(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の正極の処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2020001692
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 勇太朗
(72)【発明者】
【氏名】横山 敦史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英喜
(72)【発明者】
【氏名】小倉 新一
(72)【発明者】
【氏名】林 健二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 洋平
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173157(JP,A)
【文献】特開2012-193424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む箔と、Niおよび/またはCoを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の
正極の処理方法であって、
前記正極の加熱処理を行い、前記正極を紛体化して正極紛体を得る紛体化工程と、
前記正極紛体を還元反応に供することにより前記Niおよび/またはCoを含有する金属材料を得る金属化工程と
を有する非水電解液二次電池の
正極の処理方法。
【請求項2】
前記紛体化工程は、大気雰囲気、または、前記大気雰囲気よりも酸素分圧が低い発生ガス雰囲気で前記加熱処理を行う請求項
1に記載の非水電解液二次電池の
正極の処理方法。
【請求項3】
前記紛体化工程は、前記大気雰囲気で前記加熱処理を行い、加熱温度を660℃以上とする請求項
2に記載の非水電解液二次電池の
正極の処理方法。
【請求項4】
前記紛体化工程は、前記発生ガス雰囲気で前記加熱処理を行い、加熱温度を580℃以上とする請求項
2に記載の非水電解液二次電池の
正極の処理方法。
【請求項5】
前記正極は、非水電解液二次電池の製造工程で生じる工程屑、または使用済みの非水電解液二次電池から取り出した正極、または未使用の非水電解液二次電池から取り出した正極、である請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される電源として用いられている。近年、自動車用の使用済み非水電解液二次電池は、発生量の急激な増大が見込まれている。非水電解液二次電池の電極、特に正極にはニッケル(Ni)やコバルト(Co)等の有価物が含まれている。資源の有効利用のために、非水電解液二次電池から、Ni、Co等の有価物を回収する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池から正極を回収し、回収された正極を還元反応に供することにより、Niおよび/またはCoを含有する金属材料を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された処理方法では、アルミニウム(Al)を含む集電箔を還元剤として活用することにより、還元剤を別途追加することなく、還元反応を行っている。ただし、セルから取り出したままの正極は箔状であり、バインダーや導電助剤等が混練されているため反応性が低い。そのため、還元反応を促進させるには、高周波誘導溶解炉等の高温が得られる装置での外部からの加熱や、大量の助燃剤等による反応熱の補助が必要とされており、リサイクルコストが高くなるという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、低コストで正極の還元反応を促進させることができる非水電解液二次電池の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る非水電解液二次電池の処理方法は、Alを含む箔と、Niおよび/またはCoを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の処理方法であって、前記非水電解液二次電池から前記正極を取り出す取出工程と、前記正極を紛体化して正極紛体を得る紛体化工程と、前記正極紛体を還元反応に供することにより前記Niおよび/またはCoを含有する金属材料を得る金属化工程とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正極を紛体化して正極紛体を得る工程と正極紛体を還元反応に供する工程とにしたがって処理するので、低コストで正極の還元反応を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る非水電解液二次電池の処理方法に使用される非水電解液二次電池の斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る非水電解液二次電池の処理方法を説明するフローチャートである。
【
図3】大気雰囲気で加熱処理された実施例3の正極の写真である。
【
図4】発生ガス雰囲気で加熱処理された実施例6の正極の写真である。
【
図5】大気雰囲気で加熱処理された比較例1の正極の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施形態
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る非水電解液二次電池の処理方法に使用される非水電解液二次電池10の斜視図である。非水電解液二次電池10は、電気自動車やハイブリッド自動車等の自動車の電源として利用された使用済みのリチウムイオン二次電池である。以下の説明では非水電解液二次電池10がリチウムイオン二次電池である場合を例に説明するが、非水電解液二次電池10としては、リチウムイオン二次電池に限定されず、マグネシウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池等でも良い。なお、非水電解液二次電池10は、製造後に不良が確認されたリチウムイオン二次電池等の未使用のものでも良い。また、紛体化工程に用いる正極としては正極の製造工程で生じる工程屑等でも良い。
【0012】
非水電解液二次電池10は、セル容器12に、電極体(図示せず)と非水電解液(図示せず)とを備える。セル容器12は、例えばアルミニウム合金製である。セル容器12は、容器本体14および蓋体16を含む。容器本体14と蓋体16とは、レーザー溶接されている。容器本体14は、有底角筒状に形成されており、内部に電極体と非水電解液とを収容する。蓋体16は、容器本体14の開口に設けられ、容器本体14を密閉する。蓋体16には、安全弁18、正極端子20、および負極端子22が設けられている。安全弁18は、非水電解液二次電池10の内部の圧力を低下させるためのものである。正極端子20は、正極リード(図示せず)を介して、後述する正極と接続している。負極端子22は、負極リード(図示せず)を介して、後述する負極と接続している。
【0013】
電極体は、セパレータ(図示せず)を介して捲回された正極(図示せず)と負極(図示せず)とを含む。電極体は、上記のような捲回型である場合に限られず、正極、負極、およびセパレータを積層した積層型でも良い。
【0014】
正極は、正極集電体および正極活物質層を有する。正極集電体は、本実施形態ではアルミニウム(Al)を含む箔(以下、Al箔とも称する)である。正極における正極集電体の質量比は、5~25質量%である。正極活物質層は、正極活物質、バインダー、および導電材を含む。正極活物質層における導電材、バインダーの質量比は、それぞれ正極の0~30質量%、0~20質量%である。
【0015】
正極活物質としては、ニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)を含有する任意の金属複合酸化物を用いることができる。例えば、正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等から選択することができる。本実施形態においては、正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。なお、正極活物質は、マグネシウムイオン二次電池の場合は任意のマグネシウム複合酸化物を用いることができ、ナトリウムイオン二次電池の場合は任意のナトリウム複合酸化物を用いることができ、カリウムイオン二次電池の場合は任意のカリウム複合酸化物を用いることができ、カルシウムイオン二次電池の場合は任意のカルシウム複合酸化物を用いることができる。
【0016】
バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素化合物を含むフッ素系バインダーである。導電材は、黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料である。
【0017】
負極は、負極集電体および負極活物質層を有する。本実施形態においては、負極集電体は銅(Cu)箔であり、負極活物質は黒鉛である。セパレータとしては、一般的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂製の多孔質膜または不織布が用いられる。
【0018】
非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解可能なリチウム塩(電解質)とを含む。非水溶媒としては、カーボネート類、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が用いられる。これらの非水溶媒は、1種類単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
電解質としては、フッ素化合物を含むもの、例えば、LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF4(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiTFSA(リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド)等が用いられる。これらの電解質は、1種類単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
図2に示すように、非水電解液二次電池10の処理方法は、取出工程S10と紛体化工程S11と金属化工程S12とを有する。各工程について、それぞれ詳細に説明する。
【0021】
[取出工程]
取出工程S10は、非水電解液二次電池10から正極を取り出す。本実施形態では、セル容器12を開封して取り出した捲回型の電極体を巻き戻すことにより、帯状の正極を得る。なお、取出工程S10では、非水電解液二次電池10を放電させる放電工程、放電させた非水電解液二次電池10のセル容器12内を洗浄液で洗浄するセル内洗浄工程等を行っても良い。
【0022】
[紛体化工程]
紛体化工程S11は、正極を紛体化して正極紛体を得る。「紛体化」とは、紛体化工程S11を経た加熱後の正極を目開きが1mmの篩を用いて篩分けしたときに、上記加熱後かつ篩分け前の正極の質量に対する篩下の紛状物の質量が80%以上であることをいう。篩下の紛状物が正極紛体である。
【0023】
紛体化工程S11は、正極の加熱処理を行う。加熱処理で用いる加熱装置は、例えば、正極が配置される炉と、炉内の温度を検出する温度センサと、炉内を加熱する際の昇温速度を制御する制御部とを有する。
【0024】
加熱処理を行う手順を説明する。まず、帯状の正極を耐熱性の容器に配置する。炉を作動させ、炉内を所定の昇温速度で昇温させる。炉内の温度が所定の温度(以下、投入温度と称する)となったときに、正極が配置された容器を炉内に設置する。その後、炉内を、予め設定された温度(以下、加熱温度と称する)まで昇温させ、この加熱温度に維持する。炉内を加熱温度に維持する時間を「温度維持時間」という。なお、正極が配置された容器を炉内に設置してから炉を作動させ、炉内を所定の昇温速度で昇温させても良い。
【0025】
加熱処理後の正極を粉砕して篩分けを行うことにより正極紛体が得られる。正極集電体としてのAl箔は、加熱処理により脆化する。脆化した箔は、炉内に設置されているときは帯状を保っているが、例えば、指で軽く触れるだけで崩れて紛末化し、箔の紛末となる。正極活物質層は、加熱処理によりバインダーが熱分解され、活物質粒子同士の結着および活物質と箔との結着が弱い状態とされる。この状態の正極活物質層が、箔の紛末化に伴い、箔から剥がれて紛末化し、活物質の紛末となる。このため、正極紛体には、箔の紛末と活物質の紛末とが含まれる。
【0026】
なお、紛体化工程S11に供される正極は、上記のような帯状のものでも良いし、所定の形状に切断したものでも良い。ただし、正極をシュレッダー等で細かく切断したものを用いると加熱処理中にテルミット反応が起きてしまう場合もあるので、ある程度長尺のものが好ましい。
【0027】
加熱処理は、大気雰囲気、または、大気雰囲気よりも酸素分圧が低い発生ガス雰囲気で行う。
【0028】
大気雰囲気で正極の加熱処理を行う場合について説明する。耐熱性の容器としては燃焼ボート(図示なし)が用いられる。燃焼ボートは、例えばアルミナ(Al2O3)により形成されている。なお、耐熱性の容器として、燃焼ボートの代わりに、ルツボや匣鉢等を用いても良い。
【0029】
大気雰囲気で660℃以上の加熱温度で正極の加熱処理を行うと、正極集電体の一部のAlが大気中の酸素により酸化され、Al2O3が生成される。Al箔は、その一部が酸化されることで脆化する。脆化したAl箔が紛末化することで、酸化したAlの紛末と、酸化せずに残ったAl(未反応のAlともいう)の紛末とが得られる。アルミニウムの融点である660℃以上の加熱温度で正極の加熱処理が行われることにより、Al箔が融解するとともに、融解したアルミニウムの表面が酸化され、Al箔の脆化と紛末化とが促進されると考えられる。Al箔の紛末化により活物質の紛末が得られる。このため、正極紛体には、酸化したAlの紛末と、未反応のAlの紛末と、活物質の紛末とが含まれる。
【0030】
紛体化工程S11は、大気雰囲気で正極の加熱処理を行う場合、上記のように加熱温度を660℃以上とする。加熱温度が低すぎると、正極の紛体化が不十分となる。加熱温度は680℃以上であることがより好ましく、750℃以上であることが特に好ましい。
【0031】
大気雰囲気で正極の加熱処理を行う場合の加熱温度は800℃以下であることが好ましい。加熱温度が高すぎると、正極集電体のAlが還元剤となってテルミット反応が起きる場合があり、危険である。
【0032】
発生ガス雰囲気で正極の加熱処理を行う場合について説明する。耐熱性の容器としては箱状の蓋付き容器が用いられる。蓋付き容器は、例えばステンレス鋼により形成されている。容器の内部に正極を配置し、容器を蓋で閉じた状態で加熱処理を行う。正極を加熱すると、非水電解液に含まれるカーボネート類の非水溶媒の熱分解およびその後の酸化、バインダーの熱分解およびその後の酸化により、H2O、CO2やCO等の水素や炭素の酸化物のガスが発生する。正極にグラファイト等の炭素材料が導電助剤として含まれている場合には、炭素材料の酸化により炭素の酸化物のガスが発生することもある。また、非水電解液の電解質とバインダーとの少なくともいずれかに含まれるフッ素化合物の熱分解により、フッ化水素(HF)やトリフルオロベンゼン等のフッ化物のガスが発生する。蓋で閉じられた容器内で正極が加熱されると、上記のような水素や炭素の酸化物のガスやフッ化物のガスの発生により容器内の酸素分圧が低下する。この結果、容器内の酸素分圧は大気の酸素分圧よりも低くなる。このように、水素や炭素の酸化物のガスやフッ化物のガスの発生により酸素分圧が低下した容器内の状態を「発生ガス雰囲気」と称する。水素や炭素の酸化物のガスやフッ化物のガスを「発生ガス」と称する。「発生ガス雰囲気で加熱処理を行う」とは、少なくとも温度維持時間中に容器内が発生ガス雰囲気とされ、この発生ガス雰囲気で加熱処理を行うことをいうものとする。
【0033】
発生ガス雰囲気で580℃以上の加熱温度で正極の加熱処理を行う場合、酸素分圧が低いので、正極活物質が正極集電体の一部のAlにより部分的に還元され、酸化アルミニウムと酸化リチウムとの複合酸化物が生成される反応が起こると考えられる。この反応を「予備還元」という。なお、大気雰囲気で正極の加熱処理を行った場合は、Alが活物質の酸素と反応するよりも先に大気中の酸素と反応するため、予備還元は起こりにくい。
【0034】
正極活物質としてLiNixCoyMnzO2を用いた場合を例に挙げて、予備還元について説明する。この場合には、正極活物質の一部で以下のような還元反応が生じる。反応の結果、Ni、CoおよびMnを含有する合金(NixCoyMnz)が得られる。
Al+LiNixCoyMnzO2 → LiAlO2+NixCoyMnz
【0035】
予備還元によりアルミン酸リチウム(LiAlO2)が生成され、Al箔の一部が酸化されて脆化する。また、発生ガスに含まれるHFは、Alと反応した場合にはフッ化アルミニウム(AlF3)を生成し、Al箔をフッ化させて脆化させる。このように、予備還元の他に、発生ガスに含まれる成分もAl箔の脆化に影響しているものと考えられる。
【0036】
発生ガス雰囲気で正極を加熱処理することで得られる正極紛体には、酸化したAlの紛末と、未反応のAlの紛末と、活物質の紛末とが含まれる他、Ni、CoおよびMnを含有する合金、Ni、Co、およびMnの酸化物、LiAlO2等も含まれる。
【0037】
紛体化工程S11は、発生ガス雰囲気で正極の加熱処理を行う場合、上記のように加熱温度を580℃以上とする。加熱温度が低すぎると、正極の紛体化が不十分となる。加熱温度は600℃以上であることがより好ましく、620℃以上であることが特に好ましい。
【0038】
発生ガス雰囲気で正極の加熱処理を行う場合の加熱温度は800℃以下であることが好ましい。加熱温度が高すぎると、正極集電体のAlが還元剤となってテルミット反応が起きる場合があり、危険である。
【0039】
[金属化工程]
金属化工程S12は、正極紛体を還元反応に供することによりNiおよび/またはCoを含有する金属材料を得る。本実施形態では、正極紛体を、還元反応としてのテルミット反応に供する。正極活物質として、LiNixCoyMnzO2を用いた場合を例に挙げて説明する。この場合には、正極紛体に含まれる未反応のAl紛末が還元剤となり、以下のような反応が生じる。反応の結果、Niおよび/またはCoを含有する金属材料として、Ni、CoおよびMnを含有する合金(NixCoyMnz)が得られる。
LiNixCoyMnzO2+Al → 1/2Li2O+NixCoyMnz+1/2Al2O3
【0040】
テルミット反応は、大きな発熱を伴う反応であるため、着火により反応が持続する温度に到達した後は自己発熱(反応熱)により反応が進む。このため、正極紛体を容器に入れて着火するだけでテルミット反応が進み、Niおよび/またはCoを含有する金属材料を得ることができる。なお、正極紛体に対し、アルミナを溶融スラグ状態にするためのフラックスや、正極紛体の燃焼を促進するための助燃剤を添加しても良い。高周波誘導溶解炉等の高温が得られる装置を用いて正極紛体を加熱しても良い。例えば、正極紛体100gに対して、フラックスとしての生石灰(CaO)を0~30g添加し、助燃剤としての過塩素酸ナトリウム(NaClO4)を0~35g添加する。正極紛体とフラックスまたは助燃剤とを加熱装置で溶解して合金化した後、冷却することで、Niおよび/またはCoを含有する金属材料を得ることもできる。
【0041】
正極紛体を還元反応としてのテルミット反応に供する場合について説明したが、テルミット反応以外の還元反応により正極紛体からNiおよび/またはCoを含有する金属材料を得ることができる。例えば、正極紛体と還元剤とを混合し、溶解炉にて溶解して合金化した後、冷却することで、Niおよび/またはCoを含有する金属材料が得られる。
【0042】
2.作用および効果
本実施形態に係る非水電解液二次電池の処理方法は、正極を紛末化して正極紛体を得る紛体化工程S11と、正極紛体を還元反応に供する金属化工程S12とを有する。正極紛体は、当該正極紛体中の未反応のAl紛末が還元剤となり、また、紛末状であるため反応速度が高速であり、反応熱が急激に発生し、熱が外部に逃げるより先に、反応に必要な温度に到達し、反応が持続する。そのため、大量の助燃剤の使用や高周波誘導溶解炉等の高温が得られる装置を使用することなく、Alの反応熱のみで還元反応が起きる。したがって、本実施形態では、低コストで正極の還元反応を促進させることができる。
【0043】
正極を紛末化することにより嵩密度が向上するので、運搬や保管等のために取り扱う量を増大させることができる。正極紛体は帯状の正極よりも取り扱いが容易である。箔と活物質とを分離する工程が不要となるので、正極をリサイクルする際の歩留まりが向上するとともにコストが低減される。
【0044】
紛体化工程S11において発生ガス雰囲気で正極の加熱処理を行う場合は、Alの融点である660℃よりも低い加熱温度で正極を紛体化できるので、当該加熱処理中のテルミット反応の発生が抑制され、安全性が向上する。また、紛体化工程S11で正極集電体の一部のAlにより活物質が予備還元されるので、Al箔を無駄なく活用できていると言える。
【0045】
紛体化工程S11において大気雰囲気で正極の加熱処理を行う場合は、正極紛体中の不要な物質(例えば炭素)を低減することができる。加熱処理前後の正極についてCHN同時分析を行った結果、加熱処理後に得られる正極紛体は、加熱処理前の正極と比べて、炭素の含有量(質量%)が顕著に減少していた。実際に、加熱処理前の正極の炭素の含有量は5.7質量%であったのに対し、正極紛体の炭素の含有量は0.4質量%であった。正極紛体中の不要な物質が低減することにより、金属化工程S12で得られる金属材料の品質の向上が見込める。また、CO2やCO等のガスが急発生して溶湯が弾け飛ぶ等の危険の抑制が見込める。
【0046】
3.実施例
以下に、紛体化工程S11により正極が紛末化したか否かを確認するために行った確認実験について説明する。
【0047】
[実施例1]~[実施例6]
捲回型の電極体と非水電解液とがセル容器12に収容された使用済みの非水電解液二次電池を用意した。用意した非水電解液二次電池に含まれる正極と非水電解液の構成は以下の通りである。
【0048】
正極 Al箔 厚さ15μm,20質量%
活物質(LiNi1/6Co2/3Mn1/6O2) 72~73質量%
バインダー(PVDF) 3~4質量%
導電材 4質量%
非水電解液 非水溶媒(DMC:EMC:PC) 質量比28:27:28
電解質(LiPF6) 1M
【0049】
確認実験では、まず、用意した非水電解液二次電池を放電させ、セル容器12を開封して取り出した捲回型の電極体を巻き戻すことにより、帯状の正極を得た(取出工程S10)。そして、得られた帯状の正極を紛体化工程S11に供することにより、確認実験を行った。確認実験の条件と評価結果は表1に示す。
【0050】
帯状の正極を緩く巻いた状態でアルミナ製の角型ルツボに配置し、この角型ルツボを加熱装置の炉内に設置し、正極の加熱処理を行った。すなわち大気雰囲気で正極の加熱処理を行った。大気雰囲気で加熱処理された正極を実施例1~4とした。実施例1~4の正極は、加熱温度を660~800℃の範囲で変更して得られたものである。
図3は、大気雰囲気で加熱処理された実施例3の正極の写真である。
【0051】
帯状の正極を緩く巻いた状態でステンレス製の蓋付き容器内に配置し、容器を蓋で閉じて加熱装置の炉内に設置し、正極の加熱処理を行った。すなわち発生ガス雰囲気で正極の加熱処理を行った。加熱装置は大気雰囲気で加熱処理を行うときに使用するものと同じものである。発生ガス雰囲気で加熱処理された正極を実施例5~6とした。実施例5の正極は加熱温度を580℃として得られたものであり、実施例6の正極は加熱温度を600℃として得られたものである。
図4は、発生ガス雰囲気で加熱処理された実施例6の正極の写真である。
【0052】
実施例1~6の正極について、目開きが1mmの篩を用いて篩分けを行い、篩上および篩下を目視で観察し、正極の紛体化の有無を評価した。「◎」および「〇」は合格であり、「×」は不合格である。
【0053】
「◎」:正極の大部分が紛体化した。
「〇」:正極の一部が紛体化した。
「×」:正極が篩上に残留し、ほとんど紛体化しなかった。
【0054】
【0055】
[比較例1]~[比較例3]
加熱温度を変えたこと以外は実施例1~4と同じ条件として加熱処理を行った正極を比較例1とした。加熱温度を変えたこと以外は実施例5,6と同じ条件として加熱処理を行った正極を比較例2,3とした。比較例1の正極は、大気雰囲気で加熱温度を650℃として得られたものである。比較例2の正極は、発生ガス雰囲気で加熱温度を500℃として得られたものである。比較例3の正極は、発生ガス雰囲気で加熱温度を550℃として得られたものである。比較例1~3について、正極の紛体化の有無を実施例1~6と同じ方法および基準で評価した。
図5は、大気雰囲気で加熱処理された比較例1の正極の写真である。
【0056】
表1より、大気雰囲気で加熱処理を行った正極である実施例1~4と比較例1とを比べると、比較例1は、正極が紛体化しなかったのに対し、実施例1~4は、正極が紛体化することがわかる。以上から、大気雰囲気で正極の加熱処理を行う場合は加熱温度を660℃以上とすることにより正極が紛体化することが確認できた。実施例1~4を比較すると、加熱温度が660℃である実施例1よりも、加熱温度が680℃以上である実施例2~4の方が、紛体化が良好であることがわかる。
【0057】
発生ガス雰囲気で加熱処理を行った正極である実施例5,6と比較例2,3とを比べると、比較例2,3は、正極が紛体化しなかったのに対し、実施例5,6は、正極が紛体化することがわかる。以上から、発生ガス雰囲気で正極の加熱処理を行う場合は加熱温度を580℃以上とすることにより正極が紛体化することが確認できた。実施例5,6を比較すると、加熱温度が580℃である実施例5よりも、加熱温度が600℃である実施例6の方が、紛体化が良好であることがわかる。
【0058】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 非水電解液二次電池
S10 取出工程
S11 紛体化工程
S12 金属化工程