(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】β置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/58 20060101AFI20231102BHJP
C08F 4/00 20060101ALI20231102BHJP
C08F 4/40 20060101ALI20231102BHJP
C08F 20/12 20060101ALI20231102BHJP
C08F 20/68 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C08F4/58
C08F4/00
C08F4/40
C08F20/12
C08F20/68
(21)【出願番号】P 2019200017
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】今田 基祐
(72)【発明者】
【氏名】竹中 康将
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英喜
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-80223(JP,A)
【文献】特開2002-145933(JP,A)
【文献】特開2014-231601(JP,A)
【文献】特開2018-168276(JP,A)
【文献】Polymer Journal,31(2),1998年08月31日,177-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/58
C08F 4/00
C08F 4/40
C08F 20/12
C08F 20/68
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法であって、
有機酸触媒、及び、重合開始剤の存在下で、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体成分をグループトランスファー重合する工程を含み、
該有機酸触媒は、パーフルオロアルキル基を有する有機酸触媒であり、
該重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である
ことを特徴とするβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法。
(R
1)(R
2)C=C(OR
3)OSiZ (1)
(式(1)中、R
1、R
2、及び、R
3は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zは、(OR
4)
3-X(R
5)
Xを表す。R
4及びR
5は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zの炭素数は、4以上である。Xは、0、1、2又は3である。)
【請求項2】
前記有機酸触媒は、下記一般式(2)又は(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法。
R
6CH(SO
2Rf
1)(SO
2Rf
2) (2)
(式(2)中、R
6は、置換又は非置換のアリール基を表す。Rf
1及びRf
2は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。)
R
7N(SO
2Rf
3)(SO
2Rf
4) (3)
(式(3)中、R
7は、水素原子、-OR
8、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、シリル基を表す。R
8は、水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は、シクロアルキル基を表す。Rf
3及びRf
4は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体は、下記一般式(4)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法。
R
9CH=CHC(O)OR
10 (4)
(式(4)中、R
9は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基、又は、アミノ基を表す。R
10は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、置換若しくは非置換のアリール基を表す。)
【請求項4】
前記重合工程は、-40~100℃で行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法。
【請求項5】
前記β置換不飽和カルボン酸エステル重合体の数平均分子量は、60000以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法に関する。より詳しくは、分子量60000以上の高分子量体を容易に製造することができる、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グループトランスファー重合(GTP、Group Transfer Polymerization)は、アクリル酸エステル系単量体をリビング重合するための優れた重合方法であり、ケテンシリルアセタールを重合開始剤とし、ルイス酸等を触媒として用いて行うことにより、比較的均一な分子量の重合体を製造できることが知られている。
【0003】
クロトン酸メチル等のアクリル酸エステル系単量体をグループトランスファー重合する方法については、これまでに種々検討されている。
例えば、特許文献1には、特定のグループトランスファー重合反応開始剤、水銀化合物触媒、ケイ素化合物助触媒にクロトン酸メチル又はクロトン酸メチルとα、β-不飽和カルボン酸エステルを接触させて重合することにより、モノマーから直接高収率で効率的に単独重合体又は共重合体を与えることができるクロトン酸メチル重合体又は共重合体の製法が記載されている。
【0004】
また例えば、特許文献2には、グループトランスファー重合反応開始剤、ルイス酸、特定のシリル化剤を特定範囲量使用することにより、高度に制御を行い、触媒量を削減することができるα,β-不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法が記載されている。
特許文献3には、グループトランスファー重合反応開始剤、特定の有機酸触媒に、β位に置換基を有するα,β-不飽和カルボン酸エステルを接触させて重合することにより、製造する重合体に金属及びケイ素由来の不溶性成分が残留せず、材料物性に影響を与える心配がない重合体を得ることができる重合体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-80223号公報
【文献】特開2002-145933号公報
【文献】特開2014-231601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、β位に置換基を有するアクリル酸エステル系単量体のグループトランスファー重合では、環化反応を主とする停止反応が原因で重合が途中で止まってしまうため、停止反応を抑制するマイナス数十℃の低温条件でおいてすら、分子量が60000未満の低分子量の重合体しか合成できなかった。
重合体に様々な特性を付与するためには、分子量の調整が容易となり、分子量60000以上の高分子量の重合体を製造できることが望まれるが、そのような高分子量の重合体を製造する方法については未だ充分に検討されていない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、分子量60000以上の高分子量の、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステルの重合体を容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法について種々検討したところ、特定の有機酸触媒と重合開始剤の存在下で、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体成分をグループトランスファー重合することにより、分子量60000以上の高分子量のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体を容易に製造することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法であって、有機酸触媒、及び、重合開始剤の存在下で、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体成分をグループトランスファー重合する工程を含み、上記有機酸触媒は、パーフルオロアルキル基を有する有機酸触媒であり、上記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法である。
(R1)(R2)C=C(OR3)OSiZ (1)
(式(1)中、R1、R2、及び、R3は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zは、(OR4)3-X(R5)Xを表す。R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zの炭素数は、4以上である。Xは、0、1、2又は3である。)
【0010】
上記有機酸触媒は、下記一般式(2)又は(3)で表される化合物であることが好ましい。
R6CH(SO2Rf1)(SO2Rf2) (2)
(式(2)中、R6は、置換又は非置換のアリール基を表す。Rf1及びRf2は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。)
R7N(SO2Rf3)(SO2Rf4) (3)
(式(3)中、R7は、水素原子、-OR8、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、シリル基を表す。R8は、水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基を表す。Rf3及びRf4は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。)
【0011】
上記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体は、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
R9CH=CHC(O)OR10 (4)
(式(4)中、R9は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基、又は、アミノ基を表す。R10は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、置換若しくは非置換のアリール基を表す。)
【0012】
上記重合工程は、-40~100℃で行うことが好ましい。
【0013】
上記β置換不飽和カルボン酸エステル重合体の数平均分子量は、60000以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法によれば、分子量が60000以上の高分子量の重合体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳述する。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も本発明の好ましい形態である。
【0016】
<β置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法>
本発明のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法(以下、「本発明の製造方法ともいう。)は、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法であって、有機酸触媒、及び、重合開始剤の存在下で、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体成分をグループトランスファー重合する工程を含み、上記有機酸触媒は、パーフルオロアルキル基を有する有機酸触媒であり、上記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする。
(R1)(R2)C=C(OR3)OSiZ (1)
(式(1)中、R1、R2、及び、R3は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zは、(OR4)3-X(R5)Xを表す。R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zの炭素数は、4以上である。Xは、0、1、2又は3である。)
【0017】
本発明の製造方法は、分子量が60000以上の高分子量の重合体を容易に製造することができる。本発明の製造方法により分子量が60000以上の高分子量の重合体を容易に製造することができるのは、シリル置換基が嵩高い重合開始剤を使用することにより、グループトランスファー重合における環化反応を主とする停止反応を抑制しながら伸長反応を優先させることができ、比較的高分子量の重合体を得ることができるためと考えられる。
【0018】
本発明の製造方法は、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体の製造方法である。β位に置換基を有するとは、α、β-不飽和カルボン酸エステルのβ位に置換基が存在することをいう。本明細書では、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル重合体を、β置換不飽和カルボン酸エステル重合体ともいう。
【0019】
本発明の製造方法は、特定の有機酸触媒及び重合開始剤の存在下で、β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体成分をグループトランスファー重合する工程を含む。
【0020】
(重合開始剤)
本発明の製造方法において使用する重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である。
(R1)(R2)C=C(OR3)OSiZ (1)
(式(1)中、R1、R2、及び、R3は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zは、(OR4)3-X(R5)Xを表す。R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zの炭素数は、4以上である。Xは、0、1、2又は3である。)
【0021】
上記一般式(1)において、R1、R2、及び、R3は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。
上記酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基は、炭素数が1~10であることがより好ましく、炭素数が1~6であることが更に好ましい。
【0022】
上記脂肪族の有機基としては、例えば、飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等のアルキル基の飽和脂肪族炭化水素基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基の不飽和脂肪族炭化水素基;等が挙げられる。
【0023】
上記脂環族の有機基としては、例えば、脂環式炭化水素基が挙げられる。
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロノニル基、ジシクロペンタニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0024】
上記芳香族の有機基としては、例えば、芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;等が挙げられる。
【0025】
上記有機基は、置換基を有していてもよく、上記置換基としては、炭素数1~4のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0026】
上記酸素原子を1若しくは2個含んでもよい脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基は、上述した有機基の炭素原子間に酸素原子を含むもの、又は、上記有機基の水素原子が酸素原子を含む基で置換されたものが挙げられる。
【0027】
R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、又は、アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
R3は、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基であることが好ましく、炭素数1~10のアルキル基、又は、アリール基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、又は、フェニル基であることが更に好ましい。
【0028】
上記一般式(1)において、Zは、(OR4)3-X(R5)Xを表す。R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。Zの炭素数は、4以上である。
【0029】
R4及びR5で表される、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基は、上述したR1、R2、又はR3で表される同様の有機基と同様のものが挙げられる。
【0030】
Zの炭素数は、4以上である。Zの炭素数が4以上であると、重合開始剤のシリル置換基が嵩高くなり、グループトランスファー重合反応における停止反応が抑制され、伸長反応を優先させることができるため、分子量60000以上の高分子量の重合体を容易に製造することができる。また、上記高分子量の重合体の収率も高い。伸長反応速度を大きく低下させることなく停止反応を抑えることができる点で、Zの炭素数は、4~20であることが好ましく、4~15であることがより好ましく、4~8であることが更に好ましい。
【0031】
上記一般式(1)において、Xは、0、1、2又は3である。
上記一般式(1)で表される化合物は、原料入手性が良いという観点からは、R3が、メチル基、エチル基、又はフェニル基であり、Xが、3であることが好ましい。
【0032】
上記一般式(1)で表される重合開始剤の具体例としては、例えば、1-メトキシ-1-(トリエチルシロキシ)1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリエチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリアリルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリシクロヘキシルメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロぺン、1-メトキシ-1-(トリフェニルシロキシ)-2-メチル-1-プロぺン、1-ブトキシ-1-(トリベンジルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(フェニルジメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(t-ブチルジメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-ベンジルオキシ-1-(トリブチルシロキシ)-2-エチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリイソプロピルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン等が挙げられる。
このような化合物は、有機合成における常法を用いて合成することができる。また、市販のものを用いることもできる。
【0033】
(有機酸触媒)
本発明の製造方法において使用する有機酸触媒は、パーフルオロアルキル基を有する有機酸触媒である。
上記パーフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の全部がフッ素原子に置換されたものである。上記パーフルオロアルキル基は、鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0034】
上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることが更に好ましい。
【0035】
上記パーフルオロアルキル基としては、具体的には、例えば、パーフルオロメチル基(トリフルオロメチル基)、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられ、なかでも、原料入手性が良いという観点からは、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基が好ましく、パーフルオロメチル基がより好ましい。
【0036】
上記有機酸触媒は、有機系の酸触媒であれば、特に限定されず、例えば、ルイス酸触媒、ブレンステッド酸触媒、有機分子触媒の酸触媒が挙げられる。
【0037】
なかでも、上記有機酸触媒としては、下記一般式(2)又は(3)で表される化合物が好ましく挙げられる。これらは1種のみで使用してもよいし、2種を併用してもよい。
R6CH(SO2Rf1)(SO2Rf2) (2)
(式(2)中、R6は、置換又は非置換のアリール基を表す。Rf1及びRf2は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。)
R7N(SO2Rf3)(SO2Rf4) (3)
(式(3)中、R7は、水素原子、-OR8、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、シリル基を表す。R8は、水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は、シクロアルキル基を表す。Rf3及びRf4は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。)
【0038】
上記一般式(2)において、R6は、置換又は非置換のアリール基を表す。
上記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
アリール基の置換基としては、メチル基等の炭素数1~3のアルキル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1~3のハロゲン化アルキル基、フッ素等のハロゲン原子、アルコキシ基、スルホニル基、アミノ基等が挙げられる。
【0039】
R6の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、4-(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、o-,m-若しくはp-トリル基、メシチル基、キシリル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、o-,若しくはp-クロロフェニル基等が挙げられる。
【0040】
なかでも、R6は、原料入手性が良いという観点からは、炭素数6~10である置換又は非置換のアリール基が好ましく、フェニル基、ナフチル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、4-(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、又は、パーフルオロビフェニル基であることがより好ましく、ペンタフルオロフェニル基であることが更に好ましい。
【0041】
上記一般式(2)において、Rf1及びRf2は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。上記パーフルオロアルキル基としては、上述したパーフルオロアルキル基と同様のものが挙げられる。
上記Rf1及びRf2で表されるパーフルオロアルキル基は、炭素数が1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることが更に好ましい。なかでも、Rf1及びRf2は、共にトリフルオロメチル基であることが好ましい。
【0042】
上記Rf1又はRf2を含む、SO2Rf1及びSO2Rf2としては、具体的には、例えば、トリフルオロメチルスルホニル基、パーフルオロエチルスルホニル基、パーフルオロプロピルスルホニル基、パーフルオロイソプロピルスルホニル基、パーフルオロブチルスルホニル基、パーフルオロイソブチルスルホニル基、パーフルオロペンチルスルホニル基、パーフルオロイソペンチルスルホニル基、パーフルオロネオペンチルスルホニル基等が挙げられる。
【0043】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、フェニルビス(トリフリル)メタン、2-ナフチルビス(トリフリル)メタン、1-ナフチルビス(トリフリル)メタン、2,4,6-トリメチルフェニルビス(トリフリル)メタン、4-(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフリル)メタン、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフリル)メタン、ペンタフルオロフェニルビス(トリフリル)メタン、{4-(ペンタフルオロフェニル)-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル}ビス(トリフリル)メタン等が挙げられ、なかでも、原料入手性が良いという観点からは、ペンタフルオロフェニルビス(トリフリル)メタンが好ましい。
【0044】
上記一般式(3)において、R7は、水素原子、-OR8、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、シリル基を表す。R8は、水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は、シクロアルキル基を表す。
【0045】
上記炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロノニル基、ジシクロペンタニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0046】
R7で表されるシリル基としては、-Si(Ra)(Rb)(Rc)(式中、Ra、Rb及びRcは、同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を表す。)で表される基が挙げられる。
Ra、Rb及びRcで表される炭化水素基は、炭素数1~20であることが好ましく、炭素数1~15であることがより好ましく、炭素数1~10であることが更に好ましい。
【0047】
上記炭化水素基としては、飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は、芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基としては、上述したアルキル基、シクロアルキル基等の飽和脂肪族炭化水素基;上述したアルケニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;等が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、上述したアリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0048】
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。上記置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基等が挙げられる。
【0049】
なかでも、R7で表されるシリル基は、上記Ra、Rb、Rcの少なくとも1つが炭化水素基であることが好ましく、3つが炭化水素基であることがより好ましい。
上記シリル基としては、トリアルキルシリル基、フェニルジアルキルシリル基が好ましく挙げられ、トリアルキルシリル基がより好ましく挙げられる。
【0050】
上記トリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリn-ブチルシリル基、トリt-ブチルシリル基、トリイソブチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
上記フェニルジアルキルシリル基としては、例えば、フェニルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0051】
R7は、比較的高い重合活性を示す点で、水素原子、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、又は、フェニルジメチルシリル基であることが好ましい。
【0052】
上記一般式(3)において、Rf3及びRf4は、同一又は異なって、パーフルオロアルキル基を表す。Rf3及びRf4で表されるパーフルオロアルキル基としては、上述したパーフルオロアルキル基と同様のものが挙げられるが、なかでも、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基が更に好ましい。なかでも、Rf3及びRf4は、共にトリフルオロメチル基であることが特に好ましい。
【0053】
上記Rf3又はRf4を含む、SO2Rf3及びSO2Rf4としては、具体的には、例えば、上述したSO2Rf1及びSO2Rf2と同様のものを挙げることができる。
【0054】
上記一般式(3)で表される化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタン)スルフォニルイミド、トリメチルシリルビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、トリエチルシリルビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、トリイソプロピルシリルビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、tert-ブチルジメチルシリルビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、フェニルジメチルシリルビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、N-(トリフルオロメタンスルフォニル)ノナフルオロブタンスルフォニルイミド、N-トリメチルシリル-N-(トリフルオロメタンスルフォニル)ノナフルオロブタンスルフォニルイミド、トリメチルシリルビス(ノナフルオロブタンスルフォニル)イミド等が挙げられる。
【0055】
このような化合物は、公知の製造方法により合成することができる。また、市販のものを用いることもできる。
【0056】
(β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体)
本発明の製造方法において使用するβ位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体としては、下記一般式(4)で表される化合物が好ましく挙げられる。
R9CH=CHC(O)OR10 (4)
(式(4)中、R9は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基、又は、アミノ基を表す。R10は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、置換若しくは非置換のアリール基を表す。)
【0057】
上記一般式(4)において、R9は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基、又は、アミノ基を表し、R10は、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、置換若しくは非置換のアリール基を表す。
【0058】
R9及びR10で表される炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基としては、上述したR7で表される炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基と同様の基が挙げられる。
なかでも、R9で表される炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基は、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることが更に好ましい。
また、R10で表される炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基は、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることが更に好ましい。
【0059】
R9及びR10で表される置換若しくは非置換のアリール基としては、上述したR6で表される置換又は非置換のアリール基と同様の基が挙げられる。
【0060】
R9で表されるアミノ基としては、-NH2、-NHRd、又は-NRdRe(Rd及びReは、同一又は異なって、炭素数1~12のアルキル基を表す。)が挙げられる。
上記アルキル基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~6であることが更に好ましい。
【0061】
下記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、クロトン酸-n-プロピル、クロトン酸イソプロピル、クロトン酸-n-ブチル、クロトン酸イソブチル、クロトン酸-sec-ブチル、クロトン酸-tert-ブチル、クロトン酸トリル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸-n-プロピル、ケイ皮酸イソプロピル、ケイ皮酸-n-ブチル、ケイ皮酸イソブチル、ケイ皮酸-sec-ブチル、ケイ皮酸-tert-ブチル、3-(4-メトキシフェニル)アクリル酸メチル、3-(4-メトキシフェニル)アクリル酸エチル、メチルtrans-2-ヘキセノエート、エチルtrans-2-ヘキセノエート、メチルtrans-2-オクテノエート、エチルtrans-2-オクテノエート、メチルtrans-2-デセノエート、エチルtrans-2-デセノエート等が挙げられる。
なかでも、高分子量体が得られやすい点で、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、クロトン酸-n-プロピル、クロトン酸イソプロピル、クロトン酸-n-ブチル、クロトン酸イソブチル、クロトン酸-sec-ブチル、クロトン酸-tert-ブチル、クロトン酸トリル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル、メチルtrans-2-ヘキセノエート、エチルtrans-2-ヘキセノエートが好ましい。
【0062】
本発明の製造方法において使用する単量体成分における、上記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体の含有量は、単量体成分総量100質量%に対して、0.1~100質量%であることが好ましく、0.5~100質量%であることがより好ましく、1~100質量%であることが更に好ましい。
【0063】
(他の単量体成分)
本発明の製造方法において使用する単量体成分は、上記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体以外に、他の単量体を含んでいてもよい。
上記他の単量体としては、上記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体と共重合することができる単量体であれば特に限定されないが、例えば、下記の化合物が挙げられる。
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸-n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸-n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;等。
これらは1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
本発明の製造方法におけるグループトランスファー重合工程では、上記有機酸触媒と重合開始剤の存在下で、上記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体成分を重合させる。
具体的には、反応前に、上記単量体成分、有機酸触媒、重合開始剤のうちいずれか2つを反応容器内に仕込み、残り1つを添加することにより重合が開始する。これらを添加する順序については、有機酸触媒を最後に添加して重合を開始することが最適である。
【0065】
また、上記単量体成分、有機酸触媒、重合開始剤は、それぞれ使用する全量を一括添加してもよし、少量ずつ逐次添加してもよい。
【0066】
上記有機酸触媒の使用量は、所望の重合反応が進むのであれば、特に限定されないが、使用する単量体成分総量100質量部に対して0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更に好ましく、また10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更に好ましい。
【0067】
上記重合開始剤の使用量は、所望の重合反応が進むのであれば、特に限定されないが、使用する単量体成分総量100質量部に対して0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更に好ましく、また10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更に好ましい。
【0068】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行うこともできるが、溶媒を使用することが好ましい。
使用する溶媒としては、上記単量体成分、有機酸触媒、重合開始剤等を溶解させることもできる溶媒であれば制限されない。
【0069】
本発明の製造方法において使用できる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;クロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、ベンゾトリフルオリド等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、バレロニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル系溶媒;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペンタフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン等のフッ素系溶媒;DMSO、ニトロメタン等が挙げられる。これらは1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なかでも、ポリマーの溶解度が高く、また重合の反応速度が速くなる点で、ハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましく、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼンがより好ましい。
【0070】
上記溶媒の使用量は、使用する単量体成分総量100質量部に対して、100~10000質量部であることが好ましく、100~1000質量部であることがより好ましい。
【0071】
上記重合工程における反応温度は、特に限定されないが、ポリマーの溶解度を向上させ、また、停止反応を抑制できる範囲で十分な重合反応速度を発揮できる点で、-40~100℃であることが好ましい。本発明の製造方法は、反応温度を室温付近でも実施でき、製造工程の簡略化、低コスト化が容易となりうる。
上記重合工程における反応温度は、製造工程の簡略化、低コスト化が容易である点で、-20℃以上であることがより好ましい。また、所望の重合体の収率がより高くなる点で、50℃以下であることがより好ましい。
【0072】
上記重合における反応雰囲気下は、大気下でもよいが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。
【0073】
上記重合においては、本発明の効果に影響を与えない範囲において、上述した成分以外に、更に他の成分を使用してもよい。上記他の成分としては、例えば、重合反応において通常使用される重合開始剤、連鎖移動剤、重合促進剤、重合禁止剤等の公知の添加剤等が挙げられる。これらは、必要に応じて適宜選択することができる。
【0074】
また本発明の製造方法では、上記グループトランスファー重合において、シリル化剤を使用しなくても重合反応を良好に行うことができる。シリル化剤とは、アニオン性置換基の脱離により、シリルカチオンを形成するケイ素化合物であり、助触媒としても使用することができるものである。上記シリル化剤としては、(CH3)3SiI、(CH2CH2)3SiI、(CH3)3SiSOCF3、(CH3CH2)3SiI等が挙げられる。
【0075】
上記重合工程後、反応系内に水、アルコール、又は、酸を添加して、重合反応を停止する工程を有することが好ましい。グループトランスファー重合では、重合中、重合体の主鎖末端では重合開始剤のシリル基を含むケテンシリルアセタール構造又はエノレートアニオン構造となっており、反応系内に水、アルコール、又は、酸を添加して、重合体の片末端のケテンシリルアセタール又エノレートアニオンをカルボン酸又はエステルに変換させることにより、重合反応を停止させることができる。
【0076】
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられる。
上記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、安息香酸等の有機酸が挙げられる。
【0077】
本発明の製造方法は、上記重合反応工程や重合反応停止工程以外の他の工程を含んでいてもよい。上記他の工程としては、例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。これらの工程は、公知の方法により行うことができる。
【0078】
本発明の製造方法により得られるβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体は、上記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体成分の重合物であり、上記単量体成分由来の構成単位を有する。
【0079】
上記β置換不飽和カルボン酸エステル重合体は、上記β位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構成単位を、全構成単位100質量%に対して0.1~100質量%有することが好ましく、0.5~100質量%有することがより好ましく、1~100質量%有することが更に好ましい。
【0080】
上記β置換不飽和カルボン酸エステル重合体の数平均分子量は、60000以上であることが好ましい。本発明の製造方法により、分子量が60000以上の高分子量の重合体を容易に得ることができる。重合体の数平均分子量が60000以上であると、高分子量効果により、耐熱性等の重合体物性を向上させることができる。
上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により求めることができ、具体的には、後述の実施例に記載した方法にて求めることができる。
【0081】
上記β置換不飽和カルボン酸エステル重合体の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。上記分散度の下限値は1以上であることが好ましい。
上記分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により重量平均分子量及び数平均分子量を測定し、重量平均分子量を数平均分子量で除することにより求めることができ、具体的には、後述の実施例に記載した方法にて求めることができる。
【0082】
上記β置換不飽和カルボン酸エステル重合体のジシンジオタクティシティは、50%以上であることが好ましい。ジシンジオタクティシティが50%以上であると、ポリマー鎖が規則的に配列し、ポリマー鎖間の相互作用によって、耐熱性等の重合体物性を向上させることができる。
上記ジシンジオタクティシティは、後述の実施例に記載の方法で求めることができる。
【0083】
本発明の製造方法により、分子量が60000以上の高分子量のβ置換不飽和カルボン酸エステル重合体を容易に製造することができる。上記β置換不飽和カルボン酸エステル重合体は、高分子量であるため、耐熱性の向上等、ポリマー物性が改善されたものである。
また、本発明の製造方法は、反応温度を室温付近で行うことができるため、製造工程の簡略化、抵コスト化が可能となる。また、反応温度をより高くすることで、重合速度がより速くなり、重合体の生産性をより一層向上させることができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を、それぞれ意味するものとする。
以下の合成例や調製例等において、各種物性等は以下のようにして測定した。
【0085】
<収率>
下記の式を用いて算出した。
ポリマー収率(%)=ポリマー重量(g)/[仕込みモノマー重量(g)+開始剤由来のポリマー末端の重量(g)]×100
開始剤由来のポリマー末端の重量は、加えた開始剤がプロトン化された形態の重量から算出することができる。
【0086】
<数平均分子量、重量平均分子量、分散度>
得られた重合体の数平均分子量と重量平均分子量は、下記の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めた。分散度(Mw/Mn)は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除することにより求めた。
得られた重合体を固形分が約0.5質量%となるようにクロロホルムに溶解し、孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを測定サンプルとして使用した。
装置:GPCシステム(Shimadzu社製)
溶出溶媒:クロロホルム
標準物質:標準ポリスチレン(Shodex社製)
分離カラム:GPC K-802、GPC K-806M(Shodex社製)
【0087】
<ジシンジオタクティシティ>
得られた重合体を下記の条件で1H-NMRにより測定し、Polym. J. 37 (2005)578に記載の方法に従って、クロトン酸エステルのβ位メチル基に由来する共鳴ピークの積分比率から、ジシンジオタクティシティを計算した。
得られた重合体を濃度が約1質量%となるように測定溶媒に溶解したものを測定サンプルとして使用した。
(1H-NMR測定条件)
装置:Varian社製核磁気共鳴装置(500MHz)
測定溶媒:重クロロホルム
【0088】
<ガラス転移温度(Tg)>
得られた重合体のガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(装置名DMA800、パーキンエルマー社製)を用いて、マテリアルポケットを使用して測定した。測定温度領域は、-50℃~300℃で、昇温速度は5℃/minとし、窒素雰囲気下で測定した。
【0089】
(実施例1)
乾燥アルゴン雰囲気下、ガラス反応容器に25mmolのクロトン酸エチル、0.125mmolの1-メトキシ-1-(トリエチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン(以下、「Et3SKA」とも表記する。)、及び、ジクロロメタン6mLを加え、10℃に冷却した。0.063mmolのビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(以下、「Tf2NH」とも表記する。)が溶解したジクロロメタン溶液3.4mLを10℃に冷却した後、先の溶液に加えた。10℃で8時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させた。減圧下で揮発成分を留去した後、残渣をクロロホルムに溶解させ、その溶液を大量のヘキサンに加えて重合物を沈殿させた。析出した重合物を濾過し、ヘキサンで数回洗浄後、真空下室温で乾燥させ、重合体を得た。
得られた重合体について、上記の方法で、収率、数平均分子量、分子量分布、ジシンジオタクティシティ、ガラス転移温度について評価した。得られた重合体の収率は73%であった。重合体の数平均分子量(Mn)は66500、分子量分布(Mw/Mn)は1.18であった。また、ジシンジオタクティシティは73%であった。ガラス転移温度(Tg)は141℃であった。
【0090】
(実施例2)
反応温度を10℃から-10℃に、反応時間を8時間から24時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は99%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は87800、分子量分布(Mw/Mn)は1.18であった。また、ジシンジオタクティシティは72%であった。ガラス転移温度(Tg)は160℃であった。
【0091】
(実施例3)
反応温度を-20℃、反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は94200、分子量分布(Mw/Mn)は1.19であった。
【0092】
(実施例4)
反応温度を-30℃、反応時間を72時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は97%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は90500、分子量分布(Mw/Mn)は1.20であった。また、ジシンジオタクティシティは75%であった。ガラス転移温度(Tg)は172℃であった。
【0093】
(実施例5)
反応温度を-40℃、反応時間を168時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は99800、分子量分布(Mw/Mn)は1.23であった。また、ジシンジオタクティシティは77%であった。ガラス転移温度(Tg)は175℃であった。
【0094】
(実施例6)
Et3SKAの代わりに1-メトキシ-1-(tert-ブチルジメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン(以下、「tBuMe2SKA」とも表記する。)を使用し、反応温度を30℃、反応時間を8時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は89%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は84700、分子量分布(Mw/Mn)は1.23であった。また、ジシンジオタクティシティは79%であった。ガラス転移温度(Tg)は160℃であった。
【0095】
(実施例7)
乾燥アルゴン雰囲気下、ガラス反応容器に200mmolのクロトン酸エチル、1mmolのtBuMe2SKA、及び、ジクロロメタン48mLを加え、15℃に冷却したこと、0.5mmolのTf2NHが溶解したジクロロメタン溶液27mLを15℃に冷却した後、先の溶液に加えたこと、15℃で12時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は99900、分子量分布(Mw/Mn)は1.16であった。
【0096】
(実施例8)
Et3SKAの代わりにtBuMe2SKAを使用し、ジクロロメタンの代わりに1,2-ジクロロエタンを使用したこと、反応温度を30℃、反応時間を8時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は90%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は83400、分子量分布(Mw/Mn)は1.26であった。
【0097】
(実施例9)
Et3SKAの代わりに1-メトキシ-1-(トリイソプロピルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン(以下、「iPr3SKA」とも表記する。)を使用したこと、反応温度を30℃、反応時間を72時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は98%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は67100、分子量分布(Mw/Mn)は1.25であった。また、ジシンジオタクティシティは73%であった。ガラス転移温度(Tg)は144℃であった。
【0098】
(実施例10)
Et3SKAの代わりにiPr3SKAを使用したこと、ジクロロメタンの代わりに1,2-ジクロロエタンを使用したこと、反応温度を40℃、反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は98%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は67500、分子量分布(Mw/Mn)は1.29であった。
【0099】
(実施例11)
Et3SKAの代わりにiPr3SKAを使用したこと、ジクロロメタンの代わりに1,2-ジクロロエタンを使用したこと、反応温度を40℃、反応時間を96時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は69900、分子量分布(Mw/Mn)は1.24であった。
【0100】
(実施例12)
Et3SKAの代わりにiPr3SKAを使用したこと、ジクロロメタンの代わりに1,2-ジクロロエタンを使用したこと、反応温度を30℃、反応時間を24時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は98%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は78700、分子量分布(Mw/Mn)は1.20であった。
【0101】
(実施例13)
Et3SKAの代わりにiPr3SKAを使用したこと、ジクロロメタンの代わりに1,2-ジクロロエタンを使用したこと、反応温度を30℃、反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は80800、分子量分布(Mw/Mn)は1.21であった。
【0102】
(実施例14)
ガラス反応容器に25mmolのクロトン酸メチル、0.125mmolのtBuMe2SKA、及び、ジクロロメタン6.4mLを加え、0℃に冷却したこと、0.063mmolのTf2NHが溶解したジクロロメタン溶液3.4mLを0℃に冷却した後、先の溶液に加えたこと、0℃で24時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は94%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は93500、分子量分布(Mw/Mn)は1.19であった。
【0103】
(実施例15)
ガラス反応容器に200mmolのクロトン酸メチル、1mmolのtBuMe2SKA、及び、ジクロロメタン52mLを加え、0℃に冷却したこと、0.5mmolのTf2NHが溶解したジクロロメタン溶液27mLを0℃に冷却した後、先の溶液に加えたこと、0℃で30時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は104400、分子量分布(Mw/Mn)は1.18であった。また、ジシンジオタクティシティは75%であった。ガラス転移温度(Tg)は223℃であった。
【0104】
(実施例16)
ガラス反応容器に25mmolのクロトン酸n-ブチル、0.125mmolのtBuMe2SKA、及び、ジクロロメタン5.1mLを加え、10℃に冷却したこと、0.063mmolのTf2NHが溶解したジクロロメタン溶液3.4mLを10℃に冷却した後、先の溶液に加えたこと、10℃で24時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は142600、分子量分布(Mw/Mn)は1.12であった。
【0105】
(実施例17)
ガラス反応容器に200mmolのクロトン酸n-ブチル、1mmolのtBuMe2SKA、及び、ジクロロメタン41mLを加え、10℃に冷却したこと、0.5mmolのTf2NHが溶解したジクロロメタン溶液27mLを10℃に冷却した後、先の溶液に加えたこと、10℃で24時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は147200、分子量分布(Mw/Mn)は1.13であった。また、ガラス転移温度(Tg)は45℃であった。
【0106】
(実施例18)
ガラス反応容器に25mmolのクロトン酸n-ブチル、0.125mmolのtBuMe2SKA、及び、ジクロロメタン5.1mLを加え、0℃に冷却したこと、0.063mmolのTf2NHが溶解したジクロロメタン溶液3.4mLを10℃に冷却した後、先の溶液に加えたこと、0℃で72時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は100%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は149900、分子量分布(Mw/Mn)は1.12であった。また、ガラス転移温度(Tg)は44℃であった。
【0107】
(比較例1)
Et3SKAの代わりに1-メトキシ-1-(トリメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン(以下、「Me3SKA」とも表記する。)を使用したこと、反応温度を30℃に、反応時間を168時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で製造したが、重合体は得られなかった(収率0%)。
【0108】
(比較例2)
Et3SKAの代わりにMe3SKA(0.063mmol)を使用したこと、Tf2NHの代わりにトリメチルシリルビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(以下、「Tf2NTMS」とも表記する。)を使用したこと、反応温度を-10℃、反応時間を72時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は26%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は31600、分子量分布(Mw/Mn)は1.32であった。また、ジシンジオタクティシティは63%であった。ガラス転移温度(Tg)は102℃であった。
【0109】
(比較例3)
Et3SKAの代わりにMe3SKAを使用したこと、反応温度を-40℃、反応時間を168時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は55%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は58300、分子量分布(Mw/Mn)は1.32であった。また、ジシンジオタクティシティは59%であった。ガラス転移温度(Tg)は104℃であった。
【0110】
(比較例4)
ガラス反応容器に200mmolのクロトン酸エチル、0.5mmolのMe3SKA、及び、ジクロロメタン23mLを加え、-40℃に冷却したこと、0.1mmolのTf2NTMSが溶解したジクロロメタン溶液27mLを-40℃に冷却した後、先の溶液に加えたこと、-40℃で336時間攪拌した後、10mLのメタノールを加えて反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は86%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は59300、分子量分布(Mw/Mn)は1.32であった。また、ジシンジオタクティシティは56%であった。ガラス転移温度(Tg)は82℃であった。
【0111】
(比較例5)
クロトン酸エチルの代わりにクロトン酸メチルを使用し、Tf2NTMSの代わりにペンタフルオロフェニルビス(トリフルオロメタンスルフォニル)メタン(以下、「C6F5CHTf2」とも表記する。)を使用した以外は、比較例4と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は68%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は40100、分子量分布(Mw/Mn)は1.24であった。ガラス転移温度(Tg)は122℃であった。
【0112】
(比較例6)
クロトン酸エチルの代わりにクロトン酸n-ブチルを使用し、Tf2NTMSの代わりにC6F5CHTf2を使用した以外は、比較例4と同様の方法で重合体を得た。
得られた重合体の収率は60%であった。上記重合体の数平均分子量(Mn)は50800、分子量分布(Mw/Mn)は1.23であった。ガラス転移温度(Tg)は18℃であった。
【0113】
実施例及び比較例の結果より、嵩高いシリル置換基を有する開始剤を用いる本発明の製造方法を用いることで、実施例1~18のいずれの条件においても、数平均分子量が60000を超える高分子量の重合体を得ることが確認できた。対して、シリル置換基が実施例と比べて嵩高くないトリメチルシリルである1-メトキシ-1-(トリメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペンを開始剤として用いて重合を行った比較例の結果では、いずれも数平均分子量が60000を超えるポリマーを得ることができず、重合時間を長くしても分子量が大きくなることはなかった。
【0114】
実施例6及び実施例9と、比較例1の比較から明らかなように、比較例1では30℃という室温付近では停止反応が著しく起こるため168時間の長時間重合を継続してもポリマーを得ることができなかったが、実施例6及び実施例9では30℃という室温付近においても停止反応が十分に抑制され伸長反応が優先されることで、それぞれ数平均分子量が84700、67100の高分子量の重合体を取得することができた。さらに、実施例6においては8時間という非常に短い反応時間にも関わらず、高分子量体を収率良く得ることができており、反応温度を高くしても重合が進行できることでポリマー生産性が向上したことが確認できる。
【0115】
また、クロトン酸エチル重合体に関して、実施例1、2、4、5、6、9と、比較例1、2、3、4で得られたポリマーの物性の比較から明らかなように、嵩高いシリル基を有する開始剤を用いて製造した実施例のポリマーは数平均分子量が60000を超え、比較例のポリマーと比べると、ジシンジオタクティシティも高く、ガラス転移温度も向上しており、高分子材料として高機能であることが確認できる。