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特許7377480黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンをαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法
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  • 特許-黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンをαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンをαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20231102BHJP
【FI】
C01B32/184
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020101931
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2021195271
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178050(JP,A)
【文献】特開2016-204184(JP,A)
【文献】特表2019-532892(JP,A)
【文献】特許第6166860(JP,B2)
【文献】特表2019-506494(JP,A)
【文献】特表2016-509739(JP,A)
【文献】特開2003-001082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
H01M 4/64-4/84
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01G 11/00-11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンを側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法は、
2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の平行平板電極を、容器に充填された炭素数が5-8からなるいずれかのアルカン中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記2枚の平行平板電極を離間させるとともに、該離間させた2枚の平行平板電極を前記アルカン中に浸漬させる、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙に、予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりに印加され、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合が同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンの集まりが析出し、該グラフェンの集まりが製造される、黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造する第一の工程と、
前記2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該間隙を拡大した2枚の平行平板電極を前記アルカン中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記2枚の平行平板電極の間隙に析出した前記グラフェンの集まりを、該2枚の平行平板電極の間隙から前記アルカン中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、前記容器内のアルカン中でホモジナイザー装置を稼働させ、前記アルカンを介して前記グラフェンの集まりに衝撃エネルギーを繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記アルカン中で1枚1枚のグラフェンに分離させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記アルカンを介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成する、
この後、前記容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記アルカンを介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりが前記容器内に製造される、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンを介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを製造する第二の工程と、
前記アルカンに溶解する第一の性質と、融点が40℃より高い第二の性質と、沸点が前記アルカンの沸点より高い第三の性質と、熱融解した液体の粘度が前記アルカンの20℃の粘度の40倍より高い第四の性質と、吸湿性と吸水性とがない第五の性質とからなる5つの性質を兼備する有機化合物である側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体を、前記アルカンとの混合液の20℃における粘度が15-25mPa・sになる量として秤量し、該秤量したαオレフィン誘導体を、前記アルカンを介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりに混合し、該グラフェンの集まりを、前記αオレフィン誘導体が前記アルカンに溶解した溶解液中に分散させる、
この後、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェン同士が前記溶解液を介して重なり合ったラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成し、前記溶解液を介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりが製造される、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを製造する第三の工程と、
最もビーズ径が大きく、かつ、同一のビーズ径からなる第一のビーズの集まりを、粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が最も高い第一の占有割合で投入第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室に、前記αオレフィン誘導体が前記アルカンに溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを投入し、該粉砕室を該グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりで充填する、
さらに、前記第一の湿式ビーズミル装置の攪拌部材を稼働させ、前記粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、最も遅い第一の周速度として前記粉砕室内に発生させ、該旋回流に依って前記グラフェンの集まりと前記第一のビーズの集まりが攪拌され、該攪拌された前記グラフェンの集まりと前記第一のビーズの集まりが、前記粉砕室の上部に向かって旋回されながら移動し、該グラフェンの集まりと該第一のビーズの集まりとの第一の衝突が繰り返され、また、該グラフェン同士の第二の衝突が繰り返され、これら2種類の衝突によって、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離される分離現象が進むとともに、前記旋回流によって、前記グラフェンの集まりと前記第一のビーズの集まりが前記粉砕室の上部に移動し、該グラフェンの集まりと該第一のビーズの集まりが前記粉砕室の最上部に到達すると、該最上部に配置された遠心分離装置によって、該グラフェンの集まりと該第一のビーズの集まりが互いに分離され、該分離されたグラフェンの集まりは、前記第一の湿式ビーズミル装置の機外に一度排出された後に、再度、前記粉砕室の底部に戻される、いっぽう、前記粉砕室の最上部に達した前記旋回流は、前記第一の湿式ビーズミル装置の容器の内壁と前記粉砕室の外壁との間隙を下方に向かって移動する流れに変わり、該下方に向かって移動する流れによって、前記分離された第一のビーズの集まりが前記粉砕室の底部に戻され、該粉砕室の底部に戻された前記第一のビーズの集まりと、前記粉砕室の底部に戻された前記グラフェンの集まりとの第一の衝突が、前記粉砕室内で再度繰り返され、また、前記粉砕室の底部に戻された前記グラフェン同士の第二の衝突が、前記粉砕室内で再度繰り返される、こうした2種類の衝突を予め決めた時間継続して実施し、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりの一部が、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離される第一の分離工程と、
前記第一の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりを、前記第一の湿式ビーズミル装置の前記遠心分離装置から機外に排出させ、該排出したグラフェンの集まりを、ビーズ径が前記第一のビーズより小さく、かつ、同一のビーズ径からなる第二のビーズの集まりを、前記第一の占有割合より低い第二の占有割合で投入した第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室に集め、該粉砕室を、前記第一の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりと前記第二のビーズの集まりで充填する、
さらに、前記第二の湿式ビーズミル装置の攪拌部材を稼働させ、前記粉砕室において、該粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、前記第一の周速度より早い第二の周速度として発生させ、該旋回流に依って前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが攪拌され、該攪拌された前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが、前記粉砕室の上部に向かって旋回されながら移動する、
これによって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりとの第一の衝突が繰り返され、また、該グラフェン同士の第二の衝突が繰り返され、相対的に面積が大きいグラフェンが前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンほど、これら2種類の衝突の頻度が高まり、該2種類の衝突によって、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った前記相対的に面積が大きいグラフェンが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する分離現象が進むとともに、前記旋回流によって、前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが前記粉砕室の上部に移動し、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが前記粉砕室の最上部に到達すると、該最上部に配置された遠心分離装置によって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが互いに分離され、該分離されたグラフェンの集まりとビーズの集まりは、前記第一の分離工程と同様に、前記粉砕室の底部に戻され、前記粉砕室内で前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりとの第一の衝突が再度繰り返され、また、前記グラフェン同士の第二の衝突が再度繰り返され、こうした2種類の衝突を予め決めた時間継続させ、前記第一の分離工程における前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりより、さらに面積が小さい前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンの集まりに分離され、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりと、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりとの混合物が、前記第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室に製造される、第一の分離工程における炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりより、さらに多くの前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりが得られる第二の分離工程と、
前記第二の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりを、前記第二の湿式ビーズミル装置の遠心分離装置から機外に排出させ、該排出したグラフェンの集まりを、ビーズ径が前記第二のビーズより小さく、かつ、同一のビーズ径からなる第三のビーズの集まりを、前記第二の占有割合より低い第三の占有割合で投入した第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室に集め、該粉砕室を、前記第二の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりと前記第三のビーズの集まりで充填する、
さらに、前記第三の湿式ビーズミル装置の攪拌部材を稼働させ、前記粉砕室において、該粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、前記第二の周速度より早い第三の周速度として発生させ、該旋回流に依って前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが攪拌され、該攪拌された前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが、前記粉砕室の上部に向かって旋回されながら移動する、
これによって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりとの第一の衝突が繰り返され、また、該グラフェン同士の第二の衝突が繰り返され、相対的に面積が大きいグラフェンが前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンほど、これら2種類の衝突の頻度が高まり、該2種類の衝突によって、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った前記相対的に面積が大きいグラフェンが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する分離現象が進むとともに、前記旋回流によって、前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが前記粉砕室の上部に移動し、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが前記粉砕室の最上部に到達すると、該最上部に配置された遠心分離装置によって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが互いに分離され、該分離されたグラフェンの集まりと該ビーズの集まりは、前記第一の分離工程と同様に、前記粉砕室の底部に戻され、前記粉砕室内で前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりとの第一の衝突が再度繰り返され、また、前記グラフェン同士の第二の衝突が再度繰り返され、こうした2種類の衝突を予め決めた時間継続させ、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりの全てが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離され、該溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりが、前記第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室に製造される、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりの全てを、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する第三の分離工程とからなり、
前記した3つの分離工程における全ての処理を連続して実施することで、前記炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンに前記αオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりの全てを、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する第四の工程と、
前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたラフェンンの集まりを、前記第三の湿式ビーズミル装置の遠心分離装置から機外に排出させ、該排出したグラフェンの集まりを新たな容器に集める、
この後、前記新たな容器を、前記アルカンの沸点に昇温し、前記グラフェンの集まりから前記アルカンを気化させ、さらに、新たな容器を、前記αオレフィン誘導体の融点より低い温度に冷却させ、該αオレフィン誘導体を固化させる、
これによって、前記新たな容器内に、前記αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われた1枚1枚のグラフェンの集まりが形成される、この後、該新たな容器に負荷を加え、前記グラフェンの集まりを崩して該新たな容器内に平坦に並べ、該平坦に並んだグラフェンの集まりから、前記αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われた1枚1枚のグラフェンを取り出す、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたラフェンンの集まりから、αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われた1枚1枚のグラフェンを取り出す第五の工程とからなり、
前記した5つの工程における全ての処理を連続して実施する方法が、黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンを側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法である
【請求項2】
請求項1に記載した第四の工程における処理方法は、
第一の分離工程における処理方法が、ビーズ径が2.0-3.0mmからなる同一径のビーズの集まりを第一のビーズの集まりとして用い、該第一のビーズの集まりを、第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が、粉砕室の50-60%の体積を占める割合で投入し、前記第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、6-8m/sの周速度で該粉砕室内に発生させる処理方法であり、
第二の分離工程における処理方法が、ビーズ径が0.2-0.3mmからなる同一径のビーズの集まりを第二のビーズの集まりとして用い、該第二のビーズの集まりを、第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が、粉砕室の40-50%の体積を占める割合で投入し、前記第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、8-10m/sの周速度で該粉砕室内に発生させる処理方法であり、
第三の分離工程における処理方法が、ビーズ径が0.03mmからなるビーズの集まりを第三のビーズの集まりとして用い、該第三のビーズの集まりを、第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が、粉砕室の30-40%の体積を占める割合で投入し、前記第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、10-12m/sの周速度で該粉砕室内に発生させる処理方法であり、
これらの3つの分離工程における処理方法の全てを、請求項1に記載した第四の工程における処理方法に反映し、該第四の工程における処理を実施する方法が、請求項1に記載した第四の工程における処理方法である
【請求項3】
請求項1に記載した第四の工程における3つの分離工程の処理方法は、
請求項1に記載した第四の工程における3つの分離工程において、ジルコニアからなるビーズをビーズの集まりとして用い、前記第四の工程における3つの分離工程の処理を実施する方法である、請求項1に記載した第四の工程における3つの分離工程の処理方法である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカン中に、黒鉛粒子の集まりを浸漬させ、該黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊し、黒鉛結晶からなる基底面の集まり、すなわち、グラフェンの集まりを製造し、さらに、該グラフェンをαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法に関する。なお、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する炭素原子の集まりからなる単結晶材料である。本発明は、先に出願した特願2019-226891の改良に関わる出願で、本発明では、αオレフィン誘導体を介して重なり合ったグラフェンを、ビーズミル装置によって1枚1枚のグラフェンに分離するため、先願における気流式の粉砕機によって1枚1枚のグラフェンに分離する方法より、短時間にグラフェンの分離が可能になる。
【背景技術】
【0002】
2004年に英国マンチェスター大学の物理学者が、セロハンテープを使用して、グラファイトから1枚の結晶子、すなわち、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する基底面を引きはがし、炭素原子の大きさを厚みとする平面状の物質を取り出すことに初めて成功した。この新たな物質をグラフェンと呼んだ。この研究成果に対して、2010年のノーベル物理学書が授与されている。
【0003】
グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する極めて薄い物質で、かつ、質量をほとんど持たない全く新しい炭素材料である。このため、従来の物質とは大きくかけ離れた物性を持ち、幅広い用途に応用できる材料として注目されている。
例えば、厚みが0.332nmからなる最も薄い材料である。また、単位質量当たりの表面積が3000m/gである最も広い表面積を持つ。さらに、ヤング率が1020GPaと大きな値を持ち、最も伸長でき、折り曲げができる材料である。また、せん断弾性率が440GPaという大きな数値を持つ最も強靭な物質である。さらに、熱伝導率は19.5W/Cmで、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する。また、電流密度は銅の1000倍を超える。さらに、電子移動度が15000cm/ボルト・秒であり、シリコーンの移動度の1400cm/ボルト・秒より一桁高い値を持つ。さらに、融点が3000℃を超える単結晶材料で、耐熱性が極めて高い材料である。
【0004】
いっぽう、グラフェンは様々な方法で製造される。例えば、前記したマンチェンスター大学の教授は、人の手でグラファイトからグラフェンを物理的に引きはがした。この方法は、大量のグラフェンを短時間に引き剥がすことは困難で、また、剥がされたものが黒鉛結晶の単一層、つまり、グラフェンになるとは限らない。
また、特許文献1に、炭化ケイ素の単結晶を熱分解することでグラフェンを製造する方法が記載されている。つまり、炭化ケイ素を不活性雰囲気で加熱し、表面を熱分解させる。この際、昇華温度が相対的に低いケイ素が優先して昇華され、残存した炭素によってグラフェンが生成される。しかし、炭化ケイ素の単結晶が非常に高価な材料である。さらに、1600℃を超える高温で、かつ、真空度が高い雰囲気でケイ素を昇華させるが、ケイ素が僅かでも残存した場合は、熱分解後の残渣物としてグラフェンが生成されない。このため、炭化ケイの単結晶の生成と、単結晶の熱分解処理に係わる費用は非常に高価になる。また、大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
さらに、特許文献2に、シート状の単結晶のグラファイト化金属触媒に、炭素系物質を接触させ、還元性雰囲気で熱処理することで、グラフェンを製造する方法が記載されている。しかしながら、この製造方法も、安価な製造方法とは言えず、かつ、量産性に優れた製造方法ではない。第一に、単結晶のグラファイト化金属触媒を製造する製造コストは、炭化ケイ素の単結晶よりさらに高い。第二に、単結晶のグラファイト化金属触媒を炭素系物質に接触させる方法は量産性に劣る。第三に、水素ガスを含む窒素ガスがリッチな雰囲気で、1000℃を超える高温度で、グラファイト化金属触媒を還元処理する方法は、熱処理費用が高価になる。大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
【0005】
現在までのグラフェンの製造方法はいずれも、第一に、安価な製造方法で大量のグラフェンを同時に製造する方法ではない。第二に、製造したグラフェンが必ずしもグラフェンでない。つまり、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する炭素原子の集まりからなる単結晶材料であり、不純物が全くない雰囲気で、炭素原子の結晶成長ができなければ、グラフェンが生成されない。さらに、生成したグラフェンの厚みが極薄く、極軽量であるため、グラフェンであることを確認する方法が困難を極める。
このため、本発明者は、製造したグラフェンが全て完全なグラフェンで、かつ、極めて簡単な方法で大量のグラフェンを同時に製造する方法を見出した(特許文献3)。すなわち、黒鉛の単結晶のみからなり、黒鉛の結晶化が100%進み、さらに、最も安価な炭素材料である、天然の黒鉛結晶の塊を破砕し、該破砕した黒鉛結晶から鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の集まりを選別した黒鉛粒子の集まりを、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰め、該2枚の平行平板電極に電界を印加し、該電界の印加によって黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊し、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンを大量に製造する方法である。この製造方法に依れば、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の僅か1gから、1.62×1013個に及ぶグラフェンの集まりが瞬時に得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-110485号公報
【文献】特開2009-143799号公報
【文献】特許第6166860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3段落で説明したように、グラフェンが従来の素材とは全くかけ離れた驚異的な物性を持つため、グラフェンを用いた様々な部品やデバイの研究開発が行われている。従って、安価な製造方法で製造したグラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを容易に取り出す方法が見いだせれば、グラフェンを用いた安価な部品やデバイスの実用化が進む。
いっぽう、特許文献3による製造方法で大量のグラフェンを同時に製造できるが、このグラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出す方法は見出されていない。また、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する、単一の結晶子からなる極めて厚みが薄い物質であり、極めて軽量で、殆ど質量を持たない。このため、特許文献3における電界の印加によって、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンは、製造時と製造後において、極めて容易に飛散する。さらに、グラフェンは厚みが極めて薄く、厚みに対する結晶面の大きさの比率であるアスペクト比が極めて大きい扁平面で構成される。また、黒鉛粒子が一定の形状を持ち、黒鉛粒子の形状は同一でないため、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンのアスペクト比は、個々のグラフェンで異なる。従って、特許文献3における製造方法では、グラフェンの製造時に容易にグラフェン同士が重なり合う。さらに、重なり合ったグラフェンの枚数は一定でない。また、グラフェン同士が重なり合ったか否かを識別することは極めて困難で、電子顕微鏡の観察で識別するしかない。従って、グラフェンンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出すことは極めて困難である。
【0008】
本発明は、鱗片状黒鉛粒子の集まり、ないしは、塊状黒鉛粒子の集まりを液体中に浸漬させ、該液体中で黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊し、グラフェンの集まりを製造する。さらに、該液体中で1枚1枚のグラフェンに分離し、この後、粘度を高めた液体中でグラフェン同士を重ね合わせる。さらに、重なり合ったグラフェンの集まりに負荷を加え、重なり合ったグラフェンを強制的に引き剥がせば、粘度を高めた液体を伴って、グラフェンが引き剥がされるため、粘度を高めた液体が吸着した1枚1枚のグラフェンに分離する。この後、粘度を高めた液体を固化すれば、1枚1枚のグラフェンが固体で覆われ、該グラフェンの集まりに僅かな負荷を加え、該グラフェンの集まりを崩して平坦に並べれば、1枚1枚のグラフェンが識別でき、該グラフェンの集まりから、固体で覆われた1枚1枚のグラフェンを取り出すことができるとの考えに基づく。
すなわち、鱗片状黒鉛粒子の集まり、ないしは、塊状黒鉛粒子の集まりを液体中に浸漬させ、該液体中で黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊し、グラフェンの集まりを製造する。次に、液体中で1枚1枚のグラフェンに分離する。さらに、該液体に溶解する高粘度の有機化合物を、グラフェンの集まりに混合し、さらに、粘度を高めた有機化合物の溶解液中でグラフェン同士を重ね合わせる。この後、重なり合ったグラフェンの集まりに負荷を加え、該重なり合ったグラフェンを強制的に引き剥がせば、粘度を高めた有機化合物の溶解液を伴って、1枚1枚のグラフェンに引き剥がされ、有機化合物の溶解液が吸着した1枚1枚のグラフェンに分離する。さらに、液体を気化し、さらに、有機化合物を固化させると、1枚1枚のグラフェンが固体の被膜で覆われる。この後、グラフェンの集まりに僅かな負荷を加え、グラフェンの集まりを崩して平坦に並べれば、1枚1枚のグラフェンが識別でき、グラフェンの集まりから、固体の被膜で覆われた1枚1枚のグラフェンが取り出されるとの考えに基づく。
従って、本発明の解決すべき課題は、次の6つの課題を解決する手段を順番に見出し、重なり合ったグラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出す方法を実現することである。
第一の課題は、低粘度で低密度である絶縁性の有機溶剤に黒鉛粒子の集まりを浸漬し、該黒鉛粒子の集まりにおける黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊し、基底面の集まり、すなわち、グラフェンの集まりを製造する。この際、グラフェンの製造時と製造後に、グラフェンは飛散しない。つまり、有機溶剤の粘度が低いため、グラフェンに液体が吸着せず、また、液体の密度が低いため、液体中でグラフェンが移動する。このため、析出したグラフェンの集まりは、液体中に分散する。しかし、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合を同時に破壊する際に、一部のグラフェンが重なり合う。
第二の課題は、重なり合ったグラフェンを、1枚1枚のグラフェンに分離する。つまり、重なり合ったグラフェンを、1枚1枚のグラフェンに分離させることは、重なり合ったグラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出す第一のステップになる。
第三の課題は、有機溶剤を介してグラフェンを重ね合わせる。この処理は、重なり合ったグラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出す第二のステップになる。
第四の課題は、有機溶剤を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを、有機溶剤より粘度が著しく高く、かつ、融点が室温より高い有機化合物を有機溶剤に溶解させ、該有機化合物の溶解液を介してグラフェン同士を重なり合わせる。つまり、次の処理において、グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを、1枚1枚のグラフェンに分離する。この前処理として、一定の粘度を持つ溶解液を介してグラフェン同士を重なり合わせる。
第五の課題は、溶解液を介してグラフェン同士を重なり合わせる該溶解液の適正粘度を見出す。このグラフェンの集まりに負荷を繰り返し加えると、一定の粘度を持つ溶解液が吸着した1枚1枚のグラフェンに分離される。いっぽう、粘度の高い溶解液を介してグラフェン同士を重ね合わせると、グラフェンが大きいほど溶解液の吸着力が増大し、1枚1枚のグラフェンに分離しにくくなる。これとは反対に、溶解液の粘度が低すぎると、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンから溶解液が剥離し、グラフェン同士が再度直接重なり合う。このため、溶解液を介してグラフェン同士を重ね合わせる該溶解液の適正な粘度を見出す必要がある。これによって、グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出すことが可能になる。
第六の課題は、1枚1枚のグラフェンを固体の被膜で覆う。つまり、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンの集まりから、低粘度で低密度の液体を気化させ、さらに、有機化合物の融点より低い温度に冷却すると、1枚1枚のグラフェンが固体の被膜で覆われる。この固体の被膜は、有機化合物が固化する際に、有機化合物の微細結晶として析出した集まりであるため、微細結晶同士の結合力は弱い。いっぽう、グラフェンの厚みは極めて薄いが、固体の被膜は一定の厚みを持つため、また、グラフェンの大きさが個々のグラフェンで異なる。このため、グラフェンの集まりに僅かな負荷を加え、グラフェンの集まりを崩して平坦に並べると、1枚1枚のグラフェンが識別でき、該グラフェンの集まりから、固体の被膜で覆われたグラフェンが識別でき、1枚1枚のグラフェンを取り出すことができる。このように、1枚1枚のグラフェンを固体の有機化合物で覆えば、1枚1枚のグラフェンを取り出すことが可能になる。なお、有機化合物の融点が室温より高く、吸湿性と吸水性とがなければ、固体の有機化合物で覆われた1枚1枚のグラフェンの集まりは、室温の変動があっても固体が熱融解せず、また、室温において長期に亘って固体の有機化合物で覆われたグラフェンの保管ができる。また、有機化合物の微細結晶同士の結合力は弱いため、固体の有機化合物で覆われたグラフェンに僅かな負荷を加えれば、固体の有機化合物がグラフェンから脱落し、グラフェンが容易に取り出せる。
さらに、第七の課題は、上記した6つの課題を解決する方法が、何れも極めて簡単な処理で、かつ、安価な工業用材料を用いて処理する方法である。これによって、安価な黒鉛粒子の集まりを用いて、安価な方法でグラフェンの集まりを製造し、安価な方法でグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出すことができる。この結果、安価なグラフェンが得られる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンを側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法は、
2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の平行平板電極を、容器に充填された炭素数が5-8からなるいずれかのアルカン中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記2枚の平行平板電極を離間させるとともに、該離間させた2枚の平行平板電極を前記アルカン中に浸漬させる、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙に、予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりに印加され、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合が同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンの集まりが析出し、該グラフェンの集まりが製造される、黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造する第一の工程と、
前記2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該間隙を拡大した2枚の平行平板電極を前記アルカン中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記2枚の平行平板電極の間隙に析出した前記グラフェンの集まりを、該2枚の平行平板電極の間隙から前記アルカン中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、前記容器内のアルカン中でホモジナイザー装置を稼働させ、前記アルカンを介して前記グラフェンの集まりに衝撃エネルギーを繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記アルカン中で1枚1枚のグラフェンに分離させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記アルカンを介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成する、
この後、前記容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記アルカンを介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりが前記容器内に製造される、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンを介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを製造する第二の工程と、
前記アルカンに溶解する第一の性質と、融点が40℃より高い第二の性質と、沸点が前記アルカンの沸点より高い第三の性質と、熱融解した液体の粘度が前記アルカンの20℃の粘度の40倍より高い第四の性質と、吸湿性と吸水性とがない第五の性質とからなる5つの性質を兼備する有機化合物である側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体を、前記アルカンとの混合液の20℃における粘度が15-25mPa・sになる量として秤量し、該秤量したαオレフィン誘導体を、前記アルカンを介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりに混合し、該グラフェンの集まりを、前記αオレフィン誘導体が前記アルカンに溶解した溶解液中に分散させる、
この後、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェン同士が前記溶解液を介して重なり合ったラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成し、前記溶解液を介して前記グラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりが製造される、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを製造する第三の工程と、
最もビーズ径が大きく、かつ、同一のビーズ径からなる第一のビーズの集まりを、粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が最も高い第一の占有割合で投入第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室に、前記αオレフィン誘導体が前記アルカンに溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを投入し、該粉砕室を、該グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりで充填する、
さらに、前記第一の湿式ビーズミル装置の攪拌部材を稼働させ、前記粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、最も遅い第一の周速度として前記粉砕室内に発生させ、該旋回流に依って前記グラフェンの集まりと前記第一のビーズの集まりが攪拌され、該攪拌された前記グラフェンの集まりと前記第一のビーズの集まりが、前記粉砕室の上部に向かって旋回されながら移動し、該グラフェンの集まりと該第一のビーズの集まりとの第一の衝突が繰り返され、また、該グラフェン同士の第二の衝突が繰り返され、これら2種類の衝突によって、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離される分離現象が進むとともに、前記旋回流によって、前記グラフェンの集まりと前記第一のビーズの集まりが前記粉砕室の上部に移動し、該グラフェンの集まりと該第一のビーズの集まりが前記粉砕室の最上部に到達すると、該最上部に配置された遠心分離装置によって、該グラフェンの集まりと該第一のビーズの集まりが互いに分離され、該分離されたグラフェンの集まりは、前記第一の湿式ビーズミル装置の機外に一度排出された後に、再度、前記粉砕室の底部に戻される、いっぽう、前記粉砕室の最上部に達した前記旋回流は、前記第一の湿式ビーズミル装置の容器の内壁と前記粉砕室の外壁との間隙を下方に向かって移動する流れに変わり、該下方に向かって移動する流れによって、前記分離された第一のビーズの集まりが前記粉砕室の底部に戻され、該粉砕室の底部に戻された前記第一のビーズの集まりと、前記粉砕室の底部に戻された前記グラフェンの集まりとの第一の衝突が、前記粉砕室内で再度繰り返され、また、前記粉砕室の底部に戻された前記グラフェン同士の第二の衝突が、前記粉砕室内で再度繰り返される、こうした2種類の衝突を予め決めた時間継続して実施し、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりの一部が、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離される第一の分離工程と、
前記第一の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりを、前記第一の湿式ビーズミル装置の前記遠心分離装置から機外に排出させ、該排出したグラフェンの集まりを、ビーズ径が前記第一のビーズより小さく、かつ、同一のビーズ径からなる第二のビーズの集まりを、前記第一の占有割合より低い第二の占有割合で投入した第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室に集め、該粉砕室を、前記第一の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりと前記第二のビーズの集まりで充填する、
さらに、前記第二の湿式ビーズミル装置の攪拌部材を稼働させ、前記粉砕室において、該粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、前記第一の周速度より早い第二の周速度として発生させ、該旋回流に依って前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが攪拌され、該攪拌された前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが、前記粉砕室の上部に向かって旋回されながら移動する、
これによって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりとの第一の衝突が繰り返され、また、該グラフェン同士の第二の衝突が繰り返され、相対的に面積が大きいグラフェンが前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンほど、これら2種類の衝突の頻度が高まり、該2種類の衝突によって、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った前記相対的に面積が大きいグラフェンが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する分離現象が進むとともに、前記旋回流によって、前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが前記粉砕室の上部に移動し、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが前記粉砕室の最上部に到達すると、該最上部に配置された遠心分離装置によって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが互いに分離され、該分離されたグラフェンの集まりとビーズの集まりは、前記第一の分離工程と同様に、前記粉砕室の底部に戻され、前記粉砕室内で前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりとの第一の衝突が再度繰り返され、また、前記グラフェン同士の第二の衝突が再度繰り返され、こうした2種類の衝突を予め決めた時間継続させ、前記第一の分離工程における前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりより、さらに面積が小さい前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンの集まりに分離され、該溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりと、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりとの混合物が、前記第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室に製造される、第一の分離工程における炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりより、さらに多くの前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりが得られる第二の分離工程と、
前記第二の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりを、前記第二の湿式ビーズミル装置の遠心分離装置から機外に排出させ、該排出したグラフェンの集まりを、ビーズ径が前記第二のビーズより小さく、かつ、同一のビーズ径からなる第三のビーズの集まりを、前記第二の占有割合より低い第三の占有割合で投入した第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室に集め、該粉砕室を、前記第二の分離工程の処理を行った前記グラフェンの集まりと前記第三のビーズの集まりで充填する、
さらに、前記第三の湿式ビーズミル装置の攪拌部材を稼働させ、前記粉砕室において、該粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、前記第二の周速度より早い第三の周速度として発生させ、該旋回流に依って前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが攪拌され、該攪拌された前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが、前記粉砕室の上部に向かって旋回されながら移動する、
これによって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりとの第一の衝突が繰り返され、また、該グラフェン同士の第二の衝突が繰り返され、相対的に面積が大きいグラフェンが前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンほど、これら2種類の衝突の頻度が高まり、該2種類の衝突によって、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った前記相対的に面積が大きいグラフェンが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する分離現象が進むとともに、前記旋回流によって、前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりが前記粉砕室の上部に移動し、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが前記粉砕室の最上部に到達すると、該最上部に配置された遠心分離装置によって、該グラフェンの集まりと該ビーズの集まりが互いに分離され、該分離されたグラフェンの集まりと該ビーズの集まりは、前記第一の分離工程と同様に、前記粉砕室の底部に戻され、前記粉砕室内で前記グラフェンの集まりと前記ビーズの集まりとの第一の衝突が再度繰り返され、また、前記グラフェン同士の第二の衝突が再度繰り返され、こうした2種類の衝突を予め決めた時間継続させ、前記溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりの全てが、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離され、該溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたグラフェンの集まりが、前記第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室に製造される、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりの全てを、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する第三の分離工程とからなり、
前記した3つの分離工程における全ての処理を連続して実施することで、前記炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンに前記αオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりの全てを、前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する第四の工程と、
前記溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたラフェンンの集まりを、前記第三の湿式ビーズミル装置の遠心分離装置から機外に排出させ、該排出したグラフェンの集まりを新たな容器に集める、
この後、前記新たな容器を、前記アルカンの沸点に昇温し、前記グラフェンの集まりから前記アルカンを気化させ、さらに、該新たな容器を、前記αオレフィン誘導体の融点より低い温度に冷却させ、該αオレフィン誘導体を固化させる、
これによって、前記新たな容器内に、前記αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われた1枚1枚のグラフェンの集まりが形成される、この後、該新たな容器に負荷を加え、前記グラフェンの集まりを崩して該新たな容器内に平坦に並べ、該平坦に並んだグラフェンの集まりから、前記αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われた1枚1枚のグラフェンを取り出す、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離されたラフェンンの集まりから、αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われた1枚1枚のグラフェンを取り出す第五の工程とからなり、
前記した5つの工程における全ての処理を連続して実施する方法が、黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンを側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆い、該αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法である
【0010】
本発明は、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介して重なり合ったグラフェンの集まりを、湿式ビーズミル装置によって、1枚1枚のグラフェンに分離する方法であり、先に出願した特願2019-226891における気流式の粉砕機によって、1枚1枚のグラフェンに分離する方法より、短時間にグラフェンの分離が可能になる。つまり、ビーズの重量が、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェンの重量より著しく大きいため、該グラフェンがビーズと衝突する際に受ける衝撃力が、グラフェン同士が衝突する際に受ける衝撃力より著しく大きく、1枚1枚のグラフェンに分離される処理時間が短くなる。いっぽう、グラフェンは、せん断弾性率が440GPaという大きな数値を持つ最も強靭な物質であり、高速で粉砕室を旋回するビーズがグラフェンに衝突しても、グラフェンは破壊しない。また、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェンの重量が10-8gと小さく、高速で粉砕室を旋回するビーズが、該グラフェンに衝突しても、ビーズは破壊しない。さらに、1枚1枚に分離されたグラフェンにビーズが衝突を繰り返しても、グラフェンは損傷せず、グラフェンを覆う一定の粘度を持つ炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液が瞬間的に変形し、その後、元に戻る。このため、湿式ビーズミル装置の粉砕室で、グラフェンの集まりとビーズの集まりとの衝突を繰り返しても、重なり合ったグラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンに分離する方法に支障はない。
すなわち、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェン1個の重量に比べ、使用するビーズの中で、最も小さいビーズ1個の重量は200倍より大きい。このため、湿式ビーズミル装置の粉砕室における旋回流によって、グラフェン同士が衝突する際に、グラフェンが受ける衝撃力に比べ、グラフェンがビーズと衝突する際に、グラフェンが受ける衝撃力が著しく大きくなる。これによって、湿式ビーズミル装置の粉砕室内で、重なり合ったグラフェンの集まりの全てを、1枚1枚のグラフェンに分離する処理時間は、先願の気流式の粉砕機によって、重なり合ったグラフェン同士を衝突させて1枚1枚のグラフェンに分離する処理時間より短くなる。なお、グラフェンは、せん断弾性率が440GPaという大きな数値を持つ最も強靭な物質であり、グラフェンに大きな衝撃力が加わっても、グラフェンは破壊しない。また、グラフェンに大きな衝撃力が加わっても、グラフェンは一定の粘度を持つ粘稠性の溶解液で覆われるため、グラフェンの表面にビーズが衝突すると、衝突した部位の溶解液が瞬間的に変形するが、瞬時に元のグラフェンを覆う被膜に戻る。
すなわち、ソーダガラスからなるビーズの密度は2.5g/cmで、アルミナからなるビーズの密度は3.9g/cmで、ジルコニアからなるビーズの密度は6.0g/cmで、スチール(高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ-2)からなるビーズの密度は7.85g/cmである。いっぽう、湿式ビーズミル装置において使用するビーズの中で最も小さい第三のビーズの直径を、0.03mmと仮定すると、この微小なビーズ1個の重さは、ソーダガラスで3.5×10-5g、アルミナで5.5×10-5g、ジルコニアで8.4×10-5g、スチールで11.0×10-5gになる。これに対し、直径が25μmの円盤状のグラフェンに、密度が0.92g/cmαオレフィン誘導体が0.2μmの厚みで覆ったとすると、αオレフィン誘導体の被膜の重さは、1.44×10-7gになる。従って、密度が最も小さいソーダガラスからなり、最も粒径が小さい第三のビーズ1個の重さは、αオレフィン誘導体を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェンの重さより著しく大きくなる。この結果、グラフェン同士が衝突する際に、グラフェンが受ける衝撃力に比べ、グラフェンがビーズと衝突する際に、グラフェンが受ける衝撃力が著しく大きくなる。従って、湿式ビーズミル装置におけるビーズとグラフェンとの衝突を利用すると、溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェンが、効率よく1枚1枚のグラフェンに分離される。
すなわち、全ての黒鉛粒子が、直径が25ミクロンの球から構成されると仮定し、黒鉛の真密度が2.25×10kg/mであるから、黒鉛粒子の1個の重さは僅かに1.84×10-8gになる。また、黒鉛粒子の厚みの平均値が10ミクロンと仮定すると、層間距離が3.354オングストロームであるので、10ミクロンの厚みを持つ鱗片状黒鉛粒子には297,265個の基底面、すなわち、グラフェンが積層されている。従って、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を全て破壊することで、僅か1個の球状の黒鉛粒子から297,265個のグラフェンの集まりが得られる。このため、球状の黒鉛粒子の僅か1gの集まりについて、基底面の層間結合の全てを破壊した際に、1.62×1013個からなるグラフェンの集まりが得られる。このグラフェンの重量は、僅かに6.17×10-14gになる。従って、αオレフィン誘導体を介して重なり合ったグラフェンの重さは、αオレフィン誘導体の被膜の重さで決まる。
いっぽう、本発明におけるグラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法は、次の7つの処理からなり、これらの処理によって、8段落に記載した7つの課題が解決される。
第一の処理は、2枚の平行平板電極対の間隙に敷き詰められた鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンに浸漬させ、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を破壊し、グラフェンの集まりを製造する。つまり、炭素数が5-8からなるアルカンは、いずれも絶縁体であるため、2枚の平行平板電極対に直流の電位差を印加させると、電位差を2枚の平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界によって、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、黒鉛結晶からなる基底面の集まり、すなわち、グラフェンの集まりが瞬時に製造される。この際、2枚の平行平板電極対がアルカン中に浸漬しているため、グラフェンはアルカン中に析出し、グラフェンは飛散しない。これによって、8段落に記載した第一の課題が解決される。なお、液体の有機化合物は、極めて特殊な有機化合物、例えば、イオン液体のような特殊な有機化合物を除いて、殆どの有機化合物は絶縁体である。
さらに、炭素数が5-8からなるアルカンは低粘度で低密度の液体であり、アルカンに黒鉛粒子の集まりを浸漬し、グラフェンの集まりを析出させると、アルカンはグラフェンに吸着せず、析出したグラフェンは、アルカン中を移動する。また、容器から2枚の平行平板電極を取り除けば、グラフェンの集まりがアルカン中に分散する。これによって、8段落に記載した第一の課題が解決される。
すなわち、炭素数が5であるペンタンC12は、20℃の粘度が0.234mPa・sで、20℃の密度が0.626g/mで、沸点が36℃である。炭素数が6であるヘキサンC14は、25℃の粘度が0.307mPa・sで、25℃の密度が0.655g/mで、沸点が69℃ある。炭素数が7であるヘプタンC16は、20℃の粘度が0.417mPa・sで、20℃の密度が0.684g/mで、沸点が98℃である。さらに、炭素数が8であるオクタンC18は、20℃の粘度が0.547mPa・sで、20℃の密度が0.703g/mで、沸点が125℃である。なお、メタノールは、20℃の粘度が0.59mPa・sで、20℃の密度が0.792g/mである。従って、炭素数が5-8からなるアルカンは、いずれも、メタノールより粘度が低く、密度が低い有機溶剤である。
ここで、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合が、印加された電界によって破壊される現象を説明する。2枚の平行平板電極対の間隙に敷き詰められた黒鉛粒子の全てに対し、電界が印加されると、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力が、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。この結果、2枚の平行平板電極対の間隙に、黒鉛結晶からなる基底面の集まり、すなわち、グラフェンの集まりが瞬時に製造される。
第二の処理は、グラフェンの集まりが析出したアルカン中で、ホモジナイザー装置を稼働させる。つまり、ホモジナイザー装置によって、低粘度で低密度のアルカンに加えた衝撃エネルギーは、アルカンの分子振動に消費される割合は少なく、多くの衝撃エネルギーがグラフェンの集まりに加わる。この結果、アルカン中で短時間に確実に、グラフェン同士の重なり合いが解除され、1枚1枚のグラフェンに分離され、分離したグラフェンはアルカンで覆われる。これによって、8段落に記載した第二の課題が解決される。
第三の処理は、1枚1枚のグラフェンに分離された該グラフェンの集まりに、3方向の振動加速度を繰り返し加え、アルカンを介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを、容器の底面に該底面の形状として形成する。つまり、グラフェンの厚みが極めて薄いため、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比は極めて大きい。従って、グラフェンは、面を鉛直方向と垂直な方向に向け、アルカン中に常時存在する。このため、低粘度で低密度のアルカンに3方向の振動加速度を加えると、アルカンが振動加速度の方向に容器内を移動し、アルカンの移動に伴って、質量が極わずかであるグラフェンが移動し、グラフェンがアルカン中で配列し、最後に上下方向の振動加速度を加えると、アルカンを介してグラフェン同士が重なり合う。これによって、8段落に記載した第三の課題が解決される。
第四の処理は、側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体がアルカンに溶解した溶解液が、15-25mPa・sの粘度を持つ量として、αオレフィン誘導体をアルカンに溶解させ、該溶解液中にグラフェンの集まりを分散させ、さらに、容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりを、容器の底面に該底面の形状として形成する。つまり、第三の処理によって、アルカンを介してグラフェン同士が重なり合っている。このグラフェンの集まりにαオレフィン誘導体を混合すると、グラフェン同士を重ね合わせているアルカンにαオレフィン誘導体が溶解する。この後、グラフェンの集まりに3方向の振動加速度を加え、最後に上下方向の振動加速度を加えると、溶解液を介してグラフェン同士が重なり合う。この際、溶解液の粘度に応じた吸着力でグラフェンの表面に溶解液が吸着し、該溶解液を介してグラフェン同士が重なり合う。これによって、8段落に記載した第四の課題が解決される。なお、側鎖結晶性ポリオレフィンからなる分子構造を有するαオレフィン誘導体は、側鎖の長さを規定することで低融点が実現し、融点が42-76℃で、熱融解した粘度は、100℃で100-130mPa・sからなる。また、ポリオレフィン系の材料であるため、耐熱性が高く、熱分解が始まった5%重量減少温度が320℃であり、沸点は炭素数が5-8からなるアルカンの沸点より高い。さらに、融点が室温より高く、吸湿性と吸水性がなく、化学的に安定なため、固体のαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆ったグラフェンの長期保管が可能になる。なお、固体の密度は0.920g/cm である。いっぽう、炭素数が5-8からなるいずれのアルカンも、αオレフィン誘導体に溶解する。従って、αオレフィン誘導体は、炭素数が5-8からなるいずれのアルカンに溶解し、融点が40℃より高く、沸点は炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンより高い。さらに、熱融解時の粘度は、炭素数が5-8からなるいずれのアルカンより著しく高い。例えば、20℃のn-ヘキサンの粘度の340倍を超え、20℃のn-ヘプタンの粘度の240倍を超える高粘度の液体になる。従って、αオレフィン誘導体は、9段落に記載した5つの性質を兼備する。例えば、有機溶剤としてn-ヘキサンを用い、有機化合物としてαオレフィン誘導体を用い、αオレフィン誘導体の体積割合を12-19%としてn-ヘキサンに混合すると、混合液の20℃の粘度が15-25mPa・sになる。
第五の処理は、炭素数が5-8からなるいずれかのアルカンにαオレフィン誘導体が溶解した溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったラフェンの集まりの全てを、湿式ビーズミル装置に依る3つの分離工程の処理を連続して実施することによって、溶解液で覆われた1枚1枚のグラフェンに分離する。
すなわち、15-25mPa・sの粘度を持つ溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェンに、ビーズが衝突すると、グラフェン同士が重なり合った該グラフェンが1枚1枚のグラフェンに分離する際に、溶解液を伴って1枚1枚のグラフェンに分離される。これによって、8段落に記載した第五の課題が解決される。
つまり、高い粘度からなる溶解液を介してグラフェン同士が重なり合うと、グラフェンが大きいほど、溶解液とグラフェンとの粘着力が大きくなり、1枚1枚のグラフェンに分離しにくくなり、1枚1枚のグラフェンに分離する処理時間が長くなった。また、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンが、高い粘度からなる溶解液を介してグラフェン同士が再び重なり合った。これとは反対に、低い粘度からなる溶解液を介してグラフェン同士が重なり合うと、グラフェンが小さいほど、溶解液とグラフェンとの粘着力が小さくなり、1枚1枚のグラフェンに分離しやすくなるが、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンがビーズと再び衝突すると、グラフェンから溶解液が剥離し、グラフェン同士が再度直接重なり合った。このような実験を繰り返し、処理した試料を電子顕微鏡で繰り返し観察し、有機化合物がアルカンに溶解した溶解液の粘度は、15-25mPa・sが適正であることが分かった。
また、湿式ビーズミル装置の粉砕室における旋回流で、重なり合ったグラフェンを、効率よく1枚1枚のグラフェンに分離するには、3つの条件を適正化することが必要であることが実験の結果で分かった。
第一の条件は、ビーズを粉砕室に投入する際のビーズの占める体積割合である。つまり、ビーズが粉砕室を占める体積割合を高め過ぎると、ビーズ同士の衝突の頻度が増えるが、ビーズとグラフェンとの衝突する頻度が低下し、1枚1枚のグラフェンに分離する現象が抑制される。実験の結果、ビーズが粉砕室を占める体積割合を60%以下にすれば、相対的に面積が大きいグラフェンが溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンが、1枚1枚のグラフェンに分離されることが分かった。いっぽう、ビーズの集まりとグラフェンの集まりとの衝突時間が長くなるほど、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンの数が増える。この結果、粉砕室内におけるグラフェンの数は、処理時間とともに増える。グラフェンの数が増えることで、グラフェン同士の衝突は増えるが、グラフェンとビーズとの衝突が減る。このため、重なり合ったグラフェンを、1枚1枚のグラフェンに分離する分離工程を3つの工程に分け、ビーズを粉砕室に投入する際のビーズの占める体積割合を変えた。すなわち、第一の分離工程では、第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室のビーズの集まりの体積占有率が60%以下で、かつ、最も高い第一の占有割合で、ビーズを投入した。また、第二の分離工程では、第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室の第一の占有割合より低い第二の占有割合で、ビーズを投入した。さらに、第三の分離工程では、第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室の第二の占有割合より低い第三の占有割合で、ビーズを投入した。いっぽう、溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンは、相対的に面積が大きいグラフェンから優先的に、1枚1枚のグラフェンに分離される。このため、第二の分離工程では第一の分離工程よりグラフェンが小さくなり、また、第三の分離工程では第二の分離工程よりグラフェンが小さくなる。従って、効率的に1枚1枚のグラフェンに分離するために、ビーズの大きさを変える必要があるが、ビーズが小さくなるほど、ビーズの充填率が同じでも、ビーズの数が増え、グラフェンとビーズとの衝突が確保される。従って、前記した3つの分離工程に応じて、ビーズの大きさを変えた。
第二の条件は、用いるビーズのビーズ径である。つまり、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を破壊して製造した黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンの大きさは、1-300ミクロンの分布を持つ。従って、ビーズの集まりがグラフェンの集まりと衝突する際に、相対的に面積が大きいグラフェンが溶解液を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェンが優先して、1枚1枚のグラフェンに分離される。いっぽう、ビーズの粒径が小さくなるほど、ビーズの粉砕室内での充填率が同じでも、ビーズの数が増える。ビーズがグラフェンと衝突する頻度が高まる。例えば、ビーズが正方配列層を形成すると仮定すると、1リットルを占めるビーズの数は、ビーズ径が1mmの場合は100万個であり、ビーズ径が0.05mmの場合は80億個になる。従って、直径の比率が5×10 -2 であるが、個数の比率は8×10 倍に増大する。これによって、第二の分離工程におけるグラフェンの数は、第一の分離工程におけるグラフェンの数より増加し、第三の分離工程におけるグラフェンの数は、第二の分離工程におけるグラフェンの数より増加する。この理由から、3つの分離工程で用いるビーズ径を変えた。すなわち、第一の分離工程では、ビーズ径が最もビーズ径が大きく、かつ、同一のビーズ径からなる第一のビーズを用いた。第二の分離工程では、ビーズ径が前記第一のビーズより小さく、かつ、同一のビーズ径からなる第二のビーズの集まりを用いた。第三の分離工程では、ビーズ径が前記第二のビーズより小さく、かつ、同一のビーズ径からなる第三のビーズの集まりを用いた。なお、3つの分離工程で用いるビーズを、同一のビーズ径からなるビーズを用い、ビーズとの衝突でグラフェンの受ける負荷を均等に近づけ、1枚1枚のグラフェンに分離される処理の再現性が得られるようにした。
第三の条件は、ビーズとグラフェンとが粉砕室で旋回する周速度である。つまり、ビーズ径が小さくなるほど、ビーズの質量が低下し、グラフェンと衝突する際にグラフェンに与える衝撃力が低下する。例えば、ビーズ径が1/10になると、ビーズの質量は1/10 になる。いっぽう、前記したように、最も粒径が小さい第三のビーズ1個の重さは、αオレフィン誘導体を介してグラフェン同士が重なり合った該グラフェンの重さより著しく大きくなる。この理由から、第一の分離工程では、最も遅い第一の周速度で旋回流を発生させた。第二の分離工程では、第一の周速度より早い第二の周速度で旋回流を発生させた。第三の分離工程では、第二の周速度より早い第三の周速度で旋回流を発生させた。これによって、第二の分離工程では第一の分離工程より、ビーズがグラフェンと衝突する際の衝撃エネルギーが増え、第三の分離工程では第二の分離工程より、ビーズがグラフェンと衝突する際の衝撃エネルギーが増える。これによって、溶解液を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンを、効率的に1枚1枚のグラフェンに分離させた。
これらの3条件を、3つの分離工程に反映することで、重なり合ったグラフェンを、1枚1枚のグラフェンに分離する処理時間が短くなる。
なお、グラフェンにビーズが衝突しても、グラフェンのせん断弾性率が440GPaを持つため、グラフェンは破壊されない。また、グラフェンは、一定の粘度を持つ粘稠性の溶解液が、一定の厚みで覆うため、グラフェンの表面にビーズが衝突すると、衝突した部位の溶解液が瞬間的に変形するが、瞬時にグラフェンを覆う被膜に戻る。
第六の処理は、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンの集まりを、アルカンの沸点に昇温し、アルカンを気化する。これによって、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンは、熱融解したαオレフィン誘導体で覆われる。
第七の処理は、グラフェンの集まりを、αオレフィン誘導体の融点より低い温度に冷却する。この際、αオレフィン誘導体の微細結晶が析出し、1枚1枚のグラフェンが、αオレフィン誘導体の微細結晶で覆われる。いっぽう、グラフェンの大きさは、1-300ミクロンの分布を持ち、個々のグラフェンの大きさが異なる。このため、αオレフィン誘導体の微細結晶で覆われた該グラフェンの集まりに僅かな負荷を加え、該グラフェンの集まりを崩して平坦に並べれば、1枚1枚のグラフェンが識別でき、該グラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出すことができる。また、αオレフィン誘導体の微細結晶同士の結合力は弱いため、取り出した1枚のグラフェンに僅かな負荷を加えれば、微細結晶の集まりがグラフェンから容易に脱落し、グラフェンが得られる。また、αオレフィン誘導体は、融点が40℃より高く、吸湿性と吸水性とがないため、微細結晶の集まりで覆われたグラフェンの集まりは、室温の変動があっても固体が熱融解せず、また、室温で経時変化することなく、長期に亘ってグラフェンの保管ができる。これによって、8段落に記載した第六の課題が解決される。
以上に説明した7つの処理は、いずれも極めて簡単な処理で、特殊な装置を用いず、特殊な環境下での処理はない。また、黒鉛粒子は最も安価な炭素材料で、アルカンとαオレフィン誘導体は、汎用的な工業用の薬品である。これによって、8段落に記載した第七の課題が解決される。この結果、8段落に記載した全ての課題が解決される。
【0011】
ここで、第一の処理において、2枚の平行平板電極対の間隙に印加した電界によって、2枚の平行平板電極対の間隙に敷き詰められた黒鉛粒子において、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが、同時に破壊される現象を説明する。
黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうちの3つの価電子は、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンを形成するσ電子である。このσ電子は、基底面上で隣り合う3つの炭素原子が持つσ電子と互いに120度の角度をなして共有結合し、六角形の強固な網目構造を2次元的に形成する。残り一つの価電子はπ電子であり、基底面に垂直な方向に伸びるπ軌道上に存在する。このπ電子は、基底面に垂直な上下方向で隣り合う炭素原子が持つπ電子と弱い結合力で結合し、この弱い結合力に基づいて基底面同士が層状に積層される。つまり、基底面、すなわち、グラフェンは、弱い結合力であるπ軌道の相互作用によって互いに層状に結合されている。このため、黒鉛粒子は、黒鉛結晶からなる基底面で剥がれ易い性質、すなわち、機械的な異方性を持つ。この機械的な異方性は、黒鉛粒子の潤滑性として知られている。
こうした黒鉛粒子に電界を印加させると、全てのπ電子に電界によるクーロン力が作用する。π電子に作用するクーロン力が、π電子に作用しているπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道上の拘束から解放される。この結果、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。これによって、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子がπ軌道上にいなくなるため、全ての基底面の層間結合は同時に破壊される。すなわち、π電子がクーロン力Fによって黒鉛結晶の層間距離bの距離を動く際に、π電子は仕事W(W=b・F)を行う。この仕事Wが、π電子に作用する1原子当たりのπ軌道の相互作用の大きさである35ミリエレクトロンボルト (エレクトロンボルトは電子が持つエネルギーの大きさを表す単位で、1エレクトロンボルトは1.62×10-19ジュールに相当する)を超えると、π電子はπ軌道の相互作用の拘束から解放されて自由電子になる。例えば、2枚の平行平板電極対の間隙を100μmで離間させ、この電極間に10.6キロボルト以上の直流の電位差を印加させると、黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合が瞬時に破壊される。このように、安価な黒鉛粒子の集まりに電界を印加するという極めて簡単な手段によって、大量のグラフェンが安価に製造できる。また、全ての基底面の層間結合が同時に破壊するため、得られる微細な物質は、確実に黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンである。
なお、ここで言う黒鉛粒子の集まりとは、1gから100g程度の比較的少量の黒鉛粒子の集まりを言う。つまり、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子は、嵩密度が0.2-0.5g/cmで、粒子の大きさが1-300ミクロンの分布を持つ微細な粒子である。従って、黒鉛粒子の集まりを2枚の平行平板電極対の間隙に敷き詰めることは容易で、2枚の平行平板電極対に電位差を印加することも容易である。2枚の平行平板電極対の間隙に電位差を印加すると、黒鉛粒子が引きつめられた全ての領域に電界が発生する。この電界が、π軌道の相互作用より大きなクーロン力としてπ電子に作用し、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、自由電子になる。この結果、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、2枚の平行平板電極対の間隙に、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンの集まりが製造される。
ここで、グラフェンの数を算術で求める。ここでは、全ての黒鉛粒子が、直径が25ミクロンの球から構成されると仮定し、黒鉛の真密度が2.25×10kg/mであるから、黒鉛粒子の1個の重さは僅かに1.84×10-8gになる。また、黒鉛粒子の厚みの平均値が10ミクロンと仮定すると、層間距離が3.354オングストロームであるので、10ミクロンの厚みを持つ鱗片状黒鉛粒子には297,265個の基底面、すなわち、グラフェンが積層されている。従って、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を全て破壊することで、僅か1個の球状の黒鉛粒子から297,265個のグラフェンの集まりが得られる。このため、球状の黒鉛粒子の僅か1gの集まりについて、基底面の層間結合の全てを破壊した際に、1.62×1013個からなるグラフェンの集まりが得られる。従って、本製造方法によって、僅かな量の黒鉛粒子の集まりから、莫大な数からなるグラフェンの集まりが得られる。
【0012】
9段落に記載した第四の工程における処理方法は、
第一の分離工程における処理方法が、ビーズ径が2.0-3.0mmからなる同一径のビーズの集まりを第一のビーズの集まりとして用い、該第一のビーズの集まりを、第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が、粉砕室の50-60%の体積を占める割合で投入し、前記第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、6-8m/sの周速度で該粉砕室内に発生させる処理方法であり、
第二の分離工程における処理方法が、ビーズ径が0.2-0.3mmからなる同一径のビーズの集まりを第二のビーズの集まりとして用い、該第二のビーズの集まりを、第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が、粉砕室の40-50%の体積を占める割合で投入し、前記第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、8-10m/sの周速度で該粉砕室内に発生させる処理方法であり、
第三の分離工程における処理方法が、ビーズ径が0.03mmからなるビーズの集まりを第三のビーズの集まりとして用い、該第三のビーズの集まりを、第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室におけるビーズの集まりの体積占有率が、粉砕室の30-40%の体積を占める割合で投入し、前記第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室の上部に向かって旋回しながら移動する旋回流を、10-12m/sの周速度で該粉砕室内に発生させる処理方法であり、
これらの3つの分離工程における処理方法の全てを、9段落に記載した第四の工程における処理方法に反映し、該第四の工程における処理を実施する方法が、9段落に記載した第四の工程における処理方法である
【0013】
10段落に記載したように、湿式ビーズミル装置の粉砕室における旋回流で、重なり合ったグラフェンの集まりを、効率よく1枚1枚のグラフェンに分離するには、3つの条件を適正化することが必要であることが実験の結果で分かった。実験の結果で分かったこれらの3つの具体的な条件は、以下の通りである
第一の条件であるビーズを粉砕室に投入する際のビーズの占める体積割合の具体的な条件は、次の通りである。第一の分離工程では、第一の湿式ビーズミル装置の粉砕室の50-60%の体積を占める割合で、ビーズを投入した。また、第二の分離工程では、第二の湿式ビーズミル装置の粉砕室の40-50%の体積を占める割合で、ビーズを投入した。さらに、第三の分離工程では、第三の湿式ビーズミル装置の粉砕室の30-40%の体積を占める割合で、ビーズを投入した
第二の条件である用いるビーズのビーズ径の具体的な条件は、次の通りである。第一の分離工程では、ビーズ径が2.0-3.0mmからなる同一径のビーズを用いた。第二の分離工程では、ビーズ径が0.2-0.3mmからなる同一径のビーズを用いた。第三の分離工程では、ビーズ径が0.03mmからなるビーズを用いた
第三の条件であるビーズとグラフェンとが粉砕室で旋回する周速度の具体的な条件は、次の通りである。第一の分離工程では、6-8m/sの周速度で旋回流を発生させた。第二の分離工程では、8-10m/sの周速度で旋回流を発生させた。第三の分離工程では、10-12m/sの周速度で旋回流を発生させた
これらの3条件を、3つの分離工程に反映することで、重なり合ったグラフェンを、1枚1枚のグラフェンに分離する処理時間が短くなる
【0014】
9段落に記載した第四の工程における3つの分離工程の処理方法は、
9段落に記載した第四の工程における3つの分離工程において、ジルコニアからなるビーズをビーズの集まりとして用い、前記第四の工程における3つの分離工程の処理を実施する方法である、9段落に記載した第四の工程における3つの分離工程の処理方法である
【0015】
つまり、湿式ビーズミル装置の粉砕室内における旋回流の周速度を高めるほど、ビーズがグラフェンと衝突する際に、グラフェンにより大きな衝撃力が加わるため、重なり合ったグラフェンが、1枚1枚のグラフェンに分離されやすくなる。また、グラフェンのせん断弾性率が440GPaを持つため、周速度が高いビーズがグラフェンに衝突しても、グラフェンは破壊されない。しかしながら、粉砕室内ではビーズ同士が衝突する。ビーズの周速度が一定以上の周速度になると、ビーズ同士の衝突でコンタミが発生する。ビーズの材質の中で、ジルコニアのビーズは、ガラス、アルミナ及びスチールより、耐摩耗性、破壊強度に優れ、ビーズ同士の衝突によってコンタミが発生しにくい。また、ジルコニアからなるビーズの密度は6.0g/cm で、スチールからなるビーズに次いで密度が大きく、ビーズがグラフェンと衝突する際に、グラフェンにより大きな衝撃力が加わる。さらに、ジルコニアのビーズは粒径の均一性に優れ、グラフェンが受ける衝突の際に受ける負荷が均等に近づき、再現性を持って、重なり合ったグラフェンの集まりを1枚1枚のグラフェンに分離できる。これらの理由から、ジルコニアからなるビーズを用いた。なお、周速度が12m/sを超えると、ジルコニアからなるビーズであっても、ビーズ同士の衝突でコンタミが発生し始めたため、旋回流の周速度は12m/s以下とした。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1グラフェンがαオレフィン誘導体の微細結晶で覆われた状態を説明する図である
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例1
本実施例は、炭素数が5-8からなるアルカンとして、炭素数が6であるn-ヘキサンC 14 を用い、1枚1枚に分離したグラフェンの集まりをn-ヘキサンに分散する。
2枚の平行平板電極対の間隙に電界が発生する電極の有効面積を1m×1mとし、2枚の平行平板電極対を100μmの間隙で組み合わせる。この電極間に、鱗片状黒鉛粒子の集まりを満遍なく平らに敷き詰めた場合、黒鉛粒子を粒径が25μmの球とし、黒鉛粒子の厚みの平均値が10μmと仮定し、2枚の平行平板電極対で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子が満遍なく一列に整列したと仮定した場合、6.4×10 個の黒鉛粒子が存在する。この黒鉛粒子の集まりに、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すれば、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面の全ての層間結合が同時に破壊される。黒鉛粒子の形状と大きさを前記の条件とし、さらに、1個の黒鉛粒子が持つグラフェンの数を297,265個とした場合、1.9×10 13 個のグラフェンの集まりを得ることができる。この時に用いた鱗片状黒鉛粒子の集まりは、わずかに1.18gである。
最初に、電界が発生する電極の有効面積が1m×1mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のZ-100)の10gを重ねて敷き詰めた。この平行平板電極を、容器に充填した1000ccのn-ヘキサン(例えば、丸善石油株式会社の製品)中に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記した平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極対を100μmの間隙で離間させてn-ヘキサン中に浸漬させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加え、グラフェンの集まりを製造した。次に、2枚の平行平板電極対の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極対をn-ヘキサン中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。この後、容器内のn-ヘキサンに、超音波ホモジナイザー装置(例えば、ヤマト科学株式会社の製品LUH300)によって20kHzの超音波振動を2分間加え、1枚1枚に分離されたグラフェンからなる該グラフェンの集まりを、n-ヘキサン中に分散させた
【0018】
実施例2
本実施例は、αオレフィン誘導体(例えば、豊国製油株式会社の製品HSクリスタ-4100)を有機化合物として用い、αオレフィン誘導体のn-ヘキサン溶解液を介してグラフェンが重なり合った該グラフェンの集まりを作成する。用いたαオレフィン誘導体は、融点が42℃で、100℃の粘度が130mPa・sで、固体の密度が0.92g/cm である。従って、αオレフィン誘導体が熱融解した粘度は、n-ヘキサンの20℃の粘度である0.294mPa・sの442倍で、40倍を優に超える高粘度の液体である。なお、αオレフィン誘導体は、感熱インク・インキ・トナー・塗料などへの添加剤や顔料の分散剤、離型剤、粘接着剤の改質剤などに用いられる、汎用的な工業薬品である。
実施例1で製造した試料の500ccを容器に充填し、この容器にαオレフィン誘導体の75gを混合し、容器に0.2Gからなる3方向の振動加速度を繰り返し加え、グラフェン同士がαオレフィン誘導体のn-ヘキサン溶解液を介して重なり合った該グラフェンの集まりを作成した。このαオレフィン誘導体のn-ヘキサン溶解液の20℃の粘度は18.5mPa秒で、n-ヘキサンの粘度の63倍に相当する
【0019】
実施例3
本実施例は、実施例2におけるαオレフィン誘導体のn-ヘキサン溶解液の粘度とは異なる粘度からなる溶解液で、グラフェン同士を重ね合わせる。
実施例1で製造した試料の500ccを容器に充填し、この容器にαオレフィン誘導体の101gを混合し、容器に0.2Gからなる3方向の振動加速度を繰り返し加え、グラフェン同士がαオレフィン誘導体のn-ヘキサン溶解液を介して重なり合ったグラフェンの集まりを作成した。このαオレフィン誘導体のn-ヘキサン溶解液の20℃の粘度は23.5mPa秒で、n-ヘキサンの粘度の80倍に相当する
【0020】
実施例4
実施例2で作成した試料を、ジルコニアからなるビーズを用い、3台の湿式ビーズミル(株式会社広島メタル&マシナリーの製品UAM-1)によって、1枚1枚のグラフェンに分離された該グラフェンの集まりにする。この後、1枚1枚のグラフェンを、αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆う。
直径が2.0mmからなるジルコニアのビーズの集まりを、ビーズの体積充填率が50%になるように、第一の湿式ビーズミルの粉砕室に充填し、さらに、実施例2で作成した試料を粉砕室に充填し、旋回流の周速度を6m/sに設定し、5分間連続稼働させた。
次に、第一の湿式ビーズミルで処理した試料を、第二の湿式ビーズミルの粉砕室に充填し、さらに、ビーズの体積充填率が40%になるように、ビーズの集まりを粉砕室に充填し、旋回流の周速度を8m/sに設定し、5分間連続稼働させた。
さらに、第二の湿式ビーズミルで処理した試料を、第三の湿式ビーズミルの粉砕室に充填し、さらに、ビーズの体積充填率が30%になるように、ビーズの集まりを粉砕室に充填し、旋回流の周速度を10m/sに設定し、5分間連続稼働させた。
次に、処理したグラフェンの集まりを、第三の湿式ビーズミルから深さが浅く面積が大きい容器に移し、容器を70℃に昇温してn-ヘキサンを気化させ、この後、αオレフィン誘導体の融点42℃より低い25℃に放置した。この後、容器に僅かな衝撃を加え、グラフェンの集まりを崩して平坦に並ばせ、1枚ずつのグラフェンを取り出し、グラフェンに付着した粉体を脱落させ、複数のグラフェンを電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この電子顕微鏡は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる。
試料からの反射電子線の900―1000ボルトの間にある2次電子線を取り出し、これを画像として映し出し、試料の各々について、複数の試料を観察した。極めて薄い物質が、有機化合物の集まりで覆われていた。試料の側面の有機化合物を脱落させ、試料の側面を観察した。試料は、40nm前後の厚みからなる有機化合物で覆われていた。さらに、試料から有機化合物の集まりを脱落させ、試料を構成する物質を分析した。試料の表面と側面との複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、試料を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。炭素原子のみが存在したため、極めて薄い試料はグラフェンである。図1に、グラフェンがαオレフィン誘導体の微細結晶で覆われた状態を拡大して模式的に示す。1はグラフェンで、2はαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりである
【0021】
実施例5
実施例3で作成した試料を、実施例4と同様に、ジルコニアのビーズを用い、3台の湿式ビーズミルによって、1枚1枚のグラフェンに分離された該グラフェンの集まりにする。この後、1枚1枚のグラフェンを、αオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆う。
直径が3.0mmからなるジルコニアのビーズの集まりを、ビーズの体積充填率が60%になるように、第一の湿式ビーズミルの粉砕室に充填し、さらに、実施例3で作成した試料を粉砕室に充填し、旋回流の周速度を8m/sに設定し、5分間連続稼働させた。
次に、第一の湿式ビーズミルで処理した試料を、第二の湿式ビーズミルの粉砕室に充填し、さらに、ビーズの体積充填率が50%になるように、ビーズの集まりを粉砕室に充填し、旋回流の周速度を10m/sに設定し、5分間連続稼働させた。
さらに、第二の湿式ビーズミルで処理した試料を、第三の湿式ビーズミルの粉砕室に充填し、さらに、ビーズの体積充填率が40%になるように、ビーズの集まりを粉砕室に充填し、旋回流の周速度を12m/sに設定し、5分間連続稼働させた。
次に、処理したグラフェンの集まりを、第三の湿式ビーズミルから深さが浅く面積が大きい容器に移し、容器を70℃に昇温してn-ヘキサンを気化させ、この後、αオレフィン誘導体の融点42℃より低い25℃に放置した。こうして作成した試料に僅かな負荷を加え、グラフェンの集まりを崩して平坦に並べ、1枚ずつのグラフェンを取り出した。さら、グラフェンに付着した粉体を脱落させ、複数のグラフェンを、実施例4で用いた電子顕微鏡で観察した。
この結果、実施例3で作成した試料は、50nm前後の厚みからなる有機化合物で覆われていた。さらに、試料の全体から有機化合物の集まりを脱落させ、試料を構成する物質を分析した。試料の表面と側面との複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、試料を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。炭素原子のみが存在したため、極めて薄い試料はグラフェンである
【0022】
以上の実施例において、9段落に記載した炭素数が5-8からなるアルカンとして、炭素数が6であるn-ヘキサンを用い、実施例1でn-ヘキサン中で黒鉛粒子からグラフェンの集まりを製造した。次に、実施例2と実施例3で、9段落に記載した5つの性質を兼備する有機化合物としてαオレフィン誘導体を用い、2種類の粘度からなるαオレフィン誘導体のn-ヘキサン溶解液を介して、グラフェンの扁平面同士を重ね合わせた。さらに、実施例4と実施例5で、グラフェンの集まりを1枚1枚のグラフェンに分離し、n-ヘキサンを気化させた後に、αオレフィン誘導体を固化させた。この結果、1枚1枚のグラフェンがαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりで覆われた。このグラフェンの集まりから1枚1枚の扁平粉を取り出し、1枚の扁平粉からαオレフィン誘導体の微細結晶の集まりを脱落すると、1枚のグラフェンが得られることが実証された。
従って、本発明における黒鉛粒子からグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを取り出す方法に従って、9段落に記載した5つの工程を連続して実施すると、グラフェンの集まりから、1枚1枚のグラフェンを取り出すことができる。このため、本発明は、黒鉛粒子からグラフェンの集まりを安価に製造し、該グラフェンの集まりから1枚1枚のグラフェンを安価に取り出す方法である
【符号の説明】
【0023】
グラフェン αオレフィン誘導体の微細結晶の集まり
図1