算出した各金属硼化物粒子の面積割合の平均値を、cBN焼結体に占める金属硼化物の含有割合として求める。画像処理に用いる観察領域としては、例えば、8.0μm×8.0μmの視野領域が望ましい。
【0025】
前記Nb、Ta、Cr、Mo、およびWの少なくとも1種を含みかつTiを含まない金属硼化物(B)のうち、六方晶構造のものの{001}面のX線回折ピークの最大強度をIhex、cBN粒子の{111}面のX線回折ピーク強度をIcBNとするとき、0.04≦Ihex/IcBN≦0.20であることが好ましい。X線回折ピーク強度は、Cu-Kα線を用いて測定する。
Tiを含まないが前記金属元素を含む金属硼化物(B)のうち、特に、六方晶構造を持つものを結合相中に分散させると、cBN粒子と結合相との反応が促進される。一方、Ihex/IcBNが0.04未満では、Tiを含まないが前記金属元素を含む金属硼化物(B)が不足し、cBN粒子と結合相との反応促進効果が十分得られない。Ihex/IcBNが0.20を超える場合にはcBNが結合相と過度に反応し、cBNの分解が進むために、cBNに対し金属硼化物が相対的に過剰に存在することになり、cBN焼結体としての強度、靭性が得られない。
【0026】
3.cBN粒子の含有割合
本発明において、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、特に限定されるものではないが、cBN焼結体全体の40~80体積%であることが好ましい。cBN粒子の含有割合が40体積%未満では、焼結体中に硬質物質が少なく、工具として使用した場合に、耐欠損性が低下することがある。一方、cBN粒子の含有割合が80体積%を超えると、焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下することがある。そのため、本発明が奏する効果をより一層確実に発揮するためには、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、40~80体積%の範囲とすることが好ましい。
【0027】
すべてのcBN粒子の含有割合を100体積%とするとき、平均粒径が2μm未満であるcBN粒子が5~40体積%、平均粒径が2μm以上8μm未満のcBN粒子が60~95体積%であることが好ましい。
平均粒径が2μm未満のcBN粒子を前記範囲とする理由は、5体積%未満では微粒cBNの分散による耐クラック伝搬性が十分でなく、耐欠損性が低下し、40体積%を超えると粗粒cBNが不足し耐摩耗性が低下するためである。また、平均粒径が2μm以上8μm未満のcBN粒子を前記範囲とする理由は、60体積%未満では粗粒cBNが不足し耐摩耗性が低下し、95体積%超えると微粒cBNの分散作用が十分でなく、耐欠損性が低下するためである。
【0028】
cBN粒子の平均粒径と含有割合は、以下のようにして求めることができる。
(1)平均粒径
cBN焼結体の断面組織を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、SEMという)にてcBN焼結体組織を観察し、二次電子像を得る。得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析より求めた各粒子の最大長を基に平均粒径を算出する。
画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出すにあたり、cBN粒子と結合相とを明確に判断するため、画像は0を黒、255を白の256階調のモノクロで表示し、cBN粒子部分の画素値と結合相部分の画素値の比が2以上となる画素値の像を用いてcBN粒が黒となるように2値化処理を行う。
【0029】
cBN粒子部分や結合相部分の画素値を求めるための領域として、一例として、0.5μm×0.5μmの領域とし、少なくとも同一画像内から異なる3個所より求めた平均の値を各々のコントラストとすることが望ましい。
2値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッドを用いて接触していると思われるcBN粒子同士を分離する。
【0030】
2値化処理後に得られた画像内のcBN粒子にあたる部分(黒の部分)を粒子解析し、求めた最大長を各粒子の直径とする。最大長を求める粒子解析としては、例えば、1つのcBN粒子に対してフェレ径を算出することより得られる2つの長さから大きい長さの値を最大長とし、その値を各粒子の直径とする。この直径を有する理想球体と仮定して計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[μm]としてグラフを描画させ、体積百分率が50%のときの直径をcBN粒子の平均粒径とし、これを3観察領域に対して行い、その平均値をcBNの平均粒径[μm]とした。粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。
【0031】
(2)含有割合
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、cBN焼結体の断面組織をSEMによって観察し、得られた二次電子像内のcBN粒子の部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、1画像内のcBN粒子が占める割合、および粒度分布を求め、少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の含有割合として求める。画像内のcBN粒子の部分を抜き出す画像処理は、cBN粒の平均粒径の2値化処理後の像を得る手順と同様に行う。
【0032】
4.製造方法
本発明の製造方法の一例を以下に示す。
(1)結合相を構成する成分の原料粉末の準備
結合相を構成する原料粉末として、Nb硼化物、Ta硼化物、Cr硼化物、Mo硼化物、W硼化物の少なくとも1種とTi硼化物(以下、金属硼化物と総称する)のそれぞれの粉末と結合相の主となる原料の粉末を用意する。所望の粒径に粉砕した金属硼化物の原料粉末とするため、例えば、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンとを共に充填し、蓋をした後にボールミルにより粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて分級することにより、縦軸を体積百分率、横軸を粒子径とした場合のメディアン径D50を、粉砕した金属硼化物の原料粉の平均粒径としたとき、その値が20~300nmの金属硼化物の原料粉末を得る。また、結合相の主となる原料粉末としては、従来から知られている結合相の形成原料粉末(例えば、TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末)を準備する。
【0033】
(2)粉砕・混合
これらの原料粉末を、例えば、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンとを共に充填し、蓋をした後にボールミルにより粉砕および混合を行う。
その後、硬質相として機能させる平均粒径0.2~8.0μmのcBN粉末を焼結後のcBN粒子の含有割合が所定の体積%となるように添加して、さらに、ボールミル混合を行う。
【0034】
(3)成形、焼結
得られた焼結体原料粉末を、所定圧力で成形して成形体を作製し、これを真空下、1000℃で仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、例えば、圧力:4~6GPa、温度:1200~1600℃の範囲内の所定の温度で焼結することにより、本発明のcBN焼結体を作製する。
【0035】
5.CBN工具
このように作製した本発明の、靭性に優れたcBN焼結体を工具基体とするcBN基超高圧焼結体を備える切削工具は、耐チッピング性、耐欠損性に優れ、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。
【実施例】
【0036】
本実施例のcBN焼結体の製造では、結合相を構成するための原料粉末として、Ta硼化物、Cr硼化物、Nb硼化物、Mo硼化物、W硼化物の少なくとも1種とTi硼化物の粉末を準備し、粒径制御のため、ボールミルにて粉砕の処理を施した後、遠心分離法を用いて分級することにより所望の粒径範囲の各金属硼化物の原料粉を用意した。
すなわち、前記各金属硼化物原料粉末を、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をした後にボールミルを用いて粉砕を実施後、混合したスラリーを乾燥させた後、遠心分離装置を用いて分級することにより平均粒径が20~300nmの各金属硼化物原料粉を得た。
【0037】
前記のように事前に準備した各金属硼化物原料粉と、平均粒径が0.02μm~0.5μmのTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末を用意した。これら原料粉末の中から選ばれたいくつかの結合相構成用原料粉末と、硬質相用原料としてのcBN粉末を配合し、湿式混合し、乾燥した。各原料粉末配合組成の体積%を表1に示し、この配合のいずれかを本発明焼結体と比較例焼結体の硼化物原料以外の結合相原料として用いたかを表2に示す。
【0038】
次いで、得られた焼結体原料粉末を、成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形した。ついで、この成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1000℃の範囲内の所定温度に保持して仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、圧力:5GPa、表3に示す温度:1200~1600℃の温度で焼結することにより、表4に示す本発明のcBN焼結体1~9(本発明焼結体1~9という)を作製した。
【0039】
本発明において規定する範囲外のVb/Va比、Ihex/IcBNの場合を比較するため、表2に示す硼化物原料以外の結合相原料を用い、表3に示す温度で焼結した。各金属硼化物の添加量、超高圧焼結温度を変更し、表4に示す比較例のcBN焼結体(以下、比較例焼結体という)1’~6’を作製した。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
表4において、Ti以外の金属硼化物の金属成分として複数の金属元素が記載されているものは、記載の金属元素を有する複合硼化物が存在していることを表す。
【0045】
次に、本発明焼結体1~9、比較例焼結体1’~6’を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、試験片を得た。一方、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成であって、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体を準備した。このWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、前記試験片を、ろう材を用いてろう付けした。ろう材として、Cu:26質量%、Ti:5質量%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いた。得られたインサートに、上下面および外周の研磨、ホーニング処理を施すことにより、ISO規格のCNGA120408のインサート形状をもつ、本発明のcBN基超高圧焼結体切削工具(本発明工具という)1~9、および、比較例のcBN基超高圧焼結体切削工具(比較例工具という)1’~6’を製造した。
【0046】
次いで、本発明工具1~9と比較工具1’~6’に対して、以下の切削条件で切削加工を実施し、欠損に至るまでの工具寿命(回数)を測定した。
【0047】
<乾式切削条件>
被削材:浸炭焼き入れ鋼(JIS・SCR420、硬さ:HRC58~62)の長さ方向に等間隔の縦溝が入った丸棒
切削速度:250m/min、
切り込み:0.15mm、
送り:0.1mm/rev
【0048】
各工具の刃先がチッピングあるいは欠損に至るまでの断続回数を工具寿命とし、断続回数2000回毎に刃先を観察し、刃先の欠損やチッピングの有無を確認した。表5に、前記切削加工試験の結果を示す。
【0049】
【0050】
表5に示される結果から、本発明工具1~9は、突発的な刃先の欠損、チッピングが発生することなく、工具寿命が格段に延命化され、靱性が向上した。一方、本発明の要件を一つ以上満足しないcBN基超高圧焼結体を備えた比較例工具1’~6’は工具寿命が短かかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の靱性に優れたcBN焼結体は、靱性が高く、CBN工具の工具基体として用いると、欠損、破損を発生することなく、長期の使用にわたって優れた耐欠損性を発揮し、工具寿命の延命化が図られる。よって、本発明は、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネルギー化、低コスト化に十分満足に対応できるから、産業上の利用が可能である。